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特許7582917多孔質炭素材料およびその製造方法、多孔質炭素材料の前駆体、ならびに多孔質炭素材料を用いた電極材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料およびその製造方法、多孔質炭素材料の前駆体、ならびに多孔質炭素材料を用いた電極材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241106BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20241106BHJP
   H01G 11/34 20130101ALI20241106BHJP
【FI】
C01B32/05
H01G11/86
H01G11/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021129202
(22)【出願日】2021-08-05
(65)【公開番号】P2023023571
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 成之
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸治
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103183342(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105129768(CN,A)
【文献】特開2019-218232(JP,A)
【文献】特開2020-189760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
H01G 11/00 - 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを水に加熱溶解したポリビニルアルコール水溶液と酢酸亜鉛を水に加熱溶解した酢酸亜鉛水溶液との合成反応により、
X線光電子分光法による表面分析において、1020~1030(eV)に現れるZn2pのピーク、530~540(eV)に現れるO1sのピーク、280~300(eV)に現れるC1sのピークの全てが検出される前駆体を調製し、
その後、当該前駆体を焼成して、X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されなくなるまで高温で焼成する多孔質炭素材料の製造方法であって、
酢酸亜鉛/ポリビニルアルコールの使用重量比が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に相当する際、焼成後の多孔質炭素材料の比表面積が338、377、1078、1395、1740、2498m/gとなる関係にあることを利用して、
酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用重量比を決定することによって、所望の比表面積の多孔質炭素材料を調製することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
酢酸亜鉛/ポリビニルアルコールの使用重量比が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に相当する際、焼成後の多孔質炭素材料のメソ孔比表面積が64、78、147、189、358、869m/gとなる関係にあることを利用して、
酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用重量比を決定することによって、所望のメソ孔比表面積の多孔質炭素材料を調製する請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
酢酸亜鉛/ポリビニルアルコールの使用重量比が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に相当する際、焼成後の多孔質炭素材料の回収率が9.10、8.05、3.46、2.16、0.87、0.37%となる関係にあることを利用して、
酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用重量比を決定することによって、所望の回収率で多孔質炭素材料を調製する請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、
X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されず、比表面積1395m/g以上となされた多孔質炭素材料。
【請求項5】
請求項2に記載の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、
X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されず、メソ孔比表面積189m/g以上となされた多孔質炭素材料。
【請求項6】
