(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】針安全システム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
A61M5/32 510R
(21)【出願番号】P 2023080582
(22)【出願日】2023-05-16
(62)【分割の表示】P 2020507043の分割
【原出願日】2018-08-13
【審査請求日】2023-05-16
(32)【優先日】2017-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517229774
【氏名又は名称】ウエスト ファーマスーティカル サービシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】マケルロイ・テリー
(72)【発明者】
【氏名】ダウリング・コリン
(72)【発明者】
【氏名】ダウリング・パトリック
(72)【発明者】
【氏名】マクガリー・マーティン
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0246182(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第03037807(FR,A1)
【文献】米国特許第05964731(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部材に支持されている針を覆うためのスリーブ
であって、
筒状部と、
前記筒状部の中に形成されており、
前記環状部材から外周方向へ突き出ている案内ピンを前記筒状部の内側から受け入れ、自身に沿って前記案内ピンを移動させることにより、前記環状部材と前記スリーブとを相対運動させる案内路と
を備え、
前記案内路は、閉鎖部、案内ピン保持部、および移動部を含み、
前記閉鎖部は、その中に前記案内ピンを留めることにより、前記案内ピンに前記環状部材と前記スリーブとの相対運動を阻止させるように構成されており、
前記案内ピン保持部は、前記閉鎖部に対して前記移動部の反対側にあり、前記スリーブの周方向に伸びている部分の一端が
前記移動部に向かって開いている一方、他端が前記スリーブの周方向において閉じており、
前記閉鎖部と前記案内ピン保持部の一端とは、深さが前記スリーブの厚さ全体には達していない前記筒状部の内面の溝である前記案内路の第1部分に含まれ、
前記移動部は、深さが前記スリーブの厚さ全体に達している前記案内路の第2部分に含まれる
ことを特徴とするスリーブ。
【請求項2】
保持用リブが形成されているキャップによって覆われるように構成されており、
前記スリーブが前記キャップによって覆われると、前記案内ピン保持部の中に前記保持用リブが配置されることにより、前記案内ピン保持部の一端が閉じられる、
請求項1に記載のスリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年8月11日を出願日とする米国特許仮出願第62/544,202号に対する優先権主張を伴うものであり、その内容全体がここには参照によって組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
医療従事者にとって針刺し損傷は職業上の危険である。意図しない針刺しには、B型肝炎、C形肝炎、またはエイズウィルス(HIV)のような血液感染性のウィルスを負傷者へ伝搬させる可能性がある。針刺し損傷の後では、負傷者への感染の危険性を最小限に抑えるために、血液検査、暴露後予防等の処置が行われなければならない。暴露後予防は、上記のウィルスのような病原体に曝された直後に行われるものであって、病原体の感染と関連する病気の進行とを防ぐことを目的とする。
【0003】
病院でも医療施設でもない場所で薬が投与される場合に針刺し損傷の危険性は高まる。そのようなことは、ワクチンおよび他の必要な薬を現場で、または緊急時に投与する場合によく生じる。
【0004】
