(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】カソード材
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20241106BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241106BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241106BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020540857
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 IB2018057496
(87)【国際公開番号】W WO2019073328
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-24
(32)【優先日】2017-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ZA
(73)【特許権者】
【識別番号】506257272
【氏名又は名称】シーエスアイアール
【氏名又は名称原語表記】CSIR
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】ホンゼ・ルオ
(72)【発明者】
【氏名】ノマソント・ラプレニャネ
(72)【発明者】
【氏名】ボナニ・セテニ
(72)【発明者】
【氏名】ムクフル・マテ
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-213054(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0282522(US,A1)
【文献】特開2005-285572(JP,A)
【文献】特開2006-004724(JP,A)
【文献】国際公開第2007/083457(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/070205(WO,A2)
【文献】特開平11-307094(JP,A)
【文献】特表2020-502755(JP,A)
【文献】特開2000-281348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材又はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材前駆体を生成するための方法であって、該生成方法は、
溶解したLiOH並びにMn(CH
3COO)
2、Mn(NO
3)
2、MnSO
4及びこれらの混合物から成る群から選択される溶解したMn塩を、水溶液から、少なくとも溶解したMn塩と反応して炭酸塩を形成する沈殿剤の存在下で共沈させ、それによりリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材前駆体としてMnCO
3及び
Li
2
CO
3
を含んで成る沈殿物を供することを含み、
前記沈殿剤が、尿素、(NH
4)
2CO
3、及びこれらの混合物から成る群から選択される、方法。
【請求項2】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を生成するための方法であり、及び
前記沈殿物をか焼して任意の炭酸塩材を酸化物材に転換させ、それによりか焼させた材料を供すること、及び
前記か焼させた材料をアニーリングしてリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を供すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液が、少なくとも1つの更なる金属Mの溶解した塩も含んで成り、該塩は、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及びこれらの混合物から成る群から選択され、及び/又は、前記金属Mは、Ni、Co、Fe、Al、Mg、Ti、及びこれらの2つ以上からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液が、前記溶解したLi化合物及び前記溶解したMn塩の共沈の間、9より大きいpHを有する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記pHが9.5~10.5である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記LiOH及び少なくとも前記Mn塩と反応して炭酸塩を形成する前記沈殿剤を水中で共に溶解して第1の溶液を形成すること、及び
溶解したMn塩、及び少なくとも1つの更なる溶解した塩を有する第2の溶液を第1の溶液に加えて前記水溶液を形成し及び共沈をもたらすこと
を含み、
前記さらなる溶解した塩は、Ni、Co、Fe、Al、Mg、Ti、及びこれらの2つ以上から成る群から選択される金属Mの、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項1~
