(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】メタン製造装置
(51)【国際特許分類】
C07C 1/12 20060101AFI20241106BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20241106BHJP
C07C 7/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C07C1/12
C07C9/04
C07C7/00
(21)【出願番号】P 2021055318
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】佐山 勝悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 征治
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲治
(72)【発明者】
【氏名】堀部 伸光
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳道
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164424(JP,A)
【文献】特開2020-083799(JP,A)
【文献】特開2020-158403(JP,A)
【文献】特開2019-142786(JP,A)
【文献】特開2020-033283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00
C07C 9/00
C07C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン製造装置であって、
原料ガスとしての二酸化炭素と水素とからメタンを生成する触媒を収容する反応器と、
前記反応器に接続され、前記触媒との熱交換に用いられる熱媒体を前記反応器に供給する熱媒体供給部と、
前記反応器に供給される前記原料ガスの流量と前記熱媒体の流量とを制御する流量制御部と、
を備え、
前記流量制御部は、
前記原料ガスの流量を現流量から第1流量へと増加させると共に、前記熱媒体の流量を現流量から第2流量へと増加させる場合に、前記熱媒体の流量が現流量から前記第2流量へと変化している間に、前記原料ガスの増加を完了さ
せ、
前記熱媒体の流量の増加を完了させるまでの時間を、前記原料ガスの流量の増加を完了させるまでの時間の18倍よりも大きくする、メタン製造装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のメタン製造装置であって、
前記流量制御部が、前記熱媒体の流量を現流量から前記第2流量へと増加させる場合の、前記熱媒体の流量の変更速さの絶対値を
一定の第1絶対値としたとき、
前記流量制御部は、前記原料ガスの流量を現流量から第3流量へと減少させると共に、前記熱媒体の流量を現流量か
ら第4流量へと減少させる場合に、前記熱媒体の流量の変更速さの
一定の絶対値である第2絶対値を、前記第1絶対値よりも大きくする、メタン製造装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2に記載のメタン製造装置であって、さらに、
前記触媒の
うちの上流側の位置の温度を検出する触媒温度検出部を備え、
前記流量制御部は、前記触媒温度検出部により検出された前記触媒の温度
が高いほど、前記原料ガスの流量を増加させる場合の前記熱媒体の流量の変更速さを
増加させる、メタン製造装置。
【請求項4】
請求項
1または請求項2に記載のメタン製造装置であって、
さらに、
前記触媒の温度を検出する触媒温度検出部を備え、
前記反応器は、一方の端面から前記原料ガスが供給されて、他方の端面からメタンを含むガスが排出される管状を有し、
前記流量制御部は、
前記触媒温度検出部により前記触媒の温度が検出される位置が、前記反応器内に収容された前記触媒のうちの前記一方の端面側である場合には、検出された前記触媒の温度が高いほど、前記熱媒体の流量を増加させる場合の流量の変更速さを増加させ、
前記触媒温度検出部により前記触媒の温度が検出される位置が、前記反応器内に収容された前記触媒のうちの前記他方の端面側である場合には、検出された前記触媒の温度が高いほど、前記熱媒体の流量を増加させる場合の流量の変更速さを低下させる、メタン製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場などから排出される混合ガスに含まれる二酸化炭素(CO2)からメタンを製造するメタン製造装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたメタン製造装置は、メタネーション反応によりメタンを生成するプレ反応部と、プレ反応部から排出される混合ガスを用いてメタンを生成する主反応部と、を備えている。この炭化水素製造装置では、プレ反応部がメタンを生成することにより、プレ反応部がない装置と比較して、プレ反応部と主反応部との間に配置されて混合ガスを貯蔵する貯蔵部の容積を小さくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反応器は、供給されるCO2と水素(H2)とを含む原料ガスの流量変化に応じて、生成するメタンの量が変化する。反応器内でのメタンの生成量が変化すると、メタネーション反応による反応器内でのメタン化触媒の発熱量が変化する。メタン化触媒の発熱量変化により、メタン化触媒の温度がメタネーション反応を行うための適度な温度範囲を外れてしまうと、メタネーション反応の反応率が低下するおそれがある。場合によっては、反応が失活して、反応器内でメタンを生成できないおそれがある。