(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】タイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/72 20060101AFI20241107BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B29C33/72
B29C35/02
(21)【出願番号】P 2020153810
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵美
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-277607(JP,A)
【文献】特開平08-132441(JP,A)
【文献】特開平06-339927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/72
B29C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面が離型剤層で被覆されているタイヤ加硫用ブラダの
前記離型剤層の表面にグリーンタイヤを加硫した際に付着した汚れを除去するクリーニング方法であって、
前記汚れが前記グリーンタイヤを形成しているゴム組成物の成分であり、
前記表面に溶解剤
を付与して、
前記汚れを前記溶解剤に溶解させるとともに前記離型剤層を残存させて、前記表面から前記汚れを除去することを特徴とするタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法。
【請求項2】
前記溶解剤を、前記加硫用ブラダの内表面に付着させずに前記表面に付与する請求項1に記載のタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法。
【請求項3】
前記溶解剤による前記汚れの溶解具合および前記離型剤層の溶解具合を予め把握しておき、把握したこれらの溶解具合に基づいて、前記溶解剤を前記表面に付与した状態にする洗浄時間を決定する請求項1または2に記載のタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法。
【請求項4】
前記離型剤層がフッ素系離型剤により形成されていて、前記溶解剤としてトルエンまたはアセトンを使用する請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法に関し、さらに詳しくは、タイヤ加硫用ブラダの外表面の離型性を確保しながら付着した汚れを除去して、繰り返し使用できるようにしたタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリーンタイヤを加硫する際には、タイヤ加硫用モールドの中に設置されたグリーンタイヤの内部でタイヤ加硫用ブラダを膨張させて、グリーンタイヤを加圧しつつ加熱する。加硫用ブラダの外表面には、加硫されたタイヤの内面との密着を防止するために、離型剤を塗布されていることが多い(例えば、特許文献1参照)。この外表面には加硫を繰り返すことで不要な汚れが付着し、汚れが多くなると加硫されたタイヤの外観品質に影響が生じる。そのため、タイヤ加硫用ブラダは例えば、所定期間または所定回数使用されると新品に交換される。
【0003】
新品に交換されるタイヤ加硫用ブラダには、外表面が汚れているだけで、ブラダ自体(ブラダの素地)は未だ十分な耐久性を有していることが多い。それ故、素地が健全な加硫用ブラダを無駄にすることなく繰り返し使用するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、タイヤ加硫用ブラダの外表面の離型性を確保しながら付着した汚れを除去して、繰り返し使用できるようにしたタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法は、外表面が離型剤層で被覆されているタイヤ加硫用ブラダの前記離型剤層の表面にグリーンタイヤを加硫した際に付着した汚れを除去するクリーニング方法であって、前記汚れが前記グリーンタイヤを形成しているゴム組成物の成分であり、前記表面に溶解剤を付与して、前記汚れを前記溶解剤に溶解させるとともに前記離型剤層を残存させて、前記表面から前記汚れを除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ブラダの外表面を被覆している離型剤層に付着した汚れを、付与した溶解剤に溶解させつつ離型剤層は残存させる。そのため、ブラダの外表面は汚れが除去された状態になるとともに、離型剤層により被覆された状態が維持されるので、離型性が確保されてブラダを繰り返し使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】タイヤ加硫用ブラダを正面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1のタイヤ加硫用ブラダを平面視で例示する説明図である。
