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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】数値制御装置及び加工方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
G05B19/4093 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023523752
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019748
(87)【国際公開番号】W WO2022249272
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】大西 庸士
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-214231(JP,A)
【文献】特開2013-240837(JP,A)
【文献】特開2004-223630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する工作機械を加工プログラムに基づいて制御する数値制御装置であって、
前記回転多刃工具の刃数を含む工具データを取得する工具データ取得部と、
前記加工プログラムに従う前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する加工情報取得部と、
前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する揺動条件取得部と、
前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作で、前記回転多刃工具を前記ワークに対して相対移動させる移動指令を算出する移動指令算出部と、
を備え
前記揺動運動は、前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向にそれぞれ前記回転多刃工具を揺動させる運動であり、
前記揺動運動の1周期に同じ回転位置を通過する前記切刃の数をNとすると、前記揺動運動の前記回転多刃工具の回転軸方向の突出のピークを1/N周期以上最大値に保持する、数値制御装置。
【請求項2】
複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する工作機械を加工プログラムに基づいて制御する数値制御装置であって、
前記回転多刃工具の刃数を含む工具データを取得する工具データ取得部と、
前記加工プログラムに従う前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する加工情報取得部と、
前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する揺動条件取得部と、
前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作で、前記回転多刃工具を前記ワークに対して相対移動させる移動指令を算出する移動指令算出部と、
を備え
前記揺動運動は、前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向にそれぞれ前記回転多刃工具を揺動させる運動であり、
前記移動指令算出部は、前記回転多刃工具の前記送り方向の後退量が極大となる位置で前記回転多刃工具の回転軸方向の突出量が最大となるよう前記揺動運動を定める、数値制御装置。
【請求項3】
複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する工作機械を加工プログラムに基づいて制御する数値制御装置であって、
前記回転多刃工具の刃数を含む工具データを取得する工具データ取得部と、
前記加工プログラムに従う前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する加工情報取得部と、
前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する揺動条件取得部と、
前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作で、前記回転多刃工具を前記ワークに対して相対移動させる移動指令を算出する移動指令算出部と、
前記回転多刃工具の回転位置を確認する回転位置確認部と、
を備え
前記移動指令算出部は、前記揺動運動の所定の位相において、特定の前記切刃が前記送り方向最先端に位置するよう前記揺動運動を定める、数値制御装置。
【請求項4】
前記移動指令算出部は、前記揺動運動の所定の位相において前記送り方向最先端に位置する前記切刃を選択可能に構成される、請求項に記載の数値制御装置。
【請求項5】
