(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】鋼構造物及び肉盛溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20241106BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B23K9/04 E
B23K20/00
(21)【出願番号】P 2024103238
(22)【出願日】2024-06-26
【審査請求日】2024-07-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 靖宗
(72)【発明者】
【氏名】清水 喜久司
(72)【発明者】
【氏名】細川 優
(72)【発明者】
【氏名】河津 政志
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203560610(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第110842383(CN,A)
【文献】特開平7-24577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 20/00
B23K 5/18
B32B 15/18
B23K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合わせ材と母材とを含むクラッド鋼を備え、
前記クラッド鋼のコバ面には耐食性金属が肉盛溶接され、
前記コバ面の一部には、前記コバ面の側の角部であって前記合わせ材とは反対側の角部に面取り部が形成されている、
ことを特徴とする鋼構造物。
【請求項2】
前記母材には、ステンレス鋼板のライニングが設けられ、
前記コバ面の延在方向及び前記母材の板厚方向に対して垂直な方向において、前記耐食性金属の端部であって前記コバ面とは反対側の端部である耐食性金属端部から前記ステンレス鋼板の端部であって前記コバ面の側の端部までの距離は、前記耐食性金属端部から前記面取り部の端部であって前記コバ面とは反対側の端部までの距離よりも短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物。
【請求項3】
前記面取り部において、前記耐食性金属は、前記合わせ材と前記母材とが並ぶ方向に沿って見て、前記ステンレス鋼板と前記面取り部とによって挟まれる、
ことを特徴とする請求項2に記載の鋼構造物。
【請求項4】
前記コバ面は、前記合わせ材のコバ面と前記母材のコバ面とを含む、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼構造物。
【請求項5】
前記合わせ材のコバ面と前記母材のコバ面とは、前記コバ面の延在方向及び前記母材の板厚方向に対して垂直な方向において、同じ位置である、
ことを特徴とする請求項4に記載の鋼構造物。
【請求項6】
前記鋼構造物は鋼板であり、
前記合わせ材は前記鋼板の一方の面に設けられ、
前記面取り部は前記鋼板の他方の面に形成される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼構造物。
【請求項7】
前記鋼構造物は鋼管であり、
前記合わせ材は前記鋼管の外周面を形成し、
前記面取り部は前記鋼管の内周面側に形成される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼構造物。
【請求項8】
合わせ材と母材とを含むクラッド鋼の肉盛溶接方法であって、
前記クラッド鋼のコバ面の一部に面取り部を形成する形成ステップと、
前記コバ面に耐食性金属を肉盛溶接する溶接ステップと、
前記母材側にステンレス鋼板のライニングを設けるライニングステップと、
を備え、
前記面取り部は、前記母材の前記コバ面の側の角部であって前記合わせ材とは反対側の角部、に形成される、
ことを特徴とする肉盛溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼構造物及び肉盛溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の面取り部に肉盛溶接することが行われている。
特許文献1は、海洋構造物の下端部鋼管の外周面の下端縁に面取り部を形成し、下端部鋼管の下面に肉盛溶接することを開示する。特許文献2は、突合せ溶接に際して、テーパー状に面取り加工を施したクラッド管の端面に肉盛溶接することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-79742号公報
【文献】特開平7-24577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、鋼製の管のコバ面における肉盛溶接において、防食性という観点から改善の余地があった。また、本発明者らは、防食性の向上という観点から、鋼部材に替えて、クラッド鋼の採用を検討した。
