(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】酸素濃縮装置
(51)【国際特許分類】
A61M 16/10 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
A61M16/10 B
(21)【出願番号】P 2021000420
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】篠原 康一
(72)【発明者】
【氏名】山浦 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】手島 光則
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-226383(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052803(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0384142(US,A1)
【文献】国際公開第2020/100996(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素よりも窒素を優先的に吸着する吸着剤を充填した吸着筒と、
前記吸着筒に加圧空気を供給する加圧空気供給部と、
前記吸着筒によって生成された濃縮酸素ガスを貯留する酸素ガスタンクと、を有する酸素濃縮装置であって、
前記酸素ガスタンクに貯留された濃縮酸素ガスを使用者に供給する酸素供給部と、
前記酸素ガスタンク内のガスを系外に放出する排気部と、
前記酸素ガスタンクと前記酸素供給部を接続し、前記酸素ガスタンクから前記酸素供給部へのガス流路を開閉する供給流路開閉部と、
前記酸素ガスタンクと前記排気部を接続し、前記酸素ガスタンクから前記排気部へのガス流路を開閉する排気流路開閉部と、
前記供給流路開閉部、及び前記排気流路開閉部の開閉制御を行なう制御部と、を有し、
前記制御部は、前記酸素濃縮装置の始動期間は、前記供給流路開閉部を閉状態に制御し、前記排気流路開閉部を開状態に制御する始動制御を行う酸素濃縮装置。
【請求項2】
前記制御部が、所定の始動期間が経過したか否かにより、始動制御の終了判定を行う始動制御終了判定部を更に有する、請求項1に記載の酸素濃縮装置。
【請求項3】
更に前記酸素ガスタンクから排気するガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定部を有し、
前記制御部が、前記酸素濃度測定部の測定値が所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動制御の終了判定を行う始動制御終了判定部を更に有する、請求項1に記載の酸素濃縮装置。
【請求項4】
約40%の濃度の濃縮酸素ガスを使用者に供給する請求項1~3のいずれかに記載の酸素濃縮装置。
【請求項5】
酸素濃縮装置の始動期間は、供給流路開閉部を閉状態に制御し、排気流路開閉部を開状態に制御する始動制御を行う、請求項1~4のいずれかの酸素濃縮装置の制御方法。
【請求項6】
酸素濃縮装置の始動期間は、供給流路開閉部を閉状態に制御し、排気流路開閉部を開状態に制御する始動制御を行う、請求項1~4のいずれかの酸素濃縮装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の酸素を分離濃縮し使用者に供給する酸素濃縮装置に関する。さらに詳細には、装置停止中や保管時の環境温度変化よって吸着筒及び/又は酸素ガスタンク等に滞留した高濃度窒素ガスを使用者に供給しないよう、排気制御する手段を備えることを特徴とする酸素濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、喘息、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎等の呼吸器系器官の疾患に苦しむ患者が増加する傾向にあるが、その効果的な治療法のひとつに酸素吸入療法がある。かかる酸素吸入療法とは、酸素ガスあるいは酸素濃縮ガスを患者に吸入させるものである。その供給源として、酸素濃縮装置、液体酸素、酸素ガスボンベ等が知られているが、使用時の便利さや保守管理の容易さから、在宅酸素療法には酸素濃縮装置が主に用いられている。
【0003】
