(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 9/06 20060101AFI20241106BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241106BHJP
C12P 13/04 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C12N9/06 Z ZNA
C12N15/53
C12N15/10 200Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P13/04
(21)【出願番号】P 2021569424
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 CN2020089775
(87)【国際公開番号】W WO2020233451
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】201910434350.1
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523212656
【氏名又は名称】シャンハイ・チージョウ・ズユェ・バイオテクノロジー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI QIZHOU ZIYUE BIOTECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】ROOM 0829, 2ND FLOOR, BUILDING F, NO. 555 DONGCHUAN ROAD, MINHANG DISTRICT, SHANGHAI 201100, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ティアン,ゼンホア
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チャンビン
(72)【発明者】
【氏名】ディン,シャオナン
(72)【発明者】
【氏名】ジァオ,チー
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,ウェンシュアン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,フェン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108588045(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107502647(CN,A)
【文献】Applied Microbiology and Biotechnology,2018, Vol.102, pp.4425-2233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体であって、
前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体のアミノ酸配列は配列表の配列番号7又は配列番号9に示される通りであることを特徴とするL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体。
【請求項2】
請求項
1に記載のL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体をコードすることを特徴とする単離された核酸。
【請求項3】
前記単離された核酸の配列が、配列表の配列番号8又は配列番号10に示される通りであることを特徴とする請求項2に記載の単離された核酸。
【請求項4】
請求項
2又は3に記載の核酸を含む組換え発現ベクター。
【請求項5】
請求項
2若しくは3に記載の核酸又は請求項4に記載の組換え発現ベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
反応溶媒、請求項
1に記載のL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体、無機アミノ供与体、及び還元型補酵素NADPHの存在下で、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩を
アミノ化反応させて、L-グルホシネート塩を得るステップを含むことを特徴とするL-グルホシネート塩の調製方法。
【請求項7】
D-アミノ酸オキシダーゼの存在下で、D-グルホシネート塩を酸化反応させて、前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩を得るステップをさらに含む
請求項6に記載のL-グルホシネート塩の調製方
法。
【請求項8】
前記D-グルホシネート塩は単独で存在するか、L-グルホシネート塩とともに存在し、前記L-グルホシネート塩とともに存在する形態は、D型に富むグルホシネート塩、L型に富むグルホシネート塩又はラセミ体のグルホシネート塩であり、及び/又は、
前記D-アミノ酸オキシダーゼの濃度は0.6~6U/mlであり、及び/又は、
前記酸化反応は通気の条件下で行われ、及び/又は、
前記酸化反応はカタラーゼの存在下で行われ、及び/又は、
前記D-グルホシネート塩の濃度は100~600mMであり、及び/又は、
前記酸化反応の反応系のpHは7~9であり、及び/又は、
前記酸化反応の反応系の温度は20~50℃であることを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
前記D-アミノ酸オキシダーゼの濃度は1.8U/mlであり、及び/又は、
前記通気は空気又は酸素の導入であり、及び/又は、前記通気の速度は0.5~1VVMであり、及び/又は、
前記D-グルホシネート塩の濃度は200mMであり、及び/又は、
前記酸化反応の反応系のpHは8.0であり、及び/又は、
前記酸化反応の反応系の温度は20℃であることを特徴とする請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体の濃度は0.05~3U/mlであ
り、及び/又は、
前記無機アミノ供与体の濃度は100~2000mMであ
り、及び/又は、
前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩の濃度は100~600mMであ
り、及び/又は、
前記還元型補酵素NADPHと前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩との質量比は1:100~1:20000であ
り、及び/又は、
前記無機アミノ供与体は、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、及び重炭酸アンモニウムのうちの一種又は複数種であ
り、及び/又は、
前記反応溶媒は水であり、及び/又は、
前記
アミノ化反応の反応系のpHは7~9であ
り、及び/又は、
前記
アミノ化反応の反応系の温度は20~50℃で
あることを特徴とする請求項6
~9のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項11】
デヒドロゲナーゼ及び水素供与体の存在下で、酸化型補酵素NADP
