(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】液浸冷却装置
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20241107BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20241107BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H05K7/20 M
F28D15/02 104A
F28D15/02 L
H01L23/46 B
H01L23/46 A
(21)【出願番号】P 2022123063
(22)【出願日】2022-08-02
(62)【分割の表示】P 2020134947の分割
【原出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲上 翼
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-094978(JP,A)
【文献】特開2014-005419(JP,A)
【文献】特表2013-506731(JP,A)
【文献】国際公開第2011/122332(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/025981(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/224908(WO,A1)
【文献】特開2008-205250(JP,A)
【文献】特開2013-160420(JP,A)
【文献】特開2013-221137(JP,A)
【文献】特開2013-033773(JP,A)
【文献】特開2018-117039(JP,A)
【文献】特表平10-506926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
F28D 15/02
H01L 23/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器に接続された蒸発部と、
前記密閉容器に接続された凝縮部と、
を備え、
前記密閉容器の内部に
1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(HFE-356mec)のみが封入され
ている、ヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液浸冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素系冷却液を用いた電子機器の冷却システムが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電気電子機器を浸漬冷却するために用いられる液浸冷却装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.
電気電子機器と、
フッ素系絶縁性冷媒と、
前記フッ素系絶縁性冷媒を貯留する冷媒槽と、を備え、
前記電気電子機器が、前記フッ素系絶縁性冷媒内に少なくとも部分的に浸され、
前記フッ素系絶縁性冷媒の沸点が50~60℃である、液浸冷却装置。
項2.
前記フッ素系絶縁性冷媒の電気抵抗率が1×107~1×1015Ω・cmである、項1に記載の液浸冷却装置。
項3.
前記フッ素系絶縁性冷媒が、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)及び/又は1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(HFE-356mec)を含有する、項1又は2に記載の液浸冷却装置。
項4.
前記冷媒槽が、更にメタノールを貯留する、項3に記載の液浸冷却装置。
項5.
密閉容器と、
前記密閉容器に接続された蒸発部と、
前記密閉容器に接続された凝縮部と、
前記密閉容器の内部に封入されたフッ素系絶縁性冷媒と、を備え、
前記フッ素系絶縁性冷媒が1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(HFE-356mec)を含有するヒートパイプ。
項6.
前記フッ素系絶縁性冷媒が、更に1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)を含有する、項5に記載のヒートパイプ。
項7.
前記密閉容器の内部に、更にメタノールを封入する、項5又は6に記載のヒートパイプ。
項8.
受熱部と、
放熱部と、
フッ素系絶縁性冷媒が循環する循環経路と、を備え、
