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  • 特許-凍結保存細胞の希釈用緩衝液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】凍結保存細胞の希釈用緩衝液
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20241106BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20241106BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241106BHJP
   C07K 14/76 20060101ALN20241106BHJP
   A61K 9/10 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N5/077
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61K35/34
A61P9/10
A61K47/42
C07K14/76
A61K9/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021551346
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037058
(87)【国際公開番号】W WO2021065971
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2019179004
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 賢二
(72)【発明者】
【氏名】松田 勇
(72)【発明者】
【氏名】大橋 文哉
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-529706(JP,A)
【文献】特開2014-143971(JP,A)
【文献】国際公開第2018/187439(WO,A1)
【文献】特開2016-052272(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185517(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/044538(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
A61K 35/00 - 35/55
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト血清アルブミンを1.0重量%以上とDMEMとを含有する緩衝液であって、
骨格筋芽細胞を含む凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液へ一定速度で滴下することより前記細胞懸濁液を希釈しつつ洗浄した後に再び懸濁するための、前記緩衝液。
【請求項2】
ヒト血清アルブミンの濃度が、2.5~20重量%である、請求項1に記載の緩衝液。
【請求項3】
緩衝液が、糖類、アミノ酸類および/またはビタミン類を含む、請求項1または2に記載の緩衝液。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の緩衝液を含むキット。
【請求項5】
骨格筋芽細胞を含む凍結保存細胞から生細胞を回収する方法であって、
前記凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液をヒト血清アルブミンを1.0重量%以上とDMEMとを有する緩衝液を一定速度で前記細胞懸濁液へ滴下することにより希釈しつつ洗浄するステップ;および
洗浄された細胞を前記緩衝液で再び懸濁するステップ
を含む、前記方法。
【請求項6】
骨格筋芽細胞を含む凍結保存細胞の回収生細胞数、生残率、および回収率からなる群から選択される1以上の数/比率を高める方法であって、
前記凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液をヒト血清アルブミンを1.0重量%以上とDMEMとを含有する緩衝液を一定速度で前記細胞懸濁液へ滴下することにより希釈しつつ洗浄するステップ;および
洗浄された細胞を前記緩衝液で再び懸濁するステップ
を含む、前記方法。
【請求項7】
らにCD56陽性細胞の比率を高める請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
ヒト血清アルブミンの濃度が、2.5~20重量%である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
緩衝液が糖類、アミノ酸類および/またはビタミン類を含む、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項のいずれか一項に記載の方法を含む、移植片の製造方法。
【請求項11】
骨格筋芽細胞を含む凍結保存細胞の回収生細胞数、生残率、および回収率からなる群から選択される1以上の数/比率を高める方法であって、
ヒト血清アルブミンを1.0重量%とDMEMとを含有する緩衝液へ糖類、ビタミン類、およびアミノ酸からなる群から選択される1以上の成分を添加し、前記凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液を、前記成分添加緩衝液を一定速度で前記細胞懸濁液へ滴下することにより希釈しつつ洗浄するステップ;および
洗浄された細胞を前記成分添加緩衝液で再び懸濁するステップ
を含む、前記方法。
【請求項12】
らにCD56陽性細胞の比率を高める請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ヒト血清アルブミンの濃度が、2.5~20重量%である、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、凍結保存細胞からの生細胞の回収方法、および当該方法を含む細胞培養物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、ES細胞等の利用が試みられている。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(例えば、非特許文献1~3参照)。
【0004】
シート状細胞培養物の治療への応用については、火傷などによる皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮シート状細胞培養物の利用、食道ガン内視鏡的切除に対する口腔粘膜シート状細胞培養物の利用などの検討が進められている。
【0005】
