(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】液滴センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
G01N21/17 E
(21)【出願番号】P 2021085071
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 英生
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120567(JP,A)
【文献】特開昭63-011839(JP,A)
【文献】特表2002-524756(JP,A)
【文献】特開2016-133416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転楕円体の一部を形成する湾曲面を有する光学カバーと、
前記光学カバーの前記湾曲面を覆う保護膜と、
前記湾曲面と対向する楕円の第1の焦点位置に配置される光源と、
前記楕円の第2の焦点位置に配置される光検出器と、
を有し、
前記保護膜の屈折率は検出対象の液体の屈折率よりも大きく、
前記光源から前記湾曲面へ入射した光が、前記保護膜と気体との界面で全反射され、前記保護膜と前記液体との界面で全反射されない条件を満たす入射角の範囲を、検出領域とする、
液滴センサ。
【請求項2】
回転楕円体の一部を形成する湾曲面を有する光学カバーと、
前記光学カバーの前記湾曲面を覆う保護膜と、
前記湾曲面と対向する楕円の第1の焦点位置に配置される光源と、
前記楕円の第2の焦点位置に配置される光検出器と、
を有し、
前記保護膜の屈折率は、前記保護膜が接する気体の屈折率よりも大きく、かつ、検出対象の液体の屈折率よりも小さく、
前記光学カバーの屈折率をn1、前記保護膜の屈折率をn2とすると、前記光源から前記湾曲面へ入射する光の入射角が、前記保護膜と前記気体の界面での臨界角より大きく、sin
-1(n2/n1)よりも小さい範囲を検出領域とする、
液滴センサ。
【請求項3】
前記保護膜は、前記光源の波長に対して透明である、
請求項1または2に記載の液滴センサ。
【請求項4】
前記保護膜は、2層以上の多層膜である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の液滴センサ。
【請求項5】
前記保護膜は、2層以上の多層膜であり、
前記多層膜に含まれる複数の膜の屈折率は、前記液体の屈折率よりも大きい、
請求項1に記載の液滴センサ。
【請求項6】
前記多層膜に含まれる前記複数の膜の屈折率は、前記光学カバーと隣接する側から単調増加、または単調減少する、
請求項5に記載の液滴センサ。
【請求項7】
前記保護膜は、2層以上の多層膜であり、
前記多層膜に含まれる複数の膜のひとつは、前記液体の屈折率よりも小さい、
請求項2に記載の液滴センサ。
【請求項8】
前記光学カバーは、屈折率が1.4~1.8のプラスチック材料で形成されている、
請求項1~7のいずれか1項に記載の液滴センサ。
【請求項9】
前記保護膜の屈折率は、前記光学カバーの屈折率よりも大きい請求項1に記載の液滴センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨滴、水滴等の液滴を感知する液滴センサに関する。
【背景技術】
【0002】
回転楕円体の一部を構成する光学カバーを用い、光学カバーと接する物質が気体か液体かによって生じる反射率の変化を利用して液滴を検出するセンサが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
液滴センサは、雨滴の検知や降雨量の測定のために屋外に設置され、雨、風、日光などに直接さらされる。センサに用いられる光学材料は、光学特性に加えて、耐久性、耐候性を考慮して選択されるのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転楕円体の一部を構成する光学部材を作製するには、プラスチック材料で一体成形するのが効率的であるが、プラスチックを屋外に長時間放置すると、紫外線により変色して透過率が悪化し、さらに、脆化する傾向がある。ポリカーボネートの場合、紫外線により黄変する。プラスチックはまた、比較的柔らかい素材であり、表面にキズがつきやすい。プラスチックに替えて別の光学材料を用いる場合は、新たに材料の透明性、屈折率等を考慮して、回転楕円体の形状を再設計する必要がある。光学材料によっては、回転楕円体の加工自体が困難である。
【0006】
プラスチック材料を替えずに、表面にコーティングを施して劣化を抑制し、耐久性を高めることが考えられる。しかし、光学部品の表面を別の物質で覆うことで、所望の光学特性が得られなくなる可能性がある。これを回避するには、コーティングによる影響をあらかじめ把握し、目的の機能が維持されるように設計する必要がある。
【0007】
本発明は、検出対象の液体に対する反射率の入射角依存性を維持しながら、耐久性または耐候性を向上した液滴センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の一つの側面では、液滴センサは、
回転楕円体の一部を形成する湾曲面を有する光学カバーと、
前記光学カバーの前記湾曲面を覆う保護膜と、
前記湾曲面と対向する楕円の第1の焦点位置に配置される光源と、
前記楕円の第2の焦点位置に配置される光検出器と、
を有し、
