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特許7583093磁性コアとその製造方法、およびコイル部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】磁性コアとその製造方法、およびコイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20241106BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20241106BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20241106BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241106BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01F1/153 133
H01F17/04 F
H01F27/25
H01F1/153 108
C22C38/00 303S
C22C45/02 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023060806
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2020503647の分割
【原出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2023098924
(43)【公開日】2023-07-11
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2018037526
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018158585
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中畑 功
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 暁斗
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-335154(JP,A)
【文献】特開2008-112830(JP,A)
【文献】特開2011-134959(JP,A)
【文献】特表2015-505166(JP,A)
【文献】特開2018-49921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
H01F 17/04
H01F 27/25
C22C 38/00
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の軟磁性層が積層されてなり、前記軟磁性層にはクラックが形成してある磁性コアであって、
前記軟磁性層が、平均クラック間隔が0.015mm以上0.75mm以下となるように、小片に分割されており、
前記軟磁性層はFeを主成分とし、
前記軟磁性層は組成式(Fe(1-(α+β))X1 α X2 β (1-(a+b+c+d+e+f))abcSidefからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上であり、
0≦a≦0.140
0.020<b≦0.200
0≦c≦0.150
0≦d≦0.180
0≦e<0.040
0≦f≦0.030
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
a,c,dのうち1種以上が0より大きく、
非晶質および微結晶からなり前記微結晶が前記非晶質中に存在するナノヘテロ構造が前記軟磁性層に観察されることを特徴とする磁性コアとコイルとを有するコイル部品であって、
前記磁性コアに前記コイルが巻かれてなることを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記微結晶の平均粒径が0.3~5nmである請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
複数の軟磁性層が積層されてなり、前記軟磁性層にはクラックが形成してある磁性コアであって、
前記軟磁性層が、平均クラック間隔が0.015mm以上0.75mm以下となるように、小片に分割されており、
前記軟磁性層はFeを主成分とし、
前記軟磁性層は組成式(Fe(1-(α+β))X1 α X2 β (1-(a+b+c+d+e+f))abcSidefからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上であり、
0≦a≦0.140
0.020<b≦0.200
0≦c≦0.150
0≦d≦0.180
0≦e<0.040
0≦f≦0.030
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
a,c,dのうち1種以上が0より大きく、
Fe基ナノ結晶からなる構造が前記軟磁性層に観察されることを特徴とする磁性コアとコイルとを有するコイル部品であって、
前記磁性コアに前記コイルが巻かれてなることを特徴とするコイル部品。
【請求項4】
前記Fe基ナノ結晶の平均粒径が5~30nmである請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記磁性コアにおける磁性材料の占積率が、70.0%以上99.5%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項6】
0.020≦a≦0.100である請求項1~5のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項7】
