(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】溶接制御方法、溶接制御装置、溶接電源、溶接システム、プログラム、溶接方法及び付加製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20241106BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/173 A
(21)【出願番号】P 2021152554
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 圭
(72)【発明者】
【氏名】北村 佳昭
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/067074(WO,A1)
【文献】特開2014-83553(JP,A)
【文献】特開昭60-180675(JP,A)
【文献】特表2008-542027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間T
Pと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間T
Nの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間T
IP又は電流抑制期間T
IBに切り替えて制御する溶接制御方法であって、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間T
IPの平均電流I
P-AVEと前記電流抑制期間T
IBの平均電流I
B-AVEの関係を、0.65≦I
P-AVE/(I
P-AVE+I
B-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間T
IPと、その直後の前記電流抑制期間T
IBとの関係を、0.30≦T
IB/(T
IP+T
IB)≦0.60とし、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nの関係を、0.40≦T
N/(T
P+T
N)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間T
IP、前記電流抑制期間T
IB、前記正送給期間T
P及び前記逆送給期間T
Nの関係を、{T
N/(T
P+T
N)}>{T
IB/(T
IP+T
IB)}とするとともに、
前記正送給期間T
Pの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間T
IPが占めるように制御することを特徴とする溶接制御方法。
【請求項2】
前記溶接ワイヤの先端が前記最上端又は前記最下端に位置するときの前記溶接ワイヤの送給速度は、あらかじめ定めた平均送給速度の値とする、請求項1に記載の溶接制御方法。
【請求項3】
前記電流非抑制期間T
IPは、前記電流抑制期間T
IB直後の立ち上がり区間T
U、前記電流抑制期間T
IB直前の立ち下がり区間T
D、及び前記立ち上がり区間T
U及び前記立ち下がり区間T
D以外の電流制御区間T
Cからなり、
前記立ち上がり区間T
Uは、前記電流非抑制期間T
IPに対して20%以下であり、前記立ち下がり区間T
Dは、前記電流非抑制期間T
IPに対して20%以下である、請求項1又は2に記載の溶接制御方法。
【請求項4】
前記電流制御区間T
Cにおいて少なくとも2つの溶接電流設定値I
P1、I
P2を有し、
前記溶接ワイヤの前記最上端位置を基準として0degとする場合において、
前記溶接電流設定値I
P1の範囲の終端位置を20deg以下の範囲で設定し、
前記溶接電流設定値I
P2の範囲の終端位置を135~220degの範囲で設定する、請求項3に記載の溶接制御方法。
【請求項5】
前記溶接電流設定値I
P2の範囲の終端を前記電流制御区間T
Cの終端とし、
前記溶接電流設定値I
P2の範囲の終端位置をXdegとする場合において、
前記電流抑制期間T
IBの終端位置を(X+100)~(X+220)degの範囲で設定する、請求項4に記載の溶接制御方法。
【請求項6】
前記溶接電流設定値I
P1の設定電流を250~600Aとし、
前記溶接電流設定値I
P2の設定電流を300~650Aとする、請求項4又は5に記載の溶接制御方法。
【請求項7】
前記電流制御区間T
Cにおいて、溶接電源の外部特性を設ける、請求項4~6のいずれか1項に記載の溶接制御方法。
【請求項8】
前記溶接ワイヤの先端から離脱する溶滴の平均体積が1.7~5.0mm
3である、請求項1~7のいずれか1項に記載の溶接制御方法。
【請求項9】
溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間T
Pと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間T
Nの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間T
IP又は電流抑制期間T
IBに切り替えて制御するための溶接制御装置であって、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間T
IPの平均電流I
P-AVEと前記電流抑制期間T
IBの平均電流I
B-AVEの関係を、0.65≦I
P-AVE/(I
P-AVE+I
B-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間T
IPと、その直後の前記電流抑制期間T
IBとの関係を、0.30≦T
IB/(T
IP+T
IB)≦0.60とし、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nの関係を、0.40≦T
N/(T
P+T
N)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間T
IP、前記電流抑制期間T
IB、前記正送給期間T
P及び前記逆送給期間T
Nの関係を、{T
N/(T
P+T
N)}>{T
IB/(T
IP+T
IB)}とするとともに、
前記正送給期間T
Pの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間T
IPが占めるように制御する機能を有することを特徴とする溶接制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の溶接制御装置を備える、溶接電源。
【請求項11】
請求項9に記載の溶接制御装置又は請求項10に記載の溶接電源を備える、溶接システム。
【請求項12】
溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間T
Pと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間T
Nの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間T
IP又は電流抑制期間T
IBに切り替えて制御するための溶接制御装置を少なくとも備える溶接システムのコンピュータに対し、
前記溶接制御装置が、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間T
IPの平均電流I
P-AVEと前記電流抑制期間T
IBの平均電流I
B-AVEの関係を、0.65≦I
P-AVE/(I
P-AVE+I
B-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間T
IPと、その直後の前記電流抑制期間T
IBとの関係を、0.30≦T
IB/(T
IP+T
IB)≦0.60とし、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nの関係を、0.40≦T
N/(T
P+T
N)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間T
IP、前記電流抑制期間T
IB、前記正送給期間T
P及び前記逆送給期間T
Nの関係を、{T
N/(T
P+T
N)}>{T
IB/(T
IP+T
IB)}とするとともに、
前記正送給期間T
Pの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間T
IPが占めるように制御する機能を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項13】
溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間T
Pと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間T
Nの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間T
IP又は電流抑制期間T
IBに切り替えて制御する溶接制御を行いながら、ガスメタルアーク溶接を行う溶接方法であって、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間T
IPの平均電流I
P-AVEと前記電流抑制期間T
IBの平均電流I
B-AVEの関係を、0.65≦I
P-AVE/(I
P-AVE+I
B-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間T
IPと、その直後の前記電流抑制期間T
IBとの関係を、0.30≦T
IB/(T
IP+T
IB)≦0.60とし、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nの関係を、0.40≦T
N/(T
P+T
N)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間T
IP、前記電流抑制期間T
IB、前記正送給期間T
P及び前記逆送給期間T
Nの関係を、{T
N/(T
P+T
N)}>{T
IB/(T
IP+T
IB)}とするとともに、
前記正送給期間T
Pの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間T
IPが占めるように前記溶接制御を行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項14】
溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接を応用した付加製造において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間T
