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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ダイヤモンドワイヤ用荒引線の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/06 20060101AFI20241106BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20241106BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20241106BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241106BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20241106BHJP
   C22C 35/00 20060101ALI20241106BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20241106BHJP
   C22B 9/18 20060101ALI20241106BHJP
   B22D 23/10 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C21D8/06 A
C21D9/00 101K
C21D9/52 103B
C22C38/00 301Y
C22C38/32
C22C35/00
C21C7/10 Z
C22B9/18 Z
B22D23/10 590
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023521827
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 CN2020128268
(87)【国際公開番号】W WO2022082900
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】202011134922.3
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522116856
【氏名又は名称】江蘇省沙鋼鋼鉄研究院有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】522115457
【氏名又は名称】張家港栄盛特鋼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】521514565
【氏名又は名称】江蘇沙鋼集団有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】麻 ▲ハン▼
(72)【発明者】
【氏名】沈 奎
(72)【発明者】
【氏名】胡 顕軍
(72)【発明者】
【氏名】王 雷
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-002413(JP,A)
【文献】国際公開第2018/117157(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/024635(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108456819(CN,A)
【文献】特表2018-525518(JP,A)
【文献】特開平05-214484(JP,A)
【文献】特開平01-319623(JP,A)
【文献】国際公開第2011/126073(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/06
C21D 9/00-9/44,9/50-9/66
C21D 7/00-8/10
C22C 38/00-38/60
C22C 35/00
C21C 7/00-7/10
C22B 1/00-61/00
B22D 11/00-11/22、23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
前記ビレット製造工程の場合、再溶融インゴットを分塊圧延し、又は長さ9~16m且つ145mm×145mmの角ビレットに鍛造することを特徴とする、請求項1に記載 イヤモンドワイヤ用荒引線の生産方法。
【請求項16】
前記ステルモア冷却後の荒引線を塩浴熱処理又は鉛浴熱処理する熱処理工程であって、等温相変化段階の温度が520~560℃で且つ時間が20~80sである熱処理工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のダイヤモンドワイヤ用荒引線の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料製造の技術分野に属し、ダイヤモンドワイヤ用荒引線の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切断スチールワイヤは、切断ワイヤ、切断鋼線、切断線とも呼ばれ、分割用の特製線材であり、直径が0.20mm未満の表面に亜鉛銅めっきを施した特殊スチールワイヤでもあり、消費材料としてエネルギー、航空、設備及び公共施設の分野に広く応用されている。ダイヤモンドワイヤは、表面にダイヤモンド微粒が埋め込まれている高炭素切断スチールワイヤとして、主に太陽電池シリコンウェハ、石英材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、ダイヤモンド等の材料の切断成形に用いられる。
【0003】
切断過程でのシリコン材料等のような被切断材料の損失を低減するために、ダイヤモンドワイヤは直径がより細く、断線なしのマイレージがより長く、強度がより高い方向に発展している。そのため、切断スチールワイヤを生産するための原材料、例えば高炭素鋼荒引線に対する要求はますます厳しくなり、即ち、荒引線の清浄度、組織均一性、力学的性能及び引抜性能に対してより高い要求を求めている。具体的には、介在物の寸法がより小さく、組織がより均一であるように制御する必要があり、引き抜きに影響を与えるマルテンサイト、ベイナイト、網目状炭化物等の異常な組織を形成してはならず、しかも強度を可能な限り高めると同時に荒引線の塑性を保証する必要がある。
【0004】
しかしながら、現在、引き抜きによる5000MPa級ダイヤモンドワイヤを製造できる荒引線はまだ空白の状態にあり、つまり、既存の荒引線については、直径、断線なしのマイレージの基本的な要件を満たすとともに5000MPa級ダイヤモンドワイヤを製造することは実質的に不可能である。
【発明の概要】
【0005】
上記技術的問題を解決するために、本発明は、深絞りによる5000MPa級のダイヤモンドワイヤ母線の製造に用いることができ、且つダイヤモンドワイヤの直径、断線率に対する市場の高い要求を満たす、荒引線の生産方法を提供することを目的とする。
【0006】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、深絞り用荒引線の生産方法、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線の生産方法を提供する。前記荒引線の化学成分は、質量パーセントで、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、及びB:0.0005~0.0020%とV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%を含み、前記生産方法は、
真空溶製炉を用いて炉内圧力が10Pa以下の雰囲気下で溶鋼を製錬し、鋼インゴットへと鋳造する真空溶製工程と、
エレクトロスラグ再溶融及び真空自己消費再溶融のどちらか一方又は両方によって鋼インゴットを処理し、再溶融インゴットを得る鋼インゴット再溶融工程であって、エレクトロスラグ再溶融が保護雰囲気下で行われ、真空自己消費再溶融の再溶融速度が3.0~3.5kg/minである鋼インゴット再溶融工程と、
再溶融インゴットを分塊圧延し、又は鋼ビレットに鍛造し、且つ鋼ビレットを研削するビレット製造及び研削工程と、
鋼ビレットを荒引線に圧延し、圧延開始温度が1030~1060℃で、圧延終了温度が950~1020℃である高速ワイヤ圧延工程と、
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機がオンにされ且つ風量が80%~100%であり、残りの送風機がオフにされる冷却工程と、を含む。
【0007】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、深絞り用荒引線の生産方法、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、
C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、及びB:0.0005~0.0020%とV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉を用いて炉内圧力が10Pa以下の雰囲気下で溶鋼を製錬し、鋼インゴットへと鋳造する真空溶製工程と、
エレクトロスラグ再溶融及び真空自己消費再溶融のどちらか一方又は両方によって鋼インゴットを処理し、再溶融インゴットを得て、該再溶融インゴットの化学成分がC、Si、Mn、Cr、及びBとVのどちらか一方又は両方以外に、残部がFe及び不可避的不純物であり、不純物元素がAl≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%である鋼インゴット再溶融工程であって、エレクトロスラグ再溶融が保護雰囲気下で行われ、真空自己消費再溶融の再溶融速度が3.0~3.5kg/minである鋼インゴット再溶融工程と、
再溶融インゴットを分塊圧延し、又は鋼ビレットに鍛造し、且つ鋼ビレットを研削するビレット製造及び研削工程と、
鋼ビレットを荒引線に圧延し、圧延開始温度が1030~1060℃で、圧延終了温度が950~1020℃である高速ワイヤ圧延工程と、
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機がオンにされ且つ風量が80%~100%であり、残りの送風機がオフにされる冷却工程と、を含む。
【0008】
さらに好ましくは、真空溶製工程の場合、炉内圧力は5Pa以下である。
【0009】
さらに好ましくは、真空溶製工程の場合、Al≦0.001%、Ti≦0.0005%、Cu≦0.001%且つNi≦0.001%の工業純鉄を原料とし、成分設計に従って合金元素を配合し、真空溶製炉を用いて溶鋼を製錬する。
【0010】
さらに好ましくは、真空溶製工程の場合、鋳造温度は1580~1620℃である。
【0011】
さらに好ましくは、鋼インゴット再溶融工程の場合、真空自己消費再溶融によって再溶融インゴットを得た後、得られた再溶融インゴットを48時間以上保温する。
【0012】
さらに好ましくは、ビレット製造工程の場合、再溶融インゴットを分塊圧延し、又は長さ9~16m且つ145mm×145mmの角ビレットに鍛造する。
【0013】
さらに好ましくは、ビレット製造工程の場合、再溶融インゴットを1130~1160℃の温度で分塊圧延し、又は鍛造する。
【0014】
さらに好ましくは、研削工程の場合、鋼ビレット表面に対する研削総深さは≧1.5mmである。
【0015】
さらに好ましくは、研削工程の場合、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、各パスの研削深さはそれぞれ≧0.9mm、≧0.5mm、≧0.1mmであり、角部研削幅は≧5mmである。
【0016】
