(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】水分散樹脂粒子、水性塗料組成物、塗装物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 7/20 20180101AFI20241106BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241106BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20241106BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241106BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241106BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241106BHJP
C09D 133/24 20060101ALI20241106BHJP
C08F 20/54 20060101ALN20241106BHJP
C08K 3/013 20180101ALN20241106BHJP
C08L 101/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C09D7/20
B05D7/24 302X
B05D7/24 303A
B32B27/08
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D7/63
C09D133/24
C08F20/54
C08K3/013
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2022108416
(22)【出願日】2022-07-05
【審査請求日】2024-07-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-100080(JP,A)
【文献】特開2011-126998(JP,A)
【文献】特開2021-089152(JP,A)
【文献】特開平08-060025(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103232709(CN,A)
【文献】国際公開第2020/241342(WO,A1)
【文献】特開2003-245605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08F
C09D,B32B,B05D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散樹脂粒子と、
塗膜形成性樹脂と、
硬化剤と、
顔料と、
水を含む希釈成分と、を含み、
前記水分散樹脂粒子は、1以上のアミド基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、前記モノマーに由来する構成単位の含有量が全構成単位の1質量%以上20質量%以下であり、水酸基価が1mgKOH/g以下であり、
前記希釈成分は、さらに有機溶剤を含み、
前記有機溶剤は、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%以上7質量%以下である第1有機溶剤と、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%未満である第2有機溶剤とを含み、
前記第1有機溶剤の含有量は、0.4質量%以上5質量%以下であり、
前記第2有機溶剤の含有量は、0.05質量%以上2.5質量%以下である
、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記顔料は、着色顔料、鱗片状顔料および体質顔料よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記水分散樹脂粒子は、
さらに、前記1以上のアミド基を有するモノマーとは異なる他のモノマーに由来する構成単位を含み、
前記他のモノマーを重合して得られるホモポリマーのガラス転移温度は、80℃以上であり、
前記他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、全構成単位の70質量%以上である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
被塗物と、
前記被塗物上に形成されたベースコート塗膜と、を備え、
前記ベースコート塗膜は、請求項
1に記載の水性塗料組成物により形成される、塗装物品。
【請求項5】
さらに、前記ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜を備える、請求項
4に記載の塗装物品。
【請求項6】
被塗物と、
前記被塗物上に形成された中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に形成されたベースコート塗膜と、を備え、
前記ベースコート塗膜は、請求項
1に記載の水性塗料組成物により形成される、塗装物品。
【請求項7】
さらに、前記ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜を備える、請求項
6に記載の塗装物品。
【請求項8】
被塗物上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、請求項
1に記載の水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
【請求項9】
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記硬化工程において、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、請求項
8に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項10】
被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜および前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、請求項
1に記載の水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
【請求項11】
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記硬化工程において、前記未硬化の中塗り塗膜、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、請求項
10に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項12】
被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜を硬化させる第1硬化工程と、
前記硬化された中塗り塗膜上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる第2硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、請求項
1に記載の水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
【請求項13】
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記第2硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記第2硬化工程において、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、請求項
12に記載の塗装物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散樹脂粒子、水性塗料組成物、塗装物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材などの被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜が形成される。塗膜は、被塗物を保護すると同時に被塗物に意匠性を付与する。特許文献1には、アルミニウムフレーク顔料を含むメタリック塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗膜に含まれる顔料の濃度が高いほど、意匠性は向上する。しかし、顔料濃度が高くなると、塗膜の密着性は低下し易い。
【0005】
本発明の目的は、優れた意匠性および密着性を両立する塗膜を得られる水分散樹脂粒子を提供することである。本発明の目的は、また、上記水分散樹脂粒子を含む水性塗料組成物、塗装物品およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記態様[1]~[15]を提供する。
[1]
1以上のアミド基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、
前記モノマーに由来する構成単位の含有量は、全構成単位の1質量%以上20質量%以下であり、
水酸基価は、1mgKOH/g以下である、水分散樹脂粒子。
[2]
さらに、前記1以上のアミド基を有するモノマーとは異なる他のモノマーに由来する構成単位を含み、
前記他のモノマーを重合して得られるホモポリマーのガラス転移温度は、80℃以上であり、
前記他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、全構成単位の70質量%以上である、上記[1]に記載の水分散樹脂粒子。
【0007】
[3]
上記[1]または[2]に記載の水分散樹脂粒子と、
塗膜形成性樹脂と、
硬化剤と、
顔料と、
水を含む希釈成分と、を含む、水性塗料組成物。
【0008】
[4]
前記希釈成分は、さらに有機溶剤を含み、
前記有機溶剤は、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%以上7質量%以下である第1有機溶剤と、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%未満である第2有機溶剤とを含み、
前記第1有機溶剤の含有量は、0.4質量%以上5質量%以下であり、
前記第2有機溶剤の含有量は、0.05質量%以上2.5質量%以下である、上記[3]に記載の水性塗料組成物。
【0009】
[5]
前記顔料は、着色顔料、鱗片状顔料および体質顔料よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[3]に記載の水性塗料組成物。
【0010】
[6]
被塗物と、
前記被塗物上に形成されたベースコート塗膜と、を備え、
前記ベースコート塗膜は、上記[3]に記載の水性塗料組成物により形成される、塗装物品。
【0011】
[7]
さらに、前記ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜を備える、上記[6]に記載の塗装物品。
【0012】
[8]
被塗物と、
前記被塗物上に形成された中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に形成されたベースコート塗膜と、を備え、
前記ベースコート塗膜は、上記[3]に記載の水性塗料組成物により形成される、塗装物品。
【0013】
[9]
さらに、前記ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜を備える、上記[8]に記載の塗装物品。
【0014】
[10]
被塗物上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、上記[3]に記載の水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
【0015】
[11]
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記硬化工程において、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、上記[10]に記載の塗装物品の製造方法。
【0016】
[12]
被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜および前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、上記[3]に記載の水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
