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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】薬剤揮散装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/20 20060101AFI20241106BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20241106BHJP
   A01N 53/06 20060101ALN20241106BHJP
   A01N 25/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
A01M1/20 C
A01N25/18 101
A01N53/06 110
A01N53/06 100
A01N25/00 102
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020572344
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005855
(87)【国際公開番号】W WO2020166709
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019024600
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 千佳
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特許第5252659(JP,B2)
【文献】特開2005-333943(JP,A)
【文献】特開2018-093778(JP,A)
【文献】特許第6182316(JP,B2)
【文献】特開2008-214213(JP,A)
【文献】米国特許第06340120(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 1/24
A01N 25/00
A01N 25/18
A01N 53/06
A01P 7/04
A61L 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置であって、
前記容器は、
当該容器の厚さ方向に沿った所定の断面において、当該容器の周縁部分から離れた部分が前記周縁部分よりも前記厚さ方向に突出する突出形状を有するように構成される、板状の構造を有し、
前記薬剤揮散体は、
前記突出形状に沿うように曲がった形状を有し、
前記容器は、
前記断面における前記突出形状が当該容器の中央部分を挟んで線対称な形状であるように構成される、
薬剤揮散装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤揮散装置において、
前記容器は、
前記厚さ方向における一方側の面及び他方側の面の双方が前記突出形状を有するように構成される、
薬剤揮散装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載の薬剤揮散装置において、
前記薬剤は、
プロフルトリン、エンペントリン、トランスフルトリン及びメトフルトリンからなる薬剤群から選ばれる少なくとも一つを含む、
薬剤揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、薬剤揮散体を内部に収容し且つ薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、害虫防除などを目的として、薬剤を保持した薬剤揮散体を容器内に収容した薬剤揮散装置が用いられている。この種の薬剤揮散装置は、一般に、薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を容器に設けることで、薬剤揮散体から自然蒸散した薬剤を薬剤揮散装置の周辺を流れる空気(風)中に揮散させるようになっている(例えば、特許文献1~3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2009-022164号公報
【文献】日本国特開2014-135910号公報