複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する加工方法であって、
前記回転多刃工具の工具データを取得する工程と、
前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する工程と、
前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する工程と、
前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作を算出する工程と、
前記回転多刃工具を前記ワークに対して前記合成動作で相対移動させる工程と、
を備え
前記揺動運動は、前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向にそれぞれ前記回転多刃工具を揺動させる運動であり、
前記揺動運動の1周期に同じ回転位置を通過する前記切刃の数をNとすると、前記揺動運動の前記回転多刃工具の回転軸方向の突出のピークを1/N周期以上最大値に保持する、加工方法。
【請求項6】
複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する加工方法であって、
前記回転多刃工具の工具データを取得する工程と、
前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する工程と、
前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する工程と、
前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作を算出する工程と、
前記回転多刃工具を前記ワークに対して前記合成動作で相対移動させる工程と、
を備え
前記揺動運動は、前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向にそれぞれ前記回転多刃工具を揺動させる運動であり、
前記合成動作を算出する工程では、前記回転多刃工具の前記送り方向の後退量が極大となる位置で前記回転多刃工具の回転軸方向の突出量が最大となるよう前記揺動運動を定める、加工方法。
【請求項7】
複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する加工方法であって、
前記回転多刃工具の工具データを取得する工程と、
前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する工程と、
前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する工程と、
前記回転多刃工具の回転位置を確認する工程と、
前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作を算出する工程と、
前記回転多刃工具を前記ワークに対して前記合成動作で相対移動させる工程と、
を備え
前記合成動作を算出する工程では、前記揺動運動の所定の位相において、特定の前記切刃が前記送り方向最先端に位置するよう前記揺動運動を定める、加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円周上に複数の切刃(チップ)有する回転多刃工具を用いるフライス加工において、チップを回転多刃工具の径方向及び軸方向に少しずつずらして配設することで、1回の加工で粗削りから仕上削りまでの多段階の加工を行うことが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-223630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるように、チップをずらして配設するためには、専用の回転多刃工具を製作する必要がある。また、そのような回転多刃工具におけるチップ間の位置の調整は、極めて煩雑な作業となる。このため、より広範に加工の簡素化及び迅速化を図るためには、回転多刃工具の切刃の配置に依存せずに一度に多段階の加工を行い得ることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る数値制御装置は、複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する工作機械を加工プログラムに基づいて制御する数値制御装置であって、前記回転多刃工具の刃数を含む工具データを取得する工具データ取得部と、前記加工プログラムに従う前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する加工情報取得部と、前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する揺動条件取得部と、前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作で、前記回転多刃工具を前記ワークに対して相対移動させる移動指令を算出する移動指令算出部と、を備える。
