(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合する免疫グロブリン
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20241106BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20241106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241106BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K47/68
A61P35/00
C12N15/13
C12P21/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023140495
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2022100477の分割
【原出願日】2015-04-10
【審査請求日】2023-09-29
(32)【優先日】2014-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517262346
【氏名又は名称】ラヴァ・セラピューティクス・エヌ・ヴイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・イェレ・ファン・デル・フリート
(72)【発明者】
【氏名】レネー・コルネリア・ヘラルダ・デ・ブライン
(72)【発明者】
【氏名】タニヤ・デニース・デ・グライル
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリック・マリヌス・ウィレム・フェルフール
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】Cancer Research,2014年03月,Vol.74, No.5, pp.1349-1360
【文献】Clin Exp Immunol,2003年,Vol.131, pp.287-291
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDR1領域、CDR2領域、及びCDR3領域を含み、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化し、Vγ9Vδ2受容体のVδ2鎖に結合する単一ドメイン抗体(VHH)を含む二重特異性免疫グロブリン分子であって、前記CDR1領域が、配列番号18を含み、前記CDR2領域が、配列番号19を含み、前記CDR3領域が、配列番号20を含み、前記二重特異性免疫グロブリン分子が腫瘍抗原特異的抗体を更に含む、二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項2】
ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化し、Vγ9Vδ2受容体のVδ2鎖に結合する前記単一ドメイン抗体(VHH)が、配列番号54のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項3】
ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する前記抗体が、単鎖抗体である、請求項1又は2に記載の二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項4】
前記腫瘍抗原特異的抗体が、単一ドメイン抗体(VHH)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項5】
ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する前記単一ドメイン抗体が、Vγ9Vδ2 二重陽性T細胞及びVδ2 単一陽性T細胞と結合するが、Vγ9 単一陽性T細胞とは結合しない、請求項1~4のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項6】
前記腫瘍抗原特異的抗体が、単鎖抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項7】
(a)配列番号18のCDR1領域、配列番号19のCDR2領域、及び配列番号20のCDR3領域を含む単鎖抗体、並びに
(b)単鎖である、腫瘍抗原特異的抗体
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項8】
前記単鎖抗体(a)及び(b)のそれぞれが、IgG1のアイソタイプである、請求項7に記載の二重特異性免疫グロブリン分子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子を含む、癌治療剤。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子を含む、癌の治療のための医療組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子をコードする、ヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子
をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性免疫グロブリン分子を調製する方法であって
- 請求項
12に記載の宿主細胞を培養する工程と、
- 前記宿主細胞に前記二重特異性免疫グロブリンを発現させる工程と、
- 前記二重特異性免疫グロブリンを得る工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野のものであり、免疫学に関する。本発明は、T細胞と結合する免疫グロブリンに関する。特に、本発明は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合する免疫グロブリンに関する。本発明は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合する抗体、単鎖抗体又は単一ドメイン抗体等の免疫グロブリン分子を提供し、ヒトVγ9Vδ2 T細胞は、調節され得る。
【背景技術】
【0002】
ヒト成人のγδ末梢血リンパ球(PBL)の大部分が、Vγ9及びVδ2領域を含むT細胞受容体(TCR)を発現する。Vγ9Vδ2 T細胞は、幅広い病原体及び腫瘍細胞に対して反応することができる。この広い反応性は、このT細胞サブセットをTCR依存的な様式で特異的に活性化することができるホスホ抗原(phosphoantigens)によってもたらされることが理解されている。Vγ9Vδ2 T細胞の広い抗菌及び抗腫瘍反応性は、癌及び感染症の免疫制御への直接的な関与を示唆する。疾患と戦うことに加えて、一部の疾患又は医学的処置ではVγ9Vδ2 T細胞が過剰に刺激されるか、又は意図せずに活性化される場合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Sambrookら、Molecular Cloning.A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N. Y.、1989
【文献】Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、1987
【文献】Methods in Enzymology, Academic Press、San Diego
【文献】COMPUTATIONAL MOLECULAR BIOLOGY、Lesk, A. M.編、Oxford University Press、New York、1988
【文献】BIOCOMPUTING: INFORMATICS AND GENOME PROJECTS、Smith, D. W.編、Academic Press、New York、1993
【文献】COMPUTER ANALYSIS OF SEQUENCE DATA、PART I、Griffin, A. M.及びGriffin, H. G.編、Humana Press、New Jersey、1994
【文献】SEQUENCE ANALYSIS IN MOLECULAR BIOLOGY、von Heinje, G.、Academic Press、1987
【文献】SEQUENCE ANALYSIS PRIMER; Gribskov, M.及びDevereux, J.編、M Stockton Press、New York、1991
【文献】Carillo, H.及びLipton, D.、SIAM J. Applied Math (1988) 48: 1073
【文献】GUIDE TO HUGE COMPUTERS、Martin J. Bishop編、Academic Press、San Diego、1994
【文献】Devereux, J.ら、Nucleic Acids Research (1984) 12(1):387
【文献】Atschul, S. F.ら、J. Molec. Biol. (1990) 215:403
【文献】Albert L. Lehninger、Principles of Biochemistry、793~800頁(Worth Pub. 1982)
【文献】Claudio Tripodoら、Gamma delta T cell lymphomas Nature Reviews Clinical Oncology 6、707~717頁(2009年12月)
【文献】Spinelli Sら、Biochemistry 2000;39:1217~1222頁
【文献】Schneiders FLら、Clin Immunol 2012; 142: 194~200頁
【文献】Scholten KBら、Clin Immunol 2006; 119: 135~45頁
【文献】Allison TJら、Nature 2001 ; 411 :820~4頁
【文献】Davodeau Fら、Eur J Immunol 1993; 23:804~8頁
【文献】Roovers RCら、Cancer Immunol Immunother. 2007;56:303~17頁
