(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】プリプレグの製造方法等
(51)【国際特許分類】
B29B 15/08 20060101AFI20241106BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241106BHJP
D06M 13/513 20060101ALN20241106BHJP
D06M 13/53 20060101ALN20241106BHJP
C03C 25/002 20180101ALN20241106BHJP
C03C 25/40 20060101ALN20241106BHJP
D03D 1/00 20060101ALN20241106BHJP
D03D 15/267 20210101ALN20241106BHJP
【FI】
B29B15/08
H05K1/03 610T
D06M13/513
D06M13/53
C03C25/002
C03C25/40
D03D1/00 A
D03D15/267
(21)【出願番号】P 2023138135
(22)【出願日】2023-08-28
【審査請求日】2023-11-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100190137
【氏名又は名称】大谷 仁郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優香
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 周
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特許第7375902(JP,B1)
【文献】特許第7269416(JP,B1)
【文献】特開2021-195689(JP,A)
【文献】特開2014-091782(JP,A)
【文献】中国実用新案第213137446(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
D06C
D06M 10/00-11/84;13/00-15/715;16/00;19/00-23/18
B65D 81/24
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスクロスを加熱脱油する工程、前記加熱脱油後の前記ガラスクロスを表面処理する工程、及び前記表面処理後の前記ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させ、そしてプリプレグを作製する工程を有する、プリプレグの製造方法であって、
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(a):
(Tdp-14)×D ≦1500 ・・・(a)
(式中、Tdpは、保管環境の気圧下における露点であり、Dは、保管日数であり、ここでの保管は、前記加熱脱油する工程、及び前記表面処理する工程の、両方の工程が完了した時点が起点、かつ、前記ガラスクロスを用いたプリプレグの製造が完了した時点が終点として扱われる)
を満たす条件で保管したもの、かつ、保管後の10GHzにおける誘電正接が0.00200以下である該ガラスクロスを用いる、
プリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記ガラスクロスは、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸、及び緯糸として有しており、
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO
2)換算で95.0~100質量%である、請求項1に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(b):
(Tdp-8)×D ≦800 ・・・(b)
を満たす条件で保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(c):
(Tdp-2)×D ≦800 ・・・(c)
を満たす条件で保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、請求項3に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項5】
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(d):
(Tdp-(-4))×D ≦1500 ・・・(d)
を満たす条件で保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、請求項4に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項6】
前記加熱脱油する工程が、下記条件(i)、及び(ii):
(i)600~1500℃の温度、かつ、10分以下の時間で前記ガラスクロスを加熱脱油する工程;及び
(ii)大気圧下での露点温度が15℃以下の雰囲気下で、300℃以上600℃未満の温度、かつ、24時間以上の時間で前記ガラスクロスを加熱脱油する工程;
の少なくとも一方である、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項7】
前記加熱脱油する工程が、
(i)800~1500℃の温度、かつ、10分以下の時間で前記ガラスクロスを加熱脱油する工程;
である、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項8】
下記式(1):
X(R)
3-nSiY
n ・・・(1)
(式中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の少なくとも一方を有する基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、そしてRは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群から選ばれる基である)
で示される前記シランカップリング剤を含む表面処理剤で前記表面処理した後に保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂組成物の硬化物の、10GHzにおける誘電正接が0.0025以下である、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、及びフッ素樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上の樹脂を含む、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂組成物が、無機粒子、及び架橋剤の少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項12】
前記ガラスクロスとして、
前記条件式(a)満たす条件での保管前、及び保管後のいずれにおいても、10GHzにおける誘電正接が0.00200以下である該ガラスクロスを用いる、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項13】
前記ガラスクロスとして、
保管前後での誘電正接の変化率{前記条件式(a)満たす条件での保管後での、10GHzにおける誘電正接/前記条件式(a)満たす条件での保管前での、10GHzにおける誘電正接)}が、180%以下である該ガラスクロスを用いる、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項14】
樹脂組成物を含浸させた前記ガラスクロスを加熱、及び乾燥する工程を更に有する、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法により、プリント配線基板用
のプリプレグを製造する、プリント配線基板用のプリプレグの製造方法。
【請求項16】
前記表面処理する工程の後、開繊工程を経て得られる前記ガラスクロスを、前記プリプレグの製造方法に用いる、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項17】
前記表面処理に用いる表面処理剤は、分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を含む、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項18】
前記ガラスクロスの保管は、保管室内での該ガラスクロスの保管である、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項19】
前記ガラスクロスの保管は、包装箱内での該ガラスクロスの保管である、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリプレグの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、及び5G通信に代表される高速通信化が進んでいる。この背景に伴い、例えば、高速通信用のプリント配線基板に対して、耐熱性の向上だけでなく、その絶縁材料の更なる誘電特性の向上(例えば、誘電正接の低減)が望まれている。同様に、プリント配線基板の絶縁材料に用いられるプリプレグに対しても、誘電特性の向上が望まれている。ここで、プリプレグは、ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させる工程を経て作製される。ゆえに、プリプレグの作製に用いられる、上記ガラスクロスに対して、また、プリプレグの作製に用いられる上記樹脂組成物の硬化物に対しても、誘電特性の向上が望まれている背景がある。
【0003】
誘電特性を向上させる手段として、例えば、低誘電ガラスを用いてプリプレグを作製する手法が知られている(特許文献1、及び2参照)。具体的に、特許文献1は、二酸化ケイ素(SiO2)組成量が98~100質量%のガラス糸を用いてプリプレグを作製すること、特許文献2は、石英ガラスクロスを加熱処理すること、をそれぞれ記載している。
【0004】
また、石英ガラス表面のSi-OH基は、活性が強く、特に高温雰囲気で水分を水素結合で取り込み、Si-O-Si結合を開裂させることによりSi-OH基が生じ(SiO2+H2O⇔Si-OH)、生じたSi-OH基がガラスクロスの誘電正接を悪化させることが知られている(例えば、特許文献3段落[0006]参照)。特許文献3は、Si-OH基を再度結合させてSi-O-Si結合を形成し、これによりガラスクロスを低誘電正接化することを目的の一つとした手法を開示している。かかる手法は、石英ガラスクロスを加熱炉に入れ、真空又は露点15℃以下の気体中で、最高加熱温度が100~600℃、かつ「100℃以上の加熱温度(℃)」×「加熱時間(h)」で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱する、上記石英ガラスクロスの加熱方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-127747号公報
【文献】特開2021-63320号公報