【0006】
本開示の別の態様に係る加工方法は、複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する加工方法であって、前記回転多刃工具の工具データを取得する工程と、前記回転多刃工具の前記ワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する工程と、前記回転多刃工具を前記送り方向及び前記送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動させる揺動条件を取得する工程と、前記送り方向に前記送り速度での基本移動と、前記工具データ、前記回転数及び前記揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作を算出する工程と、前記回転多刃工具を前記ワークに対して前記合成動作で相対移動させる工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る数値制御装置及び加工方法よれば、回転多刃工具の切刃の配置に依存せずに一度に多段階の加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る数値制御装置を備える工作機械の構成を示すブロック図である。
図2図1の数値制御装置による回転多刃工具の回転軸方向の揺動波形を示すグラフである。
図3図1の数値制御装置に制御される回転多刃工具の切刃の軌跡を示す図である。
図4図1の数値制御装置による回転多刃工具の基準位置の移動波形を示す図である。
図5図1の数値制御装置による切削の一段階を示すワークの模式断面図である。
図6図1の数値制御装置による切削の図5の次の段階を示すワークの模式断面図である。
図7図1の数値制御装置による切削の図6の次の段階を示すワークの模式断面図である。
図8図1の数値制御装置による切削の図7の次の段階を示すワークの模式断面図である。
図9図1の工作機械による加工方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本開示の一実施形態に係る数値制御装置1を備える工作機械100の構成を示すブロック図である。
【0010】
工作機械100は、複数の切刃を有するフライス工具に代表される回転多刃工具(不図示)を用いてワーク(不図示)を加工する。回転多刃工具を回転させる主軸と、回転多刃工具をワークに対して回転多刃工具の径方向に相対移動(ワークを移動してもよい)させる1又は複数の送り軸と、回転多刃工具をその回転軸方向に突出及び後退させる切込軸と、を有する構成とされる。なお、以下の説明では送り軸は単一の駆動軸として説明するが、複数の駆動軸を協調動作させて回転多刃工具を相対移動させてもよい。また、工作機械100は、回転多刃工具の向きを変更可能であってもよく、この場合、送り軸及び切込軸は複数の駆動軸の協調動作により実現され得る。
【0011】
工作機械100は、主軸、送り軸及び切込軸をそれぞれ駆動する主軸モータMc、送り軸モータMx及び切込軸モータMzと、主軸モータMc、送り軸モータMx及び切込軸モータMzにそれぞれ電力を供給する主軸アンプPc、送り軸アンプPx及び切込軸アンプPzと、主軸アンプPc、送り軸アンプPx及び切込軸アンプPzを制御する数値制御装置1と、を備える構成とされ得る。
【0012】
数値制御装置1は、工作機械の動作を加工プログラムに基づいて制御する。また、数値制御装置1は、本開示に係る加工方法の一実施形態を実行する。数値制御装置1は、例えばメモリ、CPU(プロセッサ)、入出力インターフェイス等を有するコンピュータ装置に適切な制御プログラムを実行させることにより実現され得る。
【0013】
数値制御装置1は、プログラム記憶部11、工具データ記憶部12、揺動条件記憶部13、基本指令生成部14、加工情報取得部15、工具データ取得部16、揺動条件取得部17、回転位置確認部18、移動指令算出部19、回転指令実行部20、主軸制御部21、送り指令実行部22、送り軸制御部23、切込指令実行部24、及び切込軸制御部25を備える。これらの構成要素は、数値制御装置1の機能を類別したものであって、その物理構成及びプログラム構成において明確に区別できるものでなくてもよい。
【0014】
プログラム記憶部11は、例えばGコード等の言語により加工手順を規定する加工プログラムを記憶する。加工プログラムには、例えば回転多刃工具のワークに対する相対移動の軌跡及び速度(送り方向及び送り速度)、回転多刃工具の回転数等のワークを所望の形状に加工するために必要な情報が所定の規則に従って記述される。プログラム記憶部11は、コンピュータ装置のメモリの記憶領域の一部を確保し、記憶領域の情報の書き込み及び読み出しを管理する機能とを有する。
