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特許7583230水性プライマーサーフェイサー、複層塗膜の形成方法および複層塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】水性プライマーサーフェイサー、複層塗膜の形成方法および複層塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20241106BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241106BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20241106BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241106BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/00 D
B05D7/14 L
B05D7/24 301F
B05D7/24 302T
B05D7/24 303B
B32B27/40
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024550881
(86)(22)【出願日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2024018114
【審査請求日】2024-08-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】前川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 卓也
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 日和
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022948(JP,A)
【文献】特開2020-094094(JP,A)
【文献】特開2011-105929(JP,A)
【文献】特開平10-330647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D7/
B32B27/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性水酸基含有樹脂(a1)と顔料(a2)と増粘剤(a3)とを含む主剤(A)、および、
ポリイソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む硬化剤(B)を、含有し、
前記水分散性水酸基含有樹脂(a1)は、水酸基価が20mgKOH/g以上であって、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオールおよびポリカーボネートポリオールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記顔料(a2)は、
モース硬度が1.0~2.3であり、かつ比重が2.0~4.0g/cmである第1顔料(a2-1)と、
モース硬度が2.5~5.5であり、かつ比重が1.0~5.0g/cmである第2顔料(a2-2)と、
モース硬度が5.8~8.2であり、かつ比重が2.0~6.0g/cmである第3顔料(a2-3)と、を含み、
平均モース硬度が3.15~4.25であり、
平均比重が3.25~3.55g/cmであり、
前記顔料(a2)の総含有量は、前記主剤(A)に含まれる樹脂固形分100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下であり、
前記ポリイソシアネート化合物(b1)のイソシアネート基に対する、前記水分散性水酸基含有樹脂(a1)の水酸基の当量比(水酸基当量/イソシアネート基当量)は、0.3~2である、自動車補修用の水性プライマーサーフェイサー。
【請求項2】
前記主剤(A)はさらに、水酸基価が20mgKOH/g未満であり、かつ、ガラス転移温度が0℃以下であるポリウレタン樹脂を含む、請求項1記載の水性プライマーサーフェイサー。
【請求項3】
前記主剤(A)および前記硬化剤(B)の少なくとも一方は、シランカップリング剤を含む、請求項1または2記載の水性プライマーサーフェイサー。
【請求項4】
前記第1顔料(a2-1)、前記第2顔料(a2-2)および前記第3顔料(a2-3)は、少なくとも1種の着色顔料と少なくとも2種の体質顔料とを含む、請求項1または2に記載の水性プライマーサーフェイサー。
【請求項5】
前記水性プライマーサーフェイサーにより形成される塗膜は、当該塗膜の表面に対して45度の角度から照射した光I45を、正反射光に対して110度の角度で受光した最大の分光反射率が70%超である、請求項1または2に記載の水性プライマーサーフェイサー。
【請求項6】
前記顔料(a2)は、少なくとも1種の黒色顔料を含み、
前記水性プライマーサーフェイサーにより形成される塗膜は、当該塗膜の表面に対して45度の角度から照射した光I45を、正反射光に対して110度の角度で受光した最大の分光反射率が4~70%である、請求項1または2に記載の水性プライマーサーフェイサー。
【請求項7】
自動車用基材を含む被塗物上に、請求項1または2に記載の水性プライマーサーフェイサーを塗装して、プライマーサーフェイサー塗膜を形成することと、
前記プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、
前記着色ベース塗膜上に、水酸基含有樹脂および水性溶媒を含む第1液とポリイソシアネート化合物および水酸基を有さない有機溶媒を含む第2液とを含む多液形水性クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備える、複層塗膜の形成方法。
【請求項8】
前記被塗物は、前記自動車用基材と、当該自動車用基材の表面の少なくとも一部を被覆する前記複層塗膜以外の塗膜と、を備える、請求項7に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項9】
前記被塗物は、樹脂製の前記自動車用基材と、当該自動車用基材の表面の少なくとも一部を被覆する、水性プライマーにより形成されたプライマー塗膜と、を備える、請求項7に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項10】
自動車用基材を含む被塗物上に、請求項1または2に記載の水性プライマーサーフェイサーにより形成されたプライマーサーフェイサー塗膜と、
前記プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水酸基含有樹脂および水性溶媒を含む第1液とポリイソシアネート化合物および水酸基を有さない有機溶媒を含む第2液とを含む多液形水性クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有する、複層塗膜。
【請求項11】
樹脂製の自動車用基材を含む被塗物上に、水性プライマーにより形成されたプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に、請求項1または2に記載の水性プライマーサーフェイサーにより形成されたプライマーサーフェイサー塗膜と、
前記プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水酸基含有樹脂および水性溶媒を含む第1液とポリイソシアネート化合物および水酸基を有さない有機溶媒を含む第2液とを含む多液形水性クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有する、複層塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性プライマーサーフェイサー、複層塗膜の形成方法および複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染が深刻化し、国際的に有機溶剤の排出規制が強化されている。塗料分野においても、従来の溶剤系の塗料から、水を媒体にした水性塗料への移行が進んでいる。特許文献1は、水性の下塗塗料組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-178082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車補修では、必要に応じて、被塗物の対象部位とその周辺が研磨され、パテで凹凸が埋められる。その後、当該部分が再度研磨される。次いで、プライマーサーフェイサーが塗装される。通常、さらに研磨が行われる。
【0005】
自動車補修において、外観を向上させるために、プライマーサーフェイサー塗膜の研磨作業は欠くことができない。プライマーサーフェイサー塗膜が薄いと、研磨作業によって素地(自動車用基材等)が露出する場合がある。
【0006】
水性プライマーサーフェイサーは、硬化時にワキ(気泡)を発生させ易い。ワキの発生抑制の観点から、通常、水性プライマーサーフェイサーは薄く塗装される。そのため、水性プライマーサーフェイサーを使用した塗膜は、溶剤プライマーサーフェイサーを用いた塗膜に比べて、研磨作業によって素地がさらに露出し易い。
【0007】
本発明は、研磨作業性に優れる一方で、耐研磨性を有する塗膜を形成できる、自動車補修用の水性プライマーサーフェイサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
水分散性水酸基含有樹脂(a1)と顔料(a2)と増粘剤(a3)とを含む主剤(A)、および、
ポリイソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む硬化剤(B)を、含有し、
前記水分散性水酸基含有樹脂(a1)は、水酸基価が20mgKOH/g以上であって、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオールおよびポリカーボネートポリオールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記顔料(a2)は、
モース硬度が1.0~2.3であり、かつ比重が2.0~4.0g/cmである第1顔料(a2-1)と、
モース硬度が2.5~5.5であり、かつ比重が1.0~5.0g/cmである第2顔料(a2-2)と、
モース硬度が5.8~8.2であり、かつ比重が2.0~6.0g/cmである第3顔料(a2-3)と、を含み、
平均モース硬度が3.15~4.25であり、
平均比重が3.25~3.55g/cmであり、