このように、再生医療に基づく新たな治療方法の確立とともに、自家細胞を凍結させて保存し、人工組織やシート状細胞培養物などの三次元構造体を形成したり、直接細胞を移植したりする際に、かかる凍結保存細胞を融解して自家細胞を回収し、それを用いて治療を行う機会が近年増加してきている。
【0006】
細胞は、凍結することにより、半永久的に保存することが可能であるが、凍結する際に発生する潜熱や、細胞内に発生する氷晶などのストレスにより細胞がダメージを受けてしまい、凍結保存された細胞を回収する際には全てを生細胞として回収することはできない。通常は凍結保存細胞を融解後、必要な量の細胞を確保するために、融解後の細胞を培養して増殖させる必要があり、手間やコストを要する。また融解後に培養することなく作成する細胞シートの場合、生細胞の割合が品質に直接影響する。したがってコスト削減や品質向上のためになるべく多くの生細胞を回収することが望まれる。そのため、凍結・融解方法を工夫して細胞への物理的ダメージを減らし、生細胞数を多くする試みが為されている。
【0007】
従来、融解した凍結保存細胞の細胞懸濁液は、FBS含有培養液など一般的な細胞培養に使用される血清含有培養液で希釈することで回収率の低下が抑制されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2007-528755号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Shimizu et al., Circ Res. 2002 Feb 22;90(3):e40-e48
【文献】Matsuura et al., Biomaterials. 2011 Oct;32(30):7355-62
【文献】Kawamura et al., Circulation. 2012 Sep 11;126(11 Suppl 1):S29-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
再生医療に用いる臨床用の移植片、例えばシート状細胞培養物などを製造する場合、対象と同種(例えばヒト)の生物に由来する成分以外の成分(異種由来成分)を含まない状態、いわゆるゼノフリーな状態で製造されることが望ましいが、かかる移植片を製造するために凍結保存細胞を融解(解凍)する際、従来から使用されてきたFBS含有培養液などの異種血清含有培養液を希釈液として使用すると、ゼノフリーではなくなり、アレルゲンや病原体が混入するリスクが生じる。しかしながら、ゼノフリー環境を維持し、かつ解凍した凍結保存細胞を従来と遜色ないかそれ以上の回収率で回収することができる希釈液については報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ゼノフリー環境下で調製しても十分な機能を有する細胞を用いた生体移植用のシート状細胞培養物の調製を試みる中で、凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液を希釈するために、FBS含有培養培地の代わりにヒト血清アルブミン(HSA)を含む緩衝液を用いると、FBS含有培養液を用いた場合よりも生細胞を高効率で回収できるという新たな知見を見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に下記に掲げるものに関する:
<1> 体細胞を含む凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液を希釈するためのヒト由来アルブミン含有緩衝液。
<2> ヒト由来のアルブミンが、ヒト血清アルブミンである、<1>に記載の緩衝液。
<3> ヒト由来のアルブミンの濃度が、1.0%以上である、<1>または<2>に記載の緩衝液。
<4> 緩衝液が、糖類、アミノ酸類およびビタミン類を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の緩衝液。
<5> 緩衝液が、前記細胞懸濁液へ一定速度で滴下することより希釈するための、<1>~<4>のいずれか1つに記載の緩衝液。
<6> <1>~<5>のいずれか1つに記載のヒト由来アルブミン含有緩衝液を含むキット。
【0013】
<7> 体細胞を含む凍結保存細胞から生細胞を回収する方法であって、凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液をヒト由来のアルブミンを含む緩衝液で希釈するステップを含む、前記方法。
<8> 体細胞を含む凍結保存細胞の回収生細胞数、生残率、回収率からなる群から選択される1以上の比率を高める方法であって、凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液をヒト由来アルブミン含有緩衝液で希釈するステップを含む、前記方法。
<9> 体細胞が骨格筋芽細胞であり、さらにCD56陽性細胞の比率を高める<7>または<8>に記載の方法。
<10> 希釈するステップが、前記緩衝液を細胞懸濁液へ一定速度により滴下するステップを含む、<7>~<9>のいずれか1つに記載の方法。
<11> 緩衝液が糖類、アミノ酸類およびビタミン類を含む、<7>~<10>のいずれか1つに記載の方法。
<12> <7>~<11>のいずれか1つに記載の方法を含む、移植片の製造方法。
<13> <12>に記載の方法により製造された移植片。
<14> <12>に記載の方法によって製造された移植片の治療有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、前記対象における心疾患の治療方法。
<15> 体細胞を含む凍結保存細胞の回収生細胞数、生残率、回収率からなる群から選択される1以上の比率を高める方法であって、ヒト由来アルブミン含有緩衝液へ糖類、ビタミン類、アミノ酸からなる群から選択される1以上の成分を添加し、添加した前記緩衝液により凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液をヒト由来アルブミン含有緩衝液で希釈するステップを含む、前記方法。
<16> 体細胞が骨格筋芽細胞であり、さらにCD56陽性細胞の比率を高める<15>に記載の方法。
<17> 希釈するステップが、前記緩衝液を細胞懸濁液へ一定速度により滴下するステップを含む、<15>または<16>に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液を希釈するために、異種由来成分であるFBSを含む培養液に代えてヒト由来アルブミンを含有した緩衝液で希釈することによりゼノフリー環境下で回収可能な生細胞数を向上させるものである。本発明により、凍結、融解を経ても回収生細胞数、生残率、回収率および/またはCD56陽性細胞の比率が高く回収できるため、とくに融解後に増殖培養を経ずに使用する場合であっても、十分な生細胞数を確保することが可能となる。それにより、融解後の細胞培養のコストや手間を削減できるだけでなく、再生医療に適用可能な細胞シートの選択肢を広げるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、HSAを含有しないDMEMで希釈した際の回収生数を1とした場合の各濃度のHSA含有DMEMで希釈した回収生細胞数(Recovered viable cell ratio)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。また本明細書において参照された出版物と本明細書の記載に矛盾が生じた場合は、本明細書の記載が優先されるものとする。