【文献】Hoogenboomら、Nucleic Acids Res 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、Vγ9Vδ2 T細胞を活性化することができる薬剤は、病原体若しくは感染細胞又は癌に対するVγ9Vδ2 T細胞の反応性を促進できるため、感染症又は癌の治療に有用な可能性がある。更に、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止する薬剤は、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を低減することが有利であり、すなわち、Vγ9Vδ2 T細胞が過剰に刺激されているか、又は意図せずに活性化されている疾患又は医学的処置に有用な可能性がある。最後に、Vγ9Vδ2 T細胞と結合することができるが、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化(ホスホ抗原)に影響がない薬剤は、細胞を標識化するため、例えば、Vγ9Vδ2 T細胞を選択又は特定するのに有用である。したがって、当該技術分野においてVγ9Vδ2 T細胞と結合することができる薬剤及びVγ9Vδ2 T細胞のホスホ抗原活性化を阻止することができるか、又はVγ9Vδ2 T細胞を活性化することができる薬剤を提供することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ここでVγ9Vδ2 T細胞と結合することができる新規の薬剤を提供する。提供される薬剤は、免疫グロブリンである。提供される免疫グロブリンは、Vγ9Vδ2 T細胞受容体と結合する。驚くべきことに、本発明によって提供される免疫グロブリンは、かなりの配列同一性を有することがわかった。したがって、本発明の第1の態様において、CDR1領域及びCDR2領域を含むヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子であって、
CDR1領域は、配列番号31のアミノ酸配列GRTFSNYAMGと少なくとも40%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列AISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、免疫グロブリン分子は単一ドメイン抗体である、免疫グロブリン分子が提供される。
【0006】
更に、かかる免疫グロブリンはCDR3領域を含み、CDR3領域はVγ9Vδ2 T細胞受容体結合に寄与し、免疫グロブリン分子の作用に影響がある場合もある。理論に縛られるものではないが、これは、免疫グロブリン分子の機能性、すなわち、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止すること、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を誘導すること又はVγ9Vδ2 T細胞の活性化の阻止も、活性化の誘導もしないこと等の調節のタイプにCDR3配列が関係する可能性を示す。本発明の免疫グロブリンは、特に医学的処置用及びVγ9Vδ2 T細胞を伴うアッセイ用である。
【0007】
好ましくは、本発明による免疫グロブリン分子はCDR3領域を含み、CDR3領域は、アミノ酸配列配列番号3、6、9、11、14、17、20、22、25、27、29、30、33、35、37、40、43及び46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。CDR1及びCDR2配列と組み合わされたこれらのCDR3領域は下で詳述される結合及び機能をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】フレームワーク領域(1、2、3及び4)並びにCDR1、CDR2及びCDR3を示したVHH配列のアライメントである。それぞれのVHHの符号も示されている(すなわち、5C7はVHH 5C7の配列である)。
【
図2】VHH 5E7及びVHH 6F6はVγ9Vδ2 T細胞を活性化しないことを示す図である。データは、陽性対照[ホスホ抗原(pAg+)発現HeLa細胞]と比較した健常ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞による活性化マーカーCD25、炎症性サイトカインIFN-γ及び細胞傷害性分子グランザイムBの相対的な発現を示す。
【
図3】VHH 5E7は、健常ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞のホスホ抗原により誘導された活性化を中和することを示す図である。VHH 5E7を使用した代表的な例は、ホスホAgにより誘導されたVγ9Vδ2 T細胞の活性化の用量依存的中和を示す一方で、非特異的VHH(陰性対照)はホスホAgにより誘導されたVγ9Vδ2 T細胞の活性化を中和できなかった。縦軸はCD25発現によって評価される場合のVγ9Vδ2 T細胞の活性化を示し、横軸はさまざまなVHH濃度を示す。漸増用量のアミノビスホスホネートであるパミドロネートによりHeLa細胞を前処理する(HeLa細胞によるホスホ抗原発現のレベルを増加させる)ことによって作製されるホスホ抗原発現HeLa細胞を使用してVγ9Vδ2 T細胞の刺激を行った。
【
図4】Vγ9Vδ2 TCRに特異的なVHHは、健常ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞において活性化及びサイトカイン産生を誘導することができることを示す図である。データは、陽性対照[ホスホ抗原(pAg+)発現HeLa細胞;1に標準化される]及び陰性対照VHHと比較した健常ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞による活性化マーカーCD25及び炎症性サイトカインIFN-γの相対的な発現を示す。それぞれの棒は個々のVγ9Vδ2 TCRに特異的なVHHを表わし、個々のVHHはVγ9Vδ2 T細胞において活性化及びサイトカイン産生を誘導する能力が異なる。
【
図5】健常ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞の用量依存的活性化を示す図である。データは、漸増濃度(10-100-500nM)の非活性化抗Vγ9Vδ2 TCR VHH又は活性化抗Vγ9Vδ2 TCR VHHのいずれかによる刺激の24時間後のCD25発現(MFI)の変化を示す。
【
図6】Vγ9Vδ2 TCRに特異的なVHHは、二重特異性分子として腫瘍抗原に特異的なVHHと融合されると腫瘍細胞死を促進できることを示す図である。Vγ9Vδ2 T細胞が、活性化抗Vγ9Vδ2 TCR VHHと融合した腫瘍抗原に特異的なVHHからなる二重特異性ナノボディコンストラクトの存在下(with)又は非存在下(w/o)において腫瘍細胞株A431と共に一晩共培養された実験の代表的な例。データは、Vγ9Vδ2 T細胞のCD25発現(活性化)及びCD107a発現(脱顆粒)並びに7AAD+腫瘍細胞(腫瘍細胞死を示している)を示す。
【
図7】フローサイトメトリーを使用して測定された場合のT細胞受容体Vγ9及び/又はVδ2結合特異性を示す図である:代表的なフローサイトメトリーのヒストグラムはVγ9Vδ2 TCRに特異的なVHH(オープンヒストグラム)及び陰性対照VHH(色つきのヒストグラム)のVγ9Vδ2 TCR発現細胞との結合を示す。
【
図8】クローンVHH 5C7は、健常ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞を活性化せず、健常ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞のホスホ抗原により誘導された活性化の中和もしないことを示す図である。代表的な例は、ホスホAgにより誘導されたVγ9Vδ2 T細胞の活性化に対してVHH 5C7には阻害も活性化の効果もないことを実証する。縦軸はCD25発現によって評価されるVγ9Vδ2 T細胞の活性化を示し、横軸はさまざまなVHH濃度を示す。漸増用量のアミノビスホスホネートであるパミドロネートによりHeLa細胞を前処理する(HeLa細胞によるホスホ抗原発現のレベルを増加させる)ことによって作製されるホスホ抗原発現HeLa細胞を使用してVγ9Vδ2 T細胞の刺激を行った。
【
図9】免疫グロブリンの概略図である。A)2つの重鎖及び2つの軽鎖からなるヒト抗体;B)ジスルフィド架橋を介して二量体になることができ、それぞれの鎖が可変ドメインを含む2つの単鎖(又は2つの重鎖)からなる単鎖抗体(又は重鎖のみ抗体(heavy chain only antibody))。そのような単鎖抗体(又は重鎖のみ抗体)はラマ抗体であってもよく;C)単一ドメイン抗体は、例えば、単鎖抗体(又は重鎖のみ抗体)の1つの可変抗体ドメインを含む。単一ドメイン抗体は、表わされているとおり結合領域のみからなってもよい。可変ドメインは灰色で示され、定常領域は白で示されている。軽鎖の可変ドメインは黒で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義:
以下の説明及び実施例では、多くの用語が使用される。そのような用語に対して与えられる範囲を含む明細書及び請求項及び条項の明瞭で一貫した理解を提供するために、以下の定義を提供する。本明細書において別に定義されていない限り、使用されるすべての技術及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。すべての公報、特許出願、特許及びその他の参考文献の開示は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0010】
本発明の方法に使用される従来技術を実行する方法が当業者に明らかになる。分子生物学、生化学、計算化学、細胞培養、組換えDNA、生物情報学、ゲノム科学、配列決定及び関連分野における従来技術の実務は当業者に周知であり、例えば、以下の参照文献において論述されている:Sambrookら、Molecular Cloning.A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N. Y.、1989; Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、1987及び定期的改訂版並びに一連のMethods in Enzymology, Academic Press、San Diego。
【0011】
本文書並びにその請求項及び条項において、「含む」という動詞及びその活用型は非限定的な意味で使用され、その語に続く項目は含まれるが、具体的には言及されていない項目も除外されないことを意味する。これは、動詞「本質的に~からなる」並びに「からなる」を包含する。
【0012】
本明細書中で使用される場合、単数形「1つの(a、an)」及び「その(the)」は、文脈が明らかに別のことを規定していない限り複数の指示対象を含む。例えば、上で使用されるとおり、「1つの(a)」DNA分子の単離のための方法は、複数の分子の単離も含む(例えば、何十、何百、何千、何万、何十万、何百万、何千万、何十万、何百万、又はそれより多くの分子)。
【0013】
アラインすること及びアライメント:「アラインすること」及び「アライメント」という用語は、短い又は長いひと続きの一致する又は類似のアミノ酸の存在に基づく2つ以上のアミノ酸配列の比較を意味する。更に下で説明するとおり、アミノ酸配列のアライメントのためのいくつかの方法が当該技術分野において既知である。「アラインすること」及び「アライメント」という用語は、短い又は長いひと続きの一致する又は類似のヌクレオチドの存在に基づく2つ以上のヌクレオチド配列の比較も意味する。更に下で説明するとおり、ヌクレオチド配列のアライメントのためのいくつかの方法が当該技術分野において既知である。
【0014】