請求項4または5に記載の多孔質炭素材料を含む電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、賦活工程を省略した簡単な作業工程で得ることができる多孔質炭素材料およびその製造方法と、その多孔質炭素材料を用いた電極材料とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気二重層キャパシタの分極性電極として、表面積が大きく導電性に優れている点から活性炭等の多孔質材料が用いられている。
【0003】
従来より、このような活性炭等の多孔質材料を製造する過程では、ガス賦活や薬品賦活などの賦活処理が必要であった(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-142967号公報
【文献】WO2007/034873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の多孔質材料の製造方法のように、ガス賦活や薬品賦活などの賦活処理が必要となると、ガスや薬品の調達コストや、廃棄コストや、賦活工程そのものの製造コストが嵩むこととなり、特に薬品賦活の場合には、フッ酸や濃塩酸などの強酸を用いるので廃棄コストが高くなるとともに、作業の安全性にも配慮しなければならないので、製品が高価なものとなってしまう。
【0006】
本発明は、賦活工程を省略して簡単な作業工程で製造できる多孔質炭素材料、およびその製造方法と、当該多孔質炭素材料を用いた電極材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、ポリビニルアルコールを水に加熱溶解したポリビニルアルコール水溶液と酢酸亜鉛を水に加熱溶解した酢酸亜鉛水溶液との合成反応により、X線光電子分光法による表面分析において、1020~1030(eV)に現れるZn2pのピーク、530~540(eV)に現れるO1sのピーク、280~300(eV)に現れるC1sのピークの全てが検出される前駆体を調製し、その後、当該前駆体を焼成して、X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されなくなるまで高温で焼成する多孔質炭素材料の製造方法であって、酢酸亜鉛/ポリビニルアルコールの使用重量比が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に相当する際、焼成後の多孔質炭素材料の比表面積が338、377、1078、1395、1740、2498m /gとなる関係にあることを利用して、酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用重量比を決定することによって、所望の比表面積の多孔質炭素材料を調製するものである。
【0008】
上記多孔質炭素材料の製造方法は、酢酸亜鉛/ポリビニルアルコールの使用重量比が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に相当する際、焼成後の多孔質炭素材料のメソ孔比表面積が64、78、147、189、358、869m /gとなる関係にあることを利用して、酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用重量比を決定することによって、所望のメソ孔比表面積の多孔質炭素材料を調製するものであってもよい。
【0009】
上記多孔質炭素材料の製造方法は、酢酸亜鉛/ポリビニルアルコールの使用重量比が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に相当する際、焼成後の多孔質炭素材料の回収率が9.10、8.05、3.46、2.16、0.87、0.37%となる関係にあることを利用して、酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用重量比を決定することによって、所望の回収率で多孔質炭素材料を調製するものであってもよい。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の多孔質炭素材料は、上記の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されず、比表面積1395m/g以上となされたものである。
【0014】
上記多孔質炭素材料は、上記の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されず、メソ孔比表面積189m/g以上となされたものであってもよい。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の電極材料は、上記多孔質炭素材料を含むものである。
【0019】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、ポリビニルアルコールと酢酸亜鉛との合成反応は、有機溶媒を用いることなく、水のみを溶媒として用い、加熱溶解したポリビニルアルコール水溶液と、同じく加熱溶解した酢酸亜鉛水溶液とを用いて行う。この際、各水溶液の濃度は、特に限定されるものではなく、適宜調製したものを用いることができる。ただし、ポリビニルアルコールの使用量に対する酢酸亜鉛の使用量が増えるにしたがって、出来上がった多孔質炭素材料の比表面積が増加する関係があるため、製造する多孔質炭素材料に求められる比表面積に応じて酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用量の質量比を決定することが望ましい。