【文献】特許第7269416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、100℃未満の温度領域では、水はガラスクロスの低誘電正接化に寄与しないと考えられてきた。このことは、特許文献3における平衡反応(SiO2+H2O⇔Si-OH)についての「100℃未満ではSi-OH基同士の反応における活性化エネルギーが足りないためにSi-OH基の量が低下せず誘電正接も低下しない。」(特許文献3段落0025)旨の開示にも裏付けられる。
【0007】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1~3に開示されるような手段でガラスクロスの製造時の誘電正接を低下させたとしても、ガラスクロスを長期間に亘って保管するとき、100℃未満の環境下においても上記平衡反応によるシラノール基の生成が進行し、そしてガラスクロスの誘電正接が増加してしまうということを、初めて見出した。
【0008】
そこで、本開示は、100℃未満の環境下で長期間に亘り、優れた誘電特性を維持したガラスクロスを用いた、プリプレグの製造方法を提供することを目的の一つとする。
また、本開示は、プリント配線基板用の上記プリプレグを製造する、プリント配線基板用のプリプレグの製造方法を提供することも目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]
ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させ、そしてプリプレグを作製する工程を有する、プリプレグの製造方法であって、
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(a):
(Tdp-14)×D ≦1500 ・・・(a)
(式中、Tdpは、保管環境の気圧下における露点であり、Dは、保管日数である)
を満たす条件で保管したもの、かつ、保管後の10GHzにおける誘電正接が0.00200以下である該ガラスクロスを用いる、
プリプレグの製造方法。
[2]
前記ガラスクロスは、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸、及び緯糸として有しており、
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0~100質量%である、項目1に記載のプリプレグの製造方法。
[3]
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(b):
(Tdp-8)×D ≦800 ・・・(b)
を満たす条件で保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、項目1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
[4]
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(c):
(Tdp-2)×D ≦800 ・・・(c)
を満たす条件で保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、項目3に記載のプリプレグの製造方法。
[5]
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(d):
(Tdp-(-4))×D ≦1500 ・・・(d)
を満たす条件で保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、項目4に記載のプリプレグの製造方法。
[6]
下記条件(i)、及び(ii):
(i)600~1500℃の温度、かつ、10分以下の時間で前記ガラスクロスを加熱脱油する工程;及び
(ii)大気圧下での露点温度が15℃以下の雰囲気下で、300℃以上600℃未満の温度、かつ、24時間以上の時間で前記ガラスクロスを加熱脱油する工程;
の少なくとも一方に基づいて加熱脱油した後に保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、項目1~5のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[7]
下記式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の少なくとも一方を有する基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、そしてRは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群から選ばれる基である)
で示される前記シランカップリング剤を含む表面処理剤で表面処理した後に保管した前記ガラスクロスを用いて製造する、項目1~6のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[8]
前記樹脂組成物の硬化物の、10GHzにおける誘電正接が0.0025以下である、項目1~7のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[9]
前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、及びフッ素樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上の樹脂を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[10]
前記樹脂組成物が、無機粒子、及び架橋剤の少なくとも一方を含む、項目1~9のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[11]
前記ガラスクロスとして、
前記条件式(a)満たす条件での保管前、及び保管後のいずれにおいても、10GHzにおける誘電正接が0.00200以下である該ガラスクロスを用いる、項目1~10のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[12]
前記ガラスクロスとして、
保管前後での誘電正接の変化率{前記条件式(a)満たす条件での保管後での、10GHzにおける誘電正接/前記条件式(a)満たす条件での保管前での、10GHzにおける誘電正接)}が、180%以下である該ガラスクロスを用いる、項目1~11のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[13]
樹脂組成物を含浸させた前記ガラスクロスを加熱、及び乾燥する工程を更に有する、項目1~12のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
[14]
プリント配線基板用の、項目1~13のいずれか1項に記載の前記プリプレグを製造する、プリント配線基板用のプリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、100℃未満の環境下で長期間に亘り、優れた誘電特性を維持したガラスクロスを用いた、プリプレグの製造方法を提供することができる。
また、本開示は、プリント配線基板用の上記プリプレグを製造する、プリント配線基板用のプリプレグの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。本発明は、本実施形態のみに限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0012】
本明細書中、各種の測定は、特に断りがない限り、実施例に記載の手法に基づいて行われる。本明細書中、段階的な記載の数値範囲における上限値又は下限値は、対応する他の段階的な記載の数値範囲における上限値又は下限値に置き換わってよく、更に、実施例に記載の、対応する値に置き換わってよい。本明細書中、「工程」について、独立した工程である場合のみならず、他の工程と明確に区別できない場合でも、その工程の機能が達成されれば本用語に含まれる。
【0013】
[プリプレグの製造方法]
本実施形態の一態様は、プリプレグの製造方法である。
かかるプリプレグの製造方法は、ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させ、そしてプリプレグを作製する工程を有する、プリプレグの製造方法であって、
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(a):
(Tdp-14)×D ≦1500 ・・・(a)
(式中、Tdpは、保管環境の気圧下における露点であり、Dは、保管日数である)
を満たす条件で保管したもの、かつ、保管後の10GHzにおける誘電正接が0.00200以下である該ガラスクロスを用いる、
プリプレグの製造方法である。
かかる方法によれば、100℃未満の環境下で長期間に亘り、優れた誘電特性を維持したガラスクロスを用いた、プリプレグの製造方法を提供することができる。
【0014】
従来、100℃未満の温度領域では、ガラス表面のSi-O-Si結合が水分によって開裂してSi-OH基が生じる反応は活性化されない、との認識が一般的であった。それゆえ従来、当業者は、このような温度領域でガラスクロスを保管するなかでその誘電正接が経時的に上昇してしまうことを解決しようとする着想にそもそも至らず、従って、これを解決するための手法(例えば、ガラスクロスの保管方法)について、これまで特段に考慮、及び検討されてこなかった。その結果、誘電正接が上昇したガラスクロスを用いてプリプレグを製造する場合があった。
【0015】
この点、プリプレグ製造前のガラスクロス(プリプレグ製造用のガラスクロス)について、その保管条件を式(a)の範囲とすることで、保管期間中、保管環境に存在する水分によりSi-O-Si結合が開裂すること、ひいては、これによりSi-OH基が生じること、を抑制できる。このため、ガラスクロスの誘電正接が大きく悪化する前に、そのガラスクロスを用いて、誘電特性の良好なプリプレグを製造することができる。
本開示において「保管環境」は、ガラスクロスが直接接する雰囲気(気体)を意味する。また、本開示において「抑制」とは、事象の発生、及びその増大の程度等が低減されることを意味し、例えば、誘電正接についての「抑制」は、誘電正接が全く上昇しないことを意味するものではなく、誘電正接の上昇にある程度制限が加わればよい。
【0016】
上記製造方法は、例えば、
ガラスクロスを、保管環境累積値{(Tdp-14)×D}が上記範囲を満たすように保管する工程(保管工程);及び
保管環境累積値が上記範囲を満たす状態で、ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させる工程(樹脂含浸工程);
を含むことができる。
なお、上記製造方法は、
樹脂組成物を含浸させたガラスクロスを加熱、及び乾燥する工程(加熱乾燥工程);
を更に有してよい。
【0017】
〈保管工程〉
保管工程では、ガラスクロスを、保管環境累積値{(Tdp-14)×D}が上記範囲を満たすように保管する。露点を制御する方法、及び保管日数を制御する方法等については、それぞれ後述する。
【0018】
《プリプレグ用樹脂ワニス》
本実施形態で用いる樹脂組成物は、ガラスクロスへの含浸性の向上の観点、及びハンドリングの容易性の観点から、ワニス(樹脂組成物を溶媒に溶解、及び/又は均一に分散させた状態)として調製してもよい。
【0019】