0.050≦a≦0.080である請求項1~6のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項8】
0.730≦1-(a+b+c+d+e+f)≦0.950である請求項1~7のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項9】
α=0である請求項1~8のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項10】
β=0である請求項1~9のいずれかに記載のコイル部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性コアとその製造方法、およびコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のパワーデバイスの小型化に伴い、パワーデバイスの中で多くのスペースを占有するトランスおよびコイルのさらなる小型化が望まれている。特許文献1では、トランスおよびコイル用の磁性コアの材料として金属軟磁性体を用いることが示されている。また、磁性コアを積層により形成することも、研究されている。
【0003】
しかし、磁性コアを積層により形成し、磁性材料として金属軟磁性体を用いる場合には、金属軟磁性体自体が硬いため、打ち抜きが困難であるとともに、打ち抜き時に加わる応力による軟磁気特性の劣化(特に保磁力の上昇)が見られるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-74108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、安定した軟磁気特性を有する磁性コア等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、第1の観点に係る本発明の磁性コアは、
複数の軟磁性層が積層されてなり、前記軟磁性層にはクラックが形成してある磁性コアであって、
前記軟磁性層はFeを主成分とし、
前記軟磁性層は組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d+e+f))abcSidefからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上であり、
0≦a≦0.140
0.020<b≦0.200
0≦c≦0.150
0≦d≦0.180
0≦e<0.040
0≦f≦0.030
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
a,c,dのうち1種以上が0より大きく、
非晶質および微結晶からなり前記微結晶が前記非晶質中に存在するナノヘテロ構造が前記軟磁性層に観察されることを特徴とする。
【0007】
また、前記微結晶の平均粒径が0.3~5nmであってもよい。
【0008】
また、第2の観点に係る本発明の磁性コアは、
複数の軟磁性層が積層されてなり、前記軟磁性層にはクラックが形成してある磁性コアであって、
前記軟磁性層はFeを主成分とし、
前記軟磁性層は組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d+e+f))abcSidefからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上であり、
0≦a≦0.140
0.020<b≦0.200
0≦c≦0.150
0≦d≦0.180
0≦e<0.040
0≦f≦0.030
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
a,c,dのうち1種以上が0より大きく、Fe基ナノ結晶からなる構造が前記軟磁性層に観察されることを特徴とする。
【0009】
また、前記Fe基ナノ結晶の平均粒径が5~30nmであってもよい。
【0010】
本発明の磁性コアを用いることにより、安定した軟磁気特性を有する磁性コア等を提供することが可能となる。
【0011】
本発明の磁性コアは、前記軟磁性層が、平均クラック間隔が0.015mm以上1.0mm以下となるように、小片に分割されていてもよい。
【0012】
本発明の磁性コアは、前記磁性コアにおける磁性材料の占積率が、70.0%以上99.5%以下であってもよい。
【0013】
本発明の磁性コアは、0.020≦a≦0.100であってもよい。
【0014】
本発明の磁性コアは、0.730≦1-(a+b+c+d+e+f)≦0.950であってもよい。
【0015】
本発明の磁性コアは、α=0であってもよい。
【0016】
本発明の磁性コアは、β=0であってもよい。
【0017】
本発明のコイル部品は、上記のいずれかの磁性コアとコイルとを有する。
【0018】
本発明の磁性コアの製造方法は、複数の軟磁性薄帯を、それぞれ小片化処理する工程と、前記小片化処理された複数の軟磁性薄帯を、厚み方向に積層する工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る磁性コアの平面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る磁性コアの断面模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る磁性コアに含まれる軟磁性層の断面模式図である。
図4】X線結晶構造解析により得られるチャートである。
図5図4のチャートをプロファイルフィッティングすることにより得られるパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0021】
本実施形態にかかる磁性コア10の構成について説明する。図1は、円筒状の磁性コア10の中心面Aを延長した一方の側から見た平面模式図である。また、図2図1の磁性コア10を切断線II-IIで切断した断面模式図である。また、図3図2の軟磁性層12を切断線III-IIIで切断した断面模式図である。また、図3の観察範囲は4mm×4mmである。