さらに好ましくは、高速ワイヤ圧延工程の場合、鋼ビレットを直径Φ4.5~5.5mmの荒引線に圧延する。
【0017】
さらに好ましくは、高速ワイヤ圧延工程の場合、圧延終了速度は100~110m/sである。
【0018】
さらに好ましくは、高速ワイヤ圧延工程の場合、レイング温度は890~920℃である。
【0019】
さらに好ましくは、冷却工程の場合、1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は0.9~1.0m/sである。
【0020】
さらに好ましくは、冷却工程の場合、保温カバーは全て開放され、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00である。
【0021】
さらに好ましくは、冷却工程の場合、風量調節装置(Optiflex)を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.1~1.4倍に調節する。
【0022】
さらに好ましくは、前記生産方法は、ステルモア冷却後の荒引線を塩浴熱処理又は鉛浴熱処理する熱処理工程であって、等温相変化段階の温度が520~560℃で且つ時間が20~80sである熱処理工程をさらに含む。
【0023】
さらに好ましくは、前記生産方法で製造される荒引線を梱包線で梱包する場合、梱包線と荒引線との間は可撓性耐摩耗性材料を介して隔て、その後、時効処理を行い、ここで、室温≧15℃の場合、時効処理の時間は≧10日間であり、室温<15℃の場合、時効処理の時間は≧20日間である。
【0024】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、前述した任意の実施形態で提供される生産方法で製造される深絞り用荒引線、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線を提供する。前記荒引線の化学成分は、質量パーセントで、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、及びB:0.0005~0.0020%とV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%を含む。
【0025】
さらに、前記荒引線の直径はΦ4.5~5.5mmである。
【0026】
さらに、前記荒引線の引張強度は≧1320MPaで、断面減少率は≧30%である。
【0027】
さらに、前記荒引線の最大介在物寸法は≦4μmで、網目状炭化物は≦1.0級である。
【0028】
さらに、前記最大介在物寸法が≦4μmであることは、横方向最大介在物寸法が≦4μmで且つ縦方向最大介在物寸法が≦4μmであることを含む。
【0029】
さらに、網目状炭化物の検出割合は≦30%で、中心炭素偏析比は≦1.03である。
【0030】
さらに、前記荒引線の表面割れ深さは≦30μmで、脱炭層深さは≦40μmで、脱炭層が全円周に占める割合は≦15%で、表面スケールの厚さは7~15μmである。
【0031】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、深絞り用荒引線、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、及びB:0.0005~0.0020%とV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%を含み、
そして、前記荒引線の引張強度は≧1320MPaで、断面減少率は≧30%で、最大介在物寸法は≦4μmで、網目状炭化物は≦1.0級である。
【発明の効果】
【0032】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は、次の(1)、(2)及び(3)を含む。
【0033】
(1)パーライト強化元素の含有量、特にC元素の含有量を高め、B及び/又はVの添加と組み合わせ、及び不純物元素の含有量を厳密に制御することにより、組織が均一であることが確保され、高融点介在物の形成が回避され、清浄度、引張強度及び引抜性能が向上する。
【0034】
(2)真空溶製工程において炉内圧力を調節制御するとともに、保護雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融工程を行い、又は/及び真空自己消費再溶融における再溶融速度を調節制御することにより、材料中の化学成分は精密に制御され、清浄度が高く、介在物の発生が大幅に減少され、そして介在物の寸法が小さくなる。また、鋼ビレットを研削することにより、鋼ビレットの表面品質が最適化され、鋼ビレットの表面ピット等の欠陥及び脱炭層がなくなる。さらに、高速ワイヤ圧延工程での圧延開始温度を制御することにより、鋼ビレットは再結晶領域内に保持されて圧延され、そして、冷却工程での温度制御冷却と組み合わせて、パーライトの相転移過程中と相転移過程後の冷却速度が速すぎることが回避され、相転移時間不足によるマルテンサイト組織の形成が防止され、同時に、内部応力が小さくなり、組織性能が最適化され、さらに荒引線の引張強度及び引抜性能が増強される。
【0035】
(3)前記荒引線は、超微細で断線率が低い高強度ダイヤモンドワイヤ母線の生産に適用でき、直径が40~46μmで、断線率が≦2回/千キロメートルで、引張強度が≧5000MPaであるダイヤモンドワイヤを引き抜いて製造でき、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤの製造に適し、高い引抜性能、低い断線率、及び高強度のスチールワイヤに対する市場の需要を十分満たし、中国国内外の5000MPa級以上のダイヤモンドワイヤ用荒引線の技術的空白を埋めるものである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
背景技術に言及したように、従来の高強度ダイヤモンドワイヤ用荒引線の技術はまだ改善の余地があり、直径、断線なしのマイレージ、強度に対するダイヤモンドワイヤの益々強くなる高い要求を満たすことができず、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤの工業化製造に適する荒引線はまだ空白状態にある。そこで、本発明は、深絞り用荒引線及びその生産方法、特に、ダイヤモンドワイヤを引き抜きにより製造できる過共析鋼荒引線及びその生産方法を提供することを目的とし、荒引線は、清浄度が高く、組織均一性が高く、超高強度であるという利点を有し、超微細で断線率が低い5000MPa級ダイヤモンドワイヤの生産に用いることができる。
【0037】
以下、具体的な実施形態を参照しながら、本発明の技術的解決手段をさらに説明するが、保護を請求している範囲は、行われた説明に限定されない。
【0038】
<第1実施形態>
本実施形態は、深絞り用荒引線、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線を提供する。当然ながら、該荒引線は5000MPa級のダイヤモンドワイヤ母線として引き抜くために用いることができるが、これに限定されず、例えば、企業の実際の生産ニーズに応じて他のスチールワイヤ製品として引き抜いてもよいことが理解可能である。
【0039】
前記荒引線の化学成分は、質量パーセントで、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、及びB:0.0005~0.0020%とV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%を含む。
【0040】
本発明における荒引線の化学成分の設計について、その核心思想は、パーライト強化元素の含有量、特にC元素の含有量を高めるとともに、組織の制御可能性を確保し、高融点介在物の形成を回避することである。
【0041】
具体的には、荒引線の化学成分の設計原理を以下のとおり説明する。
【0042】
Cは、最も重要な組成元素であり、C含有量は、鋼材の強度に著しく影響し、且つ鋼材の組織構造に直接影響することができる。詳細には、一方で、C含有量の増大は鋼材の強度を著しく高めることができ、他方で、一般的な鋼材組織では、Cが形成に関与する共析組織は鋼材の強度、歪硬化率を高めることができるが、C含有量が高すぎると、初析網目状セメンタイト組織を形成することがあり、該網目状セメンタイト組織は、共析組織の連続性を破壊し、荒引線でスチールワイヤを加工する引き抜き工程でのマイクロクラックの形成を引き起こし、ひいては断線を引き起こす。従って、本発明の化学成分設計では、炭素含有量を可能な限り高めることで鋼材の強度、歪硬化率を高めるとともに、B又はVの含有量設計と組み合わせて、局所的な網目状セメンタイト組織の発生を回避し、これに基づいて、C含有量は1.01~1.10%である。
【0043】
Siは、固溶強化元素でありながら、鋼中の酸素含有量を下げるために用いることもできる。しかし、Si含有量が高すぎると、鋼材の塑性が低下し、鋼ビレットの脱炭素傾向が激化し、荒引線表面品質の制御に不利である。本発明では、Si含有量は0.15~0.40%である。
【0044】
Mnは、固溶強化元素であり、荒引線の強度を高めることができるとともに、有害元素Sと結合して荒引線の熱脆性を下げることもできる。しかしながら、Mn含有量が高すぎると、焼入れ性が強くなり、高速ワイヤ圧延工程の後に、引き抜きに影響を与えるベイナイト又はマルテンサイトが発生しやすく、さらに、荒引線の塑性及び引抜性能が低下する。本発明では、Mn含有量は0.30~0.60%である。
【0045】
Crは、パーライト組織(即ち、共析組織)を微細化し、パーライト組織のラメラ間隔を小さくすることにより、荒引線の強度を高めることができる。しかしながら、Mnと類似し、Cr含有量が高すぎると、焼入れ性が向上し、高速ワイヤ圧延工程の後に、引き抜きに影響を与えるベイナイト又はマルテンサイトが発生しやすく、さらに、荒引線の塑性及び引抜性能が低下する。本発明では、Cr含有量は0.01~0.40%である。
【0046】
B、Vについて、
B元素は、高炭素鋼中で微細な炭窒化物の形成に関与し、優先的にオーステナイト粒界に偏在し、網目状セメンタイト組織の形成を阻害するのに有利である。しかしながら、B含有量が高すぎると、粒界を脆化し、荒引線の引抜性能を低くすることがある。
【0047】
V元素は、相転移初期にオーステナイト粒界にVC粒子を形成しやすく、高速ワイヤ圧延時のオーステナイト結晶粒の成長を抑え、粒界のC含有量を低下させ、網目状セメンタイト組織の形成を抑えるのに有利である。そして、V元素は相転移過程で炭窒化物が析出し、荒引線の強度を高めるのに有利である。しかしながら、V含有量が高すぎると、焼入れ組織が発生しやすく、荒引線組織の制御に不利である。
【0048】
BとV元素は、いずれも網目状セメンタイト組織の形成を阻害するために用いることができ、C含有量の上限を高めるのに役立つことから、前述のように、前記荒引線の化学成分は、B:0.0005~0.0020%及びV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方を含み、即ち、以下の3つの実施ケースを含む。1つ目は、前記荒引線の化学成分は、B:0.0005~0.0020%を含み、Vを含まず、B元素を用いてオーステナイト粒界に微細な炭窒化物を形成して、網目状セメンタイト組織の形成を阻害する。2つ目は、前記荒引線の化学成分は、Bを含まず、V:0.01~0.09%を含み、V元素を用いて相転移初期にVC粒子を形成し、粒界のC含有量を低下させて、網目状セメンタイト組織の形成を阻害する。3つ目は、より好ましくは、前記荒引線の化学成分はB:0.0005~0.0020%及びV:0.01~0.09%を同時に含み、一方で、V元素を用いて相転移初期にVC粒子を形成し、粒界のC含有量を低下させて、網目状セメンタイト組織の形成を阻害し、他方で、同時に、B元素を用いてオーステナイト粒界に微細な炭窒化物を形成して、網目状セメンタイト組織の形成を阻害する。
