(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
C22B1/16 K
C22B1/16 N
(21)【出願番号】P 2020137572
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 勝
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133937(JP,A)
【文献】特開2020-084204(JP,A)
【文献】特開平06-158185(JP,A)
【文献】特開2011-127184(JP,A)
【文献】特開2014-218713(JP,A)
【文献】特開昭62-060828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結原料の凝結材として、粉コークスおよび無煙炭の少なくともどちらか一方からなる低燃焼性炭材と、前記低燃焼性炭材よりも燃焼開始温度が低い炭材である高燃焼性炭材とを用い、
前記高燃焼性炭材の炭素分は、前記凝結材の炭素分に対して質量比率が25質量%~75質量%であり、
前記焼結原料として、金属鉄または二価鉄イオンを含有する鉄系原料である低酸化度鉄系原料を全新原料に対して内数で2質量%以上配合し、
前記低燃焼性炭材および前記高燃焼性炭
材を、前記焼結原料の造粒工程後半において添加
し、
前記低燃焼性炭材および前記高燃焼性炭材を添加するまでの焼結原料の造粒時間を、焼結原料の全造粒時間に対して80%以上96%以下とする焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉原料用の焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、特に、コークスおよび無煙炭よりも燃焼開始温度が低い高燃焼性炭材を凝結材(炭材)として用いる焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑の主原料は、焼結鉱である。焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、焼結鉱製造用の原料(焼結原料)として、鉄鉱石(粉)等の鉄原料、スケール・製鉄ダスト等の含鉄雑原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、燃焼熱によって焼結鉱を焼結(凝結)させる燃料となる炭材(凝結材)などを、所定の割合で混合する。混合した配合原料を造粒して配合原料造粒物とする。次に、配合原料造粒物を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット(焼結パレット)上に搭載して、原料充填層(焼結充填層)を形成する。形成した原料充填層の上部(表面)から、点火炉(点火器)により原料充填層中の炭材に点火する。そして、パレットを連続的に移動させながらパレットの下方から空気を吸引する。吸引により原料充填層内に酸素を供給し、原料充填層中の炭材の燃焼を上部から下部に向けて進行させて、炭材の燃焼熱により原料充填層を順次焼結させる。焼結により得られた焼結部(焼結ケーキ)は、所定の粒度に粉砕、篩分け等により整粒され、高炉の原料である焼結鉱となる。
【0003】
焼結用の炭材(凝結材)として、主に、コークス、無煙炭が用いられる。焼結用のコークスは、高炉用のコークスを製造する過程で、高炉使用に適さない粒度(通常40mm以下)のものを、焼結使用に適する3mm以下に粉砕したものである。高炉用の塊コークスに対して焼結用を粉コークスとも呼ぶ。無煙炭は、石炭に付与される分類(褐炭、瀝青炭、無煙炭)の一つで、最も炭化が進行した石炭である。燃料比(固定炭素/揮発分(質量比))で4以上の石炭、簡易には、炭素含有量が90質量%以上の石炭が無煙炭に分類される。
【0004】
高炉の原料として適した焼結鉱を製造するために、様々な焼結鉱の製造方法が提案されている。例えば、特許文献1には、焼結鉱の製造において、燃焼反応開始温度が450℃未満の低温燃焼固体燃料(亜瀝青炭、褐炭、または、亜瀝青炭と褐炭とを混合した混合炭を800℃程度の比較的低温で乾留して得られたチャー)を10mass%以上含む固体燃料を用いる焼結鉱の製造方法が開示されている。低温燃焼固体燃料を、粉コークス、無煙炭またはカーボン含有ダストとともに、固体燃料として用いることで、固体燃料の燃焼性を本質的に改善させ、生産性を向上させる。
