(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】放射線治療を計画および送達するためのコンピュータプログラム製品およびコンピュータシステムならびに放射線治療を計画する方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2022502433
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2020069229
(87)【国際公開番号】W WO2021008964
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-07-07
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0022409(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0259198(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0260098(US,A1)
【文献】国際公開第2018/152302(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0175616(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子の空間的に分割されたビームのセットを放射線源から患者に照射するグリッド治療のための放射線治療計画を
コンピュータによって作成す
る方法であって、ビームのセット内の各ビームのための、
-
前記コンピュータが、第1のブラッグピーク位置まで前記患者の体内を通る第1の経路を決定する工程と、
-
前記コンピュータが、前記患者の体内を通る第2の経路を決定する工程であって、前記第2の経路の少なくとも一部は前記第1の経路から第1の偏向されたブラッグピーク位置まである角度で方向づけられている工程と、
を含
み、
前記空間的に分割されたビームのビーム角度は、前記患者の皮膚を通る間に前記ビームの線量が空間的に分割されて前記患者の体内の標的内で重なるように変えられる、
方法。
【請求項2】
前記第1および第2の経路は、以下の:
-前記第1のブラッグピークを前記患者の体内の標的内に位置決めさせるために所望の粒子エネルギを決定する工程、
-前記第1の偏向されたブラッグピーク位置まで前記第2の経路を辿るように前記ビームの方向を変えるために前記ビームに印加される第1の磁場の方向および強度を決定する工程
によって実現される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の偏向されたブラッグピーク位置まで第3の経路を辿るように前記ビームの方向を変えるために第2の磁場の方向および強度を決定する工程をさらに備える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビームの偏向を徐々に変えて側方に不鮮明に広がるブラッグピークを形成するために、前記ビームを照射する間に前記磁場を変える工程を備える、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1および第2の経路は前記患者に対して放射線源からのビーム角度を変えることによって実現される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ビーム角度を徐々に変えてブラッグピークの領域を形成するような方法で前記ビーム角度を変える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
コンピュータで実行されるときに、前記コンピュータに請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を実行させる、放射線治療計画を計画するためのコンピュータプログラム製品。
【請求項8】
プロセッサおよびプログラムメモリを備えるコンピュータシステムであって、前記プログラムメモリは、請求項7に記載のコンピュータプログラム製品を備える、コンピュータシステム。
【請求項9】
グリッド治療の形態の送達装置から患者への放射線治療の送達を制御するためのコンピュータプログラム製品であって、前記
放射線治療は
、荷電粒子の空間的に分割されたビームのセットを前記患者に照射することを伴い、放射線治療を提供するための装置のプロセッサにおいて実行されるときに、前記装置に任意の所望の順序で、
-各ビームが第1のブラッグピーク位置まで前記患者の体内を通る第1の経路を辿るように前記空間的に分割されたビームのセットを前記患者に照射する工程、