【
図3】
図2のタイヤ加硫用ブラダの左半分を縦断面視で例示する説明図である。
【
図5】タイヤ加硫用ブラダのクリーニング装置を、加硫用ブラダの右半分を縦断面にして正面視で例示する説明図である。
【
図6】
図5のクリーニング装置を平面視で例示する説明図である。
【
図7】汚れ、離型剤層それぞれの溶解具合の経時変化を例示するグラフ図である。
【
図8】
図4の汚れが溶解液に溶解して除去された状態を例示する説明図である。
【
図9】別のクリーニング装置を、加硫用ブラダの下側半分を縦断面にして正面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のタイヤ加硫用ブラダのクリーニング方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1~
図4に例示するタイヤ加硫用ブラダ10(以下、ブラダ10という)は、両端が開口した筒状体である。図中の一点鎖線CLは、ブラダ10の筒軸心の位置を示している。本発明の洗浄対象になるブラダ10の外表面13は離型剤層12により被覆されている。ブラダ10の素地は加硫ゴムによって形成されているので、素地表面11は加硫ゴムである。ブラダ10の内表面14は離型剤層12によって被覆されていないため、素地表面11がそのまま露出している。
【0011】
離型剤層12を形成する離型剤は、ブラダ10の素地表面11と加硫したタイヤとの密着を防止してタイヤを円滑にブラダ10から剥離させる機能を有している。離型剤層12は、フッ素樹脂やシリコーンなどの公知の離型剤により形成される。離型剤層12の厚さは、加硫するタイヤのサイズなどによって異なるが、例えば一般的に10μm~200μm程度である。
【0012】
この実施形態では、離型剤層12の厚さは一般的な厚さと同等以上であり、例えば100μm以上になっている。離型剤層12の厚さの上限は例えば500μmである。
【0013】
グリーンタイヤを加硫してタイヤを製造するために、ブラダ10を繰り返し使用すると、離型剤層12の表面には徐々に汚れXが付着して付着量が増加する。汚れXはグリーンタイヤを形成しているゴム組成物(ゴム組成物の成分)である。この汚れXの付着量が多くなると、加硫したタイヤにブラダ10がより強く密着してタイヤからブラダ10を剥離させ難くなる。また、加硫されたタイヤの内面に汚れXに起因する凹凸が形成される。図中では斜線部分が汚れXを示していて、離型剤層12および汚れXは、誇張して厚く記載されている。
【0014】
本願発明者が汚れXが付着した多数のブラダ10を分析した結果、同じ使用条件であれば、使用回数に応じて汚れXの量(堆積量)は増大し、離型剤層12は大幅に減耗することはなく厚さはほとんど変わらないことが判明した。また、使用条件が同じであれば、離型剤層12の厚さが異なっていても、汚れXの堆積具合は実質的に同じであることが判明した。
【0015】
そこで本発明では、例えばブラダ10が所定期間、または、所定回数、使用された後に、ブラダ10の外表面13をクリーニングする。そしてクリーニングの際に、離型剤層12の表面に溶解剤Dを付与して、この表面に付着している汚れXを溶解剤Dに溶解させるとともに離型剤層12を残存させる。図では汚れXが散在(点在)しているが、汚れXの付着具合は様々であり、広い範囲に薄膜状に付着することもある。
【0016】
ブラダ10をクリーニングする手順の一例は下記のとおりである。
【0017】
図5、
図6に例示するように、この実施形態で使用するクリーニング装置1は、自在に動くアーム3と、アーム3の先端部に保持された処理ヘッド2と、処理ヘッド2に設置されたノズル2aと、ポンプに連結されたホースを介して処理ヘッド2に接続された溶解液タンク7と、ブース5と、アーム3、ポンプ、処理ヘッド2等の動きを制御する制御部8とを備えている。アーム3の後端部はベース4に回転自在に接続されている。
【0018】
