(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】回転切削チェーン加工工具、そのような加工工具を備えるウォールソー装置、環状部材、および環状部材を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
B27B 17/04 20060101AFI20241106BHJP
B28D 1/08 20060101ALI20241106BHJP
B27B 17/08 20060101ALI20241106BHJP
B23D 57/02 20060101ALN20241106BHJP
B23D 61/18 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
B27B17/04
B28D1/08
B27B17/08 A
B23D57/02
B23D61/18
(21)【出願番号】P 2021564172
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 SE2020050567
(87)【国際公開番号】W WO2020263154
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-10
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】511268591
【氏名又は名称】ハスクバーナ・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ヨンソン
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-207730(JP,A)
【文献】米国特許第04981129(US,A)
【文献】特開2007-136575(JP,A)
【文献】特表2019-524478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27B 17/04
B28D 1/08
B27B 17/08
B23D 57/02
B23D 61/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工工具(100)であって、
切削チェーン(110)と、
前記切削チェーン(110)を駆動するための駆動機構と、
1つ以上の支持ローラ(130、140、150)により回転可能に支持されて配置されている環状部材(120)であって、切削中、前記切削チェーン(110)を支持するように構成されているリム(230)を備える、環状部材(120)と、
前記加工工具(100)の切削領域(101)から離れて、前記環状部材(120)から距離を置かれて配置されている支持ホイール(160)と、
を備え、
前記切削チェーン(110)は、前記環状部材(120)のリムセグメント(102)に支持されて、かつ前記支持ホイール(160)のリムセグメント(103)に支持されて配置されており、前記環状部材(120)の前記リムセグメント(102)は前記加工工具(100)の前記切削領域(101)の一部を形成
し、
前記環状部材(120)は、前記切削チェーン(110)の対応する突出部に係合するように構成されている複数の陥凹部(210)を備えるリム部を有し、外側支持ローラ(140)が、駆動され、前記環状部材(120)の前記複数の陥凹部(210)と係合するように構成される、
加工工具(100)。
【請求項2】
前記切削チェーンは、木を切削するための歯を備える、請求項1に記載の加工工具(100)。
【請求項3】
前記切削チェーンは、コンクリートまたは石を切削するための研磨要素を備える、請求項1に記載の加工工具(100)。
【請求項4】
前記駆動機構は、前記支持ローラ(130、140、150)のうちの1つ以上を駆動するように配置されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項5】
スプロケットが、前記支持ローラ(130、140)のうちの1つを構成する、請求項4に記載
の加工工具(100)。
【請求項6】
前記切削チェーン(110)は、前記環状部材(120)の対応するリム構造と係合するように構成されている表面構造を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項7】
前記切削チェーン(110)の前記表面構造は、前記環状部材(120)の前記リム(230)に形成されている対応する陥凹部(210)に係合するように構成されている突出部を備える、請求項6に記載の加工工具(100)。
【請求項8】
前記環状部材(120)は、2つの環状サイドプレート(400)により形成され、前記2つの環状サイドプレート(400)の間に環状センタープレート(300)が配置されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項9】