【0015】
工具データ記憶部12は、回転多刃工具の刃数(切刃の数)、径等の情報を含む工具データを記憶する。工具データ記憶部12は、プログラム記憶部11と同様に、コンピュータ装置のメモリの記憶領域の一部を確保し、記憶領域の情報の書き込み及び読み出しを管理する機能とを有する。
【0016】
揺動条件記憶部13は、回転多刃工具を送り方向及び送り方向に垂直な方向の少なくともいずれかの方向に揺動、好ましくは送り方向及び送り方向に垂直な方向の2方向に、より好ましく2方向に同一周期でそれぞれ回転多刃工具を揺動させる揺動条件を記憶する。揺動条件は、回転多刃工具の形状、送り速度及び回転数等に応じて揺動の周期、波形、振幅、位相を決定するために必要な情報とされる。揺動条件は、具体的には、関数、参照テーブル、基本波形情報等を含み得る。また、揺動条件記憶部13は、例えば精度重視、速度重視等、送り速度等が同じであっても異なる揺動となる複数の揺動条件を記憶してもよい。揺動条件記憶部13は、プログラム記憶部11及び工具データ記憶部12と同様に、コンピュータ装置のメモリの記憶領域の一部を確保し、記憶領域の情報の書き込み及び読み出しを管理する機能とを有する。
【0017】
基本指令生成部14は、加工プログラムに基づいてワークを加工するために必要な工作機械の各軸の基本移動をなし得る基本指令を生成する。つまり、基本指令生成部14は、加工プログラムに従って、主軸の各時刻の位置又は速度を特定する回転指令、送り軸の各時刻の位置又は速度を特定する送り指令、及び切込軸の各時刻の位置又は速度を特定する切込指令を生成する。なお、例えばフライス工具による端面加工であれば、基本指令において、切込指令の値は、切削を開始する前に変化し、切削中は変化しない。加工プログラムに従う基本移動における各軸の指令の生成は、従来の数値制御装置におけるものと同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0018】
加工情報取得部15は、基本指令生成部14から、加工プログラムに従う回転多刃工具のワークに対する送り方向、送り速度及び回転数を含む加工情報を取得する。
【0019】
工具データ取得部16は、工具データ記憶部12から、回転多刃工具の工具データを取得する。
【0020】
揺動条件取得部17は、揺動条件記憶部13から、回転多刃工具を揺動させる揺動条件を取得する。
【0021】
回転位置確認部18は、回転多刃工具の回転位置(回転多刃工具の回転の位相)を確認する。本実施形態の回転位置確認部18は、主軸アンプを介して入力される主軸モータからのフィードバック値に基づいて、フライス工具の回転位置を確認する。回転位置確認部18は、回転指令実行部の信号に基づいて回転多刃工具の回転位置を確認してもよい。
【0022】
移動指令算出部19は、送り方向に送り速度での基本移動と、工具データ、回転数及び揺動条件に基づいて定められる揺動運動と、を重畳した合成動作で、回転多刃工具をワークに対して相対移動させる移動指令を算出する。
【0023】
移動指令算出部19は、揺動運動をなし得る揺動指令を生成する揺動指令生成部191と、基本指令生成部14が生成した基本指令の送り軸成分に揺動指令の送り軸成分を加算する送り指令合成部192と、基本指令の切込軸成分に揺動指令の切込軸成分を加算する切込指令合成部193と、を有する構成とされ得る。
【0024】
揺動指令生成部191が定める揺動運動は、回転多刃工具を送り方向及び送り方向に垂直な方向に同期してそれぞれ周期的に移動させる。つまり、揺動運動は、回転多刃工具の複数の切刃が通過する位置を2方向に周期的にずらす動作である。これにより、回転多刃工具は、1回のパスにおいて、単純に送り方向に移動する基本移動において切削可能な回転軸方向の深さ及び径方向(送り方向に垂直な方向)の幅を超えてワークを切削することができる。つまり、回転多刃工具を揺動すれば、1回のパスでワークからより大きな体積の材料を除去することができる。特に、回転多刃工具を送り方向及び回転軸方向の2方向にそれぞれ揺動させるよう揺動運動を定めることによって、実質的に切込量を大きくすることができる。
【0025】
揺動指令生成部191は、回転多刃工具の送り方向の後退量が極大となる位置で回転軸方向の突出量が最大となるよう揺動運動を定めることが好ましい。これにより、回転多刃工具が揺動運動により前方突出している状態でワークの表面近傍の材料を除去した後に、回転多刃工具が揺動運動により後退している状態でワークの深部を切削することができる。つまり、このような揺動運動により、1回のパスで多段階の加工、例えば粗切削及び仕上げ切削を順番に行うことができる。
【0026】
