(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】誘電体、銅張積層体及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20241107BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241107BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241107BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20241107BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20241107BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241107BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20241107BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20241107BHJP
H01B 3/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H05K1/03 610H
C08K3/013
C08K3/36
C08L27/18
C08K9/06
C08L101/00
C08L27/12
B32B15/082 B
H05K1/03 630H
H01B3/00 A
H05K1/03 610R
(21)【出願番号】P 2024011452
(22)【出願日】2024-01-30
【審査請求日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2023014571
(32)【優先日】2023-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023172981
(32)【優先日】2023-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】上田 有希
(72)【発明者】
【氏名】細川 萌
(72)【発明者】
【氏名】澤木 恭平
(72)【発明者】
【氏名】田中 義人
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012787(JP,A)
【文献】特開2023-002495(JP,A)
【文献】特開2018-204006(JP,A)
【文献】特開2019-155853(JP,A)
【文献】特開2015-122448(JP,A)
【文献】特開2021-004322(JP,A)
【文献】特開2016-147986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
H01B 3/00
C08K 3/013
C08K 3/36
C08L 27/18
C08K 9/06
C08L 101/00
C08L 27/12
B32B 15/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分量が
500μg/g以下であることを特徴とする
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項2】
樹脂と無機フィラーとを含む請求項1に記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項3】
前記樹脂は、フッ素樹脂である請求項2に記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項4】
前記フッ素樹脂は、非溶融加工性である請求項3に記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項5】
前記フッ素樹脂は、その一部又は全部がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である請求項3又は4記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項6】
前記ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、標準比重(SSG)が2.0~2.3である請求項5記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項7】
前記無機フィラーは、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、アルミナ及びフォルステライトからなる群より選択される少なくとも1である請求項2に記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項8】
前記無機フィラーは、一部又は全部がシリカである請求項2記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項9】
誘電体全量に対する前記シリカの含有量が30質量%以上である請求項8記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項10】
前記シリカの平均粒子径が0.2~10μmである請求項8又は9記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項11】
前記シリカは、表面をシランカップリング剤でコーティングしたものである請求項8又は9記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項12】
前記フッ素樹脂が粒子であり、平均粒子径が0.05~1000μmである請求項3又は4記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項13】