酸素濃縮装置は、空気中に存在する約21%の酸素を分離濃縮して患者供給ガスとして患者に供給する装置であり、高濃度の酸素が得られる点から、現在では酸素より窒素を優先的に吸着しうる吸着剤を用いた圧力変動吸着型酸素濃縮装置が主流になっている。圧力変動吸着型酸素濃縮装置では一般的に酸素濃度を約90%前後に保ち、生成した酸素の流量を調整することで酸素投与量を調節している。
【0004】
必要な酸素の流量は、少ない場合では流量が0.25L/分程度の場合もあり、多い場合には7L/分程度の場合もある。しかしながら、新生児や乳幼児あるいは軽症患者に対しては、さらに少量の酸素を、患者の様態に合わせて投与したいという要望がある。
【0005】
低酸素濃縮ガスが必要とされる患者に対して、40%などの低濃度酸素濃縮ガスを供給する酸素濃縮装置として、特許文献1は、吸着床からの酸素濃縮ガスの取出量を一定に制御しながら、生成された濃縮酸素ガスの一部を酸素ガスタンクから系外に排気制御することで、安定的に低濃度の酸素ガスを供給する酸素濃縮装置を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸素濃縮装置の吸着剤に用いられるゼオライトは、温度が低い場合は窒素吸着量が大きくなり、温度が高い場合には窒素吸着量が少なくなり、窒素が吸着剤から脱着されるという温度特性を有している。約40%などの低濃度酸素濃縮ガスを供給する酸素濃縮装置では、酸素ガスタンク内の酸素濃度が通常運転時であっても約40%であることから、ゼオライトの温度特性により、装置停止中や保管時の環境温度が、低温から高温に変化することによって、吸着筒及び/又は製品タンク等に大気酸素濃度以下の高濃度窒素ガスが滞留する可能性があることが見いだされた。その状態で装置を起動させると、大気酸素濃度以下の低酸素ガスが使用者側に供給されてしまう恐れがある。これは、酸素欠乏症等防止規則(昭和47年9月30日労働省令第42号)の観点からも対処すべき課題である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、装置停止中や保管時の環境温度変化よって、吸着筒及び/又は酸素ガスタンク等に滞留した大気酸素濃度以下の低酸素ガス(高濃度窒素ガス)を、使用者に供給しない酸素濃縮装置を提供する
ことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、装置停止中や保管時の環境温度変化よって、吸着筒及び/又は酸素ガスタンク等に滞留している可能性のある大気酸素濃度以下の高濃度窒素ガスを使用者に供給しないよう、酸素濃縮装置の始動期間は、酸素ガスタンク内のガスを系外に排気制御する手段を備えることを特徴とする酸素濃縮装置、その酸素濃縮装置の制御方法、及びその酸素濃縮装置の制御プログラムであり、以下の実施形態を含む。
【0010】
本発明の実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、
酸素よりも窒素を優先的に吸着する吸着剤を充填した吸着筒と、
前記吸着筒に加圧空気を供給する加圧空気供給部と、
前記吸着筒によって生成された濃縮酸素ガスを貯留する酸素ガスタンクと、を有する酸素濃縮装置であって、
前記酸素ガスタンクに貯留された濃縮酸素ガスを使用者に供給する酸素供給部と、
前記酸素ガスタンク内のガスを系外に放出する排気部と、
前記酸素ガスタンクと前記酸素供給部を接続し、前記酸素ガスタンクから前記酸素供給部へのガス流路を開閉する供給流路開閉部と、
前記酸素ガスタンクと前記排気部を接続し、前記酸素ガスタンクから前記排気部へのガス流路を開閉する排気流路開閉部と、
前記供給流路開閉部、及び前記排気流路開閉部の開閉制御を行なう制御部と、を有し、
前記制御部は、前記酸素濃縮装置の始動期間は、前記供給流路開閉部を閉状態に制御し、前記排気流路開閉部を開状態に制御する始動制御を行う酸素濃縮装置である。
【0011】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、前記制御部が、所定の始動期間が経過したか否かにより、始動制御の終了判定を行う始動制御終了判定部を更に有することが好ましい。
【0012】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、更に前記酸素ガスタンクから排気するガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定部を有し、