【0017】
[13]
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記硬化工程において、前記未硬化の中塗り塗膜、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、上記[12]に記載の塗装物品の製造方法。
【0018】
[14]
被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜を硬化させる第1硬化工程と、
前記硬化された中塗り塗膜上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる第2硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、上記[3]に記載の水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
【0019】
[15]
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記第2硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記第2硬化工程において、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、上記[14]に記載の塗装物品の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた意匠性および密着性を両立する塗膜を得られる水分散樹脂粒子が提供される。本発明によれば、また、上記水分散樹脂粒子を含む水性塗料組成物、塗装物品およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明のさらに他の実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る塗装物品の製造方法のフローチャートである。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る塗装物品の製造方法のフローチャートである。
【
図7】本発明のさらに他の実施形態に係る塗装物品の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示に係る水分散樹脂粒子は、1以上のアミド基を有するモノマーに由来する構成単位を含む。モノマーに由来する構成単位の含有量は、全構成単位の1質量%以上20質量%以下である、水分散樹脂粒子の水酸基価は、1mgKOH/g以下である。すなわち、本開示に係る水分散樹脂粒子は、アミド基(-NH2)を有する一方、水酸基(-OH)をほとんど有さない。
【0023】
本開示に係る水分散樹脂粒子は、塗料組成物の剪断エネルギーが低い状態における粘性の向上に寄与し得る。そのため、水分散樹脂粒子によって、塗料組成物が被塗物に塗着して形成される、未硬化の塗膜の粘度が適度に高く維持されて、未硬化の塗膜内における対流や流動が抑制される。その結果、顔料の配向性が高まり、意匠性が向上する。
【0024】
加えて、本開示に係る水分散樹脂粒子は、アミド基の作用により、塗料組成物に含まれる成分の凝集力を高める。アミド基は、特に大きな双極子モーメントを有しているため、分子間に強い相互作用(代表的には、ファンデルワールス力)を生じさせる。よって、塗膜の凝集破壊も抑制されて、塗膜の密着性は一層向上する。塗膜の密着性が向上すると、塗膜の耐擦り傷性、耐チッピンク牲、耐薬品性(耐酸性雨性)、耐光劣化および耐水性等が向上し易くなる。水分散樹脂粒子を含む水性塗料組成物により自動車車体の塗膜を形成すると、特に、高圧洗浄の際の塗膜の剥離が抑制される。
【0025】
意匠性および密着性の向上には、水分散樹脂粒子が低い水酸基価を有していることも貢献している。塗料組成物には、一般に、粘性剤が配合される。粘性剤は、塗料組成物の粘度を制御することにより、塗膜形成性樹脂を凝集させ易くしたり、顔料の配向性を高めたりする。しかしながら、この粘性剤の機能が発揮されない場合がある。その理由は明らかではないが、粘性剤が塗料組成物中の疎水性成分と過度に相互作用するためと考えられる。本開示に係る水分散樹脂粒子は水酸基価が極めて低いため、塗料組成物中の疎水性成分と粘性剤との間に介在することができて、両者の相互作用を妨げる。これにより、粘性剤の機能低下が抑制され得る。
【0026】
粘性剤の機能には、アミド基もまた影響を与え得る。しかしながら、本開示に係る水分散樹脂粒子は、粒子状であるために表面積が小さく、粒子表面にあるアミド基はわずかである。よって、水分散樹脂粒子は、アミド基を有するにもかかわらず、粘性剤の機能に影響を与え難い。
【0027】
水分散樹脂粒子の効果が発揮されるには、当該粒子中において、アミド基と水酸基とができるだけ併存しないことが重要である。水分散樹脂粒子とともに、水酸基を有する他の樹脂を併用することは許容される。
【0028】
[水分散樹脂粒子]
本開示に係る水分散樹脂粒子は、1以上のアミド基を有するモノマー(以下、アミドモノマーと称する場合がある。)に由来する構成単位(以下、第1構成単位と称する場合がある。)を含む。第1構成単位の含有量は、全構成単位の1質量%以上20質量%以下である。また、本開示に係る水分散樹脂粒子の水酸基価は、1mgKOH/g以下である。すなわち、水分散樹脂粒子は、アミド基を含有する一方、水酸基をほとんど含有しない。この水分散樹脂粒子を水性塗料組成物に添加すると、密着性および意匠性に優れる塗膜が得られる。
【0029】
水分散樹脂粒子は、水に分散したエマルションの形態を有している。水分散樹脂粒子は、水性塗料組成物の添加剤として好適に用いられる。
【0030】
水分散樹脂粒子の粒子径は特に限定されない。水分散樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、50nm以上であり、100nm以上であってよく、200nm以上であってよい。水分散樹脂粒子の平均粒子径は、500nm以下であってよく、300nm以下であってよい。一態様において、水分散樹脂粒子の平均粒子径は50nm以上500nm以下である。水分散樹脂粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒子径(D50)である。後述するベース粒子の平均粒子径も同様である。
【0031】
水分散樹脂粒子の数平均分子量は、例えば、5,000以上30,000以下である。水分散樹脂粒子の数平均分子量は、7,000以上であってよい。水分散樹脂粒子の数平均分子量は、28,000以下であってよい。数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法により決定することができる。
【0032】
水分散樹脂粒子の水酸基価は、1mgKOH/g以下であり、低い方がより好ましい。水分散樹脂粒子の水酸基価は、0.5mgKOH/g以下であってよく、0.2mgKOH/g以下であってよく、0mgKOH/gであってよい。
【0033】
塗膜の硬化性の観点から、水分散樹脂粒子の酸価は、3mgKOH/g以上であってよく、7mgKOH/g以上であってよい。水分散樹脂粒子の酸価は、40mgKOH/g以下であってよく、50mgKOH/g以下であってよい。酸価および水酸基価は、既知の方法を用いた実測または計算により求めることができる。
【0034】
アミドモノマーは、1以上のアミド基を有する重合性のモノマーである限り、特に限定されない。アミドモノマーとしては、例えば、アミド基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
【0035】
アミド基含有α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N-モノブチル(メタ)アクリルアミド、N-モノオクチル(メタ)アクリルアミド2,4-ジヒドロキシ-4’-ビニルベンゾフェノン、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミドが挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を含む概念である。アミドモノマーは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
水分散樹脂粒子は、アミドモノマーと、アミドモノマー以外のモノマー(以下、単に他のモノマーと称する。)との共重合体である。アミドモノマーに由来する第1構成単位の含有量は、全構成単位の1質量%以上20質量%以下である。これにより、水和安定性が向上し、また、粘性剤の機能を阻害し難い。第1構成単位の含有量は、全構成単位の3質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。第1構成単位の含有量は、全構成単位の15質量%以下であってよい。第1構成単位の全構成単位に対する含有量は、水分散樹脂粒子を合成する際の、アミドモノマーの仕込み量/(アミドモノマーの仕込み量+他のモノマーの仕込み量)から算出することができる。
【0037】
他のモノマーは、アミド基非含有であって、かつ重合性である限り、特に限定されない。他のモノマーとしては、例えば、アミド基を有しないα,β-エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。他のモノマーは、水分散樹脂粒子の水酸基価が1mgKOH/g以下となる限り、水酸基を有していてよい。
【0038】
アミド基非含有α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸、3-ビニルアセチルサリチル酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の酸基含有モノマーが挙げられる。
【0039】
アミド基非含有α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、さらに、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン(ST)、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t-ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)が挙げられる。
【0040】
水酸基含α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物が挙げられる。
【0041】
他のモノマーは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
なかでも、他のモノマーとして、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上のホモポリマーが得られるモノマー(以下、高Tgモノマーと称す。)を含んでよい。これにより、得られる水分散樹脂粒子のTgが高まって、水性塗料組成物中において粒子形状が保持され易くなる。一方、塗膜の硬化工程において水分散樹脂粒子は変形して、塗膜の密着性向上に寄与する。高TgモノマーのホモポリマーのTgは、高い方が望ましく、90℃以上であってよく、100℃以上であってよい。
【0043】
高Tgモノマーとしては、例えば、スチレン(ST、100℃)、メタクリル酸メチル(MMA、105℃)、メタクリル酸t-ブチル(TBMA、107℃)、メタクリル酸(MAA、187℃)が挙げられる。カッコ内の温度は、ホモポリマーのTgである。ホモポリマーの分子量は、Tgが一定となる程度に十分に大きい限り、特に限定されない。
【0044】
高Tgモノマーに由来する構成単位(以下、第2構成単位と称する場合がある。)の含有量は、全構成単位の70質量%以上であってよく、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上であってよい。第2構成単位の含有量は、全構成単位の100質量%以下であってよく、99質量%以下であってよく、98質量%以下であってよい。第2構成単位の全構成単位に対する含有量は、水分散樹脂粒子を合成する際の、高Tgモノマーの仕込み量から算出することができる。
【0045】
水分散樹脂粒子は、アミドモノマーおよび他のモノマーを含む原料モノマーを乳化重合することによって得られる。乳化重合は、当業者において一般的に行われる方法により行われる。具体的には、必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を混合し、得られた混合物を加熱および撹拌させながら、原料モノマーおよび重合開始剤を滴下する。また、原料モノマー、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を、水性媒体中に滴下してもよい。
【0046】