注射後の針刺しの頻度を抑えるのに安全装置が使用されている。安全装置の中には、注射後の針を覆う、すなわち保護するのに使用されるものがある。患者から針が抜かれるやいなや、その針のまわりに鞘を自動的に配置するものもある。鞘は自動的に配置されるので、針は決して露出せず、または露出したとしても無視できるほどの期間に限られる。これにより、針刺し損傷の危険性が抑えられる。鞘は、注射器の針を覆うように動作するスリーブを含む。このような安全装置は、使用後には注射器から取り外されてもよい。この場合、汚染された針が再び露出して、針刺し損傷の新たな危険性が生じるかも知れない。
【発明の概要】
【0005】
開封明示機構のある針安全システムについて説明する。このシステムはスリーブを含んでいてもよい。スリーブの中には案内路が形成されていてもよい。ある実施形態では案内路がスリーブの内面に形成されている。案内路は1以上の部分を含んでいてもよい。ある実施形態では案内路は、ピン保持部、移動部、および閉鎖部を含んでいてもよい。針安全システムはまた、環状部材を含んでいてもよい。ある実施形態では環状部材がスリーブの内側にある。環状部材は案内ピンを含んでいてもよい。案内ピンは環状部材の外面から径方向へ伸びている。環状部材とスリーブとにはばねが結合していてもよい。ある実施形態ではそのばねが、捻ることの可能な圧縮ばねであってもよい。キャップが、案内路のピン保持部に案内ピンを保持するように構成されていてもよい。キャップが外されると、ばねが案内ピンを案内路のピン保持部から案内路の移動部へ進める。
【0006】
ある実施形態によると、案内路の閉鎖部と案内ピン保持部とは案内路の移動部の両側にある。スリーブには、キャップを受け入れるように構成されたキャップ受けがあってもよい。キャップの表面からは案内ピン保持部材が伸びていてもよい。この案内ピン保持部材は、案内路のピン保持部に入るように構成されていてもよく、これにより案内ピンの移動を阻み、または制限する。
【0007】
ある実施形態によると、環状部材は内側環状部材と外側環状部材とを含む。内側環状部材は外側環状部材に回転可能に結合している。案内ピンは外側環状部材から伸びている。外側環状部材はまた、アコーディオン領域を含んでいてもよい。この領域は、回転応力を受けると折れ曲がるように構成されている。アコーディオン領域は、ねじりばね等のばねによって外側環状部材に与えられる応力を緩和させてもよい。内側環状部材と外側環状部材とはスナップフィット接続で互いに結合していてもよい。
【0008】
ある実施形態によるシステムのスリーブの中には第2案内路が形成されていてもよい。第1案内路と同様に第2案内路は、案内ピン保持部、移動部、および閉鎖部を含んでいてもよい。第1案内路と第2案内路とはスリーブの両側に形成されていてもよい。いずれもスリーブの内面に形成されていてもよい。2本の案内路を含むスリーブは、第2案内ピンを含む環状部材と共に機能するように構成されていてもよい。第1案内ピンは第1案内路と結合するように構成されており、第2案内ピンは第2案内路と結合するように構成されている。
【0009】
針安全システムのスリーブは、先端と基端とがある筒状部を含んでいてもよい。筒状部の中には案内路が形成されていてもよい。案内路は、ピン保持部、移動部、および閉鎖部を含んでいてもよい。ピン保持部は筒状部の基端で開口していてもよい。閉鎖部と案内ピン保持部とは移動部の両側にあってもよい。
【0010】
閉鎖部は溝部と捕捉部とを含んでいてもよい。溝部は移動部から伸びていてもよく、捕捉部は溝部から伸びていてもよい。捕捉部は案内ピン止めを含んでいてもよい。案内ピン止めは、捕捉部の内側に案内ピンを保持するように構成されている。筒状部は長軸を含んでいてもよい。長軸は筒状部の先端と基端との間に伸びている。この長軸に対して案内路の移動部は平行であってもよい。案内路の案内ピン保持部には、案内ピン保持部材を受け入れるように構成された溝があってもよい。
【0011】
スリーブは2つの部分から作られていてもよい。これらの部分は射出成型で形成されていてもよい。
【0012】
注射器システムは、基端と先端とがある注射器を含んでいてもよい。注射器は先端にハブを含んでいてもよい。ハブからカニューレが伸びていてもよい。ハブには、複数の部品から成る環状部材が結合していてもよい。環状部材は内側環状部材と外側環状部材とを含んでいてもよい。内側環状部材と外側環状部材とは回転可能に結合していてもよい。外側環状部材の表面からは案内ピンが伸びていてもよい。案内ピンは、筒状のスリーブの中に形成された案内路と結合してもよい。案内路は、ピン保持部、移動部、および閉鎖部を含んでいてもよい。捻ることの可能な圧縮ばねが筒状のスリーブと外側環状部材とに結合していていもよい。キャップは案内ピン保持部材を含んでいてもよい。案内ピンは案内ピン保持部に位置してもよく、案内ピン保持部材に隣接していてもよい。案内ピンが案内路の案内ピン保持部にあるとき、筒状のスリーブがカニューレの上に広がっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