【文献】日本国特開2017-018034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の薬剤揮散装置は、薬剤揮散装置の周辺を流れる空気(風)を利用して薬剤を揮散させる原理上、空気の流れる向き(風向き)等に依存して薬剤の揮散量や揮散範囲が異なり得る。特に、発明者が行った検討等によれば、薬剤揮散装置の容器が単純な平板状の構造を有するとき、薬剤揮散装置に対して側方から空気が流れ込む場合には、薬剤揮散装置に対して正面側から空気が流れ込む場合に比べ、薬剤の揮散量や揮散範囲が劣ることが明らかになった。薬剤の揮散量や揮散範囲が劣る場合、当然に、害虫防除等の効果も損なわれる。薬剤揮散装置の効果を適正に発揮させる観点から、薬剤揮散装置の周辺を流れる空気の向き(風向き)に起因する薬剤の揮散量などのばらつきを抑制することが望まれている。
【0005】
本発明の目的の一つは、薬剤揮散装置の周辺を流れる空気の向き(風向き)に起因する薬剤の揮散量などのばらつきを抑制可能な薬剤揮散装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の第1の側面において、薬剤揮散装置は、
常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を有する容器と、を備え、
前記容器は、
当該容器の厚さ方向に沿った所定の断面において、当該容器の周縁部分から離れた部分が前記周縁部分よりも前記厚さ方向に突出する突出形状を有するように構成される、板状の構造を有し、
前記薬剤揮散体は、
前記突出形状に沿うように曲がった形状を有する。
【0007】
[2]本発明の第2の側面では、第1の側面に係る薬剤揮散装置において、
前記容器は、
前記厚さ方向における一方側の面及び他方側の面の双方が前記突出形状を有するように構成される。
【0008】
[3]本発明の第3の側面では、第1の側面または第2の側面に係る薬剤揮散装置において、
前記容器は、
前記断面における前記突出形状が当該容器の中央部分を挟んで線対称な形状であるように構成される。
【0009】
[4]本発明の第4の側面では、第1の側面~第3の側面の何れか一つに係る薬剤揮散装置において、
前記薬剤は、
プロフルトリン、エンペントリン、トランスフルトリン及びメトフルトリンからなる薬剤群から選ばれる少なくとも一つを含む。
【0010】
上記第1の側面について、発明者が検討した結果、開口部を有する板状の容器に薬剤揮散体を収容するにあたり、断面形状が特定の突出形状(即ち、容器の周縁部分から離れた部分が周縁部分よりも厚さ方向に突出する形状)を有する容器を用いることで、薬剤揮散装置の周辺を流れる空気の向き(風向き)にかかわらず優れた害虫防除等の効果が発揮されることが明らかになった。具体的には、薬剤揮散装置に対して側方から空気が流れ込む場合であっても正面側から空気が流れ込む場合であっても、薬剤の揮散量や揮散範囲が過度に相違しない(即ち、効果のばらつきを抑えられる)ことが明らかになった。よって、本構成の薬剤揮散装置は、薬剤揮散装置の周辺を流れる空気の向き(風向き)に起因する薬剤の揮散量などのばらつきを抑制できる。
【0011】
上記第2の側面について、発明者が検討した結果、上記第1の側面に係る断面形状を有する容器の一例として、容器の厚さ方向における一方側の面及び他方側の面の双方が上述した突出形状を有するように構成されることで、薬剤の揮散量などのばらつきを抑えられることが明らかになった。よって、本構成により、薬剤揮散装置の効果が適正に発揮される。
【0012】
上記第3の側面について、発明者が検討した結果、容器の断面形状が容器の中央部分を挟んで線対称な形状であるように構成されることで、容器の断面形状が線対称な形状ではない場合に比べ、薬剤の揮散量などのばらつきを更に抑えられることが明らかになった。よって、本構成により、薬剤揮散装置の効果が更に適正に発揮される。
【0013】
上記第4の側面によれば、昆虫などに対して優れた防除効果を有するピレスロイド系の薬剤(即ち、プロフルトリン、エンペントリン、トランスフルトリン及びメトフルトリンから選ばれる少なくとも一つ)を用いることで、本構成の薬剤揮散装置を用いて害虫防除を適正に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、薬剤揮散装置の周辺を流れる空気の向き(風向き)に起因する薬剤の揮散量などのばらつきを抑制可能な薬剤揮散装置を提供できる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る薬剤揮散装置の外観図である。
図2図2は、図1の薬剤揮散装置の分解斜視図である。
図3図3(a)及び図3(b)は、図1のA-A断面図である。
