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特許7582983多層空芯コイルを有する血管内血液ポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】多層空芯コイルを有する血管内血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/416 20210101AFI20241106BHJP
   A61M 60/17 20210101ALI20241106BHJP
   A61M 60/237 20210101ALI20241106BHJP
   A61M 60/804 20210101ALI20241106BHJP
【FI】
A61M60/416
A61M60/17
A61M60/237
A61M60/804
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021577252
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 US2020039118
(87)【国際公開番号】W WO2020263815
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】62/868,530
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジンポ
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-515418(JP,A)
【文献】特表2003-515392(JP,A)
【文献】特開2012-253922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0254679(US,A1)
【文献】国際公開第2018/139245(WO,A1)
【文献】米国特許第05850318(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0253167(US,A1)
【文献】特開平11-341725(JP,A)
【文献】特開2005-287285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/416
A61M 60/17
A61M 60/237
A61M 60/804
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓内に挿入するための血管内血液ポンプであって、
カテーテルに接続された近位端と、該ポンプに連結された遠位端とを有する細長のハウジングであって、縦軸を有する、ハウジングと;
該ハウジング内に収容されたスロットレス永久磁石モーターであって、該モーターが、p対の磁極対とn相の位相とを有し、pが1以上の整数でありかつnが3以上の整数であり、該モーターが、
該ハウジングの縦軸に沿って延在し、かつ磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれた2np個のコイルを有するステーターであって
極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されたnp個のコイルを具備する内巻線であって、該内巻線の各コイルが該ステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるように、該配置が全極対について該ステーターの円周の周りで繰り返されており、該内巻線が外面を有する、内巻線と、
該内巻線の該外面上に配置された同じくnp個のコイルを具備する外巻線であって、該外巻線の各コイルもまた該ステーターの該断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるように、該外巻線における各位相によるコイルが、極対ごとの同位相を有する該内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている、外巻線と
を具備する、ステーターを具備する、モーターと
を具備し、極対ごとの同位相のコイルは該コイルを通って流れる電流が同じ方向になるように電気接続されており、かつ
該ステーターと磁気相互作用した際に回転するよう支持された磁石をさらに具備する、ポンプ。
【請求項2】
内巻線の各コイルと外巻線の各コイルとが、ステーターの長さに沿ってそれぞれ縦方向に延在している2つのマグネットワイヤー層を具備する、請求項1記載の血管内血液ポンプ。
【請求項3】
各コイル内のマグネットワイヤーが、該コイルのスパンに沿って順番に互いの隣に配置されている、請求項2記載の血管内血液ポンプ。
【請求項4】
コイルの内巻線が、該コイルの外巻線がその上に重ねられる均一な表面を確立する、前記請求項のいずれか一項記載の血管内血液ポンプ。
【請求項5】
1つの位相のコイルが、星形構成またはデルタ形構成のいずれかで他の位相のコイルに電気接続される、前記請求項のいずれか一項記載の血管内血液ポンプ。
【請求項6】
各位相のコイルが直列または並列のいずれかで接続される、請求項5記載の血管内血液ポンプ。
【請求項7】
2np個のコイルの各コイルが、螺旋巻線パターン、菱形巻線パターン、およびハイブリッド巻線パターンからなる群より選択されるコイル巻線パターンを有する、前記請求項のいずれか一項記載の血管内血液ポンプ。
【請求項8】
モーターが、3相1極対の機械を具備する、前記請求項のいずれか一項記載の血管内血液ポンプ。
【請求項9】
モーターが、各コイルがステーターの断面の周りで120度の機械的角度にわたる、6コイル2極の機械を具備する、前記請求項のいずれか一項記載の血管内血液ポンプ。
【請求項10】
ローターが、約1lpm~約6lpmの流量で血液をポンプ送りする、前記請求項のいずれか一項記載の血管内血液ポンプ。
【請求項11】
p対の磁極対とn相の位相とを有するスロットレス永久磁石電気モーターであって、pが1以上の整数でありかつnが3以上の整数であり、該モーターが縦軸を有し、かつ
ハウジングの縦軸に沿って延在し、かつ磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれた2np個のコイルを有するステーターであって
極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されたnp個のコイルを具備する内巻線であって、該内巻線の各コイルが該ステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるように、該配置が全極対について該ステーターの円周の周りで繰り返されており、該内巻線が外面を有する、内巻線と;
該内巻線の該外面上に配置された同じくnp個のコイルを具備する外巻線であって、該外巻線の各コイルもまた該ステーターの該断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるように、該外巻線における各位相によるコイルが、極対ごとの同位相を有する該内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている、外巻線と
を具備する、ステーターを具備し、極対ごとの同位相のコイルは該コイルを通って流れる電流が同じ方向になるように電気接続されており、かつ
該ステーターと磁気相互作用した際に回転するよう支持された磁石をさらに具備する、モーター。
【請求項12】
内巻線の各コイルと外巻線の各コイルとが、ステーターの長さに沿ってそれぞれ縦方向に延在している2つのマグネットワイヤー層を具備する、請求項11記載の電気モーター。
【請求項13】
各コイル内のマグネットワイヤーが、該コイルのスパンに沿って順番に互いの隣に配置されている、請求項11~12のいずれか一項記載の電気モーター。
【請求項14】
コイルの内巻線が、該コイルの外巻線がその上に重ねられる均一な基礎部を確立する、請求項11~13のいずれか一項記載の電気モーター。
【請求項15】
1つの位相のコイルが、星形構成またはデルタ形構成のいずれかで他の位相のコイルに
電気接続される、請求項11~14のいずれか一項記載の電気モーター。
【請求項16】
位相あたり2つの前記コイルが直列または並列のいずれかで接続される、請求項15記載
の電気モーター。
【請求項17】
2np個のコイルの各コイルが、螺旋巻線パターン、菱形巻線パターン、およびハイブリッド巻線パターンからなる群より選択されるコイル巻線パターンを有する、請求項11~16のいずれか一項記載の電気モーター。
【請求項18】
モーターが、3相2極の機械を具備する、請求項11~17のいずれか一項記載の電気モーター。
【請求項19】
モーターが、各コイルがステーターの断面の周りで120度の機械的角度にわたる、6コイル2極の機械を具備する、請求項11~18のいずれか一項記載の電気モーター。
【請求項20】
ローターが、約1lpm~約6lpmの流量で血液をポンプ送りする、請求項11~19のいずれか一項記載の電気モーター。
【請求項21】
スロットレス永久磁石モーターにおいて使用するためのステーターを形成するための方法であって、
該モーターがp対の磁極対とn相の位相とを有し、pが1以上の整数でありかつnが3以上の整数であり、
該ステーターが縦方向に延在し、かつ磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれた2np個のコイルを具備し、
該方法が、
極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されたnp個のコイルを具備する内巻線を形成する段階であって、該内巻線の各コイルが該ステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるように、該配置が全極対について該ステーターの円周の周りで繰り返されており、該内巻線が外面を有する、段階;
該内巻線の該外面上に配置された同じくnp個のコイルを具備する外巻線を形成する段階であって、該外巻線の各コイルもまた該ステーターの該断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるように、該外巻線における各位相によるコイルが、極対ごとの同位相を有する該内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている、段階;および
電流が同じ方向にコイルを通って流れるように、極対ごとの同位相のコイルを電気的に接続する段階を含む、方法。
【請求項22】
ステーターの長さに沿ってそれぞれ縦方向に延在する2つのマグネットワイヤー層を各コイルが具備するように、内巻線および外巻線上のコイルを形成する段階を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
各コイル内のマグネットワイヤーが、該コイルのスパンに沿って順番に互いのすぐ隣に配置されている、請求項22記載の方法。
【請求項24】
1つの位相のコイルを、星形構成またはデルタ形構成のいずれかで別の位相のコイルと接続する段階を含む、請求項21~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
各位相のコイルを直列または並列のいずれかで接続する段階を含む、請求項21~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