乳化重合は、一段階重合であってよく、二段階重合であってよく、三段階以上の多段階重合であってよい。二段階重合では、原料モノマーの一部をエマルション重合した後、ここに残りの原料モノマーを加えて乳化重合が行われる。例えば、他のモノマーを乳化重合した後、この他のモノマーの重合体を含むエマルションにアミドモノマーを添加して、さらに乳化重合する。この場合、水分散樹脂粒子の粒子径は、アミドモノマーの添加時期により調整できる。
【0047】
重合開始剤の例として、例えば、アゾ系の油性化合物あるいは水性化合物、レドックス系の油性過酸化物あるいは水性過酸化物が挙げられる。アゾ系の油性化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。アゾ系の水性化合物としては、例えば、アニオン系の4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン、カチオン系の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)が挙げられる。レドックス系の油性過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt-ブチルパーベンゾエートが挙げられる。レドックス系の水性過酸化物としては、例えば、過硫酸カリおよび過硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0048】
乳化剤は、当業者において一般的に用いられている乳化剤を用いることができる。乳化剤は、反応性乳化剤であってよい。反応性乳化剤として、例えば、アントックス(Antox)MS-60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS-2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE-20(旭電化社製)およびアクアロンHS-10(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0049】
また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタン等のメルカプタン化合物、そしてα-メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を必要に応じて用いることができる。
【0050】
反応温度は重合開始剤により決定され、例えば、アゾ系の重合開始剤では60℃以上90℃以下であり、レドックス系の重合開始剤では30℃以上70℃以下で行うことできる。一般に、反応時間は1時間以上8時間以下である。モノマーの全量に対する重合開始剤の量は、一般に0.1質量%以上5質量%以下であり、0.2質量%以上2質量%以下であってよい。
【0051】
水分散樹脂粒子は、必要に応じて塩基で中和されてもよい。これにより、水分散樹脂粒子を5以上10以下のpH下で用いることができる。
【0052】
[水性塗料組成物]
本開示に係る水性塗料組成物は、上記の水分散樹脂粒子と、塗膜形成性樹脂と、硬化剤と、顔料と、水を含む希釈成分と、を含む。
【0053】
(水分散樹脂粒子)
水分散樹脂粒子の詳細は上記の通りである。水分散樹脂粒子は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
水分散樹脂粒子の含有量は特に限定されない。水分散樹脂粒子の含有量は、水性塗料組成物の樹脂固形分中、1質量%以上であってよく、3質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。水分散樹脂粒子の含有量は、水性塗料組成物の樹脂固形分中、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。
【0055】
(塗膜形成性樹脂)
塗膜形成性樹脂は特に限定されず、水性塗料組成物において従来公知の樹脂が使用される。塗膜形成性樹脂の形態は特に限定されない。塗膜形成性樹脂の形態は、水溶液であってよく、水分散液であってよく、エマルションであってよい。
【0056】
塗膜形成性樹脂は、水酸基を有していてもよい。得られる塗膜の耐久性がさらに向上し易くなる点で、塗膜形成性樹脂は水酸基を有してよい。塗膜形成性樹脂の水酸基価は、10mgKOH/g以上であってよく、20mgKOH/g以上であってよい。塗膜形成性樹脂の水酸基価は、150mgKOH/g以下であってよく、100mgKOH/g以下であってよい。一態様において、塗膜形成性樹脂の水酸基価は、10mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。
【0057】
塗膜形成性樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上であってよく、15mgKOH/g以上であってよい。塗膜形成性樹脂の酸価は、80mgKOH/g以下であってよく、70mgKOH/g以下であってよい。一態様において、塗膜形成性樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である。
【0058】
得られる塗膜の諸物性が向上し易くなる点で、塗膜形成性樹脂のTgは、-20℃以上80℃以下であってよい。
【0059】
塗膜形成性樹脂の酸価、水酸基価、酸価およびTgは、実測により求めることができる。あるいは、塗膜形成性樹脂の酸価、水酸基価およびTgは、原料モノマーにおける各種不飽和モノマーの配合量を考慮して、算出してもよい。本明細書において、原料モノマーを乳化重合して得られるシェル部の酸価、水酸基価およびTgは、原料モノマー中の各種不飽和モノマーの配合量を考慮して、算出された値である。
【0060】
塗膜形成性樹脂の数平均分子量は特に限定されない。塗膜形成性樹脂の数平均分子量は、5,000以上であってよく、7,000以上であってよい。塗膜形成性樹脂の数平均分子量は、30,000以下であってよく、25,000以下であってよい。一態様において、塗膜形成性樹脂の数平均分子量は5,000以上30,000以下である。
【0061】
塗膜形成性樹脂の固形分量は、特に限定されない。塗装作業性の観点から、塗膜形成性樹脂の固形分量は、水性塗料組成物の固形分の5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。塗膜形成性樹脂の固形分量は、水性塗料組成物の固形分の95質量%以下であってよく、85質量%以下であってよく、70質量%以下であってよい。一態様において、塗膜形成性樹脂の固形分量は、水性塗料組成物の固形分の5質量%以上95質量%以下である。
【0062】
塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、水酸基含有ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂およびカルボジイミド樹脂が挙げられる。塗膜形成性樹脂は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0063】
なかでも、耐候性および耐水性の点で、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましく、コアシェル型アクリル樹脂であってよい。
【0064】
コアシェル型アクリル樹脂のコア部は、例えば、1分子中に2個以上の(メタ)アクリレート基あるいはビニル基を含有する多官能性不飽和モノマーを含む原料モノマー(a)の重合体である。コア部は架橋構造を有している。原料モノマー(a)は、多官能性不飽和モノマー以外の他の不飽和モノマーを含んでよい。
【0065】
多官能性不飽和モノマーは特に限定されない。多官能性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレートおよびジビニルベンゼンが挙げられる。
【0066】
得られる塗膜の意匠性がさらに向上し易い点で、上記多官能性不飽和モノマーの含有量は、原料モノマー(a)の1質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。得られる塗膜の平滑性が向上し易い点で、上記多官能性不飽和モノマーの含有量は、原料モノマー(a)の20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよい。一態様において、上記多官能性不飽和モノマーの含有量は、原料モノマー(a)の1質量%以上20質量%以下である。
【0067】
コアシェル型アクリル樹脂のシェル部は、例えば、カルボン酸基含有不飽和モノマーを含む原料モノマー(b)の重合体である。原料モノマー(b)はカルボン酸基含有不飽和モノマー以外の他の不飽和モノマーを含んでよい。
【0068】
カルボン酸基含有不飽和モノマーは特に限定されない。カルボン酸基含有不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-[(1-オキソ-2-プロペニル)オキシ]ポリ[オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル)]、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸および3-ビニルアセチルサリチル酸が挙げられる。
【0069】
塗装作業性が向上し易い点で、カルボン酸基含有不飽和モノマーの酸価は、3mgKOH/g以上であってよく、7mgKOH/g以上であってよい。得られる塗膜の耐水性がさらに向上し易い点で、カルボン酸基含有不飽和モノマーの酸価は、50mgKOH/g以下であってよく、40mgKOH/g以下であってよい。一態様において、カルボン酸基含有不飽和モノマーの酸価は、3mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である。
【0070】
原料モノマー(a)および/または原料モノマー(b)は、その他の不飽和モノマーとして、(メタ)アクリル酸メチルおよび(メタ)アクリル酸エチルの少なくとも一方を含んでよい。これにより、得られる塗膜の外観が良好になる。(メタ)アクリル酸メチルおよび(メタ)アクリル酸エチルの含有量は、例えば、原料モノマー(a)および原料モノマー(b)の合計の65質量%以上である。
【0071】
原料モノマー(a)および/または原料モノマー(b)は、その他の不飽和モノマーとして、水酸基含有不飽和モノマーを含んでもよい。これにより、得られる塗膜の耐久性がさらに向上し易くなる。
【0072】
水酸基含有不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε-カプロラクトン付加物が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε-カプロラクトン付加物であってよい。
【0073】
原料モノマー(a)および/または原料モノマー(b)は、必要に応じて、さらに他のモノマーを含んでよい。さらに他のモノマーとしては、例えば、炭素数3以上のエステル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等)、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N-モノブチル(メタ)アクリルアミド、N-モノオクチル(メタ)アクリルアミド、2,4-ジヒドロキシ-4′-ビニルベンゾフェノン、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t-ブチルスチレン、パラクロロスチレン及びビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)が挙げられる。塗膜形成性樹脂に親水性を付与する場合、さらに他のモノマーとして(メタ)アクリルアミドが用いられ得る。
【0074】
コアシェル型のアクリル樹脂は、二段階の乳化重合によって得ることができる。具体的には、原料モノマー(a)の乳化重合により架橋構造を有するコア部を得た後、この反応系に原料モノマー(b)を加えて、乳化重合によりシェル部が得られる。この場合、コアシェル型のアクリル樹脂はエマルションの形態を有する。
【0075】
その他の塗膜形成性樹脂もまた、一段階あるいは二段階以上の乳化重合により得ることができる。この場合、塗膜形成性樹脂はエマルションの形態を有する。乳化重合は、水分散樹脂粒子の製造方法として記載した方法と同様の方法が採用される。
【0076】
エマルション形態の塗膜形成性樹脂(以下、ベース粒子と称する場合がある。)の粒子径は特に限定されない。粘度制御および得られる塗膜の外観の点で、ベース粒子の平均粒子径は、0.01μm以上であってよく、0.05μm以上であってよい。ベース粒子の平均粒子径は、1.0μm以下であってよく、0.5μm以下であってよい。一態様において、ベース粒子の平均粒子径は0.01μm以上1.0μm以下である。