【0049】
Alは、深絞り用荒引線において有害元素に属し、Alは鋼中のOと結合して寸法が大きく、凝集しやすく、融点が高く、塑性が低いAl介在物を形成し、荒引線引き抜きによるスチールワイヤ製造時に細いワイヤが断線する主な原因の1つであり、本発明では、Al含有量は0.003%以内である。
【0050】
Tiは、深絞り用荒引線において有害元素に属し、TiはC、Nとともに角張った大寸法のTi(C、N)介在物を極めて形成しやすく、さらに応力集中、マイクロクラックを引き起こし、本発明では、Ti含有量は0.0008%以内である。
【0051】
S、P、O、Nは、有害不純物元素に属し、含有量はそれぞれS≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%、N≦0.0020%である。
【0052】
さらに、前記荒引線の直径はΦ4.5~5.5mmであり、後続の引き抜きによるスチールワイヤ製造の要件に適応することができる。
【0053】
さらに、前記荒引線の引張強度は≧1320MPaであるため、さらに製造されたスチールワイヤの引張強度は5000MPa以上になる。そして、前記荒引線は引抜性能に優れ、その断面減少率は≧30%であり、引抜過程での断線率が低いことが保証される。
【0054】
さらに、前記荒引線の内部品質が優れ、組織が均一であり、その最大介在物寸法は≦4μmで、網目状炭化物は≦1.0級であり、ここで、最大介在物寸法が≦4μmである前記のことは、横方向最大介在物寸法が≦4μmで且つ縦方向最大介在物寸法が≦4μmであることを含む。そして、さらに、網目状炭化物の検出割合は≦30%で、中心炭素偏析比は≦1.03である。ここで、前記中心炭素偏析比とは、偏析が最も深刻な領域と基体位置の炭素含有量比を意味する。
【0055】
さらに、前記荒引線の表面割れ深さは≦30μmで、脱炭層深さは≦40μmで、脱炭層が全円周に占める割合は≦15%で、表面スケールの厚さは7~15μmである。
【0056】
以上より、本実施形態の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、力学的性能が高く及び引抜性能が高く、ダイヤモンドワイヤの製造を満足することができ、そして、荒引線を用いてダイヤモンドワイヤを製造する従来技術によって、本発明の荒引線を用いれば直径が40~46μmで、断線率が≦2回/千キロメートルで、引張強度が≧5000MPaのスチールワイヤを製造することができ、高い引抜性能、低い断線率、及び高強度のスチールワイヤに対する市場の需要が十分に満たされている。
【0057】
一実施形態では、前記荒引線の生産方法を提供する。本実施形態では、前記荒引線は、順に行われる真空溶製→鋼インゴット再溶融→ビレット製造及び研削→高速ワイヤ圧延→冷却の各工程で製造される。即ち、前記生産方法は、
C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、及びB:0.0005~0.0020%とV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方のような成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉を用いて炉内圧力が10Pa以下の雰囲気下で溶鋼を製錬し、鋼インゴットへと鋳造する真空溶製工程と、
鋼インゴットを保護雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融処理し、再溶融インゴットを得て、該再溶融インゴットの化学成分がC、Si、Mn、Cr、及びBとVのどちらか一方又は両方以外に、残部がFe及び不可避的不純物であり、不純物元素がAl≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%である鋼インゴット再溶融工程と、
再溶融インゴットを分塊圧延し、又は鋼ビレットに鍛造し、且つ鋼ビレットを研削するビレット製造及び研削工程と、
鋼ビレットを荒引線に圧延し、圧延開始温度が1030~1060℃で、圧延終了温度が950~1020℃である高速ワイヤ圧延工程と、
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機がオンにされ且つ風量が80%~100%であり、残りの送風機がオフにされる冷却工程と、を含む。
【0058】
これにより、真空溶製工程において炉内圧力を調節制御するとともに、保護雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融工程を行うことにより、材料中の化学成分は精密に制御され、清浄度が高く、介在物の発生が大幅に減少され、そして介在物の寸法が小さくなる。また、鋼ビレットを研削することにより、鋼ビレットの表面品質が最適化され、鋼ビレットの表面ピット等の欠陥及び脱炭層がなくなる。さらに、高速ワイヤ圧延工程での圧延開始温度を制御することにより、鋼ビレットは再結晶領域内に保持されて圧延され、そして、冷却工程での温度制御冷却と組み合わせて、パーライトの相転移過程中と相転移過程後の冷却速度が速すぎることが回避され、相転移時間不足によるマルテンサイト組織の形成が防止され、同時に、内部応力が小さくなり、組織性能が最適化され、さらに荒引線の引張強度及び引抜性能が増強される。
【0059】
以下、各工程の好ましい実施を詳しく説明する。
【0060】
(1)真空溶製工程
該真空溶製工程では、前述した荒引線の化学成分の設計思想に基づいて、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、及びB:0.0005~0.0020%とV:0.01~0.09%のどちらか一方又は両方のような成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合して、溶鋼を製錬する。
【0061】
好ましくは、真空溶製工程において用いられる原材料と補助材料はいずれも不純物元素含有量の低い高品質の原材料と補助材料であり、例えば、Al≦0.001%、Ti≦0.0005%、Cu≦0.001%且つNi≦0.001%の工業純鉄を原料とし、成分設計に従って合金元素を配合し、即ち、前述した溶銑はAl≦0.001%、Ti≦0.0005%、Cu≦0.001%且つNi≦0.001%の工業純鉄を溶融したものであり、当然ながら、前記溶銑の原料である工業純鉄中の不純物元素は、好ましくは上記含有量であるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、こうして、溶鋼の溶製初期から有害元素を少なくし、清浄度を高くすることができ、さらに後続の介在物の精密制御に有利である。
【0062】
該真空溶製工程では、真空溶製炉を用いて炉内圧力が10Pa以下の雰囲気下で溶鋼を製錬し、鋼インゴットへと鋳造する。ここで、炉内圧力を10Pa以下に制御することは、炉内を高真空度に維持することであり、それによって空気中のO、N元素の溶鋼に対する影響が回避され、溶鋼中のO、N有害元素の含有量を低く制御するのに有利である。さらに好ましくは、炉内圧力は5Pa以下に制御される。
【0063】
好ましくは、該真空溶製工程では、溶鋼を鋼インゴットへと鋳造する過程で、鋳造温度は1580~1620℃であり、即ち、溶鋼温度を1580~1620℃まで加熱した時にインゴットへと鋳造し、鋳造速度は300~400kg/minであり、これにより、一方で、溶鋼の清浄度をさらに保証することができ、他方で、鋼インゴットの芯部溶質が十分に拡散可能であり、鋼インゴットの中心偏析を低減することを保証することもできる。
【0064】
(2)鋼インゴット再溶融工程
該鋼インゴット再溶融工程では、真空溶製工程で得られた鋼インゴットを保護雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融処理し、再溶融インゴットを得て、該再溶融インゴットの化学成分は、C、Si、Mn、Cr、及びBとVのどちらか一方又は両方以外に、残部がFe及び不可避的不純物であり、不純物元素がAl≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%である。
【0065】
即ち、該鋼インゴット再溶融工程によって、真空溶製工程の精密制御と組み合わせて、材料における不純物元素(即ち、有害元素)に対する厳密な制御を実現し、これにより、清浄度が高いことが保証され、介在物の発生が大幅に減少され、介在物の寸法が小さくなり、化学成分が均一である。
【0066】
ここで、前記保護雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融を行えば、溶鋼が酸化されないことを保証し、介在物の発生を減少することができ、前記保護雰囲気は具体的に不活性ガスからなる雰囲気であってもよく、例えば、エレクトロスラグ炉内で空気を排出させて不活性ガスに置換し、さらに鋼インゴットを再溶融処理する。
【0067】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
該ビレット製造工程では、鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを分塊圧延し、又は鋼ビレットに鍛造し、好ましくは、該鋼ビレットは長さが9~16mで且つ145mm×145mmの角ビレットであり、当然ながら、鋼ビレットの寸法はこれに限定されず、任意の工業的に実行可能な寸法であってもよい。
【0068】
さらに好ましくは、ビレット製造工程では、再溶融インゴットを1130~1160℃の温度下で分塊圧延し、又は鍛造し、これにより、鋼ビレットの芯部と表面の温度均一性をさらに保証でき、組織均一性の向上に有利である。
【0069】
該研削工程では、ビレット製造工程で得られた鋼ビレットを研削し、鋼ビレットの表面品質を最適化し、鋼ビレットの表面ピット等の欠陥及び脱炭層を除去し、さらに後続の高速ワイヤ圧延のために良い基礎を作る。
【0070】
好ましくは、該研削工程では、鋼ビレット表面の研削総深さを≧1.5mmとする。具体的に、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、且つ各パスの研削深さはそれぞれ≧0.9mm、≧0.5mm、≧0.1mmであり、即ち、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さは≧0.9mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さは≧0.5mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さは≧0.1mmである。また、鋼ビレットの角部に対する研削幅は≧5mmであり、具体的に、鋼ビレットの角部を斜めに研削し、完了後、該角部に形成された斜面幅は前記角部研削幅である。こうして、研削工程によって、最終的に、鋼ビレット表面は滑らかでバリがないことが保証される。
【0071】
(4)高速ワイヤ圧延工程
該高速ワイヤ圧延工程では、鋼ビレットを荒引線に圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1030~1060℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を950~1020℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保し、荒引線の組織を精密に制御し、ベイナイト、マルテンサイト、網目状セメンタイト組織の発生を回避する。
【0072】
好ましくは、高速ワイヤ圧延工程では、鋼ビレットを直径Φ4.5~5.5mmの荒引線に圧延し、即ち、本実施形態の生産方法により最終的に製造された荒引線の直径をΦ4.5~5.5mmにし、これにより、後続の引き抜きによるスチールワイヤ製造の要件に適応することができる。
