(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/32 20060101AFI20241107BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241107BHJP
F16C 19/08 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F16C33/32
F16C19/06
F16C19/08
(21)【出願番号】P 2020188640
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】居島 啓一
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-006517(JP,A)
【文献】特開2009-133418(JP,A)
【文献】実開平01-108426(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
内輪と、
外輪と内輪の間に配置された剛性を有する転動体と、
外輪と内輪の間に配置され、少なくとも表層が導電性と柔軟性を有し、かつ表層に多数の空孔ないし亀裂を有する吸油転動体と、
を備え
、
前記外輪および内輪は複列であって、
一方の列には前記転動体が入れられていて、
他方の列には前記吸油転動体が入れられていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
外輪と、
内輪と、
外輪と内輪の間に配置された剛性を有する転動体と、
外輪と内輪の間に配置され、少なくとも表層が導電性と柔軟性を有し、かつ表層に多数の空孔ないし亀裂を有する吸油転動体と、
を備え、
前記吸油転動体は、
中心に剛性のある芯を有し、
前記芯の外側に、導電性と柔軟性を有し、かつ多数の空孔ないし亀裂を有する樹脂層を形成し
ていることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ノイズ防止用の転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車(electric car)やHV車(hybrid car)等の開発の進展もあり、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加しつつある。高電圧部品の数が増えると、部品同士の電磁気的干渉も大きくなる。電磁気的干渉は、コンピュータやナビゲーション装置、通信装置、車載ラジオなどの電子機器に伝搬すると、電磁ノイズとして機器の動作に悪影響を及ぼしかねない。そのため、現在、自動車における電磁ノイズ対策が要望されている。
【0003】
通電可能な軸受として、例えば特許文献1には通電式転がり軸受が開示されている。この通電式転がり軸受は、主に転動体の電食防止を目的として、導電性のシールリング10aを備えている。シールリング10aは、潤滑油の漏洩や異物の侵入を防ぐ部品であり、シールリップ14aの先端部に導電性潤滑剤が封入されることで導電性が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、シールを通じて外輪と内輪の間に電流を流す構成である。しかしシールはリップが内輪または外輪と接触する位置において潤滑剤の油膜が形成される。潤滑剤に導電性があるものを用いるとしても、潤滑剤に持たせられる導電性はさほど高いものではない。そして、軸受の回転速度が高くなるほど油膜が厚くなり、軸受全体としてのインピーダンスが増大してしまうという問題がある。また、シールを用いて導電性を高めようとするとリップの当接面積を大きくすることが考えられるが、この場合は損失抵抗(フリクション)が大きくなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、シールに頼らずに外輪と内輪の間のインピーダンスを低下させた電磁ノイズ防止用の転がり軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる転がり軸受の代表的な構成は、外輪と、内輪と、外輪と内輪の間に配置された剛性を有する転動体と、外輪と内輪の間に配置され、少なくとも表層が導電性と柔軟性を有し、かつ表層に多数の空孔ないし亀裂を有する吸油転動体と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
外輪および内輪は複列であって、一方の列には転動体が入れられていて、他方の列には吸油転動体が入れられていてもよい。
【0009】
吸油転動体は、中心に剛性のある芯を有し、芯の外側に、導電性と柔軟性を有し、かつ多数の空孔ないし亀裂を有する樹脂層を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる転がり軸受は、吸油転動体が外輪または内輪との間の油膜を排除し、または限りなく油膜を薄くするため、吸油転動体と外輪または内輪との間のインピーダンスを大幅に低下させることができる。したがって電子機器に伝わる電磁ノイズを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態にかかる転がり軸受を説明する図である。