前記保護膜の屈折率は検出対象の液体の屈折率よりも大きく、
前記光源から前記湾曲面へ入射した光が、前記保護膜と気体との界面で全反射され、前記保護膜と前記液体との界面で全反射されない条件を満たす入射角の範囲を、検出領域とする。
【0009】
発明の別の側面では、液滴センサは、
回転楕円体の一部を形成する湾曲面を有する光学カバーと、
前記光学カバーの前記湾曲面を覆う保護膜と、
前記湾曲面と対向する楕円の第1の焦点位置に配置される光源と、
前記楕円の第2の焦点位置に配置される光検出器と、
を有し、
前記保護膜の屈折率は、前記保護膜が接する気体の屈折率よりも大きく、かつ、検出対象の液体の屈折率よりも小さく、
前記光学カバーの屈折率をn1、前記保護膜の屈折率をn2とすると、前記光源から前記湾曲面へ入射する光の入射角が、前記保護膜と前記気体の界面での臨界角より大きく、sin-1(n2/n1)よりも小さい範囲を検出領域とする。
【発明の効果】
【0010】
検出対象の液体に対する反射率の入射角依存性を維持しながら、耐久性または耐候性が向上した液滴センサが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】保護膜コーティングがない場合のセンシングの原理を説明する図である。
【
図2】保護膜コーティングがない場合の反射率の入射角依存性を示す図である。
【
図4】ケース1における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す図である。
【
図5A】
図4の領域(A)での挙動を示す模式図である。
【
図5B】
図4の領域(B)での挙動を示す模式図である。
【
図5C】
図4の領域(C)での挙動を示す模式図である。
【
図6】ケース1の条件での空気と水に対する総反射率の入射角依存性を示す図である。
【
図8】ケース2における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す図である。
【
図9】ケース2の条件での、空気と水に対する総反射率の入射角依存性を示す図である。
【
図11】ケース3における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す図である。
【
図12】ケース3の条件での、空気と水に対する総反射率の入射角依存性を示す図である。
【
図14】ケース4における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す図である。
【
図15】ケース4の条件での、空気と水に対する総反射率の入射角依存性を示す図である。
【
図17】多層保護膜を用いるときの屈折状態を示す図である。
【
図18】多層保護膜を用いたときのさらに別の屈折状態の例を示す図である。
【
図19】
図18の条件での、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態では、液滴センサで用いる保護膜の屈折率と、検出光の入射角度範囲を適切に選択して、センサ界面での反射率変化を正しく検出する。
【0013】
図1は、保護膜がない場合のセンシングの原理を説明する図である。実施形態では、液滴センサを環境から保護するために、光学カバーを保護膜で覆うが、保護膜を設けても、保護膜がないときと同様の液滴センサの振る舞いと特性を維持する。
【0014】
保護膜がない状態で、光学カバーOCの検出面SS上の水滴の有無による反射率の変化を利用して、液滴の存在を検出する。センサの光学カバーOCの屈折率をn1、光学カバーOCが接する気体、たとえば空気の屈折率をn0、水滴の屈折率をn0'とする。光学カバーOCの外部が空気の場合、光源LSから出力された光は、検出面SSで全反射されて光検出器PDで検出される。
【0015】
光学カバーOCの検出面SSに水滴が付着している場合、水滴と光学カバーOCの界面に入射した光は全反射条件を満たさず、ほとんどの光が水滴に入射する。図中の破線矢印は、光学カバーOCと水滴の屈折率の違いによる界面での反射または損失を示す。この反射光の成分はわずかであり、かつ、僅かな光が光検出器PDの方向へ反射する。検出面SSに水滴があるか否かによる反射率の変化によって、光検出器PDでの受光量が変化し、水滴の有無が検出される。
【0016】
図2は、保護膜がないときの反射率の入射角依存性を示す。入射角は、
図1に示すように、光源LSから検出面SSに入射する光線と、検出面SSの法線と成す角度である。
図2の実線は無偏光、粗い点線はS偏光、細かい点線はP偏光に対する反射率である。無偏光は、S偏光とP偏光の平均値である。
図1の光源LSは無偏光の発光ダイオード等であるため、実線が反射率を表している。光学カバーOCの材料として、近赤外光における屈折率が1.57のポリカーボネートを用いている。
【0017】
入射角が約40°~52°の範囲で、水と空気の反射率が大きく異なる。
図1の検出面SSは、この範囲の入射角をカバーする有効検出エリアである。検出面SSの面積が最大となるように、光学カバーOCの形状、または離心率が決定されている。検出面SSに水滴が付着したことによる受光量の変化に基づいて、水滴の存在とその量を推定することができる。
【0018】
図3は、実施形態の液滴センサ10の模式図である。液滴センサ10は、湾曲面13を有する光学カバー11と、湾曲面13を覆う保護膜17と、湾曲面13と対向する底面14に配置される発光素子15、及び、受光素子16を有する。発光素子15は光源の一例であり、受光素子16は光検出器の一例である。発光素子15と受光素子16は、同一の基板21に形成されていてもよい。