発明は以下の詳細な説明から、添付の図面と関連付けて容易に理解されるであろう。図面では、同様な数字は同様な構造要素を示す。
【0014】
【
図1】注射器に組み込まれた針安全システムを示す。
【
図2】注射器に組み込まれた針安全システムの分解図を示す。
【
図3A】針安全システムのスリーブの斜視図を示す。
【
図3B】
図3Aに示されているスリーブの外側部分の斜視図を示す。
【
図3C】
図3Aに示されているスリーブの内側部分の半分の斜視図を示す。
【
図5A】動作状態が異なる針安全システムの様々な構成の模式図を示す。
【
図5B】動作状態が異なる針安全システムの様々な構成の模式図を示す。
【
図5C】動作状態が異なる針安全システムの様々な構成の模式図を示す。
【
図6A】動作状態が異なる注射器に取り付けられた針安全システムを示す。
【
図6B】動作状態が異なる注射器に取り付けられた針安全システムを示す。
【
図6C】動作状態が異なる注射器に取り付けられた針安全システムを示す。
【
図9】針安全システムの環状部材の分解斜視図を示す。
【
図10】注射器に取り付けられた
図9の環状部材の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面に示されている代表的な実施形態について詳細に参照する。以下の説明が、参照された実施形態を好ましい実施形態に限定することを意図してはいないことは理解されるべきである。それとは反対に、請求の範囲で定義されているように、説明された実施形態の精神と範囲との中に属する変形物、修正物、および均等物にも及ぶことを意図している。
【0016】
針安全システムを備えた注入装置は、薬剤を保持するシリンダを含んでいてもよい。シリンダはハブを含んでいてもよく、ハブからはカニューレ、または針が伸びている。環状部材はハブの上に置かれていても、それと結合していてもよい。環状部材は、ハブに対して回転するように構成されていてもよい。環状部材の表面からは案内ピンが伸びていてもよい。案内ピンは、スリーブの中に形成された案内路と結合するように構成されていてもよい。案内ピンが案内路のある部分に位置するときには、スリーブがカニューレの上に広がっていてもよい。案内ピンが案内路のある部分に位置するときには、スリーブが引っ込んでカニューレを露出させてもよい。ある実施形態では、案内ピンが案内路の中をある方向へのみ移動可能である。スリーブはまた、案内ピンが案内路を進むにつれて、環状部材に対して回転してもよい。
【0017】
図1は、ある実施形態による注入装置100を示す。注入装置100はシリンダ102と針安全システム10とを含む。注入装置100は薬剤用の注射器であってもよい。注入装置100は、薬剤(図示せず。)が予め詰められた状態であってもよく、使用者が後で詰められるように薬剤のない状態であってもよい。注入装置100は実質的に筒状のシリンダ102を含んでいてもよい。シリンダ102は長軸X
Lに沿って伸びている。
【0018】
図2は、針安全システム10を備えた注入装置100の分解図を示す。
図2に示されているように、シリンダ102には先端102aと反対側の基端102bとがある。シリンダ102は、薬剤を安全に収められる物質であれば、ほとんどどんなものから形成されていてもよい。たとえば、シリンダ102はガラスまたは高分子材料から形成されていてもよい。シリンダ102の先端102aには肩104(
図10参照。)がある。シリンダの肩104からはハブ106が伸びている。ハブ106は先端に環状の肩108と先端面110とを含む(
図10参照)。ハブの肩108は外周方向へ広がっており、基端方向を向いている。ハブの先端面110は外周方向を向いており、シリンダの肩104とハブの先端の環状の肩108との間に広がっている。
【0019】
ハブ106からはカニューレ112(