溶解液タンク7には溶解剤Dが貯留されて、ポンプによって処理ヘッド2(ノズル2a)に圧送される。離型剤層12がフッ素系の離型剤により形成されている場合は、溶解剤Dとしてアセトンやトルエンが使用される。これらの溶解剤Dに汚れXは溶解されるが、フッ素系離型剤は溶解され難いためである。
【0019】
ブラダ10はブース5の内部に設置されていて、内表面14は溶解剤Dを遮断する保護材9によって被覆されている。ブラダ10の両端開口を封鎖して内圧を付与してブラダ10を若干膨張させた状態でクリーニングするとよい。
【0020】
処理ヘッド2およびノズル2aは、ブース5の内部で所望の位置に移動しつつ、溶解剤Dを離型剤層12の表面に向かって噴射して、外表面13の全範囲を網羅するように離型剤層12の表面に溶解剤Dが塗布される。ブラダ10を静止した状態に維持して溶解剤Dが塗布されることに限定されず、ブラダ10をその筒軸心CLを中心に回転させながら溶解剤Dが塗布されるようにすることもできる。
【0021】
アーム3は、ブラダ10の外形データに基づいて外表面13に沿って移動制御することも、手動で移動させることもできる。この実施形態では、ブラダ10の内表面14は保護材9によって被覆されているので、付与される溶解剤Dが付着しないようになっている。溶解剤Dに汚れXは溶解するが、ブラダ10の素地の加硫ゴムも溶解する。ブラダ10の素地が溶解剤Dに溶解してブラダ10が劣化するリスクがあるので、このリスクを回避するために保護材9によって内表面14が溶解剤Dから保護されている。
【0022】
溶解剤Dによる汚れXの溶解具合および離型剤層12の溶解具合を予め把握しておき、把握したこれらの溶解具合に基づいて、クリーニング条件を決定するとよい。具体的には
図7に例示するように、溶解剤Dが付与された汚れX、離型剤層12それぞれの溶解具合(減少具合)の経時変化を把握する。
図7には2種類の離型剤層12のデータQ1、Q2、汚れXのデータQxが記載されている。
【0023】
そして、
図7のデータに基づいて、離型剤層12の溶解具合が許容範囲内で、かつ、汚れXが十分に溶解して除去される経過時間を把握する。
図7では、データQ1で示されている離型剤層12は溶解剤Dにまったく溶解せずに当初量がそのまま残存し、データQ2で示されている離型剤層12は若干溶解する程度である。データQxで示されている汚れXは、溶解剤Dに溶解して時間が経過するに連れて残存量が減少し、経過時間tの時点で全量がすべて溶解して除去される。そして、この把握した経過時間tを、溶解剤Dを離型剤層12の表面に付与した状態(付着させた状態)にする適切な洗浄時間として決定する。
【0024】
溶解剤Dが離型剤層12の表面に適切な洗浄時間、付与された状態(付着させた状態)にすることで、
図8に例示するように、汚れXが溶解剤Dに十分に溶解して離型剤層12の表面から除去される。離型剤層12は溶解液Dにほとんど溶解しない、或いは、過度に溶解することはない。汚れXを離型剤層12の表面から除去した後は、溶解剤Dをブラダ10から洗い落としてクリーニングが完了する。保護材9は内表面14から取り外す。
【0025】
クリーニングか完了したブラダ10の外表面13には離型剤層12が残存している。即ち、外表面13が離型剤層12により被覆されているので離型性が確保されている。そのため、このブラダ10は既存の離型剤層12を利用して、再度、新品時と同様に、グリーンタイヤの加硫に使用することができる。これにより、素地がまだ健全なブラダ10を無駄にすることなく繰り返し使用できる。
【0026】
上述したように、離型剤層12の当初厚さを一般的な厚さよりも大きく、或いは、50μm以上より好ましくは80μm超にしておくと、適切な洗浄時間の範囲が広くなるので好ましい。これにより、ブラダ10をクリーニングして再度使用できる回数を増やすことも可能になる。上述したように、剥離剤層12を厚くしても汚れXの付着量が増大することはない。
【0027】
図9に例示するクリーニング装置1を用いることもできる。このクリーニング装置1では、処理容器6に溶解剤Dを収容しておく。この溶解剤Dにブラダ10の離型剤層12の表面を浸漬させるようにして、汚れXを除去する。例えば、横倒し状態にしたブラダ10を筒軸心CLを中心にして回転させながら下側部分を溶解剤Dに浸すことで、溶解
剤Dを撹拌しながら汚れXを溶解させて除去することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 クリーニング装置
2 処理ヘッド
2a ノズル
3 アーム
4 ベース
5 ブース
6 処理容器
7 溶解剤タンク
8 制御部
9 保護材
10 タイヤ加硫用ブラダ
11 素地表面
12 離型剤層
13 外表面
14 内表面
D 溶解剤
X 汚れ