【0019】
光学カバー11は、回転楕円体の一部を構成する固体のカバーであり、発光素子15の出力光の波長に対して透明な材料で形成されている。
図1の例では、X方向に長軸、Y方向に短軸を持つ楕円を長軸(X軸)のまわりに回転させたときに得られる立体を回転楕円体とする。光学カバー11は、回転楕円体をX-Y平面と水平な面で切り取った形状を有し、湾曲面13は、この回転楕円体の表面形状を反映している。光学カバー11の高さ方向をZ方向とする。
【0020】
発光素子15は、たとえば近赤外光を出力する発光ダイオードであり、回転楕円体の底面14の楕円の第1焦点に配置されている。受光素子16は、たとえば近赤外領域の光に感度を有する受光素子であり、底面14の楕円の第2焦点に配置されている。
【0021】
発光素子15が配置される第1焦点の周囲に、光学カバー11の一部をくり抜いた空間12aを設けてもよい。受光素子16が配置される第2焦点の周囲に、光学カバー11の一部をくり抜いた空間12bを設けてもよい。球状の空間12a、及び12bを設けることで、発光素子15からの出力光が光学カバー11に入射するとき、あるいは、保護膜17と外部物質との界面で全反射された光が光学カバー11から空間12b内の受光素子16に入射するときに、空間12と光学カバー11との境界面での光の屈折を回避できる。
【0022】
保護膜17は、使用される検出光の波長に対して透明であり、かつ光学カバー11を周囲の環境から十分に保護できる材料で形成されている。保護膜17は、光学カバー11が保護膜17で覆われても、検出光の所定の入射角範囲で空気と水に対する大きな反射率差が生じる特性が維持されるように選択される。
【0023】
この特許出願で「保護膜」というときは、外部からの物理的、光学的な刺激等から液滴センサ10の検出面を保護する膜を意味し、透過率、反射率等を能動的に制御する機能性のコーティング膜と区別される。透過率、反射率を制御することを目的とする場合の膜厚は、発光素子の光の波長λ/2、λ/4相当の光路長を有する薄膜から成る複数層の膜が一般的であるが、保護膜を目的とする場合には、それよりも厚い数μm~数十μmとすることが好ましい。例えば、860nmの波長を有する光に対しては、数倍から数十倍以上の長い光路長差を有する膜厚となるため、保護膜の光路長差による干渉は発生し難く、透過率、反射率にも影響し難い。外部からの物理的な刺激は、他の物体との衝突、摩擦等を含む。光学的な刺激は、太陽光を含めた光照射による変色、劣化を含む。
【0024】
保護膜17として、ZrO2、TiO2、Al2O3等の近赤外光に対して透明な金属酸化物またはその焼結体(セラミック)を用いてもよいし、これらの金属酸化物とフィラーの混合物を用いてもよい。シリカガラスや石英ガラスなどのガラス材、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、炭化ケイ素や炭化ホウ素などの炭化物、アクリル樹脂などの高分子材料を含有する材料を保護膜17に用いてもよい。
【0025】
ZrO2コーティング剤の近赤外光における屈折率は、1.53~1.76の範囲で制御可能である。TiO2コーティング剤の近赤外光における屈折率は、1.53~1.90の範囲で制御可能である。一般的な微粒子ZrO2の近赤外光における屈折率は1.62、UVカットフィラーを混合した微粒子ZrO2の近赤外光における屈折率は1.64である。以下の記載で「屈折率」というときは、特段の断りがない限り、検出光の波長における屈折率とする。
【0026】
後述するように、保護膜17の屈折率が、検出対象の液体の屈折率よりも高いならば、保護膜のないセンサと同じ挙動で液滴を検出することができる。すなわち、湾曲面13への入射角θiが、保護膜17と気体との界面で全反射が生じ、保護膜17と液体との界面で非全反射となる範囲を、液滴の検出領域とする。
【0027】
保護膜17の屈折率が、保護膜17と接する気体の屈折率よりは大きいが、検出対象の液体の屈折率よりも小さい場合は、検出可能な入射角の範囲が制限されるが、制限された入射角の範囲を検出領域として、保護膜のない液滴センサと同じ挙動で液滴の検出が可能である。
【0028】
以下で、保護膜17の屈折率と、センシングに関与する他の物質の屈折率との相対的な大小関係を場合分けして、適切な検出領域を検討する。光学カバー11の屈折率をn1、保護膜17の屈折率をn2、周囲の気体の屈折率をn0、検出対象の液体の屈折率をn0'とする。屈折率の大小関係として、
(1)n0<n0'<n1<n2
(2)n0<n0'<n2<n1
(3)n0<n2<n0'<n1
(4)n2<n0<n0'<n1
の4つのケースを考える。 これは屈折率n0 < n0' < n1の関係を変化させず、屈折率n2との大小関係を変化させた場合に上記4つのケースが考えられる。
【0029】
[ケース1:n
0<n
0'<n
1<n
2]
図4は、ケース1における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す。
図2と同様に、実線は無偏光の光、粗い点線はS偏光、細かい点線はP偏光の反射率である。ケース1では、空気の屈折率n0、水の屈折率n0'、光学カバー11の屈折率n1、保護膜17の屈折率n2が、この順で大きくなる。具体的には、空気の屈折率n
0を1.00、水の屈折率n
0'を1.33、光学カバー11の屈折率n
1を1.57、保護膜17の屈折率n
