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特許7583062電動機が出力する回転力を伝達する動力伝達機構の異常を検出する異常検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電動機が出力する回転力を伝達する動力伝達機構の異常を検出する異常検出装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B25J19/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022561917
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2021041030
(87)【国際公開番号】W WO2022102585
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020188736
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 義晃
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-309592(JP,A)
【文献】特開昭63-145507(JP,A)
【文献】特開2013-152166(JP,A)
【文献】特開2006-102889(JP,A)
【文献】特開2020-104177(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098008(WO,A1)
【文献】特開2012-171069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機が出力する回転力を他の部材に伝達する動力伝達機構の異常を検出する異常検出装置であって、
動力伝達機構の電動機の回転力が入力される入力軸の回転角を検出するための第1の回転位置検出器と、
動力伝達機構の回転力を他の部材に出力する出力軸の回転角を検出するための第2の回転位置検出器と、
電動機の動作を制御する動作制御部と、
第1の回転位置検出器の出力および第2の回転位置検出器の出力に基づいて、動力伝達機構の異常を検出する検出部と、を備え、
前記動作制御部は、第2の回転位置検出器の出力から取得される位置が動作プログラムに定められた位置に対応するように電動機を制御し、
前記検出部は、第1の回転位置検出器の出力、第2の回転位置検出器の出力、および動力伝達機構の減速比に基づいて、第1の回転位置検出器の出力から取得される回転角と第2の回転位置検出器の出力から取得される回転角との差である角度差を含む変数を設定する変数設定部と、前記変数に基づいて動力伝達機構が異常であるか否かを判定する判定部とを含む、異常検出装置。
【請求項2】
前記変数設定部は、前記角度差を前記変数に設定する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記変数設定部は、現在の動力伝達機構の前記角度差と動力伝達機構が正常な時の予め定められた前記角度差との差または比を前記変数として算出する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記変数設定部は、現在の動力伝達機構の前記角度差と動力伝達機構が正常な時の予め定められた前記角度差との差を、動力伝達機構が正常な時の予め定められた前記角度差にて除算した値を前記変数として算出する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記検出部は、動力伝達機構に加わるトルクに基づいて、入力軸と出力軸との間のねじれ角度を算出するねじれ角算出部を含み、
前記変数設定部は、前記角度差からねじれ角度を減算した値を前記変数として算出する、請求項2に記載の異常検出装置。
【請求項6】
電動機が出力する回転力を他の部材に伝達する動力伝達機構の異常を検出する異常検出装置であって、
動力伝達機構の電動機の回転力が入力される入力軸の回転角を検出するための第1の回転位置検出器と、
動力伝達機構の回転力を他の部材に出力する出力軸の回転角を検出するための第2の回転位置検出器と、
電動機の動作を制御する動作制御部と、
第1の回転位置検出器の出力に基づいて、動力伝達機構の異常を検出する検出部と、を備え、
前記動作制御部は、第2の回転位置検出器の出力から取得される位置が動作プログラムに定められた位置に対応するように電動機を制御し、
前記検出部は、第2の回転位置検出器の出力から取得される回転角を含まずに、第1の回転位置検出器の出力から取得される回転角を含む変数を設定する変数設定部と、前記変数に基づいて動力伝達機構が異常であるか否かを判定する判定部とを含む、異常検出装置。
【請求項7】
前記変数設定部は、第1の回転位置検出器の出力から取得される回転角を減速比で除算した回転角を前記変数として算出する、請求項6に記載の異常検出装置。
【請求項8】
前記変数設定部は、第1の回転位置検出器から出力される回転角を前記変数に設定する、請求項6に記載の異常検出装置。
【請求項9】
前記変数設定部は、現在の第1の回転位置検出器の出力から取得される回転角と動力伝達機構が正常な時の第1の回転位置検出器の出力から取得される予め定められた回転角との差を前記変数として算出する、請求項6に記載の異常検出装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記変数が予め定められた判定範囲を逸脱した時に、動力伝達機構が異常であると判定する、請求項1から9のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項11】
前記判定部は、作業の実行回数または駆動時間に対する前記変数の変化率が予め定められた判定範囲を逸脱した時に、動力伝達機構が異常であると判定する、請求項1から9のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項12】
前記検出部は、将来において異常が生じる作業の実行回数または駆動時間を推定する推定部を含み、
前記推定部は、過去の作業の実行回数または駆動時間に対する前記変数の値に基づいて前記変数の変化傾向を示す近似線を算出し、近似線が予め定められた判定範囲を逸脱する時の作業の実行回数または駆動時間を、将来に異常が生じる作業の実行回数または駆動時間として推定する、請求項1から9のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機が出力する回転力を伝達する動力伝達機構の異常を検出する異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機から出力される回転力は、動力伝達機構を介して他の部材に伝達される。動力伝達機構としては、例えば、電動機から出力される回転力を増大して他の部材に伝達する減速機が知られている。
【0003】
