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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】杭の損傷評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20241106BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N29/07
E02D27/12 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021073872
(22)【出願日】2021-04-26
(65)【公開番号】P2022001862
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020105828
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】堀田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】吉成 勝美
(72)【発明者】
【氏名】中澤 春生
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木村 匠
(72)【発明者】
【氏名】大和 由佳
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-032303(JP,A)
【文献】特開2004-163227(JP,A)
【文献】特開2014-149285(JP,A)
【文献】特開2014-224756(JP,A)
【文献】特開2002-131294(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1808060(CN,A)
【文献】インテグリティ試験を用いた橋梁基礎の損傷調査法マニュアル(案),橋梁基礎構造の形状および損傷調査マニュアル(案)[online],日本,国立研究開発法人 土木研究所,1999年12月,令和4年4月6日検索、インターネット<URL:https://pwri.go.jp/caesar/manual/pdf/corepo_0236.pdf>
【文献】松井 保ほか,非破壊試験による基礎杭損傷調査における解析手法の開発と適用性に関する研究,土木学会論文集,Vol.596,1998年06月,p.261-270
【文献】山鼻 常昭ほか,PHC杭を用いた低ひずみ非破壊試験に関する基本実験,日本建築学会学術講演梗概集B 構造1,1994年09月,p.1593-1594
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
E02D 27/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の長さを持つ評価対象の杭の頭部をたたいて弾性波を発生させてから、前記評価対象の杭を伝播し前記評価対象の杭の先端部で反射し、前記頭部に伝播するまでの時間を取得するステップと、
前記評価対象の杭の長さと前記時間から前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計測値を取得するステップと、
前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値を取得するステップと、
前記評価対象の杭の周囲地盤の影響を考慮して、前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷の無い前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップと、
前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計測値と前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値とを比較して前記評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率を求めるステップと、
前記評価対象の杭と同じ材質の試験杭に対して予め試験して求めた損傷の大きさと弾性波伝播速度の低下率との関係から前記評価対象の杭の損傷の大きさを求めるステップと、
を有する
ことを特徴とする杭の損傷評価方法。
【請求項2】
前記評価対象の杭の周囲の地盤の影響を考慮して前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷が無い場合の前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップは、
前記評価対象の杭および前記評価対象の杭が設置される周囲の地盤をモデル化し、数値解析により、前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップ
を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の杭の損傷評価方法。
