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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車輪保持装置
(51)【国際特許分類】
   B60B 19/00 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B60B19/00 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021187541
(22)【出願日】2021-11-18
(65)【公開番号】P2023074568
(43)【公開日】2023-05-30
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】時安 優和
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-068161(JP,A)
【文献】特開2018-086903(JP,A)
【文献】特開2005-022048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の芯体、及び前記芯体に回転可能に支持された複数のフリーローラを有する車輪を保持する車輪保持装置であって、
径方向に伸縮可能な外周部を有する中心部材を有し、
前記中心部材の前記外周部が前記車輪の内周部を径方向外方に付勢することによって、前記中心部材が前記車輪を保持し、
前記中心部材は、チャックと、前記チャックに径方向に移動可能に支持され、前記中心部材の前記外周部を構成する複数のベースと、前記チャックに対して前記ベースのそれぞれを径方向外方に付勢する複数の付勢部材とを有する車輪保持装置。
【請求項2】
前記中心部材は、前記チャックに着脱可能に取り付けられたストッパを有し、
前記ストッパは、前記ベースのそれぞれに当接することによって前記ベースの径方向内方への移動を規制する請求項1に記載の車輪保持装置。
【請求項3】
前記中心部材は、前記チャックに着脱可能に取り付けられた複数のロック部材を有し、
複数の前記ロック部材は、前記ベースのそれぞれに当接することによって前記ベースの前記チャックに対する移動を規制する請求項1又は2に記載の車輪保持装置。
【請求項4】
前記フリーローラの1つの外周面に沿って延びると共に、前記ベースの1つに着脱可能に取り付けられる両端部を有する少なくとも1つのバンド部材を有する請求項3に記載の車輪保持装置。
【請求項5】
ブラケットと、前記ブラケットに設けられ、前記車輪の周方向において複数の前記フリーローラを挟持する一対の保持片とを有するクランプ装置を有する請求項1~4のいずれか1つの項に記載の車輪保持装置。
【請求項6】
前記ブラケットは、前記ベースの1つに着脱可能に取り付けられる請求項に記載の車輪保持装置。
【請求項7】
前記ブラケットは、一対の前記保持片の間に配置された複数の前記フリーローラの間に配置された前記芯体を外部に露出させるための少なくとも1つの開口を有する請求項5又は6に記載の車輪保持装置。
【請求項8】
一対の前記保持片は、前記ブラケットに着脱可能に取り付けられている請求項5~7のいずれか1つの項に記載の車輪保持装置。
【請求項9】
複数の前記ベースは、周方向に延び、前記フリーローラの一部を受容する係合溝を有する請求項1~8のいずれか1つの項に記載の車輪保持装置。
【請求項10】
前記チャックを回転可能に支持する台座を有する請求項1~9のいずれか1つの項に記載の車輪保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向移動装置に使用される車輪を保持するための車輪保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、全方向移動装置に使用される車輪の製造方法について開示している。車輪は、環状の芯体と、芯体に回転可能に支持された複数のフリーローラとを有する。車輪の製造方法は、直線状のパイプ材に複数の切欠部を形成する第1工程と、直線状のパイプ材に複数のフリーローラを装着する第2工程と、複数の切欠部を埋めるようにパイプ材を複数個所で屈曲させ、パイプ材を環状にする第3工程と、パイプ材の端部同士を溶接すると共に、各切欠部の縁部同士を溶接する第4工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6746655号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第4工程におけるパイプ材の溶接作業を容易にするために、車輪を保持するための車輪保持装置が要望されている。環状の芯体と芯体に回転可能に支持された複数のフリーローラとを有する車輪は、中心部を有しないため、保持するために適した装置が存在しない。