減速機などの動力伝達機構は、長期間使用すると内部の部品が劣化して故障する。従来の技術においては、機械に故障を検出するためのセンサを取り付けたり、制御装置が出力する電動機を駆動するための指令値を解析したりすることにより、動力伝達機構の異常を検出することが知られている(例えば、特開昭63-145507号公報、特開2013-152166号公報、および特開2006-102889号公報)。
【0004】
また、従来の技術においては、電動機に取り付けられたエンコーダから回転角を取得して、回転角に基づいて減速機の内部に配置されているギヤの歯飛びを検出する制御が知られている(例えば、特開2020-104177号公報および国際公開第2014/098008号)。また、モータに取り付けられたエンコーダの使用方法として、減速機の出力軸にエンコーダを配置して、減速機に生じるねじれによる位置のずれを修正する制御が知られている(例えば、特開2012-171069号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-145507号公報
【文献】特開2013-152166号公報
【文献】特開2006-102889号公報
【文献】特開2020-104177号公報
【文献】国際公開第2014/098008号
【文献】特開2012-171069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動機および動力伝達機構は、多くの機械に配置されている。例えば、多関節ロボットにおいては、それぞれの関節部において、電動機が出力する回転力を減速機にて減速してアームなどの部材を回動する機構が知られている。
【0007】
動力伝達機構の内部の部品は、互いに接触した状態で駆動される。動力伝達機構の内部の部品が摩耗する場合が有る。この結果、内部の部品同士の間のがたつき(遊び)が大きくなる。例えば、歯車の摩耗により、歯車同士の間のバックラッシュが大きくなる。内部の部品の摩耗が進行すると、動力伝達装置は故障して使用できなくなる。
【0008】
機械は、製品を製造する生産ラインに使用される場合が有る。この場合に、機械が突然故障すると、機械を使用していた生産ラインに大きな影響を与えることになる。または、電動機および動力伝達機構が搬送機に使用されている場合には、搬送機が故障すると所望の搬送が行うことができなくなる。電動機および動力伝達機構を備える機械は、予期しない時期に故障しないことが好ましい。機械が使えなくなるような故障が生じる前に、動力伝達機構の異常を検出できることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様の異常検出装置は、電動機が出力する回転力を他の部材に伝達する動力伝達機構の異常を検出する。異常検出装置は、動力伝達機構の電動機の回転力が入力される入力軸の回転角を検出するための第1の回転位置検出器と、動力伝達機構の回転力を他の部材に出力する出力軸の回転角を検出するための第2の回転位置検出器と、電動機の動作を制御する動作制御部とを備える。異常検出装置は、第1の回転位置検出器の出力および第2の回転位置検出器の出力に基づいて、動力伝達機構の異常を検出する検出部を備える。動作制御部は、第2の回転位置検出器の出力から取得される位置が動作プログラムに定められた位置に対応するように電動機を制御する。検出部は、第1の回転位置検出器の出力、第2の回転位置検出器の出力、および動力伝達機構の減速比に基づいて、第1の回転位置検出器の出力から取得される回転角と第2の回転位置検出器の出力から取得される回転角との差である角度差を含む変数を設定する変数設定部を含む。検出部は、変数に基づいて動力伝達機構が異常であるか否かを判定する判定部を含む。
【0010】
本開示の第2の態様の異常検出装置は、電動機が出力する回転力を他の部材に伝達する動力伝達機構の異常を検出する。異常検出装置は、動力伝達機構の電動機の回転力が入力される入力軸の回転角を検出するための第1の回転位置検出器と、動力伝達機構の回転力を他の部材に出力する出力軸の回転角を検出するための第2の回転位置検出器と、電動機の動作を制御する動作制御部とを備える。異常検出装置は、第1の回転位置検出器の出力に基づいて、動力伝達機構の異常を検出する検出部を備える。動作制御部は、第2の回転位置検出器の出力から取得される位置が動作プログラムに定められた位置に対応するように電動機を制御する。検出部は、第2の回転位置検出器の出力から取得される回転角を含まずに、第1の回転位置検出器の出力から取得される回転角を含む変数を設定する変数設定部を含む。検出部は、変数に基づいて動力伝達機構が異常であるか否かを判定する判定部を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の態様によれば、動力伝達機構の異常を精度よく検出する異常検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態におけるロボットの概略図である。
図2】実施の形態におけるロボット装置のブロック図である。
図3】実施の形態におけるロボットの関節部の拡大部分断面図である。
図4】サーボモータの運転パターンを示すグラフである。
図5】減速機が新品である時のエンコーダの出力に基づく回転角のグラフである。
図6】減速機の歯車の摩耗が進行したときのエンコーダの出力に基づく回転角のグラフである。
図7図6におけるA部の拡大図である。
図8】2つの歯車の歯が接触する部分の第1の拡大断面図である。
図9】2つの歯車の歯が接触する部分の第2の拡大断面図である。
図10】ロボット装置の作業の実行回数に対する減速機の異常を判定するための変数の第1のグラフである。
図11】ロボット装置の作業の実行回数に対する変数の第2のグラフである。
図12】ロボット装置の作業の実行回数に対する変数の増加量のグラフである。
図13】変数の変化に基づいて減速機に異常が生じる時期を予測する制御を説明するグラフである。
図14】サーボモータの他の運転パターンを示すグラフである。
図15】減速機に作用するトルクと減速機のねじれ角との間の比例定数を算出するための動作を説明するロボットの側面図である。
図16】第1のエンコーダの出力に基づいて異常を検出する制御を説明するグラフである。
図17図16のB部の拡大図である。
図18】第1のエンコーダの出力から取得される初期状態の回転角と長時間駆動した後の回転角とを示すグラフである。
図19】実施の形態における他の動力伝達機構を説明する機械の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1から図19を参照して、実施の形態における動力伝達機構の異常を検出する異常検出装置について説明する。動力伝達機構は、電動機が出力する回転力を他の部材に伝達する。電動機および動力伝達機構は、物を搬送する機械、物を動かす機械、または、物を製造する機械などの様々な機械に配置される。本実施の形態では、機械としてロボットを例に取り上げて説明する。また、動力伝達機構として、ロボットの関節部に配置された減速機を例に取り上げて説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態におけるロボット装置の概略図である。図2は、本実施の形態のロボット装置のブロック図である。図1および図2を参照して、本実施の形態のロボット装置5は、ワークを搬送する。ロボット装置5は、ワークを把持する作業ツールとしてのハンド2と、ハンド2を移動するロボット1とを備える。本実施の形態のロボット1は、複数の関節部18a,18b,18cを含む多関節ロボットである。