前記顔料(a2)の総含有量は、前記主剤(A)に含まれる樹脂固形分100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下であり、
前記ポリイソシアネート化合物(b1)のイソシアネート基に対する、前記水分散性水酸基含有樹脂(a1)の水酸基の当量比(水酸基当量/イソシアネート基当量)は、0.3~2である、自動車補修用の水性プライマーサーフェイサー。
[2]
前記主剤(A)はさらに、水酸基価が20mgKOH/g未満であり、かつ、ガラス転移温度が0℃以下であるポリウレタン樹脂を含む、上記[1]の水性プライマーサーフェイサー。
[3]
前記主剤(A)および前記硬化剤(B)の少なくとも一方は、シランカップリング剤を含む、上記[1]または[2]の水性プライマーサーフェイサー。
[4]
前記第1顔料(a2-1)、前記第2顔料(a2-2)および前記第3顔料(a2-3)は、少なくとも1種の着色顔料と少なくとも2種の体質顔料とを含む、上記[1]~[3]のいずれかの水性プライマーサーフェイサー。
[5]
前記水性プライマーサーフェイサーにより形成される塗膜は、当該塗膜の表面に対して45度の角度から照射した光I45を、正反射光に対して110度の角度で受光した最大の分光反射率が70%超である、上記[1]~[4]のいずれかの水性プライマーサーフェイサー。
[6]
前記顔料(a2)は、少なくとも1種の黒色顔料を含み、
前記水性プライマーサーフェイサーにより形成される塗膜は、当該塗膜の表面に対して45度の角度から照射した光I45を、正反射光に対して110度の角度で受光した最大の分光反射率が4~70%である、上記[1]~[4]のいずれかの水性プライマーサーフェイサー。
[7]
自動車用基材を含む被塗物上に、上記[1]~[6]のいずれかの水性プライマーサーフェイサーを塗装して、プライマーサーフェイサー塗膜を形成することと、
前記プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、
前記着色ベース塗膜上に、水酸基含有樹脂および水性溶媒を含む第1液とポリイソシアネート化合物および水酸基を有さない有機溶媒を含む第2液とを含む多液形水性クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備える、複層塗膜の形成方法。
[8]
前記被塗物は、前記自動車用基材と、当該自動車用基材の表面の少なくとも一部を被覆する前記複層塗膜以外の塗膜と、を備える、上記[7]の複層塗膜の形成方法。
[9]
前記被塗物は、樹脂製の前記自動車用基材と、当該自動車用基材の表面の少なくとも一部を被覆する、水性プライマーにより形成されたプライマー塗膜と、を備える、上記[7]または[8]の複層塗膜の形成方法。
[10]
自動車用基材を含む被塗物上に、上記[1]~[6]のいずれかの水性プライマーサーフェイサーにより形成されたプライマーサーフェイサー塗膜と、
前記プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水酸基含有樹脂および水性溶媒を含む第1液とポリイソシアネート化合物および水酸基を有さない有機溶媒を含む第2液とを含む多液形水性クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有する、複層塗膜。
[11]
樹脂製の自動車用基材を含む被塗物上に、水性プライマーにより形成されたプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に、上記[1]~[6]のいずれかの水性プライマーサーフェイサーにより形成されたプライマーサーフェイサー塗膜と、
前記プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水酸基含有樹脂および水性溶媒を含む第1液とポリイソシアネート化合物および水酸基を有さない有機溶媒を含む第2液とを含む多液形水性クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有する、複層塗膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、研磨作業性に優れる一方で、耐研磨性を有する塗膜を形成できる水性プライマーサーフェイサーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プライマーサーフェイサー塗膜には、過度に研磨されない耐研磨性と、研磨され易い(塗膜が平滑になり易い)研磨作業性という相反する性能が求められる。
【0011】
耐研磨性および研磨作業性には、塗膜に含まれるすべての顔料の平均モース硬度および平均比重が影響する。顔料(a2)の平均モース硬度が3.15~4.25、平均比重が3.25~3.55g/cmであると、耐研磨性および研磨作業性が両立する。
【0012】
顔料の平均モース硬度および平均比重を特定の範囲内にするだけではなく、モース硬度および比重の異なる3種の顔料(第1,第2,第3顔料)を使用することが重要である。
【0013】
第1顔料(a2-1)は、小さい硬度を有する。第1顔料(a2-1)は、顔料(a2)の平均モース硬度を低下させて、研磨作業性を高めるが、耐研磨性を過度に低下させ得る。第1顔料(a2-1)は、比較的小さな比重を有しているため、塗膜の上方に偏在し易い。第3顔料(a2-3)は、高い硬度を有する。第3顔料(a2-3)は、顔料(a2)の平均モース硬度を高めて、耐研磨性を高めるが、研磨作業性を過度に低下させ得る。第3顔料(a2-3)は、大きな比重を有しているため、塗膜の下方に偏在し易い。これらの顔料の偏在は、研磨作業性と耐研磨性との両立をさらに困難にする。
【0014】
第2顔料(a2-2)は中程度の硬度と、広範囲の比重とを有している。第2顔料(a2-2)は、塗膜中における第1顔料(a2-1)および第3顔料(a2-3)を均一に配置させて、研磨作業性と耐研磨性とを容易にバランスさせることができる。
【0015】
モース硬度および比重の異なる3種の顔料を使用することにより、塗膜物性の低下を抑制しながら、優れた研磨作業性と高い耐研磨性とが両立する。
【0016】
本開示の水性プライマーサーフェイサーによれば、研磨によって被塗物(例えば、自動車用鋼板、自動車用樹脂基材、既存の塗膜、プライマー塗膜やパテなどを含む塗装下地)が露出しない程度の耐研磨性を有する塗膜が得られる。本開示の水性プライマーサーフェイサーにより得られる塗膜は、研磨作業性にも優れる。そのため、プライマーサーフェイサー塗膜上に他の塗膜を積層した複層塗膜は、平滑で外観に優れる。
【0017】
本開示の水性プライマーサーフェイサーは、自動車補修(補修塗装)に用いられる。補修塗装は、既存の塗膜(旧塗膜)を研磨により剥離した後、その研磨および剥離部分に行われる塗装である。以下、「塗膜」という記載は、補修塗装により形成された塗膜(補修塗膜)を含み得る。「塗装」という記載は、補修塗装を含み得る。
【0018】
旧塗膜とは、本開示の複層塗膜が形成される前に、基材上に形成されていた、当該複層塗膜以外の塗膜である。旧塗膜は、例えば、自動車外装用の塗膜(中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜の少なくとも1つ)であり得る。部分補修の際、旧塗膜の一部(例えば、損傷部分)が研磨により除去された後、本開示の複層塗膜が形成される。補修の際、旧塗膜を除去することなく、旧塗膜上に本開示の複層塗膜が形成されてもよい。
【0019】
・耐研磨性
耐研磨性は、研磨試験前後のプライマーサーフェイサー塗膜の質量減少量により評価される。質量減少量が、85mg以下であると、耐研磨性に優れると評価される。研磨試験は、ボンデ鋼板上に形成された厚さ60μmのプライマーサーフェイサー塗膜を有する試験板に対して、テーバー形試験機を用いて以下の条件で実施される。
【0020】
(研磨試験条件)
研磨具:#400研磨紙(例えば、コバックス社製)を張り付けた磨耗輪(CS-10)
荷重:1kg
回転数:60回転/分
試験板の回転数:50回
【0021】
耐研磨性の評価対象のプライマーサーフェイサー塗膜は、具体的には、110mm×110mmのボンデ鋼板に、水性プライマーサーフェイサーを硬化膜厚が60μmとなるように塗装し、60℃で20分加熱して得られる。
【0022】
・研磨作業性
研磨作業性は、プライマーサーフェイサー塗膜を表面が平滑になるまで研磨したときの官能検査により評価される。抵抗なく研磨できたと感じる場合、研磨作業性に優れると評価される。研磨は、ブリキ板上に形成された厚さ60μmのプライマーサーフェイサー塗膜を、#400研磨紙(例えば、コバックス社製)を張り付けた研磨具を用いて実施される。
【0023】
研磨作業性の評価対象の塗膜は、具体的には、100mm×200mmのブリキ板に、水性プライマーサーフェイサーを硬化膜厚が60μmとなるように塗装し、60℃で20分加熱して得られる。
【0024】
水分散性樹脂は、ディスパージョン型(一般にコロイダルディスパージョン型と称される。)とエマルション型とを含む。コロイダルディスパージョン型の水分散性樹脂は、典型的には、有機溶剤中で合成された樹脂を、中和剤によって水に半溶解させることにより得られる。エマルション型の水分散性樹脂は、典型的には、乳化重合により製造されるか、あるいは、機械的に強制乳化することにより製造される。水分散性樹脂はまた、疎水性の樹脂を極性化合物で変性することにより、あるいは、樹脂の合成に極性モノマーを使用することにより得られる。水分散性樹脂は、ディスパージョン型であってよい。
【0025】
水性プライマーサーフェイサーなどの水性塗料組成物は、水を溶媒として含む。全溶媒に占める水の割合は、50質量%以上であり、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよい。
【0026】
水性プライマーサーフェイサーなどの塗料組成物に含まれる樹脂固形分とは、樹脂成分の合計の固形分である。樹脂成分とは、増粘剤、各種顔料、有機溶剤、水およびその他の無機成分以外の有機成分である。例えば、水性プライマーサーフェイサーの樹脂固形分とは、主剤(A)および硬化剤(B)に含まれる樹脂成分の合計の固形分である。水性プライマーサーフェイサーの樹脂成分とは、水分散性水酸基含有樹脂(a1)、ポリイソシアネート化合物(b1)およびその他の樹脂である。水性プライマーサーフェイサーの主剤(A)の樹脂成分は、代表的には、水分散性水酸基含有樹脂(a1)およびその他の樹脂である。
【0027】
重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法によるポリスチレン標準で測定される。
【0028】
酸価および水酸基価は、JIS K 0070:1992に記載される公知の方法によって測定することができる。酸価および水酸基価は、対象の樹脂の原料モノマー中の不飽和モノマーの配合量から算出されてもよい。酸価および水酸基価は、固形分を基準として求められる。