前記フッ素系絶縁性冷媒の沸点が50~60℃である、コールドプレート。
【発明の効果】
【0006】
本開示の液浸冷却装置によれば、電気電子機器を効率的に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は本開示の液浸冷却装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【
図2】
図2は本開示のヒートパイプの概略構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<用語の定義>
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
本明細書において、「A及び/又はB」とは、A及びBのいずれか一方、又は、A及びBの両方を意味する。
【0010】
本明細書において用語「冷媒」には、ISO817(国際標準化機構)で定められた、冷媒の種類を表すRで始まる冷媒番号(ASHRAE番号)が付された化合物が少なくとも含まれ、さらに冷媒番号が未だ付されていないとしても、それらと同等の冷媒としての特性を有するものが含まれる。冷媒は、化合物の構造の面で、「フルオロカーボン系化合物」と「非フルオロカーボン系化合物」とに大別される。「フルオロカーボン系化合物」には、ハイドロフルオロエーテル(HFE)が含まれる。「非フルオロカーボン系化合物」としては、プロパン(R290)、プロピレン(R1270)、ブタン(R600)、イソブタン(R600a)、二酸化炭素(R744)及びアンモニア(R717)等が挙げられる。
【0011】
本明細書において、電気電子機器としては、例えば、コンピュータ、サーバーコンピュータ、ブレードサーバーを含むサーバー;ディスクアレイ/ストレージシステム;ストレージエリアネットワーク;ネットワークに接続されたストレージ;ストレージ通信システム;ワークステーション;ルーター;電気通信インフラ/スイッチ;有線、光学及び無線通信装置;セル処理装置;プリンタ;電源装置;ディスプレイ;光学装置;手持ち式のシステムを含む計測システム;軍事用電子機器等が挙げられる。
【0012】
本明細書において、半導体素子とは、電気電子機器に搭載される発熱性素子であり、例えば、CPU、GPU、SSD等が挙げられ、該半導体素子は、例えば、単元素のシリコン、ゲルマニウム、化合物半導体のヒ化ガリウム(GaAs)、リン化ガリウム(GaP)、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)、炭化珪素(SiC)等で構成される。
【0013】
本明細書において、電気電子機器がサーバーコンピュータの場合、1つのロジックボード又は複数のロジックボードが内部空間内に配置されている。ロジックボードは、CPU、GPU等の少なくとも1つのプロセッサを含む多数の発熱電子部品を備える。それに加えて、例えば、チップセット;メモリ、グラフィックス・チップ、ネットワーク・チップ、RAM、電源装置、ドーターカード;固体ドライブ、機械式ハードディスク等の記憶ドライブ;といったコンピュータの他の発熱部品をフッ素系絶縁性冷媒の冷却液に浸漬することもできる。
【0014】
本明細書において、「液浸冷却」とは、冷媒が貯留された槽内に、被冷却物である電気電子機器を浸漬し、その動作に伴って発生する熱を該冷媒で奪い、被冷却物である電気電子機器を冷却する技術を意味する。通常、冷媒が貯留される槽には、比較的低温の冷媒が供給され、その槽からは、電気電子機器の熱を奪って暖められた比較的高温の冷媒が排出されて、継続的に電気電子機器が冷却される。このような液浸冷却を採用する、いわゆる液浸冷却システムは、例えば、発熱密度又は実装密度の比較的高い、スーパーコンピュータ又はハイパフォーマンスコンピュータのようなコンピュータシステムを構成する電気電子機器の冷却に用いられる。液浸冷却システムに使用される冷媒は、絶縁性、安全性、冷却効率、熱輸送効率が求められ、更にGWPが低いことが求められる。
【0015】
本明細書において、GWPは、IPCC第5次報告書(AR5)の定めるところにより算出されるものとする。
【0016】
(液浸冷却装置)
図1に示されるように、本開示の液浸冷却装置は、電気電子機器とフッ素系絶縁性冷媒と該フッ素系絶縁性冷媒を貯留する冷媒槽とを備え、該電気電子機器が、該フッ素系絶縁性冷媒内に少なくとも部分的に浸されている。本開示の液浸冷却装置において、フッ素系絶縁性冷媒の沸点は50~60℃である。
【0017】
本開示の液浸冷却装置は、電気電子機器を浸漬冷却するために用いられる。本開示の液浸冷却装置によれば、電気電子機器(特に、電気電子機器に搭載される半導体素子)を効率的に冷却することができる。
