(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241107BHJP
B32B 15/095 20060101ALI20241107BHJP
B32B 15/098 20060101ALI20241107BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20241107BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B32B15/08 G
B32B15/095
B32B15/098
B32B27/40
B32B27/42 102
(21)【出願番号】P 2020122255
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-045159(JP,A)
【文献】特許第6624346(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と;
前記鋼板の少なくとも片面上に設けられた亜鉛系めっき層と;
ウレタン樹脂を主成分とし
て塗膜中に80質量%以上含み、さらに硬化剤としてメラミン樹脂を含み、膜厚が10μm以下である第一塗膜と;
を備え、
前記第一塗膜の表面を赤外分光法によって測定して得られた吸収ピークのうち、芳香族環に起因する1510±10cm
-1のピーク高さ(I
1)とウレタン結合に起因する1533±10cm
-1のピーク高さ(I
2)の比I
1/I
2が0.9
0~1.2
0である
ことを特徴とする表面処理鋼板。
【請求項2】
前記第一塗膜が、紫外線吸収剤と光安定剤とのいずれか1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記第一塗膜が、前記紫外線吸収剤と前記光安定剤とのいずれか1種以上を合計で0.5~2.0質量%含有することを特徴とする請求項2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記第一塗膜が、ウレタン結合骨格を有する第一部位と、トリアジン環骨格を有する第二部位と、を有し、
前記第一塗膜のガラス転移温度は、85℃以上170℃以下であり、
前記第二部位を酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて10万倍の倍率で観察すると、個数平均粒径5~20nmの粒子が分散している分散型第二部位と、前記第一塗膜の表面から深さ15nmまでの位置に存在し、個数平均粒径5nm以上の粒子が独立して観察されない濃化型第二部位と、が観察される
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記第一塗膜の表面から0.2μmの深さ位置におけるN濃度N1の、前記第一塗膜と前記亜鉛系めっき鋼板との界面から前記第一塗膜側に0.2μmの深さ位置におけるN濃度N2に対する比率であるN1/N2が1.2以上であることを特徴とする請求項4に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記第一塗膜と前記亜鉛系めっき層との間に第二塗膜を更に備え、
前記第二塗膜のガラス転移温度は、前記第一塗膜のガラス転移温度以下である
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
【請求項7】
第一塗膜及び第二塗膜の少なくとも何れか一方が、着色剤を含有していることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
【請求項8】
前記亜鉛系めっき層と前記鋼板との少なくとも一方の表面に、テクスチャが形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
加工後に塗装が施される従来の塗装製品に代わって、自動車用、家電用、建材用、土木用、機械用、家具用、容器用等に、塗膜を被覆した塗装金属板が使用されるようになってきている。かかる塗装金属板は、金属板に対して塗料を塗装した後に切断され、プレス成形されることが一般的である。
【0003】
塗装金属板は、主に外装材として用いられるため、様々な溶剤や薬品に晒されることから、耐溶剤性、耐薬品性を有していることが多い。外装材であるために、通常は着色塗装された塗装金属板が多く、色調のための隠ぺい性のために、かかる塗膜の膜厚は、比較的厚い。一方、基材である金属板の外観をそのまま意匠とした金属調の塗装金属板の場合、基材の意匠を隠蔽しない、クリア塗装を施す必要がある。かかる場合、クリア塗膜の膜厚を薄くすることで、塗装金属板は、金属外観に優れようになる。また、生産性、商業性の観点においても、クリア塗膜の膜厚は、薄い方が優れている。
【0004】
一般に、耐薬品性として、塗膜が薬品により劣化又は変色しないことが求められる。しかしながら、塗膜の膜厚が薄い場合には、塗膜が薬品で劣化するよりも、薬品が塗膜とめっきとの界面まで浸透してめっきを溶解することが問題となる。着色塗装の場合には、金属が薬品によって変色しても外観異常とはならず、金属の溶解が進行して腐食生成物が生成し、生成した腐食生成物によって塗膜が膨れる状態になって、外観異常となる。一方、クリア塗装の場合、金属が変色した時点で外観異常とみなされる。つまり、クリア塗装では、薬品成分が金属に到達しないことが必要となる。かかる特性は、耐薬品浸透性と呼ばれている。
【0005】
また、屋外はもちろん、屋内であっても太陽光が照射する環境で使用する場合、太陽光による塗膜劣化および塗膜劣化に伴う変色が問題となる。つまり、塗膜の適用用途を拡大するには太陽光による塗膜変色を抑制する必要がある。かかる特性は耐候性と呼ばれている。
【0006】
耐薬品性に優れる塗装金属板については、従来、何例か報告されている。
例えば、以下の特許文献1には、溶剤可溶型フッ素樹脂を主成分とする塗料を塗装する金属板の塗装方法が開示されている。
【0007】
また、以下の特許文献2には、高ガラス転移点温度のポリエステル樹脂、低ガラス転移点温度のポリエステル樹脂、及び、アミノホルムアルデヒド樹脂を用いた塗膜を有する、加工性、耐汚染性、耐疵付性及び耐薬品性に優れた塗装金属板が開示されている。
【0008】
また、以下の特許文献3には、上層にポリアクリル樹脂を塗装するとともに、下層にポリエステル樹脂を塗装し、耐汚染性、耐薬品性、耐候性及び加工性に優れたプレコートメタルが開示されている。
【0009】
また、以下の特許文献4には、特定のポリウレタン樹脂とポリエステル樹脂とを混合した塗膜を有する、加工性、耐食性(特に端面耐食性)、及び、耐薬品性等に優れる塗装金属板が開示されている。
【0010】
また、以下の特許文献5には、粒径が50nm以下であるメラミン樹脂粒子が分散した塗膜を有する、曲げ加工性に優れる金属板が開示されている。
【0011】
また、以下の特許文献6には、メラミン樹脂等のアミノブラスト樹脂を用いた塗膜において、アミノブラスト樹脂を塗膜の表層に濃化させる技術が開示されている。
【0012】
以下の特許文献7には、金属板の少なくとも片面上に、ウレタン結合骨格を有する第一部位と、トリアジン環骨格を有する第二部位と、を含む樹脂塗膜が形成された塗装金属板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平5-111675号公報
【文献】特開平7-331167号公報
【文献】特開平7-313929号公報
【文献】特開2013-213281号公報
【文献】特開2005-53002号公報
【文献】特開2006-175815号公報
【文献】特許第6624346号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1の技術で用いられているフッ素樹脂は高価であり、産業上好ましくない。
【0015】
上記特許文献2のように溶剤系塗料を用いた塗膜形成において架橋剤であるメラミン樹脂の自己縮合反応を利用する事が示唆されているものもある。しかし、そこに開示されているのはバリア層形成に必要な表面濃化のための条件も考慮されていない。また、表面濃化のためにアミン化合物の添加することも開示されているが、その効果は生成したメラミン自己縮合粒子の分布密度に影響する程度のものである。従って、これらの条件から得られる塗膜の構造は、塗膜内に50~100μm程度の粗大な自己縮合物の粒子が分散しており、該粒子の分布密度としての表面濃化が認められる程度のものであり、塗膜の耐薬品浸透性向上効果は限定的なものであった。
【0016】
上記特許文献3の技術で用いられているポリアクリル樹脂は、加工性に劣るものであり、上記特許文献3に開示されている塗膜をクリア塗膜とした場合には、バリア性が十分ではなく、更には、耐薬品浸透性に劣る場合がある。
【0017】
上記特許文献4に開示されている塗膜は、バリア性が十分ではなく、更には、耐薬品浸透性に劣る場合がある。
【0018】
上記特許文献5の技術ようにメラミン樹脂粒子が塗膜中に分散している場合、かかる塗膜は、耐薬品浸透性に劣る場合がある。
【0019】
上記特許文献6に開示されている技術では、塗膜中のメラミン樹脂粒子の粒径が大きく、バリア性が十分ではなく、更には、耐薬品浸透性に劣る場合がある。
【0020】
上記特許文献7の技術のようにメラミン樹脂濃化層を塗膜表層に形成することで、バリア性が向上し、更には耐薬品浸透性に優れる塗膜が得られる。しかしながら、特許文献7の塗膜では耐候性が十分ではなく、太陽光が照射されるような場所で使用することが困難な場合がある。
【0021】
以上のように、上記特許文献1~特許文献7では、経済性、金属外観、耐薬品浸透性および耐候性に優れた表面処理鋼板を得る技術は、開示されていない。
【0022】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、経済性、金属外観、耐薬品浸透性および及び耐候性に優れる表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、鋼板の少なくとも片面上に亜鉛系めっき層と、ウレタン樹脂を主成分とする第一塗膜を備え、前記第一塗膜の膜厚を10μm以下とし、赤外分光法で求められる吸収ピークのうち、芳香族環に起因する1510±10cm-1のピーク高さ(I1)とウレタン結合に起因する1533±10cm-1のピーク高さ(I2)の比I1/I2が0.9~1.2に制御することで、経済性、金属外観、耐薬品浸透性および耐候性に優れる表面処理鋼板を製造可能であることに想到した。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0024】
