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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】プラズマ手術用の器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
A61B18/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022504042
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2020070585
(87)【国際公開番号】W WO2021013852
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】19187863.6
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】592245823
【氏名又は名称】エルベ エレクトロメディジン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Erbe Elektromedizin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】ブラント・チヤルク
(72)【発明者】
【氏名】シュニッツラー・ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ハイム・ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルツ・マルティン
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-529610(JP,A)
【文献】特開2007-021196(JP,A)
【文献】特表2019-506947(JP,A)
【文献】特表2014-519875(JP,A)
【文献】国際公開第2017/211509(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00 - A61B 18/28
A61F 2/01
A61N 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にプラズマ凝固のための電気外科用器具(10)であって、
少なくとも一つの管腔(16)を含む流体導管(12)と、
前記流体導管(12)の内側に少なくとも部分的に配置された電極(11)と、を有し、
前記電極(11)は、電極本体(22)を備え、前記電極本体(22)は、前記流体導管(12)の遠位端(19)から近位方向に前記流体導管(12)内に延び、コーティング(23)が前記電極本体(22)の上に配置され、
前記電極本体(22)は、ステンレス鋼からなり、
前記コーティング(23)は、銀からなる、電気外科用器具。
【請求項2】
前記コーティング(23)が、溶融温度(T)を含み、前記電極本体(22)が、溶融温度(T)を含み、前記コーティングの溶融温度(T)が前記電極本体(22)の溶融温度(T)よりも低いことを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記電極本体(22)が、1000℃を超える溶融温度(T)を有する材料からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の器具。
【請求項4】
前記コーティング(23)が、1000℃未満の溶融温度(T)を有する材料からなることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の器具。
【請求項5】
前記コーティング(23)が、不活性金属からなることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の器具。
【請求項6】
前記コーティング(23)が、コーティング領域を有する断面を有し、前記電極(22)が、電極領域を有する断面を有し、前記コーティング領域は、前記電極領域の少なくとも12%の量を有し、前記電極領域の少なくとも12%の前記コーティング領域を有する前記コーティング(23)は、数ミリメートルの電極(11)のセクション(26)に沿って延びることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の器具。
【請求項7】