-各ビームが偏向されたブラッグピーク位置まで前記患者の体内を通る第2の経路を辿るように前記空間的に分割されたビームのセットを前記患者に照射する工程
を実行させ
、
前記送達装置は、前記患者の皮膚を通る間に前記ビームの線量が空間的に分割されて前記患者の体内の標的内で重なるように、前記空間的に分割されたビームのビーム角度を変えるように構成されている、コンピュータ可読コード手段を備える、コンピュータプログラム製品。
【請求項10】
前記送達装置は前記患者の体内の粒子の経路に影響を与える磁場を発生させるための機器を備え、
-前記ビームの経路を曲げるように構成された第1の磁場を印加する間に、前記空間的に分割されたビームのセットを前記患者に照射する工程、
-磁場を印加しない間または前記ビームの経路を曲げるように構成された第2の磁場を印加する間に、前記空間的に分割されたビームのセットを前記患者に照射する工程
を備える、請求項9に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項11】
グリッド治療の形態で患者に放射線治療を提供するための装置であって、前記装置は
、荷電粒子の空間的に分割されたビームのセットを生成するための手段を備え、前記装置は、前記ビームの線量が前記患者の健康な組織を通る間に空間的に分割されて前記患者の体内の標的内に重なるような方法で、前記患者の体内で各ビームの経路を変えるように構成されており、前記装置は、機器を制御するように構成された処理手段と請求項9
または10に記載のコンピュータプログラム製品を備えるプログラムメモリとをさらに備える、装置。
【請求項12】
前記患者の体内で各ビーム中の粒子の経路を修正するために磁場を発生させるように構成された機器をさらに備える、請求項1
1に記載の装置。
【請求項13】
前記機器はそれらのブラッグピークの近くで各ビーム中の粒子の経路を曲げる磁場を発生させるように構成されている、請求項1
1または1
2に記載の装置。
【請求項14】
前記機器は前記磁場の強度および/または方向を変えるように構成されている、請求項1
3に記載の装置。
【請求項15】
前記装置はガントリーおよび/または前記患者の位置および/または向きを傾けることにより各ビームの方向を変えるように構成されている、請求項1
1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療計画のための方法、コンピュータプログラム製品およびコンピュータシステムならびに放射線治療の送達のためのシステムおよびそのような送達を制御するためのコンピュータプログラム製品に関する。より具体的には、本発明は陽子または他の荷電粒子を伴う放射線治療に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線治療では、標的でないあらゆる組織または臓器への損傷を最小限に抑えるために放射線線量を通常はフラクションに分割する。60Gyの総線量を例えばそれぞれ2Gyの30フラクションで与える場合がある。そのような治療計画を最適化する際に重要な問題は、あらゆる周囲組織、特にあらゆるリスク臓器への線量を低く維持して持続する損傷を最小限に抑えながらも標的(典型的には腫瘍)が十分に高い線量を受けることを保証することである。現在のところ、多くの研究および開発は可能な限り精密な治療計画を作成してコンフォーマルな線量分布を生じさせることに配慮している。
【0003】
幾らか異なる手法はグリッド治療であり、ここでは高い線量、例えば15または20Gyを1回または数回のフラクションでグリッドの形状で与える。言い換えると、空間的に分割された線量分布が達成される。グリッドは幾何学的に離間されたペンシルビームによって、あるいは多くの幾何学的に離間されたビームを貫通させる貫通孔のパターンを有する有孔ブロックを用いて達成してもよい。ビーム間の皮膚の影響を受けない部分が損傷された部分が治癒するのを助けるので、この治療形態は暫くの間は皮膚への損傷を減らすことで知られていた。同じことが皮膚の真下の組織にも当てはまるが、腫瘍性組織には同程度で当てはまらないことも分かった。従ってグリッド治療は腫瘍において有意な応答を生じさせるのに十分な程に高い単回線量の投与を可能にするだけでなく、同時に患者が良く耐えることができる。標的全体に少なくとも最小の線量を投与しなければならないが、標的への線量は均一である必要はない。当然ながらグリッド治療は2回以上投与する場合もある。また1回以上のグリッド治療後に外科手術および/または多くの従来の治療フラクションを行う場合がある。
【0004】
グリッド治療は、フォトン治療または陽子などの荷電粒子と共に使用することができる。陽子の場合、グリッドはビームを分割するためのスリットまたは穴を有する物理的コリメーターを用いて構成することができる。あるいは、好適なパターンの非平行ペンシルビームを適用してもよい。