【0005】
特許文献2および特許文献3には、炭材(凝結材)を後添加する技術(炭材後添加焼結法)が開示されている。炭材後添加焼結法とは、炭材以外の焼結原料の造粒中、または、炭材以外の焼結原料の造粒後に、炭材以外の焼結原料の造粒物に炭材を後から添加して、焼結原料造粒物を製造する技術である。
【0006】
特許文献2においては、炭材として揮発分が10mass%以下の炭材を用いた炭材後添加焼結法が開示されており、褐炭などを熱分解した石炭チャーを用いた場合でも、造粒粒子の粒度を高めるとともに炭材の燃焼性を向上できる焼結原料を得ることができ、得られた焼結原料を用いて焼結鉱を製造することで焼結鉱の燃焼歩留および生産率を高めることができることが記載されている。
【0007】
特許文献3においては、焼結用炭材の原料としてロガ指数が10以下である石炭を用いた炭材後添加焼結法が開示されており、焼結鉱を製造するときに発生するNOxの排出量を低減でき、石炭から焼結用炭材を製造することなく、石炭のロガ指数を算出するだけで焼結用炭材の原料を選定することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2010-106756号
【文献】特開2018-3081号公報
【文献】特開2020-56086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、特許文献1においては、固体燃料として、コークスまたは無煙炭などとともに、低温燃焼固体燃料を用いる技術が開示されている。また、特許文献2,3には、を炭材後添加焼結法が開示されている。しかしながら、これまで、コークスまたは/および無煙炭(コークスおよび無煙炭は後述する低燃焼性炭材に分類される)と、低燃焼性炭材よりも燃焼開始温度が低い高燃焼性炭材とを凝結材として併用しつつ、凝結材(一部または全部)を焼結原料の造粒工程において後添加する焼結鉱の製造方法については検討されてこなかった。
【0010】
本発明は、凝結材として低燃焼性炭材と高燃焼性炭材とを併用しつつ、焼結原料の造粒工程において凝結材を後添加する焼結鉱の製造方法において、焼結の歩留の向上を可能とする全凝結材に対する高燃焼性炭材の好ましい配合比率(低燃焼性炭材と高燃焼性炭材との好ましい配合比率)を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)焼結原料の凝結材として、粉コークスおよび無煙炭の少なくともどちらか一方からなる低燃焼性炭材と、前記低燃焼性炭材よりも燃焼開始温度が低い炭材である高燃焼性炭材とを用い、
前記高燃焼性炭材の炭素分は、前記凝結材の炭素分に対して質量比率が25質量%~75質量%であり、
前記低燃焼性炭材および前記高燃焼性炭材の少なくともいずれか一方を、前記焼結原料の造粒工程後半において添加する焼結鉱の製造方法。
(2)前記焼結原料として、金属鉄または二価鉄イオンを含有する鉄系原料である低酸化度鉄系原料を全新原料に対して内数で2質量%以上配合する(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材とを凝結材として併用する場合において、高燃焼性炭材の炭素分を凝結材の炭素分に対して質量比率で25質量%~75質量%として、低燃焼性炭材および高燃焼性炭材の少なくともいずれか一方を、焼結原料の造粒工程後半において添加することにより、焼結の歩留を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】焼結充填層における焼成状態を説明する概略説明図である。
【
図2】褐炭チャーおよび粉コークスの配合比と焼結ヒートパターンとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、焼結鉱製造用の原料(焼結原料)として使用する低燃焼性炭材および高燃焼性炭材と、低酸化度鉄系原料について順に説明し、その後に本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
(低燃焼性炭材と高燃焼性炭材)