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材がLi
1.2Mn
0.6Ni
0.2O
2である、請求項1~
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
電気化学セルであって、
セル・ハウジング、及び
前記セル・ハウジング中のカソード、アノード、及び電解質
を含み、
前記カソードが前記アノードから電気的に絶縁されているが、前記電解質によってアノードに電気化学的に結合されており、前記カソードは
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を実施することにより製造されたリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を含んで成り、および
前記電気化学セルが、30サイクル後に20mA/gのカソード材の電流密度で95%を超える容量保持を示す、電気化学セル。
【請求項9】
請求項2に記載の方法に従ってリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を生成すること、
セル・ハウジングの中に、電解質、アノード、セパレーター及びカソードを装填することを含み、
前記カソードが、前記リチウムマンガンに富む層状の酸化物カソード材を含んで成る、電気化学セルの作製方法。
【請求項10】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を有する前記電気化学セルが、20mA/gのカソード材の電流密度で少なくとも200mAhg
-1のカソード材の初期放電容量を有する、請求項
8に記載の電気化学セル。
【請求項11】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を有する前記電気化学セルが、20mA/gのカソード材の電流密度で少なくとも240mAhg
-1のカソード材の初期放電容量を有する、請求項
8に記載の電気化学セル。
【請求項12】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を有する前記電気化学セルが、20mA/gのカソード材の電流密度で少なくとも260mAhg
-1のカソード材の初期放電容量を有する、請求項
8に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記電気化学セルが30サイクル後に20mA/gのカソード材の電流密度で96%を超える容量保持を示す、請求項
8に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記電気化学セルが30サイクル後に20mA/gのカソード材の電流密度で97%を超える容量保持を示す、請求項
8に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカソード材に関する。特に、本発明はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材又はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材の前駆体を生成するための方法(又はプロセス;process)、前記方法により生成された際のリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材又はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材の前駆体、電気化学セル、電気化学セルを作製する方法、及び電気化学セルを操作する方法(又はメソッド;method)に関する。
【背景技術】
【0002】
層状のリチウムマンガンに富む金属酸化物複合材料は、電気自動車に限らずハイブリッド電気自動車を含む広範囲の用途(又はアプリケーション;application)のために必要な電力要求を供するために、より高い容量(>200mAh/g)、電圧安定性、及び良好なサイクル寿命を達成するためのカソード材として有望な候補である。これらの材料の動作電圧窓(operating voltage window)は、2.0V~4.8Vの高域であることが示されてきた。それにも関わらず、リチウムマンガンに富む層状遷移金属酸化物の複合材料等のリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材は、大きな初期不可逆充電容量(large initial irreversible charge capacity)、長期サイクルでの容量低下(capacity fade upon prolonged cycling)、不十分な連続充放電レート能力(poor continuous charge and discharge rate capability)、及び高電圧での電解質との高い反応性を含む固有の欠点を持つ複雑な構造を有する。
【0003】