【0005】
陽子線治療では、粒子はそれらが伝播している媒体を通って進行するにつれて徐々に減速する。それらが減速するにつれて、それらが媒体と相互作用する確率は増加し、その結果より多くのエネルギが蓄積される。粒子が停止する場所で、ブラッグピークとして知られている高エネルギ蓄積ピークが生じる。ブラッグピークが標的内に位置決めされるように治療を計画することにより、高精度で線量を制御することができる。また粒子はそれらが減速するにつれて、粒子ビームが当該経路の末端に向かって幾らか広げられるようにより高い程度で散乱される。
【0006】
陽子または他の荷電粒子を用いるグリッド治療の1つの課題は、健康な組織において好ましい効果を得てもなお標的において良好な線量カバレッジを得るために、ビームを必要な限り大きく側方に分離させることである。これを克服する1つの方法は、異なる位置のビームを用いて2回のセッションでグリッド治療を与えることである。グリッドブロックを使用する場合、これはセッション間でグリッドブロックを移動させることにより達成してもよい。ペンシルビームを使用する場合、ビームのそれぞれを第1のセッションでカバーされなかった位置に第2のセッションのために移動させてもよい。
【0007】
グリッド治療における品質の1つの尺度は、スポット内線量値(ピークすなわち最大線量)およびスポット間線量値(バレーすなわち最小線量)の比であるピーク/バレー線量である。ピーク/バレー線量は周囲組織および特にリスク臓器において高く、標的における線量は理想的には均一であり、かつ高くしなければならない。
【0008】
Thomas Henryは、彼の博士論文:インターレース式陽子グリッド治療:革新的な放射線治療技術の開発(Interlaced proton grid therapy:development of an innovative radiation treatment technique)、ストックホルム大学物理学科、ISBN978-91-7797-442-0において、これらの問題について考察し、かつ異なるビーム幅を用いた解決法を調査している。その目標は、高い最小線量によりどちらかと言えば均一な線量を標的に送達しながらも線量分布のグリッドパターンを維持することであった。そうするために、いくつかの方向から入射された陽子ビームレットのグリッドを、標的外の組織においてグリッドパターンを維持しながらもそれらが一緒に標的体積全体をカバーするように標的体積にインターレースで照射した。Henryら:陽子グリッド治療のためのインターレース式多門照射の開発(Development of an interlaced-crossfiring geometry for proton grid therapy),Acta Oncologica,2017,Vol.56,No.11,1437-1443は、研究室設定において得られた実験データを用いてそのようなインターレース式グリッドの例を示しながら均一な線量カバレッジを得るための方法を開示している。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、標的への十分に高く、かつ均一な線量と周囲組織を温存するようなピーク/バレー線量とを組み合わせることができる、荷電粒子を用いたグリッド治療を提供することにある。
【0010】
この目的は本発明に従って、陽子などの荷電粒子の空間的に分割されたビームのセットを放射線源から患者に照射するグリッド治療のための放射線治療計画を作成するコンピュータ実装方法であって、ビームのセット内の各ビームのための、
-第1のブラッグピーク位置まで患者の体内を通る第1の経路を決定する工程と、
-患者の体内を通る第2の経路を決定する工程であって、第2の経路の少なくとも一部は第1の経路から第1の偏向されたブラッグピーク位置まである角度で方向づけられている工程と、
を含む方法によって達成される。
【0011】
本発明の根底にある主要な考えは、体を横切っている陽子の軌道を変えて患者の体の他の部分において間隔を維持しながらもビームによってカバーされる標的内の領域を広げることである。このようにして、ビームが患者の体内に進入する点は、皮膚および健康な組織に対する利点を得ることができる程に十分に離れている場合があるが、陽子はなお標的全体をカバーすることができる。本発明によれば、治療窓すなわち腫瘍には害であるがリスク臓器を含む周囲組織を温存する実際に達成可能な治療を有効に増大させる。
【0012】