【0029】
ガラス転移温度は、原料モノマーの種類および量から計算によって求めてよく、示差走査熱量計(DSC)によって測定されてもよい。
【0030】
(水性プライマーサーフェイサー)
本開示に係る水性プライマーサーフェイサーは、自動車の補修塗装に用いられる。水性プライマーサーフェイサーは、水分散性水酸基含有樹脂(a1)と顔料(a2)と増粘剤(a3)とを含む主剤(A)、および、ポリイソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む硬化剤(B)を含有する。水性プライマーサーフェイサーは、多液形(典型的には、2液形)の塗料組成物である。
【0031】
主剤(A)
主剤(A)は、水分散性水酸基含有樹脂(a1)と顔料(a2)と増粘剤(a3)とを含む。主剤(A)の固形分濃度は特に限定されない。主剤(A)の固形分濃度は、例えば、30質量%以上60質量%以下である
【0032】
・水分散性水酸基含有樹脂(a1)
水分散性水酸基含有樹脂(a1)(以下、水酸基含有樹脂(a1)と称する場合がある。)は、プライマーサーフェイサー塗膜のベースとなる樹脂(塗膜形成成分)である。水酸基含有樹脂(a1)は、1以上(典型的には、2以上)の水酸基を有し、水酸基価が20mgKOH/g以上である。水酸基含有樹脂(a1)は、ポリイソシアネート化合物(b1)と反応して、架橋構造を形成する。
【0033】
水酸基含有樹脂(a1)は、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオールおよびポリカーボネートポリオールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む。得られる塗膜の外観、耐候性、耐薬品性等の諸物性がより向上する点で、アクリルポリオールが含まれてよい。
【0034】
水酸基含有樹脂(a1)の水酸基価は、例えば、20mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。上記水酸基価は、30mgKOH/g以上であってよい。上記水酸基価は、180mgKOH/g以下であってよい。
【0035】
水酸基含有樹脂(a1)の酸価は、例えば、2mgKOH/g以上30mgKOH/g以下である。上記酸価は、3mgKOH/g以上であってよい。上記酸価は、25mgKOH/g以下であってよい。
【0036】
水酸基含有樹脂(a1)の数平均分子量は、例えば、1,000以上100,000以下である。上記数平均分子量は、2,000以上であってよい。上記数平均分子量は、50,000以下であってよい。
【0037】
水酸基含有樹脂(a1)のガラス転移温度は、例えば、20℃以上80℃以下である。上記ガラス転移温度は、30℃以上であってよい。上記ガラス転移温度は、70℃以下であってよい。
【0038】
水酸基含有樹脂(a1)は、例えば、1種以上の原料モノマーを乳化重合することによって得られる。乳化重合は、当業者において一般的に行われる方法により行われる。具体的には、必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体に乳化剤を混合し、得られた混合物を加熱および撹拌させながら、原料モノマーおよび重合開始剤を滴下する。また、原料モノマー、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を、水性媒体中に滴下してもよい。
【0039】
例えば、エマルション型のアクリルポリオールは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、酸基含有α,β-エチレン性不飽和モノマー、水酸基含有α,β-エチレン性不飽和モノマー、およびスチレン系モノマーを含む原料モノマー混合物を、乳化重合することにより得られる。
【0040】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよびメタアクリル酸エステルを表わす。
【0041】
水酸基含有α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタリルアルコール、および、これらとε-カプロラクトンとの付加物が挙げられる。
【0042】
酸基含有α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸、3-ビニルアセチルサリチル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-ヒドロキシスチレン、2,4-ジヒドロキシ-4’-ビニルベンゾフェノンが挙げられる。
【0043】
その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーが併用されてよい。その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、重合性アミド化合物、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、重合性アルキレンオキシド化合物、多官能ビニル化合物、重合性アミン化合物、α-オレフィン、ジエン、重合性カルボニル化合物、重合性アルコキシシリル化合物、重合性のその他の化合物が挙げられる。
【0044】
エマルション型のポリウレタンポリオールは、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させることにより得られる。ポリイソシアネート化合物としては、後述のポリイソシアネート化合物(b1)と同様のものが挙げられる。
【0045】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリカプロラクトンジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0046】
・顔料(a2)
少なくとも3種のモース硬度および比重の異なる顔料が用いられる。
モース硬度は、主に鉱物に対する硬度の尺度の1つである。滑石(タルク)を1、ダイヤモンドを10とする10段階が設定されている。各段階の標準鉱物が決められており、標準鉱物との関係で硬度が決定される。
【0047】
顔料(a2)の平均モース硬度は3.15~4.25であり、平均比重は3.25~3.55g/cmである。モース硬度および比重の異なる3種の顔料を組み合わせることで、優れた耐研磨性と研磨作業性とが両立する。
【0048】
顔料(a2)の平均モース硬度は、3.35以上であってよく、3.45以上であってよい。顔料(a2)の平均モース硬度は、4.15以下であってよく、4.00以下であってよい。
【0049】
顔料(a2)の平均比重は、3.30g/cm以上であってよく、3.32g/cm以上であってよく、3.35g/cm以上であってよい。顔料(a2)の平均比重は、3.50g/cm以下であってよく、3.45g/cm以下であってよい。
【0050】
顔料(a2)の平均モース硬度は、ある顔料のモース硬度に当該顔料の配合されるすべての顔料に対する体積割合(%)を乗じた値を、各顔料について算出し、これらを足すことにより得られる。
【0051】
顔料(a2)の平均比重は、ある顔料の比重に当該顔料の配合されるすべての顔料に対する質量割合(%)を乗じた値を、各顔料について算出し、これらを足すことにより得られる。
【0052】
顔料(a2)の総含有量は、主剤(A)の樹脂固形分100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下である。顔料(a2)の上記総含有量が100質量部以上であると、耐研磨性が向上する。顔料(a2)の上記総含有量が300質量部以下であると、研磨作業性が向上する。顔料(a2)の上記総含有量は、120質量部以上であってよく、150質量部以上であってよく、200質量部以上であってよい。顔料(a2)の上記総含有量は、280質量部以下であってよく、260質量部以下であってよく、250質量部以下であってよい。
【0053】
顔料(a2)の一次粒子径は特に限定されない。顔料(a2)の一次粒子径は、隠蔽性、分散性等に応じて適宜設定される。
【0054】
・第1顔料(a2-1)
第1顔料(a2-1)は、モース硬度が1.0~2.3であり、かつ比重が2.0~4.0g/cmである。第1顔料(a2-1)は、研磨作業性を向上させる。第1顔料(a2-1)はまた、他の物性に大きな影響を与えることなく、膜厚を大きくできるため、素地の露出抑制に貢献し得る。
【0055】
第1顔料(a2-1)のモース硬度は、2.0以下であってよく、1.5以下であってよい。第1顔料(a2-1)の比重は、3.5g/cm以下であってよく、3.0g/cm以下であってよい。
【0056】
第1顔料(a2-1)が複数種含まれる場合、それぞれの第1顔料(a2-1)のモース硬度が1.0~2.3を満たし、それぞれの第1顔料(a2-1)の比重が2.0~4.0g/cmを満たす。
【0057】
第1顔料(a2-1)としては、主に体質顔料が挙げられる。第1顔料(a2-1)に相当する体質顔料としては、例えば、タルク、石膏、クレー、カオリンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0058】
第1顔料(a2-1)は、顔料(a2)の平均モース硬度が3.15~4.25であってかつ平均比重が3.25~3.55g/cmになるように配合される。第1顔料(a2-1)の含有量は、例えば、主剤(A)の樹脂固形分100質量部に対して、20質量部以上70質量部以下である。第1顔料(a2-1)の上記含有量が20質量部以上であると、研磨作業性がより向上し得る。第1顔料(a2-1)の上記含有量が70質量部以下であると、耐研磨性の低下が抑制される。第1顔料(a2-1)の上記含有量は、25質量部以上であってよく、30質量部以上であってよい。第1顔料(a2-1)の上記含有量は、60質量部以下であってよく、50質量部以下であってよい。
【0059】
・第2顔料(a2-2)
第2顔料(a2-2)は、モース硬度が2.5~5.5であり、かつ比重が1.0~5.0g/cmである。第2顔料(a2-2)は中程度の硬度と、広範囲の比重とを有しており、顔料(a2)の配置を均一化するとともに、平均モース硬度および平均比重を調整する。第2顔料(a2-2)は、塗膜物性の低下を抑制しながら、研磨作業性と耐研磨性とを容易にバランスさせることができる。第2顔料(a2-2)はまた、塗膜の強靭性を向上させる。
【0060】
第2顔料(a2-2)のモース硬度は、2.7以上であってよく、3.0以上であってよい。第2顔料(a2-2)のモース硬度は、5.3以下であってよく、5.0以下であってよく、4.0以下であってよい。第2顔料(a2-2)の比重は、1.5g/cm以上であってよく、2.0g/cm以上であってよい。第2顔料(a2-2)の比重は、4.8g/cm以下であってよく、4.5g/cm以下であってよい。