【0005】
本発明は、以上の背景に鑑み、環状の芯体と芯体に回転可能に支持された複数のフリーローラとを有する車輪を保持するための車輪保持装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、環状の芯体(2)、及び前記芯体に回転可能に支持された複数のフリーローラ(3)を有する車輪(4)を保持する車輪保持装置(1)であって、径方向に伸縮可能な外周部を有する中心部材(40)を有し、前記中心部材の前記外周部が前記車輪の内周部を径方向外方に付勢することによって、前記中心部材が前記車輪を保持する。
【0007】
この態様によれば、環状の芯体と芯体に回転可能に支持された複数のフリーローラとを有する車輪を保持するための車輪保持装置を提供することができる。中心部材は、環状の車輪の中央部に配置され、その外周部において車輪を保持することができる。中心部材の外周部は、径方向外方に伸長して車輪の内周部に当接することができる。
【0008】
上記の態様において、前記中心部材は、チャック(42)と、前記チャックに径方向に移動可能に支持され、前記中心部材の前記外周部を構成する複数のベース(43)と、前記チャックに対して前記ベースのそれぞれを径方向外方に付勢する複数の付勢部材(44)とを有してもよい。
【0009】
この態様によれば、中心部材の構造を簡素にすることができる。
【0010】
上記の態様において、前記中心部材は、前記チャックに着脱可能に取り付けられたストッパ(54)を有し、前記ストッパは、前記ベースのそれぞれに当接することによって前記ベースの径方向内方への移動を規制してもよい。
【0011】
この態様によれば、芯体の径方向内方への収縮を抑制することができる。例えば、溶接時における芯体の収縮を抑制して、芯体を適切な形状に維持することができる。
【0012】
上記の態様において、前記中心部材は、前記チャックに着脱可能に取り付けられた複数のロック部材(61)を有し、複数の前記ロック部材は、前記ベースのそれぞれに当接することによって前記ベースの前記チャックに対する移動を規制してもよい。
【0013】
この態様によれば、ロック部材によって、付勢部材の付勢力に抗してベースを径方向内方に維持することができる。これにより、中心部材の外周に車輪を配置する作業が容易になる。
【0014】
上記の態様において、前記フリーローラの1つの外周面に沿って延びると共に、前記ベースの1つに着脱可能に取り付けられる両端部を有する少なくとも1つのバンド部材(81)を有してもよい。
【0015】
この態様によれば、ロック部材によってベースの位置が固定されている場合において、バンド部材が車輪をベースに密着させることによって、車輪の位置を一定させることができる。
【0016】
上記の態様において、ブラケット(71)と、前記ブラケットに設けられ、前記車輪の周方向において複数の前記フリーローラを挟持する一対の保持片(72)とを有するクランプ装置(70)を有してもよい。
【0017】
この態様によれば、芯体の周方向における一部が開裂している場合に、クランプ装置によって芯体を環状に保持することができる。クランプ装置は、例えば、直管のパイプを環状に屈曲させて溶接する場合に有用である。
【0018】
上記の態様において、前記ブラケットは、前記ベースの1つに着脱可能に取り付けられてもよい。
【0019】
この態様によれば、ブラケットが車輪から脱落することを防止することができる。
【0020】
上記の態様において、前記ブラケットは、一対の前記保持片の間に配置された複数の前記フリーローラの間に配置された前記芯体を外部に露出させるための少なくとも1つの開口(79)を有してもよい。
【0021】
