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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】自動車用の電気駆動システム
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/44 20060101AFI20241106BHJP
   B60L 15/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
F16H3/44 Z
B60L15/00 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024509122
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2022071748
(87)【国際公開番号】W WO2023020836
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】102021004236.0
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】シルダー,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ヘアター,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ツァイビッヒ,ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】ギット,カーステン
(72)【発明者】
【氏名】リードル,クラウス
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0283574(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03711999(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102010005789(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第113173065(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102007021359(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/44
B60L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のローター(6)を有する第1の電気機械(3)と、
差動装置入力軸(14)、第1の差動装置出力軸(15)、および第2の差動装置出力軸(16)を有し、前記2つの差動装置出力軸(15、16)が前記第1のローターの同軸に配置されている差動歯車装置(9)と、
一体回転可能に前記差動装置入力軸(14)に接続されている変速機出力軸(18)と変速機入力軸(26)とを有する変速段(10)とを備える、自動車用の電気駆動システム(1)であって、
第2のローター(8)を有する第2の電気機械(4)と、
前記第1のローター(6)を一体回転可能に前記第1の差動装置出力軸(15)に連結可能とするための第1のシフト要素(SE1)と、
前記第2のローター(8)を一体回転可能に前記第2の差動装置出力軸(16)に連結可能とするための第2のシフト要素(SE2)と、
前記第1のローター(6)を一体回転可能に前記差動装置入力軸(14)に連結可能とするための第3のシフト要素(SE3)と
前記第2のローター(8)を一体回転可能に前記変速機入力軸(26)に連結可能とするための第4のシフト要素(SE4)と
を備え、
前記変速段(10)は、第1の要素(21)、第2の要素(19)、第3の要素(20)を含む遊星ギアセットを有しており、
前記第3の要素(20)は、ハウジング(28)に一体回転可能に接続されており、
前記第2の要素(19)は、前記変速機出力軸(18)に一体回転可能に接続されており、
前記第1の要素(21)は前記変速機入力軸(26)に一体回転可能に接続されている
ことを特徴とする電気駆動システム(1)。
【請求項2】
前記変速段(10)は、少なくとも部分的に前記差動歯車装置(9)に対して軸方向に重なって配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【請求項3】