【0022】
図2より、本実施形態にかかる磁性コア10は、複数の軟磁性層12および接着層14が交互に積層されてなる。図2では、磁性コア10が軟磁性層12を複数備えている場合について例示しているが、各層の積層数は任意に変更してもよい。本実施形態の磁性コアが備える軟磁性層12が複数(例えば2層以上10000層以下)である場合には、全ての軟磁性層12に後述する複数のクラックが形成してあることが最も好ましい。
【0023】
本実施形態の磁性コア10は、軟磁性層12および接着層14を主要な部材として有する。しかし、本発明の効果を阻害しない範囲で他の構成要素を含んでもよい。逆に、接着層14を用いずに軟磁性層12を積層してもよい。
【0024】
また、磁性コア10に占める磁性材料の体積比率(占積率)は、70%以上、99.5%以下であることが好ましい。磁性材料の占積率を70%以上にすると、飽和磁束密度を十分に高めることができ、磁性コアとして有効に利用することができる。また、磁性材料の占積率を99.5%以下にすると、磁性コア10が破損しにくくなり、磁性コアとしての取り扱いが容易となる。また、磁性材料の占積率は72%以上96%以下にしてもよい。なお、本実施形態では、磁性材料の体積は、軟磁性層12の体積と実質的に一致する。
【0025】
図3より、本実施形態にかかる磁性コア10に含まれる軟磁性層12には、複数のクラックCが形成してある。そして、複数のクラックCにより、軟磁性12は複数の小片に分割されている。なお、クラックCの幅は、例えば10nm以上1000nm以下であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る磁性コア10は、軟磁性層12に複数のクラックCが形成され、軟磁性層12が複数の小片に分割されていることにより、製造時の応力による軟磁気特性の変化、特に保磁力の上昇が抑制され、良好な磁性コア10を提供することができる。
【0027】
ここで、本実施形態では、クラックCによって分割、小片化された領域に仮想線Bを引いたときに、仮想線BとクラックCとが交差する交差点Dの数を仮想線Bの合計長さで割った値を平均クラック間隔と定義する。
【0028】
以下、図3に示す具体的なケースを参照して、平均クラック間隔の算出方法について説明する。図3では、正方形の観察範囲を示している。図3ではクラックCは実線で示し、仮想線Bは点線で示している。
【0029】
仮想線Bは観察範囲の一方向(図中の横方向)に延びており、図中の縦方向に平行に等間隔で10本の仮想線Bが延びている。このとき、仮想線BとクラックCとが交差する交差点Dの数を測定する。交差点Dの数が仮想線Bと交差するクラックCの総数となる。仮想線Bの合計長さを、仮想線Bと交差するクラックCの総数(交差点Dの数)で割ったものを平均クラック間隔とする。計算式で表すと式(1)のようになる。
平均クラック間隔(mm)=(仮想線Bの合計長さ)/(交差点Dの数)・・・式(1)
【0030】
図3に示す例では、観察範囲が一辺4mmの正方形であるとすれば、仮想線Bの合計長さは40mm、交差点Dの数は43個なので、平均クラック間隔は、40/43[mm]で約0.93mmとなる。
【0031】
平均クラック間隔は、選択した観察範囲によってばらつくので、複数の観察範囲で算出して平均をとることが好ましい。好ましくは3個所以上の異なる観察範囲で算出して平均をとることが好ましい。また、観察範囲のとり方を決めておくことが好ましい。例えば、本実施形態のように、リング状の磁性コア10を用いる場合、平均クラック間隔を算出する際に、選択する観察範囲として中央面Aを含むように選択することができる。なお、平均クラック間隔の測定方法は任意である。例えば、SEMを用いることができる。
【0032】
本実施形態では、平均クラック間隔は任意であるが、軟磁性層12には、平均クラック間隔が0.015mm以上1.0mm以下となるように、クラックが形成してあることが好ましい。平均クラック間隔を0.015mmより小さくすると、軟磁性層12の透磁率が低下しやすくなり、磁性コア10のインダクタンスLsが低くなりやすくなり、磁性コア10の性能が低下しやすくなる。また、平均クラック間隔を1.0mm超とすると、後述する磁性コア10の製造方法のうちの打ち抜き工程において弱い力で打ち抜くことが難しくなる。その結果、打ち抜いた際に切断面に発生する応力のおよぶ範囲が広くなり、複数のクラックを形成して複数の小片に小片化することによる効果が薄れることになる。好ましくは、平均クラック間隔が0.015mm以上0.75mm以下である。さらに好ましくは、平均クラック間隔が0.075mm以上0.75mm以下である。
【0033】
また、本実施形態に係る磁性コア10は、接着層14を有することで、小片の脱落を抑えることができる。接着層14としては、公知のものを用いることができる。例えば、基材の表面にアクリル系接着剤、シリコーン樹脂、ブタジエン樹脂等からなる接着剤やホットメルト等が塗布されたものなどが挙げられる。また、基材の材質としてはPETフィルムが代表的である。しかし、PETフィルム以外にも、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素樹脂フィルム等の樹脂フィルムなどが挙げられる。また、後述する熱処理後の軟磁性薄帯の主面に直接アクリル樹脂等を塗布し、それを接着層14とすることもできる。
【0034】
また、磁性コア10は、その積層方向(図1および図2のz軸方向)における一端側および他端側のそれぞれに、保護膜13を備えていてもよい。保護膜13としては、公知のものを用いることができる。例えばPETフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルムなどが挙げられる。