【0077】
ベース粒子は、必要に応じて塩基で中和されてもよい。これにより、ベース粒子を5以上10以下のpH下で用いることができる。中和は、乳化重合の前または後に、塩基性化合物を反応系に添加することにより行うことができる。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、モノエタノールアミン、モノメチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンまたはトリエチルアミンが挙げられる。
【0078】
(顔料)
水性塗料組成物は、顔料を含む。顔料は特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。顔料としては、着色顔料、鱗片状顔料および体質顔料よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。特に、鱗片状顔料が含まれる場合、本開示に係る水分散樹脂粒子による効果が得られ易い。水分散樹脂粒子は、鱗片状顔料の配向性も阻害し難いためである。
【0079】
鱗片状顔料としては、例えば、金属片、金属酸化物片、パール顔料、金属あるいは金属酸化物で被覆されたガラスフレーク、金属酸化物で被覆されたシリカフレーク、グラファイト、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマー挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0080】
鱗片状顔料は、着色されていてもよい。これにより、意匠性がより向上する。鱗片状顔料は、無機被膜または有機被膜を有していてもよい。
【0081】
金属片の素材としては、例えば、アルミニウム、クロム、金、銀、銅、真鍮、チタン、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレスが挙げられる。
【0082】
金属酸化物片の素材としては、上記金属の酸化物、例えば、酸化アルミニウム、酸化クロムが挙げられる。パール顔料は、金属酸化物で被覆された合成あるいは天然マイカである。金属酸化物としては、上記金属酸化物片の素材として例示したものが同じく挙げられる。パール顔料は、代表的には、酸化チタンで被覆された天然マイカである。
【0083】
鱗片状顔料の含有量は特に限定されない。鱗片状顔料の濃度、すなわち、水性塗料組成物の樹脂固形分に対する鱗片状顔料の質量割合(PWC)は、例えば、1質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。鱗片状顔料のPWCは、40質量%以下であってよく、30質量%以下であってよい。一態様において、鱗片状顔料のPWCは1質量%以上40質量%以下である。水性塗料組成物の樹脂固形分とは、水分散樹脂粒子、塗膜形成性樹脂および硬化剤等の全樹脂成分の固形分である。
【0084】
着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料および金属錯体顔料等の有機系着色顔料:黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックおよび二酸化チタン等の無機系着色顔料が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0085】
着色顔料の含有量は特に限定されず、下地隠蔽性を考慮して適宜設定される。着色顔料のPWCは、例えば、50質量%以下であってよく、20質量%以下であってよい。着色顔料のPWCは、0.1質量%以上であってよい。
【0086】
体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレーおよびタルクが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0087】
体質顔料の含有量は特に限定されない。体質顔料のPWCは、30質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。体質顔料のPWCは、1質量%以上であってよい。
【0088】
(希釈成分)
水性塗料組成物は、希釈成分として水を含む。希釈成分は、さらに有機溶剤を含んでよい。
【0089】
得られる塗膜のワキ限界およびフリップフロップ性が向上し易い点で、希釈成分は、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%以上7質量%以下である有機溶剤(以下、第1有機溶剤と称する場合がある。)と、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%未満である有機溶剤(以下、第2有機溶剤と称する場合がある。)とを含んでよい。水に対する溶解度は、20℃の条件下で水に有機溶剤を混合した場合、水に均一に混ざる有機溶剤の質量をパーセント表示したものである。
【0090】
第1有機溶剤の含有量は、水性塗料組成物の0.4質量%以上であってよく、0.8質量%以上であってよく、1質量%以上であってよい。第1有機溶剤の含有量は、水性塗料組成物の5質量%以下であってよく、4質量%以下であってよく、3.5質量%以下であってよい。一態様において、第1有機溶剤の含有量は、水性塗料組成物の0.4質量%以上5質量%以下である。
【0091】
第2有機溶剤の含有量は、水性塗料組成物の0.05質量%以上であってよく、0.1質量%以上であってよく、0.5質量%以上であってよい。第2有機溶剤の含有量は、水性塗料組成物の2.5質量%以下であってよく、2質量%以下であってよく、1.8質量%以下であってよい。一態様において、第2有機溶剤の含有量は、水性塗料組成物の0.05質量%以上2.5質量%以下である。
【0092】
第1有機溶剤および第2有機溶剤の含有量は、希釈成分を用いて塗装粘度に希釈された水性塗料組成物に基づいて算出される。塗装粘度は、塗装方法、温度および湿度等の塗装環境等の要因を踏まえて、経験的に求められる。温度が15℃以上40℃以下、相対湿度が10%以上98%以下の環境下で塗装される場合、塗装粘度は、一般に、20秒以上90秒以下(/20℃・No.4フォードカップ)であり、25秒以上80秒以下(/20℃・No.4フォードカップ)である。
【0093】
第1有機溶剤としては、例えば、ブタノール(沸点118℃、溶解度6.4)、酢酸イソブチル(沸点118℃、溶解度0.7%)、酢酸ブチル(沸点126℃、溶解度2.3%)、酢酸イソアミル(沸点143℃、溶解度1.2%)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(通称「ヘキシルセロソルブ」、沸点208℃、溶解度0.99%)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点259℃、溶解度1.70%)、エチレングリコール2エチルヘキシルエーテル(沸点229℃、溶解度0.20%)、ジエチレングリコール2エチルヘキシルエーテル(沸点272℃、溶解度0.30%)、エチレングリコールブチルプロピレン(沸点170℃、溶解度6.40%)、ジエチレングリコールブチルプロピレン(沸点212℃、溶解度4.80%)、プロピレングリコールブチルエーテル(沸点170℃、溶解度6%)、ジプロピレングリコールブチルエーテル(沸点229℃、溶解度5%)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(通称「ブチセルアセテート」、沸点191℃、溶解度1.1%)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(通称「酢酸ブチルカルビトール」、沸点246℃、溶解度6.5%)、メチルメトキシブチルアセテート(通称「ソルフィットアセテート」、沸点188℃、溶解度6.8%)、エチルエトキシプロピオネート(通称「EEP」、沸点169℃、溶解度1.6%)、ニトロプロパン(沸点122-199℃、溶解度1.7%)、メチルイソブチルケトン(沸点115℃、溶解度2.0%)、メチルアミルケトン(通称「MAK」、沸点153℃、溶解度0.46%)、オキソヘキシルアセテート(通称「OHA」、沸点170℃、溶解度0.27)が挙げられる。カッコ内に記載された溶解度は、水に対する溶解度を示す(以下、同じ。)。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0094】
第1有機溶剤の水に対する溶解度は、0.3%以上3%以下であってよい。第1有機溶剤の沸点は、160℃以上280℃以下であってよい。
【0095】
第2有機溶剤としては、例えば、nヘキサン(沸点67℃)、ヘプタン(沸点98℃)、シクロヘキサン(沸点81℃)、ミネラルスピリット(沸点140-180℃)、スワゾール310(エクソン社製、沸点153-177℃、商品名)、シェルゾール70(昭和シェル社製、沸点143-164℃、商品名)、シェルゾール71(昭和シェル社製、沸点165-192℃、商品名)、シェルゾールD40(昭和シェル社製、沸点151-188℃、商品名)、シェルゾールA(昭和シェル社製、沸点160-182℃、商品名)、トルエン(沸点110℃)、キシレン(沸点144℃)、S-100(エッソ社製有機溶剤、沸点158-177℃、商品名)、S-150(エッソ社製有機溶剤、沸点185-211℃、商品名)等の炭化水素系有機溶剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0096】
第2有機溶剤の沸点は、145℃以上200℃以下であってよい。
【0097】
第1有機溶剤と第2有機溶剤との混合質量比(=第1/第2有機溶剤)は特に限定されない。得られる塗膜のワキの発生抑制、フリップフロップ性および外観の観点から、混合質量比(=第1/第2有機溶剤)は、1/2以上8/1以下であってよく、1/1以上4/1以下であってよい。
【0098】
水性塗料組成物は、希釈媒体として、第1有機溶剤および第2有機溶剤と共に、他の有機溶剤を含んでもよい。他の有機溶剤は特に限定されない。有機溶剤は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0099】
他の有機溶剤として、エステル系有機溶剤を用いてもよい。エステル系有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル(沸点77℃、溶解度7.9%)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(通称「メチセロ」、沸点145℃、溶解度∞)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(通称「セロアセ」、沸点156℃、溶解度22.9%)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(通称「PMAC」、沸点144℃、溶解度20.5%)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(通称「酢酸カルビトール」、沸点217℃、溶解度∞)が挙げられる。
【0100】
他の有機溶剤として、エーテル系有機溶剤を用いてもよい。エーテル系有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコールメチルエーテル(通称「メトキシプロパノール」、沸点119℃、溶解度∞)、プロピレングリコールエチルエーテル(通称「エトキシプロパノール」、沸点130℃、溶解度∞)、エチレングリコールモノエチルエーテル(通称「エチセロ」、沸点136℃、溶解度∞)、メチルメトキシブタノール(通称「ソルフィット」、沸点174℃、溶解度∞)、エチレングリコールモノブチルエーテル(通称「ブチセロ」、沸点171℃、溶解度∞)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(通称「エチルカルビトール」、沸点196℃、溶解度∞)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(通称「ブチルカルビトール」、「BDG(日本乳化剤社製、商品名)」、沸点230℃、溶解度∞)が挙げられる。
【0101】
他の有機溶剤として、アルコール系有機溶剤を用いてもよい。アルコール系有機溶剤としては、例えば、メタノール(沸点65℃、溶解度∞)エタノール(沸点78℃、溶解度∞)、プロパノール(沸点97℃、溶解度∞)が挙げられる。
【0102】
他の有機溶剤として、ケトン系有機溶剤を用いてもよい。ケトン系有機溶剤としては、例えば、アセトン(沸点56℃、溶解度∞)、メチルエチルケトン(沸点80℃、溶解度22.6%)が挙げられる。
【0103】
希釈成分の含有量は特に限定されず、水性塗料組成物の粘度等を考慮して適宜設定すればよい。希釈成分の含有量は、例えば、水性塗料組成物の50質量%以上85質量%以下であってよく、55質量%以上80質量%以下であってよい。
