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特許7582942アニオン性ペンダントおよび補助基を含む、鉄(III)MRI造影剤として使用するための化合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】アニオン性ペンダントおよび補助基を含む、鉄(III)MRI造影剤として使用するための化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 255/02 20060101AFI20241106BHJP
   C07D 403/06 20060101ALI20241106BHJP
   C07F 9/6515 20060101ALI20241106BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20241106BHJP
   A61K 49/10 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C07D255/02 CSP
C07D403/06
C07F9/6515
C07F15/02
A61K49/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021526521
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 US2019062077
(87)【国際公開番号】W WO2020102820
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】62/768,823
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519411043
【氏名又は名称】ザ リサーチ ファウンデイション フォー ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モロウ,ジャネット,アール.
(72)【発明者】
【氏名】リン,ズイル
(72)【発明者】
【氏名】アシク,ディダル
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー,エリック,エム.
(72)【発明者】
【氏名】クラス,エリザベス,エイ.
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特表平05-504127(JP,A)
【文献】特表平09-501919(JP,A)
【文献】特表平10-512584(JP,A)
【文献】NOTNI, J. ET AL,A Triazacyclononane-Based Bifunctional Phosphinate Ligand for the Preparation of Multimeric 68Ga Tracers for Positron Emission Tomography,Chemistry - A European Journal,2010年,16(24),7174-7185
【文献】COLE, E. ET AL,1,4,7-Triazacyclononane-1.4,7-triyltrimethylenetris(phenylphosphinate) enforces octahedral geometry: crystal and solution structures of its metal complexes and comparative biodistribution studies of radiolabeled indium and gallium complexes,Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions: Inorganic Chemistry,1994年,(11),1619-1629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07D
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i) 以下の構造を有する1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)部分:
【化1】
ここで、Z、Z、およびZは、独立して以下のものから選択されるアニオン性ペンダント基であり;
【化2】
ここで、R4は、置換あるいは非置換アルキル基、または置換あるいは非置換アリール基であ;および
ii) TACN部分、および、TACN部分の少なくとも1つのアニオン性ペンダント基置換基に錯化された高スピンFe(III)カチオン
を含む大環状錯体、またはそれらの塩、部分塩、水和物、多形体、立体異性体
【化3】
【請求項2】
大環状錯体が、水配位子または水酸化物配位子のための開放配位部位を少なくとも1つ有する、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項3】
大環状錯体が、高スピンFe(III)カチオンに錯化された少なくとも1つの水を有する、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項4】
i) 以下の構造を有する1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)部分:
【化4】
ここで、Z、およびZは、独立して以下のものから選択されるアニオン性ペンダント基であり;
【化5】
は、独立して以下のものから選択されるアニオン性ペンダント基であり;
【化6】
ここで、R2は、置換あるいは非置換アルキル基、置換あるいは非置換芳香族基、または置換エーテルであり;R4は、置換あるいは非置換アルキル基、または置換あるいは非置換アリール基であり;およびQ1は、アニオン性基で置換されたアリール基、アニオン性基で置換されたアルキル基、またはアニオン性基で置換されたアラルキル基である;および
ii) TACN部分、および、TACN部分の少なくとも1つのアニオン性ペンダント基置換基に錯化された高スピンFe(III)カチオン
を含む、大環状錯体
【化7】
【請求項5】
大環状錯体が、水配位子または水酸化物配位子のための開放配位部位を少なくとも1つ有する、請求項4に記載の大環状錯体。
【請求項6】
大環状錯体が、高スピンFe(III)カチオンに錯化された少なくとも1つの水および/または少なくとも1つの水酸化物を有する、請求項4に記載の大環状錯体。
【請求項7】
大環状錯体が、以下の構造を有する、請求項4に記載の大環状錯体:
【化8】
【請求項8】
TACN部分が、以下の構造を有する、請求項1に記載の大環状錯体:
【化9】
【発明の詳細な説明】
【関連出願とのクロスリファレンス】
【0001】
本出願は2018年11月16日に出願された米国仮出願第62/768,823号の優先権を主張し、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[連邦支援研究に関する表明]
本発明は、国立科学財団(National Science Foundation)から授与された契約番号1710224および国立衛生研究所(National Institutes of Health)から授与された契約番号EB025369に基づく政府の支援によってなされた。政府はこの発明に対して特定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本開示は一般に、大環状化合物に関する。鉄(III)と錯体を形成する場合、これらの化合物は、MRI造影剤として使用できる。
【発明の概要】
【0004】
本開示の目的は、Fe(III)と錯体を形成できる大環状化合物を提供することである。本開示の目的は、また、前記化合物および錯体を、製造および使用する組成物および方法を提供することである。
【0005】
MRI造影剤として使用するためのFe(III)配位錯体が開示される。
開示されたFe(III)TMRI造影剤は、大環状配位子を含む。Fe(III)錯体は、TMRI造影剤としても使用されうる。
【0006】
本開示は、i)配位子ドナーとして、少なくとも2つのヘテロ原子を含む大環状コア、および、ii)大環状コアの置換基として、少なくとも1つのペンダントドナー(アニオン性ペンダントと称されることもある)を有する、大環状化合物または大環状環(大員環)を提供する。大環状コアは炭素原子および少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、N原子、O原子、またはS原子)を含む環構造を有する。大環状コアは、TACN部分であってもよい。大環状コアは、N原子の1つまたは複数が、O原子またはS原子で置換されているTACN部分であってもよい。
【0007】
例えば、ペンダントドナーは、酸素含有基(例えば、アルコール、酸化物(例えば、アルコシキド、またはフェノキシド)、スルホネート、ホスフィネート、ホスホネートなど)であり得る。例えば、アルコール、ホスフィン酸、ホスホン酸、またはスルホン酸などのいくつかのペンダントドナーは、Fe(III)と錯体を形成する場合、または特定のpHで、脱プロトン化することができる。
【0008】
大環状化合物は、1個以上の補助ペンダント基を含むことができる。補助ペンダント基は、1つ以上の配位補助ペンダント基および/または1つ以上の非配位補助ペンダント基であってもよい。
【0009】
一実施形態では、本開示の化合物は、芳香族基(例えば、アリール基)、大環状環、ポリマー、デンドリマー、タンパク質、またはペプチドを介して互いに繋がれた2つ以上の大環状コアを有する。
【0010】
本開示の方法における使用のために、本明細書中に記載される化合物または錯体は、医薬調製物として投与され得る。それゆえ、それらは、種々の組成物で提供され得、また1つ以上の薬学的に受容可能な担体と組み合わされ得る。
【0011】
一局面において、本開示は、本明細書に記載の大環状化合物を使用するイメージング方法を提供する。イメージング方法は、磁気共鳴イメージング方法を使用する。
そのような方法の例には、磁気共鳴画像法(MRI)が含まれるが、これに限定されない。具体的には、本開示の大環状化合物は、Fe(III)と錯体を形成する場合、T1MRI造影剤として使用されうる。本開示のイメージング方法は、細胞、組織、器官、血管系(脈管構造)、またはそれらの一部をイメージングするために使用され得る。細胞、組織、器官、血管系は、個体の一部であり得る。
【0012】
[開示の背景]
3価鉄としてFe(III)を含有する造影剤は、Gd(III)造影剤の代替物を提供する。米国の人口におけるかなりの割合の患者(約10%)が、Gd(III)造影剤を与えられることに関して危険性を有すると考えられるという事実にも関わらず、今日にいたるまで、ほぼすべての臨床的に使用される造影剤はガドリニウム(3価Gd(III)としてのGd)を含有する。Gd(III)ベースのMRI造影剤が、全ての患者の脳、骨および皮膚へのGd(III)の沈着を導いているという新たな懸念がある。高スピンFe(III)錯体などの生物学的に関連する遷移金属イオンを含むGd(III)造影剤の代替物は、高価である。生物学的に関連する遷移金属イオンを含むGd(III)造影剤の代替物は、高スピンMn(II)および高スピンFe(III)錯体を含む。Fe(III)を使用する潜在的利点には、最も大量に存在する遷移金属イオンとして、鉄を再利用および貯蔵するための人体における広範なメカニズムが含まれる。また、Fe(III)錯体は、Mn(II)より解離する傾向が少ない。注目すべきことに、Mn(II)およびFe(III)錯体の両方の酸化還元電位は、反応性酸素種(ROS)の生成を妨げるために調整できる。例えば、ある種の配位子は、厳しいコンディション下でさえ、ヒドロキシラジカルを産生しない酸化還元-不活性Fe(III)錯体を形成する。本明細書に記載されるFe系MRI造影剤(3価Fe(III)として)は、Gd(III)剤と同じ常磁性メカニズムによってコントラストを生成し、また、配位錯体として小分子形態であり、すなわちナノ粒子ではない。
【0013】
現在までに報告されているほとんどのFe(III)MRI造影剤は、単純な直鎖型キレート剤を含有し、これには、EHBG(NN’-エチレンビス[(2-ヒドロキシベンジル)グリシン]のような、フェノールおよびカルボキシレートペンダントの組合せを有するエチレンジアミン骨格を有するものが含まれる。別のタイプは、EDTAのFe(III)錯体などのポリアミノカルボキシレート配位子を含む。第3のタイプは、微生物シデロフォア、デスフェリオキサミン(DFO)を含む。これらの錯体の全ては、交換可能な水配位子の欠如、ROS生成の影響を受けやすい還元電位、および/または合成修飾の困難性を含む欠点を有する。また、Fe(III)錯体の水溶液の化学的性質は、水酸化物および架橋酸化物配位子との不溶性錯体の形成によって支配される。Fe(III)を安定化させるために酸化還元電位を変化させることによりROSを生成するのに効果的な触媒ではなく、望ましいT緩和剤である、Fe(III)錯体を得るための改善が必要である。さらに考慮されることは、錯体の全体的な電荷である。ペンダントとしてFe(III)に結合する、あるいは補助基としてより離れて付着するアニオン基は、造影剤の薬物動態およびその体内からの排出を調節するために重要である。
【0014】
少なくとも前述のことに基づいて、改善された特性を有するFe(III)MRI造影剤のための、当該技術分野における未だ満たされていないニーズが存在する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1は、TASO配位子の合成スキームを示す。
【0016】
図2は、ホスフィンペンダントを有するTRAP-Ph大環状環、および対応するFe(III)錯体の合成スキームを示す。
【0017】
図3は、ホスフィン酸ペンダントを有する大環状化合物の合成を示す。
【0018】
図4は、ホスフィン酸ペンダントまたはホスホン酸ペンダントを有する大環状化合物、および対応するFe(III)錯体の合成を示す。
【0019】
図5は、アニオン性基を有するトリアゾールペンダントの合成スキーム、その大環状環への付着、およびFe(III)錯体の形成を示す。
【0020】
図6は、Fe(TASO)の1H NMRが、ベースライン中に広がっている様子を示し、これは高スピンFe(III)と一致する。t-ブタノールプロトン共鳴におけるシフトが観察される。
【0021】
図7は、EDTAまたはCDTAのFe(III)錯体とは異なり、Fe(TASO)等のFe(III)造影剤が、過酸化物およびアスコルビン酸塩の存在下で、ベンゾエートを酸化しないことを示す。50μM錯体、50μM H22、50μMアスコルビン酸塩(pH7.2)によるベンゾエートの酸化。[Fe(EDTA)]の酸化率を、100%に設定している。
【0022】
図8は、様々な温度の17O NMR研究から得られたデータのプロットを示す。
pH4.5で20mMのFe(TASO)を含有する実験について、17O NMR共鳴の横緩和率の逆数の自然対数を、温度の関数として示している。
【0023】
図9は、肝臓、腎臓を含む種々の組織に対する、Fe-TASO注射後のマウスにおけるT緩和性の経時的変化のプロットを示す(Gd(DTPA)およびFe(TOB)と比較)。
【0024】
図10は、血液における、Fe(TASO)注射後のマウスにおけるT緩和性の経時的変化のプロットを示す(Gd(DTPA)およびFe(TOB)と比較)。
【0025】
図11は、本開示の大環状錯体の例について、4.7テスラおよび37℃で得られた緩和性データを示す。Fe-NOTPは、0.66±0.01mM-1-1のr1を示し、HSA有りのFe-NOTPは、1.04±0.06mM-1-1のr1を示した。
【0026】
図12は、支持電解質およびHEPESバッファーとして、塩化カリウム(100mM)を含む水における、様々なpHでの、Fe(TASO)の1.0mM溶液のサイクリックボルタモグラムを示す。最大掃引幅は、-1.5Vと1.5Vの間とされ、Fe(TASO)のためのスキャン速度は100mV/s、pH7でのE1/2は、―204mVで見いだされ、pH3では、513Vで見いだされ、NHEに対して修正された。
【0027】
図13は、pH値の範囲を変えて測定され、Fe(DTPA)、Fe(TOB)、およびFe(CDTA)と比較される、Fe(TASO)についての、横17O NMR緩和性を示す(温度の関数として、ln(1/T2r))。Fe(CDTA)は、交換可能な水配位子を有する一方、Fe(DTPA)は、交換可能な内圏水配位子を有さない。
【0028】
図14は、37℃にて、72時間にわたって得られたFe(TASO)の紫外・可視吸収スペクトルを示す。水溶液は、0.1MのHCl中に溶解された0.2mMのFe(TASO)を含んだ。
ε(250nm)=6097 M- cm-、ε(325nm)=3557 M-1 cm-1.