Pと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間T
Nの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間T
IP又は電流抑制期間T
IBに切り替えて制御する溶接制御を行いながら、付加製造を行う付加製造方法であって、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間T
IPの平均電流I
P-AVEと前記電流抑制期間T
IBの平均電流I
B-AVEの関係を、0.65≦I
P-AVE/(I
P-AVE+I
B-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間T
IPと、その直後の前記電流抑制期間T
IBとの関係を、0.30≦T
IB/(T
IP+T
IB)≦0.60とし、
前記正送給期間T
Pと前記逆送給期間T
Nの関係を、0.40≦T
N/(T
P+T
N)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間T
IP、前記電流抑制期間T
IB、前記正送給期間T
P及び前記逆送給期間T
Nの関係を、{T
N/(T
P+T
N)}>{T
IB/(T
IP+T
IB)}とするとともに、
前記正送給期間T
Pの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間T
IPが占めるように前記溶接制御を行うことを特徴とする付加製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの送給が正送給と逆送給とを交互に周期的に繰り返すアーク溶接方式における、溶接制御方法、溶接制御装置、溶接電源、溶接システム、プログラム、溶接方法及び付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨や建機等といった業種で主となる厚板の溶接では、一定の溶込み深さを確保することが求められている。また、自動車等の業種で適用される亜鉛めっき鋼板の溶接では、気孔欠陥を防止することが求められている。このような溶込み深さの確保や気孔欠陥の防止は、アークの熱エネルギーを増大することで解決できる。そのため、従来から、炭酸ガス等の電位傾度の高いシールドガスを用いてアークの電流密度を高めたり、溶接電流自体を高くしたりするといった対応を取り入れた、ガスメタルアーク溶接(GMAW:Gas-shielded Metal Arc Welding)が行われている。しかしながら、電位傾度の高いシールドガスの適用や高い溶接電流の適用は、スパッタが増加する要因となり、主にスパッタを主因とした溶接作業性の低下が問題となっていた。
【0003】
上記問題に対し、特許文献1には、消耗電極である溶接ワイヤ(以降、「ワイヤ」とも称する。)の送給が正送給と逆送給とを交互に周期的に繰り返すことでアーク溶接する場合に、ワイヤに大電流を流してもスパッタの発生を抑制できるようすることを課題とし、ワイヤの先端が、正送給される期間と逆送給される期間の周期的な切り替えを伴いながら母材に向けて送給される場合に、周期的に変動するワイヤの先端位置に応じて溶接電流を変化させる制御手段を用いることで、高い入熱で効率の良い溶接が可能となる高電流域、すなわち短絡移行以外の移行形態となる電流域の場合にもスパッタの低減を実現できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、特許文献1では、高い入熱で効率良く溶接できる高電流域でスパッタの低減を実現できる方法が開示されているものの、溶込み深さについては特に言及されていない。すなわち、特許文献1には、安定した溶込み深さの確保や気孔欠陥を防止できる効果について何ら触れられていない。
特許文献1は、正送給と逆送給とを周期的に繰り返すアーク溶接方式において、従来の短絡移行方式とは異なり、短絡をしないように制御するものであるが、ワーク条件や溶接姿勢といった施工条件の違いや溶接中の外乱によっては、溶接制御中に短絡が生じたり、溶滴の離脱タイミングがずれたりすることで、安定した溶込み深さが得られないおそれや、スパッタの発生量が増加するおそれがある。このため、どのような溶接環境によっても、安定した溶込み深さとスパッタ低減効果の両立を得ることが可能な、より精度の高い溶接制御が求められている。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接ワイヤの送給が正送給と逆送給とを交互に周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることが可能な、溶接制御方法、溶接制御装置、溶接電源、溶接システム、プログラム、溶接方法及び付加製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の上記目的は、溶接制御方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御する溶接制御方法であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように制御することを特徴とする溶接制御方法。
【0009】
また、本発明の上記目的は、溶接制御装置に係る下記[2]の構成により達成される。
【0010】
[2] 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御するための溶接制御装置であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように制御する機能を有することを特徴とする溶接制御装置。
【0011】
また、本発明の上記目的は、溶接電源に係る下記[3]の構成により達成される。
【0012】
[3] [2]に記載の溶接制御装置を備える、溶接電源。
【0013】
また、本発明の上記目的は、溶接システムに係る下記[4]の構成により達成される。
【0014】
[4] [2]に記載の溶接制御装置又は[3]に記載の溶接電源を備える、溶接システム。
【0015】
また、本発明の上記目的は、プログラムに係る下記[5]の構成により達成される。
【0016】
[5] 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御するための溶接制御装置を少なくとも備える溶接システムのコンピュータに対し、
前記溶接制御装置が、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように制御する機能を実行させることを特徴とするプログラム。
【0017】
また、本発明の上記目的は、溶接方法に係る下記[6]の構成により達成される。
【0018】
[6] 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御する溶接制御を行いながら、ガスメタルアーク溶接を行う溶接方法であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように前記溶接制御を行うことを特徴とする溶接方法。
【0019】
また、本発明の上記目的は、付加製造方法に係る下記[7]の構成により達成される。
【0020】
[7] 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接を応用した付加製造において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御する溶接制御を行いながら、付加製造を行う付加製造方法であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように前記溶接制御を行うことを特徴とする付加製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の溶接制御方法、溶接制御装置、溶接電源、溶接システム、プログラム、溶接方法及び付加製造方法によれば、溶接ワイヤの送給が正送給と逆送給とを交互に周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、溶接電源における電源制御部の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、ワイヤ送給速度F
Wの時間変化を説明する波形図である。
【
図4】
図4は、溶接ワイヤの先端位置の時間変化を説明する波形図である。
【
図5】
図5は、本実施形態における溶接電流の基本制御の例を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、溶接電流の電流値を指定する電流設定信号Irの制御例を示す図である。
【
図7】
図7は、従来の短絡移行方式における溶接の進行状態の一例を示す高速度カメラによる連続写真であって、後述する参考例である試験No.24に対する経過時間ごとの図面代用写真である。
【
図8】
図8は、本実施形態における溶接の進行状態の一例を示す高速度カメラによる連続写真であって、後述する実施例である試験No.8に対する経過時間ごとの図面代用写真である。
【
図9A】
図9Aは、溶接電流設定値I
P1の終端位置及び溶接電流設定値I
P2の終端位置の設定を説明するための、ワイヤ送給速度F
W、ワイヤ先端位置及び溶接電流設定値の関係を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、電流抑制期間T
IBの終端位置の設定を説明するための、ワイヤ送給速度F
W、ワイヤ先端位置及び溶接電流設定値の関係を示す図である。
【
図10】
図10は、短絡回数と溶け込み深さとの関係を示すための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る溶接制御方法、溶接制御装置、溶接電源、溶接システム、プログラム、溶接方法及び付加製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
なお、本実施形態は溶接ロボットを用いた場合の一例であり、本発明に係る溶接制御方法は本実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、台車を用いた自動溶接装置に本発明の溶接制御方法を適用してもよいし、可搬型の小型溶接ロボットに本発明の溶接制御方法を適用してもよい。また、本実施形態では、パルス波形を用いたガスメタルアーク溶接方法を用いている。
さらに本実施形態においては、本発明に係る溶接制御方法を適用したガスメタルアーク溶接方法について説明するが、本発明に係る溶接制御方法は、ガスメタルアーク溶接を応用した付加製造方法についても同様に適用可能である。
【0025】