【0015】
ロボット1は、設置面に固定されたベース部14と、ベース部14に支持された旋回ベース13とを含む。旋回ベース13は、ベース部14に対して回転する。ロボット1は、上部アーム11および下部アーム12を含む。下部アーム12は、関節部18aを介して旋回ベース13に支持されている。上部アーム11は、関節部18bを介して下部アーム12に支持されている。ロボット1は、上部アーム11の端部に連結されているリスト15を含む。リスト15は、関節部18cを介して上部アーム11に支持されている。リスト15は、ハンド2を固定するフランジ16を含む。
【0016】
上部アーム11および下部アーム12等のそれぞれの構成部材は、予め定められた駆動軸の周りに回転するように形成されている。本実施の形態のロボット1は6個の駆動軸を有する。ロボット1は、それぞれの構成部材を駆動する電動機としてのサーボモータ27および減速機30を含む。本実施の形態では、それぞれの駆動軸に対してサーボモータ27および減速機30が配置されている。
【0017】
本実施の形態のハンド2は、ハンド2を駆動するハンド駆動モータ21を含む。ハンド駆動モータ21が駆動することによりハンド2の爪部が開いたり閉じたりする。なお、爪部は、空気圧により作動するように形成されていても構わない。また、ロボット装置が行う作業に応じて任意の作業ツールをロボットに取り付けることができる。
【0018】
ロボット装置5は、ロボット1およびハンド2を制御するロボット制御装置4を備える。ロボット制御装置4は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)を有する演算処理装置(コンピュータ)を含む。演算処理装置は、CPUにバスを介して接続されたRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)等を有する。ロボット制御装置4には、ロボット1およびハンド2の制御を行うために予め作成された動作プログラム41が入力される。ロボット1およびハンド2は、動作プログラム41に基づいて制御される。
【0019】
ロボット制御装置4は、予め定められた情報を記憶する記憶部42を含む。記憶部42は、ロボット1およびハンド2の制御に関する情報を記憶する。記憶部42は、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、またはハードディスク等の情報を記憶することができる非一時的な記録媒体にて構成されることができる。ロボット制御装置4は、ロボット装置5に関する任意の情報を表示する表示器46を含む。表示器46は、液晶表示パネル等の表示パネルにより構成されることができる。
【0020】
ロボット制御装置4は、ロボット1およびハンド2の動作指令を送出する動作制御部43を含む。動作制御部43は、サーボモータ27の動作およびハンド駆動モータ21の動作を制御する。動作制御部43は、動作プログラム41に従って駆動するプロセッサに相当する。動作制御部43は、記憶部42に記憶された情報を読み取り可能に形成されている。プロセッサは、記憶部42に記憶された動作プログラム41を読み込んで、動作プログラム41に定められた制御を実施することにより、動作制御部43として機能する。
【0021】
動作制御部43は、動作プログラム41に基づいてロボット1を駆動するための動作指令をロボット駆動部45に送出する。ロボット駆動部45は、サーボモータ27を駆動する電気回路を含む。ロボット駆動部45は、動作指令に基づいてサーボモータ27に電気を供給する。また、動作制御部43は、動作プログラム41に基づいてハンド2を駆動する動作指令をハンド駆動部44に送出する。ハンド駆動部44は、ハンド駆動モータ21を駆動する電気回路を含む。ハンド駆動部44は、動作指令に基づいてハンド駆動モータ21に電気を供給する。
【0022】
本実施の形態のロボット装置5では、ロボット1の関節部に動力伝達機構としての減速機30が配置されている。ロボット装置5は、減速機30の異常を検出する異常検出装置を備える。本実施の形態の異常検出装置は、ロボット制御装置4と、サーボモータ27の出力軸の回転角を検出するための第1の回転位置検出器としての第1のエンコーダ23と、減速機30の出力軸の回転角を検出するための第2の回転位置検出器としての第2のエンコーダ24とを含む。本実施の形態では、サーボモータ27の出力軸の回転角は、減速機30の入力軸の回転角に相当する。
【0023】
ロボット制御装置4は、第1のエンコーダ23の出力および第2のエンコーダ24の出力に基づいて、減速機30の異常を検出する検出部51を含む。検出部51は、ロボットの動作の状態を取得する状態取得部52を含む。検出部51は、減速機30の異常を判定するための変数を設定する変数設定部53を含む。検出部51は、変数に基づいて減速機30が異常であるか否かを判定する判定部54を含む。検出部51は、将来において異常が生じる作業の実行回数または駆動時間を推定する推定部55を含む。検出部51は、減速機30に加わるトルクに基づいて、減速機30の入力軸と出力軸との間のねじれ角度を算出するねじれ角算出部56を含む。
【0024】
上記の検出部51は、動作プログラム41に従って駆動するプロセッサに相当する。また、検出部51に含まれる状態取得部52、変数設定部53、判定部54、推定部55、および、ねじれ角算出部56のそれぞれのユニットは、動作プログラム41に従って駆動するプロセッサに相当する。プロセッサが動作プログラム41を読み込んで、動作プログラム41に定められた制御を実施することにより、それぞれのユニットとして機能する。
【0025】
本実施の形態では、複数の関節部18a,18b,18cのうち、旋回ベース13と下部アーム12との間の関節部18aに配置されている電動機としてのサーボモータ27および動力伝達機構としての減速機30について説明する。
【0026】
図3は、旋回ベースと下部アームとの間に配置される関節部の拡大部分断面図である。本実施の形態の関節部18aでは、下部アーム12が旋回ベース13に対して回動する。関節部18aには、旋回ベース13に対して下部アーム12を駆動するサーボモータ27と、サーボモータ27の出力トルクを増大する減速機30が配置されている。
【0027】
サーボモータ27は、ボルト29により旋回ベース13に固定されている。サーボモータ27は、減速機30に向かって突出し、回転力を出力する出力軸28を含む。減速機30は、サーボモータ27の出力軸28の回転力が入力される入力軸32を含む。
【0028】
減速機30は、減速機30の入力軸32の回転速度を減速して、回転トルクを増大させることができる。減速機30は、入力軸32の回転力を伝達する複数の歯車と、複数の歯車を支持する出力軸33とを含む。減速機30は、出力軸33を取り囲むように形成された減速機ケース31を含む。減速機ケース31は、円筒状に形成されている。入力軸32は、回転可能に出力軸33に支持されている。出力軸33は、減速機ケース31に対して相対的に回転するように支持されている。
【0029】
