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特許7583241繊維用コートゴム組成物及びマリンホース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】繊維用コートゴム組成物及びマリンホース
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20241107BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20241107BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20241107BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20241107BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20241107BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/06
C08L9/00
C08K3/06
C08K5/3415
F16L11/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020089456
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183672
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】伊海 康一
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01676876(EP,A1)
【文献】特開2010-173110(JP,A)
【文献】特開2019-104893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
F16L 11/00- 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとを含むゴム成分と、
粘着付与剤と、
硫黄と、
ビスマレイミド化合物とを含有し、
前記ブタジエンゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中の、20質量部以上30質量部以下である、繊維用コートゴム組成物。
【請求項2】
前記ビスマレイミド化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.2質量部以上1.5質量部以下である、請求項1に記載の繊維用コートゴム組成物。
【請求項3】
前記粘着付与剤が、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、及びクマロンインデン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の繊維用コートゴム組成物。
【請求項4】
前記粘着付与剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、2.0質量部以上6.0質量部以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維用コートゴム組成物。
【請求項5】
天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとを含むゴム成分と、
粘着付与剤と、
硫黄と、
ビスマレイミド化合物とを含有し、
前記ブタジエンゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中の、15質量部以上30質量部以下である、繊維用コートゴム組成物を用いて形成されたマリンホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用コートゴム組成物及びマリンホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム製品には、その機械的強度を向上させるために一般的に繊維補強材(繊維からなる補強材)等の補強材で補強されている。上記繊維補強材としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等が挙げられる。
例えば、特許文献1では、ポリエステル繊維で補強されたゴム製品において、加硫によるポリエステル繊維の強力及び接着性の低下を防止して、高品質の繊維補強ゴム製品を提供することを目的として、ゴム本体がポリエステル繊維で補強された繊維補強ゴム製品において、ゴム本体は、マレイミド系加硫剤を1.0~5.0PHR含むゴム組成物を成形加硫してなる繊維補強ゴム製品が提案されている。
【0003】
また、ゴム製品のなかには、大口径のホースのような大型製品もある。大口径のホースとしては、具体的には例えば、マリンホースが挙げられる。マリンホースは、例えば石油などを輸送するために海上等で使用される。