当該軌道は異なる方法で変えてもよい。第1の実施形態では、当該軌道はビーム角度を変えることにより、例えばビームを異なるガントリー角度から放射することにより変えてもよい。第2の実施形態では、当該軌道はいくつかの陽子ビームが患者を横切る際に曲げられるような方法で磁場を印加することにより変えてもよい。第1の実施形態では、第1および第2の軌道は患者に対して放射線源からのビーム角度を変えることによって実現される。好ましくはビーム角度は、ビーム角度を徐々に変えてブラッグピークの領域を形成するような方法で変える。
【0013】
第2の実施形態では、偏向は少なくとも1つの磁場によって達成される。この場合、第1および第2の経路は、以下の:
-第1のブラッグピークを患者の体内の標的内に位置決めさせるために所望の粒子エネルギを決定する工程、
-第1の偏向されたブラッグピーク位置まで第2の経路を辿るようにビームの方向を変えるためにビームに印加される第1の磁場の方向および強度を決定する工程
によって実現される。
【0014】
好ましくはこの場合、3つ以上の異なるブラッグピーク位置を可能にするために、第2の偏向されたブラッグピーク位置まで第3の経路を辿るようにビームの方向を変えるために第2の磁場の方向および強度を決定する工程を含む。
【0015】
好ましい一実施形態では、ビームの偏向を徐々に変えて側方に不鮮明に広がるブラッグピークを形成するためにビームを照射する間に磁場を変える。これにより標的全体により均一な線量が得られる。
【0016】
粒子は患者の体に進入する際に最高エネルギを有し、患者の体内を通過するにつれてエネルギを失う。磁場は高いエネルギを有する粒子よりもより低いエネルギを有する粒子に影響を与えるので、ビームは標的体積内に配置されるべきブラッグピークのより近くで曲げられる。当該時間の一部の間にわたってのみ磁場を印加するか磁場方向を変える場合、いくつかのビームは標的内で曲げられ、いくつかのビームは曲げられない。このようにして、ビームは患者の体内への進入点の近くではより狭く維持されながらも、標的内のより大きい領域をカバーするように広がる。従ってグリッド治療の利点は標的外の組織において保持されるが、標的は先行技術よりも良好にカバーされる。言い換えると、リスク臓器において高いピーク/バレー線量比を得ることができてもなお標的を有効に治療する。当然ながら、2つ以上の異なる磁場を印加してビームのさらに良好な広がりを達成してもよい。好ましくは、第1の磁場および第2の対向する磁場を異なる時間で印加し、当該時間の一部の間にわたって磁場を全く印加しない。
【0017】
磁場強度は、ビームの好適な曲げ角度、例えば+1T、0T(すなわち磁場なし)および-1Tを保証するように選択しなければならない。
【0018】
磁場は任意の好適な方法で発生させてもよい。例えば3つの均一な軸方向磁場を印加してもよい。あるいは、磁場は好適に短いオープンソレノイドによって発生させてもよい。これにより、浅いフリンジ場およびソレノイドの中心に減少した最大磁場体積が得られる。これにより標的からの少ない偏向により、標的においてブラッグピークの非常に良好な重なりが得られる。
【0019】
磁場は、患者に向かって放射する前にビームを成形および方向づけするために放射線治療の分野ではよく使用されている。本発明はいくつかの実施形態では、磁場を使用して患者の体内でビームを方向づけることを提案している。
【0020】
本発明は、コンピュータで実行されるときに、コンピュータに上記に係る計画方法を実行させる放射線治療計画を計画するためのコンピュータプログラム製品にも関する。本コンピュータプログラム製品は典型的には、非一時的メモリ機器などのメモリ機器に記憶されている。本発明は、プロセッサおよびプログラムメモリを備えるコンピュータシステムにも関し、プログラムメモリは、そのようなコンピュータプログラム製品を備える。
【0021】
本発明は放射線治療計画の送達にも関する。故に本発明は、送達装置から患者への放射線治療の送達を制御するためのコンピュータプログラム製品であって、前記治療は、陽子などの荷電粒子の空間的に分割されたビームのセットを患者に照射することを伴い、放射線治療を提供するための装置のプロセッサにおいて実行されるときに、前記装置に任意の所望の順序で、
-各ビームが第1のブラッグピーク位置まで患者の体内を通る第1の経路を辿るように空間的に分割されたビームのセットを患者に照射する工程、
-各ビームが変位されたブラッグピーク位置まで患者の体内を通る第2の経路を辿るように空間的に分割されたビームのセットを患者に照射する工程
を実行させるコンピュータ可読コード手段を備えるコンピュータプログラム製品に関する。
【0022】
本発明は、患者に放射線治療を提供するための装置であって、前記装置は、陽子などの荷電粒子の空間的に分割されたビームのセットを生成するための手段を備え、前記装置は、ビームの線量が患者の健康な組織を通る間に空間的に分割されて患者の体内の標的内に重なるような方法で、患者の体内で各ビームの経路を変えるように構成されており、前記装置は、機器を制御するように構成された処理手段と上で考察されているように放射線治療の送達を制御するためのコンピュータプログラム製品を備えるプログラムメモリとをさらに備える装置にも関する。