図4図4(a)は、図1の薬剤揮散装置に対して側方から空気が流れ込んだ場合における薬剤揮散装置の周辺での空気の流れを表す概念図であり、図4(b)は、図1の薬剤揮散装置に対して正面側から空気が流れ込んだ場合における薬剤揮散装置の周辺での空気の流れを表す概念図である。
図5図5は、図1の薬剤揮散装置を用いて行った評価試験の様子を表す概略図である。
図6図6(a)は、本発明の第1の変形例に係る薬剤揮散装置についての図3(a)及び図3(b)に相当する図であり、図6(b)は、本発明の第2の変形例に係る薬剤揮散装置についての図3(a)及び図3(b)に相当する図である。
図7図7(a)は、本発明の第3の変形例に係る薬剤揮散装置についての図3(a)及び図3(b)に相当する図であり、図7(b)は、本発明の第4の変形例に係る薬剤揮散装置についての図3(a)及び図3(b)に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る薬剤揮散装置10について説明する。説明の便宜上、図1に示すように、薬剤揮散装置10の長手方向を「上下方向」とし、「上下方向」に直交する一方向を「幅方向」とし、「上下方向」及び「幅方向」に直交する一方向を「厚さ方向」とする。また、薬剤揮散装置10が凸形状に突出する「厚さ方向」の一方側を「正面側」とし、他方側を「背面側」とする。
【0018】
なお、本実施形態に係る薬剤揮散装置10は、図1における上下方向に長い縦長の長方形状の形状を有している。しかし、本形状はあくまで一例であり、薬剤揮散装置10の形状は図1に示す形状に限定されない。例えば、薬剤揮散装置10は、図1における幅方向に長い横長の長方形状の形状を有してもよいし、正方形状の形状を有してもよいし、他の多角形状の形状を有してもよいし、円形や楕円形の形状を有してもよい。
【0019】
(薬剤揮散装置の構造)
図1図2図3(a)及び図3(b)に示すように、薬剤揮散装置10は、常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体20と、薬剤揮散体20を収容するための収容空間Sを内部に画成する板状の形状を有する容器30と、を有する。薬剤揮散装置10は、全体として高さ(図1の上下方向の長さ)が幅(幅方向の長さ)よりも長い矩形の形状を有し、且つ、幅方向における中央部分が正面側に突出するように湾曲した形状を有する。
【0020】
より具体的には、容器30は、正面側筐体31と、背面側筐体32と、背面側筐体32に取り付けられた紐状の吊り下げ部33と、を有する。特に図3(a)及び図3(b)に示すように、正面側筐体31は、容器30の厚さ方向に沿った断面において、容器30の幅方向両側の周縁部分31aから離れた中央部分31bが、周縁部分31aよりも厚さ方向正面側に突出する突出形状を有する。本例では、周縁部分31aから幅方向内側に向かう所定範囲において、正面側筐体31はほぼ平坦な平坦領域R1を有し、中央部分31bから平坦領域R1に向かう範囲において、正面側筐体31は幅方向内側に凹むように緩やかに湾曲した湾曲領域R2を有する。
【0021】
ここで、図3(a)に示すように、容器30の厚さ方向に沿った断面において、厚さ方向における容器30の最大長さAを、幅方向における容器30の最大長さZで除した値(A/Z)を、「突出量X」と定義した場合、突出量X(=A/Z)は、0.1~10であることが好ましく、0.2~5であることが更に好ましい。
【0022】
また、図3(b)に示すように、容器30の厚さ方向に沿った断面において、正面側筐体31の中央部分31bの突出端の中心位置Pと、背面側筐体32の周縁部分32aの背面側表面における幅方向の末端位置Q,Rに関し、末端位置Q,Rの一方(本例ではQ)と中心位置Pを繋ぐ線分と、末端位置Q,Rの両者を繋ぐ線分と、がなす角度θを、「突出角度θ」と定義した場合、突出角度θは、11~87度であることが好ましく、21~84度であることが更に好ましい。
【0023】
正面側筐体31と同様、背面側筐体32は、容器30の厚さ方向に沿った断面において、容器30の幅方向両側の周縁部分32aから離れた中央部分32bが、周縁部分32aよりも厚さ方向正面側に突出する突出形状を有する。本例では、背面側筐体32は、正面側筐体31と同様の平坦領域R1及び湾曲領域R2を有する。
【0024】