24時間後の解離は18.1%であった。72時間後の解離は53.6%であった。
【0029】
図15は、37℃にて、72時間にわたって得られたFe(TASO)の紫外・可視吸収スペクトルを示す。pH7.1にて、25mMのNaHCO、0.50mMのNa2HPO4、10mMのHEPESバッファーに溶解された、0.2mMのFe(TASO)を含む水溶液を使用。
ε(245nm)=6960 M- cm-、ε(325nm)=3571 M-1 cm-1.
【0030】
図16 Fe(TASO)の紫外・可視吸収スペクトルは、37℃にて、72時間にわたって得られた。水溶液は、pH7.1にて、10mMのHEPESバッファーに溶解された、0.2mMのFe(TASO)を含んだ。
ε(245nm)=6762 M- cm-、ε(325nm)=3687 M-1 cm-1.
【0031】
図17は、4.7Tにて、用量0.2mmol/kgのFe(TASO)での、健康なBalb/CマウスのT1-強調MRIを示す。上段:注入前(a)、5分後(b)、40分後(c)。注入後の画像は、腎臓の増進を示す(矢印)。下段:膀胱の画像(矢印)。注入前(d)、5分後、および40分後(f)
【0032】
図18は、4.7Tにて、用量0.05mmol/kgのFe(TASO)での、健康なBalb/CマウスのT1-強調MRIを示す。上段:注入前(a)、30分後(b)、4時間後(c)、および24時間後(d)。注入後の画像は、腎臓の増進を示す(矢印)。胃は、Sと表示された。下段:肝臓(L)および胆嚢の画像(矢印)、注入前(e)、30分後(f)、4時間後(g)、および24時間後(h)の注射後の画像。
【0033】
図19は、Fe(TASO)に関する、マウスの薬物動態データを示す。
【0034】
図20は、Fe(TASO)に関する、マウスの薬物動態データを、臨床で使用されているGd錯体と比較して示す。
【0035】
図21は、3,7,および12分での、4.7T、用量0.05mmol/kgのFe(L4)による、健康なBalb/CマウスのT1-強調MR画像を示す。膀胱で増進が示される。
【発明の詳細な説明】
【0036】
本開示の目的は、Fe(III)と錯体を形成できる大環状化合物を提供することである。本開示の目的は、また、前記化合物および錯体を、製造および使用する組成物および方法を提供することである。
【0037】
大環状配位子を有する高スピンFe(III)錯体は、T1MRI造影剤として使用されてもよい。特に、高スピンFe(III)は、水分子との内圏および外圏相互作用の両方を通じて、MRI造影のために水のプロトンのT1緩和時間を短くする、好ましい常磁特性を有する。
【0038】
1MRI造影剤として使用するためのFe(III)配位錯体が開示される。開示されたFe(III)T1MRI造影剤は、大環状配位子を含む。如何なる特定の理論に拘束されることも意図しないが、大環状配位子は、スピンおよび酸化状態を制御し、アニオン性基は、錯体の全体の荷電を制御すると考えられる。Fe(III)錯体は、T2MRI造影剤としても使用されうる。
【0039】
Fe(III)と錯体を形成する場合、本開示の大環状化合物(配位子として)は、スピンおよび酸化状態に対する制御、ならびに内圏および外圏水との相互作用を達成するのに有利である。これらの大環状配位子の空洞は、高スピン形態のFe(III)の安定化に適している。また、水溶液の化学性質の制御が、これらの大環状化合物を用いて達成できる。本明細書に記載される大環状錯体は、Fe(III)をほぼカプセル化するが、幾つかの場合は、TMRI造影剤としての有効性を増強する水配位子のための配位部位を有する。いくつかのケースでは、内圏水配位子が、第2圏相互作用を通じて、バルク水のプロトンのT1緩和性を生じ得る。本明細書に記載されるFe系MRI造影剤(高スピン、3価Fe(III)と錯体を形成した大環状環)は、Gd(III)剤と同じ常磁性メカニズムによってコントラストを生成する。また、配位錯体として小分子形態であり、すなわちそれらはナノ粒子ではない。
【0040】
本明細書で使用される場合、特に断らない限り、用語「基」または「部分」は、一価(すなわち、他の化学種に共有結合することができる1つの末端を有する)、二価、または多価(すなわち、他の化学種に共有結合することができる2つ以上の末端を有する)である化学物質を指す。基の例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:
【化1】
【0041】
本明細書中で使用される場合、別段の記載がない限り、用語「アルキル」または「アルキル基」は、分岐または非分岐飽和炭化水素基をいう。アルキル基の例としてはメチル基、エチル基、n-およびイソプロピル基、n-、イソ-、sec-、および、tert-ブチル基などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、アルキル基は、C1からC12の(全ての整数の炭素数およびそれらの間の炭素数の範囲を含む)アルキル基であってもよい。アルキル基は、置換されていなくてもよく、または1つ以上の置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては、例えば、ハロゲン(-F、-Cl、-Brおよび-I)、脂肪族基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)、アリール基、アルコキシド基、チオアルコキシド基、カルボキシレート基、カルボン酸、エーテル基等、およびこれらの組合せなどの様々な置換基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、用語「アリール」または「アリール基」は、C5からC12の(すべての整数の炭素数およびそれらの間の炭素数の範囲を含む)、芳香族または部分芳香族炭素環基を指す。アリール基は、芳香族基とも称され得る。アリール基は、例えば縮合環またはビアリール基などのポリアリール基を含むことができる。アリール基は、置換されていなくてもよく、または1つ以上の置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては、例えば、ハロゲン(-F、-Cl、-Brおよび-I)、脂肪族基(例えば、アルケン、アルキンなど)、アリール基、アルコキシド、チオアルコキシド、カルボキシレート、カルボン酸、エーテル基等、およびこれらの組合せ等の置換基が挙げられるが、これらに限定されない。アリール基の例としては、フェニル基、ビアリール基(例えば、ビフェニル基など)、および縮合環基(例えば、ナフチル基など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書中で使用される場合、特に明記しない限り、用語「アラルキル」は、アルキル基上の1つ以上の水素原子を1つ以上のアリール基で置換することによって、アルキル基から派生した任意の基をいう。
【0044】
本明細書で使用される場合、特に明記しない限り、用語「複素環基」は環構造の一部として1つ以上のヘテロ原子(例えば、N、O、Sなど)を含むC3~C20(例えば、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20)環状基を指す。複素環基は、置換されていても置換されていなくてもよく、および/または追加の不飽和度を有していてもよい。複素環基は縮合環(例えば、ピロリジジニル基など)であり得る。複素環基の非限定的な例としては、フラニル基、オキサゾリル基、イソチアゾリル基、チアゾリル基、テトラヒドロピラニル基、ピペラジニル基、ジオキサニル基、ピロリジニル基、テトラヒドロチオフェニル基、テトラヒドロフラニル基、キヌクリジニル基、アザアダマンタニル基、デカヒドロキノリニル基などが挙げられる。
【0045】
本開示は、i)配位子ドナーとして少なくとも2つのヘテロ原子を含む大環状コア、および、ii)大環状コアの置換基として、少なくとも1つのペンダントドナーを有する大環状化合物または大環状環(大員環)を提供する。大環状コアは炭素原子および少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、N原子、O原子、またはS原子)を含む環構造を有する。本明細書中で使用される場合、「大環状ドナー」は、化合物の大環状コア中に存在する場合、Fe(III)中心に供与するために利用可能な孤立電子対を有するヘテロ原子をいう。例えば、大環状ドナーは、窒素原子(例えば、第三級アミン、第二級アミン)、または酸素原子(例えば、エーテル)であり得る。本明細書中で使用される場合、アニオン性ペンダントおよび補助ペンダントを含めた「ペンダントドナー」は、化合物の大環状コア上の置換基中に存在する場合、Fe(III)中心に供与するために利用可能な孤立電子対を有するヘテロ原子をいう。例えば、ペンダントドナーは、酸素含有基(例えば、アルコール、酸化物(例えば、アルコキシドまたはフェノキシド)、スルホネート、ホスフィネート、ホスホネートなど)であり得る。例えば、アルコール、ホスフィン酸、ホスホン酸、またはスルホン酸などのいくつかのペンダントドナーは、Fe(III)と錯体を形成する場合、または特定のpHで、脱プロトン化することができる。このようなプロトン化および脱プロトン化形態は、本開示の範囲内である。いくつかの実施形態では、大環状化合物は、Fe(III)と錯体を形成して、安定化された3価状態(E<0mV 対NHE)を提供する。スキームIおよびIIのある実施形態では、R1は、Fe(III)と結合しない補助基であってもよい。アニオン性基は、Fe(III)に結合しない補助基に付け加えられてもよく、これには、スルホネート、ホスフィネート、ホスフェート、ホスホネート、またはカルボキシレート基が含まれる。
【0046】
大環状コアは、TACN部分であってもよい。大環状コアは、N原子の1つまたは複数が、O原子またはS原子で置換されているTACN部分であってもよい。
【0047】
ある実施形態では、大環状環は、以下の構造を有する(スキーム1)
【化2】
スキームI
ここで、
1、X2、X3はNであり;
1はOまたはSであり;
1、Y2、Y3はそれぞれ独立に、i)Oを含むペンダントドナーであって、ここでOは少なくとも1つの孤立電子対を有するが、好ましくは2つまたは3つの孤立電子対を有する(例えば、ケトン、アルコール、アルコキシド、フェノールもしくはフェノキシド、スルホン酸、ホスフィン酸、またはホスホン酸、あるいはそれらの脱プロトン形態、例えばアルコキシドまたはフェノキシドなどの酸化物など);または
ii)Nを含むペンダントドナーであって、ここでNは少なくとも1つの孤立電子対を有する(例えば、トリアゾールなど);
1、m2、m3は、それぞれ独立に1、2、または3であり;
1、n2、n3はそれぞれ独立に1または2または3であり;
1は置換あるいは非置換アリール、置換あるいは非置換複素環基、または置換あるいは非置換アルキルであり、ここでアルキル-Y鎖のアルキルセグメント(アルキル-Y1、アルキル-Y2、および/またはアルキルY3)はそれぞれ独立して置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。別の実施形態において、アルキル-Y1、アルキル-Y2、アルキルY3のいずれかまたは全ては、それぞれ独立して、スキームIIIに定義される構造1~9のいずれかであってもよい。
【0048】
ある実施形態では、R1は、ペンダントドナーで置換されていない。
【0049】
いくつかの実施形態では、大環状環は、以下の構造を有してもよい(スキームII)。
【化3】
スキームII
ここで、R1は置換あるいは非置換アリール、または置換あるいは非置換ヘテロアリール、または置換あるいは非置換アルキルであり、ここで、大環状環が、構造Iを有する場合、Z1は、HまたはスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z2およびZ3はそれぞれ独立して、スキームIIIのペンダント基の1つである;大環状環が、構造IIまたはIIIを有する場合、Z1およびZ2はそれぞれ独立して、スキームIIIのペンダント基の1つである;および、ここですべての構造I~IIIについて、Z1、Z2、Z3のそれぞれが適用できる場合は、互いに独立して選択される。このパラグラフは、以後「スキームII」と称される。
【0050】
いくつかの実施形態において、スキームIIの大環状環が、Fe(III)と錯体を形成する場合、R1はFe(III)に配位しない。
【0051】
一実施形態では、段落[0045]に意味が定義された、あるいはスキームIまたはIIによる大環状環は、大環状コア上に少なくとも1つのペンダントドナーを有する。例えば、前記ペンダントドナーは、以下の構造を有し得る(スキームIII)
【化4】
スキームIII
ここで、R2は置換あるいは非置換アルキル基、置換あるいは非置換芳香族基(アリール基であってもよい)または置換エーテルであり;R3は置換あるいは非置換アルキルまたは、置換あるいは非置換アリール基であり、R4は置換アルキル(例えば、ヒドロキシルまたはカルボキシレート基などで置換されている)、あるいは非置換アルキル、または置換あるいは非置換アリール基である。例えば、アルコール、ホスフィン酸、ホスホン酸、またはスルホン酸などのいくつかのペンダントドナーは、Fe(III)と錯体を形成する場合、または特定のpH値で、脱プロトン化し得る。このようなプロトン化および脱プロトン化形態は、本開示の範囲内である。例えば、ペンダントドナーは、アルコキシド、ホスフィネート、ホスホネートまたはスルホネートであってもよい(スキームIVに示されるように)。
スキームIV-イオン化基
【0052】
ある実施形態では、スキームIおよびIIの前記大環状環のR1基(配位補助基であっても、非配位補助基であってもよい)は、スキームVによる構造であってもよい。
【化6】
スキームV
ここで、AおよびA‘は、それぞれ独立して、直鎖または分岐構造の置換あるいは非置換のC1~C12アルキル基、またはプロトンであり、Q1はアニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアリール、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアルキル基、または、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアラルキル基であり、ここで、AまたはA‘の少なくとも1つは、アニオン性基(例えば、アミノ酸、特にグリシン、セリン、またはアスパラギン酸)で置換されたアルキル基である。アミノホスフィン酸およびホスフェートエステルが好ましい。
【0053】
一実施形態において、Q1はアラルキルであり、前記アラルキル基のアルキル部はメチル(C1)である。
【0054】