この態様によれば、クランプ装置を車輪に装着した状態において、芯体に対する溶接等の作業が可能になる。
【0022】
上記の態様において、一対の前記保持片は、前記ブラケットに着脱可能に取り付けられてもよい。
【0023】
この態様によれば、ブラケットを車輪に対して配置した後に、一対の保持片をブラケットに取り付けることができる。これにより、クランプ装置の車輪への取り付け作業が容易になる。
【0024】
上記の態様において、複数の前記ベースは、周方向に延び、前記フリーローラの一部を受容する係合溝(49)を有してもよい。
【0025】
この態様によれば、車輪保持装置は車輪を安定性良く保持することができる。
【0026】
上記の態様において、前記チャックを回転可能に支持する台座(41)を有してもよい。
【0027】
この態様によれば、中心部材が回転することによって車輪を回転させることができる。これにより、加工装置の作業部を移動させることなく、加工装置は芯体の周方向における各部分に加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の構成によれば、環状の芯体と芯体に回転可能に支持された複数のフリーローラとを有する車輪を保持するための車輪保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係る車輪保持装置の正面図
図2】車輪を備えた全方向移動装置の断面図
図3】車輪の側面図
図4】車輪の断面図
図5】直線状の芯体を示す側面図
図6】直線状の芯体を示す断面図
図7】直線状の芯体を示す斜視図
図8】実施形態に係る車輪保持装置の分解斜視図
図9】車輪を保持した車輪保持装置の断面図
図10】車輪を挟持するクランプ装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明に係る車輪保持装置1について説明する。図1に示すように、車輪保持装置1は、環状の芯体2、及び芯体2に回転可能に支持された複数のフリーローラ3を有する車輪4を保持する。特に、車輪保持装置1は、車輪4の製造時に使用される。図2に示すように、車輪4は、全方向移動装置5に使用される。全方向移動装置5は、電動車椅子や、台車、パーソナルモビリティに使用される。
【0031】
(車輪4の構造)
図3に示すように、車輪4は、軸線Aを中心とした環状に形成された芯体2を有する。芯体2は、断面円形のパイプ材7が円環状に折曲され、その両端部が互いに溶接されることによって形成されている。パイプ材7は、例えばステンレス等の金属によって形成されている。芯体2の断面中心を通過する線を芯体中心線Bとする。芯体中心線Bは、軸線Aを中心とした周方向に延びている。
【0032】
図4に示すように、各フリーローラ3は、ラジアルベアリングであるベアリング8を介して芯体2に支持されている。ベアリング8は、インナレース11と、アウタレース12と、インナレース11及びアウタレース12の間に介装された複数のボール13と、複数のボール13を保持するリテーナ(不図示)とを有する玉軸受であるとよい。
【0033】
各フリーローラ3は、スリーブ15と、スリーブ15の外周面に設けられたゴムリング16とを有する。スリーブ15は金属によって形成されているとよい。ゴムリング16は、スリーブ15の外周面に加硫接着等によって接着されているとよい。スリーブ15の内側には、ベアリング8が配置される。本実施形態では、各スリーブ15の内側に2つのベアリング8が圧入されている。スリーブ15の内周面の中央部には、径方向内方に突出すると共に周方向に延在する凸部17が形成されている。2つのベアリング8のアウタレース12が凸部17及び円筒形のスペーサ18に当接することによって、2つのベアリング8は互いに間隔をおいて配置される。
【0034】
各ベアリング8のインナレース11は、芯体2の外周面に固定されている。芯体2は、各ベアリング8のインナレース11に圧入されている。また、芯体2の外周面には外方に突出した係止爪19が形成されている。係止爪19は、芯体2の一部を外方に切り起こすことによって形成されている。係止爪19はインナレース11の縁部を係止し、芯体2に対する各インナレース11及びスペーサ18の軸線Aを中心とした周方向への移動を規制する。
【0035】