図10参照。)または針が、先端方向へ伸びている。カニューレ112はシリンダ102の中空部(図示せず。)と連通している。カニューレ112はハブ106に取り外し可能に取り付けられている。その他に、好ましくは、カニューレ112がハブ106に固定されていてもよい。シリンダ102の中空部の中にはピストン(図示せず。)が摺動可能に収容可能である。ピストンには、基端が自由端である棒(図示せず。)が取り付けられている。この棒はシリンダ102の基端102bから伸びている。スリーブ12の中ではシリンダ102が移動可能である。スリーブ12はカニューレ112の少なくとも一部を囲んでいる。
【0020】
図2はまた、スリーブ12の中に配置された複数の部品から成る環状部材16を示す。以下で説明され、
図9、
図10に参照されるように、環状部材16は内側環状部材18と外側環状部材20とを含む。内側環状部材18はハブ106に固定されている。外側環状部材20は内側環状部材18に、ある回転軸のまわりで回転可能に取り付けられている。外側環状部材20からは少なくとも1本の案内ピン22が外周方向へ伸びている。ある実施形態では、2本の案内ピン22が外側環状部材20の両側から外側へ伸びている。環状部材16の構造の詳細については、以下で更に詳しく説明する。環状部材16はスリーブ12によって囲まれている。
【0021】
ばね24もスリーブ12に囲まれている。ばね24は外側環状部材20とスリーブ12とに結合している。ばね24は捻りばねであり、捻ることも圧縮も可能であってもよい。ばね24は先端方向においてスリーブ12に力を加えてカニューレ112を覆わせる。ばね24はまた、以下で更に詳しく説明するように、案内ピン22に回転力を加える。キャップ66はスリーブ12の先端を覆うように構成されている。ある実施形態ではキャップ66が、摩擦による接続、またはスナップフィット接続を利用して、スリーブ12と結合する。
【0022】
図3A-
図3Cを参照すると、スリーブ12の中には案内路14が少なくとも1本形成されている。ある実施形態では、2本の同じ案内路14がスリーブ12の両側に形成されている。
図3Aは、ある実施形態によるスリーブ12の斜視図を示す。このスリーブ12の中には案内路14が形成されている。
図3B、
図3Cに示されているように、案内路14には、深さがスリーブ12の厚さ全体には達していない溝がスリーブ12の内面に形成された部分があってもよく、深さがスリーブ12の厚さ全体に達している溝がスリーブ12の内面に形成された部分があってもよい。組み立てられると、案内路14の境界を形成する面によって案内ピン22は動きが制限される。すなわち、案内ピン22は案内路14の中でしか動くことができない。
【0023】
上記のとおり、ばね24は外側環状部材20とスリーブ12との間に伸びている。ある実施形態では、ばね24は捻ることの可能な圧縮ばねであってもよい。ばね24は、スリーブ12に先端方向の力を加えるだけでなく、外側環状部材20にスリーブ12に対する回転力を加える。案内ピン22が案内路14に位置するとき、案内ピン22にもスリーブ12に対する回転力が加わる(後述参照)。案内路14の形は案内ピン22を移動させる上で、案内ピン22が案内路14を進むように促すのに利用可能である。
【0024】
図3A-
図3Cは案内路14の複数の部分を示す。
図3A-
図3Cはまた、案内ピン付勢方向150も示す。案内ピン付勢方向150は、ばね24が案内ピン22に対して力を加える方向である。
図3Cに示されているように、案内路14は主に3つの部分を含む。案内ピン保持部82はスリーブ12の基端から移動部84へ伸びている。移動部84は真っ直ぐであり、その向きが長軸X
Lに対して平行である。ただし、移動部84は違う形または構成であってもよい。案内路14の閉鎖部86は、移動部84に対して案内ピン付勢方向150に位置する。閉鎖部86は、カニューレ112が注入を終えて抜かれる際に案内ピン22を捕捉するように構成されている。閉鎖部86は閉鎖溝88と閉鎖領域90とを含む。閉鎖領域90の先端からは案内ピン止め92が伸びている。案内ピン止め92は、案内ピン22を妨げて、案内ピン22が閉鎖領域90から出るのを防ぐように構成されている。案内ピン保持部82はまた、組み立ての間、案内ピン22を受け入れるようにも構成されていてもよい。案内ピン保持部82は、組み立ての間、案内ピン22が案内ピン保持部82の中へ滑り込むように、スリーブ12の基端まで伸びていてもよい。案内ピン保持部82と閉鎖部86とは移動部84の両側にあってもよい。たとえば、案内ピン22は案内ピン保持部82から閉鎖部86へ移動する際には必ず、移動部84へ移動しなければならない。移動部84は案内ピン保持部82に対して案内ピン付勢方向150にあってもよく、閉鎖部86は移動部84に対して案内ピン付勢方向150にあってもよい。