しかしながら、この課題に対して、特許文献1に記載された装置は、反応器に供給される原料ガスの流量変化に対するメタン生成の反応率低下について考慮されていない。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、反応器に供給されるH2とCO2とを含む原料ガスの増減に合わせて、生成するメタンの流量をより早く変化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。メタン製造装置であって、原料ガスとしての二酸化炭素と水素とからメタンを生成する触媒を収容する反応器と、前記反応器に接続され、前記触媒との熱交換に用いられる熱媒体を前記反応器に供給する熱媒体供給部と、前記反応器に供給される前記原料ガスの流量と前記熱媒体の流量とを制御する流量制御部と、を備え、前記流量制御部は、前記原料ガスの流量を現流量から第1流量へと増加させると共に、前記熱媒体の流量を現流量から第2流量へと増加させる場合に、前記熱媒体の流量が現流量から前記第2流量へと変化している間に、前記原料ガスの増加を完了させ、前記熱媒体の流量の増加を完了させるまでの時間を、前記原料ガスの流量の増加を完了させるまでの時間の18倍よりも大きくする、メタン製造装置。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、メタン製造装置が提供される。このメタン製造装置は、原料ガスとしての二酸化炭素と水素とからメタンを生成する触媒を収容する反応器と、前記反応器に接続され、前記触媒との熱交換に用いられる熱媒体を前記反応器に供給する熱媒体供給部と、前記反応器に供給される前記原料ガスの流量と前記熱媒体の流量とを制御する流量制御部と、を備え、前記流量制御部は、前記原料ガスの流量を現流量から第1流量へと増加させると共に、前記熱媒体の流量を現流量から第2流量へと増加させる場合に、前記熱媒体の流量が現流量から前記第2流量へと変化している間に、前記原料ガスの増加を完了させる。
【0008】
この構成によれば、反応器内の触媒のメタネーション反応が失活することを抑制した上で、反応器での生成が要求されるメタンの生成量により速く変化させる。これにより、本構成によれば、要求されるメタンの生成量への追従性を向上させることができる。
【0009】
(2)上記形態のメタン製造装置において、前記流量制御部は、前記熱媒体の流量の増加を完了させるまでの時間を、前記原料ガスの流量の増加を完了させるまでの時間の10倍よりも大きくしてもよい。
この構成によれば、原料ガスの流量の増加完了から熱媒体の流量の増加までに十分な時間がある。すなわち、反応器内の触媒の温度が充分に上昇してから熱媒体の流量の増加が完了するため、反応器内の触媒のメタネーション反応が失活をより抑制できる。
【0010】
(3)上記形態のメタン製造装置において、前記流量制御部が、前記熱媒体の流量を現流量から前記第2流量へと増加させる場合の、前記熱媒体の流量の変更速さの絶対値を第1絶対値としたとき、前記流量制御部は、前記原料ガスの流量を現流量から第3流量へと減少させると共に、前記熱媒体の流量を現流量から前記第4流量へと減少させる場合に、前記熱媒体の流量の変更速さの絶対値である第2絶対値を、前記第1絶対値よりも大きくしてもよい。
反応器へと供給される原料ガスの流量が減少する場合には、触媒における触媒活性域が広い状態から狭くなる。そのため、反応器へと供給される熱媒の流量が瞬時に低下しても、触媒におけるメタネーション反応の反応率が低下しない。これにより、熱媒の流量減少時の変更速さの絶対値が、流量増加時の変更速さの絶対値よりも大きくなることにより、要求されるメタン生成量が減少する場合に、メタネーション反応を失活させずに、さらに追従性を向上させることができる。
【0011】
(4)上記形態のメタン製造装置において、前記流量制御部は、前記第2絶対値を、前記第1絶対値の10倍よりも大きくしてもよい。
この構成によれば、要求されるメタン生成量が減少する場合に、メタン生成量が増加する場合と比較して、速やかに熱媒体の流量の減少が完了する。そのため、本構成によれば、メタネーション反応の失活を抑制した上で追従性を向上させることができる。
【0012】
(5)上記形態のメタン製造装置において、さらに、前記触媒の温度を検出する触媒温度検出部を備え、前記流量制御部は、前記触媒温度検出部により検出された前記触媒の温度を用いて、前記原料ガスの流量を増加させる場合の前記熱媒体の流量の変更速さを決定してもよい。
この構成によれば、触媒温度検出部により検出された触媒の温度により、触媒中の触媒活性域の位置が特定される。特定された触媒活性域の位置に応じて、熱媒体の流量の変更速さが制御されることにより、触媒のメタネーション反応が失活することを抑制した上で、より速く熱媒体の流量増加を完了できる。
【0013】
(6)上記形態のメタン製造装置において、前記反応器は、一方の端面から前記原料ガスが供給されて、他方の端面からメタンを含むガスが排出される管状を有し、前記流量制御部は、前記触媒温度検出部により前記触媒の温度が検出される位置が、前記反応器内に収容された前記触媒のうちの前記一方の端面側である場合には、検出された前記触媒の温度が高いほど、前記熱媒体の流量を増加させる場合の流量の変更速さを増加させ、前記触媒温度検出部により前記触媒の温度が検出される位置が、前記反応器内に収容された前記触媒のうちの前記他方の端面側である場合には、検出された前記触媒の温度が高いほど、前記熱媒体の流量を増加させる場合の流量の変更速さを低下させてもよい。