ワニスの調製に使用される溶媒は、上記樹脂組成物を溶解、及び/又は分散させることができ、かつ、該組成物が未硬化又は半硬化の状態に保持される温度で蒸発させることができるものがよい。溶媒としては、例えば、沸点が50~200℃、好ましくは80~150℃の有機溶媒が挙げられる。溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系非極性溶剤;及びエーテル類、エステル類等の炭化水素系極性溶剤;等が挙げられる。溶媒に溶解し難い有機樹脂では、界面活性剤と水で水系分散液として使用することも可能である。溶媒の使用量は、上記樹脂組成物が溶解・分散し、そして得られた溶媒又は分散液をガラスクロスに含浸させることができる量であればよい。溶媒の使用量は、例えば、該樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは、10~200質量部、より好ましくは20~100質量部である。
【0020】
〈樹脂含浸工程〉
樹脂含浸工程では、保管環境累積値が上記範囲を満たす状態で、ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させる。ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させる手法としては、例えば、
ガラスクロスに上記ワニスを含浸させる工程;
により行われる。含浸方法としては、既知の方法を用いてよく、例えば、浸漬、塗布、フィルムラミネーション等が挙げられる。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。このとき、組成、及び濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に希望とする組成、及び含浸量に調整することも可能である。
【0021】
〈加熱乾燥工程〉
加熱乾燥工程では、樹脂組成物を含浸させたガラスクロスを乾燥炉にて加熱、及び乾燥させ、これにより、溶媒を揮発させることができる。ワニスが含浸したガラスクロスは、乾燥炉中で、好ましくは50~150℃、より好ましくは60~120℃で加熱されてよい。乾燥時間は、例えば、1~10分である。これにより、溶媒が好適に除去され易い。水系分散液の場合は、界面活性剤を除去するため、更に300~400℃で5分~1時間加熱することが好ましい。
【0022】
〈ガラスクロス〉
ガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を、経糸及び緯糸として有しており、特に、該ガラス糸が経糸及び緯糸として製織された構造を有する。ガラスクロスの織り構造は、平織り、ななこ織り、朱子織り、及び綾織り等の織り構造が挙げられ、なかでも、平織り構造が好ましい。なお、本実施形態において、保管環境累積値の計測期間(すなわち、ガラスクロスを用いてプリプレグを製造するまでの、該ガラスクロスの保管期間を含めた期間)は、比較的長期を想定している。従って、本実施形態では、いずれの織り構造が採用されても保管の影響を等しい程度受け、そしてこのような織り構造の違いは保管環境累積値の計測には影響しない、と扱われる。
【0023】
ガラスクロスを構成する経糸、及び緯糸の打ち込み密度は、好ましくは10~120本/inch(=10~120本/25mm)、より好ましくは40~100本/inchである。打ち込み密度が上記の範囲内であれば、好ましい厚みのガラスクロスが得られ易い。経糸、及び緯糸の打ち込み密度は、互いに異なってよい。
【0024】
ガラスクロスの目付(ガラスクロスの質量)は、好ましくは8~250g/m2、より好ましくは8~100g/m2、更に好ましくは8~80g/m2、特に好ましくは8~50g/m2である。ガラスクロスの目付が上記の範囲内であれば、好ましい厚みのガラスクロスが得られ易い。
【0025】
ガラスクロスの厚みは、好ましくは60μm以下、より好ましくは55μm以下、更に好ましくは50μm以下である。ガラスクロスの厚みが上記の範囲内であれば、絶縁材料として好適なガラスクロスが得られ易い。ガラスクロスの厚みは、0超え、5μm以上、又は10μm以上でよい。
【0026】
ガラスクロスの誘電正接は、実施例に記載の方法により測定される。本実施形態において、上記保管後の10GHzにおける誘電正接が、0.00200以下である。10GHzにおける誘電正接が0.00200以下であるガラスクロスは、100℃未満の温度下で、保管環境中の水分の影響によってその誘電正接が経時で増加する。ただし、ガラスクロスの保管条件を上記式(a)の範囲に制御することで、ガラスクロス誘電正接の増加を好適に抑制することができる。
【0027】
ガラスクロス(上記保管後のガラスクロス)の、10GHzにおける誘電正接は、好ましくは0.00160以下、より好ましくは0.00120以下、更に好ましくは0.00090以下、より更に好ましくは0.00070以下、特に好ましくは0.00050以下、特に好ましくは0.00040以下である。誘電正接が上記範囲内であるガラスクロスは、保管環境におけるガラスクロス周囲の水分の影響を受け易いため、誘電正接の上昇抑制効果が得られ易い。
【0028】
ここで、ガラスクロスとして、上記保管前、及び上記保管後のいずれにおいても、10GHzにおける誘電正接が0.00200以下である該ガラスクロスを用いることが好ましい。これによれば、本実施形態の効果を得易い。同様の観点から、上記保管前、及び上記保管後のいずれにおいても、10GHzにおけるガラスクロスの誘電正接が、好ましくは0.00160以下、より好ましくは0.00120以下、更に好ましくは0.00090以下、より更に好ましくは0.00070以下、特に好ましくは0.00050以下、特に好ましくは0.00040以下である。
【0029】
また、ガラスクロスとして、
保管前後での誘電正接の変化率{条件式(a)満たす条件での保管後での、10GHzにおける誘電正接/条件式(a)満たす条件での保管前での、10GHzにおける誘電正接)}が、180%以下又は170%以下である該ガラスクロスを用いることが好ましい。これによれば、本実施形態の効果を得易い。
【0030】
《ガラス糸》
ガラスクロスを構成するガラス糸は、低誘電ガラスを原料にして得られることが好ましい。かかるガラス糸は、ケイ素(Si)含量が、SiO2換算で95.0~100質量%であることがより好ましい。このようなガラス糸を用いることで、得られるガラスクロスの誘電特性の向上(例えば、誘電正接の低減)を図り易い。また、このようなガラス糸において、経時でのガラスクロスの誘電正接の増加が顕著にみられ易いため、このようなガラス糸を用いる態様について本実施形態を適用することで、誘電正接の上昇抑制効果が得られ易い。誘電特性を向上し易い観点から、Si含量は、好ましくは99.0質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上である。ケイ素含量が上記範囲内であることによって、ガラス糸中のSi-O-Si結合の数が多い傾向となり、このため、本実施形態の効果が得られ易い。
【0031】
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均フィラメント径は、好ましくは2.5~9.0μm、より好ましくは2.5~7.5μm、更に好ましくは3.5~7.0μm、より更に好ましくは3.5~6.0μm、特に好ましくは3.5~5.5μmである。フィラメント径が上記下限値以上であると、フィラメントの破断強度を確保し易いため、得られるガラスクロスに毛羽が発生し難い。また、フィラメント径が上記上限値未満であると、ガラスクロスの質量が大きくなり過ぎることを防止できるため、搬送又は加工を行い易い。
【0032】
《シランカップリング剤》
ガラスクロスは、その表面に、シランカップリング剤を含む表面処理剤を有することが好ましい。好ましくは、ガラスクロスを構成するガラス糸(ガラスフィラメントを含む)が、シランカップリング剤を含む表面処理剤により表面処理されている。ガラスクロスが表面処理剤を有することにより、プリプレグを製造するとき、マトリックス樹脂との反応性が向上する傾向にある。また、保管時における水分の影響を受け難くなるため、誘電正接の経時的な上昇をより効果的に抑制し易い。
【0033】
表面処理剤は、例えば、下記式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
{式中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の少なくとも一方を有する基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、そしてRは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群から選ばれる基である}
で示されるシランカップリング剤を含むことが好ましい。すなわち、プリプレグは、上記表面処理剤で表面処理した後に保管したガラスクロスを用いて製造されることが好ましい。
【0034】
上記Xは、マトリックス樹脂との反応性に優れる観点から、メタクリロキシ基、又はアクリロキシ基を1つ以上有する、有機官能基であることがより好ましい。
上記Yのアルコキシ基としては、ガラスクロスへの安定処理化を図り易い観点から、炭素数1~5(炭素数が、1、2、3、4又は5)のアルコキシ基が好ましい。
【0035】
表面処理剤として、式(1)に示すシランカップリング剤は、単体で使用されてよく、式(1)中のXが異なる2種以上のシランカップリング剤と混合して使用されてもよい。また、式(1)に示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、5-ヘキセニルトリメトキシシラン、等の単体又はこれらの混合物として使用されることができる。
【0036】
シランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600、より好ましくは150~500、更に好ましくは200~450である。なかでも、分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いることが好ましい。分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いてガラス糸表面を処理することにより、ガラス表面での処理剤密度が高くなり易く、このため、マトリックス樹脂との反応性が更に向上する傾向にある。
【0037】
樹脂との反応性を阻害し難い観点から、シランカップリング剤は、非イオン性であることが好ましい。非イオン性のシランカップリング剤のなかでも、ビニル基、メタクリロキシ基、及びアクリロキシ基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤が好ましく、なかでもメタクリロキシ基、又はアクリロキシ基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤がより好ましい。樹脂との反応性を阻害し難いことで、得られるプリント配線基板の耐熱性、及び信頼性を高め易い。
【0038】
《強熱減量値》
ガラスクロスの強熱減量値は、好ましくは0.01質量%以上2.0質量%未満、より好ましくは0.01質量%以上1.5質量%未満、更に好ましくは0.02質量%以上1.0質量%未満、より更に好ましくは0.03質量%以上0.8質量%未満、特に好ましくは0.03質量%以上0.3質量%未満である。強熱減量値が上記範囲内であると、誘電正接の低減が図られたガラスクロスを得易い。強熱減量値は、JIS R3420に準拠して測定される。
【0039】
[保管]
〈保管環境の累積値〉
本実施形態の、プリプレグの製造方法は、ガラスクロスの保管環境の気圧下における露点、及び保管日数によって定まる保管環境累積値が、下記条件式(a):
(Tdp-14)×D ≦1500 ・・・(a)
