IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特許7583341テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物、電気化学デバイス用バインダー、電極合剤、電極、及び、二次電池
<>
  • 特許-テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物、電気化学デバイス用バインダー、電極合剤、電極、及び、二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物、電気化学デバイス用バインダー、電極合剤、電極、及び、二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241107BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20241107BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20241107BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241107BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241107BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08L27/18
H01G11/38
H01M4/13
H01M10/052
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2024006374
(22)【出願日】2024-01-18
(65)【公開番号】P2024102037
(43)【公開日】2024-07-30
【審査請求日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2023005936
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】西村 賢汰
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】安田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈人
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】得田 大翔
(72)【発明者】
【氏名】厚母 賢
(72)【発明者】
【氏名】山本 絵美
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/086102(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181898(WO,A1)
【文献】国際公開第1996/012764(WO,A1)
【文献】国際公開第1997/017382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学デバイス用バインダーに使用されるテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物であって、
示差走査熱量分析において、330℃以上340℃未満の領域(A)と、340℃以上350℃以下の領域(B)とに吸熱ピークを有するテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物。
【請求項2】
実質的にテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物のみからなる電気化学デバイス用バインダーであって、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、示差走査熱量分析において、330℃以上340℃未満の領域(A)と、340℃以上350℃以下の領域(B)とに吸熱ピークを有する電気化学デバイス用バインダー。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、前記領域(A)の吸熱ピークの強度/前記領域(B)の吸熱ピークの強度で示される強度比が0.5以上である請求項2記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、前記領域(A)の吸熱ピークの強度/前記領域(B)の吸熱ピークの強度で示される強度比が0.8~2.0である請求項3記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含むテトラフルオロエチレン共重合体を含む請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項6】
前記テトラフルオロエチレン共重合体において、前記変性モノマー単位の含有量が、全重合単位に対し、10質量%以下である請求項5記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項7】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項8】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物において、前記変性モノマー単位の含有量が、全重合単位に対し、0.20質量%以下である請求項7記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項9】
前記変性モノマーは、下記一般式(I)で表される化合物である請求項5のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
CX=CX (I)
(式中、X~Xは、それぞれ独立して、H又はFである。Xは、F、Cl、Rf又はO-Rfである。Rfは、パーフルオロ有機基である。)
【請求項10】
前記変性モノマーは、クロロトリフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項9記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項11】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、延伸可能である請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項12】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、リダクションレシオ1000における押出圧力が75MPa以下であるテトラフルオロエチレン共重合体を含む請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項13】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、粉末である請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項14】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、水分を実質的に含まない請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項15】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、分子量1000以下の含フッ素化合物を実質的に含まない請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項16】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物に対するフッ素系ポリマーの含有量が90質量%以上である請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項17】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、2種以上のテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項18】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物中のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項19】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、粉末の平均アスペクト比が2.5以下である請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダー。
【請求項20】
請求項1記載のテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物又は請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーと、電極活物質とを含む電極合剤。
【請求項21】
シートである請求項20記載の電極合剤。
【請求項22】
請求項1記載のテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物又は請求項2~4のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーと、電極活物質と、集電体とを含む電極。
【請求項23】
請求項22記載の電極を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物、電気化学デバイス用バインダー、電極合剤、電極、及び、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、高電圧、高エネルギー密度で、自己放電が少ない、メモリー効果が少ない、超軽量化が可能である、等の理由から、ノート型パソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレットパソコン、ウルトラブック等小型で携帯に適した電気・電子機器等に用いられるとともに、更には、自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等に至るまでの広範な電源として実用化されつつある。二次電池には、更なる高エネルギー密度化が求められており、電気化学デバイス特性の更なる改善が求められている。
【0003】
特許文献1には、カソード及びアノードのうち少なくとも一方が、ポリテトラフルオロエチレン混合バインダー材を含むエネルギー貯蔵装置が記載されている。
【0004】
特許文献2~6には、ポリテトラフルオロエチレンを電池のバインダーとして使用することが記載されている。
【0005】
特許文献7には、ポリテトラフルオロエチレンとポリフッ化ビニリデンとの混合物を電池のバインダーとして使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-517862号公報
【文献】国際公開第2021/181887号
【文献】国際公開第2021/181888号
【文献】国際公開第2021/192541号
【文献】国際公開第2022/138942号
【文献】国際公開第2022/138939号
【文献】国際公開第2022/234227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、電気化学デバイスの粉体成分と均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることができる電気化学デバイス用バインダー用テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物、並びに、それを用いた電気化学デバイス用バインダー、電極合剤、電極、及び、二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示(1)は電気化学デバイス用バインダーに使用されるテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物であって、
示差走査熱量分析において、330℃以上340℃未満の領域(A)と、340℃以上350℃以下の領域(B)とに吸熱ピークを有するテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物である。
【0009】
本開示(2)は実質的にテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物のみからなる電気化学デバイス用バインダーであって、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、示差走査熱量分析において、330℃以上340℃未満の領域(A)と、340℃以上350℃以下の領域(B)とに吸熱ピークを有する電気化学デバイス用バインダーである。
【0010】
本開示(3)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、前記領域(A)の吸熱ピークの強度/前記領域(B)の吸熱ピークの強度で示される強度比が0.5以上である本開示(2)記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0011】
本開示(4)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、前記領域(A)の吸熱ピークの強度/前記領域(B)の吸熱ピークの強度で示される強度比が0.8~2.0である本開示(3)記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0012】
本開示(5)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含むテトラフルオロエチレン共重合体を含む本開示(2)~(4)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0013】
本開示(6)は前記テトラフルオロエチレン共重合体において、前記変性モノマー単位の含有量が、全重合単位に対し、10質量%以下である本開示(5)記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0014】
本開示(7)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む本開示(2)~(6)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0015】
本開示(8)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物において、前記変性モノマー単位の含有量が、全重合単位に対し、0.20質量%以下である本開示(7)記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0016】
本開示(9)は前記変性モノマーは、下記一般式(I)で表される化合物である本開示(5)~(8)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
CX=CX (I)
(式中、X~Xは、それぞれ独立して、H又はFである。Xは、F、Cl、Rf又はO-Rfである。Rfは、パーフルオロ有機基である。)
【0017】
本開示(10)は前記変性モノマーは、クロロトリフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種である本開示(9)記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0018】
本開示(11)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、延伸可能である本開示(2)~(10)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0019】
本開示(12)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、リダクションレシオ1000における押出圧力が75MPa以下であるテトラフルオロエチレン共重合体を含む本開示(2)~(11)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0020】
本開示(13)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、粉末である本開示(2)~(12)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0021】
本開示(14)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、水分を実質的に含まない本開示(2)~(13)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0022】
本開示(15)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、分子量1000以下の含フッ素化合物を実質的に含まない本開示(2)~(14)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0023】
本開示(16)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物に対するフッ素系ポリマーの含有量が90質量%以上である本開示(2)~(15)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0024】
本開示(17)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、2種以上のテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む本開示(2)~(16)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0025】
本開示(18)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物中のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである本開示(2)~(17)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0026】
本開示(19)は前記フッ素系ポリマー組成物は、粉末の平均アスペクト比が2.5以下である本開示(2)~(18)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーである。
【0027】
本開示(20)は本開示(1)記載のテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物又は本開示(2)~(19)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーと、電極活物質とを含む電極合剤である。
【0028】
本開示(21)はシートである本開示(20)記載の電極合剤である。
【0029】
本開示(22)は本開示(1)記載のテトラフルオロエチレン系ポリマー組成物又は本開示(2)~(19)のいずれかに記載の電気化学デバイス用バインダーと、電極活物質と、集電体とを含む電極である。
【0030】
本開示(23)は本開示(22)記載の電極を備える二次電池である。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、電気化学デバイスの粉体成分と均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることができる電気化学デバイス用バインダー用テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物、並びに、それを用いた電気化学デバイス用バインダー、電極合剤、電極、及び、二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例における固体電解質合剤シートのイオン伝導度測定に用いた圧力セルの断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示を具体的に説明する。
【0034】
本開示は、電気化学デバイス用バインダーに使用されるテトラフルオロエチレン(TFE)系ポリマー組成物であって、示差走査熱量分析において、330℃以上340℃未満の領域(A)と、340℃以上350℃以下の領域(B)とに吸熱ピークを有するTFE系ポリマー組成物を提供する。
【0035】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、上記領域(A)及び(B)に吸熱ピークを有することにより、電極活物質、固体電解質等の電気化学デバイスの粉体成分と長時間混練しても凝集物が発生しにくく、上記粉体成分と均一に混合することができる。また、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることもできる。
本開示のTFE系ポリマー組成物は、また、水や有機溶剤といった分散媒を多量に使用する必要がなく、組み合わせる電極活物質や固体電解質を広く選択することができ、生産工程上有利である。また、分散媒の使用による工程及びコストを削減することができる。
更に、本開示のTFE系ポリマー組成物は、活物質や電解質との結着力に優れるので、使用量を削減することができる。
【0036】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、示差走査熱量分析〔DSC〕において上記領域(A)と上記領域(B)とに吸熱ピークを有する。
これは、本開示のTFE系ポリマー組成物が領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)と、領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)とを含むことを示す。
領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)はフィブリル化特性が低いので、当該TFE系ポリマーが存在することで、TFE系ポリマー組成物のフィブリル化が低減され、電気化学デバイスの粉体成分と長時間混練しても凝集物が発生しにくくなる。このため、上記粉体成分と均一に混合することができ、また、合剤シートの強度及び柔軟性を向上させることもできる。
【0037】
領域(A)の温度範囲は330℃以上340℃未満であるが、333℃以上であることが好ましく、336℃以上であることがより好ましい。
領域(B)の温度範囲は340℃以上350℃以下であるが、348℃以下であることが好ましく、346℃以下であることがより好ましい。
【0038】
上記吸熱ピーク温度は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないTFE系ポリマー組成物について示差走査熱量計〔DSC〕を用いて2℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線の領域(A)と領域(B)におけるそれぞれの極小点に対応する温度とする。