【請求項3】
前記解析モデルは、3次元有限要素法によってモデル化したものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の杭の損傷評価方法。
【請求項4】
前記評価対象の杭の周囲の地盤の影響を考慮して前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷が無い場合の前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップは、
予め取得した地盤の種類と評価対象の杭の弾性波伝播速度低減率との関係から、前記評価対象の杭の地盤による弾性波伝播速度低減率を取得するステップと、
前記低減率を前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値に乗じて、前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップと、
を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の杭の損傷評価方法。
【請求項5】
前記評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率が予め定めた値以上の場合、割線剛性低下率を前記評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率の2乗とみなす
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の杭の損傷評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の新築または建て替えに際して杭の支持性能を評価する杭の損傷評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の建て替え等に際して、工費・工期の低減や地球環境への配慮から、既存建物の基礎杭を新築建物でも再利用する要求・機運が高まっている。既存の杭の再利用に当たっては、その支持性能を評価するために、杭の健全性を確認する必要がある。
【0003】
杭健全性の調査方法としては、インテグリティ試験等の衝撃弾性波試験が用いられている。
【0004】
図1は、衝撃弾性波試験による杭の損傷確認の原理を示す。図1(a)は衝撃弾性波試験の様子を示す。図1(b)は衝撃弾性波の伝播状態を示す。図1(b)の下方に凸状の三角形は、伝播する弾性波を示す。
【0005】
衝撃弾性波試験は、まず、評価対象の杭1の頭部1aに加速度計等のセンサー2を取り付け、近傍をハンマー3で打撃する。すると、衝撃弾性波が発生し、評価対象の杭1を下向きに伝播し、地盤とのインピーダンスの異なる先端部1bで反射して反射波となり、上向きに伝播する。頭部1aのセンサー2では打撃波と、杭長Lの2倍の距離を伝播してきた反射波とが、時間差Tで検知される。地盤4での評価対象の杭1の弾性波伝播速度がV’で一定とした場合、杭長はL=V’T/2で表される。
【0006】
評価対象の杭1に損傷がある場合、損傷部1cで弾性波の一部が反射するため、評価対象の杭1の全長から想定される時間Tより早い時間tで損傷部反射波が観測される。通常、この損傷部反射波が確認できるか否かによって損傷の可能性の有無のみを判定する場合が多い。損傷部1cの位置は、l=V’t/2で表される。
【0007】
従来、このような衝撃弾性波試験を用いて、打撃波、損傷部反射波、及び、先端反射波の振幅の比率をプロットすることにより、杭の健全性を評価する杭の評価方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-224756号公報
【文献】特開2019-032303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、損傷部反射波の振幅及び先端反射波の振幅は、地中の杭では減衰してしまい、非常に小さくなる。したがって、その計測精度は高くないため、かなり安全側の評価に傾かざるを得ない問題点があった。
【0010】
本発明は、的確に杭の損傷を評価することが可能となる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる杭の損傷評価方法は、
既知の長さを持つ評価対象の杭の頭部をたたいて弾性波を発生させてから、前記評価対象の杭を伝播し前記評価対象の杭の先端部で反射し、前記頭部に伝播するまでの時間を取得するステップと、
前記評価対象の杭の長さと前記時間から前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計測値を取得するステップと、
前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値を取得するステップと、
前記評価対象の杭の周囲地盤の影響を考慮して、前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷の無い前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップと、