【0023】
ビームの偏向が磁場によって達成される場合、送達装置は患者の体内で粒子の経路に影響を与える磁場を発生させるための機器を備え、
-ビームの経路を曲げるように構成された第1の磁場を印加する間に、空間的に分割されたビームのセットを患者に照射する工程、
-磁場を印加しない間またはビームの経路を曲げるように構成された第2の磁場を印加する間に空間的に分割されたビームのセットを患者に照射する工程
を備える。
【0024】
この場合、前記装置は、患者の体内で各ビーム中の粒子の経路を修正するために磁場を発生させるように構成された機器を備える。前記機器は好ましくは、それらのブラッグピークの近くで各ビーム中の粒子の経路を曲げる磁場を発生させるように構成されている。有利には、前記機器は磁場の強度および/または方向を変えるように構成されている。
【0025】
ビームの偏向がビーム角度を変えることによって達成される場合、送達装置は患者の皮膚を通る間にビームの線量が空間的に分割されて標的内で重なるように、空間的に分割されたビームのビーム角度を変えるように構成されている。この場合、上記装置はガントリーおよび/または患者の位置および/または向きを傾けることにより各ビームの方向を変えるように構成されている。
【0026】
以下では、添付の図面を参照しながら本発明を例としてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図4a】第1の実施形態に係る治療計画方法および治療送達方法のフローチャートである。
【
図4b】第1の実施形態に係る治療計画方法および治療送達方法のフローチャートである。
【
図5a】第2の実施形態に係る治療計画方法および治療送達方法のフローチャートである。
【
図5b】第2の実施形態に係る治療計画方法および治療送達方法のフローチャートである。
【
図6】治療計画のために使用することもできる一般的な線量送達システムの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、2次元で簡略化されたグリッド治療の一般的な原理を例解する。腫瘍13を備える患者11の断面が示されている。この例では、互いに離間された3つのビーム15が腫瘍13に方向づけられている。当然のことながら、臨床用途のためのグリッドパターンは3次元であり、かつより多くの数のビームを含む。グリッドは、例えばビームが通り抜けることができる孔を有するブロックを使用するか、あるいはペンシルビームによって任意の好適な方法で創り出すことができる。
【0029】
図1の左側には、ビームから得られる患者の皮膚上の線量プロファイルdを示す簡略化された図がある。それらの間に別個のバレーを有するビームの位置に対応する3つのピークがある。ビームは患者の体を横切って、ビーム間の領域を実質的に影響を受けない状態のままにする。右側には破線として標的内の線量プロファイルd’を示す別の図がある。図から分かるように、それは線量プロファイルdと同じ3つのピークを有するが、幾らかより低いピーク/バレー比を有する。比較のために標的に対して高く、かつ均一な線量を示す理想的な線量プロファイルが実線として示されている。
【0030】
図2aは、腫瘍23を有する患者13を伴う同様の状況を例解する。この場合にビーム25は、互いに離間され、かつそれらのブラッグピークが腫瘍の内部に位置するように構成されている陽子ビームである。導入部分で言及され、かつ
図2aに示されているように、腫瘍のカバレッジが横切られる組織のカバレッジよりも均一になるように、各ビームはブラッグピーク、すなわちビーム経路の末端27に向かって幅広化する。ここでも
図2aの左側に、
図1と同様のピークを有するビームから得られる患者の皮膚上の線量プロファイルdを示す簡略化された図がある。
【0031】
図2bは
図2aと同様の状況を例解しており、唯一の違いはビーム中の陽子に方向を変えさせるために第1の磁場が患者の上から印加されていることである。上で説明されているように、当該方向はビームがブラッグピークの近く、すなわち腫瘍内で曲げられるように、より低いエネルギを有する粒子のためにより大きく変化する。
図2bではビームは図面において上方に曲げられている。当然ながら、磁場の方向に応じてビームをあらゆる好適な方向に曲げてもよい。ビームがブラッグピークの近くで既に幅広化されているので、得られるビーム形状27’は幅広化され、かつ各ビームの末端で曲げられ、その方向および方向の変化の大きさは磁場の方向および強度によって制御される。
【0032】
図2cは、
図2bと同様の状況を例解しているが、第1の磁場とは異なる第2の磁場を用いている。