【0039】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができる点、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、上記領域(A)の吸熱ピークの強度/上記領域(B)の吸熱ピークの強度で示される強度比が0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることが更に好ましく、0.8以上であることが更により好ましく、また、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.0以下であることが更に好ましく、1.5以下であることが更により好ましい。
【0040】
上記吸熱ピークの強度は、上記吸熱ピーク温度の測定における上記融解熱曲線の極小点を(a)とし、極小点(a)を通り横軸(温度)に対して垂直な直線と、上記融解熱曲線の305℃と355℃の点を結ぶ直線との交点を(b)とした場合の、極小点(a)と交点(b)との間の距離として求める。
【0041】
上記強度比は、上述した領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)、及び、領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)の混合比を調整することにより、調整することができる。
【0042】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、TFE系ポリマーを含む。本開示のTFE系ポリマー組成物は、2種以上のTFE系ポリマーを含むことが好ましく、2種のTFE系ポリマーを含むことがより好ましい。本開示のTFE系ポリマー組成物は、上記2種以上のTFE系ポリマーとして、上述したTFE系ポリマー(A)及び(B)を含むことが好ましい。
【0043】
上記TFE系ポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)のホモポリマーであってもよいし、TFEに基づく重合単位(TFE単位)と、TFEと共重合可能な変性モノマーに基づく重合単位(以下「変性モノマー単位」とも記載する)とを含むTFE共重合体であってもよい。
上記TFEのホモポリマーとは、全重合単位に対する変性モノマー単位の含有量が0.0001質量%未満のものを指す。
本明細書において、TFE共重合体は、90.0質量%以上のTFE単位と、10.0質量%以下の変性モノマー単位とを含むものであってよい。また、上記TFE共重合体は、TFE単位及び変性モノマー単位のみからなるものであってよい。
【0044】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができる点、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、上記TFE共重合体を含むことが好ましい。
上述した領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)、及び、領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)のうち、少なくとも一方がTFE共重合体であることが好ましく、少なくともTFE系ポリマー(A)がTFE共重合体であることがより好ましく、TFE系ポリマー(A)及び(B)の両方がTFE共重合体であることが更に好ましい。
【0045】
上記TFE系ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることが好ましい。上記PTFEには、TFEのホモポリマー、及び、99.0質量%以上のTFE単位と1.0質量%以下の変性モノマー単位とを含む変性PTFEが包含される。上記変性PTFEは、TFE単位及び変性モノマー単位のみからなるものであってよい。
【0046】
TFE系ポリマー(A)、及びTFE系ポリマー(B)のうち、少なくとも一方が変性PTFEであることが好ましく、少なくともTFE系ポリマー(A)が変性PTFEであることがより好ましく、TFE系ポリマー(A)及び(B)の両方が変性PTFEであることがさらに好ましい。
【0047】
上記TFE共重合体は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、変性モノマー単位の含有量が全重合単位に対し0.0001~10.0質量%の範囲であることが好ましい。変性モノマー単位の含有量の下限としては、0.001質量%がより好ましく、0.010質量%が更に好ましく、0.050質量%が更により好ましい。変性モノマー単位の含有量の上限としては、5.0質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましく、1.0質量%が更に好ましく、0.80質量%が更により好ましく、0.60質量%が更により好ましく、0.50質量%が更により好ましく、0.40質量%が更により好ましく、0.30質量%が更により好ましく、0.20質量%が特に好ましい。
本明細書において、上記変性モノマー単位とは、TFE系ポリマーの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味する。
【0048】
上述した各重合単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0049】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のパーハロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル:パーフルオロアリルエーテル;(パーフルオロアルキル)エチレン、エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0050】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(A):
CF=CF-ORf (A)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0051】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(A)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0052】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0053】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(A)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0054】
【化1】
【0055】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0056】
【化2】
【0057】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0058】
(パーフルオロアルキル)エチレン〔PFAE〕としては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン〔PFBE〕、(パーフルオロヘキシル)エチレン等が挙げられる。
【0059】
パーフルオロアリルエーテルとしては、例えば、一般式(B):
CF=CF-CF-ORf (B)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるフルオロモノマーが挙げられる。
【0060】
上記Rfは、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基又は炭素数1~10のパーフルオロアルコキシアルキル基が好ましい。上記パーフルオロアリルエーテルとしては、CF=CF-CF-O-CF、CF=CF-CF-O-C、CF=CF-CF-O-C、及び、CF=CF-CF-O-Cからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、CF=CF-CF-O-C、CF=CF-CF-O-C、及び、CF=CF-CF-O-Cからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、CF=CF-CF-O-CFCFCFが更に好ましい。
【0061】
上記変性モノマーは、下記一般式(I):
CX=CX (I)
(式中、X~Xは、それぞれ独立して、H又はFである。Xは、F、Cl、Rf又はO-Rfである。Rfは、パーフルオロ有機基である。)で表される化合物であることが好ましい。
【0062】
一般式(I)におけるRfとしては、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基が更に好ましい。
【0063】
電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、上記変性モノマーとしては、CTFE、HFP、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、PFBE及びVDFからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、CTFE、HFP、PMVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、CTFE、HFP及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、CTFE及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0064】
本開示のTFE系ポリマー組成物におけるTFE系ポリマーは、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するTFE系ポリマーとしては、例えば、粒子中に高分子量のTFE系ポリマーのコアと、より低分子量のTFE系ポリマー又はTFE共重合体のシェルとを含むTFE共重合体が挙げられ、変性PTFEが好ましい。このような変性PTFEとしては、例えば、特表2005-527652号公報に記載されるPTFEが挙げられる。
【0065】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができる点、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、リダクションレシオ(RR)1000における押出圧力が75MPa以下であるTFE共重合体を含むことが好ましい。
上記RR1000における押出圧力は、70MPa以下であることがより好ましく、60MPa以下であることが更に好ましく、50MPa以下であることが更により好ましく、40MPa以下であることが特に好ましく、また、20MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。
【0066】
上記RR1000における押出圧力は、以下の方法により測定する。
TFE系ポリマー60gと押出助剤としての炭化水素油(商品名:アイソパーG(登録商標)、エクソンモービル社製)12.3gとをポリエチレン容器中で3分間混合する。室温(25±2℃)で押出機のシリンダーに上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに0.47MPaの負荷をかけて1分間保持する。次にラム速度20mm/minでオリフィスから押出する。オリフィスの断面積に対するシリンダーの断面積の比は1000である。押出操作の後半において、圧力が平衡状態になったときの荷重(N)をシリンダー断面積で除した値を押出圧力(MPa)とする。
【0067】
上記領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)が、上記RR1000における押出圧力が75MPa以下であるTFE共重合体が好ましく、変性PTFEであることがより好ましい。
【0068】
上記領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)、又は、上記RR1000における押出圧力が75MPa以下であるTFE系ポリマーは、コアシェル構造を有することが好ましい。これにより、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる。
【0069】
上記コアシェル構造において、コアとシェルとは両者間に必ずしも明確な境界がある必要はなく、コアとシェルとの境界付近においてコアを構成するTFE系ポリマーとシェルを構成するTFE系ポリマーとが入り混じったものであってもよい。
【0070】
上記コアシェル構造におけるコアは、変性モノマーに基づく重合単位を有するTFE共重合体が好ましく、変性PTFEであることがより好ましい。
上記コアにおける変性モノマーとしては、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、ビニルヘテロ環状体及びフルオロオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、フルオロ(アルキルビニルエーテル)及びフルオロオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PAVE、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、PAVE及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が更により好ましく、CTFEが特に好ましい。
また、PAVEとしては、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕が好ましい。
【0071】
上記コアシェル構造におけるシェルは、変性モノマーに基づく重合単位を有するTFE共重合体、及び/又は、連鎖移動剤を用いる重合によって得られるTFE系共重合体であることが好ましく、変性PTFEであることがより好ましい。
上記シェルにおける変性モノマーとしては、フルオロ(アルキルビニルエーテル)及びフルオロオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PAVE、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、CTFEが更により好ましい。
【0072】
上記連鎖移動剤としては、上記シェルを構成するTFE系ポリマーの分子量を低減するものであれば特に限定されず、例えば、水溶性アルコール、炭化水素及びフッ素化炭化水素等の非過酸化有機化合物、ジコハク酸パーオキサイド〔DSP〕等の水溶性有機過酸化物、過硫酸アンモニウム〔APS〕、過硫酸カリウム〔KPS〕等の過硫酸塩からなるもの等が挙げられる。
上記連鎖移動剤は、非過酸化有機化合物、水溶性有機過酸化物及び過硫酸塩の何れかを少なくとも1種有するものであればよい。
上記連鎖移動剤において、非過酸化有機化合物、水溶性有機過酸化物及び過硫酸塩は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
【0073】
上記連鎖移動剤としては、反応系内で分散性及び均一性が良好である点で、炭素数1~4の水溶性アルコール、炭素数1~4の炭化水素及び炭素数1~4のフッ化炭化水素等からなる群より選択される少なくとも1つからなるものであることが好ましく、メタン、エタン、n-ブタン、イソブタン、メタノール、HFC-134a、HFC-32、DSP、APS及びKPSよりなる群から選択される少なくとも1つからなるものであることがより好ましく、メタノール及び/又はイソブタンからなるものであることが更に好ましく、メタノールからなるものであることが特に好ましい。
【0074】
上記領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)は、標準比重(SSG)が2.160以上であることが好ましく、2.165以上であることがより好ましく、また、2.200以下であることが好ましく、2.190以下であることがより好ましく、2.185以下であることが更に好ましく、2.180以下であることが更により好ましく、2.175以下であることが特に好ましい。
【0075】
上記領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)は、SSGが2.160未満であることが好ましく、2.155以下であることがより好ましく、また、2.130以上であることが好ましく、2.140以上であることがより好ましく、2.145以上であることが更に好ましい。
【0076】
上記SSGは、ASTM D 4895に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定する。
【0077】
上記領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)と上記領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)との質量比(TFE系ポリマー(A)/TFE系ポリマー(B))は、1/99以上であることが好ましく、5/95以上であることがより好ましく、10/90以上であることが更に好ましく、15/85以上であることが更により好ましく、20/80以上であることが更により好ましく、30/70以上であることが特に好ましく、また、60/40以下であることが好ましく、55/45以下であることがより好ましく、50/50以下であることが更に好ましい。
【0078】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、フッ素系ポリマーの含有量が上記TFE系ポリマー組成物に対して90質量%以上であることが好ましい。
上記フッ素系ポリマーは、TFE系ポリマーを含むものであってよく、TFE系ポリマー以外のフッ素系ポリマーを更に含んでもよい。
上記フッ素系ポリマーの含有量は、TFE系ポリマー、及び、TFE系ポリマー以外のフッ素系ポリマーの合計量である。
TFE系ポリマー以外のフッ素系ポリマーとしては、フッ化ビニリデン(VdF)系ポリマー等が挙げられる。上記VdF系ポリマーとしては、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、VdF/TFE共重合体〔VT〕等のVdF系樹脂;VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体等のVdF系エラストマー等が挙げられる。
【0079】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、実質的に上記フッ素系ポリマーのみからなることが好ましい。これにより、上記フッ素系ポリマーによる効果を顕著に発揮させることができる。
実質的に上記フッ素系ポリマーのみからなるとは、上記フッ素系ポリマーの合計量が、上記フッ素系ポリマー組成物に対し、95.0質量%以上であることを意味する。
上記フッ素系ポリマーは、上記フッ素系ポリマー組成物に対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
本開示のフッ素系ポリマー組成物が上記フッ素系ポリマーのみからなることも好ましい。
【0080】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、実質的に、上記TFE系ポリマーのみからなることが好ましい。これにより、上記TFE系ポリマーによる効果を顕著に発揮させることができる。実質的にTFE系ポリマーのみからなるとは、上記TFE系ポリマーの含有量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し、95.0質量%以上であることを意味する。
上記TFE系ポリマーの含有量は、上記TFE系ポリマー組成物に対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
本開示のTFE系ポリマー組成物が上記TFE系ポリマーのみからなることも好ましい。
【0081】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、実質的に、上記2種以上のTFE系ポリマーのみからなることが好ましい。これにより、上記2種以上のTFE系ポリマーによる効果を顕著に発揮させることができる。実質的に2種以上のTFE系ポリマーのみからなるとは、上記2種以上のTFE系ポリマーの含有量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し、95.0質量%以上であることを意味する。
上記2種以上のTFE系ポリマーの含有量は、上記TFE系ポリマー組成物に対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
本開示のTFE系ポリマー組成物が上記2種以上のTFE系ポリマーのみからなることも好ましい。
【0082】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、実質的に、上記領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)及び上記領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)のみからなることも好ましい。これにより、上記TFE系ポリマー(A)及び(B)による効果を顕著に発揮させることができる。実質的に上記TFE系ポリマー(A)及び(B)のみからなるとは、上記TFE系ポリマー(A)及び(B)の合計量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し、95.0質量%以上であることを意味する。
上記TFE系ポリマー(A)及び(B)の合計量は、上記TFE系ポリマー組成物に対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
本開示のTFE系ポリマー組成物が上記TFE系ポリマー(A)及び(B)のみからなることも好ましい。
【0083】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、TFE単位、及び、TFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含むことが好ましい。変性モノマーとしては、上述したものが挙げられる。
本開示のTFE系ポリマー組成物は、全重合単位に対し90.0質量%以上のTFE単位と、10.0質量%以下の変性モノマー単位とを含むものであってよく、99.0質量%以上のTFE単位と、1.0質量%以下の変性モノマー単位とを含むものであることが好ましい。
本開示のTFE系ポリマー組成物は、重合単位として、TFE単位、及び、変性モノマー単位のみを含むものであってよい。
【0084】
本開示のTFE系ポリマー組成物における変性モノマー単位の含有量は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、全重合単位に対し0.0001~10.0質量%の範囲であることが好ましい。変性モノマー単位の含有量の下限としては、0.001質量%がより好ましく、0.010質量%が更に好ましく、0.050質量%が更により好ましい。変性モノマー単位の含有量の上限としては、5.0質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましく、1.0質量%が更に好ましく、0.80質量%が更により好ましく、0.60質量%が更により好ましく、0.50質量%が更により好ましく、0.40質量%が更により好ましく、0.30質量%が更により好ましく、0.20質量%が特に好ましい。
【0085】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、導電助剤を含んでいてもよい。