前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計測値と前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値とを比較して前記評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率を求めるステップと、
前記評価対象の杭と同じ材質の試験杭に対して予め試験して求めた損傷の大きさと弾性波伝播速度の低下率との関係から前記評価対象の杭の損傷の大きさを求めるステップと、
を有する
ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる杭の損傷評価方法は、
前記評価対象の杭の周囲の地盤の影響を考慮して前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷が無い場合の前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップは、
前記評価対象の杭および前記評価対象の杭が設置される周囲の地盤をモデル化し、数値解析により、前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップ
を有する。
【0013】
また、本発明にかかる杭の損傷評価方法は、
前記解析モデルは、3次元有限要素法によってモデル化したものである。
【0014】
また、本発明にかかる杭の損傷評価方法は、
前記評価対象の杭の周囲の地盤の影響を考慮して前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷が無い場合の前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップは、
予め取得した地盤の種類と評価対象の杭の弾性波伝播速度低減率との関係から、前記評価対象の杭の地盤による弾性波伝播速度低減率を取得するステップと、
前記低減率を前記評価対象の杭の気中での弾性波伝播速度計測値に乗じて、前記評価対象の杭の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップと、
を有する。
【0015】
また、本発明にかかる杭の損傷評価方法は、
前記評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率が予め定めた値以上の場合、割線剛性低下率を前記評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率の2乗とみなす。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる杭の損傷評価方法によれば、的確に杭の損傷を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】衝撃弾性波試験による杭の損傷確認の原理を示す。
図2】本実施形態の杭の損傷評価方法で用いるために予め行う試験杭の曲げ載荷試験の概要を示す。
図3】本実施形態の杭の損傷評価方法で用いるために予め行う試験杭の曲げ載荷試験でのひび割れに対する衝撃弾性波試験の波形を示す。
図4】本実施形態の杭の損傷評価方法で用いるために予め行う試験杭の曲げせん断載荷試験の概要を示す。
図5】本実施形態の杭の損傷評価方法で用いる最大ひび割れ幅と弾性波伝播速度低下率の関係を示す。
図6】本実施形態の杭の損傷評価方法のフローチャートを示す。
図7】本実施形態の杭の損傷評価方法において、評価対象の杭の径方向の弾性波伝播速度を求める第1の方法を示す。
図8】本実施形態の杭の損傷評価方法において、評価対象の杭の軸方向の弾性波伝播速度を求める第2の方法を示す。
図9】本実施形態の杭の損傷評価方法において、コア試験体の弾性波伝播速度を求める第3の方法を示す。
図10】本実施形態の杭の損傷評価方法において、周囲の地盤の弾性波速度と評価対象の杭の弾性波伝播速度の低減率の関係を示す。
図11】本実施形態の杭の損傷評価方法で用いるひび割れ幅合計と弾性波伝播速度低下率の関係を示す。
図12】本実施形態の杭の損傷評価方法で用いる最大ひび割れ幅と低下率の関係を示す。
図13】本実施形態の杭1の損傷評価方法のフローチャートの他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明にかかる一実施形態の杭の損傷評価方法を説明する。本実施形態の杭の損傷評価方法は、衝撃弾性波試験に基づき、より精度良く杭の損傷を評価するため、弾性波の伝達時間から損傷を評価する方法を以下に述べる。
【0019】
図2は、本実施形態の杭1の損傷評価方法で用いるために予め行う試験杭の曲げ載荷試験の概要を示す。図3は、本実施形態の試験杭の曲げ載荷試験でのひび割れに対する波形を示す。図3(a)は本実施形態の試験杭の曲げ載荷試験でのひび割れが無い状態に対する波形、図3(b)は本実施形態の試験杭の曲げ載荷試験でのひび割れ0.5mmに対する波形、図3(c)は本実施形態の試験杭の曲げ載荷試験でのひび割れ1.2mmに対する波形を示す。