【0104】
有機溶剤の総量は、水性塗料組成物の0.45質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。有機溶剤の総量は、水性塗料組成物の15質量%以下であってよく、13質量%以下であってよい。
【0105】
(硬化剤)
水性塗料組成物は、硬化剤を含む。これにより、塗膜形成性樹脂が架橋されて、得られる塗膜の耐久性がさらに向上する。
【0106】
硬化剤は、特に限定されず、塗膜形成性樹脂が有する硬化性官能基の種類に応じて適宜選択される。硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、得られる塗膜の諸性能およびコストの点で、アミノ樹脂およびブロックイソシアネート樹脂であってよい。
【0107】
アミノ樹脂としては、例えば、水溶性メラミン樹脂、非水溶性メラミン樹脂が挙げられる。
【0108】
ブロックイソシアネート樹脂は、例えば、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネートに、活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得ることができる。ブロックイソシアネート樹脂は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、硬化性官能基と反応して硬化する。
【0109】
硬化剤の含有量は、例えば、水性塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、20質量部以上100質量部以下である。
【0110】
(粘性剤)
水性塗料組成物は、粘性剤を含んでよい。粘性剤は、塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂を凝集させて、密着性に優れる塗膜を形成し易くする。水性塗料組成物に含まれる水分散樹脂粒子は、粘性剤の作用に影響を与え難い。
【0111】
粘性剤は特に限定されない。粘性剤としては、例えば、無機系粘性剤、セルロース誘導体、ウレタン会合型粘性剤、ポリアマイド型粘性剤およびアルカリ膨潤型粘性剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0112】
無機系粘性剤は、無機結晶層が多数積み重なった積層構造を有する層状物であってよい。このような層状構造を有する無機粘性剤は、水性塗料組成物中で膨潤し、水性塗料組成物中においてカードハウス構造を形成する。そのため、水性塗料組成物に適度な粘度をもたらす。
【0113】
無機粘性剤の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状および無定形等が挙げられ、円盤状または板状のものであってよい。
【0114】
無機粘性剤としては、例えば、層状シリケート(ケイ酸塩鉱物)、ハロゲン化鉱物、酸化鉱物、炭酸塩鉱物、ホウ酸塩鉱物、硫酸塩鉱物、モリブデン酸塩鉱物、タングステン酸塩鉱物、リン酸塩鉱物、ヒ酸塩鉱物、バナジン酸塩鉱物が挙げられる。なかでも、層状シリケートであってよい。層状シリケートと、ウレタン会合型粘性剤等の疎水会合型粘性剤とを併用すると、得られる塗膜の耐水性が向上し易くなる。
【0115】
層状シリケートとしては、例えば、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイトハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト、ベントナイト等のスメクタイト属粘土鉱物、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母属粘土鉱物、バーミキュラライト、カオリナイトまたはこれらの混合物が挙げられる。これらは、天然物であってよく合成物であってよい。
【0116】
無機粘性剤の市販品としては、例えば、ラポナイトXLG(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトRD(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトEP(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、オプティゲルWX(BYK社製Na置換型ベントナイト)、サーマビス(ヘンケル社製合成ヘクトライト類似物質)、スメクトンSA-1(クニミネ工業社製サポナイト類似物質)、ベンゲル(ホージュン社の天然ベントナイト)、クニビアF(クニミネ工業社の天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国、バンダービルト社製の天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業社製の合成膨潤性雲母)、ソマシフ(コープケミカル社製の合成膨潤性雲母)、SWN(コープケミカル社製の合成スメクタイト)、SWF(コープケミカル社製の合成スメクタイト)が挙げられる。
【0117】
セルロース誘導体としては、例えば、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが挙げられる。なかでも、セルロースアセテートブチレートであってよい。特に、ASTM-D-817に記載された測定法によるアセチル化度が1質量%以上34質量%以下、ブチリル化度が16質量%以上60質量%以下、ASTM-D-1343に記載された測定法による粘度が0.005秒以上20秒以下のセルロースアセテートブチレートであってよい。ASTM-D-1343に記載された測定法による粘度は、0.01秒以上5秒以下であってよい。
【0118】
セルロースアセテートブチレートとしては、例えば、イーストマンケミカルプロダクト社のCAB-551-0.01(粘度=0.01秒、ブチリル基含有量=53質量%)、CAB-551-0.2(粘度=0.20秒、ブチリル基含有量=52質量%)、CAB-531-1(粘度=1.90秒、ブチリル基含有量=50質量%)、CAB-500-1(粘度=1.00秒、ブチリル基含有量=51質量%) 、CAB-500-5(粘度=5.00秒、ブチリル基含有量=51質量%)、CAB-553-0.4(粘度=0.30秒、ブチリル基含有量=46質量%)、CAB-381-0.1(粘度=0.10秒、ブチリル基含有量=38質量%)、CAB-381-0.5(粘度=0.50秒、ブチリル基含有量=38質量%)、CAB-381-2(粘度=2.00秒、ブチリル基含有量=38質量%)、CAB-321-0.1(粘度=0.10秒、ブチリル基含有量=31.2質量%)、CAB-171-15S(粘度=15.00秒、ブチリル基含有量=17質量%)が挙げられる。
【0119】
ポリウレタン会合型粘性剤は特に限定されない。ポリウレタン会合型粘性剤としては、例えば、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系粘性剤が挙げられる。ポリウレタン会合型粘性剤は、低シェア時には粘度が発現しやすく、高シェア時には、粘度が発現し難いという特性を有しており、チキソ性に優れている。
【0120】
ポリウレタン会合型粘性剤の市販品としては、例えば、BYK-425(ウレア変性ウレタン化合物:BYK-Chemie社製)、BYK-420(ウレタン-ウレア化合物:BYK-Chemie社製)、BYK-430(アミド-ウレア化合物:BYK-Chemie社製)、PU1250(ポリウレタンポリマー、BASF社製)、SNシックナー-660T、SNシックナー-665T(ウレタン系:サンノプコ社製)、RHEOLATE216(ウレタン-ウレア化合物:ELEMENTIS社製)、プライマルRM-12W、プライマルRM-895(ウレタン系:ダウケミカル社製)が挙げられる。
【0121】
ポリアマイド会合型粘性剤は特に限定されない。市販されているポリアマイド型粘性調整剤としては、BYK-430、BYK-431(いずれもビックケミー社製)、ディスパロンAQ-580、ディスパロンAQ-600、ディスパロンAQ-607(いずれも楠本化成社製)、チクゾールW-300、チクゾールW-400LP(いずれも共栄社化学製)等を挙げることができる。
【0122】
アルカリ膨潤型粘性剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸系粘性剤が挙げられる。具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸-ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩、疎水基変性ポリアクリル酸が挙げられる。ポリ(メタ)アクリル酸塩としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウムが挙げられる。疎水基変性ポリアクリル酸は、カルボキシル基の一部が、スチレン基、アルキル基などの疎水基によって変性されている。
【0123】
アルカリ膨潤型粘性剤の市販品としては、例えば、プライマルASE-60、プライマルASE-75、プライマルASE-95、プライマルASE-108、プライマルTT-615、プライマルTT-935、プライマルRM-5、プライマルRM-7(いずれも、ローム・アンド・ハース社製)、ゾーゲン100、ゾーゲン150、ゾーゲン200、ゾーゲン250、ゾーゲン350(いずれも、第一工業製薬社製)、SNシックナーA-815、SNシックナーA-818、SNシックナーA-850、SNシックナー630、SNシックナー636、SNシックナー640(いずれも、サンノプコ社製)、RHEOVIS CR(一方社油脂社製)、アロンB-300K、アロンB-500、アロンA-7070(いずれも、東亞合成社製)、チクゾールK-150B(共栄社化学社製)、アクリセットWR-503A、アクリセットWR-650(いずれも、日本触媒社製)、モビニールLDM7010(日本合成化学社製)が挙げられる。
【0124】
粘性剤の含有量は特に限定されない。粘性剤の固形分量は、水性塗料組成物の固形分の0.01質量%以上であってよく、0.1質量%以上であってよい。粘性剤の固形分量は、水性塗料組成物の固形分の20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。一態様において、粘性剤の固形分量は、水性塗料組成物の固形分の0.01質量%以上20質量%以下である。
【0125】
(その他)
水性塗料組成物は、その他の成分、例えば消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン)、酸化防止剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤を含んでよい。
【0126】
[塗装物品]
本開示に係る塗装物品は、被塗物と、上記水性塗料組成物により形成されるベースコート塗膜とを備える。上記水性塗料組成物は水分散樹脂粒子を含む。そのため、この水性塗料組成物により形成されるベースコート塗膜は、被塗物との密着性に優れる。
【0127】
ベースコート塗膜は、1層あるいは2層以上であってよい。被塗物とベースコート塗膜との間には、他の塗膜(代表的には、中塗り塗膜)が介在していてもよい。複数のベースコート塗膜の間に、他の塗膜が介在していてもよい。ベースコート塗膜上に、さらに他の塗膜(代表的には、クリヤー塗膜)が形成されていてもよい。ベースコート塗膜は、他の塗膜との密着性に優れる。
【0128】
ベースコート塗膜は、本開示に係る水分散樹脂粒子を含む。そのため、顔料の配向性は阻害され難く、鮮明な発色および高い金属調の質感が得られる。
【0129】
以下、具体的な実施形態を例示して塗装物品を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)第1実施形態
本開示に係る塗装物品は、被塗物と、被塗物上に形成されたベースコート塗膜と、を備える。
【0130】
(2)第2実施形態
本開示に係る塗装物品は、ベースコート塗膜上にクリヤー塗膜が形成されていること以外、第1実施形態と同様の形態を有する。すなわち、塗装物品は、被塗物と、被塗物上に形成されたベースコート塗膜と、ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜と、を備える。
【0131】
(3)第3実施形態
本開示に係る塗装物品は、被塗物と、被塗物上に形成された中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に形成されたベースコート塗膜と、を備える。本開示に係る塗装物品は、被塗物とベースコート塗膜との間に、中塗り塗膜が形成されていること以外、第1実施形態と同様の構成を備える。
【0132】
(4)第4実施形態