前記樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、前記
無機フィラーがシリカであり、誘電体全量に対する前記シリカの含有量が50質量%以上、70質量%以下である請求項2記載の
金属張積層体用誘電体
シート。
【請求項14】
請求項1に記載の
金属張積層体用誘電体
シートと金属箔とを有する金属張積層体。
【請求項15】
請求項1に記載の
金属張積層体用誘電体
シートと銅箔とを有する銅張積層体。
【請求項16】
前記銅箔の少なくとも
金属張積層体誘電体
シートと接着する面の表面粗度Rzが2.0μm以下である請求項15記載の銅張積層体。
【請求項17】
前記銅箔は、圧延銅又は電解銅である請求項15記載の銅張積層体。
【請求項18】
前記
金属張積層体用誘電体
シートの10GHzでの誘電正接の値が0.0015以下である請求項15に記載の銅張積層体。
【請求項19】
前記
金属張積層体用誘電体
シートの厚みが5~250μmである請求項15記載の銅張積層体。
【請求項20】
請求項1又は2に記載の
金属張積層体用誘電体
シートの製造方法であって、フッ素樹脂粒子と無機フィラーとを混合して成膜することを特徴とする
金属張積層体用誘電体
シートの製造方法。
【請求項21】
実質的にフッ素樹脂粒子と無機フィラーとからなる組成物を用いて成膜することを特徴とする請求項20に記載の
金属張積層体用誘電体
シートの製造方法。
【請求項22】
請求項15に記載の銅張積層体の製造方法であって、
金属張積層体用誘電体
シートと銅箔とを積層し、180~390℃の範囲で加熱し、圧力1~100kNの範囲で、真空下または不活性ガス雰囲気下でプレス成形することを特徴とする銅張積層体の製造方法。
【請求項23】
請求項1に記載の
金属張積層体用誘電体
シート又は請求項15に記載の銅張積層体を有することを特徴とする回路用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電体、銅張積層体及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波用プリント配線板において、伝送損失が小さい高周波用プリント配線板が求められている。このような高周波用プリント配線板において、配線基板材料として、フィラーを配合したフッ素樹脂を使用することについて、特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-259907号公報
【文献】国際公開第2021/024883号
【文献】国際公開第2021/235460号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電気特性に優れた、また、誘電体を用いての銅張積層体の製造時に銅箔の膨れが発生しない誘電体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本開示は、この誘電体を用いた銅張積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、水分量が500μg/g以下であることを特徴とする金属張積層体用誘電体シートである。
前記金属張積層体用誘電体シートは、樹脂と無機フィラーとを含むものであることが好ましい。
【0006】
前記樹脂は、フッ素樹脂であることが好ましい。
前記フッ素樹脂は、非溶融加工性であることが好ましい。
前記フッ素樹脂は、その一部又は全部がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることが好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレンは、標準比重(SSG)が2.0~2.3であることが好ましい。
【0007】
前記無機フィラーは、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、アルミナ及びフォルステライトからなる群より選択される少なくとも1であることが好ましい。
前記無機フィラーは、一部又は全部がシリカであることが好ましい。
金属張積層体用誘電体シート全量に対する前記シリカの含有量が30質量%以上であることが好ましい。
前記樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、前記無機フィラーがシリカであり、金属張積層体用誘電体シート全量に対する前記シリカの含有量が50質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0008】
前記シリカの平均粒子径が0.2~10μmであることが好ましい。
前記シリカは、表面をシランカップリング剤でコーティングしたものであることが好ましい。
【0009】
前記フッ素樹脂が粒子であり、平均粒子径が0.05~1000μmであることが好ましい。
【0010】
本開示は、前記金属張積層体用誘電体シートと金属箔とを有する金属張積層体でもある。
本開示は、前記金属張積層体用誘電体シートと銅箔とを有する銅張積層体でもある。
前記銅箔の少なくとも誘電体と接着する面の表面粗度Rzが2.0μm以下であることが好ましい。
前記銅箔は、圧延銅又は電解銅であることが好ましい。
【0011】
前記金属張積層体用誘電体シートの10GHzでの誘電正接の値が0.0015以下であることが好ましい。
前記金属張積層体用誘電体シートの厚みが5~250μmであることが好ましい。
【0012】
本開示は、フッ素樹脂粒子と無機フィラーとを混合して成膜することを特徴とする、前記金属張積層体用誘電体シートの製造方法でもある。
前記製造方法は、実質的にフッ素樹脂粒子と無機フィラーとからなる組成物を用いて成膜することが好ましい。
【0013】
本開示は、金属張積層体用誘電体シートと銅箔とを積層し、180~390℃の範囲で加熱し、圧力1~100kNの範囲で、真空下または不活性ガス雰囲気下でプレス成形することを特徴とする、前記銅張積層体の製造方法でもある。
本開示は、前記金属張積層体用誘電体シート又は前記銅張積層体を有することを特徴とする回路用基板でもある。