正面側筐体31と背面側筐体32との間には、上述した突出形状に対応した形状の収容空間Sが画成されている。薬剤揮散体20は、収容空間Sに収容されることで、正面側筐体31及び背面側筐体32の突出形状に沿うように曲がった形状を有するようになっている。具体的には、本例では、図2に示すように、正面側筐体31と背面側筐体32との間に薬剤揮散体20を挟みながら、正面側筐体31と背面側筐体32とを厚さ方向において重ねた状態で接合することにより、収容空間Sに薬剤揮散体20が収容される。薬剤揮散体20は、本例では、上述したような収容空間Sへの収容が可能な程度の柔軟性を有する(詳細は後述される)。
【0025】
正面側筐体31と背面側筐体32との接合には、例えば、係止部材を用いる方法、熱融着による方法、及び、接着剤を用いる方法などを用い得る。係止部材を用いる方法として、例えば、正面側筐体31及び背面側筐体32の一方に図示しない爪部を設け且つ他方に凹部を設け、爪部を凹部に係止させる方法が挙げられる。正面側筐体31と背面側筐体32とは、このような係止部材を用いることで着脱自在に構成されてもよく、熱溶着や接着によって着脱不能に構成されてもよい。
【0026】
図1及び図2に示すように、正面側筐体31は、収容空間Sに収容された薬剤揮散体20を外部に露出させる複数の開口部31cを有する。具体的には、本例では、正面側筐体31の中央部分31bの幅方向一方側に、4つの開口部31cが上下方向に並ぶように配置され、中央部分31bの幅方向他方側に、4つの開口部31cが上下方向に並ぶように配置されている。各々の開口部31cは、正面側筐体31の湾曲領域R2(図3(a)及び図3(b)参照)の形状に沿って湾曲しながら幅方向に延びている。なお、正面側筐体31は、中央部分31bに開口部31cを有してもよい。
【0027】
正面側筐体31と同様、本例では、背面側筐体32の中央部分32bの幅方向一方側に、4つの開口部32cが上下方向に並ぶように配置され、中央部分32bの幅方向他方側に、4つの開口部32cが上下方向に並ぶように配置されている。各々の開口部32cは、背面側筐体32の湾曲領域R2(図3(a)及び図3(b)参照)の形状に沿って湾曲しながら幅方向に延びている。なお、背面側筐体32は、中央部分32bに開口部32cを有してもよい。
【0028】
但し、開口部31c及び開口部32cの数、配置および形状は、開口部31c及び開口部32cを通じて薬剤揮散装置10の周辺の空気が薬剤揮散体20に接触可能である限り、特に制限されない。例えば、薬剤の揮散量や揮散範囲を調整する観点から、開口部31c及び開口部32cの数、配置および形状を適宜調整し得る。また、本例では、正面側筐体31及び背面側筐体32にほぼ同様の数、配置および形状を有する開口部31c及び32cが設けられているが、正面側筐体31と背面側筐体32とに異なる数、配置および形状の開口部31c及び32cが設けられてもよい。更に、正面側筐体31及び背面側筐体32を構成する材料は、特に制限されず、例えば、樹脂、金属、ガラス、紙、木および陶磁器などを用い得る。
【0029】
吊り下げ部33は、薬剤揮散装置10を屋内や屋外の所定箇所に吊り下げるために用いられる。例えば、蚊や蝿などの飛翔害虫が侵入する箇所である建物の出入り口や窓等の開口部の周辺に、吊り下げ部33を用いて薬剤揮散装置10を吊り下げることで、それら害虫を防除できる。また、薬剤揮散装置10は、例えば、トイレや室内の芳香、消臭、及び、除菌などを目的に用いてもよい。
【0030】
薬剤を保持する薬剤揮散体20として、例えば、繊維材を用いたネットが挙げられる。このネットは、一般に、多数の通気孔を有し、薬剤の揮散効果に優れる。ネットに用いる繊維材は、例えば、短繊維または長繊維の糸をレース編みやメリヤス編みなどの手法を用いて編むことで製造し得る。糸の材料として、例えば、パルプ、綿、羊毛、麻および絹などの天然繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリサルフォン、レーヨン、メタアクリル酸樹脂および生分解性樹脂(例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸およびポリ(β-ヒドロキシ酪酸))などが挙げられる。これら材料の1種または2種以上を混合して用いてもよい。特に、強度や加工性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンを用いることが好ましい。更に、例えば、繊維材には、防カビ剤、色素、紫外線吸収剤および香料などの添加物を含有させてもよい。
【0031】