2np個のコイルの各々を、螺旋巻線パターン、菱形巻線パターン、およびハイブリッド巻線パターンからなる群より選択されるコイル巻線パターンを用いて形成する段階を含む、請求項21~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
ステーターが、3つの位相と1対の極対とを有するモーターにおいて使用するのに好適である、請求項21~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
ステーターが、各コイルがステーターの断面の周りで120度の機械的角度にわたる、6コイル1極対のモーターにおいて使用するのに好適である、請求項21~27のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年6月28日に提出され参照により本明細書に組み入れられる米国特許仮出願第62/868,530号の恩典を主張する。
【0002】
技術分野
本技術は、永久磁石モーターとコイルを有するステーターとを備えた血管内血液ポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
Danvers, MAのAbiomed, Inc.によるImpella(登録商標)ポンプなどの血管内血液ポンプは、急速に心室補助デバイスの現在の標準になりつつある。Impella(登録商標)ポンプには現在、Impella 2.5(登録商標)ポンプ、Impella 5.0(登録商標)ポンプ、Impella CP(登録商標)ポンプ、およびImpella LD(登録商標)ポンプがある。これらポンプは、小直径(6~7 Fr)のカテーテルを介してポンプヘッドを患者の心臓の左室内に置くことができるよう、単一のアクセスポイント(例えば橈骨アクセス、大腿アクセス、腋窩アクセス)を通って経皮的に患者体内に挿入される。ポンプヘッドは、ローターを回転させるためこれと磁気的に相互作用するよう構成されたステーターを含む電気モーターを具備し、それによって、ローターを通りひいては患者の心臓を通る血液の体積流量をもたらす。
【0004】
現在、Impella(登録商標)ポンプは、約1.0~約6.0リットル毎分(lpm)の流量で血液を送達できる。しかし、ますます多くの外科手技でImpella(登録商標)が使用されていることに伴い、生成される血流量をこれらの水準よりさらに増大させることへの要求が高まっている。これは本質的に、電気モーターによるロータースピードをより高める必要があることを意味する。しかし、関わる幾何学形状が小さいゆえに、ロータースピードの増大には、そうした小サイズのポンプの作動に影響を及ぼしうるいくつかの含意がある。例えば、ロータースピードの増大は、電気モーター内における熱の発生(ジュール加熱)の増大を伴う可能性がある。デバイスは経皮的に心臓内に挿入されるので、そうした発熱の増大は深刻な影響を有する可能性がある。考慮すべき別の点は、デバイスにもたらされる抵抗型負荷である;より高い流量を実現するために電気モーターに行われる改変は、より高い抵抗損失につながる可能性がある。
【0005】
モーターのトルク係数および/または効率を増大させるためにさまざまな技法が用いられており、それには、モーター内のコイルの巻線ターン数および実装密度を増大させることも含まれる。しかし、そうしたトポロジーは、モーターのサイズ(例えば直径および/または長さ)など、モーターに課される制約によって制限される。このことは、モーター寸法の制約を固守するために例えばコイルを機械的にスクィーズするなどの後処理法の実施につながってきた;しかしそうした方法は、例えばコイルを形成するワイヤーの絶縁を損傷させて短絡につながるなど、モーターの信頼性を損なっている。
【0006】
上述した技術的現状の欠点を考えると、電気モーターによって生成される流量を増大させながら一方でモーターの効率を維持または増大させることに対して、重要なニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
簡単な概要
上述した技術的現状のさまざまな問題点および欠点に対処するためのデバイスを本明細書に開示する。より具体的には、患者の心臓内に挿入するための血管内血液ポンプを本明細書に開示する。本発明の血液ポンプは、カテーテルに接続された近位端と、ポンプに連結された遠位端とを有する、細長のハウジングを具備する;ハウジングは縦軸を有する。血液ポンプは、ハウジング内に収容されたスロットレス永久磁石モーターを具備し、モーターはp対の磁極対とn相の位相とを有し、ここでpはゼロより大きい整数であり、かつnは≧3の整数である。ハウジングの縦軸に沿って延在し、かつ永久磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれた2np個のコイルを有するステーターを、モーターが具備する。ステーターは、np個のコイルを具備する内巻線を具備し、そのnp個のコイルにおいて、極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルがステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されており、内巻線は外面を有する。ステーターは、内巻線の外面上に配置された同じくnp個のコイルを具備する外巻線もまた具備し、外巻線の各コイルもまたステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。ステーター内において、極対ごとの同位相のコイルは、そのコイルを通って流れる電流が同じ方向になるように接続される。本明細書に説明するコイル巻線はマグネットワイヤーから形成される。マグネットワイヤーは当業者に周知であり、本明細書において詳述はしない。加えて、モーターは、ステーターと磁気相互作用した際に回転しそれによってポンプを通る血液のフローを促進するよう支持された磁石を、具備する。
【0008】
別の態様において、p対の磁極対とn相の位相とを有するスロットレス永久磁石電気モーターが提供され、ここでpはゼロより大きい整数であり、かつnは≧3の整数であり、モーターは縦軸を有する。ハウジングの縦軸に沿って延在し、かつ永久磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれた2np個のコイルを有するステーターを、モーターが具備する。ステーターは、np個のコイルを具備する内巻線を具備し、そのnp個のコイルにおいて、極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルがステーターの断面の周りで360/(np)の機械的角度にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されており、内巻線は外面を有する。ステーターは、内巻線の外面上に配置された同じくnp個のコイルを具備する外巻線もまた具備し、外巻線の各コイルもまたステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。ステーター内において、極対ごとの同位相のコイルは、そのコイルを通って流れる電流が同じ方向になるように接続される。加えて、モーターは、ステーターと磁気相互作用した際に回転しそれによってローターの回転を促進するよう支持された磁石を、具備する。
【0009】
いくつかの実施形態において、外巻線は少なくとも内巻線と同じ巻線ターン数を具備する。ある一定の実施形態において、各コイルは、ステーターの長さに沿ってそれぞれ縦方向に延在している2つのマグネットワイヤー層を具備する。いくつかの実施形態において、各コイル内のマグネットワイヤーは、コイルのスパンに沿って順番に互いの隣に配置される。さらなる実施形態において、コイルの内巻線は、コイルの外巻線がその上に重ねられる均一な基礎部を確立する。他の実施形態において、1つの位相のコイルは、星形構成またはデルタ形構成のいずれかで他の位相のコイルに接続される。いくつかの実施形態において、各位相のコイルは直列または並列のいずれかで接続される。
【0010】
ある一定の実施形態において、前記2np個のコイルは、螺旋巻線、菱形巻線、従来式巻線、およびハイブリッド巻線のうち、いずれか1つを具備する。さらなる実施形態において、モーターは、3相1極対の機械を具備する。他の実施形態において、モーターは、各コイルがステーターの断面の周りで120度の機械的角度にわたる、6コイル2極の機械を具備する。いくつかの実施形態において、ローターは、約1.0 lpm~約6.0 lpmの流量で血液をポンプ送りする。他の実施形態において、ポンプが患者の心臓の右室内に挿入されてもよい。さらなる実施形態において、ポンプが患者の心臓の左室内に挿入されてもよい。
【0011】
2np個のコイルが、内巻線におけるnp個のコイルと外巻線におけるnp個のコイルとを具備する二重巻線として、磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれている配置は、電気モーター内の利用可能な空間内でより多くのワイヤーを使用することを可能にし、それによってモーター空間設計のより良好な利用を可能にする。このことは、一重巻線ステーターを用いたモーターと比較してモーターの効率を向上させる。
【0012】
さらなる態様において、p対の磁極対とn相の位相とを有するスロットレス永久磁石モーターにおいて使用するためのステーターを形成する方法が提供され、ここでpはゼロより大きい整数であり、かつnは≧3の整数であり、ステーターは、縦方向に延在し、かつ永久磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれた2np個のコイルを有する。同方法は、np個のコイルを具備する内巻線を形成する段階を含み、そのnp個のコイルにおいて、極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルがステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されており、内巻線は外面を有する。同方法は次に、内巻線の外面上に配置された同じくnp個のコイルを具備する外巻線を形成する段階を含み、外巻線の各コイルもまたステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。次に同方法は、電流がコイルを同じ方向に通って流れるように、極対ごとの同位相のコイルを電気的に接続する段階を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、同方法は、外巻線が少なくとも内巻線と同じ巻線ターン数を具備するよう外巻線を形成する段階をさらに含む。ある一定の実施形態において、同方法は、ステーターの長さに沿ってそれぞれ縦方向に延在する2つのマグネットワイヤー層を各コイルが具備するようにコイルを形成する段階もまた含む。他の実施形態において、各コイル内のマグネットワイヤーは、それぞれのコイルのスパンに沿って順番に互いの隣に配置される。このことは、ステーターのコイル内においてマグネットワイヤーを精密な順序でかつコンパクトに配置することを可能にし、それは、電気モーターのヨーク内にフィットさせるための機械的スクィーズを必要としない、最小のコイル厚さにつながる。ステーターはコイルとヨークとの組み合わせである。ステーターの厚さはコイル厚さとヨーク厚さとを組み合わせた厚さである。本明細書に説明するコイル厚さは、ヨーク厚さを除外している。コイルが精密な順序でかつコンパクトに配置されていると、巻線を形成しているワイヤーの周りの絶縁の完全性に対するリスクがないので、二重巻線ステーターの信頼性が高まる。この最小のコイル厚さは、より大きなローター磁石および/またはより厚い磁石鋼ヨークを電気モーター内で使用することもまた可能にし、それによって、多層マグネットワイヤーがランダムに巻かれているステーターを使っているモーターと比較して、より高い効率をモーターの実現を可能にする。