「遺伝子の発現」又は「タンパク質の発現」は、適切な制御領域、特に、プロモーターと機能可能に連結されたDNA領域がRNAに転写される過程を指し、そのRNAは、細胞の機構によってヌクレオチド配列によりコードされているタンパク質又はペプチド(若しくは活性なペプチドフラグメント)に翻訳され得るか、或いは、それ自体が活性である(例えば、転写後遺伝子サイレンシング又はRNAiにおいて)。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「機能可能に連結される」という用語は、機能的な関係でポリヌクレオチドエレメント(polynucleotide element)を連結することを指す。核酸が別の核酸配列と機能的な関係に挿入されるとき、核酸は「機能可能に連結される」。例えば、プロモーター又はむしろ転写制御配列は、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列と機能可能に連結される。機能可能に連結されるとは、連結されるDNA配列が一般に隣接することを意味し、2つ以上のタンパク質コード化領域をつなぐ必要がある場合は、連結されるDNA配列が隣接し、読み枠内にあることを意味する。
【0016】
「遺伝子コンストラクト」という用語は、適した制御領域(例えば、プロモーター)と機能可能に連結された、細胞のRNA分子(例えば、mRNA)に転写される領域(転写領域)を含むDNA配列を意味する。したがって、遺伝子コンストラクトは、機能可能に連結されたいくつかの配列、例えば、プロモーター、例えば、翻訳開始に関与する配列を含む5‘リーダー配列、(タンパク質)コード化領域、スプライスドナー及びアクセプター部位、イントロン及びエクソン配列並びに、例えば、転写終結配列部位を含む3'非翻訳配列(non-translated sequence)(3'非翻訳配列又は3'UTRとしても知られる)等を含んでもよい。
【0017】
「配列同一性」とは、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性の程度である。一般に、配列は、最高次の一致が得られるようアラインされる。「同一性」それ自体が当該技術分野において認識されている意味を有し、公開されている技術を使用して算出することができる。例えば、以下を参照:(COMPUTATIONAL MOLECULAR BIOLOGY、Lesk, A. M.編、Oxford University Press、New York、1988; BIOCOMPUTING: INFORMATICS AND GENOME PROJECTS、Smith, D. W.編、Academic Press、New York、1993; COMPUTER ANALYSIS OF SEQUENCE DATA、PART I、Griffin, A. M.及びGriffin, H. G.編、Humana Press、New Jersey、1994; SEQUENCE ANALYSIS IN MOLECULAR BIOLOGY、von Heinje, G.、Academic Press、1987;並びにSEQUENCE ANALYSIS PRIMER; Gribskov, M.及びDevereux, J.編、M Stockton Press、New York、1991)。2つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の同一性を判定するためのいくつかの方法が存在しているが、「同一性」という用語は当業者に周知である[Carillo, H.及びLipton, D.、SIAM J. Applied Math (1988) 48: 1073]。2つの配列間の同一性又は類似性を判定するために一般的に利用される方法としては、GUIDE TO HUGE COMPUTERS、Martin J. Bishop編、Academic Press、San Diego、1994並びにCarillo, H.及びLipton, D.、SIAM J. Applied Math (1988) 48: 1073に開示されている方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。同一性及び類似性を判定するための方法は、コンピュータプログラムにおいて分類される。2つの配列間の同一性及び類似性を判定するための好ましいコンピュータプログラム法としては、GCSプログラムパッケージ[Devereux, J.ら、Nucleic Acids Research (1984) 12(1):387]、BLASTP、BLASTN、FASTA[Atschul, S. F.ら、J. Molec. Biol. (1990) 215:403]が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
実例として、配列番号31の参照アミノ酸配列と少なくとも、例えば、70%の「配列同一性」を有するアミノ酸配列とは、ポリペプチド配列が配列番号31の参照アミノ酸の10個のアミノ酸のそれぞれにつき最大3個のアミノ酸改変を含んでもよいことを除いて、アミノ酸配列が参照配列と一致することが意図される。したがって、参照アミノ酸配列に対するアミノ酸配列の同一性のパーセンテージは、完全長の参照アミノ酸配列にわたって算出されるべきである。言い換えると、参照アミノ酸配列と少なくとも70%同一のを含むアミノ酸配列を得るために、参照配列中の最大30%のアミノ酸残基が除去されても、若しくは別のアミノ酸で置換されてもよく、又は参照配列中の総アミノ酸残基のうちの最大30%のいくつかのアミノ酸が参照配列に挿入されてもよい。参照配列のこうした改変は、参照アミノ酸配列のアミノ又はカルボキシ末端位置で起ってもよく、或いは、参照配列中の残基間で個々に又は参照配列内の1つ若しくは複数の隣接する群中のいずれかに散在してアミノ末端位置とカルボキシ末端位置の間のどこで起こってもよい。
【0019】
本発明による「核酸」又は「核酸配列」は、ピリミジン及びプリン塩基、好ましくは、それぞれシトシン、チミン及びウラシル並びにアデニン及びグアニンの任意のポリマー又はオリゴマーを含んでもよい[Albert L. Lehninger、Principles of Biochemistry、793~800頁(Worth Pub. 1982)を参照。これは、あらゆる目的のためにその全体が参照によって本明細書に組み込まれたものとする]。本発明は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド又はペプチド核酸構成要素及びこれらの塩基のメチル化、ヒドロキシメチル化若しくはグリコシル化型等のそれらの任意の化学的変形体並びに同種のものを意図する。ポリマー又はオリゴマーは、組成が不均質であっても、若しくは均質であってもよく、天然に生じる原料から単離されてもよく、又は人工的若しくは合成的に生成されてもよい。更に、核酸は、DNA若しくはRNA又はそれらの混合物であってもよく、永続的又は過渡的に一本鎖又はホモ二本鎖(homoduplex)、ヘテロ二本鎖(heteroduplex)及びハイブリッド状態を含む二本鎖の形態で存在してもよい。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「癌」という用語は、一般に未制御の細胞増殖によって特徴づけられる哺乳動物における生理的状態を指すか、又はそれを述べる。癌の例としては、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎癌、癌腫、皮膚癌、血液癌、白血病、メラノーマ、頭頸部癌及び脳癌が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本明細書中で使用される場合、「癌」は、悪性新生物とも呼ばれる。
【0021】
「アミノ酸配列」又は「タンパク質」又は「ペプチド」という用語は、特定の作用様式、大きさ、三次元構造又は由来に関係なくアミノ酸の鎖からなる分子を指す。したがって、それらの「フラグメント」又は「部分」は、依然として「アミノ酸配列」又は「タンパク質」又は「ペプチド」と呼ばれてもよい。「単離アミノ酸配列」は、もはや元の自然環境にない、例えば、インビトロ又は組換え型細菌若しくはヒト宿主細胞中のアミノ酸配列を指すために使用される。
【0022】
「T細胞」又は「Tリンパ球」は、リンパ球と名称がついた白血球細胞のグループに属し、細胞性免疫に関与する。骨髄の造血幹細胞から生じるT細胞は胸腺(すなわち、Tの由来の場所)で成熟し、末梢リンパ組織でその完全な機能を獲得する。T細胞の発生過程において、CD4-CD8- T細胞(CD4及びCD8共受容体の両方に関して陰性)は、初期のβ又はδ TCR遺伝子再構成の結果としてαβ又はγδのいずれかへの運命をコミットされる。初期にβ鎖再構成を経た細胞は、完全なβ鎖から構成されるプレTCR構造及びプレTCRα鎖を細胞表面に発現する。そのような細胞は、CD4+CD8+状態に転換し、TCRα鎖座位を再構成し、成熟αβTCRを表面に発現する。β遺伝子再編成の前に首尾よくγ遺伝子再編成を完了したCD4-CD8- T細胞は、機能的γδTCRを発現し、CD4-CD8-のままである。[Claudio Tripodoら、Gamma delta T cell lymphomas Nature Reviews Clinical Oncology 6、707~717頁(2009年12月)]。T細胞受容体は、CD3タンパク質複合体と会合する。成熟T細胞、すなわち、αβTCR又はγδTCRを発現しているT細胞は、T細胞受容体複合体を細胞表面に発現する。ヒト末梢性血のT細胞の全集団の約1~5%を構成するγδ T細胞は、更に部分集団に分けることができる。γδ T細胞の部分集団は、Vγ9Vδ2 T細胞を構成し、この細胞はVγ9Vδ2 TCRを発現する。T細胞受容体の細胞外ドメイン内に相補性決定領域(CDR1、CDR2、CDR3)がある。これらの領域は一般に最も変化するドメインであり、TCR間の多様性に著しく寄与する。CDR領域は、T細胞の発生中に構成され、いわゆる、可変(V)、多様性(D)及び連結(J)-遺伝子セグメントがランダムに組み合わされて種々のTCRを形成する。
【0023】
「Vγ9Vδ2 T細胞」は、総称してホスホ抗原といわれる一連の非ペプチド性リン酸化イソプレノイド前駆体によって特異的に、急速に活性化される点で機能的に定義することができる細胞である。ホスホ抗原は、実質的にすべての生細胞によって産生される。動物及びヒト細胞(癌細胞を含む)に見られる最も一般的なホスホ抗原は、イソペンテニル二リン酸(IPP)及びその異性体、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)である。IPPはメバロン酸経路からの代謝産物である。(E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-ブタ-2-エニル二リン酸(HMBPP又はHMB-PP)は、イソプレノイド生合成の非メバロン酸経路の中間体である。HMBPPは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含む大半の病原菌並びにマラリア原虫(マラリアを引き起こす)及びトキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)等の寄生性原生動物において必須の代謝産物である。Vγ9Vδ2 T細胞の活性化は、クローン増殖、細胞傷害活性及びサイトカインの発現を含む。「Vγ9Vδ2 T細胞」は、Vγ9Vδ2 T細胞受容体の発現によっても定義される。例えば、細胞は、以下に記載されるもの等のVγ9Vδ2 T細胞受容体に特異的な抗体を使用して選択されてもよい。これらの選択細胞は、γ及びδ遺伝子の再構成を経て、Vγ9 T細胞受容体鎖及びVδ2 T細胞受容体鎖をコードする。そのような選択細胞から、Vγ9 T細胞受容体鎖及びVδ2 T細胞受容体鎖に対応する核酸(又はアミノ酸)配列が決定されてもよい。
