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特許7583314フッ素樹脂フィルム、金属張積層板及び回路用基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】フッ素樹脂フィルム、金属張積層板及び回路用基板
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20241107BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241107BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20241107BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241107BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08J7/00 303
C08J5/18 CEW
B32B15/082 B
B32B27/30 D
H05K1/03 610H
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023119577
(22)【出願日】2023-07-24
(65)【公開番号】P2024014859
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2022117315
(32)【優先日】2022-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】河村 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】樋口 達也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙三
(72)【発明者】
【氏名】小森 洋和
(72)【発明者】
【氏名】天花寺 英明
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】小松 信之
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-259716(JP,A)
【文献】国際公開第2020/145133(WO,A1)
【文献】特開2021-160856(JP,A)
【文献】特開2017-002115(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235532(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
C08J 5/18
B32B 15/082
B32B 27/30
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を含む組成物からなるフィルムであって、
少なくとも一方の表面において、中央および左右それぞれの端から100mmの場所において、走行方向に対して100mmおきに、5か所で測定した水に対する接触角の平均値が105°以下であり、走行方向に対して100mmおきに、5か所で測定したn-ヘキサデカンに対する接触角の平均値が45°以下であり、
かつ、酸素元素の存在比率が2.0%以上であるフッ素樹脂フィルム。
【請求項2】
フィルム幅が400mm以上である、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項3】
フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)及び/又はテトラフルオロエチレン―ヘキサフルオロプロピレン(FEP)を含む、請求項1又は2に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項4】
10GHzにおける誘電正接が0.0015未満の、請求項1又は2記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項5】
10GHzにおける誘電正接が0.0010未満の、請求項1又は2記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項6】
不安定官能基数がフッ素樹脂の主鎖炭素数1×10個あたり10個未満の請求項1又は2記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項7】
表面粗さRzが1.5μm以下の金属箔と、フッ素樹脂フィルムの中央および左右それぞれの端から100mmにおける場所との接着強度が、0.8N/mm以上である、請求項1又は2記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項8】
エポキシ樹脂及び/又はポリフェニレンエーテルを含むプリプレグと、フッ素樹脂フィルムの中央および左右それぞれの端から50mmにおける場所との接着強度が、0.8N/mm以上である、請求項1又は2記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項9】
片面のみまたは両面において、フィルムの同一面内同士を200℃で貼り合わせたときの接着強度が30N/mより大きい、請求項1又は2記載のフッ素樹脂フィルム
【請求項10】
フィルムが長尺であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項11】
金属張積層板に用いられる請求項1又は2記載のフッ素樹脂フィルム
【請求項12】
金属箔及び請求項1又は2に記載のフッ素樹脂フィルムを必須の層とする金属張積層体。
【請求項13】
表面粗さRzが1.5μm以下である金属箔と、フッ素樹脂フィルムからなる積層体であって、金属箔と面していないフッ素樹脂フィルム表面の中央、および左右それぞれの端から100mmの場所における水に対する接触角が105°以下であり、n-ヘキサデカンに対する接触角が45°以下であり、かつ、酸素元素の存在比率が2.0%以上であることを特徴とする金属張積層体。
【請求項14】
金属箔は、表面粗さRzが1.5μm以下である請求項13に記載の金属張積層体。
【請求項15】
プリプレグと、積層体の中央および左右それぞれの端から100mmにおける場所との接着強度が、0.8N/mm以上である、請求項13に記載の金属張積層体。
【請求項16】
更に、金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層を有し、
当該金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項13に記載の金属張積層体。
【請求項17】
積層体が長尺であることを特徴とする、請求項13記載の金属張積層体。
【請求項18】
請求項10に記載のフッ素樹脂フィルムに対して金属箔を積層させる工程を有することを特徴とする請求項17に記載の金属張積層体の製造方法。
【請求項19】
請求項13に記載の金属張積層体を有することを特徴とする回路用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素樹脂フィルム、金属張積層板及び回路用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板には、絶縁層としてエポキシ樹脂やポリイミド樹脂が広く用いられている。近年、数十ギガヘルツレベルの高周波領域の用途で用いられる高周波回路基板には、誘電特性や吸湿性の観点から金属箔上にフッ素樹脂の絶縁層を形成する構成がいくつか提案されている。
【0003】
このようなプリント配線基板において、フッ素樹脂フィルムに表面処理を施すことによって、金属箔との接着性を得ることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-11413
【文献】特開2008-200991
【文献】国際公開2020/066457
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、フィルムの接着強度の均一性が高いフッ素樹脂フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
