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特許7582869レスポンダ選択および治療の最適化されたSIGMA-1アゴニスト方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】レスポンダ選択および治療の最適化されたSIGMA-1アゴニスト方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20241106BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20241106BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241106BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20241106BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
A61K45/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P43/00 121
A61K31/341
G01N33/50 P
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020564752
(86)(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 US2019033161
(87)【国際公開番号】W WO2019222754
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】62/673,369
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519448577
【氏名又は名称】アナベックス ライフ サイエンス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ミスリング、クリストファー ユー.
(72)【発明者】
【氏名】アフシャール、ムハンマド ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】パルマンティエ、フレデリック
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-531195(JP,A)
【文献】特表2012-500004(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0250118(US,A1)
【文献】Journal of Pharmacological Sciences,2015年,Vol.127,pp.30-35
【文献】Progress in Neuropsychopharmacology & Biological Psychiatry,2018年,Vol.81,pp.74-79
【文献】Neuropsychiatric Disease and Treatment,2013年,Vol.9,pp.1029-1033
【文献】European Neuropsychopharmacology,2017年,Vol.27,p.S157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68-1/70
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法であって、前記方法が、
a.前記対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの多型の存在を判定する、前記対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることと、
b.多型が前記対象に存在する場合、前記対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含み、
前記Sigma-1受容体アゴニスト療法におけるSigma-1受容体アゴニストがA2-73を含み、
前記対象が、アルツハイマー病にかかっているか又はその疑いのある対象である、方法。
【請求項2】
Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法であって、前記方法が、
a.遺伝子座を配列決定することによって、少なくとも1つの多型が前記対象から得られる生体試料において前記遺伝子座に存在するかを検出すること、または検出しているこ
とと、
b.多型が前記対象に存在する場合、前記対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含み、
前記少なくとも1つの多型が、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記Sigma-1受容体アゴニスト療法におけるSigma-1受容体アゴニストがA2-73を含み、
前記対象が、アルツハイマー病にかかっているか又はその疑いのある対象である、方法。
【請求項3】
対象におけるSigma-1受容体アゴニスト療法に対する応答に関連する多型の存在を検出する方法であって、前記方法が、遺伝子座の配列を評価することによって、前記対象からの生体試料における前記多型を検出することを含み、
前記多型が、前記対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S6Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、
前記Sigma-1受容体アゴニスト療法におけるSigma-1受容体アゴニストがA2-73を含み、
前記対象が、アルツハイマー病にかかっているか又はその疑いのある対象である、方法。
【請求項4】
前記多型が、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、およびこれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記多型が、SIGMAR1_Q2Pである、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
A2-73が、A2-73の結晶形、A2-73の遊離塩基、A2-73の遊離塩基の結晶形、A2-73の遊離塩基の塩、またはこれらの組み合わせである、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
応答性対象におけるSigma-1受容体関連状態を治療するための医薬であって、ここで前記医薬は治療有効量のSigma-1受容体アゴニストを含み、前記応答性対象は、
a.対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせ
からなる群から選択される少なくとも1つの多型の存在を検出する、前記対象からの生体試料の試験の結果を得る、または得ているステップと、
b.多型が前記対象に存在しない場合、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性の対象を選択するステップと、により選択され、
前記Sigma-1受容体アゴニストがA2-73を含み、
前記Sigma-1受容体関連状態がアルツハイマー病である、医薬
【請求項8】
A2-73が、A2-73の結晶形、A2-73の遊離塩基、A2-73の遊離塩基の結晶形、A2-73の遊離塩基の塩、またはこれらの組み合わせである、請求項に記載の医薬。
【請求項9】
前記Sigma-1受容体アゴニストの前記治療有効量が、0.5~100mgの範囲である、請求項又は請求項に記載の医薬。
【請求項10】
経口投与される場合、前記Sigma-1受容体アゴニストの前記治療有効量が、20~60mgの範囲である、請求項又は請求項に記載の医薬。
【請求項11】
静脈内投与される場合、前記Sigma-1受容体アゴニストの前記治療有効量が、1~20mgの範囲である、請求項又は請求項に記載の医薬。
【請求項12】
前記Sigma-1受容体アゴニストの前記治療有効量が、40mg~60mg/日の範囲である、請求項又は請求項に記載の医薬。
【請求項13】
前記治療有効量が、4ng/mLの前記Sigma-1受容体アゴニストの血液濃度を提供する、請求項又は請求項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年5月18日に出願された米国仮特許出願第62/673,369号の利益を主張するものであり、その開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、対象がSigma-1受容体療法に応答性または非応答性であるかを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、記憶および他の認知機能の喪失を特徴とし、日常生活活動における干渉をもたらす、進行性神経変性障害である。現在、疾患の進行を変化させることが示されている薬理学的治療の欠如がある。カルシウム恒常性およびミトコンドリア機能の調節因子であるSigma-1受容体(SIGMAR1)は、ADを含む神経変性および神経発達障害または適応症として様々に知られる状態に関連する新しい標的である。SIGMAR1活性化は、タウの高リン酸化、神経保護、神経変性、および酸化ストレスを含むADにおける主要な病態生理学的プロセスを低減することが示されている。SIGMAR1の活性化はまた、ヒト細胞におけるインビボでのオートファジーフラックスの増加をもたらす。しかしながら、AD患者集団の遺伝的異質性および治療に対する応答の客観的有効性尺度または予測バイオマーカーの欠如は、治療有効性の重大な制限に寄与する。この異質性は、治療の成功を不明瞭にし得る背景ノイズである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、Sigma-1受容体療法を必要とする患者を治療するための個人化プロトコルを開発するための予測バイオマーカーおよび方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法を包含する。本方法は、対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの多型の存在を判定する対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることを含む。本方法は、多型が対象に存在する場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することをさらに含む。
【0006】
本開示の別の態様は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法を包含する。本方法は、多型を含む遺伝子座を配列決定することによって、少なくとも1つの多型が対象から得られる生体試料において遺伝子座に存在するかを検出すること、または検出していることを含む。本方法は、多型が対象に存在する場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することをさらに含む。少なくとも1つの多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0007】
本開示のさらに別の態様は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法を包含する。本方法は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、DPYD、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定する、対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることと、試験試料におけるRNAのレベルを、Sigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルと比較することと、を含む。Sigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルと実質的に類似する試験試料におけるRNAのレベルは、Sigma-1受容体療法に応答性である対象を識別する。
【0008】
本開示の別の態様は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法を包含する。本方法は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、DPYD、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定すること、または判定していることを含む。本方法はまた、試験試料におけるRNAのレベルがSigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルとは実質的に異なる場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することを含む。
【0009】
本開示の一態様は、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象を治療する方法を包含する。本方法は、対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの多型の存在を検出する対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることを含む。本方法はまた、多型が対象に存在しない場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストを対象に投与することを含む。
【0010】
本開示の別の態様は、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象を治療する方法を包含する。本方法は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、DPYD、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定する、対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることを含む。本方法は、試験試料におけるRNAのレベルを、Sigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルと比較することと、試験試料におけるRNAのレベルがSigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルと実質的に類似する場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストを対象に投与することと、をさらに含む。
【0011】
本開示のさらに別の態様は、対象におけるSigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型の存在を検出する方法を包含する。本方法は、対象から生体試料を得ること、または得ていることと、多型を含む遺伝子座の配列を評価することによって、生体試料において多型を検出することと、を含む。少なくとも1つの多型は、対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0012】
色図形の参照
出願ファイルは、カラーで実行された少なくとも1枚の写真を含有する。カラー写真を有する本特許出願公開の写しは、申請および必要な手数料の支払い後に特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1は試験設計、データ利用可能性、および分析方法の例示的な概要である。(a)2つのパート:5週間にわたるパートAおよび52週間にわたるパートBを含む連続臨床試験(57週間試験)、ならびに累積265週間となる初期試験直後に計画された208週間にわたる208週間試験延長試験の要約である。
図1B】(b)統合データソースの要約である。
図1C】(c)ANAVEX2-73濃度の2つの群をモデル化するために試験に適用される2つの分析ステップ1)57週目での応答の目的変数なしのFCAルールに基づく分析、2)57週目で見出されるマーカーを組み込む148週間にわたる応答の混合効果モデリングを使用する縦断的確認に組み込まれる患者記述子の数の説明である。
図2A図2はANAVEX2-73およびANAVEX19-144の投与量および血漿濃度の概略図である。(a)2つの可能な用量が無作為に割り当てられたIVまたは経口投与のいずれかで開始する、単一用量レジメンが各期間(静脈内(IV)または経口で(経口))与えられる、8つの可能な投与スキームを含む用量投与クロスオーバ設計である。
図2B】(b)異なる無作為化投与量での57週間試験パートAにおける最初の投与(試験の最初の24時間)後のANAVEX2-73の0~無限(AUC0-inf)の曲線下面積である薬物動態パラメータである。
図2C】(c)血漿中のANAVEX2-73の平均濃度群のボックスプロットである。
図3】VistaPDB 1.0ソフトウェアを使用して可視化されたSIGMAR1の3D結晶構造である。
図4】148週間にわたるベースラインからのMMSEおよびADCS-ADL変化のMMRM-LMEモデルを示すプロットである。(a)調整されたデルタMMSEに対する時間(週間)での高濃度(緑)コホート対低および中濃度患者コホート(赤紫)についてのMMRM-LME調整スロープである。集団レベルの残留物での平均調整値を、各時点(点線)でプロットした。(b)調整されたデルタMMSEに対する時間(週間)での高濃度(緑)コホート対低および中濃度患者コホート(赤紫)についてのMMRM-LME調整スロープである。集団レベルの残留物での平均調整値を、各時点(点線)でプロットした。
図5】148週間にわたるデルタADCS-ADLの未調整値のプロットである。プロットは、バイオマーカーステータス(不在または存在)に応じた208週間試験における患者、および標準治療が与えられた患者のサブグループの中間148週間を通したデルタADCS-ADLスコアの(未調整)平均軌跡を提示する。208週間試験における患者のサブグループは、識別されたバイオマーカーおよびベースライン基準特性に応じたプロット(青、緑、オレンジ、ピンク、紫、およびターコイズ)で表される。
図6A】併用試験の148週間にわたる縦断的デルタMMSEおよびデルタADCS-ADLを示す治療応答を示すプロットである。(a)および(b)に提示される患者は、SIGMAR1遺伝子野生型、パートBにおける血漿中のANAVEX2-73の平均高濃度レベル、およびベースラインMMSE≧20を有する。
図6B】併用試験の148週間にわたる縦断的デルタMMSEおよびデルタADCS-ADLを示す治療応答を示すプロットである。(a)および(b)に提示される患者は、SIGMAR1遺伝子野生型、パートBにおける血漿中のANAVEX2-73の平均高濃度レベル、およびベースラインMMSE≧20を有する。