【0024】
当業者は、本明細書全体をとおして記載されるもの等の細胞の表面の抗原又は受容体の発現によって特徴づけられる細胞集団を適切に選択及び/又は特定することができる。当然のことながら、CD3、CD4、CD8、CD25、CD69、γδTCR及びVγ9Vδ2 TCR等の細胞の表面における発現に関して、これは、抗原又は受容体の発現のレベルが低い細胞と比較して、細胞の一部がはるかに高い発現レベルを有する細胞の集団において一般に行われる。よって、陽性又は陰性という用語は、相対的であると理解されるべきであり、すなわち、陽性細胞は陰性細胞と比較した場合にはるかに高い発現レベルを有する。このように、この意味で陰性である細胞は、依然として検出され得る発現レベルを有している場合もある。細胞の表面の発現は蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して分析されてもよく、例えば、CD3、CD4、CD8、CD25、CD69、γδTCR、Vγ9 TCR鎖及びVδ2 TCR鎖等に対して多くの特異性抗体が商業的に入手可能であり、実施例に記載されているもの及び利用可能なもの等のそのようなFACS分析に適している。そのような特異性抗体は、それらのそれぞれの抗原又は受容体と結合する免疫グロブリンである。よって、Vγ9Vδ2 T細胞はまた、FACSにおいてVγ9Vδ2 TCRに関して陽性であると定義し、選択することができる。FACS又は類似の分離技術に適した抗体(例えば、磁気ビーズと結合した抗体等)が広く入手可能である。抗体製造業者によって提供される条件等の条件が選択され、それが陰性及び/又は陽性細胞の選択を可能にする。Vγ9Vδ2 T細胞又は人工Vγ9Vδ2 T細胞の選択に適している場合もある抗体の例、例えば、BD Pharmingen社(BD、1ベクトンドライブ、フランクリンレイクス、ニュージャージー州、米国)から入手可能なものは、Vγ9-PE(クローンB3、番号555733)、Vδ2-FITC(クローンB6、番号555738)、γδTCR-APC(クローンB1、番号555718)であり、又は例えば、Beckman Coulter社から入手可能なものは、pan-γδTCR-PE(クローンIMMU510、番号IM1418U)である。CD25及びCD69を検出するのに適している場合もある抗体の例は、BD Pharmingen社から入手可能なCD25-PE(クローンM-A251、番号555432)及びCD69-FITC(クローンL78、番号347823)である。
【0025】
本発明の詳細な説明:
本発明の第1の態様において、CDR1領域及びCDR2領域を含むヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子であって、CDR1領域は配列番号31のアミノ酸配列GRTFSNYAMGと少なくとも40%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、
CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列AISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、免疫グロブリン分子は単一ドメイン抗体である、免疫グロブリン分子が提供される。
【0026】
本発明によるヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、例えば、配列番号71及び72で挙げられるVγ9及びVδ2 T細胞受容体鎖のアミノ酸配列によって定義されるもの等のVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合する免疫グロブリン分子である。そのようなT細胞受容体との結合は、例えば、実施例のセクションに記載されているもの等のFACS分析により検出することができる。例えば、Vγ9Vδ2 T細胞受容体、例えば、配列番号71及び72を発現する細胞は、対照免疫グロブリン分子又はVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合する免疫グロブリン分子のいずれかと接触させられる。或いは、実施例に記載されているとおり健常ヒトドナー由来のVγ9Vδ2 T細胞が対照免疫グロブリン分子又はVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合する免疫グロブリン分子のいずれかと接触させられてもよい。その細胞と結合した免疫グロブリンの量は、Vγ9Vδ2 T細胞受容体と結合しない対照免疫グロブリン分子と特異的な免疫グロブリン分子が比較された場合、増加する(例えば
図7を参照)。本発明によるヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、例えば、フローサイトメトリーによって測定された場合に対照免疫グロブリンと比較して平均蛍光強度(MFI)が最低2倍増加する免疫グロブリンであると定義することができる。MFIは、選択された蛍光チャネル(FITC、PE、PerCP等)における蛍光強度の平均である。陰性対照抗体としてアゾ色素リアクティブレッド6(RR6)に対する単一ドメイン抗体(又はVHH、ナノボディ)を使用してもよい(Spinelli Sら、Biochemistry 2000;39:1217~1222頁)。よって、当業者は適切に免疫グロブリン分子のVγ9Vδ2 T細胞受容体との結合を測定するための適した条件を選択することができる。免疫グロブリン結合は、特異性及び親和性の観点から表わすことができる。特異性は、どの抗原又はそのエピトープに免疫グロブリン分子が結合するかを判定する。
【0027】
「免疫グロブリン分子」(「Ig」と略記する)は、本明細書中で使用される場合、当該技術分野において周知であり、用語「抗体」を含む。「免疫グロブリン」という用語は、本明細書中で使用される場合、相補性決定領域(CDR)を有する抗原結合部位を含むあらゆるポリペプチドを指す。この用語は、以下に限定されるものではないが、抗体、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、重鎖のみ抗体、ラマ抗体、単一ドメイン抗体及びナノボディ(例えば、VHH)を含む。「免疫グロブリン分子」という用語はまた、Fab、F(ab')2、Fv、scFv、Fd、dAb等の免疫グロブリンフラグメント及びその他の抗体フラグメント又は抗原結合機能を保持するCDRを含むその他のコンストラクトを含む場合もある。一般に、そのようなフラグメントは、抗原結合ドメインを含む。免疫グロブリン分子又はそのフラグメントは、任意の既知の抗体アイソタイプ及びそれらの立体構造、例えば、IgA1若しくはIgA2等のIgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4等のIgG又はIgMクラスであってもよく、或いは任意の組み合わせのそれらの混合物、例えば、IgG1及びIgG2aクラスの抗体の混合物を構成してもよい。
【0028】
免疫グロブリンは、免疫系関連タンパク質である。ヒト抗体は、結合した2つの重鎖及び2つの軽鎖の4つのポリペプチドからなり、「Y」形の分子を形成する(
図9Aを参照)。「Y」の先端部のアミノ酸配列は、異なる抗体間で大きく変化する。それぞれの先端部は、抗原と結合するための特異性を有する。ヒト抗体の可変領域は、軽鎖及び重鎖の末端、すなわち、軽鎖及び重鎖の可変ドメインを含む。定常領域は、例えば、免疫系を活性化するために使用されるメカニズムを決定する。
【0029】
抗体は、その重鎖定常領域構造及び免疫機能に基づいて5つの主要なクラス、IgM、IgG、IgA、IgD及びIgEに分けられる。重鎖のサブクラスも知られている。例えば、ヒトのIgG重鎖は、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4サブクラスのいずれであってもよい。
【0030】
それぞれの鎖、すなわち、免疫グロブリン分子は、可変ドメインを有する。免疫グロブリン分子の可変ドメインは、超可変(HV)領域及びフレームワーク(FR)領域に細分される。HV領域は、所与の位置の最も一般的なアミノ酸に対して、高い比率でその位置に異なるアミノ酸を有する。超可変領域は、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる。免疫グロブリン分子は、3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2及びCDR3)を有する。可変性がはるかに低いアミノ酸配列を有する4つのフレームワーク領域が各CDR領域を隔てる。CDR領域は、Vγ9Vδ2 T細胞受容体等の抗原と直接結合することができる(例えば、
図1を参照、ここでは、選択されたVHHのフレームワーク領域及びCDR領域が示されている)。フレームワーク領域は、抗原と接触するためにCDR領域を配置するための足場として働くベータシート構造を形成する。
【0031】
ラマ抗体は、2つの重鎖からなる(
図9Bを参照)。それぞれの重鎖は、1つの可変ドメインを有する免疫グロブリン分子である。そのような抗体は、単鎖抗体と呼ばれ、すなわち、それは1種類の鎖を含む。そのような抗体は、重鎖のみ抗体と呼ばれる場合もある。
【0032】
単一ドメイン抗体は、1つの単量体可変ドメインを含む免疫グロブリン分子である(
図9Cを参照)。したがって、単一ドメイン抗体は、1つのCDR1、1つのCDR2及び1つのCDR3を含む。単一ドメイン抗体は、単鎖抗体(又は重鎖のみ抗体)由来のであってもよい。完全な抗体のように、単一ドメイン抗体は、選択的に特異抗原と結合することができる。単一ドメイン抗体は、CDR1、CDR2及びCDR3並びにフレームワーク領域を有する免疫グロブリン鎖の可変ドメインのみを含んでもよく、そのような抗体は、VHH又はナノボディと呼ばれる場合もある。わずか約12~15kDaの分子量を有するナノボディは、2つの重鎖及び2つの軽鎖から構成される一般的な抗体(150~160kDa)よりもはるかに小さい。
【0033】