また、本発明に係る溶接挙動を計測する方法は溶接だけでなく、GMAWを活用した付加製造技術、具体的には、金属積層造型技術(WAAM:Wire and Arc Additive Manufacturing)においても有用である。なお、付加製造という用語は、広義では積層造形又はラピットプロトタイピングの用語で用いられることがあるが、本発明においては、統一して付加製造の用語を用いる。本発明に係る手法を付加製造技術に活用する場合は、「溶接」を「溶着」、「付加製造」又は「積層造形」等に言い換えられる。例えば、溶接として扱う場合は「溶接挙動」となるが、付加製造として本願発明を活用する場合は、「溶着挙動」と言い換えたり、溶接として扱う場合は「溶接システム」となるが、付加製造として本発明を活用する場合は、「付加製造システム」と言い換えたりすることができる。
【0026】
<溶接システムの概要>
図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。溶接システム50は、溶接ロボット110と、溶接制御装置120と、溶接ワイヤ100を送給する不図示の送給装置と、溶接電源140と、コントローラ150を備えている。
【0027】
溶接電源140は、不図示のプラスのパワーケーブルを介して、消耗式電極である溶接ワイヤ100に通電できるように溶接ロボット110に接続され、不図示のマイナスのパワーケーブルを介して、ワーク(以降、「母材」とも称する。)200と接続されている。この接続は、逆極性で溶接を行う場合であり、正極性で溶接を行う場合、溶接電源140は、極性を逆にすればよい。
【0028】
また、溶接電源140と溶接ワイヤ100を送給するための送給装置のそれぞれが信号線によって接続され、溶接ワイヤの送り速度を制御することができる。
【0029】
溶接ロボット110は、エンドエフェクタとして、溶接トーチ111を備えている。溶接トーチ111は、溶接ワイヤ100に通電させる通電機構、すなわち溶接チップを有している。溶接ワイヤ100は、溶接チップからの通電により先端からアークを発生し、その熱で溶接の対象であるワーク200を溶接する。なお、溶接チップは一般的に、コンタクトチップとも称されることがある。
【0030】
さらに、溶接トーチ111は、シールドガスを噴出する機構となるシールドガスノズルを備える。シールドガスは、本実施形態で用いる制御の特性上、グロビュール移行の形態を取るガス組成にすればよく、具体的には、電位傾度の高い炭酸ガス、窒素ガス、水素ガス、酸素ガスのうち少なくとも一つのガスが含まれることが好ましい。また、汎用性の観点から、炭酸ガス単体で用いることがより好ましく、アルゴンガス(以降、「Arガス」とも称する。)との混合ガスの場合は炭酸ガス、窒素ガス、水素ガス、酸素ガスのうち少なくとも一つのガスが含まれ、Arガス以外のガスが合計で5~50体積%に混合した系がより好ましい。なお、シールドガスは、不図示のシールドガス供給装置から供給される。
【0031】
本実施形態で使用する溶接ワイヤ100は、特に問わず、例えば、フラックスを含まないソリッドワイヤと、フラックスを含むフラックス入りワイヤのどちらを用いてもよい。また、溶接ワイヤ100の材質も問わず、例えば、材質は、軟鋼でもよいし、ステンレス、アルミニウム、チタンでもよく、ワイヤ表面にCu等のめっきがあってもよい。さらに、溶接ワイヤ100の径も特に問わない。本実施形態の場合、好ましくは、径の上限を1.6mm、下限を0.8mmとする。
【0032】
また、本実施形態においてワーク200の具体的構成は特に問わず、継手形状、溶接姿勢や開先形状などの施工条件も特に問わない。
【0033】
溶接制御装置120は、主に溶接ロボット110の動作を制御する。溶接制御装置120は、あらかじめ溶接ロボット110の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置、溶接条件、ウィービング動作等を定めた教示データを保持し、溶接ロボット110に対してこれらを指示して溶接ロボット110の動作を制御する。また、溶接制御装置120は、教示データに従い、溶接作業中の溶接電流、溶接電圧、送給速度等の溶接条件を溶接電源140に与える。
なお、
図1に示すように、本実施形態の溶接システム50は、溶接制御装置120が溶接電源140から独立した構成としているが、溶接電源140の中に溶接制御装置120を備える構成であってもよい。
【0034】
コントローラ150は、溶接制御装置120に接続され、溶接ロボット110を動作させるためのプログラム作成又は表示、教示データの入力等を行い、溶接制御装置120へ与える。また、コントローラ150は、溶接ロボット110のマニュアル操作を行う機能も有する。なお、コントローラ150と溶接制御装置120の接続は、有線又は無線の種類を特に問わない。
【0035】
溶接電源140は、溶接制御装置120からの指令により、溶接ワイヤ100及びワーク200に電力を供給することで、溶接ワイヤ100とワーク200との間にアークを発生させる。また、溶接電源140は、溶接制御装置120からの指令により、不図示の送給装置に、溶接ワイヤ100を送給する速度を制御するための信号を出力する。
【0036】
<溶接電源の機能構成>
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る溶接電源140の機能構成について詳細に説明する。
図2は、溶接電源140における電源制御部の概略構成を示すブロック図である。
溶接電源140の制御系部分は、例えば、溶接制御装置120又は不図示のコンピュータによるプログラムの実行を通じて実行される。
溶接電源140の制御系部分には、電流設定部36が含まれる。本実施形態における電流設定部36は、溶接ワイヤ100に流れる溶接電流を規定する各種の電流値を設定する機能の他、電流抑制期間設定部36Aにより溶接電流の電流値が抑制される期間が開始される時間と終了する時間を設定する機能と、ワイヤ先端位置変換部36Bにより溶接ワイヤ100の先端位置の情報を求める機能を有する。
なお、後述する電流非抑制期間T
IPの各種条件設定、例えば、立ち上がり区間T
Uや立ち下がり区間T
D中の電流設定点などは、電流設定部36において溶接電流を規定する各種の電流値を設定する機能の中に含まれる。
【0037】
本実施形態の場合、溶接電流は、電流非抑制期間TIPと電流抑制期間TIBの溶接電流を交互に繰り返すパルス波形を示す。また、電流設定部36は電流非抑制期間TIPの設定電流値Ip(以降、「ピーク電流Ip」とも称する。)と、電流抑制期間TIBの設定電流値Ib(以降、「ベース電流Ib」とも称する。)を設定する。なお、後述する溶滴離脱タイミングのリセット制御用の定常電流Iaを設定してもよい。また、本実施形態の場合、溶接電流は基本的にピーク電流Ipとベース電流Ibの2値で制御される。このため、電流値が抑制される期間が開始される時間t1は、ベース電流Ibが開始する時間、すなわちベース電流開始時間を表す。また、電流値が抑制される期間が終了する時間t2は、ベース電流Ibが終了する時間、すなわちベース電流終了時間を表す。なお、電流非抑制期間TIPが開始される時間は、ピーク電流開始時間と表し、電流非抑制期間TIPが終了する時間は、ピーク電流終了時間と表してもよい。
【0038】
溶接電源140の電源主回路は、三相交流電源(以降、「交流電源」とも称する。)1と、1次側整流器2と、平滑コンデンサ3と、スイッチング素子4と、トランス5と、2次側整流器6と、リアクトル7とで構成される。
【0039】
交流電源1から入力された交流電力は、1次側整流器2により全波整流され、さらに平滑コンデンサ3により平滑されて直流電力に変換される。次に、直流電力は、スイッチング素子4によるインバータ制御により高周波の交流電力に変換された後、トランス5を介して2次側電力に変換される。トランス5の交流出力は、2次側整流器6によって全波整流され、さらにリアクトル7により平滑される。リアクトル7の出力電流は、電源主回路からの出力として溶接チップ8に与えられ、消耗電極としての溶接ワイヤ100に通電される。
【0040】
溶接ワイヤ100は、送給モータ24及び送給装置130によって送給され、母材200との間にアーク9を発生させる。本実施形態の場合、送給モータ24は、溶接ワイヤ100の先端を母材200に向かって移動する正送給期間TPと、溶接ワイヤ100の先端が母材200の位置する方向と逆方向に移動する逆送給期間TNとが、周期的に切り替わるように、溶接ワイヤ100を送給する。
なお、ここでいう「溶接ワイヤの先端」は、通常、ワイヤ先端に垂下する溶滴の存在を無視した場合のワイヤ先端を指すものとする。すなわち、アークによって溶融されたワイヤは、即時母材へ移行したとみなしたものとする。後述のとおり、その位置は、ワイヤ送給速度とワイヤの溶融速度の速度差によって決定される。
【0041】
送給モータ24による溶接ワイヤ100の送給は、送給駆動部23からの制御信号Fcによって制御される。なお、送給速度の平均値は、溶融速度とほぼ同じである。本実施形態の場合、送給モータ24による溶接ワイヤ100の送給も溶接電源140により制御される。
【0042】
電流設定部36には、溶接チップ8と母材200との間に加える電圧の目標値である電圧設定信号Vrが電圧設定部34から与えられる。ここでの電圧設定信号Vrは、電圧比較部35にも与えられ、電圧検出部32によって検出された電圧検出信号Voと比較される。なお、電圧検出信号Voは実測値である。電圧比較部35は、電圧設定信号Vrと電圧検出信号Voとの差分を増幅し、電圧誤差増幅信号Vaとして電流設定部36に出力する。電流設定部36は、アーク9の長さ(以降、「アーク長」とも称する。)が一定になるように溶接電流を制御する。すなわち、電流設定部36は、溶接電流の制御を通じて定電圧制御を実行する。
【0043】
電流設定部36は、電圧設定信号Vrと電圧誤差増幅信号Vaとに基づいて、ピーク電流Ipの値、ベース電流Ibの値、ピーク電流Ipを与える期間、又は、ピーク電流Ipの値、ベース電流Ibの値の大きさを再設定し、再設定された期間又は値の大きさに応じた電流設定信号Irを電流誤差増幅部37に出力する。
【0044】
電流誤差増幅部37は、目標値として与えられた電流設定信号Irと電流検出部31で検出された電流検出信号Ioとの差分を増幅し、電流誤差増幅信号Edとしてインバータ駆動部30に出力する。インバータ駆動部30は、電流誤差増幅信号Edによってスイッチング素子4の駆動信号Ecを補正する。
【0045】
電流設定部36には、溶接ワイヤ100の先端からの溶滴の離脱を検知する信号となる離脱検出信号Drlも入力される。離脱検出信号Drlは、離脱検出部33から出力される。離脱検出部33は、電圧検出部32が出力する電圧検出信号Voの変化を監視し、その変化から溶接ワイヤ100からの溶滴の離脱を検知する。離脱検出部33は検出手段の一例である。
【0046】