(1)本発明の一態様に係る表面処理鋼板は、鋼板の少なくとも片面上に亜鉛系めっき層と、ウレタン樹脂を主成分として塗膜中に80質量%以上含み、さらに硬化剤としてメラミン樹脂を含む第一塗膜とを備え、前記第一塗膜の膜厚が10μm以下であり、赤外分光法で求められる吸収ピークのうち、芳香族環に起因する1510±10cm-1のピーク高さ(I1)とウレタン結合に起因する1533±10cm-1のピーク高さ(I2)の比I1/I2が0.90~1.20である。
(2)上記(1)に記載の表面処理鋼板において、前記第一塗膜が前記紫外線吸収剤と前記光安定剤とのいずれか1種以上を含有してもよい。
(3)上記(2)に記載の表面処理鋼板において、前記紫外線吸収剤と前記光安定剤とのいずれか1種以上を合計で0.5~2.0質量%含んでもよい。
(4)上記(1)~(3)の何れか一態様に係る表面処理鋼板では、前記第一塗膜が、ウレタン結合骨格を有する第一部位と、トリアジン環骨格を有する第二部位と、を有し、前記第一塗膜のガラス転移温度は、85℃以上170℃以下であってもよい。前記第二部位を酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて10万倍の倍率で観察すると、個数平均粒径5~20nmの粒子が分散している分散型第二部位と、前記第一塗膜の表面から深さ15nmまでの位置に存在し、個数平均粒径5nm以上の粒子が独立しては観察されない濃化型第二部位と、が観察されてもよい。
(5)上記(4)に記載の表面処理鋼板では、前記第一塗膜の表面から0.2μmの深さ位置におけるN濃度N1の、前記第一塗膜と前記亜鉛系めっき鋼板との界面から前記第一塗膜側に0.2μmの深さ位置におけるN濃度N2に対する比率であるN1/N2が1.2以上であってもよい。
(6)上記(1)~(5)の何れか一態様に係る表面処理鋼板は、前記第一塗膜と前記亜鉛系めっき層との間に第二塗膜を更に備え、前記第二塗膜のガラス転移温度は、前記第一塗膜のガラス転移温度以下であってもよい。
(7)上記(1)~(6)の何れか一態様に係る表面処理鋼板では、第一塗膜及び第二塗膜の少なくとも何れか一方が、着色剤を含有してもよい。
(8)上記(1)~(7)の何れか一態様に係る表面処理鋼板では、前記亜鉛系めっき層と鋼板との少なくとも一方の表面に、テクスチャが形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、経済性、金属外観、耐薬品浸透性及び耐候性に優れる表面処理鋼板を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本実施形態に係る表面処理鋼板(上層塗膜のみを有する場合)を示す模式図である。
【
図1B】本実施形態に係る表面処理鋼板(下層塗膜も有する場合)を示す模式図である。
【
図2A】本実施形態に係る表面処理鋼板(上層塗膜が両面に設けられている場合)を示す模式図である。
【
図2B】本実施形態に係る表面処理鋼板(上層塗膜及び下層塗膜が両面に設けられている場合)を示す模式図である。
【
図3】本実施形態に係る表面処理鋼板の第二部位を酸化オスミウムで染色し、10万倍の倍率で観察したときの状態を示す模式図である。
【
図4】本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、適宜図面を参照しながら本実施形態に係る表面処理鋼板及びその製造方法について説明する。
本実施形態に係る表面処理鋼板1は、
図1Aに模式的に示したように、母材となる鋼板及び亜鉛系めっき層(以下、これらを亜鉛系めっき鋼板11と総称する場合がある)の片面上に、第一塗膜として上層塗膜13を有したものである。また、
図1Bに模式的に示したように、亜鉛系めっき鋼板11と上層塗膜13との間に、第二塗膜として下層塗膜15が設けられていてもよい。
【0028】
また、
図2A及び
図2Bに模式的に示したように、本実施形態に係る表面処理鋼板1においては、上層塗膜13が亜鉛系めっき鋼板11の両面に設けられていてもよいし、上層塗膜13及び下層塗膜15が亜鉛系めっき鋼板11の両面に設けられていてもよい。
【0029】
なお、本実施形態に係る表面処理鋼板1の構成は、
図1A~
図2Bに示した構成に限定されるものではなく、例えば、亜鉛系めっき鋼板11の片面上に、上層塗膜13及び下層塗膜15が設けられており、かつ、亜鉛系めっき鋼板11のもう一方の面上に、上層塗膜13又は下層塗膜15が設けられているような構成も、実現可能である。
【0030】
第一塗膜の一例である上層塗膜13はウレタン樹脂を主成分とするものであり、ウレタン結合骨格を有する第一部位(以下「ウレタン部位」とも称する。)と、トリアジン環骨格を有する第二部位(以下「トリアジン部位」とも称する。)と、を含んでもよい。また、上層塗膜13のガラス転移温度は、85℃以上170℃以下であってもよい。
更に、
図3に模式的に示したように、トリアジン環骨格を有する第二部位は、酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて10万倍の倍率で観察すると、個数平均粒径5nm以上の粒子が分散している分散型第二部位(
図3における符号101)と、上層塗膜13の表面から深さ15nmまでの位置に存在し、個数平均粒径5nm以上の粒子が密集し個々の粒子が独立しては観察されない濃化型第二部位(
図3における符号103)との双方が存在していてもよい。
すなわち、上層塗膜13は、上記のウレタン樹脂に対応するウレタン部位に加えて、トリアジン部位を含んでもよく、また、このトリアジン部位は、個数平均粒径5nm以上の粒子として分散しているトリアジン粒状物101(分散型第二部位)と、上層塗膜13の表面から深さ15nmまでの位置に個数平均粒径5nm以上の粒子として独立して存在せずに層状に凝集している濃化部103(濃化型第二部位)とを有してもよい。
【0031】
本実施形態に係る表面処理鋼板1は、上記のような構成により、フッ素樹脂等の高価な樹脂を用いることなく、金属外観、耐薬品浸透性、及び、耐候性に優れる表面処理鋼板となる。この理由は、次のように推測される。
【0032】
上層塗膜13の主成分はウレタン樹脂である。ウレタン樹脂は耐薬品浸透性に優れることが知られている。また塗膜のガラス転移温度を高くし、更に耐薬品浸透性を向上させるにはウレタン樹脂中に剛直な分子構造である芳香族環を導入することが有効である。一方、ウレタン樹脂中の芳香族環は、太陽光などのエネルギーを受けると、反応・変色する。すなわち、ウレタン樹脂中の芳香族環数が多いほど耐薬品浸透性に優れる一方、耐候性が劣化する。これら耐薬品浸透性と耐候性は上層塗膜13が厚いほど優位である。しかしながら、優れた金属外観を得るには膜厚を10μm以下とする必要がある。このような制約条件のもと、上層塗膜13における芳香族環とウレタン結合の比率を制御することで、課題であった金属外観と耐薬品浸透性、耐候性の並立が可能となった。
【0033】
ガラス転移温度を85℃以上170℃以下とするには、ウレタン部位が相当の高ガラス転移温度を有している必要がある。ウレタン部位が高ガラス転移温度を有することで、上層塗膜13を形成する際、ウレタン部位には高い凝集力が生まれる。その結果、トリアジン部位が単独で縮合せず、トリアジン部位がウレタン部位中に分散し、かつ、ウレタン部位とトリアジン部位とが優先的に結合し易くなる。耐溶剤性の高いトリアジン部位がウレタン部位と結合することで、3次元網目構造が形成されるようになる。その結果、上層塗膜13は、バリア性(すなわち、耐薬品浸透性)が高まることとなる。このような特性を得るために、本実施形態では、上層塗膜13のガラス転移温度を、85℃以上170℃以下とすることが好ましい。
【0034】
また、トリアジン部位が、上層塗膜13中でドメインを形成し、粒状に分散する(
図3における符号101)と共に、上層塗膜13の表層に濃化して濃化部103を形成することで、高い耐溶剤性を有するトリアジン部位により、上層塗膜13の耐溶剤性が高まる。しかも、上述したように、上層塗膜13を形成する際にウレタン部位に高い凝集力が生じると、ウレタン部位とトリアジン部位とが優先的に結合し易くなり、
図3に模式的に示したように、微小化した粒状のトリアジン部位(以下、「トリアジン粒状物101」ともいう。)が上層塗膜13の表層に濃化した状態となる。かかる点からも、上層塗膜13の耐溶剤性が更に向上することとなる。
【0035】
そして、微小化した粒状のトリアジン部位(トリアジン粒状物101)が上層塗膜13の表層に濃化した状態となると、トリアジン部位による光散乱が抑制される結果、上層塗膜13の透明性が向上し、下地の亜鉛系めっき鋼板11の光沢感が外部から視認され易くなる。これにより、本実施形態に係る表面処理鋼板1では、金属外観も向上する。
【0036】
以上概略を説明したように、本実施形態に係る表面処理鋼板1は、上記のような構成により、フッ素樹脂等の高価な樹脂を用いることなく、金属外観、耐薬品浸透性、及び、耐溶剤性に優れると推測される。
【0037】
以下、本実施形態に係る表面処理鋼板1の各構成について、詳細に説明する。
【0038】
<亜鉛系めっき鋼板11について>
本実施形態に係る表面処理鋼板1は鋼板及び亜鉛系めっき層(亜鉛系めっき鋼板)を有しており、亜鉛系めっき鋼板11としては、一般に公知の各種亜鉛系めっき鋼板を用いることができる。具体的には、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミ-亜鉛合金化めっき鋼板、亜鉛-アルミ-マグネシウム合金化めっき鋼板等といった、亜鉛、又は、亜鉛と他の金属との合金が鋼板表面にめっきされた、めっき鋼板のことを指す。亜鉛系めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板等のいずれであってもよい。
【0039】