この構成によれば、反応器内の触媒体のうち一方の端面側の温度が検出されている場合には、触媒活性域が触媒中の他方の端面側に後退するものの、メタネーション反応の失活は抑制できる。これにより、熱媒体の流量の増加完了までの時間を短くでき、要求されるメタンの生成量への追従性がさらに向上する。また、反応器内の触媒体のうち他方の端面側の温度が検出されている場合には、熱媒体の流量の変更速さが減少することにより、触媒活性域が触媒中の他方の端面側から一方の端面側へと回復して、メタネーション反応の失活が抑制される。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、メタン製造装置、メタン製造システム、メタン製造方法、メタン製造装置の制御方法、これら装置や方法を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態としてのメタン製造装置の概略ブロック図である。
【
図2】メタンの生成流量と制御部による制御との関係についての説明図である。
【
図3】原料ガスと熱媒とにおける流量の時間変化を示すグラフである。
【
図4】第1反応器内の触媒における各種寸法についての説明図である。
【
図5】触媒がメタネーション反応を生じさせる触媒活性域についての説明図である。
【
図6】メタン生成量の要求が変更されてからのメタン濃度の時間推移を示すグラフである。
【
図7】熱媒の流量の増加完了までの時間と触媒の温度との関係についての説明図である。
【
図8】熱媒の流量の増加完了までの時間と触媒の温度との関係についての説明図である。
【
図9】熱媒の流量の増加完了までの時間と触媒の温度との関係についての説明図である。
【
図11】温度センサが検出する触媒の位置についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
1.メタン製造装置の構成:
図1は、本発明の一実施形態としてのメタン製造装置100の概略ブロック図である。メタン製造装置100は、反応器10,20内で二酸化炭素(CO
2)と水素(H
2)とを含む原料ガスにメタネーション反応を生じさせることにより、生成ガスとしてのメタン(CH
4)を製造する。反応器10,20には、メタネーション反応を生じさせる触媒11,21との熱交換に用いられる熱媒体(以降、単に「熱媒」とも呼ぶ)が供給されている。本実施形態のメタン製造装置100では、反応器10,20内に供給される原料ガスの流量変化に応じて熱媒の流量が制御されることにより、反応器10,20内で生成されるメタンの生成量を原料ガスの流量変化に合わせてより早く変化させる。
【0017】
図1に示されるように、メタン製造装置100は、原料ガスからメタンを生成する上流側の第1反応器(反応器)10および下流側の第2反応器(反応器)20と、第1反応器10の入口(一方の端面)10iに供給されるH
2の流量を調整するマスフローコントローラMFC1と、第1反応器10の入口10iに供給されるCO
2の流量を調整するマスフローコントローラMFC2と、第1反応器10へと熱媒を供給するポンプ(熱媒体供給部)15と、第1反応器10内を通って第2反応器20へと供給される熱媒の流量を調整する絞り弁25と、第1反応器10の出口(他方の端面)10oから排出されるメタンを含む混合ガスから水を除去する第1凝縮器14と、第2反応器20の出口20o側端面から排出されるメタンを含む混合ガスから水を除去する第2凝縮器24と、メタン製造装置100の各部を制御する制御部30と、を備えている。
【0018】
第1反応器10と、第2反応器20とは、同じ形状を有するため、第1反応器10について説明し、第2反応器20の説明を省略する。第1反応器10は、管状の形状を有する。
図1に示されるように、第1反応器10は、原料ガスからメタネーション反応を生じさせる触媒11と、触媒11の温度を検出する温度センサ(触媒温度検出部)12と、触媒11が収容されている内部と隔壁を介して外側に形成された熱媒流路13と、を備えている。
【0019】
触媒11としては、ルテニウムを含む複合体などが挙げられる。なお、他の実施形態では、ルテニウム以外の周知のメタン化触媒が用いられてもよい。温度センサ12は、熱電対である。温度センサにより検出された触媒11の温度は、後述する制御部30が行う制御に用いられる。本実施形態の温度センサ12は、
図1に示されるように、反応器10内における入口10iから出口10oまでの流れ方向に沿って、入口10i側の触媒11の温度を検出している。
【0020】
熱媒流路13には、ポンプ15により供給される熱媒としてのオイルが通過する。熱媒流路13に流入する熱媒は、第1反応器10内の触媒11と熱交換を行う。熱媒流路13を通過した熱媒は、第2反応器20内に形成された熱媒流路23またはバイパス流路26に流入する。熱媒流路23とバイパス流路26とを通過した熱媒は、合流して、反応器10,20内の触媒11,21との熱交換により得た熱を、
図1に示されていない熱活用先へと供給される。なお、熱媒流路23とバイパス流路26とに流入する熱媒の流量は、絞り弁25の開度により調整される。
【0021】
本実施形態では、マスフローコントローラMFC1が流量を調整するH2は、図示されない水素タンク等から供給される。また、マスフローコントローラMFC2が流量を調整するCO2は、図示されていない工場等の排出ガスに含まれるガスや二酸化炭素タンク等から供給される。第1凝縮器14により水が除去された混合ガスは、第2反応器20の入口20iへと流入する。第2凝縮器24により水が除去された生成ガスとしてのメタンは、図示されない他の装置または貯蔵タンクへと供給される。
【0022】
制御部30は、
図1に示されていない有線により、マスフローコントローラMFC1,MFC2と、ポンプ15および絞り弁25と、温度センサ12,22とに接続されている。本実施形態の制御部30は、要求されるメタンの生成量に応じて、反応器10,20に供給する原料ガスの流量と熱媒の流量とのそれぞれを決定する。制御部30は、マスフローコントローラMFC1,MFC2を制御することにより、反応器10,20に供給される原料ガスの流量を制御する。また、制御部30は、ポンプ15の周波数と絞り弁25の開度とを制御することにより、第1反応器10と第2反応器20とのそれぞれに供給される熱媒の流量を制御する。本実施形態では、第1反応器10に流入する熱媒の流量は、絞り弁25の開度の影響を受けずに、ポンプ15の周波数により決定する。なお、制御部30と、マスフローコントローラMFC1,MFC2と、ポンプ15と、絞り弁25とは、流量制御部に相当する。