【
図3】他の実施形態にかかる転がり軸受を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0013】
図1は本実施形態にかかる転がり軸受(以下、単に「軸受100」と称する)を説明する図である。
図1(a)は側面図、
図1(b)は外輪を切り欠いた部分断面図、
図1(c)は吸油転動体の作用を説明する図である。
図2は吸油転動体の構造を説明する図である。
【0014】
図1に示す軸受100は、外輪102と内輪104の間に、転動体である玉110と、本願発明の特徴的な要素である吸油転動体120が配置されている。なお実際には玉110および吸油転動体120の配置と間隔を保持する保持器を用いるが、本発明では説明が不要であるため図示を省略している。
【0015】
玉110は、端的に言えば従来からある転動体である。玉110は剛性を有し、軸受にかかる荷重を受ける。玉110は導電性を有していてもよいが(例えば鋼製)、玉110に高周波の電流が流れると電食を生じるため、玉110は導電性がないものであってもよい(例えばセラミック製)。
【0016】
吸油転動体120も全体的な形状は玉であるが、他の物品で例えればスタッドレスタイヤと似た構造と機能を有する。さらに他の物品で例えれば、スポンジ玉と似た材質である(一般的なスポンジ玉よりは密である)。すなわち、吸油転動体120の少なくとも表層は柔軟性を有していて、表層に多数の空孔ないし亀裂を有している。さらに吸油転動体120は、導電性を有する樹脂(導電性フィラーを添加した樹脂)で成型される。
【0017】
スタッドレスタイヤは路面の水を吸水して設置を確実にするものである。吸油転動体120は
図1(c)に示すように、軸受100の回転に伴って吸油転動体120が転がるとき、内輪104(または外輪102)の軌道面の潤滑油の油膜130を吸って排除し、または限りなく油膜130を薄くするため、これら軌道面と吸油転動体120との接触を確実にする。
【0018】
そして吸油転動体120が導電性を有していることから、吸油転動体120と外輪102、内輪104との間の導電性が担保されるため、吸油転動体120と外輪102または内輪104との間のインピーダンスを低下させることができる。回転によって油膜130が成長しても、吸油転動体120と外輪102または内輪104との接触箇所では油膜130が除去されるため、インピーダンスが増大してしまうことがない。したがって不図示の電子機器に伝わる電磁ノイズを好適に防止することができる。
【0019】
吸油転動体120の表層に多数の空孔ないし亀裂を形成するために、吸油転動体120を発泡樹脂で成形することができる。
図2(a)に示すように、吸油転動体120の中心まで発泡樹脂で成形してもよい。
【0020】
また
図2(b)に示すように、吸油転動体120の中心に剛性のある芯124を有し、芯124の外側に、導電性と柔軟性を有し、かつ多数の空孔ないし亀裂を有する樹脂層126を形成していてもよい。芯124は、剛性を有するといっても荷重を受けるわけではないので、硬質樹脂などで成形することにより軽量化を図ることができる。樹脂層126の材質は
図2(a)に示した発泡樹脂と同様である。芯124を有することにより、軸受100の回転に伴う吸油転動体120の転がりを安定させることができる。
【0021】
吸油転動体120の数は、
図1(a)および
図1(b)に示すように、玉110の一部を吸油転動体120に置き換えることで足りる。軸受の本来の機能を担うのは玉110であるから、軸受の剛性と耐荷重を損なわない程度に玉110を配置し、玉110の間に吸油転動体120を配置する。
図1(a)の例では、玉110を6個配置していて、その間に吸油転動体120を2個配置している。
【0022】
図3は他の実施形態にかかる転がり軸受(以下、単に「軸受200」と称する)を説明する図である。
【0023】
図3に示す軸受200は、外輪202および内輪204が複列であって、それぞれ2列の軌道面を有している。そして一方の列には玉110が入れられていて、他方の列には吸油転動体120が入れられている。これにより、玉110の列によって軸受の剛性を担保しつつ、充分な数の吸油転動体120を備えることによってインピーダンスをさらに大幅に低下させることが可能となる。
【0024】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、電磁ノイズ防止用の転がり軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0026】
100…軸受、102…外輪、104…内輪、110…玉、120…吸油転動体、122…表層、124…芯、126…樹脂層、130…油膜、200…軸受、202…外輪