電極(11)が、前記電極の遠位端に少なくとも2.5mmの長さのセクション(19a)を備え、前記電極(11)の熱容量が、4.5mJ/K未満であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の器具。
【請求項8】
電極(11)が、前記管腔(16)の内側に保持された遠位端(19)を備えることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の器具。
【請求項9】
前記管腔(16)の内側に前記電極(11)を配置するために、ホルダ(20)が設けられ、前記ホルダ(20)上に前記電極(11)が保持され、前記ホルダ(20)によって前記電極(11)が前記管腔(16)の内側で中心に配置されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の器具。
【請求項10】
前記ホルダ(20)が、不十分な熱伝導性材料からなることを特徴とする、請求項9に記載の器具。
【請求項11】
前記ホルダ(20)が、電気絶縁材料からなることを特徴とする、請求項9に記載の器具。
【請求項12】
動作中、前記コーティング(23)が、前記遠位端(19)の近傍に溶融セクション(26)を備えることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の器具。
【請求項13】
動作中、前記電極(11)が、前記電極(11)の遠位端(19)に、前記コーティング(23)の材料から少なくとも部分的にむき出しているセクション(19a)を備えることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に生体組織のプラズマ治療、特にプラズマ凝固のための電気外科用器具、ならびにプラズマ生成のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いずれもホース状流体導管の管腔内に配置された、平坦なプレートレットとして構成された電極を有するプラズマ凝固器具、およびさらにワイヤ形状電極を有するプラズマ凝固器具が、独国出願公開第10030111号明細書から知られている。成形により、電極は、それぞれの電極の先端が管腔内で中心に配置されて不動に保持されるように、管腔の内壁にそれぞれ支持される。電極から生じる放電は、管腔を通って流れるガスと共にプラズマジェットを形成する。
【0003】
さらに、ホース状流体導管の管腔内に不動に中心に保持されたワイヤまたはピン状電極を有する同様の器具が、国際公開第2005/046495号から知られている。チャネルを通って直径方向に延びる金属プレートレットは、電極が取り付けられている管腔の内壁にあるその長手方向縁部で支持され、電極を固定するのに役立つ。電極は、例えば、タングステンワイヤによって形成される。
【0004】
さらに、接触凝固のための電気外科用電極が、欧州特許第1743588号明細書から知られており、この電極は、コア内のモリブデンからなる、銀合金でめっきされた電極本体を備える。銀合金は、1.4%~4%のゲルマニウムおよび1%~2%のインジウムを有する銀からなる。このような電極を用いると、組織切断中に組織に生じる障害が、軽減される。
【0005】
プラズマ凝固器具の動作中、電極においておよびその環境内で著しい熱生成が起こる。電極は、典型的には、生成された熱の影響を受け得る流体導管内に配置される。また、電極自体も影響を受ける可能性がある。このような障害を最小化または回避するために、流体導管の熱保護が過去に設けられてきた。上述した独国特許出願公開第10030111号明細書は、その冷却を改善するための平坦なプレートレットとしての電極の構成を提案している。電極の放電セクションの二次元構成により、プローブの加熱は回避されるとされる。これに対して、国際公開第2005/046495号によれば、生じた熱現象をプローブのプラスチックホースから遠ざけるセラミックチューブを、流体導管の遠位端に取り付けるとしている。
【0006】
上述の全ての手段は、特にプラズマ凝固器具の場合、器具の小型化を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここを起点にして、本発明の目的は、プラズマ凝固プローブの寸法をさらに低減することができる概念を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本目的は、請求項1に記載の電気外科用器具および請求項14に記載の方法によって解決される。
【0009】