本開示に係る塗装物品は、ベースコート塗膜上にクリヤー塗膜が形成されていること以外、第3実施形態と同様の形態を有する。すなわち、塗装物品は、被塗物と、被塗物上に形成された中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に形成されたベースコート塗膜と、ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜と、を備える。
【0133】
以下、各要素を詳細に説明する。
(被塗物)
被塗物の材質は特に限定されない。被塗物の材質としては、例えば、金属、樹脂、ガラスが挙げられる。
【0134】
金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛またはこれらの合金が挙げられる。金属製の被塗物としては、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および自動車車体用の部品が挙げられる。
【0135】
金属製の被塗物は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0136】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。樹脂製の被塗物としては、具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品が挙げられる。
【0137】
樹脂製の被塗物は、脱脂処理されていてよい。樹脂製の被塗物は、脱脂処理後、さらにプライマー塗料により塗装されていてよい。プライマー塗料は特に限定されず、その上方に塗装される塗料の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0138】
(ベースコート塗膜)
ベースコート塗膜は、上記の水性塗料組成物を含む。すなわち、ベースコート塗膜は、上記の水分散樹脂粒子と、塗膜形成性樹脂と、硬化剤と、顔料と、水を含む希釈成分と、を含む。
【0139】
ベースコート塗膜の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜設定される。ベースコート塗膜の厚さは、1μm以上であってよく、10μm以上であってよく、15μm以上であってよく、20μm以上であってよい。ベースコート塗膜の厚さは、50μm以下であってよく、45μm以下であってよく、40μm以下であってよい。一態様において、ベースコート塗膜の厚さは、1μm以上50μm以下である。ベースコート塗膜の厚さは、例えば、電磁式膜厚計により測定される。ベースコート塗膜の厚さは、任意の5点におけるベースコート塗膜の厚さの平均値である。他の塗膜の厚さも同様に測定および算出される。
【0140】
ベースコート塗膜は、1層あるいは2層以上であってよい。塗装物品は、例えば、被塗物と、被塗物上に形成された第1のベースコート塗膜と、第2のベースコート塗膜と、を備えていてもよい。各ベースコート塗膜は、上記の水分散樹脂粒子と、塗膜形成性樹脂と、硬化剤と、顔料と、水を含む希釈成分と、を含む限り、特に限定されない。各ベースコート塗膜に含まれる成分は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0141】
第1のベースコート塗膜は、着色顔料を含む着色塗膜であってよい。第2のベースコート塗膜は、鱗片状顔料を含む光輝性塗膜であってよい。あるいは、第1のベースコート塗膜は、鱗片状顔料を含む光輝性塗膜であってよい。第2のベースコート塗膜は、着色顔料を含む着色塗膜であってよい。光輝性塗膜は、さらに着色顔料を含んでよい。着色塗膜および/または光輝性塗膜は、さらに体質顔料を含んでよい。
【0142】
(中塗り塗膜)
中塗り塗膜は、被塗物とベースコート塗膜との間に介在している。塗り塗膜によって塗装面が均一になって、ベースコート塗膜のムラが抑制され易くなる。中塗り塗膜は、本開示に係る水分散樹脂粒子を含まない水性中塗り組成物を含む。水性中塗り組成物は、例えば、塗膜形成性樹脂と、硬化剤と、顔料と、粘性剤と、水を含む希釈成分と、を含む。水性中塗り組成物は、必要に応じて種々の添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤が挙げられる。
【0143】
塗膜形成性樹脂としては、本開示に係る水性塗料組成物に配合される塗膜形成性樹脂として例示したものを挙げることができる。なかでも、中塗り塗膜は、塗膜形成性樹脂として、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂を含んでよい。アクリル樹脂およびポリエステル樹脂の質量比(=アクリル樹脂/ポリエステル樹脂)は、7/1から0.5/1であってよく、6/1から1/1であってよい。
【0144】
硬化剤としては、本開示に係る水性塗料組成物に配合される硬化剤として例示したものを挙げることができる。顔料としては、本開示に係る水性塗料組成物に配合される顔料として例示したものを挙げることができる。粘性剤としては、本開示に係る水性塗料組成物に配合される粘性剤として例示したものを挙げることができる。希釈成分としては、本開示に係る水性塗料組成物に配合される希釈成分として例示したものを挙げることができる。
【0145】
中塗り塗膜の厚さは特に限定されない。塗装物品の外観および耐チッピング性の点で、中塗り塗膜の厚さは、10μm以上であってよく、15μm以上であってよい。中塗り塗膜の厚さは、40μm以下であってよく、30μm以下であってよい。一態様において、中塗り塗膜の厚さは10μm以上40μm以下である。
【0146】
(クリヤー塗膜)
ベースコート塗膜上には、さらに1以上の他の塗膜が形成されていてもよい。他の塗膜としては、例えば、クリヤー塗膜が挙げられる。
【0147】
クリヤー塗膜は、塗装物品光沢を向上させるとともに、下層に配合された顔料の脱落および飛び出しを防止する。クリヤー塗膜は特に限定されず、従来公知のクリヤー塗膜と同様の構成を有する。
【0148】
クリヤー塗膜は、本開示に係る水分散樹脂粒子を含まないクリヤー組成物を含む。クリヤー組成物は、例えば、塗膜形成性樹脂と、硬化剤と、を含む。クリヤー組成物は、必要に応じて希釈成分を含む。クリヤー組成物は、必要に応じて種々の上記添加剤を含み得る。
【0149】
塗膜形成性樹脂としては、水性塗料組成物に配合される塗膜形成性樹脂として例示したものを挙げることができる。硬化剤としては、水性塗料組成物に配合される硬化剤として例示したものを挙げることができる。
【0150】
クリヤー塗膜は、透明性を損なわない範囲で、顔料を含み得る。顔料は特に限定されず、従来公知の顔料を1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。顔料の添加量は特に限定されない。顔料の添加量は、例えば、塗膜形成性樹脂の固形分100質量部に対して、30質量部以下であり、0.01質量部以上10質量部以下であってよい。
【0151】
クリヤー塗膜の厚さは特に限定されない。耐擦傷性および外観の観点から、クリヤー塗膜の厚さは、15μm以上であってよく、25μm以上であってよい。クリヤー塗膜の厚さは、60μm以下であってよく、50μm以下であってよい。一態様において、クリヤー塗膜の厚さは、15μm以上60μm以下である。
【0152】
図1は、第1実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。第1実施形態に係る塗装物品10Aは、被塗物11と、被塗物11上に形成されたベースコート塗膜12と、を備える。
【0153】
図2は、第2実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。第2実施形態に係る塗装物品10Bは、被塗物11と、被塗物11上に形成されたベースコート塗膜12と、ベースコート塗膜12上に形成されたクリヤー塗膜13と、を備える。
【0154】
図3は、第3実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。第3実施形態に係る塗装物品10Cは、被塗物11と、被塗物11上に形成された中塗り塗膜14と、中塗り塗膜14上に形成されたベースコート塗膜12と、を備える。
【0155】
図4は、第4実施形態に係る塗装物品を模式的に示す断面図である。第4実施形態に係る塗装物品10Dは、被塗物11と、被塗物11上に形成された中塗り塗膜14と、中塗り塗膜14上に形成されたベースコート塗膜12と、ベースコート塗膜12上に形成されたクリヤー塗膜13と、を備える。
【0156】
[塗装物品の製造方法]
塗装物品は、被塗物に、上記水性塗料組成物を含むベースコート塗料を塗布して未硬化のベースコート塗膜を形成する塗装工程と、未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を少なくとも含む。
【0157】
未硬化のベースコート塗膜を形成する前に、被塗物に中塗り塗膜を形成してもよい。ベースコート塗膜が形成される際、中塗り塗膜は硬化していてもよく、未硬化であってもよい。未硬化のベースコート塗膜を形成した後に、被塗物にクリヤー塗膜を形成してもよい。クリヤー塗膜が形成される際、ベースコート塗膜は硬化していてもよく、未硬化であってもよい。なかでも、生産性、付着性および耐水性の観点から、各塗膜を硬化させることなく積層した後(いわゆる、ウェット・オン・ウェット塗装)、これら3つの未硬化の塗膜を同時に硬化させることが好ましい。
【0158】
以下、具体的な実施形態を例示して塗装物品の製造方法を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0159】
(a)第1実施形態
本開示に係る塗装物品の製造方法は、被塗物上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を備える。ベースコート塗料は、上記水性塗料組成物を含む。
【0160】
(b)第2実施形態
本開示に係る塗装物品の製造方法は、さらに、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる硬化工程と、を備えること以外、第1実施形態と同様である。
【0161】
未硬化のクリヤー塗膜は、未硬化のベースコート塗膜上に形成されてもよいし、硬化されたベースコート塗膜上に形成されてもよい。なかでも、前者の方法が好ましい。前者の方法では、硬化工程は、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程の後、実施される。硬化工程において、未硬化のベースコート塗膜とともに未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる。
【0162】
図5は、本開示に係る塗装物品の製造方法のフローチャートである。図示例において、硬化工程(S13)は、未硬化のベースコート塗膜の形成工程(S11)および未硬化のクリヤー塗膜の形成工程(S12)の後、実施される。
【0163】
(c)第3実施形態
本開示に係る塗装物品の製造方法は、被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、未硬化の各塗膜を硬化させる硬化工程と、を備える。
【0164】
未硬化のベースコート塗膜は、未硬化の中塗り塗膜上に形成される。硬化工程は、未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、実施される。硬化工程において、未硬化の中塗り塗膜とともに未硬化のベースコート塗膜を硬化させる。
【0165】
(d)第4実施形態
本開示に係る塗装物品の製造方法は、さらに、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる硬化工程と、を備えること以外、第3実施形態と同様である。
【0166】
未硬化のクリヤー塗膜は、未硬化のベースコート塗膜上に形成されてもよいし、硬化されたベースコート塗膜上に形成されてもよい。なかでも、前者の方法が好ましい。前者の方法では、硬化工程は、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程の後の後、実施される。硬化工程において、未硬化の中塗り塗膜、未硬化のベースコート塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる。以下、3つの未硬化の塗膜を一度に硬化させる方法を、3WET法と称する。
【0167】
図6は、3WET法を用いた、本開示に係る塗装物品の製造方法のフローチャートである。図示例において、硬化工程(S24)は、未硬化の中塗り塗膜の形成工程(S21)、未硬化のベースコート塗膜の形成工程(S22)および未硬化のクリヤー塗膜の形成工程(S23)の後、実施される。
【0168】
(e)第5実施形態