前記第4のシフト要素(SE4)は、少なくとも部分的に前記差動歯車装置(9)に対して軸方向に重なって配置されている
ことを特徴とする、請求項記載の電気駆動システム(1)。
【請求項4】
前記第2のシフト要素(SE2)は、少なくとも部分的に前記差動歯車装置(9)に対して軸方向に重なって配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【請求項5】
前記第3のシフト要素(SE3)は、少なくとも部分的に前記差動歯車装置(9)に対して軸方向に重なって配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【請求項6】
前記第1のシフト要素(SE1)は、少なくとも部分的に前記差動歯車装置(9)に対して軸方向に重なって配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【請求項7】
前記差動歯車装置(9)は、差動歯車ケース(27)を備えるベベルギア差動装置として構成されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【請求項8】
前記差動歯車装置(9)は、サンギア(11)、リングギア(12)、二重遊星キャリア(13)を有する遊星差動装置として構成されており、
前記差動装置入力軸(14)は、前記リングギア(12)に一体回転可能に接続されており、
前記第1の差動装置出力軸(15)は、前記二重遊星キャリア(13)に一体回転可能に接続されており、
前記第2の差動装置出力軸(16)は、前記サンギア(11)に一体回転可能に接続されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【請求項9】
前記2つの差動装置出力軸(15,16)は、それぞれ1つの変速機(17)を介してそれぞれ少なくとも1つの駆動輪(2)に接続されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【請求項10】
前記2つの電気機械(3,4)の少なくとも1つは、軸流機械として構成されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気駆動システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段に詳しく定義された種類による、電気機械と、差動歯車装置と、変速段とを備えた自動車用の電気駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、電気機械と、2本の出力軸と、電気機械によって駆動される第1の減速遊星歯車セットとを備える電気駆動装置が記載されている。これに続いて、第1の差動装置出力軸および第2の差動装置出力軸を備える差動歯車装置としての多段遊星歯車装置があり、これによって、車両の2つの駆動輪を同時に駆動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第10 2007 021 359 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、請求項1の前段に詳しく定義されている種類の改善された自動車用の電気駆動システムを提供することであり、このシステムにより自動車の駆動における高い柔軟性が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴、ここでは特に請求項1の特徴部分に記載の特徴を備えた電気駆動システムによって解決される。これに従属する従属請求項から、電気駆動システムのさらなる有利な実施形態が明らかになる。
【0006】
冒頭に挙げた先行技術の電気駆動システムと同様に、本発明に基づく自動車用電気駆動システムでは、第1の電気機械と、2つの差動装置出力軸を備える差動歯車装置と、変速段とが設けられている。さらに、本発明に基づく電気駆動システムは、第2の電気機械を利用する。第1の電気機械の第1のローターは、シフト要素を介して第1の差動装置出力軸に連結可能であり、第2の電気機械の第2のローターは、第2のシフト要素を介して一体回転可能に第2の差動装置出力軸に連結可能である。第3のシフト要素は、第1のローターを差動装置出力軸に一体回転可能に接続することができ、第4のシフト要素は、第2のローター、すなわち第2の電気機械のローターを一体回転可能に変速機入力軸に連結することができ、変速段の変速機出力軸は一体回転可能に差動装置入力軸に接続されている。
【0007】