複数のフリーローラ3のそれぞれは、芯体中心線Bを中心として芯体2に対して回転する。また、複数のフリーローラ3のそれぞれは、軸線Aを中心とした接線と平行な軸線を中心として、芯体2に対して回転する。
【0036】
(車輪の製造方法)
図5図7に示すように、芯体2は、直線状に延びる断面円形のパイプ材7を折曲することによって形成される。パイプ材7は、長手方向において第1端部21及び第2端部22を有する。直線状に延びる初期状態の芯体2は、長手方向に等間隔に配置された複数のノッチ23を有する。各ノッチ23は、同一形状に形成されている。また、各ノッチ23は、芯体2の芯体中心線Bを中心とした周方向において同一位置に配置されている。各ノッチ23は、芯体2の外周面から内周面に到達している。各ノッチ23は、初期状態の芯体2の芯体中心線Bを中心とした周方向において少なくとも270度以上の範囲に延びている。各ノッチ23は、例えば、芯体2の芯体中心線Bを中心とした周方向において330度の範囲に延びている。各ノッチ23は、平面状の第1カット面24と、平面状の第2カット面25とによって形成されている。第1カット面24と第2カット面25とは直線状の稜線26によって交わっている。稜線26と平行な方向から見て、ノッチ23は三角形に形成されている。ノッチ23の稜線26側と相反する側には、拡張部30が設けられている。パイプ材7の長手方向において、拡張部30はノッチ23より大きく形成されている。本実施形態では、稜線26と平行な方向から見て、ノッチ23は二等辺三角形に形成されている。第1カット面24と第2カット面25とのなす角度は、概ね360度をフリーローラ3の数で割った値に設定されるとよい。芯体2において、各ノッチ23と相反する側の部分を接続部27という。第1端部21には第2カット面25と平行な第1端面28が形成され、第2端部22には第1カット面24と平行な第2端面29が形成されている。パイプ材7の長手方向において、第1端面28の隣りには第1カット面24が配置され、第2端面29の隣には第2カット面25が配置されている。
【0037】
芯体2において、隣り合うノッチ23の間のそれぞれには、円筒形状のローラ支持部31が形成される。芯体2の周方向においてノッチ23と相反する側には、係止爪19を形成するための複数のスリット32が形成されている。スリット32は、各ローラ支持部31に対して一対設けられている。スリット32は、芯体2を外周面から内周面に貫通している。スリット32は、ローラ支持部31の長手方向における両端に沿って芯体2の周方向に延びる第1部分32Aと、第1部分32Aの両端からローラ支持部31と相反する側に延びる一対の第2部分32Bとを有する。各係止爪19は、第1部分32A及び一対の第2部分32Bによって画定される。
【0038】
最初に、第1工程として、直線状の芯体2に複数のノッチ23と、複数のスリット32と、第1端面28と、第2端面29とが形成される。複数のノッチ23、複数のスリット32、第1端面28、及び第2端面29は、レーザー加工によって形成されるとよい。
【0039】
次に、第2工程として、それぞれ一対のベアリング8及びスペーサ18が装着された複数のフリーローラ3が、直線状の芯体2のローラ支持部31のそれぞれに配置される。一対のベアリング8はフリーローラ3のスリーブ15に圧入され、固定される。直線状の芯体2は、その端部から各ベアリング8に圧入される。この状態で、1つのフリーローラ3に装着された一対のベアリング8は、ローラ支持部31に配置され、一対のスリット32の間に配置される。
【0040】
次に、第3工程として、各係止爪19が芯体2の外方に押し曲げられる。これにより、一対の係止爪19の間に、一対のベアリング8及びスリーブ15が挟持され、芯体2の長手方向に対してフリーローラ3の位置が固定される。各係止爪19は、拡張部30を通して芯体2の内側に挿入された押圧ロッドによって、芯体2の外方に押し曲げられ、芯体2の外周面に対して突出する。これにより、各係止爪19の端部は、ベアリング8のインナレース11の縁部に当接する。
【0041】
次に、第4工程として、芯体2が各接続部27で屈曲され、環状に形成される。各接続部27は、対応するノッチ23が埋められるように、すなわち対応するノッチ23の第1カット面24と第2カット面25とが互いに当接するように、屈曲される。これにより、芯体2の第1端面28及び第2端面29が互いに当接することができる。なお、芯体2を屈曲した状態に維持する保持力が消失すると、芯体2のスプリングバックによって、芯体2の第1端面28及び第2端面29は互いに離れた状態となる。