前記環状センタープレート(300)は、前記切削チェーン(110)の対応する突出部に係合するように構成されている陥凹部(210)を備えるリム部を有する、請求項8に記載の加工工具(100)。
【請求項10】
前記2つの環状サイドプレート(400)と前記環状センタープレート(300)とは、共にかしめられる(220)、請求項8または9に記載の加工工具(100)。
【請求項11】
前記2つの環状サイドプレート(400)と前記環状センタープレート(300)とは、共にスポット溶接される、請求項8から10のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項12】
前記環状部材は、様々な直径を有する1つ以上の別の環状部材により交換可能であり、それにより、前記切削チェーンと前記駆動機構との間に様々な速度比またはトルク比を提供する、請求項1から11のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項13】
前記支持ホイール(160)は前記環状部材(120)から離れる方向に付勢され、それにより、前記切削チェーン(110)の張力付与を提供する、請求項1から12のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項14】
前記支持ホイール(160)は、前記切削チェーンを駆動するように配置されている駆動スプロケットである、請求項1から13のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項15】
前記支持ローラ(130、140、150)のうちの1つ以上が前記支持ホイール(160)から離れる方向に付勢され、それにより、前記環状部材(120)を前記支持ホイール(160)から離れる方向に付勢して、前記切削チェーン(110)の張力付与を提供する、請求項1から14のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項16】
前記支持ローラ(130、140、150)のうちの外側支持ローラ(150)が、前記加工工具による平面切削動作のために除去可能である、請求項1から15のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項17】
前記駆動機構は電気エネルギー貯蔵部により動力を供給される、請求項1から16のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項18】
前記環状部材(120)の回転を停止するように配置されているブレーキデバイス(170)を備える、請求項1から17のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項19】
前記加工工具は携帯用パワーカッタである、請求項1から18のいずれか一項に記載の加工工具(100)。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載の前記加工工具(100)を備えるウォールソー装置(1300)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンクリートおよび石などの硬質材料ばかりでなく、木などの軟質材料も切削するための加工工具が本明細書に開示されている。また、ウォールソー装置、および工具の切削チェーンを支持するのに適している環状部材を作製するための製造方法が開示されている。
【背景技術】
【0002】
コンクリートおよび石などの硬質材料を切削するための加工工具は、大きい力および激しい機械的摩擦を受けることが多い。また、生成されたダストおよびスラリが例えば閉塞に関連する問題を引き起こし、高性能の耐久性のある加工工具を設計することを困難にする可能性がある。
【0003】
カットオフディスク(cut-off disc)が、一般的に、硬質材料に切り込むために使用される。研磨要素が、切削される材料を研磨するスチールディスクのリムに沿って配置されている。カットオフディスクは比較的重く、動作中かなりの量のエネルギーを蓄える。この重量および蓄えられたエネルギーがディスクの取扱いを厄介にする。また、カットオフディスクを使用して達成可能な切削深さはディスクの直径の約半分に制限され、それは欠点である。
【0004】
チェーンソーは、研磨動作に適合されており、硬質材料を切削するためにうまく使用されている。チェーンはカットオフディスク程のエネルギーを蓄えず、チェーンがより容易に停止され得るので、それは利点である。また、チェーンソーは、カットオフディスクと比較して、より深い切削を行うように設計され得る。
【0005】
特許文献1が、硬質材料に切り込むために適合されたチェーンソーを開示している。しかし、切削チェーンは、切削チェーンを急速に磨耗させる機械的応力に晒される。
【0006】
特許文献2が、研磨動作のためにワイヤを使用して、コンクリートおよび石などの硬質材料を切削する、手動で操作される切削デバイスを開示している。ワイヤは、深い切削を可能にする環状部材に支持されているが、ワイヤは、ワイヤに配置されている比較的少数の研磨ワイヤビーズに因り、急速に磨耗する可能性が高い。