【0025】
図4Aと
図4Bとはキャップ66を示す。キャップ66は部分70を含む。この部分70はスリーブ12のキャップ受け54(
図3参照。)と結合するように構成されている。キャップ受け54とキャップ66とは、スナップフィット接続または摩擦による接続を利用して、結合していてもよい。キャップ受け54は、スリーブ12に形成された凹みであってもよい。この凹みは、キャップ66の部分70が収まる形をしていてもよい。
図3Bは、移動部84から離れているキャップ受け54を示しているが、ある実施形態では、キャップ受け54が移動部84にまで伸びていてもよい。キャップ66はまた、開封用リブ72と保持用リブ76とを含んでいてもよい。いずれのリブもキャップ66の内壁から伸びている。開封用リブ72と保持用リブ76とはいずれも楔形であってもよく、それぞれが基端に、長軸X
Lに対して垂直な平面74、78を含む。開封用リブ72と保持用リブ76とはそれぞれ、平面74、78からキャップ66の内面へ向かって、先端方向において傾斜していてもよい。開封用リブ72と保持用リブ76との傾斜により、キャップを容易に外すことができてもよい。開封用リブ72は、スリーブ12の移動部84と並んでそれと結合するように構成されていてもよい。保持用リブ76は、スリーブ12の保持部82と結合するように構成されていてもよい。
【0026】
図5A-
図5Cは、針安全装置10の動作の様々な段階でキャップ66がスリーブ12の上に置かれた際の開封用リブ72と保持用リブ76との相対位置を示す。たとえば、
図5Aは、使用前におけるキャップ66とスリーブ12との相対的な状態を示す。案内ピン22は案内ピン保持部82に位置しており、保持用リブ76によって移動部84への進入が阻まれている。しかし、
図5Bに示されているように、一旦、使用者がキャップ66の少なくとも一部を外すと、保持用リブ76が案内ピン保持部82から除去されるので、ばね24からの回転力により、案内ピン22が案内路14の移動部84へ進む。一旦、保持用リブ76が案内ピン22を解放すると、案内ピン22は案内ピン保持部82へは戻れない。案内ピン22が案内ピン付勢方向150とは反対方向へ移動するのをばね24が防ぐからである。
図5Cに示されているように、仮にこの時点でキャップ66がスリーブ12の上へ戻されたとしても、案内ピン22が移動部84にいる間は開封用リブ72の平面74が案内ピン22に隣接するので、キャップ66がキャップ受け54に正しく設置されることが防止される。さらに、たとえキャップ66がキャップ受け54の中に無理矢理入れられたとしても、開封用リブ72が案内ピン22の上に置かれるので、キャップ66が以前に外されていることが使用者には伝わる。キャップ66が外されたことはまた、案内ピン22が進んだことを使用者へ警告する振動または音で伝えられてもよい。上記のような開封用リブ72に関する開封防止機能に加えて、またはそれに代えて、使用者が上記の振動を感じることも上記の音を聞くこともなければ、キャップがすでに外されて針の無菌状態が損なわれたと使用者が思ってもよい。
【0027】
キャップ66には、実質的に筒状の基体と、一端に嵌まったボタンとがあってもよい。キャップ66にはまた、針シールド(図示せず。)が収容されていてもよい。針シールドは、キャップの基体に通るような形をしていてもよく、キャップの寸法によって位置が支えられていてもよい。ボタンは、針シールドの端を覆うようにキャップの基体に取り付けられていてもよい。
【0028】
図6A-
図6Cは、針安全システム10を備えた注入装置100を示す。動作の様々な段階に応じて、カニューレ112、シリンダ102の部分、案内路14、および案内ピン22がシリンダ12に覆われて見えなくなる。しかし、
図6A-
図6Cでは、針安全システム10の動作を示す目的で、それらが透視されている。