ここでの離脱検出部33は、例えば電圧検出信号Voを微分又は二階微分した値を検出用の閾値と比較することにより、溶滴の離脱を検出する。検出用の閾値は、不図示の記憶部にあらかじめ記憶されている。なお、離脱検出部33は、実測値である電圧検出信号Voと電流検出信号Ioとから算出される抵抗値の変化に基づいて、離脱検出信号Drlを生成してもよい。
【0047】
電流設定部36には、送給される溶接ワイヤ100の平均送給速度Faveも与えられる。平均送給速度Faveは、平均送給速度設定部20が不図示の記憶部に記憶されているティーチングデータに基づいて出力される。すなわち、平均送給速度Faveは送給速度の設定値(指令値)と言い換えてもよい。
電流設定部36は、与えられた平均送給速度Faveに基づいて、ピーク電流Ip、ベース電流Ib、ベース電流Ibが開始する時間t1、ベース電流Ibが終了する時間t2の値を決定する。
【0048】
本実施形態では、
図2のとおり、平均送給速度Faveを電流設定部36に入力しているが、電流設定部36に入力される信号は、平均送給速度Faveに関連する値を設定値として、平均送給速度Faveに置き換えて用いてもよい。例えば、不図示の記憶部に平均送給速度Faveと、その平均送給速度Faveに対して最適な溶接が可能となる平均電流値のデーターベースが記憶されている場合、平均電流値を設定値として、平均送給速度Faveに置き換えて用いてもよい。
【0049】
平均送給速度Faveは、振幅送給速度設定部21と送給速度指令設定部22にも与えられる。ここでの振幅送給速度設定部21は、入力された平均送給速度Faveに基づいて、振幅Wfと周期Tfの値を決定する。振幅送給とは、平均送給速度Faveよりも送給速度が大きい期間である正送給期間と平均送給速度Faveに対して送給速度が小さい期間である逆送給期間が交互に現れる送給方式をいう。なお、平均送給速度Faveに対して送給速度が小さい期間とは、平均送給速度Fave未満を指し、マイナスの送給速度、すなわち、ワイヤ先端が母材200のある位置と逆方面へ移動する速度を含む。振幅Wfは平均送給速度Faveに対する変化幅を与え、周期Tfは繰り返し単位である振幅変化の時間を与える。振幅送給速度設定部21は、決定された振幅Wfと周期Tf又は周波数fの値に応じた振幅送給速度Ffを生成して出力する。
【0050】
送給速度指令設定部22は、振幅送給速度Ffと平均送給速度Faveとに基づいて、送給速度指令信号Fwを出力する。本実施形態の場合、送給速度指令信号Fwは、次式で表される。
Fw=Ff+Fave ・・・式(1)
【0051】
ただし、式(1)で表される送給速度指令信号Fwは、溶接ワイヤ100の先端からの溶滴の離脱が想定する期間内に検知されている場合に限られる。想定する期間内に溶滴の離脱が検出されなかった場合、送給速度指令設定部22は、送給速度指令信号Fwを一定速度による送給制御に切り替えてもよい。例えば、送給速度指令設定部22は、送給速度指令信号Fwを平均送給速度Faveによる送給に切り替える。平均送給速度Faveによる送給から、式(1)で表される送給制御への切り替えは、溶滴の離脱が検知されるタイミングに応じて定まる。なお、具体的な制御例については後述する。
送給速度指令設定部22は、離脱検出部33から与えられる離脱検出信号Drlにより、振幅送給のどの位相で離脱が発生したかを検知する。
【0052】
送給速度指令信号Fwは、位相ずれ検出部26と、送給誤差増幅部28と、電流設定部36に出力される。
送給誤差増幅部28は、目標速度である送給速度指令信号Fwと、送給モータ24による溶接ワイヤ100の送給速度を実測した送給速度検出信号Foとの差分を増幅し、誤差分を補正した速度誤差増幅信号Fdを送給駆動部23に出力する。
送給駆動部23は、速度誤差増幅信号Fdに基づいて制御信号Fcを生成し、送給モータ24に与える。ここでの送給速度変換部25は、送給モータ24の回転量などを溶接ワイヤ100の送給速度検出信号Foに変換する。
本実施形態における位相ずれ検出部26は、送給速度指令信号Fwと、測定値である送給速度検出信号Foとを比較し、位相ずれ時間Tθdを出力する。なお、位相ずれ検出部26は、振幅送給を規定するパラメータ、例えば、周期Tf、振幅Wf、平均送給速度Fave等を可変した場合における送給モータ24の送給動作を測定して位相ずれ時間Tθdを求めてもよい。
【0053】
位相ずれ時間Tθdは、電流設定部36のワイヤ先端位置変換部36Bに与えられる。ワイヤ先端位置変換部36Bは、送給速度指令信号Fwと位相ずれ時間Tθdとに基づいて、母材200を基準面とした溶接ワイヤ100の先端位置を算出し、算出された先端位置の情報を電流抑制期間設定部36Aに与える。ここで、電流抑制期間設定部36Aは、溶接ワイヤ100の先端位置の情報に基づいて、又は、溶接ワイヤ100の先端位置の情報と送給速度指令信号Fwとに基づいて溶接電流を抑制する期間、すなわち、電流設定信号Irをベース電流Ibに制御する期間を設定する。
ここでの電流設定部36は、溶接ワイヤ100の先端位置に応じて溶接電流を変化させる制御手段の一例である。
【0054】
<溶接ワイヤの先端位置の情報又は送給速度指令信号Fwに基づいた溶接電流の基本制御>
以下、溶接ワイヤ100の先端位置の情報又は送給速度指令信号Fwに基づいた、溶接電源140による溶接電流の制御例について説明する。
溶接電流の制御は、溶接電源140を構成する電流設定部36によって実現される。前述したように、本実施形態における電流設定部36は、プログラムの実行を通じて制御を実現する。
【0055】
本実施形態における電流設定部36は、溶接ワイヤ100の先端位置の情報と、溶接ワイヤ100の送給速度指令信号Fwとに基づいて、溶接電流の電流値の切り替えを制御する。このため、溶接電流の制御の説明に先立って、送給速度指令信号Fwの時間変化と溶接ワイヤ100の先端位置の時間変化について説明する。
【0056】
図3は、送給速度指令信号Fwの時間変化を説明する波形図である。横軸は時間(位相)であり、縦軸はワイヤ送給速度である。縦軸の単位はメートル毎分又は回転数である。
図3では、平均送給速度Faveよりも大きい速度を「正送給」と表し、平均送給速度Faveよりも小さい速度を「逆送給」と表している。本実施形態の場合、送給速度指令信号Fwは、周期Tfと振幅Wfで規定される正弦波形状で変化する。以下では、送給速度が平均送給速度Faveよりも大きい期間を正送給期間T
Pといい、反対に送給速度が平均送給速度Faveよりも小さい期間を逆送給期間T
Nという。また、説明の都合上、各送給期間の前半を「前期」、後半を「後期」という。
ここで、平均送給速度Faveは、ワイヤ溶融速度Fmとみなすことができる。以下では、
図3に示すように、正送給期間T
Pと逆送給期間T
Nが周期的に繰り返される振幅送給を「初期条件」ということがある。
【0057】
図4は、溶接ワイヤ100の先端位置(以降、「ワイヤ先端位置」とも称する。)の時間変化を説明する波形図である。横軸は時間(位相)であり、縦軸は母材200の表面から法線方向上方への距離(高さ)を表している。
ただし、
図4では、溶接ワイヤ100が最大の送給速度、又は最小の送給速度で送給される場合における位置(高さ)を基準距離とし、基準距離よりも大きい距離を正値、基準距離よりも小さい距離を負値で表している。
【0058】
図4では、溶接ワイヤ100の先端位置が母材表面に最も近づいた位置(以降、「最下端」とも称する。)に対応する時点をT0、T4で表し、溶接ワイヤ100の先端位置が母材表面から最も遠ざかった位置(以降、「最上端」とも称する。)に対応する時点をT2で表している。ここでの頂点は、最上端の一例である。
【0059】
図4に示すように、溶接ワイヤ100の先端位置が時間の経過とともに母材表面に近づく期間、具体的には、溶接ワイヤ100の先端位置が、最上端から最下端へ移動する期間が「正送給期間T
P」であり、溶接ワイヤ100の先端位置が時間の経過とともに母材表面から遠ざかる期間、具体的には、溶接ワイヤ100の先端位置が、最下端から最上端へ移動する期間が「逆送給期間T
N」である。
【0060】
また、基準距離に対応する時点をT1、T3とする。T1は、溶接ワイヤ100の先端位置が母材表面に最も近づいた位置となる最下端から、最も遠ざかる位置となる最上端に向かう中間の時点である。一方、T3は、最上端から最下端に向かう中間の時点である。
図4に示すように、基準距離から最上端までの変化幅、又は基準距離から最下端までの変化幅が「振幅Wf」であり、最上端から最下端の変化幅が「波高Wh」である。
【0061】
なお、
図3及び
図4を合わせて参照すると分かるように、溶接ワイヤ100の先端が最上端又は最下端に位置するときの溶接ワイヤ100の送給速度を、あらかじめ定めた平均送給速度Faveの値としている。これにより、ワイヤ送給速度が周期的に変化していてもワイヤの溶融速度とワイヤの送給速度がバランスし、アーク長が概一定となり安定した溶接を継続することができる。
【0062】
図5は、本実施形態における溶接電流の基本制御の例を説明するフローチャートである。
図5に示す制御は、
図2で説明した電流設定部36において実行される。なお、図中の記号Sはステップを示している。
図5に示す制御は、溶接ワイヤ100の先端位置における1周期の変化に対応する。このため、
図5においては、時間Tが時点T0の状態を、ステップ1とする。本実施形態における電流設定部36は、電流設定信号Irの制御のために、溶接ワイヤ100の先端位置を算出する。平均送給速度Faveは、ワイヤ溶融速度Fmと同等である。したがって、送給速度指令信号Fwとワイヤ溶融速度Fm(≒Fave)の差分を積分すれば、溶接ワイヤ100の先端位置を求めることができる。そこで、電流設定部36は、次式に基づいて、溶接ワイヤ100の先端位置を設定する。
ワイヤ先端位置=∫(Fw-Fave)・dt ・・・式(2)
なお、式(2)で計算される先端位置の変化は、
図4に対応する。
【0063】
ただし、溶接ワイヤ100の送給に、
図2で説明した送給モータ24を用いる場合、指令と実際の送給速度、すなわち送給速度検出信号Foとの間に位相ずれが生じる場合がある。そこで、電流設定部36は、位相ずれ検出部26から与えられる位相ずれ時間Tθdにより、平均送給速度Fave及び送給速度指令信号Fwから計算される溶接ワイヤ100の先端位置に応じて計算されるベース電流開始時間t1を補正する。具体的には、次式に示すように、ベース電流開始時間t1の値を再設定する。
t1=t1+Tθd ・・・式(3)
【0064】
同じく、電流設定部36は、位相ずれ時間Tθdにより、平均送給速度Fave及び送給速度指令信号Fwから計算されるベース電流終了時間t2を補正する。
t2=t2+Tθd ・・・式(4)
ここでは、送給速度の観点から、ベース電流開始時間t1とベース電流終了時間t2を制御する場合について説明しているが、位置制御の観点でも同様である。
【0065】