【0035】
軟磁性層12は、複数のクラックを有しており、それらによって複数の小片に分割されている。
【0036】
軟磁性層12はFeを主成分とし、
前記軟磁性層は組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d+e+f))abcSidefからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上であり、
0≦a≦0.140
0.020<b≦0.200
0≦c≦0.150
0≦d≦0.180
0≦e<0.040
0≦f≦0.030
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
a,c,dのうち1種以上が0より大きいことが特徴である。
【0037】
本実施形態の軟磁性層12には、さらに、ナノヘテロ構造(上記の第1の観点)、または、Fe基ナノ結晶からなる構造(上記の第2の観点)が観察される。
【0038】
ナノヘテロ構造とは、非晶質および微結晶からなり前記微結晶が前記非晶質中に存在する構造のことを指す。また、非晶質および微結晶からなるとは、非晶質中に微結晶が点在していることを示す。非晶質中に微結晶が点在しているとは、通常のX線回折測定(XRD)により測定した非晶質化率Xが85%以上であり、透過電子顕微鏡における電子回折像および高分解能像で結晶相を確認できることを意味する。また、微結晶とは、粒径が30nm以下の結晶のことを指す。なお微結晶の平均粒径が0.3~5nmの範囲であってもよい。
【0039】
Fe基ナノ結晶とは、粒径がナノオーダー(具体的には平均粒径が約30nm以下)であり、Feの結晶構造がbcc(体心立方格子構造)である結晶のことである。本実施形態においては、平均粒径が5~30nmであるFe基ナノ結晶を析出させることが好ましい。また、Fe基ナノ結晶からなる構造とは、Fe基ナノ結晶を含み、上記の非晶質化率Xが85%未満である構造のことである。
【0040】
本実施形態の軟磁性層12は組成が上記の特定の範囲内であり、さらに、ナノヘテロ構造、または、Fe基ナノ結晶からなる構造が観察されることにより、後述する磁性コア10の製造時における小片化処理でクラックを有しやすくなる。そして、クラックCを有することで弱い力で打ち抜くことが可能となる。さらに、製造時の応力による軟磁気特性の変化、特に保磁力の増加が抑制され良好な軟磁気特性を有する磁性コア10が製造できる。
【0041】
さらに、軟磁性層がFe基ナノ結晶からなる構造である場合には、飽和磁束密度が高くなりやすく、保磁力が低くなりやすい。
【0042】
以下、本実施形態の軟磁性層12の組成についてさらに詳細に説明する。
【0043】
MはNb,Hf,Zr,Ta,Ti,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上である。MはNbであることが好ましい。
【0044】
Mの含有量(a)は0≦a≦0.140を満たす。すなわち、Mを含有しなくてもよい。ただし、Mを含有しない場合には、磁歪定数が高くなりやすく、保磁力が高くなりやすい傾向にある。Mの含有量(a)は0.020≦a≦0.100であることが好ましく、0.040≦a≦0.100であることがより好ましく、0.050≦a≦0.080であることがさらに好ましい。aが大きい場合には、磁性コア10の製造時に保磁力が増加しやすくなる。
【0045】
Bの含有量(b)は0.020<b≦0.200を満たす。また、0.025≦b≦0.200であることが好ましく、0.025≦b≦0.120であることがさらに好ましく、0.060≦b≦0.120であることが最も好ましい。bが小さい場合には、後述する軟磁性薄帯の製造時に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、ナノヘテロ構造、または、Fe基ナノ結晶からなる構造とすることが困難である。bが大きい場合には、磁性コア10の製造時に保磁力が増加しやすくなる。
【0046】
Pの含有量(c)は0≦c≦0.150を満たす。すなわち、Pを含有しなくてもよい。Pを含有することで保磁力が低下しやすくなる。保磁力を低下させ、磁性コア10のインダクタンスLsを向上させる観点からは0.050≦c≦0.150であることが好ましく、0.050≦c≦0.080であることが更に好ましい。また、磁性コア10の製造時に保磁力を増加させにくくする観点からは0≦c≦0.030であることが好ましい。cが大きい場合には、磁性コア10の製造時に保磁力が増加しやすくなる。
【0047】
Siの含有量(d)は0≦d≦0.180を満たす。すなわち、Siを含有しなくてもよい。0≦d≦0.175でもよい。0≦d≦0.060であることが好ましい。また、0.070≦d≦0.180である場合には、Mの含有量(a)およびPの含有量(c)を低減することで好適な軟磁気特性を有する軟磁性層12および磁性コア10を得やすくなる傾向にある。
【0048】
Cの含有量(e)は0≦e<0.040を満たす。すなわち、Cを含有しなくてもよい。保磁力を低下させる観点からは0≦e≦0.030であることが好ましく、0.001≦e≦0.010であることがさらに好ましい。eが大きい場合には、磁性コア10の製造時に保磁力が増加しやすくなる。
【0049】
Sの含有量(f)は0≦f≦0.030を満たす。すなわち、Sを含有しなくてもよい。保磁力を低下させる観点からは0≦f≦0.001であることが好ましい。fが大きい場合には、後述する軟磁性薄帯の製造時に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、ナノヘテロ構造、または、Fe基ナノ結晶からなる構造とすることが困難である。
【0050】