器具は、電極が好ましくは不動に、好ましくは中心に配置される少なくとも1つの管腔を有する流体導管を備える。電極は、管腔内でその遠位端から近位方向に延び、かつコーティングがその上に配置される電極本体からなる。管腔は、電極が流体流中に配置されるように、ガス源、特にアルゴン源に接続することができる。動作中、器具は、遠位端において軸方向または横方向にも配向されたプラズマジェットを放出することができる。管腔は、ホースまたはチューブのチャネルとして実現することができる。ホースまたはチューブは、1つまたは複数の管腔を含むことができる。
【0010】
電極は、管腔内に少なくとも部分的に配置され、この目的のために、好ましくは中心に配置されて軸方向に変位可能または軸方向に不動である。例えば、電極は、この目的のために、管腔の制限面まで延びるホルダに取り付けることができる。代替として、電極自体は、制限面まで延びてその上に支持され得る。
【0011】
本発明の一実施形態では、電極の遠位端は、管腔内に位置する。したがって、プラズマジェットは、管腔の遠位端セクション内または遠位端セクションに生成される。電極の端部は、管腔から突出せず、したがって、直接的な組織接触から保護される。
【0012】
しかし、電極は、その遠位端が管腔から突出するように配置することもできる。特に、電極は、その遠位端に絶縁体を支持することができる。絶縁体は、好ましくは電気絶縁セラミック材料からなる。
【0013】
絶縁体は、電極によって支持されたボールとして構成することができる。絶縁体は、電極によって支持された半球として構成することもできる。これにより、絶縁体は、その丸みを帯びた側部またはその平坦な側部で管腔に面することができる。絶縁体はまた、その端部が丸みを帯びた円筒として構成することもできる。さらに、絶縁体は、丸みを帯びたまたは平面状の基部を有する円錐として構成することができる。これにより、絶縁体は、そのベースまたはその円錐状側部で管腔に面することができる。絶縁体は、ディスクとして構成することもできる。好ましくは、絶縁体は、ワイヤ形状電極に対して回転対称に構成および配置される。
【0014】
横方向に配向された開口部が、絶縁体と、ガスおよび/またはプラズマがそこから出ることができるホースまたはチューブの遠位端との間に留まることができる。開口部は、電極の周りに360°に沿って延びることができる。例えば、開口部は、絶縁体とホースまたは管端部との間のリング状スリットまたは広いリング状透明領域として構成することができる。この場合、絶縁体は、電極によってのみ支持される。絶縁体は、チューブまたはホース、またはその中に配置された要素と接続されていない。
【0015】
横方向に配向された開口部は、2つまたは複数の部分開口部に分離することもできる。例えば、1つ、2つまたは複数のウェブが、絶縁体を、内部に管腔が構成され、電極が配置されるホースまたはチューブに接続することができる。1つまたは複数のウェブは、管腔の内側に配置された要素、またはチューブもしくはホースの外側に配置された要素、例えばホルダと接続することができる。ホルダは、ウェブおよび絶縁体と共に、セラミック材料でモノリシックに構成することができる。
【0016】
電極が管腔から延出する実施形態では、プラズマ放電の放電根元点が形成される電極の部分は、完全に管腔の外側に配置することができる。例えば、電極は、管腔から1mm~3mm突出することができる。
【0017】
電極が管腔から突出しているか、またはその中に完全に配置されているかどうかとは無関係に、以下が適用される。
【0018】
電極本体上に配置されたコーティングは、電極本体をコーティングし、遠位先端から数ミリメートルの距離では、コーティングの断面は、電極全体の断面積の少なくとも12%である。好ましくは、これは、電極形状とは無関係に、少なくとも数ミリメートル近位方向に電極の遠位端から離れるように延びる少なくとも数ミリメートルの顕著な部分に適用される。
【0019】
本発明によれば、コーティングは、電極の幾何学的形状とは無関係に、少なくとも意図する使用からいくらかたった後および意図する使用中に、電極の遠位端で低減または除去される。あるいは、電極の遠位端はコーティングを含まないこともでき、またはコーティングは、遠位端で厚さを薄くすることができ、もしくは最初の使用の前に既に1回または複数回遮ることができる。本明細書の文脈では、遠位端は、1mm~3mmの長さを有することができる電極の端部セクションと見なされる。遠位端は、鈍い、丸みを帯びている、先細になっている、または尖っているように構成することができる。
【0020】
電極は、遠位先端を有するプレートレットとして、またはピンもしくは針形状電極(いわゆるワイヤ電極)として構成することができる。電極は、適切な手段、例えばホルダによって、流体導管の管腔内に、好ましくは不動に、または長手方向に可動にも配置される。電極は、好ましくは中心に配置される。