2を1.60とする。光学カバー11と保護膜17の間で全反射が起きないので、湾曲面13への入射角度に制限がなく、0°~90°の全範囲で、保護膜のない場合と同様の挙動が維持される。光は保護膜17に入射するときに屈折するが、保護膜17が均一の厚みであれば空気、または水の場合の全反射条件は、保護膜17が有っても無くても光学カバー11の境界面の入射角条件に変化はない。ここでは、保護膜17は均一の厚みをもつと仮定する。保護膜がない場合と同じ挙動が維持されるゾーンを、「ゾーンI」とする。
【0030】
保護膜17がない場合と同じ挙動が維持されるゾーンを、「ゾーンI」とすると、ゾーンIは、3つの領域(A)~(C)に分けられる。領域(A)では、空気に対しても水に対しても、反射はほとんど生じない。領域(B)は、空気の場合の臨界角と水の場合の臨界角の間にある領域を示し、空気と水に対する反射率差が0.90(90%)以上が確保できる領域が存在する範囲である。領域(B)は、保護膜のない場合と同様の検出が可能な領域であり、かつ耐久性、耐候性が向上している。領域(C)では、空気に対しても水に対しても全反射が起きる。ゾーンIで入射角0°~90°の全範囲にわたって、保護膜がないときと同じ振る舞いをする。ゾーンIのうち、水と空気に対する反射率差の大きい領域(B)の中で必要とされる反射率差が得られている領域を検出領域として用いて、水滴の付着を検出する。
【0031】
図5Aは、
図4の領域(A)での挙動を模式的に示す。図中の実線の矢印は、光の屈折または反射の方向を示し、破線矢印は界面で一部の光が正反射する方向を示す。領域(A)では、空気に対しても水に対しても、界面での反射率は約5%以下であり非常に低い。発光素子15(
図3参照)から出射された光は、光学カバー11と保護膜17の界面を通過して、保護膜17から空気中に出る。水滴31の存在する個所では、光学カバー11と保護膜17の界面を通過した光は、保護膜17から水滴31に入る。空気との界面でも、水との界面でも全反射は起こらず、受光素子16で反射光はほとんど検知されない。界面での屈折率の違いによる僅かな正反射成分(破線矢印)は、受光素子16では殆ど検出されず、動作に影響を及ぼさない。領域(A)では、水滴の有無にかかわらず光が検出されないので、この入射角の範囲は検出に使用されない。
【0032】
図5Bは、
図4の領域(B)での挙動を模式的に示す。領域(B)では、発光素子15から出射された光は、光学カバー11と保護膜17の界面を小さな屈折角で通過し、保護膜17と空気の界面で全反射される。全反射された光は、小さな入射角で保護膜17と光学カバー11の界面に戻り、屈折して、受光素子16に入射する。保護膜17の膜厚は数μm~数十μm程度であり、屈折により戻り光の位置が変わっても、受光素子16の受光面の範囲内にあり、戻り光が検出される。なお、受光素子16の位置を焦点からわずかにずらしてもよいし、受光素子16側の空間12b(
図3参照)の球面を散乱面として用いてもよい。
【0033】
水滴31の存在する個所では、光は全反射されずに、保護膜17から水滴31に入射する。受光素子16での受光量の変化により、水滴31の存在が検知される。領域(B)は水と空気に対する反射率差を利用した水滴31の検出が可能な検出領域となる。
【0034】
図5Cは、
図4の領域(C)での挙動を模式的に示す。領域(C)では、保護膜17上に水滴31があってもなくても、発光素子15(
図3参照)から出射された光は、光学カバー11と保護膜17の界面を通過し、保護膜17と空気及び水滴31などの外部物質との界面で全反射される 。領域(C)では水滴が付着してもしなくても、受光量が変化しないので、この入射角の範囲は水滴の検出に使用されない。ただし、
図1の楕円形状では、領域(C)のような全反射領域が存在しないような離心率になっている。
図1で最大入射角となる部分は天頂部であるが、天頂部は領域(B)にあたる。
図3の光学カバー11も、領域(C)が存在しないような離心率の楕円形状に設計されている。
【0035】
図6は、ケース1の条件での液滴センサ10の空気と水に対する総反射率の入射角依存性を示す。太い実線は、無偏光の光に対する水の総反射率、破線は、無偏光の光に対する空気の総反射率である。総反射率は、
図7のように計算される。
【0036】
図7で、空気の屈折率n
0を1.00、水の屈折率n
0'を1.33、光学カバー11の屈折率n
1を1.57、保護膜17の屈折率n
2を1.60とする。光学カバー11と保護膜17の界面をI
1、保護膜17と外部物質の界面をI
2とする。界面I1は、
図3の湾曲面13に対応する。
【0037】
入射角θで界面I1に入射した光のうち、界面I1で反射される成分を反射成分(1)、界面I1を通過する成分を透過成分(2)とする。透過成分(2)のうち、界面I2で反射される光を、反射成分(3)、反射成分(3)のうち、界面I1を再度通過して光学カバー11に戻る光を、透過成分(4)とする。
【0038】
総反射率は、概ね(1)+(2)×(3)×(4)で求められる。 成分(1)~(4)の中で外部が空気か水かによって反射率または透過率の入射角依存性に差が生じるのは、反射成分(3)である。成分(1)、(2)、(4)の反射率または透過率の入射角依存性は、水滴31の有無にかかわらず一定である。ここでは、吸収による減衰を無視し、膜内の干渉と膜内で発生する多重反射は考慮していない。
【0039】
図6に戻って、ケース1の条件で保護膜17を設けたときの総反射率の入射角依存性のプロファイルと、