【0018】
本明細書において、電気電子機器がフッ素系絶縁性冷媒内に少なくとも部分的に浸されているとは、電気電子機器の全部又は一部がフッ素系絶縁性冷媒に浸されていることを意味する。
【0019】
冷媒槽は、上層部と下層部とを備えることが好ましい。冷媒槽は、上層部に気体貯留部を備えることが好ましい。冷媒槽は、下層部にフッ素系絶縁性冷媒を貯留する冷媒液貯留部を備えることが好ましい。
【0020】
気体貯留部には、凝縮器が設けられていることが好ましい。該凝縮器は、フッ素系絶縁性冷媒の蒸気を凝縮して液体に戻すことができる。液化したフッ素系絶縁性冷媒は、流下して冷媒液貯留部に至る。
【0021】
本開示の液浸冷却装置は、電気電子機器を少なくとも部分的に浸すフッ素系絶縁性冷媒を貯留する冷媒槽と、該冷媒槽の気体貯留部に設けられ、該フッ素系絶縁性冷媒の蒸気を凝縮して液体に戻す凝縮器と、を備え、該フッ素系絶縁性冷媒の沸点が50~60℃である、ことが好ましい。
【0022】
本開示において、電気電子機器からフッ素系絶縁性冷媒の蒸発気化により熱を奪って電気電子機器を冷却させる。気化したフッ素系絶縁性冷媒は、冷媒槽の気体貯留部に設けられている凝縮器に至り、熱を液浸冷却装置の外部に放散して液化する。液化したフッ素系絶縁性冷媒は、冷媒槽の壁面を流下して冷媒液貯留部に至る。これを繰り返すことにより、熱は冷媒液貯留部と凝縮器との間を移動する。冷媒槽の冷媒液貯留部が冷却側となり、凝縮器が放熱側となる。
【0023】
本開示の液浸冷却装置は、冷媒槽に貯留されたフッ素系絶縁性冷媒の液位を検出するための液位センサをさらに備えることが好ましい。
【0024】
本開示の液浸冷却装置は、冷媒槽が冷媒槽本体部と取り外し可能な冷媒槽蓋部とを備えることが好ましい。
【0025】
本開示の液浸冷却装置は、冷媒槽の気体貯留部に、凝縮されたフッ素系絶縁性冷媒中に含まれる浮遊物(ゴミ等)を捕捉できる濾過部が配置されていることが好ましい。
【0026】
本開示において、蒸発気化による冷却方法に併用して、自然対流循環熱伝達及び/又は強制循環熱伝達を用いることができる。自然対流循環熱伝達とは、冷媒を自然対流によって循環させて熱伝達を行なうものであり、ポンプ等の動力を使用しない方式である。一方、強制循環熱伝達とは、ポンプ、コンプレッサー等の動力を用いて冷媒を強制的に循環させる方式である。具体的には、強制循環熱伝達としては、例えば、冷却対象物から奪った熱を、二次冷却ループを介して別の冷却装置に送達する二次冷却において、二次冷却ループを循環する液体の冷媒をポンプで循環させる方式がある。
【0027】
本開示の液浸冷却装置は、濾過部に水分を捕捉できる乾燥剤が配置されていることが好ましい。
【0028】
本開示の液浸冷却装置に使用されるフッ素系絶縁性冷媒は、電気絶縁性及び熱伝導性が高いため、電気電子機器を効率的に冷却することができる。更に、本開示の液浸冷却装置に使用されるフッ素系絶縁性冷媒は、GWPが低く、且つ、十分な安定性、低い毒性、低い引火性、高い冷却効率性等の優れた性能を有する。
【0029】
本開示の液浸冷却装置において、フッ素系絶縁性冷媒の電気抵抗率は1×107~1×1015Ω・cmであることが好ましい。
【0030】
本開示の液浸冷却装置において、フッ素系絶縁性冷媒の蒸発潜熱は100~200J/gであることが好ましい。蒸発潜熱が100J/g以上であることにより、熱交換器のチューブ間を通る冷媒量が少なくなるため、抵抗が少なくなる(圧力損失が低くなる)。圧力損失が低いと、沸点が変わらないため、冷媒としての性能が落ちないため好ましい。
【0031】
本開示の液浸冷却装置において、フッ素系絶縁性冷媒の絶縁耐力は15~30kVであることが好ましい。
【0032】
本開示の液浸冷却装置において、フッ素系絶縁性冷媒の熱伝導率は0.05~0.12W/mKであることが好ましい。熱伝導率がこの範囲内であれば、外気への放熱性が優れるため好ましい。
【0033】
本開示の液浸冷却装置において、フッ素系絶縁性冷媒のGWPは400以下であることが好ましい。
【0034】
冷媒槽には、冷却対象物として電気電子機器が収容される。電気電子機器は、例えば、冷媒槽蓋部から冷媒槽本体部内に収容することができる。電気電子機器は、フッ素系絶縁性冷媒液に浸された状態で、冷媒槽本体部に収容される。
【0035】
本開示の液浸冷却装置は、電気電子機器に搭載される半導体素子の液浸冷却に好適に用いられる。本開示の液浸冷却装置は、データセンターにおける電気電子機器の液浸冷却により好適に用いられる。本開示の液浸冷却装置は、電気電子機器に搭載される半導体素子のデータセンターにおける液浸冷却に特に好適に用いられる
【0036】