ゴム層、並びに、繊維補強材及びコートゴムによる補強層等を有する大型製品(例えばマリンホース)を製造する場合、上記ゴム層の加硫時間を長くする必要がある。
一方、上記のように加硫時間を長くすることによって、上記補強層における、繊維補強材とコートゴムとの接着性が低下するという問題があった。
【0004】
上記のような問題に対し、例えば、特許文献2では、マンドレルの外周に内面ゴム層を被覆し、内面ゴム層の外周に、ブタジエンゴムが配合されたコートゴム及び有機繊維コードからなる補強層を積層した補強層群を少なくとも1つ配置し、配置した補強層群の外側に外面ゴム層を被覆してホース本体を形成した後に、ホース本体をスチーム加硫する流体搬送用ホースの製造方法において、補強層を構成する有機繊維コードの有機繊維に、ポリケトン繊維又はポリケトン繊維と他の繊維との複合繊維を用いるようにした流体搬送用ホースの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-269276号公報
【文献】特開2010-173110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようななか、本発明者は特許文献1を参考にして繊維用コートゴム組成物を調製しこれを繊維補強材に適用して評価したところ、このような組成物は、長時間の加硫後の、繊維補強材と(上記組成物が加硫してなる)コートゴムとの接着性(以下これを単に「接着性」と称する場合がある)について、上記接着性が低い場合があることが明らかになった(比較例2)。
特許文献2を参考にして調製した組成物は、上記接着性について昨今要求されているレベルを満足しない場合があることが明らかとなった(比較例1)。
なお、ゴム成分として天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとを含む3元系ゴム組成物は、3元系であるため、ゴム組成物を均一な混合状態とすることが困難である。そして上記3元系ゴム組成物に更にビスマレイミド化合物を添加してゴム組成物が均一とならない場合、上記接着性の要求レベルを達成できないと推測された。
【0007】
そこで、本発明は、長時間の加硫後であっても繊維補強材との接着性に優れる、繊維用コートゴム組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、マリンホースを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとを含むゴム成分と、粘着付与剤と、硫黄と、ビスマレイミド化合物とを含有する組成物が、長時間の加硫後であっても繊維補強材との接着性に優れることを見出し、本発明に至った。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0009】
[1] 天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとを含むゴム成分と、
粘着付与剤と、
硫黄と、
ビスマレイミド化合物とを含有する、繊維用コートゴム組成物。
[2] 上記ブタジエンゴムの含有量が、上記ゴム成分100質量部中の、15質量部以上30質量部以下である、[1]に記載の繊維用コートゴム組成物。
[3] 上記ビスマレイミド化合物の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、0.2質量部以上1.5質量部以下である、[1]又は[2]に記載の繊維用コートゴム組成物。
[4] 上記粘着付与剤が、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、及びクマロンインデン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の繊維用コートゴム組成物。
[5] 上記粘着付与剤の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、2.0質量部以上6.0質量部以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の繊維用コートゴム組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の繊維用コートゴム組成物を用いて形成されたマリンホース。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維用コートゴム組成物は、長時間の加硫後であっても繊維補強材との接着性に優れる。
本発明のマリンホースは、コートゴムと繊維補強材との接着性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
本明細書において、長時間の加硫後における、コートゴムと繊維補強材との接着性(単に「接着性」ともいう)がより優れることを、本発明の効果がより優れるということがある。
【0012】
[繊維用コートゴム組成物]
本発明の繊維用コートゴム組成物(本発明の組成物)は、
天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとを含むゴム成分と、