【0023】
図2は、メタンの生成流量と制御部30による制御との関係についての説明図である。
図2には、要求されるメタンの生成流量に対応する、第1反応器10へと供給されるH
2の流量F
H2およびCO
2の流量F
CO2と、ポンプ15の周波数fと、絞り弁25の開度Nとの関係を示すルックアップテーブルが示されている。
図2に示されるルックアップテーブルは、事前にメタン製造装置100を稼働させることにより得られたテーブルである。
【0024】
例えば、ある時点で要求されるメタンの生成流量が0.5(slm)の場合には、制御部30は、
図2に示されるように、この時点におけるH
2の流量F
H2を2(slm)に設定し、CO
2の流量F
CO2を0.5(slm)に設定する。また、制御部30は、ポンプ15の周波数fを5(Hz)に設定し、絞り弁25の開度を5(%)に設定する。
【0025】
要求されるメタンの生成流量が0.5(slm)の状態から8.0(slm))へと増加した場合に、
図2に示されるように、制御部30は、H
2の流量F
H2を2(slm)から32(slm)に増加させ、CO
2の流量F
CO2を0.5(slm)から8.0(slm)に増加させる。さらに、制御部30は、ポンプ15の周波数fを5(Hz)から28(Hz)に増加させ、絞り弁25の開度を5(%)から95(%)に増加させる。ポンプ15の周波数fが増加すると、第1反応器10に供給される熱媒の流量が増加する。また、絞り弁25の開度Nが増大すると、第2反応器20に供給される熱媒の流量が増加する。
【0026】
本実施形態の制御部30は、反応器10,20へと供給する原料ガスと熱媒との流量を増加させる場合に、熱媒の流量が現流量から目標となる流量まで変化(増加)している間に、原料ガスを現流量から目標となる流量までの増加を完了させる。換言すると、制御部30は、下記式(1)に示されるように、原料ガスの流量が目標となる流量までの増加を完了させるまでの時間Tgasを、熱媒の流量が目標となる流量までの増加を完了させるまでの時間Theat_upよりも小さくする。具体的には、制御部30は、ポンプ15の周波数fを28(Hz)に増加させ、かつ、絞り弁25の開度を95(%)に増加させるまでに、H2の流量FH2を32(slm)に増加させ、CO2の流量FCO2を8.0(slm)に増加させる。なお、流量増加時の原料ガスの目標となる流量は第1流量に相当する。流量増加時のポンプ15と絞り弁25との制御により供給される熱媒の流量は、第2流量に相当する。
【0027】
【0028】
さらに、本実施形態の制御部30は、この場合に、熱媒の流量増加が完了するまでの時間Theat_upを、下記式(2)に示されるように、原料ガスの流量増加が完了するまでの時間Tgasの10倍よりも大きくする。
【0029】
【0030】
また、要求されるメタンの生成流量が8.0(slm)の状態から0.5(slm))へと減少する場合には、
図2に示されるように、制御部30は、H
2の流量F
H2を32(slm)から2(slm)に減少させ、CO
2の流量F
CO2を8.0(slm)から0.5(slm)に減少させる。さらに、制御部30は、ポンプ15の周波数fを28(Hz)から5(Hz)に減少させ、絞り弁25の開度を95(%)から5(%)に減少させる。ポンプ15の周波数fが減少すると、第1反応器10に供給される熱媒の流量が減少する。また、絞り弁25の開度Nが低下すると、第2反応器20に供給される熱媒の流量が減少する。
【0031】
図3は、原料ガスと熱媒とにおける流量の時間変化を示すグラフである。本実施形態の制御部30は、反応器10,20へと供給する原料ガスと熱媒との流量を減少させる場合における熱媒の流量を、下記式(3)に示されるように設定する。具体的には、制御部30は、熱媒を目標となる流量まで減少させる際の流量の変更速さU
heat_downの絶対値を、変更速さU
heat_up(
図3)の絶対値よりも大きくする。変更速さU
heat_upは、上述した反応器10,20へと供給する原料ガスと熱媒との流量を増加させる場合における熱媒の流量を目標となる流量まで増加させる際の変更速さである。なお、流量減少時の原料ガスの目標となる流量は第3流量に相当する。流量増加時のポンプ15と絞り弁25との制御により供給される熱媒の流量は、第4流量に相当する。熱媒の流量減少時の変更速さU
heat_downの絶対値は第2絶対値に相当する。熱媒の流量増加時の変更速さU
heat_upの絶対値は第1絶対値に相当する。
【0032】
【0033】
さらに、本実施形態の制御部30は、熱媒の流量減少時の変更速さUheat_downの絶対値を、下記式(4)に示されるように、熱媒の流量増加時の変更速さUheat_upの絶対値の10倍よりも大きくする。
【0034】
【0035】
また、本実施形態の制御部30は、温度センサ12,22により検出された触媒11,21の温度を用いて、原料ガスの流量を増加させる場合の熱媒の流量の変更速さU
heat_upを決定する。具体的には、制御部30は、
図1に示されるように、温度センサ12,22により触媒11,21の温度が検出される位置が入口10i,20i側である場合には、検出された触媒の温度が高いほど、熱媒の流量増加時の流量の変更速さU
heat_upを増加させる。一方で、温度センサ12,22により触媒11,21の温度が検出される位置が出口10o,20o側である場合には、検出された触媒の温度が高いほど、熱媒の流量増加時の流量の変更速さU
heat_upを低下させる。
【0036】
2.原料ガスおよび熱媒における流量増減と触媒の反応との関係:
要求されるメタンの生成量の増加に応じて、原料ガスと熱媒との流量を瞬時に増加させてしまうと、原料ガスからメタンへの反応率が顕著に低下して、メタネーション反応が失活する場合がある。
【0037】
図4は、第1反応器10内の触媒11における各種寸法についての説明図である。
図4に示されるように、触媒11は、第1反応器10の流れ方向に沿って、全長L
catの長さを有している。触媒11の入口10i側の端面からZ
M(<L
cat/2)離れた位置の温度が温度センサ12により検出される。
【0038】
図5は、触媒11,21がメタネーション反応を生じさせる触媒活性域についての説明図である。
図5には、第1反応器10に供給される原料ガスの流量が異なる場合に、触媒11の位置に応じて変化する触媒温度が示されている。
図5には、原料ガスの流量が26(slm)の定常状態のときの温度曲線C1(実線)と、原料ガスの流量が43(slm))の定常状態のときの温度曲線C2(破線)とが示されている。
図5では、触媒11のうち、活性温度以上の位置の触媒が触媒活性域として表されている。温度曲線C1に対応する触媒活性域が実線の矢印により表され、温度曲線C2に対応する触媒活性域が破線の矢印により表されている。
図5に示されるように、原料ガスの流量が多い温度曲線C2は、触媒11で温度曲線C1よりも多くのメタンを生成するため、流れ方向に沿って出口10o側に温度のピークがあり、より長い触媒活性域を有している。
【0039】
ここで、第1反応器10へと供給される原料ガスの流量が26(slm)から43(slm)へと瞬時に増加しても、原料ガスの流量増加に合わせてメタネーション反応が瞬時には増加しないため、触媒11における触媒活性域は、瞬時には増加しない。そのため、原料ガスの流量が瞬時に増加してしまうと、温度曲線C1に対応する狭い触媒活性領域で増加した原料ガスが処理されることになる。この場合に、増加した原料ガスの流量が多い場合には、触媒活性域で十分な反応が行われずに反応率が低下し、ひいては反応が失活するおそれもある。一方で、第1反応器10へと供給される原料ガスの流量が43(slm)から26(slm)へと減少する場合には、触媒11における触媒活性域が狭くなる。そのため、瞬時に原料ガスの流量が低下しても、メタネーション反応の反応率が低下しない。これを受けて、本実施形態の制御部30は、原料ガスの流量減少時には、触媒11の温度が急激に下がることがないため、上記式(3),(4)に示されるように、原料ガスの流量上昇時と比較して、熱媒の流量減少時の変更速さUheat_downの絶対値を大きくしている。
【0040】
制御部30は、第1反応器10へと供給される原料ガスの流量が26(slm)から43(slm)へと増加させる場合には、メタネーション反応を失活させないために緩やかに流量を増加させる必要がある。ここで、原料ガスの流量の変更速さLCS(Load Change Speed)を17(sccm/s)に設定し、熱媒の流量の増加完了を原料ガスの流量の増加完了と同時に設定した場合に、触媒11の反応が失活せずに原料ガスの流量増加が完了した。しかしながら、原料ガスおよび熱媒の流量増加の完了までに17(min)を要し、メタンの生成量の増加要求に対しての追従性が悪い。なお、原料ガスの流量増加と、熱媒の流量増加との完了を同時に設定し、原料ガスの変更速さLCSを17(sccm/s)よりも大きくすると、メタネーション反応が失活した。
【0041】
そこで、原料ガスの流量の増加開始と熱媒の流量の増加開始とを同時にした上で、原料ガスの流量の増加完了と、熱媒の流量の増加完了とを別々に設定して評価した。評価結果では、原料ガスの流量の増加完了までの時間Tgasが10(s)であり、熱媒の流量の増加完了までの時間Theat_upが180(s)である場合に、触媒11が失活せずに原料ガスと熱媒との流量増加が完了した。このことから、原料ガスの流量増加が、熱媒の流量増加の時間Theat_upよりも短時間に完了したことにより、メタネーション反応の反応熱量が急激に増加してメタネーション反応の失活が抑制された。すなわち、上記式(1),(2)に示されるように、制御部30は、熱媒の流量の増加完了までの時間Theat_upを、原料ガスの流量の増加完了までの時間Tgasよりも小さくすることにより、メタンの生成量の増加要求への追従性を大幅に向上させることができる。
【0042】
図6は、メタン生成量の要求が変更されてからのメタン濃度の時間推移を示すグラフである。
図6には、上記のように、原料ガスの流量の増加完了までの時間T
gasが10(s)であり、熱媒の流量の増加完了までの時間T
heat_upが180(s)である場合のメタン濃度の時間推移が示されている。
図6に示されるように、第1反応器10へと供給される原料ガスの流量は、短時間で26(slm)から43(slm)へと増加したものの、第1反応器10から排出される混合ガス中のメタン濃度は、90%(都市ガスの基準)の濃度よりも高い。原料ガスの流量が増加する前の濃度と、増加後の最もメタン濃度が低い濃度との差は、2.5%程度であり、この程度の濃度差であれば第1反応器10もしくは第2反応器20の下流側に配置される貯蔵タンク等で十分に平滑化される。すなわち、本実施形態の流量の増加完了までの時間の制御により、生成されるメタンの濃度に問題はない。
【0043】
また、マスフローコントローラMFC1,MFC2は、長時間にわたり過渡的に流量を制御する場合には、過渡的な動作の保証がされていないことが多い。そのため、下記反応式(5)に示されるメタネーション反応の化学量論比が4から外れ、生成されるメタンの品質が悪化するおそれがある。しかしながら、本実施形態では、原料ガスの流量が増加する際に、マスフローコントローラMFC1,MFC2の過渡動作期間が非常に短いため、生成されるメタンの品質悪化を抑制できる。
【0044】
【0045】
図7から
図9までの各図は、熱媒の流量の増加完了までの時間と触媒11の温度との関係についての説明図である。