繊維材を用いたネットの開口度合いについて、ネットの総面積に占める通気口部分の総面積の割合は、5~80%であることが好ましく、10~50%であることが更に好ましい。なお、開口度合いが小さいほど薬剤の揮散性が低下する傾向があり、開口度合いが大きいほど単位面積あたりの薬剤の保持量が低下する傾向がある。
【0032】
薬剤揮散体20が保持する薬剤は、常温で揮散しうる薬剤であり、各種の害虫防除剤(殺虫剤および忌避剤等)、芳香剤、消臭・防臭剤、殺菌剤、防カビ剤等の各種薬剤のなかから、目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。薬剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0033】
害虫防除剤としては、例えば、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系等の各種殺虫剤、忌避剤、及び、昆虫成長調節剤などが挙げられる。有機リン系殺虫剤としては、DDVP及びダイアジノン等が挙げられ、カーバメート系殺虫剤としては、プロポクスル等が挙げられ、ピレスロイド系殺虫剤としては、フタルスリン、プラレトリン、テフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、ジメフルトリン、メパフルトリン、プロフルトリン、エンペントリン及びテラレスリン等が挙げられる。これらのうち、プロフルトリン、エンペントリン、トランスフルトリン及びメトフルトリンが、殺虫効果に優れる点で好ましい。また、その他の害虫防除剤として、植物精油、テルペン、及び、これらの異性体や誘導体等が挙げられる。
【0034】
芳香剤としては、例えば、ラベンダー油、じゃ香、竜延香、アビエス油、シトロネラ油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、レモン油、レモングラス油、ナツメッグ油、ハッカ油、オレンジ油、テレピン油およびセイジ油などの精油類、ピネン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、シトロネラール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、アネトール、オイゲノール、アルデヒド、シトラール、シトロネラール、ワニリン、カルボン、ケトン、メントン、アセトフェノン、クマリン、シネオール、酢酸エチル、酢酸オクチル、酢酸リナリル、酢酸ブチルシクロヘキシル、酢酸ブチルシクロヘプチル、イソ酪酸イソプロピル、カプロン酸アリル、安息香酸エチル、桂皮酸メチル及びサリチル酸メチルなどの香料等が挙げられる。
【0035】
消臭・防臭剤としては、例えば、酢酸ベンジル、プロピオン酸ベンジル、アミルシンナミックアルデヒド、アニシックアルデヒド、ジフェニルオキサイド、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、ネオリン、サフロール、シトロネラ油およびレモングラス油等が挙げられる。
【0036】
殺菌剤としては、例えば、IPMP(イソプロピルメチルフェノール)、PCMX(p-クロロ-m-キシレノール)、AIT(アリルイソチオシアネート)、ヒノキチオール、及び、安定化二酸化塩素等が挙げられる。
【0037】
薬剤には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、効力増強剤、揮散率向上剤および安定剤等が挙げられる。添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0038】
揮散率向上剤としては、例えば、フェネチルイソチオシアネート等が挙げられる。安定剤としては、例えば、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル-チオ-ジ-プロピオネート、2,2'-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、4,4'-メチレン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、フェニル-β-ナフチルアミン、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、α-トコフェロール、アスコルビン酸及びエリソルビン酸等が挙げられる。
【0039】