また、a,c,dのうち一種以上が0より大きい。a,c,dのうち一種以上が0.001以上であってもよく0.010以上であってもよい。すなわち、本実施形態に係る軟磁性層12は、M,P,Siのうち一種以上を含む。このことにより、ナノヘテロ構造、または、Fe基ナノ結晶からなる構造とすることが容易となる。
【0051】
Feの含有量{1-(a+b+c+d+e+f)}については、任意である。0.730≦1-(a+b+c+d+e+f)≦0.950を満たすことが好ましい。0.730≦1-(a+b+c+d+e+f)≦0.900を満たすことが好ましい。0.730≦1-(a+b+c+d+e+f)である場合には飽和磁束密度を向上させやすい。また、1-(a+b+c+d+e+f)≦0.950である場合には、ナノヘテロ構造、または、Fe基ナノ結晶からなる構造とすることが容易である。
【0052】
また、本実施形態に係る軟磁性合金においては、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。
【0053】
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上である。X1の含有量(α)はα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦α{1-(a+b+c+d+e+f)}≦0.40を満たすことが好ましい。
【0054】
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上である。X2の含有量(β)はβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として3.0at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦β{1-(a+b+c+d+e+f)}≦0.030を満たすことが好ましい。
【0055】
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下とする。すなわち、0≦α+β≦0.50とする。α+β>0.50の場合には、ナノヘテロ構造、または、Fe基ナノ結晶からなる構造とすることが困難となる。
【0056】
なお、本実施形態に係る軟磁性層12は、上記以外の元素を特性に大きな影響を与えない範囲で不可避不純物として含んでいてもよい。例えば、軟磁性層12を100重量%としたとき1重量%以下含んでいてもよい。
【0057】
以下、本実施形態に係る磁性コア10の製造方法について説明する。
【0058】
まず、積層することで磁性コア10に含まれる軟磁性層12となる軟磁性薄帯の製造方法を説明する。以下、軟磁性薄帯のことを単に薄帯と記載する場合がある。
【0059】
軟磁性薄帯の製造方法には特に限定はない。例えば単ロール法により本実施形態に係る軟磁性薄帯を製造する方法がある。また、薄帯は連続薄帯であってもよい。
【0060】
単ロール法では、まず、最終的に得られる軟磁性合金に含まれる各金属元素の純金属を準備し、最終的に得られる軟磁性合金と同組成となるように秤量する。そして、各金属元素の純金属を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、前記純金属の溶解方法には特に制限はないが、例えばチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られるFe基ナノ結晶からなる軟磁性合金とは通常、同組成となる。
【0061】
次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属(溶湯)を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1100~1350℃とすることができる。
【0062】
単ロール法においては、主にロールの回転速度を調整することで得られる薄帯の厚さを調整することができるが、例えばノズルとロールとの間隔や溶融金属の温度などを調整することでも得られる薄帯の厚さを調整することができる。薄帯の厚さには特に制限はないが、例えば14~30μmとすることができる。なお、この薄帯の厚さと最終的に得られる磁性コア10に含まれる軟磁性層12の厚さとが概ね一致する。
【0063】
ロールの温度、回転速度およびチャンバー内部の雰囲気には特に制限はない。ロールの温度は概ね室温以上80℃以下とする。ロールの温度が低いほど微結晶の平均粒径が小さくなる傾向にある。ロールの回転速度は速いほど微結晶の平均粒径が小さくなる傾向にある。例えば10~30m/sec.とする。チャンバー内部の雰囲気はコスト面を考慮すれば大気中とすることが好ましい。
【0064】
後述する熱処理前の時点では、薄帯は非晶質からなる構造である。すなわち、非晶質のみからなる構造、または、ナノヘテロ構造である。当該薄帯に対して後述する熱処理を施すことにより、Fe基ナノ結晶からなる構造を有する薄帯を得ることができる。また、熱処理によりナノヘテロ構造である薄帯を得てもよい。
【0065】
軟磁性合金の薄帯が非晶質からなる構造であるか、結晶からなる構造であるかは、通常のX線回折測定(XRD)により確認することができる。
【0066】
具体的には、XRDによりX線構造解析を実施し、下記式(1)に示す非晶質化率X(%)を算出し、85%以上である場合に非晶質からなる構造であるとし、85%未満である場合に結晶からなる構造であるとする。
X(%)=100-(Ic/(Ic+Ia)×100)…(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶性散乱積分強度
【0067】
非晶質化率Xを算出するために、まず、本実施形態に係る軟磁性合金についてXRDによりX線結晶構造解析を行い、図4に示すチャートを得る。当該チャートに対して、下記式(2)に示すローレンツ関数を用いて、プロファイルフィッティングを行う。
【数1】
【0068】