上記導電助剤としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、フラーレン、VGCF等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0086】
本開示のTFE系ポリマー組成物が上記導電助剤を含む場合、上記導電助剤の含有量は、上記TFE系ポリマー組成物に対し、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0087】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、水分を実質的に含まないことが好ましい。これにより、ガス発生及び電気化学デバイス特性の劣化を抑制することができる。また、組み合わせる電極活物質や固体電解質を広く選択することができるので、生産工程上有利である。水分を実質的に含まないとは、上記TFE系ポリマー組成物に対する水分含有量が0.010質量%以下であることを意味する。
上記水分含有量は、0.005質量%以下であることが好ましく、0.003質量%以下であることがより好ましく、0.002質量%以下であることが更に好ましく、0.001質量%以下であることが更により好ましい。
上記水分含有量は、以下の方法により測定する。
TFE系ポリマー組成物を150℃で2時間加熱した前後の質量を測定し、以下の式に従って算出する。試料を3回取り、それぞれ算出した後、平均を求め、当該平均値を採用する。
水分含有量(質量%)=[(加熱前のTFE系ポリマー組成物の質量(g))-(加熱後のTFE系ポリマー組成物の質量(g))]/(加熱前のTFE系ポリマー組成物の質量(g))×100
【0088】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、分子量1000以下の含フッ素化合物を実質的に含まないことが好ましい。上記含フッ素化合物を実質的に含まないとは、上記含フッ素化合物の量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し25質量ppb以下であることを意味する。
上記含フッ素化合物の量は、20質量ppb以下であることが好ましく、15質量ppb以下であることがより好ましく、10質量ppb以下であることが更に好ましく、10質量ppb未満であることが更により好ましく、1質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb未満であることが更により好ましく、定量下限未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、定量下限未満の量であってよい。
【0089】
上記分子量1000以下の含フッ素化合物の量は、以下の方法により測定する。
試料を1g秤量し、メタノールを10g(12.6ml)加え、60分間の超音波処理を行ない、抽出液を得る。得られた抽出液を適宜窒素パージで濃縮し、濃縮後の抽出液中の含フッ素化合物をLC/MS/MS測定する。得られたLC/MSスペクトルから、分子量情報を抜出し、候補となる含フッ素化合物の構造式との一致を確認する。標準物質の5水準以上の含有量の水溶液を作製し、それぞれの含有量の水溶液のLC/MS分析を行ない、含有量と、その含有量に対するエリア面積と関係をプロットし、検量線を描く。上記検量線を用いて、抽出液中の含フッ素化合物のLC/MSクロマトグラムのエリア面積を、含フッ素化合物の含有量に換算する。
なお、この測定方法における定量下限は10質量ppbである。
【0090】
上記分子量1000以下の含フッ素化合物としては、例えば、分子量1000g/mol以下の親水基を有する含フッ素化合物が挙げられる。上記含フッ素化合物の分子量は、800以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
含フッ素界面活性剤の存在下で行う重合により得られる重合粒子には、TFE系ポリマー以外に、含フッ素界面活性剤が含まれることが通常である。本明細書において、含フッ素界面活性剤は、重合時に使用されるものである。
上記分子量1000以下の含フッ素化合物は、重合の際に添加されていない化合物、例えば、重合途中で副生する化合物であってよい。
なお、上記分子量1000以下の含フッ素化合物は、アニオン性部とカチオン性部とを含む場合は、アニオン性部の分子量が1000以下であるフッ素を含む化合物を意味する。上記分子量1000以下の含フッ素化合物には、TFE系ポリマーは含まれないものとする。
【0091】
上記親水基としては、例えば、-COOM、-SOM、又は、-SOMであってよく、-COOM、-SOM(各式中、Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)等のアニオン性基が挙げられる。
【0092】
上記含フッ素界面活性剤としては、アニオン性部分の分子量が1000以下のフッ素を含む界面活性剤(アニオン性含フッ素界面活性剤)を用いることもできる。上記「アニオン性部分」は、上記含フッ素界面活性剤のカチオンを除く部分を意味する。例えば、F(CFn1COOMの場合には、「F(CFn1COO」の部分である。
上記アニオン性含フッ素界面活性剤としては、下記一般式(N):
n0-Rfn0-Y (N
(式中、Xn0は、H、Cl又は及びFである。Rfn0は、炭素数3~20で、鎖状、分枝鎖状又は環状で、一部又は全てのHがFにより置換されたアルキレン基であり、該アルキレン基は1つ以上のエーテル結合を含んでもよく、一部のHがClにより置換されていてもよい。Yはアニオン性基である。)で表される化合物が挙げられる。
のアニオン性基は、-COOM、-SOM、又は、-SOMであってよく、-COOM、又は、-SOMであってよい。
Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。
上記金属原子としては、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)等が挙げられ、例えば、Na、K又はLiである。
としては、H又はC1-10の有機基であってよく、H又はC1-4の有機基であってよく、H又はC1-4のアルキル基であってよい。
Mは、H、金属原子又はNR であってよく、H、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)又はNR であってよく、H、Na、K、Li又はNHであってよい。
上記Rfn0は、Hの50%以上がフッ素に置換されているものであってよい。
【0093】
上記含フッ素界面活性剤は、1種の含フッ素界面活性剤であってもよいし、2種以上の含フッ素界面活性剤を含有する混合物であってもよい。
【0094】
上記含フッ素界面活性剤としては、例えば、以下の式で表される化合物が挙げられる。含フッ素界面活性剤は、これらの化合物の混合物であってよい。
F(CFCOOM、
F(CFCOOM、
H(CFCOOM、
H(CFCOOM、
CFO(CFOCHFCFCOOM、
OCF(CF)CFOCF(CF)COOM、
CFCFCFOCF(CF)COOM、
CFCFOCFCFOCFCOOM、
OCF(CF)CFOCF(CF)COOM、
CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOM、
CFClCFCFOCF(CF)CFOCFCOOM、
CFClCFCFOCFCF(CF)OCFCOOM、
CFClCF(CF)OCF(CF)CFOCFCOOM、
CFClCF(CF)OCFCF(CF)OCFCOOM、及び、
【化3】
(各式中、Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムである。Rは、H又は有機基である。)。
本開示のTFE系ポリマー組成物は、上記式で表される含フッ素化合物のいずれをも実質的に含まないことが好ましい。
【0095】
上記の各式において、Mは、H、金属原子又はNR であってよく、H、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)又はNR であってよく、H、Na、K、Li又はNHであってよい。
は、H又はC1-10の有機基であってよく、H又はC1-4の有機基であってよく、H又はC1-4のアルキル基であってよい。
【0096】
本開示のTFE系ポリマー組成物が上記式で表される含フッ素化合物のいずれをも実質的に含まないものであると、ガス発生及び電気化学デバイス特性の劣化を一層抑制することができる。
上記式で表される含フッ素化合物のいずれをも実質的に含まないとは、当該含フッ素化合物の量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し25質量ppb以下であることを意味する。
上記含フッ素化合物の量は、20質量ppb以下であることが好ましく、15質量ppb以下であることがより好ましく、10質量ppb以下であることが更に好ましく、10質量ppb未満であることが更により好ましく、1質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb未満であることが更により好ましく、定量下限未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、定量下限未満の量であってよい。
【0097】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、下記一般式:
[Cn-12n-1COO]M
(式中、nは9~14の整数、好ましくは9~12の整数、Mはカチオンを表す。)で表される含フッ素化合物を実質的に含まないことも好ましい。これにより、ガス発生及び電気化学デバイス特性の劣化を一層抑制することができる。
上記式中のカチオンMを構成するMは、上述したMと同様である。
上記式で表される含フッ素化合物を実質的に含まないとは、当該含フッ素化合物の量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し25質量ppb以下であることを意味する。
上記含フッ素化合物の量は、20質量ppb以下であることが好ましく、15質量ppb以下であることがより好ましく、10質量ppb以下であることが更に好ましく、10質量ppb未満であることが更により好ましく、1質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb未満であることが更により好ましく、定量下限未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、定量下限未満の量であってよい。
【0098】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、延伸可能であることが好ましい。
特開2002-201217号公報の記載に従い、TFE系ポリマー組成物100gに潤滑剤(商品名:アイソパーH(登録商標)、エクソンモービル社製)21.7gを添加し、3分間混合する。上記混合物を、25℃の恒温槽に2時間放置した後に、リダクションレシオ(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)100、押出速度51cm/分の条件で、25℃にて、オリフィス(直径2.5mm、ランド長1.1cm、導入角30°)を通してペースト押出しを行い、ビードを得る。得られたビードを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去する。乾燥後のビードを適当な長さに切断し、クランプ間が3.8cmとなるよう、各末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱する。次いで、クランプを総ストレッチが2400%に相当する分離距離となるまで、延伸速度1000%/秒で離す。『総ストレッチ』とは、延伸試験前のビード長さ(100%)に対する延伸による長さの増加である。延伸中に破断しなければ延伸可能、破断すれば延伸不可と判断する。
【0099】
TFE系ポリマー組成物が延伸可能であるか否かは、上述した方法で判断することが好ましいが、以下の方法によっても判断できる。
TFE系ポリマー組成物50gと押出助剤としての炭化水素油(商品名:アイソパーE(登録商標)、エクソンモービル社製)10.25gとをポリエチレン容器内で3分間混合する。室温(25±2℃)で、押出機のシリンダーに上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに0.47MPaの負荷をかけて1分間保持する。次にラム速度18mm/minでオリフィスから押出する。オリフィスの断面積に対するシリンダーの断面積の比は100である。得られたビードを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去する。乾燥後のビードを適当な長さに切断し、300℃に加熱した炉に入れる。炉内で、延伸速度100%/秒、延伸試験前のビード長さの25倍になるまで延伸する。延伸中に破断しなければ延伸可能、破断すれば延伸不可と判断する。
【0100】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、非溶融二次加工性を有することが好ましい。上記非溶融二次加工性とは、ASTM D-1238及びD-2116に準拠して、融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質、言い換えると、溶融温度領域でも容易に流動しない性質を意味する。
【0101】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、標準比重(SSG)が2.200以下であることが好ましく、2.190以下であることがより好ましく、2.180以下であることが更に好ましく、2.175以下であることが更により好ましく、また、2.130以上であることが好ましく、2.140以上であることがより好ましく、2.150以上であることが更に好ましい。
上記SSGは、ASTM D 4895に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定する。
【0102】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、電気化学デバイスの粉体成分と一層均一に混合することができ、また、強度及び柔軟性に一層優れる合剤シートを得ることができる点で、リダクションレシオ(RR)200における押出圧力が10MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがより好ましく、また、50MPa以下であることが好ましく、40MPa以下であることがより好ましく、35MPa以下であることが更に好ましい。
RR200における押出圧力は、以下の方法により測定する。
TFE系ポリマー組成物60gと押出助剤としての炭化水素油(商品名:アイソパーG(登録商標)、エクソンモービル社製)12.3gとをポリエチレン容器中で3分間混合する。室温(25±2℃)で押出機のシリンダーに上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに0.47MPaの負荷をかけて1分間保持する。次にラム速度20mm/minでオリフィスから押出する。オリフィスの断面積に対するシリンダーの断面積の比は200である。押出操作の後半において、圧力が平衡状態になったときの荷重(N)をシリンダー断面積で除した値を押出圧力(MPa)とする。
【0103】
本開示のTFE系ポリマー組成物の形態は限定されないが、分散媒を多量に使用することなく電極活物質や固体電解質と混合できる点で、粉末であることが好ましい。
なお、上記TFE系ポリマー組成物は、粉末以外の形態であってもよく、例えば、分散液であってもよい。
【0104】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、粉体流動性に優れる点、合剤シートの強度の均一性に優れる点で、粉末の平均アスペクト比が2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.8以下であることが更に好ましく、1.5以下であることがより更に好ましく、また、1.0以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましい。この場合のTFE系ポリマー組成物は粉末の形態であってよい。
上記粉末の平均アスペクト比は、粉末に剪断を掛けないように粉末をエアーにて黒色紙面上に薄く広げ、広がった粉末を顕微鏡を用いて観察し、無作為に選択した100個以上の粉末の長径と短径の比の平均より求める。
【0105】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、平均二次粒子径が350μm以上であってよく、400μm以上であることが好ましく、450μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが更に好ましく、また、1000μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、800μm以下であることが更に好ましく、700μm以下であることが更により好ましい。
上記平均二次粒子径は、JIS K 6891に準拠して測定する。
【0106】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、取り扱い性に優れる点で、見掛密度が0.40g/ml以上であることが好ましく、0.43g/ml以上であることがより好ましく、0.45g/ml以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、0.70g/mlであっても構わない。
上記見掛密度は、JIS K 6892に準拠して測定する。
【0107】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、上記領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)と上記領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)とを混合することにより製造することができる。混合の方法は限定されず、上記TFE系ポリマー(A)及び(B)の両方を粉末の形態で混合してもよく、両方を水性分散液の形態で混合してもよく、水性分散液の形態と粉末の形態とで混合してもよい。より均一な混合が可能である点で、両方を水性分散液の形態で混合することが好ましい。
【0108】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、例えば、上記領域(A)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(A)の水性分散液と、上記領域(B)に吸熱ピークを有するTFE系ポリマー(B)の水性分散液とを混合する工程(A)、混合後の水性分散液を凝析して湿潤粉末を得る工程(B)、及び、上記湿潤粉末を乾燥させる工程(C)を含む製造方法によって好適に製造することができる。
【0109】
工程(A)における上記TFE系ポリマー(B)の水性分散液は、例えば、乳化重合によって製造することができる。
【0110】
上記乳化重合は公知の方法により行うことができる。例えば、アニオン性含フッ素界面活性剤及び重合開始剤の存在下、上記TFE系ポリマーを構成するのに必要なモノマー(TFE及び必要に応じて変性モノマー)の乳化重合を水性媒体中で行うことにより、上記TFE系ポリマーの粒子(一次粒子)を含む水性分散液が得られる。上記乳化重合において、必要に応じて、連鎖移動剤、緩衝剤、pH調整剤、安定化助剤、分散安定剤、ラジカル捕捉剤等を使用してもよい。
【0111】
上記水性分散液は、上述した含フッ素化合物の少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0112】
上記乳化重合は、例えば、アニオン性含フッ素界面活性剤及び重合開始剤の存在下、水性媒体中で行うことができる。
上記乳化重合は、重合反応器に、水性媒体、上記アニオン性含フッ素界面活性剤、モノマー及び必要に応じて他の添加剤を仕込み、反応器の内容物を撹拌し、そして反応器を所定の重合温度に保持し、次に所定量の重合開始剤を加え、重合反応を開始することにより行うことができる。重合反応開始後に、目的に応じて、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤及び上記界面活性剤等を追加添加してもよい。
【0113】
上記重合開始剤としては、重合温度範囲でラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、公知の油溶性及び/又は水溶性の重合開始剤を使用することができる。更に、還元剤等と組み合わせてレドックスとして重合を開始することもできる。上記重合開始剤の濃度は、モノマーの種類、目的とするTFE系ポリマーの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0114】
上記重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤、又は水溶性ラジカル重合開始剤を使用できる。
【0115】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネート等のジアルキルパーオキシカーボネート類、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジt-ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等が、また、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロバレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロ-デカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロドトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドのジ[パーフロロ(又はフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類等が代表的なものとして挙げられる。
【0116】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸等のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジコハク酸パーオキサイド等が挙げられる。なかでも、過硫酸アンモニウム、ジコハク酸パーオキサイドが好ましい。サルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤も併せて含んでもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0117】
水溶性ラジカル重合開始剤の添加量は、特に限定はないが、重合速度が著しく低下しない程度の量(例えば、数ppm対水濃度)以上を重合の初期に一括して、又は逐次的に、又は連続して添加すればよい。上限は、装置面から重合反応熱で除熱を行いながら、反応温度を上昇させてもよい範囲であり、より好ましい上限は、装置面から重合反応熱を除熱できる範囲である。
上述した各物性が容易に得られる点で、重合開始剤の添加量は、水性媒体に対して0.1ppm以上に相当する量が好ましく、1.0ppm以上に相当する量がより好ましく、また、100ppm以下に相当する量が好ましく、10ppm以下に相当する量がより好ましい。
【0118】