【0042】
次に、第5工程として、芯体2の第1端面28及び第2端面29が互いに溶接されると共に、各ノッチ23の第1カット面24と第2カット面25とが互いに溶接される。これにより、芯体2が環状に維持され、主輪が完成する。本実施形態に係る車輪保持装置1は、第5工程において、溶接前の車輪4を保持するために好適である。
【0043】
(車輪保持装置)
図1図8、及び図9に示すように、車輪保持装置1は、径方向に伸縮可能な外周部を有する中心部材40を有する。車輪保持装置1は、中心部材40を支持する台座41を有する。中心部材40は、チャック42と、チャック42に径方向に移動可能に支持され、中心部材40の外周部を構成する複数のベース43と、チャック42に対してベース43のそれぞれを径方向外方に付勢する複数の付勢部材44とを有する。
【0044】
チャック42は、中心軸線Cを中心とした円板形に形成されている。チャック42は、台座41に、中心軸線Cを中心として回転可能に支持されている。ベース43のそれぞれは、チャック42の外周面に対向し、周方向に円弧状に延びた周壁部46と、周壁部46からチャック42の外側面に沿って中心軸線C側に延びる外側壁47と、周壁部46からチャック42の内側面に沿って中心軸線C側に延びる内側壁48とを有する。すなわち、ベース43の外側壁47と内側壁48との間にチャック42の一部が配置されている。外側壁47及び内側壁48は、扇形に形成されているとよい。複数のベース43は、周方向に延び、フリーローラ3の一部を受容する係合溝49を有するとよい。係合溝49は、周壁部46の外周部に形成され、周壁部46の周方向における両端部に到達しているとよい。係合溝49は、半円形の横断面を有するとよい。ベース43のそれぞれは、互いに同一形状に形成されているとよい。
【0045】
各ベース43の外側壁47には、厚み方向に貫通するガイド溝51が形成されている。チャック42には、ガイド溝51を通過する少なくとも1つのガイドピン52が結合されている。ガイドピン52がガイド溝51に当接することによって、チャック42に対するベース43の移動方向が規制されている。本実施形態では、1つのガイド溝51に対して2つのガイドピン52が設けられている。2つのガイドピン52がガイド溝51に当接することによって、チャック42に対するベース43の傾斜角度が一定に維持される。本実施形態では、1つの外側壁47に2つのガイド溝51が設けられている。内側壁48にはガイド溝51が設けれ、対応するガイドピン52が設けられていることが好ましい。
【0046】
各ベース43のチャック42に対する移動は、ガイド溝51とガイドピン52との当接によって、収縮位置と拡張位置との間に規制される。ベース43が収縮位置にあるときにベース43と中心軸線Cとの距離が最小になる。ベース43が拡張位置にあるときにベース43と中心軸線Cとの距離が最大になる。
【0047】
付勢部材44は、例えば圧縮コイルばねであり、チャック42の外周壁と各ベース43の内周壁との間に設けられている。各付勢部材44は、対応するベース43を拡張位置に向けて付勢する。本実施形態では、付勢部材44は、チャック42に螺合する筒状の第1部材と、第1部材の内側に移動可能に支持された一端とベース43に螺合する他端側とを有する第2部材との間に介装されている。
【0048】
中心部材40は、チャック42に着脱可能に取り付けられ、ベース43のそれぞれに当接することによってベース43の径方向内方への移動を規制するストッパ54を有する。チャック42の中央には、中心軸線Cに沿って形成された結合孔55が形成されている。ストッパ54は、結合孔55に挿入される軸部56と、軸部56の一端に設けられ、軸部56よりも径方向に幅が広い頭部57とを有する。結合孔55の内周面には雌ねじが形成され、軸部56の外周面に雌ねじに螺合する雄ねじが形成されてもよい。頭部57の外周部が、各ベース43の外側壁47の中心軸線C側の端部に当接することによって、各ベース43の収縮位置側への移動が規制される。頭部57の外周部が、各ベース43の外側壁47の中心軸線C側の端部に当接するとき、各ベース43は収縮位置と拡張位置との間の所定の位置に配置されるとよい。