図7A】SIGMAR1 Pro2変異の存在が、MMSE(a)およびADCS-ADLデルタ(b)の両方によって測定される、sigma-1アゴニストに対する応答不良と関連していることを示すプロットである。
図7B】SIGMAR1 Pro2変異の存在が、MMSE(a)およびADCS-ADLデルタ(b)の両方によって測定される、sigma-1アゴニストに対する応答不良と関連していることを示すプロットである
図8】(a)フレームシフトCOMT Leu146変異が、ベースライン(BL)からの高いADCS-ADLデルタと強く関連していることを示すプロットである。(b)KANSL1 Pro304/946/1010変異の不在が、BLからの高いADCS-ADLデルタと強く関連していることを示すプロットである。(c)SIGMAR1 Pro2変異の不在が、BLからの高いADCS-ADLデルタと強く関連していることを示すプロットである。(d)フレームシフトCOMT Leu146変異の不在が、BLからの高いMMSEデルタと強く関連していることを示すプロットである。(e)KANSL1 Pro304/946/1010変異の不在が、BLからの高いMMSEデルタと強く関連していることを示すプロットである。(f)SIGMAR1 Pro2変異の不在が、BLからの高いMMSEデルタと強く関連していることを示すプロットである。
図9】高いSIGMAR1 RNA発現が、BLからの高いADCS-ADLスロープ値と強く関連していることを示すプロットである(改善)。分析は、全患者(N=21)の100%のデータを含む。TPMとは、百万分の1キロベース当たりの転写産物を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、対象がSigma-1受容体療法に応答性または非応答性であるかを判定する方法の発見に部分的に基づいている。本方法は、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する多型の存在を検出することを含み得る。本方法はまた、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定することを含み得る。本方法は、Sigma-1受容体療法を必要とする対象について治療を最適化するために使用することができる。療法に対する対象の予測される応答性に基づいて、個人化された治療を各対象に提供することができる。例えば、応答性である対象は、Sigma-1受容体アゴニストを使用する治療について選択され得るが、非応答性である対象は、疾患発生プロセスの初期および/または治療が開始される前でも、代替の、より適切な治療レジメンが提供され得る。これは、対象が治療期間の延長後に応答性または非応答性であると判定される現行の方法とは対照的である。多型、多型を識別する方法、および多型を使用する方法を以下に記載する。
【0015】
I.Sigma-1受容体療法に対する対象の応答に関連する多型
本発明の一態様は、Sigma-1受容体療法を使用する治療に対する治療応答の低減を予測する遺伝子多型を包含する。目的の多型は、多型がSigma-1受容体療法に対する対象のポジティブな応答に関連付けられることを条件として、対象におけるゲノム中の任意の遺伝子座にあり得る。例えば、多型は、ミトコンドリアDNAを含む、対象のゲノムのコード領域または非コード領域にあり得る。多型は、遺伝子または遺伝子座における挿入、欠失、または単一ヌクレオチド多型(SNP)から生じ得る。
【0016】
いくつかの態様において、Sigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、GAMT、IL10、MTUS1、PPARG、およびこれらの組み合わせから選択される遺伝子にある。一態様において、多型は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、およびこれらの組み合わせから選択される遺伝子にある。別の態様において、多型は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、およびこれらの組み合わせから選択される遺伝子にある。
【0017】
いくつかの態様において、Sigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。表Aは、これらの多型を詳細に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
一態様において、Sigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs(rs113895332/rs61143203)、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の態様において、Sigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs(rs113895332またはrs61143203)、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに別の態様において、Sigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型は、SIGMAR1_Q2Pである。一態様において、Sigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型は、COMT_L146fs(rs113895332またはrs61143203)である。別の態様において、Sigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型は、KANSL1_P1010L/P304L/P946Lである。
【0020】
II.Sigma-1受容体療法に対する対象の応答性を判定する方法
本発明の別の態様は、対象がSigma-1受容体療法に応答性または非応答性であるかを判定する方法を提供する。本方法は、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する多型の存在を検出することを含み得る。本方法はまた、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する少なくとも1つの遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定することを含み得る。
【0021】
一態様において、本方法は、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する少なくとも1つの多型の存在を検出することを含む。少なくとも1つの多型の存在は、Sigma-1受容体療法に応答性である対象を識別する。多型および多型を含む遺伝子は、セクションIに記載される通りである。
【0022】
1つ以上の多型の存在が検出され得る。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の多型の存在が検出され得る。いくつかの態様において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の多型の存在が検出され得る。他の態様において、1、2、3、4、または5個の多型の存在が検出され得る。さらに他の態様において、1、2、または3個の多型の存在が検出され得る。
【0023】
多型の存在または不在は、対象における核酸配列を評価することによって検出され得る。代替的に、多型の存在または不在は、多型を含む遺伝子または遺伝子座からの核酸またはタンパク質の発現を評価することによって検出され得る。
【0024】
いくつかの態様において、多型の存在または不在は、多型を含む遺伝子座での多型の存在について核酸配列を評価することによって検出され得る。核酸配列は、多型を含む遺伝子座から発現されるDNAまたはRNA配列であり得る。多型の検出に好適な方法は、当該技術分野で周知である。例えば、方法は、ショットガン配列決定、ブリッジPCR、ハイスループット法、対立遺伝子特異的リアルタイムPCR、5’-ヌクレアーゼアッセイ、鋳型指向性ダイターミネーター組み込み、分子ビーコン対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドアッセイ、フラップヌクレアーゼでの侵襲的切断を用いるアッセイ、対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(ASH)、アレイベースハイブリダイゼーション、対立遺伝子特異的ライゲーション、プライマー伸長、単一塩基伸長(SBE)アッセイ、配列決定、ピロリン酸配列決定、リアルタイムピロリン酸配列決定、配列長多型分析、制限長断片多型(RFLP)、RFLP-PCR、一本鎖立体構造多型(SSCP)、PCR-SSCP、断片サイジングキャピラリー電気泳動、ヘテロ二本鎖分析、および質量アレイシステムを含む。増幅配列の分析は、マイクロチップ、蛍光偏光アッセイ、およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析などの様々な技術を使用して行われ得る。ハイスループット配列決定方法としては、大規模並列シグネチャ配列決定(MPSS)、ポロニー配列決定、454パイロシーケンシング、イルミナ(Solexa)配列決定、コンビナトリアルプローブアンカー合成(cPAS)、SOLiD配列決定、イオントレント半導体配列決定、DNAナノボール配列決定、ヘリスコープ単一分子配列決定、単一分子リアルタイム(SMRT)配列決定、ナノポアDNA配列決定、トンネル電流DNA配列決定、ハイブリダイゼーションによる配列決定、質量分析による配列決定、マイクロ流体サンガー配列決定、顕微鏡ベースの技法、RNAP配列決定、およびインビトロウイルスハイスループット配列決定が挙げられる。
【0025】
別の態様において、本方法は、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する少なくとも1つの遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定することを含む。本方法によれば、Sigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルと実質的に類似するRNAのレベルは、Sigma-1受容体療法に応答性である対象を識別する。Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する遺伝子は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、DPYD、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0026】
例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを検出することができる。いくつかの態様において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを検出することができる。他の態様において、1、2、3、4、または5個の遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを検出することができる。さらに他の態様において、1、2、または3個の遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを検出することができる。
【0027】
RNA発現のレベルを測定することは、ノーザンブロット、定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)、核酸マイクロアレイ、ルミネックスマイクロスフェア、およびヌクレアーゼ保護アッセイを含む様々な方法によって達成され得る。実質的に異なるレベルのRNA発現を判定する方法は、当該技術分野で知られており、分布分析を含む。いくつかの態様において、実質的に異なるレベルのRNA発現は、RNA発現値を百万分の1キロベース当たりの転写産物(TPM)として正規化することによって判定される。
【0028】
他の態様において、対象がSigma-1受容体療法に応答性または非応答性であるかを判定することは、多型を含む遺伝子から発現されるタンパク質のレベルを測定することによって検出され得る。タンパク質発現を測定する方法としては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC/MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、タンパク質免疫沈降、免疫電気泳動、ウェスタンブロット、およびタンパク質免疫染色などの様々な方法が挙げられる。
【0029】
対象がSigma-1受容体療法に応答性または非応答性であるかを判定することは、対象においてインビボまたはインビトロで検出され得る。典型的には、Sigma-1受容体療法に対する対象の応答性は、対象から得られる生体試料においてインビトロで核酸またはタンパク質を分析することによって得ることができる。核酸またはタンパク質は、当該技術分野で一般に知られている方法を使用して、生体試料から単離され得る。詳細については、Ausubel et al.,2003、またはSambrook&Russell,2001を参照されたい。生体試料から核酸を単離するために、市販の核酸およびタンパク質抽出キットまたは市販の抽出試薬が使用され得る。
【0030】
好適な生体試料の非限定的な例としては、流体試料、生検試料、皮膚試料、および毛髪試料が挙げられる。流体試料は、血液、血清、唾液、涙液、およびリンパ液を含み得る。いくつかの態様において、生体試料は、血液である。対象から生体試料を収集する方法は、当該技術分野で周知である。
【0031】
いくつかの態様において、対象がSigma-1受容体療法に応答性または非応答性であるかを判定する方法は、少なくとも1つの多型の存在を判定する、対象からの生体試料の試験の結果を得ることを含む。他の態様において、Sigma-1受容体療法に対する対象の応答性を判定する方法は、多型を含む遺伝子座を配列決定することによって、少なくとも1つの多型が対象から得られる生体試料において遺伝子座に存在するかを検出することを含む。さらに他の態様において、対象がSigma-1受容体療法に応答性または非応答性であるかを判定する方法は、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する遺伝子によってコードされる少なくとも1つのRNAのレベルを判定する、対象からの生体試料の試験の結果を得ることを含む。他の態様において、Sigma-1受容体療法に対する対象の応答性を判定する方法は、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する遺伝子によってコードされる少なくとも1つのRNAの発現のレベルを判定することによって、少なくとも1つの多型が対象から得られる生体試料において遺伝子座に存在するかを検出することを含む。
【0032】
III.使用方法
本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象について治療を最適化するために使用することができる。例えば、本方法は、対象の治療プロトコルを開始する前に、Sigma-1受容体療法に応答性である対象を選択するために使用することができる。逆に、本方法は、対象がSigma-1受容体療法に非応答性であることが見出される場合、治療前に、対象を除外するために使用することができる。多型は、Sigma-1受容体アゴニストで治療される場合、治療前に、対象が毒性を発生するかを判定するために使用することができる。加えて、本方法は、Sigma-1受容体アゴニストでの治療が対象において中止されるべきか、またはいつ中止されるべきかを判定するために使用することができる。加えて、本方法は、物質中止治療に対する対象の応答を評価する際に使用することができる。
【0033】
本方法は、対象における多型の存在を検出することと、対象がSigma-1受容体療法の候補であるかを判定することと、を含む。本方法はまた、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する1つ以上の遺伝子からのRNAの発現のレベルを判定することを含み得る。多型、Sigma-1受容体療法に対する応答の変化に関連する遺伝子、多型を検出する方法、およびRNA発現のレベルを判定する方法は、セクションIに記載される通りであり得、多型を検出する方法は、セクションIIに記載される通りであり得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「応答性」という用語は、Sigma-1受容体アゴニストで治療される場合、ポジティブな転帰を経験する任意の対象を説明するために使用され得る。Sigma-1受容体療法に対する対象の応答性を判定する方法は、他の変数の中で、状態または疾患、対象、治療プロトコルに応じて様々であり得、様々であり、実験的に判定され得る。応答性は、疾患または状態について当業者によって適切とみなされる任意の時点で判定され得る。例えば、治療転帰は、治療の開始後約57週間、約148週間、または約208週間で判定され得る。
【0035】
治療がアルツハイマー病(AD)のために使用される場合、ポジティブな転帰は、デルタまたはスロープMMSE(ミニメンタルステート検査)またはADCS-ADL(アルツハイマー病共同試験-日常生活動作)によって測定される通りであり得る。応答性対象は、正または無のMMSEおよび/またはADCS-ASLスロープを有することによって特徴付けられるが、非応答性対象は、負MMSEおよび/またはADCS-ASLスロープを有することによって特徴付けられる。応答性対象はまた、高いMMSEおよび/またはADCS-ASLデルタを有することによって特徴付けられるが、非応答性対象は、低いMMSEおよび/またはADCS-ASLデルタを有することによって特徴付けられる。低いMMSEデルタは、約-9~約-6、約-6~約-2、または約-9~約-2の範囲であり得るが、高いMMSEデルタは、約-6~-2、または約-2~約6の範囲であり得る。デルタまたはスロープMMSEまたはADCS-ADLを判定する方法は、本明細書において例に記載される通りであり得る。
【0036】
いくつかの態様において、本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択するために使用される。本方法は、少なくとも1つの多型の存在を判定する対象からの生体試料の試験の結果を得ることと、多型が対象に存在する場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含む。代替的に、多型が対象に存在しない場合、対象は、療法に応答性として含まれ得る。一態様において、多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の態様において、多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。多型の存在は、核酸配列を評価することによって得ることができる。