【0020】
本実施形態の杭の損傷評価方法では、予め試験杭10の曲げ載荷試験を行う。図2に示すように、試験杭10は、気中において両端側の2カ所で支持部5に支持されて設置される。続いて、試験杭10は、支持部5の間で荷重Pが加えられる。試験杭10には、荷重Pによって、損傷部10cが発生する。本実施形態の試験杭10の曲げ載荷試験は、損傷部10cを発生させながら衝撃弾性波試験を行い、損傷部10cの幅に応じた速度低下率を求める。なお、試験杭10の材質は、評価対象の杭1と同じとする。
【0021】
損傷部10cが発生していない場合の衝撃弾性波試験では、図3(a)に示すように、ハンマー3でたたいた後、約3.0ミリ秒後に先端反射波が観測され、先端反射波以外の波は観測されない。
【0022】
最大0.5mmの損傷部10cが発生している場合の衝撃弾性波試験では、図3(b)に示すように、ハンマー3でたたいた後、約3.4ミリ秒後に先端反射波が観測され、先端反射波以外の損傷部反射波が観測される。
【0023】
最大1.2mmの損傷部10cが発生している場合の衝撃弾性波試験では、図3(c)に示すように、ハンマー3でたたいた後、約3.7ミリ秒後に先端反射波が観測され、先端反射波以外の損傷部反射波が観測される。
【0024】
これらの結果から、試験杭10は、損傷部10cの損傷が大きいほど先端反射波の観測時刻が遅れることがわかる。つまり、損傷部10cの損傷が大きいほど弾性波の伝播速度が低下する。この伝播速度の低下率を求める。
【0025】
図4は、本実施形態の杭1の損傷評価方法で用いるために予め行う試験杭の曲げせん断載荷試験の概要を示す。
【0026】
本実施形態の杭1の損傷評価方法では、予め試験杭10の曲げせん断載荷試験も実施する。図4に示すように、試験杭10は、気中において2カ所で支持部5に支持されて設置される。続いて、試験杭10は、一方の支持部5を挟むように反対側の2カ所の荷重点6へ荷重Pが加えられる。杭1には、荷重Pによって、損傷部10cが発生する。本実施形態の曲げせん断載荷試験は、損傷部10cを発生させながら衝撃弾性波試験を行い、損傷部10cの幅に応じた速度低下率を求める。なお、試験杭10の材質は、評価対象の杭1と同じとする。
【0027】
図5は、本実施形態の杭の損傷評価方法に用いる最大ひび割れ幅と弾性波伝播速度低下率の関係を示す。
【0028】
図2に示した曲げ載荷試験と図4に示した曲げせん断載荷試験の結果から最大ひび割れ幅に対する弾性波伝播速度低下率を求めたものが図5である。図5に示すように、最大ひび割れ幅が大きくなるほど弾性波伝播速度が小さくなることがわかる。
【0029】
例えば、最大ひび割れ幅が1.0mmの場合、弾性波伝播速度低下率は0.8程度となる。また、最大ひび割れ幅が3.0mmの場合、弾性波伝播速度低下率は0.7程度となる。なお、図中の曲線はやや安全側に推定した場合の目安である。
【0030】
本実施形態の杭1の損傷評価方法は、衝撃弾性波試験を行い、図5に示したグラフを用いて、評価対象の杭1の損傷を評価する。なお、本実施形態の評価対象の杭1の損傷評価方法は、杭長Lが施工記録等から明らかであることを前提とする。また、図5に示したグラフを得るための試験で用いる試験杭10と本実施形態の損傷を評価する評価対象の杭1は、同じ材質とする。
【0031】
図6は、本実施形態の杭1の損傷評価方法のフローチャートを示す。
【0032】
本実施形態の杭1の損傷評価方法では、まずステップ1で、評価対象の杭1に対して、実際に衝撃弾性波試験を行う(ST1)。衝撃弾性波試験は、図1に示したように、評価対象の杭1の頭部1aをハンマー3でたたいて波形を測定する。測定者は、波形から損傷部1cの反射波が見られるか否かを確認し、打撃波と底部1bで反射した反射波の時間差Ttestを読み取る。
【0033】
続いて、ステップ2で、評価対象の杭の弾性波伝播速度の試験値Vtestを次式(1)から計算する(ST2)。評価対象の杭1の長さLは予め取得しておく。
【数1】
ただし、Vtestは評価対象の杭の弾性波伝播速度の試験値、Lは評価対象の杭1の長さ、Ttestは評価対象の杭の打撃波と反射波の時間差、である。
【0034】
次に、ステップ3で、以下に述べる3つのいずれかの方法により、評価対象の杭1の気中における弾性波伝播速度を測定する(ST3)。第1,第2の方法では、評価対象の杭1の頭部1aに複数のセンサーを設置して、その近傍を打撃し、評価対象の杭1の気中における弾性波伝播速度を求める。
【0035】
図7は、本実施形態の杭の損傷評価方法において、評価対象の杭の径方向の弾性波伝播速度VPを求める第1の方法を示す。
【0036】
第1の方法では、評価対象の杭1の杭径方向の弾性波伝播速度VPを求める。評価対象の杭1の頭部1aの上面に二つの加速度計21,22を設置する。第1加速度計21と第2加速度計22は、杭径方向で軸を挟んだ対向する位置に設置すると好ましい。この状態で、試験者は、第1加速度計21の近傍の評価対象の杭1の側面をハンマー3で叩き、第1加速度計21及び第2加速度計22で加速度を計測する。試験者は、第1加速度計21及び第2加速度計22の計測値の時間差と、第1加速度計21及び第2加速度計22の距離L1から、杭径方向の弾性波伝播速度VPを求める。