また、かかる亜鉛めっき鋼板11の表面(つまり、鋼板の表面及び/又は亜鉛系めっき層の表面)には、本実施形態に係る表面処理鋼板1の意匠性をより向上させるために、梨地、荒らし、筋目(ヘアライン)、布目(サテン)、槌目(ハンマー)等といった、各種のテクスチャが形成されていてもよい。本実施形態に係る表面処理鋼板1では、上記のような構成により上層塗膜13の透明性が向上していることから、亜鉛めっき鋼板11の表面に上記のようなテクスチャを形成した場合であっても、かかるテクスチャにより想起される金属感が、外部から視認され易くなる。
【0040】
<上層塗膜13について>
本実施形態に係る表面処理鋼板1が有する上層塗膜13は、先だって言及したように、主にウレタン樹脂を含み、塗膜厚みが10μm以下であり、赤外分光法で求められる吸収ピークのうち、芳香族環に起因する1510±10cm-1のピーク高さ(I1)と、ウレタン結合に起因する1533±10cm-1のピーク高さ(I1/I2)が0.9~1.2である。
【0041】
上層塗膜13を構成するウレタン樹脂は、その樹脂骨格中に芳香族環とウレタン結合を有する。このような塗膜を赤外分光法で分析した場合、1510±10cm-1に現れる吸収ピーク(I1)の大きさは、樹脂に含まれる芳香族環比率に比例する。一方、1533±10cm-1に現れる吸収ピークの大きさ(I2)は、樹脂に含まれるウレタン結合比率に比例する。すなわち、I1/I2は樹脂中の芳香族環数とウレタン結合数の比を意味する。
本実施形態に係る表面処理鋼板1が有する上層塗膜13は、先だって言及したように、ウレタン部位(ウレタン結合骨格を有する第一部位)に加えて、トリアジン部位(トリアジン環骨格を有する第二部位)と、を含んでもよい。
【0042】
上層塗膜13は、紫外線吸収剤と光安定剤とのいずれか1種以上を含有してもよい。上層塗膜13が紫外線吸収剤と光安定剤とのいずれか1種以上を含有することにより、塗膜内で紫外線が吸収され、塗膜中の樹脂分解を抑制できる。また、めっき表面で反射された紫外線に起因する2次的な樹脂の分解も抑制できる。上層塗膜13の含有することのできる紫外線吸収剤及び光安定剤の種類は特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系などが挙げられる。また、光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
上層塗膜13が紫外線吸収剤と光安定剤とのいずれか1種以上を含有する場合、その含有量は合計で0.5~2.0質量%とすることが好ましい。含有量を合計で0.5~2.0質量%とすることにより、紫外線を吸収し樹脂の分解を抑制するためである。
【0043】
以下に、上層塗膜13に含まれる各部位について、説明する。
上層塗膜13中のウレタン部位が有するウレタン結合骨格は、フーリエ変換赤外分光法により上層塗膜13を分析して、ウレタン結合に帰属される振動ピークを検出することで、確認することができる。
【0044】
トリアジン部位のトリアジン環骨格は、メラミン樹脂に含まれるトリアジン環に由来する骨格である。つまり、トリアジン部位は、メラミン樹脂に含まれるトリアジン環に由来する部位である。
【0045】
トリアジン部位は、先だって
図3を参照しながら言及したように、トリアジン部位を酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて10万倍の倍率で観察すると、個数平均粒径5~20nmの粒子が分散している分散型第二部位と、上層塗膜13の表面から深さ15nmまでの位置に存在し、前記粒子が密集して存在しているため個数平均粒径5nm以上の粒子が独立しては観察されない濃化型第二部位と、が観察される。
【0046】
ここで、本実施形態に係る濃化部103は、
図3に模式的に示したように、上層塗膜13の表層から亜鉛系めっき鋼板11側に向かって深さd(15nm)までの位置の範囲内に存在している。
なお、「トリアジン部位が上層塗膜13の表層に濃化している」とは、亜鉛系めっき鋼板11との界面とは反対側の上層塗膜13の表面側に、粒状のトリアジン部位(すなわち、トリアジン粒状物101)が層状に偏在していることを示す。つまり、層状に偏在した粒状のトリアジン部位の領域が、上層塗膜13の表層を構成していることを示す。
ここで、「トリアジン部位が層状に偏在して濃化部103を形成している」とは、トリアジン部位が偏在している領域におけるトリアジン部位の平均濃度(平均含有量)が、偏在部分以外の領域におけるトリアジン部位の平均濃度の1.2倍以上となっていることをいう。
【0047】
ここで、本実施形態に係るトリアジン部位は、上層塗膜13中において、個数平均粒径5nm以上20nmの粒状で分散し(換言すれば、トリアジン粒状物101の個数平均粒径が5nm以上20nm以下であり)、かつ、上層塗膜13の表面から深さ15nm以内の表層に濃化している(換言すれば、
図3における深さdは、15nm以下である)。
【0048】
ここで、トリアジン部位が上層塗膜13の表面から深さ15nm以内の表層に濃化しているとは、亜鉛系めっき鋼板11との界面とは反対側の上層塗膜13の表面側に層状に偏在した粒状のトリアジン部位の領域が、上層塗膜13の表面から深さ15nm以内に存在していることを示す。つまり、層状に偏在した粒状のトリアジン部位の領域が、上層塗膜13の表層を構成し、かつ厚みが15nm以下であることを示している。
【0049】
粒状のトリアジン部位(すなわち、トリアジン粒状物101)の個数平均粒径が5nm未満である場合、耐薬品浸透性が低下することがある。一方、粒状に分散したトリアジン部位の個数平均粒径が20nmを超える場合、表面処理鋼板1の金属外観及び耐薬品浸透性が低下したり、金属外観、耐薬品浸透性及び加工性が低下したりすることがある。ここで、表面処理鋼板1の加工性が低下した場合には、上層塗膜13に割れ等が生じ、耐薬品浸透性及び耐溶剤性も低下することとなる。粒状に分散したトリアジン部位(トリアジン粒状物101)の個数平均粒径は、金属外観、耐薬品浸透性の観点から、より好ましくは、5nm以上15nm以下である。
【0050】
また、粒状のトリアジン部位が上層塗膜13の表層に濃化していない場合(すなわち、濃化部103が存在しない場合)には、金属外観及び耐薬品浸透性が低下することがある。更に、粒状のトリアジン部位が上層塗膜13の表面から深さ15nmを超えて濃化している場合(すなわち、濃化部103が存在している深さが、上層塗膜13の表面から15nm超過である場合)には、加工性が低下することがある。表面処理鋼板1の加工性が低下した場合には、上層塗膜13に割れ等が生じ、耐薬品浸透性も低下することとなる。
【0051】
上層塗膜13において濃化部103が複数形成されていることが好ましい。濃化部103が複数形成されていることでバリア性がより一層向上し、好適な耐薬品性を得ることができる。濃化部103を形成するためには、後述する上層塗膜形成工程での加熱方法が重要である。この点については後述する。
【0052】
ここで、本実施形態に係る上層塗膜13において、上層塗膜13の表面から0.2μmの深さ位置におけるN濃度N1(単位:質量%)と、上層塗膜13と亜鉛系めっき鋼板11との界面から上層塗膜13側に0.2μmの深さ位置におけるN濃度N2(単位:質量%)との比率であるN1/N2が1.2以上である。
N1/N2を1.2以上とすることで、より確実に、金属外観及び耐溶剤性を向上させることが可能となる。N1/N2は、より好ましくは、1.5以上10以下である。
【0053】
続いて、上層塗膜13中におけるトリアジン部位の各種分析方法について説明する。
まず、分析対象である上層塗膜13を、酸化オスミウムで染色する。これにより、上層塗膜13中のトリアジン部位が、選択的に染色される。次に、ミクロトーム、集束イオンビーム加工装置等を利用して、酸化オスミウムで染色した塗膜を膜厚方向に沿って切断し、断面が観察できる塗膜試料を作製する。続いて、透過型電子顕微鏡を用いて薄膜試料を倍率10万倍で観察する。この観察において、薄膜試料中におけるトリアジン部位は、STEM-BF(明視野)画像では黒く観察され、STEM-HAADF(暗視野)画像では白く観察される。
【0054】
上記のような分析方法により、上層塗膜13中のトリアジン部位を確認できる。なお、上層塗膜13中のトリアジン部位は、エネルギー分散型X線分光法、又は、フーリエ変換赤外分光法で塗膜を分析して、窒素とオスミウムを検出したり、トリアジン環に帰属される振動ピークを検出したりすることでも確認できる。
【0055】
粒状のトリアジン部位が濃化している領域の厚み(すなわち、層状に偏在した粒状のトリアジン部位の領域である濃化部(濃化型第二部位)103の厚み)は、次の方法により測定される値である。上述のように、透過型電子顕微鏡により薄膜試料を倍率10万倍で観察して、STEM-BF(明視野)画像を得る。得られたSTEM-BF(明視野)画像を、2値化する。そして、得られた2値化画像において、上層塗膜13の表面から黒く観察される層状の領域の厚みを任意の20箇所測定し、その平均値を粒状のトリアジン部位が濃化している領域の厚みとして算出する。また、濃化部103が存在している位置は、2値化画像において、上記のようにして得られた濃化部103の厚みの下端(亜鉛系めっき鋼板11側の界面)の位置に着目することで、特定することができる。なお、上層塗膜13の表面から層状に黒く観察される領域が確認されたとき、粒状のトリアジン部位が上層塗膜13の表層に濃化しているとみなす。
【0056】
また、粒状のトリアジン部位の個数平均粒径(トリアジン粒状物101の個数平均粒径)は、次の方法により測定される値である。上述のように、透過型電子顕微鏡により薄膜試料を倍率10万倍で観察して、STEM-BF(明視野)画像を得る。得られたSTEM-BF(明視野)画像を、例えば閾値120で2値化する。そして、得られた2値化画像において、黒く観察される粒状の領域の円相当径を、式:円相当径=2(面積/π)0.5により算出する。なお、かかる式中の「面積」は、黒く観察される粒状の領域の面積を示す。そして、この円相当径の算出を、任意に選択した粒状の領域20箇所で行い、その平均値を、粒状のトリアジン部位の個数平均粒径として求める。
【0057】
また、上層塗膜13の表層側に濃化しているトリアジン部位の平均濃度は、以下のようにして測定することができる。すなわち、上層塗膜13の表層側から亜鉛系めっき鋼板方向へのN元素濃度の深さ方向の分布を測定し、最表層からの距離が0.2μmの位置におけるN元素濃度N1と、亜鉛系めっき鋼板又は下層塗膜との境界から表層側0.2μmの位置におけるN元素濃度とN2との比率であるN1/N2を求める。