【0014】
いくつかの実施形態において、同方法は、ある位相のコイルを他の位相のコイルに星形構成またはデルタ形構成のいずれかで接続する段階を含む。ある一定の実施形態において、同方法は、各位相のコイルを直列または並列のいずれかで接続する段階を含む。他の実施形態において、同方法は、螺旋、菱形、従来式、およびハイブリッドのうちいずれか1つから選択されるコイル巻線を用いて2np個のコイルを形成する段階を含む。いくつかの実施形態において、ステーターは、3つの位相と1対の極対とを有するモーターにおいて使用するのに好適である。ある一定の実施形態において、ステーターは、各コイルがステーターの断面の周りで120度の機械的角度にわたる、6コイル1極対のモーターにおいて使用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
以上および他の目的と利点とは、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて検討することによって明らかになるであろう;添付の図面全体にわたって、同様の参照符号は同様の部品を参照する。
【0016】
図1】本開示の1つの態様に基づく、血管内血液ポンプの例示的な断面を示す。
図2図2A~2Dは、図1の血液ポンプにおいて使われてもよい、当技術分野において公知である、コイル内の個々のターンについての例示的な巻線パターンを示す。図2E~2Hは、図2A~2Dに示した個々のターンを有するコイルによって形成される、例示的な完成したコイル巻線パターンを示す。
図3図1の血液ポンプにおいて使用するための、各位相が一重螺旋コイルで実施された3相一重巻線ステーターの例示的な断面を示す。
図4図1の血液ポンプにおいて使用するための、本開示の1つの態様に基づく、各位相が二重螺旋コイルで実施された3相二重巻線ステーターの例示的な断面を示す。
図5】本開示の1つの態様に基づく、図1の血液ポンプにおいて使用される図4のステーターの例示的な断面を示す。
図6図6Aは、図3の一重巻線ステーターにおけるリード線接続を図示した例示的な回路図を示す。図6Bは、本開示の1つの態様に基づく、同位相のコイルが直列に接続された、図4の二重巻線ステーターにおけるリード線接続を図示した例示的な回路図を示す。図6Cは、本開示の1つの態様に基づく、同位相のコイルが並列に接続された、図4の二重巻線ステーターにおけるリード線接続を図示した例示的な回路図を示す。
図7】本開示の1つの態様に基づく、3つの位相と2対の極対とを有する電気モーター用の二重巻線ステーターを用いた図1の血液ポンプの例示的な断面を示す。
図8】本開示の1つの態様に基づく、5つの位相と1対の極対とを有する電気モーター用の二重巻線ステーターを用いた図1の血液ポンプの例示的な断面を示す。
図9図9Aは、その形成にワイヤー巻線シーケンスが用いられている例示的なランダム巻き多層ステーターを示す。図9Bは、本開示の1つの態様に基づく、その形成にワイヤー巻線シーケンスが用いられている図4の例示的な二重巻線ステーターを示す。
図10図10Aは、図9Aのワイヤー巻線シーケンスを用いて形成されたランダム巻き多層ステーターの画像を示す。図10Bは、本開示の1つの態様に基づく、図9Bのワイヤー巻線シーケンスを用いて形成された二重巻線ステーターの画像を示す。
図11】本開示の1つの態様に基づく、図4および9Bの二重巻線ステーターを形成する方法の例示的なフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
本開示の諸態様を、図面を参照しながら詳しく説明する;図面において、類似する符番は同様または同一の要素を指す。理解されるべき点として、開示態様は本開示の例にすぎず、さまざまな形態で具現化されうる。不必要な詳細によって本開示を不明瞭にすることを回避するため、周知の機能または構築様式を詳細には説明しない。したがって、本明細書に開示する構造的および機能的な具体的詳細は、限定的なものとして解釈されるべきでなく、特許請求の範囲のための根拠として、および、妥当に詳細な構造であれば事実上任意の構造において本開示をさまざまに使えるよう当業者に教示するための代表的な根拠としてのみ、解釈されるべきである。
【0018】
本明細書に説明するデバイスが全体的に理解されうるよう、ある一定の例示的態様を説明する。本明細書に説明する諸態様および特徴は、血管内血液ポンプに関連した使用について特に説明するが、理解されるであろう点として、以下に概説するすべてのコンポーネントおよび他の特徴は、任意の好適な様式において互いに組み合わせられてもよく、かつ、効率的な電気モーターを必要とする他のタイプの手技に適合および適用されてもよい。
【0019】
本明細書に説明するデバイスおよび方法は、患者の心臓内に挿入するための血管内血液ポンプに関する。本発明の血液ポンプは、カテーテルに接続された近位端と、ポンプに連結された遠位端とを有する、細長のハウジングを具備し、ハウジングは縦軸を有する。血液ポンプは、ハウジング内に収容されたスロットレス永久磁石モーターを具備し、モーターは、p対の磁極対とn相の位相とを有し、ここでpはゼロより大きい整数であり、かつnは≧3の整数である。ハウジングの縦軸に沿って延在し、かつ永久磁極対あたり位相あたり2つのコイルを形成するよう巻かれた2np個のコイルを有するステーターを、モーターが具備する。ステーターは、np個のコイルを具備する内巻線を具備し、そのnp個のコイルにおいて、極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルがステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されており、内巻線は外面を有する。ステーターは、内巻線の外面上に配置された同じくnp個のコイルを具備する外巻線もまた具備し、外巻線の各コイルもまたステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。ステーター内において、極対ごとの同位相のコイルは、そのコイルを通って流れる電流が同じ方向になるように直列または並列に接続されてもよい。加えて、モーターは、ステーターと磁気相互作用した際に回転しそれによってポンプを通る血液のフローを促進するよう支持された磁石を、具備する。
【0020】
本開示の血管内血液ポンプは、独特のステーターを備えた電気モーターを使っている。そうしたステーターは、モーター設計空間の利用の向上につながる二重巻線(または4層)コイルを具備する。このことは、一重巻線(または2層)コイルを具備するステーターと比較して、モーターによる銅線使用におけるゲインを促進し、したがってモーターのトルク能力をかなり増大させる。本発明のステーターはまた、より高いモーター定数およびより高いモーター効率をモーターが実現することを可能にする。留意されるべき点として、モーターの幾何学形状が固定されていることにより、一重巻線ステーターの代わりに二重巻線ステーターが実施された時は、ステーターのコイルがより厚くなるので、より小さい磁石および/またはより薄いヨークが用いられる必要がある。ゆえに、二重巻線ステーター内のマグネットワイヤーの数が増加することは、ローターに用いられる磁石が小さくなりかつ/またはヨーク厚さが低減するという妥協を伴う。このことは磁束密度の低下につながる。しかし、マグネットワイヤーがより多いことの効果は、ローター磁石がより小さいことおよび磁性ヨークがより薄いことによる磁束密度の低減を補って余りある。いくつかの実施形態において、一重巻線ステーターと同等のコイル抵抗を維持するため、より太いマグネットワイヤーが二重巻線ステーターにおいて使用されてもよい。そうした二重巻線ステーターは、上述の構成で接続された、磁極対あたり位相あたり2つのコイルを具備する。このことは、磁極対あたり位相あたり1つのコイルを伴う一重巻線ステーターを使った血液ポンプに対して、モータートルク係数を約20%~約50%増大させうる。ある一定の実施形態において、モータートルク係数が約25%、約30%、約35%、約40%、または約45%増大されてもよい。
【0021】
さらに、電気モーターのステーター内のマグネットワイヤーの数を増加させるための従来の試みは、結果として不均一な多層ステーターをもたらしてきた。そうしたステーターにおけるワイヤーの不規則な配置は、特に厚さにおいて、大きすぎるランダム巻きステーターにつながる。そうしたランダム巻きステーターは、電気モーターにおいて使用できるようになる前に、コイルの直径の低減および/またはコイルの内径の増大によってコイルの厚さを低減させるための機械的スクィーズを必要とすることが多い。対照的に、本開示の諸態様に基づく二重巻線ステーターは、ステーターの各コイルにおけるマグネットワイヤーの順次配置を可能にし、それによって、よりコンパクトなコイルを有するステーターをもたらす。二重巻線ステーターは、ランダム巻き多層ステーターと比べてコイルが比較的薄いことにより、使用前の機械的スクィーズが必要でないかまたは最小でよく、それはワイヤー絶縁の完全性を保ってモーターの信頼性を高める。
【0022】
以下の用語を用いたステーターの説明を以下に含める。ステーターは、電気的に共に接続された、例えば内巻線および外巻線など、少なくとも1つの巻線を具備する。巻線の各々はステーターの断面の周りで360°にわたる。加えて、巻線の各々は、ステーターの360°の全スパンの周りで円周方向に均等に配置された、例えば3相の電気モーター用のコイルA、B、およびCなどである、複数のコイルを具備する。例えば、コイルA、B、およびCは、それぞれステーターの断面の周りで120°にわたってもよい。各コイルは複数のターンNを具備する。例えば、各コイルが65回の巻線ターンを具備してもよい。N回のターンの各ターンは、巻線の近位端から遠位端まで縦方向に延在する往路部分と、遠位端から近位端まで延在する復路部分とを備えた、マグネットワイヤーを具備する。コイルA、B、およびCからなる各巻線(内巻線または外巻線)は、完成時に2層コイルを形成する。したがって、二重巻線ステーターは合計で4層コイルを形成する。
【0023】
図1に、本開示の1つの態様に基づく、患者の心臓内に挿入するための例示的な血管内血液ポンプ100を図示する。血液ポンプ100は、縦軸105に沿って配置された、モーターユニット110とポンプユニット120とを具備する。モーターユニット110は、ハウジング112内に収容されたステーター140とローター150とを含む電気モーターを具備する。ステーター140は、近位端142から遠位端143までモーターユニット110の長さに沿って延在し、かつ、詳しく後述する特定のパターンで巻かれたワイヤー144を具備する。ステーター140は、ローター150がその中にポジショニングされる中央管腔145を規定する。ワイヤー144が、成層されたステーターコア上ではなくワイヤー自体の上に巻かれるよう、ステーター140はスロットレスである。モーターユニット110の作動のため、給電路146、147がポンプ100の外部からステーター140まで必要な電気接続を提供する。ワイヤー144の各々が絶縁コーティング(図示せず)を有してもよく、かつ、ステーター140が合成エポキシド樹脂(これも図示せず)によってエンモールドされ(enmolded)てもよい。
【0024】