+を還元反応させ、前記還元型補酵素NADPHを得るステップをさらに含
むことを特徴とする、請求項6~
10のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項12】
前記デヒドロゲナーゼは、グルコースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、又はギ酸デヒドロゲナーゼであり、及び/又は、前記水素供与体は、グルコース、イソプロパノール、又はギ酸塩であることを特徴とする請求項11に記載の調製方法。
【請求項13】
前記デヒドロゲナーゼがアルコールデヒドロゲナーゼであるとき、前記水素供与体はイソプロパノールであり、前記デヒドロゲナーゼがグルコースデヒドロゲナーゼであるとき、前記水素供与体はグルコースであり、前記デヒドロゲナーゼがギ酸デヒドロゲナーゼであるとき、前記水素供与体はギ酸塩であることを特徴とする請求項12に記載の調製方法。
【請求項14】
前記デヒドロゲナーゼの濃度は0.6~6U/mlであ
り、及び/又は、
前記酸化型補酵素NADP
+と前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩との質量比は1:100~1:20000であ
り、及び/又は、
前記水素供与体の濃度は100~1000mMであ
り、及び/又は、
前記還元反応の反応系のpHは7~9であ
り、及び/又は、
前記還元反応の反応系の温度は20~50℃で
あることを特徴とする請求項
11~13のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項15】
(1)請求項6~
14のいずれか一項に記載の調製方法により、L-グルホシネート塩を調製するステップ、及び
(2)ステップ(1)で得られたL-グルホシネート塩を酸化反応させて、L-グルホシネートを得るステップ、を含むことを特徴とするL-グルホシネートの調製方法。
【請求項16】
L-グルホシネート又はその塩の調製において使用するための請求項
1に記載のL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異
体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、出願日が2019年5月23日である中国特許出願CN201910434350.1の優先権を主張する。本願では、当該中国特許出願を全文引用する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、生物技術分野に属し、具体的にL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体及びその応用に関する。
【背景技術】
【0003】
グルホシネート(2-アミノ-4-[ヒドロキシ(メチル)ホスホノ]酪酸)は、Hearst社が80年代に開発したスペクトラムの広い接触型除草剤である。現在世界の三大除草剤はグリホサート、グルホシネート、パラコートであり、グリホサートやパラコートに比べて、グルホシネートは優れた除草性能及び比較的小さい副作用を有する。グルホシネートにはD-グルホシネートとL-グルホシネートの2つの光学異性体があるが、除草活性を有するのはL-グルホシネートだけなので、L-グルホシネートの開発は原子経済性の向上、コストの低下、環境負荷の軽減に重要な意義がある。
【0004】
現在、L-グルホシネートを調製する方法としては、主にキラル分割法、化学合成法、生体触媒法がある。
【0005】
キラル分割法、例えばCN1053669Cには、キニーネアルカロイドを分割剤として利用する方法が開示され、L-グルホシネートのキニン塩を再結晶し、そして酸で塩を中和してL-グルホシネートを得る。同時に、5-ニトロサリチルアルデヒド又は3,5-ジニトロサリチルアルデヒドをラセミ化試薬として未反応のD-グルホシネートをラセミ化し、DL-グルホシネートを得て、そして分割反応に供する。しかし、この方法では、高価なキラル分割試薬、及び多段階の再結晶が必要であり、操作が複雑であり、理想的な方法ではない。
【化1】
【0006】
化学合成法、例えばUS6936444には、2-アセチルアミノ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-2-ブテン酸をルテニウム触媒で不斉水素化してL-2-アセチルアミノ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-2-酪酸を得て、さらに脱アセチルしてL-グルホシネートを得ることが開示されている。この方法では、高価な金属触媒が必要であり、コストがかかるだけでなく、重金属が残留して、環境汚染が深刻であることが開示されている。
【化2】
【0007】
キラル分割法や化学合成法に比べて、生体触媒法は特異性が強く、反応条件が穏やかであるなどのメリットを有し、L-グルホシネートを生産する優れた方法である。
【0008】
現在、US4389488(A)に記載されているように、N-フェニルアセチル-DL-グルホシネートを基質とし、大腸菌由来のペニシリン-G-アシルトランスフェラーゼを触媒としてL-グルホシネートを得る方法があるが、フェニルアセチルグルホシネートの合成コストは比較的高く、反応終了後にL-グルホシネート、N-フェニルアセチル-D-グルホシネート、フェニル酢酸の混合溶液を得て、強酸カチオン交換樹脂でL-グルホシネートを分離する必要があり、操作が複雑である。
【化3】
【0009】
EP0382113Aには、アシルトランスフェラーゼでN-アセチル-グルホシネートのカルボン酸エステルを触媒的に分解してL-グルホシネートを得る方法が記載されているが、この方法における酵素は遊離のN-アセチル-グルホシネートに対して特異性がないため、N-アセチル-グルホシネートをエステル化する必要があり、反応ステップが増加し、それに応じて生産コストも増加する。
【0010】
また、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸(PPO)を基質とし、トランスアミナーゼ触媒でL-グルホシネートを調製する方法があり、US5221737AとEP0344683Aには、グルタミン酸をアミノ供与体とし、対応するケト酸4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-2-オキソ酪酸から大腸菌由来のアミノトランスアミナーゼの作用によりL-グルホシネートを得る方法が記載されており、反応系に同量又は過剰のアミノ供与体であるグルタミン酸が必要であり、生成物の精製が難しい。CN1284858Cは、上記の方法を改善し、アスパラギン酸をアミノ供与体とし、対応するケト酸4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-2-オキソ酪酸からアスパラギン酸トランスアミナーゼの作用によりL-グルホシネートを得る方法であって、この方法では、アスパラギン酸はオキサリル酢酸に変換されるが、オキサリル酢酸は水含有媒体に不安定であるため、自発的にピルビン酸に脱炭酸され、ピルビン酸は酵素反応により除去できるため、逆反応は不可能であり、反応には等モル量のアミノ供与体とアミノアクセプターだけが必要である。しかし、トランスアミナーゼを用いる方法で使用されるアミノ供与体はアミノ酸であることが多く、コストが高い。