【発明の効果】
【0014】
本開示の誘電体は、低誘電率及び低損失であり、電気特性に優れ、また、本開示の誘電体を用いて銅張積層体を製造した際に、銅箔の膨れが発生しない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を詳細に説明する。
高周波用プリント配線板という分野においては、近年、ますます高水準の、低誘電率、低損失という性能が要求されている。一方、フッ素樹脂等の樹脂にフィラーを配合した誘電体について、多くの検討が行われている。
【0016】
本開示は、誘電体の水分含有量を特定の範囲とすることで、低誘電率、低損失という性能を満たす、電気特性に優れた誘電体であると共に、誘電体を用いて銅張積層体を製造する際に、銅箔に膨れが発生することのない誘電体を提供するものである。
【0017】
誘電体中の水分量が多すぎる場合、誘電体の電気特性が高くなる。このような誘電体を含む銅張積層体は、伝送損失の大きな銅張積層体となるため、銅張積層体としては不適となる。また、例えば、フィラーとして、比較的粒径の小さいシリカを用いて、粉体圧延成形で誘電体を作製した場合、吸水量が多くなってしまうことが見受けられる。このような水分量が多い誘電体を用いて銅張積層体の製造した際には、銅箔に膨れが発生してしまう。
特許文献1~3において、水分量低減のために、疎水化したフィラーを用いることや誘電体中の空隙を低減すること等が検討されている。しかしながら、特許文献1~3には、銅張積層体の誘電体層の具体的な水分量については記載されておらず、これまで、誘電体中の適切な水分量については、十分に検討されていなかった。
【0018】
本開示は、誘電体に含まれる水分の最適量を見出したものである。本開示の誘電体は、水分量が1000μg/g以下であることを特徴とするものである。
誘電体の水分量は、500μg/g以下であることが好ましく、400μg/g以下であることがより好ましい。
【0019】
本開示において、上記水分量は、以下の方法により測定した値である。
誘電体を、それぞれ装置のボートに入る大きさ(40mm×50mm)に切断し、水分測定装置(CA-200、VA-200、三菱化学株式会社製)の気化室に投入して、下記条件にて、250℃で発生する水分を測定する。
電解液:ハイドラナール クーロマット AG-OVEN
ハイドラナール CG
気化室温度条件:250℃
気化室窒素流量:250mL/min
【0020】
本開示において、誘電体の水分量の下限は、50μg/gであることが好ましく、100μg/gであることがより好ましく、150μg/gであることが更に好ましい。
誘電体中の水分量が少なすぎる場合には、成膜条件の制御が難しく、誘電体のシート形状を保つことが難しい場合がある。
【0021】
本開示において、水分量を測定する誘電体は、誘電体と銅箔とを積層した銅張積層体の銅箔をエッチングすることによって取り出した誘電体であってもよい。
【0022】
本開示の誘電体は、樹脂から構成されるものである。本開示の誘電体は、フッ素樹脂の場合には、無機フィラーを含むものであることが好ましい。
【0023】
(樹脂)
樹脂は、フッ素樹脂、ポリイミド、モディファイドポリイミド、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテル、及びポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本開示の誘電体は、フッ素樹脂を含有することが好ましい。フッ素樹脂は、低誘電性を有するものであることから、本開示の目的において好適に使用することができる。
【0024】
(フッ素樹脂)
本開示において使用するフッ素樹脂は、粒子状であることが好ましい。
フッ素樹脂粒子の平均粒子径は0.05~1000μmであることが好ましい。上記フッ素樹脂粒子の平均粒子径の下限は、0.07μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましい。上記フッ素樹脂粒子の平均粒子径の上限は、700μm以下であることが好ましく、500μm以下であることが更に好ましい。
このようなものを使用することで、成形性、分散性に優れるという利点がある。なお、ここでの平均粒子径は、ASTM D 4895に準拠し測定した値である。
【0025】
フッ素樹脂粒子の体積基準累積50%径は0.05~40μmであることが好ましい。上記フッ素樹脂粒子の体積基準累積50%径の下限は、0.7μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることが更に好ましい。上記フッ素樹脂粒子の体積基準累積50%径の上限は、35μm以下であることが好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。
このようなものを使用することで、成形性、分散性に優れるという利点がある。なお、ここでの体積基準累積50%径は、レーザ回折式粒度分布計によって測定した値である。
【0026】
本開示において使用するフッ素樹脂粒子は特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/アルキルビニルエーテル共重合体〔PFA〕、TFE/HFP/アルキルビニルエーテル共重合体〔EPA〕、TFE/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕、分子量30万以下のテトラフルオロエチレン〔LMW-PTFE〕等が挙げられる。一種類で使用してもよいし、二種類以上を混合しても良い。
【0027】
本開示において使用するフッ素樹脂粒子は、非溶融加工性であることが好ましい。
非溶融加工性であるとは、融点以上に加熱しても、樹脂が十分な流動性を有さず、樹脂において一般的に使用される溶融成形の手法によって成型することができないことを意味する。PTFEがこれに該当する。
また、低誘電性という観点からも、PTFEであることが特に好ましい。PTFEはフィブリル性を有するものが好ましい。フィブリル性を有するPTFEとは未焼成のポリマー粒子をペースト押出や粉体圧延成形できるPTFEを意味する。