【0017】
(1)ヒト由来アルブミン含有緩衝液
本開示は、凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液を希釈するためのヒト由来アルブミン含有緩衝液を含む。
【0018】
本開示において、「凍結保存細胞」とは、通常は凍結保存された細胞そのものを意味するが、凍結保存された細胞の1つの凍結保存単位を意味することもある。この場合、凍結保存単位とは、例えば1つのチューブなど、1群として一緒に凍結保存される細胞群を意味する。したがってこの場合、「凍結保存細胞」を融解した場合、凍結されていた「細胞懸濁液」が得られることとなる。
【0019】
本発明の緩衝液は、凍結保存細胞を融解して得られた細胞懸濁液を希釈するための緩衝液に関するものであり、ヒト血清アルブミンを含むことを特徴とするものである。通常、凍結保存細胞を融解して生細胞を回収する際、融解した細胞懸濁液中にあるDMSOなどの細胞毒性成分の影響を低減させるため等の目的で融解した細胞懸濁液にFBS含有培養培地を加えて希釈する。本発明者らは、かかる希釈の工程においてFBS含有培養培地の代わりにヒト血清アルブミン(HSA)を含有する緩衝液で希釈することでゼノフリーを実現しながら細胞の高い回収生細胞数、生残率、回収率および/またはCD56陽性細胞率を奏することを見出した。
【0020】
本発明において用い得る緩衝液は特に限定されないが、細胞の高い回収率を高める観点から細胞に物理化学的ダメージを与えないものが好ましい。例えば無機塩類のほか、糖類、アミノ酸類およびビタミン類からなる群から選択される1以上の成分を含むことが好ましく、無機塩類のほか糖類、アミノ酸類およびビタミン類の全てを含むことが特に好ましい。緩衝液の例としては、これに限定するものではないが、例えばハンクス平衡塩液、リン酸緩衝生理食塩水などの公知の緩衝液のほか、例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7などの基礎液体培地が含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。しかしながら、本発明の製造方法に用いる場合は、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよく、公知の緩衝液へ糖類、アミノ酸類、ビタミン類からなる群から選択される1以上の成分を適宜添加してよい。
【0021】
添加する糖類は、細胞培養において通常に用いられる糖類であれば限定されず、例えばグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ラクトース、スクロースなど任意の単糖または多糖を使用できる。また本発明において糖類はグルコースが解糖系で分解されて生ずるピルビン酸および乳酸を含む。添加する糖類として好ましい糖類は、グルコースである。
【0022】
添加するビタミンは、細胞培養において通常に用いられるビタミン類であれば限定されず、例えばチアミン、コリン、リボフラビン、ナイアシン、パントテン酸、ピリドキサール、ビオチン、葉酸、シアノコバラミン、アスコルビン酸、ナイアシンアミド、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、i-イノシトー、D-パントテン酸、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、アスコルビンまたはこれらの類似体、塩および/または水和物が使用できる。
【0023】
アミノ酸は、細胞培養において通常に用いられる糖類であれば限定されず、LまたはD体のアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンまたはそれらの塩および/または水和物などを使用でき、L-アルギニン・HCl、L-シスチン・2HCl、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリンなどが好ましい。
その他、細胞培養において通常に用いられる任意の成分としてピルビン酸、ヒポキサンチン、リノール酸、α-リポ酸、プトレシン、チミジンなどを含んでよい。
【0024】
糖類、ビタミン類またはアミノ酸類は、細胞を損傷しない濃度であれば限定されず、例えば糖類0.001~0.01%、ビタミン類は計0.00001~0.0001%、アミノ酸類は計0.0005%~0.005であればよい。
【0025】
本発明において用いられるヒト由来のアルブミンは、特に限定されず、例えばヒト血清アルブミン、ヒト乳アルブミン、ヒト筋アルブミンを用いることができ、好ましくはヒト血清アルブミンである。ここでヒト由来のアルブミンとは血液や母乳などに由来する生体由来のもののほかに、ヒト由来のアルブミンをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えにより製造されたアルブミンを含む。
【0026】
本発明において、ヒト由来のアルブミンを含む緩衝液は、例えば0.5重量%以上、1重量%以上、1.25重量%以上、2.5重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上であり、好ましくは1.0%以上、更に好ましくは1.25%以上、より好ましくは2.0%以上、特に好ましくは2.5%以上である。ヒト由来のアルブミンを含む緩衝液は、例えば60重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下が挙げられる。したがってのヒト由来のアルブミン含有量の範囲としては、これら上限値および下限値の任意の組み合わせであってよく、これに限定するものではないが、例えば0.5~60重量%、1~20重量%、1.25~15重量%、2.5~20重量%の範囲などが挙げられる。
【0027】
(2)凍結保存細胞からの生細胞の回収方法
さらに本発明の方法は、凍結保存細胞からの生細胞の回収方法であって、凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液をヒト由来アルブミン含有緩衝液で希釈することを含む前記方法に関する。
以下本実施態様の方法について、工程ごとに説明する。
<凍結保存細胞の融解>