焼結原料の炭材(凝結材)は、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材とに分類される。
低燃焼性炭材はコークスおよび無煙炭であり、高燃焼性炭材は、低燃焼性炭材より燃焼性の高い炭材である。具体的には、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材とは示差熱天秤で得られる燃焼開始温度に基づいて分類され、低燃焼性炭材は550℃を超える炭材であり、高燃焼性炭材は550℃以下の炭材である。
【0016】
高燃焼性炭材には、例えば、石炭チャーやバイオマス炭(アブラ椰子核殻炭や、木材を乾留して製造した木炭チャーなど)などがある。コークスの着火温度は約670℃、無煙炭の着火温度は約690℃であるのに対し、石炭チャー(セミコークス、褐炭チャー、および亜瀝青炭チャー)の着火温度は約430℃~550℃であり、バイオマス炭(アブラ椰子核殻炭)の着火温度は約470℃と低い。石炭チャーとバイオマス炭(アブラ椰子核殻炭)は、着火温度がおおよそ同じ温度であるので、同様の燃焼性を有する。
【0017】
ここで、石炭チャーとは、例えば、粘結性の低い瀝青炭、褐炭、および亜瀝青炭などを原炭として、700~900℃で乾留して製造した炭材(チャー)である。粘結性の低い瀝青炭、褐炭、亜瀝青炭を乾留して製造した炭材を、それぞれ、セミコークス、褐炭チャー、亜瀝青炭チャーという。これらの炭材は、原料となる石炭(混炭を含む)を、熱分解炉(例えばロータリーキルン)により乾留して製造される。
また、バイオマス炭とは、例えば、アブラ椰子核や木材などの生物資源(バイオマス)を材料として、これを熱処理して製造された炭材である。アブラ椰子核殻炭(PKS炭)は、アブラ椰子核殻(Palm Kernel Shell)を加熱処理(乾留)して製造した固体炭化物である。PKS炭の製造方法については、特開2014-218713(原ら)などに記載されているので、詳細は省略する。
【0018】
(低酸化度鉄系原料)
低酸化度鉄系原料は、金属鉄または二価鉄イオンのうちの少なくとも1つを含有し、酸化発熱性を有する。鉱物相では、金属鉄(Fe)、ウスタイト(FeO)、およびマグネタイト(Fe3O4)のうちの少なくとも1つを含有する。スケール(製鐵所で発生するミルスケール、スカーフィングスケール)や転炉ダストが例示される。
高温下となる焼結過程において、金属鉄(Fe)、ウスタイト(FeO)、およびマグネタイト(Fe3O4)は酸化され、例えば、金属鉄(Fe)やウスタイト(FeO)はマグネタイト(Fe3O4)やヘマタイト(Fe2O3)に、マグネタイト(Fe3O4)はヘマタイト(Fe2O3)に変化する。これらの酸化反応は発熱反応であるので、低酸化度鉄系原料を発熱源として使用することもできる。
【0019】
本発明の焼結鉱製造方法は、焼結原料の凝結材として、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材とを併用し、高燃焼性炭材に含有される炭素分は全凝結材含有される炭素分に対して質量比率が25質量%~75質量%であり、低燃焼性炭材および高燃焼性炭材の少なくともいずれか一方を、焼結原料の造粒工程後半において添加する。このような配合比率および後添加とすることにより、焼結の成品歩留が向上する。その根拠は、後述する実施例による。なお、ここで、凝結材として使用する低燃焼性炭材は粉コークスおよび無煙炭の少なくともどちらか一方からなる。また、凝結材として使用する高燃焼性炭材は、1種類の原料からなるものでも、複数種類の原料を混合したもの(例えば、複数種類の石炭チャーを混合したもの、石炭チャーとバイオマス炭を混合したもの、複数の原料炭を混合した混合原料炭から製造した石炭チャーなど)でもよい。
【0020】
本発明では、凝結材として、従来の低燃焼性炭材(粉コークス、無煙炭)と共に、低燃焼性炭材より燃焼開始温度が低い高燃焼性炭材を使用する。低燃焼性炭材と高燃焼性炭材とは燃焼開始温度が異なるため、下方吸引により焼結が進行する焼結過程において両者の燃焼位置(燃焼ゾーン)が異なってくる。低燃焼性炭材と高燃焼性炭材の配合比率が適正な範囲において、焼結工程において、燃焼特性の異なる複数の炭材を燃焼させることにより、焼結充填層の層高方向における燃焼帯の幅を拡大することができ、燃焼帯の高温保持時間の伸延が達成される。