【化4】
【0011】
また、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸(PPO)を基質とし、アミノ酸デヒドロゲナーゼ触媒により、L-グルホシネートを調製する方法もあり、例えばCN106978453Aのように、無機アミノ供与体を採用することで、生成物の分離が簡単であり、コストが低下する。しかし、CN106978453Aでは酵素触媒の基質濃度範囲は10~100mMしかなく、酵素の触媒効率は高くない。
【化5】
【0012】
CN108588045Aでは、L-グルホシネートの調製におけるいくつかのグルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体の応用が開示され、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas Putida)由来のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(NCBI登録番号:NP_742836.1)は、167位のアラニンをグリシンに突然変異するか、378位のバリンをアラニンに突然変異すると、いずれも酵素のPPOに対する触媒能力を向上させること見出し、そして他の由来のグルタミン酸デヒドロゲナーゼの167と378位の相同部位の突然変異体を研究したところ、このような突然変異体は同様にグルタミン酸デヒドロゲナーゼのPPOに対する触媒能力を向上させることができること見出したが、これらの他の由来のグルタミン酸デヒドロゲナーゼの相同部位の突然変異体の組み合わせた突然変異については研究しなかった。さらに、この特許出願では、Pseudomonas Putidaのグルタミン酸デヒドロゲナーゼの前記2部位を同時に突然変異させたが、得られた二重突然変異体の酵素活性の増加倍数は単一突然変異の突然変異体に相当するに過ぎず、かつ生物分野の予測不可能性から、二重突然変異部位の突然変異体の効果は必ずしもそれぞれの単一突然変異の突然変異体よりも優れているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】中国特許第1053669号
【文献】米国特許第6936444号
【文献】米国特許第4389488号
【文献】欧州特許出願公開第382113号
【文献】米国特許第5221737号
【文献】欧州特許出願公開第344683号
【文献】中国特許出願公開第106978453号
【文献】中国特許出願公開第106978453号
【文献】中国特許出願公開第108588045号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来のL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼがL-グルホシネート又はその塩の調製において触媒効率が低いなどの欠点であるため、本発明は、L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体、及びL-グルホシネート又はその塩の調製におけるL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体の応用を提供する。本発明のL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体でL-グルホシネート又はその塩を調製する場合、単一突然変異部位(175又は386位)のグルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体よりも比酵素活性が高いため、酵素の作用効率が向上し、反応コストが低減し、工業的生産に有利である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明で用いられる野生型L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼはLysinibacillus sphaericusのグルタミン酸デヒドロゲナーゼに由来し、アミノ酸配列は配列番号1に示され、Genbank登録番号はWP_012293812.1である。従来技術では、このグルタミン酸デヒドロゲナーゼを2部位で同時に二重突然変異させておらず、かつ生物分野の予測不可能性から、二重突然変異部位の突然変異体の効果は必ずしもそれぞれの単一突然変異の突然変異体よりも優れているとは言えない。本発明者は、この基質である2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸(PPO)に対して、前記野生型酵素の175位と386位を組み合わせて突然変異させたところ、175位のアミノ酸残基AがGに突然変異し、かつ386位のアミノ酸残基Vが立体障害のより小さいアミノ酸残基に突然変異した後、得られた突然変異体の基質PPOに対する比酵素活性は大幅に上昇したという意外な見解を得た。
【0016】
本発明の上記の技術的課題を解決するための技術形態の一は、配列番号1に記載されている配列の175位のアミノ酸残基AをGに突然変異し、及び、386位のアミノ酸残基Vを立体障害のより小さいアミノ酸残基に突然変異した配列であり、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸又はその塩を触媒する活性を有するL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体である。
【0017】
好ましくは、前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体のアミノ酸配列は配列表における配列番号7又は配列番号9に示される通りである。
【0018】
好ましくは、前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体のヌクレオチド配列は配列表における配列番号8又は配列番号10に示される通りである。
【0019】
本発明によれば、前記立体障害のより小さいとは、突然変異したアミノ酸残基は野生配列におけるアミノ酸残基よりも立体障害が小さいことである。前記アミノ酸は修飾された又は修飾されていない天然アミノ酸である。本発明は天然アミノ酸を例に挙げている。
【0020】
本発明の上記の技術的課題を解決するための技術形態の二は、前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体をコードする単離された核酸である。
【0021】
好ましくは、前記核酸をコードするヌクレオチド配列は配列番号8又は配列番号10に示される通りである。
【0022】
本発明の上記の技術的課題を解決するための技術形態の三は、前記核酸を含む組換え発現ベクターである。
【0023】
本発明の上記の技術的課題を解決するための技術形態の四は、前記核酸又は前記組換え発現ベクターを含む形質転換体である。
【0024】
本発明の上記の技術的課題を解決するための技術形態の五は、反応溶媒、L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体、無機アミノ供与体、及び還元型補酵素NADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の存在下で、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩をアンモニア化反応させ、L-グルホシネート塩を得るステップを含むL-グルホシネート塩の調製方法である。