前記制御部が、前記酸素濃度測定部の測定値が所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動制御の終了判定を行う始動制御終了判定部を更に有することが好ましい。
【0013】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、約40%の濃度の濃縮酸素ガスを使用者に供給する酸素濃縮装置においてより適している。
【0014】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置の制御方法は、酸素濃縮装置の始動期間は、供給流路開閉部を閉状態に制御し、排気流路開閉部を開状態に制御する始動制御を行う。
【0015】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置の制御プログラムは、酸素濃縮装置の始動期間は、供給流路開閉部を閉状態に制御し、排気流路開閉部を開状態に制御する始動制御を行う。
【発明の効果】
【0016】
本実施形態によれば、装置停止中や保管時の環境温度変化によって吸着筒及び/又は酸素ガスタンク等に大気酸素濃度以下の高濃度窒素ガスが滞留していた場合であっても、大気酸素濃度以下の低酸素ガス(高濃度窒素ガス)を使用者に供給せず排気することが可能となる。
【0017】
本発明の目的及び効果は、特に特許請求の範囲において指摘される構成要素及び組み合
わせを用いることによって認識され且つ得られるだろう。前述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る酸素濃縮装置の機能ブロック図である。
【
図2】別の実施形態に係る酸素濃縮装置の機能ブロック図である。
【
図4】始動制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】約40%の低濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置における、始動後の酸素濃度推移の一例を示し、(a)は従来の始動制御処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示し、(b)は本実施形態の始動制御処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示す図である。
【
図6】90%以上の高濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置における、従来の始動制御処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の一側面に係る酸素濃縮装置について、図を参照しつつ説明する。但し、本開示の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。なお、以下の説明及び図において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
[実施形態に係る酸素濃縮装置の概要]
図1は、実施形態に係る酸素濃縮装置の機能ブロック図である。
【0021】
酸素濃縮装置は、酸素よりも窒素を優先的に吸着する吸着剤を充填した吸着筒2と、前記吸着筒に加圧空気を供給する加圧空気供給部1と、前記吸着筒によって生成された濃縮酸素ガスを貯留する酸素ガスタンク3とを有し、さらに酸素ガスタンク3に貯留された濃縮酸素ガスを使用者に供給する酸素供給部9と、酸素ガスタンク3内のガスを系外に放出する排気部10と、酸素ガスタンク3と酸素供給部9を接続し、酸素ガスタンクから酸素供給部9へのガス流路を開閉する供給流路開閉部5と、酸素ガスタンク3と排気部10を接続し、酸素ガスタンク3から排気部10へのガス流路を開閉する排気流路開閉部8と、供給流路開閉部5、及び排気流路開閉部8の開閉制御を行なう制御部12とを有する。酸素濃縮装置は、原料空気Aから濃縮酸素ガスCを生成し、生成した濃縮酸素ガスCを、酸素濃縮装置を使用する患者である使用者の鼻孔に出力する酸素ガス生成処理を実行する。
【0022】
まず、外部から取り込まれる原料空気は、塵埃などの異物を取り除くための外部空気取り込みフィルタなどを備えた空気取り込み口から取り込まれる。外部空気取入フィルタを通して取り込まれた空気を、加圧空気供給部1が、圧縮して加圧空気Bを生成し、生成した加圧空気Bを切換部16を介して一対の吸着筒2の何れか一方に供給する。加圧空気供給部1は、コンプレッサとも称され、例えば、揺動型空気圧縮機、並びにスクリュー式、ロータリー式及びスクロール式等の回転型空気圧縮機がある。
