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特許7582866非生分解性プラスチックの変換および非生分解性プラスチックで汚染された土壌の修復における微細鉱物の利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】非生分解性プラスチックの変換および非生分解性プラスチックで汚染された土壌の修復における微細鉱物の利用
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20241106BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20241106BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20241106BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C08F8/00 ZBP
C08K3/00
C08L23/02
C08L101/16
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020552798
(86)(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 US2019021066
(87)【国際公開番号】W WO2019190711
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】62/647,818
(32)【優先日】2018-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520370991
【氏名又は名称】ラディカル プラスティクス インク.
【氏名又は名称原語表記】Radical Plastics Inc.
【住所又は居所原語表記】6 Saturn Road, Marblehead, MA 01945, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イェレナ カン
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104356463(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0037865(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0105822(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0003431(US,A1)
【文献】大武義人,合成樹脂(ゴム、プラスチック)の劣化とその評価,CERI NEWS,2006年05月,No.53,p.1-12,https://www.cerij.or.jp/cerinews/cn_pdf/cerinews_053.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F8
C08L
C08J11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非生分解性ポリオレフィンプラスチックの生分解性ポリオレフィン系生産物への変換方法であって、
石炭に由来する遷移金属イオンを含み、かつ2μm~50μm未満の範囲の粒径を有するいくらかの微細鉱物を得る工程であって、前記微細鉱物は石炭から分離される工程;および
前記石炭から分離された微細鉱物を、前記非生分解性プラスチックと溶融ブレンド、乾式ブレンド、または配合して、前記生分解性ポリオレフィン系生産物を形成する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記非生分解性プラスチックが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンコポリマー、エチレンプロピレンゴム、およびエチレンプロピレンジエンコポリマーのホモポリマーまたはコポリマーまたは混合物からなるリストから選択される炭化水素系ポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記微細鉱物が、以下の濃度:
Fe 14,000~45,000ppm;
Cu 10~50ppm;
Mn 100~700ppm;
Mo 1~2ppm;
Zn 20~120ppm;および
Co 10~15ppm
で、Fe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属イオンを含み;
ここで、ppmは、加温式消化槽中の硝酸、塩酸および過酸化水素を利用したICP-AES法で測定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記微細鉱物が、以下の濃度:
Ca 1,000~18,000ppm;
K 600~4,000ppm;
Mg 20~8,000ppm
で、Ca、K、Mgまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される促進剤;および/または他の酸性もしくはアミン促進剤
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記生分解性ポリオレフィン系生産物が、酸化防止剤、顔料、IR吸収剤、潤滑剤、不飽和有機化合物、置換ベンゾフェノン、過酸化物、生分解性可塑剤、ワックス、UVおよび熱安定剤、生分解性ポリマーおよびオリゴマー、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の添加剤を含み、前記酸化防止剤が、プラスチックの酸化分解を抑制するために使用される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
最終生産物中の前記微細鉱物の濃度が、0.1~5重量%の範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記微細鉱物が、均一な分散を達成するためにマスターバッチまたは濃縮物を介して前記非生分解性プラスチックに添加され、前記マスターバッチ中の鉱物粒子の濃度が、3~50重量%の範囲にある、請求項1記載の方法。
【請求項8】
非生分解性プラスチックの土壌中での生分解性プラスチックへの変換方法であって、