【0037】
他の態様において、本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択するために使用される。本方法は、多型を含む遺伝子座を配列決定することによって、少なくとも1つの多型が対象から得られる生体試料において遺伝子座に存在するかを検出することと、多型が対象に存在する場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含む。代替的に、多型が対象に存在しない場合、対象は、療法に応答性として含まれ得る。一態様において、多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の態様において、多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。多型の存在は、核酸配列を評価することによって検出することができる。
【0038】
他の態様において、本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択するために使用される。本方法は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定する、対象からの生体試料の試験の結果を得ることと、RNAのレベルが、Sigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルとは実質的に異なる場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含む。代替的に、RNAのレベルがSigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルと実質的に類似する場合、対象は、療法に応答性として含むことができる。一態様において、SIGMAR1、COMT、KANSL1、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルが判定される。
【0039】
いくつかの態様において、本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択するために使用される。本方法は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定する、対象からの生体試料の試験においてRNA発現を検出することを含む。本方法は、RNAのレベルがSigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルとは実質的に異なる場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することを含む。代替的に、本方法は、RNAのレベルがSigma-1受容体療法に応答性である対象におけるRNAのレベルと実質的に類似する場合、対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に応答性として識別することを含む。一態様において、SIGMAR1、COMT、KANSL1、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルが判定される。
【0040】
いくつかの態様において、本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象を治療するために使用される。本方法は、少なくとも1つの多型の存在を判定する、対象からの生体試料の試験の結果を得ることを含む。多型が対象に存在しない場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストが対象に投与される。代替的に、多型が対象に存在する場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストの代替物が対象に投与される。一態様において、多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の態様において、多型は、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。多型の存在は、核酸配列を評価することによって得ることができる。
【0041】
他の態様において、本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象を治療するために使用される。本方法は、SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定する、対象からの生体試料の試験の結果を得ることを含む。試験試料におけるRNAのレベルが、Sigma-1受容体療法に応答性である対象から得られるRNAのレベルとは実質的に類似する場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストが対象に投与される。代替的に、試験試料におけるRNAのレベルが、Sigma-1受容体療法に応答性である対象から得られるRNAのレベルと実質的に異なる場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストの代替物が対象に投与される。別の態様において、SIGMAR1、COMT、KANSL1、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルが判定される。
【0042】
対象は2個以上の多型を有し得ることが認識されるであろう。例えば、対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の多型を有し得る。いくつかの態様において、対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の多型を有する。他の態様において、対象は、1、2、3、4、または5個の多型を有する。さらに他の態様において、対象は、1、2、または3個の多型を有する。
【0043】
IV.Sigma-1受容体アゴニストを必要とする対象の治療
Sig-1R発現または活性は、神経変性と関連し、Sig-1Rの活性化は、ヒト対象ならびに異なるインビトロおよびインビボモデルにおける神経保護と関連付けられる。したがって、本開示の一態様は、対象におけるニューロン系に主に影響を及ぼす任意のSigma-1受容体関連疾患または状態の治療を包含する。そのような状態は、神経発達および神経変性疾患および状態として様々に知られている状態を含み、神経保護のために使用され得る。神経変性疾患の非限定的な例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症などの運動ニューロン病(MND)、脊髄小脳失調症(SCA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、認知症、自閉症スペクトラム障害、脳性麻痺、レット症候群、エンジェルマン症候群、ウィリアムズ症候群、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)、多発性硬化症、小児期崩壊性障害、脆弱X、乳児痙攣およびスミス-マゲニス症候群、統合失調症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、ならびに脳卒中、外傷性脳損傷、および脊髄損傷に起因する損傷などの任意のニューロン損傷が挙げられる。
【0044】
SIGMAR1は、癌治療のための標的としても有用である。そのようなものとして、本開示の一態様は、任意のSigma-1受容体関連癌または腫瘍の治療を包含する。当業者によって認識されるように、本開示を通して使用される癌とは、1つ以上の腫瘍または癌であり得る。腫瘍は、悪性または良性であり得、癌は、原発性または転移性であり得、腫瘍または癌は、早期または後期であり得る。治療され得る腫瘍または癌の非限定的な例としては、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、AIDS関連癌、AIDS関連リンパ腫、肛門癌、盲腸癌、星状細胞腫(小児小脳または大脳)、基底細胞癌、胆汁管癌、膀胱癌、骨癌、脳幹神経膠腫、脳腫瘍(小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、表皮腫、髄芽細胞腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、視経路、および視床下部神経膠腫)、乳癌、気管支腺腫/癌、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍(小児、胃腸癌)、原発不明癌、中枢神経系リンパ腫(原発性)、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸癌、小児癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性障害、結腸癌、皮膚T細胞リンパ腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、子宮内膜癌、腎盂腫、食道癌、腫瘍のユーイングファミリーにおけるユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍(小児)、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、眼癌(眼内黒色腫、網膜芽細胞腫)、胆嚢癌、胃(胃)癌、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸間質腫瘍、生殖細胞腫瘍(小児頭蓋外、性腺外、卵巣)、妊娠性絨毛性腫瘍、神経膠腫(成人、小児脳幹、小児大脳星状細胞腫、小児視覚経路および視床下部)、胃カルチノイド、有毛細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞(肝臓)癌、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、視床下部および視経路神経膠腫(小児)、眼内黒色腫、島細胞癌、カポジ肉腫、腎臓癌(腎細胞癌)、喉頭癌、白血病(急性リンパ芽球性、急性骨髄性、慢性リンパ球性、慢性骨髄性、有毛細胞)、口唇癌および口腔癌、肝臓癌(原発性)、肺癌(非小細胞、小細胞)、リンパ腫(AIDS関連、バーキット、皮膚T細胞、ホジキン、非ホジキン、原発性中枢神経系)、マクログロブリン血症(ワルデンストレーム)、骨/骨肉腫の悪性線維組織球腫、髄芽細胞腫(小児)、黒色腫、眼内黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫(成人悪性、小児)、潜在性原発転移性頸部扁平上皮癌、口腔癌、多発性内分泌腫瘍症候群(小児)、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性白血病(慢性)、骨髄性白血病(成人急性、小児急性)、多発性骨髄腫、骨髄増殖性障害(慢性)、鼻腔および副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、口腔癌、口腔咽頭癌、骨肉腫/骨の悪性線維組織球腫、卵巣癌、卵巣上皮癌(表面上皮-間質腫瘍)、卵巣生殖細胞腫瘍、卵巣低悪性潜在腫瘍、膵臓癌、膵臓癌(島細胞)、副鼻腔および鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、褐色細胞腫、松果星細胞腫、松果胚細胞腫、松果体芽腫およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍(小児)、下垂体腺腫、形質細胞腫瘍、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系リンパ腫、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌(腎臓癌)、腎盂および尿管移行細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫(小児)、唾液腺癌、肉腫(腫瘍のユーイングファミリー、カポジ、軟組織、子宮)、セザリー症候群、皮膚癌(非黒色腫、黒色腫)、皮膚癌(メルケル細胞)、小細胞肺癌、小腸癌、軟組織肉腫、扁平上皮癌、潜在性原発(転移性)頸部扁平上皮癌、胃癌、テント上原始神経外胚葉性腫瘍(小児)、T細胞リンパ腫(皮膚)、睾丸癌、咽頭癌、甲状腺腫(小児)、甲状腺腫および甲状腺癌、甲状腺癌、甲状腺癌(小児)、腎盂および尿管の移行上皮癌、絨毛性腫瘍(妊娠性)、原発不明部位(成人、小児)、尿管および腎盂移行上皮癌、尿道癌、子宮癌(子宮内膜)、子宮肉腫、膣癌、視経路および視床下部神経膠腫(小児)、外陰癌、ワルデンストレームマクログロブリン血症、ならびにウィルムス腫瘍(小児)が挙げられる。
【0045】
本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象が療法に非応答性であると判定される場合、治療有効量の、Sigma-1受容体アゴニストの代替物を投与することを含む。Sigma-1受容体アゴニストの代替物の非限定的な例としては、ガランタミン、メマンチン、およびリバスチグミンが挙げられる。
【0046】
本方法は、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象が療法に応答性であると判定される場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストを投与することを含む。Sigma-1受容体アゴニストは、Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象を治療することができる任意の治療剤または活性剤であり得る。例えば、受容体アゴニストは、抗体もしくはペプチドなどの生体化合物、または小分子活性剤であり得る。Sigma-1受容体アゴニストの非限定的な例としては、エンタカポン、ネビカポン、ニテカポン、オピカポン、トルカポン、テトラヒドロ-N,N-ジメチル-2,2-ジフェニル-3-フランメタンアミン塩酸塩(ANAVEX2-73、AV2-73、またはA2-73)、1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロフラン-3-イル)-N-メチルメタンアミン塩酸塩(ANAVEX19-144、またはA19-144)、アミノテトラヒドロフラン誘導体テトラヒドロ-N,N-ジメチル-5,5-ジフェニル-3-フランメタンアミン塩酸塩(ANAVEX1-41)、1-(3-4(((1R,3S,5S)-アダマンタン-1-イル)(フェニル)メチル)プロピル)-4-メチルピペラジン(ANAVEX(商標)1066または「AV1066」)、ANAVEX3-71(AF710Bとしても知られる)、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチン、L-687,384、およびこれらの組み合わせが挙げられる。Sigma-1受容体アゴニストはまた、抗体であり得る。
【0047】
一態様において、Sigma-1受容体アゴニストは、A2-73である。アゴニストがA2-73である場合、A2-73の治療有効量は、約0.5mg~約20mg、約1mg~約60mg、約30mg~約50mg、または約3mg~約5mgの範囲であり得る。A2-73の治療有効量は、約0.5mg/日~約100mg/日、約1~約60mg/日、約20~約50mg/日、約20~約30mg/日、または約15~約25mg/日の範囲であり得る。抗神経変性有効量のA2-73を投与することは、約10ng/ml、約12ng/mlのA2-73の血液レベルを提供することができる。
【0048】
A2-73は、対象に1日1回、または1日1回以上投与され得る。さらに、A2-73は、2日、3日、4日、5日、6日、7日、14日、または30日毎に投与され得る。A2-73は、約1日~約1年、約1日~約1週間、約3日~約1か月、約2週間~約6か月、または約2か月~約4か月の範囲の期間にわたって投与され得る。A2-73はまた、約1日、約7日、約30日、約60日、約120日、または約180日以上の期間にわたって投与され得る。いくつかの態様において、A2-73は、約57週間、約148週間、約208週間、無期限、または治療される状態の解消までの期間にわたって投与される。
【0049】
A2-73を投与する他の方法は、例えば、米国特許第9750746号、米国特許公開第2017/0360798号、米国特許公開第2019/0022052号、米国特許公開第2018/0360796号、米国特許公開第2018/0169059号、米国特許公開第2018/0177756号、米国特許公開第2018/0169060号、および米国特許公開第2019/0117615号に見出すことができ、これらの開示は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0050】
V.薬学的製剤
本開示の一態様は、Sigma-1受容体アゴニストの診断および送達のための薬学的製剤を包含する。薬学的製剤は、治療有効量のアゴニストおよびその任意の薬学的に許容される塩を含む。
【0051】
式(II)または(IIa)を含む化合物の薬学的に許容される塩としては、限定なしに、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、重酒石酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、次亜リン酸塩、イソ酪酸塩、イソクエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メコン酸塩、メチル臭化物、メタンスルホン酸塩、一水和物、ムチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、プロピオン酸塩、ピルビン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テレフタル酸塩、吉草酸塩などが挙げられる。
【0052】
Sigma-1受容体アゴニストがA2-73である場合、製剤は、約1mg~約50g、約0.1~約5g、約0.5g~約3g、約1mg~約55mg、約40mg~約60mg、約80mg~約120mg、約180mg~約220mg、約0.1g~約5g、または約0.5g~約3gのA2-73を含み得る。A2-73を含む製剤は、例えば、米国特許第9750746号、米国特許公開第2017/0360798号、米国特許公開第2019/0022052号、米国特許公開第2018/0360796号、米国特許公開第2018/0169059号、米国特許公開第2018/0177756号、米国特許公開第2018/0169060号、および米国特許公開第2019/0117615号に見出すことができ、これらの開示は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0053】