【0061】
第2顔料(a2-2)が複数種含まれる場合、それぞれの第2顔料(a2-2)のモース硬度が2.5~5.5を満たし、それぞれの第2顔料(a2-2)の比重が1.0~5.0g/cmを満たす。
【0062】
第2顔料(a2-2)としては、体質顔料、防錆顔料および着色顔料が挙げられる。第2顔料(a2-2)に相当する体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ホウケイ酸ガラスが挙げられる。第2顔料(a2-2)に相当する防錆顔料としては、例えば、ポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛が挙げられる。第2顔料(a2-2)に相当する着色顔料としては、例えば、マイカ、アルミニウムが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0063】
第2顔料(a2-2)は、顔料(a2)の平均モース硬度が3.15~4.25であってかつ平均比重が3.25~3.55g/cmになるように配合される。第2顔料(a2-2)の含有量は、第1顔料(a2-1)および第3顔料(a2-3)の種類および含有量に応じて、設定される。第2顔料(a2-2)の含有量は、例えば、主剤(A)の樹脂固形分100質量部に対して、100質量部以上200質量部以下である。第2顔料(a2-2)の上記含有量は、110質量部以上であってよく、120質量部以上であってよい。第2顔料(a2-2)の上記含有量は、190質量部以下であってよく、180質量部以下であってよい。
【0064】
・第3顔料(a2-3)
第3顔料(a2-3)は、モース硬度が5.8~8.2であり、かつ比重が2.0~6.0g/cmである。第3顔料(a2-3)は高い硬度と大きな比重とを有し、耐研磨性を向上させる。
【0065】
第3顔料(a2-3)のモース硬度は、6.0以上であってよく、6.5以上であってよい。第3顔料(a2-3)のモース硬度は、8.0以下であってよく、7.8以下であってよい。第3顔料(a2-3)の比重は、2.2g/cm以上であってよく、4.0g/cm以上であってよい。第3顔料(a2-3)の比重は、5.8g/cm以下であってよく、5.0g/cm以下であってよい。
【0066】
第3顔料(a2-3)が複数種含まれる場合、それぞれの第3顔料(a2-3)のモース硬度が5.8~8.2を満たし、それぞれの第3顔料(a2-3)の比重が2.0~6.0g/cmを満たす。
【0067】
第3顔料(a2-3)としては、体質顔料および着色顔料が挙げられる。第3顔料(a2-3)に相当する体質顔料としては、例えば、珪藻土、シリカが挙げられる。第3顔料(a2-3)に相当する着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化鉄が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。着色顔料である第3顔料(a2-3)は、隠ぺい性の向上にも貢献する。
【0068】
第3顔料(a2-3)は、顔料(a2)の平均モース硬度が3.15~4.25であってかつ平均比重が3.25~3.55g/cmになるように配合される。第3顔料(a2-3)の含有量は、第1顔料(a2-1)および第2顔料(a2-2)の種類および含有量に応じて、設定される。第3顔料(a2-3)の含有量は、例えば、主剤(A)の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以上120質量部以下である。第3顔料(a2-3)の上記含有量は、50質量部以上であってよく、60質量部以上であってよい。第3顔料(a2-3)の上記含有量は、110質量部以下であってよく、100質量部以下であってよい。
【0069】
・他の顔料(a2-4)
主剤は、さらに他の顔料(a2-4)を含み得る。他の顔料(a2-4)としては、例えば、カーボンブラック(モース硬度1.5、比重1.8g/cm)、亜鉛華(モース硬度4.5、比重5.62g/cm)、第1,第2,第3顔料に該当しない着色顔料が挙げられる。
【0070】
他の顔料(a2-4)の含有量は、所望の色相等に応じて設定される。他の顔料(a2-4)の含有量は、例えば、顔料(a2)の総含有量の20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0質量%であってよい。他の顔料(a2-4)の上記含有量は、0.1質量%以上であってよく、0.2質量%以上であってよい。
【0071】
第1顔料(a2-1)、第2顔料(a2-2)および第3顔料(a2-3)は、少なくとも1種の着色顔料と少なくとも2種の体質顔料とを含んでよい。これにより、研磨性および耐研磨性に加えて、隠ぺい性も向上する。例えば、体質顔料である第1顔料(a2-1)および第2顔料(a2-2)と、着色顔料である第3顔料(a2-3)との組み合わせが挙げられる。
【0072】
顔料(a2)は、少なくとも1種の着色顔料を含んでよい。着色顔料は、第2顔料(a2-2)、第3顔料(a2-3)または他の顔料(a2-4)として含まれてよい。着色顔料は、二酸化チタン等の白色顔料であってよく、カーボンブラック等の黒色顔料であってよく、これら両方であってよい。
【0073】
・増粘剤(a3)
増粘剤(a3)は、水性プライマーサーフェイサーの粘性を増加させる。増粘剤(a3)としては、例えば、無機増粘剤、セルロース誘導体、ウレタン会合型増粘剤、ポリアマイド型増粘剤およびアルカリ膨潤型増粘剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、フロー性の観点から、ウレタン会合型増粘剤であってよい。
【0074】
ウレタン会合型増粘剤としては、例えば、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系増粘剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系増粘剤が挙げられる。
【0075】
ウレタン会合型増粘剤の市販品としては、例えば、アデカノールUH-756VF(ADEKA社製)、BYK-420(BYK社製)、NOPALL 3303(サンノプコ社製)が挙げられる。
【0076】
増粘剤(a3)の固形分質量は、水性プライマーフェイサーの樹脂固形分100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上5質量部以下である。増粘剤(a3)の上記固形分質量は、1質量部以上であってよく、1.5質量部以上であってよい。増粘剤(a3)の上記固形分質量は、4.5質量部以下であってよく、4質量部以下であってよい。
【0077】
・シランカップリング剤
水性プライマーサーフェイサーは、シランカップリング剤を含んでよい。シランカップリング剤は、主剤(A)に含まれていてよく、硬化剤(B)に含まれていてよく、両方に含まれていてよい。シランカップリング剤は、硬化剤(B)に含まれていてよい。
【0078】
シランカップリング剤は、反応性シリル基とともに、有機官能基として、エポキシ基およびイソシアネート基の少なくとも一方を有してよい。エポキシ基は、高い反応性を有し、水酸基含有樹脂(a1)および/またはポリイソシアネート化合物(b1)と反応する。イソシアネート基も水酸基含有樹脂(a1)と反応し得る。これにより、得られる硬化塗膜の架橋密度が高まる。
【0079】
エポキシ基は、エーテル結合を有する三員環(オキシラン環)である。エポキシ基は脂環式であってもよい。脂環式エポキシ基としては、例えば、エポキシシクロヘキシル基が挙げられる。
【0080】
シランカップリング剤の含有量は、例えば、水性プライマーフェイサーの樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下である。シランカップリング剤の上記含有量は、例えば、1.1質量部以上であってよく、1.2質量部以上であってよい。シランカップリング剤の上記含有量は、例えば、7質量部以下であってよく、6質量部以下であってよい。
【0081】
エポキシ基含有シランカップリング剤としては、例えば、KBM―403(信越化学社製)が挙げられる。イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、例えば、KBE-9007N(信越化学社製)が挙げられる。
【0082】
・水性溶媒
主剤(A)は、水性溶媒を含み得る。水性溶媒としては、純水、イオン交換水、水道水、工業水等の各種水が挙げられる。
【0083】
主剤(A)は、水性溶媒とともに、有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジブチルエーテル(ジブチルジグリコール)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、n-ブチルアルコール、メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。
【0084】
・その他の樹脂
主剤(A)は、必要に応じて、水酸基価が20mgKOH/g未満のその他の樹脂を含み得る。その他の樹脂は、水酸基価が20mgKOH/g未満である限り特に限定されない。その他の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0085】
他の塗膜との密着性が向上する点で、主剤(A)は、水酸基含有樹脂(a1)とともにポリウレタン樹脂を含んでよい。主剤(A)は、アクリルポリオールと、ポリウレタン樹脂とを含んでよい。主剤(A)は、特に、アクリルポリオールと、ガラス転移温度が-50℃以上0℃以下のポリウレタン樹脂とを含んでよい。
【0086】
ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、-40℃以上であってよい。ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、―10℃以下であってよい。ポリウレタン樹脂の酸価は、例えば、0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であってよい。ポリウレタン樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上であってよい。ポリウレタン樹脂の酸価は、20mgKOH/g以下であってよい。
【0087】
水酸基含有樹脂(a1)(特に、アクリルポリオール)とポリウレタン樹脂との質量比(水酸基含有樹脂/ポリウレタン樹脂)は、例えば、70/30~30/70である。質量比(水酸基含有樹脂/ポリウレタン樹脂)は、60/40~40/60であってよい。
【0088】
・その他の成分