【0023】
切換部16は、例えば直動式電磁弁又はパイロット式電磁弁と、及び配管とで形成されるバルブマニホールドである。切換部16は、制御部から入力される制御信号に応じて、一対の吸着筒2に供給される加圧空気の供給経路、及び一対の吸着筒2から排出される窒素ガスの排出経路を切り換える。
【0024】
一対の吸着筒2は、加圧空気中の酸素ガスよりも窒素ガスを選択的に吸着するゼオライトが吸着剤として充填されている。ゼオライトは、切換部16を介して加圧空気供給部1
から供給される加圧空気に約78%含有される窒素ガスを選択的に吸着する。
【0025】
一対の吸着筒2は、加圧空気供給部1から切換部16を介して供給される加圧空気から窒素ガスを吸着して、酸素ガスを生成する。一方の吸着筒2が酸素ガスを生成する間、他方の吸着筒2は吸着した窒素ガスEを切換部16を介して酸素濃縮装置の外部に排出する。一対の吸着筒2が交互に酸素ガスを生成することで、酸素濃縮装置は、連続して酸素ガスを生成することができる。なお、酸素濃縮装置は、一対の吸着筒2を有するが、実施形態に係る酸素濃縮装置は、3つ以上の吸着筒を有してもよい。
【0026】
一対の逆止弁は、一対の吸着筒2のそれぞれと酸素ガスタンク3との間に配置される。逆止弁は、吸着筒2が酸素ガスCを生成する間、開状態になり、吸着筒2により生成された酸素ガスCを酸素ガスタンク3に流入させる。また、逆止弁は、吸着筒2が吸着した窒素ガスDを切換部16を介して酸素濃縮装置の外部に排出する間、閉状態になり、酸素ガスタンク3に貯蔵された酸素ガスが吸着筒2を介して酸素濃縮装置の外部に排出することを防止する。
【0027】
酸素ガスタンク3は、製品タンクとも称され、一対の吸着筒2のそれぞれで生成された酸素ガスを貯蔵する。酸素ガスタンク3の内圧は、濃縮酸素ガスの生成に伴う吸着筒2のそれぞれの内圧の変化に応じて変動する。濃縮酸素ガスの生成に伴い内圧が変動する酸素ガスタンク3から出力される濃縮酸素ガスの圧力を所定の圧力に保つために、例えば減圧弁などの調圧弁4が設けられる。酸素ガスタンク3に貯蔵された濃縮酸素ガスは、調圧弁4により所定圧力に調整されたのち、鼻カニューラ等の酸素供給部9に向かうガス流路を通って、酸素供給部9により使用者に供給される。酸素ガスタンク3から酸素供給部9へのガス流路の間には、酸素ガスタンク3から酸素供給部9へのガス流路を開閉する供給流路開閉部5が配置される。
【0028】
さらに、酸素ガスタンク3から酸素供給部9へのガス流路には、流量測定部6、及び第1酸素濃度測定部7が接続されていてもよい。流量測定部6は、酸素ガスCの流量を計測するためのものであり、例えば、ロータメータ式及び超音波式の流量センサである。第1酸素濃度測定部7は酸素ガスCの濃度を計測するためのものであり、例えばジルコニア式やガルバニ電池式及び超音波式の酸素濃度センサである。
【0029】
酸素ガスタンク3から酸素供給部9へのガス流路には、さらに、出口フィルタや加湿器を配置してもよい。出口フィルタは、酸素ガス生成過程で生じた酸素ガスCに含まれる塵埃などの異物を取り除くエアフィルタである。加湿器は、吸着筒2によって生成された酸素ガスCは乾燥状態にあるので使用者の鼻孔乃至気道内の乾燥を防ぐため、適度に加湿した酸素ガスCを供給する。加湿器は、例えばバブリング式もしくは表面蒸発式の水加湿器、又は水分透過膜を利用し大気湿度で加湿する無給水加湿器である。
【0030】
実施形態に係る酸素濃縮装置は、装置停止中や保管時の環境温度変化よって、吸着筒及び/又は酸素ガスタンク等に滞留している可能性のある大気酸素濃度以下の低酸素ガス(高濃度窒素ガス)を使用者に供給しないよう、酸素ガスタンク3内のガスを系外に放出する排気部10を有する。排気においては、酸素ガスタンク3内のガスは、調圧弁4により所定圧力に調整されたのち、排気部10に向かうガス流路を通って装置外部に排気される。排気部10は、例えば、ファン(軸流ファン又は遠心ファン又はブロアファン)及び配管等で形成される排気ダクトである。酸素ガスタンク3から排気部10へのガス流路の間には、酸素ガスタンクから排気部へのガス流路を開閉する排気流路開閉部8が配置される。
【0031】
供給流路開閉部5、及び排気流路開閉部8の開閉は、制御部12によって制御される。