Sigma-1受容体アゴニストは、いくつかの異なる手段によって製剤化され、対象に投与され得る。例えば、組成物は、一般に、所望に応じて従来の非毒性の薬学的に許容されるアジュバント、担体、賦形剤、およびビヒクルを含有する投与単位製剤において非経口、腹腔内、血管内、経皮、皮下、または肺内投与され得る。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、髄腔内、または胸骨内注射、または注入技法を含む。薬学的組成物の製剤化は、例えば、Hoover,John E.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.(1975)、およびLiberman,H.A.and Lachman,L.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.(1980)において考察有れている。
【0054】
薬学的製剤は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む。賦形剤の非限定的な例としては、化学増強剤、湿潤剤、感圧接着剤、抗酸化剤、可溶化剤、増粘剤、可塑剤、アジュバント、担体、賦形剤、ビヒクル、コーティング、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。1つ以上の賦形剤は、経口、経皮、非経口、腹腔内、血管内、皮下、吸入スプレーによる、直腸、または肺内投与用に選択され得る。
【0055】
Sigma-1受容体アゴニストは、一般に、患者コンプライアンスを改善し、対象が薬物送達デバイスを除去するのを防止するために製剤化され得る。例えば、Sigma-1受容体アゴニストは、延長送達のための製剤を提供することによって、患者コンプライアンスの改善および薬物送達デバイスの除去の防止のために製剤化され得る。延期送達は、1日超~数か月の範囲の期間であり得る。これは、認知および/または運動制御能力が損なわれた患者に特に関連し得る。期間についての延長送達は、約1日~約1年、約1日~約1週間、約3日~約1か月、約2週間~約6か月、または約2か月~約4か月の範囲であり得る。
【0056】
延長放出製剤は、事前選択された速度で薬物の実質的に連続的な送達のために使用され得る。例えば、結晶性A2-73について、薬物は、約1mg~約100mg/日、約40~約60gm/日、または約10~約30gm/日の速度で送達され得る。適切な量の結晶性A2-73は、例えば、他の要因の中でも特に、延長放出製剤による薬物の意図される持続期間、送達機構、特定の製剤、および薬物の相対的効力に基づいて、当業者によって容易に判定され得る。
【0057】
i.結合剤
様々な態様の製剤に好適な結合剤の非限定的な例としては、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルオキソアゾリドン、ポリビニルアルコール、C12-C18脂肪酸アルコール、ポリエチレングリコール、ポリオール、糖類、オリゴ糖、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ポリペプチドは、約100~約300,000ダルトンの範囲のアミノ酸の任意の配列であり得る。
【0058】
結合剤は、限定されないが、結晶、粒子、粉末、または当該技術分野で知られている任意の他の微細に分割された固体形態を含む、固体形態で造粒される混合物中に導入され得る。代替的に、結合剤は、溶媒中に溶解または懸濁させ、造粒中に結合剤流体として造粒デバイス中の混合物上にスプレーされ得る。
【0059】
ii.希釈剤
希釈剤(「充填剤」または「薄め液」とも称される)の非限定的な例としては、炭水化物、無機化合物、およびポリビニルピロリドン(PVP)などの生体適合性ポリマーが挙げられる。希釈剤の他の非限定的な例としては、硫酸二塩基カルシウム、硫酸三塩基カルシウム、デンプン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、微結晶セルロース、リン酸二塩基カルシウム、リン酸三塩基カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、タルク、改変デンプン、スクロース、デキストロース、ラクトース、微結晶セルロース、フルクトース、キシリトール、およびソルビトールなどの糖類、多価アルコール、デンプン、事前に製造された直接圧縮希釈剤、ならびに前述のうちのいずれかの混合物が挙げられる。
【0060】
iii.崩壊剤
崩壊剤は、発泡性であり得るか、または非発泡性であり得る。非発泡性崩壊剤の非限定的な例としては、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、これらのアルファ化および改変デンプンなどのデンプン、甘味料、ベントナイトなどの粘土、微結晶セルロース、アルギン酸塩、デンプングリコール酸ナトリウム、寒天、グアー、イナゴマメ、カラヤ、ペシチン、およびトラガカントなどのガムが挙げられる。好適な発泡性崩壊剤としては、限定されないが、クエン酸と組み合わせた重炭酸ナトリウム、および酒石酸と組み合わせた重炭酸ナトリウムが挙げられる。
【0061】
iv.防腐剤
防腐剤の非限定的な例としては、限定されないが、アスコルビン酸およびその塩、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、アノキソマー、N-アセチルシステイン、イソチオシアネートベンジル、m-アミノベンゾン酸、o-アミノベンゾン酸、p-アミノベンゾン酸(PABA)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、カフェイン酸、カンタキサンチン、アルファ-カロテン、ベータ-カロテン、ベータ-カロテン、ベータ-アポカロテン酸、カルノゾール、カルバクロール、カテキン、没食子酸セチル、クロロゲン酸、クエン酸およびその塩、クローブ抽出物、コーヒーマメ抽出物、p-クマル酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)、ジラウリルチオジプロピオン酸塩、ジステアリルチオジプロピオン酸塩、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、没食子酸ドデシル、エデト酸、エラギン酸、エリソルビン酸、エリソルベートナトリウム、エスクレチン、エスクリン、6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、没食子酸エチル、エチルマルトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ユーカリ抽出物、ユーゲノール、フェルリン酸、フラボノイド(例えば、カテキン、エピカテキン、没食子酸エピカテキン、エピガロカテキン(EGC)、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、ポリフェノールエピガロカテキン-3-没食子酸塩)、フラボン(例えば、アピゲニン、クリシン、ルテオリン)、フラボノール(例えば、ダチセチン、ミリセチン、デンフェロ)、フラバノン、フラキセチン、フマル酸、ガル酸、リンドウ抽出物、グルコン酸、グリシン、ガムユソウボク(gum guaiacum)、ヘスペレチン、アルファ-ヒドロキシベンジルホスフィン酸、ヒドロキシケイ皮酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキノン、N-ヒドロキシコハク酸、ヒドロキシトリロゾール、ヒドロキシ尿素、米糠抽出物、乳酸およびその塩、レシチン、クエン酸レシチン、R-α-リポ酸、ルテイン、リコペン、リンゴ酸、マルトール、5-メトキシトリプタミン、没食子酸メチル、クエン酸モノグリセリド、クエン酸モノイソプロピル、モリン、ベータ-ナフトフラボン、ノルジヒドログアレチン酸(NDGA)、没食子酸オクチル、シュウ酸、クエン酸パルミチル、フェノチアジン、ホスファチジルコリン、リン酸、リン酸塩、フィチン酸、フィチルビクロメル、ピメント抽出物、没食子酸プロピル、ポリリン酸塩、ケルセチン、トランスレスベラトロール、ローズマリー抽出物、ロスマリン酸、セージ抽出物、セサモール、シリマリン、シナピン酸、コハク酸、クエン酸ステアリル、シリンジ酸、酒石酸、チモール、トコフェロール(すなわち、アルファ-、ベータ-、ガンマ-、およびデルタ-トコフェロール)、トコトリエノール(すなわち、アルファ-、ベータ-、ガンマ-、およびデルタ-トコトリエノール)、チロゾール、バニリン酸、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール(すなわち、Ionox100)、2,4-(トリス-3’,5’-ビ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-メシチレン(すなわち、Ionox330)、2,4,5-トリヒドロキシブチロフェノン、ユビキノン、三級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、チオジプロピオン酸、トリヒドロキシブチロフェノン、トリプタミン、チラミン、尿酸、ビタミンKおよび誘導体、ビタミンQ10、小麦胚芽油、ゼアキサンチン、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0062】
v.香味改変剤
好適な香味改変剤としては、香料、矯味剤、甘味料などが挙げられる。香料には、限定されないが、合成香味油、香味芳香族、および/または天然油、植物、葉、花、果物からの抽出物、ならびにこれらの組み合わせが含まれる。香味の他の非限定的な例としては、シナモン油、ウィンターグリーンの油、ペパーミント油、クローバー油、干し草油、アニス油、ユーカリ、バニラ、レモン油、オレンジ油、グレープおよびグレープフルーツ油などのシトラス油、リンゴ、モモ、ナシ、イチゴ、ラズベリー、チェリー、プラム、パイナップル、およびアプリコットを含む果実精油が挙げられる。
【0063】
矯味剤としては、限定されないが、Klucel(登録商標)、Nisswo HPC、およびPrimaFlo HP22などのセルロースヒドロキシプロピルエーテル(HPC)、低置換ヒドロキシプロピルエーテル(L-HPC)、Seppifilm-LC、Pharmacoat(登録商標)、Metolose SR、Opadry YS、PrimaFlo、MP3295A、Benecel MP824、およびBenecel MP843などのセルロースヒドロキシプロピルメチルエーテル(HPMC)、Methocel(登録商標)およびMetolose(登録商標)などのメチルセルロースポリマー、E461、Ethocel(登録商標)、Aqualon(登録商標)-EC、Sureleaseなどのエチルセルロース(EC)およびこれらの混合物、Opadry AMBなどのポリビニルアルコール(PVA)、Natrosol(登録商標)などのヒドロキシエチルセルロース、Aualon(登録商標)-CMCなどのカルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースの塩(CMC)、Kollicoat IR(登録商標)などのポリビニルアルコールおよびポリエチルグリコールコポリマー、モノグリセリド(Myverol)、トリグリセリド(KLX)、ポリエチレングリコール、改変食品用デンプン、Eudragit(登録商標)EPO、Eudragit(登録商標)RD100、およびEudragit(登録商標)E100などのアクリルポリマーおよびアクリルポリマーのセルロースエーテルとの混合物、酢酸フタル酸セルロース、HPMCおよびステアリン酸の混合物などのセピフィルム、シクロデキストリン、ならびにこれらの材料の混合物が挙げられる。他の態様において、企図される追加の矯味剤は、米国特許第4,851,226号、同第5,075,114号、および同第5,876,759号に記載されるものであり、これらの各々は、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
甘味料の非限定的な例としては、グルコース(コーンシロップ)、デキストロース、転化糖、フルクトース、およびこれらの混合物(担体として使用されない場合)、サッカリンおよびナトリウムエンなどのその種々の塩、アスパルテームなどのジペプチド甘味料、ジヒドロカルコン化合物、グリチルリジン、Stevia rebaudiana(ステビオシド)、スクラロースなどのスクロースのクロロ誘導体、ソルビトール、マンニトール、シリトールなどの糖アルコール、水素化デンプン加水分解物、および合成甘味料3,6-ジヒドロ-6-メチル-1,2,3-オキサチアジン-4-オン-2,2-二酸化物、特に、カリウム塩(アセスルファム-K)、ならびにこれらのナトリウム塩およびカルシウム塩が挙げられる。
【0065】
vi.潤滑剤および流動促進剤
潤滑剤組成物は、薬学的組成物を形成する成分を潤滑するために利用され得る。流動促進剤として、潤滑剤は、製造プロセス中の固体剤形の除去を促進する。潤滑剤および流動促進剤の非限定的な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、水素化植物油、ステロテックス、ポリオキシエチレンモノステアリン酸塩、タルク、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、および軽鉱油が挙げられる。薬学的組成物は、一般的に、約0.01重量%~約10重量%の潤滑剤を含むであろう。いくつかの態様において、薬学的組成物は、約0.1重量%~約5重量%の潤滑剤を含むであろう。さらなる態様において、薬学的組成物は、約0.5重量%~約2重量%の潤滑剤を含むであろう。
【0066】
vii.分散剤
分散剤は、限定されないが、デンプン、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、グアーガム、カオリン、ベントナイト、精製木質セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、同形ケイ酸塩、および高親水性親油性バランス(HLB)乳化剤界面活性剤としての微結晶セルロースを含み得る。
【0067】
viii.着色剤
本開示の態様に応じて、着色剤を含めることが望ましい場合がある。好適な色添加剤としては、限定されないが、食品、薬物、および化粧品の色(FD&C)、薬物および化粧品の色(D&C)、または外部薬物および化粧品の色(Ext.D&C)が挙げられる。これらの色または染料は、それらの対応するレーキ、ならびに特定の天然および由来の着色剤とともに、本開示の様々な態様での使用に好適であり得る。
【0068】
ix.pH改変剤
pH改変剤の非限定的な例としては、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、リン酸、ソルビン酸、安息香酸、炭酸ナトリウム、および重炭酸ナトリウムが挙げられる。
【0069】
x.キレート剤
キレート剤は、これらの酸化基によるモルフィナンの酸化分解を阻害するために、限定されないが、金属イオンを含む酸化基を固定化するための賦形剤として含まれ得る。キレート剤の非限定的な例としては、リジン、メチオニン、グリシン、グルコン酸塩、多糖類、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(NaEDTA)が挙げられる。
【0070】
xi.抗菌剤
抗菌剤は、限定されないが、細菌および真菌を含む微生物剤による本開示による化合物の分解を最小限に抑えるための賦形剤として含まれ得る。抗菌剤の非限定的な例としては、パラベン、クロロブタノール、フェノール、プロピオン酸カルシウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、NaEDTA、および限定されないが、二酸化硫黄、亜硫酸水素ナトリウム、および亜硫酸水素カリウムを含む亜硫酸塩が挙げられる。
【0071】
xii.放出制御ポリマー
放出制御ポリマーは、本開示による化合物を組み込む様々な態様の固体投与薬学的組成物に含まれ得る。一態様において、放出制御ポリマーは、錠剤コーティングとして使用され得る。限定されないが、二層錠剤を含む他の態様において、放出制御ポリマーは、限定されないが、錠剤鋳型での圧縮を含む既知のプロセスによって錠剤を形成する前に、顆粒および他の賦形剤と混合され得る。好適な放出制御ポリマーとしては、限定されないが、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーが挙げられる。
【0072】
好適な親水性放出制御ポリマーとしては、限定されないが、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、セルロースエーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、ニトロセルロース、架橋デンプン、寒天、カゼイン、キチン、コラーゲン、ゼラチン、マルトース、マンニトール、マルトデキストリン、ペクチン、プルラン、ソルビトール、キシリトール、多糖類、アルギン酸アンモニア、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カラゲナン、フコイダン、ファーセレラン、アラビアガム、カラギーンガム、ガティガム、グアーガム、カラヤガム、イナゴマメガム、オクラガム、トラガカントガム、スクレログルカンガム、キサンタンガム、hypnea、ラミナラン、アクリルポリマー、アクリレートポリマー、カルボキシビニルポリマー、無水マレイン酸およびスチレンのコポリマー、無水マレイン酸およびエチレンのコポリマー、無水マレイン酸プロピレンのコポリマーもしくは無水マレイン酸イソブチレンのコポリマー)、架橋ポリビニルアルコールおよびポリN-ビニル-2-ピロリドン、ポリグルカンのジエステル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、アニオン性およびカチオン性ヒドロゲル、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0073】
xiii.コーティング
本開示による化合物を含む固体投与量は、コーティングを含み得、そのようなコーティングは、化合物の放出を制御し得るか、水分バリアもしくは緩衝液として機能し得るか、またはpHを改変し得る。本明細書で使用される場合、「制御放出コーティング(control releasing coat)」または「制御放出コーティング(controlled release coat)」は、例えば、少なくとも1つのpH非依存性ポリマー、pH依存性ポリマー(例えば、腸溶性または逆腸溶性型ポリマー)、可溶性ポリマー、不溶性ポリマー、脂質、脂質材料、またはこれらの組み合わせを含み得る機能性コーティングを意味するように定義される。コーティングは、剤形上に適用される場合、(例えば、正常放出マトリックス剤形に適用される場合)遅く、(例えば、制御放出マトリックス剤形に適用される場合)さらに遅く、またはコーティングされていない剤形に適用される場合、本開示による化合物の放出速度を改変し得る。例えば、制御放出コーティングは、制御放出コーティングが剤形に適用される場合、制御放出コーティングと併せた剤形が、「改変放出」、「制御放出」、「持続放出」、「延長放出」、「遅延放出」、「長期放出」、またはこれらの組み合わせなどの本開示による化合物の放出を示し得るように設計され得る。「制御放出コーティング」は、任意選択的に、制御放出コーティングの機能を変化させ得る追加の材料を含み得る。