リチウムマンガンに富む金属酸化物の一般的な化学式は、xLi2MnO3(1-x)LiMO2として表せることができ、M=Mn、Ni、Co及びxは0~1である。炭酸塩の前駆体又は水酸化物の前駆体を介したリチウムマンガンに富む金属酸化物材の大規模生成のための最も有望な方法として採用された合成方法は、例えば米国イリノイ州ルモントのアルゴンヌ国立研究所(米国特許8,492,030参照)による、共沈及び固体状態のルート(又は経路;route)の組合せを含んで成る。例えば、Li1.2Mn0.6Ni0.2O2を作製するために、Ni0.25Mn0.75CO3前駆体が、沈殿剤としてNa2CO3を用いて、ニッケル及びマンガンの炭酸塩(nickel and manganese carbonate)を含んで成るスラリーから共沈によって初めに生成される。当該スラリーはフィルター・ケーキ(又は脱水ケーキ、又は濾過ケーキ;filter cake)を供するために濾過前に長期間熟成しておく。続いてフィルター・ケーキを乾燥させ、乾燥した粉末材をLi2CO3と混合し、固体状態加熱法(solid state heating method)によって最終的にLi1.2Mn0.6Ni0.2O2製品を生成する。この共沈法は、Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2、リチウムに富む層状カソード酸化物及びスピネル型酸化物LiNi0.5Mn1.5O4、Li1.05M0.05Mn1.9O4の商業生産のために前駆体を生成するための工業(又は産業、製造業;industry)によって用いられている。同様の方法が、中間のMn0.75Ni0.25(OH)2前駆体を介してLi[Li0.2Mn0.6Ni0.2]O2カソード材を合成するために以前に採用されている。しかしながら、この方法は最終的なLi[Li0.2Mn0.6Ni0.2]O2に至る様々な広範な洗浄及び乾燥工程を含む。Mn0.75Ni0.25(OH)2水酸化物前駆体中間体は、Li[Li0.2Mn0.6Ni0.2]O2を生成するためのリチウム化工程に進む前に、形成を確認するためにSEM及びXRDにより特徴づけられる必要がある。一般に、上記のような、リチウムマンガンに富むカソード材を作製するための商業的に採用されている方法は、時間がかかる(最大72時間)ことを含む欠点を有し、これらの材料の完全な(又は本格的な、又は最大量の;full scale)商業化のための実行可能でなり得ない多段(又は複数;multiple)工程を含む。
【0004】
現在使用されている方法の少なくともいくつかの欠点に対処するリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材又はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材前駆体を生成するためのプロセス(又は方法;process)又は方法(又はメソッド;method)は、有利である。現行方法、特にアルゴンヌ国立研究所によって生成されるリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材と同じ、又はより優れるバッテリー性能を約束するリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を生成する時間がかからない合成方法が望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様によると、リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材又はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材の前駆体を生成するための方法が供され、当該方法は、
溶解したLi化合物並びにMn(CH3COO)2、Mn(NO3)2、MnSO4及びこれらの混合物から成る群から選択される溶解したMn塩を、水溶液から、少なくとも溶解したMn塩と反応して炭酸塩を形成する沈殿剤の存在下で共沈させ、それによりリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材前駆体としてMnCO3及びリチウム化合物を含んで成る沈殿物を供することを含む。
【0006】
前記方法は、
前記沈殿物をか焼して任意の炭酸塩材を酸化物材に転換(又は転化、又は変換;convert)すること、それによりか焼させた材料を供すること、及び
前記か焼させた材料をアニーリング(又は焼きなまし、又は焼鈍;annealing)してリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を供すること、を典型的に含む。
【0007】
前記Mn塩は、つまりMn(II)塩である。
【0008】
少なくとも前記溶解したMn塩と反応して炭酸塩を形成する前記沈殿剤が、尿素、(NH4)2CO3、NH4HCO3、及びこれらの混合物から成る群から選択され得る。
【0009】
好ましくは、少なくとも前記溶解したMn塩と反応し炭酸塩を形成する前記沈殿剤は尿素である。
【0010】
好ましくは、前記水溶液が、少なくとも一つの更なる金属Mの溶解した塩も含んで成り、該塩は酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及びこれらの混合物から成る群から選択される。