図2cでは、磁場は
図2bのものと比較して逆になっている。陽子の方向は
図2bに示されているものから対向する方向に変化し、末端27’’に向かって図の中では下方に曲がっている幅広化されたビーム形状を生じさせている。
図2a、
図2bおよび
図2cにおいて腫瘍内で得られるパターンは互いに補完し合って、腫瘍の全ての部分を同じ別個のビームによってカバーすることができる。当然のことながら、グリッドパターンおよび患者の他の組織においてその利点を維持しながら、磁場なしと第1および第2の磁場の印加により3つの部分において放射線を照射することにより腫瘍のカバレッジを向上させることができる。治療フラクション中に磁場を変えることにより3つの部分を1回の動作で照射してもよい。
【0033】
図2aの右側には、
図2a、
図2bおよび
図2cに係る腫瘍内でのビームの合計である現実的な線量プロファイルd’’を示す図がある。現実的な線量プロファイルが破線として示されている。比較のために理想的な線量プロファイルが実線として示されている。腫瘍全体における理想的な線量プロファイルは高く、かつ均一な線量を示す。図から分かるように、現実的な線量プロファイルは線量プロファイルdおよびd’ほどあまり目立たないピークおよびバレーを有する理想的な線量プロファイルにより近い。
【0034】
当然のことながら、2つの対向する磁場と磁場なしとの併用は単なる一例である。磁場なしと組み合わせた1つのみの磁場またはいくつかの異なる磁場が存在してもよい。あるいは、互いに異なるが必ずしも互いに対向していない2つ以上の磁場を印加してもよい。このようにして、患者の皮膚および他の組織への害を減らすというグリッド治療に関連する利点を維持しながら最良の可能な方法で腫瘍全体をカバーするために、磁場を使用してビームに影響を与えてもよい。
【0035】
磁場は任意の好適な方法で発生させてもよいが、好ましくはその強度および方向を制御するのを可能にする方法である。1つの好ましい方法は、均一な軸方向の場を印加することである。好適な代替法は短いオープンソレノイドを使用することである。
【0036】
図3は、ビーム方向を変えること、例えばガントリーを傾けることにより腫瘍のカバレッジの増加が達成される他の実施形態を例解する。ここでも腫瘍33を含む患者31の断面が示されている。表示を分かりやすくするために、ここでもそれぞれが患者の体内のブラッグピーク位置に至る3つの実線のビーム35が患者の体内に水平に進入することが示されている。ビームのそれぞれが、本明細書中では偏向された位置と呼ばれるブラッグピーク位置に至る破線として示されており、かつ同じ進入点を有するがそれぞれが僅かに上方および下方に傾けられている2つの対応するビーム35’および35’’も有する。図から分かるように、ビームは進入点で互いに離間されており、かつ患者の体内を通るそれらの経路に沿っているが腫瘍33内で重なる。水平ビームと対応するビームのそれぞれとの角度は進入時にビーム間隔を維持し、かつ標的全体における良好な線量カバレッジを保証するように選択される。好適な角度は一般的な三角法によって決定してもよい。例えば、標的までの距離が10cmであると仮定するとスポット分離は1cmであり、本システムは各ビームを最初にスポットの片側に、次いで対向側に傾けるように設定し、角度は、スポットおよび偏向された位置が等距離になるように、偏向された位置がスポット分離の1/3に配置されるように選択しなければならない。この例では、角度は逆正弦(0.33/10)=1.9°になる。角度αのための一般的な方程式は、
【数1】
と表すことができる。
【0037】
式中、sはスポットから偏向された位置までの所望の距離であり(この場合1/3cmである)、dは標的までの距離である。
【0038】
図3は、3つの異なる角度から進入し、かつ図の平面のみで回転する各ビームを示しているが、当然ながらビームを2つの異なる角度のみから、または4つ以上の異なる角度から進入させたり、角度を3次元で変えたりすることも可能である。ガントリー角度を変える代わりに、治療台を回転させて同じ効果を達成してもよい。より大きな自由度のために、ガントリーおよび治療台の両方を回転させるか傾けてもよい。グリッドブロックを使用する場合、ブロックの方向によりビームがブロックの孔を通り抜けることができるように注意を払わなければならない。ブロックをビーム方向に対して傾け過ぎた場合、ビームをブロックによって完全に停止させるか少なくとも非常に高い程度まで停止させる場合がある。これは、ビームとブロックとの間の角度が固定されるようにブロックをガントリーに固定することにより回避することができる。
図3に示すように異なる角度からのビームが患者の体内への進入点で交差するように構成されている場合、ビームを通り抜けさせるために患者の輪郭に配置されたブロックを傾ける必要はなく、すなわち必要とされる傾斜角度はより小さくなる。