図7から
図9までの各図には、熱媒の流量増加を完了させるまでの時間を変化させた場合において、触媒11の流れ方向における位置Z1,Z2,Z3の温度T
Z1,T
Z2,T
Z3の時間推移が示されている。
図7から
図9までの各図では、
図4に示される第1反応器10において、全長L
catを780(mm)とした場合に、触媒11の入口10i側の端面からの距離がZ1=380(mm),Z2=510(mm),Z3=770(mm)の場合の温度T
Z1,T
Z2,T
Z3の時間推移が示されている。
図7から
図9までの各図には、熱媒の流量増加を完了させるまでの時間T
heat_upが420(s),180(s),および42(s)の各温度T
Z1~T
Z3の時間推移が示されている。
【0046】
図5に示されるように、第1反応器10に供給される原料ガスの流量が増加すると、触媒活性域が出口10o側(下流側)に後退する。
図7から
図9までの各図では、触媒11のうち、温度が600℃前後の部分が触媒活性域に相当する。すなわち、
図7に示される時間T
heat_upが420(s)の場合には、触媒活性域は、流量増加の開始時(t=0)から、温度T
Z2が上昇している位置Z2に後退する。2分程度経過すると、位置Z1における温度T
Z1が上昇し始めることから、触媒活性域が位置Z2から位置Z1へと入口10i側に回復し始める。なお、
図7に示される状態では、位置Z3において触媒11によるメタネーション反応は生じていない。
【0047】
図8に示される時間T
heat_upが180(s)の場合には、触媒活性域は、
図7に示される状態と同じように、流量増加の開始時(t=0)から、温度T
Z2が上昇している位置Z2に後退する。
図8に示される状態では、
図7に示される状態よりも原料ガスの流量の変更速さLCSが大きいため、位置Z1における温度T
Z1は、12分程度経過してから上昇し始める。すなわち、
図8に示される状態では、
図7に示される状態よりも、触媒活性域が位置Z2から位置Z1へと入口10i側に回復し始める時間が遅くなっている。なお、
図8に示される状態では、9分程度経過してから、位置Z3における少しの触媒によるメタネーション反応が生じている。
【0048】
図9に示される時間T
heat_upが42(s)の場合には、触媒活性域は、
図7,8に示される状態と同じように、流量増加の開始時(t=0)から、温度T
Z2が上昇している位置Z2に後退する。6分程度経過すると、触媒活性域は、位置Z2から、温度T
Z3が上昇し始める位置Z3に後退し始める。その後、流量増加時から16分程度が経過すると、位置Z3における触媒が失活する。また、位置Z1の触媒は、触媒活性域に回復することなく、温度T
Z1は、下がり続ける。すなわち、
図9に示される状態では、
図8に示される状態よりも原料ガスの流量の変更速さLCSが大きいため、触媒11が供給された原料ガスに対してメタネーション反応を生じさせずに失活している。
【0049】
以上のことから、原料ガスの流量の変更速さLCS以外の要素として、触媒11中の流れ方向の位置の温度が、触媒11の失活に影響する。すなわち、触媒活性域が触媒11の上流側に位置している場合には、制御部30は、熱媒の流量増加時の流量の変更速度Uheat_upを増加させて、触媒11と熱媒との熱交換を行っても触媒11が失活しない。一方で、触媒活性域が触媒11の下流側に位置している場合には、制御部30は、熱媒の流量増加時の流量の変更速度Uheat_upを減少させることにより、触媒活性域を触媒11の上流側へと回復させることにより、触媒11の失活を抑制できる。そのため、温度センサ12,22により検出された温度により、熱媒の流量増加時の流量の変更速度Uheat_upの制御は、失活を抑制するために有効である。
【0050】
3.メタン製造フロー:
図10は、メタン製造方法のフローチャートである。
図10に示されるメタン製造フローでは、制御部30が、要求されるメタンの生成量に応じて、原料ガスと熱媒との流量を制御する。本実施形態では、制御部30は、原料ガスの流量を増加させる際の流量の変更速さU
gasの絶対値と、原料ガスの流量を減少させる際の流量の変更速さの絶対値とが同じになるように設定する。また、制御部30は、熱媒の流量を増加させる際の流量の変更速さU
heat_upを、原料ガスの流量を増加させる際の変更速さU
gasに対して下記式(6)を満たすように設定する。制御部30は、熱媒の流量が減少する際の流量の変更速さU
heat_downを、原料ガスの流量の変更速さU
gasと同じに設定する。
【0051】
【0052】
図10に示されるメタン製造フローでは、制御部30は、初めに、メタンを生成するための初期値を設定する(ステップS1)。制御部30は、原料ガスを増減させる際の流量の変更速さU
gasと、熱媒の流量の変更速さU
heat_up,U
heat_downと、初期値としてのメタンの生成流量F
CH4と、メタン製造装置100の制御周期Δtとを設定する。
【0053】
制御部30は、設定された初期値を用いてメタンの生成を開始する(ステップS2)。制御部30は、メタンの生成流量FCH4の要求変更を受け付ける(ステップS3)。制御部30は、メタンの生成流量FCH4の要求変更を受け付けていない場合には(ステップS3:NO)、制御周期Δtが経過する毎に要求変更の受付を確認する。
【0054】
制御部30は、メタンの生成流量F
CH4の要求変更を受け付けた場合には(ステップS3:YES)、
図2に示されるルックアップテーブルを用いて、原料ガスとしてのH
2の流量F
H2およびCO
2の流量F
CO2と、熱媒の流量F
heatを変更するためのポンプ15の周波数fおよび絞り弁25の開度Nと、を決定する(ステップS4)。制御部30は、決定した原料ガスの流量F
H2,F
CO2と、ポンプ15の周波数fおよび絞り弁25の開度Nとを設定して、原料ガスと熱媒との流量増加または流量減少を開始する(ステップS5)。