石炭に由来する遷移金属イオンを含み、かつ2μm~50μm未満の範囲の粒径を有するいくらかの微細鉱物を得る工程であって、前記微細鉱物は石炭から分離される工程;および
前記石炭から分離された微細鉱物を、非生分解性プラスチックと溶融ブレンド、乾式ブレンド、または配合して、前記非生分解性プラスチックを前記生分解性プラスチックに変換する工程を含む、方法。
【請求項9】
前記非生分解性プラスチックが、ポリオレフィンである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記非生分解性プラスチックが、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー、アクリレート/スチレン/アクリロニトリルターポリマー、スチレン/ブタジエン/スチレンおよびスチレン/イソプレン/スチレンコポリマー、アクリル、ビニル系ポリマー、ポリカーボネート、ならびにそれらの混合物およびコポリマー、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリイソプレン、およびポリブタジエンからなるリストから選択される炭化水素系ポリマーである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記微細鉱物が、以下の濃度:
Fe 14,000~45,000ppm;
Cu 10~50ppm;
Mn 100~700ppm;
Mo 1~2ppm;
Zn 20~120ppm;および
Co 10~15ppm
で、Fe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属イオンを含み;
ここで、ppmは、加温式消化槽中の硝酸、塩酸および過酸化水素を利用したICP-AES法で測定される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記微細鉱物が、以下の濃度:
Ca 1,000~18,000ppm;
K 600~4,000ppm;
Mg 20~8,000ppm
で、Ca、K、Mgまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される促進剤;およびアルカリ金属/アルカリ土類金属促進剤;およびカルボン酸および/またはアミン促進剤を含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記微細鉱物が、酸化防止剤、顔料、IR吸収剤、潤滑剤、不飽和有機化合物、置換ベンゾフェノン、過酸化物、生分解性可塑剤、ワックス、UVおよび熱安定剤、生分解性ポリマーおよびオリゴマー、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含み、前記酸化防止剤が、プラスチックの酸化分解を抑制するために使用される、請求項8記載の方法。
【請求項14】
最終生産物中の前記微細鉱物の濃度が、0.1~5重量%の範囲である、請求項8記載の方法。
【請求項15】
前記微細鉱物が、均一な分散を達成するためにマスターバッチまたは濃縮物を介して前記非生分解性プラスチックに添加され、前記マスターバッチ中の鉱物粒子の濃度が、3~50重量%の範囲にある、請求項8記載の方法。
【請求項16】
生分解性ポリオレフィン組成物であって、
非生分解性ポリオレフィン系生産物と、
石炭に由来する遷移金属イオンを含み、かつ2μm~50μm未満の範囲の粒径を有するいくらかの微細鉱物との生産物を含み、
生分解性ポリオレフィン系生産物を形成し、前記微細鉱物は石炭から分離される、生分解性ポリオレフィン組成物。
【請求項17】
前記微細鉱物が、以下の濃度:
Fe 14,000~45,000ppm;
Cu 10~50ppm;
Mn 100~700ppm;
Mo 1~2ppm;
Zn 20~120ppm;および
Co 10~15ppm
で、Fe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属イオンを含み;
ここで、ppmは、加温式消化槽中の硝酸、塩酸および過酸化水素を利用したICP-AES法で測定される、請求項16記載の生分解性ポリオレフィン組成物。
【請求項18】
前記微細鉱物が、非生分解性ポリオレフィン系生産物と直接またはマスターバッチもしくは濃縮物を介して溶融ブレンド、乾式ブレンドまたは配合されて、均一な分散を達成し、前記マスターバッチ中の鉱物粒子の濃度が、3~50重量%の範囲にある、請求項16記載の生分解性ポリオレフィン組成物。
【請求項19】
前記微細鉱物が、以下の濃度:
Ca 1,000~18,000ppm;
K 600~4,000ppm;
Mg 20~8,000ppm
で、Ca、K、Mgまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される促進剤;および/または他の酸性もしくはアミン促進剤
を含む、請求項16記載の生分解性ポリオレフィン組成物。
【請求項20】
前記微細鉱物が、酸化防止剤、顔料、IR吸収剤、潤滑剤、不飽和有機化合物、置換ベンゾフェノン、過酸化物、生分解性可塑剤、ワックス、UVおよび熱安定剤、生分解性ポリマーおよびオリゴマー、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の添加剤を含み、前記酸化防止剤が、プラスチックの酸化分解を抑制するために使用される、請求項16記載の生分解性ポリオレフィン組成物。
【請求項21】
前記生分解性ポリオレフィン系生産物中の前記微細鉱物の濃度が、0.1~5重量%の範囲である、請求項16記載の生分解性ポリオレフィン組成物。
【請求項22】
前記非生分解性ポリオレフィン系生産物中の前記微細鉱物の濃度が、遷移金属の組成、非生分解性ポリオレフィン樹脂の特性、気候条件、および配合された生分解性ポリオレフィンの所望の耐用年数を含む要因の少なくとも1つによって決定される、請求項16記載の生分解性ポリオレフィン組成物。
【請求項23】
前記生分解性ポリオレフィン系生産物が、フィルム、シート、繊維、フィラメント、もしくは成形体のうちの少なくとも1つ、またはそれらの組み合わせに変換され得る、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2018年3月25日に出願された米国特許仮出願第62/647,818号明細書の利益を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の属する技術分野
本発明は、概して、非生分解性プラスチックの生分解性プラスチックへの変換に関する。より具体的には、一実施形態では、生分解性プラスチックを使用して土壌を修復および処理するための方法について記載されている。