【0029】
図6Aは、キャップ66が外された後の針安全システム10を示す。一旦、キャップ66が外されると、保持用リブ76がもはや案内路14の中には突出していないので、もはや案内ピン22を妨害しない。したがって、案内ピン22は案内路14の中を進むことができる。ばね24から環状部材16とスリーブ12とへ加えられる力が環状部材16をスリーブ12に対して回転させる。ばね24からのこの回転力が案内ピン22に案内路14の中を案内ピン付勢方向150へ進ませて、案内路14の移動部84の中へ導く。この時点で注入装置100は使用の準備が整う。動作中、注入装置100の先端は患者(図示せず。)に押し当てられる。針安全システム10は注射器のシリンダ102に対して基端方向へ進む。それに伴い、案内ピン22は移動部84を進む。
図6Bは、注入中における、針安全システム10を備えた注入装置100を示す。カニューレ112が露出するので、それが患者の皮膚に突き刺さって薬剤を投与する。案内ピン22は移動部84の先端にある。
図6Bは、案内ピン22が力を案内ピン付勢方向150に受け続けて、移動部84の壁152に当たっていることを示す。使用後、注射器が患者から引き抜かれるので、案内ピン22が移動部84の壁152に沿って移動する。案内ピン付勢方向150へ力が加えられているので、案内ピン22はやがて閉鎖溝88の中へ移動する。
図6Cに示されているように、案内ピン22は閉鎖領域90の中へ移動する。そのとき注入操作が完了する。案内ピン22は移動部84へ戻ることができないので、スリーブ12は引っ込むことができず、カニューレ112は覆われたままで残る。
【0030】
図7は、動作中における案内路14での案内ピン22の動きを示す。案内ピン22は、先端方向、基端方向、または案内ピン付勢方向150へ移動する。先端方向へ移動するとき、案内ピン22は案内ピン付勢方向150と反対の方向へは移動しない。ただし、移動部84との交差点で一瞬、閉鎖部88に入る場合を除く。この場合、閉鎖溝88の角度と使用者の注入する力とにより、案内ピン22はばねの弾性力に抗して溝88から出ることができる。案内ピン22は、保持用リブ76によって保持されていた出発点200から移動し始める。一旦、保持用リブ76が外されると、案内ピン22は経路202に沿って準備位置204へ進む。注入の間、案内ピン22は移動部84の注入路206に沿って最大注入点208へ移動する。注入後、注射器が引き抜かれると、案内ピン22は後退路210に沿って閉鎖部入口212へ移動する。引き抜きが続くと、案内ピン22は閉鎖溝通路214を経由して閉鎖溝88に入る。注射器の引き抜きが終わった後、案内ピン22は閉鎖領域90の閉鎖位置216にある。
【0031】
スリーブ12はたとえば、樹脂から射出成型によって形成することができる。ある実施形態では、スリーブ12が2個の成型部品から形成されてもよい。これらの部品が一つになってスリーブ12を形成している。ある実施形態では、これらの部品が射出成型で形成されてもよい。
図8は、スリーブ12を2つに割ったものを示す。これらは、図に示されているように、案内路14の各部を中に含んでいるが、実際には、いずれも同じ案内路14を含む。図には示されていないある実施形態では、スリーブ12が、成型された内殻(図示せず。)と成型された外殻(図示せず。)とから形成されていてもよい。内殻の中にある案内路14の部分は貫通したスロットであってもよく、外殻の中にある案内路14の部分もまた、貫通したスロットであってもよい。内殻と外殻とが一つに組み合わされたとき、案内路14には、内殻と外殻との両方を通して広がっている部分があってもよく、内殻のみを通して広がっている部分があってもよい。
【0032】
図9は、複数の部分を含む環状部材16を示す。環状部材16は内側環状部材18と外側環状部材20とを含む。内側環状部材18はハブ106(
図10参照。)に固定されている。外側環状部材20は内側環状部材18に、ある回転軸のまわりで回転可能に取り付けられている。案内ピン22は外側環状部材20から外周方向へ伸びており、案内路14と摺動可能に結合する。ある実施形態では、1対の案内ピン22がスリーブ12の対応する案内路14と結合する。
【0033】