粘着付与剤と、
硫黄と、
ビスマレイミド化合物とを含有する、繊維用コートゴム組成物である。
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0013】
<<ゴム成分>>
本発明において、ゴム成分は、天然ゴム(NR)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とブタジエンゴム(BR)とを含む。
上記ゴム成分は、NR、SBR及びBR以外のゴムを更に含んでもよい。上記NR等以外のゴムは特に制限されない。
上記ゴム成分は、NR、SBR及びBRのみであることが、ゴム組成物の製造の容易さに優れ、本発明の効果により優れるという観点から好ましい。
【0014】
<天然ゴム>
本発明において、ゴム成分としての天然ゴム(NR)は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
【0015】
・NRの含有量
上記NRの含有量は、本発明の効果により優れ、初期破断時伸び、繊維(繊維補強材)との高い接着力(例えば初期加硫後)と耐熱老化性とのバランス、組成物の加工性(例えば組成物の混合加工性。以下同様)に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部中、40質量部以上70質量部以下が好ましく、50質量部以上60質量部未満がより好ましい。
【0016】
<スチレンブタジエンゴム>
本発明において、ゴム成分としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)は、スチレンとブタジエンとの共重合体であれば特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
【0017】
・SBRの重量平均分子量
上記SBRの重量平均分子量は、本発明の効果により優れ、物性(例えば引張物性。以下同様)、又は組成物の加工性に優れるという観点から、300,000~1,000,000が好ましく、400,000~800,000がより好ましい。
上記SBRの重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定することができる。
【0018】
・SBRのスチレン量等
上記SBRのスチレン量(SBR全体中の、スチレンによる構成単位の含有量)は、本発明の効果により優れ、物性、又は組成物の加工性に優れるという観点から、20.0~35.0質量%が好ましく、22.5~24.5質量%がより好ましい。
上記SBRのスチレン量は1H-NMRによって測定することができる。
【0019】
なお、100質量%から上記スチレン量を除いた値を、SBR全体中の、ブタジエンによる構成単位の含有量とできる。
SBR全体中の、ブタジエンによる構成単位の含有量が多いほど、後述するビスマレイミド化合物との反応点が多くなる可能性が高く、本発明の効果により優れ、好ましい。
【0020】
・SBRの含有量
上記SBRの含有量は、本発明の効果により優れ、物性、又は組成物の加工性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部中、15質量部以上30質量部以下が好ましく、20~30質量部がより好ましい。
【0021】
<ブタジエンゴム>
本発明において、ゴム成分としてのブタジエンゴム(BR)は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
本発明はBRと後述するビスマレイミド化合物とを併用することによって、本発明の効果に優れる。
ブタジエンゴムとしては、例えば、ブタジエンの単独重合体が好まし態様の1つとして挙げられる。
【0022】
・BRの重量平均分子量
上記BRの重量平均分子量は、本発明の効果により優れ、物性、又は組成物の加工性に優れるという観点から、300,000~1,000,000が好ましく、400,000~800,000がより好ましい。
上記BRの重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定することができる。
【0023】
・BRのシス1,4-結合
上記BRのシス1,4-結合量(BR全体中の、ブタジエンのシス1,4-結合による構成単位の含有量)は、後述するビスマレイミド化合物との反応点が多くなり、本発明の効果により優れ、物性に優れるという観点から、90~98%であることが好ましく、95~98%がより好ましい。
上記BRのシス1,4-結合量はFT-IRによって測定することができる。
【0024】
・ブタジエンゴムの含有量
上記ブタジエンゴムの含有量は、本発明の効果により優れ、初期破断時伸び、繊維(繊維補強材)との高い接着力(例えば初期加硫後)と耐熱老化性とのバランス、組成物の加工性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部中の15質量部以上30質量部以下であることが好ましく、20~30質量部がより好ましい。