CDR1、CDR2及びCDR3配列は、種間で交換されてもよい。例えば、ラマ免疫グロブリン分子由来のCDR配列が選択され、ヒト免疫グロブリン分子のCDR配列と交換されて、ラマCDR配列に由来する特異性を有するヒト免疫グロブリン分子を得てもよい。これは、ヒト配列が、元のラマフレームワーク配列と比較してヒトに対する免疫原性が低い可能性があるため、有利である場合もある。そのようなCDR配列の交換は、ヒト化として知られている。よって、本発明による免疫グロブリン分子、単鎖抗体及び単一ドメイン抗体は、ヒト由来の免疫グロブリン配列又はラマ由来の免疫グロブリン配列を有してもよく、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合を提供するために本発明によるCDR配列と置き換えられたCDR1、CDR2及びCDR3配列を有してもよい。例えば、ヒト単鎖抗体は、ヒト重鎖配列に対応するが変異した、例えば、CH1ドメインが除去された配列を含んでもよく、その結果、ラマ様単鎖抗体が形成され(例えば、
図9Bを参照)、本発明によるCDR配列によって置き換えられた前記ヒト重鎖配列のCDR領域を有する。よって、ヒト免疫グロブリン、ヒト単鎖抗体又はヒト単一ドメイン抗体は、フレームワーク及び/又は定常領域の由来元を指し、本発明のCDR1、CDR2及びCDR3領域の由来元を指すのではない。
【0034】
実施例のセクションに記載されているとおり、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、ヒトドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞によりラマ(Llama glama)を免疫化すること及びファージディスプレイを含む方策を使用することによって選択された。選択されたVHH配列が配列され、Table 3(表3)に列挙され、
図1に示される。選択されたVHHのCDR1、CDR2及びCDR3領域をTable 1(表1)で以下に列挙する。CDRのそれぞれも対応する配列番号と共にTable 3(表3)に列挙する。
【0035】
【0036】
ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合させるために発明者らが選択した免疫グロブリンは、驚くべきことに、CDR1及びCDR2に関してかなりの配列同一性を有していた。理論に縛られるものではないが、そのようなCDR1及びCDR2配列は、Vγ9Vδ2 T細胞受容体の結合に実質的に寄与する。CDR3領域に関してより多様性が見られ、これは、理論に縛られるものではないが、CDR3配列が免疫グロブリン分子の機能性、すなわち、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止すること、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を誘導すること又はVγ9Vδ2 T細胞の活性化の阻止も、活性化の誘導もしないこと等の調節のタイプに関係している可能性がある。よって、免疫グロブリン分子はCDR1領域及びCDR2領域を含み、CDR1領域は配列番号31のアミノ酸配列GRTFSNYAMGと少なくとも40%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列AISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0037】
好ましくは、免疫グロブリン分子は単鎖抗体である。前述のとおり、免疫グロブリンはラマに由来する。ラマは、ジスルフィド架橋により二量体になった単一の重鎖を有する抗体を産生する。すなわち、ラマ抗体は2本の鎖からの2つの単一の可変ドメインを有する(
図9Bを参照)。
【0038】
一実施形態において、CDR2領域は、配列番号32のAISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、9位にT、12位にA及び15位にVを有する。選択されたCDR2領域の配列が比較されるとき、これらの位置にあるアミノ酸は変化を示さない。よって、理論に縛られるものではないが、これらの位置は、Vγ9Vδ2 T細胞受容体との結合にとって重要なようである。当然のことながら、言及される位置は参照配列中の位置に関し、全体としての免疫グロブリン分子中の位置を言及するものではない。よって、CDR2領域は、特定の位置において配列番号32と同一のアミノ酸を有する。
【0039】
実施例のセクションに記載されているとおり、CDR1、CDR2及びCDR3領域は、ラマ抗体から選択された。よって、本発明による単鎖抗体は、ラマ由来の免疫グロブリン分子配列を含む場合もある。当然のことながら、そのようなラマ単鎖抗体では、元のCDR配列が、例えば、Table 1(表1)に列挙されるもの等の置換CDR配列に置き換えられて、置換CDR配列の特異性を有するラマ単鎖になる。同様に、同じことがヒト重鎖配列を用いて行われてもよい。このヒト単鎖抗体は、置換CDR配列に支配される特異性を有する。CDR1、CDR2及びCDR3領域の他のフレームワーク、例えば、ヒトフレームワーク等のその他の種への導入は、当該技術分野で周知である。
【0040】
一実施形態において、単鎖抗体は、単一ドメイン抗体である。単鎖抗体は、フレームワーク領域を含む。よって、ヒト単一ドメイン抗体は、例えば、ヒト重鎖及び/又はヒト軽鎖配列のいずれかに由来するヒトフレームワーク領域並びに本発明によるCDR1、CDR2及びCDR3配列を有してもよい。ラマ単一ドメイン抗体は、ラマフレームワーク領域を有する。
【0041】
一実施形態において、1つ又は複数のフレームワーク領域は、配列番号67~70のアミノ酸配列の群から選択される。これらのフレームワーク領域は、単離されたVHHクローンの1つからのフレームワーク領域である。観察され得るとおり、20の単離されたクローンのフレームワーク領域は実質的に変化がない。
【0042】
一実施形態において、免疫グロブリン分子、単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、CDR3領域を含み、CDR3領域は、アミノ酸配列配列番号3、6、9、11、14、17、20、22、25、27、29、30、33、35、37、40、43及び46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。CDR1及びCDR2配列と組み合わされたこれらのCDR3領域は、下で述べるとおりの結合及び機能をもたらす。
【0043】
一実施形態において、免疫グロブリン分子、単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、Table 1(表1)に列挙されるもの等の抗体のCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列の組み合わせを有する。一実施形態において、免疫グロブリン分子、単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、配列番号47~66からなるアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0044】
一実施形態において、上で開示されるとおりの本発明による、医学的処置用の免疫グロブリン分子が提供される。当然のことながら、インビボで、例えば医学的処置において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子がヒトVγ9Vδ2 T細胞と結合するとき、ヒトVγ9Vδ2 T細胞と結合するとそれがヒトVγ9Vδ2 T細胞に対して向けられる免疫応答を誘導する可能性があるため、免疫グロブリン分子が完全に機能的な免疫グロブリン分子であることが望ましくない場合がある。よって、そのようなシナリオでは、機能的な定常領域を有していない、すなわち、定常領域が不活化又は除去された免疫グロブリン分子が、例えば、ナノボディ及びVHH等では好ましい。これは、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の作用がインビボにおいて必要とされる場合に特に有用であることもある。
【0045】
一実施形態において、本発明による免疫グロブリン分子をコードするヌクレオチド配列が提供される。本明細書中で開示される配列は、アミノ酸配列に関する。よって、必要なのはアミノ酸配列をヌクレオチド配列に変換するためにコドン表を使用することのみであるため、当業者は適切にアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を提供することができる。そのようなヌクレオチド配列はそれをプロモーター配列、ポリAシグナル等と機能可能に連結するために使用され、抗体を発現することができる遺伝子コンストラクトを提供してもよい。そのヌクレオチド配列を含むそのような遺伝子コンストラクトは、宿主細胞内に含まれてもよい。
【0046】
一実施形態において、本発明による免疫グロブリン分子を調製するための方法であって、
- 本発明による免疫グロブリン分子をコードするヌクレオチド配列を含む本発明による宿主細胞を培養する工程と、
- 宿主細胞に免疫グロブリンを発現させる工程と、
- 免疫グロブリンを得る工程と
を含む、方法が提供される。
【0047】
更に、本発明はまた、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止する免疫グロブリン分子である、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子を提供する。ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化の阻止は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化が望ましくない状態及び/又は治療に有利である。
【0048】
Vγ9Vδ2 T細胞は、哺乳動物のメバロン酸経路又は微生物のデオキシキシルロース-リン酸経路からのホスホ抗原(pAg)と呼ばれる小さな非ペプチド性リン酸化中間体によって強く、特異的に活性化され得る。ホスホ抗原は、その後、pAgと膜結合ブチロフィリン3A1/CD277分子との間の相互作用によりVγ9Vδ2 T細胞によって特異的に認識され得る(活性化をもたらす)。この例において示されるとおりVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、ホスホ抗原により誘導されたVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止することができる。
【0049】