【0025】
前記調製方法において、L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体が本発明により得られた以外、他の原料、反応ステップ及び条件はいずれも本分野の従来のものであり、具体的に前記CN106978453A及び本出願者の出願番号がCN201810162629.4である特許出願を参照できる。
【0026】
前記L-グルホシネート塩の調製方法は、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)の存在下で、D-グルホシネート塩を酸化反応させて、前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩を得るステップをさらに含む。
【0027】
前記酸化反応において、前記D-グルホシネート塩のカチオンは本分野の従来のカチオンであり、例えば、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、及び/又はカリウムイオンなどであってもよい。使用される緩衝液のカチオンであってもよい。
【0028】
前記酸化反応において、前記D-グルホシネート塩は単独で存在してもよいし、L-グルホシネート塩とともに存在してもよく(この場合、L-グルホシネート塩が反応しなくてもよい)、例えば、D型に富むグルホシネート塩(即ち、D型エナンチオマーの含有量>50%、ひいては純D-グルホシネート塩)、L型に富むグルホシネート塩(即ち、L-グルホシネートの含有量>50%、純L-グルホシネート塩の場合を含まない)又はラセミグルホシネート塩などであってもよい。
【0029】
前記酸化反応において、前記Dアミノ酸オキシダーゼ(DAAO)の濃度は本分野の従来のものであってもよく、好ましくは0.6~6U/mlであり、より好ましくは1.8U/mlである。
【0030】
前記酸化反応において、前記D-グルホシネート塩の濃度は本分野の従来のものであってもよく、好ましくは100~600mMであり、より好ましくは200mMである。
前記酸化反応はカタラーゼの存在下で行ってもよい。
【0031】
前記酸化反応は通気の条件下で行ってもよい。前記通気は空気又は酸素の導入であることが好ましい。前記通気の速度は0.5~1VVMであることが好ましい。
【0032】
本発明では、前記空気は本分野の従来の空気であってもよく、一般的に酸素を含み、含まれる酸素の含有量も本分野の従来の含有量である。反応する時に反応に関与するのは空気中の酸素である。
【0033】
前記酸化反応が通気の条件下で行われる場合、前記酸化反応は消泡剤の存在下で行われてもよい。
【0034】
前記酸化反応において、前記反応系のpHは好ましくは7~9であり、より好ましくは8である。前記pHは緩衝液によって実現できる。前記pHはアルカリ(又はアルカリ溶液)で調節することによっても実現できる。前記緩衝液は好ましくはリン酸塩緩衝液又はTris-HCl緩衝液であり、前記リン酸塩緩衝液は好ましくはリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム緩衝液又はリン酸水素二カリウム-リン酸二水素カリウム緩衝液である。前記アルカリ溶液は好ましくはアンモニアである。
【0035】
前記酸化反応において、前記反応系の温度は本分野の従来のものであってもよく、好ましくは20~50℃であり、より好ましくは20℃である。
【0036】
前記酸化反応と前記アンモニア化反応は別々に進行してもよいし、同時に(同一反応系で)行ってもよい。前記同時進行は、例えば、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)、L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体、無機アミノ供与体、及び還元型補酵素NADPHの存在下で、D-グルホシネート塩を酸化反応とアンモニア化反応させて、L-グルホシネート塩が得られればよい。
【0037】
前記アンモニア化反応において、前記L-グルホシネート塩のカチオンは本分野の従来のカチオンであり、例えば、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、及び/又はカリウムイオンなどであってもよい。使用される緩衝液のカチオンであってもよい。
【0038】
前記アンモニア化反応において、前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩のカチオンは本分野の従来のカチオンであり、例えば、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、及び/又はカリウムイオンなどであってもよい。使用される緩衝液のカチオンであってもよい。
【0039】
前記アミノ化反応において、前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体の用量は本分野の従来のものであってもよく、前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体の濃度は好ましくは0.05~3U/mlであり、より好ましくは0.1~1U/mlであり、例えば0.23U/mlである。
【0040】
前記アンモニア化反応において、前記無機アミノ供与体の用量は本分野の従来のものであってもよく、前記無機アミノ供与体の濃度は好ましくは100~2000mMであり、より好ましくは200mMである。
【0041】
前記アンモニア化反応において、前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩の濃度は好ましくは100~600mMであり、より好ましくは200mMである。
【0042】
前記アンモニア化反応において、前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩の用量は本分野の従来のものであってもよく、前記還元型補酵素NADPHと前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩との質量比は、好ましくは1:100~1:20000であり、より好ましくは1:1000~1:15000であり、さらに好ましくは1:5000である。
【0043】
前記アンモニア化反応において、前記無機アミノ供与体は、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、及び重炭酸アンモニウムのうちの1種又は複数種である。
【0044】
前記アンモニア化反応において、前記反応の温度は本分野の従来のものであってもよく、前記L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体の触媒効率を保証するために、前記アンモニア化反応を行う温度は好ましくは20~50℃であり、より好ましくは37℃であり、前記アンモニア化反応の温度が20℃未満である場合、アンモニア化反応は遅く、前記アンモニア化反応の温度が50℃を超える場合、酵素は不可逆的に変性して失活する。
【0045】