本工程において、凍結保存細胞を融解する際の条件としては、当該技術分野において知られたいかなる条件を用いてもよい。一般に、緩慢に融解すると氷晶などにより細胞への物理的ダメージが起こりやすくなるため、通常は例えば約37℃に設定したウォーターバスなどを用いて一気に温めて融解する。本工程においては、当該技術分野において生細胞の回収量を向上させるとして知られた任意の方法を用いることができる。
【0028】
本発明において、凍結保存することができる細胞であればとくに限定されず、当該技術分野において知られたあらゆる細胞を用いることができる。生細胞とは、生きている細胞またはそれを含む細胞集団、細胞混合物、構造物、組織などを意味する。好ましい一態様において、生細胞は、遺伝子導入されていない細胞である。生細胞としては、シート状細胞培養物などの移植片を形成し得るものであれば特に限定されず例えば、体細胞である。生細胞としては、好ましくは接着細胞(付着性細胞)である。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、筋衛星細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来接着細胞)であってもよい。シート状細胞培養物を構成する細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞、筋衛星細胞、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞などが挙げられ、筋芽細胞および/または筋衛星細胞などのCD56陽性細胞が好ましい。
【0029】
本開示において「筋芽細胞」は、横紋筋細胞の前駆細胞であり、骨格筋芽細胞および心筋芽細胞を含む。本開示において「骨格筋芽細胞」は、骨格筋に存在する筋芽細胞を意味する。骨格筋芽細胞は当該技術分野でよく知られており、骨格筋から任意の既知の方法(例えば、特開2007-89442号公報に記載の方法など)により調製することもできるし、商業的に入手することもできる(例えば、Lonza、Cat# CC-2580)。骨格筋芽細胞は、限定されずに、例えば、CD56、α7インテグリン、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、MyoD、Myf5、Myf6、ミオゲニン、デスミン、PAX3などのマーカーにより同定することができる。
本開示において「筋衛星細胞」は、骨格筋芽細胞の前駆細胞であり、限定されずに、例えば、限定されずに、例えば、CD56、CD34、Myogenin、Myf5、Pax7などのマーカーにより同定することができる。特定の態様において、骨格筋芽細胞はCD56陽性である。骨格筋芽細胞および/または筋衛星細胞は、骨格筋を有する任意の生物、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に由来してもよい。一態様において、骨格筋芽細胞および/または筋衛星細胞は、哺乳動物の骨格筋芽細胞および/または筋衛星細胞である。特定の態様において、骨格筋芽細胞および/または筋衛星細胞はヒト骨格筋芽細胞および/またはヒト筋衛星細胞はである。
【0030】
凍結保存細胞の量は、凍結保存する容器の用量に応じて変化し得るが、通常凍結保存用の細胞懸濁液は1×10~5×10個/ml程度の細胞密度に調整し、凍結細胞用容器に分注したものを用いる。理想的には凍結保存した全ての細胞が生細胞として回収されるため、凍結保存前の細胞懸濁液中の細胞数が回収される生細胞数を計算する際の母数となり得る。
【0031】
凍結保存液としては、当該技術分野において細胞の凍結保存に用いられることが知られた任意のものを用いることができ、多くのメーカーから販売されている。また、通常の細胞培養培地を用いてもよく、培地にジメチルスルホキシド(DMSO)やグリセロールなどの凍害保護剤を、通常は1~20%程度、好ましくは5~10%程度添加したものを用いてもよい。さらに、培地に代えて100%ヒト血清を用いてもよい。
凍結細胞用容器は、当該技術分野において通常使用されている任意のものを用いてよく、例えば市販のクライオバイアル、アンプル、凍結保存バッグ等が用いられる。
【0032】
<細胞懸濁液の希釈>
上述のとおり、融解により得られた細胞懸濁液は細胞毒性成分(例えばDMSOなど)を含み得るため、希釈することで該細胞毒性成分の影響を低減することができる。本発明の方法は、この希釈の際にヒト由来のアルブミンを含む緩衝液を使用することで融解細胞の回収生細胞数、生残率、回収率および/またはCD56陽性細胞の比率からなる群から選択される1以上を高めることを特徴とする。希釈に使用し得る緩衝液、アルブミンの種類および濃度は、上述のヒト由来のアルブミンを含む緩衝液で詳述したとおりである。
【0033】
本工程において、希釈する方法は、特に限定されないが、緩衝液を添加する際に浸透圧負荷を抑えることが好ましく、例えば緩衝液を細胞懸濁液へ一定の滴下速度による滴下ステップにより行うことができる。一定の速度による滴下は、1または2以上の一定の滴下速度を有する滴下ステップにより行なってもよい。希釈は、融解した細胞懸濁液を凍結保存容器に入れたまま行ってもよいし、別の容器に移して行ってもよい。
別の容器に移して行う場合、融解細胞の生存率を上げるため、細胞懸濁液を移した後の凍結保存容器をヒト由来のアルブミンを含む緩衝液で洗浄し、この洗浄液を細胞懸濁液に添加する。かかる洗浄液の添加もまた本発明の希釈に該当する。したがって本発明の一態様において、緩衝液は融解した細胞懸濁液を別の容器に移した後の凍結保存容器を洗浄した洗浄液および新たに調製して凍結保存容器を洗浄していない緩衝液を含む。
【0034】
細胞の希釈は、既知の任意の手法により行うことができ、細胞を緩衝液に懸濁することにより希釈し、遠心分離し、上清を廃棄し、沈殿した細胞を回収することにより達成されるが、これに限定されない。典型的には、細胞の希釈は、凍結した細胞を融解した直後に行われ、細胞を希釈するステップにおいて、かかる懸濁、遠心分離、回収のサイクルを1回または複数回(例えば、2、3、4、5回など)行ってもよい。
【0035】
本発明の回収方法は、凍結保存した細胞を融解し、アルブミン含有緩衝液で希釈して回収した後、かつ、シート状細胞培養物を形成するステップの前に、細胞を洗浄するステップを含んでいてもよい。細胞の洗浄は、既知の任意の手法により行うことができ、典型的には、例えば、細胞をヒト血清アルブミンを含むまたは含まない洗浄液(培養液(例えば、培地等)または生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)など)に懸濁し、遠心分離し、上清を廃棄し、沈殿した細胞を回収することにより達成されるが、これに限定されない。細胞を洗浄するステップにおいては、かかる懸濁、遠心分離、回収のサイクルを1回または複数回(例えば、2、3、4、5回など)行ってもよい。本発明の一態様において、細胞を洗浄するステップは、希釈するステップの直後に行われる。
【0036】
(3)回収生細胞数、生残率、回収率および/またはCD56陽性細胞の比率を高める方法