このとき、本発明において一体回転可能な接続とは、回転可能に支持されている2つの要素の接続であると理解することができ、これらの2つの要素は互いに同軸に配置されており、一体回転可能な接続によって、同じ角速度で回転するように相互に接続されている。例えば歯車装置のハウジングのような固定要素と一体回転可能に接続する場合、この接続は、ハウジングに対して要素が回転できないように、すなわち歯車装置のハウジングに要素が固定される形で接続が形成されていることを意味している。
【0008】
従って、本発明に基づく自動車用電気駆動システムは、両方の出力軸、すなわち第1と第2の差動装置出力軸が側軸に一体回転可能に接続されている四輪独立駆動(個々の車輪駆動)の可能性を提供し、この側軸はそれぞれのホイールに直接接続されているか、または有利な形態によれば、さらなる変速機(歯車装置)を介して接続されている。この場合、4つのシフト要素を備える本発明に基づく配置により、第1の電気機械による差動モードと第2の電気機械による差動モードとを、変速機も含めて選択的に切り替えることが可能になる。さらに、いわゆる「トルクベクタリング」モードでの作動も可能であり、この場合、各駆動輪において、2つの電気機械のいずれかによってそれぞれ四輪独立駆動が形成される。
【0009】
これにより、簡単かつコンパクトに実現する構造を使って、多くのさまざまな機能を実現することができる。例えば、第1の電気機械を介して通常の差動モードで走行を行うことができ、このとき、電気駆動システムの効率を向上させるため、第2の電気機械の連結を解除することができる。この第2の電気機械は、変速段によって動力を伝達する形で通常の差動モードでより高いトルクを出すために利用することができ、この場合、効率を向上させるため、第1の電気機械を切り離すことができる。発進モードでは、高トルクを出すために両方の電気機械を使って駆動することができ、第1の電気機械は直接利用され、第2の電気機械は変速段を介して動力を伝達する形で利用される。さらに、純粋なトルクベクタリングモードでは、四輪独立駆動が使用可能である。
【0010】
このとき、全体として、負荷を中断することなく、個々のモード、つまり第1の電気機械による効率モード、第2の電気機械による効率モード、そして発進モードまたはトルクモードの間で切り替えることができるようになっている。
【0011】
本発明に基づく電気駆動システムの極めて有利な発展形態によれば、変速段は少なくとも部分的に差動歯車装置に対して軸方向に配置されている。
【0012】
本発明において、そのような、少なくとも部分的に軸方向に重なる2つの要素の配置とは、一方の要素と他方の要素の少なくとも一部が、軸方向に対して垂直に向けられた同一面内に配置されている、またはこの面と交差していることを意味する。この場合、軸方向に重なる部分は、必然的に、軸方向を定義している該当する軸に対して、半径方向に異なる離間位置および/または角度位置に配置されている。ここでは、軸方向が2つの差動装置出力軸によって定義されており、これらの軸は、特に有利には2つの電気機械のローター軸に対して同軸に、または少なくとも軸平行に配置されている。特に有利には、第1のローターと第2ローターは互いに同軸上に配置されている。
【0013】
差動歯車装置に対する変速段のこの軸方向に重なり合う配置は、例えばベベルギア差動装置において、変速段の少なくとも一部が、この差動歯車ケースに対して軸方向に重なっていることを意味するものであってよい。これにより、全体として軸方向に非常にコンパクトな構造が生まれる。
【0014】
本発明に基づく電気駆動システムの非常に有利な形態は、この場合さらに、第4のシフト要素が少なくとも部分的に差動歯車装置に対して軸方向に重なって配置されているように設けることもできる。これにより、このシフト要素も、軸方向の専用の取付けスペースが少なくて済むか、または全く必要ない。
【0015】
本発明に基づく電気駆動システムのさらなる有利な形態は、さらに、第2のシフト要素、第3のシフト要素、および/または第1のシフト要素もまた、少なくとも部分的に差動歯車装置に対して軸方向に重なって配置されているように設けることもできる。このことはすべて、本発明に基づく電気駆動システムをコンパクトな形態にする。
【0016】
本発明に基づく電気駆動システムのさらなる非常に有利な形態は、すでに上述したように、差動歯車装置が差動歯車ケースを備えるベベルギア差動装置として形成されているように設けることができる。この差動歯車ケースが、上述した有利な形態における要素である場合、この要素に対して、変速段および/またはシフト要素は軸方向に重なって配置されている。
【0017】