深さ方向の元素分析は、公知の方法で調べることができ、例えば、高周波グロー放電分光分析(GD-OES:Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)、オージェ電子分光法(AES:AugerElectron Spectroscopy)等を用いて実施可能である。
【0058】
次に、上層塗膜13のガラス転移温度(Tg)について説明する。
上層塗膜13のガラス転移温度は、85℃以上170℃以下であることが好ましい。上層塗膜13のガラス転移点温度が85℃未満である場合には、表面処理鋼板1の耐薬品浸透性が低下することがある。一方、上層塗膜13のガラス転移点温度が170℃を超える場合には、表面処理鋼板1の加工性および耐候性が低下することがある。表面処理鋼板1の加工性が低下すると、上層塗膜13に割れ等が生じ、耐薬品浸透性も低下することとなる。上層塗膜13のガラス転移温度は、耐薬品浸透性及び耐候性の観点(特に耐薬品浸透性の観点)から、好ましくは、100℃以上160℃以下であり、より好ましくは、110℃以上150℃以下である。
【0059】
また、本実施形態に係る表面処理鋼板1が下層塗膜15を有する場合、上層塗膜13のガラス転移温度は、下層塗膜15のガラス転移温度以上であることが好ましい。上層塗膜13のガラス転移温度が下層塗膜15のガラス転移温度未満である場合には、上層塗膜13と下層塗膜15との密着性が低下して、耐薬品浸透性が低下する場合がある。
【0060】
上層塗膜13のガラス転移温度は、下層塗膜15のガラス転移温度よりも5℃以上高いことが好ましい。上層塗膜13のガラス転移温度と下層塗膜15とガラス転移温度の差が5℃以上となることで、上層塗膜13と下層塗膜15との密着性がより一層良好となり、耐薬品浸透性が更に向上し易くなる。
【0061】
また、上層塗膜13のガラス転移温度は、下層塗膜15のガラス転移温度よりも10℃以上50℃以下の範囲で高いことがより好ましい。上層塗膜13のガラス転移温度が下層塗膜15のガラス転移温度よりも10℃以上高くなることで、耐薬品浸透性が高まり易くなる。一方、上層塗膜13のガラス転移温度が下層塗膜15のガラス転移温度よりも50℃以下の範囲で高くなることで、塗膜硬度の低下が抑制され易くなる。
【0062】
ここで、ガラス転移点温度(Tg)は、次に示す方法により測定される値である。まず、測定対象となる塗膜を剥離又は削りとり、測定試料を作製する。そして、測定試料を用いて、プラスチックの転移温度測定方法(JIS K7121 1987)の示差走査熱量測定(DSC法)に準じて、ガラス転移点温度を求める。
【0063】
上層塗膜13は、アルミニウム及びチタンから選ばれる少なくとも1種の金属錯化合物を有さないことが好ましい。ここで、亜鉛、アルミニウム及びチタンから選ばれる少なくとも1種の金属錯化合物としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、ピコリン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトネート、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムトリイソポロキシド、アルミニウムエチルアセトアセテートジ゛イソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムオキサイドイソプロポキサイドトリマー、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラー2-エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。上層塗膜13がアルミニウム及びチタンから選ばれる少なくとも1種の金属錯化合物を有すると、上層塗膜13の耐薬品性が劣化するためである。
【0064】
<下層塗膜15について>
本実施形態に係る表面処理鋼板1において、下層塗膜15は、特に制限はなく、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アルキド系樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等といった、周知の樹脂塗膜を適用することができる。また、かかる樹脂塗膜を形成する際に、シランカップリング剤等の公知の添加剤を用いることも可能である。
【0065】
これら樹脂塗膜の中でも、金属外観、耐薬品浸透性、及び、耐溶剤性の観点から、下層塗膜15は、ウレタン結合骨格を有する第一部位(以下「ウレタン部位」とも称する。)を少なくとも有し、エポキシ基及びシロキサン結合骨格の少なくとも何れかを有する部位(以下、エポキシ基を有する部位を「エポキシ部位」、シロキサン結合骨格を有する部位を「シロキサン部位」とも称する。)を好ましくは更に含有するような、樹脂塗膜であることが好ましい。また、下層塗膜15は、上記のようなウレタン部位に加えて、P、V、Ti、Si及びZrからなる群より選択される何れか1種以上の元素を有する化合物を含有することが好ましい。
【0066】
ここで、ウレタン部位が更にアニオン性官能基を有することで、水系媒体(水系塗料)に対するウレタン部位の分散性が向上し、下層塗膜15の造膜性が高まることで、下層塗膜15と亜鉛系めっき鋼板11との密着性が良好となり、下層塗膜15のバリア性(すなわち、耐薬品浸透性)が高まる。
【0067】
また、ウレタン部位と、エポキシ基及びシロキサン結合骨格の少なくとも何れかと、を含むことでも、下層塗膜15の耐薬品浸透性が向上する。また、下層塗膜15を、ウレタン部位を少なくとも有する樹脂塗膜とすることで、下層塗膜15の透明性が向上し、金属外観も良好となる。
【0068】
また、P、V、Ti、Si及びZrからなる群より選択される何れか1種以上の元素を有する化合物は、一般的に防錆剤として機能することが多いが、下層塗膜15中にかかる化合物を含有させてもよい。下層塗膜15にかかる化合物を含有させることで、表面処理鋼板1の耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0069】
次に、下層塗膜15に含まれる各部位について説明する。
ウレタン部位が有していると好ましいアニオン性官能基としては、例えば、カルボン酸基(カルボキシ基)、スルホン酸基(スルホ基)等を挙げることができる。一方、ウレタン部位のウレタン結合骨格は、ポリウレタン樹脂に由来する骨格である。すなわち、ウレタン部位は、ポリウレタン樹脂に由来する部位であり、更に、アニオン性官能基を有しうる部位と言える。
【0070】
エポキシ基を有するエポキシ部位は、エポキシ樹脂に由来する部位である。つまり、エポキシ部位のエポキシ基は、ポリウレタン樹脂に由来するウレタン部位と反応しなかった、エポキシ基残基である。また、シロキサン部位のシロキサン結合骨格は、シロキサン結合を有するシリコーン樹脂、又は、シロキサン結合を生成しうるシランカップリング剤に由来する骨格である。
【0071】
下層塗膜15中におけるウレタン部位のウレタン結合骨格と、エポキシ部位のエポキシ基と、シロキサン部位のシロキサン結合骨格と、は、エネルギー分散型X線分光法、又は、フーリエ変換赤外分光法で下層塗膜15を分析し、対応する結合もしくは官能基を構成する元素を検出するか、又は、対応する結合もしくは官能基に帰属される振動ピークを検出することで、確認することができる。また、下層塗膜15中におけるP、V、Ti、Si及びZrからなる群より選択される何れか1種以上の元素を有する化合物の存在は、エネルギー分散型X線分光法により、かかる化合物に含有される元素が検出されるか否かにより、確認することが可能である。
【0072】
続いて、下層塗膜15のガラス転移温度について説明する。
下層塗膜15のガラス転移温度は、上層塗膜13のガラス転移温度以下であることが好ましい。下層塗膜15のガラス転移温度は、より好ましくは、80℃以上170℃以下の範囲内であり、かつ、上層塗膜13のガラス転移温度以下である。下層塗膜15のガラス転移点温度が80℃未満である場合には、耐薬品浸透性が低下することがある。一方、下層塗膜15のガラス転移点温度が170℃を超える場合には、加工性が低下することがある。加工性が低下すると、下層塗膜15に割れ等が生じ、耐薬品浸透性及び耐溶剤性も低下することがある。下層塗膜15のガラス転移温度は、耐薬品浸透性及び耐溶剤性の観点(特に耐薬品浸透性の観点)から、より好ましくは、上層塗膜13のガラス転移温度以下であり、かつ、100℃以上170℃以下の範囲内である。
【0073】
<上層塗膜13及び下層塗膜15の膜厚について>
本実施形態に係る表面処理鋼板1において、上記のような上層塗膜13の膜厚は、10μm以下とする。上層塗膜13の膜厚が10μmを超える場合には、上層塗膜13の透明性が低下して、金属外観が低下することがあるためである。一方、上層塗膜13の膜厚の下限は特に定められないが、耐薬品浸透性の観点から0.5μm以上としてもよい。上層塗膜13の膜厚は、金属外観及び耐薬品浸透性の観点から、より好ましくは、3μm以上8μm以下である。
【0074】
また、本実施形態に係る表面処理鋼板1において、上層塗膜13に加えて下層塗膜15を設けた場合に、下層塗膜15の膜厚は、0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。下層塗膜15の膜厚を0.1μm以上3μm以下とすることで、金属外観を維持しつつ、耐薬品浸透性を更に向上させることが可能となる。下層塗膜15の膜厚は、耐薬品浸透性の観点から、より好ましくは、0.3μm超過2μm以下である。
【0075】
<上層塗膜13及び/又は下層塗膜15中の着色剤について>
本実施形態に係る表面処理鋼板1において、上記のような上層塗膜13及び/又は下層塗膜15は、着色剤を含有してもよい。上層塗膜13及び/又は下層塗膜15に対して着色剤を含有させることによって、製品の色調を調整でき、多種多様な用途に適用することが可能となる。
【0076】
ここで、亜鉛系めっき鋼板表面にテクスチャーが存在する場合、着色顔料は上記上層塗膜13に分散させることが好ましい。下層塗膜15に顔料を分散させると、亜鉛系めっき鋼板表面に存在する凹み部の膜厚が相対的に大きくなり、形成したテクスチャーを隠ぺいする恐れがあるからである。