供給流路開閉部5、及び排気流路開閉部8の開度を適切に制御することによって、酸素濃度を所定値に制御される。供給流路開閉部5、及び排気流路開閉部8は、例えば電磁弁やコントロールバルブ(ソレノイドバルブ、ピエゾバルブ)等であり、制御部12から入力される流量出力信号に従って開度が調整される。
【0032】
制御部12は、流量測定部6又は第1酸素濃度測定部7による計測結果に基づいて供給流路開閉部5の開度を調整し放出量を制御することができる。さらに、第2酸素濃度測定部13を設けることで、制御部12は、第2酸素濃度測定部13による計測結果に基づいて、供給流路開閉部5の閉時間を調整し、ならびに排気流路開閉部8の開度及び開時間を調整し放出量を制御することができる(その実施形態については
図2参照)。
【0033】
流量測定部6、第1酸素濃度測定部7、および第2酸素濃度測定部13で取得された濃度データと流量データは、制御部12に送信される。制御部12は、各データの分析を行い、使用者に供給される酸素ガスCの品質が維持されるように、加圧空気供給部1、切換部16、供給流路開閉部5、及び排気流路開閉部8を制御する。したがって、制御部12は、加圧空気供給部1、切換部16、供給流路開閉部5、及び排気流路開閉部8と通信可能に接続されている。なお、制御部12は、酸素濃縮装置の他の構成要素、例えば、加湿器と通信可能に接続され、加湿器による加湿度を制御してもよい。
【0034】
また、例えば、供給流路開閉部5及び排気流路開閉部8に比例制御弁を用いれば、通常運転時に第1酸素濃度測定部7で測定された酸素濃度が設定値を下回る場合は、排気流路開閉部8の開度を小さくし、設定値を上回る場合は排気流路開閉部8の開度を大きくするように、取得された濃度データと流量データに基づいて供給流路開閉部5及び排気流路開閉部8の開度を制御することができる。さらに始動期間において、第2酸素濃度測定部13で測定された酸素濃度が、大気酸素濃度よりもはるかに下回る場合は、排気流路開閉部8の開度を大きくするなど、排気流路開閉部8の開度を制御することもできる。
【0035】
[制御部]
図3は、制御部12のブロック図である。
制御部12は、制御記憶部14と、制御処理部15とを有する。制御記憶部14は、1又は複数の半導体メモリにより構成される。例えば、RAMや、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性メモリの少なくとも一つを有する。制御記憶部14は、制御処理部15による処理に用いられるドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。
【0036】
制御記憶部14に記憶されるアプリケーションプログラムは、酸素ガスCを生成して、生成した酸素ガスを使用者の鼻孔に出力する酸素ガス生成処理を実行するための種々のプログラムを含む。例えば、アプリケーションプログラムは、加圧空気供給量処理プログラム、切換制御プログラム、酸素ガス流量調整プログラム、及び始動制御プログラムを含む。
【0037】
加圧空気供給量処理プログラムは、加圧空気供給部1の加圧空気供給量を制御する加圧空気供給量制御処理を制御処理部15に実行させるプログラムである。切換制御プログラムは、切換部16による一対の吸着筒2のそれぞれの切換時間を制御する切換制御処理を制御処理部15に実行させるプログラムである。酸素ガス流量調整プログラムは、供給流路開閉部5が酸素ガスCの流量を調整するように制御する流量調整制御処理を制御処理部15に実行させるプログラムである。始動制御プログラムは、酸素濃縮装置を始動する始動制御処理を制御処理部15に実行させるプログラムである。
【0038】
制御記憶部14は、所定の処理に係る一時的なデータを一時的に記憶してもよい。制御
記憶部14は、設定流量141、設定データテーブル142、加圧空気供給制御パラメータファイル143、流量調整制御パラメータファイル144、及び切換制御パラメータファイル145等を記憶する。設定流量141は、使用者に供給すべき酸素ガスCの流量であって、医師の処方箋に従い設定される。
【0039】
設定データテーブル142は、設定供給量、及び始動期間等を含む設定データを、設定流量と関連付けて記憶する。設定データテーブル142は、酸素濃縮装置の機種によっても異なるが、例えば、「0.25LPM」、「1.00LPM」、「3.00LPM」及び「5.00LPM」等の設定流量に関連付けて設定供給量、及び始動期間等を記憶する。LPMは、リッター・パー・ミニッツの略であり、1分間当たりの酸素ガス等の流量のリットル単位で示す。