主剤(A)はまた、必要に応じて、各種添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、粘性調整剤、表面調整剤、造膜助剤、硬化促進剤、防錆剤および増粘剤が挙げられる。
【0089】
・主剤(A)の調製方法
主剤(A)は、上記成分を当業者に知られた方法によって混合することによって、調製することができる。顔料(a2)を顔料分散剤と混合した後、水酸基含有樹脂(a1)等と混合してもよい。混合方法としては、ニーダーまたはロール等を用いた混練混合法、サンドグラインドミルまたはディスパー等を用いた分散混合法が挙げられる。
【0090】
硬化剤(B)
硬化剤(B)は、ポリイソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む。硬化剤(B)の固形分濃度は特に限定されない。硬化剤(B)の固形分濃度は、例えば、20質量%以上70質量%以下である。
【0091】
・ポリイソシアネート化合物(b1)
イソシアネート化合物(b1)は、主剤(A)の水酸基含有樹脂(a1)が有する水酸基と反応し、架橋構造を形成する。
【0092】
ポリイソシアネート化合物(b1)の含有量は、例えば、硬化剤(B)の全固形分の20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよい。
【0093】
ポリイソシアネート化合物(b1)の数平均分子量は、例えば、500以上3,000以下であってよい。ポリイソシアネート化合物(b1)の数平均分子量は、700以上であってよく、800以上であってよい。架橋密度が高まり易い点で、ポリイソシアネート化合物(b1)の数平均分子量は、2,500以下であってよく、2,000以下であってよい。
【0094】
ポリイソシアネート化合物(b1)は、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。ポリイソシアネート化合物(b1)は、主剤(A)との相溶性の観点から、親水性であってよい。
【0095】
ポリイソシアネート化合物(b1)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネ-トなどの炭素数2~12の脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソプロピリデンシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネートなどの炭素数4~18の脂環族ジイソシアネート;2,4-トルイレンジイソシアネート、2,6-トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,5’-ナフテンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;リジンエステルトリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4,4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート類が挙げられる。
【0096】
ポリイソシアネート化合物(b1)は、上記ポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー(イソシアヌレート結合)であってよく、上記ポリイソシアネート化合物とアミンとを反応させたビウレットであってよい。上記ポリイソシアネート化合物と多価アルコールとを反応させた、ウレタン結合を有するポリイソシアネートを用いてもよい。
【0097】
・水酸基を有さない有機溶媒(b2)
有機溶媒(b2)は、ポリイソシアネート化合物(b1)の貯蔵安定性を向上する。これにより、塗料調製における作業性が向上する。
【0098】
有機溶媒(b2)は、水酸基を有さない限り特に限定されない。有機溶媒(b2)としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールジイソブチルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、ブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールジエチルエーテル、ブチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、2-ブトキシエチルジエトキシエチルエーテル、2-ブトキシエチルトリエトキシエーテル、2-ブトキシエチルテトラエトキシエチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアセテート系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、安息香酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル等のエステル系有機溶剤;が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0099】
・その他
硬化剤(B)は、イソシアネート化合物(b1)以外の硬化剤を含み得る。他の硬化剤の含有量は、例えば、すべての硬化剤の合計固形分量の10質量%以下である。硬化剤(B)はまた、必要に応じて、上記の各種添加剤を含み得る。
【0100】
・硬化剤(B)の調製方法
硬化剤(B)は、上記成分を当業者に知られた方法によって混合することによって、調製することができる。混合方法としては、主剤(A)の調製と同様の方法が挙げられる。
【0101】
水性プライマーサーフェイサーは、当業者において通常用いられる方法を用いて調製される。水性プライマーサーフェイサーは、例えば、主剤(A)の調製と同様の方法により、各成分が混合されることにより調製される。
【0102】
ポリイソシアネート化合物(b1)のイソシアネート基に対する、水酸基含有樹脂(a1)の水酸基の当量比(水酸基当量/イソシアネート基当量)は、0.3~2である。言い換えれば、主剤(A)と硬化剤(B)とは、当量比(水酸基当量/イソシアネート基当量)が0.3~2となるように混合される。上記当量比は、0.4以上であってよく、0.5以上であってよい。上記当量比は、1.8以下であってよく、1.6以下であってよい。
【0103】
水性プライマーサーフェイサーは、さらに希釈成分を含み得る。希釈成分は、水性プライマーサーフェイサーの粘度を調整するために用いられる。希釈成分としては、主剤(A)に含まれ得る水性溶媒および有機溶剤と同じものが例示できる。希釈成分は、主剤(A)の水性溶媒および有機溶剤と同じであってよく、異なっていてもよい。
【0104】
希釈成分の混合量は、水性プライマーサーフェイサーの粘度、塗装方法等を考慮して適宜設定される。希釈成分の混合量は、例えば、水性プライマーサーフェイサーの樹脂固形分100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下である。
【0105】
(複層塗膜の形成方法)
本開示にかかる複層塗膜は、自動車用基材を含む被塗物上に、上記の水性プライマーサーフェイサーを塗装して、プライマーサーフェイサー塗膜を形成することと、プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、着色ベース塗膜上に、水酸基含有樹脂および水性溶媒を含む第1液とポリイソシアネート化合物および水酸基を有さない有機溶媒を含む第2液とを含む多液形水性クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備える方法により形成される。
【0106】
本開示にかかる水性プライマーサーフェイサーは、自動車の補修塗装に適している。補修の対象として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および自動車車体用の部品;スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品が挙げられる。
【0107】
・被塗物
被塗物は自動車用基材を含む。自動車用基材とは、例えば、鋼板であり得、樹脂製であり得る。被塗物の形状は特に限定されない。被塗物は、平板状であってよく、立体形状を有していてよい。
【0108】
補修に供される被塗物は、自動車用基材と、当該基材の表面の少なくとも一部を被覆する旧塗膜とを備えていてよい。
【0109】
鋼板として、具体的には、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板が挙げられる。
【0110】
鋼板は表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。鋼板は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0111】
鋼板は、ブラスト処理、さび止め塗装、ショッププライマー塗装、有機あるいは無機ジンクリッチプライマー塗装が施されたものであってもよい。
【0112】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。樹脂製の被塗物は、脱脂処理されていてよい。
【0113】
樹脂製の自動車用基材を含む被塗物は、当該樹脂基材の表面の少なくとも一部を被覆する、水性プライマーにより形成されたプライマー塗膜をさらに備えていてよい。当該水性プライマーの塗装と水性プライマーサーフェイサーの塗装とは、連続して行われてよい。
【0114】
補修に供される被塗物は、塗装前に、必要に応じて、塗装の対象部位とその周辺が研磨され、パテで凹凸が埋められる。続いて、当該部分は再度研磨される。
【0115】
(I)プライマー塗膜の形成
樹脂製の自動車用基材に、水性プライマーを塗装して、プライマー塗膜を形成する。プライマー塗膜は必要に応じて形成される。
【0116】
水性プライマーの塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性プライマーは、例えば、硬化後のプライマー塗膜の厚さが10μm以上40μm以下になるように、塗布される。
【0117】
水性プライマーの塗装方法は、特に限定されない。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。補修の場合、局所的な塗装が容易である点で、エアスプレー塗装が好ましい。塗装は複数回行われてもよい。
【0118】
水性プライマーが塗装された後、加熱して、塗膜を硬化させる。硬化条件は、塗布量や組成に応じて適宜設定される。硬化は、例えば、40℃以上70℃以下の温度で、30分から60分間程度行われる。
【0119】
塗膜は、自然乾燥されてもよい。自然乾燥は、常温(23℃±3℃)で、2時間以上、24時間以上、さらには1週間以上行われ得る。
【0120】
・水性プライマー