【0007】
硬質材料内への深い切込みを行うことを可能にする、チェーンの磨耗が低減された回転切削チェーン加工工具が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第4,981,129号明細書
【文献】米国特許第6,119,674号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の目的が、切削チェーンと、切削チェーンを駆動するための駆動機構と、1つ以上の支持ローラにより回転可能に支持されて配置されている環状部材と、を備え、環状部材は、切削中に切削チェーンを支持するように構成されているリムと、加工工具の切削領域から離れて、環状部材から距離を置かれて配置されている支持ホイールと、を備える、加工工具を提供することである。切削チェーンは、工具の切削領域の一部を形成する、環状部材のリムセグメントに支持されて、かつ工具の切削領域から離れる方向の支持ホイールのリムセグメントに支持されて配置されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このように、チェーンは、それが材料に切り込む時、環状部材により支持されている。機械的応力が複数のチェーンリンクに亘って均等に分配され、それにより、個々のチェーンリンク上の荷重を低減する。環状部材は、深い切削が行われることを可能にし、動作中、カットオフディスクと比較してそれほどの量のエネルギーを蓄えず、それは利点である。また、大きいカットオフディスクと比較して、減少した重量に因り、環状部材およびチェーンを取り扱うことがより容易である。コンクリートおよび石を切削するためのワイヤソーが一般に知られているが、これらは、本明細書において説明されている加工工具とは根本的に異なる。ワイヤは、それが回転対称である(円形断面を有する)ので、切削される材料に対して任意の特定の角度で支持される必要がない。したがって、ワイヤを例えば環状部材に支持することはずっと容易である。本明細書において説明されている加工工具は、チェーンを環状部材に効率的かつ確実に支持するという問題を解決する。
【0011】
態様によれば、駆動機構は、支持ローラのうちの1つ以上を駆動するように配置されている。このように、駆動力は、環状部材を介して、複数のチェーンリンクに亘って均等に分配され、個々のリンク上の機械的応力が低減されるので、それは利点である。
【0012】
態様によれば、スプロケットが支持ローラのうちの1つを構成する。スプロケットは環状部材に対する適切な係合を提供し、それにより、駆動機構の電源と環状部材との間の効率的な連結を提供する。
【0013】
態様によれば、駆動機構は、支持ホイールを駆動するように配置されている。支持ホイールは加工工具の切削領域から離れて配置されており、したがって、電気モータまたは燃焼機関などの駆動電源により都合よくアクセス可能である。電源は支持ホイールに直接接続されてもよく、それは利点である。
【0014】
態様によれば、切削チェーンは、環状部材のリムに形成されている対応する陥凹部に係合するように構成されている突出部を備える。したがって、チェーンは環状部材の金属上で滑動せず、むしろ、それが旋回する時に環状部材に従い、このことはチェーンの磨耗をさらに低減し、効率的な切削動作を提供する。
【0015】
態様によれば、環状部材は、2つの環状サイドプレートにより形成され、2つのサイドプレートの間に環状センタープレートが配置されている。このサンドイッチ構造は機械的強度の向上に関連し、また、費用効率が高い方法で製造し易い。
【0016】
態様によれば、センタープレートは、切削チェーンの対応する突出部に係合するように構成されている陥凹部を備えるリム部を有する。センタープレートにある陥凹部は、組み立てられた環状部材内へ機械加工される代わりに、切取り可能であり、それにより、環状部材を製造するための効率的な製造工程を提供する。サイドプレートとセンタープレートとは、共に、例えばかしめられても、接着されても、またはスポット溶接されてもよい。
【0017】
態様によれば、環状部材は、様々な直径を有する1つ以上の別の環状部材により交換可能であり、それにより、切削チェーンと駆動機構との間に様々な速度比またはトルク比を提供する。このように変速装置が必要なく、それは利点である。
【0018】
態様によれば、支持ホイールは環状部材から離れる方向に付勢され、それにより切削チェーンの張力付与を提供する。
【0019】
態様によれば、支持ローラのうちの1つ以上が支持ホイールから離れる方向に付勢され、それにより環状部材を支持ホイールから離れる方向に付勢して、切削チェーンの張力付与を提供する。
【0020】
適正に張力をかけられた切削チェーンがチェーンの磨耗を低減し、それは利点である。
【0021】
態様によれば、支持ローラのうちの外側支持ローラが、加工工具による平面切削動作のために、除去可能である。平面切削能力が加工工具から支持ローラを取り外すだけで都合よく得られ得ることが利点である。
【0022】