【0077】
<上層塗膜13及び下層塗膜15の具体的な構成について>
本実施形態に係る表面処理鋼板1において、上層塗膜13は、具体的には、ガラス転移温度が75℃以上160℃以下であるポリウレタン樹脂(a)と、トリアジン環含有水溶性硬化剤である水溶性メラミン樹脂(b)と、水系溶媒と、を含有する上層塗料を硬化した樹脂塗膜(例えば、ポリウレタン樹脂と水溶性メラミン樹脂との架橋物を含む樹脂塗膜)であることがよい。かかる上層塗料から形成された樹脂塗膜は、全体として、ガラス転移温度が85℃以上170℃以下となる。この際、水溶性メラミン樹脂(b)は、上層塗膜13中に粒状に分散しているものと、上層塗膜13の表面側に濃化しているものと、が存在する。また、上層塗膜13と亜鉛系めっき鋼板11との間に、更に下層塗膜15が設けられる場合、上記ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度は、下記のような下層塗膜15が含有するポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度以上であることが好ましい。
【0078】
ポリウレタン樹脂の代わりにポリエステル樹脂を用いた場合には、ポリエステル樹脂はポリウレタン樹脂よりも耐薬品性が劣るので、同等の耐薬品性を得るためには上層塗膜の膜厚を厚くする必要がある。上層塗膜の膜厚が厚くなってしまうと、クリア塗膜とした場合に、所望の金属外観が得られないため、好ましくない。
【0079】
また、本実施形態に係る表面処理鋼板1に対して下層塗膜15を設ける場合、下層塗膜15は、具体的には、ガラス転移温度が上層塗膜13のポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度以下であるポリウレタン樹脂(c)と、エポキシ樹脂(d)、シランカップリング剤(e)、並びに、P、V、Ti、Si及びZrからなる群より選択される何れか1種以上の元素を含有する防錆剤(f)の少なくとも何れかと、水系溶媒と、を含有する下層塗料を硬化した樹脂塗膜(例えばポリウレタン樹脂(c)及びエポキシ樹脂(d)の架橋物を含む樹脂塗膜、ポリウレタン樹脂(c)とエポキシ樹脂(d)とシランカップリング剤(e)との架橋物を含む樹脂塗膜、ポリウレタン樹脂(c)とエポキシ樹脂(d)とシランカップリング剤(e)との架橋物と防錆剤(f)と含む樹脂塗膜、ポリウレタン樹脂(c)とシランカップリング剤(e)との架橋物を含む樹脂塗膜、ポリウレタン樹脂(c)とシランカップリング剤(e)の架橋物と防錆剤(f)とを含む樹脂塗膜、ポリウレタン樹脂(c)と防錆剤(f)とを含む樹脂塗膜・・・等)で構成されていることがよい。
【0080】
以上、本実施形態に係る表面処理鋼板1について、詳細に説明した。
以上説明したような、実施形態に係る表面処理鋼板1は、自動車用、家電用、建材用、土木用、機械用、家具用、容器用等に利用することが可能である。
【0081】
(表面処理鋼板の製造方法について)
続いて、
図4を参照しながら、本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法の一例について、詳細に説明する。
図4は、本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
なお、本実施形態に係る表面処理鋼板を製造する方法は、下記の方法に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る表面処理鋼板を製造するための一つの例である。
【0082】
本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法は、所定の亜鉛系めっき鋼板11の少なくとも片面上に、少なくとも上層塗膜13を有する表面処理鋼板1の製造方法である。この表面処理鋼板の製造方法は、
図4に一例を示したように、必要に応じて亜鉛系めっき鋼板11の表面に所定のテクスチャを形成するテクスチャ形成工程(ステップS101)と、必要に応じて亜鉛系めっき鋼板11上に下層塗膜15を形成する下層塗膜形成工程(ステップS103)と、亜鉛系めっき鋼板11又は下層塗膜15上に上層塗膜13を形成する上層塗膜形成工程(ステップS105)と、を有する。
【0083】
ここで、テクスチャ形成工程及び下層塗膜形成工程は、必要に応じて実施されればよく、例えば、テクスチャ等を有しない亜鉛系めっき鋼板11上に上層塗膜13が形成されている表面処理鋼板1を製造する際には、
図4に示した3つの工程のうち、ステップS105のみが実施される。
【0084】
図4に示した表面処理鋼板の製造方法において、最も重要な工程は、上層塗膜形成工程(ステップS105)である。かかる上層塗膜形成工程は、アニオン性官能基を含み、ガラス転移温度が75℃以上160℃以下であるポリウレタン樹脂(a)と、トリアジン環含有水溶性硬化剤である水溶性メラミン樹脂(b)と、水系溶媒と、を含有する上層塗料(かかる上層塗料は、第一塗料の一例である。)を、亜鉛系めっき鋼板11上(亜鉛系めっき鋼板11上に下層塗膜15が形成されている場合には、下層塗膜15上)に塗装し、かかる上層塗料の塗布された亜鉛系めっき鋼板を加熱及び冷却することで、上層塗膜13を形成する工程である。
【0085】
本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法は、上記のような手法により、本実施形態に係る表面処理鋼板(すなわち、金属外観、耐薬品浸透性、及び耐溶剤性に優れた表面処理鋼板)を、コストを抑制しつつ、製造することができる。その理由は、次の通り推測される。
【0086】
まず、一般的に、ポリウレタン樹脂と水溶性メラミン樹脂とを含む塗料により塗膜を形成する際に、メラミン樹脂は、ポリウレタン樹脂との相溶性に劣ることからポリウレタン樹脂と共存し難く、メラミン樹脂の自己縮合粒が大きくなると共に、メラミン樹脂が塗膜の表層に濃化する現象が生じる。
【0087】
これに対して、本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法では、アニオン性官能基を含むポリウレタン樹脂(a)を採用することにより、水系媒体中で、ポリウレタン樹脂(a)と、トリアジン環含有水溶性硬化剤である水溶性メラミン樹脂(b)と、が均一に混合され、共存した状態となる。かかる状態の上層塗料を、亜鉛系めっき鋼板11上(又は、下層塗膜15上)に成膜して加熱すると、水溶性メラミン樹脂(b)の自己収縮が抑制され、水溶性メラミン樹脂(b)とポリウレタン樹脂(a)との反応が優先的に生じるようになる。更に、加熱により水系溶媒の気化(乾燥)が進行すると、ポリウレタン樹脂(a)は、溶融状態となる。ポリウレタン樹脂(a)が溶融状態になると、ガラス転移温度が75℃以上160℃以下と高いために粘度が増加する結果、高い凝集力が生まれて、メラミン樹脂(b)の拡散速度が低下する。これにより、水溶性メラミン樹脂(b)の自己収縮が抑制され、水溶性メラミン樹脂(b)とポリウレタン樹脂(a)との反応が優先的に生じるようになる。
【0088】
このように、ポリウレタン樹脂(a)との相溶性が低いメラミン樹脂(b)は、塗膜の表層へ濃化しつつも、水溶性メラミン樹脂(b)の自己収縮が抑えられ、ポリウレタン樹脂(a)と優先的に反応する。ただ、水溶性メラミン樹脂(b)の自己収縮が完全に抑制されるわけではないため、上層塗膜13中には、ポリウレタン樹脂(a)と反応した水溶性メラミン樹脂(b)の反応生成物と、水溶性メラミン樹脂(b)が自己収縮した結果生じる反応生成物と、が共存することとなる。その結果、水溶性メラミン樹脂(b)に由来する部位は、上層塗膜13中に粒状に分散したものと、上層塗膜13の表層に濃化したものと、が存在するようになる。しかも、上述したように、上層塗膜13が形成される際には、ポリウレタン樹脂(a)に高い凝集力が生じることで、水溶性メラミン樹脂(b)とポリウレタン樹脂(a)との反応が優先的に生じる。そのため、微小化した粒状の水溶性メラミン樹脂(b)が上層塗膜13の表層に濃化して、
図3に示したような濃化部103が形成されるとともに、上層塗膜13の表層に濃化しなかった、微小化した粒状の水溶性メラミン樹脂(b)が、
図3に示したようなトリアジン粒状物101を形成する。
【0089】
また、下層塗膜15を設ける際には、ガラス転移温度が80℃以上160℃以下であり、かつ、ポリウレタン樹脂(a)よりもガラス転移温度が低いポリウレタン樹脂(c)を用いて下層塗膜15を形成することで、上層塗膜13と下層塗膜15との間の高い密着性を実現することができる。更に、アニオン性官能基を含むポリウレタン樹脂(a)を採用することによっても、水系媒体(水系塗料)に対するウレタン部位の分散性が向上する結果、上層塗膜13の造膜性が高まって、上層塗膜13と下層塗膜15との間の高い密着性が実現される。
【0090】
以上、概要を説明したように、本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法は、本実施形態に係る表面処理鋼板(すなわち、金属外観、耐薬品浸透性及び耐溶剤性に優れた表面処理鋼板)を、コストを抑制しつつ製造することができると推測される。
【0091】
以下、本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法について、詳細に説明する。
【0092】
<上層塗膜形成工程について>
図4に示した流れとは逆になるが、以下では、まず、上層塗膜形成工程について詳細に説明する。
上層塗膜形成工程では、まず、第一塗料の一例である上層塗料を準備する。上層塗料は、ポリウレタン樹脂(a)と、トリアジン環含有水溶性硬化剤である水溶性メラミン樹脂(b)と、水系溶媒と、を含有する。
【0093】
[ポリウレタン樹脂(a)について]
ポリウレタン樹脂(a)は、アニオン性官能基を含み、かつ、ガラス転移温度が75℃以上160℃以下であるポリウレタン樹脂である。また、本実施形態に係る表面処理鋼板において、上層塗膜13だけでなく下層塗膜15を形成する場合には、ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度は、下層塗膜15に用いられるポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度以上であることが好ましい。