フッ素樹脂を含む組成物からなるフィルムであって、少なくとも一方の表面において、中央および左右それぞれの端から100mmの場所において、走行方向に対して100mmおきに、5か所で測定した水に対する接触角の平均値が105°以下であり、走行方向に対して100mmおきに、5か所で測定したn-ヘキサデカンに対する接触角の平均値が45°以下であり、かつ、酸素元素の存在比率が2.0%以上であるフッ素樹脂フィルムである。
【0007】
上記フッ素樹脂フィルムは、フィルム幅が400mm以上であることが好ましい。
上記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)及び/又はテトラフルオロエチレン―ヘキサフルオロプロピレン(FEP)を含むことが好ましい。
【0008】
上記フッ素樹脂フィルムは、10GHzにおける誘電正接が0.0015未満であることが好ましい。
上記フッ素樹脂フィルムは、不安定官能基数がフッ素樹脂の主鎖炭素数1×10個あたり10個未満であることが好ましい。
【0009】
上記フッ素樹脂フィルムは、表面粗さRzが1.5μm以下の金属箔と、フッ素樹脂フィルムの中央および左右それぞれの端から100mmにおける場所との接着強度が、0.8N/mm以上であることが好ましい。
【0010】
上記フッ素樹脂フィルムは、エポキシ樹脂及び/又はポリフェニレンエーテルを含むプリプレグと、フッ素樹脂フィルムの中央および左右それぞれの端から100mmにおける場所との接着強度が、0.8N/mm以上であることが好ましい。
【0011】
上記フッ素樹脂フィルムは、金属箔との接着温度が200℃以上であることが好ましい。上記フッ素樹脂フィルムは、金属張積層板に用いられることが好ましい。
【0012】
本発明は、金属箔及び上記フッ素樹脂フィルムを必須の層とする金属張積層体でもある。
本発明は、表面粗さRzが1.5μm以下である金属箔と、フッ素樹脂フィルムからなる積層体であって、金属箔と面していないフッ素樹脂フィルム表面の中央、および左右それぞれの端から100mmの場所における水に対する接触角が105°以下であり、n-ヘキサデカンに対する接触角が45°以下であり、かつ、酸素元素の存在比率が2.0%以上であることを特徴とする金属張積層体でもある。
【0013】
上記金属張積層体は、金属箔が表面粗さRz1.5μm以下であることが好ましい
本開示の金属張積層体はプリプレグと、積層体の中央および左右それぞれの端から100mmにおける場所との接着強度が、0.8N/mm以上であることが好ましい。
【0014】
本開示の金属張積層体は、更に、金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層を有し、当該金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
本開示は、上述した金属張積層体を有することを特徴とする回路用基板でもある。
【発明の効果】
【0016】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、フィルムの接着強度の均一性が高いという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示を詳細に説明する。
フッ素樹脂フィルムを金属張積層板用の基板として使用する場合、基板上に金属箔やその他の樹脂等を積層する場合がある。フッ素樹脂は、本来、接着能が低い樹脂であることから、この場合の接着能を改善することが要求される場合がある。
【0018】
このような接着能の改善のため、フッ素樹脂フィルムに対して、プラズマ処理、コロナ処理、スパッタ処理等の表面処理を施すことが公知である。しかし、このような処理において、均一な表面処理を行うことは困難であり、処理のムラが生じてしまうことが多かった。
【0019】
しかし、フッ素樹脂フィルムをプリント配線基板において使用する場合、表面処理の弱い箇所に金属配線が形成されることで、回路形成後に剥がれが生じ、品質面で顧客要求を満たさない懸念が生じるという観点から、接着性のムラは大きな問題となる。このため、これを改善するような、均一な表面状態を有するフッ素樹脂フィルムが要求されてきた。
【0020】
本開示は、上述したような問題点を踏まえ、均一な表面処理が施されているために、中央および左右それぞれの端から100mmの場所における水に対する接触角が105°以下であり、n-ヘキサデカンに対する接触角が45°以下であるような、均一な表面状態を有するフッ素樹脂フィルムである。
以下、これらの点についてそれぞれ詳述する。
【0021】
(フッ素樹脂フィルムの表面状態)
本開示のフッ素樹脂フィルムは、中央および左右それぞれの端から100mmの場所における水に対する接触角が105°以下であり、n-ヘキサデカンに対する接触角が45°以下との要件を満たすものである。
【0022】
フッ素樹脂フィルムの接着性を改善するための表面処理を施すと、フィルム表面の水やn-ヘキサデカンに対する接触角は小さくなる。しかし、表面処理の状態によっては、表面の接触角にはばらつきが生じ、充分に接触角が低下していない場所も存在した。本開示においては、この点を改善し、均一性が高い表面処理を行うとともに、表面処理の種類としても、水及び有機溶媒の両方に対して表面張力が充分に低下するような処理方法・処理条件を選択することを特徴とするものである。
【0023】
フィルムの表面処理の状態は、特に、フィルムの端部と中央部とでの差が生じやすい。このため、端部においても、中央部においても同様に上述した接触角を満たすことに本開示の特徴がある。
【0024】
本開示のフッ素樹脂フィルムの表面状態は、中央および左右それぞれの端から100mmの3カ所のすべての場所において、走行方向に対して、100mmおきに、5か所で測定した水に対する接触角の算術平均が105°以下であり、走行方向に対して100mmおきに、5か所で測定したn-ヘキサデカンに対する接触角の算術平均が45°以下というものである。
【0025】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、両面が上述したパラメータを満たすものであってもよいし、片面だけが上記パラメータを満たすものであってもよい。
【0026】
(フッ素樹脂フィルム)
本開示のフッ素樹脂フィルムは、長尺フィルムであることが好ましい。長尺フィルムである場合、幅方向と長さ方向との方向があり、長さ方向が長尺方向となる。そして、幅方向に対して中央部、及び両端から100mmの場所という3カ所を測定位置とする。
【0027】
この3つの測定位置それぞれに対して、任意の位置を第1の測定点として、その測定点から長さ方向に100mmおきに5箇所の接触角を測定し、これらの測定値の平均を本開示における接触角とする。
【0028】
幅方向に対して3つの位置について、それぞれ5か所の接触角を測定することとなるが、長さ方向という点では同一の位置で5箇所の接触角を測定して平均をとるものである。
【0029】
このようにして、5箇所について、水及びn-ヘキサデカンに対する接触角を測定した場合、この接触角がそれぞれ105°以下、45°以下となるものである。このようなものとすることで、上述したような課題が解決される。接着強度に対する水とn-ヘキサデカンとの関係性の詳細は不明だが、下記の観点から一定の範囲にすることが好ましいと推測される。
【0030】
水に対する接触角が下がることはフィルム表面への水との相互作用が強い極性成分(官能基)の存在が多いこと、またn-ヘキサデカンに対する接触角が下がることは表面へのn-ヘキサデカンとの相互作用が強い非極性成分の存在が多いことが示唆される。接着は相手材との接触面積が増えるように濡れ性が高いこと、また化学結合やアンカー効果などによって基材同士が強固に接着することが必要になる。フッ素はあらゆる材料に対して濡れ性が低いため、極性、非極性成分両方に対する相互作用を上げて濡れ性を上げておくことが接着強度を向上させる要因になっていると推測される。
【0031】
本開示において、接触角とは静的接触角のことであり、静的接触角は全自動接触角計DropMaster700(協和界面化学社製)を用いて次の方法で測定した。水平に置いた基材にマイクロシリンジから溶液を2μL滴下し、滴下1秒後の静止画をビデオマイクロスコープで撮影することにより求めた。静的接触角の測定値について、所定の箇所を測定し、その平均値を算出して用いた。