本開示に係る塗装物品の製造方法は、被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、未硬化の中塗り塗膜を硬化させる第1硬化工程と、硬化された中塗り塗膜上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、未硬化のベースコート塗膜を硬化させる第2硬化工程と、を備える。
【0169】
未硬化のベースコート塗膜は、硬化された中塗り塗膜上に形成される。硬化工程は、未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の前と後に、それぞれ実施される。各硬化工程において、未硬化の中塗り塗膜および未硬化のベースコート塗膜をそれぞれ硬化させる。
【0170】
(f)第6実施形態
本開示に係る塗装物品の製造方法は、さらに、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる硬化工程と、を備えること以外、第5実施形態と同様である。
【0171】
未硬化のクリヤー塗膜は、未硬化のベースコート塗膜上に形成されてもよいし、硬化されたベースコート塗膜上に形成されてもよい。なかでも、前者の方法が好ましい。前者の方法では、第2硬化工程は、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程の後の後、実施される。第2硬化工程において、未硬化のベースコート塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる。以下、中塗り塗膜を硬化させた後、未硬化のベースコート塗膜およびクリヤー塗膜を形成し、次いで、これら2層の未硬化の塗膜を一度に硬化させる方法を、2C1B法と称する。
【0172】
図7は、2C1B法を用いた、本開示に係る塗装物品の製造方法のフローチャートである。図示例において、未硬化の中塗り塗膜の形成工程(S31)の後、第1硬化工程(S32)が実施され、続いて、未硬化のベースコート塗膜の形成工程(S33)および未硬化のクリヤー塗膜の形成工程(S34)が行われ、最後に、第2硬化工程(S35)が実施される。
【0173】
以下、各工程を詳細に説明する。
(I)未硬化のベースコート塗膜を形成する工程
未硬化のベースコート塗膜は、上記の水性塗料組成物を含むベースコート塗料を対象物に塗布することにより形成される。対象物は、被塗物であり得、未硬化の中塗り塗膜であり得、硬化された中塗り塗膜であり得る。
【0174】
塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。回転霧化式静電塗装には、例えば、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機が用いられる。
【0175】
ベースコート塗料の塗布量は特に限定されない。ベースコート塗料は、例えば、硬化後のベースコート塗膜の厚さが15μm以上50μm以下になるように、塗布される。
【0176】
ベースコート塗料を塗装した後、予備乾燥(プレヒートとも称される)を行ってもよい。これにより、ベースコート塗膜に含まれる希釈成分が、硬化工程において突沸することが抑制されて、ワキの発生が抑制され易くなる。さらに、予備乾燥により、未硬化のベースコート塗膜と他の塗料とが混ざりあうことが抑制されて、混層が形成され難くなる。そのため、得られる塗装物品の外観が向上し易くなる。
【0177】
予備乾燥の条件は特に限定されない。予備乾燥としては、例えば、20℃以上25℃以下の温度条件で15分以上30分以下放置する方法、50℃以上100℃以下の温度条件で30秒以上10分以下加熱する方法が挙げられる。
【0178】
(ベースコート塗料)
ベースコート塗料は、上記の水性塗料組成物を含む。ベースコート塗料は、上記の水性塗料組成物を、さらに希釈成分で希釈することにより調製されてもよい。ベースコート塗料は、1液型塗料であってよく、2液型塗料等の多液型塗料であってよい。
【0179】
ベースコート塗料の製造方法は特に限定されず、ディスパー、ホモジナイザー、ロール、サンドグラインドミルまたはニーダー等を用いて上述の材料を攪拌、混練または分散する等、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。
【0180】
ベースコート塗料の粘度は特に限定されない。ベースコート塗料の20℃でB型粘度計により測定される粘度は、例えば、500cps/6rpm以上12,000s/6rpm以下である。ベースコート塗料の上記粘度は、10,000s/6rpm以下であってよく、6,000cps/6rpm以下であってよい。
【0181】
ベースコート塗料の固形分含有率は、5質量%以上であってよく、15質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。ベースコート塗料の固形分含有率は、50質量%以下であってよく、45質量%以下であってよく、40質量%以下であってよい。一態様において、ベースコート塗料の固形分含有率は、5質量%以上50質量%以下である。ベースコート塗料の固形分は、ベースコート塗料から希釈成分を除いた全成分である。
【0182】
(II)未硬化の中塗り塗膜を形成する工程
未硬化の中塗り塗膜は、上記の水性中塗り組成物を含む中塗り塗料を対象物に塗布することにより形成される。対象物は、被塗物である。
【0183】
塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、ベースコート塗料の塗装方法と同様の方法が挙げられる。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。
【0184】
中塗り塗料の塗布量は特に限定されない。中塗り塗料は、例えば、硬化後の中塗り塗膜の厚さが10μm以上40μm以下になるように、塗布される。
【0185】
中塗り塗料を塗装した後、予備乾燥を行ってもよい。予備乾燥の条件は特に限定されず、ベースコート塗膜の予備乾燥と同様であってよい。
【0186】
(中塗り塗料)
中塗り塗料は、上記の水性中塗り組成物を含む。中塗り塗料は、上記の水性中塗り組成物を、さらに希釈成分で希釈することにより調製されてもよい。中塗り塗料は、1液型塗料であってよく、2液型塗料等の多液型塗料であってよい。
【0187】
中塗り塗料の製造方法は特に限定されず、ベースコート塗料の塗装方法と同様の方法が挙げられる。
【0188】
中塗り塗料の粘度は特に限定されない。中塗り塗料の20℃でB型粘度計により測定される粘度は、例えば、500cps/6rpm以上6,000cps/6rpm以下である。
【0189】
中塗り塗料の固形分含有率は、例えば、30質量%以上70質量%以下である。中塗り塗料の固形分は、中塗り塗料から希釈成分を除いた全成分である。
【0190】
(III)未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程
未硬化のクリヤー塗膜は、上記のクリヤー組成物を含むクリヤー塗料を対象物に塗布することにより形成される。対象物は、未硬化あるいは硬化されたベースコート塗膜である。
【0191】
塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、ベースコート塗料の塗装方法と同様の方法が挙げられる。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。
【0192】
クリヤー塗料の塗布量は特に限定されない。クリヤー塗料は、例えば、硬化後のクリヤー塗膜の厚さが15μm以上60μm以下になるように、塗布される。
【0193】
クリヤー塗料を塗装した後、予備乾燥を行ってもよい。予備乾燥の条件は特に限定されず、ベースコート塗膜の予備乾燥と同様であってよい。
【0194】
(クリヤー塗料)
クリヤー塗料は、上記のクリヤー組成物を含む。クリヤー塗料の形態は特に限定されない。クリヤー塗料の形態は、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれであってもよい。
【0195】
クリヤー塗料の製造方法は特に限定されず、ベースコート塗料の塗装方法と同様の方法が挙げられる。
【0196】
有機溶剤型または水性型のクリヤー塗料の粘度は特に限定されない。これらクリヤー塗料の、JIS K5600-2-2:1999の3.フローカップ法に準拠して、20℃下、No4フォードカップで測定される粘度は、例えば、20秒以上30秒以下である。
【0197】
有機溶剤型または水性型のクリヤー塗料の固形分含有率は、例えば、30質量%以上70質量%以下である。クリヤー塗料の固形分は、クリヤー塗料から希釈成分を除いた全成分である。
【0198】
有機溶剤型のクリヤー塗料は、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいは、カルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等を、塗膜形成性樹脂として含んでよい。これにより、透明性あるいは耐酸エッチング性が向上し易い。
【0199】
水性型のクリヤー塗料は、塗膜形成性樹脂として、有機溶剤型のクリヤー塗料に含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含んでよい。この中和は、重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミン等の3級アミンを添加することにより行われる。
【0200】
粉体型のクリヤー塗料は、塗膜形成性樹脂として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂を含んでよい。特に、塗膜の耐候性が向上し易い点で、アクリル樹脂であってよい。
【0201】
(V)硬化工程(第1、第2硬化工程)
未硬化の各塗膜を硬化させる。各塗膜は加熱により硬化し得る。未硬化の各塗膜を形成するたびに硬化工程を行ってもよく、複数の未硬化の塗膜を形成した後、これらを一工程において一度に硬化させてもよい。
【0202】
加熱条件は、各塗膜の組成等に応じて適宜設定される。加熱温度は、例えば110℃以上180℃以下であり、120℃以上160℃以下であってよい。加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよい。加熱温度が120℃以上160℃以下の場合、加熱時間は、例えば10分以上60分以下であり、20分以上30分以下であってよい。
【0203】
加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線等の加熱源を利用した乾燥炉が挙げられる。また、これらの加熱源を2種以上併用した乾燥炉を用いると、乾燥時間が短縮される。
【実施例】
【0204】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら制限されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0205】
[実施例1]
反応容器に脱イオン水104部と乳化剤0.12部とを加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリルアミド(AAm)、スチレン(ST)、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸t-ブチル(TBMA)、メタクリル酸(MAA)、乳化剤、脱イオン水からなるモノマー乳化物Y-1と、過硫酸アンモニウムおよび脱イオン水からなる重合開始剤溶液Z-1とを反応容器に一括添加し、同温度で30分間保持した。その後、アクリルアミド(AAm)、スチレン(ST)、メタクリル酸メチル(MMA)、tert-ブチルメタクリレート(TBMA)、メタクリル酸(MAA)、乳化剤、脱イオン水からなるモノマー乳化物Y-2と、過硫酸アンモニウムおよび脱イオン水からなる重合開始剤溶液Z-2とを120分間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。各材料の使用量は表1に示す通りである。
【0206】
次いで、得られた反応液を30℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミン(DMEA)にて中和し、脱イオン水35部を加え、さらに1時間同温度で熟成を行った。最後に、この反応液を200メッシュフィルターで濾過して、水分散樹脂粒子A1を得た。水分散樹脂粒子A1の酸価は30mgKOH/g、水酸基価は0mgKOH/g、固形分量は30%であった。
【0207】
[実施例2、比較例1-2]
原料モノマー等の種類および量を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様にして、水分散樹脂粒子A2、B1およびB2を得た。表1において、HEMAはメタクリル酸ヒドロキシエチルを表わす。
【0208】
【0209】
[実施例3-8、比較例3-7]