図1において、ステーター140とハウジング112とは別個のコンポーネントとして描写されているが、理解されるであろう点として、ステーター140がハウジング112内に封入されて単一のコンポーネントを形成していてもよい。ハウジング112は近位端114と遠位端116とを具備する。ハウジング112の近位端114は、可撓性チューブを具備してもよいカテーテル130の遠位端134に連結される。カテーテル130は、血液ポンプ100の制御および作動のため医師に向かって(すなわち近位方向に)延在する管腔132を具備する。
【0025】
ローター150は、ステーター140の管腔145内においてシャフト153の周りで回転式に支持された永久磁石152を具備する。磁石152は、モーターユニット110内でシャフト153を囲む円柱状の永久磁石152を具備してもよい。シャフト153はモーターユニット110からポンプユニット120内まで延在し、かつ、血液をポンプ送りするためにインペラー160の回転を促進する。ある一定の実施形態において、ローター150は、シャフト153に取り付けられた数個の永久磁石、または、それ自体のローター巻線を有する電磁石を具備してもよい。さらに、図1はローター150をステーター140内で回転可能なものとして図示しているが、電気モーター110は、ステーター140がシャフト153の周りで静止状態に保たれ、かつローター150がステーター140の周りで回転する円柱として構成されるよう、構成されてもよい。シャフト153はモーターユニット110の長さに沿って延在し、かつポンプユニット120の円柱状のハウジング122内まで延在する。いくつかの実施形態において、シャフト153は、例えばガイドワイヤーの通過などのため、中空でかつ管腔154を具備してもよい。
【0026】
シャフト153の遠位端は、ポンプハウジング122内に位置するインペラー160に連結される。モーターユニット110のステーター140とローター150との相互作用が、ローター150内にトルクを発生させてシャフト153を回転させ、それは、ひいては円柱状のポンプハウジング122内でインペラー160を回転させる。これが生じた時に、血液が、軸方向に運搬されるよう軸方向取込み用開口部(axial intake opening)124を介してポンプ内に吸い込まれ、その血液は開口部126から側方に出てきて、ハウジング112に沿って軸方向に流れる。ポンプ100はこの様式で患者の心臓内において血液のフローを発生させる。
【0027】
電気モーターは、ハウジング112内に収容されたヨーク113もまた具備する。ヨーク113は、ローター150の永久磁極によって生成される磁束を担う。いくつかのケースにおいて、ハウジング112がヨーク113として役立ってもよい。ヨーク113は電気モーターの最も外側のコンポーネントであるので、その内径がステーター140のサイズを制限する。
【0028】
図2A~2Dに、本開示の1つの態様に基づく例示的な巻線パターン210~213を図示する。図2A~2Dには、図1におけるワイヤー142など、異なる巻線パターンの個々の巻線ターン構造を示しているが、理解されるであろう点として、図1におけるステーター140などの完成したステーターは、図1における縦軸105など、モーターユニットの縦軸の周りで複数のワイヤーターンを軸方向にかつ角度付きで配置することによって得られる。図2E~2Hに、図2A~2Dにおけるコイル巻線タイプの各々について、完成したステーターについてのコイル巻線パターンをそれぞれ図示する。図2E~2Hにおける各プロットの水平軸は、それぞれのステーターの円周に沿った角位置を表し、垂直軸は、ステーターの遠位端から近位端までのそれぞれのステーターの縦方向長さを表す。
【0029】
図2A~2Dは、電気機械において使われるコイル内の個々のターンについての例示的な巻線パターンを図示している。図2A~2Dにおける巻線パターンが、図1におけるモーターユニット110のステーター140の形成に用いられてもよい。図2Aは、コイル内の各ワイヤー214が近位端221からコイルの長さに沿って遠位端225まで延在する、個々のコイル巻線パターン210を示している。遠位端225において、ワイヤー214は180度の機械的角度にわたってステーターの外周をたどり、そして近位端221まで戻る。ワイヤー214の終点が両方とも近位端221で終わるので、コイル巻線パターン210は、コイル巻線210の近位端221で前記複数のリード線の各々をステーター給電路に電気接続しなければならないというエンドターンスタックアップ(end turn stack up)の問題に直面する可能性があり、それはひいては密集および接続の問題を引き起こす可能性がある。図2Aに図示したターンを有するコイルによって形成される、完成したコイル巻線パターンを、図2Eに示す。図2Bは、各ワイヤー215が曲げ構成に配置された、個々の菱形コイル巻線パターン211を示している。図2Aにおけるコイル巻線パターン210と異なり、菱形コイル巻線パターンは、数回巻きつけられた1本の連続ワイヤーを具備する;完成したターンの各々は角度方向にシフトされて、図2Fに示すような完成したコイル巻線パターンを形成する。ステーターにおいて菱形コイル巻線パターンの曲げ構成が採用された場合は、個々の各位相のコイルのポストアセンブリが必要となる可能性がある。
【0030】
図2Cは、各ワイヤー216が楕円構成に配置された、個々の螺旋コイル巻線パターン212を示している。螺旋コイル巻線パターン212は図2Bにおける菱形コイル巻線パターン211と似ているが、曲げがなく、それはコイル巻線加工をシンプルにする。螺旋コイル巻線は、ポストアセンブリの段階を必要とせず容易に形成できる一段階の巻線である。図2Cに図示した螺旋コイル巻線パターンを有する、完成したコイル巻線パターンを図2Gに示す。図2Dは、図2Aに示したようなコイル巻線と図2Bに示したような菱形コイル巻線との混合であるコイル巻線を具備する、個々のハイブリッドコイル巻線パターン213を示している。そうしたハイブリッドコイル巻線は、コイルの水平対垂直のアスペクト比を調整することによってトルクと抵抗とを最適な比にすることを可能にする。図2Dに図示したハイブリッドコイル巻線パターンを具備する、完成したコイル巻線を図2Hに示す。
【0031】
以下の開示では、図2Cの個々の螺旋コイル巻線パターンと、関連する図2Gの完成したコイル巻線パターンとを、それぞれのステーターにおいて利用する。しかし、理解されるであろう点として、本開示におけるステーターは、図2A~2Dに関して説明したいずれかの巻線パターンを使ってもよい。さらに、本開示のいくつかの実施形態において、他の任意の巻線パターンが使われてもよい。
【0032】
図3および4に、図1におけるモーターユニット110のステーター140など、電気モーターにおいて使用するための例示的なステーターの断面を図示する。図3および4に図示するステーターの断面は、図1に示した線X-X'における断面である。図3は、1対の極対を有する3相電気モーターにおいて使用するための、磁極対あたり位相あたり1つのコイルを具備するステーター300を示している。この配置において、ステーター300は一重巻線ステーター(または2層コイルステーター)である。本開示において、電気モーターの3つの位相を、位相A、B、およびCとして参照する。一重巻線ステーター300において、各位相は1つのコイルを具備する――位相A用のコイル310(「A」とラベル付け)、位相B用のコイル311(「B」とラベル付け)、そして位相C用のコイル312(「C」とラベル付け)である。コイル310~312の各々は、Nが整数でありかつ N > 1 である複数のN回のターンを有する巻線を具備し、各コイルは同じターン数を有する。巻線は、図2A~2Dに関して説明した様式など、固有の様式に巻かれたワイヤーから形成され、それにより、図3においてリード線320~325で示されているように、始点と終点とを有する各コイルをもたらす。いくつかの実施形態において、巻線は、絶縁されたマグネットワイヤーから形成される。本開示の諸態様を、図2Cおよび2Gに図示したような螺旋コイルを有するステーターに関して説明するが、任意の巻線タイプが使われていよいことが理解されるであろう。
【0033】
図3に見られるように、コイル310~312の角度配分は、ステーター300の周りで等しく配分されるような配分であり、各コイルがステーター300の断面の円周の周りで120度の機械的角度にわたる。ステーター300は、磁極対あたり1つのコイルを有する3相電気モーターにおいて使われるが、n相の位相とp対の磁極対とを有する一般的な電気モーターについて、磁極対あたり位相あたり1つのコイルを有する一重巻線ステーターの各コイルはステーターの断面の円周の周りで360/(np)度の機械的角度にわたる。一重巻線ステーター300の縦軸の周りでのコイルの軸方向配分については、コイル310~312の巻線が、それぞれステーター300の近位端(図1におけるステーター140の近位端142など)から遠位端(図1におけるステーター140の遠位端143など)に向かって縦方向に延在しそして近位端まで戻るように巻かれるよう、構成される。この様式において、ステーター300のコイル310~312の各々が一重巻線を事実上具備する。図3に示す構成において、各コイル310~312用のリード線は、図1に示した給電路146、147など電気モーターまでの給電路と接続しやすいよう、ステーター300の近位端に位置する。
【0034】
留意されるべき点として、一重巻線ステーターが形成される様式のゆえに、各コイル310~312用のリード線320~325は、それぞれのコイルのスパンのいずれかの端部に位置する。例えばコイルAは、第一端部320から、マグネットワイヤーが第二端部321を形成するコイルスパンの端部まで、コイルの120°スパンの周りでステーターの円周に沿って第一方向(例えば反時計回り)にワイヤーを巻くことによって、形成される。さらに、一重巻線ステーター300において、コイルAは、コイルBおよびCが形成される前に全体が形成される。
【0035】
図4に、本開示の1つの態様に基づく、1対の極対を有する3相電気モーター内に使用するための、磁極対あたり位相あたり2つのコイルを具備するステーター400を示す。この配置において、ステーター400は二重巻線ステーター(または4層コイルステーター)であり、そして、図2Cに描写したような個々の螺旋コイル巻線パターンを伴って実施された時、ステーター400は、図2Gに図示した完成した巻線と同様の二重螺旋巻線ステーターである。ステーター400において、3相電気モーターの各位相A、B、およびCは2つのコイルを具備する。ゆえに、位相Aはコイル410(「A1」とラベル付け)およびコイル411(「A2」とラベル付け)を具備し、位相Bはコイル412(「B1」とラベル付け)およびコイル413(「B2」とラベル付け)を具備し、そして位相Cはコイル414(「C1」とラベル付け)およびコイル415(「C2」とラベル付け)を具備する。さらに、図4に示すように、ステーター400は、コイルA1、B1、およびC1を具備する内巻線と、コイルA2、B2、およびC2を具備する外巻線とを有する。
【0036】
図3における一重巻線ステーター300を参照すると、本開示の二重巻線ステーター400はより厚いコイルであり、一重巻線ステーター300より小さい内径および/または大きい外形を有する可能性がある。ある一定の実施形態において、同等のコイル抵抗を維持するため、一重巻線ステーター300に使用されるワイヤーと比較して、より太いマグネットワイヤーが二重巻線ステーター400において用いられる。ゆえに、一重巻線ステーター300の各コイル310~312が、Nが整数でありかつ N ≧ 1 であるN回のターンを有する巻線を具備するならば、二重巻線ステーター400における各位相A、B、およびCのためのコイルは、同じターン数を有する内巻線内の各コイルA1、B1、およびC1と、同じターン数を有する外巻線内の各コイルA2、B2、およびC2とを伴って、約1.5Nターン~約2Nターンを有する巻線を具備する。しかし、二重巻線ステーター400の直径が増大しているゆえに、留意されるべき点として、外巻線内の各コイルA2、B2、およびC2は、内巻線内の各コイルA1、B1、およびC1より、大きなターン数を有する。留意されるべき点として、二重巻線ステーター400は、コイル抵抗を下げるため、より太いマグネットワイヤーで実施され、それによって、約1.5Nターン~約2Nターンを有する二重巻線ステーターがもたらされる。上記に説明したように、コイル410~415は、図4においてリード線420~431で示されているように、始点と終点とを有する螺旋巻線からそれぞれ形成される。