【0003】
発明の背景
土壌中のポリオレフィン系プラスチック生産物
過去60年間で、農業生産量および生産性は、著しく増加し、プラスチック材料、主にポリオレフィン(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、およびそれらのコポリマーおよび混合物)は、この開発に大きく貢献した。主なポリオレフィン系生産物は、フィルム、点滴灌漑用チューブおよびテープである。マルチフィルムだけでも、世界で約100万トンが3000万エーカー以上の土地で使用されていると推定されている(P. Halleyら、2001年に刊行された“Starch”(53), 362~367頁)。米国では2004年のこれらの数字は、年間約13万トンのマルチフィルム使用量に相当し、185,000エーカーの農地をカバーしている(J. P. Warnickら、2006年に刊行された“Renewable Agriculture and Food Systems” (21), 216~233頁)。これらの数は、土壌温度の上昇、雑草の成長の減少、保湿、特定の害虫の減少、作物の収量の増加、および土壌の栄養素のより効率的な利用などのマルチフィルムの利益のために大幅に増加し続けた。
【0004】
ポリオレフィンの主要な欠点の1つは、それらの耐用年数後の農業用フィルムおよび他の農産物の除去および廃棄の問題とともに、化学的、物理的および生物学的分解に対するそれらの耐性である。除去しない場合、それらは廃棄物として蓄積し、次の作物の根の発達を妨げ、深刻な環境問題を引き起こす傾向がある。土壌からフィルムを除去し、それらを洗浄するコストは、法外に高い。このことが、農家が通常それらを回転式耕運機によって土壌に取り込んだり、時には畑で燃やしたりする主な理由である。プラスチックの使用量が増加しているため、農業用プラスチック廃棄物の処理やプラスチック廃棄物の土壌汚染の問題が深刻化している。
【0005】
また、2004年以降、アメリカでは150万トンをはるかに超えるプラスチック(主にポリオレフィン)のマルチフィルムが使用されていたことも知られている。これらの慣行により、これらのプラスチックのかなりの量が廃棄物として土壌に蓄積されることが予想される。プラスチックで汚染された土壌は農業価値を失い、定期的に修復する必要があることも知られている。
【0006】
農業用プラスチック廃棄物管理に対する可能な解決策は、生分解性材料の開発であろう。生分解性は、加水分解性ポリエステル、例えばポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)、ポリ(ブチレンコハク酸塩)およびそれらのコポリマーなどの土壌生分解性ポリマーを利用することによって達成することができる。しかしながら、長年の研究開発にもかかわらず、これらのポリマーは、土壌の生分解性に一貫性がなく、大部分の場合、除去および合成の必要性、高コスト、ライフサイクルアセスメント(LCA)および劣った機械的特性のために、未だに市場に大きな影響を与えなかった。
【0007】
より有望な解決策は、農業用フィルム市場で選ばれているポリマーであるポリオレフィンを生分解性材料に変換することで、農地の土壌を栄養素でさらに豊かにすることにある。ポリオレフィンは、その疎水性および高分子量のために生体不活性であることが知られているので、これはかなり意欲的な課題である。
【0008】
土壌の栄養素としての遷移金属
遷移金属塩およびそれらの混合物は、重要な植物の栄養素:とりわけ、鉄、銅、亜鉛、モリブデンであることが知られており、光合成、生物的および非生物的ストレスに対する耐性、または窒素固定をサポートするために必要である。しかしながら、植物はしばしば生物学的利用能が限られた土壌(特に還元型の金属)で成長するため、金属の取り込みを微生物に依存している。米国特許出願公開第20160311728号明細書では、土壌と混合された石炭由来の鉱物が有効な土壌改良剤であることが教示されている。これは土壌の沈泥および粘土の割合を増やし、土壌の質感を改善する。しかしながら、これは非生分解性廃棄物で汚染された土壌についての解決策を提供することはできない。
【0009】
発明の概要
本発明の課題は、微細鉱物を利用して、非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに変換することである。微細鉱物は、石炭廃棄物および/または微細径の石炭に由来するか、火山性玄武岩、氷河性砂塵堆積物、ケイ酸鉄カリウムおよび/または海岸堆積物を含む天然資源から採掘される。
【0010】
本発明のさらに別の課題は、非生分解性プラスチックを土壌中で生分解性プラスチックに変換することによって土壌の質を改善することである。
【0011】
本発明のさらに別の課題は、生分解性プラスチック系生産物が複数の遷移金属を放出するように、微細鉱物と混合された非生分解性プラスチック系生産物を含む生分解性プラスチック系生産物を添加することによる土壌の処理である。
【0012】
本発明のさらに別の課題は、悪影響を及ぼすことなく環境中で生物学的に分解する生分解性ポリオレフィン組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の課題は、栄養素の量が増加し、肥沃度が改善された生分解性プラスチックを含む改質された土壌組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の課題は、石炭由来の微細鉱物の有益な利用(それ以外の場合、廃棄物として蓄積され、処分を必要とする)であり、空気清浄化の実践をサポートする場合、微細な石炭画分の分離をサポートすることである(それ以外の場合、石炭が発電所で燃焼された場合に飛灰および大気汚染物質が生成される)。
【0015】
本発明の一実施形態では、微細鉱物は、約2μm~約50μm未満の範囲の粒径で、泡浮選分離により石炭廃棄物および/または微細径の石炭に由来するか、火山性玄武岩、氷河性砂塵堆積物、ケイ酸鉄カリウムおよび/または海岸堆積物を含む天然資源から採掘されたものである。
【0016】
本発明の別の実施形態では、非生分解性プラスチックの生分解性プラスチックへの変換方法について記載されている。この方法は、いくらかの微細鉱物を得て、この微細鉱物を非生分解性プラスチックとブレンド(溶融ブレンド、乾式ブレンドまたは配合)し、それにより非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに変換する工程を含む。
【0017】