水性プライマーは特に限定されない。水性プライマーは、例えば、水性ポリオレフィン樹脂(i)、水性エポキシ樹脂(ii)、増粘剤(iii)、有機溶剤(iv)および水を含有する。水性樹脂とは、水溶性樹脂、あるいは水分散性樹脂をいう。
【0121】
水性ポリオレフィン樹脂(i)としては、例えば、オレフィンモノマー(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ヘプテン)の単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体、オレフィンモノマーと他の不飽和モノマー(例えば、酢酸ビニル、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル)との共重合体が挙げられる。
【0122】
水性ポリオレフィン樹脂(i)は、変性体であってよい。変性体としては、例えば、水性ポリオレフィン樹脂の無水不飽和カルボン酸付加物を挙げることができる。無水不飽和カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、フマル酸、無水イタコン酸、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0123】
水性ポリオレフィン樹脂(i)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であってよく、重量平均分子量Mwが2,000以上300,000以下であってよい。
【0124】
水性エポキシ樹脂(ii)は、例えば、エポキシ樹脂に脂肪酸(例えば、カルボキシル基含有ビニルモノマー)をグラフト重合した後、中和することにより、水分散体として得ることができる。水性エポキシ樹脂(ii)は、芳香族系エポキシ樹脂であってよく、ビスフェノール型エポキシ樹脂であってよい。水性エポキシ樹脂(ii)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であってよい。
【0125】
水性ポリオレフィン樹脂(i)と水性エポキシ樹脂(ii)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であってよい。
【0126】
水性プライマーの固形分含有量は、例えば、5質量%以上17質量%以下であってよい。
【0127】
増粘剤(iii)としては、例えば、無機増粘剤、セルロース誘導体、ウレタン会合型増粘剤、ポリアマイド型増粘剤およびアルカリ膨潤型増粘剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。フロー性の観点から、ウレタン会合型増粘剤であってよい。
【0128】
有機溶剤(iv)は、水性プライマー塗料組成物の表面張力を小さくして、 樹脂製の被塗物に対する濡れ性を向上させる。なかでも、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤を用いることにより、少ない使用割合の有機溶剤(iv)で、樹脂製の被塗物に対する濡れ性が向上する。
【0129】
難水溶性溶剤としては、例えば、2-エチル-1-ヘキサノール(0.07g/100g)、プロピオン酸ノルマルブチル(別名:ノルマルブチルプロピオネート、0.2g/100g)が挙げられる。丸カッコ内に、20℃の水への溶解度を示している。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。難水溶性溶剤の市販品としては、例えば、Aソルベント(JX日鉱日石エネルギー社製、0g/100g)、イプゾールTP(出光興産社製、0g/100g)が挙げられる。
【0130】
水性プライマーは、さらに水性ポリウレタン樹脂(v)を含み得る。補修塗装の際、水性ポリウレタン樹脂(v)は、新しい塗膜と旧塗膜との密着性の向上に貢献する。水性ポリウレタン樹脂(v)を含む水性プライマーは、特に補修塗装用として適している。
【0131】
(II)プライマーサーフェイサー塗膜の形成
被塗物に、上記の水性プライマーサーフェイサーを塗装して、プライマーサーフェイサー塗膜を形成する。
【0132】
水性プライマーサーフェイサーの塗装方法は特に限定されず、水性プライマーと同様の方法が挙げられる。水性プライマーサーフェイサーの塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性プライマーサーフェイサーは、例えば、硬化後のプライマーサーフェイサー塗膜の厚さが20μm以上100μm以下になるように、塗布される。水性プライマーサーフェイサーの硬化は、例えば、水性プライマーと同様の方法により行われる。
【0133】
通常、硬化後に、プライマー塗膜およびプライマーサーフェイサー塗膜は研磨および脱脂される。研磨は、サンドペーパー等を用いて行われる。
【0134】
(III)着色ベース塗膜の形成
プライマーサーフェイサー塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成する。水性着色ベース塗料組成物の塗装は、複数回行われてもよい。
【0135】
水性着色ベース塗料組成物の塗装方法は特に限定されず、水性プライマーと同様の方法が挙げられる。水性着色ベース塗料組成物の塗布量は特に限定されず、例えば、硬化後の着色ベース塗膜の厚さが10μm以上100μm以下になるように、塗布される。塗装後、塗膜を硬化させる。硬化条件は、水性着色ベース塗料組成物の組成によって、適宜設定される。
【0136】
・水性着色ベース塗料組成物
水性着色ベース塗料組成物は、硬化タイプであってよく、ラッカータイプであってよい。水性着色ベース塗料組成物は、顔料を含む。顔料は特に限定されない。顔料としては、例えば、着色顔料および/または光輝性顔料が挙げられる。
【0137】
硬化タイプの水性着色ベース塗料組成物は、硬化性の樹脂と硬化剤とを含み、加熱によって硬化塗膜が形成される。硬化タイプの水性着色ベース塗料組成物は、さらに、シランカップリング剤(例えば、エポキシ基含有シランカップリング剤)を含んでいてもよい。
【0138】
ラッカータイプの水性着色ベース塗料組成物は、水と、有機溶剤と、これに溶解または分散したバインダー樹脂とを含み、水および有機溶剤の揮発によって、硬化塗膜が形成される。バインダー樹脂の濃度は特に限定されず、組成や用途に応じて適宜設定される。
【0139】
バインダー樹脂は特に限定されない。バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アミノアルキド樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、カシュー樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、スチレン化アルキド樹脂、セルロース系樹脂(例えば、硝酸セルロースなど)、尿素樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、および、これらの変性樹脂(例えば、ロジン変性、フェノール変性、エポキシ樹脂変性、スチレン変性、アクリル変性、ウレタン変性)が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。有機溶剤としては、例えば、ナフサ、キシレン、トルエン、アセトンが挙げられる。
【0140】
(IV)クリヤー塗膜の形成
着色ベース塗膜上に、水性クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成する。
【0141】
水性クリヤー塗料組成物を、水性着色ベース塗膜上に塗装する。水性クリヤー塗料組成物の塗装方法は特に限定されず、水性プライマーと同様の方法が挙げられる。水性クリヤー塗料組成物の塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性クリヤー塗料組成物は、例えば、硬化後のクリヤー塗膜の厚さが20μm以上100μm以下になるように、塗布される。水性クリヤー塗料組成物の硬化は、例えば、水性プライマーと同様の方法により行われる。
【0142】
・水性クリヤー塗料組成物
水性クリヤー塗料組成物は多液形である。水性クリヤー塗料組成物は、2液型であってよく、3液形であってよい。水性クリヤー塗料組成物は、水酸基含有樹脂と水性溶媒とを含む第1液、および、ポリイソシアネート化合物と水酸基を有さない有機溶媒とを含む第2液を、少なくとも含む。
【0143】
水酸基含有樹脂としては、水酸基含有樹脂(a1)として例示されたものと同様のものが挙げられる。水性溶媒は、代表的には、水である。第1液は、水とともに、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、例えば、主剤(A)に関して例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0144】
ポリイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物(b1)として例示されたものと同様のものが挙げられる。水酸基を有さない有機溶媒としては、水酸基を有さない有機溶媒(b2)として例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0145】
水性クリヤー塗料組成物の各成分と水性プライマーサーフェイサーの各成分とは、同じであってよく、異なっていてよい。
【0146】
第1液と第2液とは、水酸基含有樹脂の水酸基当量とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基当量とが、水酸基当量/イソシアネート基当量=0.5/1~1.5/1になるように混合される。
【0147】
水性クリヤー塗料組成物は、上記と同様のシランカップリング剤を含んでよい。シランカップリング剤は、水酸基含有樹脂およびポリイソシアネート化合物の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上10質量部以下になるように、添加される。
【0148】
水性プライマーサーフェイサーおよび水性クリヤー塗料組成物の少なくとも一方が、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含んでよい。これにより、複層塗膜全体の耐水性がさらに向上し得る。水性プライマーサーフェイサーおよび水性クリヤー塗料組成物の双方が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含んでよい。水性クリヤー塗料組成物および水性プライマーサーフェイサーに含まれるエポキシ基含有シランカップリング剤は、同じであってよく、異なっていてよい。
【0149】