本開示の液浸冷却装置において、フッ素系絶縁性冷媒は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)及び/又は1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(HFE-356mec)を含有することが好ましい。HFE-356mmzは、化学式(CF3)2CHOCH3で表され、CAS登録番号[13171-18-1]の冷媒である。HFE-356mmzの沸点は51℃であり、地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)は14である。HFE-356mecは、化学式CF3CHFCF2OCH3で表され、CAS登録番号[382-34―3]の冷媒である。HFE-356mecの沸点は54℃であり、GWPは387である。
【0037】
本開示の液浸冷却装置において、冷媒槽が、フッ素系絶縁性冷媒とメタノールとを貯留することが好ましい。この場合、該フッ素系絶縁性冷媒は、HFE-356mmz及び/又はHFE-356mecを含有することがより好ましい。
【0038】
本開示のフッ素系絶縁性冷媒は、コールドプレート及びヒートパイプにおける電気電子機器の冷却に好適に使用することができる。
【0039】
(液浸冷却用組成物)
本開示の組成物は、冷媒1を含有する液浸冷却用組成物である。以下、冷媒1を含有する液浸冷却用組成物を単に「組成物1」とも称する。
【0040】
冷媒1は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)及び/又は1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(HFE-356mec)を必須成分として含む。換言すると、本開示の組成物1は、冷媒1として、HFE-356mmz及び/又はHFE-356mecを含有する組成物である。
【0041】
冷媒1は、更にメタノールを含有することが好ましい。本開示の組成物1は、冷媒1として、HFE-356mmzとメタノールとを含有する液浸冷却用組成物であることがより好ましい。本開示の組成物1は、冷媒1として、HFE-356mecとメタノールとを含有する液浸冷却用組成物であることがより好ましい。
【0042】
冷媒1がHFE-356mmzとメタノールとを含有する場合、冷媒1全体におけるHFE-356mmz及びメタノールの合計量は好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上である。
【0043】
冷媒1は、HFE-356mmz及びメタノールのみからなることが特に好ましい(但し、冷媒として不可避的不純物の含有は許容される)。
【0044】
冷媒1がHFE-356mmzとメタノールとを含有する場合、HFE-356mmzとメタノールとの合計量を100質量%として、HFE-356mmzを94.00~99.9999質量%含有し、メタノールを6.00~0.0001質量%含有する、ことが好ましい。
【0045】
冷媒1がHFE-356mmzとメタノールとを含有する場合、HFE-356mmzとメタノールとの合計量を100質量%として、HFE-356mmzを95.00~99.00質量%含有し、メタノールを5.00~1.00質量%含有する、ことがより好ましい。
【0046】
冷媒1がHFE-356mmzとメタノールとを含有する場合、HFE-356mmzとメタノールとの合計量を100質量%として、HFE-356mmzを96.00~98.50質量%含有し、メタノールを4.00~1.50質量%含有する、ことが特に好ましい。
【0047】
冷媒1は、HFE-356mmz及びメタノールのみからなり、HFE-356mmzとメタノールとの合計量を100質量%として、HFE-356mmzを94.00~99.9999質量%含有し、メタノールを6.00~0.0001質量%含有する、ことが好ましい(但し、冷媒として不可避的不純物の含有は許容される)。
【0048】
本開示において、HFE-356mmzとメタノールとを含有する組成物は、高い絶縁性及び高い熱容量(比熱)を有し、且つ、化学的に不活性であるため、サーバーのような電子ハードウェアデバイスのための液浸冷却用冷媒としての使用に適する。
【0049】
冷媒1がHFE-356mecとメタノールとを含有する場合、冷媒1全体におけるHFE-356mec及びメタノールの合計量は好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上である。
【0050】
冷媒1は、HFE-356mec及びメタノールのみからなることが特に好ましい(但し、冷媒として不可避的不純物の含有は許容される)。
【0051】