例えば、30℃以下の低温で重合を実施する場合等では、重合開始剤として、酸化剤と還元剤を組み合わせるレドックス開始剤を用いるのが好ましい。酸化剤としては、過硫酸塩、有機過酸化物、過マンガン酸カリウム、三酢酸マンガン、セリウム硝酸アンモニウム、臭素酸塩等が挙げられる。還元剤としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、臭素酸塩、ジイミン、シュウ酸等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが挙げられる。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムが挙げられる。開始剤の分解速度を上げるため、レドックス開始剤の組み合わせには、銅塩、鉄塩を加えることも好ましい。銅塩としては、硫酸銅(II)、鉄塩としては硫酸鉄(II)が挙げられる。
【0119】
上記レドックス開始剤としては、酸化剤が、過マンガン酸又はその塩、過硫酸塩、三酢酸マンガン、セリウム(IV)塩、若しくは、臭素酸又はその塩であり、還元剤が、ジカルボン酸又はその塩、若しくは、ジイミンであることが好ましい。
より好ましくは、酸化剤が、過マンガン酸又はその塩、過硫酸塩、若しくは、臭素酸又はその塩であり、還元剤が、ジカルボン酸又はその塩である。
【0120】
上記レドックス開始剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム、三酢酸マンガン/シュウ酸、三酢酸マンガン/シュウ酸アンモニウム、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸アンモニウム等の組合せが挙げられる。
レドックス開始剤を用いる場合は、酸化剤又は還元剤のいずれかをあらかじめ重合槽に仕込み、ついでもう一方を連続的又は断続的に加えて重合を開始させてもよい。例えば、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウムを用いる場合、重合槽にシュウ酸アンモニウムを仕込み、そこへ過マンガン酸カリウムを連続的に添加することが好ましい。
なお、本明細書のレドックス開始剤において、「過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム」と記載した場合、過マンガン酸カリウムとシュウ酸アンモニウムとの組合せを意味する。他の化合物においても同じである。
【0121】
上記レドックス開始剤は特に、塩である酸化剤と塩である還元剤との組み合わせであることが好ましい。
例えば、上記塩である酸化剤は、過硫酸塩、過マンガン酸塩、セリウム(IV)塩及び臭素酸塩からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、過マンガン酸塩が更に好ましく、過マンガン酸カリウムが特に好ましい。
また、上記塩である還元剤は、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩及び臭素酸塩からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、シュウ酸塩が更に好ましく、シュウ酸アンモニウムが特に好ましい。
【0122】
上記レドックス開始剤として具体的には、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム、臭素酸カリウム/亜硫酸アンモニウム、三酢酸マンガン/シュウ酸アンモニウム、及び、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過マンガン酸カリウム/シュウ酸アンモニウム、臭素酸カリウム/亜硫酸アンモニウム、及び、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、過マンガン酸カリウム/シュウ酸であることが更に好ましい。
【0123】
レドックス開始剤を使用する場合、重合初期に酸化剤と還元剤を一括で添加してもよいし、重合初期に還元剤を一括で添加し、酸化剤を連続して添加してもよいし、重合初期に酸化剤を一括で添加し、還元剤を連続して添加してもよいし、酸化剤と還元剤の両方を連続して添加してもよい。
【0124】
上記レドックス重合開始剤は、重合初期に一方を添加し、残る一方を連続的に添加する場合、SSGが低いTFE系ポリマーを得る点で、徐々に添加する速度を減速させることが好ましく、更に重合途中で中止することが好ましく、該添加中止時期としては、重合反応に消費される全TFEの20~40質量%が消費される前が好ましい。
【0125】
重合開始剤としてレドックス開始剤を使用する場合、水性媒体に対して、酸化剤の添加量が0.1ppm以上であることが好ましく、0.3ppm以上であることがより好ましく、0.5ppm以上であることが更に好ましく、1ppm以上であることが更により好ましく、5ppm以上であることが特に好ましく、10ppm以上であることが殊更に好ましく、また、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、10ppm以下であることが更により好ましい。還元剤の添加量は0.1ppm以上であることが好ましく、1.0ppm以上であることがより好ましく、3ppm以上であることが更に好ましく、5ppm以上であることが更により好ましく、10ppm以上であることが特に好ましく、また、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、10ppm以下であることが更により好ましい。
また、上記乳化重合でレドックス開始剤を用いる場合、重合温度は、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下が更に好ましい。また、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましい。
【0126】
上記重合開始剤としては、上述した各物性が容易に得られる点で、水溶性ラジカル重合開始剤、及び、レドックス開始剤が好ましい。
【0127】
上記水性媒体は、重合を行わせる反応媒体であって、水を含む液体を意味する。上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水と、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒とを含むものであってもよい。
【0128】
上記乳化重合において、必要に応じて、核形成剤、連鎖移動剤、緩衝剤、pH調整剤、安定化助剤、分散安定剤、ラジカル捕捉剤、重合開始剤の分解剤、ジカルボン酸等を使用してもよい。
【0129】
上記乳化重合は、粒子径を調整する目的で、核形成剤を添加して行うことが好ましい。上記核形成剤は、重合反応の開始前に添加することが好ましい。
上記核形成剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルオロポリエーテル、非イオン性界面活性剤、及び、連鎖移動剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、非イオン性界面活性剤であることがより好ましい。
【0130】
上記フルオロポリエーテルとしては、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)酸又はその塩が挙げられる。
上記パーフルオロポリエーテル(PFPE)酸又はその塩は、分子の主鎖中の酸素原子が、1~3個の炭素原子を有する飽和フッ化炭素基によって隔てられる任意の鎖構造を有してよい。また、2種以上のフッ化炭素基が、分子中に存在してよい。代表的な構造は、下式に表される繰り返し単位を有する:
(-CFCF-CF-O-)
(-CF-CF-CF-O-)
(-CF-CF-O-)-(-CF-O-)
(-CF-CFCF-O-)-(-CF-O-)
【0131】
これらの構造は、Kasaiによって、J.Appl.Polymer Sci.57,797(1995)に記載されている。この文献に開示されているように、上記PFPE酸又はその塩は、一方の末端又は両方の末端にカルボン酸基又はその塩を有してよい。上記PFPE酸又はその塩は、また、一方の末端又は両方の末端に、スルホン酸、ホスホン酸基又はこれらの塩を有してよい。また、上記PFPE酸又はその塩は、各末端に異なる基を有してよい。単官能性のPFPEについては、分子の他方の末端は、通常、過フッ素化されているが、水素又は塩素原子を含有してよい。上記PFPE酸又はその塩は、少なくとも2つのエーテル酸素、好ましくは少なくとも4つのエーテル酸素、更により好ましくは少なくとも6つのエーテル酸素を有する。好ましくは、エーテル酸素を隔てるフッ化炭素基の少なくとも1つ、より好ましくは、このようなフッ化炭素基の少なくとも2つは、2又は3個の炭素原子を有する。更により好ましくは、エーテル酸素を隔てるフッ化炭素基の少なくとも50%は、2又は3個の炭素原子を有する。また、好ましくは、上記PFPE酸又はその塩は、合計で少なくとも15個の炭素原子を有し、例えば、上記の繰返し単位構造中のn又はn+mの好ましい最小値は、少なくとも5である。1つの末端又は両方の末端に酸基を有する2つ以上の上記PFPE酸又はその塩が、本開示の製造方法に使用され得る。上記PFPE酸又はその塩は、好ましくは、6000g/モル未満の数平均分子量を有する。
【0132】
TFE系ポリマーを一層高分子量化することができ、合剤シートの強度を向上させることができる点で、上記乳化重合は、ラジカル捕捉剤又は重合開始剤の分解剤を添加して行うことが好ましい。上記ラジカル捕捉剤又は重合開始剤の分解剤は、重合反応の開始後、好ましくは、重合反応に消費される全TFEの10質量%以上、好ましくは20質量%以上が重合される前に添加することが好ましく、また、50質量%以下、好ましくは40質量%以下が重合される前に添加することが好ましい。後述する脱圧及び再昇圧を行う場合は、その後に添加することが好ましい。
【0133】
上記ラジカル捕捉剤としては、重合系内の遊離基に付加もしくは連鎖移動した後に再開始能力を有しない化合物が用いられる。具体的には、一次ラジカルまたは成長ラジカルと容易に連鎖移動反応を起こし、その後単量体と反応しない安定ラジカルを生成するか、あるいは、一次ラジカルまたは成長ラジカルと容易に付加反応を起こして安定ラジカルを生成するような機能を有する化合物が用いられる。
一般的に連鎖移動剤と呼ばれるものは、その活性は連鎖移動定数と再開始効率で特徴づけられるが連鎖移動剤の中でも再開始効率がほとんど0%のものがラジカル捕捉剤と称される。
上記ラジカル捕捉剤は、例えば、重合温度におけるTFEとの連鎖移動定数が重合速度定数より大きく、かつ、再開始効率が実質的にゼロ%の化合物ということもできる。「再開始効率が実質的にゼロ%」とは、発生したラジカルがラジカル捕捉剤を安定ラジカルにすることを意味する。
好ましくは、重合温度におけるTFEとの連鎖移動定数(Cs)(=連鎖移動速度定数(kc)/重合速度定数(kp))が0.1より大きい化合物であり、上記化合物は、連鎖移動定数(Cs)が0.5以上であることがより好ましく、1.0以上であることが更に好ましく、5.0以上であることが更により好ましく、10以上であることが特に好ましい。
【0134】
上記ラジカル捕捉剤としては、例えば、芳香族ヒドロキシ化合物、芳香族アミン類、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、キノン化合物、テルペン、チオシアン酸塩、及び、塩化第二銅(CuCl)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
芳香族ヒドロキシ化合物としては、非置換フェノール、多価フェノール、サリチル酸、m-又はp-のサリチル酸、没食子酸、ナフトール等が挙げられる。
上記非置換フェノールとしては、о-、m-又はp-のニトロフェノール、о-、m-又はp-のアミノフェノール、p-ニトロソフェノール等が挙げられる。多価フェノールとしては、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ピロガロール、フロログルシン、ナフトレゾルシノール等が挙げられる。
芳香族アミン類としては、о-、m-又はp-のフェニレンジアミン、ベンジジン等が挙げられる。
上記キノン化合物としては、о-、m-又はp-のベンゾキノン、1,4-ナフトキノン、アリザリン等が挙げられる。
チオシアン酸塩としては、チオシアン酸アンモン(NHSCN)、チオシアン酸カリ(KSCN)、チオシアン酸ソーダ(NaSCN)等が挙げられる。
上記ラジカル捕捉剤としては、なかでも、芳香族ヒドロキシ化合物が好ましく、非置換フェノール又は多価フェノールがより好ましく、ヒドロキノンが更に好ましい。
【0135】
上記ラジカル捕捉剤の添加量は、標準比重を適度に小さくする観点から、重合開始剤濃度の3~500%(モル基準)に相当する量が好ましい。より好ましい下限は10%(モル基準)であり、更に好ましくは15%(モル基準)である。より好ましい上限は400%(モル基準)であり、更に好ましくは300%(モル基準)である。
【0136】
上記重合開始剤の分解剤としては、使用する重合開始剤を分解できる化合物であればよく、例えば、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、臭素酸塩、ジイミン、ジイミン塩、シュウ酸、シュウ酸塩、銅塩、及び鉄塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムが挙げられる。銅塩としては、硫酸銅(II)、鉄塩としては硫酸鉄(II)が挙げられる。
上記分解剤の添加量は、標準比重を適度に小さくする観点から、開始剤濃度の3~500%(モル基準)に相当する量が好ましい。より好ましい下限は10%(モル基準)であり、更に好ましくは15%(モル基準)である。より好ましい上限は400%(モル基準)であり、更に好ましくは300%(モル基準)である。
【0137】
上記乳化重合は、重合中に生じる凝固物の量を減少させるために水性媒体に対して5~500ppmのジカルボン酸の存在下に行ってもよく、10~200ppmのジカルボン酸の存在下に行うことが好ましい。上記ジカルボン酸が水性媒体に対して少な過ぎると、充分な効果が得られないおそれがあり、多過ぎると、連鎖移動反応が起こり、得られるポリマーが低分子量のものとなるおそれがある。上記ジカルボン酸は、150ppm以下であることがより好ましい。上記ジカルボン酸は、重合反応の開始前に添加してもよいし、重合途中に添加してもよい。
【0138】
上記ジカルボン酸としては、例えば、一般式:HOOCRCOOH(式中、Rは炭素数1~5のアルキレン基を表す。)で表されるものが好ましく、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸がより好ましく、コハク酸が更に好ましい。
【0139】
上記乳化重合において、重合温度、重合圧力は、使用するモノマーの種類、目的とするTFE系ポリマーの分子量、反応速度によって適宜決定される。通常、重合温度は、5~150℃であり、10℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。また、120℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましい。
重合圧力は、0.05~10MPaGである。重合圧力は、0.3MPaG以上がより好ましく、0.5MPaG以上が更に好ましい。また、5.0MPaG以下がより好ましく、3.0MPaG以下が更に好ましい。
【0140】
変性モノマーとしてVDFを用いる場合、上記乳化重合においては、上述した各物性が容易に得られる点で、重合開始時(開始剤添加時)の反応器内のガス中のVDF濃度を0.001モル%以上とすることが好ましく、0.01モル%以上とすることがより好ましい。上記濃度は、また、15モル%以下であってよく、6.0モル%以下とすることが好ましく、5.0モル%以下とすることが更に好ましく、3.0モル%以下とすることが更により好ましく、1.0モル%以下とすることが特に好ましい。上記VDF濃度は、その後、重合反応の終了まで維持してもよいし、途中で脱圧を実施しても構わない。VDFは重合開始前に一括で仕込むのが好ましいが、一部を重合開始後に連続的又は断続的に添加してもよい。
【0141】
変性モノマーとしてVDFを用いる場合、上記乳化重合においては、VDFを重合容器に投入した後、重合が終了するまで、脱圧を行わないことが好ましい。これにより、重合の最終までVDFを系中に残すことでき、得られるTFE系ポリマーを用いた合剤シートの強度を一層高くすることができる。
【0142】
変性モノマーとしてHFPを用いる場合、上記乳化重合においては、上述した各物性が容易に得られる点で、重合開始時(開始剤添加時)の反応器内のガス中HFP濃度を0.01~3.0モル%とすることが好ましい。更に、重合反応に消費される全TFEの40質量%が重合される時点での反応器内のガス中HFP濃度が0モル%より大きく0.2モル%以下であることが好ましい。上記HFP濃度は、その後、重合反応の終了まで維持することが好ましい。HFPは重合開始前に一括で仕込んでもよく、一部を重合開始前に仕込み、重合開始後に連続的又は断続的に添加してもよい。HFPが重合反応の最後まで残るようにすることで、得られるTFE系ポリマーを用いた合剤シートの強度が高いにも関わらず、押出圧力が低下する。
【0143】
変性モノマーとしてHFPを用いる場合、上記乳化重合においては、得られるTFE系ポリマーを用いた合剤シートの強度が一層向上する点で、重合反応に消費される全TFEの5~40質量%が重合される前に脱圧し、その後TFEのみにより再昇圧することが好ましい。
上記脱圧は、反応器内の圧力が0.2MPaG以下となるように行うことが好ましく、0.1MPaG以下となるように行うことがより好ましく、0.05MPaG以下となるように行うことが更に好ましい。また、0.0MPaG以上となるように行うことが好ましい。
また、上記脱圧、再昇圧は複数回行ってもよい。脱圧は真空ポンプを用いて減圧下まで行ってもよい。
【0144】
変性モノマーとしてCTFEを用いる場合、上記乳化重合においては、上述した各物性が容易に得られる点で、重合開始時(開始剤添加時)の反応器内のガス中のCTFE濃度を0.001モル%以上とすることが好ましく、0.01モル%以上とすることがより好ましい。上記濃度は、また、3.0モル%以下とすることが好ましく、1.0モル%以下とすることがより好ましい。上記CTFE濃度は、その後、重合反応の終了まで維持してもよいし、途中で脱圧を実施しても構わない。CTFEは重合開始前に一括で仕込むのが好ましいが、一部を重合開始後に連続的又は断続的に添加してもよい。
【0145】
変性モノマーとしてCTFEを用いる場合、上記乳化重合においては、CTFEを重合容器に投入した後、重合が終了するまで、脱圧を行わないことが好ましい。これにより、重合の最終までCTFEを系中に残すことでき、得られるTFE系ポリマーを用いた合剤シートの強度を一層高くすることができる。
【0146】
工程(A)における上記TFE系ポリマー(A)の水性分散液は、例えば、TFE及び変性モノマーを乳化重合する工程において、重合反応初期に変性モノマーを反応系に仕込み重合反応を行う工程(1a)、並びに、上記工程(1a)の後に、連鎖移動剤、及び/又は、変性モノマーを反応系に導入する工程(2a)を実施することによって、好適に製造することができる。
この製造方法によれば、上述したRR1000における押出圧力が75MPa以下であるTFE共重合体の水性分散液を容易に得ることができる。また、コアシェル構造を有するTFE共重合体を容易に得ることができる。
【0147】
工程(1a)における変性モノマーとしては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕等のフルオロ(アルキルビニルエーテル);パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール〔PDD〕等のビニルヘテロ環状体;ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のフルオロオレフィン等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
なかでも、フルオロ(アルキルビニルエーテル)及びフルオロオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PAVE、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PAVE及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、CTFEが更により好ましい。
工程(1a)における変性モノマーとして、PAVEとHFPとを併用することも好ましい。
PAVEとしては、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕が好ましい。
【0148】
工程(2a)における連鎖移動剤としては、コアシェル構造のシェルを構成するTFE系ポリマーの分子量を低減するものであれば特に限定されず、例えば、水溶性アルコール、炭化水素及びフッ素化炭化水素等の非過酸化有機化合物、ジコハク酸パーオキサイド〔DSP〕等の水溶性有機過酸化物、過硫酸アンモニウム〔APS〕、過硫酸カリウム〔KPS〕等の過硫酸塩からなるもの等が挙げられる。
上記連鎖移動剤は、非過酸化有機化合物、水溶性有機過酸化物及び過硫酸塩の何れかを少なくとも1種有するものであればよい。
上記連鎖移動剤において、非過酸化有機化合物、水溶性有機過酸化物及び過硫酸塩は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
【0149】
上記連鎖移動剤としては、反応系内で分散性及び均一性が良好である点で、炭素数1~4の水溶性アルコール、炭素数1~4の炭化水素及び炭素数1~4のフッ化炭化水素等からなる群より選択される少なくとも1つからなるものであることが好ましく、メタン、エタン、n-ブタン、イソブタン、メタノール、HFC-134a、HFC-32、DSP、APS及びKPSよりなる群から選択される少なくとも1つからなるものであることがより好ましく、メタノール及び/又はイソブタンからなるものであることが更に好ましく、メタノールからなるものであることが特に好ましい。
【0150】
工程(2a)における変性モノマーとしては、上述したフルオロ(アルキルビニルエーテル)及びフルオロオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PAVE、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、CTFEが更により好ましい。
【0151】
工程(2a)においては、上記連鎖移動剤と上記変性モノマーとを併用することも好ましい。
【0152】
工程(1a)における変性モノマーとしてCTFEを用いる場合、工程(2a)においては、変性モノマーとしてCTFEを用いることが好ましい。
工程(1a)における変性モノマーとしてPAVE(及びHFP)を用いる場合、工程(2a)においては、連鎖移動剤としてメタノール(及び変性モノマーとしてHFP)を用いることが好ましい。
【0153】
上記工程(1a)は、該工程(1a)と工程(2a)とを含む乳化重合工程全体で用いるTFEの転化率が80%以上、好ましくは80~97%、より好ましくは85~95%となるまで重合反応を行うことが好ましい。
本明細書において、上記「転化率」は、目的とするTFE単位の量に相当するTFEの量のうち、重合開始時から重合途中のある時点までの間に重合に消費されたTFEの量が占める割合である。
【0154】
上記工程(1a)及び上記工程(2a)において、使用する変性剤の種類、目的とするTFE系ポリマーの組成及び収量等に応じて、反応条件を適宜設定することができる。