【0074】
本明細書で使用される場合、「水分バリア」という用語は、水分の吸収を阻害または遅延させるものである。本開示による化合物は、吸湿性であり得、このため、高湿度条件下で経時的に分解されやすい場合がある。水分バリアの構成要素の割合、および任意選択的に制御放出コーティング上に、またはコア上に適用される水分バリアの量は、典型的には、水分バリアがUSP定義および腸溶性コーティングの要件内に該当しないようなものである。好適には、水分バリアは、腸溶性および/またはアクリルポリマー、好適には、アクリルポリマー、任意選択的に、可塑剤、ならびに透過促進剤を含み得る。浸透促進剤は、親水性物質であり、コーティングを物理的に破壊することなく水が入ることを可能にする。水分バリアは、追加的に、他の従来の不活性賦形剤をさらに含み得、これは、延長放出製剤の処理を改善し得る。
【0075】
本発明に従って使用され得るコーティングおよびマトリックス材料は、ポリビニル型の合成ポリマー、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルおよびそのコポリマー、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドン;ポリエチレン型の合成ポリマー、例えば、ポリエチレンおよびポリスチレン;アクリル酸ポリマー;バイオポリマーまたは改変バイオポリマー、例えば、セルロースポリマー、シェラック、およびゼラチン;脂肪、油、高級脂肪酸、および高級アルコール(すなわち、少なくとも10個の炭素原子のアルキル鎖を含有する酸およびアルコール)、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、セチルアルコール、水素化牛脂、水素化ヒマシ油、12-ヒドロキシステアリルアルコール、モノまたはジパルミチン酸グリセリル;モノ、ジ、またはトリステアリン酸グリセリル;ミリスチルアルコール、ステアリン酸、ステアリルアルコール、およびポリエチレングリコール;ワックス;糖および糖アルコールなどの制御放出製剤における使用のための当該技術分野で知られているものである。
【0076】
コーティングのpH緩衝特性は、制酸製剤において通常使用される化合物の群、例えば、酸化、水酸化、もしくは炭酸マグネシウム、水酸化、炭酸、もしくはケイ酸アルミニウムもしくはカルシウム;複合アルミニウム/マグネシウム化合物、例えば、Al・6MgO・CO・12HO、(MgAl(OH)16CO・4HO)、MgO・Al・2SiO.nHO、重炭酸アルミニウム共沈物、もしくは類似する化合物;または他の薬学的に許容されるpH緩衝化合物、例えば、リン酸、炭酸、クエン酸、もしくは他の好適な弱酸、無機酸、もしくは有機酸のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウム塩;または塩基性アミノ酸を含む、好適な有機塩基;ならびに塩もしくはこれらの組み合わせから選択されるコーティング物質中に導入することによって強化され得る。
【0077】
pH依存性コーティングは、胃腸(GI)管の所望の領域、例えば、胃または小腸において薬物を放出する機能を果たす。pH非依存性コーティングが所望される場合、コーティングは、環境流体、例えば、GI管中のpH変化に関係なく、最適な放出を達成するように設計される。コーティングが腸(特に、上部小腸)中に本開示による化合物を放出するように製剤化される場合、コーティングは、しばしば、「腸溶性コーティング」と呼ばれる。pH依存性コーティングは、限定されないが、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルアクリレート、アンモニオメチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、および/またはエチルメタクリレート(例えば、Eudragit(商標))から形成されるポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、トリメリト酸酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルフタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルコハク酸セルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースコハク酸およびカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロースポリマー、シェラック(精製ラック)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリ酢酸ビニル(PVAP)、酢酸ビニルクロリン酸コポリマー、および酢酸エチレン-ビニルコポリマーなどのビニルポリマーおよびコポリマー、ゼイン、ならびに塩およびこれらの組み合わせを含み得る。
【0078】
VI.剤形
本開示の一態様は、Sigma-1受容体アゴニストの剤形を包含する。アゴニストがA2-73である場合、剤形は、約1mg~約50g、約1mg~約500mg、約1mg~約100mg、約1mg~約500mg、約50~約400mg、約75~約150mg、約150~約200mg、約40mg~約60mg、約80mg~約120mg、または約180mg~約220mgのA2-73を含み得る。例えば、剤形は、1、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、または300mg以上のA2-73を含み得る。いくつかの態様において、剤形は、約1mg~約500mg、または約1mg~約100mgのA2-73を含み得る。
【0079】
剤形は、延長または持続放出のために製剤化されるもの、および即時放出のために製剤化されるものを含む。例えば、即時放出剤形は、本明細書に開示されるように、遊離塩基またはA2-73塩としてのA2-73の結晶形態を含み得る。例えば、高速分解経口剤形は、例えば、HCl塩などのA2-73塩を含み得る。代替的に、剤形は、乾燥粉末またはエアロゾルスプレーのいずれかとしての、吸入薬物送達のために製剤化された遊離塩基またはA2-73塩としてのA2-73の結晶形態を含み得る。
【0080】
剤形はまた、局所投与用に製剤化されるものを含む。例えば、剤形は、ゲル、軟膏、エマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、ペースト、ゲル、フォーム、スプレー、ローション、またはクリームのうちの1つ以上として製剤化され得る。一態様において、局所投与剤形は、経皮パッチである。剤形が経皮パッチとして製剤化される場合、経皮パッチは、約40mg~約60mg、約80mg~約120mg、または約180mg~約220mgのA2-73遊離塩基を結晶形態で含有し得る。
【0081】
剤形は、代替的に、経口投与用に製剤化され得る。経口投与用に製剤化された剤形は、水中または舌下で飲み込む、噛む、または溶解する錠剤、カプセルおよびチュアブルカプセル、粉末、顆粒、茶剤、滴薬、または液体薬剤もしくはシロップであり得る。いくつかの態様において、剤形は、腸溶性コーティング経口製剤である。
【0082】
剤形が腸溶性コーティング経口製剤である場合、製剤は、約0.1mg~約60mgのA2-73遊離塩基、好ましくは、約1mg~約50mgのA2-73遊離塩基を含み得る。
【0083】
腸溶性コーティング経口製剤はまた、結晶形態のA2-73塩を含有し得る。A2-73塩は、フマル酸塩、硫酸塩、メシル酸塩、リン酸二水素塩、エジシル酸塩、安息香酸塩、塩酸塩、およびシュウ酸塩であり得る。一態様において、A2-73塩は、フマル酸塩である。A2-73塩がフマル酸塩である場合、腸溶性コーティング経口製剤は、約0.1~約100mgのA2-73フマル酸塩、好ましくは、約1mg~約55mgのA2-73フマル酸塩を含み得る。
【0084】
剤形はまた、皮下および/または筋肉内注射のために製剤化されるものを包含する。例えば、筋肉内剤形は、筋肉内注射のための油マトリックスに溶解されるか、または代替的に、筋肉内注射のための遊離塩基の懸濁液として調製される、遊離塩基形態のA2-73を含み得る。皮下または筋肉内注射のために製剤化される剤形は、当該技術分野で既知の方法を使用してマイクロスフェアとして調製される、本明細書に開示される塩または遊離塩基形態のA2-73を含み得る。代替的に、遊離塩基または塩形態のA2-73は、例えば、原子層堆積(ALD)技法を使用して、酸化亜鉛のコーティングなどの薄層コーティングでコーティングされ得、皮下または筋肉内注射のための製剤中で使用され得る。代替的に、A2-73遊離塩基は、生分解性ポリマーマトリックスに溶解され、次いで皮下移植され得る(または、以下でさらに詳述される経皮パッチで使用され得る)。
【0085】
VII.キット
本開示のさらなる態様は、本開示の方法とともに使用するための1つ以上の試薬を含むキットを提供する。キットは、細胞増殖培地、選択培地、核酸配列決定および精製試薬、タンパク質精製試薬、緩衝液などを含み得る。本明細書に提供されるキットは、一般に、以下に詳述される方法を実施するための指示を含む。キットに含まれる指示は、包装材料に貼付され得るか、または添付文書として含まれ得る。指示は、典型的には、書面または印刷材料であるが、そのようなものに限定されない。そのような指示を記憶し、それらをエンドユーザーに伝達することができる任意の媒体は、本開示によって企図される。そのような媒体としては、限定されないが、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)などが挙げられる。本明細書で使用される場合、「指示」という用語は、指示を提供するインターネットサイトのアドレスを含み得る。
【0086】
定義
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本発明で使用される用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する:Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed.1994)、The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988)、The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al.(eds.),Springer Verlag(1991)、およびHale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書で使用される場合、以下の用語は、別途指定されない限り、それらに帰属する意味を有する。
【0087】
本開示の要素またはその好ましい態様(複数可)を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」、および「said」は、要素のうちの1つ以上が存在することを意味することが意図される。「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」という用語は、包括的であることが意図され、列挙された要素以外の追加の要素が存在し得ることを意味する。
【0088】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記の細胞および方法において様々な変更を行うことができるため、上記の説明および以下に与えられる実施例に含有される全ての事項は、限定的な意味ではなく例示的であると解釈されるべきであることが意図される。
【0089】
「含む(comprising)」という用語は、「含むが、必ずしもこれらに限定されない」を意味し、具体的には、そのように記載された組み合わせ、群、シリーズなどへのオープンエンドの包含またはメンバーシップを示す。本明細書で使用される「含む(comprising)」および「含む(including)」という用語は、包含的かつ/またはオープンエンドであり、追加の、列挙されていない要素または方法プロセスを除外しない。「から本質的になる」という用語は、「含む」よりも限定的であるが、「からなる」ほど制限的ではない。具体的には、「から本質的になる」という用語は、特定の材料またはステップ、および特許請求される発明の本質的な特徴に実質的に影響を与えない材料またはステップにメンバーシップを限定する。
【0090】
本明細書で使用される場合、「発現」としては、これらに限定されないが、以下:遺伝子の前駆体mRNAへの転写;成熟mRNAを産生するための前駆体mRNAのスプライシングおよび他の処理;mRNA安定性;成熟mRNAのタンパク質への翻訳(コドン使用およびtRNA利用可能性を含む);ならびに適切な発現および機能のために必要な場合、翻訳産物のグリコシル化および/または他の修飾のうちの1つ以上が挙げられる。
【0091】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、発現を制御するプロモーター、エクソン、イントロン、および他の非翻訳領域を含む、RNA産物の調節された生合成のための全ての情報を含有するDNAのセグメントを意味する。
【0092】
本明細書で使用される場合、「遺伝子型」という用語は、個体において相同染色体対上の遺伝子座における1つ以上の多型部位で見出されるヌクレオチド対の非位相5’~3’配列を意味する。本明細書で使用される場合、遺伝子型は、完全遺伝子型および/または亜遺伝子型を含む。
【0093】
本明細書で使用される場合、「遺伝子座」(locusまたはgenetic locus)という用語は、互換的に使用され、遺伝子または身体的もしくは表現型特徴に対応する染色体またはDNA分子上の位置を指す。
【0094】
本明細書で使用される場合、「変異体」という用語は、変異、例えば、単一ヌクレオチド多型(「SNP」)および挿入/欠失の結果である、野生型からの任意の遺伝性変異を意味する。「変異体」という用語は、本明細書全体を通して「マーカー」、「バイオマーカー」、および「標的」という用語と互換的に使用される。
【0095】
本明細書で使用される場合、「医学的状態」という用語は、限定されないが、治療が望ましい1つ以上の身体的および/または心理的症状として現れる任意の状態または疾患を含み、以前におよび新たに識別された疾患ならびに他の障害を含む。
【0096】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオチド対」という用語は、個体からの染色体の2つのコピー上の多型部位で見出されるヌクレオチドを意味する。
【0097】
本明細書で使用される場合、「多型」、「多型バリアント」、および「多型部位」という用語は、互換的に使用され、少なくとも2つの代替配列が見出される遺伝子座内の位置を指す。遺伝子の多型バリアントは、異常発現またはタンパク質の異常形態の産生をもたらし得、この異常は、疾患を引き起こすか、または疾患に関連し得る。
【0098】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、非修飾または修飾RNAまたはDNAであり得る、任意のRNAまたはDNAを意味する。ポリヌクレオチドとしては、限定なしに、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、ならびに一本鎖であり得るか、またはより典型的には、二本鎖もしくは一本鎖および二本鎖領域の混合物であり得る、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が挙げられる。加えて、ポリヌクレオチドは、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。ポリヌクレオチドという用語はまた、1つ以上の修飾塩基を含有するDNAまたはRNA、および安定性のためにまたは他の理由で修飾された骨格を有するDNAまたはRNAを含む。
【0099】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合、すなわち、ペプチドイソスターによって互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含む任意のポリペプチドを意味する。ポリペプチドは、一般にペプチド、グリコペプチド、またはオリゴマーと称される短鎖、および一般にタンパク質と称される長鎖の両方を指す。ポリペプチドは、20個の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸を含有し得る。ポリペプチドは、翻訳後処理などの天然プロセス、または当該技術分野で周知の化学修飾技法のいずれかによって修飾されるアミノ酸配列を含む。そのような修飾は、基本的なテキストおよびより詳細なモノグラフ、ならびにボリュームのある研究文献において十分に記載されている。
【0100】
本明細書で使用される場合、「単一ヌクレオチド多型(SNP)」という用語は、2つの代替塩基がヒト集団においてかなりの頻度(すなわち、>1%)で生じる、ゲノムにおける単一位置でのヌクレオチド可変性を意味する。SNPは、遺伝子内またはゲノムの遺伝子間領域内で生じ得る。本発明によるSNPプローブは、SNPおよびその隣接核酸配列(複数可)に相補的なオリゴヌクレオチドである。
【0101】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、好ましくは、対象がヒトなどの哺乳動物であるが、動物、例えば、飼育動物(例えば、イヌ、ネコなど)、農場動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、および実験動物(例えば、カニクイザル、ラット、マウス、モルモットなど)でもあり得ることを意味する。
【0102】
本明細書で使用される場合、対象または患者への薬剤または薬物の投与は、自己投与および別の者による投与を含む。記載されるような医学的状態の様々な治療または予防様式は、完全治療または予防を含むが、完全治療または予防未満も含み、いくらかの生物学的または医学的に関連する結果が達成される、「実質的」を意味することが意図されることも理解されたい。
【実施例
【0103】
上で考察される刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書におけるいかなるものも、本発明が、先行発明のためにそのような開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0104】