【0028】
フッ素樹脂は、その一部又は全部がPTFEであることが好ましい。
【0029】
PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、変性PTFEという)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、ホモPTFEという)であってもよいし、変性PTFEとホモPTFEの混合物であってもよい。なお、高分子PTFEにおける変性PTFEの含有割合は、ポリテトラフルオロエチレンの成形性を良好に維持させる観点から、10重量%以上98重量%以下であることが好ましく、50重量%以上95重量%以下であることがより好ましい。ホモPTFEは、特に限定されず、特開昭53-60979号公報、特開昭57-135号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2009/001894号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているホモPTFEを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭57-135号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット等で開示されているホモPTFEが好ましい。
【0030】
変性PTFEは、TFEと、TFE以外のモノマー(以下、変性モノマーという)とからなる。変性PTFEには、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期に変性されたもの、重合反応の終期に変性されたものなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。変性PTFEは、TFE単独重合体の性質を大きく損なわない範囲内で、TFEとともに微量のTFE以外の単量体をも重合に供することにより得られるTFE共重合体であることが好ましい。変性PTFEは、例えば、特開昭60-42446号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭64-1711号公報、特開平2-261810号公報、特開平11-240917、特開平11-240918、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているものを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭64-1711号公報、特開平11-240917、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット等で開示されている変性PTFEが好ましい。
【0031】
変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分である。変性PTFEは、変性モノマー単位が全単量体単位の0.001~0.500質量%含まれることが好ましく、より好ましくは、0.01~0.30質量%含まれる。全単量体単位は、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分である。
【0032】
変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)、エチレン等が挙げられる。用いられる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0033】
パーフルオロビニルエーテルは、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。
CF2=CF-ORf・・・(1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)
【0034】
本明細書において、パーフルオロ有機基は、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基である。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0035】
パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0036】
上記パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)は、特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン(PFHE)等が挙げられる。
【0037】
変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
本開示に使用するPTFEは、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するPTFEとしては、例えば、粒子中に高分子量のポリテトラフルオロエチレンのコアと、より低分子量のポリテトラフルオロエチレンまたは変性のポリテトラフルオロエチレンのシェルとを含む変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。このような変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、特表2005-527652号公報に記載されるポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0039】
本開示においては、このような非溶融加工性であるようなフッ素樹脂を使用し、これをフィブリル化するような成形方法によってフッ素樹脂シートとするものであることが好ましい。当該成形方法については、後述する。
【0040】