薬剤を薬剤揮散体20に保持させる方法は、特に制限されない。例えば、薬剤を溶剤に溶解させた溶液を調製し、その溶液中に上述したネットを浸漬して薬剤を含浸させる方法、その溶液や薬剤の原体をネットの上に噴霧または滴下してネットに薬剤を含浸させる方法、及び、ネットに薬剤を練り込む方法などを用い得る。更に、必要に応じて、薬剤をネットに含浸させた後、乾燥等によって溶剤を除去してもよい。
【0040】
薬剤の溶液を調製するための溶剤としては、特に制限はないが、例えば、水、ナフテン、灯油、パラフィン等の炭化水素類、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、メタノール、イソプロパノール、1-オクタノール、1-ドデカノール等のアルコール類、アセトン、アセトフェノン等のケトン類、ジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アジピン酸ジオクチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル等のエステル類、キシレン、及び、シリコーンオイル等の1種もしくは2種以上が挙げられる。
【0041】
薬剤揮散体20における薬剤の保持量は、薬剤の種類等を考慮して、所望の効果(揮散性や有効期間)を発揮するように適宜決定されればよい。また、薬剤揮散体20は、交換可能なカートリッジ式に構成されてもよい。薬剤揮散装置10を長期間にわたって使用して薬剤が全て又は殆ど揮散して薬剤の効果が消失または低下した場合、薬剤揮散体20を新たなものに交換することで、優れた効果を再び発揮させることができる。
【0042】
次いで、図4(a)及び図4(b)を参照しながら、薬剤揮散装置10に様々な向きから空気流が流れ込んだ場合における薬剤の揮散の様子について、説明する。なお、図4(a)及び図4(b)に示す断面図においては、便宜上、薬剤揮散体20等の詳細な内部構造の図示を省略している。
【0043】
図4(a)に示すように、薬剤揮散装置10に対して側方(周縁部分31aに対面する側)から空気流Aが流れ込んだ場合、空気流Aの一部は、空気流A1に示すように、容器30の正面側の表面(上述した平坦領域R1及び湾曲領域R2)に沿って向きを変えながら、薬剤揮散装置10の正面側(中央部分31bが突出する側)に向けて流れ出る。これにより、容器30の正面側筐体31に設けられた開口部31cを通じて空気流が薬剤揮散体20に接触し、薬剤揮散装置10の正面側に薬剤が適正に揮散される。
【0044】
更に、空気流Aの他の一部は、空気流A2に示すように、正面側筐体31の開口部31c、薬剤揮散体20及び背面側筐体32の開口部32cを厚さ方向に貫通し、薬剤揮散装置10の背面側に向けて流れ出る。これにより、薬剤揮散装置10の背面側に薬剤が適正に揮散される。
【0045】
更に、薬剤揮散体20の背面側に流れ出た空気流A2の一部は、空気流A3に示すように、背面側筐体32の開口部32c、薬剤揮散体20及び正面側筐体31の開口部31cを厚さ方向に再び貫通し、薬剤揮散装置10の幅方向外側(図中の右側)に向けて流れ出る。これにより、薬剤揮散装置10の幅方向外側に薬剤が適正に揮散される。
【0046】
また、図4(b)に示すように、薬剤揮散装置10に対して正面側(中央部分31bに対面する側)から空気流Bが流れ込んだ場合、空気流Bの一部は、空気流B1及びB2に示すように、容器30の正面側の表面(上述した平坦領域R1及び湾曲領域R2)に沿って向きを変えながら、薬剤揮散装置10の幅方向外側(周縁部分31aが突出する側)に向けて流れ出る。これにより、容器30の正面側筐体31に設けられた開口部31cを通じて空気流が薬剤揮散体20に接触し、薬剤揮散装置10の幅方向外側に薬剤が適正に揮散される。
【0047】
更に、空気流Bの他の一部は、空気流B3に示すように、正面側筐体31の開口部31c、薬剤揮散体20及び背面側筐体32の開口部32cを厚さ方向に貫通し、薬剤揮散装置10の背面側に向けて流れ出る。これにより、薬剤揮散装置10の背面側に薬剤が適正に揮散される。なお、薬剤揮散体20に対して背面側から空気流が流れ込む場合も、図4(b)と実質的に同様の経路に沿って、薬剤が揮散されることになる。
【0048】
図4(a)及び図4(b)を参照しながら説明したように、薬剤揮散装置10を用いることで、薬剤揮散装置10に対して側方から空気流Aが流れ込んだ場合であっても、薬剤揮散装置10に対して正面側から空気流Bが流れ込んだ場合であっても、薬剤揮散装置10の周辺に薬剤が適正に揮散されることになる。換言すると、薬剤揮散装置10に流れ込む空気流の向きに起因する薬剤の揮散量や揮散範囲のばらつきが抑制される。