【0032】
上記水に対する接触角の平均値は、105°以下であることがより好ましく、100°以下であることがより好ましく、90°以下であることがさらに好ましい。上記n-ヘキサデカンに対する接触角の平均値は、45°以下であることがより好ましく、40°以下であることがより好ましく、35°以下であることがさらに好ましい。このような接触角を有するフッ素樹脂フィルムの製造方法については、以下で詳述する。
【0033】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、厚みが5~150μmであることが好ましい。このような範囲内のものは、基材フィルムとしての充分な性能を有するものである観点から好ましい。上記厚みの下限は、5μmであることがより好ましく、10μmであることが更に好ましい。上記厚みの上限は、150μmであることがより好ましく、100μmであることが更に好ましい。
【0034】
本開示において、フィルムの厚みは、幅方向に、5mmごとに、走行方向に対して200mmごとに12箇所厚みを測定する。そして、同一の幅方向について、走行方向について12箇所の厚みを算術平均する。これらの値が、幅方向に5mmごとにそれぞれ測定した走行方向の膜厚平均となる。そして、このようにして幅方向に5mmごとに測定した走行方向の膜厚平均すべての値の算術平均値を面全体の膜厚平均とする。
【0035】
このようにして得られた膜厚平均と幅方向5mm毎に各々走行方向の膜厚平均とを比較した場合、幅方向5mm毎に各々走行方向の膜厚平均は、すべて平均値±2μmの範囲内の値になることが好ましい。
【0036】
これは、極めて厚みの均一性が高いフィルムであることを意味するものであり、このように高い均一性を有するものであると、長尺のフィルムを巻き取った際に、その状態での厚みの差が小さいために、均一性の高いフィルムを良好な状態で巻き取られたものとすることができる。これによって、次いで行われる金属箔とのラミネートによる不具合を生じにくいという点で好ましいものである。さらに、特性インピーダンスを良好な範囲のものとすることができる。
【0037】
表面処理の状態及びフィルムの厚みの両方の観点で均一性が高いフィルムであると、特に金属箔と接着する用途において、均一な接着を図ることができる点で好ましいものである。
【0038】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、長尺フィルムであることが好ましい。より具体的には、幅が、400mm以上、長さが3m以上であることが好ましい。生産性の観点から、幅は、500mm以上であることがより好ましい。また、長さは10m以上であることがより好ましい。このような長尺フィルムは、ロールフィルムであることが好ましい。
【0039】
(フッ素樹脂)
本開示のフッ素樹脂フィルムを構成するフッ素樹脂は、不安定官能基数が少ないほうがよく、このようなフッ素樹脂は製造時(重合反応時)の条件調整によって作製する方法や、重合後のフッ素樹脂に対してフッ素ガス処理(フッ素化処理)、熱処理、超臨界ガス抽出処理等を行うことで不安定官能基数を低減化する方法などがある。処理効率に優れている点、不安定官能基の一部又は全部が-CFに変換され安定末端基となる点からフッ素ガス処理が好ましい。このように不安定官能基数を低減したフッ素樹脂を使用すると、静電正接が低下し、電気信号の損失が低下するという点で好ましいものである。
本開示のフッ素樹脂は、不安定官能基数がフッ素樹脂の主鎖炭素数1×10あたり350個未満であることが好ましい。このように不安定官能基数が小さいことで、溶融成型時のガス発生が抑制され、Tダイのスリット付近に滞留するガスを原因とする溶融樹脂の偏流による偏肉を抑制することができる。
【0040】
上記不安定官能基数は、フッ素樹脂の主鎖炭素数1×10個あたり250個未満であることがより好ましく、100個未満であることがさらに好ましく、20個未満がさらに好ましく、10個未満が最も好ましい。
【0041】
不安定官能基としては、具体的に-COF、-COOH free(遊離のCOOH)、-COOH bonded(会合している-COOH)、-CHOH、-CONH、-COOCH等の官能基を挙げることができる。
【0042】
不安定官能基数は、具体的には、以下の方法で測定する。まず、フッ素樹脂を溶融させて、圧縮成形することで、厚さ0.25~0.3mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記フッ素樹脂の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、上記フッ素樹脂における主鎖炭素原子1×10個あたりの不安定官能基数を算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0043】
参考までに、本明細書における不安定官能基について、吸収周波数、モル吸光係数及び補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0044】
【表1】
【0045】
上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。
【0046】
上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、フッ化ハロゲン(例えばIF、ClF)等が挙げられる。
【0047】
上記Fガス等のフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、不活性ガスと混合し5~50質量%に希釈して使用することが好ましく、15~30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0048】
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態のフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、フッ素樹脂の融点以下、好ましくは20~220℃、より好ましくは100~200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1~30時間、好ましくは5~25時間行う。上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂をフッ素ガス(Fガス)と接触させるものが好ましい。
【0049】
本明細書において、フッ素樹脂を構成する各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0050】
本開示のフッ素樹脂フィルムを構成する樹脂は特に限定されるものではなく、フッ素原子を一部に含む重合体であればよい。フッ素樹脂は、溶融成形可能なフッ素樹脂であることがより好ましく、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位を有する共重合体(CTFE共重合体)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、及びポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライド共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン・ビニリデンフルオライド共重合体等が挙げられる。
これら溶融成形可能なフッ素樹脂の中でも、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が好ましい。
【0051】
上記溶融成形可能なフッ素樹脂を使用することで、溶融成形を行うことができるため、PTFEを使用する場合よりも加工面でコストを抑えることができる。更に、金属箔と接着させる際の接着性を向上することができる。
【0052】
上記PFAは、融点が180~340℃であることが好ましく、230~330℃であることがより好ましく、280~320℃であることが更に好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0053】