【0155】
上記乳化重合は、アニオン性含フッ素界面活性剤及び重合開始剤の存在下、水性媒体中で実施することができる。必要に応じて分散安定剤等を使用してもよい。
上記アニオン性含フッ素界面活性剤は、上記水性媒体の0.02~0.3質量%とすることができる。
【0156】
上記重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム〔APS〕等の過硫酸塩、ジコハク酸パーオキサイド〔DSP〕等の水溶性有機過酸化物等を用いることができ、また、これらの重合開始剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、APS、DSP等は、上述した連鎖移動剤としての作用をも有するので好ましい。
上記乳化重合は、重合開始剤が水性媒体100質量部あたり0.0001~0.02質量部となる量にて行うことが好ましい。
【0157】
上記水性媒体としては、上述したものを用いることができる。
【0158】
上記乳化重合は、重合温度10~95℃にて行うことができるが、重合開始剤として過硫酸塩又は水溶性有機過酸化物を使用する場合、60~90℃にて行うことが好ましい。
上記乳化重合は、通常、0.5~3.9MPaG、好ましくは、0.6~3MPaGにて行うことができる。
上記乳化重合は、また、重合初期、特にTFEの転化率が全体の15%以下の範囲まで0.5MPaG以下の圧力にて反応を行い、それ以後0.5MPaGを超える圧力に保つことによっても行うことができるし、芯部の形成途中で反応圧力を、例えば0.1MPaG以下に低下させ、再度TFEを供給し所定の圧力にて反応させることによっても行うことができる。
【0159】
工程(A)における混合は、公知の方法により行うことができる。
【0160】
工程(B)における凝析は、公知の方法により行うことができる。
【0161】
工程(C)において、上記乾燥は、通常、上記湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置の状態を保ちながら、真空、高周波、熱風等の手段を用いて行う。粉末同士の、特に高温での摩擦は、一般にファインパウダー型のTFE系ポリマーに好ましくない影響を与える。これは、この種のTFE系ポリマーからなる粒子が小さな剪断力によっても簡単にフィブリル化して、元の安定な粒子構造の状態を失う性質を持っているからである。
【0162】
工程(C)においては、工程(B)で得られた湿潤粉末を底面及び/又は側面に通気性のある容器に配置し、130~300℃の温度で2時間以上の時間熱処理することが好ましい。このように極めて限定された条件下で熱処理することにより、上記分子量1000以下の含フッ素化合物を水とともに効率よく除去することができ、当該含フッ素化合物及び水分の含有量を上述の範囲内とすることができる。
【0163】
工程(C)における熱処理の温度は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましく、180℃以上であることが更により好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、220℃以上であることが特に好ましく、また、280℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。
【0164】
工程(C)における熱処理の時間は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、5時間以上であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましく、15時間以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、100時間であることが好ましく、50時間であることがより好ましく、30時間であることが更に好ましい。
【0165】
工程(C)における風速は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、0.01m/s以上であることが好ましく、0.03m/s以上であることがより好ましく、0.05m/s以上であることが更に好ましく、0.1m/s以上であることが更により好ましい。また、粉末の飛び散りを抑制する観点で、50m/s以下が好ましく、30m/s以下がより好ましく、10m/s以下が更に好ましい。
【0166】
工程(C)における熱処理は、電気炉又はスチーム炉を用いて行うことができる。例えば、並行流箱型電気炉、通気式箱型電気炉、通気式コンベア式電気炉、バンド電気炉、輻射式コンベア式電気炉、流動層電気炉、真空電気炉、攪拌式電気炉、気流式電気炉、熱風循環式電気炉等の電気炉、又は、上記に対応するスチーム炉(上記各電気炉の装置名における電気炉をスチーム炉に読み替えた装置)を用いて行うことができる。水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、並行流箱型電気炉、通気式箱型電気炉、通気式コンベア式電気炉、バンド電気炉、流動層電気炉、熱風循環式電気炉、上記に対応するスチーム炉(上記各電気炉の装置名における電気炉をスチーム炉に読み替えた装置)が好ましい。
【0167】
工程(C)における熱処理は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、上記湿潤粉末を底面及び/又は側面に通気性のある容器に配置して行うことが好ましい。上記底面及び/又は側面に通気性のある容器は、上記熱処理温度に耐え得るものであればよいが、ステンレス等の金属製であることが好ましい。
上記底面及び/又は側面に通気性のある容器としては、底面及び/又は側面に通気性を有するトレー(バット)が好ましく、底面及び/又は側面がメッシュで作製されたトレー(メッシュトレー)が更に好ましい。
上記メッシュは、織網とパンチングメタルのいずれかであることが好ましい。
上記メッシュの目開きは、2000μm以下(ASTM規格の10メッシュ以上)が好ましく、595μm以下(30メッシュ以上)がより好ましく、297μm以下(50メッシュ以上)が更に好ましく、177μm以下(80メッシュ以上)が更により好ましく、149μm以下(100メッシュ以上)が殊更に好ましく、74μm以下(200メッシュ以上)が特に好ましい。また、25μm以上(500メッシュ以下)が好ましい。
上記メッシュが織網である場合の織り方としては、例えば、平織、綾織、平畳織、綾畳織が挙げられる。
上記メッシュがパンチングメタルである場合の開孔率は、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。また、95%以下が好ましい。
【0168】
工程(C)において、上記湿潤粉末の配置量は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、10g/cm以下であることが好ましく、8g/cm以下であることがより好ましく、5g/cm以下であることが更に好ましく、3g/cm以下であることが特に好ましく、また、0.01g/cm以上であることが好ましく、0.05g/cm以上であることがより好ましく、0.1g/cm以上であることが更に好ましい。
【0169】
工程(C)において熱処理する湿潤粉末の水分含有量は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、上記湿潤粉末に対し10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、また、150質量%以下であることが好ましく、100質量%以下であることがより好ましい。
【0170】
上記TFE系ポリマー(A)及び(B)の両方を粉末の形態で混合する場合、例えば、粉末状のTFE系ポリマー(A)及び(B)を得る工程、及び、粉末状のTFE系ポリマー(A)及び(B)を混合する工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0171】
粉末状のTFE系ポリマー(A)及び(B)は、例えば、TFE系ポリマー(A)の水性分散液及びTFE系ポリマー(B)の水性分散液のそれぞれを凝析して湿潤粉末を得る工程、上記湿潤粉末を乾燥する工程により製造することができる。
上記TFE系ポリマー(A)の水性分散液及びTFE系ポリマー(B)の水性分散液は、例えば、上記工程(A)について説明した方法により製造することができる。
水性分散液の凝析及び湿潤粉末の乾燥は、上記工程(B)及び(C)と同様の方法により実施できる。
【0172】
粉末状のTFE系ポリマー(A)及び(B)を混合する工程は、TFE系ポリマー組成物のフィブリル化を抑制し、粉体流動性を向上させることができる点、合剤シートの強度を向上させることができる点で、剪断力が弱い混合方法により実施することが好ましい。剪断力が弱い混合方法としては、例えば、気流混合、Vブレンダーを用いた混合等の撹拌翼を使用しない混合方法が挙げられる。
通常の攪拌翼を用いる混合方法では、TFE系ポリマーがフィブリル化し、所望の物性が得られないおそれがある。
【0173】
本開示のTFE系ポリマー組成物は、上記TFE系ポリマー(A)及び(B)を、必要に応じて導電助剤等とともに混合することで得られる。そして、本開示のTFE系ポリマー組成物は、電気化学デバイス用バインダーに使用でき、電極活物質や固体電解質と混合される。このように、本開示のTFE系ポリマー組成物を調製した後、電極活物質や固体電解質と混合することで、上記TFE系ポリマー組成物中で上記TFE系ポリマー(A)及び(B)が良好に分散し、バインダーとしての機能が顕著に発揮される。
上記電気化学デバイス用バインダーにおいて、本開示のTFE系ポリマー組成物を単独で使用してもよく、他の材料(例えば、TFE系ポリマー以外のポリマー)と混合して使用してもよいが、本開示のTFE系ポリマー組成物を実質的に単独で使用することが好ましく、単独で使用することがより好ましい。なお、本開示のTFE系ポリマー組成物を実質的に単独で使用するとは、電気化学デバイス用バインダー中のTFE系ポリマー組成物の量が後述する範囲内となるように使用することを意味する。
【0174】
本開示は、実質的にTFE系ポリマー組成物のみからなる電気化学デバイス用バインダーであって、上記TFE系ポリマー組成物は、示差走査熱量分析において、330℃以上340℃未満の領域(A)と、340℃以上350℃以下の領域(B)とに吸熱ピークを有する電気化学デバイス用バインダーも提供する。
本開示のバインダーは、特定のTFE系ポリマー組成物を含むことにより、電極活物質、固体電解質等の電気化学デバイスの粉体成分と長時間混練しても凝集物が発生しにくく、上記粉体成分と均一に混合することができる。また、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることもできる。
本開示のバインダーは、また、水や有機溶剤といった分散媒を多量に使用する必要がなく、組み合わせる電極活物質や固体電解質を広く選択することができ、生産工程上有利である。また、分散媒の使用による工程及びコストを削減することができる。
更に、本開示のバインダーは、活物質や電解質との結着力に優れるので、使用量を削減することができる。
【0175】
本開示のバインダーにおけるTFE系ポリマー組成物としては、上述した本開示のTFE系ポリマー組成物と同様のものを使用することができ、好適な態様も同様である。
【0176】
本開示のバインダーは、実質的に上記TFE系ポリマー組成物のみからなる。これにより、上記TFE系ポリマー組成物による効果を顕著に発揮させることができる。実質的に上記TFE系ポリマー組成物のみからなるとは、上記TFE系ポリマー組成物の含有量が、上記バインダーに対し、95.0質量%以上であることを意味する。
上記TFE系ポリマー組成物の含有量は、上記バインダーに対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
本開示のバインダーが上記TFE系ポリマー組成物のみからなることも好ましい。
【0177】
本開示のバインダーは、有機溶剤を実質的に含まないことが好ましい。これにより、有機溶剤の使用による工程及びコストを削減することができる。有機溶剤を実質的に含まないとは、上記バインダーに対する有機溶剤含有量が5質量%以下であることを意味する。
上記有機溶剤含有量は、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、0.01質量%以下であることが更により好ましく、0.001質量%以下であることが特に好ましい。
【0178】
本開示のバインダーの形態は、粉末であることが好ましい。
【0179】
本開示のバインダーは電池、キャパシタ等の電気化学デバイスに用いられる。
電池としては、リチウムイオン電池等の二次電池等が挙げられる。
キャパシタとしては特に限定されないが、電気化学キャパシタであることが好ましい。電気化学キャパシタとしては、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、レドックスキャパシタ等が挙げられる。ハイブリッドキャパシタとしては、例えば、ナトリウムイオンキャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、マグネシウムイオンキャパシタが挙げられる。これらの中でも特に電気二重層キャパシタが好ましい。
【0180】
本開示のバインダーは電池用バインダー又はキャパシタ用バインダーとして好適に使用することができ、リチウムイオン電池等の二次電池用バインダーとしてより好適に使用することができる。
本開示のバインダーは、電気化学デバイス部材、好ましくは電池部材を作製するために用いられるものであってよい。
本開示のバインダーは、電極用バインダーとして特に好適に使用することができる。
本開示のバインダーは、また、固体二次電池の固体電解質層におけるバインダーとしても好適に使用することができる。
【0181】
本開示は、上述した本開示のTFE系ポリマー組成物又は本開示のバインダーと、電極活物質とを含む電極合剤も提供する。本開示の電極合剤を使用すると、電気化学デバイスの粉体成分が均一に分散し、強度及び柔軟性に優れる合剤シートが得られる。また、バインダーの量が少なくても、電極活物質を保持することができるため、活物質や導電助剤等の電気化学デバイス特性を向上させる材料をより多く加えることができる。
【0182】
上記電極活物質としては、正極活物質及び負極活物質が挙げられる。
【0183】
正極活物質としては、電気化学的にアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物、アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物等が挙げられる。なかでも、正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すアルカリ金属含有遷移金属複合酸化物が好ましい。上記アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。好ましい態様において、アルカリ金属イオンは、リチウムイオンであり得る。即ち、この態様において、アルカリ金属イオン二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
【0184】
上記アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式:MMn2-b
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0.9≦a;0≦b≦1.5;MはFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・マンガンスピネル複合酸化物(リチウム・マンガンスピネル複合酸化物等)、
式:MNi1-c
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦c≦0.5;MはFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・ニッケル複合酸化物(リチウム・ニッケル複合酸化物等)、又は、
式:MCo1-d
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦d≦0.5;MはFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・コバルト複合酸化物(リチウム・コバルト複合酸化物等)が挙げられる。
上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLi又はNaであり、更に好ましくはLiである。
【0185】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力な二次電池を提供できる点から、MCoO、MMnO、MNiO、MMn、MNi0.8Co0.15Al0.05、又はMNi1/3Co1/3Mn1/3等が好ましく、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
MNiCoMn (3)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはFe、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種を示し、(h+i+j+k)=1.0、0≦h≦1.0、0≦i≦1.0、0≦j≦1.5、0≦k≦0.2である。)
【0186】
上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、下記一般式(4):
(PO (4)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を示し、0.5≦e≦3、1≦f≦2、1≦g≦3である。)で表される化合物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLi又はNaであり、更に好ましくはLiである。すなわち、上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましい。
【0187】
上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、オリビン型構造を有するものが好ましい。
【0188】
その他の正極活物質としては、リチウム・ニッケル系複合酸化物が挙げられる。上記リチウム・ニッケル系複合酸化物としては、下記一般式(5):
LiNi1-x (5)
(式中、xは、0.01≦x≦0.7、yは、0.9≦y≦2.0であり、Mは金属原子(但しLi及びNiを除く)を表す)で表される正極活物質が好ましい。
【0189】
その他の正極活物質としては、MFePO、MNi0.8Co0.2、M1.2Fe0.4Mn0.4、MNi0.5Mn1.5、MV、MMnO等も挙げられる。特に、MMnO、MNi0.5Mn1.5等の正極活物質は、4.4Vを超える電圧や、4.6V以上の電圧で二次電池を作動させた場合であっても、結晶構造が崩壊しない点で好ましい。従って、上記に例示した正極活物質を含む正極材を用いた二次電池等の電気化学デバイスは、高温で保管した場合でも、残存容量が低下しにくく、抵抗増加率も変化しにくい上、高電圧で作動させても電池性能が劣化しないことから、好ましい。
【0190】
その他の正極活物質として、MMnOとMM(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体材料等も挙げられる。
【0191】
上記固溶体材料としては、例えば、一般式Mx[Mn(1-y) ]Oで表わされるアルカリ金属マンガン酸化物が挙げられる。ここで式中のMは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、M及びMn以外の少なくとも一種の金属元素からなり、例えば、Co,Ni,Fe,Ti,Mo,W,Cr,Zr及びSnからなる群より選択される一種又は二種以上の元素を含んでいる。また、式中のx、y、zの値は、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3の範囲である。中でも、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14のようなLiMnOをベースにLiNiOやLiCoOを固溶したマンガン含有固溶体材料は、高エネルギー密度を有するアルカリ金属イオン二次電池を提供できる点から好ましい。
【0192】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、前記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0193】
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0194】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法を用いることもできる。
【0195】
表面付着物質の量としては、上記正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での電解質の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0196】
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成していてもよい。
【0197】
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは1.0g/cm以上である。該正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材やバインダーの必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における電解質を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、上限は、好ましくは4.0g/cm以下、より好ましくは3.7g/cm以下、更に好ましくは3.5g/cm以下である。
上記タップ密度は、正極活物質粉体5~10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/cmとして求める。
【0198】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは0.8μm以上、最も好ましくは1.0μm以上であり、また、好ましくは30μm以下、より好ましくは27μm以下、更に好ましくは25μm以下、最も好ましくは22μm以下である。上記下限を下回ると、高タップ密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたす等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ上記正極活物質を2種類以上混合することで、正極作製時の充填性を更に向上させることができる。
【0199】
上記メジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0200】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、上記正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上であり、上限は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下したりするために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。