図6は、溶接電流の電流値を指定する電流設定信号Irの制御例を示す図である。横軸は時間であり、縦軸は電流検出信号Ioである。図中の時点T0、T1、T2、T3、T4は、それぞれ
図4の時点T0、T1、T2、T3、T4に対応する。ここでの時点T0、T1、T2、T3、T4は、平均送給速度Fave及び送給速度指令信号Fwから計算された、溶接ワイヤ100の先端位置から決定される。
【0066】
図6に示すようにベース電流開始時間t1は、溶接ワイヤ100の先端が最下端に位置する時点T0、すなわち、正送給期間T
Pから逆送給期間T
Nに切り替わる時点から遅れた位相を表現する。なお、
図6には、ベース電流開始時間t1の最大値をt1’で表している。
【0067】
ここで、
図5の説明に戻る。ステップ2に示すように、溶接ワイヤ100の先端位置が最下端、すなわち、時点T0になると、電流設定部36は、時点T0から計測を開始した時間Tがベース電流開始時間t1以上であるか否かを判定する。ステップ2の判定結果が否定(False)の間、ステップ3に示すように、電流設定部36は、電流設定信号Irとしてピーク電流Ipの出力を継続する。この期間は、
図6における電流非抑制期間T
IPに対応する。
【0068】
続いて
図5に示すように、ステップ2の判定結果が肯定(True)になると、ステップ4に示すように、電流設定部36は、電流設定信号Irとしてベース電流Ibの出力を開始する。前述したように、ベース電流Ibへの切り替えが開始した時点では、溶接ワイヤ100の送給は、既に逆送給期間T
Nに切り替わっており、溶接ワイヤ100の先端は、母材表面から遠ざかる方向への移動を始めている。
【0069】
溶接ワイヤ100の先端が最下端に位置する時点T0近傍における溶滴は、溶融池近傍に位置しているのでアーク長が短くなる。また、時点T0以降は、逆送給期間TNに切り替わる。すなわち、溶接ワイヤ100の先端は、引き上げられるように移動する。成長した溶滴全体には、正送給方向、すなわち母材200に近づく方向への慣性力が作用しているのに対し、溶接ワイヤ100は逆方向、すなわち母材200から遠ざかる方向に移動するため、溶滴はより懸垂形状へと変化し、更に離脱が促進される。
【0070】
しかも、離脱が予測される期間で溶接電流の電流値をベース電流Ibに切り替えておくことで、ピーク電流Ipが供給される期間よりも、アーク反力を低下させることができる。この結果、溶滴を持ち上げる力が更に弱くなり、溶滴は、一段と懸垂形状になりやすい状況になる。このように、溶接電流を抑制している期間である電流抑制期間TIB中に、溶滴を溶接ワイヤ100の先端から離脱させることで、スパッタの低減が期待できる。
【0071】
再び
図5の説明に戻る。ステップ5に示すように、電流設定信号Irをベース電流Ibに切り替えた電流設定部36は、時間Tがベース電流終了時間t2以上であるか否かを判定する。
図6では、ベース電流終了時間t2の最大値をt2’で示している。ステップ5の判定結果が否定(False)の間、ステップ4に示すように、電流設定部36は、電流設定信号Irとしてベース電流Ibを出力する。ベース電流Ibの供給が開始された後、溶接ワイヤ100の先端は、溶滴の離脱を伴いながら頂点、すなわち、先端が母材200から最も遠ざかった位置まで引き上げられるように移動する。
【0072】
溶滴の離脱後は、溶接ワイヤ100を溶融させて溶滴を形成するために、ベース電流Ibの供給期間、すなわち電流抑制期間TIBを終了し、ピーク電流Ipを供給する期間、すなわち電流非抑制期間TIPに切り替える必要がある。したがって、ベース電流Ibの供給は、時点T1~T2の間に終了することが望ましい。
【0073】
ステップ5の判定結果が肯定(True)になると、ステップ6に示すように、電流設定部36は、電流設定信号Irとしてピーク電流Ipの出力を開始する。続いて、ステップ7に示すように、電流設定部36は、時点T0から計測を開始した時間Tが、時点T4になったか否かを判定する。ステップ7の判定結果が否定(False)の間、ステップ6に示すように、電流設定部36は、電流設定信号Irとしてピーク電流Ipを出力する。一方、ステップ7の判定結果が肯定(True)になると、電流設定部36は、ステップ1に戻る。以上の制御により、電流設定信号Irは、ピーク電流Ipとベース電流Ibを周期的に繰り返すパルス波形となる。
【0074】
<溶滴離脱の制御方法>
以上までの説明が、溶接ワイヤ100の先端位置の情報又は送給速度指令信号Fwに基づいた、溶接電源140による溶接電流の基本制御となる。実際の溶接では、施工状況や外乱といった溶接環境において、想定どおりの離脱が生じない可能性がある。
本実施形態においては、周波数fの値、ピーク電流Ipすなわち電流非抑制期間TIPの設定電流、ベース電流Ibすなわち電流抑制期間TIBの設定電流、電流非抑制期間TIP(「ピーク電流期間」と称してもよい。)、電流抑制期間TIB(「ベース電流期間」と称してもよい。)、正送給期間TP、逆送給期間TNのそれぞれを、以下で詳細に説明する条件で制御することによって、より精度よく、溶滴離脱制御が可能となる。
【0075】
なお、電流非抑制期間TIPの設定電流、又は電流抑制期間TIBの設定電流は、一定の電流値とは限らず、各期間内において設定値を変更してもよい。そのため、電流非抑制期間TIP全体又は電流抑制期間TIB全体の熱エネルギーを示す指標として、電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBの平均電流で表すこととし、電流非抑制期間TIPの平均電流を「IP-AVE」と示し、電流抑制期間TIBの平均電流を「IB-AVE」と示す。
【0076】
以下、各制御要素について詳細に説明する。
【0077】
(周波数f:50~150Hz)
正送給期間TPと逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fは、溶接ワイヤ先端に形成される溶滴を安定的に離脱又は滴下させることで、短絡を抑制することを目的に制御を行う。この周波数fは、後述する条件、すなわち、溶込み深さを維持しつつ最適な溶滴サイズを形成する条件として、50~150Hzの範囲とする。
周波数fが50Hzを下回る場合は、ワイヤ先端に過大な溶滴が形成されるものの、溶滴に作用する慣性力が不足するため、形成した大きな溶滴が溶融池に接触しやすく、その溶滴は離脱し難くなる。その結果、短絡が増加し、ひいてはスパッタが増加するとともに安定した溶込み深さが得られなくなる。
【0078】
一方、周波数fが150Hzを超えると、ワイヤ先端に形成される溶滴のサイズが最適サイズにまで成長しきらず、慣性力も不足するため、電流抑制期間TIBにおいて安定した離脱ができなくなる。このため、意図しないタイミングで溶滴が離脱し、短絡が生じたり、スパッタが発生したりする。
よって、周波数fは、50~150Hzの範囲で規定するものとし、好ましくは60~130Hzであり、より好ましくは70~120Hzである。
【0079】
なお、前述の周波数fに適した溶滴サイズは、平均体積で1.7~5.0mm3であることが好ましい。ここでいう、溶滴サイズは、離脱直前の溶滴のサイズを意味し、例えば、溶融速度Fmから体積を算出する方法や、一方向又は複数方向から視覚センサで撮影を行い、得られた2次元画像に基づいて、体積を算出する方法等が挙げられる。離脱前の平均体積が1.7~5.0mm3の範囲であれば、短絡をより効果的に抑制することが可能となり、スパッタの低減及び安定した溶込み深さを効果的に得ることができる。
【0080】
(0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90)
電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの和に対するIP-AVEの割合、すなわち、IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)は、0.65~0.90の範囲とする。
上記の割合が0.65を下回ると、電流非抑制期間TIPにおいて、溶滴に作用する電磁ピンチ力が小さくなり、電流抑制期間TIBにおいて慣性力だけでは溶滴離脱が困難になるため、離脱するタイミングがずれてしまい、短絡が発生しやすくなる。そして、この短絡により、スパッタの発生が起こり、安定した溶込み深さも得られなくなる。また、電流非抑制期間TIPにおいて、熱エネルギーが小さくなる傾向になるため、特に溶込み深さが浅くなる。
【0081】
一方、上記の割合が0.90を超えると、電流非抑制期間TIPにおいて、溶滴サイズが過度に大きくなるとともに、溶滴にかかるアーク圧力(以降、溶滴に対するアーク圧力を指す場合には「アーク反力」とも称する。)が過大になり、押し上げられた溶滴が溶融池とは異なる方向へ離脱する現象が起こるため、大粒のスパッタが発生しやすくなる。また、アーク切れと長期短絡も発生しやすくなるため、スパッタの発生が起こり、安定した溶込み深さを得ることができなくなる。
よって、IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)は、0.65~0.90の範囲で規定するものとし、好ましくは0.70~0.85である。
【0082】
(波高Wh:チップ-母材間距離に対して14~35%)
図4に示すように、最上端及び最下端間における溶接ワイヤ100の先端位置の変化幅である波高Whは、チップ-母材間距離に対して14~35%の範囲とする。例えば、チップ-母材間距離が25mmである場合は、3.75mm~8.75mmが設定すべき波高Whの範囲となる。
上記の波高Whがチップ-母材間距離に対して14~35%の範囲外であると、短絡を防止できなくなる。なお、波高Whや振幅Wfの基準位置となる「基準距離」は、任意で設定すればよい。
【0083】
(0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60)
任意の電流非抑制期間TIPとその直後の電流抑制期間TIBの和に対する該電流抑制期間TIBの割合、すなわち、TIB/(TIP+TIB)は、0.30~0.60の範囲とする。
上記の割合が0.30を下回ると、電流抑制期間TIBにおいて、ワイヤ先端に形成された溶滴が離脱しきらず、電流非抑制期間TIPのアーク反力を受けながら離脱しやすく、短絡も増加し、スパッタが増加するとともに安定した溶込み深さが得られなくなる。
【0084】
一方、上記の割合が0.60を超えると、電磁ピンチ力が不足するため、電流抑制期間TIBにおいて安定した離脱ができなくなる。このため、意図しないタイミングで溶滴が離脱し、短絡が生じたり、スパッタが発生したりする。
よって、TIB/(TIP+TIB)は、0.30~0.60の範囲で規定するものとし、好ましくは0.31~0.58であり、より好ましくは0.31~0.52である。
【0085】