【0040】
設定データテーブル142において、「設定流量」は医師の処方箋に従い使用者に供給すべき酸素の流量を示し、「設定供給量」は設定流量に応じた加圧空気の供給量を示し、「始動期間」は酸素ガスタンク内のガスを系外に排気制御すると共に、供給流路開閉部5を閉状態から開状態に切換えるまでの始動からの期間を示す。
【0041】
始動期間は、酸素欠乏症防止の観点では、起動時の酸素供給濃度が18%を超えると判断される期間に設定されればよく、大気酸素濃度である21%を超えると判断される期間に設定されてもよい。始動期間は、吸着剤に用いられているゼオライトが窒素ガスを吸着し酸素ガスに濃縮される時間の影響を受けるため、充填されている吸着剤の量、供給流量、酸素ガスタンク容積や吸着筒容積等によって変化するが、吸着筒それぞれに対して、1サイクルの、加圧空気の供給、窒素ガスの吸着、および酸素ガスの生成がなされ、且つ、酸素ガスタンク容積が生成された酸素ガスで置き換わる程度の時間が必要である。例えば、約40%の低濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置(0.25LPM)の場合は、例えば50秒未満である。始動期間は、始動時の供給流量および取出流量に関連するため、加圧空気供給部1が、例えば、酸素濃縮装置の最大の設定流量に対応する供給量で加圧空気を供給し、設定可能な最大の設定流量で酸素ガスタンク3からガスを取出す場合、始動期間は、例えば、40秒未満とすることもできる。
【0042】
加圧空気供給制御パラメータファイル143は、加圧空気供給量制御処理を制御処理部15が実行するときに使用されるモータの回転数等のパラメータを記憶する。流量調整制御パラメータファイル144は、流量調整制御処理を制御処理部15が実行するときに使用される電磁弁の開度の調整等のパラメータを記憶する。切換制御パラメータファイル145は、切換制御処理を制御処理部15が実行するときに使用される電磁弁の切り換えタイミング等のパラメータを記憶する。
【0043】
制御処理部15は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。制御処理部15は、酸素濃縮装置の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、MCU(Micro Control Unit)等のプロセッサである。
【0044】
制御処理部15は、制御記憶部14に記憶されているプログラム(オペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、制御処理部15は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行してもよい。制御処理部15は、処理開始信号取得部151、設定流量取得部152、設定データ取得部153、加圧空気供給制御部154、流量調整制御部155、切換制御部156、計時部157、操作制御部158、始動制御終了判定部159等を有する。
【0045】
制御処理部15が有するこれらの各部は、独立した集積回路、回路モジュール、マイク
ロプロセッサ、又はファームウェアとして制御部12に実装されてもよい。
【0046】
[始動制御フロー]
大気酸素濃度以下の低酸素ガス(高濃度窒素ガス)が吸着筒及び/又は酸素ガスタンク等に滞留している可能性のあるのは、装置停止中や保管時であるので、実施形態に係る酸素濃縮装置は、酸素濃縮装置の始動期間において、酸素ガスタンク内のガスを系外に排気制御する。すなわち、酸素濃縮装置の始動期間は、供給流路開閉部5は閉状態に制御され、排気流路開閉部8は開状態に制御される始動制御を行う。
【0047】
図4は、制御処理部15により実行される始動制御処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示す始動制御処理は、予め制御記憶部14に記憶されている始動制御プログラムに基づいて、主に制御処理部15により酸素濃縮装置の各要素と協働して実行される。
【0048】
まず、処理開始信号取得部151は、外部入力部11の運転ボタンの押下により送信される処理開始信号を取得したか否かを判定する(ST601)。処理開始信号取得部151によって処理開始信号を取得したと判定する(ST601:YES)まで、ST601の処理を繰り返す。
【0049】