(式中、Tdpは、保管環境の気圧下における露点であり、Dは、保管日数である)
を満たす該ガラスクロスを用いてプリプレグを製造することを含む。(Tdp-14)が負の値の場合、0として算出する。
【0040】
一例として、ガラスクロスを、露点(Tdp)が18℃dpの環境に30日、次いで露点(Tdp)が24℃dpの環境に30日、最後に露点(Tdp)が10℃dpの環境に30日保管した場合、上記式(a)は、下記式:
(18-14)×30+(24-14)×30+0×30=420
として算出される。
【0041】
本開示において「保管環境累積値」は、保管環境の気圧下における露点、及び保管日数によって定まる値であり、式(a)、及び後述の式(b)~(e)で示される値を指す。ガラスクロスの保管環境累積値を制御するには、保管環境の気圧下における露点、及び/又は保管日数を制御すればよい。なお、本趣旨の「保管日数」は、保管工程の日数のみならず、ガラスクロスを用いてプリプレグの製造が完了するまでの各種工程の日数が含まれる。ここでのプリプレグの製造の完了とは、ガラスクロスに樹脂組成物が含浸された時点(すなわち、上記〈樹脂含浸工程〉が完了した時点)を意味する。
【0042】
保管環境累積値は、好ましくは下記式{好ましくは式(b)、より好ましくは式(c)、更に好ましくは式(d)、特に好ましくは式(e)}:
(Tdp-8)×D ≦800 ・・・(b)
(Tdp-2)×D ≦800 ・・・(c)
(Tdp-(-4))×D ≦1500 ・・・(d)
(Tdp-(-10))×D ≦2300 ・・・(e)
{式中、Tdpは、ガラスクロスの保管環境の気圧下における露点であり、Dは、保管日数である。式(b)における(Tdp-8)、式(c)における(Tdp-2)、式(d)における(Tdp-(-4))、及び式(e)における(Tdp-(-10))が、それぞれ負の値の場合、0として算出する。}
を満たす。
【0043】
上記式(a)は、更に以下の式(a´):
(Tdp-14)×D ≦800 ・・・(a´)
を満たすことが好ましい。
上記式(b)は、更に以下の式(b´):
(Tdp-8)×D ≦500 ・・・(b´)
を満たすことが好ましい。
上記式(c)は、更に以下の式(c´):
(Tdp-2)×D ≦500 ・・・(c´)
を満たすことが好ましい。
上記式(d)は、更に以下の式(d´):
(Tdp-(-4))×D ≦800 ・・・(d´)
を満たすことが好ましい。
上記式(e)は、更に以下の式(e´):
(Tdp-2)×D ≦1500 ・・・(e´)
を満たすことが好ましい。
上記によれば、100℃未満の環境下で長期間に亘り、優れた誘電特性を維持したガラスクロスを用いた、プリプレグの製造方法を提供し易い。
【0044】
〈保管日数〉
ガラスクロスの保管期間は、ガラスクロスの保管環境累積値が式(a)を満たすように制御される。保管日数は、ガラスクロスの輸送に要する時間の確保、及び供給安定性の向上等の観点から、好ましくは30日以上、より好ましくは90日以上、更に好ましくは180日以上、より更に好ましくは365日以上、特に好ましくは730日以上である。また、保管コストの低減等の観点から、ガラスクロスの保管期間は、好ましくは5年以下、より好ましくは3年以下である。保管期間が上記範囲内であれば、保管環境累積値を制御することの効果を十分に得易い。保管期間が長くなればなるほど、誘電正接の上昇抑制効果がより顕著に得られ易い。
【0045】
プリント配線基板のプリプレグ用のガラスクロスとして、必要な特性を具備しているという観点から、ガラスクロスを加熱脱油する工程、及び加熱脱油後のガラスクロスにシランカップリング剤を含む表面処理剤で表面処理する工程の、両方の工程が完了した時点を起点に本趣旨の「保管日数」の計数を行う。保管日数の計数の起点は、保管環境累積値の計測起点と一致する。
また、本趣旨の「保管日数」は、ガラスクロスをプリプレグに加工する日までを計測する。すなわち、本趣旨の「保管日数」の終点は、ガラスクロスを用いてプリプレグの製造が完了した日であり、「保管環境累積値の計測期間」の終点と一致してよい。なお、プリプレグの製造が完了とは、上述の通り、ガラスクロスに樹脂組成物が含浸された時点(すなわち、上記〈樹脂含浸工程〉が完了した時点)を意味する。
【0046】
保管日数の制御に関しては、例えば、
本開示の範囲を満たす保管日数を算出し、その保管日数に達する前に、プリプレグ製造用にガラスクロスを使用する;また
ガラスクロスの保管環境の露点をモニタリングし、随時、保管環境累積値を算出し、本開示の範囲を満たす間に、プリプレグ製造用にガラスクロスを使用する;
等の手法を採用してよい。
【0047】
一例として、
所定の露点下においてT1日に亘って保管する;
次いで、所定の露点下においてガラスクロスを加熱脱油し、その後に所定の露点下においてT2日に亘って保管する;
最後に、所定の露点下においてガラスクロスに表面処理し、その後に所定の露点下においてT3日に亘って保管する;
ような場合、保管日数はT3として扱う。
更なる一例として、ガラスクロスを加熱脱油する工程を有する一方、ガラスクロスを表面処理する工程を有しないような場合、保管期間は上記T2として扱う。
【0048】
誘電正接の低いプリプレグを得易い観点から、加熱脱油工程は、下記条件(i)、及び(ii):
(i)600~1500℃の温度、かつ、10分以下の時間でガラスクロスを加熱脱油する工程;及び
(ii)大気圧下での露点温度が15℃以下の雰囲気下で、300℃以上600℃未満の温度、かつ、24時間以上の時間でガラスクロスを加熱脱油する工程;
の少なくとも一方に基づいて行われることが好ましい。すなわち、プリプレグは、上記条件(i)、及び(ii)の少なくとも一方に基づいて加熱脱油した後に保管したガラスクロスを用いて製造されることが好ましい。
【0049】
本実施形態の効果を得易い観点から、ガラスクロスは、保管環境から取り出してから、例えば、包装材から取り出してから、好ましくは48時間以内、より好ましくは24時間以内のうちに、プリプレグ製造用に用いることが好ましい。
【0050】
〈露点〉
ガラスクロスの保管環境の気圧下における露点は、ガラスクロスの保管環境累積値が式(a)を満たすように制御される。ガラスクロスの保管環境の気圧下における露点は、18℃dp以下であることが好ましい。本開示において、特に断りのない限り、露点とは、保管環境の気圧下の露点を指す。露点が18℃dp以下であると、ガラスクロスの誘電正接が経時的に増加するのを防ぎ易い。保管環境の露点は、好ましくは13℃dp以下、より好ましくは8℃dp以下、更に好ましくは4℃dp以下又は0℃dp、より更に好ましくは-4℃dp以下、特に好ましくは-10℃dp以下である。
【0051】
露点を上記範囲に制御するには、既知の湿度制御方法、湿度制御媒体、湿度制御機構、湿度制御装置を用いることができる。例えば、(1)吸湿剤を使用すること、(2)所定の含有水分量の気体(例えば、乾燥気体)で周囲雰囲気を置換すること、(3)低温での結露を利用して周囲雰囲気の除湿を行うこと、(4)減圧を行って周囲雰囲気を所定の含有水分量とすること、並びに、(5)これらの組み合わせ、が挙げられる。
【0052】
露点の制御は、露点が上記範囲に制御される限り、開放系若しくは閉鎖系で、連続的若しくは断続的(定期的若しくは不定期的)に、行うことができる。例えば、上記(1)~(5)の制御を閉鎖系(例えば、密封された包装材内)で連続的に行うこと、閉鎖系で断続的に(例えば、露点が上昇し易い季節や天候の日に限り)行うこと、開放系でガラスクロス周囲の露点の変化を連続的に制御すること、等が挙げられる。露点を連続的な湿度制御によって維持する場合、吸湿剤、乾燥気体の置換、除湿機等を使用することが好ましい。
【0053】
露点の制御に吸湿剤を用いる場合、吸湿力の観点から、吸湿剤は、例えば、シリカゲル、酸化カルシウム、塩化カルシウム、焼成珪藻土、合成ゼオライト、クレイ系乾燥剤、五酸化リン、硫酸マグネシウム、硫酸銅、塩化マグネシウム、塩化コバルト、粒状ソーダ石灰及び過塩素酸マグネシウムから成る群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、シリカゲル、酸化カルシウム、塩化カルシウム、及び焼成珪藻土から成る群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。また、占有スペース、及び包装形態の観点から、シート状の吸湿剤を使用することが好ましい。
【0054】
使用する吸湿剤は、吸湿剤の吸湿力(吸湿量、及び吸湿時間)、並びに保管日数等に応じて適切な量を用いることが好ましい。吸湿量に関しては、十分以上の量を用いることが好ましい。すなわち、吸湿剤が吸湿できる最大の吸湿量が、雰囲気中の水分量よりも大きいことが好ましい。また、吸湿剤を定期的に交換すれば、露点を制御することが容易となる。
【0055】
露点の制御に乾燥気体を用いる場合、露点温度が18℃dp以下の気体(乾燥気体)を用いることが好ましい。このような乾燥気体であれば、ガラスクロスの保管環境の露点を制御し易い。乾燥気体の露点温度は、好ましくは10℃dp以下、より好ましくは0℃dp以下、更に好ましくは-10℃dp以下、より更に好ましくは-20℃dp以下、特に好ましくは-30℃dp以下である。
【0056】
乾燥気体としては、例えば、上記露点温度範囲の乾燥空気、又は、上記露点温度範囲の窒素、アルゴン及び酸素から成る群から選ばれる少なくとも一つを含む気体を利用することができる。扱いの容易さの観点から、乾燥空気を用いることが好ましい。
【0057】
露点の制御に除湿機を用いる場合、除湿機としては、例えば、低温での結露を利用するコンプレッサー式、除湿剤を熱により何度も再生させるデシカント式(ゼオライト式)等の除湿機が挙げられる。
【0058】
露点の経時変化を抑制する場合、ガラスクロスを密封された保管環境に保管することが好ましい。密封方法としては、特に保管環境内への水分の流入が抑制されることが好ましい。具体的な保管形態については後述する。保管環境累積値の計測期間における露点は、一定で推移するように制御されてもよく、変動してよい。
【0059】
〈露点と保管日数〉
露点が18℃dp以上の環境下で保管された保管日数は、365日以内であることが好ましく、180日以内であることがより好ましく、60日以内であることが更に好ましく、30日以内であることが特に好ましい。また、露点が10℃dp以上の環境下で保管された保管日数は、365日以内であることが好ましく、180日以内であることがより好ましく、60日以内であることが更に好ましく、30日以内であることが特に好ましい。更に、露点が5℃dp以上の環境下で保管された保管日数は、365日以内であることが好ましく、180日以内であることがより好ましく、60日以内であることが更に好ましく、30日以内であることが特に好ましい。
ある露点以上の露点環境での保管日数を、上記範囲に制御すれば、経時でのガラスクロスの誘電正接の上昇を抑制し易い。
【0060】
〈温度〉
ガラスクロスは、ガラスクロスの保管環境の平均温度が100℃未満の雰囲気下で保管されることが好ましい。平均温度が100℃未満であると、ガラスクロスの誘電正接が経時的に増加するのを効果的に抑制し易い。ガラスクロスを保管するときのガラスクロス保管環境の平均温度は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下、より更に好ましくは30℃以下、特に好ましくは25℃以下である。なお、保管環境の最大温度は好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは200℃以下である。また、保管環境の温度が継続して100℃以上、前記最大温度以下である時間は、好ましくは24時間未満、より好ましくは3時間未満、更に好ましくは1時間未満である。好ましくは、保管期間の全体に亘って、保管環境の温度が100℃未満に保持されるように制御する。より好ましくは、40℃以下、更に好ましくは35℃以下、より更に好ましくは30℃以下、特に好ましくは30℃以下の温度となるように保管期間全体に亘って、制御する。保管環境累積値の計測期間における温度は、一定で推移するように制御されてもよく、変動してよい。かかる計測期間中、仮に、該温度が想定値を超えて推移する場合、保管環境の平均温度が100℃未満であるなら、本発明の効果は損なわれない。