【0021】
また、本発明では、造粒工程において低燃焼性炭材および高燃焼性炭材の少なくともどちらか一方を後添加する(後添加する低燃焼性炭材および高燃焼性炭材の少なくともどちらか一方を、以下、後添加炭材ともいう)。すなわち、造粒機を用いて焼結原料から焼結原料造粒物(焼結原料の造粒物)を製造する造粒工程において、まず、後添加炭材を除く焼結原料を先に造粒機に投入して混合し、調湿して造粒を開始する。続いて、後添加炭材を後から(造粒工程の途中で)造粒機内に投入して、焼結原料造粒物を製造する。後添加炭材を後から適正なタイミングで添加することにより、後添加炭材は焼結原料造粒物に外装され、すなわち造粒物へ内包されることはなく、造粒物の表層に付着または未付着な独立粒として存在する。後添加炭材が外装された焼結原料造粒物(配合原料造粒物)を用いることにより、焼結工程における後添加炭材の燃焼開始のタイミングを調整することが可能となる。なお、後添加炭材は、低燃焼性炭材および高燃焼性炭材のうちのどちらか1種類であればよい。
【0022】
造粒工程における後添加は、例えば、以下のように行う。造粒には、下流側に向かって下方に中心軸が傾斜するピストンフロー形式の筒型の造粒機を使用し、下流出口から小さな搬送コンベアを造粒機内部の所定位置まで差し入れた状態とする。上流入口から後添加炭材を除く焼結原料(以下、後添加前焼結原料ともいう)を投入すると、投入した焼結原料は混合され造粒されながら下流側へ移動する。後添加炭材は搬送コンベアに載って造粒機の下流出口から内部上流側に搬入される。後添加炭材は、造粒機内を上流側から造粒されつつ移動してきた後添加前焼結原料の造粒物に、所定位置で添加されて、全焼結原料がさらに造粒され、下流出口から焼結原料造粒物(配合原料造粒物)として排出される。
【0023】
なお、後添加炭材を添加するまでの後添加前焼結原料の造粒時間を、焼結原料の全造粒時間に対して80%以上96%以下、すなわち、後添加のタイミングを造粒工程における焼結原料の全造粒時間の80%から96%の範囲内の時間とすることが好ましい。後添加が全造粒時間の80%の時間よりも早いと、後添加炭材が造粒物への内包されてしまうことを十分に回避することができない。また、後添加が全造粒時間の96%の時間よりも遅いと、後添加炭材の造粒処理が不十分となる。ここで、造粒工程における全造粒時間は、焼結原料が造粒機に投入されて加水されるまでの単に混合されている時間(混合時間)は含まない。焼結においては、主としてドラムミキサーを使用するが、これは等速のピストンフロー型である。従って、後添加位置はドラムミキサーの機長方向の距離で対応できる。
【0024】
また、上述の配合比率および後添加のタイミングの条件において、焼結原料として、金属鉄または/および二価鉄イオンを含有する鉄系原料(低酸化度鉄系原料)を、全新原料に対して内数で2質量%以上配合してもよい。焼結工程において、低酸化度鉄系原料中の金属鉄、二価鉄イオンが酸化し、その酸化熱でさらに歩留が向上する。
【0025】
以下、図面を用いて、焼結充填層における燃焼反応の進行について説明する。
図1は、焼結原料として、従来の凝結材である低燃焼性炭材(粉コークスなど)と共に、高燃焼性炭材(褐炭チャーなど)、および低酸化度鉄源(ミルスケールなど)を使用した場合における焼結充填層内の焼成状態を説明する説明図である。
図1(A)は時刻t
1における焼結充填層内の状態を、
図1(B)は時刻t
2における焼結充填層内の状態を示す模式図であり、時刻t
2は、時刻t
1から所定の時間が経過した後の時刻である。また、
図1(C)は、時刻t
2における焼結充填層内の層高方向における温度および酸素濃度分布を、
図1(B)の焼結充填層内の層高方向の位置に対応させて示した図である。なお、
図1(C)の温度および酸素濃度を示す各グラフは、左方から右方に向かって高温および高濃度となることを示している。
【0026】
焼結工程において、燃焼は点火された焼結充填層表面から下方へと進行する。
図1(A)に示すように、焼結中の焼結充填層は層高方向の上下において焼結の進行状況により3つの領域に分けられる。具体的には、上層側には焼結が完了した焼結ケーキが、下層側には焼結前の焼結原料が、これらに挟まれた中間部分には凝結材の燃焼反応および低酸化度鉄源の酸化反応が起きている酸化(燃焼)帯が存在している。