さらに本開示は、凍結保存した細胞の回収生細胞数、生残率、回収率からなる群から選択される1以上の比率を高める方法であって、凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液をヒト由来アルブミン含有緩衝液で希釈するステップを含む、前記方法を含む。
本発明の一態様において、細胞が骨格筋芽細胞および/または筋衛星細胞を含む場合、融解した細胞懸濁液をヒト由来アルブミン含有緩衝液で希釈するステップにより、回収生細胞数、生残率、回収率に加えてCD56陽性細胞の比率からなる群から選択される1以上を高めることができる。
本発明者らは、本発明の本発明の方法において使用するヒト由来アルブミン含有緩衝液に含まれる成分へ糖類、ビタミン類および/またはアミノ酸類を添加することにより回収生細胞数、生残率、回収率に加えてCD56陽性細胞の比率からなる群から選択される1以上を高められることを見出した。
凍結保存した細胞の回収生細胞数、生残率、回収率および/またはCD56陽性細胞の比率からなる群から選択される1以上を高める方法であって、ヒト由来アルブミン含有緩衝液へ糖類、ビタミン類、アミノ酸からなる群から選択される1以上の成分を添加するステップ、および、添加した前記緩衝液により凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液を希釈するステップを含む、前記方法を含む。
【0037】
本発明の一態様において、糖類、ビタミン類およびアミノ酸類のいずれかまたは全てを含まないヒト由来アルブミン含有緩衝液へ、ヒト由来アルブミン含有緩衝液に含まれていない糖類、アミノ酸類およびビタミン類のいずれかまたは全てを添加することができる。好ましくは、糖類、アミノ酸類およびビタミン類の全てを含む。例えば、ヒト由来アルブミンを含有するハンクス平衡塩液を希釈用緩衝液として用いる場合、希釈用緩衝液へアミノ酸類およびビタミン類を添加し、それを使って凍結保存細胞を融解した細胞懸濁液を希釈することで回収生細胞数、生残率、回収率および/またはCD56陽性細胞の比率を高めることができる。糖類、ビタミン類および/またはアミノ酸類の添加は、細胞の希釈時に添加されれば任意のタイミングで添加してよい。したがって、希釈前に予めヒト由来アルブミン緩衝液へ添加してもよいし、別の溶液へ溶解等しヒト由来アルブミン緩衝液で希釈した細胞懸濁液へ加えてもよい。
【0038】
(4)シート状細胞培養物の製造方法およびキット
上述のとおり、本発明の回収方法により回収された細胞は、その後増殖培養を経ずに使用する場合において特に好適に用いることができる。したがって本発明は1つの側面において、本発明の回収方法により回収された細胞を用いた移植片を製造する方法に関する。
【0039】
本発明において、「移植片」とは、生体内へ移植するための構造物を意味し、特に細胞を構成成分として含む移植用構造物を意味する。好ましい一態様においては、移植片は、細胞および細胞由来の物質以外の構造物(例えばスキャフォールドなど)を含まない移植用構造物である。本開示における移植片としては、これに限定するものではないが、例えばシート状細胞培養物、スフェロイド、細胞凝集塊などが挙げられ、好ましくはシート状細胞培養物またはスフェロイド、より好ましくはシート状細胞培養物である。
【0040】
本開示において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層体(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0041】
本開示の移植片、特にシート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物などの移植片の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本開示の移植片は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本開示の移植片は、好ましくは、移植片を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0042】
培養基材は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質および/または形状の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養物の形成が可能な培養基材で構成された底面と、液体不透過性の側面とを備えた培養容器が挙げられる。かかる培養容器の特定の例としては、限定されずに、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。容器の底面は透明であっても不透明であってもよい。容器の底面が透明であると、容器の裏側から細胞の観察、計数などが可能となる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。
【0043】
好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材、スフェロイドの形成に適した、低接着性の表面を有する基材および/または均一なウェル状構造を有する基材などが挙げられる。具体的には、シート状細胞培養物の形成の場合であれば、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corningなど)。またスフェロイドの形成の場合であれば、例えば軟寒天、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をポリエチレングリコール(PEG)で架橋した温度応答性ゲル(市販名:メビオールゲル)、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(ポリHEMA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリスコリン(MPC)ポリマーなどのハイドロゲルなどの非細胞接着性化合物を表面にコーティングした基材および/または均一な凹凸構造を表面に有する基材などが挙げられる。かかる基材もまた市販されている(例えば、EZSPHERE(R)など)。培養基材は全体または部分が透明であっても不透明であってもよい。
【0044】
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN-イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えば、CellSeed Inc.のUpCell(R))、これらを本開示の製造方法に使用することができる。
【0045】