【0049】
(薬剤揮散装置の評価試験)
次いで、薬剤揮散装置10の害虫防除効果を評価するために行った試験およびその結果について、説明する。
【0050】
実施例として、以下に記載する形状の容器30及び薬剤揮散体20を用いて、薬剤揮散装置10を構成した。溶剤としての流動パラフィン250mgと、害虫防除成分としてのトランスフルトリン500mgと、を混合した薬剤を薬剤揮散体20に滴下し、含浸させた。なお、この含浸量を薬剤揮散体20の単位面積あたりに換算すると、3.6mg/cmである。
【0051】
実施例に係る容器30は、全体として図1図2図3(a)及び図3(b)に示す長方形状の形状を有する。具体的には、容器30は、図1の上下方向における高さが17cmであり、図1の幅方向における幅が11cmであり、図3(a)に示す厚さDが1cmである。また、図3(a)に示す定義における容器30の突出量X(=A/Z)は0.27であり、図3(b)に示す定義における容器30の突出角度θは29度である。正面側筐体31の開口部31cの開口率は30%であり、背面側筐体32の開口部32cの開口率は25%である。
【0052】
実施例に係る薬剤揮散体20は、全体として図2に示す長方形状の形状を有する。具体的には、薬剤揮散体20は、図2の上下方向における高さが14cmであり、図2の幅方向における幅が10cmであり、図2の厚さ方向における厚さが0.9mmである、薄板状の形状を有する。薬剤揮散体20は、ポリエステルから構成されており、ネット状の構造を有する。
【0053】
また、比較例として、以下に記載する形状の容器及び薬剤揮散体を用いて、薬剤揮散装置90を構成した。薬剤揮散体は、上述した実施例と同様の手法を用いて、溶剤としての流動パラフィン250mgと、害虫防除成分としてのトランスフルトリン500mgと、を混合した薬剤を含浸させた。なお、この含浸量を薬剤揮散体の単位面積あたりに換算すると、3.6mg/cmである。
【0054】
比較例に係る容器は、実施例に係る容器30のような突出形状を有さない平坦な形状を有する。具体的には、比較例に係る容器は、高さが17cmであり、幅が11cmであり、厚さが1cmである、薄板状の直方体状の形状を有する。また、この容器は、実施例に係る容器30と同様に正面側筐体および背面側筐体を有し、正面側筐体の開口部の開口率は30%であり、背面側筐体の開口部の開口率は25%である。
【0055】
比較例に係る薬剤揮散体は、上述した比較例に係る容器に対応した平坦な形状を有する。具体的には、比較例に係る薬剤揮散体は、高さが14cmであり、幅が10cmであり、厚さが0.9mmである、薄板状の形状を有する。この薬剤揮散体は、ポリエステルから構成されている。
【0056】
図5に示すように、実施例に係る薬剤揮散装置10を試験室(8畳:縦3.6m×横3.6m×高さ2.4m)の室内中央の床から100cmの高さに配置し、供試虫としてヒトスジシマカ成虫(約20頭)を収容したケージを試験室の壁面に沿った5箇所(図中の番号1~5に示す第1~第5箇所)の床から75cmの高さに配置した。なお、ケージを配置する第1箇所は、薬剤揮散装置10の側方(即ち、空気流が流入する側とは逆側)にある。第2箇所は、薬剤揮散装置10の側方と正面側との間にある。第3箇所は、薬剤揮散装置10の正面側にある。第4箇所は、薬剤揮散装置10の背面側にある。第5箇所は、薬剤揮散装置10の背面側と側方との間にある。薬剤揮散装置10及び各ケージは、約1.5mの間隔を開けて配置されている。
【0057】
そして、薬剤揮散装置10の側方から風速0.2m/sの空気流を流入させ、供試虫の50%がノックダウンするまでの時間(KT50)をケージ毎に測定した。更に、比較例の薬剤揮散装置90についても、同様の試験を行った。試験結果を以下の表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示した実施例と比較例との比較から理解されるように、空気流と薬剤揮散装置10の延長線上にあるケージ位置(第1箇所)については実施例と比較例のKT50の値に実質的な差はないものの、実施例に係る薬剤揮散装置10は、比較例に係る薬剤揮散装置90に比べ、空気流と薬剤揮散装置10の延長線上にないケージ位置(第2箇所~第5箇所)にも安定してノックダウン効果があり、各ケージにおける害虫防除効果のばらつきが小さいことが明らかになった。即ち、薬剤揮散装置10の側方から空気流が流入した場合であっても、薬剤揮散装置10の周辺のあらゆる箇所に薬剤が拡散し、害虫防除効果を適正に発揮できることが明らかになった。