いくつかの実施形態において、スキームVのペンダントドナー(例えば、スキームIおよびIIのR1)は、Fe(III)中心に配位しない。いかなる特定の理論に拘束されることも意図しないが、これらのペンダントは、錯体上の電荷を調節するのに役立ち、血清アルブミンへの結合を促進するのに役立つと考えられる。他の実施形態では、スキームVのペンダントドナー(例えば、スキームIおよびIIのR1)は、Fe(III)中心に配位する。
【0055】
前述したように、例えば、アルコール、スルホン酸、ホスフィン酸、またはホスホン酸などのいくつかのペンダントドナーは、Fe(III)と錯体を形成する場合、またはpHがより塩基性にされた溶液中で、脱プロトン化し得る。これらの対応するアルコキシド、スルホネート、ホスフィネート、ホスホネートは、本開示の範囲内である。
【0056】
特定のペンダントは2つ以上のNまたはOドナー原子(例えば、トリアゾール、またはホスホネート、またはホスフィネート)を有し得るが、一般に、1個のみが金属イオンに配位される。
【0057】
2つ以上のペンダントドナーが存在する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい。様々な例において、2つ以上のペンダントドナーが存在する場合、個々のペンダントは、同じであっても異なっていてもよい。
【0058】
大環状化合物は、1個以上の補助ペンダント基を含んでもよい。補助ペンダント基は、1つ以上の配位補助ペンダント基および/または1つ以上の非配位補助ペンダント基であってもよい。
【0059】
非配位補助ペンダント基は、Fe(III)金属イオンに結合して5員または6員キレートを形成することができるヘテロ原子を有さない。非配位補助ペンダント基の非限定的な例としては、ベンジル基、フェニル基、および芳香族基に結合した1個以上のメチレン基を有するかまたはメチレン基を有さない他の芳香族(例えば、アリール)基、アルキル基(分岐および直鎖基の両方)などが挙げられる。非配位補助ペンダント基の他の非限定的な例としては、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル、ピリジル、キノリル、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、エチルメトキシエーテル、PEG誘導体(ポリエチレングリコール)などが挙げられる。
【0060】
配位補助ペンダント基(例えば、2つがヒドロキシルプロピル、ホスフィネート、またはホスホネートである場合に第3のペンダント基である)の非限定的な例としては、例えば、アミド、カルボキシレート、アルコールまたはフェノール、またはトリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピコリル、ピリジン、アルキルアミン、アミノピリジン、アミノフェノール、アニリンなどの誘導体などの5員または6員キレートを形成する酸素または窒素ドナーが挙げられる。これらの群のいくつかは、Fe(III)に結合した場合に脱プロトン化し得る。
【0061】
1個以上の非配位補助ペンダント基を含む大環状錯体は、1つ以上の開放配位部位を有していてもよく(開放配位を有する)、これは、内圏水分子(単数または複数)、水酸化物(単数または複数)、またはそれらの組み合わせであってもよい。1個以上の配位補助ペンダント基を含む大環状錯体は、開放配位部位を有していなくてもよい(非開放な配位を有する)。非開放な配位(クローズド配位)または開放配位(オープン配位)の場合、大環状錯体は、第2圏水分子(単数または複数)を有してもよい。
【0062】
様々な例において、大環状コアは、2または3個の窒素原子、0または1個の酸素原子、および/または0または1個の硫黄原子を有することができる。例えば、大環状コアは、6、7、8、または9個の炭素を有し得る。例えば、大環状コアは9~12個(その間の全ての範囲および整数を含む)の原子を有してもよく、ここで、大環状コア中の原子の少なくとも1つは、例えばNなどのヘテロ原子である。別の実施形態では、大環状コア中の原子の少なくとも2つは、例えばNなどのヘテロ原子である。様々な例では、大環状コア中のヘテロ原子を隔てる炭素原子は2または3個である。大環状コア中の1個以上の炭素は、大環状コア中の少なくとも1個の炭素がペンダントドナーで置換されていれば、非置換(例えば、-CH2-)であっても、または置換(例えば、-CHR-または-CHRR-)であってもよい。例えば、それらは、本明細書中に開示される置換基で置換され得る。別の実施形態では、大環状コアが、少なくとも2個のヘテロ原子を含み、その各々は独立してNまたはOであり、それらは少なくとも2個の炭素原子によって互いに隔てられている。
【0063】
いくつかの実施形態において、ペンダント基は、大環状コアに(例えば、窒素に)共有結合される:特に、TACN(I)。
【0064】
大環状化合物の非限定的な例が、以下のスキームVIおよびVIIに示される:
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0065】
いくつかの実施形態において、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換エチルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換エチル基であるスキームIIIの構造6ではない。さらなる実施形態において、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換または置換エチルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換または置換エチルであるスキームIIIの構造6ではない。追加の実施形態において、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換アルキルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換アルキルであるスキームIIIの構造6ではない。さらに別の実施形態では、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換または置換アルキルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換または置換アルキルであるスキームIIIの構造6ではない。
【0066】
特定の実施形態では、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2がスキームIIIの構造7である場合、Z3はスキームIIIの構造7ではない。
【0067】
特定の実施形態では、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルであるスキームIIIの構造8である場合、Z3は、R3が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルではないスキームIIIの構造8ではない。さらなる実施形態では、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が置換アルキルであるスキームIIIの構造8である場合、Z3は、R3が置換アルキルであるスキームIIIの構造8ではない。
【0068】
いくつかの実施形態において、大環状環がスキームIIの構造(II)を有し、Z1およびZ2が、R4が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルであるスキームIIIの構造8である場合、R1は、末端アリール基を有するアルキルではない。追加の実施形態では、大環状環がスキームIIの構造(II)を有し、Z1およびZ2が、R4が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルであるスキームIIIの構造8である場合、R1は置換アルキルではない。
【0069】
特定の実施形態において、Fe(III)は、大環状環と錯体を形成する。他の実施形態では、Fe(III)は大環状環と錯体を形成しない。Fe(III)は、本明細書に示す大環状環と錯体を形成することができる。
【0070】
如何なる特定の理論に拘束されることも意図しないが、Fe(III)に結合する場合、本明細書に記載の大環状環は、3価の鉄(Fe(III))の状態を安定化できると考えられる。例えば生物学的に関連する条件下でFe(III)酸化状態を維持するために、Fe(II)と比較してFe(III)の望ましい結合のために、配位形態が設計される。Fe(III)状態の安定化(E<0mV 対NHE)は、また、錯体のFe(II)状態への還元によって生じる反応性酸素種の生成を抑制する役割を果たす。
【0071】
Fe(III)中心は、生物学的還元剤と反応して反応性酸素種(ROS)を生成しないように、Fe(III)に対して安定化されることが望ましい。このような酸化還元-不活性Fe(III)中心は、NHEに対して負の酸化還元電位を有する。安定化されたFe(III)を生成する大環状コアおよびペンダント基を有する本発明の大環状錯体の例には、1,4,7-トリアザシクロノナン大環状コアおよびFe(III)の結合時に脱プロトン化されるアルコールペンダント基が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
様々な例において、本開示の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して0mV未満の還元電位(E0)を示す。様々な他の例において、本開示の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して、少なくとも-100、少なくとも-150、少なくとも-200、少なくとも-300、少なくとも-400、少なくとも-500、または少なくとも-600mVの還元電位(E0)を示す。様々な他の例では、本開示の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して、0未満、-100より負の、-150より負の、-200より負の、-300より負の、-400より負の、-500より負の、または-600mVより負の、還元電位(E0)を示す。
【0073】
様々な他の例において、本開示の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して、0未満~-600mVの還元電位(E0)を示す。様々な他の例において、本開示の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して、0~-600mVの還元電位(E0)を示す。
【0074】
水のプロトンのT緩和時間の短縮、T緩和性は、内圏水と外圏水の両方によって促進される。つまり、種々の例において、本開示の大環状錯体および化合物は、例えば、酸素または窒素のようなヘテロ原子を介して水に水素結合しうる、1つ以上のペンダントドナー基を含む。このようなペンダントドナー基の非限定的な例は、アルコキシド基に脱プロトン化するペンダントアルコール基、ホスフィネート、およびホスホネートである(第2圏水への水素結合を形成する)。さらに、種々の例において、本開示の大環状化合物および化合物は、水と結合する開放配位部位を含む。これらの水配位子は、例えば、pH電位差滴定によって示されるように、イオン化して、中性pHで水酸化物配位子を形成し得る。水配位子は迅速に交換することが望ましい。迅速な水配位子の交換のエビデンスは、様々な温度での17O NMR分光法研究によって示されている。減少した横緩和時間(T2r)は17O共鳴の線幅の計測により近似される。
【0075】
Fe(III)の配位の化学性質は配位数に依存する。本開示の化合物は、大環状コアの一部でありうるドナー基を有し、これは大環状ドナーとも呼ばれ、ドナー基は大環状コア上の置換基の一部であってもよく、これはペンダントドナーとも呼ばれる。一実施形態では、Fe(III)が本開示の化合物に錯化される場合、4~7個のドナーが金属イオン中心に錯化される。一実施形態では、大環状コアが2~4個のドナーおよび1~4(例えば、2~4)個のペンダントドナーを有することができ、これにはすべての組み合わせが含まれる。種々の実施形態において、2つの大環状ドナーおよび3つのペンダントドナー、2つの大環状ドナーおよび4つのペンダントドナー、3つの大環状ドナーおよび1つのペンダントドナー、3つの大環状ドナーおよび2つのペンダントドナー、3つの大環状ドナーおよび3つのペンダントドナーが存在する。
【0076】
スキームVIIIは、本開示の範囲内である複数の大環状錯体(Fe(III)を伴う)を提示する。
【化11】
【0077】
本明細書で使用される場合、大環状錯体は、Fe(III)と錯体を形成する大環状化合物を指す。大環状錯体のいくつかの実施形態では、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2がスキームIIIの構造5である場合、Z3はスキームIIIの構造5ではない。
【0078】
大環状錯体のいくつかの実施形態では、大環状環がスキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R4が非置換アリールであるスキームIIIの構造8である場合、Z3は、R4が非置換アリールであるスキームIIIの構造8ではない。
【0079】
一実施形態では、本発明の化合物は、芳香族(例えば、アリール)基、大環状環、ポリマー、デンドリマー、タンパク質、ペプチドを介して一緒に繋がれた2つ以上の大環状コアを有することができる
【化12】
【0080】
腫瘍取り込みおよび保持のためには、造影剤を含有する分子のサイズが重要である。さらに、T緩和性の度合いが鉄錯体の数に比例して増加し、また分子のサイズ、より正確には回転相関時間(τc)に伴って増加すると仮定すると、複数の繋がれた大環状錯体の使用は、コントラストを増強させるはずである。τcの増加は、血液タンパク質、特にヒト血清アルブミン(HSA)への結合によって達成することもできる。ある配位子官能基は、ヒト血清アルブミン(HSA)への結合を促進する。典型的には、これらはアニオン性基および芳香族基(例えば、アリール基)を含む。
【0081】
様々な実施形態において、本開示の化合物は、塩、部分塩、水和物、多形体、または立体異性体、または本開示の化合物、またはそれらの混合物である。例えば、化合物は、ラセミ混合物、単一の鏡像異性体、単一のジアステレオマー、またはジアステレオマーの混合物として存在し得る。特定の実施形態では、金属の錯化後、化合物は、NMRによって測定することができるジアステレオマーおよび/または配座異性体の混合物として存在する。ジアステレオマーは、大環状コアの立体配座および大環状コア上の置換基の方向性から生じる。
【0082】
本開示の化合物は、内圏水または水酸化物配位子を有しうる。一実施形態では、化合物は、式1のように緩和性に寄与する1つの内圏配位子(q)を有する。
【数1】
【0083】