本開示において、HFE-356mecとメタノールとを含有する組成物は、高い絶縁性及び高い熱容量(比熱)を有し、且つ、化学的に不活性であるため、サーバーのような電子ハードウェアデバイスのための液浸冷却用冷媒としての使用に適する。
【0052】
本開示の組成物1は、電気電子機器に搭載される半導体素子の液浸冷却に好適に用いられる。本開示の組成物1は、データセンターにおける電気電子機器の液浸冷却により好適に用いられる。本開示の組成物1は、電気電子機器に搭載される半導体素子のデータセンターにおける液浸冷却に特に好適に用いられる
【0053】
本開示の液浸冷却方法は、冷媒1が貯留された液浸槽に、電気電子機器を浸漬し、当該電気電子機器を冷却する工程を含む、方法である。
【0054】
本開示において、電気電子機器を液浸冷却するために冷媒1を使用することが好ましい。本開示において、冷媒1が貯留された液浸槽に浸漬された電気電子機器を液浸冷却するために冷媒1を使用することがより好ましい。
【0055】
(ヒートパイプ)
本開示のヒートパイプは、密閉容器と、該密閉容器に接続された蒸発部と、該密閉容器に接続された凝縮部と、該密閉容器の内部に封入されたフッ素系絶縁性冷媒と、を備える。本開示のヒートパイプにおいて、フッ素系絶縁性冷媒が1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(HFE-356mec)を含有する。
【0056】
本開示のヒートパイプにおいて、蒸発部は密閉容器の一端に接続され、且つ、凝縮部は密閉容器の他端に接続されていることが好ましい。
【0057】
本開示のヒートパイプにおいて、フッ素系絶縁性冷媒が、HFE-356mec及び1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)を含有することが好ましい。
【0058】
本開示のヒートパイプにおいて、密閉容器の内部に、HFE-356mecとメタノールとを封入することが好ましく、HFE-356mecとHFE-356mmzとメタノールとを封入することがより好ましい。
【0059】
本開示のヒートパイプは、密閉容器の内部に、毛細管作用によってフッ素系絶縁性冷媒を流動させるウィック(芯)を備えることが好ましい。この場合、作動液としてのフッ素系絶縁性冷媒は、蒸発部で熱を吸収して蒸気となり、密閉容器中央部を他端に移動し、そこで熱を放出して液体になる。その液体はウィックの毛細管を経由して蒸発部に戻る。これらの工程を繰返すことにより、熱は一端から他端に、動力を必要とすることなく移送させることができる。
【0060】
(コールドプレート)
本開示のコールドプレートは、発熱体から熱を受ける受熱部と、熱を発散させる放熱部と、ポンプによってフッ素系絶縁性冷媒を循環させる循環経路と、を備える。本開示のコールドプレートにおいて、フッ素系絶縁性冷媒の沸点は50~60℃である。
【0061】
本開示のコールドプレートにおいて、フッ素系絶縁性冷媒は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)及び/又は1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(HFE-356mec)を含有することが好ましい。
【0062】
サーバーの冷却は、CPU上に配置したヒートシンクをファン空冷する方式が一般的であるが、本開示のコールドプレートでは、CPU等の発熱体から熱を受ける受熱部に、内部でフッ素系絶縁性冷媒が循環するよう設計された金属板を配置する。フッ素系絶縁性冷媒は金属板の片側の管からコールドプレート内部に流入し、CPU等と熱交換(熱を吸収)する。その後、フッ素系絶縁性冷媒はコールドプレートのもう一方の管から流出し、冷却水循環装置(CDU:Coolant Distribution Unit)と熱交換(熱を放出)し、再び冷却のためにコールドプレートに流入する、といった回路を構成する。
【0063】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、本開示は、実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
電気電子機器として、予め冷却ファンを取り除いたスティック型パソコン(株式会社アイ・オー・データ機器製、製品名「Compute Stick CSTK-32W」)を、液浸冷却装置の冷媒槽に入れた。次いで、フッ素系絶縁性冷媒として、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)を冷媒槽(縦10cm、横10cm、高さ15cm)に貯留した。その後、スティック型パソコンをHFE-356mmz内に完全に浸漬させ、スティック型パソコンの発熱部分であるCPU(Central Processing Unit)に、CPU負荷ツールであるOCTTを用いて、最大の負荷をかけてCPUを発熱させた。