態様によれば、駆動機構は、充電池などの電気エネルギー貯蔵部により動力を供給される。この電気エネルギー貯蔵部は、いくつかの態様によれば、搭載電池すなわち加工工具に取り付けられている電池であってもよい。重量の減少に因り、加工工具は、電池式電気自動車などの電気エネルギー貯蔵電源との使用に特に適している。
【0023】
また、前述の利点のうちの少なくともいくつかに関連するウォールソー装置、製造方法、および環状部材が本明細書において開示されている。
【0024】
一般に、特許請求の範囲において用いられている全用語が、本明細書に明示的に別段の定義がない限り、当技術分野においてそれらの通常の意味に基づいて解釈されるべきである。「要素、装置、構成要素、手段、ステップ等」への全言及が、別段の明示的記載がない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップ等の少なくとも一例に言及していると、オープンに解釈されるべきである。本明細書に開示されている任意の方法のステップは、明示的記載がない限り、開示されている正確な順序で実施される必要がない。本発明のさらなる特徴および利点が、添付の特許請求の範囲および下記の明細書を検討すると、明らかになるであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の様々な特徴を組み合わせて、下記に記載されているもの以外の実施形態を作り出すことができることを、当業者は理解する。
【0025】
ここで、本開示は、添付図面を参照して、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】チェーンを支持するための環状部材の細部の図である。
【
図3】チェーンを支持するための環状部材の部品の図である。
【
図4】チェーンを支持するための環状部材の部品の図である。
【
図5】チェーンを支持するための環状部材の細部の図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ここで、本発明は、添付図面を参照して、以下により完全に説明され、そこに本発明の一定の態様が示されている。しかし、本発明は多くの様々な形で具現化される可能性があり、本明細書に記載されている実施形態および態様に限定されると見なされるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的で完全であるように、かつ当業者に本発明の範囲を完全に伝えるために、例として与えられている。本明細書を通じて、同様の数字は同様の要素を指す。
【0028】
図1は、切削領域101を有する加工工具100を示す。加工工具100は、例によれば、携帯用パワーカッタまたはウォールソー装置の一部であり得る。工具は切削チェーン110と、切削チェーン110を駆動するための駆動機構(
図1に示されていない)と、を備える。
【0029】
駆動機構は、電源と、切削チェーンを駆動させるために電源を切削チェーン110に連結するための連結手段と、を備える。本明細書において検討されている加工工具は、以下により詳細に検討される、電源と連結手段との両方に関するいくつかの異なる選択肢を含む。
【0030】
環状部材120が、1つ以上の支持ローラ130、140、150により回転可能に支持されて配置されている。環状部材120は、例えば、
図3および
図4に示されているように、円形内縁部121および円形外縁部122と同一平面上にある。内側リング支持ローラ130が環状部材120の内縁部を支持し、一方、外側リング支持ローラ140が環状部材の外縁部122を支持する。したがって、環状部材は回転可能に支持されており、環状部材がその中心軸を中心として回転することができるが、さもなければ所定の位置に固定保持されることを意味する。
【0031】
2つの内側リング支持ローラ130は、環状部材120が切削領域101の方向に移動することを防止し、2つの外側リング支持ローラ140は、環状部材が切削領域101から離れて移動することを防止する。これら支持ローラは環状部材を共に支持し、それが環状部材120の中心軸(
図1に示されていない)を中心として回転する、すなわち旋回することを可能にする。また、環状部材120の側面を支持するように、すなわち環状部材120の枢動を防止するように配置されている支持ローラ150が存在する。ここで、枢動運動は、環状部材の中心軸以外の任意の他の軸を中心とした望ましくない回転である。
【0032】
支持ローラは、
図7および
図8に関連して以下により詳細に検討される。
【0033】
加工工具100は、切削領域101から離れて、環状部材120から距離を置かれて配置されている、すなわち切削される材料から距離を置かれている、支持ホイール160も備える。この支持ホイール160は、環状部材120の直径よりも小さい直径を有する。環状部材120と支持ホイール160とは共通面に配置されている。環状部材の回転軸と支持ホイールの回転軸とは平行であるが、互いに距離を置かれている。加工工具100の(