【0021】
電極のコーティングは、好ましくは、電極本体の溶融温度よりも低い、好ましくは著しく低い溶融温度を含む。電極本体は、1000℃を超える融点を有する材料からなることが好ましい。電極本体は、鋼、ステンレス鋼、特に鋼を含むクロムおよび/またはニッケル、モリブデン、タングステン、硬質金属または別の好ましくは導電性材料からなることができる。電極本体は、炭素含有金属または炭素含有金属合金からなることが好ましい。炭素含有量は、好ましくは0.02重量%より大きく、好ましくは少なくとも0.05重量%である。
【0022】
反対に、コーティングは、好ましくは1000℃未満の低い溶融温度を含む。それにより、溶融温度は、好ましくは、器具が提供される使用条件の間に、電極の遠位端または遠位端の近傍のコーティング材料の少なくとも一部が溶融するような低さで選択される。器具が提供される使用条件は、患者での使用中の考慮されるガス流および電力を指す。コーティング材料は、好ましくは銀または銀合金とすることができる。特に、管腔内を流れるガスと反応しないか、またはわずかな程度でしか反応しない材料が、コーティング材料として好ましい。
【0023】
上述の手段によって、遠位端の電極のコーティングが欠落しているか、または残りのコーティングの構造から逸脱した構造を含む電極構造が、器具の使用開始時に形成され得る。そうすることで、放電が電極の遠位端に集中することを達成することができる。したがって、電極への熱導入もその遠位端に集中する。そうすることで、電極は、放電根元点が電極に沿って移動またはジャンプする既知の電極よりも著しく少ない熱を吸収する。
【0024】
電極は、少なくとも最初の使用後にその遠位端に粗面を含むことができ、粗面には、コーティング材料から取り除かれた少なくともいくつかの島が存在する。好ましくは、電極ベース材料は、いくつかの場所で蓄積を形成し、かついくつかの場所でむき出しである炭素を含む。炭素は、コーティング材料によって取り囲まれてよく、またはコーティング材料から取り除かれた領域に位置していてもよい。炭素クラスタが、放電根元点を形成することができる。
【0025】
挙げられた効果は、特に0.5mm未満の電極直径および厚さが最小寸法を超えるコーティングの場合に生じる。電極断面積の少なくとも10%またはより良好には12%がコーティング材料からなる場合、最小寸法が達成される。
【0026】
使用中、コーティングは、特に遠位端で溶融することができ、全体的または部分的に液体領域を形成することができる。コーティングは、電極本体の遠位端からわずかに後退し、電極本体を完全にまたは部分的にむき出しにすることができる。しかし、電極寿命の増加は、コーティングされていない電極と比較して材料除去が減少したことを示す。
【0027】
これは、電極の最も外側の遠位端に放電が集中するため、電極への熱エネルギーの導入が最小限に抑えられることを示している。この効果は非常に強いため、少なくともいくつかの実施形態では、流体導管を完全にプラスチックで作ることができ、遠位端でもセラミックコーティングを回避することができる。さらに、冷却体または他の手段による電極の冷却を放棄することが可能である。セラミックまたはプラスチックなどの熱絶縁材料および/または電気絶縁材料は、長期間の使用中にも器具の損傷を懸念する必要なく、電極ホルダとして使用することができる。
【0028】
電極がその遠位端に少なくとも2mm、好ましくは少なくとも2.5mmの長さを有するセクションを有し、例えばその熱容量が4.5mJ/K未満、好ましくは4.17mJ/K未満である場合も、この挙動に寄与する。低熱容量は、電極の遠位端における放電の局在化および固定に寄与する。電極は、コーティング金属が少なくとも部分的に液体であるその遠位端でその動作温度に迅速に到達する。コーティング金属は、高温電極先端から後退することができる。放電根元点は、高温電極先端に固定される。放電根元点は近位方向に移動せず、特に溶融コーティング金属(例えば銀)の形成されたリング形状障壁を横切らない。
【0029】
遠位端の高温と、使用中に液体コーティング材料が存在するほぼリング形状の領域を超えたところの低温との間で強い減少を有する強い軸方向温度勾配が、電極上に得られる。
【0030】
また、電極の遠位端に放電根元点または複数の放電根元点を固定して電極を形成するための概念も、本発明の一部である。放電根元点は、環境に比べて電子放出が多い点である。放電根元点は、目に見える強く光るストランドがプラズマの内部で発生する場所として認識することができる。
【0031】