培養基材は、種々の形状であってもよい。また、その面積は特に限定されないが、例えば、約1cm2~約200cm、約2cm~約100cm、約3cm~約50cmなどであってよい。例えば、培養基材として直径10cmの円形の培養皿が挙げられる。この場合、面積は56.7cmとなる。培養表面は平坦であってもよいし、凹凸構造を有していてもよい。凹凸構造を有する場合、均一な凹凸構造であることが好ましい。
【0046】
本開示において、「多能性幹細胞」は、当該技術分野で周知の用語であり、三胚葉、すなわち内胚葉、中胚葉および外胚葉に属する全ての系列の細胞に分化することができる能力を有する細胞を意味する。多能性幹細胞の非限定例としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植胚性幹細胞(ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられる。人工多能性幹細胞(iPS細胞)は遺伝子を導入して誘導された細胞である。通常多能性幹細胞を特定の細胞に分化誘導する際には、まず多能性幹細胞を浮遊培養して、上記三胚葉のいずれかの細胞の凝集体を形成し、その後凝集体を形成する細胞を目的とする特定の細胞に分化誘導させる。
【0047】
本開示において、「多能性幹細胞由来の分化誘導細胞」は、多能性幹細胞から特定の種類の細胞に分化するように分化誘導処理された任意の細胞を意味する。分化誘導細胞の非限定例は、骨格筋芽細胞、筋衛星細胞、心筋細胞などの筋肉系の細胞、ニューロン細胞、オリゴデンドロサイト、ドーパミン産生細胞などの神経系の細胞、網膜色素上皮細胞などの網膜細胞、血球細胞、骨髄細胞などの造血系の細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、B細胞などの免疫関連の細胞、肝細胞、膵β細胞、腎細胞などの臓器を構成する細胞、軟骨細胞、生殖細胞などの他、これらの細胞に分化する前駆細胞や体性幹細胞などを含む。かかる前駆細胞や体性幹細胞の典型例としては、例えば心筋細胞における間葉系幹細胞、多分化性心臓前駆細胞、単能性心臓前駆細胞、神経系の細胞における神経幹細胞、造血系の細胞や免疫関連の細胞における造血幹細胞およびリンパ系幹細胞などが挙げられる。多能性幹細胞の分化誘導は、既知の任意の手法を用いて行うことができる。例えば、多能性幹細胞から心筋細胞への分化誘導は、Miki et al., Cell Stem Cell 16, 699-711, June 4, 2015やWO2014/185358に記載の手法に基づいて行うことができる。所望の細胞として、iPS由来心筋細胞等の多能性幹細胞由来の分化誘導細胞を用いる場合、分化誘導後に未分化細胞の除去処理を行ってもよい。未分化細胞の除去処理は、当該技術分野において知られており、例えばWO2017/038562、WO2016/072519およびWO2007/088874等に記載された方法を用いることができる。
【0048】
また分化誘導細胞は、リプログラミングのための遺伝子以外の任意の有用な遺伝子が導入されたiPS細胞から誘導された細胞であってもよい。かかる細胞の非限定例としては、例えば、Themeli M. et al. Nature Biotechnology, vol. 31, no. 10, pp. 928-933, 2013に記載のキメラ抗原受容体の遺伝子が導入されたiPS細胞から誘導されるT細胞などが挙げられる。また、多能性幹細胞から分化誘導された後、任意の有用な遺伝子が導入された細胞もまた、本発明の分化誘導細胞に包含される。
【0049】
より高密度の移植片、特にシート状細胞培養物を形成するため、培養基材は血液由来成分および/または細胞接着性成分でコーティングされていてもよい。「血液由来成分および/または細胞接着性成分でコーティングされている」とは、培養基材の表面に血清などの血液由来成分および/または細胞接着性成分が付着している状態を意味し、かかる状態は、限定されずに、例えば、培養基材を血液由来成分および/または細胞接着性成分で処理することにより得ることができる。血液由来成分および/または細胞接着性成分による処理は、例えば血清および/または細胞接着性成分を培養基材に接触させること、および、必要に応じて所定期間インキュベートすることを含む。コーティングに用いる血清および/または細胞接着性成分は、播種細胞の由来種と同一種の血清(同種血清)であっても異なる種の血清(異種血清)例えばFBSであってもよいが、好ましくは同種血清であり、より好ましくは播種細胞の由来個体から得た血清(自家血清)である。他の血液由来成分としては、アルブミンや血小板溶解物が挙げられる。コーティングに用いる細胞接着性分は、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックス、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーが挙げられる。
【0050】
培養基材への細胞の播種は、既知の任意の手法および条件で行うことができる。培養基材への細胞の播種は、例えば、細胞を培養液に懸濁した細胞懸濁液を培養基材(培養容器)に注入することにより行ってもよい。細胞懸濁液の注入には、スポイトやピペットなど、細胞懸濁液の注入操作に適した器具を用いることができる。細胞の播種密度は、シート状細胞培養物を形成し得る密度で行われ、かかる密度は所望の細胞により異なり得るが、当業者であれば当該技術分野において公知の手法などから適切な密度を選択することができる。例えば骨格筋芽細胞を含むシート状細胞培養物である場合、例えば2.0×10個/cm以上などであり得るが、より高密度で播種してもよい。
【0051】
より高密度の例としては、例えばコンフルエントに達する密度、すなわち播種した際に細胞が培養容器の接着表面一面を覆うことが想定される程度の密度、例えば、播種した際に、細胞が互いに接触することが想定される程度の密度、接触阻害が発生する密度、または接触阻害により細胞の増殖を実質的に停止する密度あるいはそれ以上であり得る。播種密度の上限は、特に制限されないが、密度が過度に高い場合には、死滅する細胞が多くなり、非効率となる。本開示の一態様において、播種密度は、例えば約1.0×10個/cm~約1.0×10個/cm、約1.0×10個/cm~約5.0×10個/cm、約1.0×10個/cm~約3.0×10個/cm、約1.5×10個/cm~約1.0×10個/cm、約1.5×10個/cm~約5.0×10個/cm、約1.5×10個/cm~約3.0×10個/cm、約2.0×10個/cm~約1.0×10個/cm、約2.0×10個/cm~約5.0×10個/cm、約2.0×10個/cm~約3.0×10個/cmなどであり得る。好ましい一態様において、播種密度は、約1.76×10個/cm~約2.33×10個/cmである。
【0052】