減速機ケース31は、ボルト37にて旋回ベース13に固定されている。また、減速機30の出力軸33は、ボルト36により下部アーム12に固定されている。減速機30の入力軸32は、サーボモータ27の出力軸28に連結されている。出力軸28および入力軸32は、回転軸RAの周りに回転する。回転軸RAは、関節部18aの回転軸である。
【0030】
ここでの減速機30の例では、減速機ケース31が不動である。入力軸32が回転すると、歯車の回転力の伝達により、出力軸33が減速機ケース31に対して回動する。下部アーム12は、出力軸33と共に回動する。このような減速機30としては、例えば、偏芯揺動型の遊星歯車減速機を採用することができる。なお、減速機としては、この形態に限られず、回転力を変化させる任意の機構を有する減速機を採用することができる。
【0031】
図2および図3を参照して、サーボモータ27には、サーボモータ27の出力軸28の回転位置を検出するための第1のエンコーダ23が取り付けられている。サーボモータ27の出力軸28の回転位置は、減速機30の入力軸32の回転位置に相当する。すなわち、第1のエンコーダ23は、減速機30の入力軸32の回転位置を検出できるように配置されている。
【0032】
本実施の形態のロボット装置5では、第1のエンコーダ23に加えて、減速機30の出力軸33の回転位置を検出するための第2のエンコーダ24が配置されている。第2のエンコーダ24は、スケール24aと、スケール24aに対向するように配置された検知部24bとを有する。スケール24aは、下部アーム12の表面に固定されている。スケール24aは、回転軸RAを中心として周方向に延びる形状を有する。
【0033】
検知部24bは、支持部材25を介して旋回ベース13に支持されている。第2のエンコーダ24では、スケール24aとして磁気リングを採用し、検知部24bとして磁気センサを採用することができる。例えば、スケール24aの検知部24bに対向する表面には、検知部24bにて磁束の変化が検出されるように一定の間隔でS極およびN極を着磁することができる。第2のエンコーダとしては、この形態に限られず、光学式のエンコーダを採用しても構わない。
【0034】
また、本実施の形態における第2のエンコーダ24では、スケール24aが下部アーム12の表面に取り付けられているが、この形態に限られない。第2のエンコーダは、減速機の出力軸の回転位置を検出するように、任意の位置に配置することができる。例えば、スケールは、減速機の出力軸に取り付けられても構わない。なお、第1のエンコーダおよび第2のエンコーダは、インクリメンタル型またはアブソリュート型のいずれのエンコーダであっても構わない。
【0035】
本実施の形態の動作制御部43は、ロボット1の位置の制御を行うために、サーボモータ27の回転位置の制御を実施する。ロボット1の位置は、例えば作業ツールのツール先端点の位置である。作業ツールの先端点の位置は、旋回ベース13、下部アーム12、上部アーム11、およびリスト15の位置および姿勢によって定まる。
【0036】
一般的には、サーボモータ27の回転位置の制御は、第1のエンコーダ23から出力される回転位置に基づいて行われる。ところが、減速機には、内部の部品同士の間にがたつき(歯車のバックラッシュ等)が存在する。また、減速機の部品には駆動に伴う力が加わるために、部品が変形したり歪んだりする場合が有る。この結果、減速機の入力軸と出力軸との間のねじれが生じる場合がある。このため、サーボモータ27の出力軸28の回転位置に対して、減速機30の出力軸33の回転位置がずれる場合が有る。本実施の形態では、ロボット1の位置を正確に検出するために、減速機30の出力軸33の回転位置を検出する第2のエンコーダ24が配置されている。
【0037】
図2を参照して、本実施の形態の動作制御部43は、第2のエンコーダ24から出力される回転位置に基づいて、ロボット1の位置および姿勢を制御する。動作制御部43は、動作プログラム41に基づいてサーボモータ27の位置指令を生成する。この時に、動作制御部43は、第2のエンコーダ24から回転位置を取得する。動作制御部43は、第2のエンコーダ24から出力される回転位置が、動作プログラム41に定められた位置に対応するように位置指令を生成する。このように、位置フィードバック制御を行うことができる。
【0038】
また、動作制御部43は、位置指令に基づいて速度指令を生成する。速度指令についても、動作制御部43は、第2のエンコーダ24から出力される回転位置に基づいて回転速度を算出する。動作制御部43は、実際の回転速度が動作プログラム41に基づく回転速度に対応するように速度指令を生成する。このように、速度フィードバック制御を行うことができる。
【0039】
減速機30の出力軸33の回転位置を検出する第2のエンコーダ24の出力に基づいてロボット1の位置および姿勢の制御を行うことにより、ロボット1の位置および姿勢の精度が向上する。また、ロボット1の位置が移動する移動経路の精度が向上する。
【0040】
異常検出装置の検出部51は、減速機30の内部に配置されている部品の異常を判定する。特に、検出部51は、部品の摩耗による異常を検出する。ロボット1を運転することにより、減速機30の内部に配置される歯車は摩耗する。また、減速機30の内部に配置されている軸受けが摩耗する場合がある。例えば、減速機に転がり軸受けが配置されている場合には、ロボットの動作により転がり軸受けの転動体または軌道輪が摩耗する場合がある。
【0041】
部品の摩耗により、部品同士の間に存在するがたつきが増大する。例えば、歯車の摩耗が大きくなると歯飛び等が生じて減速機が故障する。または、部品の摩耗が大きくなると、ロボット1の位置および姿勢の正確な制御が実施できなくなる虞がある。本実施の形態の検出部51は、歯飛びのような大きな異常の前に生じる部品のがたつきの増大等の異常を検出する。
【0042】
図4に、本実施の形態におけるサーボモータの1つの運転パターンを説明するグラフを示す。ロボット装置5は、ワークを搬送する作業を繰り返して実施する。ロボット1は、様々なパターンにて位置および姿勢を変更する。図4には、ロボット1の1つの動作に対応するサーボモータ27の動作を示している。時刻tsにてサーボモータ27が起動した後に所定の回転速度に到達する。サーボモータ27は、回転速度が一定の状態で駆動した後に、時刻teで停止している。減速機30の異常を検出するために、このようなサーボモータ27の運転パターンが予め選定されている。
【0043】
図5に、図4に示す運転パターンでサーボモータを駆動したときのエンコーダの出力に基づく回転角のグラフを示す。時刻tsにおいて動作を開始して、時刻teにおいて動作を終了している。回転角は、モータにて回転したときの回転量を示す。例えば出力軸が1回転した場合には、回転角は360°になる。時間の経過とともに、それぞれのエンコーダの出力から取得される回転角は、矢印92に示すように増加する。
【0044】
図5には、1回のロボットの動作における第1のエンコーダ23の出力に基づく回転角と、第2のエンコーダ24の出力に基づく回転角が示されている。ここでは、第1のエンコーダ23から出力される回転位置から減速機30の入力軸32の回転角を算出する。次に、入力軸32の回転角を減速機30の減速比にて除算する。そして、第2のエンコーダ24から出力される回転位置に基づく回転角と比較している。なお、第2のエンコーダの出力に基づく回転角に減速比を乗算して、第1のエンコーダの出力に基づく回転角と比較しても構わない。