上記PTFEは、標準比重(SSG)が2.0~2.3であることが好ましい。このようなPTFEを使用すると、高い強度(凝集力及び単位厚さあたりの突き刺し強度)を有するPTFE膜を得やすい。大きい分子量を有するPTFEは長い分子鎖を有するため、分子鎖が規則的に配列した構造を形成しにくい。この場合、非晶質部の長さが増加し、分子同士の絡み合いの度合いが増加する。分子同士の絡み合いの度合いが高い場合、PTFE膜は、加えられた負荷に対して変形しにくく、優れた機械的強度を示すと考えられる。また、大きい分子量を有するPTFEを使用すると、小さい平均孔径を有するPTFE膜を得やすい。
【0041】
上記SSGの下限は、2.05であることがより好ましく、2.1であることが更に好ましい。上記SSGの上限は、2.25であることがより好ましく、2.2であることが更に好ましい。
【0042】
標準比重〔SSG〕はASTM D-4895-89に準拠して試料を作製し、得られた試料の比重を水置換法によって測定したものである。
【0043】
上記PTFEは、屈折率が1.2~1.6の範囲内のものであることが好ましい。このような屈折率を有するものとすることで、低誘電であるという点で好ましい。屈折率を上記範囲内のものとすることは、分極率や主鎖の柔軟性を調整する方法等によって行うことができる。上記屈折率の下限は、1.25であることがより好ましく、1.30であることがより好ましく、1.32であることが最も好ましい。上記屈折率の上限は、1.55であることがより好ましく、1.50であることがより好ましく、1.45であることが最も好ましい。
上記屈折率は、屈折計(Abbemat 300)を用いて測定した値である。
【0044】
本実施形態において、PTFE粒子を構成するPTFEの分子量(数平均分子量)は、例えば、200~1200万の範囲にある。PTFEの分子量の下限値は、300万であってもよく、400万であってもよい。PTFEの分子量の上限値は、1000万であってもよい。
【0045】
PTFEの数平均分子量の測定方法としては、標準比重(Standard Specific Gravity)から求める方法、及び、溶融時の動的粘弾性による測定法がある。標準比重から求める方法は、ASTM D-4895 98に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D-792に準拠した水置換法によって実施することができる。動的粘弾性による測定法は、例えば、S.Wuによって、Polymer Engineering & Science, 1988, Vol.28, 538、及び、同文献1989, Vol.29, 273に説明されている。
【0046】
上記粒子状のPTFEは、二次粒子径が500μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。二次粒子径が500μm以上のPTFEが当該範囲内のものであることによって、強度の高い合剤シートを作製できるという点で利点を有する。
二次粒子径が500μm以上のPTFEを用いることで、より抵抗が低く、靭性に富んだ合剤シートを得ることができる。
【0047】
上記二次粒子径の下限は、300μmであることがより好ましく、350μmであることが更に好ましい。上記二次粒子径の上限は、700μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることが更に好ましい。二次粒子径は例えばふるい分け法などで求めることができる。
【0048】
上記粒子状のPTFEは、より高強度でかつ均質性に優れる誘電体シートが得られることから、平均一次粒子径が50nm以上であることが好ましい。より好ましくは、100nm以上であり、更に好ましくは150nm以上であり、特に好ましくは200nm以上である。
PTFEの平均一次粒子径が大きいほど、その粉末を用いてペースト押出成形をする際に、ペースト押出圧力の上昇を抑えられ、成形性にも優れる。上限は特に限定されないが500nmであってよい。重合工程における生産性の観点からは、350nmであることが好ましい。
【0049】
上記平均一次粒子径は、重合により得られたPTFEの水性分散液を用い、ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成し、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線をもとに決定できる。
【0050】
また、上記PTFEは、最大吸熱ピーク温度(結晶融点)は340±7℃であることが好ましい。
【0051】
PTFEは示差走査熱量計で測定した結晶融解曲線上の吸熱カーブの最大ピーク温度が338℃以下の低融点PTFEと、示差走査熱量計で測定した結晶融解曲線上の吸熱カーブの最大ピーク温度が342℃以上の高融点PTFEであっても良い。
【0052】
低融点PTFE粒子は、乳化重合法で重合し製造された粒子であり、前記の最大吸熱ピーク温度(結晶融点)を有し、誘電率(ε)は2.08~2.2、誘電正接(tan δ)は1.9×10-4~4.0×10-4である。市販品としては、たとえばダイキン工業(株)製のポリフロンファインパウダーF201、同F203、同F205、同F301、同F302;旭硝子工業(株)製のCD090、CD076;デュポン社製のTF6C、TF62、TF40などがあげられる。
【0053】
高融点PTFE粒子も、乳化重合法で重合し製造された粒子であり、前記の最大吸熱ピーク温度(結晶融点)を有し、誘電率(ε)は2.0~2.1、誘電正接(tanδ)は1.6×10-4~2.2×10-4と全体的に低い。市販品としては、たとえばダイキン工業(株)製のポリフロンファインパウダーF104;旭硝子工業(株)製のCD1、CD141、CD123;デュポン社製のTF6、TF65などがあげられる。
【0054】
なお、両PTFE粒子が2次凝集した粒子の平均粒子径は通常、250~2000μmであることが好ましい。特に、溶媒を用いて造粒して得られる造粒粒子は予備成形の際の金型充填時の流動性が向上する点から好ましい。
【0055】
上述したような各パラメータを満たす粒子形状のPTFEは、従来の製造方法により得ることができる。例えば、国際公開第2015-080291号や国際公開第2012-086710号等に記載された製造方法に倣って製造すればよい。