上記PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70/30以上99.5/0.5未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.5/1.5以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE及びPAVEのみからなる共重合体であってもよいし、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF(式中、Z、Z及びZは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Zは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2~10
の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。その他の共重合可能な単量体としては、たとえば酸無水物基を有する環状炭化水素単量体などであり、酸無水物系単量体としては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸などが挙げられる。酸無水物系単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0054】
上記PFAは、メルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~90g/10分であることがより好ましく、1.0~85g/10分であることが更に好ましい。なお、本明細書においてMFRは、ASTM D3307に準拠して、温度372℃、荷重5.0kgの条件下で測定し得られる値である。
【0055】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上97/3以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0056】
上記FEPは、融点が150~320℃であることが好ましく、200~300℃であることがより好ましく、240~280℃であることが更に好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
上記FEPは、MFRが0.01~100g/10分であることが好ましく、0.1~80g/10分であることがより好ましく、1~60g/10分であることが更に好ましく、1~50g/10分であることが特に好ましい。
【0057】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂以外の成分を含有するものであってもよい。含有することができる成分としては特に限定されず、シリカ粒子、ガラス短繊維などのフィラー、フッ素を含まない熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂等を挙げることができる。フッ素樹脂以外の成分の含有量は、5質量%以下(さらに好ましくは、3%以下、1%以下など)とすることが好ましい。
【0058】
本開示のフッ素樹脂を含む組成物は、球状シリカ粒子を含有するものであってもよい。これによって、樹脂の流動性が良好なものとなり、多量にシリカを配合した場合でも、成形が容易なものとなる。
【0059】
上記球状シリカ粒子は、その粒子形状が真球に近いものを意味しており、具体的には、球形度が0.80以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上がさらに好ましく、0.95以上が最も好ましい。球形度はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(球形度)={4π×(面積)÷(周囲長)2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理装置(スペクトリス株式会社:FPIA-3000)を用いて100個の粒子について測定した算術平均値を採用する。
【0060】
上記球状シリカ粒子は、粒径が小さい方から体積を積算したときにD90/D10が2以上(望ましくは2.3以上、2.5以上)、D50が10μm以下であることが好ましい。更に、D90/D50が1.5以上であることが好ましい(更に望ましくは1.6以上)。D50/D10が1.5以上であることが好ましい(更に望ましくは1.6以上)。粒径が大きな球状シリカ粒子の間隙に粒径が小さな球状シリカ粒子が入ることが可能になるため、充填性に優れ、且つ、流動性を高くすることができる。特に粒度分布としてはガウス曲線と比較して粒径が小さい側の頻度が大きいことが好ましい。粒径はレーザ回折散乱方式粒度分布測定装置により測定可能である。また、所定以上の粒径をもつ粗粒をフィルタなどで除去したものであることが好ましい。
【0061】
上記球状シリカ粒子は、吸水性が1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。吸水性は乾燥時のシリカ粒子の質量を基準とする。吸水性の測定は乾燥状態にある試料を40℃ 80%RHに1時間放置し、カールフィッシャー水分測定装置で200℃加熱により生成する水分を測定し、算出する。
【0062】
また上記球状シリカ粒子は、フッ素樹脂組成物を600℃で30分間、大気雰囲気下で加熱することでフッ素樹脂を焼き飛ばし、球状シリカ粒子を取り出したのち、上述の方法を用いて上記各パラメータを測定することもできる。
【0063】
本発明のシリカ粉末は、表面処理が施されたものであってもよい。表面処理を予め施すことで、シリカ粒子の凝集を抑制することができ、樹脂組成物中にシリカ粒子を良好に分散させることができる。
【0064】
上記表面処理としては特に限定されるものではなく、公知の任意のものを使用することができる。具体的には例えば、反応性官能基を有するエポキシシラン、アミノシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、疎水性のアルキルシラン、フェニルシラン、フッ素化アルキルシランなどのシランカップリング剤による処理、プラズマ処理、フッ素化処理等を挙げ
ることができる。
【0065】
上記シランカップリング剤として、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、アクリロキシトリメトキシシラン等のアクリルシラン等が例示される。
【0066】
上記球状シリカは、市販のシリカ粒子で上述した性質を満たすものを使用するものであってもよい。市販のシリカ粒子としては、例えば、デンカ溶融シリカ FBグレード(デンカ株式会社製)、デンカ溶融シリカ SFPグレード(デンカ株式会社製)、エクセリカ(株式会社トクヤマ製)、高純度合成球状シリカ アドマファイン(株式会社アドマテックス 製)、アドマナノ(株式会社アドマテックス 製)、アドマフューズ(株式会社アドマテックス 製)、等を挙げることができる。
【0067】
上記球状シリカを配合する場合、その配合量は、フッ素樹脂長尺フィルムの質量に対して、5質量%以下(さらに好ましくは、3%以下、1%以下など)とすることが好ましい。
【0068】
(表面の酸素元素比率)
本開示のフィルムは、180℃×3分間熱処理した後にその片面又は両面の表面状態をESCAによって測定した際の酸素元素比率が1.35atomic%以上であることが好ましい。上記酸素原子比率は、1.5atomic%以上であることがより好ましく、1.8atomic%以上であることが更に好ましく、2.0atomic%以上であることが最も好ましい。
【0069】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、表面が所定の接触角を有するためには、プラズマ処理等の表面処理を施すことによって、酸素元素比率を高めることが好ましい。よって、本開示のフッ素樹脂フィルムは、押出成形によって得られたフィルム、またはフッ素樹脂粉末を含む液状組成物を基材に塗布し、乾燥して得られたフィルムに対して表面処理を施し、酸素元素比率を高めて接着性を改善して、表面の酸素元素比率を上述した範囲内のものとしてもよい。
【0070】