式1は、緩和性は結合水(内圏、IS)および第2圏(SS)および(外圏)水からの寄与を有することを示す。式2は、より多くの数の結合水分子および速い配位子交換速度定数(結合水の短い寿命(τm))が有利であることを予測する。特に、緩和性の特性を評価するために用いられるパラメータであるr1は、mM-1-1の単位を有し、造影剤濃度に対するTlobs(s-1)のプロットから得られる。数および滞留時間は明確に定義されていないが、第2圏の水についても同様の関係がある。r1およびr2緩和性(37℃、4.7TでのT1およびT2緩和速度定数から)を、表1にまとめる。
【表1】
【0084】
表1の特定の錯体の構造を、以下に示す。
【化13】
【0085】
特に、本開示の大環状錯体または化合物のT2に対するT1緩和性(r1/r2)の比率は、できるだけ1(一致)に近いことが望ましい。定義によれば、r2すなわち横緩和性は、r1すなわち縦緩和性よりも常に大きい。種々の好ましい例において、本開示のFe(III)造影剤は、例えば表1に示すように、1に近いr1/r2比を与える低いr2を有する。様々な例において、本開示の大環状錯体または化合物は、0.3~1.0のr1/r2比を有する。これらのデータは、例えば、Fe(TOP)のような単核錯体のための開放配位部位を有さない錯体と比較して、例えばFe(TASO)におけるTACN配位子、アルコールペンダントおよび開放配位部位の好適さを示す。(例えば、表1を参照)。しかしながら、ホスホネートおよびホスフィネートなどのペンダント基は、表1のFe(TRAP-Ph)で示されるように、r1を増加する強い第2圏相互作用を有することが予測される。
【0086】
表1は、Fe(III)錯体と水分子との相互作用が、水のプロトンの緩和を増強し得ることを示す。特定の理論に拘束されるものではないが、内圏水とバルク水との交換が、プロトン緩和のための重要なメカニズムであると考えられる。しかしながら、Fe(III)は、Gd(III)よりもはるかに小さい金属イオンである(それぞれ、0.78Å、1.25Å)。Gd(III)と比較したFe(III)の結合水中のより短いM-H距離は、第2圏と内圏との寄与の相対的な効率が、2つの金属イオン錯体について異なりうることを示唆する。
【0087】
関連する水の常磁性緩和(1/T1m)に寄与する3つのメカニズム、すなわちスカラー(コンタクト)寄与、双極子-双極子寄与およびキュリースピン緩和がある。ここで考慮される縦緩和のためのこれらのうちの最も重要なものは、双極子-双極子寄与(1/T1DD)である。1.5T以上の磁場強度では、1/T1DDは式3に示すように定義される。ここで、Sはスピン量子数、ωHはプロトンのLarmor頻度、rMHは金属イオン-プロトン距離、γHはプロトンの磁気回転比、geは電子のg因子、μBはボーア磁子、μoは真空の誘電率である。特に、1/T1DDは、Fe(III)よりもGd(III)に有利に働くより大きな全スピン(S)で増加する(より高い緩和性)。しかし、常磁性Fe(III)中心から水プロトンまでの距離(rMH)がより短いことは、とくに1/r6依存性を考えると、Fe(III)のプロトン緩和に有利である。
【数2】
【0088】
双極子緩和メカニズムの相関時間(τc)は、結合水の寿命(1/τm)、造影剤の回転運動(1/τR)および不対電子の縦緩和(1/T1e)を含む様々なプロセスに影響される。これらの3つのプロセスのいずれもが寄与し得るが、それらの重要性は磁場の強度に依存する。文献の多くは、低磁場強度(<1T)でのこれらのプロセスの重要性に焦点が当てられている。これらの条件下では、回転プロセスまたは電子緩和時間が限られている可能性があり、τmは10nsに近い狭い範囲にあるはずである(kex=108-1)。しかし、より高い磁場強度(≧1.5T)では、最適τmはより大きな範囲(1~100ns)を持ち、回転運動は低分子と蛋白質の間の中間的な値を持つはずであることをシミュレーションは示している。T1e、すなわち電子緩和時間は重要なパラメータである。Fe(III)の長いT1eは、高度の対称性をもつ錯体から生じ、ゼロ磁場分裂をほとんど引き起こさず、電子状態の遅い緩和につながり得る。また、配位圏は、高スピン(S=5/2)に有利であり、低スピンS=1/2Fe(III)に有利ではない必要がある。Fe(TASO)についての規定1H NMRスペクトルの欠損も、水プロトンを効率的に緩和させる高スピンFe(III)と一致する(図6)。5.8の溶液有効磁気モーメントμeffも、S=5/2状態と一致する。
【0089】
金属錯体が結合水を有するかどうかを調べる試験は、温度可変17O NMRデータの収集を含みうる。図8のデータは、広帯域プローブを有するVarian 400MHz NMR分光計を用いて得た。17O同位体は天然の存在量が少ないため、各々の錯体はH2 17Oに富む水溶液に溶解され、NMRで測定したピークがより大きく、したがって視覚的に検出しやすくなるようにした。NMR試験は、種々の温度で行なわれた。Fe(TASO)のための温度範囲は298K~340Kであった。温度に依存する横緩和データが、Scientist for Windows version 3.0を用いた最小二乗適合解析によって、様々な式に適合された。まず、開放配位部位を持つ錯体は、式5aに示されるSwift-Connick方程式に従うことが知られている:
【数3】
ここで、1/T2rは換算された横緩和速度、Pは結合水のモル分率、(Δνobserved-Δνsolvent)は錯体存在の有無によるH2 17O間の線幅の差である。観測される(observed)線幅はNMR分光法を用いて測定することができ、予めPを算出することができるため、それらは前記式において測定可能な量である。さらに、1/τmは、結合水分子の滞留時間であり、T2m -1は、結合水の横緩和速度であり、Δωは、結合水とバルク水との間の化学シフト差である。T2OSは、配位子原子のバルク水への水素結合を考慮したタームである。
【0090】
データが記録、分析された温度範囲で試験された錯体において、T2m -1および1/T2osは無視することができ、Swift-Connick方程式は式5bに縮小される。それに関連して、換算された横緩和速度はしばしば非常に大きいので、式の両側の自然対数を取ることは、式5cに示すように、データのより良好なスケーリングおよびより簡単な表現を可能にする:
【数4】
【0091】
結合水の滞留時間の逆数、および結合水とバルク水との間の化学シフト差は、それぞれ式6aおよび6bによって表される:
【数5】
【0092】
式6aにおいて、kexは配位部位での水交換速度定数であり、結合水滞留時間の逆数である。kbはボルツマン定数、hはプランク定数、Tは絶対温度を表し、ΔSおよびΔHはそれぞれ活性化エントロピーとエンタルピーを表す。式6bにおいて、gLは等エントロピーのランデ因子、μbは磁気モーメント、Sは総スピン状態を表し、Bは適用磁場を表し、(A/h[エイチバー])は超微細結合定数を表す。式6bにおいて、等エントロピーのランデ因子、磁気モーメント、スピン状態、磁場、および超微細結合定数タームが単一パラメータに統合されており、これをデータの処理で解く。この統合は、式6aを単純な逆温度依存性に限定させ、単純化された定数は定数Cによって表される。この方法を用いて、図8に示すように、Fe(TASO)の結合水の交換速度定数が試験された。pH値の範囲にわたる追加の研究は、中性pHでの内圏配位子の欠如を裏付けた(図13)。このデータは、Fe(CDTA)、すなわち結合水を有する錯体、およびFe(DTPA)、すなわち内圏水を欠く錯体を比較し、Fe(TASO)が直接的に結合する内圏水を欠くことを明らかにした。このように、T1緩和性は、第2圏および外圏の水分子によって生じる。
【0093】
本開示の化合物は熱力学的に安定であり、および/または解離に対して速度論的に不活性である。一実施形態では、化合物は、熱力学的に安定であり、また、解離に対して速度論的に不活性である。一実施形態では、本開示の化合物の速度論的不活性が、解離の速度定数を使用して記述されうる。一実施形態において、大環状ドナーおよびペンダントドナーは、1)25mMの炭酸塩、0.40mMのリン酸塩、100mMのNaClの存在下(pH7.2)で、中性のpHで、最大24時間まで、金属中心から顕著に解離しない。
【0094】
一実施形態では、Fe(III)は高スピンS=5/2である。効果的なT1(縦)緩和のためには、常磁性スピン状態が必要である。Fe(III)を高スピン状態に保つために、配位子(または結晶)場分裂は大きすぎてはならない。結晶場分裂が対形成エネルギーよりも大きい場合、低スピン(S=1/2)状態が生じる。Fe(III)は、特にアニオン性酸素または窒素ドナーを含むある範囲の配位子ドナー基で、高スピン常磁性状態に容易に維持される。
【0095】
Fe(III)錯体は3価酸化状態のままであり、過酸化物、スーパーオキシド、アスコルビン酸、またはグルタチオンによって、例えば哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)のような細胞の細胞外の媒体中に存在する濃度で還元されないことが望ましい。通常、NHEに対してゼロmVよりも負(<0mV)の酸化還元電位で十分である。錯体がFe(II)とFe(II)錯体に還元され、錯体がNHEに対して正の酸化還元電位を有する場合、反応性の酸素種が生成されうる。例えば[Fe(EDTA)]は約300mVの酸化還元電位を有し、図7のアッセイで示すようにROSを生成する。
【0096】
本開示の方法における使用のために、本明細書中に記載される化合物または錯体は、医薬調製物として投与され得る。従って、それらは、種々の組成物で提供され得、また1つ以上の薬学的に受容可能な担体と組み合わされ得る。薬学的に許容される担体のいくつかの例は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy(2005) 21st Edition、Philadelphia、PA. Lippincott Williams & Wilkinsに見出すことができる。組成物は液体、溶液、または固体として提供することができ、任意の適切な送達形態またはビヒクルと組み合わせて提供することができ、その例としてはカプレット、カプセル、錠剤、吸入剤またはエアロゾルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
当業者に公知の種々の方法を使用して、本開示の組成物を個体に導入し得る。これらの方法には静脈内、筋肉内、頭蓋内、髄腔内、皮内、皮下、および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、組成物は静脈内に投与される。
【0098】
ある実施形態では、本開示の方法で使用される錯体は、以下の構造を有し得る:
【化14】
【化15】
【0099】
錯体の必要な溶解度は、コントラストを生成する際のそれらの有効性に依存する。良好な緩和性を有するFe(III)T造影剤の場合、錯体は100μ-2mMの溶解度を必要とする。しかし、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)またはメグルミンなどの他の添加剤を使用して、溶解性を増加させ、または緩和性を増加させてもよい。非限定的な例では、4.7テスラで、少なくとも1.5mM-1-1の緩和性を有する造影剤は、インビトロでヒト血清アルブミンに接合した際、良好な緩和性を有すると考えられる。鉄(III)錯体のいくつかへのHSA(35mg/mL)の添加は、表1に示すように、より高いT緩和性を与え得る。しかしながら、試験管内で、中等度の緩和性を有する造影剤(0.6~1.4mM-1-1)は、造影剤が、例えば腎臓または肝臓などの器官と相互作用する場合、生体内で良好なコントラストを生じ得る。溶解度は、一般に、37℃にて、25mM炭酸塩および0.4mMリン酸塩を含む100mMのNaCl中、ほぼ中性pH(6.5~7.5)の水溶液中で測定される。使用される組成物の用量は、本開示の組成物が投与される個体の必要性に必然的に依存する。これらの因子には個体の体重、年齢、性別、および病歴が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。図9および10に示すのは、マウスで行われたインビボMRI試験からのデータである。造影剤であるFe(TASO)が、0.20mLの6.3mMのFe(TASO)として、注入された(10.5mgのHSAまたは2当量のメグルミン)。
【0100】
一局面において、本開示は、本明細書に記載の大環状化合物を使用するイメージング方法を提供する。イメージング方法は、磁気共鳴イメージング方法を使用する。
そのような方法の例には、磁気共鳴画像法(MRI)が含まれるが、これに限定されない。
【0101】
具体的には、Fe(III)と錯体を形成する場合、本開示の大環状化合物は、T1MRI造影剤として使用されうる。これらの錯体は、pHの変化に伴って変化する特性を有し得る。このような特性は、これらの錯体を、例えば癌、脳卒中および心臓疾患のような疾患のより良好な治療的処置を可能にするpHのマッピングのために、有用なものとする。Fe(III)と錯体を形成する場合、大環状環は、T2MRI造影剤としても使用されうる。
【0102】
本開示のイメージング方法は、細胞、組織、器官、血管系(脈管構造)、またはそれらの一部をイメージングするために使用され得る。細胞、組織、器官、血管系は、個体の一部であり得る。「個体」とは、ヒトまたは動物を意味する。一実施形態では、本開示は、細胞、組織、器官、または血管系を本開示の化合物と接触させるステップと、細胞、組織、器官、または血管系の少なくとも一部をイメージングして、細胞、組織、器官、または血管系部分のイメージを取得するステップとを含む、細胞、組織、器官、または血管系の少なくとも一部のイメージを取得する方法を提供する。細胞、組織、または器官の少なくとも一部は、生きていても死んでいてもよい。同様に、個体は生きていても死んでいてもよい。
【0103】
一実施形態では、大環状化合物は、Fe(III)と錯体を形成することができ、およびT1MRI造影剤として使用される。このコントラストは、鉄錯体が蓄積する領域にポジティブコントラストを与えるT1強調イメージングによって生成される。錯体は、バルク水のプロトンのT1緩和時間を減少させる内圏または外圏水の相互作用を伴う生物学的還元条件下において、高スピンFe(III)である。
【0104】
以下の陳述は、本開示の大環状錯体、大環状化合物、およびイメージング方法の非限定的な例を提供する:
陳述1
1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)部分または置換TACN部分(例えば、O-置換TACN部分またはS-置換TACN部分);
TACN部分上の置換基であり、独立して以下のものから選択される、1つまたは複数のアニオン性ペンダント基;
【化16】