【0037】
コイル410~415の角度配分は、ステーター400の周りで等しく配分されるような配分であり、各コイルがステーター400の断面の円周の周りで120度の機械的角度にわたる。ステーター400は、磁極対あたり位相あたり2つのコイルを有する3相電気モーターにおいて使われるが、n相の位相とp対の磁極対とを有する一般的な電気モーターについて、ステーター400は内巻線と外巻線とを具備する。内巻線はnp個のコイルを具備し、そのnp個のコイルにおいて、極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルがステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されている。内巻線は、外巻線のコイルがその上に形成される外面を提供する。外巻線もまた、内巻線の外面上に配置されたnp個のコイルを具備し、外巻線の各コイルもまたステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。
【0038】
二重巻線ステーター400内の個々のコイルA1、B1、およびC1の巻線パターンは、一重巻線ステーター300内の個々のコイルA、B、およびCのそれと同じである。しかし二重巻線ステーター400においては、内巻線が形成された後に、外巻線を形成するコイル411、413、415の巻線が、内巻線を形成するコイル410、412、414の外面上で、ステーター400の近位端から遠位端に向かって縦方向に延在しそして近位端まで戻るように巻かれる。この様式において、内巻線と外巻線とがそれぞれ2つのワイヤー層を事実上具備し、よって4層コイルステーターと称される。各コイル410~415用のリード線は、図1に示した給電路146、147など電気モーターまでの給電路と接続しやすいよう、ステーター400の近位端に位置する。
【0039】
留意されるべき点として、二重巻線ステーター400が形成される様式のゆえに、内巻線のそれぞれコイル410、412、414用のリード線420~421、424~425、および428~429と、外巻線のそれぞれコイル411、413、415用のリード422~423、426~427、および430~431とは、それぞれのコイルのスパンのいずれかの端部に位置する。例えばコイルA1は、第一端部420から、マグネットワイヤーが第二端部421を形成するコイルスパンの端部まで、コイルの120°スパンの周りでステーターの円周に沿って第一方向(例えば反時計回り)にコイルを巻くことによって、形成される。コイルA1の形成後に、内巻線の残りを構成するコイル(すなわちコイルB1およびC1)が形成される。内巻線が完全に形成されてはじめて、外巻線を構成するコイルの形成が始まる。ゆえに、コイルA1、B1、およびC1が形成された後に、コイルA2、B2、およびC2が形成される。コイルA2は、第一端部422から、マグネットワイヤーが第二端部423を形成するコイルスパンの端部まで、コイルの120°スパンの周りでステーターの円周に沿って第一方向(例えば反時計回り)にコイルを巻くことによって、形成される。コイルA2が形成された後に、外巻線の残りを構成するコイルが形成される。本開示の巻線シーケンスは、可能な限りコンパクトな4層コイルステーターを実現するためワイヤーが精密な順序になった巻線をもたらす。このことは、図9A~9Bに関して以下のセクションで詳述するように、それぞれのコイルを形成しているワイヤーの完全性を保つ。
【0040】
留意されるべき点として、二重巻線ステーター400は一重巻線ステーター300の少なくとも2倍の厚さである。このことは、二重巻線ステーター400が一重巻線ステーター300より小さい内径および/またはより大きい外径を有しうることを意味する。二重巻線ステーター400が電気モーターにおいて用いられる時は、電気モーター内の寸法が固定されていることにより、より小さい磁石および/またはより薄いヨークが必要となる。より小さい磁石および/またはより薄いヨークはいずれも磁束密度を低下させ、ゆえにモータートルク係数およびモーター効率を損なう。しかし、二重巻線ステーター400内のコイル巻線ターン数が一重巻線ステーター300と比較して増大していることによる恩典が、磁石がより小さいことおよび/またはヨークがより薄いことをしのぎ、それによってモータートルク係数およびモーター効率にかなりの増大をもたらす。
【0041】
図5に、3相2極電気モーターにおいて二重巻線ステーター400を使用している、図1の血液ポンプ100の電気モーター110の例示的な断面500を図示する。明瞭さのため、コイル410~415を形成している巻線は図5から省略されている。作動中の、ステーター400のコイル内を流れる電流と2極ローターの磁束密度との相互作用を、図5を参照しながら説明する。図1に関して説明したように、使用時にローター150は一定した回転状態にある。図5は、ローターが図に示すようなポジションにある瞬間の、ローター150のポジションを描写している。図示したポジションにおいて、永久磁石ローター150は磁束密度Bを生成し、そしてコイル410~415の各々は、縦方向に(ページの中にまたはページから外に)方向付けられてもよい電流を担う。ローレンツ力の法則にしたがって、磁束密度Bと、磁束密度Bに垂直な方向における導電ワイヤーの縦方向長さLとの間の相互作用が、ローター150内にトルクTを発生させてこれを回転させ、それは次式によって決定される:
式中、
は、ローター150の縦軸105に平行な方向であり、
は、ローター150の縦軸105に垂直な磁束密度Bの放射方向であり、そして×はベクトルのクロス乗積を表す。ゆえに、ステーター400内の電流の流れが縦軸105の周りでローター150の回転を引き起こし、それはひいては、ローターシャフト153の遠位端に連結されたインペラー160の、対応する回転を引き起こす。磁束密度Bのわずかな低減を伴うものの、本明細書に説明するステーター400は、モーター内のトルク生成を増大させるためにLをかなり増大させることを試みる。
【0042】
本開示の二重巻線ステーター400は、位相あたりコイル数を2倍にすることによって、一重巻線ステーターと比較して電気モーターの巻線ターン数を増大させる。しかし、図9A~9Bに関して説明するように、本開示の二重巻線ステーターは位相あたりコイル数を2倍にすることだけに関係があるわけではない。むしろ、本開示の二重巻線ステーター400は、内巻線のコイルを形成するワイヤーがまず順番に形成され、その後に、外巻線のコイルを形成するワイヤーが内巻線の外面上で順番に形成されるという、独特の巻線シーケンスを用いて形成される。そうした巻線シーケンスは、ローター150の外径とヨーク113の内径との間におけるコイルの実装密度を増大させる。ゆえに、本開示の二重巻線ステーター400は、ステーター400の導電ワイヤーの数が増大するにつれて式(1)のL成分をかなり増大させ、かつ、磁石のサイズおよび磁性ヨークの厚さの低減を必要としない。
【0043】
図1に関して簡単に論じたように、ポンプ100の外径は、ポンプを患者の心臓内にポジショニングするために使用されるカテーテルの内径によって制限される。現在、Impella(登録商標)ポンプ用に使用されるカテーテルの最大内径は約14 Frである。したがって、図5に示すように、xがローター150の半径であり、yがステーターコイルの厚さであり、かつzがヨーク113の厚さである、電気モーターの寸法 x + y + z は、カテーテルの内径によって制約される。モーター内の磁束密度Bを増大させるには、(i)より大きい永久磁石が使用されてもよく(すなわち、xがより大きい)、(ii)コイルがより薄く作られてもよく(すなわち、yがより小さい)、かつ、(iii)より厚いヨークが使用されてもよい(すなわち、zがより大きい)。
【0044】
二重巻線ステーター400の設計に関して、一重巻線ステーター300と比較した時に、二重巻線ステーターのコイルがより厚い(yがより大きい)こと、そしてその結果として、カテーテル内の空間的制約によって必要となる、永久磁石がより小さい(xがより小さい)こと、およびヨークがより薄い(zがより小さい)ことのゆえに、モーターの磁束密度Bが低減する。このことは式(1)におけるB成分を低減させる。しかし、コイルの巻線ターン数がより多いことによるLの増大は、上述の理由によるBの低減より大きい。正味の効果として、ローター150内で発生するトルクが増大する。
【0045】
一重巻線ステーター300におけるコイル310~312、および本開示の二重巻線ステーター400のコイル410~415は、例えば星形接続またはデルタ形接続など、電気モーター用の任意の構成に電気接続されてもよい。図6Aに、例示的な星形構成600に接続された、図3における一重巻線ステーター300のコイル310~312を示す。コイル310~312はそれぞれ、その抵抗RA、RB、およびRCとして表されている。図6A(ならびにそれに続く図6Bおよび6C)において、「s」はコイルの始まりのリード線を表し、そして「e」はコイルの終わりのリード線を表す。星形構成600において、コイル310の終点「Ae」と、コイル311の終点「Be」と、コイル330の終点「Ce」とが一緒に接続される。コイル310の始点「As」と、コイル311の始点「Bs」と、コイル312の始点「Cs」とは、図1における血液ポンプ100の給電路146、147などである給電路に接続される。この様式において、星形構成600の各枝路は、一重巻線ステーター300における各位相用のコイルに対応する単一負荷を具備する。
【0046】
図6Bに、本開示の1つの態様に基づく、二重巻線ステーター400におけるコイルの例示的な電気接続を示す。図6Bは、各位相A、B、およびC用のコイルが直列に接続された星形構成に接続されている、ステーター400のコイルを示している。ここで、コイル410~411はそれぞれ位相A用の抵抗RA1およびRA2として表されており、コイル412~413はそれぞれ位相B用の抵抗RB1およびRB2として表されており、そしてコイル414~415はそれぞれ位相C用の抵抗RC1およびRC2として表されている。上記に言及したように、ステーター400は、内巻線および外巻線に配置されたコイルを具備する。内巻線のコイル410、412、414はそれぞれN回のターンを具備し、一方で、外巻線のコイル411、413、および415はそれぞれ少なくともN回のターンを具備する;ここでNはステーター300の各コイルにおけるターン数であり、二重巻線ステーター400における位相あたり総巻線ターン数は、一重巻線ステーター300のそれの1.5~2.0倍であってもよい。ゆえに、二重巻線ステーター400の位相あたり電気抵抗は、一重巻線ステーター300のそれより高い。留意されるべき点として、いくつかの実施形態において、一重巻線ステーター300と比較して同等の抵抗を実現するため、より太いマグネットワイヤーが二重巻線ステーター400において用いられる。
【0047】
公知のこととして、モーター効率は、次のように定義されるモーター定数 Km によって示すことができる:
式中、kT はトルク係数であり、Rはコイル抵抗である。さらに、公知のこととして、トルク係数 kT は単位電流IあたりのトルクTであり、ゆえにトルク係数は次の関係を用いて定義できる:
式中、Bは磁束密度であり、Lは磁束密度に垂直な方向における導電ワイヤーの長さである。
【0048】
図5に関して論じたように、本開示の二重巻線ステーター400は、一重巻線ステーター300と比較した時に、Lの寄与を約1.5倍~約2倍に増大させ、一方で、yがより大きい(コイルがより厚い)こと、xがより小さい(磁石がより小さい)こと、および/またはzがより小さい(ヨークがより薄い)ことにより、ローター150内で発生するトルクTに対するBの寄与をわずかに低減させる。式(1)および(3)によれば、これはモータートルク係数 kT を約20%~約50%増大させる。他の実施形態において、モータートルク係数が約25%、約30%、約35%、約40%、または約45%増大してもよい。さらに、二重巻線ステーター400における位相あたりターン数は一重巻線ステーター300と比較して増大しているので、一重巻線ステーター300と同等のコイル抵抗を実現するため、より太いワイヤーが使用される。ゆえに、式(2)より、本開示の二重巻線ステーター400は一重巻線ステーター300に対してモーター定数 Km を増大させると期待される。これはモーター効率の増大につながる。
【0049】
図6Bの回路図に示すように、星形構成650の各枝路は、同位相のコイルを通って流れる電流が同じ方向になるように直列に接続された2つのコイルを具備する;すなわち、その2つのコイルは、一方のコイルの終点が他方のコイルの始点に接続される様式で接続される。例えば、位相Aについて、それぞれ抵抗RA1およびRA2によって表されたコイル410~411は、終点「A1e」が始点「A2s」に接続されるよう接続される。同様に、それぞれ抵抗RB1およびRB2によって表された、位相Bのコイル413の終点「B1e」とコイル414の始点「B2s」とが一緒に接続され、かつ、それぞれ抵抗RC1およびRC2によって表された、位相Cのコイル414の終点「C1e」とコイル415の始点「C2s」とが一緒に接続される。位相A用のコイル410の抵抗RA1の始点「A1s」と、位相B用のコイル412の抵抗RB1の始点「B1s」と、位相C用のコイル414の抵抗RC1の始点「C1s」とは、図1における血液ポンプ100の給電路146、147などである給電路に接続される。加えて、位相A用のコイル411の抵抗RA2の終点「A2e」と、位相B用のコイル413の抵抗RB2の終点「B2e」と、位相C用のコイル415の抵抗RC2の終点「C2e」とは、一緒に接続される。
【0050】
本開示の二重巻線ステーター400のコイル410~415が接続される様式は、電気モーターの作動中にコイル410~415がローター150によって発生する磁束密度とどのように相互作用するかを決定するので、重要である。図6Bに描写されるような星形構成650において、ステーター400のコイルA1を通って流れる電流の方向は、コイルA2を通って流れる電流の方向と同じである。同様に、ステーター400のコイルB1を通って流れる電流の方向は、コイルB2を通って流れる電流の方向と同じであり、かつ、ステーター400のコイルC1を通って流れる電流の方向は、コイルC2を通って流れる電流の方向と同じである。このことは、それを通って流れる電流の方向が同じであるコイルA1とA2とが両方とも、ローターの同じ極と相互作用することを意味する。加えて、それを通って流れる電流の方向が同じであるコイルB1とB2とは両方とも、ローターの同じ極と相互作用する。さらに、それを通って流れる電流の方向が同じであるコイルC1とC2とは両方とも、ローターの同じ極と相互作用する。つまり、本開示の二重巻線ステーター400における各位相のコイルは、ローターの極対ごとに磁石の同じ極性に遭遇する。
【0051】
図6Cに、本開示の1つの態様に基づく、二重巻線ステーター400におけるコイルのさらなる例示的な電気接続を示す。図6Cにおいて、ステーター400のコイルは、コイルを通って流れる電流が同じ方向になるように各位相A、B、およびC用のコイルが並列に接続された、星形構成660に接続されている。このことは図6Cに見ることができる;位相Aについて、それぞれ抵抗RA1およびRA2によって表されたコイル410~411は、終点「A1e」および「A2e」が中央の基準端子に接続され、一方で始点「A1s」および「A2s」が給電路に接続されるよう、接続される。同様に、位相Bについて、それぞれ抵抗RB1およびRB2によって表されたコイル412~413は、終点「B1e」および「B2e」が中央の基準端子に接続され、一方で始点「B1s」および「B2s」が給電路に接続されるよう、接続され、そして、位相Cについて、それぞれ抵抗RC1およびRC2によって表されたコイル414~415は、終点「C1e」および「C2e」が中央の基準端子に接続され、一方で始点「C1s」および「C2s」が給電路に接続されるよう、接続される。
【0052】
図6Bにおける構成650と同様に、図6Cに描写されるような星形構成660において、ステーター400のコイルA1を通って流れる電流の方向は、コイルA2を通って流れる電流の方向と同じである。同様に、ステーター400のコイルB1を通って流れる電流の方向は、コイルB2を通って流れる電流の方向と同じであり、かつ、ステーター400のコイルC1を通って流れる電流の方向は、コイルC2を通って流れる電流の方向と同じである。このことは、それを通って流れる電流の方向が同じであるコイルA1とA2とが両方とも、ローターの同じ極と相互作用することを意味する。加えて、それを通って流れる電流の方向が同じであるコイルB1とB2とは両方とも、ローターの同じ極と相互作用する。さらに、それを通って流れる電流の方向が同じであるコイルC1とC2とは両方とも、ローターの同じ極と相互作用する。つまり、本開示の二重巻線ステーター400における各位相のコイルは、ローターの極対ごとに磁石の同じ極性に遭遇する。
【0053】
図7に、本開示の1つの態様に基づく、3つの位相A、B、およびCと2対の永久磁極対N1-S1およびN2-S2とを有する電気モーターにおいて使用するための、二重巻線ステーター700の断面の別の例を図示する。上述した一般的定義によれば、ステーター700を用いた電気モーターは n = 3 および p = 2 を有する。図4におけるステーター400に関して論じたように、ステーター700もまた磁極対あたり位相あたり2つのコイルを具備し、その結果としてコイルは710~721の合計12個となる。ステーター700において、電気モーター内に2対の磁極対が存在することにより、3相電気モーターの各位相A、B、およびCが2つのコイルを具備する。ゆえに、位相Aはコイル710~73(それぞれ「A1」、「A2」、「A3」、および「A4」とラベル付け)を具備し、位相Bはコイル714~717(それぞれ「B1」、「B2」、「B3」、および「B4」とラベル付け)を具備し、そして位相Cはコイル718~721(それぞれ「C1」、「C2」、「C3」、および「C4」とラベル付け)を具備する。図7に示すように、ステーター700はコイルの内巻線とコイルの外巻線とを具備する。内巻線は6つのコイルを具備する;その6つのコイルは、極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルがステーター700の断面の周りで 360°/(np) = 360°/(3)(2) = 60° にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されている;内巻線は外面を有する。外巻線もまた、内巻線の外面上に配置された6つのコイルを具備する;外巻線の各コイルもまたステーター700の断面の周りで60°にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。さらに、極対ごとの同位相のコイルは、そのコイルを通って流れる電流が同じ方向になるように直列または並列に接続されてもよい。
【0054】
ステーター400のコイルと同様に、コイル710~721は、次のような星形構成またはデルタ形構成のいずれかで電気接続されてもよい:(i)位相A用のコイル710~713は、星形接続またはデルタ形接続の位相A用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される;(ii)位相B用のコイル714~717は、星形接続またはデルタ形接続の位相B用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される;そして、(iii)位相C用のコイル718~721は、星形接続またはデルタ形接続の位相C用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される。そうした電気接続において、(i)コイルA1およびA3を通って流れる電流の方向は、コイルA2およびA4を通って流れる電流の方向と同じであり;(ii)コイルB1およびB3を通って流れる電流の方向は、コイルB2およびB4を通って流れる電流の方向と同じであり;そして、(iii)コイルC1およびC3を通って流れる電流の方向は、コイルC2およびC4を通って流れる電流の方向と同じである。要するに、同位相のコイルが直列または並列のいずれで接続されても、同位相のコイルを通って流れる電流は同じ方向に流れる。
【0055】
この配置において、コイルA1~A4はそれを通って流れる電流の方向が同じである;ここで、コイルA1およびA3が例えば磁極S1と相互作用し、かつコイルA2およびA4が、磁極S1と同じ極性である、例えば対応する磁極S2と相互作用して、ローターを回転させる。同様に、コイルB1~B4はそれを通って流れる電流の方向が同じである;ここで、コイルB1およびB3が例えば磁極N1と相互作用し、かつコイルA2およびA4が、磁極N1と同じ極性である、例えば対応する磁極N2と相互作用して、ローターを回転させる。さらに、コイルC1~C4はそれを通って流れる電流の方向が同じである;ここで、コイルC1およびC3が例えば磁極S2と相互作用し、かつコイルC2およびC4が、磁極S2と同じ極性である、例えば対応する磁極S1と相互作用して、ローターを回転させる。留意されるべき点として、1度に2相のペアでコイル710~721に交互に電流を提供する、例えば6段階の直流電流コントローラによって、コイル710~721が駆動されてもよい。ゆえに、各位相によるコイルが次々にローター内でトルクを発生させ、それによってローターの連続回転を引き起こす。
【0056】
図8に、本開示の1つの態様に基づく、5つの位相A、B、C、D、およびEと1対の永久磁極対N-Sとを有する電気モーターにおいて使用するための、二重巻線ステーター800の断面のさらなる例を図示する。上述した一般的定義によれば、ステーター800を用いた電気モーターは n = 5 および p = 1 を有する。ステーター400および700に関して論じたように、ステーター800もまた磁極対あたり位相あたり2つのコイルを具備し、その結果としてコイルは810~819の合計10個となる。位相Aはコイル810~811(それぞれ「A1」および「A2」とラベル付け)を具備し、位相Bはコイル812~813(それぞれ「B1」および「B2」とラベル付け)を具備し、位相Cはコイル814~815(それぞれ「C1」および「C2」とラベル付け)を具備し、位相Dはコイル816~817(それぞれ「D1」および「D2」とラベル付け)を具備し、そして位相Eはコイル818~819(それぞれ「E1」および「E2」とラベル付け)を具備する。図8に示すように、ステーター800はコイルの内巻線とコイルの外巻線とを具備する。内巻線は5つのコイルを具備する;その5つのコイルは、極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルがステーター800の断面の周りで 360°/(np) = 360°/(5)(1) = 72° にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されている;内巻線は外面を有する。外巻線もまた、内巻線の外面上に配置された5つのコイルを具備する;外巻線の各コイルもまたステーター800の断面の周りで72°にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。さらに、極対ごとの同位相のコイルは、そのコイルを通って流れる電流が同じ方向になるように直列または並列に接続される。