図1に「F」で示されている)順方向は、支持ホイール160の中心軸から環状部材120の中心軸を通る、切削領域101の方向でありかつ環状部材および支持部材の平面内の方向であると、本明細書において定義されている。(
図1に「R」で示されている)逆方向は、順方向Fと反対である。したがって、環状部材120は支持ホイール160に対して順方向に配置されている。
【0034】
環状部材はリング形であり、したがって芯なしである。リングの
図3に示されている径方向幅Wは変化する可能性があるが、30~80mmの間の径方向幅範囲が適切である可能性があり、好ましくは約40mmまたは50mmである。環状部材の直径Dは、いくつかの態様によれば、様々なトルク比または速度比を提供するように選択可能であり、以下により詳細に検討される。環状部材の直径Dの値は約200mmから約800mmまで変化する可能性がある。
【0035】
支持ホイールの直径D’は50~100mmの範囲内にあり、好ましくは約70mmである。支持ホイールの直径を選択する場合、多角形効果等を回避することが好適である。当然のことながら、支持ホイールの直径は自由に選択され得る。支持ホイールの直径と環状部材の直径とは共に、加工工具のトルク比または速度比を決定する。
【0036】
例えば、環状部材の直径Dと支持ホイールの直径D’との間の比率D/D’が3と10との間の範囲内にあってもよく、好ましくは4と8との間である。
【0037】
切削チェーン110は、切削領域101の一部を形成する、環状部材120のリムセグメント102に支持されて、かつまた切削領域101から離れる方向の、すなわち逆方向Rの支持ホイール160のリムセグメント103に支持されて配置されている。したがって、切削チェーンは支持ホイール160のリムから環状部材120のリムまで、かつ再度支持ホイールに戻って延在している。切削のために使用される場合、加工工具の環状部材側は切削される材料に係合させられ、支持ホイール160は環状部材に追随する。当然のことながら、支持ホイール160のリムセグメント103は、動作中、切削される材料と直接係合していない。
【0038】
図1に示されている加工工具は、加工工具がウォールソー(
図13に関連して以下に検討される)として使用される場合に特に望ましい深い真っ直ぐな切削を行うことを可能にする。例えば特許文献2に開示されているものなどのワイヤソーが、補強筋などの異なる硬度の領域に遭遇した場合、真っ直ぐな切削から方向転換することが知られている。特許文献2に示されている工具がチェーンと共に使用するのに適していないことを、出願人は言及している。これは、環状部材がリムに、切削チェーンを支持することができないv形溝部を有するからである。切削動作が開始されると、この溝部により支持される任意の切削チェーンが直ぐに横方向に折れ曲がり、壊れる。
図6は加工工具の例示的使用を示し、そこで加工工具は壁等に切り込むために使用される。壁材料は
図6にWとして示されている。切削される材料に係合するのは加工工具の環状部材側であり、加工工具の支持ホイール側でないことが分かる。
【0039】
加工工具は、コンクリートまたは石などの硬質材料を研磨するための研磨要素を備える切削チェーンと共に使用されることが有利である。しかし、また、切削チェーンは、木のようなより柔らかい材料を切削するように配置されている歯を備える切削チェーンであってもよい。
【0040】
加工工具による切削動作中、チェーンは駆動機構により動力を供給され、それにより、環状部材120および支持ホイール160はチェーンを支持して旋回する。従来のチェーンソー刃ではよくあることだが、これはチェーンが金属上で滑らないことを意味する。旋回する環状部材を備える本装置は摩擦を低減し、チェーン上の機械的応力を軽減し、それにより、より耐久性のある効率的な加工工具を提供する。
【0041】
駆動機構は、燃焼機関、電気モータ、またはハイブリッド燃焼機関および電気モータ駆動装置のいずれかであってもよい。駆動機構は油圧駆動装置も備え得る。環状部材とチェーンとの組合せの比較的軽い重量に因り、開示されている加工工具は、同様の寸法のカットオフホイールと比較して、電池(または他の電気エネルギー貯蔵部)式駆動機構との使用に特に適している。これは、少なくとも部分的に、軽重量環状部材が、より重いカットオフディスクと比較して、動作可能な回転速度まで上げるのにより少ないエネルギーしか必要としないからである。電池は、搭載電池すなわち加工工具内に備えられかつ加工工具と共に運ばれる電池であってもよい。適用可能である可能性がある他の電気エネルギー貯蔵デバイスは、例えば超コンデンサおよび燃料電池である。
【0042】
いくつかの態様によれば、駆動機構は、支持ローラのうちの1つ以上、例えば
図1に示されている外側リング支持ローラ140の一方または両方、を介して切削チェーンを駆動するように配置されている。この場合、動力は電源から支持ローラを介して環状部材120へ伝達される。環状部材120は、次いで、切削動作中に切削チェーン110を駆動する大駆動ホイールまたはスプロケットとしての機能を果たす。
【0043】