上記平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0201】
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m/g以上、より好ましくは0.2m/g以上、更に好ましくは0.3m/g以上であり、上限は好ましくは50m/g以下、より好ましくは40m/g以下、更に好ましくは30m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質層形成時の加工性に問題が発生しやすい場合がある。
上記BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研社製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0202】
本開示の二次電池が、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池として使用される場合、高出力が要求されるため、上記正極活物質の粒子は二次粒子が主体となることが好ましい。上記正極活物質の粒子は、二次粒子の平均粒子径が40μm以下で、かつ、平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を、0.5~7.0体積%含むものであることが好ましい。平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を含有させることにより、電解質との接触面積が大きくなり、電極合剤と電解質との間でのリチウムイオンの拡散をより速くすることができ、その結果、電池の出力性能を向上させることができる。
【0203】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作製するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作製回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0204】
正極の製造のために、前記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の2種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33等の三元系との組み合わせ、LiCoOとLiMn若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiFePOとLiCoO若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0205】
上記正極活物質の含有量は、電池容量が高い点で、正極合剤の50~99.5質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましい。また、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。正極活物質層中の正極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると正極の強度が不足する場合がある。
【0206】
負極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウム金属、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び、難黒鉛化性炭素等の炭素質材料を含むもの、ケイ素及びケイ素合金等のシリコン含有化合物、LiTi12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物等を挙げることができる。なかでも、炭素質材料を少なくとも一部に含むものや、シリコン含有化合物を特に好適に使用することができる。
【0207】
本開示において用いる負極活物質は、ケイ素を構成元素に含むことが好適である。ケイ素を構成元素に含むものとすることで、高容量な電池を作製することができる。
【0208】
ケイ素を含む材料としては、ケイ素粒子、ケイ素の微粒子がケイ素系化合物に分散した構造を有する粒子、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される酸化ケイ素粒子、又はこれらの混合物が好ましい。これらを使用することで、より初回充放電効率が高く、高容量でかつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極合剤が得られる。
【0209】
本開示における酸化ケイ素とは、非晶質のケイ素酸化物の総称であり、不均化前の酸化ケイ素は、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される。xは0.8≦x<1.6が好ましく、0.8≦x<1.3がより好ましい。この酸化ケイ素は、例えば、二酸化ケイ素と金属ケイ素との混合物を加熱して生成した一酸化ケイ素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0210】
ケイ素の微粒子がケイ素系化合物に分散した構造を有する粒子は、例えば、ケイ素の微粒子をケイ素系化合物と混合したものを焼成する方法や、一般式SiOxで表される不均化前の酸化ケイ素粒子を、アルゴン等不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上、好適には800~1,100℃の温度で熱処理し、不均化反応を行うことで得ることができる。特に後者の方法で得た材料は、ケイ素の微結晶が均一に分散されるため好適である。上記のような不均化反応により、ケイ素ナノ粒子のサイズを1~100nmとすることができる。なお、ケイ素ナノ粒子が酸化ケイ素中に分散した構造を有する粒子中の酸化ケイ素については、二酸化ケイ素であることが望ましい。なお、透過電子顕微鏡によってシリコンのナノ粒子(結晶)が無定形の酸化ケイ素に分散していることを確認することができる。
【0211】
ケイ素を含む粒子の物性は、目的とする複合粒子により適宜選定することができる。例えば、平均粒径は0.1~50μmが好ましく、下限は0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。上限は30μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。上記平均粒径は、レーザー回折法による粒度分布測定における重量平均粒径で表すものである。
【0212】
BET比表面積は、0.5~100m/gが好ましく、1~20m/gがより好ましい。BET比表面積が0.5m/g以上であれば、電極に加工した際の接着性が低下して電気化学デバイス特性が低下するおそれがない。また100m/g以下であれば、粒子表面の二酸化ケイ素の割合が大きくなり、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた際に電池容量が低下するおそれがない。
【0213】
上記ケイ素を含む粒子を炭素被覆することで導電性を付与し、電気化学デバイス特性の向上が見られる。導電性を付与するための方法として、上記ケイ素を含む粒子と黒鉛等の導電性のある粒子とを混合する方法、上記ケイ素を含む粒子の表面を炭素被膜で被覆する方法、及びその両方を組み合わせる方法が挙げられるが、炭素被膜で被覆する方法が好ましく、化学蒸着(CVD)する方法がより好ましい。
【0214】
上記負極活物質の含有量は、得られる電極合剤の容量を増やすために、電極合剤中40質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0215】
本開示の電極合剤は、更に、導電助剤を含むことが好ましい。導電助剤は、本開示のTFE系ポリマー組成物が含有するものであってもよいし、本開示のTFE系ポリマー組成物とは別途添加されたものであってもよい。
【0216】
導電助剤は、電極合剤中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量がこの範囲よりも低いと導電性が不十分となる場合がある。逆に、含有量がこの範囲よりも高いと電池容量が低下する場合がある。
【0217】
本開示の電極合剤は、更に、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンや、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0218】
電極活物質に対する熱可塑性樹脂の割合は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、また、通常3.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下の範囲である。熱可塑性樹脂を添加することで、電極の機械的強度を向上させることができる。また、この範囲を上回ると、電極合剤に占める電極活物質の割合が低下し、電気化学デバイスの容量が低下する問題や活物質間の抵抗が増大する問題が生じる場合がある。
【0219】
本開示の電極合剤において、バインダーの含有量は、上記電極合剤に対し、0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、50質量%以下であってよく、好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更により好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。バインダーの割合が低すぎると、電極合剤活物質を十分保持できずに電極合剤シートの機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。本開示のバインダーは結着力に優れるので、含有量が少なくても、電極活物質を充分に保持することができる。
【0220】
本開示の電極合剤において、バインダー成分は、実質的に上記TFE系ポリマー組成物のみからなることが好ましく、上記TFE系ポリマー組成物のみからなることがより好ましい。バインダー成分が実質的に上記TFE系ポリマー組成物のみからなるとは、電極合剤を構成するバインダー成分中の上記TFE系ポリマー組成物の含有量が、上記バインダー成分に対し、95.0質量%以上であることを意味する。上記TFE系ポリマー組成物の含有量は、上記バインダー成分に対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
【0221】
本開示の電極合剤は、シート状であることが好ましい。
【0222】
本開示の電極合剤は、二次電池用の電極合剤として好適に使用することができる。特に、本開示の電極合剤は、リチウムイオン二次電池に好適である。本開示の電極合剤は、二次電池に使用するにあたっては、通常、シート状の形態で使用される。
【0223】
上記電極合剤シートは、厚みが300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、180μm以下であることが更により好ましく、150μm以下であることが特に好ましく、また、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。
【0224】
以下に、電極合剤を含む電極合剤シートの具体的な製造方法の一例を示す。上記電極合剤シートは、電極活物質及びバインダー、必要に応じて導電助剤を含む原料組成物を混合する工程(1)、上記工程(1)によって得られた原料組成物をバルク状に成形する工程(2)、及び、上記工程(2)によって得られたバルク状の原料組成物をシート状に圧延する工程(3)を有する製造方法によって得ることができる。
【0225】
上記工程(1)において原料組成物を混合した段階では、原料組成物は、電極活物質、バインダー等が単に混ざっているだけで定まった形のない状態で存在している。具体的な混合方法としては、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機、1軸混練機、2軸混練機、ミックスマラー、撹拌ミキサー、プラネタリーミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0226】
上記工程(1)において、バインダー混合条件は、3000rpm以下とすることが好適である。好ましくは10rpm以上、より好ましくは15rpm以上、更に好ましくは20rpm以上であり、また、好ましくは2000rpm以下、より好ましくは1500rpm以下、更に好ましくは1000rpm以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、混合に時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度及び柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
【0227】
上記工程(2)において、バルク状に成形するとは、原料組成物を1つの塊とするものである。バルク状に成形する具体的な方法として、押出成形、プレス成形等が挙げられる。また、「バルク状」とは、特に形状が特定されるものではなく、1つの塊状になっている状態であればよく、ロッド状、シート状、球状、キューブ状等の形態が含まれる。
【0228】
上記工程(3)における具体的な圧延方法としては、ロールプレス機、平板プレス機、カレンダーロール機等を用いて圧延する方法が挙げられる。
【0229】
また、工程(3)の後に、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、更に薄いシート状に圧延する工程(4)を有することも好ましい。工程(4)を繰り返すことも好ましい。このように、圧延シートを一度に薄くするのではなく、段階に分けて少しずつ圧延することで柔軟性がより良好となる。工程(4)の回数としては、2回以上10回以下が好ましく、3回以上9回以下がより好ましい。具体的な圧延方法としては、例えば、2つあるいは複数のロールを回転させ、その間に圧延シートを通すことによって、より薄いシート状に加工する方法等が挙げられる。
【0230】
また、フィブリル径を調整する観点で、工程(3)又は工程(4)の後に、圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(5)を有することも好ましい。工程(5)を繰り返すことも好ましい。工程(5)の回数としては、1回以上12回以下が好ましく、2回以上11回以下がより好ましい。
【0231】
工程(5)において、圧延シートを粗砕してバルク状に成形する具体的な方法として、シートを折りたたむ方法、あるいはロッド若しくは薄膜シート状に成形する方法、チップ化する方法等が挙げられる。本開示において、「粗砕する」とは、次工程でシート状に圧延するために、工程(3)又は工程(4)で得られた圧延シートの形態を別の形態に変化させることを意味するものであり、単に圧延シートを折りたたむような場合も含まれる。
【0232】
また、工程(5)の後に、工程(4)を行うようにしてもよく、繰り返し行ってもよい。また、工程(2)ないし、(3)、(4)、(5)において1軸延伸若しくは2軸延伸を行っても良い。また、工程(5)での粗砕程度によってもフィブリル径を調整することができる。
【0233】
上記工程(3)、(4)又は(5)において、圧延率は、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、また、好ましくは80%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは50%以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、圧延回数の増大とともに時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度及び柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。なお、ここでいう圧延率とは、試料の圧延加工前の厚みに対する加工後の厚みの減少率を指す。圧延前の試料は、バルク状の原料組成物であっても、シート状の原料組成物であってもよい。試料の厚みとは、圧延時に荷重をかける方向の厚みを指す。
【0234】
上記電極合剤シートは、
工程(a):粉体成分とバインダーとを混合して電極合剤を形成するステップと、
工程(b):電極合剤をカレンダリング又は押出成形してシートを製造するステップと
を含み、
工程(a)の混合は、
(a1)粉体成分とバインダーとを均質化して粉末にする工程と、
(a2)工程(a1)によって得られた粉末状の原料混合物を混合して電極合剤を調製する工程と
を含むことを特徴とする製造方法によっても、好適に製造することができる。
【0235】
例えば、PTFEは、約19℃及び約30℃で2つの転移温度を有する。19℃未満では、PTFEは形状を維持した状態で容易に混合することができる。しかし、19℃を超えると、PTFE粒子の構造が緩くなり、機械的せん断に対してより敏感になる。30℃を超える温度では、より高度なフィブリル化が生じるようになる。
【0236】
このため、(a1)の均質化は、19℃以下、好ましくは0℃~19℃の温度で実施することが好ましい。
すなわち、このような(a1)においては、フィブリル化を抑制しながら、混合して均質化することが好ましい。
次いで行う工程である(a2)における混合は、30℃以上の温度で行うことで、フィブリル化を促進させることが好ましい。
【0237】
上記工程(a2)は、好ましくは30℃~150℃、より好ましくは35℃~120℃、更により好ましくは40℃~80℃の温度で行われる。
一実施形態では、上記工程(b)のカレンダリング又は押し出しは、30℃から150℃の間、好ましくは35℃から120℃の間、より好ましくは40℃から100℃の間の温度で実行される。
【0238】
上記工程(a)の混合は剪断力を付与しながら行うことが好ましい。
具体的な混合方法としては、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機、1軸混練機、2軸混練機、ミックスマラー、撹拌ミキサー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、高速ミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0239】
混合条件は、回転数と混合時間を適宜設定すればよい。例えば、回転数は、15000rpm以下とすることが好適である。好ましくは10rpm以上、より好ましくは50rpm以上、更に好ましくは100rpm以上であり、また、好ましくは12000rpm以下、より好ましくは10000rpm以下、更に好ましくは8000rpm以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、混合に時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
工程(a1)では工程(a2)よりも弱い剪断力で行うことが好ましい。
また工程(a1)では工程(a2)よりも短い時間で行うことが望ましい。
【0240】
上記工程(a2)において、原料組成物は液体溶媒を含まないことが好ましいが、少量の潤滑剤を使用してもよい。すなわち、上記工程(a1)によって得られた粉末状の原料混合物に対して、潤滑剤を添加して、ペーストを調製してもよい。
【0241】
上記潤滑剤としては特に限定されず、水、エーテル化合物、アルコール、イオン液体、カーボネート、脂肪族炭化水素(ヘプタン、キシレン等の低極性溶剤)、イソパラフィン系炭化水素化合物及び石油留分(ガソリン(C4-C10)、ナフサ(C4-C11)、灯油/パラフィン(C10-C16)、及びそれらの混合物)等を挙げることができる。
【0242】
上記潤滑剤は、水分含有量が1000ppm以下であることが好ましい。
水分含有量が1000ppm以下であることによって、電気化学デバイスの劣化を低減させるという点で好ましい。上記水分含有量は、500ppm以下であることが更に好ましい。
【0243】
上記潤滑剤を用いる場合は、酪酸ブチル等の極性の低い溶剤、又はエーテル化合物であることが特に好ましい。
【0244】
上記潤滑剤を用いる場合は、その量は、工程(a1)に供する組成物の総重量に対して、5.0~35.0重量部、好ましくは10.0~30.0重量部、より好ましくは15.0~25.0重量部であってよい。
【0245】
上記原料組成物は、実質的に液体媒体を含有しないことが好ましい。従来の電極合剤形成方法は、バインダーが溶解した溶媒を使用して、電極合剤成分である粉体を分散させたスラリーを調製し、当該スラリーの塗布・乾燥によって電極合剤シートを調製することが一般的であった。この場合、バインダーを分散又は溶解する溶媒を使用する。しかし、従来一般に使用されてきたバインダー樹脂を溶解することができる溶媒はN-メチルピロリドン等の特定の溶媒に限定される。極性が高く、乾燥工程を経るため溶媒の使用による工程及びコストが生じる。また、これらは電解液及び固体電解質といった電解質と反応して、電解質を劣化させるため、スラリー調製時や乾燥後の残留成分が電池性能の低下原因となることがある。また、ヘプタン等の低極性溶媒では溶解するバインダー樹脂が非常に限定されるうえ、引火点が低く、取り扱いが煩雑になることがある。
【0246】
電極合剤シート形成時に溶媒を使用せず、水分の少ない粉体状のバインダーを用いることで、電解質の劣化が少ない電池を製造することができる。更に、上記のような製造方法においては、微細な繊維構造を有するバインダーを含有する電極合剤シートを製造することができると共に、また、スラリーを作製しないことで、製造プロセスの負担を軽減することができる。
【0247】
工程(b)は、カレンダリング又は押出しである。カレンダリング、押出しは、周知の方法によって行うことができる。これによって、電極合剤シートの形状に成形することができる。
工程(b)は、(b1)前記工程(a)によって得られた電極合剤をバルク状に成形する工程と、(b2)バルク状の電極合剤をカレンダリング又は押出成形する工程を含むことが好ましい。
【0248】
バルク状に成形するとは、電極合剤を1つの塊とするものである。
バルク状に成形する具体的な方法として、押出成形、プレス成形等が挙げられる。
また、「バルク状」とは、特に形状が特定されるものではなく、1つの塊状になっている状態であればよく、ロッド状、シート状、球状、キューブ状等の形態が含まれる。上記塊の大きさは、その断面の直径又は最小の一辺が10000μm以上であることが好ましい。より好ましくは20000μm以上である。
【0249】
上記工程(b2)におけるカレンダリング又は押出成形の具体的な方法としては、ロールプレス機、カレンダーロール機等を用いて、電極合剤を圧延する方法が挙げられる。
【0250】
上記工程(b)は、30~150℃で行うことが好ましい。上述したように、PTFEは、30℃付近にガラス転移温度を有することから、30℃以上において容易にフィブリル化するものである。よって、工程(b)は、このような温度で行うことが好ましい。
【0251】
そして、カレンダリング又は押出は、剪断力がかかるため、これによってPTFEがフィブリル化して、成形がなされる。
【0252】
工程(b)のあとに、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、更に薄いシート状に圧延する工程(c)を有することも好ましい。工程(c)を繰り返すことも好ましい。このように、圧延シートを一度に薄くするのではなく、段階に分けて少しずつ圧延することで柔軟性がより良好となる。
工程(c)の回数としては、2回以上10回以下が好ましく、3回以上9回以下がより好ましい。
具体的な圧延方法としては、例えば、2つあるいは複数のロールを回転させ、その間に圧延シートを通すことによって、より薄いシート状に加工する方法等が挙げられる。