【0011】
前記金属Mが、Ni、Co,Fe,Al、Mg、Ti、及びこれらの2つ以上からなる群から選択され得る。
【0012】
前記溶解したLi化合物が溶解したLi塩であり得て、当該Li塩がLi(CH3COO)、LiNO3、LiCl、及びこれらの混合物から成る群から選択され、
少なくとも前記Mn塩と反応し炭酸塩を形成する沈殿剤の存在下で、Li2CO3及びMnCO3、及び水溶液中に存在し得るLi又はMn以外の任意の金属Mの炭酸塩の形成及び共沈をもたらす。
【0013】
代わりに、前記溶解したLi化合物がLiOHであり得る。
【0014】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材の前駆体のような、MnCO3及びリチウム化合物を含んで成る沈殿物は、例えばMnCO3、Li
2
CO
3
、及びNi、Co、Fe、及びAlの内一つ以上等の他の金属Mの炭酸塩を含んで成り得る。
【0015】
LiOHはLi(CH3COO)より高価でなく、Li(CH3COO)より良好な収率を供することが考えられている(又は信じられている;is believed)。本発明の方法の少なくとも一つの実施形態では、LiOHは、従って、Li(CH3COO)よりも好ましい。
【0016】
共沈は、約室温から約100℃、好ましくは約60℃~約80℃、例えば約70℃で水溶液の高い沈殿温度で成立し得る(又は達成;be effected)。
【0017】
典型的に、共沈は水溶液の撹拌で成立して、その結果、懸濁液が形成される。
【0018】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材の前駆体のような沈殿物は、空気中でか焼され得る。か焼の間、好ましくは、沈殿物中に存在し得る、アセテート等の全ての有機材が消失され得る。
【0019】
沈殿物は、約200℃~約700℃、例えば約600℃の温度で前処理され得る。
【0020】
沈殿物は、約2時間~約10時間、例えば約3時間の間か焼され得る。
【0021】
か焼された材料のアニーリングは、材料を結晶化するための十分に高い温度で成立し得る。アニーリングは、所望の程度のアニーリングを達成するために、即ち、所望の程度の結晶化度を達成するために十分に長い期間で成立し得る。アニーリングは空気中でされ得る。
【0022】
か焼された材料は、約600℃~約1000℃、好ましくは約800℃~約1000℃、例えば約900℃の温度でアニーリングされ得る。
【0023】
か焼された材料は約2時間~約24時間、好ましくは12時間の間アニーリングされ得る。
【0024】
前記水溶液が、前記溶解したLi化合物及び前記溶解したMn塩の共沈の間、7より大きいpHを典型的に有する。好ましくは、当該pHは9より大きく、より好ましくは9.5~10.5、例えば約10のpHを有する。少なくとも溶解したMn塩と反応して炭酸塩を形成する沈殿剤が塩基である場合、水溶液のpHは過剰の沈殿剤、例えば過剰の尿素の添加により調整され得る。
【0025】
本発明の一実施形態では、化学量論比の1.2倍、1.6倍、又は1.8倍のモル比の尿素が使用される。
【0026】
代わりに、沈殿剤の化学量論量が使用され得る。
【0027】
溶解したLi化合物がLiOHである場合、前記方法はLiOH、及び少なくともMn塩と反応して炭酸塩を形成する沈殿剤を水中で共に溶解して第1の溶液を形成すること、及び溶解したMn塩、及び好ましくは上記のような少なくとも一つの更なる溶解した金属Mの塩を有する第2の溶液を第1の溶液に加えて前記水溶液を形成し及び共沈をもたらすことを含む。
【0028】
従って、前記方法は、溶解したLiOH、及び少なくともMn塩と反応して炭酸塩を形成する沈殿剤を水中で共に溶解して第1の溶液を形成すること、及び
溶解したMn塩、及び少なくとも一つの更なる溶解した塩を有する第2の溶液を第1の溶液に加えて前記水溶液を形成し及び共沈をもたらすこと
を含み得て、
前記さらなる溶解した塩は、Ni、Co、Fe、Al、Mg、Ti、及びこれらの2つ以上から成る群から選択される金属Mの、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及びこれらの混合物から成る群から選択される。
【0029】
前記方法は、例えば濾過、又は水の蒸発により、水溶液から沈殿物を分離することを含み得る。本発明の少なくとも一つの実施形態では、水の蒸発が好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態では、リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材がLi1.2Mn0.6Ni0.2O2である.
【0031】
本発明は、上記のような方法により生成された際のリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材又はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材の前駆体に及ぶ。
【0032】
本発明のさらなる一態様によると、電気化学セルが供され、
当該電気化学セルは、
セル・ハウジング、及び