図1(A)および
図1(B)に示すように、時間の経過(時刻t
1から時刻t
2へ)により焼結が進行し、酸化(燃焼)帯は降下していく。
【0027】
図1(B)に示すように、酸化(燃焼)帯は燃焼反応および酸化反応の進行状況により、さらに、層高方向の下方から上方に向かって順に3つの領域A,B,Cに分けられる。領域Aでは主に高燃焼性炭材の燃焼反応が、領域Bでは主に低燃焼性炭材の燃焼反応が、領域Cでは低酸化度鉄源の酸化反応が起きている。以下、
図1(B)および
図1(C)を用いて、酸化(燃焼)帯における燃焼反応および酸化反応の進行について説明する。
【0028】
下方の未焼結の焼結原料の層に酸化(燃焼)帯が降下すると、凝結材のうち燃焼開始温度が低い高燃焼性炭材がまず燃焼を開始し、その後消失する。つまり、酸化(燃焼)帯の再下面が高燃焼性炭材の燃焼開始位置であり、高燃焼性炭材の燃焼範囲は、酸化(燃焼)帯の下側部分(A領域)である。高燃焼性炭材の燃焼により、
図1(C)に示すように、焼結層内の温度が上昇すると、燃焼開始温度が高い低燃焼性炭材が燃焼を開始し、その後消失する。低燃焼性炭材は、高燃焼性炭材に遅れて燃焼を開始するため、その燃焼範囲は、A領域の上側である酸化(燃焼)帯の中間部分(B領域)となる。ここで、
図1(C)に示すように、領域Bにおいては、低燃焼性炭材の燃焼により高温環境となるが、低燃焼性炭材の燃焼により酸素が消費されてCOが発生して還元雰囲気下となるため、低酸化度鉄源の酸化は抑制された状態となっている。B領域の上側である酸化(燃焼)帯の上側部分(C領域)では、低燃焼性炭材が燃焼し消失することにより、上方から供給される大気中の酸素の消費量が減少してCOの発生量も減少するため、低酸化度鉄源の酸化が促進されて、この酸化反応により酸化熱が発生する。
【0029】
このように、酸化(燃焼)条件の異なる複数の原料(低燃焼性炭材と高燃焼性炭材との2種類の凝結材、および低酸化度鉄系原料)を焼結原料に配合することにより、
図1(B)の領域A~Cに示すように多段燃焼を実現することができ、焼結の進行にともなって層高方向における燃焼および酸化領域(酸化(燃焼)帯)が拡大する。その結果、層高方向における任意位置における高温保持時間が伸延し、成品歩留向上が見込まれる。なお、上述した説明においては焼結原料に低酸化度鉄系原料を配合した場合について述べたが、低酸化度鉄系原料を配合しない場合においても、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材との2種類の凝結材により、
図1(B)の領域Aおよび領域Bによる多段燃焼を実現することができる。低燃焼性炭材のみを使用する場合に比べて層高方向における酸化(燃焼)領域が拡大するので、成品歩留向上が見込まれる。
【0030】
しかしながら、上述のような高燃焼性炭材の燃焼と低燃焼性炭材の燃焼とが連続する多段燃焼を実現するには、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材の配合比率を適正なものとする必要がある。そこで、本発明者らは、上述の配合比率および後添加のタイミングの根拠となる後述の実施例を行う前に、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材の配合比率(配合比)が焼結層温度の経時変化(以下、ヒートパターンという)に与える影響について調べるバッチ実験を行った。以下、バッチ実験について説明する。バッチ実験においては、低燃焼性炭材として粉コークスを、高燃焼性炭材として褐炭チャーを使用した。
【0031】
バッチ実験では、直径100mm高さ160mmの円柱形鍋を用いた。粉コークスおよび褐炭チャーの配合比(後述する炭素分質量比率による配合比)を変更した凝結材を配合した5つの試料(配合原料)を準備し、それぞれについて焼結を行い、焼結層内温度を測定した。なお、温度の測定位置は、焼結層の層高方向において上面から深さ140mm位置、水平方向において鍋の中央位置として、この焼結層内位置におけるヒートパターンを調査した。
【0032】
図2は、バッチ実験で測定した各試料のヒートパターンを示す。