【0049】
中心部材40は、チャック42に着脱可能に取り付けられ、ベース43のそれぞれに当接することによってベース43のチャック42に対する移動を規制する複数のロック部材61を有する。各ベース43の外側壁47及び内側壁48と、チャック42とには、貫通孔であるロック孔62が形成されている。各ロック孔62にロック部材61が挿入されることによって、チャック42に対するベース43の移動が禁止される。ロック部材61は、例えばピンであるとよい。
【0050】
車輪保持装置1は、中心部材40に加えてクランプ装置70を有する。クランプ装置70は、複数のベース43の1つに取り付けられる。クランプ装置70は、ブラケット71と、ブラケット71に設けられ、車輪4の周方向において複数のフリーローラ3を挟持する一対の保持片72とを有する。
【0051】
ブラケット71は、本体部74と、本体部74から互いに間隔をおいて同一方向に延びる第1壁75及び第2壁76とを有する。第1壁75及び第2壁76は、互いに対向する板状に形成されている。第1壁75と第2壁76との距離は、フリーローラ3の外径よりも大きく設定されている。第1壁75がボルト等の締結部材によって1つのベース43の外側壁47の側面に着脱可能に結合され、第2壁76がボルト等の締結部材によって同じベース43の内側壁48の側面に着脱可能に結合される。これにより、本体部74はベース43の周壁部46の径方向外方に間隔をおいて配置される。本体部74と周壁部46との距離は、フリーローラ3の外径よりも大きく設定されている。本体部74は、ベース43の外周部に保持される車輪4の外方に配置される。
【0052】
図10に示すように、一対の保持片72のそれぞれは、板状に形成されている。保持片72の一方は本体部74の中心軸線Cを中心とした周方向における一端に結合され、保持片72の他方は本体部74の周方向における他端に結合されている。一対の保持片72は、本体部74から中心軸線C側に延び、中心軸線Cを中心とした周方向に互いに対向している。一対の保持片72は、ボルト等の締結部材78によって本体部74に着脱可能に取り付けられているとよい。
【0053】
図1、及び図8図10に示すように、ブラケット71は、一対の保持片72の間に配置された複数のフリーローラ3の間に配置された芯体2を外部に露出させるための少なくとも1つの開口79を有する。開口79は、第1壁75及び第2壁76のそれぞれに形成されている。
【0054】
図1及び図8に示すように、車輪保持装置1は、少なくとも1つのバンド部材81を有してもよい。バンド部材81は、中心部材40の外周部に配置された車輪4のフリーローラ3の1つの外周面に沿って延びると共に、ベース43の1つに着脱可能に取り付けられる両端部を有する。本実施形態では、各ベース43に2つのバンド部材81が取り付けられている。バンド部材81の両端部はベース43の外側壁47の外面及び内側壁48の外面に設けられた係止部82に係止される。
【0055】
溶接前の車輪4(第4工程までの処理が完了した車輪4)を車輪保持装置1に保持させる方法について説明する。溶接前の車輪4は、概ね環状に配置されているが、スプリングバックによって、芯体2の第1端面28及び第2端面29が互いに離れている。
【0056】
最初に、複数のロック部材61がロック孔62に挿入され、チャック42に対して各ベース43が所定の位置に維持される。これにより、中心部材40の外周に車輪4を配置する作業が容易になる。また、ストッパ54がチャック42に結合される。ロック部材61がロック孔62に挿入されている状態において、ストッパ54と各ベース43との間には隙間が形成される。次に、溶接前の車輪4が中心部材40の外周部、すなわち各ベース43の外周部に配置される。このとき、車輪4の内周部は、各ベース43の周壁部46の係止溝に受容される。また、車輪4を構成する芯体2の両端部が、クランプ装置70が装着されるベース43の周方向における中央に配置される。
【0057】
次に、複数のバンド部材81が対応するベース43に取り付けられる。これにより、車輪4が複数のベース43と、複数のバンド部材81との間に挟持される。複数のバンド部材81によって、車輪4は各ベース43の外周部に沿って概ね真円に維持され、芯体2の第1端部21と第2端部22とが近接する。