揺動指令生成部191は、揺動運動の1周期に同じ回転位置を通過する切刃の数をNとすると、揺動運動の回転軸方向の突出のピークを1/N周期以上最大値に保持することの好ましい。これにより、回転多刃工具が最も突出した状態での切刃の軌跡が連続する円を描くことになるので、加工面を平滑に仕上げることが可能となる。また、加工面を平滑にするためには、揺動運動の1周期は、送り速度での移動量が切刃の径方向の有効長と等しくなる時間以下とする必要がある。
【0027】
揺動指令生成部191は、揺動運動の所定の位相において、特定の切刃が送り方向最先端に位置するよう揺動運動を定めることが好ましい。つまり、揺動指令生成部191は、回転多刃工具の切刃の数をN×M(この場合N、Mは正整数)として、揺動周期を回転多刃工具の回転周期の1/M倍となるよう設定することが好ましい。これにより、M個の切刃だけが仕上げ切削を行うことになるため、仕上げ切削を行う切刃だけに高価なチップを装着して加工精度と経済性とを両立できる。
【0028】
また、揺動指令生成部191は、揺動運動の所定の位相において送り方向最先端に位置する切刃、つまり主軸の回転位置を選択可能に構成されてもよい。これによって、回転多刃工具の複数の切刃に割り当てられる荒切削、中切削、仕上げ切削等の役割分担を入れ換えることにより、切刃の負荷を均等化して回転多刃工具の寿命を延ばすことができる。
【0029】
送り指令合成部192は、基本指令生成部14が生成した基本移動の送り指令に、揺動指令生成部が算出した揺動運動の送り方向の成分を加算することにより、基本移動に揺動運動を重畳した合成動作における送り動作成分を実現する送り指令を算出する。送り指令合成部192は、例えば指令値の補間、加減速処理等の周知の処理を行ってもよい。
【0030】
切込指令合成部193は、基本指令生成部が生成した基本移動の切込指令に、揺動指令生成部が算出した揺動運動の切込方向(回転多刃工具回転軸方向)の成分を加算することにより、合成動作の切込方向の揺動成分を実現する送り指令を算出する。切込指令合成部193も、例えば指令値の補間、加減速処理等の周知の処理を行ってもよい。
【0031】
回転指令実行部20は、基本指令生成部が生成した回転指令を実行する。つまり、回転指令実行部20は、予め算出され得る回転指令をリアルタイムの信号に変換するものであり、回転指令における現在の時刻の値を主軸制御部21に入力する。
【0032】
主軸制御部21は、回転指令実行部20から入力される指令値に従って主軸アンプPcひいては主軸モータMcをフィードバック制御する。
【0033】
送り指令実行部22は、送り指令合成部192が算出した送り指令を実行する。つまり、送り指令実行部22は、送り指令における現在の時刻の値を送り軸制御部23に入力する。
【0034】
送り軸制御部23は、送り指令実行部22から入力される指令値に従って送り軸アンプPxひいては送り軸モータMxをフィードバック制御する。
【0035】
切込指令実行部24は、切込指令合成部193が算出した切込指令を実行する。つまり、切込指令実行部24は、切込指令における現在の時刻の値を切込軸制御部25に入力する。
【0036】
切込軸制御部25は、切込指令実行部24から入力される指令値に従って切込軸アンプPzひいては切込軸モータMzをフィードバック制御する。
【0037】
工作機械100による切削に関する理解を促進するために、揺動運動の動作及びその効果について、具体例に基づいて説明する。以下に説明する例は、回転多刃工具の刃数が4、工具半径が60mmであり、主軸回転数が600rpm、送り速度が600mm/minであり、回転多刃工具の送り方向(X軸方向)及び回転軸方向(Z軸方向)に回転多刃工具の1回転と等しい周期Tで揺動させる場合である。
【0038】
送り方向の揺動波形は、振幅が0.4mmの正弦波状とした。一方、回転軸方向の揺動波形は、振幅0.03mmで周期が0.4Tの正弦波の上下のピークをそれぞれ0.3Tずつ保持する波形とした。このような回転軸方向の揺動波形を図2に示す。また、図3には、合成動作で移動しながら回転する回転多刃工具の各切刃の軌跡を、切刃毎に異なる線種を用いて示す。
【0039】
図4は、回転多刃工具の基準点のX-Z平面における軌跡を示す。図示するように、回転多刃工具は、送り方向の前進しながら回転軸方向に後退(切込量を減少)し、送り方向の後退しながら回転軸方向に突出(切込量を増大)する移動を繰り返す。
【0040】
さらに、図5から図8に、回転多刃工具の送り方向最先端位置における各切刃による切削後のワークWの形状(回転多刃工具の回転軸を含むX-Z平面におけるワークWの断面形状)を順番に示す。この例では、先ず、図3において破線で示す第1の切刃E1がワークWの送り方向に小さい範囲の中層までを切除し(図5)、次に、図3において一点鎖線で示す第2の切刃E2がワークWの送り方向により大きい範囲の表層のみを切除し(図6)、続いて、図3において二点鎖線で示す第3の切刃E3がワークWの送り方向に小さい範囲の中層までを切除し(図7)、最後に図4において実線で示す第4の切刃E4がワークWの送り方向に大きい範囲の深層までを切除する(図8)。このように、複数の切刃が段階的にワークWを切削するので、切刃E1~E4の高さを超える深さにワークWを切削することができる。