【0060】
これらの結果から、薬剤揮散装置10は、比較例の薬剤揮散装置90に比べ、薬剤揮散装置10に流れ込む空気流の向きに起因する薬剤の揮散量や揮散範囲のばらつきを抑制できることが明らかになった。
【0061】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0062】
例えば、上記実施形態では、薬剤揮散体20の容器30は、図1図2図3(a)及び図3(b)に示す形状を有している。しかし、容器30の形状は、容器30の厚さ方向に沿った断面において容器30の周縁部分31aから離れた中央部分31bが周縁部分31aよりも厚さ方向に突出する突出形状を有すればよく、図1図2図3(a)及び図3(b)に示す形状に限定されない。例えば、容器30は、図6(a)に示すような中央部分31bが周縁部分31aよりも突出し且つ中央部分31bと周縁部分31aとの間が円弧状の突出形状を有してもよいし、図6(b)に示すような中央部分31bが周縁部分31aよりも突出し且つ中央部分31bと周縁部分31aとの間が平板状の突出形状を有してもよい。なお、図6(a)及び図6(b)に示す断面図においては、便宜上、薬剤揮散体20等の詳細な内部構造の図示を省略している。後述する図7(a)及び図7(b)に示す断面図においても、同様である。
【0063】
更に、例えば、容器30は、図7(a)に示すように、周縁部分31aから離れた複数の(本例では2つの)部分31dが周縁部分31aよりも厚さ方向に出し、これら部分31dと周縁部分31aとの間が円弧状であり且つこれら部分31dと中央部分31bとの間が円弧状である、突出形状を有してもよい。また、容器30は、図7(b)に示すように、複数の(本例では2つの)部分31dが周縁部分31aよりも厚さ方向に突出し、これら部分31dと周縁部分31aとの間が平板状であり且つこれら部分31dと中央部分31bとの間が平板状である、突出形状を有してもよい。
【0064】
ここで、上述した本発明に係る薬剤揮散装置10の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に記載する。
[1]
常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体(20)と、前記薬剤揮散体(20)を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体(20)を外部に露出させる開口部(31c,32c)を有する容器(30)と、を備えた薬剤揮散装置(10)であって、
前記容器(30)は、
当該容器(30)の厚さ方向に沿った所定の断面において、当該容器(30)の周縁部分(31a,32a)から離れた部分(31b,32b,31d)が前記周縁部分(31a,32a)よりも前記厚さ方向に突出する突出形状を有するように構成される、板状の構造を有し、
前記薬剤揮散体(20)は、
前記突出形状に沿うように曲がった形状を有する、
薬剤揮散装置。
[2]
上記[1]に記載の薬剤揮散装置(10)において、
前記容器(30)は、
前記厚さ方向における一方側の面及び他方側の面の双方が前記突出形状を有するように構成される、
薬剤揮散装置。
[3]
上記[1]又は上記[2]に記載の薬剤揮散装置(10)において、
前記容器(30)は、
前記断面における前記突出形状が当該容器(30)の中央部分を挟んで線対称な形状であるように構成される、
薬剤揮散装置。
[4]
上記[1]~上記[3]の何れか一つに記載の薬剤揮散装置(10)において、
前記薬剤は、
プロフルトリン、エンペントリン、トランスフルトリン及びメトフルトリンからなる薬剤群から選ばれる少なくとも一つを含む、
薬剤揮散装置。
【0065】
本出願は、2019年2月14日出願の日本特許出願(特願2019-024600)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の薬剤揮散装置は、薬剤揮散装置の周辺を流れる空気の向き(風向き)に起因する薬剤の揮散量などのばらつきを抑制できる。この効果を有する本発明は、例えば、蚊などの害虫の防除に利用され得る。
【符号の説明】
【0067】
10 薬剤揮散装置
20 薬剤揮散体
30 容器
31 正面側筐体
32 背面側筐体
31a,32a 周縁部分
31b,32b 中央部分
31c,32c 開口部
33 吊り下げ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7