【0005】
本発明は、クラッド鋼のコバ面の耐食性を向上させることができる鋼構造物及び肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る構造物は、
合わせ材と母材とを含むクラッド鋼を備え、
前記クラッド鋼のコバ面には耐食性金属が肉盛溶接され、
前記コバ面の一部には、前記コバ面の側の角部であって前記合わせ材とは反対側の角部に面取り部が形成されている、
を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、クラッド鋼のコバ面の耐食性を向上させることができる鋼構造物及び肉盛溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る鋼構造物を説明するための概略的な図であって、クラッド鋼のコバ面近傍の断面図ある。
【
図2】本開示の一実施形態に係る構造物を説明するための概略的な図であって、クラッド鋼の断面図ある。
【
図3】本開示の一実施形態に係る肉盛溶接方法を説明するための概略的な図であって、クラッド鋼の断面図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る肉盛溶接方法を説明するための概略的な図であって、クラッド鋼に面取り部を設けた状態を示す断面図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る肉盛溶接方法を説明するための概略的な図であって、面取り部が設けられたクラッド鋼のコバ面に耐食性金属を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されないことは自明である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示に係る発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下の実施形態の各構成要素は、互いに組み合わせることができる。
また本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書中において、「ステップ」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0010】
[第1実施形態]
以下、図面を参照し、本開示の一実施形態に係る鋼構造物を説明する。
図1に、本開示の一実施形態に係る鋼構造物を説明するための概略的な断面図を示す。
図1は、クラッド鋼10のコバ面10cが延在する方向に対して垂直な断面を示している。
図1では、クラッド鋼10のコバ面10c近傍における、クラッド鋼10の一部を示している。なお、本実施形態においては、クラッド鋼10がクラッド鋼板である場合を例示して説明を行う。
【0011】
本実施形態に係る鋼構造物1は、合わせ材12と母材11とを含むクラッド鋼10を備えている。この鋼構造物1では、クラッド鋼10のコバ面10cには耐食性金属20が肉盛溶接されている。また、この鋼構造物1では、コバ面10cの一部には、コバ面10cの側の角部であって合わせ材12とは反対側の角部に面取り部13が形成されている。
【0012】
上記の構成からなる鋼構造物1によれば、クラッド鋼10のコバ面10cの耐食性を向上させることができる。
クラッド鋼のコバ面に肉盛溶接を施した場合、特に合わせ材が設けられていない側に位置する角部の耐食性金属(肉盛溶接部)20において、肉盛溶接部を構成する溶接金属である耐食性金属20に母材の化学成分が混ざりやすい。しかし、本実施形態に係る鋼構造物1では、この角部が面取りされているため、母材11の化学成分が溶接金属に混ざってしまっても、耐食性金属20の表面における防食性に影響することを好適に防止することができる。
【0013】
(クラッド鋼)
クラッド鋼10は、鋼製の母材11と母材11を被覆する合わせ材12とを含む。
クラッド鋼10は、合わせ材12が設けられている側の表面10aと、合わせ材12が設けられていない側の表面10bを有する。表面10aと表面10bは、母材11及び合わせ材12の板厚方向において並んでいる。
【0014】
クラッド鋼10は、合わせ材12が位置する側の表面10aとコバ面10cとが接続される角部10dを有する。また、
図3に例示するような面取り加工前のクラッド鋼10は、クラッド鋼10の表面10aとは反対側の表面10bとコバ面10cとが接続される角部10eを有する。すなわち、クラッド鋼10は、コバ面10cを挟んで、角部10dと角部10eを有する。
【0015】
図1等では、X座標軸に沿ってコバ面10cが延在している。また、X座標軸に沿って角部10dと角部10eが延在している。
図1の例では、クラッド鋼10の板厚方向とX座標軸及びY座標軸とは交差する。