【0020】
上記した加熱溶解したポリビニルアルコール水溶液と、加熱溶解した酢酸亜鉛水溶液とによって合成反応を行うことで、多孔質炭素材料の前駆体を調製することができる。この際、上記した加熱溶解したポリビニルアルコール水溶液と加熱溶解した酢酸亜鉛水溶液とによって合成反応を行うことで、前駆体は、図1に示すように、X線光電子分光法による表面分析において、1020~1030(eV)に現れるZn2pのピーク、530~540(eV)に現れるO1sのピーク、280~300(eV)に現れるC1sのピークの全てが検出されるものとなり、前駆体全体にZn結合と、Zn元素とが含まれたものとなる。
【0021】
この前駆体は、図2に示すように、X線回折によって確認される3つのメインピーク(2θ)の相対強度比に着目すると、ポリビニルアルコールの使用量に対する酢酸亜鉛の使用量が増えるにしたがって、X線回折による回折角度の12度付近のピーク(2θ)が他の2つのピーク(2θ)に比べて大きくなる傾向が確認できる。これら3つのメインピーク(2θ)は、前駆体の合成反応で使用する酢酸亜鉛を酸化亜鉛に変更した場合には、図3に示すように、ポリビニルアルコールと酸化亜鉛とのピーク(2θ)が確認されるだけで、反応した痕跡が認められない。このことからも、ポリビニルアルコールと酸化亜鉛とによって合成反応を行った場合には、前記したように、ポリビニルアルコールの使用量に対する酢酸亜鉛の使用量が増えるにしたがって、X線回折による回折角度の12度付近のピーク(2θ)が他の2つのピーク(2θ)に比べて相対的に大きくなる傾向で合成反応が進行することが確認できる。
【0022】
上記前駆体は、焼成することによって多孔質炭素材料とされる。この際、図4に示すように、図2で確認された3つのメインピーク(2θ)は、焼成温度が上昇するとともに消失し、それと入れ代わって焼成途中過程で酸化亜鉛(ZnO)を生じる。この際、X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が、発生することを確認できる。これら酸化亜鉛(ZnO)のピークは、さらに昇温して高温で焼成すると、還元されて消失する。これにより、前駆体は、当該前駆体のZn結合およびZn元素が、焼成過程で酸化亜鉛(ZnO)を生じ、さらに高温で焼成することによってこの酸化亜鉛(ZnO)が消失した跡に、空隙が形成されることとなり、多孔質化が図られた焼成体となる。このことは、図5(a)に示すように、亜鉛の沸点である900℃付近の重量低下や、図5(b)に示すように、この900℃付近で酸化亜鉛の還元による吸熱反応が起こっていることからも、酸化亜鉛が還元されて消失していることを確認することができる。焼成は、これらの酸化亜鉛(ZnO)のピークが発生して消失するまでを観察しながら、これらの酸化亜鉛(ZnO)のピークが検出されなくなるまで高温で行う。この観察は、図4に示すように、各温度域での、酸化亜鉛(ZnO)のピークを観察するものであってもよいし、図5(a)に示すように、亜鉛の沸点である900℃付近の重量低下を観察するものであってもよいし、図5(b)に示すように、この900℃付近で酸化亜鉛の還元による吸熱反応を観察するものであってもよいし、これらの中から選択される複数を観察するものであってもよい。
【0023】
なお、焼成は、これらの酸化亜鉛(ZnO)のピークが検出されなくなるまで高温で行うことが好ましいが、完全になくなるまで焼成しないものであってもよい。この際、亜鉛の沸点である907℃以上で焼成すれば、確実に細孔を形成して多孔質にすることができるが、亜鉛の沸点以下の温度であっても、長時間焼成すれば、酸化亜鉛や亜鉛の入り込んでいた跡に細孔を形成して多孔質にすることができる。850℃以上で焼成した場合は、長時間の焼成で上記したピークを無くし、細孔を形成して多孔質にすることができることが確認できている。したがって、焼成条件としては、酸化亜鉛を分解し、亜鉛を蒸発させることができる条件であれば、特に限定されるものではなく、目安としては、30分~8時間、または前駆体1g当たり3.84時間~61.6時間の焼成を行うことが好ましい。焼成時間が、前駆体1g当たり30時間を超えると、または2時間を超えると、指数関数的またはn次関数(n>1)的に酸化亜鉛や亜鉛が消失し始め、その跡に細孔が形成されることとなるので、850℃以上であれば、前駆体1g当たり30時間以上、または2時間以上焼成すれば、上記したピークを無くすことができる。また、亜鉛の沸点である907℃以上の場合には、上記したピークを無くすことができるだけでなく、上記したピークとして検出されなかった非晶質(アモルファス)な酸化亜鉛や亜鉛も消失させることができるので、これら非晶質な酸化亜鉛や亜鉛が抜けた跡にも細孔を形成することができることとなり、より多孔質にして高非表面積の多孔質炭素材料を得ることができることとなる。
【0024】