図14は、別個の駆動ホイール135が環状部材120の内縁部に係合するように配置されている例を示す。この駆動ホイール135は、環状部材120の内縁部に形成されている対応する陥凹部に係合するように構成されている歯または突出部を備え得る。
図15は、別個の駆動ホイール145が環状部材120の外縁部に係合するように配置されている別の例を示す。両例における環状部材120も、切削動作中に切削チェーン110を駆動する大駆動ホイールまたはスプロケットとしての機能を果たす。
【0044】
別個の駆動ホイール135、145は、
図3に示されている駆動装置と類似した方法で提供され得る。
【0045】
環状部材120は、用途に応じて、時計回り方向または反時計回り方向のどちらかに回転し得る。本開示はいかなる特定の回転方向にも限定されない。
【0046】
図2を参照すると、環状部材120は、環状部材120の外側リム230に形成されている陥凹部210および突出部215を備えて構成され得る。これらの陥凹部および突出部は、切削チェーン110と係合するように構成され得、すなわち切削チェーン110は、環状部材120のリム230に形成されている対応する陥凹部210に係合するように構成されている突出部を任意選択で備える。したがって、環状部材120は、切削動作中に切削チェーンを実際に駆動するように配置され得る。より従来の駆動スプロケットと比較して環状部材の大きな直径に因り、切削チェーン上の機械的応力は多くのチェーンリンクに亘って分配され、それによりチェーンの寿命を長くする。
【0047】
また、外側リング支持ローラ140は、環状部材の陥凹部210および突出部215と係合するように構成されているスプロケットとして設けられてもよく、それにより、駆動ローラと環状部材との間に効率的な動力伝達機構を提供する。
【0048】
いくつかの他の態様によれば、駆動機構は支持ホイール160を駆動するように配置されている。支持ホイール160は、次いで、従来のチェーンソー駆動スプロケットの機能と同様に、切削チェーン110に動力を伝達する。任意選択で、支持ホイールは、切削チェーン110の対応する構造と係合可能であるように構成されているリム構造を有する。例えば、支持ホイール160は、切削チェーンに形成されている陥凹部と係合して切削チェーンを駆動するように構成されている突出部を有する駆動スプロケットであり得る。
【0049】
加工工具100は、チェーンを回転から停止させるように配置されているチェーンブレーキを備え得る。そのようなチェーンブレーキは、任意選択で、環状部材120に係合するように構成されているディスクブレーキ170として実施され得る。また、ブレーキデバイスは支持ローラ130、140、150のうちのいずれかとまたは支持ホイール160と係合して、切削チェーン110の回転を防止するように構成され得る。
【0050】
当然のことながら、また、駆動機構は外側リング支持ローラ140と支持ホイール160との両方を駆動するように構成され得る。
【0051】
図3および
図4は環状部材120の部品300、400を示す。いくつかの態様によれば、環状部材120は、2つの環状サイドプレート400により形成され、2つのサイドプレート400の間に環状センタープレート300が配置されている。2つの環状サイドプレート400とセンタープレート300とは、例えば、共にかしめられ(220)ても、またはそれらは共にスポット溶接されてもよい。センタープレート300は、切削チェーン110の対応する突出部に係合するように構成されている陥凹部210を備えるリム部を備えて構成され得る。
【0052】
図3は、任意選択の駆動スプロケット支持ローラ310も示し、それは外側リング支持ローラ140のうちの1つであり得る。
【0053】
図5は、加工工具100のための例示的環状部材120の断面図である。環状部材120は、2つの環状サイドプレート400により形成され、2つのサイドプレート400の間に環状センタープレート300が配置されており、センタープレート300は、加工工具100の切削チェーン110の対応する突出部に係合するように構成されている陥凹部210を備えるリム部を有する。
【0054】
センタープレート300は、サイドプレートの径方向幅W2よりも若干小さい径方向幅W1を有して構成され得る。
図3に概略的に示されている径方向幅Wは、例えば、環状部材120の最大幅であり得る。
【0055】
環状部材120は、一般に、チェーンが中で支持される、環状部材120のリムに形成されている溝部510を備える。この溝部510は、
図5に示されているように、環状部材120の延長面に実質的に平行に延在している側壁520と、側壁に実質的に直交する、すなわち環状部材120の回転軸に平行な底部530と、を有する。
【0056】
溝部510の他の形状も可能であるが、環状部材120の回転軸に平行に延在する底部530を有する溝部が、環状部材120の回転中心に向かう方向に、切削される材料によりかけられる圧力Fに対抗してチェーンのための支持を提供するために望ましい。また、溝部の形状が、溝部内に受容されるように配置されるチェーンの部分の形状に合致することが望ましい。
【0057】