(0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70)
正送給期間TPと逆送給期間TNの和に対する該逆送給期間TNの割合、すなわち、TN/(TP+TN)は、0.40~0.70の範囲とする。
上記の割合が0.40を下回ると、溶滴離脱に要する十分な時間を得ることができず、電流抑制期間TIBにおいて安定した離脱ができなくなる。このため、意図しないタイミングで溶滴が離脱し、短絡が生じたり、スパッタが発生したりする。
【0086】
一方、上記の割合が0.70を超えると、ワイヤ先端に形成された溶滴が細く伸び、逆送給期間TNが始まる前に、短絡が生じやすくなる。よって、TN/(TP+TN)は、0.40~0.70の範囲で規定する。
【0087】
{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}
正送給期間Tpと逆送給期間TNの和に対する該逆送給期間TNの割合である{TN/(TP+TN)}と、電流非抑制期間TIPと電流抑制期間TIBの和に対する該電流抑制期間TIBの割合である{TIB/(TIP+TIB)}の関係は、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とする。
{TN/(TP+TN)}の値が{TIB/(TIP+TIB)}の値以下となると、逆送給が起こる前のワイヤの先端が溶融池に近づくタイミングにおけるアーク力が十分でなくなり、溶込み深さが浅くなる。
【0088】
すなわち、ワイヤ先端が最下端にある前後で十分なアーク圧力を有する場合、仮に平均のアーク長が短くても、無短絡の埋もれアーク状態となることで十分な溶込み深さを得ることができるが、上述のように、ワイヤ先端が最下端にある前後のタイミングが、電流抑制期間TIBであると十分なアーク圧力を得ることができないため、溶滴が溶融池に接触短絡しやすく、結果的に十分な溶込み深さを得ることができなくなる。
なお、埋もれアークとは、強いアーク圧力によって、溶融池内にワイヤが潜りこんでアークが発生する状態を指し、一般的にアーク圧力は、溶接電流が高くなるほど強くなる。
【0089】
(正送給期間TPの2/3以上の期間を電流非抑制期間TIPが占めること)
溶接ワイヤ100の先端が最上端から最下端へ移動する期間の2/3以上の期間を、電流非抑制期間TIPが占める必要がある。ここで、ワイヤ先端位置が最上端から最下端へ移動する期間は、上述のとおり正送給期間TPを指す。
【0090】
ここで、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は、従来の短絡移行方式における溶接の進行状態の一例を、溶接ワイヤの前進又は後退、電流非抑制期間及び電流抑制期間と共に示す高速度カメラによる連続写真であって、後述する参考例である試験No.24に対する経過時間ごとの図面代用写真である。また、
図8は、本実施形態における溶接の進行状態の一例を、溶接ワイヤの前進又は後退、電流非抑制期間及び電流抑制期間と共に示す高速度カメラによる連続写真であって、後述する実施例である試験No.8に対する経過時間ごとの図面代用写真である。
図7に示すように、従来の短絡移行方式のワイヤ送給制御においては、図中「前進」で示す正送給期間T
Pが、0msから8.4ms程度までの略8.4msであるのに対して、正送給期間T
P中の電流非抑制期間T
IPが、0msから2.4ms程度までの略2.4msであることから、正送給期間T
P中における電流非抑制期間T
IPが占める割合は、1/2未満になっていることが分かる。
このように、従来の短絡移行方式のワイヤ送給制御では、正送給期間T
P中の電流非抑制期間T
IPの割合を1/2未満に制御することによって、低スパッタ溶接を可能としているが、その結果、アーク圧力が溶融池に作用しないため、溶込み深さが浅くなる。
【0091】
一方、
図8に示すように、本実施形態に係るワイヤ送給制御においては、正送給期間T
Pが0msから8.4ms程度までの略8.4msであるのに対して、正送給期間T
P中の電流非抑制期間T
IPが、0msから7.2ms程度までの略7.2msであって、正送給期間T
P中における電流非抑制期間T
IPが占める割合は、2/3以上になっていることが分かる。
このように、本実施形態に係るワイヤ送給制御では、正送給期間T
P中の電流非抑制期間T
IPの割合を2/3以上に制御することによって、ワイヤ先端が溶融池へ接近する過程において、十分なアーク圧力が溶融池を掘り下げるため、溶込み深さが深くなる。
【0092】
次に、本実施形態における好ましい条件について詳細に説明する。
【0093】
図9Aに示すように、電流非抑制期間T
IPは、ベース電流からあらかじめ定めた電流値まで変化する、電流抑制期間T
IB直後の立ち上がり区間T
U、あらかじめ定めた電流値からベース電流まで変化する、電流抑制期間T
IB直前の立ち下がり区間T
D、及び立ち上がり区間T
U及び立ち下がり区間T
D以外の電流制御区間T
Cに分けて電流制御することが好ましい。
【0094】
この立ち上がり区間T
Uは、溶滴サイズの調整又は溶滴離脱の促進を目的として、電流非抑制期間T
IPに対する割合、すなわち、「(立ち上がり区間T
U/電流非抑制期間T
IP)×100%」の値が20%以下であることが好ましい。なお、立ち上がり区間T
Uにおける溶接電流値の立ち上がり方は、
図9Aに示すような急峻な変化、言い換えれば、電流非抑制期間T
IPに対する立ち上がり区間T
Uの割合が、限りなく0%に近いものであってもよい。
【0095】
また、立ち下がり区間T
Dは、逆送給が行われる前の溶滴サイズの調整を目的として、電流非抑制期間T
IPに対する割合、すなわち、「(立ち下がり区間T
D/電流非抑制期間T
IP)×100%」の値が20%以下であることが好ましい。なお、立ち下がり区間T
Dにおける溶接電流値の立ち下がり方は、
図9Aに示すような急峻な変化、言い換えれば、電流非抑制期間T
IPに対する立ち下がり区間T
Dの割合が、限りなく0%に近いものであってもよい。
なお、立ち上がり区間T
Uや立ち下がり区間T
Dは、それぞれ直線状、曲線状又はステップ状のいずれで変化してもよく、またこれらの組み合わせでもよい。
【0096】
続いて、
図9Aに示すように、電流制御区間T
Cにおいて少なくとも2つの溶接電流設定値を設けることが好ましい。ここで、2つの溶接電流設定値を、第1の溶接電流設定値I
P1及び第2の溶接電流設定値I
P2とする。
【0097】
そして、溶接ワイヤ100の最上端位置を基準として0degとする場合、第1の溶接電流設定値IP1を設けるタイミングとして、第1の溶接電流設定値IP1の範囲の終端位置を20deg以下の範囲で設定することが好ましい。第1の溶接電流設定値IP1の範囲の終端位置を20deg以下の範囲で設定することで、形成し始めた溶滴の揺動を抑制することができ、より安定した離脱が維持可能となる。
【0098】
また、溶接ワイヤ100の最上端位置を基準として0degとする場合、第2の溶接電流設定値IP2を設けるタイミングとして、第2の溶接電流設定値IP2の範囲の終端位置を135~220degの範囲で設定することが好ましい。第2の溶接電流設定値IP2の範囲の終端位置を135~220degの範囲で設定することで、アーク圧力を効果的に溶融池に作用させることができ、安定した溶込み深さを得ることが可能となる。
【0099】
さらに、
図9Bに示すように、溶接電流設定値I
P2の範囲の終端を電流制御区間T
Cの終端とし、溶接電流設定値I
P2の範囲の終端位置をXdegとする場合において、電流抑制期間T
IBの終端位置を(X+100)~(X+220)degの範囲で設定することが好ましい。電流抑制期間T
IBの終端位置を(X+100)~(X+220)degの範囲で設定することで、電流抑制期間T
IB内に最も慣性力が働くタイミングが含まれるため、溶滴離脱の安定化の観点から好ましい。
【0100】
第1の溶接電流設定値IP1で設定する溶接電流は、250~600Aの範囲が好ましく、第2の溶接電流設定値IP2で設定する溶接電流は、300~650Aの範囲とすることが好ましい。第1の溶接電流設定値IP1及び第2の溶接電流設定値IP2の設定電流をそれぞれ上記範囲に設定することで、上述した第1の溶接電流設定値IP1及び第2の溶接電流設定値IP2を設けることにより得られる効果をより高めることが可能となる。
なお、第2の溶接電流設定値IP2で設定する溶接電流は、第1の溶接電流設定値IP1で設定する溶接電流よりも常に大きな値となる。
【0101】
電流制御区間TC、詳細には、第1の溶接電流設定値IP1と第2の溶接電流設定値IP2の期間において、溶接電源の外部特性を設けることが好ましい。より具体的には、溶接電源の外部特性を0.05V~20V/100Aの範囲内で設定することによって、溶接中に突出し長さが変化した場合等においても溶接電流が変化することによって、アーク長が略一定となるように制御される。
【0102】
電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEは、300~650Aの範囲であること、また、電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEは80~150Aの範囲であることが、溶滴サイズの調整の観点から好ましい。また、電流非抑制期間TIPは3.0~12.0msの範囲であること、また、電流抑制期間TIBは2.0~9.0msの範囲であることが、溶滴サイズの調整の観点から好ましい。
なお、正送給期間TP及び逆送給期間TNの好ましい範囲は、上述した周波数fと{TN/(TP+TN)}のそれぞれの規定範囲から算出される期間である。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0104】
[1.予備試験]
まず、以下に示す本試験に先立って、短絡回数と溶け込み深さの関係についての予備試験を行った。
図10は、短絡回数と溶け込み深さとの関係を示すための図である。
図10における上段の写真は、溶接電流309A、溶接電圧36.7V、溶接速度50cm/minの溶接条件で行われ、そのときの短絡回数が97.7回/秒であった場合における溶接部の断面写真である。また、
図10における下段の写真は、溶接電流307A、溶接電圧36.8V、溶接速度50cm/minの溶接条件で行われ、そのときの短絡回数が9.6回/秒であった場合における溶接部の断面写真である。
【0105】
これら断面写真から明らかなように、短絡回数と溶け込み深さには相関関係が認められ、短絡回数が大幅に少ない下段の試験例では、溶接部の溶け込みが深いことが理解される。また、短絡回数が少ないほど、スパッタの発生が少ないことが目視で確認された。すなわち、短絡回数が少なければ、安定した溶け込み深さとスパッタの低減が図られていると考えられる。以上のことから、以下の本試験においては、短絡回数の結果によって、安定した溶け込み深さとスパッタの低減が図られているかどうかを判断するものとした。