電極の所望の構成は、初期使用中に電極を形成することによっても起こり得る。まだ使用されていない電極は、特にその遠位端において、広範囲に正確に画定された幾何学的形状を有することができる。コーティングは、電極の最も外側の遠位端まで広範囲に一定の厚さで延びることができる。遅くても最初の使用中、電極の遠位端の1つまたは複数の領域はむき出しであってもよく、またはコーティングの厚さを薄くすることができる。したがって、遠位端の電極表面は、より近位に位置するセクション内の電極表面と区別される。違いは、材料または構造的性質のものとすることができる。特に、電極の遠位端は、表面上に炭素粒子を含むことができる。他方の電極の表面と比較した遠位端の表面の違いにより、電極の最も外側の遠位端に放電根元点が固定され、したがって電極および流体導管の周囲壁への熱導入が最小限に抑えられる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態のさらなる詳細は、図および以下の説明から導かれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】供給のために提供された器具および装置の概略図である。
図2】本発明の器具の遠位端セクションの拡大長手方向断面の基本図である。
図3】動作中の図2による器具の遠位端セクションの図である。
図4】線IV-IVに沿って切断した図3による電極の断面図である。
図5】最初の使用前の電極の遠位端セクションの長手方向断面図である。
図6】形成された状態の図5による電極の図である。
図7】最初の使用前の本発明の電極の追加の実施形態の長手方向断面図である。
図8】最初の使用前の本発明の電極の追加の実施形態の別の長手方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、内視鏡プローブとして構成された器具10を示す。器具は、プラズマ凝固、特にアルゴンプラズマ凝固、すなわちその電極11とそれぞれの生体組織との間の直接的な物理的接触なしでヒトまたは動物組織の治療に役立つ。器具10は、可撓性プローブとして構成される。しかし、以下で説明する原理は、腹腔鏡使用に適した剛性器具または開腹手術使用に適した器具でも実現することができる。
【0035】
器具10は、例えば可撓性ホース13の形態の流体導管12を含むが、遠位端14からその近位端15まで延びる。管腔16が、図2から特に明らかであるようにホース13の長さを通って延びる。使用中、ガス、典型的にはアルゴンなどの不活性ガスが、この管腔を通って流れる。このために、器具10は、ガス源18を備えるか、またはそのようなガス源への接続を提供する装置17に接続される。使用中、ガスは、ホース13の近位端15から遠位端14に、したがって管腔16の近位端から遠位端に流れ、そこからホース13の開口端から流出する。
【0036】
電極11は、管腔16内に配置され、その遠位端19は、好ましくは流体導管12から突出せず、むしろ管腔16の内側に依然として配置されている。しかし、電極はまた、いくつかの実施形態では、流体導管12および/または管腔16から出るセクションを有して延びることができる。電極11は、好ましくは、例えば、丸みを帯びた、もしくはプロファイルワイヤによって、または小さなチューブもしくはカニューレによっても構成することができるピンまたは針電極である。電極11は、管腔16を通って延びるワイヤの遠位端とすることもできる。電極11は、実質的に一定の断面を含むことができる。電極は、その特有の形状とは無関係に、好ましくは中心に配置される形で、不動に、または軸方向に可動に管腔16の内部に保持され得る。この目的のために設けられたホルダ20は、電極11を支持し、流体導管12またはホース13の内側に支持される。
【0037】
電極11は、電極11に無線周波数電圧を供給する発電機21、例えばRF発電機と電気的に接続されている。それぞれの接続導体が、電極11から管腔16全体を通って、電気コネクタが発電機21との接触を提供する近位端15まで延びることができる。
【0038】
発電機21は、好ましくは、電極11の先端に放電を生成し、そうすることで、電極11に沿って流れるガス流を少なくとも部分的にイオン化するのに十分な高い電圧を供給するように構成される。生体組織を治療するためのプラズマジェットが、生成される。
【0039】
本器具10の決定的な特殊性は、電極11の特性である。電極は、例えば、平坦、丸みを帯びた、円錐形またはテーパ状の先端を有するスリムシリンダとして、または全体的にスリムコーンとして構成される。電極は、少なくともその遠位端19の近くで好ましくは0.5mm未満、好ましくは最大0.3mmの直径を含む。したがって、図4から明らかであるその半径Rは、0.25mmよりも小さく、好ましくは0.15mmよりも小さい。0.1mmより小さい半径も可能である。しかし、電極11は、例えばプロファイルワイヤとして構成されるという点で、プリズム形状を含むこともできる。さらに、先端が遠位方向を向いた平坦なプレートレットとして構成することができる。