前記アンモニア化反応において、前記反応溶媒は水である。
【0046】
前記調製方法において、前記アンモニア化反応を行うpHは好ましくは7~9であり、より好ましくは8.5である。前記pHは緩衝液によって実現できる。前記pHはアルカリ(又はアルカリ溶液)で調節することによっても実現できる。前記緩衝液は好ましくはリン酸塩緩衝液又はTris-HCl緩衝液などであり、前記リン酸塩緩衝液は好ましくはリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム緩衝液又はリン酸水素二カリウム-リン酸二水素カリウム緩衝液などである。前記アルカリ溶液は好ましくはアンモニアである。
【0047】
前記L-グルホシネート塩の調製方法は、デヒドロゲナーゼ(例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ又はギ酸デヒドロゲナーゼなど)及び水素供与体(例えば、グルコース、イソプロパノール又はギ酸塩など)の存在下で、酸化型補酵素NADP+を還元反応させて、前記還元型補酵素NADPHを得るステップをさらに含む。
【0048】
前記還元反応において、前記デヒドロゲナーゼと前記水素供与体は一対一で対応し、
例えば、前記デヒドロゲナーゼがアルコールデヒドロゲナーゼである場合、前記水素供与体はイソプロパノールであり、
前記デヒドロゲナーゼがグルコースデヒドロゲナーゼである場合、前記水素供与体はグルコースであり、
前記デヒドロゲナーゼがギ酸デヒドロゲナーゼである場合、前記水素供与体はギ酸塩である。
【0049】
前記還元反応において、前記デヒドロゲナーゼの濃度は本分野の従来のものであってもよく、好ましくは0.6~6U/mlであり、より好ましくは2U/mlである。
【0050】
前記還元反応において、前記水素供与体の濃度は本分野の従来のものであってもよく、好ましくは100~1000mMであり、より好ましくは240mMである。
【0051】
前記還元反応において、前記酸化型補酵素NADP+の濃度は本分野の従来のものであってもよい。
【0052】
前記還元反応において、前記還元反応を行うpHは好ましくは7~9であり、より好ましくは8.5である。前記pHは緩衝液によって実現できる。前記pHはアルカリ(又はアルカリ溶液)で調節することによっても実現できる。前記緩衝液は好ましくはリン酸塩緩衝液又はTris-HCl緩衝液等であり、前記リン酸塩緩衝液は好ましくはリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム緩衝液又はリン酸水素二カリウム-リン酸二水素カリウム緩衝液などである。前記アルカリ溶液は好ましくはアンモニアである。
【0053】
前記還元反応において、前記反応系の温度は本分野の従来のものであってもよく、好ましくは20~50℃であり、より好ましくは37℃である。
【0054】
前記還元反応と前記アンモニア化反応は別々に進行してもよいし、同時に(同一反応系で)に進行してもよい。前記同時進行は、例えば、本発明の好ましい実施例に示されるように、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコース、酸化型補酵素NADP+、L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体、及び無機アミノ供与体の存在下で、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩をアンモニア化反応(同時に存在しているNADP+の還元反応)させて、L-グルホシネート塩が得られればよい。
【0055】
前記還元反応と前記アンモニア化反応が同時に進行する場合、前記アンモニア化反応に用いるNADPHは前記還元反応により繰り返し生成される。前記酸化型補酵素NADP+の濃度は本分野の従来のものであってもよく、前記反応が正常に進行できることを保証するために、それと前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩との質量比は1:100~1:20000であり、好ましくは1:1000~1:15000であり、より好ましくは1:5000である。
【0056】
還元反応、前記酸化反応、前記アンモニア化反応は別々に進行してもよいし、同時に(同一反応系で)進行してもよい。前記同時進行は、例えば、本発明の好ましい実施例に示されるように、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)、デヒドロゲナーゼ、水素供与体、酸化型補酵素NADP+、L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体、及び無機アミノ供与体の存在下で、D-グルホシネート塩を酸化反応とアンモニア化反応(同時に存在しているNADP+の還元反応)させて、L-グルホシネート塩が得られればよい。
【0057】
前記還元反応、前記酸化反応、前記アンモニア化反応が同時に進行する場合、前記アンモニア化反応に用いるNADPHは前記還元反応により繰り返し生成される。前記酸化型補酵素NADP+の濃度は本分野の従来のものであってもよく、前記反応が正常に進行できることを保証するために、NADP+と前記2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩との質量比は1:100~1:20000であり、好ましくは1:1000~1:15000であり、より好ましくは1:5000である。
【0058】
前記調製方法の反応時間は、従来の方法で検出する場合、原料の終濃度又は生成物の終濃度又は転換率が所望の目的に達したら終了すればよい。前記従来の方法は、プレカラム誘導体化高速液体クロマトグラフィー又はイオンペアクロマトグラフィーなどを含む。
【0059】
本発明の上記の技術的課題を解決するための技術形態の六は、以下のステップを含むL-グルホシネートの調製方法である。
(1)上記のL-グルホシネート塩の調製方法により、L-グルホシネート塩を調製する。
(2)ステップ(1)で得られたL-グルホシネート塩を酸化反応させて、L-グルホシネートを得る。
【0060】
本発明の上記の技術的課題を解決するための技術形態の七は、L-グルホシネート又はその塩の調製における上記で調製されたL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体の応用である。
【0061】
前記応用は、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、無機アミノ供与体、及び還元型補酵素の存在下で、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩を反応させて、L-グルホシネート塩を得るステップを含んでもよい。
【0062】
又は、前記応用は、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、無機アミノ供与体、及び還元型補酵素の存在下で、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸を反応させて、L-グルホシネートを得るステップを含んでもよい。
【0063】