【0066】
HFE-356mmzの蒸発気化により、スティック型パソコンのCPUで発生した熱が奪われてスティック型パソコンが冷却された。気化したHFE-356mmzは、冷媒
槽の気体貯留部に設けられている凝縮器に伝達され、凝縮器を介して液浸冷却装置の外部に熱を放散させた。そして、気化したHFE-356mmzは凝縮液化され、液化したHFE-356mmzは、冷媒槽の壁面を流下して、冷媒槽の貯留部に循環された。
【0067】
この状態を2週間保持し、1週間後及び2週間後において、外観、純度及びフッ素イオン濃度、スティック型パソコンのCPU温度を確認した。結果を以下の表1に示す。
【0068】
【0069】
表1において、外観が無色透明とは、目視によるHFE-356mmzの外観が無色透明であることを意味する。純度とは、HFE-356mmzの純度を意味し、ガスクロマトグラフィー分析によって測定した。変化なしとは、試験前後でHFE-356mmzの純度変化がない、即ち保持から1週間後及び2週間後に分解等が起こっていないことを意味する。フッ素イオン濃度とは、HFE-356mmzのフッ素イオン濃度を意味し、イオンクロマトグラフィー分析によって測定した。1ppm未満とは、フッ素イオンが遊離していない、即ち分解していないことを意味する。CPU温度とは、HFE-356mmz内に完全に浸漬されたスッティック型PCのCPU温度を意味する。HFE-356mmzの沸点(51℃)以上に温度上昇をしていない、即ち保持から2週間後でもスッティック型PCが効率的に冷却されていることを意味する。
【0070】
(実施例2)
外径17mm、肉厚2.0mm、長さ500mmの銅製パイプによって形成された沸騰冷却器(以下、「ヒートパイプ」と称する)の密閉容器内に、作動液としてHFE-356mecを30mL封入した。
【0071】
図2に示すように、ヒートパイプの片端を蒸発部としてヒーターを一定間隔で巻き付け,該ヒーターに電圧を負荷し加熱量の調整を行った。また、ヒートパイプの他端に、冷却ブロックを装着して凝縮部とし、冷却ブロック内に冷却水を供給、循環させて冷却水の温度により放熱量を調整した。更に、ヒートパイプにおける蒸発部と凝縮部との間の部分を断熱部として断熱材で断熱した。
【0072】
十分断熱されているとして蒸発部の加熱量を熱輸送量とした。ヒーターによる入力熱量(W)を種々変更し、入力熱量(W)とヒートパイプ内での作動液圧力(MPa)及び作動液熱抵抗(℃/W)との関係を求めた。その結果を以下の表2に示す。
【0073】
作動液熱抵抗(℃/W)は、蒸発部中心部における内部温度(℃)と、凝縮部中心部における内部温度(℃)との差をヒーターの入力熱量で除することにより求めた。
【0074】
【0075】
表2から、ヒーターの入力熱量が50Wから300Wの範囲において作動液熱抵抗の急激な変化はないことが確認できた。また、入力熱量が50Wから300Wの範囲において、作動液熱抵抗が0.1℃/W以下であり、熱抵抗が小さいことから、HFE-356mecを使用することにより熱伝達が効率的に行われていることが確認できた。
【0076】
(実施例3)
HFE-356mmz及びHFE-356mecの絶縁耐力を測定した。測定は測定法規格JIS C 2101に記載の方法に従い行った。HFE-356mmzの絶縁耐力は20kV、HFE-356mecの絶縁耐力は26kVであり、それぞれ絶縁性が非常に高いことが示された。
【0077】
HFE-356mmz及びHFE-356mecそれぞれの電気抵抗率を測定した。測定は測定法規格JIS C 2101に記載の方法に従い行った。HFE-356mmzの電気抵抗率は2.7×109(Ω・cm)、HFE-356mecの電気抵抗率は2.5×109(Ω・cm)であり、それぞれ電気抵抗率が非常に高いことが示された。
【0078】
実施例3の結果を以下の表3に示す。なお、HFE-356mmzとHFE-356mecとの比較対象として、フッ素系絶縁性冷媒の市販品であるスリーエムジャパン株式会社製のNovec7100及びNovec7200の絶縁耐力及び電気抵抗率を記載している。
【0079】
【符号の説明】
【0080】
1:液浸冷却装置
2:冷媒槽
3:フッ素系絶縁性冷媒
4:電気電子機器
5:冷媒液貯留部
6:気体貯留部
7:凝縮器
8:液位センサ
9:冷媒槽蓋部
10:濾過部
11:乾燥剤
12:ヒートパイプ
13:密閉容器
14:蒸発部
15:断熱部
16:凝縮部
17:冷却ブロック
18:冷却水
19:断熱材
20:ヒーター
21:恒温水槽
22:電源