【0045】
本実施の形態の第1の異常検出制御では、第1のエンコーダ23の出力および第2のエンコーダ24の出力に基づいて、減速機30が異常か否かを判定する。図2を参照して、検出部51の状態取得部52は、サーボモータ27が駆動している期間中に、第1のエンコーダ23から出力される回転位置および第2のエンコーダ24から出力される回転位置を検出する。状態取得部52は、取得したそれぞれのエンコーダの回転位置を記憶部42に記憶する。
【0046】
図5には、減速機30が正常の時の回転角を示している。ここでは、減速機30が新品のときの初期状態における回転角を示している。減速機30の部品同士の間のがたつきは、殆ど存在しない。このために、減速機30の入力軸と出力軸の間にねじれが殆ど生じていなければ、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角と、第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角とは、ほぼ同一になる。本実施の形態では、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角と第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角との差を角度差と称する。例えば、角度差は、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角θ1から第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角θ2を減算した値(θ1-θ2)に相当する。図5では、回転角に僅かな角度差Δθ12iが存在する。
【0047】
図6に、減速機の部品の摩耗が進行したときのエンコーダの出力に基づく回転角のグラフを示す。図7に、図6のA部の拡大図を示す。図7は、回転角の測定を開始する時刻tsの近傍のグラフである。図6および図7を参照して、本実施の形態においては、部品の摩耗が存在しないときの第1のエンコーダ23から出力される回転位置(位相)に対する第2のエンコーダ24から出力される回転位置(位相)は、予め測定されている。このために、サーボモータ27を回転している時刻tsから時刻teまでの期間において、摩耗が進行した時の角度差の変化量を算出することができる。
【0048】
また、本実施の形態では、第2のエンコーダ24の出力に基づいてロボット1の位置を制御している。図5から図7のグラフでは、予め定められたロボット1の動作を開始する時刻tsにおいて、第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角を0にしている。
【0049】
減速機30の駆動時間が長くなると、歯車または軸受け等の部品が摩耗する。この結果、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角と、第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角との差は大きくなる。すなわち、角度差の絶対値が大きくなる。図6および図7においては、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角θ1と第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角θ2に基づいて、角度差Δθ12が生じている。ここで、角度差Δθ12を(θ1-θ2)にて定義した場合に、角度差Δθ12は、歯車の歯の接触状態によって、正の数にも負の数にもなり得る。
【0050】
図8に、2つの歯車の歯が接触している部分の第1の拡大断面図を示す。図9に、2つの歯車の歯が接触している部分の第2の拡大断面図を示す。図8および図9は、互いに対向する歯車の歯の接触状態の違いを示した模式図である。図8および図9では、入力側の歯車71が矢印98に示す方向に回転している。図8に示す入力側の歯車71の歯は、回転方向の側の歯面にて出力側の歯車72の歯に接触している。一方で、図9では、入力側の歯車71の歯は、回転方向と反対側の歯面にて出力側の歯車72の歯に接触している。これらの歯の接触状態の違いは、重力、ロボットが動作した時の慣性力、または、その他の外力により生じる。
【0051】
図8に示すように、入力側の歯車71の歯が出力側の歯車72の歯と回転方向の側の歯面で接触する場合に、出力側の下部アーム12の向きを得るために、回転角θ1は回転角θ2より大きくなる。この結果、角度差Δθ12は正の値になる。また、図9に示すように、入力側の歯車71の歯が回転方向と反対側の歯面にて出力側の歯車72の歯に接触する場合に、回転角θ1は回転角θ2より小さくなる。この結果、角度差Δθ12は負の数になる。
【0052】
なお、角度差としては、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角θ1から第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角θ2を減算した値(θ1-θ2)に限られず、回転角θ2から回転角θ1を減算した値(θ2-θ1)を採用しても構わない。または、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角および第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角のうち一方の回転角から他方の回転角を減算した値の絶対値を採用しても構わない。本実施の形態では、角度差Δθ12が(θ1-θ2)であり、図8に示すように歯車が接触する例について説明する。
【0053】
第1の異常検出制御では、角度差を含む変数に基づいて、減速機30の異常を検出する。本実施の形態の変数は、減速機30が異常か否かを評価するための評価変数である。変数設定部53は、第1の変数として角度差Δθ12を算出する。変数設定部53は、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角を減速機30の減速比にて除算する。変数設定部53は、この回転角から第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角を減算した角度差Δθ12を算出する。次に、判定部54は、減速機30に異常が生じているか否かを判定する。
【0054】
変数設定部53は、異常の判定に使用する角度差Δθ12としては、時刻tsから時刻teにおける角度差Δθ12の最大値を採用することができる。または、複数の時刻を設定し、複数の時刻における変数の平均値を採用しても構わない。また、最大値または平均値を算出する前に、角度差Δθ12を絶対値に変換しても構わない。このように、異常の判定に使用する変数は、サーボモータ27の運転パターンを実施したときの最大値または平均値を採用することができる。
【0055】