プロファイルフィッティングの結果、図5に示す結晶性散乱積分強度を示す結晶成分パターンαc、非晶性散乱積分強度を示す非晶成分パターンαa、およびそれらを合わせたパターンαc+aを得る。得られた各パターンから結晶性散乱積分強度Icおよび非晶性散乱積分強度Iaを求める。IcおよびIaから、上記式(1)により非晶質化率Xを求める。なお、測定範囲は、非晶質由来のハローが確認できる回析角2θの範囲とする。具体的には、2θ=30°~60°である範囲とする。この範囲で、XRDによる実測の積分強度とローレンツ関数を用いて算出した積分強度との誤差が1%以内になるようにする。
【0069】
本実施形態において、軟磁性合金を後述する単ロール法による薄帯の形状で得る場合には、ロール面に接していた面における非晶質化率(XA)とロール面に接していない面における非晶質化率(XB)とが異なる場合がある。この場合には、XAとXBとの平均を非晶質化率Xとする。
【0070】
また、熱処理前の薄帯は、非晶質のみからなる構造であってもよいが、ナノヘテロ構造であることが好ましい。なお、ナノヘテロ構造における微結晶の粒径に特に制限はないが、平均粒径が0.3~5nmの範囲内であることが好ましい。
【0071】
また、ナノヘテロ構造である場合における微結晶の有無および平均粒径の観察方法は、例えば、イオンミリングにより薄片化した試料に対して、透過電子顕微鏡を用いて、電子回折像および高分解能像を得ることで確認できる。電子回折像を用いる場合、回折パターンにおいて非晶質のみからなる構造の場合にはリング状の回折が形成されるのに対し、微結晶を含む構造の場合には微結晶に起因した回折斑点が形成される。さらに、高分解能像を用いる場合には、倍率1.00×105~3.00×105倍で目視にて観察することで微結晶の有無および平均粒径を観察できる。
【0072】
また、Fe基ナノ結晶からなる構造を有する薄帯、または、ナノヘテロ構造を有する薄帯を製造するための熱処理条件には特に制限はない。軟磁性薄帯の組成により好ましい熱処理条件は異なる。通常、好ましい熱処理温度は概ね400~700℃、好ましい熱処理時間は概ね0.1~6時間となる。しかし、組成によっては上記の範囲を外れたところに好ましい熱処理温度および熱処理時間が存在する場合もある。また、熱処理時の雰囲気には特に制限はない。大気中のような活性雰囲気下で行ってもよいし、Arガス,N2ガス中のような不活性雰囲気下で行ってもよい。この熱処理によって、軟磁性薄帯が脆化し、小片化処理を行いやすい状態となる。さらに、軟磁性薄帯中の残留歪が除去される。
【0073】
なお、薄帯を製造した段階で薄帯がナノヘテロ構造を有していれば、熱処理を省略することも可能である。しかし、上記の理由により、熱処理は行うことが好ましい。また、熱処理を後述する磁性コア10の製造後に行ってもよい。
【0074】
また、得られた軟磁性薄帯に含まれる結晶の平均粒径の算出方法には特に制限はない。例えば透過電子顕微鏡を用いて観察することで算出できる。また、結晶構造がbcc(体心立方格子構造)であること確認する方法にも特に制限はない。例えばX線回折測定を用いて確認することができる。
【0075】
本実施形態にかかる磁性コア10の製造方法は、主に、接着層形成工程、クラック形成工程(小片化工程)、打ち抜き工程、積層工程を有する。以下、各工程の概要について説明する。
【0076】
(接着層形成工程)
熱処理後の軟磁性薄帯のそれぞれに、接着層を形成する。接着層の形成は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、軟磁性薄帯に対し、樹脂を含んだ溶液を薄く塗布し、溶剤を乾燥させることにより、接着層を形成してもよい。また、両面テープを軟磁性薄帯に貼り付け、貼り付けた両面テープを接着層としてもよい。この場合の両面テープとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの両面に、接着剤が塗布されたものを用いることができる。
【0077】
(クラック形成工程(小片化工程))
接着層が形成された複数の軟磁性薄帯にクラックを発生させ、小片化させる。クラックを発生させる方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、軟磁性薄帯に外力を加えてクラックを発生させてもよい。外力を加えてクラックを発生させる方法としては、例えば、金型で押し割る方法、圧延ロールに通して折り曲げる方法等が知られている。さらに、上記の金型や圧延ロールに予め決められた凹凸パターンを設けてもよい。
【0078】
そして、平均クラック間隔が上述した範囲となるように、それぞれの軟磁性薄帯に複数のクラックを形成し、小片化する。なお、平均クラック間隔の制御方法は任意である。金型で押し割る場合には、例えば、押し割る際の圧力を変更することにより平均クラック間隔を適宜変化させることができる。圧延ロールに通して折り曲げる場合には、例えば、圧延ロールに通す回数を変更することにより平均クラック間隔を適宜変化させることができる。
【0079】
あらかじめ接着層が形成された場合には、クラックにより分割された小片が散らばることを防止しやすくなる。すなわち、クラック形成後の軟磁性薄帯は、複数の小片に分割されてはいるが、いずれの小片の位置も接着層を介して固定されている。軟磁性薄帯全体としては、クラック形成前の形状がクラック形成後もほぼ維持される。ただし、接着層を用いなくても軟磁性薄帯全体としての形状を維持したままクラックを形成できるのであれば、必ずしも接着層の形成をクラックの形成の前に行わなくてもよい。
【0080】
(打ち抜き工程)
次に、クラックが形成され小片化された複数の軟磁性薄帯を、それぞれ所定の形状に打ち抜く。図1に示す通り、本実施形態では、中央を円形状に打ち抜いている。打ち抜き工程は、公知の方法を用いることができる。例えば、所望の形状を有する抜型と面板との間に軟磁性薄帯を挟み、面板側から抜型側、あるいは抜型側から面板側に向けて加圧して行うことができる。なお、打ち抜き前に軟磁性薄帯に接着層が形成されている場合には、軟磁性薄帯を接着層とともに打ち抜く。