【0058】
次に、この状態で、図1及び図10に示すように、クランプ装置70のブラケット71がベース43に取り付けられる。このとき、一対の保持片72はブラケット71から取り外されているか、ブラケット71に移動可能に仮保持されているとよい。ブラケット71がベース43に取り付けられた状態で、一対の保持片72が締結部材78によってブラケット71に仮保持される。このとき、一対の保持片72の間に、芯体2の第1端部21に取り付けられたフリーローラ3と、芯体2の第2端部22に取り付けられたフリーローラ3とが配置される。この状態で、締結部材78が締め込まれることによって一対の保持片72が互いに近づき、芯体2の第1端部21に取り付けられたフリーローラ3と、芯体2の第2端部22に取り付けられたフリーローラ3とが一対の保持片72によって挟持され、芯体2の第1端面28と第2端面29とが当接した状態に維持される。この状態で、ブラケット71の開口79を通して、芯体2の第1端面28と第2端面29との当接部が外部に露出する。そして、ブラケット71の開口79を通して、第1端面28と第2端面29との当接部が溶接される。溶接は、例えばレーザー溶接であるとよい。これにより、芯体2が環状に維持される。
【0059】
次に、一対の保持片72及びブラケット71がベース43から取り外される。また、複数のバンド部材81がベース43から取り外される。そして、複数のロック部材61が対応するベース43から取り外される。これにより、付勢部材44の付勢力によって、ベース43が拡張位置側に移動し、ベース43の外周部が車輪4の内周部に当接する。
【0060】
次に、芯体2の第1カット面24と第2カット面25との当接部のそれぞれが溶接される。溶接は、レーザー溶接であるとい。このとき、溶接装置の照射部が所定の位置に配置され、チャック42が回転することによって、車輪4の周方向における溶接位置が変更されるとよい。
【0061】
溶接に起因する収縮により、車輪4の半径は溶接が進むにつれて漸減する。このとき、各ベース43が付勢部材44の付勢力に抗して中心軸線C側に移動し、車輪4との当接状態を維持する。なお、各ベース43は、ストッパ54と当接するまで、中心軸線C側に移動することができる。各ベース43がストッパ54と当接した後は、各ベース43が車輪4の収縮を抑制するべく、車輪4を内方から支持する。これにより、芯体2を適切な形状に維持することができる。
【0062】
溶接が完了した後、ストッパ54がチャック42から取り外される。これにより、ベース43が中心軸線C側に移動可能になる。そして、複数の付勢部材44の付勢力に抗して複数のベース43が中心軸線C側に移動させられることによって、車輪4の内周部と、複数のベース43の外周部とが離れ、車輪4が中心部材40から取り外される。
【0063】
本発明に係る車輪保持装置1は、環状の芯体2と芯体2に回転可能に支持された複数のフリーローラ3とを有する車輪4を保持する。中心部材40は、環状の車輪4の中央部に配置され、その外周部において車輪4を保持することができる。中心部材40の外周部は、径方向外方に伸長して車輪4の内周部に当接することができる。
【0064】
クランプ装置70は、開裂した芯体2を環状に保持することができ、芯体2の第1端面28及び第2端面29の溶接が容易になる。ブラケット71には開口79が形成されているため、クランプ装置70を車輪4に装着した状態において、芯体2に対する溶接作業が可能になる。一対の保持片72がブラケット71に着脱可能に取り付けられているため、ブラケット71を車輪4に対して配置した後に、一対の保持片72をブラケット71に取り付けることができる。これにより、クランプ装置70の車輪4への取り付け作業が容易になる。
【0065】
ロック部材61によってベース43の位置が固定されている場合において、複数のバンド部材81は車輪4をベース43に密着させることによって、車輪4の位置を一定させることができる。
【0066】
車輪4は、全方向移動装置5に使用される。全方向移動装置5は、例えば、図2に示すように、フレーム91と、フレーム91に回転可能に支持された一対のドライブディスク92と、一対のドライブディスク92の間に配置された環状の車輪4と、ドライブディスク92のそれぞれを回転させる一対の電動モータとを有する。一対のドライブディスク92は、電動モータの駆動力を車輪4に駆動力を伝達する。