播種される細胞集団は、所望の細胞(例えば骨格筋芽細胞または筋衛星細胞)を含んでいれば、他の細胞を含んでいてもよく、所望の細胞が骨格筋芽細胞である場合は、例えば線維芽細胞や間葉系肝細胞などがさらに含まれていてもよい。細胞集団は、組織(例えば骨格筋組織)から採取した細胞集団をそのまま用いてもよいし、例えば上記Miki et al., Cell Stem Cell 16, 699-711, June 4, 2015やWO2014/185358に記載の手法などを用いてiPS細胞から分化誘導して得られた細胞集団をそのまま用いてもよいし、凍結保存やプレ培養、未分化細胞除去などを実施した後に用いてもよい。好ましい一態様において、播種される細胞集団は、iPS細胞から分化誘導後、培養基材上(好ましくは平面状の培養基材上)に播種して接着培養を行い、その後回収された細胞集団である。かかる接着培養の前または後に、凍結保存および解凍を実施してもよい。接着培養を行うことにより、その後の移植片の形成において、高品質な移植片の形成を、高確率で達成することが可能となる。
かかる接着培養ステップにおいて、培養条件などは、通常の接着培養を行う場合の条件に準じてよい。例えば、市販の接着培養用培養容器を用いて、37℃、5%CO条件下での培養などであってよい。細胞の播種密度は、細胞同士の接着および/または細胞と培養基材との接着の形成を妨げない密度であればいかなる密度であってもよく、例えばサブコンフルエントな密度であってもよいし、コンフルエントに達する密度またはそれ以上であってもよい。培養時間は、細胞同士の接着および/または細胞と培養基材との接着が形成される程度の時間であればよく、具体的には例えば2~24時間、2~12時間、2~6時間、2~4時間程度であればよい。
【0053】
本発明の製造方法に用いる培養液は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。本発明の一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。しかしながら、本発明の製造方法に用いる場合は、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。
【0054】
本発明の別の側面において、上記移植片、特にシート状細胞培養物の製造、とくに増殖培養を経ないシート状細胞培養物の製造に用いる一部またはすべての要素を含む、移植片を製造するためのキットに関する。
本発明のキットは、限定されずに、例えば、凍結保存細胞の融解後に希釈するためのヒト由来アルブミン含有緩衝液のほか移植片を形成する細胞(例えば、凍結保存細胞、本発明の回収方法により回収された細胞等)、培養液、培養皿、器具類(例えば、ピペット、スポイト、ピンセット等)、シート状細胞培養物の製造方法に関する指示(例えば、使用説明書、製造方法や本発明の凍結保存細胞の回収方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等)などを含んでいてもよい。
【0055】
(5)移植片を用いた処置方法
本開示の別の側面は、本開示の製造方法により製造された移植片、特にシート状細胞培養物を用いた疾患を処置方法に関する。本発明の一態様において、本開示の製造方法により製造されたシート状細胞培養物は、骨格筋芽細胞および/または衛星細胞を含む。本発明の別の態様において、本開示の製造方法により製造されたシート状細胞培養物は、骨格筋芽細胞、衛星細胞、線維芽細胞および/または間葉系幹細胞を含む。本開示のシート状細胞培養物は、シート状細胞培養物の適用により改善される疾患、例えば、組織の異常に関連する種々の疾患の処置に有用である。したがって、一態様において、本開示のシート状細胞培養物は、シート状細胞培養物の適用により改善される疾患、特に、組織の異常に関連する疾患の処置に用いるためのものである。本開示のシート状細胞培養物は、従来のシート状細胞培養物に比べて高い機械的強度を有する以外は、これと同様の構成細胞固有の性質を有しているため、少なくとも従来の筋芽細胞または線維芽細胞を含むシート状細胞培養物による処置が可能な組織や疾患に適用することができる。処置の対象となる組織としては、限定されずに、例えば、心筋、角膜、網膜、食道、皮膚、関節、軟骨、肝臓、膵臓、歯肉、腎臓、甲状腺、骨格筋、中耳、骨髄、胃、小腸、十二指腸、大腸などの消化管などが挙げられる。また、処置の対象となる疾患としては、限定されずに、例えば、心疾患(例えば、心筋傷害(心筋梗塞、心外傷)、心筋症など)、角膜疾患(例えば、角膜上皮幹細胞疲弊症、角膜損傷(熱・化学腐食)、角膜潰瘍、角膜混濁、角膜穿孔、角膜瘢痕、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡など)、網膜疾患(例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症など)、食道疾患(例えば、食道手術(食道ガン除去)後の食道の炎症・狭窄の予防など)、皮膚疾患(例えば、皮膚損傷(外傷、熱傷)など)、関節疾患(例えば、変形性関節炎など)、軟骨疾患(例えば、軟骨の損傷など)、肝疾患(例えば、慢性肝疾患など)、膵臓疾患(例えば、糖尿病など)、歯科疾患(例えば、歯周病など)、腎臓疾患(例えば、腎不全、腎性貧血、腎性骨異栄養症など)、甲状腺疾患(例えば、甲状腺機能低下症など)、筋疾患(例えば、筋損傷、筋炎など)、中耳疾患(例えば、中耳炎など)、骨髄疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、免疫不全疾患など)が挙げられる。本開示のシート状細胞培養物が上記疾患に有用であることは、例えば、特許文献1、非特許文献1、Tanaka et al., J Gastroenterol. 2013;48(9):1081-9.などに記載されている。本開示のシート状細胞培養物は、注射可能な大きさに断片化し、これを処置が必要な部位に注射することで、単細胞懸濁液による注射よりも高い効果を得ることもできる(Wang et al., Cardiovasc Res. 2008;77(3):515-24)。したがって、本開示のシート状細胞培養物についても、このような利用法が可能である。
【0056】
本開示の別の側面は、本開示の方法により製造された移植片の有効量を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記対象における疾患を処置する方法に関する。処置の対象となる疾患は、上記したとおりである。
【0057】
本開示において、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、組織の異常に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0058】
本開示の処置方法においては、移植片の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、本開示の移植片等と併用することができる。
【0059】