ベベルギア差動装置としての差動歯車装置のこの形態に代わり、本発明に基づく電気駆動システムの代替の有利な発展形態によれば、差動歯車装置が遊星差動装置として形成されているように設けられてもよい。
【0018】
第1の有利な形態において、この遊星差動装置は、リングギア(内歯車)、二重遊星キャリア、およびサンギアを備えており、差動装置入力軸がリングギアに一体回転可能に接続されており、第1の差動装置出力軸が二重遊星キャリアに一体回転可能に接続されており、第2の差動装置出力軸がサンギアに一体回転可能に接続されている。これにより、遊星差動装置の効率的な構造が得られる。この場合、軸方向において、この遊星差動装置はベベルギア差動装置よりも原理的にコンパクトであるため、その使用は、軸方向にコンパクトな構造を最適に支援または補完するものである。
【0019】
同様に有利な第2の形態において、遊星差動装置は、第1のサンギア、第2のサンギア、第1のサンギアに割り当てられている二重遊星キャリア、第2のサンギアに割り当てられている単一遊星キャリアを備えており、二重遊星キャリアが単一遊星キャリアに一体回転可能に接続されており、二重遊星キャリアの長い遊星ギアが第2のサンギアに噛み合い、この長い遊星ギアが二重遊星キャリアの短い遊星ギアに噛み合い、この短い遊星ギアが第1のサンギアに噛み合う。このとき、差動装置入力軸は二重遊星キャリアに一体回転可能に接続されており、第1の差動装置出力軸は第1のサンギアに一体回転可能に接続されており、第2の差動装置出力軸は第2のサンギアに一体回転可能に接続されている。
【0020】
本発明に基づく電気駆動システムのさらなる極めて有利な形態は、さらに、変速段が、第1の要素、第2の要素、第3の要素を備える遊星セットを有することができ、第3の要素がハウジングに一体回転可能に接続されており、第2の要素が変速機出力軸に一体回転可能に接続されており、第1の要素が変速機入力軸に一体回転可能に接続されている。このとき、個々の要素は、サンギア、単一または二重の遊星ギアキャリア、リングギアによって形成され、これらは、望ましい変速機、ここでは特により高い駆動トルクのための変速機を達成するために、さまざまなバリエ-ションで相互接続されていてよい。従って、例えば第1の要素はサンギアによって、第2の要素は遊星キャリアによって、第3の要素はリングギアによって形成することができるであろう。しかし、別のバリエーションも同様に考えられ、有意である可能性がある。
【0021】
本発明に基づく電気駆動システムの有利な発展形態では、さらに、差動装置出力軸がそれぞれ1つの変速機を介してそれぞれ少なくとも1つの駆動輪に接続されている。これらの追加的な変速機は、例えば平歯車段、遊星ギアセットなどとして形成されていてよく、差動装置出力軸と駆動輪との間の接続を構造的に実現する際に、さらなる柔軟性と可変性を提供する。このとき、変速機は、通常、構造的に予め規定されているものであるため変更できないが、それに応じてシフト要素なども不要である。
【0022】
この場合、非常に有利な発展形態によれば、電気機械の少なくとも1つは軸流機械として構成することができ、この軸流機械はコンパクトかつ高出力密度で実現可能であり、従って重量を節約することができる。
【0023】
使用されるシフト要素は、ここでは少なくとも部分的に、好ましくはすべて形状結合要素として形成されていてよい。これにより、構造が極めて簡略化され、またコンパクト化され、すでに説明した個々のモード間の切替えを、牽引力の中断なしに行うことができ、従って、差動歯車装置の利用から、「トルクベクタリング」モードで追加的に可能な四輪独立駆動に切り替える場合のみ、牽引力中断が必要となる。
【0024】
本発明に基づく電気駆動システムのさらなる有利な実施形態は、以下に図を使って詳しく示されている実施形態からも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に基づく電気駆動システムの第1の可能な実施形態の図である。
図2】本発明に基づく電気駆動システムの第2の可能な実施形態の図である。
図3】本発明に基づく電気駆動システムの第3の可能な実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1には、電気駆動システム1の第1の可能な実施形態が示されている。この電気駆動システム1は自動車を駆動するために用いられ、2つの駆動輪2のために、ここでは矢印で示される駆動力を提供することができる。この電気駆動システム1は、第1の電気機械3ならびに第2の電気機械4を備え、それらは例えば軸流機械として構成されていてよい。第1の電気機械3はハウジングに固定されたステータ5ならびに第1のローター6を備え、これに対応して、第2の電気機械4はハウジングに固定されたステータ7ならびに第2のローター8を備えている。このとき、2つの電気機械3,4、厳密に言うと、それらの2つのローター6,8は回転軸に対して同軸に配置されており、図1では回転対称構造の上半分しか示されていないため、ここでは回転軸が図1の下側境界によって示されている。2つのローター6,8のこの回転軸は、この場合、電気駆動システム1の軸方向aも同時に定義している。これに対して垂直な半径方向rは、図2および図3に示されている。