図10に、ロボットの動作の実行回数に対する変数のグラフを示す。横軸は、予め定められたロボット1の動作を実行した回数である。横軸は、例えば、サーボモータ27が図4に示す予め定められた動作を実行した回数に相当する。なお、横軸は、ロボット1が予め定められた動作を実行した駆動時間であっても構わない。縦軸は、減速機30に異常が生じているか否かを判定するための変数である。
【0056】
本実施の形態の第1の判定制御では、変数VXが予め定められた判定範囲を逸脱した時に、減速機30が異常であると判定する。実行回数が多くなると共に、変数VXは徐々に大きくなる。図10に示す例では、実行回数Nになったときに、変数VXは予め定められた変数の判定値を超えている。判定部54は、変数VXが判定値を超えた時に、異常が生じていると判定する。ここでは、判定部54は、実行回数Nを終了したときに異常が生じていると判定する。例えば、第1の変数としての角度差Δθ12が判定値を超えた時に、減速機30が異常であると判定することができる。または、判定部54は、歯車の摩耗が進行していると判定することができる。
【0057】
図11に、ロボットの動作の実行回数に対する変数の他のグラフを示す。本実施の形態の第2の判定制御では、判定部54は、作業の実行回数に対する変数VXの変化率が予め定められた判定範囲を逸脱した時に、減速機30が異常であると判定する。ここでの例では、実行回数(N-1)における変数VXと、実行回数Nにおける変数VXとの傾きを算出する。
【0058】
判定部54は、変数VXの傾きが予め定められた判定値を超えている場合に、減速機30が異常であると判定する。すなわち、判定部54は、直線80の傾きが判定値を超えている場合に減速機30が異常であると判定する。例えば、第1の変数としての角度差Δθ12の変化率が判定値を超えた時に、減速機30が異常であると判定する。変化率の算出においては、2個の変数に限られず、3個以上の変数に基づいて変化率を算出しても構わない。
【0059】
また、実行回数の代わりに、ロボット1またはサーボモータ27が予め定められた動作を実行した駆動時間を採用しても構わない。この場合に、判定部は、駆動時間に対する変数の変化率が予め定められた判定範囲を逸脱した時に、減速機が異常であると判定することができる。
【0060】
図12に、ロボットの動作の実行回数に対する変数の増加量のグラフを示す。本実施の形態の第3の判定制御では、第2の判定制御と同様に、作業の実行回数または駆動時間に対する変数の変化率に基づいて減速機の異常を判定する。
【0061】
判定部54は、予め定められた動作を実行した回数ごとに、変数VXの増加量を算出している。ここでは、ロボット1の動作を1万回実施するごとに変数VXの増加量を算出している。実行回数が増えるとともに、変数VXの増加量が増加している。判定部54は、変数VXの増加量が予め定められた判定範囲を逸脱した時に、減速機が異常であると判定する。例えば、判定部54は、1万回ごとの角度差Δθ12の増加量が予め定められた判定値を超えたときに、減速機30が異常であると判定することができる。ここでの例では、判定部54は、実行回数がN回に到達した時に、減速機に異常が生じていると判定することができる。なお、駆動時間に対する変数の変化率を算出する場合には、予め定められた駆動時間の長さごとに、変数の増加量を算出することができる。
【0062】
次に、本実施の形態の検出部51の推定部55について説明する。推定部55は、過去の作業の実行回数または駆動時間に対する変数の値に基づいて、将来に異常が生じる作業の実行回数または駆動時間を推定する推定制御を実施する。
【0063】
図13に、ロボットの動作の実行回数に対する変数のグラフを示す。図13は、推定部55にて異常が生じる作業の実行回数を推定する制御を説明するグラフである。変数VXは、矢印93に示すように、実行回数が増加すると共に増加する。推定部55は、過去の作業の実行回数に対する変数の値に基づいて、変数の変化傾向を示す近似線81を算出する。たとえば、第1の変数としての角度差Δθ12に関する近似線を算出することができる。
【0064】
推定部55は、任意の制御にて変化傾向を示す近似線を生成することができる。図13に示す例では、過去の全ての変数VXの値を用いて、最小二乗法により直線の近似線81を生成している。近似線としては、直線に限られず、曲線であっても構わない。また、近似線を生成する場合には、予め定められた個数の変数を選定して近似線を生成しても構わない。
【0065】
推定部55は、近似線が予め定められた判定範囲を逸脱する作業の実行回数を将来に異常が生じる作業の実行回数として推定する。ここでの例では、近似線81が予め定められた判定値を超えた実行回数NXを異常が生じる実行回数として推定する。なお、推定部55は、実行回数の代わりに駆動時間を採用しても構わない。すなわち、推定部は、駆動時間に対する変数の変化傾向を示す近似線を算出し、近似線が判定範囲を逸脱する駆動時間を異常が生じる駆動時間として推定しても構わない。
【0066】
図2を参照して、検出部51にて検出された異常に関する情報は、表示器46に表示することができる。作業者は、表示器46に表示された異常に関する情報を確認して、減速機30の保守または点検を計画することができる。この結果、減速機30が突然に故障することを回避することができる。
【0067】
次に、減速機30の異常を判定するための変数について説明する。変数VXとしては、第1の変数としての角度差に限られず、角度差を含む変数を採用することができる。図5および図6を参照して、変数設定部53は、減速機30が正常のときの角度差Δθ12iと、現在の減速機30の角度差Δθ12との差(Δθ12-Δθ12i)を第2の変数VXとして算出することができる。または、変数設定部53は、減速機30が正常な時の予め定められた角度差と現在の減速機と角度差との比(Δθ12/Δθ12i)を第3の変数VXとして算出することができる。ここでは、減速機30が正常の時の予め定められた角度差として、減速機30が新品の時の初期状態の角度差を採用している。変数設定部53は、減速機30が新品のときの角度差を算出して記憶部42に記憶させておくことができる。
【0068】
更に、変数設定部53は、減速機30が正常な時の角度差(Δθ12i)と、現在の減速機30の角度差(Δθ12)との差を、減速機30が正常な時の角度差にて除算した値(Δθ12-Δθ12i)/Δθ12i)を、第4の変数VXとして算出することができる。
【0069】
いずれの変数においても、図10に示す変数の値による第1の判定制御、図11に示す変数の変化率による第2の判定制御、または図12の変数の増加量に基づく第3の判定制御により、減速機30の異常を判定することができる。また、推定部55は、それぞれの変数を用いて前述の推定制御を行うことにより、異常が生じる時期を推定することができる。
【0070】
図14に、減速機に異常が生じているか否かを判定するサーボモータの他の運転パターンを示す。他の運転パターンにおいては、時刻tsから時刻teまでの期間中にサーボモータ27が一時的に停止している。ここでの例では、時刻th1にサーボモータ27が停止して、時刻th2にサーボモータ27が起動している。変数設定部53は、サーボモータ27が停止している期間中におけるエンコーダの出力に基づいて変数を算出しても構わない。例えば、第1の変数である角度差Δθ12を算出する時に、変数設定部53は、サーボモータ27が停止している期間中に、角度差Δθ12を算出しても構わない。