本開示の処置方法は、本開示の製造方法に従って、本開示の移植片を製造するステップをさらに含んでもよい。本開示の処置方法は、移植片を製造するステップの前に、対象から移植片を製造するための細胞(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚細胞、血球等)または細胞の供給源となる組織(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚組織、血液等)を採取するステップをさらに含んでもよい。一態様において、細胞または細胞の供給源となる組織を採取する対象は、細胞培養物、組成物、または移植片等の投与を受ける対象と同一の個体である。別の態様において、細胞または細胞の供給源となる組織を採取する対象は、細胞培養物、組成物、または移植片等の投与を受ける対象とは同種の別個体である。別の態様において、細胞または細胞の供給源となる組織を採取する対象は、移植片等の投与を受ける対象とは異種の個体である。
【0060】
本開示において、有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量(例えば、シート状細胞培養物のサイズ、重量、枚数等)であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
【0061】
投与方法としては、例えば、静脈投与、筋肉内投与、骨内投与、髄腔内投与、組織への直接的な適用などが挙げられる。投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。組織に適用する際、本発明の細胞培養物、組成物、またはシート状細胞培養物等を対象の組織に縫合糸やステープルなどの係止手段により固定してもよい。
【0062】
以下に本発明の具体的な態様を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【実施例
【0063】
例1.アルブミン濃度と回収生細胞数の相関
ヒト成人大腿部から無菌的に採取した骨格筋組織から得られた細胞を培養フラスコに播種し、20%FBSを含有するMCDB131培地中で増殖させた。増殖させた細胞をタンパク質分解酵素液で培養フラスコから剥離させ、回収後、遠心分離により濃縮して、骨格筋芽細胞を含む細胞集団を得た。
【0064】
凍結保存細胞の融解および生細胞の回収は次の通りに行った。上記で得られた細胞集団(1.0×10個)を凍結保存した4本のクライオチューブを、37℃に設定したウォーターバスに2~3分間入れ、凍結保存細胞を融解した。融解した細胞懸濁液を、1.8mLクライオチューブから225mLコニカルチューブにそれぞれ移した。次に各コニカルチューブに0%、0.5%、1.25%、および2.5重量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含有させたDMEMを一定の速度で滴下して、それぞれ30mL加え、4℃、240×gで7分間遠心した後上清を廃棄した。再び各濃度のHSAを含む緩衝液を30mL加えて4℃、240×gで7分間遠心した後上清を廃棄し、各濃度のHSAを含む緩衝液を5mL加えて細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁液の一部を抜き取り、トリパンブルーに混合した後セルカウントを実施し、セルカウント結果から融解後の回収生細胞数を計数した。
【0065】
0%HSA含有DMEMで希釈した際の回収生細胞数を1とした場合の各濃度における回収生細胞数の結果を図1に示す。ヒト血清アルブミン濃度の増加につれて回収生細胞数が高くなり、2.5%以上の濃度で最も高くなった。
【0066】
例2.緩衝液成分の検討
凍結融解時の希釈用緩衝液の成分を検討するために、後述する(i)無機塩、(ii)糖類、(iii)ビタミン類、(iv)アミノ酸類を

表1のとおりに配合し緩衝液1~5を各1L作成した。なお緩衝液1~5の全てに、ピルビン酸・Na:55mg、ヒポキサンチンNa:2.39mg、リノール酸:0.042mg、α-リポ酸:0.105mg、フェノールレッド:8.1mg、プトレシン2HCL:0.081mg、チミジン:0.365mgを添加した。例1において緩衝液として4種類の濃度のHSAを含むハンクス平衡塩液を使用した代わりに、2.5重量%HSAを含む緩衝液1~5を使用した以外は、例1と同様に行なった。
【表1】
【0067】
(i)無機塩類:
塩化カルシウム(無水):116.6mg、硫酸銅(II)・5HO:0.0013mg、三硝酸鉄(III)・9HO:0.05mg、硫酸鉄(II)・7HO:0.417mg、塩化マグネシウム:28.64mg、硫酸マグネシウム(無水):48.84mg、炭酸水素ナトリウム:2438mg、塩化カリウム:311.8mg、塩化ナトリウム:6995.5mg、りん酸水素二ナトリウム:71.02mg、りん酸水素ナトリウム・HO:62.5、硫酸亜鉛・7HO:0.432mg
(ii)糖類
D-グルコース:3151mg
(iii)ビタミン類
ビオチン:0.0035mg、塩化コリン:8.98mg、D-パントテン酸カルシウム:2.24mg、葉酸:2.65mg、ナイアシンアミド2.02mg、ピリドキサール・HCl、2.013mg、リボフラビン:0.219mg、チアミン・HCl:2.17mg、ビタミンB12:0.68mg、i-イノシトール:12.6mg
(iv)アミノ酸類
グリシン:18.75mg、L-アラニン:4.45mg、
L-アルギニン・HCl:0.084mg、L-アスパラギン・HO:7.5mg、L-アスパラギン酸:6.65mg、L-システイン・HCl・HO:17.56mg、L-シスチン・2HCl:31.29mg、L-グルタミン酸:7.35mg、L-グルタミン:365mg、L-ヒスチジン・HCl・HO:31.48mg、L-イソロイシン:54.47mg、L-ロイシン:59.05mg、L-リジン・HCl:91.25mg、L-メチオニン:17.24mg、L-フェニルアラニン:35.48mg、L-プロリン:17.25mg、L-セリン:26.25mg、L-スレオニン:53.45mg、L-トリプトファン:9.02mg、L-チロシン・2Na・2HO:55.79mg、L-バリン:52.85mg
【0068】
緩衝液1~5で希釈して得られた細胞懸濁液の一部を抜き取り、トリパンブルーに混合する前後でセルカウントを実施し回収した全細胞数および回収生細胞数を決定し、下記の式にて生残率および回収率を算出した。
生残率(Viability)(%)=融解後の生細胞数/融解後の全細胞数×100
回収率(Recovery rate)(%)=融解後の生細胞数/融解前の生細胞数×100
細胞懸濁液の一部を抜き取り抗CD56抗体を反応させ、フローサイトメーターを用いて生細胞に対するCD56陽性細胞率を測定した。
【0069】
凍結融解時の希釈用緩衝液として糖類、ビタミン類およびアミノ酸類の3種を組み合わせた緩衝液1の培地が特に好ましいことが分かった。したがって緩衝液のベースとなる無機塩類のほかに、糖類、ビタミン類およびアミノ酸類をアルブミン含有緩衝液へ添加し、これを使って希釈することによって回収生細胞数、生残率、回収率およびCD56陽性細胞の比率を高められることが明らかとなった。
図1