好ましくは、免疫グロブリン分子がヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止する免疫グロブリン分子であるヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、CDR1領域及びCDR2領域を含むヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子であり、CDR1領域は配列番号31のアミノ酸配列GRTFSNYAMGと少なくとも40%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列AISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、免疫グロブリン分子は単鎖抗体である。一実施形態において、前記免疫グロブリン分子のCDR2領域は、配列番号2のAISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、9位にT、12位にA及び15位にVを有する。別の実施形態において、免疫グロブリン分子は単一ドメイン抗体であり、好ましくは、単一ドメイン抗体は、ラマ単鎖抗体又はヒト単鎖抗体に由来する。別の実施形態において、免疫グロブリン分子は単鎖抗体又は単一ドメイン抗体である。更に別の実施形態において、免疫グロブリン分子又は単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、配列番号67~70のアミノ酸配列の群から選択される1つ又は複数のフレームワーク領域を含む。
【0050】
一実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止する前記ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、医学的処置用である。別の実施形態において、前記免疫グロブリン分子は、医学的処置用であり、医学的処置は、メバロン酸経路の阻害物質の使用を含むか、又は医学的処置は、癌の治療を含む。別の更なる実施形態において、前記免疫グロブリン分子は、医学的処置用であり、医学的処置は、感染性疾患の治療を含む。
【0051】
pAg産生の下流に作用するメバロン酸経路の阻害物質としては、一般的に臨床的に処方されるパミドロネート、アレンドロネート、リセドロネート、イバンドロネート及びゾレドロネート等のアミノビスホスホネートが挙げられる。化合物の別のクラスとしては、イソブチルアミン、イソアミルアミン及びn-ブチルアミン等のアルキルアミンが挙げられる。そのような化合物は、パジェット病、骨粗鬆症、高カルシウム血症の治療及び悪性骨転移の場合の骨格事象の予防に使用することができる。これは、内生pAgイソペンテニル二リン酸(IPP)の細胞内蓄積並びにそれに続くVγ9Vδ2 T細胞の選択的な活性化及び増殖をもたらす。アミノビスホスホネート投与は、Vγ9Vδ2 T細胞のこの選択的な活性化による急性発熱反応を伴うことが多い。この急性期反応は1日のピーク開始及び3日の中間期間を有し、主として発熱、悪寒、紅潮、急性の筋骨格症状、疼痛、全身の不快感及び背中、首、胸部又は肩を含む局所的な愁訴、悪心、嘔吐及び下痢からなる。よって、医学的処置では、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止する前記ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、パジェット病、骨粗鬆症、骨転移及び高カルシウム血症がある患者の例えば、アミノビスホスホネート投与によって誘発される急性期反応を予防することができる。更に、そのような免疫グロブリン分子はまた、インビボにおけるVγ9Vδ2 T細胞の過剰な活性化の医学的処置に有利である場合もあり、この過剰な活性化は、例えば、Vγ9Vδ2 T細胞が過剰に刺激されるか若しくは慢性的に刺激される感染中に、又は腫瘍細胞におけるメバロン酸経路の慢性的な過活性がVγ9Vδ2 T細胞を疲弊させる可能性がある特定の癌性状態において起こる可能性がある。患者のそのような(過剰)刺激は、Vγ9Vδ2 T細胞のCD69(初期活性化マーカー)若しくはCD25(後期活性化マーカー)等の表面マーカーのアップレギュレーションと組み合わせて、例えば、基準レベルと比較したVγ9Vδ2 T細胞における増加を測定することによって、又は例えば、T細胞の5%超がVγ9Vδ2 T細胞である超正常レベルのVγ9Vδ2 T細胞を測定することによって判定することができる。当然のことながら、Vγ9Vδ2 T細胞の血液から組織への移行に起因する、超正常レベルのVγ9Vδ2 T細胞の測定は必要ない。一方、長期的な過剰刺激では、Vγ9Vδ2 T細胞が十分に活性化されない場合があり、これも過剰刺激の徴候である場合がある。サイトカイン産生(IFN-ガンマ、TNF-アルファ)及び細胞傷害性顆粒含有量も細胞内でフローサイトメトリーによって測定することができる。
【0052】
好適な実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止する前記ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、CDR3領域を含む免疫グロブリン分子であり、CDR3領域は、アミノ酸配列配列番号27及び30からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0053】
一実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止する前記ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止するために使用される。この実施形態によると、前記免疫グロブリン分子(単鎖抗体又は単一ドメイン抗体を含む)は、活性化を阻止するために、例えば、実施例に記載されているもの等のアッセイに使用される。
【0054】
本発明はまた、CDR1領域及びCDR2領域を含むヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する免疫グロブリン分子、すなわちヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子であって、CDR1領域は配列番号31のアミノ酸配列GRTFSNYAMGと少なくとも40%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列AISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、単鎖抗体である、免疫グロブリン分子を提供する。一実施形態において、CDR2領域は、配列番号2のAISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、9位にT、12位にA及び15位にVを有する。別の実施形態において、免疫グロブリン分子は単一ドメイン抗体であり、好ましくは、単一ドメイン抗体は、ラマ単鎖抗体又はヒト単鎖抗体である。別の実施形態において、単鎖抗体は、単一ドメイン抗体である。更なる実施形態において、免疫グロブリン分子又は単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、配列番号67~70のアミノ酸配列の群から選択される1つ又は複数のフレームワーク領域を含む。
【0055】
好ましくは、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する前記免疫グロブリン分子は、CDR3領域を含み、CDR3領域は、アミノ酸配列配列番号6、9、11、14、17、20、22、25、29、33、35及び46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0056】
Vγ9Vδ2 T細胞を利用することを目的とする現行の方策は、それらの全身的な活性化(例えば、アミノビスホスホネート又はBrHPP等の合成ホスホ抗原による)又は例えば、Vγ9Vδ2 T細胞の養子移入に依存している。これらのアプローチは、患者の忍容性が良好であることが示され、抗腫瘍活性の徴候が実証された。しかしながら、結果は、一般に臨床適用できるほど一貫していない。示される方策は、Vγ9Vδ2 T細胞を全身的に活性化するが、これらの細胞が抗腫瘍効果を発揮することになる腫瘍にこうした細胞が特異的にリクルートされない。ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化し、好ましくは薬剤と連結された前記免疫グロブリン分子は、臨床の現場においてVγ9Vδ2 T細胞を活性化するために使用することができる。
【0057】
ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する前記免疫グロブリン分子は、薬剤と連結されるのが好ましい。前記薬剤は、好ましくは標的、例えば、癌細胞又は例えば、ウイルスが感染した感染細胞又は非宿主細胞、例えば、細菌と結合することができる薬剤である。好ましくは、前記薬剤は、免疫グロブリン分子である。より好ましくは、前記免疫グロブリン分子は、単鎖抗体又は単一ドメイン抗体である。薬剤と連結することによって、全身的な活性化とは対照的に、薬剤がヒトVγ9Vδ2 T細胞をヒトVγ9Vδ2 T細胞の作用が必要とされる部位にリクルートし、活性化することができる。例えば、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する前記免疫グロブリン分子は、腫瘍特異的抗体、抗ウイルス抗体又は抗菌抗体と連結することができる。そのような腫瘍特異的抗体は、いかなる抗体であってもよい。別の抗体と連結されたそのような免疫グロブリン分子は、二重特異性抗体と呼ぶことができる。二重特異性抗体はまた、本発明によるCDR1、CDR2及びCDR3領域を含み、単鎖抗体に含まれる鎖等の鎖である第1の免疫グロブリン分子からなってもよく、第1の免疫グロブリン鎖は、これもまた単鎖抗体に含まれる鎖等の鎖である第2の免疫グロブリン分子と対にされ、第2の免疫グロブリンは標的と結合する。したがって、それぞれの鎖が異なる1つの結合ドメインを有する2本の鎖を有する二重特異性抗体が形成され(
図9Bに示されるのと同様)、一方の結合ドメインが本発明によるCDR1、CDR2及びCDR3を含み、他方の結合ドメインが標的と結合する。ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する、薬剤と連結した前記免疫グロブリン分子はまた、2つの単一ドメイン抗体を含む二重特異性抗体であってもよく、第1の単一ドメイン抗体が本発明によるCDR1、CDR2及びCDR3領域を含み、標的と結合する第2の単一ドメイン抗体と連結される。
【0058】
よって、一実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化し、好ましくは薬剤と連結された前記免疫グロブリン分子は医学的処置用である。好ましくは、医学的処置は癌又は感染の治療である。
【0059】
別の実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化するための、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する前記免疫グロブリン分子の使用が提供される。そのような使用は、例えば、実施例に記載されているもの等のアッセイに有用である。
【0060】