【0061】
〈圧力〉
露点の制御に減圧を行う場合には、大気圧(105Pa)未満の減圧下となるように制御することが好ましい。ガラスクロスの保管環境の気圧を大気圧未満の減圧下となるように制御する方法は、既知の減圧制御方法、減圧制御媒体、減圧制御機構、及び減圧制御装置等を用いることができ、例えば、真空ポンプが挙げられる。
【0062】
気圧の維持は、ガラスクロスの保管環境が大気圧未満の減圧下となるように維持される限り、既知の方法で行われることができる。例えば、保管環境を連続的若しくは断続的(定期的若しくは不定期的)に減圧すること、また、ガラスクロスを減圧された包装材に密封して気圧の変化を抑えること、等でよい。ガラスクロスを保管又は包装するときのガラスクロスの周囲の気圧は、好ましくは104Pa以下、より好ましくは103Pa以下である。保管環境累積値の計測期間における気圧は、一定で推移するように制御されてもよく、変動してよい。
【0063】
〈保管形態〉
ガラスクロスの保管形態としては、例えば、保管室等の室内での保管、及び包装材中での保管、並びにこれらの組み合わせ等が挙げられる。包装材は、箱、及びフィルム等が挙げられる。それぞれの場合で、保管環境、すなわちガラスクロスが直接触れる雰囲気の露点、任意に平均温度、及び圧力を、上記範囲に制御することが好ましい。また、ガラスクロスのしわ等を避ける観点、また、保管スペースの縮小化の観点から、ガラスクロスは、ロールの状態で保管することが好ましい。ロールの状態であれば、保管環境と外部環境が接する面積を最小化し、かつ、包装時の内部の気積を小さくすることが容易であり、これらにより、誘電正接の経時的な上昇をより効果的に抑制し易い。
【0064】
ガラスクロスを保管する保管室、及び包装材については、露点、及び温度、並びに圧力を維持し易い観点から、密封性が高いことが好ましい。保管室、及び包装材は、密封性が高いことに加えて又はそれに変えて、内部(保管環境)の露点を制御するよう構成されることが好ましい。すなわち、前述したような露点制御手段を、保管室、及び包装材自体が備えることが好ましい。ここで、「密封」は、開口部が隙間のないよう堅く閉じられ、これにより、ガラスクロスの保管環境中の温度、露点、及び気圧を一定基準以下に制御できる状態を意味している。「密封状態」は、例えば、固体、液体、及び気体の侵入を防ぐように封止することである。固体、液体、気体の侵入を抑制することによって、ガラスクロスの誘電正接の上昇抑制効果が得られ易い。
【0065】
ガラスクロスを保管するとき、ロールの状態のガラスクロスを包装材で包装することが好ましい。露点、及び温度を維持し易い観点から、ガラスクロスがフィルムで包装されて、かつ、その開口部が密封されていることが好ましい。密封は、例えば、開口部を熱圧着すること等により行うことができる。
【0066】
〈水蒸気透過度〉
包装材は、測定温度40℃・測定湿度90%Rhにおける水蒸気透過度が、8g/(m2×24hr)以下であることが好ましい。このような包装材であれば、包装材内部の水分量を制御し、包装材中に存在する水によるガラスクロスの経時での誘電正接の増加を抑制し易い。包装材内部の水分量を制御し易い観点から、包装材の測定温度40℃・測定湿度90%Rhにおける水蒸気透過度は、好ましくは8g/(m2×24hr)以下、より好ましくは4g/(m2×24hr)以下、更に好ましくは2g/(m2×24hr)以下、より更に好ましくは1g/(m2×24hr)以下、特に好ましくは0.3g/(m2×24hr)以下、最も好ましくは0.1g/(m2×24hr)以下である。水蒸気透過度が8g/(m2×24hr)以下であれば、透過する水分量を抑え易いため、包装材内部の水分量を制御し易い。水蒸気透過度の下限値は、0でもよく、0を超えてよい。
【0067】
〈フィルム〉
包装材には、フィルムを用いることもできる。水蒸気透過度が上記範囲を満たす限り限定されないが、例えばセラミック蒸着フィルム、アルミニウム蒸着フィルム、アルミニウム箔、アルミニウムラミネートフィルムなどが挙げられる。
また、フィルムの厚みは、好ましくは50μm以上、より好ましくは70μm以上、更に好ましくは80μm以上、特に好ましくは90μm以上である。厚みが50μm以上であることで水蒸気透過度が小さくなり易く、また、シワやキズ等でのピンホールが発生し難い。
【0068】
〈箱状包装材〉
包装材には、箱状のものを用いることもできる。包装材としては、水蒸気透過度が上記範囲を満たすもの、また、開口部を密封できる仕様であるもの、が挙げられる。包装材として、具体的に、例えば、金属製、プラスチック製、木製、段ボール製の箱、あるいはそれらを組み合わせた箱が挙げられる。ここでの「箱」とは、移動可能なものであって、ガラスクロスを外気から遮断するための密封性のある容器であって、その中に複数本のガラスクロスを保管してもよい。
【0069】
[プリプレグ]
本実施形態の更なる一態様は、上記製造方法によって製造されるプリプレグである。
かかるプリプレグは、上記ガラスクロスと、樹脂組成物{有機樹脂と、必要に応じて任意成分(無機粒子、及び架橋剤等のその他の成分)と、を含む}と、の複合体である。
【0070】
プリプレグを作製するための上記ガラスクロス、また、これを得るための各種原料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、プリプレグを作製するための上記樹脂組成物、また、これを得るための各種原料等は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
〈樹脂組成物〉
樹脂組成物の硬化物は、10GHzにおける誘電正接が0.0025以下であることが好ましい。より好ましくは、0.0020以下、更に好ましくは0.0018以下、より更に好ましくは0.0014以下、0.0012以下、特に好ましくは0.0010以下である。樹脂組成物の硬化物の誘電正接が上記範囲内であれば、プリプレグ、及び基板の誘電正接を低下させ易く、このため、誘電正接の上昇を抑制したガラスクロスを用いてプリプレグを作製するとき、誘電正接の低下効果を得易い。
なお、ここで「硬化物」は化学的な反応(例えば、架橋反応)による硬化物だけでなく、樹脂組成物を押し固める等の物理的な操作による硬化物を含む。
【0072】
有機樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂から成る群から選択される1つ以上の熱硬化性樹脂であることが好ましい。樹脂基板の誘電特性の向上を図る観点、また、樹脂基板の強度を確保し易い観点から、このような熱硬化性樹脂を好適に用いることができる。
【0073】
熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、及びフッ素樹脂から成る群から選択される1つ以上の熱可塑性樹脂であることが好ましい。なかでも、優れた誘電特性を有する観点から、フッ素樹脂を用いることが好ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン(Et)-TFE共重合体(ETFE)、Et-クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体、CTFE-TFE共重合体、TFE-HFP共重合体(FEP〕、TFE-PAVE共重合体(PFA)、及びポリビニリデンフルオライド(PVdF)から成る群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0074】
〈無機粒子、及び架橋剤〉
プリプレグは、必要に応じて、樹脂組成物中に、有機樹脂以外の成分(その他の成分)を含んでもよい。その他の成分としては、無機粒子、及び架橋剤等が挙げられる。
【0075】
無機粒子としては、樹脂組成物について、その耐熱性、及び難燃性を高めるために充填材として添加可能なものが挙げられる。この種の充填材を含有させることによって、耐熱性、及び難燃性等を更に高め易い。充填材としては、具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、充填材として、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。充填材としては、そのまま用いてもよいし、シランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。このシランカップリング剤としては、例えば、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、及びアクリル基等の官能基を分子中に有するシランカップリング剤が挙げられる。また、充填材を含有する場合、その含有率(フィラーコンテンツ)は、前記樹脂組成物の総重量に対して、30~270質量%であることが好ましく、50~250質量%であることがより好ましい。誘電正接の低減を図り易い観点から、特に誘電正接の値が低い無機粒子、例えば、低誘電シリカ粉体等を用いることが好ましい。
【0076】
架橋剤としては、架橋反応を起こすか、又は促進する能力を有する任意の架橋剤を使用することができる。架橋剤は、架橋反応に優れる観点から、不飽和二重結合を1分子中に平均2個以上有することが好ましい。架橋剤は、1種類の化合物で構成されてもよく、2種類以上の化合物で構成されてもよい。架橋剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)等のトリアルケニルシアヌレート化合物、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等の分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、分子中にビニルベンジル基を有するジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン等の分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物等が挙げられる。なかでも、架橋剤は、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、及びポリブタジエンから成る群より選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0077】
[基板・積層板]
本実施形態の更なる一態様は、上記プリプレグを加熱、加圧処理した樹脂板(基板)のことを意味する。また、プリプレグを複数枚数重ねて、加熱、加圧した樹脂板を積層板と呼び、プリプレグの積層数は、実施例記載の積層板の評価が行うことができれば、層数は限定されないが、例えば、1~20枚が好ましい。プリプレグを積層した後、必要により、例えば実施例に記載される条件にて、加熱、及び加圧を施してもよい。
【0078】
[プリント配線基板]