【0037】
図8は、本実施形態の杭の損傷評価方法において、評価対象の杭の軸方向の弾性波伝播速度VBarを求める第2の方法を示す。
【0038】
第2の方法では、評価対象の杭1の杭軸方向の弾性波伝播速度VBarを求める。評価対象の杭1の頭部1aの側面に二つの加速度計21,22を設置する。第1加速度計21と第2加速度計22は、両者を結ぶ直線が杭軸に平行な位置に設置すると好ましい。なお、評価対象の杭1の気中部分が少ない場合には、地盤4を掘り起こして行えばよい。この状態で、試験者は、第1加速度計21の近傍の評価対象の杭1の上面をハンマー3で叩き、第1加速度計21及び第2加速度計22で加速度を計測する。試験者は、第1加速度計21及び第2加速度計22の計測値の時間差と、第1加速度計21及び第2加速度計22の距離L2から、杭軸方向の弾性波伝播速度VBarを求める。
【0039】
杭径方向の弾性波伝播速度VPと杭軸方向の弾性波伝播速度VBarの間にはポアソン比νを介して以下の式(2)の関係がある。
【数2】
ただし、VP は杭径方向の弾性波伝播速度(3次元状態)、VBar は杭軸方向の弾性波伝播速度(1次元状態)、E は杭1のヤング係数、ρ は杭1の密度、ν はポアソン比、である。
【0040】
図9は、本実施形態の杭の損傷評価方法において、コア試験体の弾性波伝播速度VPcore を求める第3の方法を示す。
【0041】
評価対象の杭1の頭部1aが地中に埋まっている等の理由で、弾性波伝播速度を直接測定できない場合、評価対象の杭1又は同じ材質の試験杭10等からコア試験体30を採取して、測定してもよい。この場合、コア試験体30の両端面に第1計測機器31及び第2計測機器32をそれぞれ取り付け、一方の面から電圧を印加して振動を与え、第1計測機器31及び第2計測機器32でそれぞれ波形を測定する。この測定した波形からコア試験体30の弾性波伝播速度VPcore を求める。このコア試験体30の弾性波伝播速度VPcore は、コア試験体30の直径と長さの比が1:2程度で1次元状態の棒材とは見なせないため、杭径方向の弾性波伝播速度VPと同じと見なす。
【0042】
次に、ステップ4で、数値解析を実施するか否かを選択する(ST4)。杭の損傷を精度良く求める必要がある場合には数値解析を実施し、やや精度が落ちても数値解析に要する手間を省きたい場合には実施しない等、で選択すればよい。ここでの精度は、目安として、地中での評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値V’の誤差5%以内とする。地中での評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値V’は、周囲の地盤4の影響により、ステップ3で求めた気中での評価対象の杭1の軸方向の弾性波伝播速度VBarとは異なる。したがって、数値解析又は予め求めたチャート等を用いて、地中での評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値V’を計算する。
【0043】
ステップ4において、数値解析の実施を選択した場合、ステップ5で、周囲地盤を考慮した数値解析で損傷の無い健全なモデル杭の試験を模擬する(ST5)。ステップ5では、健全な長さLのモデル杭について、杭及び周囲地盤をモデル化した数値解析で衝撃弾性波試験を模擬し、弾性波伝達時間Tanalysisを求める。なお、数値解析の方法は、特許文献2を参照にすればよい。
【0044】
続いて、ステップ6で、ステップ5において求めた弾性波伝達時間Tanalysisを用いて、地中の評価対象の杭1の弾性波伝播速度V’を計算する(ST6)。
【0045】
本実施形態の地中での評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値V’は、弾性波伝達時間Tanalysisを用いて、以下の式(3)により、計算する。
【数3】
ただし、V’は地中の評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値、Lは評価対象の杭1の長さ、Tanalysisは数値解析による弾性波伝達時間の計算値、である。
【0046】
ステップ4において、数値解析の実施を選択しない場合、ステップ7で、予め求めた簡易チャートを用いて弾性波伝播速度の低減率を求める(ST7)。
【0047】
図10は、本実施形態の杭の損傷評価方法において、周囲の地盤の弾性波速度と評価対象の杭の弾性波伝播速度の低減率の関係を示す。
【0048】
ステップ7では、図10に示すような簡易チャートを用いて、周囲の地盤の土質と弾性波速度から、気中に対する土中の評価対象の杭の弾性波伝播速度の低減率ζを求める。図10に示すチャートは、以下に示す数式による計算値と、所定のモデルに対して別途実施した3次元有限要素法解析結果を対応させることで予め求めておけば良い。
【0049】
本実施形態では、以下の式(4)から導いた低減率を用いる。
【数4】