別の実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化する前記免疫グロブリン分子は標識を含む。こうした免疫グロブリン分子は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体を発現している細胞のフローサイトメトリーに特に有用である。免疫グロブリン分子は、タグ、例えば、実施例に記載されているmycタグ若しくはhis-タグ又は蛍光タンパク質配列を含んでもよく、或いは適したイメージング色素と結合していてもよい。更に、例えば、磁気ビーズと結合している場合、こうした免疫グロブリン分子は、末梢性血からの細胞懸濁液を含む細胞懸濁液からこれらの細胞を単離及び精製するために使用することができる。こうした免疫グロブリンは、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化するため、これらの免疫グロブリン分子は、同時に細胞集団を活性化し、増殖させながらこれらの細胞を選択するのに特に有用である。よって、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を標識化するため及び/又は選択するため並びに活性化するためのこれらの免疫グロブリン分子の使用が更に提供される。
【0061】
本発明の別の態様において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止せず、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化しない、CDR1領域及びCDR2領域を含むヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子である免疫グロブリン分子であって、CDR1領域は配列番号31のアミノ酸配列GRTFSNYAMGと少なくとも40%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列AISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、単鎖抗体である、免疫グロブリン分子が提供される。一実施形態において、CDR2領域は、配列番号2のAISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、9位にT、12位にA及び15位にVを有する。別の実施形態において、免疫グロブリン分子は単一ドメイン抗体であり、好ましくは、単一ドメイン抗体は、ラマ単鎖抗体又はヒト単鎖抗体である。別の実施形態において、単鎖抗体は、単一ドメイン抗体である。更に別の実施形態において、免疫グロブリン分子又は単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、1つ又は複数の配列番号67~70のアミノ酸配列の群から選択されるフレームワーク領域を含む。
【0062】
一実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止せず、それらの細胞の活性化もしない免疫グロブリン分子である前記免疫グロブリン分子はCDR3領域を含み、CDR3領域は、配列番号3、37、40及び43からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0063】
別の実施形態において、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止しない免疫グロブリン分子である前記免疫グロブリン分子は標識を含む。
【0064】
こうした免疫グロブリン分子は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体を発現している細胞のフローサイトメトリー又は免疫組織化学的検出に特に有用である。免疫グロブリン分子は、タグ、例えば、実施例に記載されているmycタグ若しくはhis-タグ又は蛍光タンパク質配列を含んでもよく、或いは適したイメージング色素と結合していてもよい。更に、例えば、磁気ビーズと結合している場合、こうした免疫グロブリン分子は、末梢性血からの細胞懸濁液を含む細胞懸濁液からこれらの細胞を単離及び精製するために使用することができる。これらのVγ9Vδ2 T細胞受容体結合免疫グロブリン分子は、免疫組織化学における検出、フローサイトメトリー、イメージングのため及び細胞懸濁液からの磁気精製のための調査ツールとして開発されてもよい。これらの免疫グロブリン分子はヒトVγ9Vδ2 T細胞に影響がないため、更なる使用のためにこれらの細胞を選択するのに特に有用である。よって、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を標識化又は選択するためのこれらの免疫グロブリン分子の使用が更に提供される。
【0065】
本発明の別の態様において、CDR1領域及びCDR2領域を含む免疫グロブリンである免疫グロブリン分子であって、CDR1領域は配列番号31のアミノ酸配列GRTFSNYAMGと少なくとも40%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR2領域は、配列番号32のアミノ酸配列AISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、単鎖抗体である、免疫グロブリン分子が提供される。一実施形態において、CDR2領域は、配列番号2のAISWSGGSTYYADSVKGと少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、9位にT、12位にA及び15位にVを有する。別の実施形態において、免疫グロブリン分子は単一ドメイン抗体である、好ましくは、単一ドメイン抗体は、ラマ単鎖抗体又はヒト単鎖抗体である。別の実施形態において、単鎖抗体は、単一ドメイン抗体である。別の実施形態において、免疫グロブリン分子又は単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、配列番号67~70のアミノ酸配列の群から選択される1つ又は複数のフレームワーク領域を含む。本発明のこの態様の別の実施形態において、免疫グロブリン分子、単鎖抗体又は単一ドメイン抗体は、CDR3領域を含み、CDR3領域は、アミノ酸配列配列番号3、6、9、11、14、17、20、22、25、27、29、30、33、35、37、40、43及び46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0066】
本発明の別の態様において、CDR3領域を含む免疫グロブリン分子であって、CDR3領域は、アミノ酸配列配列番号3、6、9、11、14、17、20、22、25、27、29、30、33、35、37、40、43及び46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、免疫グロブリン分子が提供される。
【実施例】
【0067】
ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞の作製
示されるとおりに健常ドナー由来(ヒト)Vγ9Vδ2 T細胞を作製し、培養した(Schneiders FLら、Clin Immunol 2012; 142: 194~200頁)。
【0068】
Jurkat Vγ9Vδ2 T細胞株及びJurma Vγ9Vδ2 T細胞株の作製
Vγ9Vδ2 TCRを発現するJurkat及びJurma細胞株を以前に示された技法に従って合成した(Scholten KBら、Clin Immunol 2006; 119: 135~45頁)。簡単にいうと、ピコルナウイルス由来の2A配列によって分離されたクローンG9 Vγ9及びVδ2鎖のタンパク質配列(Allison TJら、Nature 2001 ; 411 :820~4頁、Davodeau Fら、Eur J Immunol 1993; 23:804~8頁)は、GeneART(Life Technologies社)によって最適なタンパク質産生のためにコドンが改変され、合成され、その後、LZRSにクローン化された。Phoenix-Aパッケージング細胞株へトランスフェクション後、レトロウイルスの上清を回収して、Jurkat又はJurma細胞に形質導入した。
【0069】
抗Vγ9Vδ2 TCR VHHの選択
2頭のラマをそれぞれ1×108の滅菌PBS中のヒトドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞により4回、6週間の期間にわたって免疫化した。示されるとおりにラマPBMCから単離した抽出RNAからファージライブラリーを構築し(Roovers RCら、Cancer Immunol Immunother. 2007;56:303~17頁)、ファージミドベクターpUR8100に連結した。2回のファージディスプレイ選択によってVγ9Vδ2 T細胞受容体(TCR)に特異的なVHHを作製した。1回目には、両方のライブラリーからのファージを、形質導入したJurkat細胞と共に2時間、4℃でインキュベートして、Vγ9Vδ2 TCR(Jurkat Vγ9Vδ2)を安定して発現した。インキュベーション後、細胞を洗浄し、ファージを100mM HClで溶出した。4℃における7分間のインキュベーション後、結合していないファージを除去し、Tris-HClで中和した後、大腸菌に感染させた。選択されたファージの回収後、2回目のファージを、Jurkat細胞に対してまず2回、4℃で1時間カウンターセレクションした後、結合していないファージを1時間Jurkat Vγ9Vδ2と共にインキュベートした。1回目の選択に関して示したとおりにファージを溶出し、大腸菌に感染させた。細菌をLB/2%グルコース/アンピシリンプレートに蒔き、溶出されたVHH DNAをコードする1つの細菌コロニーを形成させた。
【0070】
VHHの産生及び精製
個々のクローン由来のVHH DNAをSfi 1/BstEIIで消化し、Sfi 1/BstEIIクローニングを可能にするためにHC-Vカセットを付加し、genlll配列のC末端myc-及び6x HIS-タグが除去された、pHen1(Hoogenboomら、Nucleic Acids Res 1991)からの派生体であるプラスミドpMEK219にクローン化した。pMEK219-VHHをTG1細菌にトランスフォームした。0.1%グルコース及び100ug/mlアンピシリンを加えた2xTY培地に接種するために一晩培養物を使用した。OD6ooが0.5に達したら、IPTGを添加して、1mMの最終濃度にした。2~5時間タンパク質産生をさせた。すべての培養物の増殖を200~220rpmで振盪しながら37℃で行った。培養物を4℃で15分間回転させることによってタンパク質産生を停止させた。細菌ペレットをPBSに懸濁させ、少なくとも1時間凍結させた。細菌懸濁液を解凍し、4℃で1時間わずかに振盪し、4500rpmで30分間回転させた。上清を洗浄したTalon樹脂(Clontech社、1290テラベラアベニュー、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)と共に室温で1時間インキュベートした。Talon樹脂をPBSで3回及び15mMイミダゾール/PBS pH7で1回洗浄し、150mMイミダゾール/PBS pH7で溶出した。溶出した画分をPBSに対して2回透析した。精製したVHHの純度をクマシー染色したタンパク質ゲルによって確認した。