本開示のフィルムは、その表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率と、当該フィルムをアルゴンガスクラスターイオンビームによって、入射角45°で深さ方向に15分間エッチングしたあと、走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率の差が1.0atomic%以上のフッ素フィルムであってもよい。このように接着に寄与する表面の酸素元素比率のみを高めることで、誘電特性を損なわず、充分な接着強度を得ることができる。
【0071】
上記180℃×3分間の熱処理は、金属製のトレイの上にフィルムを置きAir雰囲気下の電気炉内で処理したことを意味する。
【0072】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、180℃×10分間の熱処理後に25℃まで冷却し測定した際、熱処理前後のMDおよびTDの寸法変化率の絶対値が2.0%以下であることが好ましい。上記寸法変化率は、1.8%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることが最も好ましい。本開示において、寸法変化率は、300mm角にカットしたフィルムサンプルに180mm間隔で標点をつけ、180℃に設定したAir雰囲気下の電気炉で、荷重をかけずに10分間熱処理を行った後、25℃まで冷却したフィルムのMD方向およびTD方向それぞれの標点間隔を測定し、熱処理前後の標点間隔の変化量から算出したものである。
【0073】
このような寸法変化率を有するフッ素樹脂フィルムを得るためには、以下で詳述するようなアニール処理を行うことが好ましい。
【0074】
本開示の樹脂フィルムは、10GHzにおける誘電正接が0.0015未満であることがより好ましい。当該範囲内のものとすることで、回路中の電気信号の損失を低く抑えることができる点で好ましい。上記誘電正接は、0.0013未満であることがより好ましく、0.0010未満であることが更に好ましい。誘電正接を上記範囲内のものとするためには、不安定官能基が少ない樹脂を使用することが好ましく、末端フッ素化処理を行ったフッ素樹脂を使用することがより好ましい。
【0075】
上記フッ素樹脂フィルムは、表面粗さRzが1.5μm以下の金属箔と温度がフッ素樹脂の融点以上融点+30℃以下、圧力が1.5~3.0MPa、時間が300~600秒の条件で真空ヒートプレスを用いて接着した場合のフッ素樹脂フィルムの中央および左右それぞれの端から100mmにおける場所との接着強度が0.8N/mm以上であることが好ましい。
すなわち、フィルムの中心部端部のいずれにおいても充分な接着強度を有するものであり、接着性の均一度が高いものである。
なお、本願明細書における接着強度は、接触角の測定と同様に、走行方向に対して100mmおきに、5カ所で測定した測定値の算術平均を意味するものである。
【0076】
上記フッ素樹脂フィルムは、熱硬化性樹脂であるプリプレグと、フッ素樹脂フィルムの中央および左右それぞれの端から100mmにおける場所との接着強度が、0.8N/mm以上であることが好ましい。なお、ここでの接着強度は、実施例において記載した方法で接着した場合の接着強度を意味する。
なお、当該接着強度もまた、接触角の測定と同様に、走行方向に対して100mmおきに、5カ所で測定した測定値の平均値を意味するものである。
【0077】
上記フッ素樹脂フィルムは、片面のみまたは両面において、フィルムの同一面内同士を200℃で貼り合わせたときの接着強度が30N/mより大きいことが好ましい。このような接着強度を有するものとすることで、フッ素樹脂フィルムを熱処理した後でも、その他の種々の基材と組み合わせて使用する場合の接着性に優れたものになり、上記接着強度は、50N/mより大きいことがより好ましく、100N/mより大きいことが更に好ましい。
【0078】
(本開示のフッ素樹脂フィルムの製造方法)
本開示のフッ素樹脂フィルムは、溶融した樹脂をTダイから押し出すことによってこれをフィルム形状に成形し、冷却後、これを巻き取ることによって製造する押出溶融成形によるものが一般的である。
【0079】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、主に、表面処理の方法に特徴を有するものである。但し、表面処理を施す樹脂フィルム自体も均一性が高いフィルムとした場合、フィルム全体としての均一性が高いものとなる点で好ましい。よって、特に、厚みムラが少ないフッ素樹脂フィルムの製造方法とすることが好ましい。
【0080】
このような観点から、押出溶融成形においては、Tダイにおける樹脂が流出する端部から最初のロールに接触するまでのエアギャップ距離、使用する樹脂のMFR、フィルム製造の際の溶融温度、圧力、Tダイのスリット幅、間隙幅等が特に、樹脂フィルムの厚みに影響を与えるものである。したがって、これらを適宜調整することによって、上述したようなパラメータを満たす平滑な樹脂フィルムを得ることができる。
【0081】
更に、MFRについても、調整を行うことが好ましい。すなわち、エアギャップを短くすることで、溶融体と最初のロールとの間の空気層の介在を減らすことで、フィルムの厚みムラが低減されるものである。
【0082】
上記表面改質の具体的な方法は特に限定されるものではなく、公知の任意の方法によって行うことができる。フッ素樹脂フィルムの表面改質は、従来より行なわれているコロナ放電処理やグロー放電処理、プラズマ放電処理、スパッタリング処理などによる放電処理が採用できる。例えば、放電雰囲気中に酸素ガス、窒素ガス、水素ガスなどを導入することで表面自由エネルギーをコントロールできる他、有機化合物を含む不活性ガスである有機化合物含有不活性ガスの雰囲気に改質すべき表面を曝し、電極間に高周波電圧をかけることにより放電を起こさせ、これにより表面に活性種を生成し、ついで有機化合物の官能基を導入もしくは重合性有機化合物をグラフト重合することによって表面改質を行うことができる。上記不活性ガスとしては、たとえば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0083】
前記有機化合物含有不活性ガス中の有機化合物としては酸素原子を含有する重合性又は非重合性有機化合物が挙げられ、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニルなどのビニルエステル類;グリシジルメタクリレートなどのアクリル酸エステル類;ビニルエチルエーテル、ビニルメチルエーテル、グリシジルメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸、ギ酸などのカルボン酸類;メチルアルコール、エチルアルコール、フェノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、ギ酸エチルなどのカルボン酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸などのアクリル酸類などである。これらのうち改質された表面が失活しにくい、すなわち、寿命が長い点、取扱いが容易な点から、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、ケトン類が好ましく、特に酢酸ビニル、グリシジルメタクリレートが好ましい。
【0084】
前記有機化合物含有不活性ガス中の有機化合物の濃度は、その種類、表面改質されるフッ素樹脂の種類などによって異なるが、通常0.1~3.0容量%、好ましくは0.1~1.0容量%である。放電条件は目的とする表面改質の度合い、フッ素樹脂の種類、有機化合物の種類や濃度などによって適宜選定すればよい。通常、放電量が50~1500W・min/m、好ましくは70W・min/m以上1400W・min/m以下の範囲で放電処理する。処理温度は0℃以上100℃以下の範囲の任意の温度で行なうことができる。フィルムの伸びや皺などの懸念から80℃以下であることが好ましい。
【0085】
上記表面改質に際しては、単位面積当たりの出力を示す放電度が、1.0~10(W/cm)の範囲内で放電処理し、その際のガス濃度/ライン速度比を0.005~0.05(L/m)の範囲に調整することが好ましい。
