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  • 特許-シート及びシートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】シート及びシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27N 3/00 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B27N3/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021071639
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166439
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507234438
【氏名又は名称】広島県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 一慶
(72)【発明者】
【氏名】荻田 信二郎
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-272107(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062343(WO,A1)
【文献】特開2014-124801(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0107411(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 3/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混和剤としての合成樹脂を用いることなく、複数の植物培養細胞を熱プレスして形成されたシートであって、複数の前記植物培養細胞同士が接着してなり、前記合成樹脂を含まない、シート。
【請求項2】
前記植物培養細胞は、タケ細胞及びケナフ細胞からなる群より選択される、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
多糖類を含む、請求項1又は請求項2に記載のシート。
【請求項4】
リグニンを含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシートの製造方法であって、
前記植物培養細胞を熱プレスする、シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シート及びシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木質ボードは、バイオマス(主に木材)をチップ状又は粉状にし、樹脂や接着剤と混ぜて形成されていた。木質ボードは、軽くて強いので、家具や住宅内装等に広く使用されている。
しかし、従来の木質ボードでは、使用する接着剤から、ホルムアルデヒド等の揮発成分が放出されるため、シックハウス症候群の原因となる可能性があった。
他方、植物細胞の培養法が検討されている(例えば特許文献1参照)。
しかし、植物細胞の用途は限定されており、植物細胞の新規な用途開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-55077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、植物培養細胞を有効に利用し、シックハウス症候群の原因とならないシートを得ることを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
植物培養細胞を熱プレスして形成されたシート。
【発明の効果】
【0006】
本開示のシートによれば、植物細胞を有効に利用できる。しかも、このシートは、シックハウス症候群の原因とならない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、シートの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
シートは、合成樹脂を含まないことが好ましい。
シートは、多糖類を含むことが好ましい。
シートは、リグニンを含むことが好ましい。
シートの製造方法は、植物培養細胞を熱プレスすることが好ましい。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.シート
本開示のシートは、植物培養細胞を熱プレスして形成されている。シートの厚み、形状は、特に限定されない。
(1)植物培養細胞
植物培養細胞は、特に限定されない。植物培養細胞としては、入手が容易等の観点から、タケ細胞、及びケナフ細胞からなる群より選ばれる1種以上が好適に用いられる。
(2)植物培養細胞以外の原料
植物培養細胞以外の原料を用いてもよい。シートは、植物培養細胞のみを原料とすることが望ましい。
また、植物培養細胞以外の原料として不適切なものは、例えば、有機溶剤、石油由来成分等である。これらの成分を入れると、シックハウス症候群の原因となる可能性がある。
(3)シートの構成成分
シートには、植物培養細胞に由来する構成成分が含まれている。構成成分としては、多糖類、タンパク質、リグニン(フェノール性成分の一例)が例示される。
多糖類としては、細胞壁多糖類が例示される。多糖類の例は、セルロース、キシログルカン等のヘミセルロース、ペクチンである。シートにおける、多糖類の含有量は、特に限定されない。多糖類の含有量は、シート全体100重量%に対して、シートの強度の観点から、20重量%以上80重量%以下が好ましく、30重量%以上70重量%以下がより好ましく、40重量%以上60重量%以下が更に好ましい。
シートにおける、リグニンの含有量は、特に限定されない。リグニンの含有量は、シート全体100質量%に対して、シートの強度の観点から、0.1重量%以上20重量%以下が好ましく、0.5重量%以上15重量%以下がより好ましく、1重量%以上10重量%以下が更に好ましい。
シートには、合成樹脂を含まないことが望ましい。
【0011】
2.シートの製造方法
(1)熱プレスする工程
本開示のシートの製造方法は、植物培養細胞を熱プレスする工程を有する。熱プレスの条件は、特に限定されない。
熱プレスの温度は、特に限定されない。熱プレスの温度は、植物培養細胞を軟化させてシートに成形しやすい状態とし、かつシートの変色を抑制する観点から、100℃以上130℃以下が好ましく、110℃以上120℃以下がより好ましい。
熱プレスの圧力は、特に限定されない。熱プレスの圧力は、植物培養細胞を十分に潰してシートに成形する観点から、2MPa以上10MPa以下が好ましく、3MPa以上7MPa以下がより好ましい。なお、熱プレスの圧力に到達するまで、3時間以上8時間以下の時間をかけて、徐々に圧力を増加させることが好ましい。徐々に圧力を増加させることで、複数の植物培養細胞同士が十分に馴染んで接着し易くなる。
熱プレスの時間は、特に限定されない。熱プレスの時間は、植物培養細胞を十分に潰してシートに成形する観点から、所定の温度及び圧力になってから1時間以上72時間以下が好ましく、12時間以上36時間以下がより好ましい。
【0012】
(2)その他の工程(任意工程)
シートの製造方法では、その他の工程として、植物培養細胞を培養する工程を備えていてもよい。
シートの製造方法では、その他の工程として、植物培養細胞を含む培養液をろ過又は乾燥(好ましくは凍結乾燥)する工程を備えていてもよい。
【0013】
3.本開示のシートの効果
本開示のシートにおいて植物培養細胞のみを原料に用いれば、シートの構成成分は天然成分のみであり、有機溶剤や接着剤等の添加剤は含まれないことになる。この場合には、シックハウス症候群の原因となる有機溶剤もその他の石油由来成分も使用していないので、次世代のエコ材料として期待できる。
また、植物培養細胞の培養を環境負荷の少ない工程にすれば、次世代のエコ材料として価値が高い。
また、本開示のシートは、植物細胞を有効に利用できる。
【0014】
4.本開示のシートの製造方法の効果
本開示の製造方法によれば、簡易な方法で、植物培養細胞を有効に利用し、シックハウス症候群の原因とならないシートを得ることができる。
【実施例
【0015】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。
1.実験方法
次のようにしてシートを形成した。
(1)植物細胞を培養した。植物細胞には、タケ細胞及びケナフ細胞を採用した。
(2)ろ過で植物培養細胞と培養液を分け、植物培養細胞のみを得た。
(3)金型(ステンレス枠)に、植物培養細胞を入れた。この際に、植物培養細胞を金型に入れやすくするために、植物培養細胞に水を加えて金型内に流し込んでもいい。
(4)植物培養細胞が入った金型を熱プレス機にセットし、温度を110℃~120℃に調整した。
(5)徐々に圧力をかけ、5MPaになった後、24時間にわたって熱プレスした。
(6)その後、温度、圧力が常温、常圧に戻ったことを確認して、金型からシート(プレート)を取り出した。