ここで、R2は、置換あるいは非置換アルキル基、置換あるいは非置換芳香族基であり、アリール基、あるいは置換エーテルであってもよい;R3は、置換あるいは非置換アルキル、または置換あるいは非置換アリール基であり、R4は、置換アルキル(例えば、ヒドロキシルまたはカルボキシレート基あるいは同様のもので置換された)、または非置換アルキル、または置換あるいは非置換アリール基;およびQ1は、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアリール、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアルキル基、あるいはアニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアラルキル基;および
i)TACN部分または置換TACN部分、およびii)大環状化合物(例えば、TACN部分または置換TACN部分)の少なくとも1つのアニオン性ペンダント基置換基に錯化された高スピンFe(III)カチオン
を含む大環状錯体、またはそれらの塩、部分塩、水和物、多形体、立体異性体。
陳述2
大環状環が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2がスキームIIIの構造5である場合、Z3はスキームIIIの構造5ではない;および/または
大環状環が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R4が非置換アリールであるスキームIIIの構造8である場合、Z3は、R4が非置換アリールであるスキームIIIの構造8ではない、
陳述1に記載の大環状錯体。
陳述3
1つまたは複数のペンダント基の少なくとも1つあるいは全てが、TACN部分上の窒素原子に共有結合している、陳述1または2に記載の大環状錯体。
陳述4
大環状錯体が、少なくとも1つの開放配位部位を有する、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体。
陳述5
大環状錯体が、高スピンFe(III)カチオンに錯化された少なくとも1つの水および/または少なくとも1つの水酸化物を有する、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体。
陳述6
ペンダント基の少なくとも1つが、ベンジル位にて置換されているか、または該ペンダント基のヘテロ原子につながるアルキル基の任意の炭素にて置換されている、
、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体。
陳述7
大環状錯体が、さらに、1つまたは複数の補助基(例えば、1つまたは複数の配位ペンダント基、1つまたは複数の非配位ペンダント基、またはそれらの組み合わせ)を含む、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体。
陳述8
配位ペンダント基または非配位ペンダント基が、以下の構造を有する、陳述7に記載の大環状錯体:
【化17】
ここで、AおよびA‘は、それぞれ独立して、直鎖または分岐構造の置換あるいは非置換のC1~C12アルキル基、またはプロトンであり、Q1はアニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアリール、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアルキル基、または、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアラルキル基であり、ここで、AまたはA‘の少なくとも1つは、アニオン性基(例えば、アミノ酸、特にグリシン、セリン、またはアスパラギン酸)で置換されたアルキル基である。アミノホスフィン酸およびホスフェートエステルが好ましい。一例では、O1はアラルキルであり、該アラルキル基のアルキル部はメチル(C1)である。
陳述9
大環状錯体が、
から選択される2つのペンダントを含むTACN部分、
から選択されるものを含むTACN部分
を含む、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体。
陳述10
TACN部分が、以下の構造の1つを有する、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体:
【化20】
ここで、X1、X2、X3はNであり;
1はOまたはSであり;
1、Y2、Y3はそれぞれ独立に、
i)Oを含むペンダントドナーであって、ここでOは少なくとも1つの孤立電子対を有するが、好ましくは2つまたは3つの孤立電子対を有する(例えば、ケトン、アルコール、アルコキシド、フェノールもしくはフェノキシド、スルホン酸、ホスフィン酸、またはホスホン酸、あるいはそれらの脱プロトン形態、例えばアルコキシドまたはフェノキシドなどの酸化物など);または
ii)Nを含むペンダントドナーであって、ここでNは少なくとも1つの孤立電子対を有する(例えば、トリアゾール);
1、m2、m3は、それぞれ独立に1、2、または3であり;
1、n2、n3はそれぞれ独立に1または2または3であり;
1は置換あるいは非置換アリール、置換あるいは非置換複素環基、または置換あるいは非置換アルキルであり、ここでアルキル-Y鎖(アルキル-Y1、アルキル-Y2、および/またはアルキル-Y3)のアルキルセグメントはそれぞれ独立して置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
陳述11
TACN部分またはO-置換TACN部分が、以下の構造を有する、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体:
【化21】
ここで、R1は、置換あるいは非置換アリール、置換あるいは非置換ヘテロアリール、または置換あるいは非置換アルキルであり、およびZ1、Z2、Z3は、独立してアニオン性ペンダントである。
陳述12
大環状環が構造Iを有する場合、Z1はHあるいはスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z2およびZ3は、それぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つである;および/または
大環状環が構造IIまたはIIIを有する場合、Z1およびZ2は、それぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つである;および/または
すべての構造I~IIIについて、Z1、Z2、Z3のそれぞれが適用できる場合は、独立して選択される
陳述11に記載の大環状錯体。
陳述13
TACN部分が以下の構造の1つを有する、前記陳述のいずれか1つに記載の大環状錯体。
【化22】
【化23】
陳述14
大環状錯体が以下の構造の1つを有する、陳述1~13のいずれか1つに記載の大環状錯体。
【化24】
【化25】
陳述15
化合物またはポリマーであって、
リンカー基またはポリマー、デンドリマー、タンパク質またはペプチドに共有結合された1つ以上の大環状錯体基を含み、前記ポリマー、前記デンドリマー、前記タンパク質または前記ペプチドに共有結合された1つ以上のペンダント大環状錯体基を含み、
ここで、個々の大環状錯体基の各々が、陳述1~14のいずれか1つに記載の大環状錯体に由来する、化合物またはポリマー。
陳述16
前記化合物が以下の構造を含む、陳述15に記載の化合物またはポリマー。
【化26】
陳述17
前記化合物が、以下の構造を有する、陳述15に記載の化合物またはポリマー。
【化27】
陳述18
陳述1~14のいずれか1つに記載の1つ以上の大環状化合物、および/または陳述15~17のいずれか1つに記載の1つ以上の化合物またはポリマー、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
陳述19
前記組成物が、ヒト血清アルブミンおよび/またはメグルミンをさらに含む、陳述18に記載の組成物。
陳述20
細胞、器官、血管系、または組織の少なくとも一部のイメージを取得する方法であって、
細胞、器官、血管系、または組織(またはその一部)を、陳述1~14のいずれか1つに記載の1つ以上の大環状化合物、および/または陳述15~17のいずれか1つに記載の1つ以上の化合物、および/または陳述18~19のいずれか1つに記載の1つ以上の組成物、および/またはFe(NOTP)および/またはFe(TRAP-Ph)と接触させること、および、
細胞、器官、血管系、または組織の少なくとも一部をイメージングして、細胞、器官、血管系、または組織の一部のイメージを取得することを含み、
当該イメージは、磁気共鳴を使用することによって取得される、方法。
陳述21
細胞、器官、血管系、または組織が個体の一部である、陳述20に記載の方法。
陳述22
磁気共鳴画像法(MRI)を用いてイメージを取得する、陳述20または21に記載の方法。
陳述23
前記大環状化合物および/または化合物が、T剤(単数または複数)である、陳述20~22のいずれか1つに記載の方法。
陳述24
1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)部分、またはO-置換TACN部分;
及び
TACN部分上の置換基であり、独立して以下のものから選択される、1つまたは複数のアニオン性ペンダント基;
【化16】
ここで、R2は、置換あるいは非置換アルキル基、置換あるいは非置換芳香族基であり、アリール基、あるいは置換エーテルであってもよい;R3は、置換あるいは非置換アルキル、または置換あるいは非置換アリール基であり、R4は、置換アルキル(例えば、ヒドロキシルまたはカルボキシレート基あるいは同様のもので置換された)、または非置換アルキル、または置換あるいは非置換アリール基;およびQ1は、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアリール、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアルキル基、あるいはアニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアラルキル基;
を含む大環状化合物、またはそれらの塩、部分塩、水和物、多形体、あるいは立体異性体。
陳述25
大環状化合物が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換エチルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換エチル基であるスキームIIIの構造6ではない;および/または
大環状化合物が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換あるいは置換エチルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換あるいは置換エチル基であるスキームIIIの構造6ではない、および/または
大環状環が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換アルキルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換アルキルであるスキームIIIの構造6ではない、および/または
大環状環が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が非置換あるいは置換アルキルであるスキームIIIの構造6である場合、Z3は、R3が非置換あるいは置換アルキルであるスキームIIIの構造6ではない、および/または
大環状環が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、スキームIIIの構造7である場合、Z3は、スキームIIIの構造7ではない;および/または
大環状環が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルであるスキームIIIの構造8である場合、Z3は、R3が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルではないスキームIIIの構造8ではない、および/または
大環状環が、スキームIIの構造(I)を有し、Z1およびZ2が、R3が置換アルキルであるスキームIIIの構造8である場合、Z3は、R3が置換アルキルであるスキームIIIの構造8ではない、および/または
大環状環が、スキームIIの構造(II)を有し、Z1およびZ2が、R4が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルであるスキームIIIの構造8である場合、R1は、末端アリール基を有するアルキルではない、および/または
大環状環が、スキームIIの構造(II)を有し、Z1およびZ2が、R4が末端ヒドロキシル置換を有するアルキルであるスキームIIIの構造8である場合、R1は、置換アルキルではない、
陳述24に記載の大環状化合物。
陳述26
1つまたは複数のペンダント基の少なくとも1つあるいは全てが、TACN部分上のNに共有結合している、陳述24または25に記載の大環状化合物。
陳述27
ペンダント基の少なくとも1つが、ベンジル位にて置換されているか、または該ペンダント基のヘテロ原子につながるアルキル基の任意の炭素にて置換されている、
、陳述24~26のいずれか1つに記載の大環状化合物。
陳述28
大環状環が、さらに、1つまたは複数の補助基(例えば、1つまたは複数の配位ペンダント基、1つまたは複数の非配位ペンダント基、またはそれらの組み合わせ)を含む、陳述24~27のいずれか1つに記載の大環状化合物。
陳述29
陳述28に記載の大環状化合物:
【化17】
ここで、AおよびA‘は、それぞれ独立して、直鎖または分岐構造の置換あるいは非置換のC1~C12アルキル基、またはプロトンであり、Q1はアニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアリール、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアルキル基、または、アニオン性基(例えば、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、ホスフェートエステル、またはホスフィネートなど)で置換されたアラルキル基であり、ここで、AまたはA‘の少なくとも1つは、アニオン性基(例えば、アミノ酸、特にグリシン、セリン、またはアスパラギン酸)で置換されたアルキル基である。アミノホスフィン酸およびホスフェートエステルが好ましい。一例では、O1はアラルキルであり、該アラルキル基のアルキル部はメチル(C1)である。
陳述30
大環状環が、以下の構造の1つを有する、陳述24~29のいずれか1つに記載の大環状化合物:
【化20】
ここで、X1、X2、X3はNであり;
1はOまたはSであり;
1、Y2、Y3はそれぞれ独立に、