【0081】
本実施形態の軟磁性材料からなる軟磁性薄帯は硬い。したがって、弱い力で打ち抜くことが難しい。軟磁性薄帯を打ち抜くと、打ち抜かれる部分と残る部分とが切断されることによって応力が発生する。強い力で打ち抜くほどこの応力は大きくなる。この応力が軟磁性薄帯の残った部分に伝わって軟磁気特性が劣化する。すなわち、保磁力が大きくなる。
【0082】
しかしながら、本実施形態の軟磁性薄帯は、クラックを有し小片化されている。そのため、クラックを有さず小片化されていない場合と比較して弱い力で打ち抜くことができる。したがって、上記の応力が小さくなる。さらに、打ち抜く際に応力が発生する切断面近傍の部分と他の部分とが物理的に離れている。このため、上記の応力は、切断面の近傍以外の大部分には伝わらない。そして、応力による軟磁気特性の劣化を最小限に抑えることができる。
【0083】
したがって、本実施形態の軟磁性薄帯は、打ち抜きによる軟磁気特性の劣化(保磁力の上昇)が小さくなり、最終的に得られる磁性コア10の軟磁気特性が向上する。さらに、本実施形態の軟磁性薄帯は、比較的弱い力で打ち抜くことが可能であるため、所望の形状に加工することが容易であり、生産性に優れている。
【0084】
(積層工程)
打ち抜かれた複数の軟磁性薄帯同士を、接着層を介して厚み方向に重ねて積層することにより、本実施形態の磁性コア10を得ることができる。また、積層方向(図1および図2のz軸方向)における一端側および他端側のそれぞれに、保護膜13を形成してもよい。保護膜13の形成方法は任意である。
【0085】
なお、クラック形成工程および積層工程以外の工程は必須ではない。また、各工程の順番を適宜並べ替えてもよい。
【0086】
本実施形態にかかる磁性コア10は、軟磁性薄帯を複数積層することによって磁性材料(軟磁性層12)の占積率を高めた構造となっており、強固であるため、取り扱いが容易である。
【0087】
本実施形態の磁性コア10は、複数の軟磁性薄帯を積層してなるため、電流パスが積層方向の複数箇所において分断されている。さらに、本実施形態の磁性コア10は、それぞれの軟磁性薄帯(軟磁性層12)がクラックを有し小片化されているため、電流パスが積層方向と交わる方向の複数箇所においても分断されている。したがって、本実施形態の磁性コアを有するコイル部品は、交流磁界における磁束の変化に伴った渦電流のパスが、あらゆる方向において分断されており、渦電流損を大きく低減させることができる。
【0088】
図1では、円筒状の磁性コアを例示したが、磁性コアの形状に特に制限はなく、公知の形状としてもよい。例えば、矩形筒状としてもよい。また、E型コア等のコアを複数組み合わせて使用することもできる。
【0089】
磁性コア10の用途には特に制限はないが、例えば、導体を含むコイル部品(トランス、チョークコイル、磁気センサ等)に用いることができる。
【実施例
【0090】
(実験例1)
<軟磁性薄帯の作製>
下表に示す各実施例および比較例の合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。
【0091】
その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1250℃の溶融状態の金属とした後に、大気中において60℃のロールを回転速度20m/sec.で用いた単ロール法により前記金属をロールに噴射させ、薄帯を作成した。なお薄帯の厚さ約20μm、薄帯の幅約50mmとした。
【0092】
次に、得られた薄帯が非晶質からなる構造(非晶質のみからなる構造またはナノヘテロ構造)であるか、結晶からなる構造であるかは、通常のX線回折測定(XRD)により確認した。結果を表1に示す。
【0093】
その後、表1、表2の試料1および試料12以外の全ての各実施例の薄帯に対し、熱処理を行った。熱処理条件については、試料2~6、13~17は熱処理温度500℃、保持時間60分、加熱速度1℃/分、冷却速度1℃/分、試料7~11、18~22は熱処理温度570℃、保持時間60分、加熱速度1℃/分、冷却速度1℃/分とした。
【0094】
<軟磁性薄帯の評価>
熱処理後の各薄帯における微細構造をX線回折測定(XRD)、および透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察で確認した。具体的には、各薄帯にFe基ナノ結晶からなる構造、ナノヘテロ構造、または非晶質(アモルファス)のみからなる構造のいずれの構造が観察されるかを観察した。なお、Fe基ナノ結晶からなる構造は結晶構造がbccであった。
【0095】
そして、熱処理後の各薄帯における微細構造がナノヘテロ構造である場合には、全ての実施例において微結晶の平均粒径が0.3~5.0nmであることを確認した。熱処理後の各薄帯における微細構造がFe基ナノ結晶からなる構造である場合には、全ての実施例においてFe基ナノ結晶の平均粒径が5.0nm以上30nm以下であることを確認した。
【0096】
さらに、熱処理後の各薄帯の飽和磁束密度Bsおよび保磁力Hcaを測定した。飽和磁束密度は振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁場1000kA/mで測定した。保磁力は直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。
【0097】
<磁性コアの作製>
まず、得られた軟磁性薄帯に、樹脂溶液を塗布した。その後、溶剤を乾燥させ、軟磁性薄帯の両面に厚さが各1~2μm程度である接着層を形成することで、接着層を具備した磁性シートを作製した。
【0098】
次いで、作製した磁性シートに対し、軟磁性薄帯の平均クラック間隔が表2に記載の値となるようにクラック形成処理を行い、小片化磁性シートを作製した。なお、微細構造がアモルファスである軟磁性薄帯を用いた試料1および試料12の磁性シートはクラックを形成することができず、小片化することができなかった。