処理開始信号取得部151によって処理開始信号を取得したと判定される(ST601:YES)と、設定流量取得部152は、制御記憶部14に記憶される設定流量141を取得する(ST602)。
【0050】
設定データ取得部153は、制御記憶部14に記憶される設定データテーブル142から、ST602の処理で取得した設定流量141に一致する設定流量に関連付けられた設定データを取得する(ST603)。設定データ取得部153が取得する設定データは、設定流量141に一致する設定流量に関連付けられた、設定供給酸素濃度、設定酸素供給流量、始動期間、及び始動時排気流量を含む。
【0051】
流量調整制御部155は、酸素濃縮装置の始動期間は、供給流路開閉部5及び排気流路開閉部8に開閉信号を出力するとともに、ST603の処理で取得された始動時排気流量を出力することを示す排気信号を、供給流路開閉部5及び排気流路開閉部8に出力する(ST604)。供給流路開閉部5及び排気流路開閉部8は、開閉信号が入力されることに応じて、供給流路開閉部5は閉状態に制御され、排気流路開閉部8は開状態に制御され、ST603の処理で取得された始動時排気流量のガスの出力を開始する。
【0052】
加圧空気供給制御部154は、ST603の処理で取得された設定供給量を供給することを示す設定供給量供給信号を加圧空気供給部1に出力する(ST605)。加圧空気供給部1は、設定供給量供給信号が入力されることに応じて、ST603の処理で取得された設定供給量の加圧空気Bの供給を開始する。なお、ST604とST605の順序は入れ替えてもよい。
【0053】
計時部157は、流量調整制御部155によって設定流量出力信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間の計測を開始する(ST606)。なお、酸素濃縮装置の電源がオン又は運転ボタンがオンされてから経過時間計測の開始(ST606)までは数秒で行われる。
【0054】
始動制御終了判定部159は、第2酸素濃度測定部13より酸素濃度を取得する(ST607)。始動制御終了判定部159は、設定供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達したか否か、又は、第2酸素濃度測
定部13にて酸素濃度が所定の酸素濃度(始動時酸素濃度)に達しているか否かを判定することにより、始動制御の終了判定を行う(ST608)。なお、始動制御終了判定部159によるST608の判定は、(1)設定供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達したか否か、(2)第2酸素濃度測定部13にて酸素濃度が所定の酸素濃度に達しているか否か、の2つの条件(1)と(2)の両方が成立することを含む。
図4は2つの条件(1)と(2)の両方が成立する場合の例を示したが、当然のことながら、いずれか一方の条件のみの成立とすることとしてもよい。また、(1)経過時間が始動期間に達したか否かのみで判定される場合、ST607の処理はスキップしてもよい。
【0055】
始動制御終了判定部159が、始動供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達しておらず、且つ、第2酸素濃度測定部13にて酸素濃度が所定の酸素濃度に達していないと判定したとき(ST608:NO)、処理はST606に戻る。計時部157は、始動供給量供給信号が出力されてからの経過時間を計測し続ける(ST606)。
【0056】
始動制御終了判定部159が、設定供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達した、又は、酸素濃度が所定の酸素濃度に達した、と判定したとき(ST608:YES)、流量調整制御部155は、ST603の処理で取得された、設定供給酸素濃度及び設定酸素供給流量に基づいて設定されている設定流量を出力することを示す設定流量出力信号を供給流路開閉部5に出力する(ST609)。供給流路開閉部5は、設定流量出力信号の入力に応じて、供給流路開閉部5の開度を制御する。流量調整制御部155は、ST603の処理で取得された、設定供給酸素濃度及び設定酸素供給流量に基づいて設定されている排気流量を示す排気流量出力信号を排気流路開閉部8に出力する(ST610)。排気流路開閉部8は、排気流量出力信号の入力に応じて、供給流路開閉部5の開度を制御する。なお、ST609とST610の順序は入れ替えてもよい。
【0057】