i)Oを含むペンダントドナーであって、ここでOは少なくとも1つの孤立電子対を有するが、好ましくは2つまたは3つの孤立電子対を有する(例えば、ケトン、アルコール、アルコキシド、フェノールもしくはフェノキシド、スルホン酸、ホスフィン酸、またはホスホン酸、あるいはそれらの脱プロトン形態、例えばアルコキシドまたはフェノキシドなどの酸化物など);または
ii)Nを含むペンダントドナーであって、ここでNは少なくとも1つの孤立電子対を有する(例えば、トリアゾール);
1、m2、m3は、それぞれ独立に1、2、または3であり;
1、n2、n3はそれぞれ独立に1または2または3であり;
1は置換あるいは非置換アリール、置換あるいは非置換複素環基、または置換あるいは非置換アルキルであり、ここでアルキル-Y鎖(アルキル-Y1、アルキル-Y2、および/またはアルキル-Y3)のアルキルセグメントはそれぞれ独立して置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
陳述31
大環状環が、以下の構造を有する、陳述24~30のいずれか1つに記載の大環状化合物:
【化21】
ここで、R1は、置換あるいは非置換アリール、置換あるいは非置換ヘテロアリール、または置換あるいは非置換アルキルであり、およびZ1、Z2、Z3は、独立してアニオン性ペンダントであり、
ここで、大環状環が構造Iを有する場合、Z1はHあるいはスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z2およびZ3は、それぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つである;または
大環状環が構造IIまたはIIIを有する場合、Z1およびZ2は、それぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つである;および
すべての構造I~IIIについて、Z1、Z2、Z3のそれぞれが適用できる場合は、独立して選択される
陳述32
大環状環が、以下の構造を有する、陳述24~31のいずれか1つに記載の大環状化合物:
【化28】
【化29】
【0105】
本出願では、単数形の使用は複数形を包含し、その逆も同様である。
【0106】
本開示の大環状化合物は、例えば、実験の詳細に記載されるように調製され得る。以下の実施例は、本開示を例示するために提示される。それらは、いかなる方法においても限定を意図するものではない。当業者は、本開示の範囲内にあることが意図されるこれらの実施形態に対する慣例的な変更修正がなされ得ることを認識するだろう。
【0107】
本明細書に開示される様々な実施形態および実施例に記載される方法のステップは、本開示の方法を実行するのに十分である。したがって、一実施形態では、方法は本質的に、本明細書に開示される方法のステップの組合せからなる。別の実施形態では、方法は、そのようなステップのみからなる。
【0108】
実験の詳細
計測手段
FTS Systems TC-84 Kinetics Air Jet Temperature Controllerを備えたVarian Inova 500 MHz NMR分光計を使用して、1H NMRデータを収集した。13C NMRスペクトルは、75MHzで動作するVarian Mercury 300 MHz NMR分光計を使用して取得した。17O NMRスペクトルは、54.24MHzの共鳴振動数で作動する5mm広帯域プローブを備えたVarian Inova 400 MHz分光計で記録した。全てのpH測定は、702 SM Titrino pHに接続されたOrion 8115BNUWP Ross Ultra Semi Micro pH電極を使用することによって得られた。Surveyor HPLCシステムを備えたThermoFinnigan LCQ Advantage IonTrap LC/MSを使用して、質量スペクトルデータを収集した。ペルチェ温度コントローラーを備えたBeckman-Coulter DU 800 UV-vis分光光度計を用いて吸光度スペクトルを収集した。1%のH2 17Oを含む水中で試料を調製した。化学シフトと対称水ピークの半値線幅を、種々の温度およびpH6にて、金属錯体の存在下および非存在下で測定した。可変温度で金属錯体の存在下及び非存在下のシグナル半値線幅を用いて、Swift-Connick方程式(式5~6)を用いて横緩和時間を計算した。全てのフィットは、測定データの同時最小二乗フィットに由来する。
【0109】
TASO
ガス流入口および撹拌棒を有する25mL丸底フラスコに、4mLトルエン・1mLクロロホルム溶液中の0.100gのTACN(1,4,7-トリアザシクロノナン)(0.774mmol)を添加した。0.0920gのN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(0.774mmol)をフラスコに添加した。溶液を室温で24時間撹拌した。1,4,7-トリアザトリシクロ[5.2.1.04,10]デカン(TACN-オルトアミド)のESI-MS(m/z)、計算値:140.1[M+H+](100%)。フラスコを回転蒸発器上に置くことによって、溶液を乾燥させた。乾燥したTACN-オルトアミドおよび15mLの乾燥テトラヒドロフラン(THF)を、磁気撹拌棒、還流冷却器、ガス注入管および添加漏斗を備えた50mLの3つ口丸底フラスコに添加した。92.2μLの臭化ベンジル(0.774mmol)をフラスコに加え、溶液を室温で一晩撹拌した。白-ベージュ色の沈殿を吸引濾過法によって回収し、乾燥THF(10mL)およびジエチルエーテル(10mL)で洗浄した。7mLのメタノールおよび7mLの12M HClを、脱保護処理のためにフラスコ中の沈殿物に添加した。溶液を4時間加熱還流した。溶液を室温に冷却した後、NaOHペレットを添加して、溶液のpHを8にした。次に、溶液を濾過してNaCl塩沈殿物を除去し、クロロホルムで抽出した(3×60mL)。ESI-MS(m/z)、計算値: 220.3[M+H+](100%)。溶液を回転蒸発させ、0.225gのS-プロピレンオキシド(3.870mmol)を含む25mL丸底フラスコ中の15mLエタノールに溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を回転蒸発させ、Schlenkライン上で真空下で乾燥させ、10mLのメタノールに溶解した。%ESI-MS(m/z)、計算値:336.3[M+H+](100%)。ベンジル脱保護は、Pd/C(10%)触媒によって行った。5mLのメタノールおよび1mLの水中の30mgのPd/C(10%)を、配位子溶液に添加した。アルゴンガス下で30分間、溶液から空気を除去した。水素雰囲気下、室温で激しく撹拌しながら、触媒水素化を3日間行った。混合物をセライトで濾過して、反応溶液から触媒を除去し、(1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル)ビス(プロパン-2-オール)(DACO配位子)を得た。ESI-MS(m/z)、計算値:246.3[M+H+](100%)。フラスコを回転蒸発器上に置くことによって、溶液を乾燥させた。DACO配位子を、25mL丸底フラスコ中の15mLアセトニトリルに溶解した。3mLアセトニトリル中の1当量の1,3-プロパンスルトン、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)をフラスコに加えた。溶液を還流下で3日間撹拌した。溶液を回転蒸発させ、Schlenkライン上で真空下で乾燥させた。MeOH/DCM溶媒を用いた塩基性アルミナカラムにより精製プロセスを行った。収率は37%と計算された。ESI-MS(m/z)(0.1%ギ酸法)、計算値:368.3[M+H+](100%)および390.3[M+Na+](27%)。
【0110】
Fe(TASO)(例えば、図1を参照のこと)
撹拌棒付きの25mL丸底フラスコに、TASO配位子(0.0589g、0.160mmol)および8mLのエタノールを添加した。次いで、FeCl・4HO(0.0318g、0.160mmol)をエタノール2mlに溶解し、フラスコに加えた。溶液を室温で2日間撹拌した。黄色の沈殿物が得られた。遠心分離により沈殿物を得て、ジエチルエーテルで3回洗浄した。回転蒸発器により溶媒を除去することによって、黄色粉末を得た。ESI-MS(m/z)、計算値:421.1[M+H+](100%)及び443.2[M+Na+](55%)。ここで、Mは中性型のFe(TASO)である。Fe(TASO)の磁化率は、Evans法を使用して水溶液中で測定し、5.67μeffである。
【0111】
NOTPMe(例えば、図4を参照のこと)
1,4,7-トリアザシクロノナン(3.1mmol)を2口フラスコに加えた。パラホルムアルデヒド(15.4mmol、5当量)および亜リン酸トリエチル(31mmol、10当量)をアルゴン雰囲気下で添加した。反応物を60℃で12時間撹拌した。過剰の反応物を減圧下で除去した。得られた物質(ヘキサエチル((1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)トリス(メチレン))トリス(ホスホネート))0.50gを、2.5mLのH2Oを含有するフラスコ中に秤量した。1.25gの水酸化ナトリウムペレットを添加し、混合物を全ての水酸化ナトリウムが溶解するまで撹拌した。溶解したら、混合物を15分間還流し、その後フラスコを装置から取り出し、取り出した直後に3mLのH2Oを添加し、次いで室温に冷却した。室温に達した後、フラスコを氷中でさらに15分間冷却し、その間に結晶が形成し始めた。溶媒を除去し、次いで結晶を水、およびエタノールとエチルエーテルの1:1混合物で洗浄した。ESI-MS:494[M-H+]、516[M+Na+]。ここで、Mは中性配位子(NOTPMe)である。
【0112】
TRAP-H合成(例えば、図3を参照のこと)
トリアザシクロノナン(500mg、3.87mmol)およびパラホルムアルデヒド(527mg、17.5mmol)を、水(18.75mL)中の次亜リン酸(50重量%水溶液2.5mL、23.2mmol)に溶解し、室温で48時間撹拌した。反応混合物を、40℃未満に穏やかに加熱しながら真空下で蒸発させた。得られた油状物を、強カチオン交換体、DOWEX 50H+フォームで、水溶出を用いて精製した。純粋な配位子を含有する画分(LCQでESI質量分析によって確認された)を合わせ、溶媒を40℃未満で穏やかに加熱しながら除去して、透明な油状物(492mg、35%)を得た。MS(ESI、ポジティブ): m/z 364[(TRAP-H)+H+]。
【0113】
TRAP-Ph合成(例えば、図2を参照のこと)
1,4,7-トリアザシクロノナン(0.30mmol)を2口フラスコに加え、これをアルゴン雰囲気下で還流装置に取り付けた。次いで、ジメチルフェニルホスホナイト(1.35mmol、4.5当量)およびパラホルムアルデヒド(1.8mmol、6当量)を、15mLの乾燥テトラヒドロフランを含むフラスコに添加した。溶液を16時間還流させた。次いで、過剰の溶媒を減圧下で除去した。ESI-MS:634[M+H+]。
【0114】
次いで、得られたTRAP-Ph-メトキシを、4mLの50%w/v炭酸塩フリー水酸化ナトリウムと共に、二重の次のフラスコに移した。フラスコを還流装置に取り付け、30分間還流させた。蒸留水4mLを加え、溶液をさらに30分間還流させた。2回目の還流後、還流装置を取り外し、2層系が再編成されるまで溶媒を蒸発させた。次いで、フラスコを熱源から外し、室温まで冷却させた。上澄み油を除去し、エタノールに溶解した。エタノールを蒸発させて、TRAP-Phを残した。得られた生成物を、メタノール中での再結晶、続いてアセトン、次いでジクロロメタンによって精製した。ESI-MS:590[M+H+]。ここで、Mは中性形態のTRAP-pHである。
【0115】
Fe(TRAP-Ph)(例えば、図2を参照のこと)
TRAP-Phを1当量の0.01M硝酸鉄(III)とメタノール中で混合することによって、TRAP-Phを鉄と錯体化した。溶液を室温で4日間撹拌した。次いで、メタノールを蒸発させて、結果物である生成物を得た。ESI-MS:645、667[M+Na+]。
【0116】
1,4,7-トリアザシクロノナン(0.15mmol)を2口フラスコ中で測定し、還流装置上にセットアップした。亜リン酸(0.9mmol、6当量)を、0.35mLの塩酸および1.0mLの蒸留水と共にフラスコにさらに添加した。この溶液を還流させてすぐ、パラホルムアルデヒド(0.675mmol、4.5当量)を1時間かけて溶液に加えた。パラホルムアルデヒドの添加が完了した後、溶液をさらに1時間還流させた。溶液を室温まで冷却し、次いで氷浴中でエタノールにゆっくりと滴下した。全ての溶液を添加した後、混合物をさらに1時間撹拌し、その後、固体を収集し、エーテルおよびエタノールで洗浄した。この固体を少量の熱水中で再結晶して、純粋なNOTPを白色固体として得た。ネガティブモードのESI-MS:410.2[M-H+]。ここで、Mは中性のNOTPである。
【0117】
NOTPを、1当量の0.01M臭化鉄(II)水溶液と合わせることによって、NOTPを鉄に錯体化した。溶液を室温で4日間撹拌した後、水を蒸発させた。ESI-MS(ネガティブモード):465[M-H+]。ここで、Mは中性形態のFe(NOTP)である。
【0118】
DRAP-Hの合成(例えば、図3を参照のこと)
1-ベンジル-1,4,7-トリアザシクロノナンジヒドロブロミド(1.0g、2.64mmol)およびパラホルムアルデヒド(0.24g、7.92mmol)を、50%水性H3PO2(1.3mL、11.9mmol)および水(5mL)の混合物に溶解した。反応混合物を室温で24時間撹拌し、次いで水で3回共蒸発させ、強カチオン交換体(DOWEX50、H+-フォーム)上でクロマトグラフィーにかけた。カラムを脱イオン水で洗浄し、次いで、NaCl勾配(5重量%~10重量%)を増加させて、ベンジルTRAP-H(MSによってモニター)を有する画分を収集した。溶出液を蒸発させて、淡褐色の油状物を得た。1H NMR(300MHz、D2O):δ=3.02-3.52(m、環-CH2、12H及びN-CH2-P、4H)、4.35(s、N-CH2-C65、2H)、7.30-7.50(m、-C65、5H)。MS(ESI、ポジティブ):m/z=376[M+H+]。ここで、Mは中性配位子である。
【0119】
DRAP-OHの合成(図3)
DRAP-Hを6M HCl(20mL)に溶解した。パラホルムアルデヒド(0.24g、7.92mmol)を添加し、溶液を5時間還流し(MSでモニター)、次いで蒸発させて、粗ベンジルDRAP-OHを得た。MS(ESI、ポジティブ):m/z]=436[M+H+]である。Mは中性配位子である。Fe(NO3)3・9H2OおよびベンジルDRAP-OHを1:1の比率で、10mlの脱イオン水に溶解し、4日間撹拌した(MSを用いてモニター)。MS(ESI、ポジティブ):m/z=489[M+]。ここで、Mは中性Fe(III)錯体である。