【0055】
制御部30は、メタンの生成流量FCH4が要求された流量に到達したか否かを判定する(ステップS6)。制御部30は、当該到達の判定を、増減させた原料ガスの流量FH2,FCO2が目標となる流量に到達したか否かで判定する。制御部30は、原料ガスの流量FH2,FCO2が目標となる流量まで到達していないと判定した場合には(ステップS6:NO)、引き続き原料ガスと熱媒との流量制御を続ける。
【0056】
制御部30は、原料ガスの流量FH2,FCO2が目標となる流量まで到達したと判定した場合には(ステップS6:YES)、原料ガスの流量FH2,FCO2の増減変化を停止させて、一定流量に変更した原料ガスを反応器10,20へと供給する(ステップS7)。制御部30は、熱媒の流量Fheatが目標となる流量に到達したか否かを判定する(ステップS8)。制御部30は、熱媒の流量Fheatが目標となる流量に到達していないと判定した場合には(ステップS8:NO)、引き続き熱媒との流量Fheatの制御を続ける。
【0057】
制御部30は、熱媒の流量Fheatが目標となる流量まで到達したと判定した場合には(ステップS8:YES)、熱媒の流量Fheatの増減変化を停止させて、一定流量に変更した熱媒を反応器10,20へと供給する(ステップS9)。制御部30は、外部からの操作等を受け付けることにより、メタン製造装置100を用いたメタンの生成を終了するか否かを判定する(ステップS10)。制御部30は、メタン生成を終了しないと判定した場合には(ステップS10:NO)、ステップS3以降の処理を繰り返す。メタン生成を終了すると判定された場合には(ステップS10:YES)、メタン製造フローが終了する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のメタン製造装置100では、制御部30は、反応器10,20へと供給する原料ガスと熱媒との流量を増加させる場合に、熱媒の流量Fheatが現流量から目標となる流量まで増加している間に、原料ガスの流量FH2,FCO2を現流量から目標となる流量までの増加を完了させる。そのため、本実施形態のメタン製造装置100では、反応器10,20内の触媒11,21のメタネーション反応が失活することを抑制した上で、反応器10,20での生成が要求されるメタンの生成量により速く変化させる。これにより、本実施形態のメタン製造装置100によれば、要求されるメタンの生成量への追従性を向上させることができる。また、本実施形態に依れば、生成されるメタン濃度の水準を一定以上に維持できる。
【0059】
また、本実施形態の制御部30は、反応器10,20へと供給する原料ガスと熱媒との流量を増加させる場合に、熱媒の流量増加が完了するまでの時間Theat_upを、原料ガスの流量増加が完了するまでの時間Tgasの10倍よりも大きくする。これにより、本実施形態のメタン製造装置100では、反応器10,20内の触媒11,12の温度が充分に上昇してから熱媒の流量の増加が完了するため、反応器10,20内の触媒11,21のメタネーション反応が失活をより抑制できる。
【0060】
また、本実施形態の制御部30は、反応器10,20へと供給する原料ガスと熱媒との流量を減少させる場合における熱媒の流量F
heatの変更速さU
heat_downの絶対値を、上記式(3)に示されるように、熱媒の流量増加時の変更速さU
heat_upの絶対値よりも大きくする。反応器10,20へと供給される原料ガスの流量F
H2,F
CO2が減少する場合には、
図5に示されるように、触媒11における触媒活性域が広い状態から狭くなる。そのため、反応器10,20へと供給される熱媒の流量F
heatが瞬時に低下しても、触媒11,21におけるメタネーション反応の反応率が低下しない。これにより、熱媒の流量減少時の変更速さU
heat_downの絶対値が、流量増加時の変更速さU
heat_upの絶対値よりも大きくなることにより、要求されるメタン生成量が減少する場合に、メタネーション反応を失活させずに、さらに追従性を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態の制御部30は、熱媒の流量減少時の変更速さUheat_downの絶対値を、上記式(4)に示されるように、熱媒の流量増加時の変更速さUheat_upの絶対値の10倍よりも大きくする。これにより、本実施形態のメタン製造装置100では、要求されるメタン生成量が減少する場合に、メタネーション反応の失活を抑制した上で追従性を向上させることができる。
【0062】
<上記実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0063】
[変形例1]
上記実施形態のメタン製造装置100は、本発明の一実施形態としての一例であり、メタン製造装置100が備える構成および実行する制御等については、種々変形可能である。メタン製造装置100は、触媒を収容する少なくとも1つの反応器と、反応器に供給する原料ガスと熱媒との流量を制御する流量制御部とを備えていればよい。上記実施形態のメタン製造装置100は、2つの反応器10,20を備えていたが、1つの反応器のみを備えてもよいし、3つ以上の反応器を備えていてもよい。制御部30は、メタン製造装置100が複数の反応器を備えている場合に、複数の反応器のうちの少なくとも1つに対して、要求されるメタンの生成量に応じた原料ガスと熱媒との流量制御を行っていてもよい。
【0064】
メタン製造装置100は、温度センサ12,22と、絞り弁25と、凝縮器14,24との少なくとも1つを備えていなくてもよい。反応器10に供給される原料ガスの流量FH2,FCO2を制御する装置として、マスフローコントローラMFC1,MFC2の代わりの周知の装置が採用されてもよい。また、第1反応器10に供給される熱媒の流量Fheatを制御する装置として、ポンプ15以外の周知の装置が採用されてもよい。制御部30は、1つの制御部であったが、複数の制御部に分割されて、各種機能が分割されていてもよいし、複数の制御部のそれぞれが異なる各構成を制御してもよい。