本発明の別の実施形態では、変換されるべき非生分解性プラスチックは、LDPE、HDPE、LLDPE、PPおよびそれらのコポリマーおよび混合物などのポリオレフィン系プラスチックである。代替的な実施形態では、非生分解性プラスチックは、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー、アクリレート/スチレン/アクリロニトリルターポリマー、ステレン/ブタジエン/スチレンおよびスチレン/イソプレン/スチレンコポリマー、アクリル、ビニル系ポリマー、ポリカーボネート、ならびにそれらの混合物およびコポリマーを含むが、これらに限定されないリストからの炭化水素系ポリマーである。さらに、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、ポリウレタン、およびポリアセタール、ポリイソプレン、ポリブタジエンがリストに含まれている。
【0018】
本発明の別の実施形態では、非生分解性プラスチックの土壌中での生分解性プラスチックへの変換方法について記載されている。この方法は、いくらかの微細鉱物を得て、この微細鉱物を、非生分解性プラスチックを含む土壌とブレンド(溶融ブレンド、乾式ブレンドまたは配合)し、非生分解性プラスチックを土壌中で生分解性プラスチックに変換する工程を含む。
【0019】
本発明の別の実施形態では、生分解性ポリオレフィン組成物は、非生分解性ポリオレフィン系生産物といくらかの微細鉱物とを含み、非生分解性ポリオレフィン系生産物は、微細鉱物とブレンド(溶融ブレンド、乾式ブレンドまたは配合)される。
【0020】
本発明の別の実施形態では、改質された土壌組成物は、非生分解性ポリオレフィンといくらかの微細鉱物とを含み、非生分解性ポリオレフィンは、微細鉱物と溶融ブレンド、乾式ブレンドまたは配合される場合に生分解性ポリオレフィンに変換される。
【0021】
本発明の別の実施形態では、土壌の処理方法について記載されている。この方法は、生分解性プラスチック系生産物(いくらかの微細鉱物と非生分解性プラスチック系生産物とをブレンドすることによって形成される)を土壌に添加する工程を含む。生分解性プラスチック系生産物は、複数の遷移金属を放出して、土壌中の栄養素の利用可能性を高める。
【0022】
本発明の別の実施形態では、土壌の浄化方法について記載されている。この方法は、複数の遷移金属を含むいくらかの微細鉱物を得て、この微細鉱物を土壌と混合してブレンドを形成する工程を含み、土壌は、非生分解性プラスチック系生産物を含む。複数の遷移金属は、ブレンド中に存在する非生分解性プラスチック系生産物の酸化分解を引き起こして、生分解性プラスチック系生産物を形成する。形成された生分解性プラスチック系生産物は、複数の遷移金属を放出して、土壌中の栄養素の利用可能性を高める。
【0023】
上記の開示および様々な実施形態の以下のより詳細な説明から、本発明が、非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに変換するために微細鉱物を利用する方法を提供することが、当業者には明らかであろう。この点で特に重要なのは、本発明によって、非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに比較的単純で低コストでかつ効率的に変換することができる可能性である。様々な実施形態の追加の特徴および利点は、以下に提供される詳細な説明を考慮してよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施形態による、非生分解性プラスチックの生分解性プラスチックへの変換方法を例示する流れ図を表す。
図2図2は、本発明の別の実施形態による、非生分解性プラスチックの土壌中での生分解性プラスチックへの変換方法を例示する流れ図を表す。
図3図3は、本発明の別の実施形態による、土壌の処理方法を例示する流れ図を表す。
図4図4は、本発明の別の実施形態による、土壌の浄化方法を例示する流れ図を表す。
【0025】
発明の詳細な説明
以下の詳細な説明は、本発明を実施するための最良の現在考えられている技術を表す。本明細書の説明は、限定するものではなく、単に本発明の一般的な原理を例示することを目的としてなされている。
【0026】
非生分解性プラスチックは、光、熱または分解促進(pro-degrading)添加剤の存在下で触媒される酸化分解プロセスを介して生分解性にすることができる。この酸化分解の間に、非生分解性プラスチックの分子鎖が酸化によって還元され、カルボン酸、アルコール、およびケトンが生成される。元々疎水性の高分子は、より親水性になり、細胞外酵素活性を促進させてその後のポリマー鎖の分解につながる(例えば、N.C. Billingham, E. Chiellini, A. Corti, R. BaciuおよびD.W. WilesによるENVIRONMENTALLY DEGRADABLE PLASTICS BASED ON OXO-BIODEGRADATION OF CONVENTIONAL POLYOLEFINS, Springer US 2003を参照のこと)。酸化分解に使用される分解促進添加剤は、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム、マグネシウム)の有無にかかわらず、そして置換ベンゾフェノン、不飽和有機化合物、過酸化物、生分解性可塑剤、ワックスなどの他の成分の存在の有無にかかわらず、遷移金属塩(例えば、鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、マンガン、チタン、ジルコニウム、モリブデン)の様々な混合物を含有する。
【0027】
本発明は、好ましい実施形態において、微細鉱物を利用して、非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに変換する。微細鉱物は、石炭に由来するおよび/または火山性玄武岩、氷河性岩粉堆積物、ケイ酸鉄カリウム、および他の海岸堆積物などの天然資源から採掘されたものである。非生分解性プラスチックは、非生分解性プラスチックの酸化分解により、完全に分解されて生分解性プラスチックに変換され、この酸化分解は、微細鉱物中に存在する遷移金属および遷移金属の還元イオンの電子交換や再生に関与する他の添加物によって引き起こされる。生分解性プラスチックが生分解され、土壌が修復および処理され、それによって質感が改善し、栄養素の利用可能性が高まる。
【0028】
石炭由来の微細鉱物