図2の保護膜がないときの反射率の入射角依存性のプロファイルを比較すると、90°近傍の総反射率の落ち込みを除いて、ほぼ同じである。保護膜17を有する液滴センサ10は、湾曲面13への入射角θが0°から90°近くまでの範囲で、保護膜がないときと概ね同様に振る舞う。保護膜17の外部物質の界面に入射する光の入射角が、気体に対する臨界角より大きく、かつ、液体に対する臨界角以下の範囲を、検出領域として用いることができる。なお、実際は、楕円の湾曲面への入射角は0°(長軸側の頂点すなわち
図3の光学カバー11の左右の端部)から、約51°(短軸側の頂点または光学カバー11の天頂部)までの範囲となる。
【0040】
[ケース2:n
0<n
0'<n
2<n
1]
図8は、ケース2における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す。ケース2では、保護膜17の屈折率n2が、光学カバー11の屈折率n
1よりも小さく、検出対象の液体の屈折率n
0'よりも大きい。ケース1と同じく、空気の屈折率n
0を1.00、水の屈折率n
0'を1.33、光学カバー11の屈折率n
1を1.57である。保護膜17は、たとえば酸化ガリウムで形成され、その屈折率n
2は1.45前後である。
【0041】
保護膜17の屈折率n2が、光学カバー11の屈折率n1よりも小さいので、光学カバー11と保護膜17の界面に臨界角を超える角度で入射した光は、全反射される。臨界角を超えない範囲、すなわち、入射角θがsin-1(n2/n1)を超えない範囲では、保護膜のない場合と同じ挙動が維持される。すなわち、検出面と空気が接するときは、光は保護膜17と空気の界面で全反射され、水滴が付着したときは非全反射となり、反射率の変化に基づいて、水滴を検出できる。入射角が保護膜17に対する臨界角を超えると、光学カバー11と保護膜17の界面で全反射が起きて、保護膜17の表面の状態を検出できなくなる。n1=1.57、n2=1.48の場合、臨界角は約70°である。湾曲面13への入射角が0°~約70°の範囲が「ゾーンI」となる。入射角が70°を超える範囲では、光学カバー11と保護膜17の界面(すなわち湾曲面13)での全反射という新たな挙動が生じる「ゾーンII」となる。
【0042】
ゾーンIは、ケース1と同様に、3つの領域(A)~(C)に分けられる。領域(A)では、空気に対しても水に対しても反射はほとんど起きず、光は外部物質中に出る。領域(B)では、空気と水に対する反射率差が大きい。領域(B)は、保護膜のない場合と同様に検出可能な領域であり、かつ耐久性、耐候性が向上している。領域(C)では、保護膜17の表面で空気に対しても水に対しても全反射が起きる。ゾーンIで、入射角0°~約70°の範囲にわたって、保護膜がないときと同じ挙動をする。このうち、反射率差の大きい領域(B)を検出領域として利用して、水滴の有無を検出することができる。ゾーンIIに対応する領域(D)では、光学カバー11と保護膜17の界面で全反射が起きるため、光が保護膜17の表面に届かず、検出に用いることができない。
【0043】
図9は、ケース2における空気と水に対する総反射率の入射角依存性を示す。総反射率は、
図7を参照して説明したのと同様に、界面I
1での反射成分(1)と透過成分(2)、界面I
2での反射成分(3)、及び、界面I
1を再通過する透過成分(4)から、(1)+(2)×(3)×(4)で計算される。
【0044】
図9の総反射率の入射角依存性のプロファイルを、
図2の保護膜がないときの反射率の入射角依存性のプロファイルと比較すると、臨界角70°近傍の総反射率の落ち込みを除いてほぼ同じである。ただし、70°を超える範囲での全反射は、
図2と異なり、光学カバー11と保護膜17の間の界面での全反射であり、挙動が異なる。
【0045】
ケース2の場合、保護膜17を有する液滴センサ10は、湾曲面13への入射角θが 保護膜17に対して臨界角以下の範囲(この例では、0°から70°までの範囲)で、保護膜が無いときと同様に振る舞い、このうち、領域(B)を、検出領域として用いることができる。
【0046】
図10Aは、
図8の領域(A)での挙動を模式的に示す。領域(A)では、発光素子15(
図3参照)から出射された光は、保護膜17上の水滴31の有無にかかわらず、保護膜17から液滴センサ10の外に出る。空気に対しても、水に対しても全反射は起きず、反射率の変化を利用した検出に適用されない。
【0047】
図10Bは、
図8の領域(B)での挙動を模式的に示す。領域(B)では、発光素子15から出射された光は、光学カバー11と保護膜17の界面を通過し、保護膜17と空気の界面で全反射される。全反射された光は、保護膜17と光学カバー11の界面で屈折して、受光素子16に入射する。
【0048】
水滴31の存在する個所では、光学カバー11と保護膜17の界面を通過した光は、保護膜17から水滴31内にほとんどが入射し、受光素子16でほとんど検出されない。受光量の変化により、水滴31が検知される。
【0049】
図10Cは、
図8の領域(C)での挙動を模式的に示す。領域(C)では、保護膜17上の水滴31の有無にかかわらず、発光素子15から出射された光は、保護膜17と外部の物質との界面で全反射される。水滴が付着しても受光量が変化しないので、領域(C)の入射角範囲は検出に使用されない。
【0050】
図10Dは、