図2に示すように、褐炭チャーの配合率が0%および褐炭チャーの配合率が100%のケースは、褐炭チャーの配合率が25%以上75%以下のケースと比較して最高温度が低く、高温保持時間が短かった。後述する実施例にも示すように、褐炭チャーの配合率が25%未満であると、高燃焼性炭材配合効果である燃焼前線降下速度の向上効果が得られず、褐炭チャーの配合率が75%を超えると、高燃焼性炭材特有の高速燃焼によって、成品歩留が低下するためであると考えられる。
【0033】
さらに、本発明の重要な構成として、凝結材を造粒工程の最終段階で後添加することが挙げられる。凝結材を他の焼結原料と一括造粒してしまうと、造粒物の付着粉層中に内包されてしまう。内包されてしまうと、凝結材の燃焼開始が付着粉層の伝熱時間に律速されてしまい、凝結材の燃焼特性の差異が顕在化しなくなる。本発明者らは、種々の検討の結果、造粒工程において、2種類の凝結材(低燃焼性炭材および高燃焼性炭材)の少なくともどちらか1種類を後添加する必要があることを見出した。なお、上述のバッチ実験においても、凝結材の1種以上(低燃焼性炭材または/および高燃焼性炭材)を後添加して造粒した焼結原料造粒物を焼成すると成品歩留が向上する結果が得られている。
【実施例】
【0034】
本発明の炭材構成比率の決定根拠を示す実施例について説明する。なお、後述する試験1~4において行った試験ケースのうち、歩留が74.5%以上となったものが実施例である。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。例えば低燃焼性炭材として無煙炭を使用しても同様の効果がある。
【0035】
実施例では、通称焼結鍋試験と呼ばれる方法を用いて検証した。焼結鍋試験は、所定の大きさの容器に燃料となる炭材を含む焼結原料(配合原料)を装入し、上面から着火して下方吸引することで焼結を進行させる試験である。焼結鍋試験の装置では、ドワイトロイド(DL)式焼結機のようにパレットによる原料充填層の移動こそないが、DL式焼結機による焼結を模擬できる試験装置である。試験は、後述する試験1~4の4試験を行った。まず、試験に使用した原料、および試験方法について説明し、その後、各試験について順に述べる。なお、原料を所定の割合で混合した状態の焼結原料を配合原料という。
【0036】
(原料)
表1は、試験に使用した低燃焼性炭材および高燃焼性炭材の工業分析および元素分析の結果を示す。表1に示すように、低燃焼性炭材として粉コークスを、高燃焼性炭材として、褐炭チャー、亜瀝青炭チャーおよびセミコークスを準備した。
【0037】
【0038】
また、低酸化度鉄系原料は、製鉄所の下工程由来のスケールを準備した。スケールの成分は、全鉄分:74質量%、二価鉄:66質量%(FeOとして)、金属鉄分:4質量%であった。
【0039】
(原料配合)
表2は、本試験において基準とした配合原料(以下、基準配合原料という)についての各原料の配合割合を示す。表2に示すように、基準配合原料においては、高燃焼性炭材およびスケールを配合しておらず、炭材として表1に示す低燃焼性炭材(粉コークス)のみを使用している。また、鉄鉱石A~Eはそれぞれ産地が異なる鉄鉱石であり、粉コークスおよび返鉱の配合割合は、新原料(鉄鉱石、橄欖石、生石灰、および石灰石)を100質量%として、それぞれ外数で4.5質量%および15.0質量%とした。
【0040】
【0041】
詳細は後述するが、試験1~試験4においては、表2の基準配合原料を基準として、上述した高燃焼性炭材(表1参照)および/または上述したスケールを所定量配合した配合原料(以下、比較配合原料という)を、適宜配合して実験を行った。
【0042】
基準配合原料に対し高燃焼性炭材を配合する場合には、各配合原料(基準配合原料および比較配合原料)に含まれる全炭材(低燃焼性炭材および高燃焼性炭材)の工業分析の炭素量が同量となるように、基準配合原料の低燃焼性炭材を高燃焼性炭材に置換する配合割合調整を行った。
また、基準配合原料に対しスケールを配合する場合には、質量が同量となるように鉄鉱石Dをスケールに置換するとともに、両配合原料中の全推定発熱量が同一となるように(配合するスケール中のFeOおよび金属鉄がFe2O3へ酸化する際に発生する酸化発熱量と、置換される低燃焼性炭材が完全燃焼する際に発生する酸化発熱量とが等価となるように)、低燃焼性炭材(粉コークス)の配合量を削減する配合割合調整を行った。具体的数値として、カーボン、FeOおよび金属鉄がCOやFe2O3へ燃焼・酸化する際の発熱量をそれぞれの物質1molあたり、394kJ/mol、135 kJ/mol、412 kJ/molとした。