【0094】
なお、先だって言及したような上層塗膜13における高ガラス転移点温度(85℃以上170℃以下)を得るためには、ウレタン結合を有するポリウレタン樹脂を用いることが適しており、例えば、高ガラス転移点温度のポリエステル樹脂は、製造が困難である。また、高ガラス転移点温度のポリウレタン樹脂は、溶融粘度が非常に高いため、水系媒体に分散させた塗料を使用しないと、塗装(塗膜を形成)することは困難である。このため、ポリウレタン樹脂にアニオン性官能基を付与することによって、水溶性メラミン樹脂とともに水系媒体中に分散が可能となる。
【0095】
ポリウレタン樹脂(a)は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類と、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物と、を反応させ、更にジアミン等で鎖延長し、水分散化させる等することで、得ることができる。
【0096】
かかるポリウレタン樹脂(a)としては、例えば、ポリエーテルポリウレタン樹脂(ポリエーテル骨格を有するポリウレタン樹脂)、ポリエステルポリウレタン樹脂(ポリエステル骨格を有するポリウレタン樹脂)、ポリエーテルポリエステルポリウレタン樹脂(ポリエーテル骨格及びポリエステル骨格を有するポリウレタン樹脂)等が好適である。これらポリウレタン樹脂を使用した塗膜は、耐薬品浸透性及び耐溶剤性が向上し易い。
【0097】
ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテルポリエステルポリウレタン樹脂は、多価アルコール類として、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールの少なくとも一方を使用することで、得ることができる。
ポリエーテルポリオールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びこれらの共重合体がある。
また、ポリエステルポリオールは、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の二塩基酸又は二塩基酸のジアルキルエステルと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3’-ジメチロ-ルヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類と、を反応させることで、得ることができる。
また、ポリエステルポリオールは、例えば、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β-メチル-γ-バレロラクトン)等のラクトン類を開環重合することで、得ることができる。
【0098】
ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度は、75℃以上160℃以下である。ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度が75℃未満である場合、耐薬品浸透性が低下する。一方、ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度が160℃を超える場合には、加工性が低下する。加工性が低下すると、上層塗膜13に割れ等が生じ、耐薬品浸透性及び耐溶剤性も低下する。ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度は、耐薬品浸透性及び耐溶剤性の観点(特に耐薬品浸透性の観点)から、好ましくは100℃以上160℃以下である。
【0099】
ここで、上記ポリエステル樹脂をはじめとする各種樹脂のガラス転移温度は、プラスチックの転移温度測定方法(JIS K7121 1987)の示差走査熱量測定(DSC法)に準じて測定することができる。
【0100】
[水溶性メラミン樹脂(b)について]
トリアジン環含有水溶性硬化剤である水溶性メラミン樹脂(b)としては、一般に公知の水溶性メラミン樹脂(イミノ型メラミン樹脂、メチロール型メラミン樹脂、完全アルキルエーテル化メラミン樹脂等)を使用することができる。市販の水溶性メラミン樹脂としては、例えば、日本カーバイド社製、オルネクス社製、DIC社製等の水溶性メラミン樹脂が挙げられる。
【0101】
上記のような水溶性メラミン樹脂(b)として、特に、イミノ基を含むメラミン樹脂(イミノ型メラミン樹脂)を用いることが好ましい。イミノ基を含むメラミン樹脂を使用することで、粒状の水溶性メラミン樹脂が上層塗膜13の表層に濃化し易くなるため、耐溶剤性がより向上し易くなる。
【0102】
なお、「水溶性」とは、25℃の水100質量部に対する対象物質の溶解量が、5質量部以上(好ましくは10質量部以上)であることを示す。
【0103】
[成膜方法(塗布方法)について]
上層塗膜形成工程において、亜鉛系めっき鋼板11又は下層塗膜15上に上層塗料を成膜(塗布)する方法は、特に制限されるものではなく、例えば、ロールコート法、リンガーロールコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬法等の周知の成膜方法(塗布方法)を利用することができる。また、これらの周知の成膜方法(塗布方法)を実施する成膜装置(塗布装置)を完備した、コイルコーティングライン、シートコーティングラインと呼ばれる連続塗装ラインで成膜すると、塗装作業効率が良く大量生産が可能であるため、より好適である。
【0104】
[加熱方法(焼付け方法)及び冷却方法について]
上層塗膜形成工程において、亜鉛系めっき鋼板11又は下層塗膜15上に上層塗料を成膜(塗布)した後、上層塗料の膜を加熱する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、熱風オーブン、直火型オーブン、遠赤外線オーブン、誘導加熱型オーブン等といった、一般に公知の装置を利用することができる。上層塗料の膜を加熱することにより、上層塗料の膜中に存在する水系溶媒が乾燥し、その後、ポリウレタン樹脂(a)と水溶性メラミン樹脂(b)とが反応して、上層塗膜13が形成される。
【0105】
一方、加熱後、上層塗膜13を冷却する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、水冷(スプレー、水没等)、空冷(窒素ガス等の吹き付け等)などの周知の方法を利用することができる。
【0106】
上層塗膜形成工程において、特に、上層塗料の成膜後、加熱開始から最高到達温度までの加熱時間が1秒以上30秒以下となるような条件で加熱し、最高到達温度から30℃までの冷却時間が0.1秒以上5秒以下となるような条件で冷却して、上層塗膜13を形成することが好ましい。ここで、加熱時間及び冷却時間は、亜鉛系めっき鋼板の温度を熱電対で検知することで、測定する。
【0107】
上層塗料の成膜後に、上記のような1秒以上30秒以下という短時間で加熱を行うと、水溶性メラミン樹脂(b)の自己収縮が更に抑制され、また、上記のような0.1秒以上5秒以下という短時間で冷却を行うと、水溶性メラミン樹脂(b)の拡散が抑制される。その結果、ポリウレタン樹脂(a)と反応した水溶性メラミン樹脂(b)がドメインを形成して、上層塗膜13中に個数平均粒径5nm以上20nmの粒状で分散し、かつ、上層塗膜13の表面から深さ15nm以内の表層に濃化した状態となり易い。このため、製造された表面処理鋼板1において、金属外観、耐薬品浸透性及び耐溶剤性が更に向上し易くなる。
【0108】
ここで、加熱時間が1秒未満である場合には、ポリウレタン樹脂(a)と水溶性メラミン樹脂(b)との反応が不十分となり、耐薬品浸透性及び耐溶剤性が低下することがある。一方、加熱時間が30秒を超える場合には、水溶性メラミン樹脂(b)が自己縮合し易くなり、自己縮合粒が大きくなると共に、塗膜の表層へ濃化する現象が生じ、製造された表面処理鋼板1において、金属外観及び耐薬品浸透性が低下することがある。
【0109】
また、冷却時間が0.1秒未満である場合、冷却が急激に行われる結果上層塗膜13に割れが生じることがある。一方、冷却時間が5秒を超える場合には、水溶性メラミン樹脂(b)の拡散が生じ、製造された表面処理鋼板1において、金属外観及び耐薬品浸透性が低下することがある。
【0110】
金属外観、耐薬品浸透性及び耐溶剤性の観点から、加熱時間は、1秒以上20秒以下であることが好ましい。また、同様な観点から、冷却時間は、0.1秒以上2秒以下であることが好ましい。
【0111】
なお、最高到達温度とその保持時間については、特に制限されるものではなく、用いた水系溶媒に応じて、水系溶媒の沸点以上となる最高到達温度を適宜設定した上で、例えば、0.1秒以上5秒以下程度の保持時間を設定すればよい。
【0112】
また、上層塗膜13で濃化部103を複数形成する場合には、まず、40~100℃の温度まで1~20秒で加熱する。次に、200℃超まで1~10秒で加熱する。その後、冷却する。このように上層塗膜13を形成することで、表層の濃化部103に加えて、表層以外の深さ位置にも濃化部103が形成される。
【0113】
以上、本実施形態に係る上層塗膜形成工程について、詳細に説明した。
【0114】
<下層塗膜形成工程について>
続いて、本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法における、下層塗膜形成工程について説明する。
本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法において、下層塗膜形成工程については、特に制限はなく、周知の下層塗料を第二塗料の一例として使用して、周知の方法で下層塗膜15を形成することができる。
【0115】
周知の方法の中でも、金属外観、耐薬品浸透性及び耐溶剤性の観点から、下層塗膜形成工程は、アニオン性官能基を含み、ガラス転移温度がポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度以下であるポリウレタン樹脂(c)と、エポキシ樹脂(d)、シランカップリング剤(e)、並びに、P、V、Ti、Si及びZrからなる群より選択される何れか1種以上の元素を含有する防錆剤(f)の少なくとも何れかと、水系溶媒と、を含有する下層塗料を、亜鉛系めっき鋼板11の少なくも片面上に成膜及び加熱した後冷却して、下層塗膜15を形成する工程であることが好ましい。