本実施形態の更なる一態様は、上記プリプレグに配線を形成するための金属層を交互に複数枚重ねて加熱、及び加圧を施して構成される、基板である。配線層の層数は特に限定されないが、配線の高密度のために10層以上が好ましい。加熱、及び加圧は例えば実施例に記載される条件にて行われてよい。
【0079】
[ガラスクロスの製造方法]
本実施形態の更なる一態様は、上記プリプレグの製造方法に用いる、ガラスクロスの製造方法である。
かかる製造方法は、
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を、経糸、及び緯糸として製織し、これにより、ガラスクロスを得る工程(製織工程);
を含む。ガラスクロスの製造方法は、
上記ガラス糸又はガラスクロスを加熱脱油(ヒートクリーニング)する工程(加熱脱油工程);及び
表面処理剤を用いて上記ガラス糸又はガラスクロスを処理する工程(表面処理工程);
を含む。ガラスクロスの製造方法は、任意に、
ガラスクロスを開繊する工程(開繊工程);及び
ガラスクロスを、包装材(フィルム、及び/又は箱状の包装材)で包装する工程(包装工程);
の少なくとも一方を更に含んでよい。
【0080】
〈製織工程〉
製織工程では、所定の織構造となるように、ガラス糸を、経糸、及び緯糸として製織する。ガラス糸の好ましい構成、及び組成、並びに織り構造は上述のとおりである。
【0081】
〈加熱脱油工程〉
加熱脱油工程は、上記ガラス糸又はガラスクロスを加熱脱油する。この工程は、ガラス糸に対して行うことができ、また、製織されたガラスクロスに対して行うこともできる。言い換えれば、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程は、加熱脱油工程の前に行ってもよく、途中に行ってもよく、後に行ってもよい。加熱脱油工程は、(1)ガラス糸又はガラスクロス(以下、本工程において単に「ガラス」ともいう。)を、比較的低温(例えば、600℃未満)で長時間(例えば、24時間以上)加熱脱油する方法、及び、(2)ガラスを、比較的高温(例えば、600~1600℃)で長時間又は短時間(例えば、24時間未満)加熱脱油する方法、のいずれの方法も用いることができる。
【0082】
(1)比較的低温で加熱する場合、加熱脱油の温度は、好ましくは100~500℃、より好ましくは250~450℃、更に好ましくは350~450℃である。また(1)の場合の加熱脱油における加熱時間は、適宜選択でき、例えば、好ましくは24~300時間、より好ましくは48~200時間、更に好ましくは72~150時間である。加熱脱油温度と時間が上記範囲の組み合わせであれば、ガラスに付着する糊剤を十分に除去し易い。
【0083】
他方、(2)比較的高温で加熱する場合、加熱脱油の温度は、好ましくは600~1500℃、より好ましくは800~1300℃、更に好ましくは900~1100℃である。加熱脱油温度が600℃以上であれば、ガラスに付着する糊剤の残留物等の有機物を十分に除去し易い。このため、ガラスクロスの誘電正接を下げ易く、また、除去時間を短縮し易い。他方、加熱脱油温度が1500℃以下であれば、ガラスの失透現象を抑制し易くなり、ガラスクロスの強度低下を効果的に防ぐことができる。また、(2)の場合の加熱脱油における加熱時間は、適宜選択でき、例えば、好ましくは3秒以上72時間以下、より好ましくは3秒以上12時間以下、更に好ましくは3秒以上2時間以下、特に好ましくは3秒以上10分以下、特に好ましくは3秒以上300秒以下である。
【0084】
誘電正接の低いプリプレグを得易い観点から、加熱脱油は、下記条件(i)、及び(ii):
(i)600~1500℃の温度、かつ、10分以下の時間でガラスクロスを加熱脱油する工程;及び
(ii)大気圧下での露点温度が15℃以下の雰囲気下で、300℃以上600℃未満の温度、かつ、24時間以上の時間でガラスクロスを加熱脱油する工程;
の少なくとも一方に基づいて行われることが好ましい。
【0085】
加熱脱油における加熱手段は、加熱脱油温度を好適に制御できる手法であれば、既知の加熱方法、加熱媒体、加熱機構、加熱装置、及び加熱部品等を用いることができる。例えば、(1)加熱炉内でガラスを加熱する手法、(2)加熱部にガラスを接触させる手法、(3)高温蒸気をガラスに当てる手法、等でよい。加熱は、逐次的若しくは連続的に、閉鎖系若しくは開放系で、行われることができ、又は閉鎖系と開放系を組み合わせて行われることができる。
【0086】
閉鎖系の場合には、加熱手段により好適に加熱し易い観点から、ガラスを加熱炉内に配置することが好ましく、その際、貯蔵スペース、及び加熱範囲の観点から、ガラスクロスをロールの状態で貯蔵しながら加熱することが好ましい。また、有機物の除去効率を上げること、有機物の除去時間を短縮すること等の観点から、加熱炉内でガラスを搬送しながら加熱することも好ましい。
【0087】
開放系の場合には、被加熱面積の観点から、ガラスをRoll-to-Rollで搬送させながら加熱することが好ましい。ガラスの搬送は、例えば、巻出機構、及び巻取機構により行われることができる。
【0088】
加熱炉の加熱手段としては、電気式ヒーター、バーナー等、種々のものが挙げられ、ガス式シングルラジアントチューブバーナー又は電気式ヒーターが好ましい。複数の手段を組み合わせて加熱してよい。
【0089】
加熱炉は、加熱効率の向上を図る観点から、加熱炉内で生成したガスを排出する手段、及び/又は空気循環手段を備えることが好ましい。ガス排出手段は、ノズル、ガス管、小穴、ガス抜き弁等でよい。空気循環手段は、ファン、空気調和設備等でよい。
【0090】
加熱炉は、ガラス(例えば、ガラスクロスのロール)を収容し、所定の雰囲気温度で加熱することができるバッチ方式、及び、ガラスを連続的に加熱炉に通しながら加熱する(例えば、Roll-to-Rollで搬送させながら加熱する)ことができる連続方式のいずれの方式でもよい。ガラス表面に付着している有機物を効率よく除去するため、加熱炉は、連続方式が好ましい。ガラスを加熱する方法として、上記加熱炉を使用してもよいが、低ランニングコストの観点から、所定の温度に加熱した部材とガラスとを接触させることで加熱してもよい。
【0091】
加熱脱油温度を好適に制御しながら加熱できれば、接触部材の形状は特に限定されないが、ガラスの搬送のし易さから、ロール形状が好ましい(加熱ロール方式)。ロール形状でガラスを加熱することが可能な部材としては、高温領域での使用が可能で、幅方向の温度のばらつきが比較的少ない、誘導発熱方式で加温するロールが好ましい。接触部材でガラスを加熱するときには、接触部材の温度とガラスの表面温度が概ね等しいことが考えられる。
【0092】
ガラスを連続加熱するにつれ、加熱ロールに炭化物が付着することがある。加熱ロールに付着する炭化物を除去するために、上記加熱ロール方式は、付着した異物を除去する機構、例えば、ブレード等の機構を備えることが好ましい。
【0093】
〈表面処理工程〉
表面処理工程は、ガラス糸に対して行うことができ、また、製織されたガラスクロスに対して行うこともできる。言い換えれば、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程は、表面処理工程の前に行ってもよく、途中に行ってもよく、後に行ってもよい。
表面処理工程は、例えば、
濃度0.1~0.5質量%の処理液によってガラスの表面にシランカップリング剤を付着させる工程(被覆工程);また、
加熱乾燥によりシランカップリング剤をガラスの表面に固着させる工程(固着工程);
を更に有してよい。これらにより、ガラスを好適に表面処理し易くなる。
【0094】
被覆工程で処理液をガラスに塗布する方法としては、(a)バスに溜めた処理液にガラスを浸漬又は通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(b)ロールコーター、ダイコーター又はグラビアコーター等で処理液をガラスに塗布する方法、等が挙げられる。浸漬法を採用する場合は、ガラスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上1分以下に選定することが好ましい。また、浸漬法を採用する場合は、ガラスに所定の張力(例えば、100~250N)を付与しながら、搬送速度10~50m/分の速度で、該ガラスを処理液内に通過させることができる。また、ガラスに処理液を塗布した後、熱風、電磁波等の方法により、処理液に含まれる溶媒を加熱乾燥させることができる。ガラス表面に均一に表面処理剤を塗工し易くするために、ガラスを表面処理液に浸漬させた後に、ゴム製のローラーを用いて一定圧力で絞り上げることが好ましい。
【0095】
処理液における表面処理剤の濃度は、処理液の全質量を基準として、0.1~0.5質量%が好ましく、0.1~0.45質量%がより好ましく、0.1~0.4質量%が更に好ましい。これによれば、ガラスをより好適に表面処理し易くなる。
【0096】
固着工程において、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤とガラスとの反応が十分に行われるように、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤が有する有機官能基の劣化を防ぐため、300℃以下が好ましく、180℃以下であればより好ましい。
【0097】
〈開繊工程〉
ガラスクロスの製造方法は、上記開繊工程を更に含んでもよい。この工程での開繊方法としては、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水又はマングル等で開繊加工する方法を採用できる。開繊前後で、ガラスクロスの組成は、通常変化しない場合が多い。
【0098】
〈包装工程〉
ガラスクロスの製造方法は、上記包装工程を更に含んでもよい。これにより、ガラスクロスの保管環境を制御し易くなる。包装材の詳細については上述したとおりである。包装工程では、ガラスクロスが直接接する環境の露点、並びに任意に温度、及び圧力等を、本開示の保管環境に予め制御してから包装することが好ましい。保管環境については上述のとおりである。
【0099】
上記したこれらの工程は、必ずしも別工程として区別可能な態様で行われる必要はなく、複数の工程をまとめて(同時に)行うこともできる。また、ガラスクロスの製造方法は、上記工程以外においても任意の工程を有することができる。例えば、開繊工程後に、スリット加工工程を有することができる。また、可能であれば、上記工程の順番は入れ替えることができる。
【実施例】
【0100】
[測定方法、及び評価方法]
〈目付(ガラスクロスの質量)の測定方法〉
ガラスクロスの目付は、ガラスクロスを所定のサイズでカットし、その重量をサンプル面積で除することで求めた。本実施例では、ガラスクロスを10cm2のサイズに切り出し、その重量を測定する操作を10回行って、そして得られる平均値を上記目付として算出した。
【0101】
〈換算厚みの測定方法〉
ガラスクロスは、ガラス繊維の間に空気が存在する、不連続の面状体である。そのため、各ガラスクロスの目付をガラスの密度で除することで、換算厚みを算出した。具体的に、下記式:
換算厚み(μm)=目付(g/m2)÷密度(g/cm3)
により、換算厚みを算出した。この換算厚みの値を、共振法での測定に用いた。
【0102】
〈強熱減量値の測定方法〉
ガラスクロスの強熱減量値は、JIS R3420に準拠して測定した。
【0103】
〈ガラスクロスの誘電正接の測定方法〉