以下の例は、本開示を実証するために含まれる。以下の例に開示される技法が、本開示の実施において良好に機能することが本発明者らによって発見された技法を表すことは、当業者によって理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、本開示において多くの変更を行うことができ、依然として同様または類似の結果を得ることができ、したがって、記載される全ての事項は例示的であり、限定的な意味ではないと解釈されるものであることを理解すべきである。
【0105】
実施例1.ANAVEX2-73の試験設計、安全性、および忍容性、ならびに患者特性。
SIGMAR1のアゴニストであるANAVEX2-73は、PETスキャンによって、その標的に直接結合し、マウスにおけるコリン作動性ムスカリン受容体を調節することが示されている。ADにおけるANAVEX2-73の臨床的可能性を、最初にマウスにおいて、続いて健常なボランティアにおける第1相試験および57週間第2a相AD試験によって評価した。この試験、57週間試験(図1a)は、軽度~中等度ADを有する32人の患者を登録し、安全性および忍容性のその主要エンドポイントを満たし(表1)、208週間試験(図1a)と称される208週間延長試験につながった。2つの試験に登録された患者を、有効性尺度として臨床記述子、身体検査、薬物動態、ならびにMMSEおよびADCS-ADLについてのデータの収集を含む、ベースラインおよび各訪問時に特徴付けた(図1bおよび表3)。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
実施例2.ゲノムバイオマーカーの識別。
患者の腫瘍のゲノム特徴付けは、疾患および治療応答のゲノムバイオマーカーを識別し、ランク付けするために、腫瘍学試験において日常的に行われる。遺伝子多型は、治療応答の変異、患者集団における治療応答の調節と関連付けられる。この試験では、全エクソーム配列決定(WES)および遺伝子発現分析(RNAseq)を延長試験に残っている21人の患者について109~135週目に行った(図1b)。有効性転帰尺度および導出された進行尺度を含む、縦断的臨床および他の患者特性と統合されたゲノムデータは、表現型および遺伝子型精密医療分析につながる(図1b、c)。
【0109】
患者観察規模が属性の数よりも小さい小コホートは、分析的課題を構成する。この試験では、KEMソフトウェア(v.3.6.2)に実装される、ガロア束に基づく、目的変数なしの形式概念分析法(FCA)を使用して、表現型および遺伝子型バイオマーカーを識別し、ランク付けした。この分析では、バイオマーカーと転帰との間の関連は想定されず、全ての関係の自由なデータ駆動の仮説生成を可能にする。
【0110】
全ての利用可能な特徴間の合計3,145,630の関係を探索した。ストリンジェントなフィルタリングは、DNAバリアントの不在および中RNA発現群をコードする変数を含有するルールを除外した。ルールの数値フィルタリングは、以下の閾値:支持度(n>3)、信頼度(>50%)、リフト(≧1.2)、およびp値(フィッシャー正確検定またはマン-ホイットニー-ウィルコクソン<0.05)を含んだ。フィルタリングステップは、臨床、ゲノム、およびトランスクリプトミクス患者特性を複数の時点での応答と関連付ける1,019個の相関ルールのサブセットをもたらした。第2のフィルタリングステップは、57週目での応答のみとの関係に焦点を当て、支持度≧5、およびリフト≧1.5を上昇させ、RNA発現、CYPバリアント、および用量/濃度をパートAから除外した。これは、ルールの数を、57週目にMMSEまたはADCS-ADLのデルタ(二値化離散化による、補足的S表4を参照されたい)またはスロープによって測定される転帰に関連する15個の相関にさらに低減した。15個のルールは、最高の信頼度および最高のリフトの順序で提示される。ストリンジェントなフィルタリングは、57週目(パートBの終わり)での応答の関係に焦点を当て、相関数をデルタまたはスロープMMSEまたはADCS-ADLによって測定される転帰に関連する15個のみに低減した(表4)。識別された15個の関係内で、パートBにおける4ng/mLを超えるANAVEX2-73の平均血液濃度は、57週目にMMSE転帰の改善の確率を1.88倍に増加させた(表4)。より高い濃度は、デルタADCS-ADLスコアを改善した(p=0.03)(図2c)。ともに57週目に、より低いMMSEベースラインスコア(<20)は、より悪いMMSE転帰の相対確率(リフト)を1.5倍増加させ、より高いMMSEベースラインスコア(>20)は、MMSEの改善の相対確率を1.62倍増加させた。
【0111】
【表4】
【0112】
デルタMMSEおよびデルタADCS-ADLの両方について100%信頼度および真を示す関係にさらに焦点を当て、2つのDNAバリアント、SIGMAR1_Q2PおよびCOMT_L146fsを識別した。表5は、統合データソースの要約を示す。1,152個の記述子からの合計2,527個の特徴を、合計27,155個のアノテートされた遺伝子からのアミノ酸変化を有する837個のゲノム配列、および185個のRNA発現プロファイルを含む各対象に使用した。患者記述子は灰色で示され、転帰はピンクで示される。ANAVEX2-73濃度の2つの群をモデル化するために試験に適用される2つの分析ステップ1)57週目での応答の目的変数なしのFCAルールに基づく分析、2)57週目で見出されるマーカーを組み込む148週間にわたる応答の混合効果モデリングを使用する縦断的確認に組み込まれる患者記述子の数の説明である。
【0113】
【表5】
【0114】
SIGMAR1 Q2Pの3D構造的影響も調査した。SIGMAR1の3D結晶構造を、VistaPDB 1.0ソフトウェアを使用して可視化した(図3)。各モノマーは、N末端膜貫通アルファヘリックスを示す。タンパク質のN末端は、サイトゾルに面すると考えられ、他のリガンドと相互作用すると考えられる。識別されたSIGMAR1バリアント(2位のグルタミン(Gln)がプロリンに変化-SIGMAR1_p.Q2P)は、タンパク質のN末端に位置し、したがって、構造的および機能的影響を有し得る。Gln(Q)からプロリン(P)への変化は、側鎖の長さ(Glnで伸長)に影響を及ぼし、アルファヘリックスを形成するアミノ酸の能力に影響を及ぼし得る。プロリンは、「ヘリックスブレーカ」とみなされ、いくつかの場合、aヘリックスのN末端を巻き戻すことに起因している。SIGMAR1_Q2PまたはCOMT_L146fsバリアント、および低いベースラインMMSEスコアを有する患者の遡及的除外は、57週目にMMSEおよびADCS-ADLスコアを改善した。第2a相コホート全体についての57週間のANAVEX2-73での毎日の治療は、標準治療と比較した場合、デルタMMSEおよびデルタADCS-ADLについて、それぞれ、0.57および0.18の効果量を有した(表6)。SIGMAR1_Q2PおよびCOMT_L146fsバリアント、ならびに低いベースラインMMSEスコアを有する患者(21人中9人の患者)が除外された場合、効果量は、MMSEおよびADCS-ADLについて、それぞれ、1.05および0.93に増加し(表6)、ともにコーエンのdガイドラインに従って「大きい」とみなされた。
【0115】
【表6】
【0116】
実施例3.結果の検証。
57週目の結果の内部検証として、57週目の応答の予測子を、回帰分析を使用して、208週間試験延長試験における中間148週目の縦断的データで試験した。この分析は、ゲノムデータを有する21人の患者および14時点についての287個の観察を含んだ(表7)。57週目の転帰の予測子として識別される、パートBにおけるANAVEX2-73濃度を使用して、MMRM-LMEモデルについて2つのアームを定義した。57週目に識別されたパラメータ(ANAVEX2-73濃度レベル、ベースラインMMSEスコア、SIGMAR1_Q2PおよびCOMT_L146fsバリアント)に加えて、年齢、性別、APOE ε4ステータス、およびドネペジル併用を、デルタMMSEおよびデルタADCS-ADLのMMRM-LMEモデルに含めた。この分析は、より高いANAVEX2-73濃度アームが、148週間にわたって低/中アームと比較される場合、調整MMSEおよび調整ADCS-ADLにおいて、それぞれ、78%および88%の好ましい差を有したことを示した(それぞれ、p値<0.0008および<0.0001)。時間に加えて、APOE ε4ステータス(p<0.0001)およびANAVEX2-73平均濃度は、有意な予測子であった(図4a、4b、ならびに表8および表6A)。さらに、時間とのSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、およびAPOE4 ε4ステータス相互作用は、有意な変数であった。未調整尺度はこれらの結果を裏付け、応答の陽性バイオマーカーを有する患者は、バイオマーカーを有しない患者または標準治療を受ける参照集団よりも148週間にわたってより良好なデルタADCS-ADLを有した(図5および表9)。2人の患者は、縦断的試験(148週間の期間)中に例外的な治療応答を示した。両方の対象は、SIGMAR1野生型、血漿中のANAVEX2-73の高い平均濃度、およびベースラインMMSE≧20を有した(図6)。報告された臨床的利益は、気分および注意力の改善、ならびに自立活動の増加を含んだ。
【0117】
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
【表9】
【0121】
実施例1~3の考察
この試験は、我々の知る限りでは、ADにおける薬物応答に関連するバイオマーカーについて最初に報告されたゲノム全体の探索である。我々が使用したアプローチは、標準的な分類または「シグネチャ」の探索とは異なった。KEMフレームワークに基づくFCAを、臨床試験のデータと一致する相関ルールによる応答の予測子の識別およびランク付けのための方法として使用した。この研究に示されるように、FCA機械学習方法論は、典型的には10以上の非常に大きいコンビナトリアル空間を探索し、典型的には2~3×10のより小さいセットを抽出し、最後に数十の重要な関係に焦点を当てることを可能にした。「ブラックボックス」数値法とは対照的に、このアプローチは、(表4および5に示されるように)各識別されたルールを検証する患者の識別を可能にし、最も関連性の高いバイオマーカーを選択するための客観的かつ明示的なフィルタリング戦略を導入する。
【0122】
「アミロイド仮説」の周りで生成されたネガティブな結果は、ADコミュニティに、Aβプラークが疾患の進行段階で現れ得るという仮説を立てることを促し、これは、既存の抗BACEまたは抗タウ介入の範囲を超え得る。しかしながら、ADによって引き起こされるMCIの発症の予後であり得る信頼できるゲノムマーカーがまだ識別されていないため、疾患を早期段階で特徴付けることも困難であった。人口の約25%のみがAPOE4遺伝子型を有するため、APOEステータス単独では十分な予測力を有しない。試験は、軽度認知障害(MCI)の早期検出のために使用され得る遺伝子バリアント、TOMM40を識別した。この仮説をTOMORROW試験において試験した。しかしながら、(スクリーニングされた24,136人のうち)3,494人の患者を含むTOMORROW試験は、バイオマーカー認定のその主要目的に達することができなかった。この文脈において、ADのための代替の創薬可能な標的の探索が優先事項となりつつあり、ANAVEX2-73によって標的とされるSIGMAR1は、細胞恒常性を維持するための重要な薬物標的であり得、これは潜在的に神経変性を遅延または停止させ、さらに補償応答を可能にし得る。
【0123】
本明細書は、転帰の改善に関連するパラメータの識別を可能にした、2つの臨床試験からのデータ駆動不偏分析を提示する。複数の時点および複数のエンドポイントにわたって臨床応答と一貫して関連するバイオマーカーを検索および選択することによって、患者選択マーカーの信頼できる識別およびランク付けが可能である。特筆すべきことに、この試験において記載されるアプローチは、いずれの先験的仮説もなしに、>300万個の保持されたルールのサブセットの中で、臨床応答の上位20個の駆動体として、COMTバリアント(rs113895332/rs61143203)に加えて、ANAVEX2-73平均濃度、ベースラインMMSE、およびSIGMAR1遺伝子の特異的バリアント(rs1800866)を識別する。低いベースラインMMSEは、多数の治療アプローチの範囲を超えて進行したADステージと関連していると考えられる。SIGMAR1は、ANAVEX2-73のインビボで確認された標的である。COMTは、記憶および他の神経行動機能に関与するとして以前に記載されている遺伝子である。
【0124】
中間148週目でのMMRM-LME分析は、調整平均デルタADCS-ADL(88%)および調整平均デルタMMSE(78%)に関連する2つの濃度アーム間の応答における有意な差を示した。これらの差は有意であり、かなり大きいことに留意されたい。これらの値は、例えば、72週間後にBAN2401についてCTAD2018で提示されたデータ:変化の約18%が、それぞれのアームにおけるAPOE4ステータスの不均衡に起因し得る、ADAS-Cogにおけるベースラインからの調整平均変化における47%およびADCOMS54における調整平均変化における30%について、他の試験で得られた最近の結果と比較して好ましい。
【0125】
39,974個のDNAバリアントの分析(表10)は、SIGMAR1_Q2PおよびCOMT_L146fsが上位の相関に保持されたことを示した。限られたデータ利用可能性に起因して、効果量を計算するために文献から得られたデルタMMSEおよびデルタADCS-ADLの標準治療尺度は、この試験で使用された実際の時点である57週間ではなく52週間に対応した。最後に、RNA分析は、収集時間(109~135週間)に起因して制限され、比較に利用可能なベースライントランスクリプトーム尺度はなかった。しかしながら、探索的分析は、高いSIGMAR1発現がより良好な転帰と関連していることを見出した(表11)。
【0126】
【表10-1】
【0127】
【表10-2】
【0128】
【表10-3】
【0129】
【表10-4】
【0130】
【表10-5】
【0131】
【表11】
【0132】
この研究で説明されている方法論は、薬物開発プロセスの初期にデータ駆動不偏バイオマーカー識別を使用する可能性を開く。「ホワイトボックス」および形式概念分析の系統的アプローチは、機械学習プラットフォームが各所見を説明し、治療応答について患者選択バイオマーカーを識別およびランク付けするために不可欠であり得る早期データの分析に理想的な組み合わせであり得る。これらのデータ分析法は、精密医療の新薬発見および開発の基礎となり得る。
【0133】
実施例1~3の方法
(a)試験設計
本臨床試験は、2つの連続臨床試験:57週間試験および208週間試験からのデータおよび試料を統合し、分析する。57週間試験は、軽度~中等度ADを有する32人の対象の試料を動員した薬物ANAVEX2-73の多施設第2a相臨床試験であった。これは2つのパートで構成された。パートAは、最大5週間続く単純無作為、非盲検、2期間、クロスオーバ、適応試験であった。各期間は、1つの特異的な投与経路および2つの可能な用量レベルを含み、1つの期間では、経口用量(30mgまたは50mg)が投与され、他の期間では、静脈内(IV)形態(3mgまたは5mg)が投与され、パートAにおいて合計8つの可能な用量投与スキームをもたらした(詳細は図2aで入手可能である)。2つの期間を、用量が与えられなかった12日のウォッシュアウト期間によって分離した。
【0134】
パートAの直後のパートBは、さらに52週間の経口1日用量の非盲検延長であった。57週間試験の主要エンドポイントは、薬物の安全性および忍容性を確立することであった。二次エンドポイントは、投与レジメンと、認知および機能の薬物動態-探索的有効性転帰との間の関係を確立することを目的とした。認知は、ミニメンタルステート検査(MMSE)によって評価され、機能能力は、アルツハイマー病共同試験-日常生活動作尺度(ADCS-ADL)によって評価された。追加の認知尺度は、Cogstate Brief Battery(CBB)、ならびに脳波検査および事象関連電位の機能尺度(EEGおよびERP)を含んだ。パートBは、適応経口投与スキームを継続した。表12は、57週間試験中の平均経口用量投与を要約する。
【0135】
【表12】
【0136】
57週間試験の好ましい安全性および忍容性プロファイル(表1および表2)に起因して、かつ患者および介護者からの申請に応じて、57週間試験パートBの完了直後に208週間非盲検延長試験(208週間試験)を実施した。208週間試験は、パートBを完了し、同様に適応1日経口投与スキームが適用された24人の対象を登録した。ANAVEX2-73-003は、MMSEおよびADCS-ADLによって測定される安全性および有効性の継続評価を含む。148週目(分析の中間時点)に、試験に残っている対象(n=21)に関するデータを有効性転帰について分析した。このレポートは、ANAVEX2-73-003が依然として継続中である間、148週目に入手可能なデータを使用して作成された。
【0137】
(b)対象
50~85歳の軽度~中等度ADを有する合計32人の対象を、2014年12月~2015年9月オーストラリアにおける3つの施設にわたって登録した。それらの診断は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 4th edition(DSM-IV)およびNational Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke/Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association criteriaと一致し、MRIおよび/またはCT脳スキャンの評価を含んだ。32人の参加者の人口統計およびベースライン特性を、プロトコル修正後に収集されたゲノムデータおよび患者同意を有する参加対象の群(N=21)とともに表3に要約する。表1は、患者性質を示す。7人の患者が57週間試験中に中止し、そのうち6人は同意を撤回し、1人は有害事象(AE)に起因した。合計3人の患者が、208週間試験中に、継続中延長試験の累積中間148週までに中止した。
【0138】
ベースラインおよび各訪問時に以下の評価スコアおよび基準を記録した:MMSE、ADCS-ADL、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)評価、ローゼン改変ハチンスキー虚血スコア(RmHis)、CBB、およびEEG/ERP。CBBサブテストは、6つの異なるサブスコアで構成された:検知(DET、処理速度)、識別(IDN、注意/警戒)、ワンカードラーニング(OCL、視覚認識記憶)、ワンバック(OBK、作動記憶)、国際ショッピングリスト(ISLT、言語学習)、および国際ショッピングリスト遅延想起(ISRL、言語記憶)。
【0139】
(c)試験エンドポイント
A.安全性エンドポイント
安全性は、有害事象の発生率および重症度(表2)、バイタルサイン、身体検査、臨床検査パラメータ(血液学、血清化学、および尿検査)、ならびに心電図(データは示されない)の評価によって評価した。
【0140】