【0253】
また、シート強度を調整する観点で、工程(b)又は工程(c)の後に、圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(d)を有することも好ましい。工程(d)を繰り返すことも好ましい。工程(d)の回数としては、1回以上12回以下が好ましく、2回以上11回以下がより好ましい。
【0254】
工程(d)において、圧延シートを粗砕してバルク状に成形する具体的な方法として、圧延シートを折りたたむ方法、あるいはロッドもしくは薄膜シート状に成形する方法、チップ化する方法等が挙げられる。本開示において、「粗砕する」とは、次工程でシート状に圧延するために、工程(b)又は工程(c)で得られた圧延シートの形態を別の形態に変化させることを意味するものであり、単に圧延シートを折りたたむような場合も含まれる。
【0255】
また、工程(d)の後に、工程(c)を行うようにしてもよく、繰り返し行ってもよい。
また、工程(a)ないし、(b)、(c)、(d)において1軸延伸もしくは2軸延伸を行っても良い。
また、工程(d)での粗砕程度によってもシート強度を調整することができる。
【0256】
上記工程(b)、(c)又は(d)において、圧延率は、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、また、好ましくは80%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは50%以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、圧延回数の増大とともに時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度及び柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
なお、ここでいう圧延率とは、試料の圧延加工前の厚みに対する加工後の厚みの減少率を指す。圧延前の試料は、バルク状の原料組成物であっても、シート状の原料組成物であってもよい。試料の厚みとは、圧延時に荷重をかける方向の厚みを指す。
上記工程(c)~(d)は30℃以上で行うのが好ましく、60℃以上がより好ましい。また、150℃以下で行うのが好ましい。
【0257】
上記電極合剤シートは、二次電池用の電極合剤シートとして使用することができる。負極、正極のいずれとすることもできる。特に、上記電極合剤シートは、リチウムイオン二次電池に好適である。
【0258】
本開示は、上述した本開示のTFE系ポリマー組成物又は本開示のバインダーと、電極活物質と、集電体とを含む電極も提供する。本開示の電極は、電気化学デバイスの粉体成分が均一に分散しており、強度及び柔軟性に優れる。また、バインダーの量が少なくても、電極活物質を保持することができるため、活物質や導電助剤等の電気化学デバイス特性を向上させる材料をより多く加えることができる。
【0259】
本開示の電極は、上述した本開示の電極合剤(好ましくは電極合剤シート)、及び、集電体を含むものであってもよい。
【0260】
本開示の電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。
【0261】
上記正極は、集電体と、上記正極活物質を含む電極合剤シートとから構成されることが好適である。正極用集電体の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、ニッケル等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特にアルミニウム又はその合金が好ましい。
【0262】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0263】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極活物質層の電気接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0264】
正極の製造は、常法によればよい。例えば、上記電極合剤シートと集電体とを接着剤を介して積層し、真空乾燥する方法等が挙げられる。
【0265】
正極合剤シートの密度は、好ましくは2.80g/cm以上、より好ましくは3.00g/cm以上、更に好ましくは3.20g/cm以上であり、また、好ましくは3.80g/cm以下、より好ましくは3.75g/cm以下、更に好ましくは3.70g/cm以下の範囲である。この範囲を上回るとシート内に割れが生じやすくなる場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下することで電池抵抗が増大し、高出力が得られない場合がある。
【0266】
正極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の金属箔厚さを差し引いた合剤層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0267】
上記負極は、集電体と、上記負極活物質を含む電極合剤シートとから構成されることが好適である。負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特に銅、ニッケル、又はその合金が好ましい。
【0268】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0269】
負極の製造は、常法によればよい。例えば、上記電極合剤シートと集電体とを接着剤を介して積層し、真空乾燥する方法等が挙げられる。
【0270】
負極合剤の密度は、好ましくは1.3g/cm以上、より好ましくは1.4g/cm以上、更に好ましくは1.5g/cm以上であり、また、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.9g/cm以下、更に好ましくは1.8g/cm以下の範囲である。この範囲を上回るとシート内に割れが生じやすくなる場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下することで電池抵抗が増大し、高出力が得られない場合がある。
【0271】
負極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の金属箔厚さを差し引いた合剤層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0272】
本開示は、上述した本開示の電極を備える二次電池も提供する。
【0273】
本開示の二次電池は、電解液を使用する二次電池であってもよく、固体二次電池であってもよい。
なお、本明細書において、固体二次電池は、固体電解質を含む二次電池であればよく、電解質として固体電解質及び液体成分を含む半固体二次電池であってもよいし、電解質として固体電解質のみを含む全固体二次電池であってもよい。
【0274】
上記電解液を使用する二次電池は、公知の二次電池において使用される電解液、セパレータ等を使用することができる。以下、これらについて詳述する。
【0275】
上記電解液としては、非水電解液が好ましく用いられる。非水電解液としては、公知の電解質塩を公知の電解質塩溶解用有機溶媒に溶解したものが使用できる。
【0276】
電解質塩溶解用有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒の1種若しくは2種以上が使用できる。
【0277】
電解質塩としては、例えばLiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO等が挙げられ、サイクル特性が良好な点から特にLiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SO又はこれらの組合せが好ましい。
【0278】
電解質塩の濃度は、0.8モル/リットル以上、更には1.0モル/リットル以上であることが好ましい。上限は電解質塩溶解用有機溶媒にもよるが、通常1.5モル/リットルである。
【0279】
上記電解液を使用する二次電池は、更に、セパレータを備えることが好ましい。上記セパレータの材質や形状は、電解液に安定であり、かつ、保液性に優れていれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。なかでも、上記電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0280】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。ポリプロピレン/ポリエチレン2層フィルム、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層フィルム等、これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なかでも、上記セパレータは、電解液の浸透性やシャットダウン効果が良好である点で、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布等であることが好ましい。
【0281】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上が更に好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下が更に好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、電解液電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0282】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状若しくは繊維形状のものが用いられる。
【0283】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製のバインダーを用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂をバインダーとして多孔層を形成させることが挙げられる。
【0284】
外装ケースの材質は用いられる電解質に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0285】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0286】
上記電解液を使用する二次電池の形状は任意であり、例えば、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等の形状が挙げられる。なお、正極、負極、セパレータの形状及び構成は、それぞれの電池の形状に応じて変更して使用することができる。
【0287】
上記固体二次電池は、全固体二次電池であることが好ましい。上記固体二次電池は、リチウムイオン電池であることが好ましく、硫化物系固体二次電池であることも好ましい。
上記固体二次電池は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する固体電解質層を備えることが好ましい。
上記固体二次電池において、本開示のバインダーを電極層に用いてもよく、固体電解質層に用いてもよい。
本開示のバインダー及び固体電解質を含む固体二次電池用合剤(好ましくは合剤シート)、並びに、本開示のバインダー及び固体電解質を含む固体電解質層(好ましくは固体電解質層シート)も、本開示の好適な態様である。
【0288】
固体二次電池用合剤に使用される固体電解質は、硫化物系固体電解質であっても、酸化物系固体電解質であってもよい。特に、硫化物系固体電解質を使用する場合、柔軟性があるという利点がある。
【0289】
上記硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、LiS-P、LiS-P、LiS-P-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiI-LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、LiPS-LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4-xGe1-x(X=0.6~0.8)、Li4+yGe1-yGa(y=0.2~0.3)、LiPSCl、LiCl、Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)、Li10SnP12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物を使用することができる。
【0290】
上記硫化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する硫化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0291】
上記酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0292】
具体的な化合物例としては、例えば、LixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccc zcnc(MccはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦2、0≦zd≦2、0≦ad≦2、1≦md≦7、3≦nd≦15)、Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.51Li0.34TiO2.94、La0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。また、LLZに対して元素置換を行ったセラミックス材料も知られている。例えば、LLZに対して、一部をAlで置換したLi6.24LaZrAl0.2411.98、Li6.25Al0.25LaZr12や、Taで置換したLi6.6LaZr1.6Ta0.412、Nbで置換したLi6.75LaZr1.75Nb0.2512等が挙げられる。他にはLLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも1つの元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったLLZ系セラミックス材料も挙げられる。また、Li、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。具体例として、例えば、LiO-Al-SiO-P-TiO-GeO、LiO-Al-SiO-P-TiO等が挙げられる。
【0293】
上記酸化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する酸化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0294】
上記酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。結晶構造を有する酸化物は、良好なLiイオン伝導性という点で特に好ましいものである。結晶構造を有する酸化物としては、ペロブスカイト型(La0.51Li0.34TiO2.94等)、NASICON型(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO等)、ガーネット型(LiLaZr12(LLZ)等)等が挙げられる。なかでも、NASICON型が好ましい。
【0295】
酸化物系固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、酸化物系固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。酸化物系固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0296】
上記固体二次電池は、正極及び負極の間にセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0297】
上記固体二次電池は、更に電池ケースを備えていてもよい。上記電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、固体電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0298】
上記固体二次電池は、例えば、正極、固体電解質層シート、負極を順に積層し、プレスすることにより製造することができる。
【0299】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例
【0300】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0301】
各種物性は下記方法にて測定した。
【0302】
<平均一次粒子径>
TFE系ポリマー水性分散液を水で固形分濃度が0.15質量%になるまで希釈し、得られた希釈ラテックスの単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向径を測定して決定した数基準長さ平均一次粒子径とを測定して、検量線を作成した。この検量線を用いて、各試料の550nmの投射光の実測透過率から平均一次粒子径を決定した。
【0303】
<ポリマー固形分濃度>
TFE系ポリマー水性分散液1gを、送風乾燥機中で150℃、60分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表した値を採用した。
【0304】
<変性モノマーの含有量>
CTFE含有量は、TFE系ポリマー粉末又は組成物をプレス成形することで薄膜ディスクを作製し、薄膜ディスクをFT-IR測定した赤外線吸光度から、957cm-1における吸光度/2360cm-1における吸光度の比に0.58を乗じて求めた。
HFP含有量は、TFE系ポリマー粉末又は組成物をプレス成形することで薄膜ディスクを作製し、薄膜ディスクをFT-IR測定した赤外線吸光度から、982cm-1における吸光度/935cm-1における吸光度の比に0.3を乗じて求めた。
【0305】
<標準比重(SSG)>
ASTM D4895 89に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定した。
【0306】
<押出圧力>
TFE系ポリマー粉末60gと押出助剤としての炭化水素油(商品名:アイソパーG(登録商標)、エクソンモービル社製)12.3gとをポリエチレン容器中で3分間混合した。室温(25±2℃)で押出機のシリンダーに上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに0.47MPaの負荷をかけて1分間保持した。次にラム速度20mm/minでオリフィスから押出した。オリフィスの断面積に対するシリンダーの断面積の比は1000であった。押出操作の後半において、圧力が平衡状態になったときの荷重(N)をシリンダー断面積で除した値を押出圧力(MPa)とした。
【0307】
<吸熱ピーク温度>
吸熱ピーク温度は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないTFE系ポリマー粉末又は組成物について示差走査熱量計〔DSC〕を用いて2℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線の領域(A)と領域(B)におけるそれぞれの極小点に対応する温度とした。
【0308】
<吸熱ピーク強度>
上記吸熱ピーク温度の測定における上記融解熱曲線の極小点を(a)とし、極小点(a)を通り横軸(温度)に対して垂直な直線と、上記融解熱曲線の305℃と355℃の点を結ぶ直線との交点を(b)とした場合の、極小点(a)と交点(b)との間の距離を吸熱ピーク強度とした。
【0309】
<吸熱ピーク強度比>
上記領域(A)の吸熱ピークの強度を領域(B)の吸熱ピークの強度で除した値を採用した。
【0310】
<延伸可否>
特開2002-201217号公報の記載に従い、TFE系ポリマー粉末100gに潤滑剤(商品名:アイソパーH(登録商標)、エクソンモービル社製)21.7gを添加し、3分間混合した。上記混合物を、25℃の恒温槽に2時間放置した後に、リダクションレシオ(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)100、押出速度51cm/分の条件で、25℃にて、オリフィス(直径2.5mm、ランド長1.1cm、導入角30°)を通してペースト押出しを行い、ビードを得た。得られたビードを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去した。乾燥後のビードを適当な長さに切断し、クランプ間が3.8cmとなるよう、各末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱した。次いで、クランプを総ストレッチが2400%に相当する分離距離となるまで、延伸速度1000%/秒で離した。『総ストレッチ』とは、延伸試験前のビード長さ(100%)に対する延伸による長さの増加である。延伸中に破断しなかったもの延伸可能、破断したものを延伸不可と判断した。
【0311】
<水分含有量>
約20gのTFE系ポリマー粉末又は組成物を150℃、2時間加熱した前後の質量を測定し、以下の式に従って算出した。試料を3回取り、それぞれ算出した後、平均を求め、当該平均値を採用した。
水分含有量(質量%)=[(加熱前のTFE系ポリマー粉末又は組成物の質量(g))-(加熱後のTFE系ポリマー粉末又は組成物の質量(g))]/(加熱前のTFE系ポリマー粉末又は組成物の質量(g))×100
【0312】
<パーフルオロエーテルカルボン酸A、Bの含有量>
TFE系ポリマー組成物を1g秤量し、メタノールを10g(12.6ml)加え、60分間の超音波処理を行ない、抽出液を得た。得られた抽出液をLC/MS/MS測定した。抽出液中の含フッ素化合物について、液体クロマトグラフ質量分析計(Waters,LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用いて測定を行った。測定機器構成とLC-MS測定条件を表1に示す。濃度既知の含フッ素化合物の水溶液を用いて、5水準以上の含有量の水溶液を作製し、それぞれの含有量の水溶液のLC/MS分析を行ない、含有量とその含有量に対するエリア面積と関係をプロットし、検量線を描いた。上記検量線を用いて、抽出液中の含フッ素化合物のLC/MSクロマトグラムのエリア面積を、含フッ素化合物の含有量に換算した。
なお、この測定方法における検出下限は10質量ppbである。
【表1】
【0313】
<粉末の平均アスペクト比>
TFE系ポリマー粉末又は組成物を、粉末に剪断を掛けないようにエアーにて黒色紙面上に薄く広げ、顕微鏡を用いて観察し、無作為に選択した100個以上の粒子の長径と短径の比の平均より求めた。
【0314】
国際公開第2021/045228号の合成例1に記載された方法により白色固体A(パーフルオロエーテルカルボン酸Aアンモニウム塩)を得た。
【0315】
以下の分子量1000以下の含フッ素界面活性剤を準備した。
パーフルオロエーテルカルボン酸Bアンモニウム塩:富士フィルム和光純薬(株)製、Ammonium perfluoro(2-methyl-3-oxahexanoate)、構造式:CFCFCFOCF(CF)COONH
以下の親水性モノマーを準備した。
親水性モノマー:Ammonium 2,3,3,3-tetrafluoro-2-[(1,1,2-trifluoro-2-propenyl)oxy]- Propanoate、構造式:CH=CFCFOCF(CF)COONH