又は、前記応用は、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、無機アミノ供与体、及び還元型補酵素の存在下で、2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸塩を反応させて、L-グルホシネート塩を得て、さらに酸化反応を行い、L-グルホシネートを得るステップを含んでもよい。
【0064】
本発明では、前記L-グルホシネート塩は一般的にL-グルホシネートアンモニウム塩の形態で存在してもよい。
【0065】
以上の化合物について記載されている濃度は、特に説明しなければ、いずれも反応前の前記化合物が全反応系に占める濃度である。
【0066】
本分野の常識に基づいて、上記各好ましい条件を任意に組み合わせて、本発明の各好ましい実施例を得ることができる。
【0067】
本発明で用いられる試薬と原料はいずれも市販のものである。
【発明の効果】
【0068】
本発明の積極的な進歩的な効果は、
本発明のL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体でL-グルホシネート又はその塩を調製する場合、単一突然変異部位(175位又は386位)のグルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体よりも、比酵素活性が高いため、酵素の作用効率が向上し(例えば、反応に関与する場合、転換率がより高い、立体選択性がより強い)、反応のコストが低減し、工業化生産に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】
図1は、ラセミ体のグルホシネート標準品をMarfey試薬でプレカラム誘導体化したHPLC分析結果であり、最後の2つのピークはMarfey試薬自身のピークである。
【
図2】
図2は、調製された生成物におけるD-グルホシネートとL-グルホシネートをMarfey試薬でプレカラム誘導体化したHPLC分析結果である。
【
図3】
図3は、ラセミ体のグルホシネート標準品のイオンペアHPLC分析結果である。
【
図4】
図4は、PPO標準品のイオンペアHPLC分析結果である。
【
図5】
図5は、反応後の反応液のイオンペアHPLC分析結果である。
【
図6】
図6は、PPO標準品のマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、本発明を実施例の形態によりさらに説明するが、本発明は前記実施例の範囲内に制限されるものではない。下記の実施例では、具体的な条件が記載されていない実験方法は、従来の方法や条件に従って、又は商品説明書に従って選択される。
【0071】
本発明における実験方法は、特に説明しなければ、従来の方法であり、遺伝子クローン操作は具体的にJ.Sambrookらが編集した「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」を参照できる。
【0072】
本発明におけるアミノ酸の略号は、特に明記されていなければ、本分野の従来のものであり、具体的な略号に対応するアミノ酸は表1に示されている。
【0073】
【0074】
前記アミノ酸に対応するコドンも本分野の従来のものであり、具体的なアミノ酸とコドンの対応関係は表2に示される。
【0075】
【0076】
pET28aはNovagen社から購入され、NdeI酵素、HindIII酵素はThermo Fisher社から購入され、E.coli BL21(DE3)形質転換受容性細胞は北京鼎国昌盛生物技術株式会社から購入され、カタラーゼは山東豊泰生物科技株式会社から購入され、NADPHは深セン邦泰生物工程株式会社から購入され、NH4Clは上海泰坦科技株式会社から購入される。
【0077】
生成物のキラル分析は、プレカラム誘導体化高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)で行われ、具体的な分析方法は以下の通りである。
(1)クロマトグラフィーの条件:
Agilent ZORBAX Eclipse plus C18、3.5μm、150*4.6mm。移動相A:0.1%TFA+H2O、移動相B:0.1%TFA+CAN。検出波長:340nm、流速:1.0ml/分、カラム温度:30℃。
(2)誘導体化試薬:
Marfey試薬。50mgのN-α-(2、4-ジニトロ-5-フルオロフェニル)-L-アラニンアミドを正確に秤量し、アセトニトリルで溶解して25mlの溶液を作っておいた。
(3)誘導体化反応:
反応液を100倍希釈し、同体積のMarfey試薬を加えて誘導体化する。10μlのサンプルを注入して分析した。
【0078】
転換率=(反応物-残留反応物)/反応物×100%
【0079】
2-オキソ-4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)酪酸(PPOと略称する)をイオンペア高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)で分析し、具体的な分析方法は以下の通りである。
【0080】
クロマトグラフィー条件:
ULtimate AQ-C18、5μm、4.6*250mm;移動相:0.05mol/Lリン酸水素二アンモニウムpH=3.6 : 10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液 :アセトニトリル = 91:1:8;検出波長:205nm;流速:1.0ml/分;カラム温度:25℃。
【0081】
以下の実施例では、すべて「グルホシネート」と記載されているが、「グルホシネート」が反応系に入っているから、当業者は「グルホシネートアンモニウム塩」を「グルホシネート」と称するため、「グルホシネート」は実際に「グルホシネートアンモニウム塩」を指し、対応するグルホシネート標準品もいずれもグルホシネートアンモニウム塩標準品であり、対応する生成されたPPOもPPOアンモニウム塩である。得られた生成物グルホシネートの旋光度を検出する時、グルホシネートアンモニウム塩を酸化反応させた後、グルホシネートを得てから検出を行った。
【実施例】
【0082】
(実施例1)L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体酵素の取得
【0083】
NCBIからLysinibacillus sphaericus由来のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(以下、LsGluDHと略称する)配列:配列番号1、Genbank登録番号WP_012293812.1を検索し、表3の突然変異体遺伝子のヌクレオチド配列:配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10に基づいて遺伝子を合成し、遺伝子の合成会社は蘇州金唯智生物科技株式会社(蘇州工業園区星湖街218号生物納米科技園C3階)である。
【0084】
そして、突然変異体遺伝子をそれぞれpET28aに酵素的に連結し、酵素切断部位はNDEI & HINDIIIである。酵素的に連結されたベクターを、宿主である大腸菌BL21形質転換受容性細胞に形質転換した。構築された菌種をTB培地に接種して37℃で、200rpmで振とうし、IPTG濃度0.1mMで一晩誘導し、菌を集め、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含む操作された菌株(engineering bacteria)を得た。