図8の領域(D)での挙動を模式的に示す 。領域(D)では、入射角が臨界角の70°を超えて大きくなるので、発光素子15から出射された光は、光学カバー11と保護膜17の界面で全反射される。光は保護膜17に入らないので、保護膜17の表面の状態を検知することができない。
【0051】
ケース2の条件では、保護膜がないときと同様の挙動をするゾーンIの領域(B)を用いて、有効に液滴を検出できる。
【0052】
[ケース3:n
0<n
2<n
0'<n
1]
図11は、ケース3における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す。ケース3では、保護膜17の屈折率n
2は、検出対象の液体の屈折率n
0'より小さいが、空気の屈折率n
0より大きい。検出対象を水滴として、水の屈折率n
0'は1.33、光学カバー11の屈折率n
1は、ケース1及び2と同じく1.57である。保護膜17の屈折率n
2は、たとえば、1.20である。
【0053】
ケース3では、湾曲面13への入射角が保護膜17に対して臨界角を超えない範囲が、保護膜のない場合と同様の挙動が維持される「ゾーンI」になる。n1=1.57、n2=1.20の場合、sin-1(n2/n1)で決まる臨界角は 約50°である。湾曲面13への入射角が50°を超える範囲は、光学カバー11と保護膜17の界面で全反射が起きる「ゾーンII」となる。ケース3の条件では、ゾーンIIは、保護膜なしのときに反射率差を利用して検出が可能な領域を侵食している。
【0054】
ゾーンIは、領域(A)と領域(B)に分けられる。領域(A)では、空気に対しても水に対しても、反射はほとんど生じない。領域(B)では、空気と水に対する反射率差が0.90(90%)以上である。領域(B)は、保護膜のない場合と比較して、反射率の入射角依存性を利用できる範囲が若干制限されるが、保護膜のない液滴センサと同様に検出可能であり、かつ耐久性、耐候性が向上している。
【0055】
ゾーンIIは、領域(D)に対応する。領域(D)は、光学カバー11と保護膜17の界面で全反射が起きるため、検出に用いることはできない。保護膜17の屈折率n2と光学カバー11の屈折率n1の差がケース2の場合に比べて大きくなったため、検出可能な領域(B)が制限される。
【0056】
図12は、ケース3における空気と水に対する総反射率の入射角依存性を示す。総反射率は、
図8を参照して説明したのと同様に、界面I
1での反射成分(1)と透過成分(2)、界面I
2での反射成分(3)、及び、界面I
1を再度通過する透過成分(4)から、(1)+(2)×(3)×(4)で計算される。
【0057】
図12の総反射率の入射角依存性のプロファイルを、
図2の保護膜がないときの反射率の入射角依存性のプロファイルと比較すると、入射角が50°の近傍で総反射率が落ち込むことを除いて、保護膜がないときと類似した傾向を示す。ただし、50°を超える範囲での水及び空気に対する全反射は、
図2と異なり、光学カバー11と保護膜17の間の界面での全反射であり、挙動が異なる。入射角が50°以下の角度範囲で、水と空気の間で検出に利用可能な反射率差が確保される領域が示される。
【0058】
ケース3の条件で、保護膜17を有する液滴センサ10は、湾曲面13への入射角θが0°から50°近くまでの範囲で、保護膜がないときと同様の挙動を示す(ゾーンI)。このうち、湾曲面13への入射角が40°~50°の領域(B)の範囲に検出領域として用いることができる領域が存在する。
【0059】
図13Aは、
図11の領域(A)での挙動を模式的に示す。領域(A)では、発光素子15(
図3参照)から出射された光は、保護膜17上の水滴31の有無にかかわらず、保護膜17から液滴センサ10の外部に出る。空気に対しても、水に対しても全反射は起きず、反射率の変化を利用した検出に適用されない。
【0060】
図13Bは、
図11の領域(B)での挙動を模式的に示す。領域(B)では、発光素子15から出射された光は、光学カバー11と保護膜17の界面を通過し、保護膜17と空気の界面で全反射される。全反射された光は、保護膜17と光学カバー11の界面で屈折して、受光素子16に入射する。
【0061】
水滴31の存在する個所では、光学カバー11と保護膜17の界面を通過した光は、保護膜17から水滴31内にほとんどが入射し、受光素子16でほとんど検出されない。受光量の変化により、水滴31が検知される。
【0062】
図13Cは、
図11領域(D)での挙動を模式的に示す。領域(D)では、保護膜17上の水滴31の有無にかかわらず、発光素子15から出射された光は、光学カバー11と保護膜17の界面で全反射される。光は、保護膜17の表面に届かないので、保護膜17の表面の水滴の有無を検知することができない。
【0063】
ケース3の条件では、ケース1、及び2と比較して、保護膜がないときと同様の挙動をするゾーンIの領域(B)が制限されるが、なおも有効に液滴を検出できる。
【0064】
[ケース4:n
2<n
0<n
0'<n
1]
図14は、ケース4における、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す。ケース4では、保護膜17の屈折率n2は、空気の屈折率n
0より小さい。空気よりも屈折率の小さい固体媒質は想定し難いが、ここでは、保護膜17の外部の媒質の屈折率n
0を、1.25という仮想的な値に設定し、保護膜17の屈折率を1.10に設定して、計算する。
図14では、ケース1~3に合わせて、外部媒質を便宜上「空気」と記載している。
【0065】