ただし、ζは気中に対する土中の評価対象の杭の弾性波伝播速度の低減率、ρpは評価対象の杭の密度、Apは評価対象の杭の断面積、Epは評価対象の杭のヤング率、ρgは評価対象の杭の周囲の地盤の密度、Agは評価対象の杭の周囲の地盤の断面積、Egは評価対象の杭の周囲の地盤のヤング率、である。
【0050】
図10は、式(4)で求めた結果と所定のモデルに対して、周囲の地盤の密度ρgと弾性波速度Vsを変化させて別途実施した3次元有限要素法解析結果とが一致するような地盤の断面積Agの値を設定し、求めている。このチャートを用いることにより、土質毎に地盤4の弾性波速度Vsに対する杭径方向の評価対象の杭1の軸方向の弾性波伝播速度VBarの低減率を求めることができる。
【0051】
続いて、ステップ8で、ステップ7において求めた低減率ζを用いて、地中の評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値V’を計算する(ST8)。
【0052】
本実施形態の地中の評価対象の杭の弾性波伝播速度の計算値V’は、気中に対する土中の評価対象の杭1の弾性波伝播速度の低減率ζを用いて、以下の式(5)により、計算する。
【数5】
ただし、V’は地中の評価対象の杭の弾性波伝播速度の計算値、ζは気中に対する土中の評価対象の杭の弾性波伝播速度の低減率、VBar は評価対象の杭の軸方向の弾性波伝播速度、である。
【0053】
次に、ステップ9で、以下の式(6)を用いて、評価対象の杭1の損傷による弾性波伝播速度の低下率ηを求める(ST9)。
【数6】
ただし、ηは評価対象の杭1の損傷による弾性波伝播速度の低下率、Vtestは評価対象の杭の弾性波伝播速度の試験値、V’は地中の評価対象の杭の弾性波伝播速度の計算値である。
【0054】
ステップ2において求めた評価対象の杭の弾性波伝播速度の試験値Vtestは、実際に試験することによって求めた値なので、損傷部1cが存在する場合、弾性波伝播速度が低下する。ステップ6又はステップ8において計算した地中の評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値V’は、計算上の値であって、損傷部1cを考慮していない弾性波伝播速度である。
【0055】
ステップ9では、ステップ2において求めた評価対象の杭1の弾性波伝播速度の試験値Vtestと、ステップ6又はステップ8において計算した地中の評価対象の杭1の弾性波伝播速度の計算値V’とを比較して、損傷部1cによる評価対象の杭1の弾性波伝播速度の低下率ηを求める。
【0056】
次に、ステップ10で、図5に示した損傷評価チャートにより評価対象の杭1の最大ひび割れ幅を求める(ST10)。
【0057】
例えば、ステップ9において求めた損傷部1cによる評価対象の杭1の弾性波伝播速度の低下率ηが0.90の場合、対応する最大ひび割れ幅は約0.5mmとわかる。また、ステップ9において求めた損傷部1cによる評価対象の杭1の弾性波伝播速度の低下率ηが0.75の場合、対応する最大ひび割れ幅は約2.0mmとわかる。
【0058】
図11は、本実施形態の杭の損傷評価方法で用いるひび割れ幅合計と弾性波伝播速度低下率の関係を示す。
【0059】
図11に示すように、弾性波伝播速度低下率ηから杭のひび割れ幅の合計を求めることもできる。
例えば、ステップ9において求めた損傷部1cによる評価対象の杭1の弾性波伝播速度の低下率ηが0.90の場合、対応するひび割れ幅合計は約2.5mmとわかる。また、ステップ9において求めた損傷部1cによる評価対象の杭1の弾性波伝播速度の低下率ηが0.75の場合、対応するひび割れ幅合計は約9mmとわかる。
【0060】
図12は、本実施形態の杭の損傷評価方法で用いる最大ひび割れ幅と低下率の関係を示す。
【0061】
物理量として剛性は、弾性波速度の2乗に比例する。そこで、図12に示すように、割線剛性低下率ayと、弾性波伝播速度低下率ηと、弾性波伝播速度低下率ηの2乗と、を比較した。
【0062】
すると、丸で表される割線剛性低下率ayと正方形で表される弾性波伝播速度低下率ηの2乗は、最大ひび割れ幅が2mm以上になると乖離するが、最大ひび割れ幅が2mmより小さい範囲で一致度が高い。最大ひび割れ幅が2mm以上の場合、損傷杭を再利用することは困難と考えられる。したがって、最大ひび割れ幅を1mm程度又は剛性低下率を0.6程度までに限定すると、弾性波伝播速度低下率ηの2乗の値を杭体の剛性低下率とみなすことが実用上可能といえる。
【0063】
この関係を利用して、杭の衝撃弾性波試験に基づき杭体の損傷及び剛性低下を評価する方法を説明する。なお、この方法を適用するには、杭長Lが施工記録等から明らかであることが前提である。
【0064】
図13は、本実施形態の杭1の損傷評価方法のフローチャートの他の例を示す。図13に示すフローチャートのステップ11~ステップ19は、図6に示したフローチャートのステップ1~ステップ9と同じなので、説明は省略する。
【0065】
図13に示す杭1の損傷評価方法では、弾性波伝播速度低下率ηを求めた後、ステップ20で、弾性波伝播速度低下率ηが、予め定めた値以上(η≧0.8)を満たすか否かを判定する(ST20)。
【0066】
ステップ20において、弾性波伝播速度低下率ηが、η≧0.8を満たす場合、ステップ21で、割線剛性低下率ayを以下の式(7)で示す。