【0067】
フレーム91は、車体の下部から下方に延びる一対の側壁部を有する。図2に示すように、一対のフレーム91の下端には、左右に延びる支持軸97が架け渡されている。支持軸97には、一対のドライブディスク92が回転可能に支持されている。一対のドライブディスク92は支持軸97の軸線を中心として回転する。各ドライブディスク92は、支持軸97に対して左右方向における位置が規制されている。各ドライブディスク92は、左右方向に互いに距離をおいて対向している。
【0068】
ドライブディスク92は、環状の車輪4の両側にそれぞれ配置され、車輪4に摩擦力を与えて車輪4を軸線A回り及び環状の芯体中心線B回りに回転させる。ドライブディスク92は、フレーム91に回転可能に支持される円盤状のベース101と、ベース101の外周部に互いに傾斜して回転可能に支持され、車輪4に接触する複数のドライブローラ102とを有する。ベース101は、支持軸97と同軸に配置されている。
【0069】
各ドライブディスク92の互いに相反する面にはドリブンプーリ104がそれぞれ設けられている。ドリブンプーリ104はドライブディスク92と同軸に設けられている。ドリブンプーリ104はベルト106によって電動モータの出力軸に設けられたドライブプーリと接続されている。各電動モータが互いに独立して回転することによって、各ドライブディスク92が互いに独立して回転する。
【0070】
各全方向移動装置5において、一対のドライブディスク92が同一方向に同一の回転速度で回転する場合には、車輪4は一対のドライブディスク92と共に回転する。すなわち、車輪4は軸線Aを中心として前転又は後転する。このとき、ドライブディスク92のドライブローラ102及び車輪4のフリーローラ3は芯体2に対して回転しない。各全方向移動装置5において、一対のドライブディスク92間に回転速度差が生じる場合には、一対のドライブディスク92の回転に起因する円周(接線)方向の力に対し、この力に直交する向きの分力が左右のドライブローラ102から車輪4のフリーローラ3に作用する。ドライブローラ102の軸線がドライブローラ102の周方向に対して傾斜しているため、ドライブディスク92間に回転速度差に起因して分力が生じる。この分力によって、ドライブローラ102がベース101に対して回転すると共に、フリーローラ3が芯体2に対して回転する。これにより、車輪4は、左右方向への駆動力を発生させる。
【0071】
左右の全方向移動装置5が前方に同じ速度で回転することによって、車体が前進する。左右の全方向移動装置5が後方に同じ速度で回転することによって、車体が後退する。左右の全方向移動装置5の前後方向への回転に速度が生じることによって、車体は右方又は左方に旋回する。左右の全方向移動装置5の各車輪4のフリーローラ3が回転することによって、車体は右方又は左方に平行移動する。
【0072】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。台座41は、中心部材40の高さ及び向きを変更する機構を有してもよい。ベース43の形状及び数は任意に変更することができる。クランプ装置70のブラケット71は、台座41に取り付けられてもよい。保持片72の一方はブラケット71と一体に形成されてもよい。ブラケット71の本体部74は、ベース43との間に少なくとも1つのフリーローラ3を挟持してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 :車輪保持装置
2 :芯体
3 :フリーローラ
4 :車輪
5 :全方向移動装置
40 :中心部材
41 :台座
42 :チャック
43 :ベース
44 :付勢部材
46 :周壁部
47 :外側壁
48 :内側壁
49 :係合溝
51 :ガイド溝
52 :ガイドピン
54 :ストッパ
55 :結合孔
61 :ロック部材
62 :ロック孔
70 :クランプ装置
71 :ブラケット
72 :保持片
78 :締結部材
79 :開口
81 :バンド部材
82 :係止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10