【0027】
2つの電気機械3,4の他に、電気駆動システム1は、さらに差動歯車装置9ならびに変速段10を備えている。
【0028】
差動歯車装置9および変速段10も、ローター6,8の回転軸に対して同軸に配置されている。
【0029】
差動歯車装置9は、ここでは図1において例示的に遊星差動装置として構成されており、サンギア11、リングギア12、そしてここでは明確に符号が付されていない対応する遊星を持つ二重遊星キャリア13を備えている。差動装置入力軸14は、一体回転可能にリングギア12に接続されている。第1の差動装置出力軸15は一体回転可能に二重遊星キャリア13に接続されており、サンギア11は一体回転可能に第2の差動装置出力軸16に接続されている。2つの差動装置出力軸15,16は、ここに図示されている実施形態において、それぞれ変速機17を介して各駆動輪2に接続されている。差動装置入力軸14は、さらに変速段10の変速機出力軸18に接続されている。好ましくは、変速段10は、ここに図示されているように、遊星セットとして構成されており、この場合、図1では、二重遊星キャリアでもあり得る遊星キャリア19が変速機出力軸18と、従って差動装置入力軸14と一体回転可能に連結されている。変速段10のリングギア20は、一体回転可能にハウジング28に接続されており、変速段10のサンギア21は変速機入力軸26を介して第2のローター8に接続可能である。
【0030】
軸方向aにおいて、第1の電気機械3と差動歯車装置9との間には、第1のシフト要素SE1および第3のシフト要素SE3を持つ構造がある。この構造は、軸方向aにおける変速段10と第2の電気機械4との間にある、第2のシフト要素SE2および第4のシフト要素SE4を持つ構造と実質的に同一である。第1のシフト要素SE1を介して、第1の電気機械3またはそのローター6は、側軸とも呼ぶことができる、あるいは一体回転可能に側軸に移行する第1の差動装置出力軸15に接続可能である。これに対応して、第2のシフト要素SE2を介して、第2の電気機械4またはそのローター8は、第2の差動装置出力軸16または側軸に接続可能である。これにより、トルクベクタリングによる四輪独立駆動を実現することができ、この場合、第1の電気機械3は一方の駆動輪2を、第2の電気機械4は他方の駆動輪2を、それぞれ他の車輪とは独立して駆動する。第3のシフト要素SE3を介して、第1の電気機械3またはそのローター6は、差動装置入力軸14に一体回転可能に接続可能である。次に、第1の電気機械3は、例えば単独で、または第2の電気機械4によって支援されながら、直接2つの差動装置出力軸15,16を駆動し、従って2つの変速機17を介して車輪2を駆動する。
【0031】
このとき、第1のシフト要素SE1および第3のシフト要素SE3は、第1の電気機械3を完全に連結解除できるように構成されている。このモードでは、第4のシフト要素SE4の連結によって、第2の電気機械4の第2のローター8と差動装置入力軸14との間の接続を、変速段10を介して達成することができる。次に、第2の電気機械4は、変速段10を介して2つの差動装置出力軸15,16、延いては車輪2を対応する変速比で駆動する。
【0032】
第2の電気機械4も同様に、第2および第4のシフト要素SE2,SE4を介して連結解除できるため、出力を両方の差動装置出力軸15,16に均等に配分するこの差動モードでは、第2の電気機械4が連結解除されている場合は第1の電気機械3によって、またはその逆に第1の電気機械3が連結解除されている場合は変速段10を介して第2の電気機械4によって、効率的な作動が可能である。さらに、より高いトルクを提供するためのトルクモードも可能であり、この場合、両方の電気機械3,4が差動装置入力軸14を駆動、具体的には第1の電気機械3は直接差動装置入力軸14を駆動し、第2の電気機械4は変速段10を介して差動装置入力軸14を駆動する。
【0033】