ここでいう、ガス濃度/ライン速度比とは、前記有機化合物含有不活性ガス中の有機化合物の濃度を、ライン速度で割った比率を示すものである。0.005(L/m)より低いと、搬送速度に対し、空間内に充分なガスが満たされず、活性化したガスがフィルム表面に接触しにくくなり、面内の均一性が低下する。0.05(L/m)より高いと、表面が過剰に処理されてダメージを受けるため、低分子量化合物が表面に生成することにより、脆弱層が形成され、却って接着強度の低下を招く。よって、フィルム面内がより均一に処理され、かつ所定の密着性を得られると推測されるため、このような範囲内での処理が特に好ましい。
【0086】
表面改質の度合いは、後加工時の熱などによって表面の接着能が低下することを考慮すると、ESCAによって観察した際に酸素元素の存在比率が2.0%以上のものであり、2.5%以上が好ましく、3.0%以上がより好ましく、3.5%以上が更に好ましい。上限に関しては特に規定はしないが、生産性やその他の物性への影響を鑑みると、25.0%以下であることが好ましい。窒素元素の存在比率は特に規定されないが、0.1%以上あることが好ましい。またフッ素樹脂フィルム1枚の厚さは2.5~1000μmであることが好ましく、5~500μmがより好ましく、7~150μmが更に好ましい。
【0087】
このような処理は、フィルムの片面に対してのみ行うものであっても、両面に対して行うものであってもよい。
【0088】
(アニール処理)
本開示のフッ素樹脂フィルムは、上述した表面処理を行った後、アニール処理を施すものであってもよい。上述したように、本開示のフッ素樹脂フィルムは、金属箔とのラミネート時の寸法安定性を有するものであることが好ましい。したがって、加熱時の収縮率が低いものであることが好ましい。
【0089】
押出溶融成形によって得られたフッ素樹脂フィルムは、残存する内部応力のために、熱収縮を生じる場合が多く、このような熱収縮は、金属箔と貼り合わせる時の寸法安定性に悪影響を与えるものとなる。したがって、アニール処理を行うことによって、内部応力を緩和することが好ましい。アニール処理は、熱処理によって行うことができる。当該熱処理は、例えば、ロールtoロールの方式で加熱炉の中を通すことによって行うことができる。
【0090】
本開示のフッ素樹脂フィルムの製造においては、上記コロナ放電処理を行った後、アニール処理を行うことが好ましい。また、当該フィルムと金属箔などの他材をラミネートする工程において熱処理を行う場合がある。このため、これらの加熱処理を経ることによって、フッ素樹脂フィルムの表面の酸素量が低下することとなる。よって、実際にフッ素樹脂フィルムと金属箔などの他材が貼り合わされる時点において充分な表面酸素量を得るような条件で、表面改質を行うことが好ましい。
【0091】
アニール処理温度は、ガラス転移温度-20℃以上融点未満であることが好ましく、ガラス転移温度以上融点-20℃以下であることがより好ましく、ガラス転移温度以上融点―60℃以下であることが更に好ましい。アニール処理時間は、特に限定されないが、たとえば0.5~60分の中で適宜調整すればよい。
【0092】
上記ロールtoロールの方式で加熱する場合、張力はフィルムの厚みや設定温度などによって適宜調整すればよいが、20N/m以下であることが好ましい。このような条件下で加熱することで、充分に内部応力を緩和することができ、寸法変化等も生じることがない点で好ましい。
【0093】
上記表面処理及びアニール処理は、その順序を特に限定されるものではなく、それぞれの工程を行う回数も1回に限定されるものではなく、2回以上行うものであってもよい。
【0094】
本開示は、上述したフッ素樹脂フィルムの片面又は両面に金属箔を接着させたことを特徴とする積層体でもある。上述したように、本開示のフッ素樹脂を含むフィルムは、接着性に優れたものである。上記金属箔は、Rz1.5μm以下であることが好ましい。すなわち、本開示のフッ素樹脂組成物は、Rz1.5μm以下という平滑性の高い金属箔への接着性も優れたものである。更に、金属箔は、少なくとも上述したフッ素樹脂フィルムと接着する面が1.5μm以下であればよく、他方の面は、Rz値を特に限定するものではない。
【0095】
上記金属箔は、厚みは特に限定されないが、1~100μmの範囲であることが好ましく、5~50μmの範囲内であることがより好ましく、9~35μmがさらに好ましい。
【0096】
上記金属箔は特に限定されるものではないが、銅箔であることが特に好ましい。上記銅箔は特に限定されるものではなく、具体的には例えば、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0097】
Rz1.5μm以下の銅箔としては特に限定されず、市販のものを使用することができる。市販のRz1.5μm以下の銅箔としては、例えば、電解銅箔CF-T9DA-SV-18(厚み18μm/Rz0.85μm)(福田金属箔粉工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0098】
上記金属箔は、本開示のフッ素樹脂フィルムとの接着強度を高めるために、表面処理を施したものであってもよい。
【0099】
上記表面処理は特に限定されないが、シランカップリング処理、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、電子線処理などであり、シランカップリング剤の反応性官能基としては、特に限定されないが、樹脂基材に対する接着性の観点から、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、及びエポキシ基から選択される少なくとも1種を末端に有することが好ましい。また、加水分解性基としては、特に限定されないが、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基などが挙げられる。本開示で使用する金属箔は、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜等)、耐熱層等が形成されたものであってもよい。
【0100】
上記シラン化合物による表面処理層を金属箔表面上に有する表面処理金属箔は、シラン化合物を含む溶液を調製した後、この溶液を用いて金属箔を表面処理することによって製造することができる。
【0101】
上記金属箔は、表面に、樹脂基材との接着性を高めるなどの観点から、粗化処理層を有するものであってもよい。
なお、粗化処理が本開示において要求される性能を低下させるおそれがある場合は、必要に応じて金属箔表面に電着させる粗化粒子を少なくしたり、粗化処理を行わない態様としたりすることもできる。
【0102】
金属箔と表面処理層との間には、各種特性を向上させる観点から、耐熱処理層、防錆処理層及びクロメート処理層からなる群から選択される1種以上の層を設けてもよい。これらの層は、単層であっても、複数層であってもよい。
【0103】
上記積層体は、金属箔とフッ素樹脂フィルムとの接着強度が、0.8N/mm以上であることが好ましい。上述したような方法を適用することで、このような接着強度を実現することができる。接着強度を0.9N/mm以上、さらに1.0N/mm以上とすることで、金属張積層板や回路用基板として好適に使用することができる。なお、ここでの接着強度は、実施例に記載した条件で測定した接着強度を意味するものである。また、片面のみに表面処理を行ったフッ素樹脂フィルムの表面処理面へ金属箔を接着させた積層体の場合、積層体と他材との接着性を向上させるために、表面処理がされていないフッ素樹脂フィルム面に別途表面改質を行ってもよい。
【0104】
上記積層体の製造方法は、フィルムの表面に金属箔を積層する方法、蒸着法、めっき法などが挙げられる。金属箔を積層する方法としては、熱プレスによる方法、ロールto ロールのラミネートによる方法が挙げられる。
【0105】
熱プレスで積層する場合、温度は誘電体フィルムの融点-150℃~誘電体フィルムの融点+40℃が挙げられる。熱プレスの時間は例えば1~30分である。熱プレスの圧力は、0.1~10MPaという方法によって製造することができる。
【0106】
ロールto ロールのラミネートで積層する場合、温度は誘電体フィルムの融点-150℃~誘電体フィルムの融点+40℃が挙げられる。速度は0.5m/min以上が好ましく、生産性の観点から1.0m/min以上がより好ましい。