【0071】
ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞又はJurkat Vγ9Vδ2 T細胞とのVHHの結合。
5×104のドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞をFACSバッファーで洗浄した。すべてのインキュベーションは、FACSバッファー中4℃で30分間行った。細胞を25μlの500nM VHHと共にインキュベートした。洗浄後、細胞を10μlの1:500抗mycタグ抗体クローン4A6と共にインキュベートした(Merck Millipore社、290コンコードロード、ビレリカ、マサチューセッツ州、米国)。洗浄後、細胞を10μlの1:200ヤギ抗マウスF(ab)2 APC(Beckman Coulter社、フラートン、カリフォルニア州、米国)と共に4℃で30分間インキュベートした。最後の洗浄工程後、細胞とのVHHの結合をフローサイトメトリー(FACSCalibur、BD Biosciences社)により測定した。
【0072】
ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞のVHHによる活性化
平底の96ウェル細胞培養プレート(Costar社)を4℃において50μlの4ug/mlマウス抗mycクローン9E10(社内で作製)で一晩コーティングさせた。ウェルをPBSで洗浄し、200μlの4% BSA/PBSを用いて室温で30分間ブロッキングした。ブロックを捨て、ウェルを30μlのPBS中の500nM VHHと共に室温で2時間インキュベートした。ウェルを洗浄し、各ウェル当たり200μlのIMDM+中の1×104のVγ9Vδ2 T細胞(Schneiders FLら、Clin Immunol 2012; 142: 194~200頁)を添加し、細胞内サイトカインの保持のためにgolgiplug(1:500)(BD Biosciences社)の存在下、加湿雰囲気を含むCO2インキュベーター中において37℃で一晩インキュベートした。その後、フローサイトメトリーを使用してCD25、IFN-γ及びグランザイムBの発現を測定した{下記に記載されるとおり;Schneiders FLら、Clin Immunol 2012; 142: 194~200頁[CD25-PE(クローンM-A251、番号555432)、IFN-γ APC(クローンB27番号554702)共にBD Pharmingen社から入手可能。グランザイムB PE(クローンGB-12番号M2289)Sanquin社、アムステルダム、オランダから入手可能である]}。
【0073】
ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞のVHHによる中和
HeLa細胞を、示した量のアミノビスホスホネート(NBP;ABPパミドロン酸ジナトリウム、Pharmachemie社、ハールレム、オランダ)と共に加湿雰囲気を含むCO2インキュベーター中、37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、平底の96ウェル細胞培養プレート(Costar社)の各ウェル当たり100μlのIMDM+中5×104で細胞を蒔き、加湿雰囲気を含むCO2インキュベーター中37℃で2時間付着させた。細胞をPBSで洗浄し、100μlのIMDM+中で培養した。ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞を、示したVHH濃縮物と共に4℃で1時間インキュベートした。75×103のVHHインキュベートVγ9Vδ2 T細胞を、NBP処理したHeLa細胞でコーティングしたウェルに添加し、加湿雰囲気を含むCO2インキュベーター中37℃でインキュベートした。トリプシンを用いて96ウェル丸底プレートに細胞を回収し、細胞内サイトカインの保持のためにGolgiplug(1:500、BD Biosciences社)を添加した。フローサイトメトリーを使用してCD25、IFN-γ及びグランザイムBの発現を測定した(下記に記載されるとおり;Schneiders FLら、Clin Immunol 2012; 142: 194~200頁)
【0074】
VHH鎖の特異性
ドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞株を、マウス抗ヒトVδ2-FITC及びマウス抗ヒトVγ9-PE(共にBD Biosciences社)で染色し、FACS Aria(BD Biosciences社)で下記の集団に関して選別した:Vδ2単一陽性γδ T細胞、Vγ9単一陽性γδ T細胞、Vγ9Vδ2二重陽性γδ T細胞及びVγ9Vδ2二重陰性γδ T細胞。選別した細胞をドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞株と同じ方法で培養した。VHHの特異性を判定するために、104細胞の得られた精製済みの選別細胞株を、抗myc抗体の検出のために10μlの1:80ヤギ抗マウス-F(ab)2 RPE(Dako社の番号R0480、グロストルプ、デンマーク)を使用する調整を加えたがVHHのドナー由来Vγ9Vδ2 T細胞との結合に関して記載されるとおりの方法論と同様にVHHを用いて染色した。
【0075】
結果
選択したVHHを上記のとおり特異性に関して試験し、20のVHH[Table 2(表2)を参照)のすべてがVγ9Vδ2 T細胞受容体を発現しているJurkat細胞並びに初代Vγ9Vδ2 T細胞との結合を示したが、Vγ9Vδ2 T細胞受容体を発現していないJurkat細胞とは結合しなかった。
【0076】
ホスホ抗原により誘導される活性化を阻止する免疫グロブリン分子
クローン6F6及び5E7を、Vγ9Vδ2 T細胞のホスホ抗原により誘導される刺激を阻止するナノボディと特徴づけた。クローン6F6及び5E7の両方ともVγ9Vδ2 T細胞受容体のVδ2鎖と結合するナノボディである。GrB、CD25及びIFN-ガンマの発現は、未刺激対照と同様であったが、陽性対照は比較的高い発現レベルを示した(
図2を参照)。用量反応曲線では、ホスホ抗原との曝露時に、ホスホ抗原により誘導されたVγ9Vδ2 T細胞の活性化の用量依存的中和が示されている(
図3を参照)。VHH 5E7ナノボディがアミノビスホスホネート(ABP)によるVγ9Vδ2 T細胞の活性化を用量依存的な様式で阻害することが更に示された。すなわち、5E7の用量が高い程、CD25及びCD107a発現を比較的顕著に低下させ、インターフェロン-γ及びTNF-α産生も比較的顕著に低下させた。5E7ナノボディが用量依存的な様式でVγ9Vδ2 T細胞によるDaudi細胞の自発的な溶解を阻害することも示されたが、対照のナノボディは有意な効果を何も示さなかった。同じアッセイにおいて、Vγ9Vδ2 T細胞を活性化するために窒素含有ビスホスホネート、パミドロネートを使用した結果、Daudi細胞の溶解が向上した。一方、5E7ナノボディは、用量依存的な様式でDaudi細胞の溶解を低減した。これは、いかなる望ましくないVγ9Vδ2 T細胞の活性化もVγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止するナノボディを使用することによって低減することができることを示す。Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を阻止するそのような抗体は、Vγ9Vδ2 T細胞受容体のVδ2鎖と結合する抗体であってもよい。
【0077】
活性化を誘導する免疫グロブリン分子
CD25発現の増加及びIFN-ガンマ発現の増加によって示されるとおり、さまざまなVHHがVγ9Vδ2 T細胞を活性化することが示された(
図4を参照)。更に、そのようなVHHは、VHHの用量が増加するとCD25発現も増加するため、典型的な用量反応を示した(
図5、右パネルを参照)。そのようなVHHを免疫グロブリン分子とも連結させ、腫瘍細胞のアポトーシスに関する効果を調査した(
図6を参照)。二重特異性VHH(抗癌細胞結合及びVγ9Vδ2 T細胞結合並びに活性化)は、腫瘍細胞を死滅させることに対して強力な活性を示した。抗Vγ9Vδ2ナノボディ6H4を腫瘍に対するナノボディと連結することによって二重特異性VHHを作製した。二重特異性対照として、抗Vγ9Vδ2ナノボディを対照のナノボディと連結し、抗腫瘍ナノボディを対照のナノボディと連結した。試験した最高用量(10nM)において、対照のみが、腫瘍細胞の約22%の溶解を引き起こした。Vγ9Vδ2 T細胞と腫瘍細胞の両方に結合する二重特異性VHH(又はナノボディ)は、Vγ9Vδ2 T細胞によってもたらされる約85%の腫瘍細胞の溶解を引き起こした。用量反応曲線では、Vγ9Vδ2 T細胞による溶解のパーセンテージは、用量が低い程低下した(1nMでは約80%、100pMでは約78%、10pMでは約50%、1pMでは約23%及び0では約24%)。(二重特異性)ナノボディを用いずビスホスホネートのみを使用した対照実験では、約80%の腫瘍細胞の溶解が観察された。これらの結果は、二重特異性VHH(又はナノボディ)を使用することによってVγ9Vδ2 T細胞による腫瘍特異的溶解を向上させることができることを示し、この場合、腫瘍細胞及びVγ9Vδ2 T細胞の両方が標的とされ、Vγ9Vδ2 T細胞の特異的な腫瘍ターゲティングは、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化も誘導する。
【0078】
活性化を誘導せず、ホスホ抗原活性化を阻止しない免疫グロブリン分子
いくつかのVHH(5D7、5C7、5B11及び6C4)は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化を示さず、ホスホ抗原によるヒトVγ9Vδ2 T細胞の活性化の阻止に対しても効果がなかった(
図8及び
図5、左パネル)。そのようなVHHは、例えば、FACS選別に有用である(
図7を参照)。
【0079】
磁気ビーズ分離
抗Vδ2(例えば、6H4)又はVγ9ナノボディ(例えば、6H1)をビオチン化し、PBMCと混合した。その細胞を洗浄して結合していないナノボディを除去した。ストレプトアビジンを有する磁気ビーズ(Miltenyi Biotec社から入手可能なもの等)をその混合物に添加し、ビオチン化ナノボディを介してビーズと結合した細胞を磁気分離カラム(magnetic separating column)を使用して結合していない細胞から分離した。PBMCをVγ9及びVδ2発現に関してFACS分析をした。抗Vδ2及びVγ9ナノボディの両方により非常に良好な精製が得られた。例えば、ナノボディ6H4を用いた場合、PBMCの4.5%が両方の鎖を発現し、磁気ビーズ分離後、細胞の97.4%がVγ9鎖及びVδ2鎖の両方に関して陽性であった。磁気ビーズと結合しなかった細胞の画分は、Vγ9鎖及びVδ2鎖の両方に関して陰性であった(0%)。
【0080】
【0081】
【表3A】
【表3B】
【表3C】
【表3D】
【表3E】
【表3F】
【配列表】