【0041】
以上の説明から明らかなように、工作機械100において数値制御装置1により実行される本開示に係る加工方法の一実施形態は、複数の切刃を有する回転多刃工具を用いてワークを加工する加工方法であって、図9に示すように、基本指令工程(ステップS1)と、加工情報取得工程(ステップS2)と、工具データ取得工程(ステップS3)と、揺動条件取得工程(ステップS4)と、回転位置確認工程(ステップS5)と、揺動指令生成工程(ステップS6)と、送り指令合成工程(ステップS7)と、切込指令合成工程(ステップS8)と、指令実行工程(ステップS9)と、を備える。
【0042】
ステップS1の基本指令工程では、基本指令生成部14により、加工プログラムに基づいて、回転多刃工具をワークに対して送り方向に送り速度で相対移動させる基本移動を指定する基本指令を生成する。
【0043】
ステップS2の加工情報取得工程では、加工情報取得部15により、基本指令生成部14から回転多刃工具のワークに対する送り方向、送り速度及び回転数の指令値を含む加工情報を取得する。
【0044】
ステップS3の工具データ取得工程では、工具データ取得部16により、工具データ記憶部12から工具データを取得する。
【0045】
ステップS4の揺動条件取得工程では、揺動条件取得部17により、揺動条件記憶部13から、揺動条件を取得する。
【0046】
ステップS5の回転位置確認工程では、回転位置確認部18により、主軸アンプPc(又は回転指令実行部20)から回転多刃工具の回転位置の情報を取得する。
【0047】
ステップS6の揺動指令生成工程では、揺動指令生成部191により、工具データ、回転数及び揺動条件に基づいて定められる揺動運動を行い得る揺動指令を生成する。
【0048】
ステップS7の送り指令合成工程では、送り指令合成部192により、基本指令の送り軸成分に揺動指令の送り軸成分を加算することにより、基本移動と揺動運動とを重畳した合成動作の送り軸成分を実現する送り指令を合成する。
【0049】
ステップS8の切込指令合成工程では、切込指令合成部193により、基本指令の切込軸成分に揺動指令の切込軸成分を加算することにより、基本移動と揺動運動とを重畳した合成動作の切込軸成分を実現する切込指令を合成する。揺動指令生成工程、送り指令合成工程及び切込指令合成工程は、合わせて移動指令を算出する工程を構成する。
【0050】
ステップS9の指令実行工程では、基本指令生成部14が生成した基本指令の主軸回転成分である回転指令の回転指令実行部20による実行、送り指令合成部192が合成した送り指令の送り指令実行部22による実行、及び切込指令合成部が合成した切込指令の切込指令実行部24による実行を行う。
【0051】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、前述した実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、前述した実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0052】
本開示に係る数値制御装置は、従来と同様の指令値を生成する基本指令生成部を含まず、移動指令算出部において、工具データ、加工情報及び揺動条件に基づいて、基本移動と揺動運動とを重畳した合成動作で回転多刃工具を相対移動させる送り指令及び切込指令、並びに回転指令を生成してもよい。この場合、加工情報取得部は、加工プログラムに記述されている送り速度等の各種パラメータを取得するものとされる。
【0053】
本開示に係る数値制御装置は、切刃をずらして配置した回転多刃工具を用いる場合にも、例えば回転多刃工具の設計範囲を超えて深くワークを切削する等の目的で適用できる。
【0054】
また、本開示に係る数値制御装置において、揺動運動は、回転多刃工具の送り方向及び回転軸方向に垂直な方向(前述の実施形態におけるY方向)に揺動する成分を含んでもよい。
【0055】
本開示に係る数値制御装置により制御する工作機械は、フライス工具以外に例えばエンドミル等の回転多刃工具を使用するものであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 数値制御装置
100 工作機械
11 プログラム記憶部
12 工具データ記憶部
13 揺動条件記憶部
14 基本指令生成部
15 加工情報取得部
16 工具データ取得部
17 揺動条件取得部
18 回転位置確認部
19 移動指令算出部
191 揺動指令生成部
192 送り指令合成部
193 切込指令合成部
20 回転指令実行部
21 主軸制御部
22 送り指令実行部
23 送り軸制御部
24 切込指令実行部
25 切込軸制御部
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8
図9