【0073】
好ましくは、該高速ワイヤ圧延工程では、圧延終了速度は100~110m/sであることにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることをさらに確保し、レイング温度は890~920℃であることにより、荒引線の組織をさらに精密に制御し、次に風冷冷却を行う時の温度制御に有利にする。
【0074】
(5)冷却工程
該冷却工程では、荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機がオンにされ且つ風量が80%~100%であり、残りの送風機がオフにされ、即ち、ステルモア風冷冷却技術を用いて温度制御冷却処理を行う。本発明の冷却方法により、パーライトの相転移過程中と相転移過程後の冷却速度が速すぎることを回避し、相転移時間不足によるマルテンサイト組織の形成を防止することができ、同時に、内部応力が小さくなり、組織性能が最適化され、さらに荒引線の引張強度及び引抜性能が増強される。
【0075】
好ましくは、冷却工程では、ステルモア上の保温カバーは全て開放され、即ち、前4台の送風機に対応するローラコンベヤセグメントで風冷冷却が実行され、残りの送風機に対応するローラコンベヤセグメントでは全て自然冷却が行われる。
【0076】
好ましくは、1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は0.9~1.0m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。
【0077】
また、冷却工程では、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.1~1.4倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証し、さらに均一な組織性能を得ることを容易にする。
【0078】
さらに好ましくは、前記生産方法で製造された荒引線は、梱包線で梱包することができ、輸送、積み替え、保管中に梱包線が荒引線に擦り傷を付けないように、梱包線と荒引線との間は可撓性耐摩耗性材料を介して隔てる。その後、時効処理を行い、ここで、室温≧15℃の場合、時効処理の時間は≧10日間であり、室温<15℃の場合、時効処理の時間は≧20日間である。
【0079】
従来技術と比較して、本発明の一実施形態の有益な効果は、以下のとおりである。
【0080】
(1)パーライト強化元素の含有量、特にC元素の含有量を高め、B及び/又はVの添加と組み合わせて、及び不純物元素の含有量を厳密に制御することにより、組織が均一であることが確保され、高融点介在物の形成が回避され、清浄度、引張強度及び引抜性能が向上する。
【0081】
(2)真空溶製工程において炉内圧力を調節制御するとともに、保護雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融工程を行うことにより、材料中の化学成分は精密に制御され、清浄度が高く、介在物の発生が大幅に減少され、そして介在物の寸法が小さくなる。また、鋼ビレットを研削することにより、鋼ビレットの表面品質が最適化され、鋼ビレットの表面ピット等の欠陥及び脱炭層がなくなる。さらに、高速ワイヤ圧延工程での圧延開始温度を制御することにより、鋼ビレットは再結晶領域内に保持されて圧延され、そして、冷却工程での温度制御冷却と組み合わせて、パーライトの相転移過程中と相転移過程後の冷却速度が速すぎることが回避され、相転移時間不足によるマルテンサイト組織の形成が防止され、同時に、内部応力が小さくなり、組織性能が最適化され、さらに荒引線の引張強度及び引抜性能が増強される。
【0082】
(3)前記荒引線は、超微細で断線率が低い高強度のダイヤモンドワイヤスチールワイヤの生産に適用でき、直径が40~46μmで、断線率が≦2回/千キロメートルで、引張強度が≧5000MPaであるダイヤモンドワイヤを引き抜いて製造でき、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤの製造に適し、高い引抜性能、低い断線率、及び高強度のスチールワイヤに対する市場の需要を十分に満たし、中国国内外の5000MPa級以上のダイヤモンドワイヤ用荒引線の技術的空白を埋めるものである。
【0083】
<第2実施形態>
本実施形態は、同様に、深絞り用荒引線、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線を提供し、及び前記荒引線の生産方法を提供する。本実施形態と前記第1実施形態との違いは、前記生産方法における鋼インゴット再溶融工程であり、それ以外の技術はいずれも前記第1実施形態と同じである。以下、本実施形態と前記第1実施形態との違いのみを説明し、残りの同じ部分はこれ以上説明しない。
【0084】
本実施形態では、前記生産方法の工程(2)鋼インゴット再溶融工程は、具体的に以下のとおりである。
【0085】
該鋼インゴット再溶融工程では、真空自己消費再溶融によって鋼インゴットを処理し、再溶融速度は3.0~3.5kg/minであり、再溶融インゴットを得て、該再溶融インゴットの化学成分は、C、Si、Mn、Cr、及びBとVのどちらか一方又は両方以外に、残部がFe及び不可避的不純物であり、不純物元素がAl≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%である。
【0086】
即ち、該鋼インゴット再溶融工程によって、真空溶製工程の精密制御と組み合わせて、材料における不純物元素(即ち、有害元素)に対する厳密な制御を実現し、これにより、清浄度が高いことが保証され、介在物の発生が大幅に減少され、介在物の寸法が小さくなり、また、介在物のタイプが制御され、化学成分が均一となる。
【0087】
具体的に、該鋼インゴット再溶融工程では、真空溶製工程で得られた鋼インゴットを電極として真空自己消費再溶融を行う。
【0088】
さらに、鋼インゴット再溶融工程では、真空自己消費再溶融によって再溶融インゴットを得た後、得られた再溶融インゴットを48時間以上保温し、これにより、再溶融インゴットの表面と芯部の応力割れをさらに低減する。
【0089】
要約すると、本実施形態では、鋼インゴット再溶融工程において第1実施形態におけるエレクトロスラグ再溶融に代えて真空自己消費再溶融を採用し、それ以外は全て第1実施形態と同じである。これにより、本実施形態は同様に前記第1実施形態の有益な効果を有し、詳細な説明を省略する。
【0090】
<第3実施形態>
本実施形態は、同様に、深絞り用荒引線、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線を提供し、及び前記荒引線の生産方法を提供する。本実施形態と前記第1実施形態との違いは、前記生産方法における鋼インゴット再溶融工程であり、それ以外の技術はいずれも前記第1実施形態と同じである。以下、本実施形態と前記第1実施形態との違いのみを説明し、残りの同じ部分はこれ以上説明しない。
【0091】
本実施形態では、前記生産方法の工程(2)鋼インゴット再溶融工程は、具体的に以下のとおりである。
【0092】
該鋼インゴット再溶融工程では、まず、真空溶製工程で得られた鋼インゴットを保護雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融処理し、さらに、エレクトロスラグ再溶融で得られた再溶融インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.0~3.5kg/minであり、再溶融インゴットを得て、該再溶融インゴットの化学成分は、C、Si、Mn、Cr、及びBとVのどちらか一方又は両方以外に、残部がFe及び不可避的不純物であり、不純物元素がAl≦0.003%、Ti≦0.0008%、S≦0.005%、P≦0.008%、O≦0.0010%及びN≦0.0020%である。
【0093】
さらに、本実施形態では、鋼インゴット再溶融工程において、真空自己消費再溶融によって再溶融インゴットを得た後、得られた再溶融インゴットを48時間以上保温し、これにより、再溶融インゴットの表面と芯部の応力割れをさらに低減する。
【0094】
要約すると、本実施形態におけるエレクトロスラグ再溶融プロセスは第1実施形態と同じであり、第1実施形態のもとに、真空自己消費再溶融をさらに追加し、これにより、不純物元素(即ち、有害元素)をさらに精密に制御し、清浄度及び介在物をさらに保証することができる。それ以外、本実施形態は同様に前記第1実施形態の有益な効果を有し、詳細な説明を省略する。
【0095】
当然ながら、変形実施形態では、真空自己消費再溶融とエレクトロスラグ再溶融の実施順序は逆であってもよい、即ち、まず真空自己消費再溶融を行い、さらにエレクトロスラグ再溶融を行ってもよい。
【0096】
<第4実施形態>
本実施形態は、同様に、深絞り用荒引線、特に、5000MPa級ダイヤモンドワイヤとして引き抜くための荒引線を提供し、及び前記荒引線の生産方法を提供する。本実施形態と前記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態との違いは、前記生産方法が前記冷却工程の後に追加された熱処理工程をさらに含むことのみであり、それ以外の技術はいずれも前記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態と同じである。以下、上記違いのみを説明し、残りの同じ部分はこれ以上説明しない。
【0097】
本実施形態では、前記生産方法は、次の工程(6)をさらに含む。
【0098】
(6)熱処理工程
ステルモア冷却後の荒引線を塩浴熱処理又は鉛浴熱処理し、ここで、等温相変化段階の温度は520~560℃で且つ時間は20~80sである。
【0099】
これにより、本実施形態は前記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態に比べて、得られた荒引線の組織性能がより均一であり、引抜性能及び引張強度がより強い。
【0100】
以下、本発明のいくつかの実施例により本発明の技術的解決手段をさらに説明する。
【0101】
実施例1
実施例1は、直径Φ5.5mmの荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.01%、Si:0.30%、Mn:0.60%、Cr:0.40%、B:0.0013%、V:0.09%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0006%、S:0.003%、P:0.006%、O:0.0008%及びN:0.0012%を含む。
【0102】
次の第1、第2のケースを含むように、該実施例の荒引線に対して組織性能を検出する。
【0103】
第1のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、それぞれ検出したところ、引張強度はいずれも1320~1350MPaで、断面減少率は35~40%であった。
【0104】
第2のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、12個のサンプルは6つの縦断面サンプル及び6つの横断面サンプルを含み、表1に示すように、研磨後に金相顕微鏡を用いて各サンプルの最大表面割れ深さ、スケールの厚さ、横方向最大介在物寸法(表中で、横方向介在寸法と略記)、縦方向最大介在物寸法(表中で、縦方向介在寸法と略記)及び網目状炭化物レベル(表中で、網炭素レベルと略記)を観察測定し、電子プローブを用いて中心炭素偏析比を検出分析し、各サンプルを腐食させた後に最大脱炭層深さ、及び脱炭層が全円周に占める割合(表中で、脱炭割合と略記)を観察する。
【0105】
【表1】
【0106】