【0085】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含む操作された菌株をストリークプレート(plate-streaking)により活性化した後、シングルコロニーを、50μg/mlカナマイシンを含むLB液体培地5mlに接種し、37℃で12時間振とう培養した。2%の接種量で150mlの同様に50μg/mlカナマイシンを含む新鮮LB液体培地に接種し、37℃でOD600が0.8程度に達するまで振とうし、終濃度が0.5mMになるようにIPTGを加え、18℃で16時間誘導培養した。培養終了後、培養液を10000rpmで10分間遠心し、上澄み液を捨て、菌を集め、-80℃の超低温冷蔵庫に保存しておいた。
【0086】
上記の集めた菌5gを、50mm pH8.5のTris-HCl緩衝液で2回洗浄し、そして30ml pH8.5のTris-HCl緩衝液に懸濁し、均一に破砕し、破砕液を12000rpmで10分間遠心して沈殿を除去し、組換えグルタミン酸デヒドロゲナーゼを含む上澄み液である粗酵素液を得た。
【0087】
【表3】
(実施例2)突然変異体酵素の比酵素活性の検出
【0088】
基質溶液の調製:
355μl 2.25M PPO(終濃度20mM)(発明者自作、調製方法はUS8017797Bに参照し、
図6は対応するマススペクトルである)と0.4g NH
4Cl(終濃度200mM)を加え、アンモニアでpHを8.5に調節し、50mm pH8.5のTris-HCl緩衝液で40mlになるように定容した。
【0089】
酵素活性の検出方法:
全反応系は1mlであり、OD340nmでの吸光値を測定し、順に1mlのセルに940μlの基質溶液を加え、ゼロにした後、10μlの25mm NADPHを加え、最後に50μlの粗酵素液を加え、0~10分間の数値変化を記録し、30秒毎に値を読み取り、反応時間を横座標とし、340nm波長での吸収値を縦座標としてプロットし、傾きを測り、NADPHの減少速度を計算し、酵素活性を計算した。
【0090】
単位酵素活性の定義:
特定の反応条件(30℃)下で、1分間あたり1μmolのNADPHが減少するのに必要な酵素量。
【0091】
比酵素活性とは、酵素タンパク質1mgあたりに含まれる活性の単位であり、計算式:酵素活性/タンパク質含有量、単位はU/mg又はU/gである。結果は表4に示される。
【0092】
CN108588045Aからわかるように、野生型LsGluDH-WT(WP_012293812.1)の酵素活性は単一部位突然変異体の酵素活性よりも遥かに低く、当業者は、野生型LsGluDH-WT(WP_012293812.1)の比酵素活性も突然変異体よりも遥かに低いと結論づけることができるので、本発明では野生型LsGluDH-WT(WP_012293812.1)に対して検出しなかった。
【0093】
【0094】
以下の実施例で使用されるL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼ粗酵素液の調製方法はいずれも上記の方法を採用する。
【0095】
(実施例3)Dアミノ酸オキシダーゼ(DAAO)遺伝子の取得
【0096】
特許US9834802B2に記載されているAC302 DAAO酵素の遺伝子配列に従ってDAAO酵素遺伝子を完全合成した。合成会社は蘇州金唯智生物科技株式会社、江蘇省南京市江北新区研創園浦浜路211号である。
【0097】
(実施例4)Dアミノ酸オキシダーゼ(DAAO)遺伝子の発現
【0098】
LB液体培地の組成:
ペプトン10 g/L、イーストパウダー5 g/L、NaCl 10 g/Lを脱イオン水で溶解した後に定容し、121℃で20分間滅菌しておいた。
【0099】
実施例3で合成されたDAAO酵素遺伝子をpET28aに連結し、酵素切断部位はDneI & HindIIIであり、酵素が連結されたベクターを宿主E.coli BL21(DE3)形質転換受容性細胞に形質転換し、DAAO酵素を含む操作された菌株を得た。
【0100】
DAAO酵素遺伝子を含む操作された菌株をストリークプレートにより活性化した後、シングルコロニーを50μg/mlカナマイシンを含む5 ml LB液体培地に接種し、37℃で12時間振とう培養した。2%の接種量で50mlの同様に50μg/mlカナマイシンを含む新鮮LB液体培地に接種し、37℃でOD600値が0.8程度に達するまで振とうし、IPTGを終濃度が0.5mMになるように加え、18℃で16時間誘導培養した。培養終了後、培養液を10000rpmで10分間遠心し、上澄み液を捨て、菌を集め、-20℃の超低温冷蔵庫に保存しておいた。
【0101】
(実施例5)Dアミノ酸オキシダーゼ(DAAO)粗酵素液の調製及び酵素活性測定
【0102】
実施例4で集めた菌体を、50mm pH 8.0リン酸緩衝液で菌を2回洗浄した後、菌をpH 8.0のリン酸緩衝液に懸濁し、低温高圧で均一に破砕し、破砕液を遠心して沈殿を除去し、得られた上澄み液は組換えDAAO酵素を含む粗酵素液であった。
【0103】
酵素活性の検出方法:
100μlpH 8.0リン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム緩衝液(D-グルホシネート50mmol/Lと過酸化物酵素0.1mg/mlを含む)、50μl発色剤(60μg/ml 2,4,6-トリブロモ-3-ヒドロキシ安息香酸と1mg/ml 4-アミノアンチピリン)、50μlのDAAO酵素を加え、510nmにおいて紫外吸収を検出してH2O2濃度を測定し、PPOの濃度を計算し、酵素活性を計算した。
【0104】
単位酵素活性の定義:
特定の反応条件(30℃)で、1分間あたり1μmol PPOを生成するのに必要な酵素量である。
【0105】
以下の実施例で使用されるDAAO酵素粗酵素液の調製方法はいずれも以上の方法を採用する。
【0106】
(実施例6)アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子の取得と発現
【0107】
枯草菌(Lactobacillus brevis KB290)(Genbank登録番号BAN05992.1)由来のシクロペンタノール デヒドロゲナーゼ(Cyclopentanol dehydrogenase)遺伝子配列に従って、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を完全合成した。
【0108】
LB液体培地の組成:
ペプトン10 g/L、イーストパウダー5 g/L、NaCl 10 g/Lを脱イオン水で溶解した後に定容し、121℃で20分間滅菌しておいた。
【0109】
アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子をpET28aに連結し、酵素切断部位はNdeI & HindIIIであり、酵素が連結されたベクターを宿主E.coli BL21(DE3)形質転換受容性細胞に形質転換し、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む操作された菌株を得た。アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含有する操作された菌株をストリークプレートにより活性化した後、シングルコロニーを50μg/mlカナマイシンを含む5 ml LB液体培地に接種し、37℃で12時間振とう培養した。2%の接種量で50 mlの同様に50μg/mlカナマイシンを含む新鮮LB液体培地に接種し、37℃でOD600が0.8程度に達するまで振とうし、IPTGを終濃度が0.5mMになるまで加え、18℃で16時間誘導培養した。培養終了後、培養液を10000rpmで10分間遠心し、上澄み液を捨て、菌を集め、-20℃の超低温冷蔵庫に保存しておいた。