上記耐熱老化性は、ゴム組成物から得られる硬化後のゴムについて、耐熱老化前の破断時伸びに対する、耐熱老化後の破断時伸び保持率で評価することができる。本発明において、上記破断時伸び保持率が80%以上である場合、耐熱老化性に優れ、好ましい。
【0025】
<粘着付与剤>
本発明の組成物に含有される粘着付与剤は、繊維用コートゴム組成物に粘着性を付与しうる物質であれば特に制限されない。
本発明の組成物は粘着付与剤を含有することによって、本発明の組成物を繊維(繊維補強材)に適用する際の加工性(例えば、カレンダー加工等における、本発明の組成物と繊維(繊維補強材)との付着しやすさ)に優れる。
【0026】
上記粘着付与剤は、本発明の効果により優れ、本発明の組成物を繊維(繊維補強材)に適用する際の加工性に優れるという観点から、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、及びクマロンインデン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、脂肪族系石油樹脂を含むことがより好ましい。
上記脂肪族系石油樹脂としては、例えば、C5系石油樹脂(例えば、イソプレン、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルブテン、ペンテンなどの留分を重合した樹脂)が挙げられる。
【0027】
上記粘着付与剤の含有量は、本発明の効果により優れ、本発明の組成物を繊維(繊維補強材)に適用する際の加工性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、2.0質量部以上6.0質量部以下であることが好ましい。
【0028】
<硫黄>
本発明の組成物に含有される硫黄は、ジエン系ゴムの加硫に使用され得るものであれば特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
本発明において上記硫黄は加硫剤として機能できる。
【0029】
・硫黄の含有量
上記硫黄の含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、1.0~3.0質量部が好ましく、1.5質量部以上2.5質量部未満がより好ましい。
【0030】
上記ゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、後述するビスマレイミド化合物の上記ゴム成分100質量部に対する含有量よりも多いことが好ましい。
【0031】
<ビスマレイミド化合物>
本発明の組成物に含有されるビスマレイミド化合物は、マレイミド基を2個有する化合物であれば特に制限されない。
ビスマレイミド化合物が有するマレイミド基は、ジエン系ゴム(例えば、NR、SBR、BR)と反応(例えばラジカル反応)できる。
本発明において上記ビスマレイミド化合物は加硫剤又は架橋剤として機能できる。
【0032】
上記ビスマレイミド化合物としては、例えば、上記各マレイミド基の窒素原子が、2価の炭化水素基に結合する化合物が挙げられる。
上記2価の炭化水素基は特に制限されない。例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、又はこれらの組合せが挙げられる。中でも、本発明の効果により優れるという観点から、2価の芳香族炭化水素基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0033】
上記ビスマレイミド化合物としては、例えば、N,N′-エチレンビスマレイミド、N,N′-シクロへキシレンビスマレイミド、N,N′-フェニレンビスマレイミド、N,N′-ナフチレンビスマレイミドが挙げられる。
上記ビスマレイミド化合物は、本発明の効果により優れるという観点から、N,N′-フェニレンビスマレイミドが好ましく、N,N′-m-フェニレンビスマレイミド(N,N′-m-フェニレンジマレイミド)がより好ましい。
【0034】
・ビスマレイミド化合物の含有量
上記ビスマレイミド化合物の含有量は、本発明の効果により優れ、耐熱老化性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、0.2質量部以上1.5質量部以下であることが好ましい。
【0035】
・硫黄の含有量とビスマレイミド化合物の含有量の組合せ
硫黄の含有量とビスマレイミド化合物の含有量の組合せとしては、上記ゴム成分100質量部に対して硫黄の含有量が2.0質量部未満である場合、ビスマレイミド化合物の含有量は、本発明の効果により優れ、耐熱老化性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、0.5~1.5質量部が好ましく、0.8~1.2質量部がより好ましい。硫黄の含有量とビスマレイミド化合物の含有量の上記組合せを「組合せSB1」と称する。
上記組合せSB1において、硫黄の含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、ビスマレイミド化合物の含有量よりも多いことが好ましい。
【0036】