これから分かるように、本実施例の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、引張強度が高く且つ引抜性能が高く、深絞り用荒引線に対する市場の高い要求を満たすことができる。さらに、本実施例の荒引線を母材とし、従来のダイヤモンドワイヤ製造プロセスを採用し、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤ母線を製造したところ、得られたダイヤモンドワイヤの引張強度は5300MPaで、直径は46μmで、断線率はほぼ1.2回/千キロメートルであり、従来技術を遥かに上回っている。
【0107】
実施例2
実施例2は、直径Φ5.0mmの荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.03%、Si:0.18%、Mn:0.58%、Cr:0.36%、B:0.002%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0005%、S:0.002%、P:0.004%、O:0.001%及びN:0.0013%を含む。
【0108】
次の第1、第2のケースを含むように、該実施例の荒引線に対して組織性能を検出する。
【0109】
第1のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、それぞれ検出したところ、引張強度はいずれも1330~1360MPaで、断面減少率は33~40%であった。
【0110】
第2のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、12個のサンプルは6つの縦断面サンプル及び6つの横断面サンプルを含み、表2に示すように、研磨後に金相顕微鏡を用いて各サンプルの最大表面割れ深さ、スケールの厚さ、横方向最大介在物寸法(表中で、横方向介在寸法と略記)、縦方向最大介在物寸法(表中で、縦方向介在寸法と略記)及び網目状炭化物レベル(表中で、網炭素レベルと略記)を観察測定し、電子プローブを用いて中心炭素偏析比を検出分析し、各サンプルを腐食させた後に最大脱炭層深さ、及び脱炭層が全円周に占める割合(表中で、脱炭割合と略記)を観察する。
【0111】
【表2】
【0112】
これから分かるように、本実施例の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、引張強度が高く且つ引抜性能が高く、深絞り用荒引線に対する市場の高い要求を満たすことができる。さらに、本実施例の荒引線を母材とし、従来のダイヤモンドワイヤの製造プロセスを採用し、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤ母線を製造したところ、得られたダイヤモンドワイヤの引張強度は5500MPaで、直径は45μmで、断線率はほぼ1.5回/千キロメートルであり、従来技術を遥かに上回っている。
【0113】
実施例3
実施例3は、直径Φ5.5mmの荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.03%、Si:0.20%、Mn:0.55%、Cr:0.22%、V:0.06%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.002%、Ti:0.0006%、S:0.002%、P:0.006%、O:0.0006%及びN:0.0008%を含む。
【0114】
次の第1、第2のケースを含むように、該実施例の荒引線に対して組織性能を検出する。
【0115】
第1のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、それぞれ検出したところ、引張強度はいずれも1320~1350MPaで、断面減少率は33~39%であった。
【0116】
第2のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、12個のサンプルは6つの縦断面サンプル及び6つの横断面サンプルを含み、表3に示すように、研磨後に金相顕微鏡を用いて各サンプルの最大表面割れ深さ、スケールの厚さ、横方向最大介在物寸法(表中で、横方向介在寸法と略記)、縦方向最大介在物寸法(表中で、縦方向介在寸法と略記)及び網目状炭化物レベル(表中で、網炭素レベルと略記)を観察測定し、電子プローブを用いて中心炭素偏析比を検出して分析し、各サンプルを腐食させた後に最大脱炭層深さ、及び脱炭層が全円周に占める割合(表中で、脱炭割合と略記)を観察する。
【0117】
【表3】
【0118】
これから分かるように、本実施例の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、引張強度が高く且つ引抜性能が高く、深絞り用荒引線に対する市場の高い要求を満たすことができる。さらに、本実施例の荒引線を母材とし、従来のダイヤモンドワイヤの製造プロセスを採用し、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤ母線を製造したところ、得られたダイヤモンドワイヤの引張強度は5500MPaで、直径は45μmで、断線率はほぼ1.6回/千キロメートルであり、従来技術を遥かに上回っている。
【0119】
実施例4
実施例4は、直径Φ4.5mmの荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.05%、Si:0.16%、Mn:0.55%、Cr:0.01%、B:0.0005%、V:0.04%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.002%、Ti:0.0003%、S:0.001%、P:0.003%、O:0.0003%及びN:0.0009%を含む。
【0120】
次の第1、第2のケースを含むように、該実施例の荒引線に対して組織性能を検出する。
【0121】
第1のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、それぞれ検出したところ、引張強度はいずれも1320~1360MPaで、断面減少率は32~38%であった。
【0122】
第2のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、12個のサンプルは6つの縦断面サンプル及び6つの横断面サンプルを含み、表4に示すように、研磨後に金相顕微鏡を用いて各サンプルの最大表面割れ深さ、スケールの厚さ、横方向最大介在物寸法(表中で、横方向介在寸法と略記)、縦方向最大介在物寸法(表中で、縦方向介在寸法と略記)及び網目状炭化物レベル(表中で、網炭素レベルと略記)を観察測定し、電子プローブを用いて中心炭素偏析比を検出して分析し、各サンプルを腐食させた後に最大脱炭層深さ、及び脱炭層が全円周に占める割合(表中で、脱炭割合と略記)を観察する。
【0123】
【表4】
【0124】
これから分かるように、本実施例の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、引張強度が高く且つ引抜性能が高く、深絞り用荒引線に対する市場の高い要求を満たすことができる。さらに、本実施例の荒引線を母材とし、従来のダイヤモンドワイヤの製造プロセスを採用し、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤ母線を製造したところ、得られたダイヤモンドワイヤの引張強度は5500MPaで、直径は40μmで、断線率はほぼ1.8回/千キロメートルであり、従来技術を遥かに上回っている。
【0125】
実施例5
実施例5は、直径Φ5.5mmの荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.05%、Si:0.22%、Mn:0.45%、Cr:0.19%、B:0.001%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0002%、S:0.003%、P:0.004%、O:0.0005%及びN:0.001%を含む。
【0126】
次の第1、第2のケースを含むように、該実施例の荒引線に対して組織性能を検出する。
【0127】
第1のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、それぞれ検出したところ、引張強度はいずれも1340~1380MPaで、断面減少率は30~38%であった。
【0128】
第2のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、12個のサンプルは6つの縦断面サンプル及び6つの横断面サンプルを含み、表5に示すように、研磨後に金相顕微鏡を用いて各サンプルの最大表面割れ深さ、スケールの厚さ、横方向最大介在物寸法(表中で、横方向介在寸法と略記)、縦方向最大介在物寸法(表中で、縦方向介在寸法と略記)及び網目状炭化物レベル(表中で、網炭素レベルと略記)を観察測定し、電子プローブを用いて中心炭素偏析比を検出して分析し、各サンプルを腐食させた後に最大脱炭層深さ、及び脱炭層が全円周に占める割合(表中で、脱炭割合と略記)を観察する。
【0129】
【表5】
【0130】
これから分かるように、本実施例の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、引張強度が高く且つ引抜性能が高く、深絞り用荒引線に対する市場の高い要求を満たすことができる。さらに、本実施例の荒引線を母材とし、従来のダイヤモンドワイヤの製造プロセスを採用し、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤ母線を製造したところ、得られたダイヤモンドワイヤの引張強度は6100MPaで、直径は40μmで、断線率はほぼ1.9回/千キロメートルであり、従来技術を遥かに上回っている。
【0131】
実施例6
実施例6は、直径Φ5.0mmの荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.08%、Si:0.25%、Mn:0.32%、Cr:0.18%、V:0.01%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0005%、S:0.001%、P:0.003%、O:0.0004%及びN:0.0006%を含む。
【0132】
次の第1、第2のケースを含むように、該実施例の荒引線に対して組織性能を検出する。
【0133】
第1のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、それぞれ検出したところ、引張強度はいずれも1350~1400MPaで、断面減少率は30~38%であった。
【0134】
第2のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、12個のサンプルは6つの縦断面サンプル及び6つの横断面サンプルを含み、表6に示すように、研磨後に金相顕微鏡を用いて各サンプルの最大表面割れ深さ、スケールの厚さ、横方向最大介在物寸法(表中で、横方向介在寸法と略記)、縦方向最大介在物寸法(表中で、縦方向介在寸法と略記)及び網目状炭化物レベル(表中で、網炭素レベルと略記)を観察測定し、電子プローブを用いて中心炭素偏析比を検出して分析し、各サンプルを腐食させた後に最大脱炭層深さ、及び脱炭層が全円周に占める割合(表中で、脱炭割合と略記)を観察する。
【0135】
【表6】
【0136】
これから分かるように、本実施例の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、引張強度が高く且つ引抜性能が高く、深絞り用荒引線に対する市場の高い要求を満たすことができる。さらに、本実施例の荒引線を母材とし、従来のダイヤモンドワイヤの製造プロセスを採用し、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤ母線を製造したところ、得られたダイヤモンドワイヤの引張強度は6400MPaで、直径は45μmで、断線率はほぼ1.9回/千キロメートルであり、従来技術を遥かに上回っている。