【0116】
[ポリウレタン樹脂(c)について]
先だって言及しているように、ポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度は、ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度以下であることが好ましい。ポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度がポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度以下であると、下層塗膜15と上層塗膜13との密着性が向上し、耐薬品浸透性がより一層向上し易くなる。
【0117】
ポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度は、80℃以上160℃以下の範囲内の値であり、かつ、ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度以下(好ましくは、ポリウレタン樹脂(a)のガラス転移温度よりも5℃以上低い)ことが、より好ましい。ポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度が80℃未満である場合には、耐薬品浸透性が低下することがある。一方、ポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度が160℃を超える場合には、加工性が低下することがある。加工性が低下すると、下層塗膜15に割れ等が生じ、耐薬品浸透性及び耐溶剤性も低下する。ポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度は、耐薬品浸透性及び耐溶剤性の観点(特に耐薬品浸透性の観点)から、好ましくは100℃以上160℃以下の範囲内である。
【0118】
なお、ポリウレタン樹脂(c)は、ガラス転移点温度80℃以上160℃以下のポリウレタン樹脂と、ガラス転移点温度20℃以上60℃以下のポリウレタン樹脂と、を含むポリウレタン樹脂であってもよい。ガラス転移温度が異なるポリウレタン樹脂を使用し、ポリウレタン樹脂(c)のガラス転移温度を調整することで、耐薬品浸透性がより一層向上し易くなる。
【0119】
なお、ポリウレタン樹脂(c)の具体的な種類としては、ポリウレタン樹脂(a)で例示した各種のポリウレタン樹脂を挙げることができる。
【0120】
[エポキシ樹脂(d)について]
エポキシ樹脂(d)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂の中でも、脂肪族型エポキシ樹脂が焼付により変色し難いため、エポキシ樹脂(d)として用いることが、特に好ましい。
【0121】
これらエポキシ樹脂(d)の具体的な種類としては、特に限定されるものではなく、市販の各種のエポキシ樹脂(d)を使用することが可能であるほか、ガラス転移温度が上記の範囲内となるようなものを自前で合成して、適宜使用することが可能である。
【0122】
[シランカップリング剤(e)について]
シランカップリング剤(e)としては、特に制限されるものではなく、公知の各種のシランカップリング剤を用いることが可能である。このようなシランカップリング剤として、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。かかるシランカップリング剤を下層塗料に含有させることで、下層塗膜15の耐薬品浸透性を更に向上させることが可能となる。
【0123】
[防錆剤(f)について]
本実施形態に係る下層塗膜形成工程では、防錆剤(f)として、P、V、Ti、Si及びZrからなる群より選択される何れか1種以上の元素を含有する防錆剤を使用することが可能である。かかる防錆剤(f)を下層塗料に含有させることで、下層塗膜15の耐食性を向上させることが可能となる。
【0124】
防錆剤(f)として機能するPを含有する化合物としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類及びこれらの塩や、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びこれらの塩や、フィチン酸等の有機リン酸類及びこれらの塩等を挙げることができる。
【0125】
防錆剤(f)として機能するVを含有する化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸等を挙げることができる。また、5価のバナジウム化合物を水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1級~3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、4価~2価に還元したもの、オキソバナジウムカチオンと、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸アニオン又はギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸等の有機酸アニオンとの塩や、グリコール酸バナジル、デヒドロアスコルビン酸バナジルのような、有機酸とバナジル化合物のキレート等を用いることができる。
【0126】
防錆剤(f)として機能するTiを含有する化合物としては、例えば、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタニル、塩化チタン、チタンラクテート、チタンイソプロポキシド、チタン酸イソプロピル、チタンエトキシド、チタン2-エチル-1-ヘキサノラート、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラ-n-ブチル、チタニアゾル、チタンフッ化水素酸又はその塩等を挙げることができる。
【0127】
防錆剤(f)として機能するSiを含有する化合物としては、例えば、スノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS-M、スノーテックスPS-L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(何れも日産化学工業社製)、アデライトAT-20N、アデライトAT-20A、アデライトAT-20Q(何れも旭電化工業社製)などのコロイダルシリカや、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(何れも日本アエロジル社製)などの気相シリカ等を挙げることができる。
【0128】
防錆剤(f)として機能するZrを含有する化合物としては、例えば、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムフッ化水素酸又はその塩等を挙げることができる。
【0129】
[成膜方法(塗布方法)、加熱方法(焼付け方法)及び冷却方法について]
下層塗膜形成工程において、亜鉛系めっき鋼板11の少なくとも片面上に下層塗料を成膜及び加熱した後冷却する方法については、特に制限はなく、例えば、上層塗膜形成工程で説明したような、各種の成膜方法(塗装方法)、加熱方法及び冷却方法を利用することができる。また、下層塗料を塗布した亜鉛系めっき鋼板11の最高到達温度、加熱時間、保持時間及び冷却時間についても、特に制限は無く、適宜設定すればよい。
【0130】
<その他の成分について>
本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法において、上層塗料及び下層塗料には、いずれも、ワックス、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、分散剤等といった周知の添加剤を含有させてもよい。すなわち、本実施形態に係る表面処理鋼板において、上層塗膜13及び下層塗膜15は、いずれも、これら周知の添加剤を含有してもよい。
【0131】
<テクスチャ形成工程について>
本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法では、上記のような上層塗料を塗布する亜鉛系めっき鋼板11の表面に、必要に応じて、梨地、荒らし、筋目(ヘアライン)、布目(サテン)、槌目(ハンマー)等といった、各種のテクスチャを形成してもよい。亜鉛系めっき鋼板11の表面に上記のようなテクスチャを予め形成することで、本実施形態に係る表面処理鋼板の意匠性を更に向上させることが可能となる。
【0132】
ここで、上記のような各種のテクスチャを形成するための方法や用いる装置については、特に制限されるものではなく、公知の各種のものを適宜利用することが可能である。
【0133】
以上、本実施形態に係る表面処理鋼板の製造方法について、詳細に説明した。
【実施例】
【0134】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る表面処理鋼板及び表面処理鋼板の製造方法について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る表面処理鋼板及び表面処理鋼板の製造方法のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る表面処理鋼板及び表面処理鋼板の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0135】
(試験例1)
<亜鉛系めっき鋼板(原板)>
日本製鉄株式会社製の溶融亜鉛めっき鋼板「NSシルバージンク(登録商標)」(以降、「GI」と称する。)、日本製鉄株式会社製の電気亜鉛めっき鋼板「NSジンコート(登録商標)」(以降、「EG」と称する。)、日本製鉄株式会社製の亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板「NSジンクライト(登録商標)」(以降、「ZL」と称する。)、亜鉛―鉄合金めっき「NSシルバーアロイ(登録商標)」(以降、「GA」と称する)、日本製鉄株式会社製の亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-シリコン合金めっき鋼板「スーパーダイマ(登録商標)」(以降、「SD」と称する。)、日本製鉄株式会社製の亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板「ZAM(登録商標)」(以降、「ZAM」と称する。)を、亜鉛系めっき鋼板(原板)として使用した。亜鉛系めっき鋼板の板厚は、それぞれ0.6mmであった。