セル・ハウジング中のカソード、アノード、及び電解質を含み、
前記カソードが前記アノードから電気的に絶縁されているが、前記電解質によってアノードに電子的に結合されており、前記カソードは上記載のような方法により生成されたリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を含んで成る。
【0033】
本発明の他の態様によると、セル・ハウジングの中に、電解質、アノード、セパレーター及びカソードを装填することを含み、前記カソードが、上記のような方法により生成されたリチウムマンガンに富む層状の酸化物カソード材を含んで成る、電気化学セルの作製方法が供される。
【0034】
リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材を有する前記電気化学セルは、20mA/gの電流密度で少なくとも約200mAhg-1、又は少なくとも約240mAhg-1、又は少なくとも約260mAhg-1、例えば約266mAhg-1の初期放電容量を有し得る。
【0035】
前記電気化学セルが30サイクル後に20mA/gの電流密度で95%を超える、96%を超える、又は97%を超える容量保持を示し得る。
【0036】
本発明のさらに別の態様によると、電気化学セルを操作する方法が供され、当該方法は、
上記のような電気化学セルに充電電位を印加し、それによりカソードからのリチウムが少なくともアノードの一部を形成させること、及び
平均マンガン原子価状態(又は価電子状態;valence state)がセルの充電及び放電の間に約3.5+以上である状態において、セルの放電電位をリチウム金属に対して2.0~3.5Vに達することを可能にすること、
を含む。
【0037】
前記セルの充電電位がリチウム金属に対して4.5~5.1Vに達することを可能とし得る。前記セルの充電及び放電の間での前記平均マンガン原子価状態が約3.8+以上であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明を以下の実施例及び添付の概略図を参照してより詳細に説明する。
【
図1】
図1は、各々異なるpHを有する4つの水溶液から、本発明の方法に従って作製されたLi
1.2Mn
0.6Ni
0.2O
2カソード材の粉末XRDパターンを示す。
【
図2】
図2は、本発明の方法に従って各々異なるpHを有する4つの水溶液から作製され、0.1C(20mA/gの電流密度)の割合(又は比率、又は速度、又はレート;rate)で2.0V~4.8Vで充電されたLi
1.2Mn
0.6Ni
0.2O
2カソード材の最初の充電/放電電圧プロファイルを示す。
【
図3】
図3は、本発明の方法に従って各々異なるpHを有する4つの水溶液から作製され、2.0V~4.8Vの電圧範囲で20mA/g、50mA/g、100mA/gで10サイクル分の放電をした、Li
1.2Mn
0.6Ni
0.2O
2カソード材のレート性能(又は比率性能、又は割合性能、又は速度性能;rate performance)、及びさらに50mA/gで50サイクル分のさらなるサイクル性能(又は効率、又はサイクル・パフォーマンス;cycling performance)のグラフを示す。
【
図4】
図4は、50mA/gで放電した、本発明の方法に従って各々異なるpHを有する4つの水溶液から作製されたLi
1.2Mn
0.6Ni
0.2O
2カソード材の50サイクルを超えるサイクル効率(efficiency)のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0039】
本発明に従った容易なワンポット共沈合成方法又はプロセスを、リチウムマンガンに富む金属酸化物カソード材Li1.2Mn0.6Ni0.2O2を生成するために使用した。Li:Mn:Niの化学量論比は所望のLi1.2Mn0.6Ni0.2O2層状材のために固定されたままであるが、沈殿剤としての尿素は必要な化学量論比を1.0~1.8倍へと変え、結果として各々pHの点で相違する水溶液から生成されたLi1.2Mn0.6Ni0.2O2の4つのバッチが得られた。それぞれpHは、9.0(1.0×化学量論尿素比)、pH9.5(1.2×化学量論尿素比)、pH10.0(1.6×化学量論尿素比)、及びpH10.5(1.8×化学量論尿素比)である。合成手順は、適切な化学量論量の酢酸マンガン四水和物[Mn(CH3COO)2・4H2O]及び酢酸ニッケル四水和物[Ni(CH3COO)・4H2O]を、第1のビーカー内の蒸留水に溶解することを含んだ。水酸化リチウム[LiOH・H2O]及び尿素[CO(NH2)2]を、Mn(CH3COO)2・4H2O及びNi(CH3COO)2・4H2Oとは別に、第2のビーカー内の脱イオン水に溶解し塩基溶液(base solution)を形成した。
【0040】