【0110】
(実施例7)アルコールデヒドロゲナーゼ粗酵素液の調製及び酵素活性測定
【0111】
実施例6で集めた菌は、10gの菌スラリーを50 ml 100mm pH7.5リン酸アンモニウム緩衝液に加えて均一に撹拌し、500barで均一に破砕して粗酵素液とし、攪拌しながら10%の凝集剤(終濃度2~2.5‰)を滴下し、5分間攪拌した後、4000rpmで10分間遠心して上澄み酵素液を得て、上澄みを取り酵素活性を測定した。
【0112】
酵素活性の検出方法:
3mlの反応系で、25℃条件下で、先に2850μl pH8.0の400mmイソプロパノール(100mmリン酸緩衝液調製)を加え、さらに50μl NADP+(25mm)を加え、紫外分光光度計をゼロにし、さらに100μlの100倍に希釈した酵素液を加え、紫外分光光度計で340nmでのOD値を測定した。
【0113】
単位酵素活性の定義:
特定の反応条件(25℃、pH7.0)で、1分間あたり1μmol NADPHを生成するのに必要な酵素量であり、1Uと定義される。
【0114】
以下の実施例で使用されるアルコールデヒドロゲナーゼ粗酵素液の調製方法はいずれも以上の方法を採用する。
【0115】
(実施例8)DAAO酵素とL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体を触媒とするL-グルホシネートの調製
【0116】
200g L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体菌(実施例1により調製された)をpHが8.0の50mmリン酸塩緩衝液に懸濁し、1Lになるまで定容し、低温高圧で均一に破砕し、遠心して沈殿を捨て、上澄みを残し、L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体粗酵素液を得た。
【0117】
D、L-グルホシネート80gを秤量し、50mm pH8.0のリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム緩衝液で完全に溶解させ、2.5g 40万U/gのカタラーゼを加え、150 mlの実施例5の方法で調製されたDAAO酵素粗酵素液(12U/ml)を加え、アンモニアでpHを8.0に調節し、50mm pHが8.0のリン酸水素二ナトリウム-リン酸二水素ナトリウム緩衝液で1Lに定容した。20℃の水浴で機械的に反応を攪拌し、1VVMで空気を通過させ(1分間あたり1倍反応体積の空気を通す)、1ml消泡剤を加えて泡立ちを防止し、イオンペアHPLCでPPOの生成濃度を検出し、同時にプレカラム誘導体化高速液体クロマトグラフィーで残りのL-グルホシネートの量及びee値を検出し、ee値が99%を超えた時点で反応を止めた。
【0118】
4等分した上記の反応液50mlを取り、それぞれ塩化アンモニウム0.54g、NADP+0.4mg、イソプロパノール0.73gを加え、実施例7の方法で調製されたアルコールデヒドロゲナーゼ(300U/ml)1mlを加え、それぞれL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体粗酵素液1mlを加え、アンモニア水でpHを8.5に調節し、水浴中で磁気攪拌しながら反応温度を37℃に制御し、イオンペアHPLCでPPOの残留濃度を検出し、同時にプレカラム誘導体化高速液体クロマトグラフィーで系内のL-グルホシネートの量とee値を検出した。反応終了時のデータは表5に示される。
【0119】
反応終了後(18時間)の生成物におけるD-グルホシネートとL-グルホシネートのHPLC分析結果は
図2(図面ではL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体1-4(LsGluDH-A166G-V376A)を例にして図示)に示され、ただし、保持時間が13.820分であるのはL-グルホシネートであり、保持時間が12.469分であるD-グルホシネートはほぼ検出されなかった。ラセミ体のグルホシネート標準品(上海阿拉丁生化科技株式会社から購入)のMarfey試薬プレカラム誘導体化HPLCは
図1に示されている(L-グルホシネートの保持時間は13.683分であり、D-グルホシネートの保持時間は12.016分である)。この実施例で調製された生成物の成分と標準品におけるL-グルホシネートのピークが現れる時間はほぼ一致する。また、得られた製品を酸化処理し、濃縮し、カラムで精製し、再結晶して純L-グルホシネートを得て、旋光度測定により[a]D
25=+28.2°(C=1、1N HCl)(従来技術においてUS4389488にL-グルホシネート旋光度が記載されている)、この実施例ではL-グルホシネートが得られたことを示す。
【0120】
反応終了後(18時間)の反応液のイオンペアHPLC分析結果は
図5に示され、ただし、PPOのピーク位置にはピークが見られず、3.828分はグルホシネートのピーク位置である。PPO標準品(本標準品は発明者の自作品であり、調製方法は文献US8017797Bに参照し、
図6は対応するマススペクトルである)のイオンペアHPLCは
図4に示され、ただし、PPO標準品の保持時間は9.520分であった。ラセミ体のグルホシネート標準品(上海阿拉丁生化科技株式会社から購入)のイオンペアHPLCは
図3に示され、ただし、ラセミ体のグルホシネート標準品の保持時間は3.829分であった。このように、この実施例ではPPOは最終的に反応して完全に転換され、その生成物であるグルホシネートのピークが現れる時間は標準品のピークが現れる時間とほぼ一致している。
【0121】
上記の結果図は、いずれもL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼの突然変異体1-4(LsGluDH-A166G-V376A)を例に挙げているが、発明者は他の全ての突然変異について実験を行い、いずれも本発明のこれらの突然変異が上記反応に関与する際に基質を触媒でき、かついずれも正確な産物を生成することを検証した。
【0122】
【0123】
(比較例)
【0124】
実施例1と同様な方法により、CN108588045Aに開示されたPseudomonas Putida(Genbank登録番号:NP_742836.1)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(以下、PpGluDHと略称する)の突然変異体酵素を得て、実施例2に記載されている方法により比酵素活性を測定し、結果は表6に示される。
【0125】
【0126】
表6から、Pseudomonas Putida由来のグルタミン酸デヒドロゲナーゼの相同部位を突然変異させた突然変異体は、本発明で得られた突然変異体よりも比酵素活性が著しく低く、全ての二重部位突然変異体の効果が単一突然変異の突然変異体の効果よりも優れているわけではないことがわかる。
【配列表】