水性クリヤー塗料組成物は、硬化促進剤を含む第3液をさらに含んでよい。第3液により、任意の量の硬化促進剤を混合することができる。つまり、硬化環境および/または要求に応じて、硬化速度を制御することが可能となる。硬化速度が適切に制御されるため、クリヤー塗膜のツヤの低下、ワキの発生等の欠陥が抑制されて、得られる塗膜の外観がさらに向上する。加えて、第1液および第2液の貯蔵安定性が向上するとともに、硬化促進剤の機能(触媒機能)が損なわれ難い。さらに、適切な量の硬化促進剤が添加されるため、所望の硬度を有する塗膜を容易に得ることができる。
【0150】
硬化促進剤は、水酸基とイソシアネート基との反応を促進する限り、特に限定されない。硬化促進剤としては、例えば、アミン化合物、金属化合物、酸が挙げられる。アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の三級アミンが挙げられる。金属化合物としては、例えば、スズ化合物、ビスマス化合物、モリブデン化合物、亜鉛化合物が挙げられる。酸としては、例えば、スルフォン酸、無機酸、リン酸エステル、オキシ酸、カルボン酸が挙げられる。なかでも、金属化合物が好ましい。特に、乾燥速度の制御がし易く、さらに、塗膜の外観が向上し易い点で、モリブデン化合物が好ましい。加えて、モリブデン化合物は水と反応し難いため、水性溶媒中でも安定して存在し得る。
【0151】
水性クリヤー塗料組成物は、各種添加剤(代表的には、つや調整剤、希釈剤、ぼかし剤)を含み得る。
【0152】
・各水性塗料組成物の調製方法
各水性塗料組成物は、公知の手法によって調製することができる。各水性塗料組成物は、上記の成分を混合することにより調製される。混合には、例えば、ペイントシェーカー、ミキサー等の通常用いられる混合装置が用いられる。主剤(あるいは第1液)と硬化剤(あるいは第2液)との混合は、通常、使用の直前に行われる(例えば、混合した後、60分以内に使用される)。
【0153】
(複層塗膜)
本開示の複層塗膜は、自動車用基材を含む被塗物上に配置されている。複層塗膜は、上記の水性プライマーサーフェイサーにより形成されたプライマーサーフェイサー塗膜と、プライマーサーフェイサー塗膜上に、上記の水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、着色ベース塗膜上に、上記の多液形水性クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜とを備える。
【0154】
樹脂製の自動車用基材上に形成される複層塗膜は、当該基材とプライマーサーフェイサー塗膜との間に、上記の水性プライマーにより形成されたプライマー塗膜をさらに備えてよい。
【0155】
プライマー塗膜の硬化後の厚さは、例えば、10μm以上40μm以下である。プライマーサーフェイサー塗膜の硬化後の厚さは、例えば、20μm以上100μm以下である。着色ベース塗膜の硬化後の厚さは、例えば、10μm以上100μm以下である。クリヤー塗膜の硬化後の厚さは、例えば、20μm以上100μm以下である。
【0156】
プライマーサーフェイサー塗膜は、当該塗膜の表面に対して45度の角度から照射した光I45を、正反射光に対して110度の角度で受光した最大の分光反射率が70%超であり得る。この塗膜は、ホワイトといわれる色相を有している。ホワイト色の塗膜は、黒色顔料を含まない。ホワイト色の塗膜は、白色顔料を含んでいてよい。
【0157】
黒色顔料を含むプライマーサーフェイサー塗膜は、当該塗膜の表面に対して45度の角度から照射した光I45を、正反射光に対して110度の角度で受光した最大の分光反射率が4~70%であり得る。この塗膜は、ライトグレー(典型的には、反射率30~70%)またはダークグレー(典型的には、反射率4%以上30%未満)といわれる色相を有している。
【0158】
黒色顔料は、第1,第2,第3顔料に相当していてよい。黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック;鉄クロム、ビスマスマンガン等の複合金属酸化物;ペリレン顔料:アゾメチアゾ顔料が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。黒色顔料は、カーボンブラックであってよい。
【0159】
黒色顔料の一次粒子径は特に限定されない。隠蔽性の観点から、黒色顔料の一次粒子径は、20nm以上70nm以下であってよく、30nm以上60nm以下であってよい。一次粒子径は、例えば、プライマーサーフェイサー塗膜の断面の電子顕微鏡の画像から、画像処理ソフトウェアを用いて測定することができる。
【0160】
白色顔料は、第1,第2,第3顔料に相当していてよい。白色顔料としては、例えば、二酸化チタンおよび酸化亜鉛が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。二酸化チタンの表面は、シリカ、ジルコニウム、アルミニウム等の無機化合物で処理されていてもよい。
【0161】
白色顔料の一次粒子径は特に限定されない。隠蔽性の観点から、白色顔料の一次粒子径は、100nm以上500nm以下であってよく、200nm以上400nm以下であってよい。
【0162】
分光反射率は、以下のようにして測定される。
多角度分光測色計を用い、可視光線波長域内に設定された所定間隔の多数の波長(例えば、400~700nmの範囲の10nm間隔の波長)ごとの、プライマーサーフェイサー塗膜の反射率を測定する。具体的には、プライマーサーフェイサー塗膜面に対して400nmから700nmまでの光を、当該塗膜の表面に対して45度の角度から照射し、正反射光に対して110度の角度で受光し、反射率を測定する。取得された反射率の最大値を、プライマーサーフェイサー塗膜の分光反射率として採用する。
【0163】
水性プライマーサーフェイサーは、下地の影響を除外するため、JIS K5600-4-1の4.1.2(方法B)に規定される白黒隠ぺい率試験紙上に、6mil(150μm相当)のアプリケータを用いて塗布され、これを乾燥(例えば、60℃で30分加熱)してプライマーサーフェイサー塗膜が得られる。分光反射率は、白黒隠蔽率試験紙の黒色下地に対応する部分にて計測される。分光反射率は、多角度分光測色計(例えば、BYK社製の「micro-TRI-color」)により測定できる。
【実施例
【0164】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら制限されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0165】
[実施例1]
(1)塗料組成物の調製
以下のようにして水性プライマー、水性プライマーサーフェイサー、水性着色ベース塗料組成物、および水性クリヤー塗料組成物を調製した。
【0166】
(1-1)水性プライマーの調製
水性プライマーとして、nax E-CUBE WB PPプライマー(主剤、日本ペイント社製、固形分約15%)を準備した。
nax E-CUBE WB PPプライマーは、水性ポリオレフィン樹脂(商品名:アウローレンAE-301)、水性エポキシ樹脂(商品名:モデピクス 304)、ウレタン会合型増粘剤(商品名:アデカノールUH-756VF)、難水溶性溶剤(2-エチルーヘキサノール)、両親媒溶剤(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)、親水性溶剤(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)を含有している。
【0167】
(1-2)水性プライマーサーフェイサーの調製
純水(A)70.8部とアセチレン系消泡剤(B)3.4部(樹脂固形分1.7部)とを混合した。さらに、顔料分散剤(C)13部(樹脂固形分5.2部)を添加した後、5分間攪拌した。
ここに、第1顔料(タルク)22.5部、第2顔料(ポリリン酸アルミニウム)8.4部、第2顔料(炭酸カルシウム)125.6部、第2顔料(沈降性硫酸バリウム)56.9部、第3顔料(酸化チタン)34.4部、ジメチルエタノールアミン(G)2.25部、および純水(H)2.25部を加えて分散した。
得られた分散液に、両親媒性溶剤(I)15.7部、アクリルポリオール(J)111部(樹脂固形分50部)、ポリウレタン樹脂(K)142.9部(樹脂固形分50部)、消泡剤(L)0.19部、表面調整剤(M)1部、アルカリ膨潤型増粘剤(N)4.31部(樹脂固形分0.8部)、ウレタン会合型増粘剤(O)5部、親水性溶剤(P)3.19部、純水(Q)35.5部、および、カーボンブラック分散液(R)31.25部(固形分12.5部)を加えて攪拌して、固形分含有量51%の主剤(A)を得た。アクリルポリオール(J)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の13.9%であった。
【0168】
硬化剤(B)として、nax E-CUBE WB プラサフ用ハードナー(日本ペイント社製、固形分約55%)を準備した。ax E-CUBE WB プラサフ用ハードナーは、ヘキサメチレンジイソシアネート、3-エトキシプロピオン酸エチルおよびイソシアネート基含有シランカップリング剤を含有している。
【0169】
主剤100部と、硬化剤12.5部と、純水適量とを、ディスパーを用いて混合して、水性プライマーサーフェイサーを調製した。水酸基当量/イソシアネート基当量は0.5であった。シランカップリング剤の含有量は、水性プライマーサーフェイサーの合計の樹脂固形分100質量部に対して、1.6質量部であった。
【0170】
(1-3)水性着色ベース塗料組成物の調製
nax E-CUBE WB 412 サイレントブラック(日本ペイント社製、固形分約22%)100部、nax E-CUBE WB 911 S-バインダー(補助剤、日本ペイント社製、固形分約26%)50部、および、nax E-CUBE WB R20標準希釈剤(希釈成分、日本ペイント社製)45部を混合して、ラッカータイプの水性着色ベース塗料組成物を調製した。
【0171】
(1-4-1)水性クリヤー塗料組成物C1の調製
第1液として、nax E-CUBE WB(2:1)NNクリヤー(日本ペイント社製、固形分約38%)を準備した。nax E-CUBE WB(2:1)NNクリヤーは、水酸基含有樹脂としてアクリルポリオールをエマルションの形態で含有する。水酸基含有樹脂の固形分濃度は、主剤に含まれる全固形分の91.5%であった。
【0172】
第2液として、nax E-CUBE WB 水性用ハードナー(日本ペイント社製、固形分約55%)を準備した。nax E-CUBE WB 水性用ハードナーは、ヘキサメチレンジイソシアネート、3-エトキシプロピオン酸エチルおよびエポキシ基含有シランカップリング剤を含有している。
【0173】
第1液100部と、第2液50部と、純水適量とを、ディスパーを用いて混合して、水性クリヤー塗料組成物C1を調製した。水酸基当量/イソシアネート基当量は0.7であった。シランカップリング剤の含有量は、水性クリヤー塗料組成物C1の合計の樹脂固形分100質量部に対して、1.35質量部であった。