また、上記ゴム成分100質量部に対して硫黄の含有量が2.0質量部以上である場合、ビスマレイミド化合物の含有量は、本発明の効果により優れ、耐熱老化性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、0.2~0.8質量部が好ましく、0.2~0.4質量部がより好ましい。硫黄の含有量とビスマレイミド化合物の含有量の上記組合せを「組合せSB2」と称する。
【0037】
硫黄の含有量とビスマレイミド化合物の含有量の組合せは、本発明の効果により優れ、耐熱老化性に優れるという観点から、上記組合せSB1又は上記組合せSB2が好ましい。
上記組合せSB1(硫黄の含有量が2.0質量部未満)においては、本発明の効果により優れるという観点から、硫黄の含有量がビスマレイミド化合物の含有量よりも多く、ビスマレイミド化合物の含有量が上記ゴム成分100質量部に対して0.8~1.2質量部である場合がより好ましい。
上記組合せSB2(硫黄の含有量が2.0質量部以上)においては、本発明の効果により優れ、初期破断時伸びが優れるという観点から、ビスマレイミド化合物の含有量が上記ゴム成分100質量部に対して0.2~0.4質量部である場合がより好ましい。
【0038】
・添加剤
本発明の組成物は、上記成分の他に、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、更に添加剤を含有することができる。上記添加剤としては、例えば、カーボンブラックのような充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、可塑剤、加硫促進剤等が挙げられる。上記各添加剤の種類及び含有量は、適宜選択することができる。
【0039】
上記カーボンブラックは特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
上記カーボンブラックの含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、10~80質量部が好ましい。
【0040】
本発明の組成物の製造方法としては、例えば、上記成分、及び必要に応じて使用することができる上記添加剤とを混合することによって製造する方法が挙げられる。
【0041】
本発明の組成物は、繊維をコートするためのゴム組成物として使用することができる。
本発明において、上記繊維は、ゴム製品を補強しうる材料(繊維補強材)であれば特に制限されない。
なお、本明細書において、本発明の組成物を適用する繊維を「繊維補強材」と称する場合がある。
本発明の組成物は、繊維(繊維補強材)に適用され、コートゴムを形成するために使用することができる。
本発明の組成物は、繊維補強材に対して適用され加硫された後は、上記繊維補強材を被覆するコートゴムとなりうる。
【0042】
上記繊維補強材としては、例えば、連続する繊維補強材(つまり十分な長さを有する繊維の補強材)、不連続な繊維補強材(つまり短繊維。通常1cm以下の長さを有する繊維。)が挙げられる。上記繊維補強材は、得られるゴム製品の補強性に優れるという観点から、連続する繊維補強材が好ましい。
上記の連続する繊維補強材は、一般的にゴム製品(例えば、マリンホース等)に使用されうる、連続する繊維補強材であれば、繊維径、繊維長さ、形態等は、特に制限されない。
【0043】
本発明の組成物を適用できる繊維補強材としては、例えば、ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維)、ポリアミド繊維、ポリケトン繊維が挙げられる。
上記繊維補強材は、本発明の効果により優れるという観点から、ポリエステル繊維が好ましい。
【0044】
上記繊維補強材は、例えばディップ処理されていてもよい。上記ディップ処理は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。上記ディップ処理としては具体的には例えば、エポキシ系/RFL(レゾルシン-ホルムアルデヒド-ラテックス)の組合せによるディップ処理、クロロフェノール系/RFL(レゾルシン-ホルムアルデヒド-ラテックス)の組合せによるディップ処理等が挙げられる。
【0045】
上記繊維補強材の形態としては、例えば、すだれ状が挙げられる。上記すだれ状の繊維補強材としては、例えば、平行に配列された複数本の経糸を有するものが挙げられる。上記複数本の経糸は束(コード)になっていてもよく、上記束が複数本平行に配置されていてもよい。上記複数の束において、隣接する束同士は接触していてもよく、隣接する束同士が離れていてもよい。上記複数本の経糸(又は複数本の束)に対して交差するように複数本の緯糸が組み込まれていてもよい。
【0046】
本発明の組成物を繊維補強材に適用する方法は特に制限されない。例えば、本発明の組成物と上記繊維補強材を押出成形することによって積層体とする方法、本発明の組成物をシート状に成型したものを上記繊維補強材と重ねて積層体とする方法、カレンダー成形法等が挙げられる。
【0047】
本発明の組成物と上記繊維補強材とを積層体とする場合、上記積層体において上記繊維補強材は単層又は複数層であってもよい。本発明の組成物も同様である。