圧力は10kg/cm~200kg/cmの範囲が好ましいが、良好な接着力を得るためには20kg/cm以上がより好ましい。ロールtoロールのラミネート装置に関しては特に限定しないが、一対以上の金属ニップロール、または片側がゴムロールであるニップロールを有していることが望ましい。
【0107】
上記積層体は、長尺積層体であることが好ましい。より具体的には、幅が、400mm以上、長さが3m以上であることが好ましい。生産性の観点から、幅は、500mm以上であることがより好ましい。また、長さは10m以上であることがより好ましい。このような長尺積層体は、ロール積層体であることが好ましい。
【0108】
本開示の金属張積層板は、更に、金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層を有するものであってもよい。
当該金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0109】
これらの金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、上述した樹脂からなるものであれば特に限定されない。また、当該金属箔およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、厚みが、12~200μmの範囲内のものであることが好ましい。
【0110】
本開示の金属張積層板は、本発明のフィルムの表層に金属層を形成する。金属層を形成するのはフィルムの片面でも両面でも構わない。金属層を形成する方法としては、フィルムの表面に金属箔を積層する方法、蒸着法、めっき法などが挙げられる。金属箔を積層する方法としては、熱プレスによる方法、ロールto ロールのラミネートによる方法が挙げられる。
【0111】
金属箔、基材層、フッ素樹脂フィルムを複合化する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の二つの方法が挙げられる。
(i)金属箔、基材層、あらかじめ成形されたフッ素樹脂フィルムを用いて、ロールtoロールプロセスやプレス機を用いて加熱下で圧力を加えて積層する方法。金属箔に面する層は、基材層であっても、フッ素樹脂層であっても構わない。
(ii)フッ素樹脂フィルムを金属箔の片面に接着した積層体を製造し、金属箔の面してないフッ素樹脂面と、基材層とを加熱下で圧力を加えて積層する方法。
【0112】
本開示の金属張積層体は、その用途を特に限定されず、回路用基板として使用される。プリント基板とは半導体やコンデンサチップなどの電子部品を電気的に接続すると同時に、限られた空間内に配置し固定するための板状部品である。本金属張積層体から形成されるプリント基板の構成は特に制限はない。プリント基板は、リジッド基板、フレキシブル基板、リジッドフレキシブル基板のいずれであってもよい。プリント基板は、片面、基板、両面基板、多層基板(ブルドアップ基板等)のいずれであってもよい。特に、フレキシブル基板、リジット基板用に好適に使用することができる。
【0113】
回路用基板としては特に限定されず、上述した金属張積層体板を使用して、一般的な方法によって製造することができる。
【0114】
回路基板用の積層体は、金属箔層及び上述したフッ素樹脂フィルムおよび基材層を有することを特徴とする積層体でもある。基材層としては特に限定されないがガラス繊維からなる布帛層、樹脂フィルム層を有することが好ましい。
【0115】
上記ガラス繊維からなる布帛層は、ガラスクロス、ガラス不織布等からなる層である。ガラスクロスとしては市販のものが使用でき、フッ素樹脂との親和性を高めるためにシランカップリング剤処理を施されたものが好ましい。ガラスクロスの材質としてはEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、低誘電率ガラスなどが挙げられるが、入手が容易である点からEガラス、Sガラス、NEガラスが好ましい。繊維の織り方としては平織でも綾織でも構わない。ガラスクロスの厚さは通常5~90μmであり、好ましくは10~75μmであるが、使用するフッ素樹脂フィルムよりは薄いものを用いることが好ましい。
【0116】
上記積層体は、ガラス不織布をガラス繊維からなる布帛層として使用するものであってもよい。ガラス不織布とは、ガラスの短繊維を少量のバインダー化合物(樹脂あるいは無機物)で固着したもの、あるいはバインダー化合物を使用せずにガラス短繊維を絡ませることによってその形状を維持しているものであり、市販のものが使用できる。ガラス短繊維の直径は好ましくは0.5~30μmであり、繊維長は好ましくは5~30mmである。バインダー化合物の具体例としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂等の樹脂や、シリカ化合物等の無機物が挙げられる。バインダー化合物の使用量はガラス短繊維に対して通常3~15質量%である。ガラス短繊維の材質としてはEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、低誘電率ガラスなどが挙げられる。ガラス不織布の厚さは通常50μm乃至1000μmであり、100~900μmであることが好ましい。尚、本願におけるガラス不織布の厚さは、JIS P8118:1998に準じ、(株)小野測器製のデジタルゲージDG-925(荷重110グラム、面径10mm)を用いて測定した値を意味する。フッ素樹脂との親和性を高めるために、ガラス不織布にシランカップリング剤処理を施してもよい。
【0117】
ガラス不織布の多くは空隙率が80%以上と非常に高いので、フッ素樹脂からなるシートより厚いものを使用し、圧力によって圧縮して用いることが好ましい。
【0118】
上記ガラス繊維からなる布帛層は、ガラスクロスとガラス不織布とを積層した層であってもよい。これによって、相互の性質が組み合わせられて、好適な性質を得ることができる。
上記ガラス繊維からなる布帛層は、樹脂を含浸させたプリプレグの状態であってもよい。
【0119】
上記積層体は、ガラス繊維からなる布帛層とフッ素樹脂フィルムが界面で接着していてもよく、ガラス繊維からなる布帛層にフッ素樹脂フィルムの一部もしくはすべてが含侵されていてもよい。
更に、ガラス繊維からなる布帛にフッ素樹脂組成物を含侵させてプリプレグを作成したものであってもよい。このようにして得られたプリプレグに対して、更に、本開示のフッ素樹フィルムを積層したものであってもよい。この場合、プリプレグを作成する際に使用するフッ素樹脂組成物としては特に限定されるものではなく、本開示のフッ素樹脂フィルムを使用することもできる。
【0120】
上記基材として用いる樹脂フィルムとしては、耐熱性樹脂フィルム、熱硬化性樹脂フィルムが好ましい。耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイドなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、ポリブタジエンなどを含むものが挙げられる。
【0121】
耐熱性樹脂フィルムおよび熱硬化性樹脂フィルムは強化繊維を含んでいても良い。強化繊維としては特に限定されないが、例えばガラスクロス、とくに低誘電タイプのものが好ましい。
【0122】
耐熱性樹脂フィルムおよび熱硬化性樹脂フィルムの誘電特性、線膨張係数、吸水率などの特性は特に限定されないが、たとえば、20GHzにおける誘電率は3.8以下が好ましく、3.4以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましい。20GHzにおける誘電正接は、0.0030以下が好ましく、0.0025以下がより好ましく、0.0020以下が更に好ましい。線膨張係数は100ppm/℃以下が好ましく、70ppm/℃以下がより好ましく、40ppm/℃以下が更に好ましい。吸水率は1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.1%以下が更に好ましい。
【実施例
【0123】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例においての比率はモル比で表す。
【0124】
(実施例1)