【0016】
クラッド鋼10のコバ面10cとは、クラッド鋼10の縁部の面を意味する。クラッド鋼10のコバ面10cは、クラッド鋼10の表面10a又は表面10bに対して傾いている。あるいは、コバ面10cとクラッド鋼10の表面10a又は表面10bとは略垂直である。
なお、
図1から
図6のX座標軸、Y座標軸、Z座標軸はそれぞれが互いに直交する。
【0017】
母材11は、鋼板である。母材11の鋼板は、特に限定されないが、化学組成として、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含む鋼板であることがより好ましい。母材11の化学組成は、鋼種や化学成分が記載されているミルシートを参照して判断してもよい。なお、このような手法によらず、用いる鋼板が商品名などで特定されており、この鋼板のスペックに基づいて、母材11が鋼板であるか否かを判断してもよい。
【0018】
合わせ材12は、母材11の一方の表面に設けられている。母材11の全面に設けられていることが好ましい。
合わせ材12を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス材、チタン材、ニッケル基合金が挙げられる。
【0019】
合わせ材12は、溶接などの加工が容易であるため、ステンレス材やニッケル基合金であることがより好ましい。合わせ材12は、例えば、SUS312L、SUS430等からなることがより好ましい。耐食性の観点からは、SUS312Lであることがより好ましい。
【0020】
クラッド鋼10の厚みは、特に限定されないが、7mm以上であることが、強度の観点からは好ましい。また、クラッド鋼10を構成する母材11の厚みは、特に限定されないが、6mm以上であることが、強度の観点からは好ましい。クラッド鋼10を構成する合わせ材12の厚みは、特に限定されないが、1mm以上であることが、耐食性の確保という観点からは好ましい。
これらの厚みは、ノギスを用いて測定する。
【0021】
上記のようなクラッド鋼10は、圧接法、爆接法、溶湯法、圧延法、肉盛溶接法又は溶接法等によって、母材11となる鋼板と合わせ材12となる材料とを接合して製造する。
そのため、例えば、本実施形態に係る鋼構造物1に用いられるクラッド鋼10は、鋼板に他種金属板を現場で溶接したような部材とは異なる。
【0022】
なお、母材11と合わせ材12との界面10fは、製造時の条件等によって表面10a又は表面10bに対して傾いている場合もある。また界面10fは、ある程度厚みを有する界面層である場合もある。
【0023】
(耐食性金属)
本実施形態に係る鋼構造物1では、クラッド鋼10のコバ面10cには耐食性金属が肉盛溶接されている。
図1等の例では、耐食性金属20は、X座標軸に沿った方向に延在している。
【0024】
耐食性金属とは、例えば、ニッケル基合金等である。耐食性金属20としては、特に限定されないが、例えば、ハステロイ(登録商標)やインコネル(登録商標)が挙げられる。
クラッド鋼10のコバ面10cの延在方向及び母材11の板厚方向に対して垂直な方向における耐食性金属20の厚みは、母材11を確実に保護するという観点から、3mm以上であることが好ましい。
【0025】
このような耐食性金属からなる耐食性金属20を備えることで、クラッド鋼10のコバ面10cが腐食環境に暴露されなくなり、クラッド鋼10のコバ面10cが腐食しにくくなる。
【0026】
本実施形態に係る鋼構造物1では、コバ面10cは、合わせ材12のコバ面12cと母材11のコバ面11cとを含んでいることがより好ましい。換言すれば、合わせ材12のコバ面と母材のコバ面の双方に亘り、耐食性金属20が設けられていることがより好ましい。
これにより、クラッド鋼のコバ面の耐食性をより確実に確保することができる。
【0027】
本実施形態に係る鋼構造物1では、合わせ材12のコバ面12cと母材11のコバ面11cとは、クラッド鋼10のコバ面10cの延在方向及び母材11の板厚方向に対して垂直な方向において、同じ位置であってもよい。
これにより、肉盛溶接する耐食性金属20の量を減らすことができる。
【0028】
(面取り部)
本実施形態に係る鋼構造物1では、コバ面10cの一部には、コバ面10cの側の角部であって合わせ材12とは反対側の角部に面取り部13が形成されている。
面取り部13の面は、コバ面10cの面に対して傾いている。面取り部13は、端部13aにおいて表面10bに接続されている。面取り部13は、端部13bにおいてコバ面10cに接続されている。面取り部13は、コバ面10cの延在方向に沿って、設けられている。面取り部13は、コバ面10cの延在方向の全長に亘って設けられていることがより好ましい。
【0029】
面取り部13には、耐食性金属20が設けられる。面取り部13はコバ面10c及び表面10bよりも母材11の内側へ向けて凹むように形成されている。そのため、