ケース4でn1=1.57、n2=1.10の場合、sin-1(n2/n1)で決まる臨界角は45°である。湾曲面13への入射角が0°~45°の範囲が、保護膜なしの場合と同じ挙動のゾーンI、45°を超える範囲が、ゾーンIIである。
【0066】
ケース4では、外部媒質の屈折率n0を仮想的に1.25と設定したので、保護膜がない状態での光学カバーと空気との界面での臨界角が、52°近傍にシフトしている。保護膜なしの状態で、空気を模擬した外部媒質と水に対する反射率差を利用して検出できるはずの領域すべてが、ゾーンIIに含まれている。ゾーンIは領域(A)のみ、ゾーンIIは領域(D)のみである。
【0067】
図15は、ケース4における外部媒質と水に対する総反射率の入射角依存性を示す。
図15でも、外部媒質を便宜上「空気」として示している。総反射率は、
図7を参照して説明したのと同様に、界面I
1での反射成分(1)と透過成分(2)、界面I
2での反射成分(3)、及び、界面I
1を再度通過する透過成分(4)から、(1)+(2)×(3)×(4)で計算される。
【0068】
ケース4の条件では、空気に対する総反射率の入射角依存性と、水に対する総反射率の入射角依存性が重なり、総反射率の相違を利用した検出ができない。
【0069】
図16Aは、
図14の領域(A)での挙動を模式的に示す。領域(A)では、発光素子15(
図3参照)から出射された光は、保護膜17に対して臨界角以下の角度で湾曲面13に入射し、光学カバー11と保護膜17の界面を通過する。この光は、保護膜17上の水滴31の有無にかかわらず、保護膜17から液滴センサ10の外部に出る。空気に対しても、水に対しても全反射は起きず、反射率の変化を利用した検出に適用されない。
【0070】
図16Bは、
図14の領域(D)での挙動を模式的に示す。発光素子15から出射された光は、保護膜17に対して臨界角を超える角度で湾曲面13に入射し、光学カバー11と保護膜17の界面で全反射される。光は、保護膜17の表面に届かないので、保護膜17の表面の水滴の有無を検知することができない。
【0071】
ケース4では、ゾーンIでも、ゾーンIIでも、外部物質の反射率差を利用した検出ができない。保護膜17は、少なくとも外部物質の屈折率n0よりも大きい屈折率を持つ必要がある。
【0072】
[多層構造の保護膜]
保護膜17は、単層膜に限定されない。液滴センサ10の仕様環境を考慮して、複数種類の保護膜を重ねてもよい。たとえば、紫外線を防止するUVカットコートと、検出面の傷を防止または抑制するためのハードコートを積層してもよい。以下で、保護膜17に2層以上の多層構造を用いる例を説明する。
【0073】
図17は、多層保護膜を用いるときの屈折状態を示す。この例で、光学カバー11を覆う保護膜17は、三層構造であり、光学カバー11に隣接する側から順に、第1の膜171、第2の膜172、及び第3の膜173を有する。空気の屈折率をn
0、検出対象の液体、たとえば水の屈折率をn
0'、光学カバー11の屈折率をn
1とする。
【0074】
第1の膜171、第2の膜172、及び第3の膜173の屈折率を、それぞれn2、n3、n4とする。第1の膜171、第2の膜172、第3の膜173のすべてが空気よりも大きい屈折率を有することを前提とする。水滴31と光学カバー11を含めて、屈折率n0 < n0' < n1の関係を維持すると、屈折率の大小関係の組み合わせは、最大で120通りあるが、たとえば、
(i) n0<n0'<n1<n2<n3<n4
(ii) n0<n0'<n4<n3<n2<n1
(iii) n0<n0'<n1<n4<n3<n2
(iv) n0<n3<n0'<n1<n2<n4
の4つのケースを考える。
【0075】
(i)の場合、液滴センサ10の下層から上層へ向かって屈折率が単調増加しているので、どのような入射角であっても、界面での全反射は起きない。また、
図18の光路(i)で示すように、水滴31との界面を除くすべての界面で、入射角よりも屈折角が小さくなる。この場合、液滴センサ10で、保護膜17がない場合と同じ挙動が維持される。第3の膜173と外部物質との界面で、空気に対して全反射条件を満たし、水に対して非全反射となる入射角の範囲で、有効に水滴31を検出できる。
【0076】
(ii)の場合、液滴センサ10の上層から下層へ向かって屈折率が単調減少しているので、入射角によって、どの界面においても全反射が起きる状況があり得る。具体的には、湾曲面13への入射角を徐々に大きくすると、最初に第3の膜173と水滴31の界面で全反射が起きる。入射角をさらに大きくすると、第2の膜172と第3の膜173の界面で全反射が起きる。入射角を更に大きくすると、第1の膜171と第2の膜172の界面で全反射が起き、最後に、光学カバー11と第1の膜171の界面で全反射が起きる。
【0077】
入射角に応じて、どの界面でも全反射が起こり得るが、最初に全反射が起きるのは、第3の膜173と水滴31との界面であるため、このときの入射角以下の範囲では、保護膜がないときど同様の機能が維持される。
【0078】
(iii)の場合、光が積層方向に進む際に、光学カバー11と第1の膜171の間で屈折率はn1からn2に増大するが、それ以降は単調減少する。しかし、水滴31を除く4つの層の中で光学カバー11が最も小さい屈折率n1を有するため、水滴31と第3の膜173の界面で全反射が起きる前に、他の界面で全反射が発生することはない。
【0079】
(iii)の条件でも、保護膜がない場合と同様の機能が維持され、第3の膜173の表面が空気に接するときに全反射し、水滴31に接するときに全反射しない角度範囲で、水滴31を検出することができる。