【0065】
[変形例2]
上記実施形態では、原料ガスの流量FH2,FCO2が目標となる流量までの増加を完了させるまでの時間Tgasと、熱媒の流量Fheatが目標となる流量までの増加を完了させるまでの時間Theat_upとが、上記式(1),(2)を満たしていたが、上記式(2)を満たしていなくてもよい。例えば、熱媒の流量Fheatの増加完了までの時間Theat_upは、原料ガスの流量FH2,FCO2の増加完了までの時間Tgasの5倍であってもよい。
【0066】
上記実施形態では、
図2および
図3を用いてメタンの生成流量F
CH4が0.5(slm)から8.0(slm)に増加する場合と、8.0(slm)から0.5(slm)に同流量が減少する場合とにおける熱媒の流量F
heatの変更速さU
heat_up,U
heat_downについて説明したが、メタンの生成流量F
CH4の増減量については変形可能である。例えば、生成流量F
CH4が増加する場合の流量と、減少する場合の流量とが異なっている場合の熱媒の流量F
heatの変更速さU
heat_up,U
heat_downが、上記式(3),(4)を満たしていてもよい。また、熱媒の流量F
heatの変更速さU
heat_up,U
heat_downは、上記式(3),(4)を満たしていることが好ましく、必ずしも満たしていなくてもよい。熱媒の流量F
heatの変更速さU
heat_up,U
heat_downは、
図10のメタン製造フローの初期値の設定とは異なり、例えば、メタンの生成流量F
CH4の増減量応じて、異なる数値が設定されていてもよい。
【0067】
[変形例3]
上記実施形態の反応器10,20では、
図1に示されるように、温度センサ12,22が、触媒11,21のうちの上流側の温度を検出したが、検出する位置については変形可能である。温度センサ12,22は、触媒11,12の下流側の温度を検出してもよい。また、例えば、第1反応器10が備える3つの温度センサが、触媒11の流れ方向に沿って上流側と、真ん中と、下流側とのそれぞれの温度を検出してもよい。
【0068】
図11は、温度センサが検出する触媒の位置についての説明図である。
図11には、第1反応器10内で生成されるメタンの生成流量F
CH4が異なる2つの場合において、触媒11の流れ方向に沿った位置に応じて変化する触媒の温度が示されている。
図11に示される温度曲線C3(破線)では、温度曲線C4(実線)よりも触媒活性域が上流側に存在している。
図11に示されるように、要求されるメタンの生成流量F
CH4が変化した場合に、現行の触媒活性域の状態に応じて、熱媒の流量F
heatが制御されることが好ましい。
【0069】
制御部30は、温度センサの検出位置ZMが触媒11の上流側に位置する場合に、温度センサにより検出された触媒の温度TMを用いて、熱媒の流量増加時の流量Fheatの変更速さUheat_upを、下記式(7)に従って変更する。一方で、制御部30は、温度センサの検出位置ZMが触媒11の下流側に位置する場合に、温度センサにより検出された触媒の温度TMを用いて、熱媒の流量増加時の流量Fheatの変更速さUheat_upを、下記式(8)に従って変更する。なお、下記式(7),(8)におけるA,B,C,Dは、検出位置ZMや触媒の種類などに応じて設定される任意の0よりも大きい定数である。
【0070】
【0071】
温度センサの検出位置ZMが上流側である場合に、制御部30は、上記式(7)に示されるように、温度センサにより検出される触媒の温度が高いほど、熱媒の流量増加時の流量Fheatの変更速さUheat_upを大きくする。これにより、触媒活性域が触媒11中の下流側に後退するものの、メタネーション反応の失活を抑制した上で、熱媒の流量Fheatの増加完了までの時間を短くできる。この結果、要求されるメタンの生成量への追従性がさらに向上する。
【0072】
温度センサの検出位置ZMが下流側である場合に、制御部30は、上記式(8)に示されるように、温度センサにより検出される触媒の温度が高いほど、熱媒の流量増加時の流量Fheatの変更速さUheat_upを小さくする。これにより、触媒活性域が触媒11中の下流側から上流側へと回復して、メタネーション反応の失活が抑制される。なお、上記式(7),(8)は、流量Fheatの変更速さUheat_upを算出するための一例であり、異なる方法により、流量Fheatの変更速さUheat_upおよび変更速さUheat_downが決定されてもよい。
【0073】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0074】
10…第1反応器
10i…第1反応器の入口
10o…第1反応器の出口
11…触媒
12,22…温度センサ(触媒温度検出部)
13…熱媒流路
14…第1凝縮器
15…ポンプ(熱媒体供給部、流量制御部)
20…第2反応器
20i…第2反応器の入口
20o…第2反応器の出口
23…熱媒流路
24…第2凝縮器
25…絞り弁(流量制御部)
26…バイパス流路
30…制御部(流量制御部)
100…メタン製造装置
C1,C2,C3,C4…温度曲線
FCH4…メタンの生成流量
FCO2…CO2の流量
FH2…H2の流量
Fheat…熱媒の流量
Lcat…触媒の全長
MFC1,MFC2…マスフローコントローラ(流量制御部)
N…絞り弁の開度
TM,TZ1,TZ2,TZ3…触媒の温度
Tgas…原料ガスの流量の増加完了までの時間
Theat…熱媒の流量の増加完了までの時間
Uheat_up…熱媒増加時の流量の変更速度
Uheat_down…熱媒減少時の流量の変更速度
Z1,Z2,Z3…触媒の位置
ZM…温度の検出位置
f…周波数
Δt…制御周期