【0099】
次いで、得られた小片化磁性シートをリング形状(外径18mm、内径10mm)にするため、打ち抜きを行った。この打ち抜きは、具体的には、抜型と面板との間に小片化磁性シートを挟み、面板側から抜型側に向けて加圧して行った。なお、小片化することができなかった試料1および試料12の磁性シートは他の実施例の小片化磁性シートと同等程度の力で打ち抜くことができなかった。
【0100】
次いで、打ち抜いた小片化磁性シートを、高さ約5mmとなるように複数枚貼り合わせて積層して磁性コアを得た。得られた磁性コアの軟磁性層は占積率が約85%であった。さらに同様の手順により、一つの試料につき30個の磁性コアを作製した。
【0101】
<磁性コアの評価>
磁性コアの保磁力Hcbは薄帯の保磁力Hcaと同様に直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。なお、30個の磁性コアそれぞれについて保磁力を測定し、平均することでHcbを求めた。
【0102】
続いて、得られたHcaおよびHcbより保磁力変化ΔHc(=Hcb-Hca)を算出した。さらに、保磁力変化率(%)を算出した。具体的には、(ΔHc/Hca)×100(%)の式にΔHcおよびHcaを代入して算出した。保磁力変化率が100%未満である場合を良好とした。
【0103】
最後に、得られたそれぞれの磁性コアに対し、周方向に沿ってコイルを巻いて30個のコイル部品を形成し、LCRメーターを用いて、それぞれの100kHzにおけるコイルのインダクタンスを測定し、平均してLsとした。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1および表2より、各実施例の軟磁性薄帯は小片化および打ち抜きが可能であり、各実施例の磁性コアは保磁力変化率が良好であった。各実施例の磁性コアは保磁力変化率が良好である理由について説明する。
【0107】
軟磁性薄帯が小片化されていることで打ち抜き時の力が低減できる。さらに、打ち抜き時に断面近傍において発生する応力も、軟磁性薄帯が小片化されていることで内部に伝わりにくくなる。その結果、軟磁気特性の低下(保磁力の上昇およびインダクタンスの低下)が抑えられている。こと、また、インダクタンスLsは平均クラック間隔が大きく、小片1個当たりの大きさが大きいほど高い値となった。
【0108】
これに対し、微細構造がアモルファスである各比較例の軟磁性薄帯は小片化できず、打ち抜きもできなかった。
【0109】
微細構造がナノヘテロ構造である場合およびFe基ナノ結晶からなる構造である場合には、外力を加える際に結晶粒界が小片化の起点となるため、小片化することができると考えらえる。これに対し、微細構造がアモルファスである場合に小片化できないのは、結晶粒界が存在せず、小片化の起点となる部分がないためであると考えられる。
【0110】
(実験例2)
実験例2では、軟磁性薄帯の組成を表3~表12に示す範囲で変化させた点以外は実験例1の試料No.7~11と同条件で実施した。
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
【表8】
【0117】
【表9】
【0118】
【表10】
【0119】
【表11】
【0120】
【表12】
【0121】
上記全ての実施例の軟磁性薄帯は微細構造がFe基ナノ結晶から成る構造であり、Fe基ナノ結晶の平均粒径が5.0nm以上30nm以下であることを確認した。また、軟磁性薄帯の組成が特定の範囲内である各実施例は、軟磁性薄帯の組成が特定の範囲外である各比較例と比較して保磁力変化率が良好な結果となった。また、Bの含有量(b)が小さすぎる試料34およびSの含有量(f)が大きすぎる試料59は、熱処理前の軟磁性薄帯の微細構造が結晶からなる構造であり、熱処理によりFe基ナノ結晶を析出させることができず、保磁力が著しく高くなった。さらに、磁性コアのインダクタンスLsが著しく低下した。
【0122】
(実験例3)
実験例3では、作製した母合金を加熱して得られる溶融状態の金属の温度を変化させ、さらに、熱処理の有無、熱処理温度および熱処理時間を変化させた点以外は、実験例2の試料番号45と同条件で実施した。結果を表13および表14に示す。なお、表13では、便宜上、熱処理を行わない実施例および比較例では、熱処理前の結晶平均粒径および微細構造と、熱処理後の結晶平均粒径および微細構造と、が同一であるとしている。
【0123】
【表13】
【0124】
【表14】
【0125】
表13および表14より、作製した母合金を加熱して得られる溶融状態の金属の温度を変化させ、さらに、熱処理の有無、熱処理温度および熱処理時間を変化させても、最終的に用いる軟磁性薄帯の微細構造がナノヘテロ構造またはFe基ナノ結晶からなる構造である場合には、軟磁性薄帯の小片化および打ち抜きが可能であり、保磁力変化率が良好な結果となった。これに対し、最終的に用いる軟磁性薄帯の微細構造がアモルファスからなる構造である場合には、軟磁性薄帯が小片化できず、打ち抜きもできなかった。
【0126】
(実験4)
実験4では、磁性材料の占積率を変化させた点以外は実験例1の試料番号7と同条件で実施した。結果を表15および表16に示す。
【0127】
【表15】
【0128】
【表16】
【0129】
表15および表16より、占積率を変化させても70%以上99.5%以下である各実施例は保磁力変化率が良好な結果となった。なお、占積率が高いほどインダクタンスLsが高くなる傾向にあり、同時に保磁力変化率が大きくなる傾向にあった。
【符号の説明】
【0130】
10・・・磁性コア
12・・・軟磁性層
13・・・保護膜
14・・・接着層
A・・・中央面
B・・・仮想線
C・・・クラック
D・・・交差点
図1
図2
図3
図4
図5