さらに、高燃焼性炭材とスケールの両方を配合する際には、まず、上述の高燃焼性炭材の配合割合調整を行った後に、上述のスケールの配合割合調整を行い、各原料の配合割合を決定した。
【0043】
各試験において使用した配合原料について、原料の配合割合の詳細は後述する。以下に、まず、試験1~試験3における試験方法およびその結果評価方法について説明する。
【0044】
(造粒方法)
造粒機として直径600mm長さ800mmの円筒型のバッチ式ドラムミキサーを使用した。配合原料を造粒機の上流側から投入し、4分間混合処理した後に、水分を添加(調湿)してさらに4分間混合して造粒する処理した。なお、添加した水分量は、配合する炭材種に依存する。これは各炭材によって吸水量が異なるからである。具体的には各配合原料に対して外数で粉コークスの場合7.0質量%、高燃焼性炭材の場合7.6%として粉コークスと高燃焼性炭材の配合比によって値を決定した。また、一括造粒ではなく、炭材(低燃焼性炭材または/および高燃焼性炭材)を後添加するケースについては、後添加する炭材を除く配合原料の一部を投入して調湿後、3分50秒混合処理した後に後添加する炭材を加えてさらに10秒混合して造粒した。一連の混合処理の終了後、原料水分を計測し、水分量を確認した。なお、この場合の造粒時間は、調湿後の4分間である。
【0045】
(装入・点火方法)
使用した鍋試験装置は直径300mm、高さ500mmの円筒形状の鍋である。造粒した配合原料を偏析させることなく垂直に装入して原料充填層の層高500mmとして、原料充填層の表面に1分間(熱量25MJ/原料t)点火して焼成した。焼成時の吸引負圧は、鍋下における計測値が点火開始から1300mmAq(12.7kPa)一定となるように、送風機吸引側のバルブ開度を調整した。
【0046】
(焼結時間)
焼結時間は以下のように測定した。熱電対を鍋下に挿入して排ガスの温度を計測した。焼結工程においては、燃焼帯が焼結層の最下部に到達すると、鍋下の排ガス温度が上昇を開始し、やがてピークを迎え、炭材の燃焼完了により低下する。この排ガス温度がピークとなった3分後に送風機の吸引を停止し、焼結終了とした。焼結時間は、点火開始から排ガス温度がピークに到達するまでに要した時間とした。
【0047】
(歩留)
歩留は、以下のように測定した。焼成後、得られた焼結ケーキを、2mの高さから4回落下処理を行い、床敷鉱を除く粒径+5mm(5mm以上)を焼結成品として質量を求めた。床敷鉱を除くシンターケーキの質量に対する焼結成品の割合(質量%)を、成品歩留(+5mm%)と定義した。
【0048】
(燃焼前線降下速度)
燃焼前線降下速度(mm/min)は、原料充填層の層高500mmを上述の焼結時間で割って算出した。
【0049】
(生産率)
生産率は、上述の焼結時間に基づいて、以下の式(1)により算出した。
生産率(t/d/m2)=成品量(t)/鍋底面積(m2)/焼結時間(日) ・・・(1)
【0050】
《試験1》
試験1では、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材との適正配合比および後添加の効果を検証する実験を行った。
表3は、試験1で使用した配合条件を示す。表3に示すように、低燃焼性炭材および高燃焼性炭材の配合比が異なる5種類の配合原料(R0,R25,R50,R75,R100)を準備した。配合原料R25,R50,R75,R100は、高燃焼性炭材には表1に示す褐炭チャーを使用し、表2の基準配合原料R0を基準として、工業分析の炭素量が同量となるように粉コークスを褐炭チャーに置換したものである。具体的には、全炭材に対し、褐炭チャーの炭素含有量での構成比率(炭素分質量比率)を、R0は0質量%(比較例1および比較例6)、R25は25質量%(比較例2および実施例1)、R50は50質量%(比較例3および実施例2)、R75は75質量%(比較例4および実施例3)、R100は100質量%(比較例5)とした。また、低燃焼性炭材(粉コークス)を含む4種類の配合原料(R0,R25,R50,R75)については、具体的には、全原料を一括して造粒するケース(比較例1~4)と、全原料のうち粉コークスのみを後添加して造粒するケース(比較例6および実施例1~3)とを設け、全部で9種類の焼結原料造粒物を製造し、各焼結原料造粒物を用いて上述の鍋試験による実験を行った。