【0106】
[2.本試験]
次に、本発明に係る溶接制御方法の効果を確認するための試験として、以下に示す実施例比較例の各試験を行った。
【0107】
<共通の溶接条件>
共通の溶接条件は、以下のとおりとした。
溶接ワイヤ:軟鋼ソリッドワイヤ
母材:SS400(一般構造用圧延鋼材 JIS G 3101:2004)
溶接ワイヤの溶接速度:40cm/min
溶接手法:ビードオンプレート
【0108】
<評価方法>
上記[1.予備試験]で説明したように、短絡回数の結果と、安定した溶け込み深さとスパッタの低減が図られているかどうかには相関があると考えられるため、短絡回数を基準として、安定した溶け込み深さとスパッタの低減を評価した。本試験では、短絡回数が5.0回/秒以下のものをA評価(優良)とし、短絡回数が5.0回/秒超、10.0回/秒以下のものをB評価とし(良)、短絡回数が10.0回/秒を超えるものをC評価(不良)とした。
【0109】
共通の試験条件以外の溶接条件とともに、試験結果を表1及び表2に示す。
【0110】
【0111】
【0112】
表1及び表2に示すように、試験No.1~No.10は、本発明の要件をすべて満足する実施例であり、短絡回数が非常に少ない結果が得られた。よって、溶込み深さが深く、かつ、スパッタ発生量が少なくなることが示された。一方、試験No.11~No.23は、本発明の要件の少なくとも一部を満足しない比較例であり、いずれも短絡回数が非常に多い結果が得られた。よって、溶込み深さが浅く、かつ、スパッタ発生量が多くなることが示された。
なお、表1中、「周波数f(Hz)」、「(波高Wh/チップ-母材間距離)×100(%)」、「I
P-AVE/(I
P-AVE+I
B-AVE)」、「T
IB/(T
IP+T
IB)」、「T
N+(T
P+T
N)」、「{T
N/(T
P+T
N)}>{T
IB/(T
IP+T
IB)}」において、本発明の範囲を満たさないものには、数値に下線を引いて示している。
また、表1における試験No.24は、
図8を用いて上記で説明した従来の短絡移行方式による送給プロセスによる参考例であり、正送給期間T
Pの2/3以上の期間を電流非抑制期間T
IPが占めることの条件を満足しない例である。
【0113】
以下、試験ごとに詳細に考察する。
【0114】
実施例である試験No.1は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、周波数fが60Hzであって、50~150Hzの範囲を満足するものであるため、ワイヤ先端に慣性力が作用するようになり、短絡回数が少なく、B評価となった。
【0115】
実施例である試験No.2は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、周波数fが130Hzであって、50~150Hzの範囲を満足するものであるため、ワイヤ先端に慣性力が作用するようになり、短絡回数が少なく、A評価となった。
【0116】
実施例である試験No.3は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{(波高Wh/チップ-母材間距離)×100}が15%であって、14~35%の範囲を満足するものであるため、ワイヤ先端に慣性力が作用するようになり、短絡回数が少なく、B評価となった。
【0117】
実施例である試験No.4は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{(波高Wh/チップ-母材間距離)×100}が32%であって、14~35%の範囲を満足するものであるため、ワイヤ先端に慣性力が作用するようになり、短絡回数が少なく、A評価となった。
【0118】
実施例である試験No.5は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)}が0.67であって、0.65~0.90の範囲を満足するものであるため、溶滴サイズが適正であり、電磁ピンチ力も有効に作用し、短絡回数が少なく、B評価となった。
【0119】
実施例である試験No.6は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)}が0.88であって、0.65~0.90の範囲を満足するものであるため、溶滴サイズが適正であり、電磁ピンチ力も有効に作用し、短絡回数が少なく、B評価となった。
【0120】
実施例である試験No.7は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{TIB/(TIP+TIB)}が0.31であって、0.30~0.60の範囲を満足するものであるため、溶滴サイズが適正であり、電磁ピンチ力も有効に作用し、短絡回数が少なく、A評価となった。
【0121】
実施例である試験No.8は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{TIB/(TIP+TIB)}が0.58であって、0.30~0.60の範囲を満足するものであるため、溶滴サイズが適正であり、電磁ピンチ力も有効に作用し、短絡回数が少なく、B評価となった。
【0122】
実施例である試験No.9は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{TN+(TP+TN)}が0.40であって、0.40~0.70の範囲を満足するものであるため、ワイヤ先端に慣性力が有効に作用するようになり、短絡回数が少なく、A評価となった。
【0123】
実施例である試験No.10は、本発明の要件をすべて満足するものであるが、特に、{TN+(TP+TN)}が0.70であって、0.40~0.70の範囲を満足するものであるため、ワイヤ先端に慣性力が有効に作用するようになり、短絡回数が少なく、A評価となった。
【0124】
一方、比較例である試験No.11は、周波数fが45Hzであって、本発明で規定する範囲未満であるため、ワイヤ先端に作用する慣性力が不足し、溶滴が離脱できないことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0125】
比較例である試験No.12は、周波数fが155Hzであって、本発明で規定する範囲を超えているため、溶滴サイズが過小となり、ワイヤ先端に作用する慣性力が不足し、溶滴が離脱できないことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0126】
比較例である試験No.13は、{(波高Wh/チップ-母材間距離)×100}が13%であって、本発明で規定する範囲未満であるため、ワイヤ先端に作用する慣性力が不足し、溶滴が離脱できないことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0127】
比較例である試験No.14は、{(波高Wh/チップ-母材間距離)×100}が38%であって、本発明で規定する範囲を超えているため、通常のアーク長であっても短絡が増加したことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0128】
比較例である試験No.15は、{(波高Wh/チップ-母材間距離)×100}が13%であって、本発明で規定する範囲未満であるため、ワイヤ先端に作用する慣性力が不足し、溶滴が離脱できなかったこと、また、{TIB/(TIP+TIB)}が0.22であって、本発明で規定する範囲未満であるため、電流抑制期間TIBにおいて、ワイヤ先端に形成された溶滴が離脱しきらず、電流非抑制期間TIPのアーク反力を受けながら離脱しやすく、短絡も増加し、スパッタの増加及び安定した溶込み深さが得られなかったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0129】
比較例である試験No.16は、{(波高Wh/チップ-母材間距離)×100}が40%であって、本発明で規定する範囲を超えているため、通常のアーク長であっても短絡が増加したこと、また、{TIB/(TIP+TIB)}が0.14であって、本発明で規定する範囲未満であるため、電流抑制期間TIBにおいて、ワイヤ先端に形成された溶滴が離脱しきらず、電流非抑制期間TIPのアーク反力を受けながら離脱しやすく、短絡も増加し、スパッタの増加及び安定した溶込み深さが得られなかったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0130】
比較例である試験No.17は、{IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)}が0.60であって、本発明で規定する範囲未満であるため、溶滴に作用する電磁ピンチ力も小さいことから、また、{TN/(TP+TN)}<{TIB/(TIP+TIB)}であって、本発明で規定する条件を満足しないため、逆送給が起こる前のワイヤの先端が溶融池に近づくタイミングにおけるアーク力が十分でなくなり、短絡が発生しやすく、溶込み深さが浅くなったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0131】
比較例である試験No.18は、{IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)}が0.91であって、本発明で規定する範囲を超えているため、溶滴サイズが大きく、アーク反力により溶滴が反発離脱したり、アーク切れと長期短絡が発生したことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0132】
比較例である試験No.19は、{TIB/(TIP+TIB)}が0.29であって、本発明で規定する範囲未満であるため、電流抑制期間TIBにおいて、ワイヤ先端に形成された溶滴が離脱しきらず、電流非抑制期間TIPのアーク反力を受けながら離脱しやすく、短絡も増加し、スパッタの増加及び安定した溶込み深さが得られなかったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0133】
比較例である試験No.20は、{TIB/(TIP+TIB)}が0.64であって、本発明で規定する範囲を超えているため、電磁ピンチ力が不足し、電流抑制期間TIBにおいて安定した離脱ができなくなり、意図しないタイミングで溶滴が離脱し、短絡が生じたり、スパッタが発生したことから、また、{TN/(TP+TN)}<{TIB/(TIP+TIB)}であって、本発明で規定する条件を満足しないため、逆送給が起こる前のワイヤの先端が溶融池に近づくタイミングにおけるアーク力が十分でなくなり、短絡が発生しやすく、溶込み深さが浅くなったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0134】