本発明の組成物は繊維補強材を被覆するように配置されることが好ましく、繊維補強材の全体を被覆するように配置されることがより好ましい。
繊維補強材が層状又はすだれ状である場合は、本発明の組成物は、繊維補強材の上下に配置されることが好ましい。
繊維補強材が複数層である場合は、更に、隣り合う繊維補強材の間に本発明の組成物を配置することが好ましい。
【0048】
・加硫
上記のような、本発明の組成物と繊維補強材とを有する積層体を、例えば120~160℃の条件下で加硫することができる。上記加硫において加圧してもよい。
加硫に要する時間は特に制限されない。例えば、30~400分間とできる。本発明の組成物は、長時間の加硫後であっても繊維補強材との接着性に優れるので、加硫時間を長くできる。
【0049】
・補強層
上記積層体が加硫して得られた補強層は、本発明の組成物が加硫して形成されたコートゴムと繊維補強材とを有することができる。上記コートゴムは繊維補強材の少なくとも一部を被覆することが好ましく、繊維補強材全体を被覆することがより好ましい。
上記補強層は、本発明の組成物を用いて形成されているので長時間の加硫後であっても繊維補強材との接着性に優れる。
【0050】
本発明の組成物の用途としては、例えば、マリンホースのような大口径ホース、コンベヤベルト等が挙げられる。
【0051】
[マリンホース]
本発明のマリンホースは、本発明の繊維用コートゴム組成物を用いて形成されたマリンホースである。
本発明のマリンホースに使用される繊維用コートゴム組成物は、本発明の繊維用コートゴム組成物であれば特に制限されない。
本発明のマリンホースを構成する構成部材は特に制限されない。本発明のマリンホースは、本発明の繊維用コートゴム組成物が長時間の加硫後であっても繊維補強材との接着性に優れるという観点から、繊維用コートゴム組成物によって形成されるコートゴムと繊維補強材とを有する補強層を有することが好ましい。本発明のマリンホースが有することができる繊維補強材は上記と同様である。上記補強層において、上記コートゴムは上記繊維補強材の少なくとも一部を被覆することが好ましく、上記繊維補強材全体を被覆することがより好ましい。
本発明のマリンホースは上記補強層を単層、又は複数層で有することができる。
本発明のマリンホースの製造方法は、本発明の繊維用コートゴム組成物を使用する以外は特に制限されない。例えば従来公知の方法が挙げられる。上記繊維用コートゴム組成物を、繊維補強材を被覆するためのコートゴム組成物として使用することが好ましい。
【実施例
【0052】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0053】
<組成物の製造>
下記第1表の加硫系成分(加硫促進剤DM及び硫黄)を除く各成分を同表に示す組成(質量部)で用いて、これらを撹拌機で混合した(A練り)。その後A練りして得られたゴムへ上記加硫系成分(加硫促進剤DM及び硫黄)を同表に示す組成(質量部)で加えて、これらを更に混合し、各組成物(繊維用コートゴム組成物)を製造した。
【0054】
<評価>
上記のとおり製造された各組成物を用いて以下の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0055】
・初期引張物性(初期破断強度、初期破断時伸び)
上記のとおり製造された各組成物を150℃×45分、面圧2.0MPaの条件下で加硫し、厚さ2mmの初期ゴムシートを得た。
上記初期ゴムシートからJIS規格の3号ダンベルを打ち抜き、JIS K6251:2017に準拠して、引張速度500mm/分、23℃条件下で引張試験を行い、初期破断強度[MPa]及び初期破断時伸び(%)を測定した。
初期破断強度は大きい方が好ましい。初期破断時伸びも同様である。
【0056】
・耐熱老化試験
上記のとおり得られた各初期ゴムシートを用いて、JIS K6257:2017に準拠して、各初期ゴムシートから打ち抜いた各3号ダンベルを70℃の条件下に96時間置く耐熱老化試験を行った。
上記耐熱老化試験後の各ダンベルについて、上記初期引張物性と同様の引張試験を行い、耐熱老化試験後の、破断強度[MPa]及び破断時伸び(%)を測定した。
【0057】
・耐熱老化試験後の破断強度保持率
初期破断強度及び耐熱老化試験後の破断強度を下記式に当てはめて、耐熱老化試験後の破断強度保持率を求めた。
耐熱老化試験後の破断強度保持率(%)=(耐熱老化試験後の破断強度/初期破断強度)×100
【0058】
・耐熱老化試験後の破断時伸び保持率
初期破断時伸び及び耐熱老化試験後の破断時伸びを下記式に当てはめて、耐熱老化試験後の破断時伸び保持率を求めた。
耐熱老化試験後の破断時伸び保持率(%)=(耐熱老化試験後の破断時伸び/初期破断時伸び)×100
・・評価基準
本発明において、耐熱老化試験後の破断時伸び保持率が80%以上である場合、耐熱老化性に優れ、好ましい。
【0059】
(加硫後の接着性評価)
・評価サンプルの作製
上記のとおり製造された各組成物の層1(厚さ3.0mm)、