<熱プレス条件>
圧力:5MPa
温度:110~120℃程度
時間:5MPa、120℃になってから24時間
【0016】
2.成分の分析
成分を分析した。分析結果を表1に示す。ここでは、シートの原料たる植物培養細胞を分析している。シートは、植物培養細胞を熱プレスしたものであり、熱プレスによって、成分は変化しないため、シートにおける各成分の割合は、植物培養細胞の成分割合と同じである。
成分分析は、以下の要領で行った。
(1)細胞培養
細胞試料となる植物細胞を培養した。
(2)細胞試料をろ過、洗浄し、その後、凍結乾燥した。この操作によって、成分分析用に洗浄及び乾燥させた。
(3)成分分析
(3.1)重量測定1
成分分析を行う前の細胞試料の重量を測定した。この重量を「重量1」とする。
(3.2)熱水抽出
細胞試料を熱水抽出して、主にタンパク質、遊離の糖類、無機物の除去を行った。重量1を測定した細胞試料を熱水中に入れ、3時間、攪拌した。処理後、ろ過し、乾燥した。
(3.3)アセトン抽出
熱水処理後の細胞試料からアセトン抽出によって、主に脂質を除去した。具体的には、細胞試料をアセトン中に入れ、8時間、攪拌した。アセトンでの処理後、ろ過し、乾燥させた。
(4)重量測定2
熱水及びアセトンでの抽出処理をした後の細胞試料の重量を測定した。この重量を「重量2」とする。抽出後の細胞試料は、細胞壁成分のみになっている。
(5)硫酸法
硫酸法によりリグニン量を測定した。硫酸法は、細胞試料の細胞壁の多糖類を酸加水分解し、残ったリグニン量を測定する方法である。
(5.1)
細胞試料に72% 硫酸を加え、室温で1時間、攪拌した。
(5.2)
細胞試料に硫酸濃度が3%になるように水を加え、100℃で3時間、攪拌した。
(5.3)
ろ過して、残渣を105℃のオーブンで一晩乾燥後、細胞試料の重さを測った。この重量を「重量3」とする。
(6)成分量の導き方
・抽出成分量(wt%)=((重量1)―(重量2))÷(重量1)×100
抽出成分量は、タンパク質、遊離の糖類、脂質、その他成分量である。

・リグニン成分量(wt%)=(重量3)÷(重量1)×100

・多糖類(細胞壁中の多糖成分)(wt%)
=100-抽出成分量(wt%)-リグニン成分量(wt%)
【0017】
【表1】
【0018】
3.実施例の効果
実施例のシートは、植物培養細胞のみを原料に用いているので、シートの構成成分は天然成分のみであり、有機溶剤や接着剤等の添加剤は含まれない。よって、これらのシートは、シックハウス症候群の原因となる有機溶剤もその他の石油由来成分も使用していないので、次世代のエコ材料として期待できる。
また、実施例のシートは、植物培養細胞の新規な用途として期待できる。
【0019】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本開示を限定するものと解釈されるものではない。本開示を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本開示の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本開示の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本開示の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本開示をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0020】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、本開示の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 …シート
図1