外側環状部材20は案内ピン22を含め、高分子材料または金属材料から構成されていてもよい。好ましくは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)のような硬質のポリマーから構成されている。さらに、外側環状部材20は案内ピン22を含め、一体構造であってもよい。外側環状部材20は1以上のアコーディオン領域23を含んでいてもよい。アコーディオン領域23は周方向へ伸びており、複数の薄壁を含む。これらの薄壁は外側環状部材20の周に沿って蛇行している。薄壁がヒンジのように回転し、および/または折れ曲がることで全体が変形することにより、アコーディオン領域23はばねのように振る舞う。すなわち、回転軸の方向とは別の方向において伸縮し、および/または回転軸から離れる方向へ、または回転軸に近づく方向へ回転する。好ましい実施形態では外側環状部材20が互いに対向する2つのアコーディオン領域23を含む。これらのアコーディオン領域23により案内ピン22は、少なくとも径方向において互いに接近し、または互いから遠ざかることができる。組み立ての間、外側環状部材20に対しては圧縮力が加えられて、案内ピン22が互いに接近してもよい。これにより、案内ピン22が対応する案内路14に配置されて、それらと結合することができる。たとえば、スリーブ12の基端に設けられた開口部の内径が、外側環状部材20が圧縮されていない間に外側環状部材20から伸びている案内ピン22のそれぞれの長さよりも小さくてもよい。圧縮されている間、案内ピン22が、スリーブ12の基端の開口部の内径を超えては伸びていない位置へ移動するので、案内ピン22をスリーブ12の中に入れることができる。案内ピン22が対応する案内路14と結合した後、加えられていた圧縮力が除去されてもよい。これによりアコーディオン領域23と案内ピン22とが、圧縮される前の位置へ完全に、または実質的に戻る。一旦、外側環状部材20が内側環状部材18と針のハブ106とに組み込まれると、外側環状部材20を圧縮することはできないので、案内ピン22は実質上、案内路14から外へ出ることができない。
【0034】
内側環状部材18は実質的に筒状の基体34を含む。基体34には、その全体を通して中空部36がある。内側環状部材の基体34の先端34aには環状面38が形成されている。環状面38は外周方向へ広がっており、先端方向を向いている。環状面38からは複数の可撓性部材40が先端方向へ突出している。可撓性部材40は径方向においては揃っており、周方向においては間隔を空けている。さらに、環状面38からは、ドーナツを横に割った形状の環(半トロイダル環)39が先端方向へ伸びている。半トロイダル環39は可撓性部材40に対して外周側に位置する。可撓性部材40のそれぞれの基端に形成された溝50は、全体としては1つの円形溝52を形成して可撓性部材40の全体を囲んでいる。可撓性部材40はそれぞれが十分に柔らかいので、ハブ106の先端106aを内側環状部材の中空部36に通すことができ、外周方向を向いているハブの先端面110に対して可撓性部材40のそれぞれが加える内周方向の力により、内側環状部材18をハブの先端面110に固定することができる。内側環状部材の基体34からは複数の脚42が基端方向へ突出している。これらの脚42は、径方向においては揃っており、周方向においては間隔を空けている。内側環状部材18がハブ106に固定されたとき、可撓性部材40のそれぞれの先端が、ハブの先端に位置する基端方向に向いた環状の肩108に隣接し、周方向において間隔を空けている脚42のそれぞれの基端がシリンダの肩104に隣接する。
【0035】
内側環状部材18はまた、1以上の案内キー43を含んでいてもよい。ある実施形態では2つの案内キーが互いに反対側の脚42に配置されている。図に示されているように、案内キー43は楕円形であり、長手方向に長軸を含む。ある実施形態では、案内キー43は案内ピン22の直径よりも長く、閉鎖溝88への入口よりも長い。したがって、内側環状部材18と外側環状部材20とが移動部84に沿って往復するとき、案内キー43は内側環状部材が移動部84から外れることを防ぐ。
【0036】
内側環状部材18のある実施形態では、周方向において間隔を空けている複数の脚42の間に少なくとも1つの切れ込み56が設けられている。これにより、シリンダ102の中身を見ることができる。
【0037】