【0136】
ZLのめっき付着量は、片面あたり20g/m2であり、めっき層中のニッケル量は、12質量%であった。また、GI、SD、GL、ZAMのめっき付着量は、それぞれ片面あたり60g/m2であった。GAのめっき付着量は、片面あたり45g/m2であった。EGのめっき付着量は、片面あたり20g/m2であった。
いくつかの実施例・比較例では、亜鉛系めっき鋼板の表面にヘアラインのテクスチャを形成した。
【0137】
<塗料>
本試験例では、上記のような亜鉛系めっき鋼板(原板)の片面上に、上層塗膜のみを有する
図1Aに示したような1層構造、又は、下層塗膜及び上層塗膜を有する
図1Bに示したような2層構造の表面処理鋼板を作製した。ここで、上層塗料の調整に使用したポリウレタン樹脂及び水溶性メラミン樹脂を、以下の表1に示した。同様に、下層塗料の調整に使用したポリエステル樹脂、水溶性メラミン樹脂、シランカップリング剤、及び、着色剤を、それぞれ、以下の表2に示した。
【0138】
<上層塗料>
1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン145g、ジメチロールプロピオン酸20g、ネオペンチルグリコール15g、分子鎖中の芳香族環数の異なるポリウレタンジオ-ル75g、溶剤としてアセトニトリル64gを加え、窒素雰囲気下、75℃に昇温、3時間攪拌した。所定のアミン当量に達したことを確認し、この反応液を40℃まで降温させた後、トリエチルアミン(沸点89℃)30gを加え、ポリウレタンプレポリマーのアセトニトリル溶液を得た。この溶液300gを、水700gにホモディスパーを用いて分散させエマルション化し、溶液を40℃に保持し、鎖伸長剤としてエチレンジアミンヒドラジン一水和物35.6gを添加することで鎖伸長反応させた。続いて、反応液を50℃、150mmHgの減圧下でポリウレタンプレポリマー合成時に使用したアセトニトリルを留去することにより、自作ポリウレタン樹脂1~5を得た。
これら自作ポリウレタン樹脂および市販樹脂を主樹脂とし、硬化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤を添加し、上層塗料を作製した。ここで、上層塗料に紫外線吸収剤を添加する場合には、Sumisorb200(住化ケムテックス社製)を用いた。また、上層塗料に光安定剤を添加する場合には、アデカスタブLA-77G(ADEKA社製)を用いた。
各上層塗料の配合を表3A~表3Cに示す。
<下層塗料>
下層塗料の配合を表4A~表4Cに示す。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
<表面処理鋼板の作製>
各種亜鉛系めっき鋼板を、FC-4336(日本パーカライジング社製)を2質量%含有する温度60℃の水溶液中に10秒間浸漬することで脱脂を行い、水洗後、乾燥させた。
【0148】
次に、上述のように製造した下層塗料を、ロールコーターにて、それぞれ塗装した。熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて、金属板の最高到達板温が150℃となり、かつ、加熱開始から最高到達温度までの加熱時間が5秒となる条件で、下層塗料の膜を加熱(乾燥硬化)した。最高到達温度に達してから1秒後に、塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、最高到達温度から30℃までの冷却時間が1秒となる条件で水冷した。なお、加熱時における最高到達温度の保持時間は、1秒とした。
【0149】
次に、上述のように製造した上層塗料を、ロールコーターにて、それぞれ塗装した。熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて、金属板の最高到達板温、加熱開始から最高到達温度までの加熱時間及び40~100℃での保持時間を調整し、上層塗料の膜を加熱(乾燥硬化)した。最高到達温度に達してから1秒後に、塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、最高到達温度から30℃までの冷却時間が1秒となる条件で水冷した。なお、加熱時における最高到達温度の保持時間は、1秒とした。
【0150】
製造したそれぞれの表面処理鋼板のサンプルについて、既述の方法に従って、上層塗膜において、表層濃化部の厚さ(濃化深さ)、及び、粒状のトリアジン部位(水溶性メラミン樹脂)の個数平均粒径(粒径)を測定した。また、第一塗膜の表面から0.2μmの深さ位置におけるN濃度N1と第一塗膜と金属板との界面から第一塗膜側に0.2μmの深さ位置におけるN濃度N2との比率であるN1/N2について、既述の方法に従って測定した。
また、表層濃化部を酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて10万倍の倍率で観察したときに5nm以上のメラミン粒子が観察されるかどうかを、既述の方法に従って判定した。
【0151】
製造したそれぞれの表面処理鋼板のサンプルについて、皮膜に含まれる芳香族環とウレタン結合の比率を見積もった。具体的には、表面処理鋼板の表面からフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR、PerkinElmer社製Frontier)を用いて塗膜を分析し、芳香族環に起因する1510±10cm-1のピーク高さ(I1)とウレタン結合に起因する1533±10cm-1のピーク高さ(I2)を求めた。その後、これらのピーク高さの比(I1/I2)を算出した。
【0152】
製造したそれぞれの表面処理鋼板のサンプルについて、既述の方法に従って、各塗膜のガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0153】
<評価方法>
製造したそれぞれの表面処理鋼板について、以下に示す基準で評価を行った。
【0154】
[金属外観]
JIS G4305:2012で規定されるヘアラインステンレス鋼板にクリア塗料を塗布した。クリア塗料には市販のポリエステル/メラミン塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、NSC200HQ)を使用し、塗布はバーコーターで行った。その後、塗料を塗布したステンレス鋼板を熱風炉で30秒間焼付け硬化した。このような工程により塗膜の厚みが異なる複数種類の比較用サンプルを準備した。ついで、試験サンプルとこれらの比較用サンプルとのメタリック感を比較し、以下の評価基準に基づいて試験サンプルの金属感を評価した。評価基準が3以上を合格と判断した。
【0155】
(評価基準)
5:ステンレス(塗装なし)同等以上のメタリック感
4:ステンレス(塗膜厚5μm)同等
3:ステンレス(塗膜厚10μm)同等
2:ステンレス(塗膜厚30μm)同等
1:メタリック感が感じられない
【0156】
[耐薬品浸透性試験]
製造したそれぞれの表面処理鋼板を幅5cmに切断し、端面をすべてニトフロン(登録商標)テープで保護したサンプルを、20℃の5%硫酸水に24時間浸漬し、変色の程度を5段階で評価した。評価基準が3以上を合格と判断した。
【0157】
(評価基準)
5:変色なし
4:ごくわずかに変色あり
3:わずかに変色あり
2:多くの変色あり
1:多くの変色かつ塗膜剥離あり
【0158】
[耐候性]
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機製、)により、カーボンアーク光照射を500時間照射させた。1時間に12分間雨を模擬して水を噴霧させた。試験前後の色調を、CIELAB(JISZ8729)のL*,a*,b*表色系を、コニカミノルタ製CR-400分光測色計で測定し、色差ΔE*を算出した。ΔE*に応じて5段階で評価した。評価基準が3以上を合格と判断した。
【0159】
(評価基準)
5:ΔE*≦1.0
4:ΔE*≦3.0
3:ΔE*≦5.0
2:ΔE*≦10.0
1:ΔE*>10.0
【0160】
[加工性試験]
製造したそれぞれの表面処理鋼板を幅5cmに切断し、JIS G3312に準じた試験方法により、20℃の雰囲気中で2T曲げを行った。具体的には、試験片と同一の塗板を2枚内側にはさみ、上層塗膜及び下層塗膜が形成されている表面を外側にして、180度密着曲げを行った。塗膜の亀裂を(優)A、B、C、D(劣)の4段階で評価した。評価基準がA、B、及びCを合格と判断した。
【0161】
(評価基準)
A:亀裂なし
B:わずかに亀裂あり
C:多くの亀裂あり
D:多くの亀裂かつ塗膜剥離あり
【0162】
[耐汚染性試験]
製造したそれぞれの表面処理鋼板に対して、マジックインキ(寺西化学工業株式会社)赤色を塗布し、24時間後にエタノールで拭き取り、インクの痕残りを5段階で評価した。なお、痕残りが顕著なものについては、コニカミノルタ製CR-400を用いて、試験前後で赤みを表すa*値を測定し、その差(Δa*)により、以下のとおり評価した。評価基準が3以上を合格と判断した。
【0163】
(評価基準)
5:痕残りなし
4:わずかに痕残りあり
3:Δa*が1超、3以下
2:Δa*が3超、5以下
1:Δa*が5超
【0164】
製造したそれぞれの表面処理鋼板の水準及び評価結果について、表5A~表5Cに示した。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
上記表5から明らかなように、本発明の実施例に該当する表面処理鋼板は、金属外観、耐薬品浸透性、耐溶剤性及び加工性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0169】
1 表面処理鋼板
11 亜鉛系めっき鋼板
13 上層塗膜(第一塗膜)
15 下層塗膜(第二塗膜)
101 トリアジン粒状物(分散型第二部位)
103 濃化部(濃化型第二部位)