【0040】
図4は、電極11の遠位端19に向かって数ミリメートルの軸方向距離にある電極11の断面を示す。この距離は、使用中に電極11の構造が変化しないままであるような長さである。明らかなように、電極11は、コーティング23が設けられた電極本体22を備える。電極本体22とコーティング23とは、異なる材料からなる。好ましくは、電極本体22の溶融温度Tは、1000℃を超える。また、電極本体22は、別の耐熱性導電性材料から、または少なくとも低温状態では、例えばセラミックなどの非導電性材料からなることができる。
【0041】
電極本体22は、例えば、鋼、ステンレス鋼、硬質金属、モリブデン、タングステンなどの高融点金属からなることができる。特に、イオンおよび/またはクロムおよび/またはニッケルを含有する合金が、電極本体22の材料として適している。さらに、追加の合金成分として、炭素および/またはマンガンおよび/または燐および/または硫黄および/またはケイ素および/またはニッケルおよび/または窒素および/またはモリブデンが、存在することができる。ベース材料として好ましいステンレス鋼は、以下の組成を有する。
【0042】
【表1】
【0043】
反対に、コーティング23は、好ましくは1000℃未満の融点を有する電気的に良好に導電性の低融点材料から少なくとも部分的になることが好ましく、コーティング23は、例えば銀または銀合金からなることができる。コーティング23の厚さDは、少なくとも、電極11の全断面積のうちの図4におけるコーティング23の網掛けをした断面積の面積の部分が10%よりも大きく、好ましくは12%よりも大きくなるような厚さであることが好ましい。全断面積は、半径Rの円の領域を有する断面積である。これは、図4において、(図の斜めの斜線の)電極本体22の断面の面積と(図4の網掛けの)コーティング23の断面の面積との合計に対応する。コーティング23の断面積と電極11の全断面積との間の説明された相関関係は、その特定の断面形状とは無関係に適用される。したがって、電極11は、中空円筒形または多角形に限定された断面を含むことができる。
【0044】
コーティング23と電極本体22との間には、中間層24を設けることができる。中間層は、金属、好ましくは貴金属、貴金属合金または不活性金属、例えばニッケル、ニッケル合金、金または金合金からなることができる。中間層24の材料の溶融温度Tは、電極本体22およびコーティング23の材料の溶融温度TとTとの間(T>T>T)であることが好ましい。中間層24は、接着剤として作用すると同時に、溶融コーティング23の遠位端19での電極本体22からの後退を支持することができる。
【0045】
有利な熱条件は、示されたパラメータ、すなわち電極11の直径が0.3mmよりも小さく、コーティング23の断面積の部分が電極11の全断面積の10%よりも大きく、好ましくは12%よりも大きい場合に生じる。細線細工外形寸法を有する器具11は、このように構成することができる。流体導管12の外径は、必要に応じて1mm以下とすることができる。
【0046】
得られた小型化の可能性は、電極11におけるおよび電極からの低い熱現像および熱放射に基づく。これは、上記の手段の少なくともいくつかの組み合わせによって達成される。そうすることで、特に、動作中、放電が電極11の遠位端19に集中することが達成される。電極は、好ましくは数ミリメートルの長さを有する遠位端19に隣接するセクション25を備える。その内部には、図4に関連して説明した電極本体22およびコーティング23の断面積に関する条件が、適用される。好ましくは、セクション25は、ホルダ20の前またはホルダにおいて近位に終端する。しかし、コーティングは、近位方向に延び、ホルダ20を越えて続くことができる。遠位方向では、セクション25は、電極11の遠位端19で終端する。遠位端19は、図3から明らかな領域26で始まり、この領域は、この領域26内のコーティング23の材料が動作中に液体状態で存在するか、または存在することができるような、形成される放電根元点27に近い位置にある。
【0047】