B.有効性転帰
この試験における探索的臨床有効性は、各患者の認知(MMSE)および機能能力(ADCS-ADL)スコアのベースラインからの変化として定義された。MMSE57は、薬物試験における認知転帰尺度を含む、臨床AD研究において広く使用され、検証されている道具である。尺度の範囲は、0~30であり、より高いスコアはより高い認知機能を示す。ADCS-ADL58は、構造化された介護者インタビュー形式で実施され、ADを有する患者の日常生活動作におけるパフォーマンスを評価する。尺度は、0~78であり、より高いスコアは、より大きい機能を示す。ADCS-ADLは、良好な試験-再試験信頼性を有することが示されている59。MMSEおよびADCS-ADLは、57週間試験(パートAにおける0および5週目、パートBにおける17、31、41、53、および57週目)、ならびに208週間試験(70、83、96、109、122、135、および148週目)中の14の異なる時点にわたって事前に指定された臨床施設訪問中に評価した。
【0141】
対応するデルタスコアは、57週目に焦点を当てて、各個別の患者について各訪問時およびベースラインでの値の間の差を使用して計算した。加えて、MMSEおよびADCS-ADLスコアにおけるノイズの影響を低下させるために、各個別の患者について全ての利用可能な時点にわたる線形回帰を使用してスロープを推定した。導出されたスコアは、いくつかの特異的な時点(デルタ)で、および設定された期間(スロープ)にわたって、ベースラインからの探索的有効性データの進行を説明する。各関係を独立して処理し、説明したため、サブスコアおよび同じ試験スコアから導出された尺度を含めることは、この試験で適用される分析方法には影響を与えなかった。
【0142】
表13は、57週間試験(5、12、26、36、48、および57週目)およびANAVEX2-73-003(70、83、96、109、122、135、および148週目)における13時点でのMMSEおよびADCS-ADLについての、ベースラインに対する、デルタスコアを要約する。MMSEおよびADCS-ADLについてのスロープの要約統計を表13に示す。
【0143】
【表13】
【0144】
C.薬物動態
パートA中のみで薬物動態分析を行った。パートAの第1および第2の期間中に、第1の経口またはIV投与後の、それぞれ、12および11時点で血液試料を採取した。分析に含まれる薬物動態パラメータは、最大血漿薬物濃度(Cmax)、投与間隔中の最大血漿濃度までの時間(tmax)、投与時から最後の測定可能な濃度までの曲線下面積(AUC0-t)、平均排出半減期(t1/2)、および血管外投与についての全身クリアランスを吸収された用量の割合で割ったもの(CL/F)で構成された。図2bは、最初の投与後(最初の24時間)のAUC0-infを示す。
【0145】
ANAVEX2-73およびその代謝産物ANAVEX19-144の定常状態血漿レベルを、予め指定された時点(12、26、36、および48週目)での血液試料収集を通してパートBにおいて評価した。次いで、各患者の平均濃度値ng/mLを平均化した。表14は、57週間試験中のANAVEX2-73およびその代謝産物ANAVEX19-144の平均血漿濃度を示す。
【0146】
【表14】
【0147】
ANAVEX2-73の用量と血漿濃度との間の関係は、第1相試験22中に評価され、男性健常対象において1~60mgの範囲で線形であると推定することができる。ANAVEX2-73および代謝産物の血漿濃度の前述の用量依存的増加は、図2bに例示されるように、本試験においても観察されている。
【0148】
D.DNAおよびRNA抽出および配列決定
血液試料は、全ての依然として参加している21人の対象から、ANAVEX2-73-003延長試験中にプロトコル修正および承認後の訪問日、ならびに患者の同意に応じて、103~135週目に収集した。これらの試料は、DNA(全エクソーム)およびRNA次世代配列決定(NGS)データ分析を可能にした。408,551個のDNAバリアントをコホート内で識別した。これらのうち、タンパク質中のアミノ酸修飾を駆動する39,974個の高または中程度の影響のバリアントを維持し、RNA発現値を百万分の1キロベース当たりの転写産物(TPM)として正規化した。
【0149】
E.焦点を当てた遺伝子サブセット
243個の遺伝子は、上記で導入されたNGS分析から得られた27,155個のマッピングされた配列から選択した(補足図1a、b、c)。102個の遺伝子を、神経変性疾患へのそれらの関与に基づいて選択した(補足図1a)。20個の遺伝子を、STRINGデータベースから得られた0.150の信頼度スコア(2018年1月)に基づいて、SIGMAR1の機能インタラクトームの一部として選択した(補足図1cおよびd)。さらに、シトクロムP450遺伝子ファミリーの113個の遺伝子およびメチルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーからの10個の遺伝子も加えた(補足図1b)。
【0150】
【化1】
【0151】
F.データ分析
相関ルールに基づくFCAを使用したデータ分析を行って、57週目に治療に対する応答のマーカーを識別した。その後のステップでは、148週間における応答の識別されたマーカーの確認分析を、線形混合効果を使用して行った。図1bは、分析で使用される異なるタイプのデータを示し、図1cは、薬物応答のマーカーの識別および検証のための2つの異なるタイプの分析を示す。
【0152】
(d)相関ルールおよびKEM(登録商標)プラットフォーム
KEM(登録商標)(知識抽出および管理)v3.6.2ソフトウェアを使用して、収集された全ての変数間の関係を系統的に抽出した。ガロア束理論、または形式概念分析(FCA)に基づいて、KEM(登録商標)は、共有特性を有する目的物の群を識別し、対応する相関ルールを生成する。相関ルールは、大きい異種データベースにおいてパターンおよび関係を検出するために開発されている。この方法論は、AgrawalおよびSirikantによって導入され、マーケットバスケット分析、新薬発見、および複雑な疾患のゲノム特徴分析を含む異なるドメインにおける使用に成功している。方法はまた、薬物有効性および患者層別化試験における使用にも成功している。相関ルールは、2つの変数間の因果関係の存在を反映し得る。しかしながら、統計的に有意な相関の存在は、そのような因果関係の存在を示すために必要でも十分でもない。したがって、品質尺度の使用を以下に記載する。
【0153】
相関ルールは、X→Yなどの関連であり、Xは、前件(または前件の組み合わせ、左側とも呼ばれる)であり、Yは、ルールの後件(または後件の組み合わせ、右側とも呼ばれる)であり、Yの説明としてXを推論することを可能にする。N人の患者からなるデータセットを考慮すると、n、n、およびnXYは、それぞれ、ルールの前件(複数可)X、後件(複数可)Y、およびルールの両方の部分を満たす患者の数である。任意の所与のルールについて、このルールに合致するnxy人の患者を具体的に識別することが可能である。
【0154】
相関ルールを説明およびランク付けするには、6つの主な品質尺度、すなわち:支持度、信頼度、リフト、有意性の尺度である2つのP値、および効果量の尺度であるコーエンのdが使用される。
【0155】
i.支持度、信頼度、およびリフト
支持度は、相関が観察された対象の数として定義される:
支持度(X→Y)=nXY
【0156】
信頼度は、ルールを検証する特徴付けられた患者のパーセンテージとして定義される:
【0157】
【数1】
【0158】
リフト(相対確率)は、XおよびYが独立している場合に期待される支持度に対する観測された支持度の比率である。ルールのパフォーマンスを測定して、より大きい集団からサブグループを識別する。
【0159】
【数2】
【0160】
ii.有意性検定
2つの統計的検定からのP値を、各相関ルールについて計算した。カテゴリデータについての、ルールの関係、および小さい試料サイズに好適であることを説明する右側のフィッシャーの正確検定。記述子群毎の連続転帰測定値を比較するための、両側のマン-ホイットニーU検定。統計学的有意性を、両検定について0.05のレベルで判定した。
【0161】
iii.効果量
コーエンのd指標は、効果量を定量化するために各相関について計算され、それから今後の試験において有意な関係を判定するために含まれる患者の数を計算することができる。コーエンのdは、2つの集団平均間の標準化された差を示す。
【0162】
この試験では、転帰は、MMSEおよびADCS-ADLのデルタおよびスロープ値によって定義した。効果量を計算するための対照群値は、標準治療を受けるAD文献において入手可能な試験結果を組み合わせて得た:52週目の対照群平均デルタMMSEは、3.5の標準偏差で-3.7と定義され、52週目の平均デルタADCS-ADLは、8.0の標準偏差で-6.7あった。
【0163】
年齢などの連続変数を、分布を使用して離散化した(表13における閾値の要約を参照されたい)。例えば、ベースラインのMMSEを、2つの群、「低」(ベースラインMMSE<20として定義)および「高」(ベースラインMMSE≧20として定義)に離散化した。「20」という値は、所定の制限ではないことに留意されたい。MMSEベースラインスコア閾値「<20」は、全ての含まれる患者の観測値の中央値に対応した。
【0164】
(e)線形混合効果モデル
縦断的臨床試験における連続主要エンドポイントをモデル化し、具体的にはAD臨床試験の結果を分析するための反復測定用の混合効果モデル(MMRM)の適用が一般的となっている。
【0165】
57週目に識別されたバイオマーカーの縦断的関連性を、パートBにおけるANAVEX2-73平均血液濃度に基づいて2つのアーム(高対低/中)のうちの1つに対象を割り当てることによって、MMRMを使用して148週目に評価した。小さいコホートサイズを考慮して、時間は、過剰パラメータ化を回避し、堅牢性を向上させるために、分析における連続変数として処理した。したがって、混合効果モデル(LME)の線形成分をモデル時間に適用した。R統計ソフトウェアに実装される、MMRM-LMEを適用して、デルタMMSEおよびADCS-ADLスコアを、経時的なANAVEX2-73濃度レベル、および応答の他の識別された記述子とともにモデル化した。
【0166】
実施例4.DNAおよびRNA抽出および分析
616個の経路を含む、AD患者配列において、遺伝子に対応する合計27,155個のアノテートされたゲノム位置を識別した。243個の遺伝子の初期パネルを定義した。パネルは、神経変性疾患に関与する102個の遺伝子、SIGMAR1機能インタラクトームに関連する20個の遺伝子、ならびに薬物代謝に関連する12個のメチルトランスフェラーゼ遺伝子および111個のCYP遺伝子で構成された(表15)。
【0167】
【表15-1】
【0168】
【表15-2】
【0169】
【表15-3】
【0170】
【表15-4】
【0171】
【表15-5】
【0172】
各RNA遺伝子発現についてTPM(百万分の1キロベース当たりの転写産物)値を使用して分布分析を行い、3つの等しいサイズのビン:低、中、高を定義した。
【0173】
これは以下のように計算される:
【0174】
【数3】
【0175】
注記X:考慮されるmRNAのリードカウント、
:考慮されるmRNAの長さ。
【0176】
COMT、COMT TPM(COMTt)について、10.1以下のレベルは低、10.1>COMTt>=15.2は中、COMTt>15.2は高とみなされる。
【0177】
KANSL1、KANSL1 TPM(KANSL1t)について、16.9以下のレベルは低、16.9>KANSL1t>=27.5は中、KANSL1t>27.5は高とみなされる。
【0178】
SIGMAR1、SIGMAR1 TPM(SIGMAR1t)について、12.7以下のレベルは低、12.7>SIGMAR1t>=19は中、SIGMAR1t>19は高とみなされる。
【0179】
243個の遺伝子の初期パネルに焦点を当てて、タンパク質レベルでの185個のRNA遺伝子発現および837個のDNA変化は、21人の対象の合計セットのうちの少なくとも1人の対象について異なることが示された。対象を、病歴、併用薬、および他のベースライン特性からなる212個の非ゲノム特性の追加のセットを使用してさらに特徴付けた。合計40個のエンドポイントを以下のように定義した。
【0180】
>ミニメンタルステート検査(「MMSE」)およびアルツハイマー病共同試験-日常生活動作(「ADCS-ADL」)エンドポイントを、ANAVEX2-73-002において収集されたデータから抽出した。
【0181】
>デルタMMSEおよびADCS-ADLを、6時点およびベースラインで収集された値の間の差を使用して計算した。
【0182】
>同様に、複数の値を統合してスロープを計算した。スロープは、各個別の患者の全ての利用可能な時点にわたる線形回帰を使用して計算される。スロープ計算は、これらのスコアの観測値にわたるばらつきを平滑化する利点を有する。
【0183】
>MMSEおよびADCS-ADLの両方について計算されたデルタに対して分布分析を行った(図7Aおよび1B)。患者は、第3タイルに基づいてカテゴリに分類した。
【0184】
-デルタADCS-ADL:高(≧-1)および低(≦-2)、
【0185】
-デルタMMSE:高(≧-1)および低(≦-2)。
【0186】
中および低ビンを組み合わせて、新しい低ビンを定義した。高ビンは、最も高い第3タイル値に対応する。MMSEおよびADCS-ADLの両方についてのベースラインと57週目との間のスロープは、二値エンドポイントとして考慮した。レスポンダは、正または無のスロープを有すると定義された。非レスポンダは、負のスロープを表示すると定義された。
【0187】
試験は、各患者について合計2,481個の特徴を含有した。KEM(登録商標)v3.6.2(Ariana Pharmaceuticals,SAから入手可能な、知識抽出および管理)を使用して、入手可能なデータを分析した。3,040,276個の関係を生成し、分析した。関係を、セットメトリクスを使用して分析し、それらの強度を評価した。
【0188】
-支持度(n)とは、相関が観察された対象の数を意味するものとする。
【0189】
-リフト(相対確率)とは、相関の頻度を条件の頻度で割ったものを意味するものとする。このパラメータは、条件によって提供される濃縮度を測定する。
【0190】
-信頼度は、条件が真である場合の相関の確率を意味するものとする
【0191】
-コーエンのdは、2つの手段の間の標準化された差を示すために使用される効果量である。相関ルールから、我々は、転帰の改善または悪化(デルタMMSEまたはデルタADCSADL)に関連するいくつかの遺伝的特徴を識別した。各特徴について、我々は、所望の特徴を有する患者(転帰の改善と関連している場合)、または特徴を有しない患者(転帰の悪化と関連している場合)によって群1を定義した。M群1およびSD群1は、それぞれ、群1の転帰の平均および標準偏差である。M群2およびSD群2は、軽度アルツハイマー病を有する患者の群について、当該技術分野で知られている、転帰の平均および標準偏差参照値である。
【0192】
【数4】
【0193】
【表16】
【0194】
-P値(フィッシャーの正確検定、より大きい片側)は、2x2の分割表における差の統計学的有意性を評価する。
【0195】
【数5】
【0196】
-マン-ホイットニー-ウィルコクソン(MWWilc.)は、両方の集団における分布が等しいという帰無仮説の非パラメトリック検定である。MWWilc検定は、2つの集団の結合の値をランク付けし、2つの集団間のそれらのランクの合計を比較する。我々は、特徴を有する患者と特徴を有しない患者との間の転帰の分布を比較する。
【0197】
-MAF(マイナー対立遺伝子頻度):1000ゲノムデータベースからの一般集団において変異が発生する頻度を指す。
【0198】
関係のフィルタリングは、2つのステップ:セマンティックフィルタリング(1)および数値フィルタリング(2)で行った。セマンティックフィルタリングステップでは、DNA変異の不在、中RNA発現ビン、ならびにスロープMMSEおよびスロープADCS-ADLをコードするパラメータを除外した。数値フィルタリングステップでは、支持度(n>3)、信頼度(>50%)、相対確率(リフト>=1.2)、およびp値(フィッシャーまたはマンホイットニーウィルコクソン<0.05)に基づくメトリクスを満たす関係のみを保持した。
【0199】
フィルタリングステップ(1)および(2)は、ベースライン臨床およびゲノム患者特性ならびにRNA発現を、複数の時点での応答と関連付ける509個の相関ルールのサブセットをもたらす。
【0200】
57週目の応答のみに焦点を当てて、このセットは、42個のDNA変異に関連する相関、27個のRNA発現、およびベースライン時の他のパラメータを含む9個にさらに低減した。
【0201】
DNA変異の存在を応答と関連付ける42個の相関ルールは、表15に定義される遺伝子パネルからの22個のCYPタンパク質および20個の非CYPタンパク質に対応する。20個の非CYP関係は、57週目の応答の悪化に関連する12個の非冗長性SNP(表18)、および57週目の応答の改善に関連する2個(表17)に対応する。
【0202】
表17データは、ゲノムデータ(185遺伝子パネルおよび837個の変異)の系統的分析から抽出した。これは、57週目のデルタMMSEまたはデルタADCS-ADLによって測定される転帰の改善と有意に関連した2つのSNPバリアントを識別する:これらは、HLA-DRB1_p.LysThr134LysAspおよびDPYD_p.l543V(re1801159)である。ルール:n>3人の患者、信頼度>0.5、リフト>=1.2、p値(フィッシャー検定またはMWWilc.)<0.05。
【0203】
【表17】
【0204】
【表18】
【0205】
改変COMT(L146後に停止)、またはDHCR7 T220(DHCR7_p.M220T)、またはHLA-DRB1 T244もしくはT66もしくはS89(HLA-DRB1_p.A244TもしくはS66YもしくはY89S)、またはKANSL1 Pro304/946/1010(KANSL1_p.P1010L/P304L/P946L)、またはMS4A6E T59(MS4A6E.p.M59T)、またはRIN3 R 215(RIN3_p.H215R)、またはSIGMAR1 Pro2(SIGMAR1_p.Q2P)変異の存在は、ベースラインに対する57週目のADCS-ADLまたはMMSEデルタ低と関連付けられる。
【0206】
表19は、57週目のMMSEおよびADCS-ADLデルタの両方に関連する3つの変異(SIGMAR1 Q2P、COMT_p.L146fs、KANSL1_p.P1010L/P304L/P946L)に関するデータを提示する。ゲノムデータ(185遺伝子パネルおよび837個の変異)の系統的分析は、MMSEおよびADCS-ADLの両方を使用して測定される、SIGMAR1 Pro2変異と応答の不在との間の有意な強い関係を識別する。
【0207】
【表19】
【0208】
表20は、SIGMA1RにおけるPro2変異の存在が、表18に示されるデータから抽出された、ルールメトリクス上に詳細を有するMMSEの低いデルタを意味することを示す1つの相関ルールの表示である。