【0039】
図4aは、本発明の第1の実施形態に係る放射線治療を計画する可能な方法のフローチャートである。第1の工程S41では、標的体積すなわち放射線治療によって影響を与えるべき体積を定める。第2の工程S42では、当該体積の好適なカバレッジを与えるようにブラッグピークの好適な位置を決定し、かつ対応するビームエネルギを設定する。工程S41およびS42は当該技術分野でよく知られている方法で行ってもよい。第3の工程S43では、ビームを偏向しなければならない1つ以上の角度を決定する。工程S42で決定したブラッグピーク位置間にブラッグピークを与えるように角度を計算または選択する。角度は例えば方程式(1)に従って計算してもよい。次に工程S43では、工程S43で決定した角度だけビームを偏向させるためにそれらに印加する必要がある1つ以上の磁場をいくつかの他の方法で計算または決定する。この手順からの出力O41は、指定されたエネルギレベルを有するビームのセットおよびビームを偏向させるために印加される1つ以上の磁場を含む治療計画である。
【0040】
図示されている例では、各ビームは2つの対向する方向(図面から分かるように上および下)に偏向されるものと仮定する。当然ながら、好適であることが分かっているような方向を選択することができる。1つのみまたは3つ以上の偏向されたビームを生成することも可能である。例えば、傾けられていないビームの周りに直角に偏向された4つのビームを照射してもよい。
【0041】
磁場は任意の好適な方法で発生させてもよい。工程S43では強度および磁場の方向の両方または強度のみを変えることが可能であってもよい。本システムによって可能であれば、ビームを照射する間に、例えば3つの別個のブラッグピークの代わりに、ビームが工程S42で決定したブラッグピーク位置の周りの領域にエネルギを蓄積することができるように磁場を変えることができる。多くの別個のビーム方向の代わりにビームを変えて円錐形状を形成してもよい。
【0042】
図4bは、本発明の一実施形態に係る治療送達方法の一般的なフローチャートである。第1の工程S420では、磁場を印加せずに陽子ビームのセットを患者に照射する。陽子ビームは経路の末端まで患者の体内で本質的に真っ直ぐな線に従う。工程S422では、第1の磁場を陽子ビームに印加し、それにより陽子ビームをそれらのビーム経路の末端に向かって第1の方向に曲げる。工程S423では、第2の磁場を陽子ビームに印加して陽子ビームをそれらのビーム経路の末端に向かって第2の方向に曲げる。決定工程S424では、さらに別の磁場を印加して陽子ビームをさらなる方向に曲げるべきか否かを決定する。そうすべき場合は、当該手順は
図4に示されているように工程S423または工程S422に戻り、そうすべきでない場合は、当該手順は終了する。ペンシルビームスキャニングを使用する場合は各ビームに個々に影響を与えることができ、グリッドブロックを使用してビームを成形する場合は全てのビームに同じように影響を与える。
【0043】
工程S422およびS423で印加される磁場は、標的内での陽子のさらなる拡散を生じさせるために互いに異なる。それらは等しいが対向していてもよく、あるいは方向および強度を含む任意の他の好適な方法において異なってもよい。磁場は同じもしくは対向する方向を有するが異なる強度を有していてもよく、それらは磁場を発生させる機器を陽子ビームに対して回転させることができる場合は異なる方向を有していてもよい。1回のみの磁場を印加するために工程S422および工程S423のうちの1つのみを含めることも可能であろう。当然ながら代わりに、ビームに影響を与える磁場を含まない工程が存在しないように工程S420を省略することができる。磁場が連続的に変わるように構成されている場合、各ブラッグピークは側方に不鮮明に広がる場合がある。
【0044】
磁場は実用的な理由から、典型的には患者の体の外側に広がり、従って患者の体外であってもビームに影響を与えるが、患者からの距離が増加するにつれて少なくなる。上で考察されているように、グリッドブロックが存在する場合にはビームをブロックしないように注意を払わなければならない。本実施形態では、グリッドブロックを患者の近くにガントリー角度とは独立して固定された角度で配置することが好ましいが、必須ではない。
【0045】
図5aは、本発明の第2の実施形態に係る放射線治療を計画する可能な方法のフローチャートである。
【0046】