遠位端19では、動作中、電極本体22の少なくとも一部がむき出しである。むき出し領域は、遠位端19を形成する。電極11の面側端部から近位方向に約2mm~2.5mmまでに、セクション19aが形成され、その熱容量は、好ましくは4.5mJ/K未満、さらに好ましくは4.17mJ/K未満である。セクション19aは、遠位端19によって形成することができる。セクション19aの低い熱容量は、コーティング23の局所的な溶融を可能にする。また、端部19の連続的な電子放出は、低RF電力でもプラズマの点火直後に保証される。これは、電極の遠位端でのプラズマ放電の集中を支持し、したがって電極への熱導入を緩和する。
【0048】
これまでに説明した器具10は、以下のように使用され、その電極11は、以下のように動作する。
【0049】
動作中、第1の管腔16にはガスが供給され、それによってガス流は遠位方向になる。例えば、アルゴンが、電極11に沿って長手方向に流れるガスとして機能することができる。電極11は、発電機21に電気的に接続されている。遠位端19に印加された電圧は、例えば、生体組織とすることができる近くに位置する対電極へのスパーク点火をもたらす。
【0050】
このプロセスの開始の直前または直後に、電極11は、幾何学的に画定された図5に示す初期形状を有する。例えば、電極本体22は円筒形であるが、コーティング23は本質的にあらゆる場所で一定の厚さを有する。コーティング23は、遠位端19から始まり、近位方向に数ミリメートルまたは数センチメートル延びることができ、その後終了するか、または延びることができる。コーティング23は、例えば図8から明らかなように、電極本体22の面上に延びることができるか、またはむき出しのままにすることができる。コーティング23はまた、図7に示すように、電極の製造中、端部セクション、例えば遠位端19から事前に除去することもできる。このために、電極11の遠位端19は、円錐台として、またはくさびとして構成されて、円錐形に尖ることができる。電極11は、例えば、無限に供給されるコーティングされたワイヤから十分に長い部分を切断することにより製造することができる。必要に応じて、遠位端19は、端部19でコーティング23を完全にまたは部分的に除去するために、その後材料除去方法で処理することができる。
【0051】
最初の使用では、電極11の第1の遠位端19は、さらなる動作のために再成形されるように加熱される。図6に示すように、コーティング23の材料が少なくとも部分的に溶融される領域26が、電極11上に形成される。この領域26では、コーティングは、電極11の残りの領域よりも厚くすることができる。反対に、コーティングは、最も外側の端部19において、より薄い厚さを有することができ、遮ることができ、または完全に欠落することができる。
【0052】
最初の使用に関連して上述した手順を、器具10の製造において実施することもできる。このために、製造業者は、短期間、制御された条件下で器具10を動作させることができる。これにより、製造業者は、患者に対する操作と同様に、ガスの種類およびガス流、ならびに電圧および電流を明確にすることができる。しかし、製造業者はまた、異なるガスタイプ、ガス流または動作電圧もしくは電流を選択することもできる。
【0053】
動作中、電極11の遠位端19は加熱され、電子を放出することができるが、電極11は、領域26内、特にさらに近位のセクション25内で著しく低い温度に達し、そこでは比較的低温のままである。遠位端19において、放電根元点27は、近位方向に移動することなく固定されている(図3)。したがって、電極11は、低い熱しか放出せず、流体導管12の加熱に実質的に寄与しない。
【0054】
本発明による器具10は、ガス伝導管腔16内に配置され、かつ中心に配置されて保持された電極11を備える。電極11は、熱的に安定な材料、例えば、硬質金属、タングステン、鋼、ステンレス鋼などで作られた電極本体22を含む。電極11には、銀、銀合金、または低融点を有する別の金属などの低融点を有する材料で作られたコーティング23が設けられている。コーティング23と電極本体22との間に接着層24、特に金層を設けることができる。これにより、最初の使用中のコーティング23の後退、したがって動作に望ましい電極11の形成(例えば、図6による)が容易にされ得る。
【符号の説明】
【0055】
10 器具
11 電極
12 流体導管
13 ホース
14 流体導管12/ホース13の遠位端
15 流体導管12/ホース13の近位端
16 管腔
17 装置
18 ガス源
19 電極11の遠位端
19a 電極11のセクション(長さ2mm~2.5mm)
20 ホルダ
21 発電機
22 電極本体
23 コーティング
24 中間層
25 セクション
26 コーティング材料が液体であり得る領域
27 放電根元点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8