IEC 62562に準拠して、ガラスクロスの誘電正接を求めた。具体的に、スプリットシリンダー共振器での測定に必要なサイズにサンプリングしたガラスクロスを、23℃、及び50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上(例えば、約18時間)保管した。そして、保管後のサンプルに対して、スプリットシリンダー共振器(EMラボ社製)、及びインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて、10GHzにおける誘電特性を測定した。測定は、1つのサンプルに対して5回実施し、そして得られる平均値を上記誘電特性として算出した。また、サンプルの厚みとして、上記換算厚みを用いた。なお、IEC 62562は、主に、マイクロ波回路に用いるファインセラミックス材料の、マイクロ波帯における誘電特性の測定方法が規定されている。
【0104】
〈基板、及び積層板の誘電正接の測定方法〉
空洞共振器での測定に必要なサイズにサンプリングした基板、及び積層板を、23℃、及び50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上(例えば、約18時間)保管した。そして、保管後のサンプルに対して、空洞共振器(EMラボ社製)、及びインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて、10GHzにおける誘電特性を測定した。測定は、1つのサンプルに対して5回実施し、そして得られる平均値を上記誘電特性として算出した。サンプルの厚み、及び幅は、マイクロメータを用いて測定した。具体的に、スピンドルを回転させ、そしてサンプルの測定面に対して平行に接触させた。そして、ラチェットが3回音を立てたときの目盛を読み取った。
【0105】
〈樹脂組成物の硬化物の誘電正接の測定方法〉
空洞共振器での測定に必要なサイズにサンプリングした樹脂組成物の硬化物を、23℃、及び50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上(例えば、約18時間)保管した。そして、保管後のサンプルに対して、空洞共振器(EMラボ社製)、及びインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて、10GHzにおける誘電特性を測定した。測定は、1つのサンプルに対して5回実施し、そして得られる平均値を上記誘電特性として算出した。サンプルの厚み、及び幅は、マイクロメータを用いて測定した。具体的に、スピンドルを回転させ、そしてサンプルの測定面に対して平行に接触させた。そして、ラチェットが3回音を立てたときの目盛を読み取った。
サンプルは以下の方法にて作製した。
【0106】
〈ワニスAについて、その樹脂組成物の硬化物の作製方法〉
ワニスAを用いて、実施例に記載の方法で得られたプリプレグをほぐし、そして100メッシュパスのふるいに通すことで、粉状のプリプレグを得た。得られた粉状のプリプレグを、離型性のある型に入れて、そして200℃、及び31kg/cm2で120分間加熱加圧することにより、樹脂組成物の硬化物を得た。
【0107】
〈ワニスBについて、その樹脂組成物の硬化物の作製方法〉
微粒子化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を金属製の型に入れて、そして380℃、及び20kg/cm2の圧力で6分間加熱加圧することにより、樹脂組成物の硬化物を得た。
【0108】
〈ワニスCについて、その樹脂組成物の硬化物の作製方法〉
ワニスCを用いて、実施例に記載の方法で得られたプリプレグをほぐし、そして100メッシュパスのふるいに通すことで、粉状のプリプレグを得た。得られた粉状のプリプレグを、離型性のある型に入れて、そして130℃で15分間、及び190℃で80分間の温度条件で、20kg/cm2の圧力で加熱加圧することで、樹脂組成物の硬化物を得た。
【0109】
〈温度、及び露点の測定方法、並びに日数の記録方法〉
温度、及び露点は、ヴァイサラ社製ハンディタイプ露点計DM70を用いて測定した。計測する露点に応じて、DMP74Aプローブ又はDMP74Bプローブと、MI70指示計と、を使用し、保管環境の気圧下での露点を測定した。具体的には、露点-30℃dpを超える場合はDMP74Aプローブを、露点-30℃dp以下の場合はDMP74Bプローブを、それぞれ使用した。温度、及び露点は、DM70で3時間おきに測定を行った。温度については、測定値の平均値(平均温度)を算出した。露点については、その露点を示した期間(日数)を併せて記録した。
【0110】
〈圧力の測定方法〉
箱に取り付けた圧力計を目視で読み取ることにより、箱内部の圧力を測定した。
【0111】
〈包装材の水蒸気透過度の測定方法〕
《A:包装材の厚みが2mm以下の、プラスチックフィルム、プラスチックシート及びプラスチックを含む多層材料の場合》
JIS K7130、及びJIS K7129-1に準拠して、包装材の厚み、及び水蒸気透過度の測定を行った。測定は、1つのサンプルに対して3回実施し、そして得られる平均値を、上記包装材の厚み、及び上記水蒸気透過度として算出した。なお、試験片は、目視で、しわ、折れ目、及びピンホールがなく、かつ、厚さが均一なものを用いた。測定条件は以下のとおりである。
測定条件
・装置:水蒸気透過度計 L80-5000(Lyssy社製・ISO-PE-Z91)
・厚み計:ID-C1012C(ミツトヨ製 ISO-PE-Z78)
・温度・湿度:40℃・90%Rh
・測定面積:約50cm2
・基準試料:PET 19μm厚み{25.5g/(m2×24hr)}
・測定方向:包装時外側の面からガラスクロスを透過
【0112】
《B:包装材がAの対象以外の場合》
上記「A」の対象以外の包装材に関しては、温度40℃において包装材外部を湿度90%Rhに調整し、そして内部の空気を乾燥状態に保ち密封したとき、包装材内部に侵入する水蒸気重量を測定し、それぞれ、透過時間24時間当たりと、包装材外部表面積1m2当たりと、で算出した。
【0113】
具体的に、包装材内に露点-30℃dpの乾燥空気を封入し、あわせて、JIS Z 0701(包装用乾燥剤)の1級A又はこれと同等以上の品質の吸湿剤を800g入れ、このとき、温度、及び露点を測定するとともに密封した。ここで、吸湿剤が800g入らない場合には、封入した吸湿剤の重量が分かるよう計測し、そして包装材内の容積の半分以上の容量となるように吸湿剤を封入することとした。
【0114】
続いて、密封された包装材を40℃、及び90%Rhの恒温恒湿装置に入れ、そして包装材を48時間以上の適当な時間(例えば、約72時間)に亘って恒温恒湿装置内で保管した。一定時間後(この時間を恒温恒湿装置内保持時間とする)に包装材を恒温恒湿装置から取り出し、すぐに包装材内の温度、及び露点と、吸湿剤の試験後重量と、をそれぞれ測定した。なお、吸湿剤の試験後重量が、封入した吸湿剤重量の130%を超える場合は、恒温恒湿装置内保持時間を短くする、又は吸湿剤量を増やす等を行い、再度測定を行うこととした。
また、試験開始前、試験終了後に測定した温度、及び露点から、試験開始前、及び試験終了後の絶対湿度(g/m3)を算出した。具体的には、VAISALA Humidity Calculatorに温度、及び露点を入力し、そして絶対湿度を求めた。測定は、1つのサンプルに対して3回実施し、そして下記式:
水蒸気量変化(g)={試験終了時絶対湿度(g/m3)-試験開始時絶対湿度(g/m3)}×包装材内容積(m3)
水蒸気透過度{g/(m2×24hr)}={吸湿剤の試験後重量(g)-吸湿剤の封入重量(g)+水蒸気量変化(g)}/[包装材外部表面積(m2)×{恒温恒湿装置内保持時間(hr)/24(hr)}]
を用いて水蒸気透過度を算出し、得られる平均値を上記水蒸気透過度として算出した。
【0115】
〈ガラスクロスの誘電正接(Df)の変化率〉
ガラスクロスの誘電正接(Df)の変化率は、保管開始時の誘電正接(Df0)に対しての、X日間に亘った計測期間経過後の誘電正接(Dfx)から、下記式:
Df変化率(%)=(Dfx/Df0)×100
により求めた。
【0116】
ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接は、長期間に亘って経時の変化率(上昇値)が小さいほど、ガラスクロスの保管環境累積値を制御した効果が大きいことを示す。ガラスクロスの経時の変化率は上記式で評価され、この変化率は、好ましくは180%以下又は170%以下、より好ましくは160%以下、140%以下又は120%以下、更に好ましくは110%以下、特に好ましくは105%以下である。
【0117】
[生機クロスの製造]
〈Q1035の製造〉
SiO2組成量が99.9質量%よりも多いガラス糸を用いて、エアジェットルームを用い、そして経糸66本/25mm、及び緯糸68本/25mmの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、及び撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、及び撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
【0118】
〈L1035の製造〉
SiO2組成量が53質量%、及びB2O3組成量が23質量%のガラス糸を用いて、エアジェットルームを用い、そして経糸66本/25mm、及び緯糸68本/25mmの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、及び撚り数1.0Zのガラスの糸を使用した。緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、及び撚り数1.0Zのガラスの糸を使用した。
【0119】
[ワニスの製造]
〈ワニスA〉
変性PPE(SABICイノベーティブプラスチックス社、商品名:SA9000、重量平均分子量Mw2000、末端官能基数2個)が70質量部、TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製、分子量249、末端二重結合数3個)が30質量部、シリカフィラー(アドマテックス社製、商品名;SC2300-SVJ)が100質量部、PBP{1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、日油社製、商品名;パーブチルP}が0.5質量部、の配合割合でワニスを調整した。固形分濃度が60質量%となるように、トルエンと、シリカフィラー以外と、を混合し、そして固形分をトルエンに溶解したタイミングでシリカフィラーを更に混合した。シリカフィラーが均一になるまで攪拌し、そしてワニスAを得た。得られたワニスを用いて、上記〈ワニスAについて、その樹脂組成物の硬化物の作製方法〉にて硬化物を作製した後、上記〈樹脂組成物の硬化物の誘電正接の測定方法〉に従って各種測定を行った。その結果、ワニスAの樹脂組成物の硬化物の誘電正接は、10GHzにおいて0.0018であった。
【0120】
〈ワニスB〉
微粒子化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が60質量%、非イオン系の界面活性剤が6質量%、蒸留水が34質量%の配合割合で、ワニスBを調整した。上記〈ワニスBについて、その樹脂組成物の硬化物の作製方法〉にて硬化物を作製した後、上記〈樹脂組成物の硬化物の誘電正接の測定方法〉に従って各種測定を行った。その結果、ワニスBの樹脂組成物の硬化物の誘電正接は、10GHzにおいて0.0002であった。
【0121】
〈ワニスC〉