注入装置100のある実施形態では、外周方向を向いているハブの先端面110が先細りである。この実施形態では、好ましくは、可撓性部材40のそれぞれの先端に位置する内周方向を向いている面44が、ハブの先端面110に対応して先細りになっている。
【0038】
外側環状部材20は中空部46と、内周方向を向いている環48とを含む。この環48は、可撓性部材40を囲んでいる円形溝52の中に入れられて、回転自在に保持されている。好ましい実施形態では、外側環状部材の環48の軸方向の高さは、円形溝52の内側で区切られている軸方向の高さよりも小さい。外側環状部材20の基端面には弧状溝31が設けられている。弧状溝31は、外側環状部材20が内側環状部材18に取り付けられたとき、内側環状部材18から半トロイダル環39を受け入れるのに十分な寸法である。好ましい実施形態では、弧状溝31の曲率半径は半トロイダル環39の曲率半径よりも大きい。
【0039】
外側環状部材20は、可撓性部材40を外側環状部材の中空部46に通すのに、外側環状部材の環48を円形溝52に入れるのに、かつ、内側環状部材18に対して1自由度にのみ回転自在である元の形へ戻るのに、十分な柔らかさと寸法とを持つ。外側環状部材20は、内側環状部材18に取り付けられる前に、スリーブ12に取り付けられてもよい。これにより、外側環状部材20とスリーブ12とが一緒に内側環状部材18の上に配置されてもよい。外側環状部材20が内側環状部材18に取り付けられた後、ハブ106が内側環状部材の中空部36を通る際、可撓性部材40が外周方向へ折れ曲がり、または伸長するのを、アコーディオン領域23が手助けしてもよい。こうして、安全システム10は単一の部品として組み立てられ、注入装置100に組み込まれてもよい。
【0040】
ある実施形態では、針安全システム10は組み立てられてから、注射器等の注入装置100に組み込まれる。針安全システム10と注射器100とが同軸に揃えられ、それらの両方に対して圧縮力が長手方向に加えられる。組み合わされた針安全システム10と注射器100とはその後、入れ子構造のトレイ(図示せず。)の中に、たとえば1トレイあたり100個ずつ梱包されてもよい。組み合わされた針安全システム10と注射器100とが中に詰められた入れ子構造のトレイは、その後、自動注射器装填システム(図示せず。)へ搬送されてもよい。このシステムは装填ラインを含む。そこでは、注入可能な薬剤等の物質が注射器100に詰められ、プランジャ(図示せず。)が注射器100に挿入される。その他に、組み立てられた針安全システム10だけが入れ子構造のトレイに挿入されて、自動注射器装填システムへ搬送されてもよい。その後、注射器100が、入れ子構造のトレイに保持された針安全システム10に組み込まれてもよい。その後、注射器100に物質が詰められてもよく、次にプランジャが注射器100の中に挿入されてもよい。
【0041】
特定の実施形態についての以上の説明は、例示と説明とを目的として提示されている。これらの実施形態の例は、実施形態を記述された形そのままに徹底することも、限定することも意図していない。記述された特定の詳細はすべてが、記述された実施形態を実施する目的で必要とされるものではない。
【0042】
上記の教えを考慮して多くの修正と変形とが可能であることは、当業者にとって明らかであろう。発明の属する技術分野における技術的知識を応用することにより、過度の実験を行うことも、発明の一般的な概念から外れることもなく、特定の実施形態の様々な応用に対して修正および/または改造を容易に加えられることも、当業者にとって明らかであろう。そのような改造および修正は、ここに提示された教示と案内とに基づく限り、意味的にも範囲的にも、記述された実施形態の均等物に属することを意図している。
【0043】
発明の詳細な説明の欄は、請求の範囲の解釈に使用されることを意図している。発明の概要の欄と要約書とは、発明者によって熟考されたような発明の実施形態の例を1以上与えるが、それらのすべてを与えるわけではないので、発明と請求の範囲とを限定することを意図していない。
【0044】
ここで使用される表現または用語の目的は説明であって、限定ではないので、この明細書の用語または表現は、当業者によって解釈されるべきである。
【0045】
発明の幅と範囲とは、上記の実施形態の例のいずれによっても、限定されるべきではなく、請求の範囲とその均等物とによってのみ定義されるべきである。