図1等に示すように、コバ面10cの延在方向及び母材11の板厚方向に対して垂直な方向において、面取り部13に設けられた耐食性金属20の厚さは、コバ面10cにおける耐食性金属20の厚さよりも厚くなる。
【0030】
本実施形態に係る鋼構造物1では、合わせ材12が設けられていない側にこのような面取り部13が設けられていることで、面取り部13近傍の耐食性金属20において、母材11から耐食性金属端部20sまでの距離が遠くなる。そのため、耐食性金属20を構成する溶接金属に母材11の化学成分が混ざったとしても、耐食性金属20の表面における防食性に影響することを好適に防止することができる。
【0031】
なお、面取り部13の形状は、
図1等に示すような平面には限られない。面取り部13によって、合わせ材12とは反対側の角部において、耐食性金属20の端部から母材11までの距離が確保されていればよい。例えば面取り部13は、端部13aからコバ面10cにかけて階段形状に形成されていてもよく、コバ面10cの延在方向に沿って見た際に丸いザグリ形状であってもよい。
【0032】
(ステンレス鋼板のライニング)
本実施形態に係る鋼構造物1では、母材11には、ステンレス鋼板のライニング30が設けられていることがより好ましい。ステンレス鋼板のライニング30は、クラッド鋼10の母材11側、すなわち合わせ材12が設けられていない側の表面10b側に設けられる。
【0033】
また、ステンレス鋼板のライニング30については、コバ面10cの延在方向及び母材11の板厚方向に対して垂直な方向において、耐食性金属20の端部であってコバ面10cとは反対側の端部である耐食性金属端部20sからステンレス鋼板のライニング30の端部であってコバ面10cの側の端部30aまでの距離d1は、耐食性金属端部20sから面取り部13の端部であってコバ面10cとは反対側の端部13aまでの距離d2よりも短いことがより好ましい。
【0034】
これにより、クラッド鋼10の表面10bを保護しつつも、ライニング30を耐食性金属端部20sまで設ける場合に対して、ライニング30に用いるステンレス鋼板の使用量を削減することができる。
面取り部13の端部であってコバ面10cの側の端部13bは、クラッド鋼10の板厚方向においては、対応する耐食性金属20の厚さが十分なので、母材11の成分が耐食性金属に混ざってしまって表面に影響することが相対的に少ない。そのため、ステンレス鋼板のライニング30を省くことができる。
【0035】
耐食性金属端部20sとは、換言すれば、耐食性金属20の表面である。耐食性金属端部20sは、クラッド鋼10のコバ面10cとは耐食性金属20を挟んで反対側に位置する表面である。
コバ面10cの側のステンレス鋼板のライニング30の端部30aとは、面取り部13が形成される側の端部を意味する。すなわち、端部30aは、コバ面10cの延在方向及び母材11の板厚方向に対して垂直な方向における端部のうちで、耐食性金属20が設けられたコバ面10cに近い方の端部である。
また、コバ面10cの延在方向及び母材11の板厚方向に対して垂直な方向における端部のうちで、端部30aと反対側に位置する端部を端部30bとする。すなわち、端部30bは耐食性金属20が設けられたコバ面10cから遠い方の端部である。
【0036】
面取り部13の端部のうちで、コバ面10cとは反対側の端部13aとは、耐食性金属端部20sから最も離れた端部である。例えば、
図1の例では、面取り部13の端部のうちで、コバ面10cとは反対側の端部13aとは、耐食性金属端部20sから最も離れた端部13aである。
【0037】
本実施形態に係る鋼構造物1では、面取り部13において、耐食性金属20は、合わせ材12と母材11とが並ぶ方向に沿って見て、ステンレス鋼板のライニング30と面取り部13とによって挟まれていてもよい。
これにより、母材11の成分が耐食性金属20に混ざってしまうことをより確実に防止することができる。
【0038】
図2に、本開示の一実施形態に係る鋼構造物を説明するための概略的な断面図を示す。
図2は、クラッド鋼10のコバ面10cが延在する方向に対して垂直な断面を示している。
【0039】
なお、端部10gは、クラッド鋼10を挟んでコバ面10cとは反対側に位置するコバ面である。本実施形態に係るクラッド鋼10では、端部10g側には耐食性金属は設けられていない。
【0040】
ステンレス鋼板のライニング30の板厚は、合わせ材12の板厚より薄くてもよい。これにより、経済性が良くなるという利点がある。
【0041】
ステンレス鋼板のライニング30は、溶接によって、クラッド鋼10の母材11に対して接合される。
【0042】
(変形例)
【0043】
上記の実施形態に係る鋼構造物1では、クラッド鋼10の全てのコバ面に、上記のような面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよい。あるいは、クラッド鋼10の一部のコバ面に、上記のような面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよい。