比較例である試験No.21は、{TN+(TP+TN)}が0.35であって、本発明で規定する範囲未満であるため、溶滴離脱に要する十分な時間を得ることができず、電流抑制期間TIBにおいて安定した離脱ができなくなり、意図しないタイミングで溶滴が離脱し、短絡が生じたり、スパッタが発生したことから、また、{TN/(TP+TN)}<{TIB/(TIP+TIB)}であって、本発明で規定する条件を満足しないため、逆送給が起こる前のワイヤの先端が溶融池に近づくタイミングにおけるアーク力が十分でなくなり、短絡が発生しやすく、溶込み深さが浅くなったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0135】
比較例である試験No.22は、{TN+(TP+TN)}が0.75であって、本発明で規定する範囲を超えているため、ワイヤ先端に形成された溶滴が細く伸び、逆送給される期間が始まる前に、短絡が生じやすくなり、溶込みも浅くなったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0136】
比較例である試験No.23は、{TN/(TP+TN)}<{TIB/(TIP+TIB)}であって、本発明で規定する条件を満足しないため、逆送給が起こる前のワイヤの先端が溶融池に近づくタイミングにおけるアーク力が十分でなくなり、短絡が発生しやすく、溶込み深さが浅くなったことから、短絡回数が多く、C評価となった。
【0137】
なお、本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0138】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0139】
(1) 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御する溶接制御方法であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように制御することを特徴とする溶接制御方法。
この構成によれば、ワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることができる。
【0140】
(2) 前記溶接ワイヤの先端が前記最上端又は前記最下端に位置するときの前記溶接ワイヤの送給速度は、あらかじめ定めた平均送給速度の値とする、(1)に記載の溶接制御方法。
この構成によれば、ワイヤ送給速度が周期的に変化していてもワイヤの溶融速度とワイヤの送給速度がバランスし、アーク長が概一定となり安定した溶接を継続することができる。
【0141】
(3) 前記電流非抑制期間TIPは、前記電流抑制期間TIB直後の立ち上がり区間、前記電流抑制期間TIB直前の立ち下がり区間、及び前記立ち上がり区間及び前記立ち下がり区間以外の電流制御区間TCからなり、
前記立ち上がり区間は、前記電流非抑制期間TIPに対して20%以下であり、前記立ち下がり区間は、前記電流非抑制期間TIPに対して20%以下である、(1)又は(2)に記載の溶接制御方法。
この構成によれば、立ち上がり区間TUにおいて、溶滴サイズの調整又は溶滴離脱の促進を実現でき、立ち下がり区間TDにおいて、逆送給が行われる前の溶滴サイズの調整を実現できる。
【0142】
(4) 前記電流制御区間TCにおいて少なくとも2つの溶接電流設定値IP1、IP2を有し、
前記溶接ワイヤの前記最上端位置を基準として0degとする場合において、
前記溶接電流設定値IP1の範囲の終端位置を20deg以下の範囲で設定し、
前記溶接電流設定値IP2の範囲の終端位置を135~220degの範囲で設定する、(3)に記載の溶接制御方法。
この構成によれば、第1の溶接電流設定値IP1の範囲の終端位置を20deg以下の範囲で設定することで、形成し始めた溶滴の揺動を抑制することができ、より安定した離脱が維持可能となる。また、第2の溶接電流設定値IP2の範囲の終端位置を135~220degの範囲で設定することで、アーク圧力を効果的に溶融池に作用させることができ、安定した溶込み深さを得ることが可能となる。
【0143】
(5) 前記溶接電流設定値IP2の範囲の終端を前記電流制御区間TCの終端とし、
前記溶接電流設定値IP2の範囲の終端位置をXdegとする場合において、
前記電流抑制期間TIBの終端位置を(X+100)~(X+220)degの範囲で設定する、(4)に記載の溶接制御方法。
この構成によれば、電流抑制期間TIB内に最も慣性力が働くタイミングが含まれるため、溶滴離脱の安定化を実現できる。
【0144】
(6) 前記溶接電流設定値IP1の設定電流を250~600Aとし、
前記溶接電流設定値IP2の設定電流を300~650Aとする、(4)又は(5)に記載の溶接制御方法。
この構成によれば、第1の溶接電流設定値IP1及び第2の溶接電流設定値IP2を設けることによって得られる効果をより高めることができる。
【0145】
(7) 前記電流制御区間TCにおいて、溶接電源の外部特性を設ける、(4)~(6)のいずれか1つに記載の溶接制御方法。
この構成によれば、溶接中に突出し長さが変化した場合等においても溶接電流が変化することによって、アーク長が略一定となるように制御できる。
【0146】
(8) 前記溶接ワイヤの先端から離脱する溶滴の平均体積が1.7~5.0mm3である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の溶接制御方法。
この構成によれば、短絡をより効果的に抑制することが可能となり、スパッタの低減及び安定した溶込み深さを高く得ることができる。
【0147】
(9) 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御するための溶接制御装置であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように制御する機能を有することを特徴とする溶接制御装置。
この構成によれば、ワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることができる。
【0148】
(10) (9)に記載の溶接制御装置を備える、溶接電源。
この構成によれば、ワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることができる。
【0149】
(11) (9)に記載の溶接制御装置又は(10)に記載の溶接電源を備える、溶接システム。
この構成によれば、ワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることができる。
【0150】
(12) 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御するための溶接制御装置を少なくとも備える溶接システムのコンピュータに対し、
前記溶接制御装置が、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように制御する機能を実行させることを特徴とするプログラム。
この構成によれば、ワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることができる。
【0151】
(13) 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御する溶接制御を行いながら、ガスメタルアーク溶接を行う溶接方法であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように前記溶接制御を行うことを特徴とする溶接方法。
この構成によれば、ワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返すアーク溶接方式において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることができる。
【0152】
(14) 溶接ワイヤに溶接電流を供給するガスメタルアーク溶接を応用した付加製造において、
前記溶接ワイヤの先端が、母材から最も遠ざかった位置である最上端から前記母材に最も近づいた位置である最下端へ移動する期間である正送給期間TPと、前記最下端から前記最上端へ移動する期間である逆送給期間TNの周期的な切り替えを伴いながら前記母材に向けて送給されるように、前記溶接ワイヤの送給速度を制御しながら、
少なくとも前記溶接ワイヤの先端位置又は前記溶接ワイヤの送給速度信号に基づいて、
前記溶接電流を電流非抑制期間TIP又は電流抑制期間TIBに切り替えて制御する溶接制御を行いながら、付加製造を行う付加製造方法であって、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNを合わせた期間を1つの周期とし、その周波数fを50~150Hzとし、
前記電流非抑制期間TIPの平均電流IP-AVEと前記電流抑制期間TIBの平均電流IB-AVEの関係を、0.65≦IP-AVE/(IP-AVE+IB-AVE)≦0.90とし、
前記最上端及び前記最下端間における前記溶接ワイヤの先端位置の変化幅である波高Whを、前記溶接ワイヤのチップ-母材間距離に対して14~35%とし、
任意の前記電流非抑制期間TIPと、その直後の前記電流抑制期間TIBとの関係を、0.30≦TIB/(TIP+TIB)≦0.60とし、
前記正送給期間TPと前記逆送給期間TNの関係を、0.40≦TN/(TP+TN)≦0.70とし、
かつ、
前記電流非抑制期間TIP、前記電流抑制期間TIB、前記正送給期間TP及び前記逆送給期間TNの関係を、{TN/(TP+TN)}>{TIB/(TIP+TIB)}とするとともに、
前記正送給期間TPの2/3以上の期間を前記電流非抑制期間TIPが占めるように前記溶接制御を行うことを特徴とする付加製造方法。
この構成によれば、ワイヤの先端の正送給と逆送給を周期的に繰り返すアーク溶接方式の付加製造方法において、安定した溶込み深さとスパッタの低減を両立させることができる。
【符号の説明】
【0153】
50 溶接システム
100 溶接ワイヤ
110 溶接ロボット
111 溶接トーチ
120 溶接制御装置
140 溶接電源
150 コントローラ
200 ワーク(母材)
f 周波数
Fave 平均送給速度
Fw 送給速度指令信号(送給速度信号)
IB-AVE 電流抑制期間TIBの平均電流
IP-AVE 電流非抑制期間TIPの平均電流
IP1 第1の溶接電流設定値
IP2 第2の溶接電流設定値
TC 電流制御区間
TD 立ち下がり区間
TIB 電流抑制期間
TIP 電流非抑制期間
TN 逆送給期間
TP 正送給期間
TU 立ち上がり区間
Wh 波高