【0080】
(iv)の場合、光が積層方向に進む際に、湾曲面13への入射角が増大すると、第3の膜173と水滴31の界面で全反射が起きる前に、第1の膜171と第2の膜172の境界面で、先に全反射が起きる。この境界面で全反射が起きる入射角よりも小さい角度領域で、保護膜がない場合と同様の機能が維持されるが、水滴31の検出用に利用できる入射角の範囲は狭くなる。
【0081】
上述した(i)~(iv)のケースを考慮すると、保護膜17が多層膜であるときの液滴センサ10の動作は、以下のようになる。
【0082】
(a)光学カバー11、及び、保護膜17に含まれる複数の膜のすべての屈折率が、水滴31の屈折率n0'よりも大きい場合は、保護膜がないときと同様の機能が維持され、水と空気に対する反射率差の利用した水滴31の検出が可能になる。
【0083】
(b)水滴31よりも屈折率が小さい層が、積層中のどこかに存在する場合は、湾曲面13への入射角を増大させていくと、水滴31との界面で全反射が起きる前に、全反射が発生する界面が積層中に存在する。最初に全反射がおきる界面への入射角よりも小さい角度領域で、保護膜のない場合と同様の機能が維持されるが、その角度領域は狭くなる。
【0084】
結論として、保護膜17に含まれる複数の膜を、検出対象の液体の屈折率よりも大きい屈折率の材料で形成することで、保護膜がないときの検出原理がそのまま当てはまる。空気よりも屈折率が大きく、検出対象の液体よりも屈折率の小さいコーティング材料を用いる場合は、保護膜なしの構成と比較して、液滴の検出に利用できる入射角の範囲は狭くなる。それでも、気体との界面で全反射し、液体との界面で全反射しない条件が満たされる角度範囲で、液滴センサとして機能する。
【0085】
図18は、多層保護膜を用いたときのさらに別の屈折状態の例を示す。
図18では、
n
0<n
4<n
0'<n
3<n
2<n
1
の順で屈折率が大きくなる。水滴31と境界をなす第3の膜173の屈折率n
4は、空気の屈折率n
0より大きいが、水滴31の屈折率n
0'よりも小さい。したがって、第3の膜173と水滴31の界面で全反射は生じないが、光が水滴31に入射するよりも前に、保護膜17中のいずれかの界面、または光学カバー11と保護膜17の界面で、全反射が起きる可能性がある。
【0086】
湾曲面13への入射光の入射角を徐々に大きくしたときに、いずれかの界面で最初に全反射が起きる入射角よりも小さい入射角の範囲で、液滴センサ10は保護膜のない場合と同様に機能する。
図18の例では、n
1、n
2、n
3、n
4と単調減少するため、最初に全反射が生じるのは、n
3とn
4の界面である。
【0087】
図19は、
図18の条件での、反射率の入射角依存性の適用可能範囲を示す。n
3とn
4の界面で全反射が起きるときの入射角よりも小さい入射角の範囲が、保護膜のない場合と同様の振る舞いをするゾーンIである。この入射角を超える領域が、光が保護膜17の表面に到達する前に全反射が起きるゾーンIIである。
【0088】
ゾーンIのうち、空気と水に対する反射率差が大きい入射角領域(この例では、40°~54°)に、水滴31を検出領域として用いることができる領域が存在する。ゾーンIIは、3つの領域C3-4、C2-3、C1-2に分けられる。C3-4は、屈折率n3とn4の境界で全反射が起きる領域である。C2-3は、屈折率n2とn3の境界で全反射が起きる領域である。C1-2は、屈折率n1とn2の境界で全反射が起きる領域である。ゾーンIIは、検出光が保護膜17表面に到達して水滴31に入射する前に、保護膜17内、あるいは光学カバー11と保護膜17の界面で全反射が起きるため、検出に利用できない。
【0089】
以上、特定の構成例に基づいて発明を説明してきたが、本発明は上述した構成例に限定されない。たとえば、
図18の3層構造の保護膜で、2つの膜を同じ材料で形成してもよい。保護膜のない場合と同様の機能が得られるゾーンIが確保される限り、保護膜17に撥水膜、光吸収膜、反射膜等の機能性コーティングを組み合わせてもよい。
図1に示す検出面SS以外の面を非検出面として遮光することによって、非検出面から太陽光等の外来光が発光素子や受光素子に入射するのを防止して、外来光が動作に及ぼさない構成にしてもよい。
【0090】
図3の構成で球形の空間12a、12bを設けずに、発光素子15、及び/または受光素子16を、第1の焦点位置、及び/または第2の焦点位置で光学カバー11に埋め込んでもよい。光学カバー11の回転楕円体のうち、液滴の検出機能に影響しないX軸方向の両端部をYZ面で切り取ってもよい。光学カバー11の屈折率n
1は、たとえば、1.4~1.8の範囲で選択され得る。保護膜17の屈折率が検出対象の液体の屈折率よりも大きい場合は、保護膜17の屈折率は光学カバー11の屈折率よりも大きくても小さくても保護膜17が無いときと同様に機能する。
【0091】
実施形態の液滴センサは、レインセンサとして、街路樹、街灯等に設置することができる。あるいは、車両のフロントガラスの近傍に設置して、ワイパー制御などに用いることができる。
【符号の説明】
【0092】
10 液滴センサ、11 光学カバー、12a、12b 空間、13 湾曲面、14 底面、15 発光素子、16 受光素子、17 保護膜、171 第1の膜、172 第2の膜、173 第3の膜、21 基板、n0 空気の屈折率、n0' 水の屈折率、n1 光学カバーの屈折率、n2 保護膜の屈折率