例えば、クラッド鋼板が矩形状である場合、鋼板の全ての辺に上記のような面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよく、あるいは、一部の辺に上記のような面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよい。また、辺の一部のみに面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよい。
【0044】
上記の実施形態に係る鋼構造物1では、鋼構造物1は鋼板であり、合わせ材12は鋼板の一方の面に設けられ、面取り部13は鋼板の他方の面に形成されていてもよい。すなわち、合わせ材12は鋼板の面であって表側面を形成し、面取り部13は鋼板の面であって表側面とは反対側に形成されていてもよい。
表側面の方が反対側の面よりも厳しい腐食環境にある場合には、このように構成することが好適である。
【0045】
上記の実施形態に係る鋼構造物1では、鋼構造物1は鋼管であり、合わせ材12は鋼管の外周面を形成し、面取り部13は鋼管の内周面側に形成されていてもよい。
上記の構成からなる鋼構造物1によれば、鋼管の内周面の側のコバ面の部分から、母材11の成分が耐食性金属20に混ざり、耐食性金属20の表面に影響することを防止することができる。
【0046】
上記実施形態では、クラッド鋼10が板状のもの、すなわちクラッド鋼板を含む鋼構造物を例に挙げて説明したが、クラッド鋼10はこれに限定されない。例えば、クラッド鋼10はクラッド鋼板を曲げ加工して作成したパイプであってもよい。
クラッド鋼がパイプである場合、パイプの軸線方向の一方の端部のコバ面に上記のような面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよい。なお、パイプの一方の端部のコバ面の全周において、一部のみに面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよい。
あるいは、パイプの軸線方向の両端のコバ面に上記のような面取り部13及び耐食性金属20が設けられていてもよい。
【0047】
[第2実施形態]
以下、本開示の一実施形態に係る肉盛溶接方法を説明する。
本実施形態に係る肉盛溶接方法は、合わせ材と母材とを含むクラッド鋼の肉盛溶接方法であって、形成ステップと、溶接ステップと、ライニングステップと、を備える。
【0048】
(形成ステップ)
形成ステップ(S1)では、クラッド鋼10のコバ面10cの一部に面取り部13を形成する。
形成ステップでは、
図3に示すようなクラッド鋼を準備し、面取り部13を形成し、
図4に示すような状態とする。面取り部13は、母材11のコバ面10cの側の角部であって合わせ材12とは反対側の角部10eに形成される。
【0049】
(溶接ステップ)
溶接ステップ(S2)では、コバ面10cに耐食性金属20を肉盛溶接する。
溶接ステップでは、面取り部13が設けられたクラッド鋼10のコバ面10cに対して、肉盛溶接によって耐食性金属20を形成し、
図5に示すような状態とする。
【0050】
溶接ステップでは、複数回のパスで肉盛溶接を実施することが好ましい。耐食性金属20を肉盛溶接した後に、その表面を研削して、耐食性金属端部20sを形成するようにしてもよい。あるいは、肉盛溶接によって形成された耐食性金属20の表面を耐食性金属端部20sとしてもよい。
【0051】
(ライニングステップ)
ライニングステップ(S3)では、母材11側にステンレス鋼板のライニング30を設ける。
ライニングステップでは、クラッド鋼10の板厚方向に見た際に、クラッド鋼10の母材11側の表面10b及び耐食性金属20の一部を覆うようにステンレス鋼板のライニング30を形成する。
【0052】
本実施形態に係る肉盛溶接方法では、形成ステップ(S1)、溶接ステップ(S2)、ライニングステップ(S3)の順に実施することがより好ましい。
あるいは、形成ステップ(S1)、ライニングステップ(S3)、溶接ステップ(S2)の順に実施してもよい。すなわち、クラッド鋼10の母材11側にステンレス鋼板のライニング30を設けた後に、クラッド鋼10のコバ面10cに耐食性金属20を形成してもよい。
【0053】
(付記)
上記実施形態に係る構造物及び溶接方法は、例えば以下のように把握される。
(1)
本開示の一態様に係る鋼構造物は、
合わせ材と母材とを含むクラッド鋼を備え、
前記クラッド鋼のコバ面には耐食性金属が肉盛溶接され、
前記コバ面の一部には、前記コバ面の側の角部であって前記合わせ材とは反対側の角部に面取り部が形成されている、
ことを特徴とする。
【0054】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、クラッド鋼のコバ面の耐食性を向上させることができる。