図1に示されている構造の代替として、変速段10の領域に他の接続を実施することもできる。例えば、二重遊星キャリアとしても構成されていてよい遊星キャリア19をハウジング28に対して固定することも考えられ、その代わり変速機出力軸18をリングギア20に一体回転可能に連結するために、変速機入力軸26が引き続きサンギア21に連結されたまま、リングギア20が差動装置入力軸14を駆動する。さらなる代替案として、サンギア21をハウジングに固定し、例えば変速機入力軸26をリングギア20に一体回転可能に連結し、変速機出力軸18を再び遊星キャリア19を介して連結することも考えられる。また、これら2つの要素は逆にすることもでき、プラネタリキャリア19を変速機入力軸26に連結し、それに応じてリングギア20を再び変速機出力軸18に連結することも考えられる。
【0034】
遊星差動歯車装置9を備える電気駆動システム1のこの構造以外に、差動歯車装置9がベベルギア差動装置として構成されている構造も考えられる。図2には、それに対応する構造が示されている。それ以外では、この構造はすでに説明したものと同じであるため、以下では相違点だけを詳しく言及する。差動歯車装置9は、ベベルギア歯車装置として構成されており、これにより、差動装置入力軸14を介して差動歯車ケース27が駆動され、この差動歯車ケース27はそれに接続されているベベルギアを駆動し、これらのベベルギアはさらなるベベルギアを介して作動装置出力軸15,16を駆動する。図2において、2つの変速機17は概略的にのみ示されている。これらは、図1で実施されているように、遊星ギアセットとして構成されていてもよいし、その代わりに平歯車などとして構成されていてもよい。基本的に、この場合、図2および図1の両方の電気駆動システム1の構造において、変速機17については、例えばチェーン、ベルトまたはその他の種類のギア要素などの代替案が考えられる。
【0035】
2つの電気機械3,4は図1の電気駆動システム1と同じ構成であり、シフト要素SE1~SE4も同様である。軸方向aに差動歯車装置9と変速段10が隣接して配置された図1の例示とは異なり、図2に示されている構造では差動歯車装置9と変速段10が軸方向に互いに重なって配置されている。ここでもやはり単に例示的に遊星ギアセットとして構成されている変速段10は、軸方向において差動歯車ケース27に重なっているため、これらは、少なくとも1つの共通の、軸方向a上に垂直な面を共有している。従って、変速段10は、半径方向rにおいて差動歯車ケース27の外側に配置されている。変速段10については、例えば個々の要素19,20,21との相互接続および遊星ギアセットとして構成されている変速段10についての図1で説明されている代替案を実施することもできる。この代替として、この構造においても、また図1ですでに説明した構造においても、変速段10は、その他の方式、例えば平歯車段、チェーン駆動、ベルト駆動などとして実現することも考えられる。
【0036】
シフト要素SE1~SE4を利用しての個々のモード間の相互接続に関しては、すでに上述した実施形態がここでも該当する。シフト要素SE1~SE4は、それぞれ形状結合要素として実施されていてよく、このことは、図1の電気駆動システム1の形態についても同様に当てはまる。差動歯車装置9を介して動力が2つの駆動輪2に分配される個々のモード間でも、引き続き牽引負荷を中断しない切替えが可能である。というのも、2つの電気機械3,4により、回転数および/または動力の流れに関して必要な調整/支援を行うことができるからである。シフト要素SE1~SE4としての非常に簡単かつ効率的な形状結合要素により、非常に効率的で摩耗のない構造が可能になる。第1の電気機械3は第1の差動装置出力軸15を駆動し、第2の電気機械4は第2の差動装置出力軸16を駆動するトルクベクタリングモードにおいて、四輪独立駆動に切り替える場合のみ、ここでは第1のシフト要素SE1と第2のシフト要素SE2が適宜閉じられているため、牽引力の中断が必要になるであろう。
【0037】
図3には、図2において説明されている構造のさらなる代替案が示されている。この代替案は、第2のシフト要素SE2と第4のシフト要素SE4の配置が、差動歯車装置9と第2の電気機械4との間で軸方向に配置されている位置から外へ移動(シフト)している点が異なっており、これにより、第2のシフト要素SE2と第4のシフト要素SE4は、変速段10と同様に、軸方向において差動歯車装置9、すなわちここでは特にその差動歯車ケース27と重なって配置されている。
【0038】
この代替として、または基本的にこれを補足する形で、第1のシフト要素SE1と第3のシフト要素SE3も、差動歯車装置9に軸方向に重なるそのような位置に移動させることができ、このことは、差動歯車装置9と軸方向に重なっている変速段10の配置の代替または補足として行うことができるであろう。
図1
図2
図3