また、この焼成に用いる前駆体は、ポリビニルアルコールを水に加熱溶解したポリビニルアルコール水溶液と、酢酸亜鉛を水に加熱溶解した酢酸亜鉛水溶液とによって合成反応を行って構成されているので、亜鉛結合を含む前駆体のマトリックス中に、亜鉛元素が均一に分散した状態となる。したがって、これら亜鉛結合や亜鉛元素が、酸化亜鉛や亜鉛を経て焼成中の前駆体から抜ける際に亜鉛や炭素が消耗されて抜けた跡の空隙が多く形成され、多孔質な焼成体となる。
【0025】
焼成は、不活性ガス雰囲気(窒素ガスもしくはアルゴンガス雰囲気)にて行うものであってもよい。この際、不活性ガス雰囲気は、0.1~1.0リットル/分のガス流量で焼成雰囲気を置換しながら行うものであってもよい。また、焼成時に所定の温度から5~10℃/分程度の昇温速度で昇温して所定温度にして焼成を行うものであってもよい。さらに、焼成は、減圧雰囲気下で行うものであってもよい。焼成する炉は、炉心管タイプ、ボックス炉、ロータリーキルン炉などを用いることができる。
【0026】
このようにして構成された多孔質炭素材料は、1020~1030(eV)に現れるZn2pのピーク、530~540(eV)に現れるO1sのピーク、280~300(eV)に現れるC1sのピークの全てが検出される前駆体、すなわち、Zn結合、O結合、C結合がしっかりと形成された三次元網目構造で骨格が形成された前駆体にZn元素が均一に分散した前駆体を調製し、これを焼成することで、当該前駆体に含まれていたZn結合やZn元素のZnが酸化亜鉛(ZnO)となり、その後、さらに高温で焼成されることによって酸化亜鉛(ZnO)が消失し、X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されない多孔質炭素材料となる。このように、焼成の過程で前駆体の亜鉛イオンが酸化亜鉛(ZnO)を経てから抜け出ることとなり、これらに起因する回折角度のピーク(2θ)が検出されない多孔質炭素材料とすることで、亜鉛イオンが抜け出た跡に細孔を生じて多孔質化を図ることができることとなる。また、このような工程を経ることによって、IUPACで定義するメソ孔(2~50nm)を多く形成することができることとなり、全比表面積に占めるメソ孔の比表面積の割合を大きくすることができる。具体的には、この割合を13.5%以上にすることができる。このメソ孔の占める比表面積の割合が大きくなると、電解質イオンの出し入れを、よりスムーズに行うことができることとなり、低電気抵抗の電極材料として好適なものとすることができる。
【0027】
しかも、このようにして構成された多孔質炭素材料は、一回きりの焼成で多孔質化が可能であり、また金属酸化物などの細孔を阻害する不純物がないため、酸処理なども不要にできるので、焼成工程後に得られた焼成体をそのまま使用することができることとなり、簡単な作業工程で多孔質炭素材料を得ることができる。
【0028】
また、この多孔質炭素材料は、ポリビニルアルコールの使用量に対する酢酸亜鉛の使用量が増えるにしたがって、出来上がった多孔質炭素材料の比表面積が増加する関係があり、図6に示すように、ポリビニルアルコールに対する酢酸亜鉛の使用量が増えると、得られる多孔質炭素材料の比表面積が高くなるが、同時に回収率も低下する。したがって、絶対的な比表面積を必要とする場合には、比表面積が多少低下しても酢酸亜鉛の使用量を減らして多孔質炭素材料の回収率を優先して、当該多孔質炭素材料を製造し、相対的な比表面積を必要とする場合は、回収率が多少低下しても酢酸亜鉛の使用量を増やして多孔質炭素材料の比表面積を優先して、当該多孔質炭素材料を製造する、といった具合に用途やニーズにあわせた多孔質炭素材料を製造することが可能となる。メソ孔の比表面積に関しても酢酸亜鉛の使用量が増えるにしたがって、増加するので、同様に、用途やニーズにあわせた多孔質炭素材料を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本発明によると、ポリビニルアルコールと酢酸亜鉛との合成反応により、前駆体を調製し、その後、当該前駆体を焼成するといった簡単な作業だけで良いため、前駆体の調製時には有機溶媒を使用する必要がなく、焼成体の調製時には、X線回折による31.8、34.5、36.3(何れのピークも誤差±0.3)の回折角度のピーク(2θ)が検出されなくなるまで高温で焼成するため、炭化後のガス賦活や薬品賦活をする必要が無くなる。したがって、有機溶媒や酸などの廃棄コストを無くし、かつ、余分な作業工程を簡略化することができ、簡単に低コストで多孔質炭素材料を得ることができる。しかも、得られる多孔質炭素材料は、酢酸亜鉛/ポリビニルアルコールの使用重量比が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に相当する際、焼成後の多孔質炭素材料の比表面積が338、377、1078、1395、1740、2498m /gとなる関係にあることを利用して、酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用重量比を決定することによって、所望の比表面積のものを得ることができるので、用途やニーズにあわせて多孔質炭素材料を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】(a)は本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法に使用する前駆体のX線光電子分光法による表面分析の全体データ、(b)は同亜鉛ピーク部分のデータ、(c)は同酸素ピーク部分のデータ、(d)は同炭素ピーク部分のデータである。