【0055】
(2)
上記(1)に記載の鋼構造物では、
前記母材には、ステンレス鋼板のライニングが設けられ、
前記コバ面の延在方向及び前記母材の板厚方向に対して垂直な方向において、前記耐食性金属の端部であって前記コバ面とは反対側の端部である耐食性金属端部から前記ステンレス鋼板の端部であって前記コバ面の側の端部までの距離は、前記耐食性金属端部から前記面取り部の端部であって前記コバ面とは反対側の端部までの距離よりも短くてもよい。
【0056】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、ライニングに用いるステンレス鋼板の使用量を削減することができる。
【0057】
(3)
上記(2)に記載の鋼構造物では、
前記面取り部において、前記耐食性金属は、前記合わせ材と前記母材とが並ぶ方向に沿って見て、前記ステンレス鋼板と前記面取り部とによって挟まれていてもよい。
【0058】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、母材の成分がライニングの耐食性金属に混ざってしまうことをより確実に防止することができる。
【0059】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、低コスト化を実現することができる。
【0060】
(4)
上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の鋼構造物では、
前記コバ面は、前記合わせ材のコバ面と前記母材のコバ面とを含んでいてもよい。
【0061】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、クラッド鋼のコバ面の耐食性をより確実に確保することができる。
【0062】
(5)
上記(4)に記載の鋼構造物では、
前記合わせ材のコバ面と前記母材のコバ面とは、前記コバ面の延在方向及び前記母材の板厚方向に対して垂直な方向において、同じ位置であってもよい。
【0063】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、肉盛溶接する量を減らすことができる。
【0064】
(6)
上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の鋼構造物では、
前記鋼構造物は鋼板であり、
前記合わせ材は前記鋼板の一方の面に設けられ、
前記面取り部は前記鋼板の他方の面に形成されていてもよい。
【0065】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、クラッド鋼を含む鋼板の耐食性を向上させることができる。
【0066】
(7)
上記(1)から(6)のいずれか1項に記載の鋼構造物では、
前記鋼構造物は鋼管であり、
前記合わせ材は前記鋼管の外周面を形成し、
前記面取り部は前記鋼管の内周面側に形成されていてもよい。
【0067】
上記の構成からなる鋼構造物によれば、鋼管の内周面の側のコバ面の部分から、母材の成分が耐食性金属に混ざり、耐食性金属の表面に影響することを防止することができる。
【0068】
(8)
本開示の一態様に係る肉盛溶接方法は、
合わせ材と母材とを含むクラッド鋼の肉盛溶接方法であって、
前記クラッド鋼のコバ面の一部に面取り部を形成する形成ステップと、
前記コバ面に耐食性金属を肉盛溶接する溶接ステップと、
前記母材側にステンレス鋼板のライニングを設けるライニングステップと、
を備え、
前記面取り部は、前記母材の前記コバ面の側の角部であって前記合わせ材とは反対側の角部、に形成される、
ことを特徴とする。
【0069】
上記の構成からなる肉盛溶接方法によれば、クラッド鋼のコバ面の耐食性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示に係る鋼構造物及び肉盛溶接方法によれば、クラッド鋼のコバ面の耐食性を向上させることができる。そのため、本開示に係る発明は産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 鋼構造物
10 クラッド鋼
11 母材
12 合わせ材
13 面取り部
10c コバ面
20 耐食性金属(肉盛溶接部)
30 ライニング
【要約】
【課題】本開示の課題は、クラッド鋼のコバ面の耐食性を向上させることができる鋼構造物及び肉盛溶接方法を提供することである。
【解決手段】合わせ材12と母材11とを含むクラッド鋼10を備え、前記クラッド鋼10のコバ面10cには耐食性金属20が肉盛溶接され、前記コバ面10cの一部には、前記コバ面10cの側の角部であって前記合わせ材12とは反対側の角部に面取り部13が形成されている、ことを特徴とする鋼構造物1が提供される。
【選択図】
図1