【0137】
実施例7
実施例7は、直径Φ5.5mmの荒引線を提供する。その化学成分は、質量パーセントで、C:1.10%、Si:0.16%、Mn:0.30%、Cr:0.15%、V:0.05%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0002%、S:0.002%、P:0.003%、O:0.0002%及びN:0.0009%を含む。
【0138】
次の第1、第2のケースを含むように、該実施例の荒引線に対して組織性能を検出する。
【0139】
第1のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、それぞれ検出したところ、引張強度はいずれも1340~1390MPaで、断面減少率は32~38%であった。
【0140】
第2のケースでは、1荒引線あたりに12個のサンプルを取り、12個のサンプルは6つの縦断面サンプル及び6つの横断面サンプルを含み、表7に示すように、研磨後に金相顕微鏡を用いて各サンプルの最大表面割れ深さ、スケールの厚さ、横方向最大介在物寸法(表中で、横方向介在寸法と略記)、縦方向最大介在物寸法(表中で、縦方向介在寸法と略記)及び網目状炭化物レベル(表中で、網炭素レベルと略記)を観察測定し、電子プローブを用いて中心炭素偏析比を検出して分析し、各サンプルを腐食させた後、最大脱炭層深さ、及び脱炭層が全円周に占める割合(表中で、脱炭割合と略記)を観察する。
【0141】
【表7】
【0142】
これから分かるように、本実施例の荒引線は、清浄度が高く、組織が均一で、引張強度が高く且つ引抜性能が高く、深絞り用荒引線に対する市場の高い要求を満たすことができる。さらに、本実施例の荒引線を母材とし、従来のダイヤモンドワイヤの製造プロセスを採用し、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤ母線を製造したところ、得られた切ダイヤモンドワイヤの引張強度は6000MPaで、直径は46μmで、断線率はほぼ2.0回/千キロメートルであり、従来技術を遥かに上回っている。
【0143】
実施例8
該実施例8は、実施例1の荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、具体的に、次の工程(1)、(2)、(3)、(4)、及び(5)を含む。
【0144】
(1)真空溶製工程
Al≦0.001%、Ti≦0.0005%、Cu≦0.001%且つNi≦0.001%の工業純鉄を原料とし、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、B:0.0005~0.0020%、V:0.01~0.09%の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉の炉内圧力を5Paに保持し、これにより、溶鋼を製錬する。
【0145】
製錬された溶鋼の温度を1580~1600℃まで加熱した場合、不活性ガス雰囲気下で保護してインゴットへと鋳造し、鋳造速度は370kg/minである。
【0146】
(2)鋼インゴット再溶融工程
まず、真空溶製工程で得られた鋼インゴットを不活性ガス雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融処理し、さらに、エレクトロスラグ再溶融で得られた再溶融インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.2kg/minであり、再溶融インゴットを得て、続いて、得られた再溶融インゴットを60時間保温する。
【0147】
検出したところ、得られた再溶融インゴットの化学成分は、質量パーセントで、C:1.01%、Si:0.30%、Mn:0.60%、Cr:0.40%、B:0.0013%、V:0.09%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0006%、S:0.003%、P:0.006%、O:0.0008%及びN:0.0012%を含む。
【0148】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを、1150℃の温度で、長さ12mで且つ145mm×145mmの角ビレットである鋼ビレットへと鍛造し、その後、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ1mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.6mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.2mmで、片面の研削総深さはほぼ1.8mm(それに応じて、両面の研削総深さはほぼ3.6mm)で、角部研削幅は6mmで、研削完了後の鋼ビレット表面は滑らかでバリがない。
【0149】
(4)高速ワイヤ圧延工程
研削された鋼ビレットを高速ワイヤ圧延機に送って直径Φ5.5mmの荒引線として圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1030~1050℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を980~1020℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保する。
【0150】
圧延終了速度は105m/sで、レイング温度は890~910℃である。
【0151】
(5)冷却工程
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機はオンにされ且つ風量は順次100%、100%、100%、90%であり、残りの送風機はオフにされ、ステルモア上の保温カバーは全て開放される。
【0152】
1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は0.9m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。また、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.25倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証する。
【0153】
本実施例の前記生産方法によれば、実施例1の荒引線を得ることができる。
【0154】
得られた荒引線に対して、巻取り後の荒引線を梱包線で梱包し、梱包線と荒引線との間は麻布を介して隔て、そして、包んでから固定するように包装する。高速ワイヤ圧延時の室温は25℃で、自然時効処理の時間は12日間であり、その後、スチールワイヤを引き抜きにより製造するためにユーザに輸送する。ここで、輸送と積み替え中に、ゴムパッドを敷くように、荒引線の擦り傷を回避する。
【0155】
実施例9
該実施例9は、実施例2の荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、具体的に、次の工程(1)、(2)、(3)、(4)、及び(5)を含む。
【0156】
(1)真空溶製工程
不純物元素含有量の低い工業純鉄を原料とし、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、B:0.0005~0.0020%の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉の炉内圧力を6Paに保持し、これにより、溶鋼を製錬する。
【0157】
製錬された溶鋼の温度を1600~1620℃まで加熱した場合、不活性ガス雰囲気下で保護してインゴットへと鋳造し、鋳造速度は360kg/minである。
【0158】
(2)鋼インゴット再溶融工程
真空溶製工程で得られた鋼インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.5kg/minであり、再溶融インゴットを得て、続いて、得られた再溶融インゴットを72時間保温し、その後、風避け場所に積み重ねて自然冷却する。
【0159】
検出したところ、得られた再溶融インゴットの化学成分は、質量パーセントで、C:1.03%、Si:0.18%、Mn:0.58%、Cr:0.36%、B:0.002%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0005%、S:0.002%、P:0.004%、O:0.001%及びN:0.0013%を含む。
【0160】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを、1130℃の温度で、長さ13mで且つ145mm×145mmの角ビレットである鋼ビレットへと鍛造し、その後、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ1.2mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.5mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.3mmで、片面の研削総深さはほぼ2mm(それに応じて、両面の研削総深さはほぼ4mm)で、角部研削幅は9mmで、研削完了後の鋼ビレット表面は滑らかでバリがない。
【0161】
(4)高速ワイヤ圧延工程
研削された鋼ビレットを高速ワイヤ圧延機に送って直径Φ5.0mmの荒引線として圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1040~1060℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を960~1010℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保する。
【0162】
圧延終了速度は103m/sで、レイング温度は900~920℃である。
【0163】
(5)冷却工程
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機はオンにされ且つ風量は順次100%、100%、90%、90%であり、残りの送風機はオフにされ、ステルモア上の保温カバーは全て開放される。
【0164】
1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は0.85m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。また、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.3倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証する。
【0165】
本実施例の前記生産方法によれば、実施例2の荒引線を得ることができる。
【0166】
得られた荒引線に対して、巻取り後の荒引線を梱包線で梱包し、梱包線と荒引線との間は麻布を介して隔て、そして、包んでから固定するように包装する。高速ワイヤ圧延時の室温は30℃で、自然時効処理の時間は10日間であり、その後、スチールワイヤを引き抜きにより製造するためにユーザに輸送する。ここで、輸送と積み替え中に、ゴムパッドを敷くように、荒引線の擦り傷を回避する。
【0167】
実施例10
該実施例10は、実施例3の荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、具体的に、次の工程(1)、(2)、(3)、(4)、及び(5)を含む。
【0168】
(1)真空溶製工程