【0120】
「クリックド(clicked)」トリアゾールペンダントの一般的方法および大環状環へのその付加(例えば、図5参照)
2当量のアジ化ナトリウムを、適当な大きさの丸底フラスコを用いて、ブロモ/クロロ試薬のメタノール溶液に添加した。溶液を60℃に加熱し、4時間撹拌した。次の反応工程は、先の生成物の単離または精製なしに行った。1.1当量のプロパルギルアルコールを、先の反応から得た撹拌溶液に添加した。別のフラスコ中で、0.1当量の硫酸銅六水和物および0.2当量のアスコルビン酸ナトリウム(2mLの水中)を合わせた。混合物を1分間撹拌し、次いで前の反応フラスコに加えた。反応混合物を60℃で8~12時間、または完了するまで撹拌した(TLCでモニター)。反応混合物を、乾燥するまで蒸発させ、水を加え、生成物をEtOAc(3x)で抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。EtOAcを真空下で除去して、粗生成物を得た。精製は、EtOAc/DCM溶液中0℃での再結晶またはシリカゲル(ヘキサン中25~50%EtOAc)上で行った。ESI-MS(m/z):262.3(生成物1)、186.2(生成物2)、3当量のPBr3を、Ar(g)下で、先の生成物のDCM溶液に添加した。12時間後、反応物を水でクエンチし、生成物をDCMで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。DCMを真空下で除去して、粗生成物を得た。精製は、EtOAC/DCM溶液中0℃での再結晶、またはシリカゲル(ヘキサン中25~50%EtOAc)上で行った。ESI-MS(m/z):323.1/325.1(生成物1)、247.1/249.1(生成物2)。
【0121】
出発試薬をアセトニトリルに溶解し、1.5当量のDIPEAを添加した。8時間または完了するまで撹拌(ESI-MSでモニター)。溶媒を真空下で除去し、粗生成物を塩基性アルミナ(DCM中1~10%MeOH)で精製した。ESI-MS(m/z):489.6(生成物1)、413.5(生成物2)
【0122】
前の反応からの配位子をエタノールに溶解し、水に溶解した2当量のKOHを添加した。約4時間または完了するまで撹拌(ESI-MSによりモニター)。溶媒を真空下で除去した。等量の1M HClおよびDCMを添加した。生成物をDCM(3×)で抽出し、層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
【0123】
配位子をエタノールに溶解し、60℃で攪拌しながら1当量のFeCl2を添加した。メタル化の完了後(ESI-MSによってモニター)、生成物が沈殿するまでジエチルエーテルを添加した。生成物を濾過し、ジエチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させた。
【0124】
ICP-MS 鉄濃度は、Thermo X-Series 2 ICP-MSを用いて測定した。全ての試料を、2%硝酸で希釈し(1μM)合計10mLの水溶液とし、24時間加熱(90℃)することによって分解した。定量化のために、0.1ppb~250ppbの範囲の鉄金属の線形較正曲線を毎日作成した。試料を4日間にわたって硝酸中で分解し、鉄濃度を測定した。
【0125】
磁気モーメント
Evans法を用いて磁気モーメント試験のための試料を、D2O中5%t-ブタノールの反磁性標準を含む同軸NMRインサートを用いて調製した。外側の5mm NMR管は、5%t-ブタノールの存在下で、4mM、8mM、40mM、および70mMの固定濃度を有する5mM常磁性錯体を含有した。有効磁気モーメント(μeff,BM)が、298K(T)で、小分子に対する修正Evans法を用いて計算された。
【0126】
ファントムMRイメージングのための試料の調製:
ファントムイメージング実験のための試料は、50~500μMの錯体、20mMのHEPESおよび100mMのNaClを含有した。ヒト血清アルブミン(HSA)を含有する試料については、35mgのHSAをこれらの溶液に添加した。全溶液のpHを7.0に調整した。
【0127】
4.7Tでのファントム(インビトロ)イメージング
MRI取得は、AVANCEデジタルエレクトロニクス(Bruker BioSpec platform with ParaVision v 3.0.2 acquisition software、Bruker Medical、Billerica、MA)を組み込んだGeneral Electric 4.7T/33 cm 水平ボア磁石(GE NMR instruments、Fremont、CA)を用いて実施された。各錯体は、100mM NaCl(pH 7.4)中のHEPESで0.05mM~400mMの範囲の濃度に希釈し、25℃でイメージングした。T緩和速度(r1)は、飽和回復、スピンエコー(SE)シーケンス(固定エコー時間[TE])、10msおよび75~8000msの範囲の反復時間[TR]を用いる)を利用して得た。市販の画像処理ソフトウェア(Analyze 7.0、AnalyzeDirect、Overland、KS)を用いて、関心領域(ROI)内の平均強度をとることによって、各反復時間におけるシグナル強度をサンプリングし、Matlab's Curve Fitting Toolbox(Matlab 7.0、MathWorks Inc、Natick、MA)を用いて、式の非線形フィッティングによって、r1およびSMAXを計算した。次いで、化合物のモル濃度-対-r1の勾配を、データの線形回帰フィッティングによって得ることによって、それぞれの錯体についてのT1緩和性を決定した。同様に、T2緩和率(R2)を、多重エコー、Carr-Purcell-Meiboom Gill(CPMG)SEシークエンスを用いて、2500msの固定TRと15~300msのTE時間を用いて取得した。次に、R2およびSMAXは上記のように式を用いて計算した。前記のように、T2緩和性は、データの線形回帰フィッティングを介して、濃度-対-r2の勾配を得ることによって決定された。
【0128】
マウスにおけるインビボイメージング
マウスモデル(BABC/cJ、Jackson Laboratory)において、4.7 T Bruker前臨床MRIで、in vivoでのコントラストの増強に対するFe(III)錯体の有効性を試験した。シグナルの標準化のためのイメージングセッションのために、密封されたファントムが含められた。造影剤の投与前に、増強のベースライン値として役立つようにスキャンが取得された。2つのスキャン・プロトコルが用いられた:(1)シグナルの増強を測定するために、T加重、3D、マウスの胸郭から尾をカバーするスポイルドグラジエントエコー・スキャン、(2)血液(下大静脈)、腎臓、肝臓、胆嚢および背筋におけるT速度を測定するための反転回復、定常状態フリープレセッションスキャン(IR-SSFP)。化合物を、50~200μmol[Fe]/kgの用量で尾静脈を介して静脈内注射し、そしてMRデータを、注射後1時間まで連続的に取得して、分布およびクリアランス動態を試験した。すなわち、0.2mLの6mMストック溶液、0.05mmol/kg、0.100mmol/kg又は0.200mmol/kgをマウスに注射した。胆道系によるより遅いクリアランス速度を特定するために、注射後3時間および6時間でさらなるスキャンを取得した。FDA承認のMRI造影剤:ガドペンテテートジメグルミン(Gd-DTPA、Magnevist[登録商標])またはDotarem(Gd(DOTA))を、比較のために50μmol[Gd]/kgでマウスの別個のコホートに注射した。データを図17および18に示す。SPGRデータセットについて、シグナル強度をファントムに正規化し、各器官についてのシグナル増強、ならびに背筋と比較したコントラスト-対-ノイズ比の増強を測定した。Fe(III)濃度は、T速度の増大を計算し、インビトロで測定した化合物の緩和値で割ることによって、推定した。
【0129】
NOTP合成スキーム
【化30】
【0130】
NOTP鉄錯体形成
【化31】
【0131】
図11は、本開示の大環状錯体の実施例に関する緩和性データを示す。Fe-NOTPは、0.66±0.01mM-1-1のr1を示し、HSA有りのFe-NOTPは、1.04±0.06mM-1-1のr1を示した。
【0132】
NOTPは、文献に見られるものと同様の手順を用いて合成した。オフホワイトの沈殿物を真空濾過により回収し、次いで、純粋な白色固体が形成されるまで、50:50の熱水:エタノール混合物から複数回再結晶した。MS(ESIネガティブモード) m/z:410.2(M-H+). 1H NMR(D2O) 3.19(6H、ダブレット、J 11.30) 3.42(12H、シングレット). 31P NMR(D2O) 11.95. 13C NMR(D2O) 51.02(6C、シングレット) 53.03(3C、ダブレット、J 141.61).
【0133】
精製したNOTP配位子(0.33mmol)を水酸化ナトリウム(1.01mmol、3当量)と共に水(20mL)に溶解した。この溶液を55℃に5分間加熱した。5分後、FeBr2(0.33ミリモル、1当量)の水溶液(10ml)を、加熱溶液に加えた。合わせた溶液をさらに1時間加熱した。室温に冷却した後、溶媒を減圧下で蒸発させ、黄色の油状物を得た。黄色油状物を水(2mL)に溶解し、エタノール(20mL)を加えて黄色固体を沈殿させた。固体を集め、乾燥した。MS(ESIネガティブモード) m/z:463.2(M-H+)。ここで、Mは中性Fe(NOTP)錯体である。μeff 5.85±0.14 ICP-MS純度:95% Fe-NOTPの対数Pオクタノール水:-2.02±0.30
【0134】
DAPOの合成
DAPOは、以下のようにして合成された。
【化32】
1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル-ビス(プロパン-2-オール)を以前に公表されたように合成した。1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル-ビス(プロパン-2-オール)(0.301mmol)を、500μLの3.3M HCl溶液に溶解した。この溶液に亜リン酸(1.80mmol、6当量)を加え、混合物を還流に設定した。還流に達したら、パラホルムアルデヒド(1.35mmol、4.5当量)を1時間かけて添加し、その後、溶液をさらに24時間還流させた。
【0135】
TRAP-POPの合成
TRAP-POPは、以下のようにして合成された。
【化33】
ジ-tert-ブチル-1,4,7-トリアザシクロナン-1,4-ジカルボキシレートを文献に公表されているように合成した。0.566mmolを、亜リン酸(1.98mmol、3.5当量)と共に1.1mLの3.3M HClに溶解した。この溶液を還流に設定し、還流に達したら、パラホルムアルデヒド(1.13mmol、3当量)を1時間かけて添加した。全てのパラホルムアルデヒドを添加したら、溶液をさらに1時間還流させた。MS-ESI:224.1[M+H+]。工程1からの生成物(1.52mmol)を30mLのMeOHに溶解し、アルゴンを用いて不活性雰囲気を作った。ジメチルフェニルホスホナイト(3.04mmol、2当量)およびパラホルムアルデヒド(1.52mmol、1当量)を加え、溶液を室温で16時間撹拌した。溶媒を減圧下に除去した。MS-ESI(ネガティブモード):557.7[M-H+]。ここで、Mは中性配位子である。
【0136】
NOTPMeの合成
NOTPMeは、以下のようにして合成された。
【化34】
合成は、文献で報告されているように行われた。
ESI-MS:494[M+H+]、516[M+Na+] ここで、Mは中性配位子である。
【0137】
PhOTOの合成
TPhOTOは、以下のようにして合成された。
【化35】
PhOTO-メトキシは、TACN-ベンジル(0.74mmol)を30mLのメタノールに溶解することによって合成した。ジメチルフェニルホスホナイト(3.68mmol、5当量)を、パラホルムアルデヒド(2.94mmol、4当量)と共に溶液に添加した。この溶液を不活性雰囲気下で16時間還流した後、溶媒を減圧下で除去した。MS(ESI)+ m/z:556.2(M+H+) ここで、Mは中性配位子である。乾燥したPhOTO-メトキシを4mLの30%w/v炭酸塩フリー水酸化ナトリウムに溶解した。この溶液を激しく撹拌しながら30分間還流させ、その時点で4mLの炭酸塩フリーの水を添加した。水を添加した後、溶液をさらに30分間還流した。第2の還流の最後で、溶液を加熱して、二相系が現れるまで溶媒体積を減少させた。フラスコを室温まで冷却した。上層(油)を集め、エタノールに溶解し、次いで蒸発乾固させた。MS(ESI)- m/z:526.4(M-H+)。ここで、Mは中性配位子である。
【0138】
TOPAの合成
TOPAは、以下のようにして合成された。
【化36】
1-ベンジル-1,4,7-トリアザシクロノナンを、以前に公表された手順に従って合成した。1-ベンジル-1,4,7-トリアザシクロノナン(0.576mmol)を2口フラスコ中で測定し、還流装置にセットアップした。亜リン酸(6.91mmol、12当量)を、0.200mLの臭化水素酸および0.538mLの蒸留水と共にフラスコにさらに添加した。この溶液を還流させたら、パラホルムアルデヒド(1.15mmol、2当量)を1時間かけて溶液に加えた。パラホルムアルデヒドの添加が完了した後、溶液を24時間還流させた。次いで、該溶液を最小体積まで減少させ、そしてDowex H+イオン交換カラムに充填した。最初に、カラムを水で溶出して不純物を除去し、続いて5%水酸化アンモニウム溶液で生成物を溶出した。配位子を含有する画分を減圧下で乾燥し、水に溶解した。Amberlite CG-50タイプ1イオン交換カラムを用いて生成物を得、これを水で溶出して白色固体を得た。
MS(ESI)- m/z:406.18(M-H+) ここで、Mは中性配位子である。δH(2) 3.05(4H、ダブレット、J 10.96) 3.32(12H、マルチプレット) 4.34(2H、シングレット) 7.38(5H、マルチプレット) δP(D2O) 14.93
【0139】
ビス(ホスホネート)ビフェニルTACN(TOBP)
ビフェニルTACN誘導体から出発して、TOPA配位子と同様の手順を使用した。δH(2)(500MHz):ダブレット(2H、7.704-7.687) ダブレット(2H、7.644-7.628) ダブレット(2H、7.601-7.585)、トリプレット(2H、7.452-7.421)、トリプレット(1H、センター 7.354)、シングレット(4.369、2H) 3.365~2.973の間の広い共鳴は、おおよそ21Hを表す。MS(ESI) m/z:484.2(M-H+) Fe(III)錯体は、Fe(NO3)3の添加と一晩の還流により調製した。MS(ESI)- m/z:535.17(M-) ここで、Mは中性Fe(TOBP)錯体である.