図6は、加工工具100のための環状部材120を製造する製造方法を概略的に示す流れ図である。本方法は、2つの環状サイドプレート400を得るステップS1と、環状センタープレート300を得るステップS2であって、センタープレート300は、加工工具100の切削チェーン110の対応する突出部に係合するように構成されている陥凹部210を備えるリム部を有する、ステップS2と、サイドプレートをセンタープレートの両面に取り付けて、環状部材120を製造するステップS3と、を含む。
【0058】
サイドプレート400およびセンタープレート300は形状にレーザ切削されてもよく、それは、環状部材のための部品を製造するコスト効率の高い高精度の方法である。環状部材の部品を組み立てるために、スポット溶接が好適である可能性があるが、かしめることも可能であり、またはさらにはサイドプレートをセンタープレートに接着することも可能である。
【0059】
多くの既知の加工工具に関連する問題が、様々な駆動速度比またはトルク比を提供することである。様々な駆動速度比またはトルク比の選択を可能にするために、変速装置が設けられることが多い。環状部材が、様々な直径を有する1つ以上の別の環状部材により交換可能であるように任意選択で配置されて、それにより切削チェーンと駆動機構との間に様々な速度比またはトルク比を提供するので、本設計は変速装置を必要としないことが有利である。様々な環状部材および加工工具は一式の部品として設けられ得る。
【0060】
環状部材を様々な直径を有する別の環状部材と交換するために、支持ローラ130、140、150は、様々な直径を有する様々な環状部材に対処するために移動可能でなくてはならない。例えば、支持ローラ130、140、150は、付勢されて環状部材120を圧迫するばねであってもよい。また、支持ローラは、環状部材交換作業過程中に取外し可能でありかつ次いで新しい環状部材を所定の位置に保持するために再度係合される解除式張力付与機構と共に配置され得る。
【0061】
いくつかの態様によれば、支持ホイール160は、制御された量の張力を切削チェーン110に与える張力付与機構としても使用される。この場合、支持ホイールは、環状部材120から離れる方向に、すなわち逆方向Rに付勢されて配置され、それにより切削チェーン110の張力付与を提供する。
【0062】
内側リング支持ローラ130および外側リング支持ローラ140も張力付与機能を提供するように構成され得る。内側リング支持ローラおよび外側リング支持ローラは、切削領域101の方向に、すなわち順方向に支持ホイール160から離れて付勢されて配置されており、したがって環状部材120は支持ホイール160から離れる方向に付勢され、それにより切削チェーン110の張力付与を提供する。
【0063】
いくつかの切削状況では、平面切削が望ましい。外側支持ローラ150は、次いで、平面切削動作を可能にするために除去され得る。加工工具100がウォールソー装置において使用される場合、工具が環状部材と支持ホイール160との間のチェーン110の平坦部を使用して切削することを可能にすることにより、切過ぎが低減され得る。
【0064】
図7および
図8は例示的支持ローラ700、800を示す。
【0065】
図9は、駆動スプロケット160’として構成されている支持ホイールを示す。
【0066】
図10~
図12は、加工工具100と共に使用するための例示的切削チェーン110の細部を示す。
【0067】
図13は、前段の検討による加工工具100を備えるウォールソー装置1300を概略的に示す。ウォールソーは、加工工具100が沿って横断するように配置されている柱または支持リグ1310を備える。支持リグ1310は、例えばボルトで留めることにより、切削される壁Wまたは他の平坦面に固定取付けされる(1320)ように配置されている。ウォールソー作動機械1330が、加工工具100を柱に沿って移動させ、かつまた加工工具切削領域を、切削される材料に当接して移動させるように配置されている。
【符号の説明】
【0068】
100 加工工具
101 切削領域
102 (環状部材120の)リムセグメント
103 (支持ホイール160の)リムセグメント
110 切削チェーン
120 環状部材
121 円形内縁部
122 円形外縁部
130 支持ローラ、内側リング支持ローラ
135、145 駆動ホイール
140 支持ローラ、外側リング支持ローラ
150 支持ローラ、外側支持ローラ
160 支持ホイール
160’ 駆動スプロケット
170 ディスクブレーキ
210 陥凹部
215 突出部
220 かしめられた箇所
230 外側リム
300 部品、環状センタープレート
310 駆動スプロケット支持ローラ
400 部品、環状サイドプレート
510 溝部
520 側壁
530 底部
700、800 例示的支持ローラ
1300 ウォールソー装置
1310 柱、支持リグ
1320 固定取付けされた箇所
1330 ウォールソー作動機械
D 環状部材の直径
D’ 支持ホイールの直径
F 順方向、圧力
R 逆方向
W 径方向幅、壁材料、壁
W1 センタープレートの径方向幅
W2 サイドプレートの径方向幅