Al≦0.001%、Ti≦0.0005%、Cu≦0.001%且つNi≦0.001%の工業純鉄を原料とし、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、V:0.01~0.09%の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉の炉内圧力を5Paに保持し、これにより、溶鋼を製錬する。
【0169】
製錬された溶鋼の温度を1600~1620℃まで加熱した場合、不活性ガス雰囲気下で保護してインゴットへと鋳造し、鋳造速度は330kg/minである。
【0170】
(2)鋼インゴット再溶融工程
真空溶製工程で得られた鋼インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.0kg/minであり、再溶融インゴットを得て、続いて、得られた再溶融インゴットを72時間保温し、その後、風避け場所に積み重ねて自然冷却する。
【0171】
検出したところ、得られた再溶融インゴットの化学成分は、質量パーセントで、C:1.03%、Si:0.20%、Mn:0.55%、Cr:0.22%、V:0.06%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.002%、Ti:0.0006%、S:0.002%、P:0.006%、O:0.0006%及びN:0.0008%を含む。
【0172】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを、1130℃の温度で、連続圧延式で分塊圧延し、長さ15mで且つ145mm×145mmの角ビレットである鋼ビレットを得て、その後、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ1.1mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.7mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.2mmで、片面の研削総深さはほぼ2mm(それに応じて、両面の研削総深さはほぼ4mm)で、角部研削幅は6mmで、研削完了後の鋼ビレット表面は滑らかでバリがない。
【0173】
(4)高速ワイヤ圧延工程
研削された鋼ビレットを高速ワイヤ圧延機に送って直径Φ5.5mmの荒引線として圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1040~1060℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を1000~1020℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保する。
【0174】
圧延終了速度は108m/sで、レイング温度は890~910℃である。
【0175】
(5)冷却工程
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機はオンにされ且つ風量は順次100%、100%、95%、95%であり、残りの送風機はオフにされ、ステルモア上の保温カバーは全て開放される。
【0176】
1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は1.0m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。また、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.3倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証する。
【0177】
本実施例の前記生産方法によれば、実施例3の荒引線を得ることができる。
【0178】
得られた荒引線に対して、巻取り後の荒引線を梱包線で梱包し、梱包線と荒引線との間は麻布を介して隔て、そして、包んでから固定するように包装する。高速ワイヤ圧延時の室温は10℃で、自然時効処理の時間は21日間であり、その後、スチールワイヤを引き抜きにより製造するためにユーザに輸送する。ここで、輸送と積み替え中に、ゴムパッドを敷くように、荒引線の擦り傷を回避する。
【0179】
実施例11
該実施例11は、実施例4の荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、具体的に、次の工程(1)、(2)、(3)、(4)、及び(5)を含む。
【0180】
(1)真空溶製工程
Al≦0.001%、Ti≦0.0005%、Cu≦0.001%且つNi≦0.001%の工業純鉄を原料とし、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、B:0.0005~0.0020%、V:0.01~0.09%の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉の炉内圧力を6Paに保持し、これにより、溶鋼を製錬する。
【0181】
製錬された溶鋼の温度を1600~1620℃まで加熱した場合、不活性ガス雰囲気下で保護してインゴットへと鋳造し、鋳造速度は350kg/minである。
【0182】
(2)鋼インゴット再溶融工程
真空溶製工程で得られた鋼インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.3kg/minであり、再溶融インゴットを得て、続いて、得られた再溶融インゴットを72時間保温し、その後、風避け場所に積み重ねて自然冷却する。
【0183】
検出したところ、得られた再溶融インゴットの化学成分は、質量パーセントで、C:1.05%、Si:0.16%、Mn:0.55%、Cr:0.01%、B:0.0005%、V:0.04%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.002%、Ti:0.0003%、S:0.001%、P:0.003%、O:0.0003%及びN:0.0009%を含む。
【0184】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを、1130℃の温度で、長さ14mで且つ145mm×145mmの角ビレットである鋼ビレットへと鍛造し、その後、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ1.2mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.5mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.2mmで、片面の研削総深さはほぼ1.9mm(それに応じて、両面の研削総深さはほぼ3.8mm)で、角部研削幅は8mmで、研削完了後の鋼ビレット表面は滑らかでバリがない。
【0185】
(4)高速ワイヤ圧延工程
研削された鋼ビレットを高速ワイヤ圧延機に送って直径Φ4.5mmの荒引線として圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1050~1060℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を980~1010℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保する。
【0186】
圧延終了速度は110m/sで、レイング温度は900~920℃である。
【0187】
(5)冷却工程
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機はオンにされ且つ風量は順次100%、100%、85%、80%であり、残りの送風機はオフにされ、ステルモア上の保温カバーは全て開放される。
【0188】
1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は0.93m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。また、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.25倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証する。
【0189】
本実施例の前記生産方法によれば、実施例4の荒引線を得ることができる。
【0190】
得られた荒引線に対して、巻取り後の荒引線を梱包線で梱包し、梱包線と荒引線との間は麻布を介して隔て、そして、包んでから固定するように包装する。高速ワイヤ圧延時の室温は32℃で、自然時効処理の時間は11日間であり、その後、スチールワイヤを引き抜きにより製造するためにユーザに輸送する。ここで、輸送と積み替え中に、ゴムパッドを敷くように、荒引線の擦り傷を回避する。
【0191】
実施例12
該実施例12は、実施例5の荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、具体的に、次の工程(1)、(2)、(3)、(4)、及び(5)を含む。
【0192】
(1)真空溶製工程
工業純鉄を原料とし、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、B:0.0005~0.0020%の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉の炉内圧力を8Paに保持し、これにより、溶鋼を製錬する。
【0193】
製錬された溶鋼の温度を1580~1600℃まで加熱した場合、不活性ガス雰囲気下で保護してインゴットへと鋳造し、鋳造速度は320kg/minである。
【0194】
(2)鋼インゴット再溶融工程
まず、真空溶製工程で得られた鋼インゴットを不活性ガス雰囲気下でエレクトロスラグ再溶融処理し、さらに、エレクトロスラグ再溶融で得られた再溶融インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.3kg/minであり、再溶融インゴットを得て、続いて、得られた再溶融インゴットを72時間保温する。
【0195】
検出したところ、得られた再溶融インゴットの化学成分は、質量パーセントで、C:1.05%、Si:0.22%、Mn:0.45%、Cr:0.19%、B:0.001%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0002%、S:0.003%、P:0.004%、O:0.0005%及びN:0.001%を含む。
【0196】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを、1140℃の温度で、長さ10mで且つ145mm×145mmの角ビレットである鋼ビレットへと鍛造し、その後、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ1.4mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.5mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.1mmで、片面の研削総深さはほぼ2.0mm(それに応じて、両面の研削総深さはほぼ4.0mm)で、角部研削幅は8mmで、研削完了後の鋼ビレット表面は滑らかでバリがない。
【0197】
(4)高速ワイヤ圧延工程
研削された鋼ビレットを高速ワイヤ圧延機に送って直径Φ5.5mmの荒引線として圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1040~1060℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を980~1020℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保する。