【化37】
【0140】
TRAP-OPOの合成
TRAP-OPOは、以下のようにして合成された。
【化38】
1,4,7-トリアザビシクロ[5.2.1]デカン(0.475mmol)をメタノール10mLに溶かす。不活性雰囲気を作り、ジメチルフェニルホスホナイト(0.095mmol、0.2当量)をパラホルムアルデヒド(0.118mmol、0.25当量)と共に加えた。溶液を室温で一晩撹拌し、溶媒を減圧下で除去した。MS-ESI:310.2[M+H+] ここで、Mは中性配位子である。乾燥したメチル((1,4,7-トリアザビシクロ[5.2.1]デカン-4-イル)メチル)(フェニル)ホスフィネート(0.221mmol)を400μLの3.3M HClに溶解し、亜リン酸(1.11mmol、5当量)を加えた。この溶液を還流に設定し、還流に達したら、パラホルムアルデヒド(0.442mmol、2当量)を1時間かけて添加した。パラホルムアルデヒドの添加が完了した後、溶液をさらに1時間還流した。MS-ESI(ネガティブモード):470.5[M-H+]。ここで、Mは中性配位子である。
【0141】
TRAP-Phの合成
TRAP-Phは、以下のようにして合成された。
【化39】
TRAP-Ph-メトキシは、以前に報告されたように合成された。乾燥したTRAP-Ph-メトキシを、4mLの50%w/v炭酸塩フリー水酸化ナトリウムに溶解した。この溶液を激しく撹拌しながら30分間還流させ、その時点で4mLの炭酸塩フリーの水を添加した。水を添加した後、溶液をさらに30分間還流した。第2の還流の最後で、溶液を加熱して、2相が現れるまで溶媒体積を減少させた。溶液を室温まで冷却し、上層(油)を除去し、エタノールに溶解し、次いで蒸発乾固させた。次いで、TRAP-Phを沈殿によって精製した。メタノールを用いて塩を沈殿させることにより、過剰の塩を除去した。メタノールを減圧下で除去し、アセトンを添加すると、別の固体が形成され、これをジクロロメタンで再結晶した。
.MS(ESI)- m/z:590.7(M-H+). 1H NMR(D2O、pD~0.9) 3.02(12H、マルチプレット)、3.09(6H、ダブレット、J 7.12)、7.31(9H、マルチプレット)、7.48(6H、マルチプレット) 31P NMR(D2O、pD~0.9) 29.27
鉄錯体は、以前に公表された手順に従って合成された。
MS(ESI)+ m/z:645.1(M+H+)、667.1(M+Na+) ここで、Mは中性配位子である。
【化40】
1,3-ビス((1,4,7-トリアゾナン-1-イル)メチル)ベンゼンの合成
ガス注入口および撹拌棒を有する25mL丸底フラスコに、4mLのトルエン・1mLクロロホルム溶液中の0.100gのTACN(0.774mmol)を添加した。0.0920gのN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(0.774mmol)をフラスコに添加した。溶液を室温で24時間撹拌した。1,4,7-トリアザトリシクロ[5.2.1.04,10]デカン(TACNオルトアミド)のESI-MS(m/z)、計算値:140.1[M+H+](100%)。
フラスコを回転蒸発器上に置くことによって、溶液を乾燥させた。乾燥したTACNオルトアミドおよび15mLの乾燥アセトニトリルを、磁石撹拌棒、還流冷却器、ガス注入管および添加漏斗を備えた50mLの3口丸底フラスコに添加した。10mlの乾燥アセトニトリル溶液中のα,α’-ジブロモ-m-キシレン0.100g(0.384ミリモル)を、添加漏斗により30分間滴下して、フラスコに添加した。溶液を2時間加熱還流し、室温で一晩撹拌した。白色ベージュ色の沈殿を吸引濾過法によって回収し、乾燥アセトニトリル(5mL)およびジエチルエーテル(5mL)で洗浄した。6mLのメタノールおよび6mLの12M HClを、脱保護処理のためにフラスコ中の沈殿物に添加した。溶液を4時間加熱還流した。溶液を室温まで冷却した後、NaOHペレットを添加して、溶液のpHを8にした。次に、溶液を濾過してNaCl塩沈殿を除去し、クロロホルム(3×60mL)で抽出した。ESI-MS(m/z)、計算値:361.4[M+H+](100%)。ここで、Mは中性配位子である。
【0142】
m-diTOPAの合成
1,3-ビス((1,4,7-トリアゾナン-1-イル)メチル)ベンゼン(0.155mmol)を500μLの3.3M HClに溶解し、亜リン酸(1.86mmol、12当量)を加えた。溶液を還流装置に取り付け、還流条件に達したら、パラホルムアルデヒド(0.930mmol、6当量)を1時間かけて添加した。全てのパラホルムアルデヒドを添加したら、溶液をさらに1時間還流させた。
MS-ESI-:735.3 [M-H+]. ここで、Mは中性配位子である。
【化41】
【0143】
塩化鉄(II)四水和物を用いてFe(TASO)錯体を合成した。生成物をエタノール溶媒中でのジエチルエーテル洗浄により黄色固体として単離した。NaFe(L1)ClについてICP-MSによりFe含量を計算した:11.29%、実測値:11.13%±0.17%. LCQ-MS:実測値 m/z 421.2(M+H+、70%)、m/z 443.2(M+Na+、30%)、m/z 841.0(2M+H+、100%)、及び、m/z 863.0(2M+Na+、18%). ここで、Mは中性Fe(TASO錯体)である。有効磁気モーメントは5.68であった。
【0144】
Fe(TASO)は、図12に示すようにサイクリックボルタンメトリーにより特性化され、Fe(TASO)の1.0mM溶液のサイクリックボルタモグラムが、支持電解質として塩化カリウム(100mM)、およびHEPES緩衝液を用いて、水中で様々なpHで得られた。
【0145】
Fe(TASO)は、紫外-可視吸光度によって特性評価した。データを図14~16に示す。
【0146】
TBzCエステル
ビス(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7-トリアザシクロノナン(0.245g、1.0mmol)をアセトニトリル(5.0mL)に溶解し、60℃に加熱した。次に、無水炭酸カリウム(0.207g、1.5mmol)を溶液に添加し、続いて4-(ブロモメチル)安息香酸エチル(0.304g、1.2mmol)を添加した。反応物を、完了するまで8~12時間撹拌した(ESI-MSによりモニター)。次いで、溶媒を真空下で除去し、粗生成物を0/100~5/95のメタノール/ジクロロメタンでアルミナ上で精製し、生成物を約1/99のメタノール/ジクロロメタンで淡黄色の油状物として溶出した(0.288g、71%)。
1H NMR(500MHz、DCM-d2) δ7.98(d、J=10Hz、2H)、7.49(d、J=10Hz、2H)、4.35(dd、J=15Hz、2H)、3.89(s、2H)、3.72-3.68(m、2H)、2.88-2.76(m、6H)、2.67-2.45(m、10H)、2.25(dd、J=10Hz、2H)、1.39(t、J=5Hz、3H)、1.05(d、J=10Hz、6H). 13C NMR(75MHz、CHCl3-d) δ 167.0、144.8、129.5、129.4、128.9、66.5、63.9、62.5、60.8、55.7、55.4、54.6、19.8、14.3. ESI-MS:m/z 408.3(M+、100%)、430.3(M+Na+、10%).
【0147】
TBZC合成
TBZCエステル(0.408g、1.0mmol)をエタノール(10.0mL)に溶解し、90℃に加熱した。次いで、NaOH(0.120g、3.0mmol)を溶液に添加し、ESI-MSによって完了がモニターされるまで、反応物を12~24時間撹拌した。溶液をジクロロメタン(3×25mL)で洗浄し、水層を回収した。溶媒を真空下で除去した。溶液がpH3になるまで12M HClを添加し、生成物(7)をジクロロメタン(3×25mL)に抽出することによって、配位子を得た。次いで、有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を真空下で除去した。生成物を淡黄色の油状物として単離した(0.278g、73%)。
1H NMR(500MHz、D2O) δ7.77(d、J=5Hz、2H)、7.40(d、J=5Hz、2H)、3.82(q、J=15Hz、2H)、3.00(d、J=10Hz、2H)、2.87-2.58(m、16H)、1.04(d、J=5Hz、6H). 13C NMR(75MHz、D2O) δ 171.0、140.4、135.8、129.7、129.0、63.6、63.0、60.2、51.0、49.7、48.8、19.7. ESI-MS: m/z 380.3(M+、100%).
【0148】
Fe(TBZC)
この錯体を塩化第一鉄四水和物を用いて合成し、生成物を黄色固体(45.7mg、52%)として単離した。[Fe(H2-L4)Cl]Clについて計算されたICP-MSによるFe含有量:Cl:9.56%、実測値:9.52%±0.10% FT-ICR-MS:計算値 m/z 514.198541、実測値 m/z 514.198394(M+、100%) ここで、Mは中性Fe(TZBC)錯体である。
【0149】
17O NMR緩和性、pH 3.5で測定したFe(L2)についての、温度の関数としてのln(1/T2r)を、本開示の大環状化合物の種々の例について測定した。データを図13に示す。
【0150】
4.7Tおよび9.4T、pH7.2・37℃で測定した、HSAの有無によるFe(TASO)の緩和値。Gd(DTPA)と比較。データを表2および3に示す。
【表2】
【表3】
【0151】
Fe(TASO)をT1造影剤として使用した。Fe(TASO)の用量0.2mmol/kgでの4.7Tでの健康なBalb/CマウスのT1強調MRIを、図17に示す。Fe(TASO)の用量0.05mmol/kgでの4.7Tでの健康なBalb/CマウスのT1強調MRIを図18に示す。Fe(TBZC)を造影剤として使用し、T1強調MRIを図19に示す。
【0152】
Fe(TASO)の薬物動態研究を行った。Fe(TASO)についてのマウスにおける薬物動態データを、図19および20に示す。T1-強調MR画像を、健康なBalb/Cマウスについて、4.7Tで、用量0.05mmol/kgのFe(L3)にて得た。Fe(TASO)、Gd(DOTA)およびGd-DTPAに関するT1速度定数の経時的変化を、健康なBalb/Cマウスの腎臓、肝臓および血中で、0.05mmol/kg・4.7Tにて確認した。シグナル強度をファントムに対して正規化し、各器官におけるシグナル増加を測定し、コントラスト-対-ノイズ比の増加を筋肉と比較した。
【0153】
本開示が、1つまたは複数の特定の実施形態および/または例を参照して説明されたが、本開示の他の実施形態および/または例が、本開示の範囲から逸脱することなく可能であることが理解されるであろう。
図1
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図5A
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