【0174】
(2)複層塗膜の形成
被塗物として電着塗装鋼板およびポリプロピレン板(PP板)を準備し、以下のようにして、電着塗装鋼板に複層塗膜Aを、PP板に複層塗膜Bを形成した。各塗料組成物の調製後、60分以内に塗装作業を開始した。
【0175】
(2-1)電着塗装鋼板への複層塗膜Aの形成
(2-1-1)プライマーサーフェイサー塗膜の形成
被塗物として、150mm×70mm×厚さ0.8mmに裁断した電着塗装鋼板を準備した。この電着塗装鋼板に、エアスプレーガンにより水性プライマーサーフェイサーを塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返した。続いて、この塗板を60℃に設定されたオーブンで30分加熱して、プライマーサーフェイサー塗膜(硬化膜厚60μm)を形成した。次いで、プライマーサーフェイサー塗膜の表面を研磨し、脱脂した。
【0176】
(2-1-3)着色ベース塗膜の形成
プライマーサーフェイサー塗膜上に、エアスプレーガンにより水性着色ベース塗料組成物を塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返して、着色ベース塗膜(硬化膜厚20μm)を形成した。
【0177】
(2-1-4)クリヤー塗膜の形成
着色ベース塗膜上に、スプレーガンにより水性クリヤー塗料組成物C1を3回塗装した。各塗装のインターバルは、1分間とした。これにより、未硬化のクリヤー塗膜を形成した。その後、未硬化のクリヤー塗膜を備える電着塗装鋼板を、温度23±2℃、湿度50±2RH%の環境下で15分間静置した。次いで、当該電着塗装鋼板を70℃設定のオーブンに投入し、40分間加熱し、クリヤー塗膜を硬化させた。オーブン内の湿度は10RH%であった。
このようにして、電着塗装板上に、プライマーサーフェイサー塗膜、着色ベース塗膜およびクリヤー塗膜を備える複層塗膜Aを形成した。
【0178】
(2-2)ポリプロピレン板への複層塗膜Bの形成
(2-2-1)プライマー塗膜の形成
被塗物として、150mm×70mm×厚さ0.8mmに裁断したPP板を準備した。PP板に、水性プライマーをエアスプレーガンにより無希釈で塗装し、塗膜の艶がなくなるまでエアブロー乾燥を行って、プライマー塗膜(硬化膜厚10μm)を形成した。
【0179】
(2-2-2)複層塗膜の形成
プライマー塗膜上に、上記の「(2-1)電着塗装鋼板への複層塗膜Aの形成」と同様にして塗装を行った。これにより、PP板上に、プライマー塗膜、プライマーサーフェイサー塗膜、着色ベース塗膜およびクリヤー塗膜を備える複層塗膜Bを形成した。
【0180】
[実施例2~9、比較例1~8]
顔料を表1の通りに組み合わせたこと以外、実施例1と同様にして、水性プライマーサーフェイサー調製し、電着塗装鋼板に複層塗膜Aを、PP板に複層塗膜Bを形成した。
【0181】
[実施例10~12]
顔料を表1の通りに組み合わせて水性プライマーサーフェイサーを調製し、水性クリヤー塗料組成物C1に替えて、下記(1-4-2)の通りに調製した水性クリヤー塗料組成物C2を用いた。これ以外、実施例1と同様にして、電着塗装鋼板に複層塗膜Aを、PP板に複層塗膜Bを形成した。
【0182】
(1-4-2)水性クリヤー塗料組成物C2の調製
第1液および第2液を(1-4-1)と同様に準備した。
第3液として、nax E-CUBE WB クリヤー専用硬化促進剤(モリブデン酸ナトリウム含有、日本ペイント社製、固形分約1%)を準備した。
【0183】
第1液100部と、第2液50部と、第3液3部と、純水適量とを、ディスパーを用いて混合して、水性クリヤー塗料組成物C2を調製した。
【0184】
【表1】
【0185】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・第1顔料
タルク:体質顔料、商品名「RGD-125」、富士タルク工業社製、粒径(D50)7.88μm
【0186】
・第2顔料
ポリリン酸アルミニウム:防錆顔料、商品名「GX-ZN15」、Guangxi Xinjing Science & Technology社製
炭酸カルシウム:体質顔料、商品名「重質炭酸カルシウム」、丸尾カルシウム社製
沈降性硫酸バリウム:体質顔料、商品名「BARIUM SULPHATE PRECIPITATED NT-BS」、北京英沃達科技社製
ホウケイ酸ガラス:体質顔料、商品名「Spehericel110P8」、ポッターズ・バロティーニ社製
【0187】
・第3顔料
二酸化チタン:着色顔料、商品名「TIPAQUE UT771」、石原産業社製
【0188】
・他の顔料
酸化亜鉛:着色顔料、商品名「酸化亜鉛2種」、堺化学社製
【0189】
使用した各成分の詳細は以下の通りである。
・アセチレン系消泡剤(B)
商品名「サーフィノール104DPM」、EVONIK社製
・顔料分散剤(C)
商品名「DISPERBYK-190」、BYK社製
・両親媒性溶剤(I)
プロピレングリコールモノブチルエーテル(SP値:9.69、比重:0.88g/cm
【0190】
・アクリルポリオール(J)
商品名「BAYHIDROL A2601」、コベストロ社製、樹脂固形分45%、水酸基価130mgKOH/g、酸価10mgKOH/g、数平均分子量3500、ガラス転移温度51℃
【0191】
・ポリウレタン樹脂(K)
商品名「ハイドラン WLS-210」、DIC社製、樹脂固形分35%、水酸基価0mgKOH/g、酸価28mgKOH/g、ガラス転移温度-32℃
【0192】
・消泡剤(L)
商品名「TEGO FOAMEX 810」、EVONIK社製、有効成分100%
・表面調整剤(M)
商品名「Tego Wet 260」、EVONIC社製、有効成分100%
・アルカリ膨潤型増粘剤(N)
商品名「PRIMAL ASE-60」、ダウ社製、有効成分30%
・ウレタン会合型増粘剤(O)
商品名「NOPALL 3303」、サンノプコ社製、有効成分15%
・親水性溶剤(P)
プロピレングリコールモノプロピルエーテル、SP値:9.82、比重:0.885g/cm
・カーボンブラック分散液(R)
商品名「FCW ブラック220(半)」、日本ペイント社製、顔料固形分11%、一次粒子径55nm、
【0193】
[反射率の測定]
・プライマーサーフェイサー塗膜の作製
被塗物として、JIS K5600-4-1 4.1.2(方法B)に規定される白黒隠ぺい率試験紙を準備した。6mil(150μm相当)のアプリケータを用いて、白黒隠ぺい率試験紙に水性プライマーサーフェイサーを塗装した。続いて、この塗板を60℃に設定されたオーブンで30分加熱してプライマーサーフェイサー塗膜を形成した。
・反射率の測定
多角度分光測色計(BYK社製「micro-TRI-color」)を用い、プライマーサーフェイサー塗膜面に対して45度の角度から400nmから700nmまでの光を10nm間隔で照射し、正反射光に対して110度の角度で受光した反射光を測定した。反射率の最大値を、プライマーサーフェイサー塗膜の分光反射率として採用した。
【0194】
[水性プライマーサーフェイサーの評価]
(1)研磨作業性
・プライマーサーフェイサー塗膜の作製
被塗物として、200mm×100mm×厚さ0.8mmに裁断したブリキ板を準備した。このブリキ板に、エアスプレーガンにより水性プライマーサーフェイサーを塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返した。続いて、この塗板を60℃に設定されたオーブンで30分加熱して、単層のプライマーサーフェイサー塗膜(膜厚60μm)を形成した。
【0195】
・研磨作業
#400研磨紙(例えば、コバックス社製)を張り付けた研磨具で、表面が平滑になるまで研磨したときの官能検査により評価した。レベル4以上で、研磨作業性に優れると評価される。
【0196】
・評価基準
5:引っかかりがなく、抵抗なく研磨できる
4:最初に少し引っかかるが、その後は抵抗なく研磨できる
3:引っかかりを感じるが、大きな抵抗なく研磨できる
2:引っかかり、粘り気等の抵抗を感じ、研磨し難い
1:抵抗が大きく、研磨できない
【0197】
(2)耐研磨性
・プライマーサーフェイサー塗膜の作製
被塗物として、表面が平滑な110mm×110mm×0.8mm(中心7mm穴空き)の脱脂したボンデ鋼板を準備した。ボンデ鋼板上に、上記と同様にして、単層のプライマーサーフェイサー塗膜を形成した。
【0198】
・研磨作業
テーバー形試験機を用いて以下の条件で研磨試験を行い、研磨試験前後の塗膜の質量減少量を計測した。レベル4以上で、耐研磨性に優れると評価される。
【0199】
(研磨試験条件)
研磨具:#400研磨紙(コバックス社製)を張り付けた磨耗輪(CS-10)
荷重:1kg
回転数:60回転/分
試験板の回転数:50回
【0200】
・評価基準
5:質量減少量75mg以下
4:質量減少量75mg超85mg以下
3:質量減少量85mg超95mg以下
2:質量減少量95mg超105mg以下
1:質量減少量105mg超
【0201】
[複層塗膜の外観評価]
複層塗膜AおよびBについて、それぞれ外観を目視にて評価した。
【0202】
・評価基準
5:凹凸がない平滑な塗膜である。
4:凹凸をわずかに確認できる平滑な塗膜である。
3:凹凸をやや確認できる塗膜である。
2:凹凸を確認できる平滑でない塗膜である。
1:凹凸がとてもわかり平滑でない塗膜である。
【0203】
【表2】
【0204】
【表3】
【0205】
表2および表3の顔料含有量は、水酸基含有樹脂の固形分100質量部に対する数値である。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本開示によれば、研磨作業性に優れる一方で、耐研磨性を有する塗膜を形成できる水性プライマーサーフェイサーが提供される。本開示の水性プライマーサーフェイサーは、自動車の補修塗装に適している。本開示によれば、オール水性の塗料組成物により形成された、外観に優れる複層塗膜が提供される。
【要約】
特定の水分散性水酸基含有樹脂(a1)と顔料(a2)と増粘剤(a3)とを含む主剤(A)、および、ポリイソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む硬化剤(B)を、含有し、前記顔料(a2)は、モース硬度および比重の異なる3種の顔料を含み、平均モース硬度が3.15~4.25であり、平均比重が3.25~3.55g/cmであり、前記顔料(a2)の総含有量は、前記主剤(A)に含まれる樹脂固形分100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下であり、前記ポリイソシアネート化合物(b1)のイソシアネート基に対する、前記水分散性水酸基含有樹脂(a1)の水酸基の当量比(水酸基当量/イソシアネート基当量)は、0.3~2である、自動車補修用の水性プライマーサーフェイサー。