【0209】
【表20】
【0210】
SIGMAR1 Gln(グルタミン)2がPro(プロリン)2に変化した変異(SIGMAR1_p.Q2P)は、SIGMAR1タンパク質の3D構造の3D立体構造について構造的な意味を有し得、これは次いでその機能および/または相互作用を変化させ得る。SIGMAR1の結晶構造は、トリマーを示す。各モノマーは、N末端膜貫通アルファヘリックスを示す。タンパク質のN末端は、サイトゾルに面すると考えられ、他のリガンドと相互作用すると考えられる。Pro2改変は、機能のいくらかの改変と一致して、それを伸長することによってヘリックスのN末端の立体構造を変更し得る。
【0211】
Gln(Q)からPro(P)への変化は、側鎖の長さ(Glnで伸長)に影響を及ぼし、アルファヘリックスを形成するアミノ酸の能力に影響を及ぼすことが可能である。プロリンは、「ヘリックスブレーカ」とみなされ、いくつかの場合、aヘリックスを巻き戻すことに起因している。
【0212】
SIGMAR1 Pro2変異の存在を認知および機能エンドポイントと関連付けるKEM(登録商標)(バージョン3.6.2)関係は、表19に示される。認知および機能尺度は、軽度および軽度~中等度アルツハイマー病における治療薬の規制承認における両臨床エンドポイントであり、主要エンドポイントとしてプラセボよりも有意に良好であることが指示される。
【0213】
57週間第2a相ANAVEX2-73-002試験がプラセボアームを含まなかったことを考慮して、KEM(登録商標)分析は、以下の2つの方法で認知(MMSE)および機能(ADCS-ADL)からなる2つのエンドポイントを測定した:各患者自身のMMSEおよびADCS-ADLスコアのデルタ(57週目~ベースラインのデルタ)。
【0214】
重要なことに、アルツハイマー病は進行性変性疾患であると理解されるため、軽度~中等度アルツハイマー病における57週間中のMMSE(正デルタ)およびADCS-ADL(正デルタ)の増加は、珍しいポジティブな事象である。有意なことに、MMSE(デルタ、n=9)およびADCS-ADL(デルタ、n=8)を改善しなかった全ての患者の100%は、SIGMAR1変異を有しなかった。さらに、SIGMAR1 Pro2(n=5)変異を有する患者の100%は、MMSEまたはADCS-ADLデルタを改善しなかった。全て(100%)の患者(n=21)から入手可能な遺伝子データ。
【0215】
COMTバリアントCOMT_p.L146fs(rs113895332/rs61143203)について同様の結果が得られた。MMSE(デルタおよびスロープ両方)およびADCS-ADL(デルタおよびスロープ両方)の改善を示した全ての患者(n=6)の100%は、COMT_p.L146fs変異を有しなかった。さらに、COMT_p.L146fs(n=5)変異を有する患者の100%は、MMSEまたはADCS-ADLスロープを改善しなかった。COMT_p.L146fs変異はまた、低いデルタMMSEおよびADCS-ADLと関連付けられる。全て(100%)の患者(n=21)から入手可能な遺伝子データ。
【0216】
そのようなものとして、これらの変異の存在/不在を確立することは、SIGMAR1アゴニスト治療に関する治療決定において有用であり得る。これらの変異の不在は、A2-73療法などの増強されたSIGMAR1アゴニスト療法のための診断である。これらの変異のいずれかまたは両方の存在を確立することは、神経変性障害の第一選択治療として他の治療薬を使用するための診断である。
【0217】
【表21】
【0218】
SIGMAR1 Pro2変異は、ADCS-ADLおよびMMSEデルタの数値的デルタ値における有意差をもたらす(図8cおよびf)。MWWilc検定は、2つの集団(すなわち、ここでの2つの集団:SIGMAR1 Pro2変異対SIGMAR1 Gln2変異)において連続変数の中央値に有意差があるかを評価する。SIGMAR1 Pro2変異の不在は、BLからの高いADCS-ADLデルタ(改善)と強く関連する。COMT Leu146変異(図8aおよびd)およびKANSL1 Pro304/946/1010変異(図8bおよびe)についても同様の結果が見出された。
【0219】
上述されるように、27のRNA発現は、ベースラインに対する57週目における応答の改善または悪化と関連していた。非CYPタンパク質および高レベルのRNA発現のみをさらに選択すること(低および中程度発現レベルを除外すること)は、DHCR7、GAMT、IL10、KANSL1、MTUS1、PPARG、およびSIGMAR1の高発現レベルが、ベースラインに対する57週目におけるADCS-ADLまたはMMSEデルタの改善と関連付けられることを示す(表22)。
【0220】
【表22】
【0221】
DNAおよびRNA分析の間の交差、ならびにDNA分析を通して識別され、MMSEおよびADCS-ADLの両方によって測定される転帰に影響を及ぼす遺伝子のサブセットに焦点を当てて、表23は、MMSEまたはADCS-ADLによって測定される応答に関連する3つの遺伝子マーカー(SIGMAR1、COMT、KANSL1)のより高いRNA発現を示す。
【0222】
【表23】
【0223】
特に、SIGMAR1の高いRNA発現は、表24および図9に示されるように、高いANAVEX(登録商標)2-73応答(改善)と関連している。
【0224】
【表24】
【0225】
DNAおよびRNA分析の両方は、MMSEおよびADCS-ADLの変異によって測定される、57週目におけるSIGMAR1療法の転帰の予測子としてのSIGMAR1、KANSL1、およびCOMTの役割に関する収束的証拠を提供する。
【0226】
表25は、57週目にデルタMMSEまたはデルタADCS-ADLによって測定される転帰と有意に関連した11個のSNPを識別するCYPゲノムデータ(表15からの、111遺伝子パネル)の系統的分析を示す。MMSEおよび/またはADCS-ADLスコアの改善との相関は、バリアントCYP4V2、CYP27B1、CYP26C1の包含である。MMSEおよび/またはADCS-ADLスコアの低下に基づく除外との相関は、バリアントCYP39A1、CYP2D6、CYP2C8である。
【0227】
【表25】
【0228】
表26は、MMSEまたはADCS-ADLによって測定される応答に関連するCYP4F2、CYP26A1、およびCYP2D6のRNA発現を示す。
【0229】
【表26】
【0230】
実施例5.σ-1アゴニストレスポンダ/非レスポンダ判定
57~71歳のアルツハイマー病と診断された12人の対象は、SIGMAR1遺伝子におけるQ2P多型について試験される。2人の対象がSIGMAR1タンパク質の2位にアミノ酸プロリンを有することが判定される。残りの10人の対象が受容体タンパク質上のその位置にグルタミンを有することがさらに判定される。SIGMAR1タンパク質の2位にアミノ酸プロリンを有する群は、Sigma-1アゴニスト療法に不適であると判定される。SIGMAR1タンパク質の2位にアミノ酸グルタミンを有する群は、Sigma-1アゴニスト療法に好適であると判定される。
【0231】
実施例6.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
74歳男性は、診断されたアルツハイマー病を呈する。彼のSIGMAR1遺伝子は、彼がSIGMAR1遺伝子の2位にグルタミンを有すると判定される程度に分析される。これは、野生型である。彼は、30mgの経口用量で毎日A2-73で治療される。6か月間。彼の疾患は、その期間にわたって安定しており、進行していないと見られる。
【0232】
実施例7.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
74歳男性は、診断されたアルツハイマー病を呈する。頬スワブが採取され、遺伝子型アッセイが実施されて、SIGMAR1 2P遺伝子型の存在が判定される。そのような分析によって、対象がSigmaR1遺伝子受容体(タンパク質)の2位にグルタミンを有することが判定される。彼は、30mgの経口用量で毎日ANAVEX2-73で治療される。6か月間。彼の疾患は、その期間にわたって安定しており、進行していないと見られる。
【0233】
実施例8.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
66歳女性は、診断された認知症を呈する。彼女のSIGMAR1遺伝子は、彼女がSIGMAR1遺伝子の2位にプロリンを有すると判定される程度に分析される。彼女は、Sigma-1アゴニストによる治療が却下される。彼女は、他の治療的処置選択肢について紹介される。
【0234】
実施例9.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
60歳女性は、診断された認知症を呈する。彼女のSIGMAR1遺伝子は、彼女がSIGMAR1遺伝子の2位にプロリンを有すると判定される程度に分析される。彼女は、6か月間1日2回1.5mgの経口リバスチグミンと組み合わされた毎日80mgの経口用量でのANAVEX2-73で治療される。彼女の疾患は、その期間にわたって安定しており、進行していないと見られる。
【0235】
実施例10.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
64歳男性は、診断されたアルツハイマー病を呈する。彼のCOMT遺伝子は、彼がCOMT dbsnp ID rs113895332/rs61143203変異を有しないと判定される程度に分析される。彼は、30mgの経口用量で毎日A2-73で治療される。6か月間。彼の疾患は、その期間にわたって安定しており、進行していないと見られる。
【0236】
実施例11.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
71歳女性は、診断されたアルツハイマー病を呈する。彼女のSIGMAR1遺伝子は、彼女がSIGMAR1 rs1800866を有しないと判定される程度に分析される。彼女は、30mgの経口用量で毎日A2-73で治療される。6か月間。彼女の疾患は、その期間にわたって安定しており、進行していないと見られる。
【0237】
実施例12.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
81歳男性は、診断された認知症を呈する。彼は、KANSL1_p.P1010L/P304L/P946L変異を有すると判定される。彼は、Sigma-1アゴニストによる治療が却下され、他の治療的処置選択肢について紹介される。
【0238】
実施例13.σ-1アゴニストレスポンダ判定および療法
78歳男性は、診断された認知症を呈する。彼は、SIGMAR1遺伝子の2位にグルタミンを有する。彼は、KANSL1_p.P1010L/P304L/P946L変異を有すると判定される。彼は、6か月間毎日7mgの経口メマンチンと組み合わされた毎日70mgの経口用量でのANAVEX2-73で治療される。彼の疾患は、その期間にわたって安定しており、進行していないと見られる。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法であって、前記方法が、
a.前記対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの多型の存在を判定する、前記対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることと、
b.多型が前記対象に存在する場合、前記対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含む、方法。
<2>
Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法であって、前記方法が、
a.前記多型を含む遺伝子座を配列決定することによって、少なくとも1つの多型が前記対象から得られる生体試料において遺伝子座に存在するかを検出すること、または検出していることと、
b.多型が前記対象に存在する場合、前記対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含み、
前記少なくとも1つの多型が、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
<3>
Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法であって、前記方法が、
a.SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、DPYD、およびこれらの組み合わせ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定する、前記対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることと、
b.前記試験試料における前記RNAのレベルを、Sigma-1受容体療法に応答性である対象における前記RNAのレベルと比較することと、を含み、
Sigma-1受容体療法に応答性である前記対象における前記RNAのレベルと実質的に類似する前記試験試料における前記RNAのレベルが、Sigma-1受容体療法に応答性である対象を識別する、方法。
<4>
Sigma-1受容体アゴニスト療法に応答性である対象を選択する方法であって、前記方法が、
a.SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、DPYD、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される遺伝子によってコードされる少なくとも1つのRNAの発現のレベルを判定すること、または判定していることと、
b.前記試験試料における前記RNAのレベルがSigma-1受容体療法に応答性である対象における前記RNAのレベルとは実質的に異なる場合、前記対象をSigma-1受容体アゴニスト療法に非応答性として除外することと、を含む、方法。
<5>
Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象を治療する方法であって、前記方法が、
a.前記対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S66Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの多型の存在を検出する、前記対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることと、
b.多型が前記対象に存在しない場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストを前記対象に投与することと、を含む、方法。
<6>
Sigma-1受容体アゴニスト療法を必要とする対象を治療する方法であって、前記方法が、
a.SIGMAR1、COMT、KANSL1、DHCR7、HLA-DRB1、MS4A6E、RIN3、DPYD、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも遺伝子によってコードされるRNAの発現のレベルを判定する、前記対象からの生体試料の試験の結果を得ること、または得ていることと、
b.前記生体試料における前記RNAのレベルを、Sigma-1受容体療法に応答性である対象における前記RNAのレベルと比較することと、
c.前記生体試料における前記RNAのレベルが、Sigma-1受容体療法に応答性である対象における前記RNAのレベルと実質的に類似する場合、治療有効量のSigma-1受容体アゴニストを前記対象に投与することと、を含む、方法。
<7>
対象におけるSigma-1受容体療法に対する応答に関連する多型の存在を検出する方法であって、前記方法が、
a.前記対象から生体試料を得ること、または得ていることと、
b.前記多型を含む遺伝子座の配列を評価することによって、前記生体試料における前記多型を検出することと、を含み、
前記少なくとも1つの多型が、前記対象におけるSIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、DHCR7_M220T、HLA-DRB1_A244T、HLA-DRB1_S6Y、HLA-DRB1_Y89S、MS4A6E_M59T、RIN3_H215R、DPYD_l543V、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
<8>
前記少なくとも1つの多型が、SIGMAR1_Q2P、COMT_L146fs、KANSL1_P1010L/P304L/P946L、およびこれらの組み合わせから選択される、<1>、<3>、および<4>のいずれか一つに記載の方法。
<9>
前記多型が、SIGMAR1_Q2Pである、<1>、<2>、<5>、および7>のいずれか一つに記載の方法。
<10>
前記アゴニストが、ANAVEX2-73、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687,384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、およびこれらの組み合わせから選択される、<1>、<2>、<5>、および<7>のいずれか一つに記載の方法。
<11>
前記アゴニストが、A2-73である、<10>に記載の方法。
<12>
A2-73の前記治療有効量が、約0.5~約100mgの範囲である、<11>に記載の方法。
<13>
経口投与される場合、A2-73の前記治療有効量が、約20~約60mgの範囲である、<12>に記載の方法。
<14>
静脈内投与される場合、A2-73の前記治療有効量が、約<1>~<約20mgの範囲である、<12>に記載の方法。
<15>
A2-73の前記治療有効量が、約40mg~約60mg/日の範囲である、<12>に記載の方法。
<16>
前記治療有効量が、約4ng/mLのA2-73の血液濃度を提供する、<12>に記載の方法。
<17>
少なくとも1つの多型が前記対象に存在する場合、前記対象をSigma-1受容体アゴニスト療法から除外することをさらに含む、<1>~<4>のいずれか一つに記載の方法。
<18>
少なくとも1つの多型が前記対象に存在する場合、前記対象にSigma-1受容体アゴニスト療法の代替物を投与することをさらに含む、<5および<6>のいずれか一つに記載の方法。
<19>
Sigma-1受容体アゴニストの前記代替物が、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン、またはこれらの組み合わせである、<18>に記載の方法。
<20>
前記対象が、神経保護、神経変性、および神経発達状態からなる群から選択される状態について治療される、<1>~<7>のいずれか一つに記載の方法。
<21>
前記状態が、アルツハイマー病または認知症である、<20>に記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9