図2】本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法に使用する前駆体の粉末X線回折の回折データであって、ポリビニルアルコールの使用量に対する酢酸亜鉛の使用量を変更した場合の各回折データの相関関係を示すグラフである。
図3図2の酢酸亜鉛を酸化亜鉛に変更した比較例に係る前駆体の粉末X線回折の回折データであって、ポリビニルアルコールの使用量に対する酸化亜鉛の使用量を変更した場合の各回折データの相関関係を示すグラフである。
図4】本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法に使用する前駆体を焼成して焼成体を得る過程の各温度域における、当該前駆体の粉末X線回折による回折データを示すグラフである。
図5】(a)は本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法に使用する前駆体を焼成して焼成体を得る過程での示唆熱分析の結果を示すグラフ、(b)は同熱重量分析の結果を示すグラフである。
図6】本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法において、ポリビニルアルコールの使用量に対する酢酸亜鉛の使用量を変更した場合の、得られた多孔質炭素材料の比表面積と回収率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0032】
(前駆体の調製)
[実施例1]
ポリビニルアルコール1.0gを水30gの入ったビーカに入れ、70℃で1時間加熱攪拌した。
酢酸亜鉛0.5gを水30gの入ったビーカに入れ、10分の超音波洗浄を施した後、70℃で1時間加熱攪拌した。
上記で得られたポリビニルアルコール水溶液と酢酸亜鉛水溶液とを混合して70℃で2時間加熱攪拌した。
その後、上記で得られた液体を80℃で24時間乾燥した。
これによって得られた固形物を、破砕機(ミキサー)で粉末化し、さらに100℃で24時間減圧乾燥させて前駆体を得た。
【0033】
[実施例2-6、比較例1-5]
酢酸亜鉛の量を1.0g、1.5g、2.0g、2.5g、3.0gに変更した以外は、上記実施例1と同様にして実施例2-6の各前駆体を調製した。
酢酸亜鉛を酸化亜鉛に変更し、0.5g、1.0g、1.5g、2.0g、2.5gとした以外は上記実施例1と同様にして比較例1-5の各前駆体を調製した。
【0034】
(前駆体のX線光電子分光法による表面分析)
実施例1-6でそれぞれ調製した前駆体を使用し、当該前駆体のX線光電子分光法(XPS)による表面分析を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。実施例1の結果を図1に示す。
測定機種:アルバックファイ社製 ESCA5700
測定条件:X線源はMg、加速電圧400 W(15 kV)
【0035】
図1の結果から、実施例1に係る前駆体は、Znに関する結合が存在する1020~1030(eV)に現れるZn2pのピークと、Oに関する結合が存在する530~540(eV)に現れるO1sのピークと、Cに関する結合が存在する280~300(eV)に現れるC1sのピークとの全てが検出された。
また、図示しないが、実施例2-6についても同様の結果が確認できた。
【0036】
(前駆体の粉末X線回折)
上記の方法でそれぞれ調製した前駆体の粉末約0.02gを、サンプルホルダーに乗せて整地し、回折を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。実施例1-4の結果を図2に示し、比較例1-5の結果を図3に示す。
測定機種:X線回折装置SmartLab SE(株式会社リガク社製)
測定条件:測定角度の範囲は2θ=2°~60°
スキャンスピード10°/min
X線源;Cu(Kα)
【0037】
図2に示すように、実施例に係る前駆体は、前駆体中に、酢酸亜鉛由来の亜鉛元素のピークと、当該酢酸亜鉛がポリビニルアルコールと反応して形成された亜鉛結合由来のピークとが確認できるが、図3に示すように、比較例に係る前駆体は、酸化亜鉛とポリビニルアルコールとを混合しただけのピークが確認できるだけで反応した形跡が確認できなかった。
【0038】
(前駆体の焼成)
上記の実施例1に係る前駆体の一部をサンプルとして使用し、窒素ガス雰囲気にて、ガス流量0.2リットル/分、室温25℃から昇温速度10℃/分で昇温し、当該サンプルを1100℃まで加熱して多孔質炭素材料を得た。
【0039】
(焼成過程でのX線回折)
上記の実施例1に係る前駆体の焼成過程において、サンプルのX線回折を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。結果を図4に示す。
測定機種:smartlab SE (株式会社リガク社製)、多目的高温装置
測定条件:サンプルを0.02g、白金ホルダーにセットし、SmartLab SEの多目的高温ユニットに組み込む。昇温プログラムは、窒素ガス雰囲気(0.2リットル/分)のもと、10℃/分で昇温し、50℃、100℃、150℃、…、1100℃と50℃ずつ、その各温度に到達すると、X線の測定を開始する。測定角度の範囲は2θ=2°~40°