水分散樹脂粒子A1、A2、B1およびB2を用いて、表2に記載の組成で原料を配合して攪拌することにより、水性ベースコート塗料X1-X6およびY1-Y5を調製した。なお、表2中の組成の単位は質量部である。有機溶剤および水を除いて、質量部として固形分量を記載している。
【0210】
【0211】
表2中の原料について説明する。
・アクリル樹脂エマルション:平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、固形分水酸基価40mgKOH/g
・水溶性アクリル樹脂:不揮発分30%、固形分酸価40mgKOH/g、固形分水酸基価50mgKOH/g
・ポリエーテルポリオール:三洋化成製、プライムポールPXー1000、2官能ポリエーテルポリオール、不揮発分100%
・ウレタン樹脂エマルション:Covestro Coating Resins社製、ネオレッツR-9603、不揮発分33%
・メラミン樹脂:サイメル204、オルネクス社製、混合アルキル化型メラミン樹脂、不揮発分80%
・鱗片状顔料:アルミニウム、旭化成株式会社製、商品名:アルミペースト MH-8801
・鱗片状顔料:マイカ、メルク社製、商品名:XIRALLIC T60-10 WNT CRYSTAL SILVER
・着色顔料:キナクリドン(赤顔料)、DIC株式会社製、商品名:FASTOGEN SUPER RED 400RG
・第1有機溶剤:ヘキシルセロソルブ、沸点208℃、溶解度0.99%
・第2有機溶剤:シェルゾール71、昭和シェル社製、沸点165-192℃
【0212】
[実施例9-14、比較例8-12]
水性ベースコート塗料X1-X6およびY1-Y5を用いて、以下のように、3WET法により、複層塗膜を有する塗装物品を製造した。
【0213】
(1)被塗物の準備
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8mm、70×150mmサイズのSPCC-SD鋼板(ダル鋼板、被塗物)に、カチオン電着塗料「パワートップU-50」(日本ペイント・オートモーティブコーティング社製)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装した。次いで、電着塗膜を160℃で30分間焼き付けた。
【0214】
(2)未硬化の中塗り塗膜の形成
電着塗装した鋼板上に、カートリッジベル(ABB社製回転霧化塗装機)により、中塗り塗料組成物「アクアレックスAR-620」(日本ペイント・オートモーティブコーティング社製)を静電塗装した。次いで、80℃で5分間プレヒートして、硬化後の厚さが20μmの未硬化の中塗り塗膜を得た。
【0215】
(3)未硬化のベースコート塗膜の形成
未硬化の中塗り塗膜上に、カートリッジベルにより、水性ベースコート塗料を静電塗装した。次いで、80℃で5分間プレヒートして、硬化後の厚さが15μmの未硬化のベースコート塗膜を得た。
【0216】
(4)未硬化のクリヤー塗膜の形成
未硬化のベースコート塗膜上に、回転霧化型静電塗装機により、クリヤー塗料「マックフロー O-1860クリヤー(日本ペイント・オートモーティブコーティング社製、酸エポキシ硬化型クリヤー塗料)を静電塗装した。次いで、7分間セッティングして、硬化後の厚さが35μmの未硬化のクリヤー塗膜を得た。
【0217】
(5)塗膜の硬化
未硬化の中塗り塗膜、未硬化のベースコート塗膜、および未硬化のクリヤー塗膜を、140℃で30分間加熱硬化させて、塗装物品を得た。
【0218】
[実施例15-20、比較例13-17]
水性ベースコート塗料X1-X6およびY1-Y5を用いて、以下のように、2C1B法により、複層塗膜を有する塗装物品を製造した。
【0219】
(1)被塗物の準備
実施例9と同様にして、電着塗装した鋼板(被塗物)を準備した。
【0220】
(2)硬化した中塗り塗膜の形成
電着塗装した鋼板上に、カートリッジベル(ABB社製回転霧化塗装機)により、
中塗り塗料組成物(粘度が25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)となるように希釈された、グレー中塗り塗料「オルガP-30」(日本ペイント社製ポリエステル・メラミン系塗料)を「アクアレックスAR-620」(日本ペイント・オートモーティブコーティング社製)を静電塗装した。次いで、140℃で30分間焼き付けて、厚さ35μmの硬化された中塗り塗膜を得た。
【0221】
(3)未硬化のベースコート塗膜の形成
硬化した中塗り塗膜上に、実施例9と同様にして、硬化後の厚さが15μmの未硬化のベースコート塗膜を形成した。
【0222】
(4)未硬化のクリヤー塗膜の形成
未硬化のベースコート塗膜上に、実施例9と同様にして、硬化後の厚さが35μmの未硬化のクリヤー塗膜を形成した。
【0223】
(5)塗膜の硬化
未硬化のベースコート塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、140℃で30分間加熱硬化させて、塗装物品を得た。
【0224】
[評価]
得られた塗装物品について、以下の要領で、FF性、耐水性、および耐高圧洗車性を評価した。結果を表3および表4に示す。
【0225】
(FF性)
「CM-512m3」(コニカミノルタ社製変角色彩色差計)により、25度および75度の測定角度でL値を測定した後、FF値(25度のL値/75度のL値)を算出した。FF値が大きい程、意匠性に優れている。
評価基準は以下の通りであり、最良および良を合格、不良を不合格とした。
最良:FF値が2.3以上
良:FF値が2.0以上、2.3未満
不良:FF値が2.0未満
【0226】
(耐水性)
塗装物品から切り出した試験片を40℃の水に240時間浸漬した後、試験片の複層塗膜に、カッターで1mmの間隔で縦横10本ずつの切れ目を入れ、100個のマス目を作製した。100個のマス目の上にセロハンテープ(登録商標、ニチバン社製)を貼付して剥し、残存したマス目の数をカウントした。残存したマス目の数が多い程、耐水性(密着性)が高く、耐性に優れている。
評価基準は以下の通りであり、良を合格、不良を不合格とした。
良:マス目の剥離がない
不良:マス目が剥離した
【0227】
(耐高圧洗車性)
DIN(ドイツ工業規格) 55662に準拠した方法にて高圧洗車を行った後、塗膜の外観を目視により評価した。
評価基準は以下の通りであり、良および可を合格、不良を不合格とした。
良:異常なし
可:損傷あり
不良:塗膜に剥れが発生
【0228】
【0229】
【0230】
本発明の実施形態で規定する要件を満足する実施例9-14および実施例15-20の塗装物品は、製造方法に関わらず、意匠性および密着性に優れた複層塗膜を備えている。
【0231】
一方、比較例8および比較例13は、水性塗料組成物が水分散樹脂粒子を含まないため、耐高圧洗車性が低く、密着性に劣っていた。
【0232】
比較例9および比較例14は、水性ベースコート塗料に含まれる水分散樹脂粒子中の樹脂の水酸基価が10mgKOH/gと高いため、FF性が低く、意匠性に劣っていた。
【0233】
比較例10および比較例15は、水性ベースコート塗料に含まれる水分散樹脂粒子中の樹脂がアミド基を含まないため、耐高圧洗車性が低く、密着性に劣っていた。
【0234】
比較例11および比較例16は、比較例8および比較例13のアルミニウムをマイカに変更した例であるが、同じく水性塗料組成物が水分散樹脂粒子を含まないため、耐高圧洗車性が低く、密着性に劣っていた。
【0235】
比較例12および比較例17は、比較例8および比較例13のアルミニウムをマイカに変更し、且つキナクリドンを加えた例であるが、同じく水性塗料組成物が水分散樹脂粒子を含まないため、耐水性および耐高圧洗車性が低く、密着性に劣っていた。
【0236】
本開示は以下の態様を含む。
[1]
1以上のアミド基を有するモノマーに由来する構成単位を含み、
前記モノマーに由来する構成単位の含有量は、全構成単位の1質量%以上20質量%以下であり、
水酸基価は、1mgKOH/g以下である、水分散樹脂粒子。
[2]
さらに、前記1以上のアミド基を有するモノマーとは異なる他のモノマーに由来する構成単位を含み、
前記他のモノマーを重合して得られるホモポリマーのガラス転移温度は、80℃以上であり、
前記他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、全構成単位の70質量%以上である、上記[1]の水分散樹脂粒子。
[3]
上記[1]または[2]の水分散樹脂粒子と、
塗膜形成性樹脂と、
硬化剤と、
顔料と、
水を含む希釈成分と、を含む、水性塗料組成物。
[4]
前記希釈成分は、さらに有機溶剤を含み、
前記有機溶剤は、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%以上7質量%以下である第1有機溶剤と、20℃における水に対する溶解度が0.1質量%未満である第2有機溶剤とを含み、
前記第1有機溶剤の含有量は、0.4質量%以上5質量%以下であり、
前記第2有機溶剤の含有量は、0.05質量%以上2.5質量%以下である、上記[3]の水性塗料組成物。
[5]
前記顔料は、着色顔料、鱗片状顔料および体質顔料よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[3]または[4]の水性塗料組成物。
[6]
被塗物と、
前記被塗物上に形成されたベースコート塗膜と、を備え、
前記ベースコート塗膜は、上記[3]~[5]のいずれかの水性塗料組成物により形成される、塗装物品。
[7]
さらに、前記ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜を備える、上記[6]の塗装物品。
[8]
被塗物と、
前記被塗物上に形成された中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に形成されたベースコート塗膜と、を備え、
前記ベースコート塗膜は、上記[3]~[5]のいずれかの水性塗料組成物により形成される、塗装物品。
[9]
さらに、前記ベースコート塗膜上に形成されたクリヤー塗膜を備える、上記[8]の塗装物品。
[10]
被塗物上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、上記[3]~[5]のいずれかの水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
[11]
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記硬化工程において、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、上記[10]の塗装物品の製造方法。
[12]
被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜および前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、上記[3]~[5]のいずれかの水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
[13]
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記硬化工程において、前記未硬化の中塗り塗膜、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、上記[12]の塗装物品の製造方法。
[14]
被塗物上に、中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の中塗り塗膜を硬化させる第1硬化工程と、
前記硬化された中塗り塗膜上に、ベースコート塗料を塗装して未硬化のベースコート塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベースコート塗膜を硬化させる第2硬化工程と、を備え、
前記ベースコート塗料は、上記[3]~[5]のいずれかの水性塗料組成物を含む、塗装物品の製造方法。
[15]
前記未硬化のベースコート塗膜を形成する工程の後、前記第2硬化工程の前に、
前記未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程を備え、
前記第2硬化工程において、前記未硬化のベースコート塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる、上記[14]の塗装物品の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0237】
本発明の水分散樹脂粒子は、特に自動車車体を塗装する塗料に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0238】
10A、10B、10C、10D 塗装物品
11 被塗物
12 ベースコート塗膜
13 クリヤー塗膜
14 中塗り塗膜