【0057】
ステーター400および700のコイルと同様に、コイル810~819は、次のような星形構成またはデルタ形構成のいずれかで電気接続されてもよい:(i)位相A用のコイル810~811は、星形接続またはデルタ形接続の位相A用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される;(ii)位相用のコイル812~813は、星形接続またはデルタ形接続の位相B用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される;(iii)位相C用のコイル814~815は、星形接続またはデルタ形接続の位相C用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される;(iv)位相D用のコイル816~817は、星形接続またはデルタ形接続の位相D用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される;そして、(v)位相E用のコイル818~819は、星形接続またはデルタ形接続の位相E用の枝路に沿って1つのコイルの開始端子が隣のコイルの終了端子に接続された状態で、直列または並列に接続される。そうした電気接続において、(i)コイルA1を通って流れる電流の方向は、コイルA2を通って流れる電流の方向と同じであり;(ii)コイルB1を通って流れる電流の方向は、コイルB2を通って流れる電流の方向と同じであり;(iii)コイルC1を通って流れる電流の方向は、コイルC2を通って流れる電流の方向と同じであり;(iv)コイルD1を通って流れる電流の方向は、コイルD2を通って流れる電流の方向と同じであり;そして、(v)コイルE1を通って流れる電流の方向は、コイルE2を通って流れる電流の方向と同じである。
【0058】
この配置において、コイルA1~A2はそれを通って流れる電流の方向が同じである;ここで、コイルA1~A2は、ある瞬間に、例えば磁極Nと相互作用する。同様に、他の位相B~Eの各位相用のコイルも、ある瞬間に、ローターによる磁束の同じ極性と相互作用する;各位相用のコイルは、その瞬間にそれを通って流れる電流の方向が同じである。コイル810~819は、1度に複数位相のコイルに電流を提供するモーターコントローラによって駆動される。ゆえに、各位相によるコイルが次々にローター内でトルクを発生させ、それによってローターの連続回転を引き起こす。
【0059】
表1に、一重螺旋巻線ステーターおよび二重螺旋巻線ステーターをそれぞれ備えた電気モーターを有する2つの血液ポンプについて、代表的なデータを示す。具体的には、一重螺旋巻線ステーターは、図2Cに示したような螺旋巻線タイプで実施された、上記に説明したような一重巻線ステーター300に類似する。二重螺旋巻線ステーターは、これも図2Cに示したような螺旋巻線タイプで実施された、上記に説明したような二重巻線ステーター400に類似する。表に見られるように、二重螺旋巻線ステーターは、一重螺旋巻線ステーターと比較してコイル抵抗が5.40 Ω/位相に増大し、かつ、トルク係数が1.236×10-3 N・m/Aに増大、すなわち一重螺旋巻線ステーターから40.5%増大した、電気モーターをもたらす。表1における結果から、本開示の諸態様に基づく二重巻線ステーターがコイルのジュール熱を40%低減させ、一方で、そうした二重巻線ステーターを使ったモーターが、一重巻線ステーターを用いたモーターと比較して、ポンプを駆動するための同じトルクを生成することが、確認される。留意されるべき点として、磁極対あたり位相あたり2つのコイルを具備する上述のステーターを使った血液ポンプは、約1.0 lpmおよび約6.0 lpmの流量で作動するよう構成される;ここで「lpm」はリットル毎分を示す。
【0060】
(表1)さまざまなステーターコイル構成を備えた血液ポンプの性能
【0061】
上記に説明したように、マグネットワイヤーの数を一重巻線ステーターから二重巻線ステーターに増大させることは、同じ出力トルクに対するコイルのジュール熱を低減させ、ゆえにモーターの全体的な効率を向上させる。しかし、巻線ターン数を増大させる従来の実施形態を図9Aに関して説明する。図9Aに、ステーター900内の導体の量が2層ステーターから増大された、複数のマグネットワイヤー層を有する例示的なステーター900を示す。ステーター900は、位相A、B、およびCを有する3相電気モーターにおける使用に好適である。上記に説明したステーターと同様に、位相Aはコイル「A」を具備し、位相Bはコイル「B」を具備し、そして位相Cはコイル「C」を具備する。図に見られるように、ステーターの各コイル内の導体の量は、各コイル内のマグネットワイヤーのターン数をランダムな様式で単純に増大させることによって増大されている。ここでワイヤーは精密性または規則性を何ら伴わずに巻かれている。例えば、図9Aに示すように、コイルA、B、およびCの各々は、図に示す数字に従ってターン1で始まりターン65で終わる、マグネットワイヤーのターンのランダムな置き方によって形成される。特定数のマグネットワイヤーを各コイル内に詰めることが目標であるので、各コイル内においてターンは秩序なくランダムに置かれる。例えばターン1~4は、それぞれのコイルを形成するために配置される際に、互いから空間が空く。このことは、各コイル内でマグネットワイヤーがランダムに集まることにつながるが、ランダムな置き方はコイルが形成される際に例えば大きなギャップ910の形成などをもたらすので、それは劣った空間の使い方である;形成されたギャップは、巻線シーケンスにおいて後で巻かれるターンによって占有される可能性がある。それぞれのコイル内におけるこの非効率的な空間使用は、厚くかつ大きすぎるステーター900をもたらす。
【0062】
図10Aに、図9Aに関して説明した巻線シーケンスを用いて形成された、例示的なランダム巻き多層ステーター900を図示する。ステーター900を形成するワイヤーのランダムな配置が図10Aにおいて見られ、マグネットワイヤーは不規則でありかつ過剰に重なっている。図10Aに示すステーターの外面の様子に見られるように、このことはステーターの外面の巻線パターンが不規則になる一因となる。
【0063】
大きすぎるランダム巻き多層ステーター900は複数の問題点をもたらす。第一に、モーターステーターのサイズ制約に合わせるため、ステーターを機械的にスクィーズしなければならなくなる。機械的なスクィーズは、固定された内径を有するモーターのヨーク内にフィットするようステーター900の厚さを低減させる可能性がある。そうした機械的なスクィーズは、多層ステーター900の形成後に必要となる追加的な後処理段階である。第二に、機械的なスクィーズは、ステーター900の各コイル内におけるマグネットワイヤーの電気絶縁の完全性にリスクをもたらす。なぜならば、多層ステーターを機械的にスクィーズするために印加される力が、各マグネットワイヤーの周りの絶縁を損傷させる可能性があるからである。マグネットワイヤーの絶縁のそうした損傷は、作動中にコイル内および/またはコイル間に短絡をもたらす可能性がある。認識されるであろう点として、ランダム巻き多層ステーター900をスクィーズしない場合は、磁石のサイズおよび/またはヨークの厚さを低減させなければならず、それは電気モーターを通る磁束密度Bを低減させることになる。
【0064】
図9Bに、本開示の1つの態様に基づく、均一に巻かれたコイルとして形成された4つのマグネットワイヤー層を有する例示的なステーター950を図示する。4層コイルステーター950は、図4および5における二重巻線ステーター400に類似する。上述したように、本開示のステーターは内巻線960と外巻線965とを具備する。図4および5に示したように、内巻線および外巻線の各々がコイルを具備する。さらに、内巻線および外巻線の各々が、コイルとして形成された2つのマグネットワイヤー層を具備する。ここで、図9Bに示す各コイルA1、A2、B1、B2、C1、およびC2は、図2E~2Hに示したいずれかのコイル巻線パターンを用いて、遠位端に向かって縦方向に延在しそして近位端まで戻るように、ステーターの近位端の間で、それぞれのコイルステーターの断面の周りの120°のスパンに沿って、順序づけられたシーケンスでマグネットワイヤーを巻くことによって形成される。
【0065】
内巻線のコイルの各々において第一ターン(例えば「1」とラベル付けされたターン)を形成するためにステーターの近位端から遠位端までマグネットワイヤーが巻かれた時に、ターン1のマグネットワイヤーの往路部分が第一層内に形成され、そして、マグネットワイヤーが遠位端から近位端まで戻って巻かれた時に、ターン1のマグネットワイヤーの復路部分(「X」とラベル付け)が、放射方向外側に第一層に隣接した第二層内に形成される。ここで、隣接(adjacent)は「すぐ接して放射方向に隣に(immediately radially next to)」(すなわち、間に何もない状態で)を意味する。ゆえに、第一ターンは、ステーターの近位端からステーターの遠位端まで(第一層内に配置された往路ワイヤー部分)と、ステーターの遠位端からステーターの近位端まで(第二層内に配置された、「X」とラベル付けされた復路ワイヤー部分)とに巻かれた、連続的な銅線によって形成される。このことは、ターン1の往路ワイヤー部分が、往路ワイヤー部分からすぐ接して放射方向外向きに配置された対応する復路ワイヤー部分Xを有する、図9Bの断面に示されている。これにより、図9Bの断面に示すように、ステーター950の内巻線960および外巻線965の各々の中に第一層と第二層とを有するコイルが形成される。マグネットワイヤーのこの配置は、図9Bにおけるステーター950の断面において見られる;内巻線960のターンは、コイルA1、B1、およびC1の各々について、0°から120°までそれぞれのコイルのスパンに沿って反時計回り方向に、ターン1からターン31までの順番で精密に並べられている。各ターンの往路ワイヤー部分が第一層内に並べられるので、対応する復路ワイヤー部分は、往路ワイヤー部分からすぐ接して放射方向外向きにある第二層内に自動的に並べられる。ゆえに、各ターンについて、(第一層内の)往路ワイヤー部分と(第二層内の)対応する復路ワイヤー部分とは、後続するコイルの残り部分のターンが形成される前に、形成される。各コイル内の各ターンは、その前に形成されたターンにすぐ隣接して形成される;すなわち、各ターンは、間に何もない状態で、前のターンのすぐ隣に形成される。
【0066】