石炭は、複数の元素、それらの中でもFe、Cu、Mn、Mo、Zn、Coなどの遷移金属化合物ならびにK、Ca、Mgなどのアルカリ金属/アルカリ土類金属を含む微細鉱物と混合された低品質の石炭を含む。残留した微細鉱物は、石炭の洗浄プロセスの後、「廃棄物」として廃棄され、最終的に渓谷、小川、山のくぼみを埋めるか、採鉱地の近くの杭で無作為に処分される。
【0029】
微細鉱物の由来となる別の源は、石炭廃棄物の回収中の分離である。毎年約10億トンの石炭廃棄物が廃棄されていることが知られている。
【0030】
石炭廃棄物に内在する微細鉱物または微細径の石炭は、約2μm~約50μm未満の範囲の粒径で泡浮選により分離される。この分離プロセスでは、微細径の石炭粒子は、石炭粒子に気泡を選択的に付着させ、石炭粒子を石炭-水懸濁系の表面に浮上させ、そこで石炭粒子を泡に回収することによって、分離される。微細鉱物粒子は、付着しないままであるため、それらは泡中で回収されず、尾鉱または粗粒(underflow)中に存在する。微細鉱物は、浮選機の排水時に回収される。このプロセスでは、比重が粒子の表面特性ほど重要ではない乱流の水系で微粒子が処理される。これは、微細径の石炭の洗浄に使用される主要なプロセスの1つであるが、他の適切な手法も使用され得る。
【0031】
金属および金属塩の濃度は、使用されている分析方法に依存し、通常、X線技術:蛍光(XRF)および回折(XRD)および誘導結合プラズマ酸元素分析(ICP-AES)によって測定される。X線法は、非破壊的であり、バルク中の材料の元素組成を決定する。ICP法では、「環境的に利用可能」になる可能性のある元素の濃度を推定するための強酸(ICP-AES)、またはより現実的な土壌の利用可能性を提供するためのより穏やかな溶解溶媒のいずれかで鉱物を分解する必要がある。例えば、ケイ酸塩構造に結合している元素は、通常、環境中で移動できないので、通常、これらの手順によって溶解しない。この手法は、一般に、EPA503重金属規制への準拠を示すために使用される。
【0032】
石炭廃棄物中の遷移金属およびアルカリ金属/アルカリ土類金属の濃度は、石炭部位ごとに異なり、以下の第1表に示す。測定された濃度は、加温式消化槽において硝酸、塩酸および過酸化水素を用いるICP-AES法に基づいている。異なる廃棄物の組成は、異なることが示されたが、すべてが主要な元素として鉄を含み、残りの元素も各廃棄物中に存在していた。第1表では、有毒重金属および規制重金属の濃度が規制値を下回っており、これも提供されていることが確認されている。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0033】
他の天然資源からの微細鉱物
他の微細鉱物は、ユタ州で採掘され、商品名アゾマイトで販売されている火山灰堆積物に基づくものであり得る。これは無機化土壌肥料として販売されているが、その組成に遷移金属も含まれており、有機農業の認可を受けている。
【0034】
微細鉱物の別の例は、火山性玄武岩、例えば、カスケード鉱物によって採掘された生産物に基づくものであり得る。これは、土壌の無機化にも使用されており、有機農業に承認されている。
【0035】
微細鉱物の別の例は、氷河性岩粉堆積物、例えば、ガイアグリーンプロダクツ社(Gaia Green Product Ltd)によって販売されている氷河性岩粉堆積物に基づくものであり得る。
【0036】
別の例は、20%の酸化鉄FeO2を含むケイ酸鉄カリウム、例えば、古代藻類の海岸採掘堆積物に基づくガイアグリーンプロダクツ社によって供給された生産物である。
【0037】
微細鉱物の利用による非生分解性プラスチックの生分解性プラスチックへの変換
図1に示される本発明の好ましい実施形態では、非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに変換する方法の流れ図1が記載されている。変換されるべき非生分解性プラスチックは、LDPE、HDPE、LLDPE、PPおよびそれらのコポリマーならびに混合物などのポリオレフィン系プラスチックである。代替的な実施形態では、非生分解性プラスチックは、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー、アクリレート/スチレン/アクリロニトリルターポリマー、スチレン/ブタジエン/スチレンおよびスチレン/イソプレン/スチレンコポリマー、アクリル、ビニル系ポリマー、ポリカーボネート、ならびにそれらの混合物およびコポリマーを含むが、これらに限定されないリストからの炭化水素系ポリマーである。さらに、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、ポリウレタン、およびポリアセタールがリストに含まれている。
【0038】
流れ図1に例示され、図1に示されるような変換方法は、いくらかの微細鉱物が得られるS1から始まる。微細鉱物は、上記の泡浮選分離プロセスにより、石炭廃棄物および/または微細径の石炭から分離される。微細鉱物は、火山性玄武岩、氷河性岩粉堆積物、ケイ酸鉄カリウム、および他の海岸採掘堆積物などの天然資源からも採掘され得る。微細鉱物の粒径は、約2μm~約50μm未満の範囲である。微細鉱物は、非生分解性プラスチックの酸化分解を引き起こすために、Fe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種、より好ましくは少なくとも2種の遷移金属を含む。微細鉱物中のこれらの遷移金属は、加温式消化槽において硝酸、塩酸および過酸化水素を用いるICP-AES法で測定された濃度を有し、第2表に示す範囲で定義されている。
【表2】
【0039】
微細鉱物は、非生分解性プラスチックの酸化分解を促進するために、Ca、K、Mgまたはそれらの組み合わせのリストからの促進剤をさらに含む。微細鉱物中の促進剤は、第3表に示す範囲で定義された濃度を有する。同様の可溶性カチオンの割合を有する他のアルカリ金属/アルカリ土類金属含有鉱物も、酸化分解の促進剤として使用され得る。
【表3】
【0040】
工程S2では、微細鉱物は、非生分解性プラスチックと、溶融ブレンド、乾式ブレンド、または配合される。微細鉱物は、非生分解性プラスチックに、直接添加されるか、またはマスターバッチもしくは濃縮物を介して添加され、マスターバッチまたは濃縮物は、化合物の調製において塩基性ポリマーと適切な量でブレンドする場合に用いられる既知の比率で、ポリマーと高パーセンテージの1種以上の成分(例えば、微細鉱物および添加剤)とが十分に分散された混合物である。マスターバッチまたは濃縮物は、任意の既知の溶融ブレンド技術、好ましくは押出しによって調製され得る。L:D(長さ対直径)の比率が異なる一軸または二軸スクリュー押出機が使用され得る。マスターバッチ中の微細鉱物の濃度は、約3重量%~約50重量%の範囲であると考えられている。非生分解性プラスチック中の微細鉱物の濃度は、遷移金属の組成、非生分解性プラスチック樹脂の特性、気候条件、および配合された生分解性プラスチックの望ましい耐用年数を含む要因の少なくとも1つによって決定される。