【0071】
ところで、前述の第2の変数から第4の変数では、減速機30が正常な時の角度差が変数に含まれている。例えば、第2の変数では、現在の減速機30の角度差から減速機30が正常な時の角度差を減算している。このために、減速機30における捩じれの影響が排除されている。ところが、第1の変数では、減速機30が正常の時の角度差が変数に含まれていない。第1の変数を用いて判定制御を実施する時には、減速機30のねじれの影響が含まれている。次に、第1の変数を用いて減速機30の異常の判定を行ったり、異常が生じる時期を推定したりする場合に、減速機30におけるねじれの影響を排除する制御について説明する。
【0072】
図2を参照して、検出部51のねじれ角算出部56は、減速機30の出力軸33に加わるトルクに基づいて、入力軸32と出力軸33との間のねじれ角を算出する。減速機の出力軸33に作用するトルクTと、減速機30におけるねじれ角θtとの関係は、比例定数kを用いて以下の式にて表すことができる。
T=k×θt …(1)
【0073】
上記の式(1)により、ねじれ角θtは、式(2)にて表すことができる。
θt=T/k …(2)
【0074】
トルクTは、予め算出したイナーシャと、ロボット1を駆動するときのサーボモータ27の角速度とを用いて算出することができる。イナーシャは、ロボット1の構成部材の重量および重心位置と、ワークの重量および重心位置に基づいて算出することができる。ロボット1が停止している時には、ロボット1の位置を維持する為の構成部材の重量に関するトルクTを算出することができる。または、トルクTは、サーボモータ27の電流値を用いて算出しても構わない。すなわち、電流値を用いてサーボモータ27の出力軸28に加わるトルクを算出する。出力軸28に加わるトルクに減速比を乗じることによりトルクTを算出することができる。
【0075】
次に、比例定数kの算出方法について説明する。第1のエンコーダ23の出力と第2のエンコーダ24の出力に基づく角度差Δθ12と、減速機30の歯車の摩耗などにより生じるバックラッシュ等のがたつきの成分BLとの関係は、次の式(3)にて示される。
Δθ12=θt+BL …(3)
【0076】
次に、作業者は、実際にロボット1を駆動する。減速機30の内部の歯車に対してバックラッシュの方向が変化しない動作を設定する。この動作におけるロボット1の複数の姿勢について、角度差Δθ12とトルクTとを算出する。
【0077】
図15に、トルクとねじれ角との間の比例定数を算出するためのロボットの動作を示す概略図を示す。ここでは、関節部18aにおいて、矢印95に示すように下部アーム12を回動する。この回動動作を行う途中にロボット1を停止する。すなわち、関節部18aに配置されたサーボモータ27を一時的に停止する。
【0078】
矢印96に示すように、下部アーム12が移動点MPaから移動点MPbに回動した時に、ロボット1を停止する。移動点MPbにおいて、トルクTaおよび角度差Δθ12aを算出する。更に、矢印97に示すように、下部アーム12を移動点MPbから移動点MPcまで回動して、ロボット1を停止する。移動点MPcにおいて、トルクTbおよび角度差Δθ12bを算出する。2つの移動点MPb,MPcにおいて、次の式(4)および式(5)が成立する。
Δθ12a=Ta/k+BL …(4)
Δθ12b=Tb/k+BL …(5)
【0079】
ここで、がたつきの成分BLは、移動点MPbおよび移動点MPcにおいて一定であると考えることができる。式(4)および式(5)に基づいて、比例定数kを次の式(6)にて求めることができる。
k=(Ta-Tb)/(Δθ12a-Δθ12b) …(6)
【0080】
このような方法により比例定数kを減速機ごとに予め求めておくことができる。ねじれ角算出部56は、比例定数k、状態取得部52が取得したロボット1の位置および姿勢、およびサーボモータ27の角速度を用いて、式(2)により、ねじれ角θtを算出することができる。
【0081】
変数設定部53は、第1のエンコーダ23の出力および第2のエンコーダ24の出力に基づいた角度差Δθ12からねじれ角θtを減算した値(Δθ12-θt)を変数として設定することができる。判定部54は、算出した変数を用いて、第1の判定制御から第3の判定制御を行うことができる。異常を判定するための変数として、角度差からねじれ角を減算した変数を用いることにより、減速機におけるねじれの影響を排除することができる。精度良く減速機の異常を判定することができる。また、推定部55は、算出した変数を用いて、異常が生じる時期を推定することができる。推定部55は、より正確に故障が生じる時期を推定することができる。
【0082】
次に、本実施の形態における減速機30の異常を検出する第2の異常検出制御について説明する。本実施の形態の第2の異常検出制御では、第2のエンコーダ24の出力から取得される回転角を含まずに、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角を含む変数を用いて、減速機30の異常を判定する。減速機30の異常を判定する第1の判定制御から第3の判定制御については、第1の異常検出制御と同様である。また、減速機30の異常が生じる時期を推定する推定制御についても前述の制御と同様である。
【0083】
図16に、本実施の形態における第2の異常検出制御を説明するための時刻に対する回転角のグラフを示す。図16には、ロボット1の動作の期間中にサーボモータ27が停止する例が示されている。縦軸は、それぞれのエンコーダの出力に基づく回転角である。図17に、回転角の測定を開始する時刻の近傍におけるグラフの拡大図を示す。図17は、図16におけるB部の拡大図である。図16および図17には、減速機30の初期状態として、減速機30が新品の時の第1のエンコーダ23の出力に基づく回転角が記載されている。また、減速機30を長時間駆動して摩耗が進行した時の第1のエンコーダ23の出力に基づく回転角が記載されている。
【0084】
図16および図17を参照して、本実施の形態においては、第2のエンコーダ24から出力される回転位置に基づいてサーボモータ27の回転位置が制御されている。このために、ロボット1が予め定められた動作を行う時の第2のエンコーダ24の出力に基づく回転角θ2は、減速機30の部品に摩耗が進行しても実質的に変化しない。これに対して、減速機30の部品の摩耗が進行すると、第1のエンコーダ23の出力に基づく回転角θ1は第2のエンコーダ24の出力に基づく回転角θ2に対して差が大きくなるように徐々に変化する。図16および図17に示す例では、回転角θ2に対して、回転角θ1が増加している。
【0085】
第2の異常検出制御では、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角θ1に基づいて減速機30の異常の判定を行う。第2の異常検出制御において、変数設定部53は、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角θ1を含む変数を設定する。そして、判定部54は、変数設定部53にて定められた変数に基づいて、前述の第1の判定制御から第3の判定制御にて減速機30が異常か否かを判定する。