ステーター950においてターンが精密に配置されていることの結果として、内巻線960が均一な外面を形成し、その均一な外面上に外巻線965のワイヤーが配置される。ゆえに、内巻線のすべてのコイルA1、B1、およびC1が形成された後に、外巻線のコイルA2、B2、およびC2が、内巻線が形成されるのと同様の様式で、内巻線の均一な外面上に形成される。外巻線のコイルの各々について、第一ターン(例えば「32」とラベル付けされたターン)がステーターの近位端から遠位端まで形成されて、その際に第一ターン32のマグネットワイヤーの往路部分が第三層内に形成され、そして、マグネットワイヤーが遠位端から近位端まで戻って巻かれた時に、第一ターン32のマグネットワイヤーの復路部分(「Y」とラベル付け)が、放射方向外側に第三層に隣接した第四層内に形成される。ゆえに、外巻線の第一ターン32は、ステーターの近位端からステーターの遠位端まで(第三層内に配置された往路ワイヤー部分)と、ステーターの遠位端からステーターの近位端まで(第四層内に配置された、「Y」とラベル付けされた復路ワイヤー部分)とに巻かれた、連続的なマグネットワイヤーによって形成される。
【0067】
マグネットワイヤーのこの配置は、図9Bにおけるステーター950の断面において見られる;外巻線965のターンは、コイルA2、B2、およびC2の各々について、それぞれのコイルの120°のスパンに沿って反時計回り方向に、ターン32からターン65までの順番で精密に並べられている。この様式において、外巻線のターン32は内巻線のターン1と放射方向にアライメントしており、かつ、ワイヤー巻線のターン65は内巻線のターン31と放射方向にアライメントしている。留意されるべき点として、本開示のステーターは、内巻線と比較して外巻線の直径が大きいことにより、内巻線よりターン数が多い外巻線を有する。例えば、図9Bの二重巻線ステーター950において、外巻線は34回のターンを有し、内巻線は31回のターンを有する。この結果として、ステーター950は、ランダムに巻かれた多層巻線のステーター900におけるマグネットワイヤーの不規則な配置と比較して、緊密に詰められた配置になるよう順序付けされたマグネットワイヤーを具備する。二重巻線ステーター950はランダム巻き多層ステーター900と比較してよりコンパクトであり、したがって厚さがより小さい。
【0068】
ステーター950を形成するための例示的な巻線シーケンスは、以下の順序を有してもよい:(1)コイルA1用のターン1~31を形成する;(2)コイルB1用のターン1~31を形成する;(3)コイルC1用のターン1~31を形成する;(4)コイルA1の外面上にコイルA2用のターン32~65を形成する;(5)コイルB1の外面上にコイルB2用のターン32~65を形成する;そして、(6)コイルC1の外面上にコイルC2用のターン32~65を形成する。前述したように、各ターンは、往路ワイヤー部分と、往路ワイヤー部分に放射方向に隣接して自動的に配置された復路ワイヤー部分とを具備する。
【0069】
それぞれのステーターのスパンに沿ってターンが精密に順次置かれることを確実にするため、サーボモーターが使用される。留意されるべき点として、ステーター950の内巻線および外巻線における各コイルは、電気モーター100の給電路146~147に接続するためのリード線のペア(図4におけるコイルA1用のリード線420~421など)を有する。
【0070】
いくつかの実施形態において、一重巻線ステーターと比較して二重巻線ステーターのコイル抵抗の増大を最小にするため、より太いワイヤーが内巻線および外巻線を形成するコイルに使用されて、一重巻線ステーターと同等の抵抗が実現されてもよい。
【0071】
図10Bに、本開示の諸態様に基づき、図9Bに関して説明した巻線シーケンスを用いて形成された例示的なステーターを図示する。図に見られるように、図10Bにおけるステーターは精密に配置されたワイヤーを具備し、それはステーターの長さに沿った均一な外径をもたらしている。図9Bの4層コイルステーターを伴って電気モーターを組み立てる時は、必要とされるステーターの機械的スクィーズは最小になると考えられる。必要な機械的スクィーズが最小であるので、コイルA1、A2、B1、B2、C1、およびC2を形成しているワイヤーの絶縁を損傷させるリスクが最小になり、それによって二重巻線ステーター950の信頼性が高まる。
【0072】
留意されるべき点として、図9Aにおけるランダム巻き多層ステーター900に関して、機械的スクィーズはステーターの厚さを、限定された程度しか低減できない。ゆえに、機械的スクィーズ後も、ランダム巻き多層ステーター900は二重巻線ステーター950と比較して電気モーター内に使用されるヨークに対して厚すぎる可能性がある。この問題点を軽減するため、例えばImpella(登録商標)がそれを通って動く14 Frのカテーテルなど、モーターと共に作動する他のコンポーネントと統合できるようモーターの外径を保つために、いくつかの態様において、二重巻線ステーター950と比較してランダム巻き多層ステーター900内ではより薄いヨークが使用される。加えて、二重巻線ステーター950と比較してランダム巻き多層ステーター900内ではより小さな磁石を使用しなければならない可能性もある。
【0073】
二重巻線ステーター950を有する電気モーターと比較して、ランダム巻き多層ステーター900を有する電気モーター内では、より薄いヨークおよび/またはより小さい磁石が磁束密度Bを低減させる。図9Aおよび9Bに示すように、ランダム巻き多層ステーター900と二重巻線ステーター950とは両方とも同じ巻線ターン数を有する。このことは、式(1)により、ステーター900、950の両方が、モータートルクTに対して同じLの寄与を有することを意味する。二重巻線ステーター950を有する電気モーターと比較して、ランダム巻き多層ステーター900を有する電気モーター内では、導電ワイヤーの長さは同じLでありながら磁束密度Bがより低いことにより、モータートルクがより低く、かつモーター効率もより低い。
【0074】
図11に、本開示の1つの態様に基づく、上記に説明したステーター400などの二重巻線ステーターを形成する例示的な方法1100を図示する。方法1100は、pがゼロより大きい整数でありかつnが≧3の整数である、p対の磁極対とn相の位相とを有するスロットレス永久磁石モーターにおいて使用するための、二重巻線ステーターを形成するのに好適である。方法1100は、np個のコイルを具備する内巻線(例えば図9Bにおける内巻線960など)が形成される段階1110で始まる。内巻線において、磁極対ごとの位相順に各位相による1つのコイルが異なる位相によるコイルの隣に配置されており、その配置は、内巻線の各コイルが二重巻線ステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、全極対についてステーターの円周の周りで繰り返されている。いくつかの実施形態において、各巻線は、ステーターの長さに沿ってそれぞれ縦方向に延在している2つのワイヤー層を具備する;各巻線におけるワイヤーは、各巻線のスパンに沿って順番に互いのすぐ隣に配置される。内巻線は、完成すると外面を有する。
【0075】
内巻線の完成後に、同方法は、例えば図9Bにおける外巻線965など、外巻線が巻かれる段階1120に進む。内巻線と同様に外巻線もまた、内巻線の外面上に配置されたnp個のコイルを具備し、外巻線の各コイルもまた二重巻線ステーターの断面の周りで360/(np)度の機械的角度にわたるよう、外巻線の各位相によるコイルは、極対ごとの同位相を有する内巻線によるコイルと円周方向にアライメントされている。内巻線と同様に、いくつかの実施形態において、各巻線は、ステーターの長さに沿ってそれぞれ縦方向に延在している2つのワイヤー層を具備する;各巻線におけるワイヤーは、各コイルのスパンに沿って順番に互いのすぐ隣に配置される。上記に説明した配置において、二重巻線ステーター950の内巻線と外巻線とは同じ角度境界を共有する。
【0076】
内巻線および外巻線が完成したら、段階1130で、同位相のコイルを通って流れる電流が同じ方向になるように、極対ごとの同位相のコイルが電気的に接続される。
【0077】
要約すると、本開示の二重巻線ステーター(例えばステーター400)は、一重巻線ステーター(例えばステーター300)と比較した時にモーターの効率を向上させ、それは、それぞれのステーターにおけるローター磁石のサイズと、ヨークの厚さと、巻線ターン数との間のトレードオフのゆえにである。モーター内の効率におけるこの増大は、同等のステーター抵抗を実現しながらモータートルク係数が約20%~約50%の範囲で増大することによって実現される。本開示のある一定の実施形態において、モータートルク係数が約25%、約30%、約35%、約40%、または約45%増大されてもよい。加えて、本開示の二重巻線ステーター(例えばステーター950)は、二重巻線ステーター内のワイヤーの配置がコンパクトであるゆえに、必要とされる機械的スクィーズの後処理が最小であるので、ランダム巻き多層ステーター(例えばステーター900)と比較してモーターの信頼性を向上させる。必要な機械的スクィーズが最小であるので、過剰な機械的スクィーズが必要とされるランダム巻き多層ステーターと異なり、もたらされるワイヤー絶縁の損傷が二重巻線ステーターにおいては存在しない。
【0078】
以上の記述とさまざまな図面への参照とから、当業者には、本開示の範囲から逸脱することなくある一定の改変もまた本開示に行われうることが認識されるであろう。理解されるべき点として、本明細書に説明するデバイスは、血液ポンプ用の電気モーターの二重巻線ステーターに関して示されているが、増大したトルクと高いモーター効率とを備えた電気モーターが望ましい他のシステムに適用されてもよい。図面には本開示のいくつかの態様が示されているが、本開示がそれに限定されることは意図されていない;本開示は当技術分野が許容する限り広い範囲のものであること、そして本明細書がそのように読まれることが意図されているからである。したがって、以上の説明は限定的なものとしてではなく、特定の態様の例示としてのみ、みなされるべきである。当業者には、添付の特許請求の範囲および精神の範疇に入る他の改変も想像されるであろう。
【0079】
上述の開示において、「約(about)」という用語は、記述された値の±20%を意味するものとして取られるべきであることが理解されるであろう。加えて、「電気モーター(electric motor)」という用語は、当技術分野において周知されているように、電気機械(electric machine)という用語と同義であるとして取られるべきである。さらに、「隣接(adjacent)」という用語は、間に何も介在しない状態ですぐ隣にあることを意味するものとして取られるべきである。例えば、物体/特徴Pと物体/特徴Qとの間に介在物がない時に、PはQに隣接している。角度(単位°を伴う)の尺度はすべて、別段の記述がない限り、機械的角度として取られるべきである。上述の態様において、ステーターの巻線用に使用されるワイヤーは、例えば銅など、任意の材料を具備してよい。いくつかの実施形態において、ワイヤーが絶縁されてもよい。
【0080】
当業者には、本開示の検討後にバリエーションおよび改変が考えられるであろう。本開示の諸特徴は、本明細書に説明する1つまたは複数の他の特徴との、任意の組み合わせおよび下位組み合わせ(複数の従属的な組み合わせおよび下位組み合わせを含む)において実施されてもよい。以上に説明または例証したさまざまな特徴は、そのコンポーネントも含めて、他のシステムに組み合わせまたは統合されてもよい。さらに、ある一定の特徴が省略されるかまたは実施されなくてもよい。
【0081】
変更、置換、および変化の例は当業者によって確認可能であり、かつ、本明細書に開示する情報の範囲から逸脱することなく行われうる。本明細書に挙げるすべての参照物は、その全内容が参照により組み入れられ、かつ本出願の一部をなす。
図1
図2
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図11