繊維補強材1(クロロフェノール系/RFLディップ処理(クロロフェノール系化合物及びレゾルシン-ホルムアルデヒド-ラテックスの組合せによるディップ処理)されたポリエステルすだれ:暁星社製。上記ポリエステル繊維はすだれ状である。上記ポリエステル繊維において45~50本の経糸束が平行に配列されている。上記ポリエステル繊維の厚さ:1.0mm。以下同様)、
上記のとおり製造された組成物の層2(厚さ0.8mm)、
繊維補強材2(上記繊維補強材1と同様)、及び
上記のとおり製造された組成物の層3(厚さ3.0mm)を、上記の順序で積層させ、5層の積層体を調製した。上記積層体の幅を1インチとした。
なお、1つの積層体が有する層1、層2及び層3で使用される組成物は全て同じ組成物である。
また、繊維補強材1の経糸が上記積層体の1インチの幅に対して直行するように、繊維補強材1を配置した。繊維補強材2も繊維補強材1と同様の方向で配置した。各積層体は、1インチの幅に対し、繊維補強材1、2として、上記経糸束をそれぞれ25本有する。
【0060】
・加硫
上記積層体を150℃、加圧(面圧2.0MPa)の条件下で45分間又は300分間加硫し、長時間加硫後の補強層の接着性を評価するための評価サンプルを作製した。
加硫前の積層体における層1~3(繊維用コートゴム組成物の層)は加硫後の評価サンプルにおいてコートゴムとなる。
得られた評価サンプル全体の厚さは6mmであった。繊維補強材1、2は、各評価サンプルにおいて、その厚さ方向及び幅方向の内部に埋設された。
【0061】
・剥離試験
上記のとおり調製された各評価サンプルを用いて、JIS K6256:2013に準拠して、加硫後の評価サンプルにおいて1インチ幅の端部から繊維補強材1と繊維補強材2との間を剥離する剥離試験を行い、剥離力(N/inch)を測定し、ゴム付き(剥離試験後の剥離面におけるゴムの被覆面積(%))を目視で観察した。
【0062】
・初期加硫後(加硫時間45分間)の接着性の評価基準
上記加硫において加硫時間が45分間であったとき(初期加硫)、上記剥離力が260N/inch以上であり、かつゴム付きが90%以上であった場合、初期加硫後の、繊維補強材とコートゴムとの接着性が優れると評価した。
上記剥離力が260N/inch以上であり、かつゴム付きが90%以上であった場合、上記剥離力が大きいほど、初期加硫後の、繊維補強材とコートゴムとの接着性がより優れると評価した。
一方、上記剥離力が260N/inch未満であった、又はゴム付きが90%未満であった場合、初期加硫後の、繊維補強材とコートゴムとの接着性が悪いと評価した。
【0063】
[長時間加硫後(加硫時間300分間)の接着性の評価基準]
本発明において、上記加硫において加硫時間が300分間であったとき(長時間加硫)、上記剥離力が245N/inch以上であり、かつゴム付きが80%以上であった場合、長時間加硫後の、繊維補強材とコートゴムとの接着性が優れると評価した。
上記剥離力が245N/inch以上であり、かつゴム付きが80%以上であった場合、上記剥離力が大きいほど、長時間加硫後の、繊維補強材とコートゴムとの接着性がより優れると評価した。
一方、上記剥離力が245N/inch未満であった、又はゴム付きが80%未満であった場合、長時間加硫後の、繊維補強材とコートゴムとの接着性が悪いと評価した。
【0064】
【表1】
【0065】
第1表に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR:天然ゴム。SIR-20
・SBR:スチレンブタジエンゴム。スチレンブタジエンゴム。商品名NIPOL1502、日本ゼオン社製。重量平均分子量490000、スチレン量23.5質量%。
・BR:ブタジエンゴム、商品名「NIPOL BR1220」、日本ゼオン社製。重量平均分子量520000、シス1,4-結合量98%
【0066】
・CB:GPF級カーボンブラック、商品名「ニテロン#GN」、日鉄カーボン社製
【0067】
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日本油脂社製ビーズステアリン酸YR
【0068】
・粘着付与剤(脂肪族系石油樹脂):商品名クイントンA100、日本ゼオン社製
【0069】
・加硫促進剤DM:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(ノクセラー DM-PO(DM)、大内新興化学工業社製)
【0070】
・硫黄:粉末硫黄、軽井沢精錬所社製
・ビスマレイミド化合物(N,N′-m-フェニレンジマレイミド):商品名バルノックPM、大内新興化学社製
【0071】
第1表に示す結果から明らかなように、ビスマレイミド化合物を含有しない比較例1、3は、長時間加硫後、繊維補強材との接着性が悪かった。
ブタジエンゴムを含有しない比較例2は、長時間加硫後、繊維補強材との接着性が悪かった。
ブタジエンゴム及びビスマレイミド化合物を含有しない比較例4は、長時間加硫後、繊維補強材との接着性が悪かった。
【0072】
これに対して、本発明の繊維用コートゴム組成物は、長時間の加硫後であっても繊維補強材との接着性に優れた。
なお、実施例1~8において製造された各組成物(繊維用コートゴム組成物)は、いずれも目視で均一な状態であり、繊維用コートゴム組成物の混合性は良好であった。