フェノール・ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製、商品名:HP-7200H)が100質量部、フェノールノボラック樹脂(アイカ工業社製、商品名:ショウノールBRG-557)が37.5質量部、2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業社製、商品名:キュアゾール2E4MZ)の配合割合でワニスを調整した。固形分濃度が60質量%となるようにメチルエチルケトン(MEK)に混合、及び攪拌することで、ワニスCを得た。上記〈ワニスCについて、その樹脂組成物の硬化物の作製方法〉にて硬化物を作製した後、上記〈樹脂組成物の硬化物の誘電正接の測定方法〉に従って各種測定を行った。その結果、ワニスCの樹脂組成物の硬化物の誘電正接は、10GHzにおいて0.0021であった。
【0122】
[実施例、及び比較例]
〈実施例1〉
得られたQ1035生機クロスを、加熱炉で、600℃で60秒加熱し、これにより脱油を行った(加熱脱油工程)。
【0123】
続いて、酢酸を用いてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.15質量%と、5-ヘキセニルトリメトキシシラン(シランカップリング剤B);Z6161(ダウ・東レ社製)を0.15質量%と、を分散させ、これにより処理液を調整した。ライン張力が200N、及びライン速度が30m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し(表面処理剤塗工工程)、NBR製のゴムロールで0.3MPaの圧力で絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、これにより、シランカップリング剤の固着を行った(固着工程)。乾燥させたクロスをスプレーで2.0kg/cm2の圧力で高圧開繊した後、130℃で1分乾燥させ(乾燥工程)、そして巻き取ることで、ロール状のガラスクロスを得た。
【0124】
このガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度30℃、及び露点24℃dpの環境下、ステンレス製の箱{水蒸気透過度0.0g/(m2×24hr)}に入れ、そして真空ポンプを用いて内部を103Paまで減圧した。
【0125】
その後、密封し、温度23℃、及び露点19℃dpの外部環境に移動させ、そして720日間保管した。このとき、箱状の包装材内部の露点は-30℃dpであった。720日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。
【0126】
保管後ガラスクロスに対しては、取り出し後3時間以内に、
1)保管後ガラスクロスにワニスAを浸漬させ、そしてワニスAを含浸させること;
2)保管後ガラスクロスを所定のスリットを通すことにより、保管後ガラスクロス上の余分なワニスを掻き落とすこと;及び
3)保管後ガラスクロスを95℃で5分乾燥させることで、保管後ガラスクロス上に残存した溶媒を除去すること;
を行い、そしてプリプレグを得た。
【0127】
上記のとおり、本実施例では、720日に亘って保管工程を経た後、ガラスクロスを取り出したその日のうちにプリプレグの製造完了まで行った。従って、本実施例での保管期間(保管環境累積値の計測期間)は、720日である。
【0128】
得られたプリプレグを4枚重ね、200℃、及び31kg/cm2で120分間加熱加圧した。これにより、樹脂組成物の硬化物を有する積層板を得た。得られた積層板の、樹脂組成物の体積分率は50%であった。
【0129】
〈実施例2〉
得られたQ1035生機クロスに対する加熱脱油の条件を、下表のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の加工でロール状のガラスクロスを得た。このガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度23℃、及び露点12℃dpの環境下で、アルミニウムラミネートフィルム{厚み99μm、及び水蒸気透過度0.1g/(m2×24hr)}の袋で包装し、内部に吸湿剤{豊田化工社製アブリオ(登録商標)AW(A型シリカゲル)}800gを封入した。更に、開口部を熱圧着させ密封した。
【0130】
その後、温度30℃、及び露点24℃dpの外部環境に移動させ、720日間保管した。このとき、フィルム袋内部の露点は-8℃dpであった。720日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0131】
〈実施例3〉
得られたQ1035生機クロスに対する加熱脱油の条件を、下表のとおりに変更した点と、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.30質量%分散させた処理液を調整して用いた点以外は、実施例1と同様の方法でロール状のガラスクロスを得た。
【0132】
このガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度30℃、及び露点-4℃dpに管理した保管室に入れ、365日間保管した。365日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。
【0133】
保管後ガラスクロスに対しては、取り出し後3時間以内に、
1)保管後ガラスクロスにワニスCを浸漬させ、そして含浸させること;
2)保管後ガラスクロスを所定のスリットを通すことにより、保管後ガラスクロス上の余分なワニスを掻き落とすこと;及び
3)保管後ガラスクロスを130℃で7分乾燥させることで、保管後ガラスクロス上に残存した溶媒を除去すること;
を行い、そしてプリプレグを得た。
【0134】
得られたプリプレグを4枚重ね、130℃で15分間、及び190℃で80分間の温度条件で、20kg/cm2の圧力で加熱加圧することによって、樹脂組成物の硬化物を有する積層板を得た。得られた積層板の、樹脂組成物の体積分率は50%であった。
【0135】
〈実施例4〉
実施例1で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、除湿機を用いて温度25℃、及び露点0℃dpに管理した保管室に入れ、365日間保管した。365日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。
【0136】
保管後ガラスクロスに対しては、取り出し後3時間以内に、
1)保管後ガラスクロスにワニスBを浸漬させ、そして含浸させること;
2)保管後ガラスクロスを所定のスリットを通すことにより、保管後ガラスクロス上の余分なワニスを掻き落とすこと;及び
3)保管後ガラスクロスを130℃で7分乾燥させることで、保管後ガラスクロス上に残存した溶媒を除去すること;
を行い、そしてプリプレグを得た。
【0137】
得られたプリプレグ1枚を、380℃、及び20kg/cm2の圧力で6分間加熱加圧することで、樹脂組成物の硬化物を有する基板を得た。得られた基板の樹脂組成物の体積分率は50%であった。
【0138】
〈実施例5〉
実施例1で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、除湿機を用いて温度25℃、及び露点4℃dpに保った保管室に入れ、365日間保管した。365日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0139】
〈実施例6〉
実施例1で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、除湿機を用いて温度25℃、及び露点9℃dpに保った保管室に入れ365日間保管した。365日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0140】
〈実施例7〉
実施例1で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度25℃、及び露点14℃dpに保った保管室に入れ、310日間保管した。310日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0141】
〈実施例8〉
実施例1で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度25℃、及び露点19℃dpに保った保管室に入れ、270日間保管した。270日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0142】
〈実施例9〉
実施例1で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度25℃、及び露点16℃dpに保った保管室に入れ、30日間保管した。30日後に、保管室を温度25℃、及び露点3℃dpに変更し、335日後、すなわち計365日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0143】
〈比較例1〉
実施例1で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度25℃、及び露点20℃dpに保った保管室に入れ、720日間保管した。720日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0144】
〈比較例2〉
実施例2で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度30℃、及び露点24℃dpに保った保管室に入れ、365日間保管した。365日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0145】
〈比較例3〉
実施例3で得られたロール状のガラスクロスを、表面処理加工後3時間以内に、温度30℃、及び露点24℃dpに保った保管室に入れ、365日間保管した。365日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0146】
〈参考例〉
得られたL1035生機クロスを、バッチ式の加熱炉を用い370℃で72時間加熱して加熱脱油工程とした以外は、実施例1と同様の方法で、ロール状のガラスクロスを得た。このガラスクロスを表面処理加工後3時間以内に、温度25℃、及び露点20℃dpに保った保管室に入れ、720日間保管した。720日後にガラスクロスを取り出し、その一部を用いて、保管後ガラスクロスの評価を行った。得られた保管後ガラスクロスを用いて、実施例1と同様の方法で、プリプレグ、及び積層板を得た。
【0147】
実施例、及び比較例に関する製造条件、及び評価結果を下表に示す。
【表1】
【0148】
【0149】
実施例では、100℃未満の環境下で長期間に亘り、優れた誘電特性を維持することができることが確かめられた。他方、比較例では、保管後、ガラスクロスの誘電正接が大幅に増加し、その結果、作製されるプリプレグ、ひいては、積層板の誘電正接も大幅に増加した。低誘電ガラスに該当しないガラスクロスを用いた参考例では、比較例と同様の保管環境においても、誘電正接の増加が見られなかった。
【要約】
【課題】100℃未満の環境下で長期間に亘り、優れた誘電特性を維持したガラスクロスを用いた、プリプレグの製造方法を提供する。
【解決手段】ガラスクロスに樹脂組成物を含浸させ、そしてプリプレグを作製する工程を有する、プリプレグの製造方法であって、
前記ガラスクロスとして、
下記条件式(a):
(Tdp-14)×D ≦1500 ・・・(a)
(式中、Tdpは、保管環境の気圧下における露点であり、Dは、保管日数である)
を満たす条件で保管したもの、かつ、保管後の10GHzにおける誘電正接が0.00200以下である該ガラスクロスを用いる。
【選択図】なし