フッ素樹脂としてPFA(TFE/PPVE共重合体、組成:TFE/PPVE=98.2/1.8、MFR:15.8g/10分、融点305℃、ガラス転移温度92℃)を、360℃の押し出し機に投入し、1700mm幅のTダイから押出して、金属冷却ロールに引き取り、更に巻取り芯に巻取り1300mm幅、50μm厚みのロールフィルムを得た。そのロールフィルムの両面に表面処理(コロナ放電装置の放電電極とロール状接地電極の近傍に窒素ガス中の酢酸ビニルのガス濃度とライン速度の比を0.014(L/m)になるように流しながら、フィルムをロール状接地電極に添わせて連続的に通過させ、放電度1.4W/cmでフィルムの両面をコロナ放電処理)を行いロール状に表面処理された長尺フィルムを巻き取り、表面処理されたサンプルを得た。その後評価を行った。
【0125】
(実施例2)
放電度を2.3W/cmにした以外は、実施例1と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0126】
(実施例3)
放電度を2.9W/cmにした以外は、実施例1と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0127】
(実施例4)
放電度を3.7W/cmにした以外は、実施例1と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0128】
(実施例5)
ガス濃度/ライン速度比を0.007L/mにした以外は、実施例3と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0129】
(実施例6)
Tダイ法で得られた幅1300mm、厚み50μmの長尺ロールフィルムを500mm幅にスリットする工程を経たフィルムを用いた以外は、実施例3と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0130】
(実施例7)
フッ素樹脂としてPFA(TFE/PPVE共重合体、組成:TFE/PPVE=97.7/2.3MFR:15.0g/10分、融点300.9℃、ガラス転移温度93℃)にした以外は、実施例3と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0131】
(比較例1)
ガス濃度/ライン速度比を0.004L/mにした以外は、実施例3と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0132】
(比較例2)
放電度を0.6W/cmにした以外は、実施例3と同様にして、表面処理されたサンプルを得たのち、評価を行った。
【0133】
(比較例3)
表面処理を行っていないサンプルを用いて、評価を行った。
【0134】
(水の静的接触角)
水の静的接触角は全自動接触角計DropMaster700(協和界面化学社製)を用いて次の方法で測定した。水平に置いた基材にマイクロシリンジから水を2μL滴下し、滴下1秒後の静止画をビデオマイクロスコープで撮影することにより求めた。水の静的接触角の測定値について、中央および左右それぞれの端から100mmの場所において、走行方向に対して100mmおきに、5か所で測定した。その平均値を表2に示す。なお、表2に示した接触値は、フィルム製造直後に測定した初期値である。
【0135】
(n-ヘキサデカンの静的接触角)
n-ヘキサデカンの静的接触角は全自動接触角計DropMaster700(協和界面化学社製)を用いて次の方法で測定した。水平に置いた基材にマイクロシリンジからn-ヘキサデカンを2μL滴下し、滴下1秒後の静止画をビデオマイクロスコープで撮影することにより求めた。n-ヘキサデカンの静的接触角の測定値について、中央および左右それぞれの端から100mmの場所において、走行方向に対して100mmおきに、5か所で測定した。その平均値を表2に示す。なお、表2に示した接触値は、フィルム製造直後に測定した初期値である。
【0136】
(銅箔との接着強度)
フィルムと電解銅箔CF-T9DA-SV-18(厚み18μm/Rz0.85μm)(福田金属箔粉工業株式会社製)を用い、銅箔とフッ素樹脂フィルムと銅箔の順に重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)にて、プレス温度320℃、予熱時間60秒、加圧力1.5MPa、加圧時間300秒で熱プレスした。その積層体の片面に粘着テープでアルミ板を貼付け、テンシロン万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、毎分50mmの速度で、積層体の平面に対して90°の方向に10mm幅の銅箔を掴んで引っ張ることで銅箔の引きはがし強さを測定し、得られた値を接着強度とした。測定値は、中央および左右それぞれの端から100mmの3カ所のすべての場所において、走行方向に対して100mmおきに、5カ所で測定した測定値の平均値である。結果を表2に示す。
【0137】
(プリプレグとの接着強度)
プリプレグ材料として、プリプレグR―5680(J)(厚み132μm)(パナソニック株式会社製)を使用し、プレス条件を温度200℃、時間75分、圧力3.0MPaとしてサンプルを作成したのち、銅箔との接着強度と同様の方法で接着強度を測定した。測定値は、中央および左右それぞれの端から100mmの3カ所のすべての場所において、走行方向に対して100mmおきに、5カ所で測定した測定値の平均値である。結果を表2に示す。
【0138】
(フッ素樹脂フィルム同士の接着強度)
フッ素樹脂フィルムの表面処理面同士を重ね、ヒートプレス(200℃・0.1MPa・60s)で作製したサンプルを10mm幅の短冊状にカットし、テンシロン万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、短冊状サンプルの接着されていない部分をテンシロンの上下のチャックで掴みながら、毎分100mmの速度で引張ることで引きはがし強さを測定し、得られた値を接着強度とした。測定値は、中央および左右それぞれの端から100mmの3カ所のすべての場所において、走行方向に対して100mmおきに、5カ所で測定した測定値の平均値である。結果を表2に示す。
【0139】
実施例1、7に関しては誘電率・誘電正接をスプリットシリンダー共振器(10 GHz)で測定した。
【0140】
(融点)
DSC装置を用い、10℃/分の速度で昇温して測定したときの融解ピークから算出した。
【0141】
(ガラス転移温度)
固体動的粘弾性装置(DMA)を用い、周波数10Hz、歪み0.1%、5℃/分の速度で昇温して測定したときのtanδピークから算出した。結果を表2に示す。
【0142】
(不安定官能基数)
FT-IR Spectrometer 1760X(Perkin-Elmer社製)を用いて分析を行った。結果を表2に示す。
【0143】
(フッ素樹脂フィルムの厚み)
マイクロメーターを用いて測定した。なお、厚みは、図1に示したように、幅方向5mmごとに走行方向に対して走行方向に対して20cmごとに12箇所厚みを測定した。このように測定したすべての膜厚の平均を「面の平均膜厚」として表中に示した。さらに、幅方向に対して同一値において、走行方向に対して測定した12か所の厚みの平均値をそれぞれ算出し、これらのうち、最大の値と平均値との差を表中に示した。
【0144】
(フッ素樹脂フィルム表面のESCA分析)
走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)PHI5000VersaProbeII(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、線源 単色化AlKα、入射角45°で測定した。
【0145】
(誘電正接)
フッ素樹脂フィルムを用いて、スプリットシリンダー共振器CR-710とCR-740(EMラボ株式会社)を用いて10GHz(26℃)にて測定し、ベクトルネットワークアナライザーP5007A(キーサイト・テクノロジー株式会社製)にて解析した。
【0146】
(Rz)
キーエンス社製 カラー3Dレーザ顕微鏡VK-9700を用いて、200μmの範囲のRzを測定した。
【0147】
【表2】
【0148】
上記表2の結果から、本開示のフッ素樹脂フィルムは、接着強度の均一性が高いものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、回路用基板用の金属張積層板等に使用することができる。