酸素濃縮装置の始動動処理の作用効果を、従来の始動制御処理と対比して説明する。
【0058】
図5は、約40%の低濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置を、5℃の環境温度にて停止し、その後環境温度が20℃に変化し1日経過した後に20℃で酸素濃縮装置を起動した際の酸素濃度推移を示すグラフである。グラフ横軸は、酸素濃縮装置が始動してからの経過時間(秒)を表し、グラフ縦軸は、酸素濃度(vol%)である。グラフに示される酸素濃度は、酸素供給部9の下流に設置した外部の濃度計で計測された酸素濃度である。始動後の酸素濃度推移は実線で示されている。なお、
図5に示す検証において酸素濃縮装置を停止した際の条件は、環境温度が5℃であり、吸着筒及び製品タンクの圧力が0kPa(大気圧)になる状態であった。
【0059】
従来の始動制御処理では、始動期間において酸素ガスタンク3から排気部10へのガス排気は行われず、酸素供給部9から排気するように制御されていた。
図5(a)は従来通り、始動期間においても酸素ガスタンク3からのガスを酸素供給部9から排気制御することで、酸素濃縮装置を始動した際の酸素濃度推移の一例を示している。約40%の低濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置を5℃の環境温度にて停止し、その後環境温度が20℃に変化し1日経過した後に酸素濃縮装置を起動すると、起動時に供給される酸素濃度が約13%と大気酸素濃度以下であることが示された。
【0060】
図5(b)は、環境温度等同条件であるが、始動期間の50秒間、供給流路開閉部5を閉状態、排気流路開閉部8を開状態に制御して酸素濃縮装置の始動した際の酸素濃度推移の一例を示すグラフである。このような制御を行えば、始動後50秒間は使用者に酸素濃
縮装置からガスは供給されないが、大気酸素濃度以下の低酸素ガスが使用者に供給されることはない。
【0061】
図5(b)の例では、酸素濃縮装置の始動期間における酸素ガスタンク内のガスを系外に排気制御を、所定の始動期間が経過したか否かのみによって判定したが、別の例として、第2酸素濃度測定部13にて、所定の酸素濃度に到達したか否かによって判定してもよい。所定の濃度とは、例えば、酸素欠乏症防止の観点では18%である。また大気酸素濃度の21%としてもよい。
【0062】
図6は、90%以上の高濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置を、-5℃の環境温度にて停止し(吸着筒及び製品タンクの圧力は0kPa(大気圧))、その後環境温度が40℃に変化し1週間経過した後に酸素濃縮装置を従来の始動制御処理にて起動した際の酸素濃度推移を示すグラフである。90%以上の高濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置では、酸素ガスタンク3に貯留される酸素濃度も90%以上であるため、通常の装置停止中や保管時の環境温度変化では、吸着筒及び/又は酸素ガスタンク内の酸素濃度が大気酸素濃度以下となる可能性は低い。しかし、
図6に示すように、異常環境変化においては、90%以上の高濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置であっても、起動時に供給される酸素濃度が約13%と大気酸素濃度以下となることが示された。本発明の実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、約40%の低濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置において潜在していた課題を解決する手段として見いだされたが、90%以上の高濃度酸素ガスを供給する酸素濃縮装置においても有用であり、適用可能である。
【0063】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換、及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0064】
1 :加圧空気供給部
2 :吸着筒
3 :酸素ガスタンク
4 :調圧弁
5 :供給流路開閉部
6 :流量測定部
7 :第1酸素濃度測定部
8 :排気流路開閉部
9 :酸素供給部
10:排気部
11:外部入力部
12:制御部
13:第2酸素濃度測定部
14:制御記憶部
15:制御処理部
16:切換部