【0051】
【0052】
(試験1の試験結果)
図3は、試験1の結果を示す。
図3において、全原料を一括で造粒したケースを白丸、粉コークスを後添加したケースを黒丸で示した。
図3に示すように、褐炭チャー配合比が0質量%である場合、粉コークスを後添加したケースは、全原料一括造粒のケースと比較して成品歩留が低下したものの燃焼前線降下速度が向上し、その結果生産率は向上した。また、褐炭チャーの配合比が25,50,75質量%である場合、すなわち、褐炭チャーと粉コークスとの双方を配合した場合において、成品歩留も燃焼前線降下速度も向上し、大幅に生産率が向上した。
【0053】
《試験2》
試験2では、後添加する炭材の種類による効果の違いを検証する実験を行った。
表4は、試験2で使用した焼結原料造粒物を示す。表3の比較例3および実施例2については、表3の再掲である。表4に示すように、炭素分質量比率を50%で一定として、後添加する炭材の種類が異なる実験4および実験5を実施した。具体的には、試験1の比較例3では全原料を一括造粒し、実施例2では粉コークスのみを後添加しており、実施例3においては褐炭チャーのみを後添加し、実施例4においては粉コークスおよび褐炭チャーの両方を後添加した。
【0054】
【0055】
(試験2の試験結果)
図4は、試験2の結果を示す。
図4に示すように、全焼結原料を一括造粒する場合(後添加無し)に比較して、褐炭チャーおよび粉コークスの一方のみあるいは両方を後添加した場合において、成品歩留、燃焼前線降下速度、生産率が向上した。
【0056】
《試験3》
試験3では、スケールを原料として配合した場合におけるスケール配合量の違いによる影響を検証する実験を行った。
表5は、試験3で使用した焼結原料造粒物を示す。表5の実施例5については、表4の再掲である。表5に示すように、褐炭チャーの炭素分質量比率を50%一定(但し、スケール配合による粉コークス減配は考慮しない。)として、粉コークスおよび褐炭チャーの両方を後添加した条件において、スケール配合量を0,1,2,5質量%と変更して実験を行った。スケールは表2の鉄鉱石Dと置換して配合し、スケール配合量は新原料を100質量%とした際の配合割合(内数)である。なお、実施例6~8の配合原料種類および配合比の低燃焼性炭材の欄に記載しているように、スケールの酸化熱を考慮して、粉コークス配合比(配合量)をスケールの配合量と熱量等価で減ずる調整を行った。具体的には、粉コークス配合比(配合量)が50%(炭素分質量比率)であった実施例5に対して、実施例6,7,8においては、それぞれ49.94%、49.89%、49.72%とした。なお、高燃焼性炭材の配合量は実施例5~8において同量である。なお、表6に示す数値は、表5に示す実施例5~8の低燃焼性炭材および高燃焼性炭材の配合比について、低燃焼性炭材と高燃焼性炭材との合計炭素分質量(凝結材の総炭素分質量)を100質量%として算出した値である。
【0057】
【0058】
【0059】
(試験3の試験結果)
図5は、試験3の結果を示す。
図5に示すように、スケール配合量の増加とともに歩留が向上した。ただし、配合量が2%以上で向上効果は穏やかとなった。一方、スケール配合量の増加と共に燃焼前線降下速度は若干低下したが、生産性はスケール配合量2%以上で若干高値となった。
【0060】
《試験4》
試験4では、高燃焼性炭材種の比較検証を行う実験を行った。
表7は、試験4で使用した焼結原料造粒物を示す。表7の実施例2については、表3および表4の再掲である。表7に示すように、高燃焼性炭材の炭素分質量比率を50%、粉コークスを後添加とした条件において、高燃焼性炭材種を褐炭チャーとした実験(実施例2)以外に、高燃焼性炭材種を亜瀝青炭チャーとした実施例9、および高燃焼性炭材種をセミコークスとした実施例10の実験を行った。
【0061】
【0062】
(試験4の試験結果)
図6は、試験4の結果を示す。
図6に示すように、高燃焼性炭材として、亜瀝青炭チャーまたはセミコークスを使用した場合も、褐炭チャーを使用した場合よりも歩留が向上した。生産性は、亜瀝青炭チャーについては褐炭チャーを使用した場合よりも向上したが、セミコークスについては燃焼前線降下速度とともに低下した。