【0041】
工程S3では、非生分解性プラスチックは、非生物的に酸化分解される。微細鉱物中の遷移金属は、酸化分解および非生分解性プラスチックの生分解性プラスチックへの変換を触媒する。ラジカル連鎖プロセスを受けやすいポリオレフィンおよび他の炭化水素系ポリマーの場合、分解プロセスの速度を決定する部分は、一般に過酸化と呼ばれる酸化セグメントである。炭化水素ポリマーは、過酸化に抵抗する(または受ける)能力に違いがある。したがって、酸化安定性は、天然ゴム(シス-ポリ(イソプレン))から、ポリ(ブチレン)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルへと増加する。ポリエチレン内では、その化学的および形態的特性により、LDPEおよびLLDPEは、HDPEよりも酸化分解しやすい。
【0042】
ポリオレフィンの非生物的な過酸化により、ビシナルヒドロペルオキシドが生成される。このプロセスは、水素の引き抜きに対する第三級炭素原子の感受性のために、ポリプロピレンなどのポリ-α-オレフィンで特に好まれる。ビシナルヒドロペルオキシドは、不安定であり、熱および/またはUV光の下でフリーラジカルに変換され得る。これらのラジカルは、次に新しい酸化連鎖を開始する。ヒドロペルオキシド基のフリーラジカルへの単分子ホモリティック分解(monomolecular hemolytic decomposition)は、比較的高い活性化エネルギーを必要とするため、このプロセスは、120℃の範囲の温度でのみ有効になる。しかしながら、触媒量の遷移金属イオンが存在する場合、ヒドロペルオキシドは、以下の反応1に示す酸化還元機構によって室温で分解する。
【化1】
【0043】
これらのフリーラジカルは、非生分解性プラスチックにおける酸素との連鎖反応およびC-H結合に入り、一連の酸化生成物を生成する。非生分解性プラスチック(上記のすべてのポリマー)の酸化分解の程度は、それらの組成、純度およびガラス転移温度を含む、他の多くの要因に強く依存する。
【0044】
ポリオレフィンに基づく完全な生分解性システムを設計する上での課題は、その構造が疎水性から親水性に変化し、その分子量が<20,000g/モルまたは<15,000g/モルに減少する時点まで、その酸化分解を促進することにある。非生分解性プラスチックの継続的な酸化分解および変換をサポートするには、還元遷移金属イオンが酸化分解プロセスを促進するために使用される場合、それらのイオンの再生を可能にすることが不可欠である。このような再生は、触媒分解中の酸化還元反応によって、そして繰り返し反応を促進するための最良の条件を提供することによって促進することができる。Fe3+は、好気性およびアルカリ性条件下で鉄の熱力学的に有利な酸化状態であるのに対し、Fe2+は、嫌気性および酸性条件下で有利であることが知られている。本発明では、遷移金属の還元イオンの電子移動および再生を可能にし、ヒドロペルオキシド基のフリーラジカルへの分解を触媒し、その結果、上記の反応1に従って非生分解性プラスチックポリマーを分解する触媒系が使用されている。その目的のために、触媒系は、複数の遷移金属イオンを含むことに加えて、酸化還元反応の促進剤も含有する。Fe2+のFe3+への変換を容易にするために、以下の反応2に従って、ステリン酸などのカルボン酸が使用され得る。
【化2】
【0045】
酸促進剤は、パルミン酸、ラウリン酸、アラキジン酸、ノナデシル酸、ミリスチン酸、カプリン酸、吉草酸、カプロン酸、酪酸およびアミノ酸などの他の既知のカルボン酸であり得る。オレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アラキドン酸、ネルボン酸、ステアリドン酸、エルカ酸、ルーメン酸、ピノレン酸等の不飽和(多価不飽和を含む)カルボン酸が強く好ましいであろう。ジカルボン酸、トリカルボン酸、アルファヒドロキシル酸、ジビニルエーテル脂肪酸は、促進剤の他の例であり得る。
【0046】
Fe2+の再生を促進するために、アミン化合物が、反応3に従って使用され得る:
【化3】
【0047】
アミン促進剤は、モノマーの脂肪族アミン、例えば、ステアリルアミン、またはポリマー系アミン、例えば[(3-(11-アミノウンデカノイル)アミノ)プロパン-1-]シルセスキオキサン(多面体オリゴマーシルセスキオキサン、POSS)、およびキトサンであり得る。それらは、ポリエチレンからの漏れの可能性が低いため(その構造および分子量のため)、より好ましいこともあり得る。
【0048】
さらに、微細鉱物は、酸化防止剤、顔料、IR吸収剤、潤滑剤、不飽和有機化合物、置換ベンゾフェノン、過酸化物、生分解性可塑剤、ワックス、UVおよび熱安定剤、生分解性ポリマーおよびオリゴマー、またはそれらの組み合わせから選択される他の添加剤を含有する。遷移金属と組み合わせた添加剤は、ヒドロペルオキシドを分解してフリーラジカルを形成する能力を促進する。
【0049】
使用中の生分解性プラスチックの寿命と、環境におけるその後の生分解の速度との双方を制御するために、分解の開始は、適切な酸化防止剤によって制御されなければならない。酸化防止剤は、プラスチックの酸化分解を抑制して、プラスチック材料の必要な初期特性を提供するために使用される。本発明は、遷移金属イオンを使用してヒドロペルオキシドの分解を触媒するので、酸化分解の開始を制御するための一次酸化防止剤の使用が最も好ましい選択肢であろう。一次酸化防止剤は、水素(H)を供与することにより、フリーラジカル、特にペルオキシラジカル(POO・)を安定化し、したがって近くのポリマー鎖から水素を引き抜くことによる新しいアルキルラジカル(P・)の形成を防止する。一次酸化防止剤の作用によって、分解は低減されるが、防止されない。これにより次にヒドロペルオキシドの蓄積が起こり、ヒドロペルオキシドは、一次酸化防止剤の消費後、環境条件で遷移金属イオンによって分解される。ヒドロペルオキシドを化学的に還元する二次酸化防止剤は、あまり好ましくない(例えば、亜リン酸塩、チオエステル)。
【0050】
最後に、工程S4では、非生分解性プラスチックが、生分解性プラスチックに変換される。最終生産物中の微細鉱物の潜在的な濃度は、約0.1~約3重量%である。
【0051】