【数7】
【0067】
ステップ20において、弾性波伝播速度低下率ηが、η≧0.8を満たさない場合、ステップ22で、最大ひび割れ幅を1mmより大きいと判断し、杭1を適用範囲外とする。
【0068】
このように、弾性波伝播速度低下率ηの2乗の値を杭体の割線剛性低下率ayとみなすことによって、杭の損傷による性能の低下を迅速的確に評価することができ、既存杭の再利用の促進が期待できる。
【0069】
以上、本実施形態の杭の損傷評価方法は、既知の長さを持つ評価対象の杭1の頭部1aをたたいて弾性波を発生させてから、評価対象の杭1を伝播し評価対象の杭1の先端部1bで反射し、頭部1aに伝播するまでの時間を取得するステップと、評価対象の杭1の長さLと時間から評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計測値を取得するステップと、評価対象の杭1の気中での弾性波伝播速度計測値を取得するステップと、評価対象の杭1の周囲地盤の影響を考慮して、評価対象の杭1の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷の無い評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計算値V’を取得するステップと、評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計測値と評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計算値V’とを比較して評価対象の杭1の損傷による弾性波伝播速度の低下率ηを求めるステップと、評価対象の杭1と同じ材質の試験杭10に対して予め試験して求めた損傷の大きさと弾性波伝播速度の低下率ηとの関係から評価対象の杭1の損傷の大きさを求めるステップと、を有する。したがって、本実施形態の杭の損傷評価方法によれば、的確に杭の損傷を評価することが可能となる。
【0070】
また、本実施形態の杭の損傷評価方法は、評価対象の杭1の周囲の地盤4の影響を考慮して評価対象の杭1の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷が無い場合の評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計算値V’を取得するステップは、評価対象の杭1および評価対象の杭1が設置される周囲の地盤4を解析モデル化し、数値解析により、評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計算値V’を取得するステップと、を有する。したがって、本実施形態の杭の損傷評価方法によれば、迅速に杭の損傷を評価することが可能となる。
【0071】
また、本実施形態の杭の損傷評価方法は、解析モデルは、3次元有限要素法によってモデル化したものである。したがって、本実施形態の杭の損傷評価方法によれば、迅速かつ的確に杭の損傷を評価することが可能となる。
【0072】
また、本実施形態の杭の損傷評価方法は、評価対象の杭1の周囲の地盤4の影響を考慮して評価対象の杭1の気中での弾性波伝播速度計測値から、損傷が無い場合の評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計算値を取得するステップは、予め取得した地盤4の種類と評価対象の杭1の弾性波伝播速度低減率との関係から、評価対象の杭1の地盤4による弾性波伝播速度低減率を取得するステップと、低減率を評価対象の杭1の気中での弾性波伝播速度計測値に乗じて、評価対象の杭1の地中での弾性波伝播速度計算値V’を取得するステップと、を有する。したがって、本実施形態の杭の損傷評価方法によれば、迅速に杭の損傷を評価することが可能となる。
【0073】
また、評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率が予め定めた値以上の場合、割線剛性低下率を評価対象の杭の損傷による弾性波伝播速度の低下率の2乗とみなす。したがって杭の損傷による性能の低下を迅速的確に評価することができ、既存杭の再利用の促進が期待できる。
【0074】
なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、当業者であれば、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…評価対象の杭
1a…頭部
1b…先端部
1c…損傷部
2…センサー
3…ハンマー
4…地盤
10…試験杭
30…コア試験体
図1
図2
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図5
図6
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図8
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図11
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図13