【0086】
第2の異常検出制御における第1の変数は、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角を減速比にて除算した回転角θ1である。判定部54は、回転角θ1に基づいて、減速機30の異常を判定する。例えば、図10に示す第1の判定制御では、回転角θ1が予め定められた判定値を超えた時に、減速機30が異常であると判定することができる。
【0087】
第2の異常検出制御における第2の変数としては、減速機30が正常な時の第1のエンコーダ23の出力から取得される予め定められた回転角θ1iと、現在の第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角θ1との差Δθ11を採用することができる。ここでの例では、差Δθ11として、現在の回転角θ1から減速機30が正常な時の回転角θ1iを減算した値(θ1-θ1i)を採用している。減速機30が正常な時の第1のエンコーダ23の出力に基づく予め定められた回転角としては、減速機30が新品の時の初期状態における第1のエンコーダ23の出力に基づく回転角を採用することができる。判定部54は、回転角の差Δθ11に基づいて、減速機30の異常を判定する。このように、第1のエンコーダ23の出力から取得される回転角の変化量を変数として採用しても構わない。
【0088】
図18に、第1のエンコーダの出力に基づく回転角のグラフを示す。図18に示す回転角は、第1のエンコーダ23から出力される回転位置(位相)の差である。第2の異常検出制御では、第1のエンコーダ23の出力に基づいて判定するために、回転角を減速比で除算しなくても構わない。図18では、回転角は減速比にて除算されていない。減速機30が正常な時の第1のエンコーダ23の出力に基づく予め定められた回転角θ1i’と、部品の摩耗が進行した時の第1のエンコーダ23の出力に基づく回転角θ1’とが示されている。
【0089】
第2の異常検出制御において、変数設定部53は、第1のエンコーダ23から出力される回転角θ1’を第3の変数に設定することができる。判定部54は、回転角θ1’に基づいて、減速機30の異常を判定する。または、変数設定部53は、減速機30が正常な時の回転角θ1i’と、現在の回転角θ1’との差(θ1’-θ1i’)を回転角の差Δθ11’として、第4の変数に設定することができる。判定部54は、回転角の差Δθ11’に基づいて、減速機30の異常を判定する。このように、第2の異常検出制御では、第2のエンコーダからの出力を用いずに異常の判定を行うことができる。
【0090】
なお、第2の異常検出制御において、減速機30が正常な時の回転角と現在の回転角との差は、正の値でも負の値でも構わない。更に、減速機30が正常な時の回転角と現在の回転角との差としては、上記の形態に限られず、減速機30が正常な時の回転角から現在の回転角を減算した値、または、一方の回転角から他方の回転角を減算した値の絶対値を採用しても構わない。
【0091】
本実施の形態においては、旋回ベースと下部アームとの間の関節部における減速機の異常を検出する装置を例示しているが、この形態に限られない。任意の関節部の減速機の異常の検出に、本実施の形態の異常検出装置を適用することができる。
【0092】
本実施の形態の異常検出装置は、減速機等の動力伝達機構の異常を早い時期に検出することができる。特に、部品の摩耗によるがたつきを精度良く検出することができる。または、部品の変形などによる異常を検出することができる。例えば、減速機に歯飛びなどの故障が生じる前に、減速機の保守または点検の計画を定めることができる。また、ロボットの位置および姿勢を制御する精度が悪化する前に、減速機の保守または点検の計画を定めることができる。また、機械の構成部材の位置を精度よく制御するために第2のエンコーダが配置されている場合は、追加のセンサを配置しなくても動力伝達機構の異常を検出することができる。
【0093】
本実施の形態の異常検出装置は、電動機および動力伝達機構を有する任意の機械に適用することができる。電動機の回転力を他の部材に伝達する動力伝達機構としては、減速機に限られず、電動機の回転力を伝達する任意の機構を採用することができる。例えば、動力伝達機構として、歯車を含む機構の他に、ベルト駆動の機構、ユニバーサルジョイントを含む機構、またはリンク機構等を採用することができる。次に、滑車およびベルトを含む動力伝達機構を説明する。
【0094】
図19に、電動機および他の動力伝達装置の概略側面図を示す。図19に示す例では、機械の所定の部分に回転力を供給するためにベルト駆動の機構が採用されている。機械は、サーボモータ27とサーボモータ27の回転力を伝達する動力伝達機構59とを備える。サーボモータ27は、基台60の支持部67に固定されている。
【0095】
動力伝達機構59は、サーボモータ27の出力軸28に連結された入力軸63と、他の部材に回転力を伝達する出力軸64とを含む。入力軸63は、軸受65を介して基台60の支持部67,68に支持されている。出力軸64は、軸受66を介して基台60の支持部67,68に支持されている。
【0096】
入力軸63には、滑車61が取り付けられている。出力軸64には、滑車62が取り付けられている。ベルト69は、滑車61および滑車62に係合している。サーボモータ27が駆動することにより、ベルト69は矢印94に示す方向に移動する。ベルト69により、入力軸63の回転力は出力軸64に伝達される。滑車61の大きさと滑車62の大きさに基づいて回転速度が変化する。
【0097】
動力伝達機構59の入力軸63の回転角を検出するために、サーボモータ27に第1のエンコーダ23が取り付けられている。また、動力伝達機構59の出力軸64の回転角を検出するために、出力軸64には、第2のエンコーダ24が取り付けられている。
【0098】
動力伝達機構59においては、例えば、ベルト69が劣化することにより、出力軸64の位相は、入力軸63の位相からずれる場合が有る。例えば、ベルト69が撓むことにより、入力軸63の回転角は、出力軸64の回転角からずれる場合が有る。または、軸受け65,66に摩耗が生じることがある。このような動力伝達機構59に対しても、異常検出装置は、前述の第1の異常検出制御および第2の異常検出制御と同様の制御を実施することにより、動力伝達機構59の異常を検出することができる。また、前述の推定制御を実施することにより、異常が生じる時期を推定することができる。
【0099】
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、請求の範囲に示される実施の形態の変更が含まれている。
【符号の説明】
【0100】
4 ロボット制御装置
23 第1のエンコーダ
24 第2のエンコーダ
27 サーボモータ
28 出力軸
30 減速機
32 入力軸
33 出力軸
41 動作プログラム
43 動作制御部
51 検出部
53 変数設定部
54 判定部
55 推定部
56 ねじれ角算出部
59 動力伝達機構
63 入力軸
64 出力軸
65,66 軸受
81 近似線
図1
図2
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