本発明によれば、非生分解性プラスチックの生分解性プラスチックへの変換は、淡水または海洋環境で起こり得る。水中に浮遊するプラスチック、例えばこれらに限定されないが、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、それらのコポリマー、ポリメチルペンテン、ポリブテン等)、天然ゴム、ナイロン、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、ポリスチレンは、ほぼ常時紫外線にさらされ、上記の機構による非生物的分解を受けることになるだろう。J.-F. Ghiglioneには、ユーノミアレポート(Eunomia Report)への回答の中で、海洋に遍在し、炭化水素を生分解することができるAlcanivorax borkumensisやR. rhodochrousなどの特定のバクテリアの存在についても記載されている。このような微生物の個体数は、食料源の利用可能性の増加、例えば、油流出に応じて増加することが知られている。ポリマー分子の化学的分解およびそれらの高まる親水性は、非生分解性プラスチックの既知の問題である、PCB(ポリ塩化ビフェニル)などの海洋汚染物質がプラスチック表面に吸着することも防ぐだろう。
【0052】
図2に示される本発明の別の実施形態では、非生分解性プラスチックを土壌中で生分解性プラスチックに変換する方法の流れ図2が記載されている。稼働条件は、好ましい実施形態の稼働条件と同じである。
【0053】
流れ図2に例示され、図2に示されているような変換方法は、約2μm~約50μm未満の範囲のいくらかの微細鉱物が得られる工程S11から開始される。微細鉱物中の遷移金属の濃度は、本発明の上記の第2表に示す範囲で定義される。微細鉱物は、非生分解性プラスチックの酸化分解を引き起こすために、Fe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせからなる群からの遷移金属を含む。
【0054】
微細鉱物は、Ca、K、Mg、またはそれらの組み合わせからなる群からの促進剤を、本発明の上記の第3表に定義された濃度でさらに含む。
【0055】
工程S12では、微細鉱物は、非生分解性プラスチックと溶融ブレンド、乾式ブレンド、または配合される。微細鉱物は、土壌に直接添加されるか、またはマスターバッチもしくは濃縮物を介して添加されて、十分に分散された混合物が得られる。さらに、約10~30重量%の微細鉱物は、土壌中に存在する非生分解性プラスチックとブレンドする必要があるだろう。微細鉱物の土壌中での濃度は、遷移金属の組成、非生分解性プラスチック樹脂の特性、気候条件、および配合された生分解性プラスチックの所望の耐用年数を含む要因の少なくとも1つによって決定される。ブレンドは、均一な分散を達成するために回転式耕運機で行われ得る。微細鉱物の土壌中でのより良い分散を促進するために、いくつかの回転式耕運機による土壌処理が推奨される。
【0056】
工程S13では、非生分解性プラスチックが、土壌中で酸化分解される。微細鉱物中の遷移金属は、上記の本発明の反応1、反応2および反応3に従って、他の促進剤、例えば、カルボン酸および第一級アミン系化合物ならびにアルカリ金属およびアルカリ土類金属と一緒に、酸化還元反応を促進し、非生分解性プラスチックの酸化分解を引き起こして非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに変換する触媒として作用する。微細鉱物中の促進剤は、非生分解性プラスチックの土壌中での生分解性プラスチックへの酸化分解をさらに促進させる。
【0057】
最後に、工程S14では、非生分解性プラスチックは、土壌中で生分解性プラスチックに変換される。最終生産物中の微細物質の潜在的な濃度は、約0.1~約3重量%である。
【0058】
本発明の別の実施形態では、生分解性ポリオレフィン組成物が記載されている。生分解性ポリオレフィン組成物は、非生分解性ポリオレフィン系生産物といくらかの微細鉱物とを含み、非生分解性ポリオレフィン系生産物は、約2μm~約50μm未満の範囲の粒径を有する微細鉱物と溶融ブレンド、乾式ブレンド、または配合される。非生分解性ポリオレフィン系生産物中の微細鉱物の濃度は、遷移金属の組成、土壌中に存在する非生分解性プラスチック樹脂の特性、気候条件、および配合された生分解性ポリオレフィンの所望の耐用年数を含む要因の少なくとも1つによって決定される。微細鉱物中に存在するFe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせからなる群からの遷移金属は、酸化促進剤として作用し、非生分解性ポリオレフィン系生産物の酸化分解を引き起こす。微細鉱物中の遷移金属は、本発明の上記の第2表に示す範囲で定義された濃度を有する。酸化分解によって、非生分解性ポリオレフィン系生産物は、上記の本発明の反応1、反応2および反応3に従って生分解性ポリオレフィン組成物に変換される。
【0059】
本発明の別の実施形態では、改質された土壌組成物は、非生分解性ポリオレフィンと、約2μm~約50μm未満の範囲の粒径を有するいくらかの微細鉱物とを含み、微細鉱物は、土壌中に存在する非生分解性ポリオレフィンと溶融ブレンド、乾式ブレンド、または配合される。非生分解性ポリオレフィンは、微細鉱物とブレンドされる際に生分解性ポリオレフィンに変換される。微細鉱物は、土壌に直接添加される。約10~約30重量%の微細鉱物が、土壌中に存在する非生分解性プラスチックとブレンドする必要があるだろうと考えられている。微細鉱物は、Fe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせからなる群からの遷移金属を含む。微細鉱物中の遷移金属は、本発明の第2表に示される範囲で定義される濃度を有する。遷移金属は、酸化促進剤として作用し、上記の本発明の反応1、反応2および反応3に従って、土壌中に存在する非生分解性ポリオレフィンの酸化分解を引き起こす。この酸化分解の結果として、非生分解性ポリオレフィンは、生分解性ポリオレフィンに変換され、改質された土壌を形成する。
【0060】
生分解性プラスチックによる土壌処理および土壌修復
遷移金属を含有する微細鉱物は、土壌に栄養を与え、土壌の肥沃度を回復させ、土壌を整える。第4表を参照し、より穏やかな溶解溶媒を使用したICPに基づく土壌分析データ(金属塩溶解のための土壌条件をシミュレートしたもの)によって、以下の植物の栄養素の存在が確認される。
【表4】
【0061】