第1の工程S51では、標的体積すなわち放射線治療によって影響を与えるべき体積を定める。第2の工程S52では、当該体積の好適なカバレッジを与えるようにブラッグピークの好適な位置を決定し、かつ対応するビームエネルギを設定する。工程S51および工程S52は当該技術分野でよく知られている方法で行ってもよい。第3の工程S53では、ビームを偏向しなければならない1つ以上の角度を決定する。例えば工程S42で決定したブラッグピーク位置間にブラッグピークを与えるために、上記方程式(1)に従って角度を計算するか、いくつかの他の方法で選択する。次に工程S43では、これらの角度を達成するために必要とされるガントリー角度またはガントリーと治療台との相対位置を決定する。この手順からの出力O41は、指定されたエネルギレベルを有するビームのセット、および1つ以上のガントリー角度および/またはビームを偏向させるために適用されるガントリー/治療台の位置を含む治療計画である。
【0047】
図5bは、第2の実施形態に係る可能な治療送達方法のフローチャートである。第1の工程S520では、荷電粒子の1つ以上のビームを照射する。第2の工程S522では1つ以上のビームの入射角度を変え、かつ第3の工程S523ではここでもビームを照射する。工程S524はビームのために別の入射角度を使用すべきか否かを決定するための決定工程である。そうすべき場合は、当該手順は工程S522に戻り、そうすべきでない場合は、当該手順は終了する。
【0048】
図6は、放射線治療および/または治療計画のシステム80の概略である。当然のことながら、そのようなシステムは任意の好適な方法で設計してもよく、
図6に示されている設計は単に一例である。患者81を治療台83の上に位置決めする。本システムは、治療台83の上に位置決めした患者に向かって放射線を放射するためのガントリー87に取り付けられた放射線源85を有するイメージング/治療ユニットを備える。典型的には、治療台83およびガントリー87は、可能な限り柔軟かつ正確に患者に放射線を与えるために互いに対していくつかの次元で移動可能である。これらの部品およびそれらの機能は当業者に周知である。ビームを側方および奥行き方向に成形するために提供されているいくつかの受動機器が典型的に存在し、それについては本明細書ではより詳細に考察しない。ビームのグリッドを例えばグリッドブロックの形態で提供するための手段またはペンシルビームを提供するための手段が設けられている。この例では本システムは、患者の体内でビームの粒子の経路に影響を与える磁場を発生させるための手段89および磁場を修正するための手段も備える。磁場を発生させるための手段89は、1つ以上の磁石または1つ以上のコイルなどの任意の好適な手段であってもよい。修正する手段は、例えば磁石またはコイルの位置および方向を修正し、かつコイルを通る電流を制御するように構成された任意の種類の手段であってもよい。本システムは、放射線治療計画のため、および/または放射線治療を制御するために使用することができるコンピュータ91も備える。当然のことながら、コンピュータ91はイメージング/治療ユニットに接続されていない別個のユニットであってもよい。
【0049】
コンピュータ91はプロセッサ93、データメモリ94およびプログラムメモリ95を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段または任意の他の入手可能なユーザ入力手段の形態の1つ以上のユーザ入力手段98、99も存在する。またユーザ入力手段は外部メモリユニットからデータを受信するように構成されていてもよい。
【0050】
データメモリ94は、治療計画を得るために使用される臨床的データおよび/または他の情報を備える。典型的には、データメモリ94は本発明の実施形態に係る治療計画で使用される1つ以上の患者画像を備える。
図2a~
図2cおよび
図4に例解されているようにビーム経路を変えるために磁場を使用する実施形態では、例えばデータメモリ94において可能な磁場を示している磁場マップが入手可能でなければならない。磁場マップは、線量の計算の一部である粒子輸送シミュレーションに入力される。プログラムメモリ95は、例えば
図4aまたは
図5aに従ってプロセッサに治療計画方法を実行させるように構成された少なくとも1つのコンピュータプログラムおよび/または例えば
図4bまたは
図5bに従ってコンピュータに患者の放射線治療を制御させるように構成されたコンピュータプログラムを保持している。
【0051】
当然のことながら、データメモリ94およびプログラムメモリ95は概略的にのみ図示および考察されている。それぞれが1つ以上の異なる種類のデータを保持しているか1つのデータメモリが好適に構造化された方法で全てのデータを保持しており、かつプログラムメモリを保持しているいくつかのデータメモリユニットが存在してもよい。1つ以上のメモリが他のコンピュータ上に設けられていてもよい。例えば、コンピュータは本方法のうちの1つのみを実行するように構成されていてもよく、最適化を実行するための別のコンピュータが存在する。