【0198】
圧延終了速度は110m/sで、レイング温度は890~910℃である。
【0199】
(5)冷却工程
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機はオンにされ且つ風量は順次100%、100%、100%、100%であり、残りの送風機はオフにされ、ステルモア上の保温カバーは全て開放される。
【0200】
1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は1.0m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。また、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.28倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証する。
【0201】
本実施例の前記生産方法によれば、実施例5の荒引線を得ることができる。
【0202】
得られた荒引線に対して、巻取り後の荒引線を梱包線で梱包し、梱包線と荒引線との間は麻布を介して隔て、そして、包んでから固定するように包装する。高速ワイヤ圧延時の室温は28℃で、自然時効処理の時間が11日間であり、その後、スチールワイヤを引き抜きにより製造するためにユーザに輸送する。ここで、輸送と積み替え中に、ゴムパッドを敷くように、荒引線の擦り傷を回避する。
【0203】
実施例13
該実施例13は、実施例6の荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、具体的に、次の工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、及び(6)を含む。
【0204】
(1)真空溶製工程
Al、Ti、Cu且つNi等の不純物元素含有量の低い工業純鉄を原料とし、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、V:0.01~0.09%の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉の炉内圧力を8Paに保持し、これにより、溶鋼を製錬する。
【0205】
製錬された溶鋼の温度を1600~1610℃まで加熱した場合、不活性ガス雰囲気下で保護してインゴットへと鋳造し、鋳造速度は350kg/minである。
【0206】
(2)鋼インゴット再溶融工程
真空溶製工程で得られた鋼インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.4kg/minであり、再溶融インゴットを得て、続いて、得られた再溶融インゴットを72時間保温し、その後、風避け場所に積み重ねて自然冷却する。
【0207】
検出したところ、得られた再溶融インゴットの化学成分は、質量パーセントで、C:1.08%、Si:0.25%、Mn:0.32%、Cr:0.18%、V:0.01%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0005%、S:0.001%、P:0.003%、O:0.0004%及びN:0.0006%を含む。
【0208】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを、1130℃の温度で、連続圧延式で分塊圧延し、長さ14mで且つ145mm×145mmの角ビレットである鋼ビレットを得て、その後、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ1.1mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.7mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.2mmで、片面の研削総深さはほぼ2mm(それに応じて、両面の研削総深さはほぼ4mm)で、角部研削幅は6mmで、研削完了後の鋼ビレット表面は滑らかでバリがない。
【0209】
(4)高速ワイヤ圧延工程
研削された鋼ビレットを高速ワイヤ圧延機に送って直径Φ5.0mmの荒引線として圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1040~1060℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を1000~1020℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保する。
【0210】
圧延終了速度は110m/sで、レイング温度は890~910℃である。
【0211】
(5)冷却工程
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機はオンにされ且つ風量は順次100%、100%、95%、95%であり、残りの送風機はオフにされ、ステルモア上の保温カバーは全て開放される。
【0212】
1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は1.0m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。また、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.2倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証する。
【0213】
(6)熱処理工程
ステルモア冷却後の荒引線に対してオフラインの塩浴熱処理(鉛浴熱処理に置換可能)を行い、ここで、等温相変化段階の温度は540~560℃で且つ時間は70sである。
【0214】
本実施例の前記生産方法によれば、実施例6の荒引線を得ることが出来る。
【0215】
得られた荒引線に対して、巻取り後の荒引線を梱包線で梱包し、梱包線と荒引線との間は麻布を介して隔て、そして、包んでから固定するように包装する。高速ワイヤ圧延時の室温は5℃で、自然時効処理の時間は23日間であり、その後、スチールワイヤを引き抜きにより製造するためにユーザに輸送する。ここで、輸送と積み替え中に、ゴムパッドを敷くように、荒引線の擦り傷を回避する。
【0216】
実施例14
該実施例14は、実施例7の荒引線の生産方法を提供する。前記生産方法は、具体的に、次の工程(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、及び(6)を含む。
【0217】
(1)真空溶製工程
Al≦0.001%、Ti≦0.0005%、Cu≦0.001%且つNi≦0.001%の工業純鉄を原料とし、C:1.01~1.10%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.30~0.60%、Cr:0.01~0.40%、V:0.01~0.09%の成分設計に従って溶銑中に合金元素を配合し、真空溶製炉の炉内圧力を6Paに保持し、これにより、溶鋼を製錬する。
【0218】
製錬された溶鋼の温度を1590~1600℃まで加熱した場合、不活性ガス雰囲気下で保護してインゴットへと鋳造し、鋳造速度は330kg/minである。
【0219】
(2)鋼インゴット再溶融工程
真空溶製工程で得られた鋼インゴットを電極とし、真空自己消費再溶融によって処理し、再溶融速度は3.5kg/minであり、再溶融インゴットを得て、続いて、得られた再溶融インゴットを72時間保温し、その後、風避け場所に積み重ねて自然冷却する。
【0220】
検出したところ、得られた再溶融インゴットの化学成分は、質量パーセントで、C:1.10%、Si:0.16%、Mn:0.30%、Cr:0.15%、V:0.05%を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、ただし、不純物が、Al:0.001%、Ti:0.0002%、S:0.002%、P:0.003%、O:0.0002%及びN:0.0009%を含む。
【0221】
(3)ビレット製造工程及び研削工程
鋼インゴット再溶融工程で得られた再溶融インゴットを、1150℃の温度で、長さ10mで且つ145mm×145mmの角ビレットである鋼ビレットへと鍛造し、その後、16メッシュ、24メッシュ、30メッシュの砥石を順次用いて鋼ビレットの表面を研削処理し、16メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ1.1mmで、24メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.7mmで、30メッシュの砥石による鋼ビレットの表面研削深さはほぼ0.2mmで、片面の研削総深さはほぼ2mm(それに応じて、両面の研削総深さはほぼ4mm)で、角部研削幅は8mmで、研削完了後の鋼ビレット表面は滑らかでバリがない。
【0222】
(4)高速ワイヤ圧延工程
研削された鋼ビレットを高速ワイヤ圧延機に送って直径Φ5.5mmの荒引線として圧延し、圧延前に加熱する時の均熱温度を調整することにより、圧延開始温度を1030~1050℃にして、そして、圧延過程での水冷等の温度制御手段により、圧延終了温度を950~990℃にして、これにより、鋼ビレットが基本的に再結晶領域内に保持されて圧延されることを確保する。
【0223】
圧延終了速度は108m/sで、レイング温度は890~910℃である。
【0224】
(5)冷却工程
荒引線をステルモア上で制御された温度で冷却し、1~4台目の送風機はオンにされ且つ風量は順次100%、100%、99%、95%であり、残りの送風機はオフにされ、ステルモア上の保温カバーは全て開放される。
【0225】
1台目の送風機の前に、ローラコンベヤ入口部分の動作速度は1.0m/sであり、1~4台目の送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は1.10:1.05:1.02:1.00であり、残りの送風機に対応するローラコンベヤの動作速度比は0.8:1.00~1.05:1.00である。また、風量調節装置を用いて重なり部の風速を非重なり部の風速の1.18倍に調節して、重なり部と非重なり部の冷却速度バランスを保証する。
【0226】
(6)熱処理工程
ステルモア冷却後の荒引線に対してオフラインの塩浴熱処理を行い、ここで、等温相変化段階の温度は520~540℃で且つ時間は80sである。
【0227】
本実施例の前記生産方法によれば、実施例7の荒引線を得ることができる。
【0228】
得られた荒引線に対して、巻取り後の荒引線を梱包線で梱包し、梱包線と荒引線との間は麻布を介して隔て、そして、包んでから固定するように包装する。高速ワイヤ圧延時の室温は25℃で、自然時効処理の時間は13日間であり、その後、スチールワイヤを引き抜きにより製造するためにユーザに輸送する。ここで、輸送と積み替え中に、ゴムパッドを敷くように、荒引線の擦り傷を回避する。
【0229】
総じて言えば、本発明は従来技術に比べて以下の有益な効果を有する。即ち、化学成分の設計、生産方法のプロセス技術の改善によって、不純物のサイズ及びタイプが厳密に制御され、清浄度が高く、組織が均一であることが確保され、荒引線の引張強度及び引抜性能が向上する。そして、荒引線は、超微細で断線率が低い高強度ダイヤモンドワイヤの生産に適用でき、直径が40~46μmで、断線率が≦2回/千キロメートルで、引張強度が≧5000MPaのダイヤモンドワイヤ母線を引き抜いて製造でき、シリコンウェハ切断用ダイヤモンドワイヤの製造に適し、高い引抜性能、低い断線率、及び高強度のスチールワイヤに対する市場の需要を十分に満たし、中国国内外の5000MPa級以上のダイヤモンドワイヤ用荒引線の技術的空白を埋めるものである。