スキャンスピード10°/min
X線源;Cu(Kα)
【0040】
(焼成過程での示唆熱分析および熱重量分析)
上記の実施例1に係る前駆体の焼成工程において、サンプルの示唆熱分析および熱重量分析を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。結果を図5に示す。
測定機種:DTG-60 (株式会社島津製作所)
測定条件:サンプルを5mg程度、白金ホルダーにセットし、窒素ガス雰囲気(0.2リットル/分)のもと、10℃/分で昇温し、30~38度(2θ)において、低角側から酸化亜鉛の反射面(ミラー指数)(100)、(002)、そして(101)面が確認できなくなるまで高温にして焼成した。
測定機種:上と同じ
測定条件:上と同じ
【0041】
(焼成過程の考察)
図4および図5の結果から、低温域では、前駆体に確認されていた酢酸亜鉛由来の亜鉛元素のピークと、当該酢酸亜鉛がポリビニルアルコールと反応して形成された亜鉛結合由来のピークとが確認できるが、温度が上がるに従って、これらのピークが徐々に減少し、その代わりとして、30~38度(2θ)において、低角側から酸化亜鉛の反射面(ミラー指数)(100)、(002)、そして(101)面が確認できる。しかし、これら酸化亜鉛のピークも、1050℃では完全に消えて無くなっていることが確認できた。図5(a)に示すように、900℃付近の重量低下で、酸化亜鉛の還元が始まり、亜鉛が消失していることが確認できる。また、図5(b)に示すように、この900℃付近で酸化亜鉛の還元による吸熱反応が起こっていることを示している。
【0042】
(多孔質炭素材料の調製)
上記の方法で調製した実施例1-6に係る前駆体を、それぞれ焼成して多孔質炭素材料を得た。
焼成条件は、上記した実施例1と同様にして行った後、自然冷却して多孔質炭素材料を得た。前駆体調製時の酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの使用量の合計と、焼成してえられた多孔質炭素材料の量との関係から回収率を求めた。結果を表1に示す。
【0043】
(窒素吸脱着測定(比表面積/細孔分布測定))
上記の方法で調製した実施例1-6に係る多孔質炭素材料のそれぞれを200℃で24時間減圧乾燥させ、室温雰囲気中で多孔質炭素材料に吸着した水分を脱着させた後、当該多孔質炭素材料のそれぞれの粉末0.02gをサンプル管に入れ、液体窒素雰囲気下で比表面積/細孔分布測定装置(BELLSORP-miniII:マイクロトラックベル株式会社製)によって窒素吸脱着等温曲線を測定した。また、同装置の解析プログラム(I型(ISO9277)BET自動解析)により比表面積とメソ孔の比表面積とを算出した。また、上記実施例1-6に係る多孔質炭素材料の比表面積およびメソ孔の比表面積と比較する比較対象として、比較例6に係る活性炭(クラレケミカル社製YP50F)、および比較例7に係る活性炭(関西熱化学社製MSP20)について同様に比表面積およびメソ孔の比表面積を測定した。結果を表1に示す。
また、実施例1-6に係る多孔質炭素材料は、前駆体調製時の酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの調合比による比表面積と回収率との関係を求めた。グラフ化した結果を図6に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
上記の結果から、ポリビニルアルコールに対する酢酸亜鉛の使用量を増やすと、回収率は低下するが、高比表面積の多孔質炭素材料が得られ、ポリビニルアルコールに対する酢酸亜鉛の使用量を減らすと、回収率は上昇するが、低比表面積の多孔質炭素材料が得られることとなり、これら酢酸亜鉛とポリビニルアルコールとの調合比によって、多孔質炭素材料の比表面積を制御できることが確認できた。メソ孔の比表面積についても、酢酸亜鉛の使用量を増やすと、メソ孔の比表面積が増加し、酢酸亜鉛の使用量を減らすと、メソ孔の比表面積が低下することとなり、メソ孔の比表面積も所望の比表面積の多孔質炭素材料を得ることができることが確認できた。また、酢酸亜鉛ではなく、酸化亜鉛を使用した比較例の前駆体によって多孔質炭素材料を調製した場合には、多孔質化することができないことが確認できた。
【0046】
上記の結果から、本発明に係る多孔質炭素材料は、比較例6および比較例7に係る活性炭と比較した場合、全比表面積に占めるメソ孔の比表面積の割合が13.5%以上と飛躍的にメソ孔の比表面積の占める割合が高い多孔質炭素材料を得ることができることが確認できた。特に、酢酸亜鉛の使用量を増やした実施例4-6の多孔質炭素材料の場合には、メソ孔の比表面積自体も、比較例6および比較例7に係る活性炭のメソ孔の比表面積よりも圧倒的に大きい多孔質炭素材料を得ることができる。したがって、電解質イオンの出入りが容易なメソ孔の細孔分布が大きい多孔質炭素材料が得られるので、本発明に係る多孔質炭素材料は、低電気抵抗の電極材料として好適なものとなる。
【0047】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6