【0316】
合成例1
ステンレススチール製攪拌翼と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水3580g、パラフィンワックス100g及び白色固体A5.4gを仕込み、70℃に加温しながらオートクレーブ内を窒素ガスで置換して酸素を除いた。HFP0.06gをTFEで圧入した後、TFEを圧入して系内圧力を0.78MPaGとし、攪拌しながら系内温度を70℃に保った。次いで、水20gに過硫酸アンモニウム15.4mgを溶解した水溶液をTFEで圧入し、重合反応を開始した。重合反応の進行に伴い系内圧力が低下するがTFEを追加して系内温度を70℃、系内圧力を0.78MPaGに維持した。
重合開始からTFEが430g消費された時点で、ラジカル捕捉剤としてヒドロキノン18.0mgを水20gに溶解した水溶液をTFEで圧入した。重合はその後も継続し、TFEの重合量が重合開始から約1540gになった時点で攪拌及びTFEの供給を止め、直ちに系内のガスを放出して常圧とし、重合反応を終了した。水性分散液を取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離し、TFE系ポリマー水性分散液を得た。得られたTFE系ポリマー水性分散液の平均一次粒子径は246nm、固形分濃度は29.8質量%であった。
【0317】
製造例1
合成例1で得られたTFE系ポリマー水性分散液を固形分濃度13質量%まで希釈し、容器内で攪拌しながらTFE系ポリマーを凝固させた後、水と濾別し、TFE系ポリマー湿潤粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し、180℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。18時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー粉末のHFP含有量は0.027質量%、SSGは2.150であった。
【0318】
合成例2
ステンレススチール製攪拌翼と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水3480g、パラフィンワックス100g、及び白色固体A5.3gを仕込み、70℃に加温しながらオートクレーブ内を窒素ガスで置換して酸素を除いた。TFEを圧入して系内圧力を0.78MPaGとし、攪拌しながら系内温度を70℃に保った。次いで、水20gに過硫酸アンモニウム15.0mgを溶解した水溶液をTFEで圧入し、重合反応を開始した。重合反応の進行に伴い系内圧力が低下するがTFEを追加して系内温度を70℃、系内圧力を0.78MPaGに維持した。
重合開始からTFEが400g消費された時点で、ラジカル捕捉剤としてヒドロキノン18.0mgを水20gに溶解した水溶液をTFEで圧入した。重合はその後も継続し、TFEの重合量が重合開始から約1200gになった時点で撹拌及びTFEの供給を止め、直ちに系内のガスを放出して常圧とし、重合反応を終了した。水性分散液を取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離し、TFE系ポリマー水性分散液を得た。得られたTFE系ポリマー水性分散液の平均一次粒子径は310nm、固形分濃度は25.3質量%であった。
【0319】
製造例2
合成例2で得られたTFE系ポリマー水性分散液を固形分濃度13質量%まで希釈し、容器内で撹拌しながらTFE系ポリマーを凝固させた後、水と濾別し、TFE系ポリマー湿潤粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し、180℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。20時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー粉末のSSGは2.156であった。
【0320】
合成例3
ステンレススチール製攪拌翼と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水3580g、パラフィンワックス100g、及び白色固体A5.4gを仕込み、80℃に加温しながらオートクレーブ内を窒素ガスで置換して酸素を除いた。CTFE1.20gを加えた後、更にTFEを圧入して系内圧力を0.78MPaGとし、攪拌しながら系内温度を80℃に保った。次いで、水20gにジコハク酸パーオキサイド360mgを溶解した水溶液と、水20gに過硫酸アンモニウム10mgを溶解した水溶液をTFEで圧入し、重合反応を開始した。重合反応の進行に伴い系内圧力が低下するがTFEを追加して系内温度を80℃、系内圧力を0.78MPaGに維持した。重合開始からTFEが1530g消費された(転化率90%)時点で、CTFE4.2gをTFEで圧入した。重合はその後も継続し、TFEの重合量が重合開始から約1700gになった時点で撹拌及びTFEの供給を止め、直ちに系内のガスを放出して常圧とし、重合反応を終了した。水性分散液を取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離し、TFE系ポリマー水性分散液を得た。得られたTFE系ポリマー水性分散液の平均一次粒子径は241nm、固形分濃度は32.0質量%であった。上記で得られたTFE系ポリマーの粒子は、コアシェル構造を有する。
【0321】
製造例3
合成例3で得られたTFE系ポリマー水性分散液を固形分濃度13質量%にまで希釈し、容器内で激しく攪拌しながらTFE系ポリマーを凝固させた後、水と濾別し、TFE系ポリマー湿潤粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し、145℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。18時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー粉末のCTFE含有量は0.23質量%、SSGは2.170、押出圧力は36MPaであった。
【0322】
合成例4
白色固体A5.3gをパーフルオロエーテルカルボン酸Bアンモニウム塩15.75g、親水性モノマー35mgに変更する以外は、合成例2と同様にしてTFE系ポリマー水性分散液を得た。得られたTFE系ポリマー水性分散液の平均一次粒子径は295nm、固形分濃度は26.5質量%であった。
【0323】
製造例4
合成例4で得られたTFE系ポリマー水性分散液を製造例2と同様にしてTFE系ポリマー粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー粉末のSSGは2.159であった。
【0324】
合成例5
白色固体A5.4gをパーフルオロエーテルカルボン酸Bアンモニウム塩16g、親水性モノマー30mgに変更する以外は、製造例1と同様にしてTFE系ポリマー水性分散液を得た。得られたTFE系ポリマー水性分散液の平均一次粒子径は245nm、固形分濃度は31.8質量%であった。
【0325】
製造例5
合成例5で得られたTFE系ポリマー水性分散液を製造例3と同様にしてTFE系ポリマー粉末を得た。
得られたTFE系ポリマー粉末のCTFE含有量は0.23質量%、SSGは2.172、押出圧力は37MPaであった。
【0326】
作製例1
合成例1及び合成例3で得られたTFE系ポリマー水性分散液を固形分質量比(合成例1:合成例3)75:25で混合した後、固形分濃度13質量%にまで希釈し、容器内で激しく攪拌しながらTFE系ポリマー凝固させた後、水と濾別し、TFE系ポリマー湿潤粉末を得た。得られたTFE系ポリマー湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し(配置量:2.0g/cm)、180℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。18時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー組成物1を得た。
得られたTFE系ポリマー組成物1のCTFE含有量は0.06質量%、HFP含有量は0.020質量%であった。また吸熱ピーク温度は338℃、343℃、吸熱ピーク強度比は0.98、延伸可能、水分含有量は0.000質量%、パーフルオロエーテルカルボン酸Aの含有量は10質量ppb未満、粉末の平均アスペクト比は1.1であった。
【0327】
作製例2
TFE系ポリマー水性分散液の固形分質量比を50:50に変更する以外は作製例1と同様にしてTFE系ポリマー組成物2を得た。
得られたTFE系ポリマー組成物2のCTFE含有量は0.10質量%、HFP含有量は0.014質量%であった。また吸熱ピーク温度は337℃、343℃、吸熱ピーク強度比は1.44、延伸可能、水分含有量は0.000質量%、パーフルオロエーテルカルボン酸Aの含有量は10質量ppb未満、粉末の平均アスペクト比は1.3であった。
【0328】
作製例3
使用するTFE系ポリマー水性分散液を合成例1から合成例2に変更する以外は作製例2と同様にしてTFE系ポリマー組成物3を得た。
得られたTFE系ポリマー組成物3のCTFE含有量は0.10質量%であった。また吸熱ピーク温度は337℃、343℃、吸熱ピーク強度比は1.36、延伸可能、水分含有量は0.000質量%、パーフルオロエーテルカルボン酸Aの含有量は10質量ppb未満、粉末の平均アスペクト比は1.2であった。
【0329】
作製例4
メッシュトレーを平板トレー(底面及び側面に通気性のないトレー)に、乾燥温度を180℃から145℃に、乾燥時間を18時間から5時間に変更する以外は、作製例3と同様にしてTFE系ポリマー組成物4を得た。
得られたTFE系ポリマー組成物4のCTFE含有量は0.10質量%であった。また吸熱ピーク温度は337℃、343℃、吸熱ピークの強度比は1.36、水分含有量は0.121質量%、粉末の平均アスペクト比は1.3であった。
【0330】
作製例5
合成例4及び合成例5で得られたTFE系ポリマー水性分散液を固形分質量比(合成例4:合成例5)50:50で混合した後、固形分濃度13質量%にまで希釈し、容器内で激しく攪拌してTFE系ポリマーを凝固させた後、水と濾別し、TFE系ポリマー湿潤粉末を得た。得られたTFE系ポリマー湿潤粉末をステンレス製の平板トレーに配置し、145℃の熱風循環式電気炉内で平板トレーを熱処理した。18時間後、平板トレーを取り出し、平板トレーを空冷させた後、TFE系ポリマー組成物5を得た。
得られたTFE系ポリマー組成物5のCTFE含有量は0.10質量%であった。また、吸熱ピーク温度は337℃、343℃、吸熱ピーク強度比は1.36、延伸可能、水分含有量は0.016質量%、パーフルオロエーテルカルボン酸Bの含有量は160質量ppb、粉末の平均アスペクト比は1.1であった。
【0331】
作製例6
製造例2および製造例3で得られたTFE系ポリマー粉末を質量比(製造例2:製造例3)50:50となるように、ブレンダー(ワーリングブレンダー7012S、Warnig社製)を用いて、撹拌回転数3100rpmで1分間混合し、TFE系ポリマー組成物6を得た。
得られたTFE系ポリマー組成物6のCTFE含有量は0.10質量%であった。また吸熱ピーク温度は337℃、343℃、吸熱ピーク強度比は1.35、水分含有量は0.001質量%、パーフルオロエーテルカルボン酸Aの含有量は10質量ppb未満、粉末の平均アスペクト比は2.6であった。
【0332】
作製例7
製造例2で得られた湿潤粉末を平板トレーに配置し、180℃の熱風循環式電気炉内で平板トレーを熱処理した。5時間後、平板トレーを取り出し、平板トレーを空冷させた後、TFE系ポリマー粉末7を得た。
得られたTFE系ポリマー粉末7の吸熱ピーク温度は344℃、水分含有量は0.126質量%、粉末の平均アスペクト比は1.2であった。
【0333】
上記で得られた各TFE系ポリマー粉末又は組成物を用いて以下の方法で評価した。
【0334】
電解液含有電池評価
下記の手順で実施例1~4、A1、A2及び比較例1の合剤シート作製とシート評価、電池評価を行った。
<正極合剤シートの作製>
活物質と導電助剤を秤量し、V型混合機に材料を投入し、37rpmで10分間混合し活物質と導電助剤からなる混合物を得た。その後、混合物に秤量したバインダー(TFE系ポリマー粉末又は組成物)を投入し、5℃の恒温槽にて十分に冷却させた。活物質、導電助剤とバインダーからなる混合物をヘンシェルミキサーに投入し、1000rpmで3分間処理することで混合物の均質化を行った。
その後、混合物を50℃の恒温槽にて十分に昇温させた後に、加圧型ニーダー(D1-5:日本スピンドル社製)にて5分間処理(32rpm、ヒーター50℃,圧力0.5MPa)することでフィブリル化を促進し、凝集性のあるバルク状の電極合剤を得た。その後、再粉砕するためにバルク状の電極合剤をヘンシェルミキサーに投入し、300rpmで1分間処理することで電極合剤を得た。
平行に配置された金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することで電極合剤シートを得た。再度、得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することでより強度のある電極合剤シートを得た。
その後、ロールプレス機に電極合剤シートを投入し、ギャップを調整した。最終的な正極合剤層の厚みは90μmになるように調整した。
表2に材料種と組成を示す。
【0335】
【表2】
denka Li-400:デンカ社製カーボンブラック
【0336】
<粉体凝集性の評価>
平行に配置された金属ロールに投入する前の電極合剤を用いて、目開き0.18mm(JIS-Z8801)のふるいにより30秒ふるいがけを行い、メッシュの上に凝集物が残った場合を×、全て通過した場合を○とした。結果を表3に示す。
【0337】
<正極合剤シートの強度測定>
上記正極合剤シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製した。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。N=8で試験を行い、平均値を求めた。比較例1を100%として比較した。またその際の変動係数を算出し、ばらつきを評価した。結果を表3に示す。
【0338】
<正極合剤シートの柔軟性評価(曲げ試験)>
作製した電極合剤シートを幅4cm、長さ10cmに切り取り試験片とした。次に、これらの試験片をΦ2mmの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、傷や割れといった破損の有無を確認した。実施例1~4、A1、A2に傷や割れといった破損はみられなかった。
【0339】
<正極の作製>
上記正極合剤シートを、以下のようにして20μmのアルミ箔と接着させた。
接着剤には、N-メチルピロリドン(NMP)にポリビニデンフルオライド(PVDF)を溶解させ、カーボンブラックを80:20で分散させたスラリーを用いた。アルミ箔に上述した接着剤を塗布し、ホットプレートにて120℃、15分間乾燥させ、接着層つき集電体を形成した。
その後、正極合剤シートを接着層つき集電体の上に置き、100℃に加熱したロールプレス機にて正極合剤シートと集電体の貼り合わせを行い、所望のサイズに切り出し、タブ付を行って正極とした。
【0340】
<負極の作製>
炭素質材料(グラファイト)98質量部に、増粘剤及びバインダーとして、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを所望のサイズに切り出し、タブ付を行って負極とした。
【0341】
<電解液の作製>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(EC:EMC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、ここにフルオロエチレンカーボネート(FEC)とビニレンカーボネート(VC)を1質量%ずつ溶解させて混合液を調製した。この混合液に、電解液中の濃度が1.1モル/Lとなるように、LiPF塩を23℃で混合することにより、非水電解液を得た。
【0342】
<アルミラミネートセルの作製>
上記の正極を厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して負極と対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、上記非水電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0343】
<保存特性(残存容量率、ガス発生量)の評価>
上記で製造したリチウムイオン二次電池を、25℃において、0.33Cに相当する電流で4.3Vまで定電流-定電圧充電(以下、CC/CV充電と表記する。)(0.1Cカット)した後、0.33Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとして、3サイクル目の放電容量から初期放電容量を求めた。
初期放電容量の評価が終了した電池を再度、25℃において4.3VまでCC/CV充電(0.1Cカット)し、アルキメデス法により電池の体積を求めた。電池の体積を求めた後、60℃、30日間の条件で高温保存を行った。高温保存終了後、十分に冷却した後25℃において電池の体積を求め、保存試験前後の電池の体積差からガス発生量を求めた。比較例1のガス発生量を100として、ガス発生量を比較した。
ガス発生量を求めた後、25℃において0.33Cで3Vまで放電を行い、残存容量を求めた。
初期放電容量に対する高温保存後の残存容量の割合を求め、これを残存容量率(%)とした。
(残存容量)/(初期放電容量)×100=残存容量率(%)
結果を表3に示す。
【0344】
【表3】
【0345】
固体電解質合剤シート評価
下記の手順で実施例5~8及び比較例2の合剤シート作製とシート評価を行った。作製及び評価はアルゴン雰囲気下にて行われた。
【0346】
<固体電解質合剤シートの作製>
秤量したバインダー(TFE系ポリマー粉末又は組成物)を5℃の恒温槽にて十分に冷却させた後、ヘンシェルミキサーに投入し、300rpmで2分間処理することで粉砕処理を行った。
粉砕したバインダーと固体電解質をそれぞれ秤量し、5℃の恒温槽にて十分に冷却させた。ヘンシェルミキサーに投入し、300rpmで1分間処理することで混合物の均質化を行った。
その後、混合物を40℃の恒温槽にて十分に昇温させた後に、ヘンシェルミキサーにて1000rpmで1分間処理することでフィブリル化を促進し、電解質合剤を得た。
平行に配置された金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することで電解質合剤シートを得た。再度、得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電解質合剤を投入し、圧延することでより強度のある電解質合剤シートを得た。
その後、ロールプレス機に電解質合剤シートを投入し、ギャップを調整した。最終的な電解質合剤シートの厚みは120μmになるように調整した。
表4に材料種と組成を示す。
【0347】
【表4】
【0348】
<固体電解質合剤シートの強度測定(引張試験)>
上記固体電解質合剤シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製した。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。N=8で試験を行い、平均値を求めた。比較例2を100%として比較した。結果を表5に示す。
【0349】
<固体電解質合剤シートの柔軟性評価(曲げ試験)>
作製した固体電解質合剤シートを幅4cm、長さ10cmに切り取り試験片とした。次に、これらの試験片をΦ10mmの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、傷や割れといった破損の有無を確認した。破損が見られない場合、更に細いΦ5mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。やはり、破損が見られない場合、更に細いΦ2mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。その結果をA~Dで分類した。
A:Φ2mm棒で破損なし
B:Φ2mm棒で破損あり
C:Φ5mm棒で破損あり
D:Φ10mm棒で破損あり
結果を表5に示す。
【0350】
<固体電解質合剤シートのイオン伝導度>
固体電解質合剤シートを適当な大きさに切り出し、両面に金を蒸着した。その後、パンチでΦ10mmの円形に打ち抜いた固体電解質合剤シートを圧力セルに納め、セルのネジを8Nで締め、セルの上下から電極をとった。用いた圧力セルの断面の概略図を図1に示す。
この試料について、東陽テクニカ製インピーダンス装置を用い、25℃、AC振幅変調10mV、周波数5×10~0.1Hzの条件でイオン伝導度を測定した。
結果を表5に示す。
【0351】
【表5】
【0352】
固体電解質正極合剤シート評価
下記の手順で実施例B1、B2および比較例3の合剤シート作製とシート評価を行った。作製及び評価はアルゴン雰囲気下にて行われた。
【0353】
<固体電解質電極合剤シートの作製>
活物質と導電助剤を秤量し、V型混合機に材料を投入し、37rpmで10分間混合し活物質と導電助剤からなる混合物を得た。その後、混合物に秤量したバインダー(TFE系ポリマー粉末又は組成物)を投入し、5℃の恒温槽にて十分に冷却させた後、ヘンシェルミキサーに投入し、2800rpmで10分間処理することで分散とTFE組成物のフィブリル化をおこない固体電解質電極合剤を得た。
平行に配置された金属ロール(温度:80℃、回転速度:0.5m/min)に電極合剤を投入し、圧延することで固体電解質電極合剤シートを得た。再度、得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、金属ロール(温度:80℃、回転速度:0.5m/min)に固体電解質電極合剤を投入し、圧延した。この工程によりフィブリル化をすすめ、強度のある固体電解質電極合剤シートを得た。その後、ロールプレス機に固体電解質電極合剤シートを投入し、固体電解質電極合剤シートの厚みを150μmになるように調整した。
表6に材料種と組成を示す。
【0354】
【表6】
denka Li-400:デンカ社製カーボンブラック
【0355】
<固体電解質電極合剤シートの強度測定(引張試験)>
上記固体電解質合剤電極シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製した。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。N=8で試験を行い、平均値を求めた。比較例3を100%として比較した。結果を表7に示す。
【0356】
<固体電解質合剤シートの柔軟性評価(曲げ試験)>
作製した固体電解質電極合剤シートを幅4cm、長さ10cmに切り取り試験片とした。次に、これらの試験片をΦ10mmの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、傷や割れといった破損の有無を確認した。破損が見られない場合、更に細いΦ5mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。やはり、破損が見られない場合、更に細いΦ2mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。その結果をA~Dで分類した。
A:Φ2mm棒で破損なし
B:Φ2mm棒で破損あり
C:Φ5mm棒で破損あり
D:Φ10mm棒で破損あり
結果を表7に示す。
【0357】
【表7】

【符号の説明】
【0358】
1:ネジ
2:ナット
3:絶縁シート
4:固体電解質合剤シート
5:金蒸着
6:上部電極
7:下部電極
図1