両方のビーカー内の溶液を、1000rpm、70℃で完全に溶解するまで(10分間溶解)撹拌した。次いで、第1のビーカー内の金属イオンの酢酸塩溶液を、1000rpm、70℃で撹拌しながら、第2のビーカー内の塩基溶液(base solution)に滴下して入れた。第2のビーカー内の水溶液は、懸濁した沈殿物を有する懸濁液が形成するにつれて、徐々に褐色(又は暗褐色、又はダーク・ブラウン;dark brown)に変色した。次いで、懸濁液は70℃で一定時間撹拌した状態にし、その後水を100℃で蒸発した。微細な茶色/赤みがかった粉末を得て、これを空気流炉で約600℃、2時間(温度上昇率5℃/分)で第1の加熱工程でか焼し、全ての酢酸塩/有機物を燃焼した。第2の加熱工程、即ちアニーリング工程、は約900℃のより高い温度で約12時間行い、最終的な所望の結晶相の形成を促進した。
【0041】
物理化学的情報をX線回折(XDR)、走査型電子顕微鏡(SEM)、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法、及びマッカ-・バッテリー・テスター(maccor battery tester)(電気化学情報用)を使用して取得した。4つの生成した材料の物理特性は、XRD、SEM及びBETによってあまり違いがなかった(4つの材料のXRDパターンを示す
図1を参照)。生成された4つのリチウムマンガンに富む金属酸化物は、文献で報告されているものと同様であった。
図1に示されているように、4つのLi
1.2Mn
0.6Ni
0.2O
2酸化物のXRDパターンは全て似ており、文献で報告されている層状構造に表示されている(又は載せられている;indexed)。材料は、どの場合でも、立方晶及び単斜晶の結晶構造の混合物である。リートベルト法(Rietveld refinement)は、これらの組成が
図1に示すように各々pH9、pH10.5、pH9.5、pH10.0を有する水溶液から生成された材料に対し、90.1%、93.4%、94.2%及び94.3%の単斜晶であることを示す。
【0042】
しかしながら、これら4つの材料の電気化学は大幅に異なった。
【0043】
4つのカソード材をコイン・セルに装填し、4つのカソード材は2.0~4.8Vの電圧範囲、20mA/gの定電流密度で200mAhg-1を超えて達成する(又は供給する;delivering)優れた電気化学性能を示した。
【0044】
pH10.0を有する水溶液からの共沈により得られたカソード材は、
図3に示すように、20mA/gの電流密度で266mAhg
-1の初期高放電容量を実現し、50サイクル後に50mA/gで220mAhg
-1を超える放電容量を維持した。
【0045】
4つの全てのカソード材は、4.8Vの開始高電位(starting high potentials)において良好な安定性を示した。これらの材料は、20mA/gで4.5Vを超える(>4.5V)電位で高い放電容量も示した。最初の放電サイクルで、4つの全てのカソード材は、Li2MnO3系複合材料について予想されたような容量損失を被り、これらの種類の複合材料を研究する他のグループによって報告された結果と同様であった。初期サイクルの間の大きな容量損失は、Li2MnO3成分の活性化の間にLi2Oの完全な損失に関連していることを別のグループが報告した。全ての電極は、4.4V未満の傾斜する電圧プロファイル(sloping voltage profile)を示し、その後に、最初の充電工程の間に約4.5Vの比較的長い停滞期(又は安定期、又はプラトー;plateau)になった。傾斜する電圧プロファイルはLiMn0.5Ni0.5O2成分中のNi2+イオンからNi4+イオンへの酸化に起因する可能性があり、4.5Vの停滞期の電圧プロファイルは、Li+イオン及び酸素(Li2O)の同時不可逆的除去(simultaneous irreversible removal)から生じる。
【0046】
本発明のプロセスは、良好な性能を有する材料を生成した。結果は、
図2に示すように、pH10を有する水溶液から作製されたカソード材は、各々373mAhg
-1及び266mAhg
-1の最も高い初期充電及び放電容量を有した。
【0047】
図3は、様々なカソード材で作製されたセルが200mAhg
-1超えを全て達成したことを示す。前記セルは、30サイクル後に20mA/gで約95%の容量保持を有する良好な容量保持特性も示した(
図4参照)。
図3から、電流密度の増加に伴って容量が着実に減少することが明らかである。pH9.5又はpH10.0を有する水溶液から生成された材料は、100mA/gの電流密度で充電した場合でも200mAhg
-1を超える(>200mAhg
-1)容量をさらに実現し、カソード材はより高い電流密度でも安定した容量を実現した。
【0048】
全ての4つの均質なリチウムマンガンに富む金属酸化物カソード材は、高電位で安定したサイクル及び良好なレート性能を示し、これらが大容量リチウムイオンバッテリー用途での使用の有望な候補であることを示唆する。
【0049】
容易なワンポット共沈合成法として説明することできる本発明の方法は、リチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材又はリチウムマンガンに富む層状酸化物カソード材の前駆体を生成するために使用されることができる。有利には、前記方法は高速であり、及び異なる電気化学特性を有するカソード材を生成するための様々な比率で使用されることができる尿素のような安価な沈殿剤を使用する。本発明の少なくとも一つの実施形態では、例示されたように、濾過及び洗浄の必要性が回避され、潜在的に水を節約することができる。