図3に示される本発明の別の実施形態では、土壌の処理方法の流れ図3が記載されている。生分解性プラスチック系生産物が、土壌に添加される。生分解性プラスチック系生産物は、生分解されて土壌を処理する。稼働条件は、好ましい実施形態の稼働条件と同じである。
【0062】
流れ図3に例示され、図3に示されるような処理方法は、約2μm~約50μm未満の範囲の粒径を有するいくらかの微細鉱物と、本発明の実施形態による非生分解性プラスチック系生産物とを、溶融ブレンド、乾式ブレンド、または配合することによって形成された土壌中に、生分解性プラスチック系生産物を添加する工程S21から開始される。
【0063】
工程S22では、生分解性プラスチックが、土壌中で生分解される。生分解プロセスは、プラスチック変換プロセスを維持できる既知の微生物の栄養素、例えばポリ(ヒドロキシアルカノエート)、デンプン、タンパク質を含めることによって加速され得る。生分解の程度は、酸化分解プロセスの完全性および土壌条件(水分、pH、組成、温度)にも依存するだろう。生分解プロセスでは、工程S23において遷移金属が放出される。放出された遷移金属は、工程S24において土壌中で生物同化され、土壌中の栄養素の利用可能性を高める。
【0064】
図4に示される本発明の別の実施形態では、土壌の修復方法の流れ図4が、記載されている。非生分解性プラスチック系生産物は、土壌中で生分解性プラスチック系生産物に変換され、生分解されて土壌を修復する。稼働条件は、好ましい実施形態の稼働条件と同じである。
【0065】
フロー図4に例示され、図4に示されているような修復方法は、約2μm~約50μm未満の範囲の粒径を有するいくらかの微細鉱物が得られる工程S31から開始される。微細鉱物は、非生分解性プラスチックの土壌中での酸化分解を引き起こすために、Fe、Cu、Mn、Mo、Zn、Co、またはそれらの組み合わせの群からの遷移金属を含む。微細鉱物中の遷移金属は、第2表に示す範囲で定義された濃度を有する。
【0066】
微細鉱物は、Ca、K、Mg、またはそれらの組み合わせからなるリストからの促進剤をさらに含む。微細鉱物中の促進剤は、第3表に示す範囲で定義された濃度を有する。
【0067】
工程S32では、微細鉱物が、土壌に直接添加される。ブレンドは、均一な分散を達成するために、好ましくは耕運機または同等の装置を使用して行われる。微細鉱物の土壌中でのより良い分散を促進するために、いくつかの回転式耕運機による土壌処理が行われる。
【0068】
工程S33では、ブレンド中の非生分解性プラスチック系生産物が、酸化分解される。微細鉱物中の遷移金属は、上記の本発明の反応1、反応2および反応3に従って、酸化促進剤として作用し、非生分解性プラスチック系生産物の酸化分解を引き起こし、非生分解性プラスチック系生産物を、生分解性プラスチック系生産物に変換する。微細鉱物中の促進剤によって、非生分解性プラスチック系生産物の、土壌中での生分解性プラスチック系生産物への酸化分解がさらに促進される。
【0069】
工程S34では、生分解性プラスチック系生産物が、土壌中で生分解される。生分解プロセスは、プラスチック変換プロセスを維持できる既知の微生物の栄養素、例えばポリ(ヒドロキシアルカノエート)、デンプン、タンパク質を含めることによって加速され得る。生分解の程度は、酸化分解プロセスの完全性および土壌条件(水分、pH、組成、温度)にも依存するだろう。生分解プロセスは、工程S35で遷移金属を放出する。放出された遷移金属は、工程S36において土壌中で生物同化され、土壌中の栄養素の利用可能性を高める。遷移金属の生物同化は、土壌の質を改善し、植物の健康および時間とともに低下した土壌の肥沃度の向上に貢献する。
【0070】
本発明の利点の1つは、記載された実施形態による方法によって、微細鉱物が利用されて、非生分解性プラスチックが生分解性プラスチックに変換されることである。例示された方法は、農業分野で特に有用であり得る。生分解性プラスチックは、生分解されて、遷移金属を土壌中で放出し、より健全な植物の生育に貢献する。本発明はさらに、非生分解性プラスチック廃棄物で汚染された土壌の処理へのその適用を見出す。また、微細鉱物の利用によって、石炭廃棄物が廃棄物として廃棄され、渓谷、川、湖、海等で洗い流される際に引き起こされ得る水質汚染も低減される。記載された発明は、非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに変換する際に、単純で、容易で、経済的で、環境に優しく、効率的である。
本発明の別の実施形態は、土壌の修復方法であって、複数の遷移金属を含む、約2μm~約50μm未満の範囲の粒径を有するいくらかの微細鉱物を得る工程であって、前記微細鉱物が、石炭に由来するおよび/または火山性玄武岩、氷河性岩粉堆積物、ケイ酸鉄カリウムおよび/または海岸堆積物を含む天然資源から採掘される工程と、続いて前記微細鉱物を、土壌と混合して、ブレンドを形成する工程とを含む。前記土壌は、非生分解性プラスチック系生産物を含み、前記複数の遷移金属が、前記ブレンド中に存在する前記非生分解性プラスチック系生産物の酸化分解を引き起こして、生分解性プラスチック系生産物を形成し、そして前記生分解性プラスチック系生産物が、前記複数の遷移金属を放出して、前記土壌中の栄養素の利用可能性を高める。別の実施形態では、前記非生分解性プラスチックが、ポリオレフィンである。さらに、前記非生分解性プラスチックが、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー、アクリレート/スチレン/アクリロニトリルターポリマー、スチレン/ブタジエン/スチレンおよびスチレン/イソプレン/スチレンコポリマー、アクリル、ビニル系ポリマー、ポリカーボネート、ならびにそれらの混合物およびコポリマー、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリイソプレン、およびポリブタジエンからなるリストからの炭化水素系ポリマーである。
【0071】
前述の開示および特定の実施形態の詳細な説明から、本発明の真の範囲および精神から逸脱することなく、様々な変更、追加および他の代替的な実施形態が可能であることは明らかである。議論された実施形態は、本発明の原理およびその実用的な適用の最良の例示を提供するために選択され、記載されており、当業者が、様々な実施形態で、意図された特定の使用に適するように様々な変更を加えて本発明を利用することを可能にする。このようなすべての変更および変形は、それらが公正、合法、および公平に権利を与えられる利益に従って解釈される場合、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内にある。
図1
図2
図3
図4