【0056】
(無機フィラー)
本開示において使用することができる無機フィラーとしては特に限定されず、セラミックス、タルク、マイカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、フォルステライト、ガラス繊維、ガラス片、ガラスビード、シリカ、弗化カルシウム、窒化ホウ素、硫酸バリウム、二硫化モリブデン及び炭酸カリウムウイスカから選ばれる一種以上である無機充填材を挙げることができる。これらの2種以上を併用するものであってもよい。
これらのなかでも、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、アルミナ及びフォルステライトからなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。又は、これらの組み合わせを含むものであることが好ましい。特に、無機フィラーは、一部又は全部がシリカであることが好ましい。
【0057】
上記無機フィラーは、その形状を特に限定されるものではなく、球状、破砕状等が挙げられる。中でも、球状であることが好ましい。球状であると、穴あけ加工時に均一に加工しやすい、比表面積が少なく伝送損失が低いという点で好ましいものである。
【0058】
上記球状無機フィラーは、その粒子形状が真球に近いものを意味しており、具体的には、球形度が0.80以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上がさらに好ましく、0.95以上が最も好ましい。球形度はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(球形度)={4π×(面積)÷(周囲長)2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理装置(スペクトリス株式会社:FPIA-3000)を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0059】
本開示において無機フィラーは、平均粒子径が0.1~10μmであることが好ましい。なお、ここでの平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布計によって測定したD50の値である。平均粒子径が0.1μ未満であると、無機フィラーの凝集が生じることで、充分な効果が得られない傾向にある。また、平均粒子径が10μmを超えると、シートが薄膜化しにくい傾向にある。
上記平均粒子径の下限は、0.2μmであることがより好ましい。上記平均粒子径の上限は、5μmであることがより好ましい。
【0060】
本開示で使用するシリカ粒子は、平均粒子径が0.2~10μmであることが好ましい。平均粒子径が0.2μ未満であると、シリカ粒子の吸水量が多くなってしまう傾向にある。また、平均粒子径が10μmを超えると、シートが薄膜化しにくい傾向にある。
上記平均粒子径の下限は、0.3μmであることがより好ましく、0.4μmであることが更に好ましい。上記平均粒子径の上限は、5μmであることがより好ましく、3μmであることが更に好ましい。
【0061】
また、本開示で使用する球状シリカ粒子は、粒子径が小さい方から体積を積算したときにD90/D10が2以上(望ましくは2.3以上、2.5以上)、D50が10μm以下であることが好ましい。更に、D90/D50が1.5以上であることが好ましい(更に望ましくは1.6以上)。D50/D10が1.5以上であることが好ましい(更に望ましくは1.6以上)。粒子径が大きな球状シリカ粒子の間隙に粒子径が小さな球状シリカ粒子が入ることが可能になるため、充填性に優れ、且つ、流動性を高くすることができる。特に粒度分布としてはガウス曲線と比較して粒子径が小さい側の頻度が大きいことが好ましい。粒径はレーザ回折散乱方式粒度分布測定装置により測定可能である。また、所定以上の粒子径をもつ粗粒をフィルタなどで除去したものであることが好ましい。
【0062】
上記球状シリカは、吸水性が1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。吸水性は乾燥時の球状シリカの質量を基準とする。吸水性の測定は乾燥状態にある試料を40℃、80%RHに1時間放置し、カールフィッシャー水分測定装置で200℃加熱により生成する水分を測定し、算出する。
【0063】
上記球状シリカは、誘電体シートを600℃で30分間、大気雰囲気下で加熱することでフッ素樹脂を焼き飛ばし、球状シリカ粒子を取り出したのち、上述の方法を用いて上記各パラメータを測定することもできる。
【0064】
上記球状シリカは、市販のシリカ粒子で上述した性質を満たすものを使用するものであってもよい。市販のシリカ粒子としては、例えば、デンカ溶融シリカ FBグレード(デンカ株式会社製)、デンカ溶融シリカ SFPグレード(デンカ株式会社製)、エクセリカ(株式会社トクヤマ製)、高純度合成球状シリカ粒子アドマファイン(株式会社アドマテックス製)、アドマナノ(株式会社アドマテックス製)、アドマフューズ(株式会社アドマテックス製)等を挙げることができる。
【0065】
上記酸化チタン、酸化マグネシウム、及びアルミナは、シリカと比較し、比誘電率(Dk)が高いため、比誘電率(Dk)を調整するために添加できる。市販の酸化チタンとしては、CR-EL(石原産業株式会社製)、HT0210(東邦チタニウム株式会社製)等を挙げることができる。市販の酸化マグネシウムとしては、RF-10CS、RF-10C-45μm(宇部マテリアルズ株式会社製)等を挙げることができる。市販のアルミナとしては、LS-110F、LS-210B(日本軽金属株式会社製)等を挙げることができる。
【0066】
上記無機フィラー、特にシリカ粒子は、表面処理が施されたものであることが好ましい。表面処理を予め施すことで、無機フィラー、特にシリカ粒子の凝集を抑制することができ、樹脂組成物中に無機フィラー、特にシリカ粒子を良好に分散させることができる。
【0067】
上記表面処理は、表面処理剤の種類や処理量を適宜選択して行うことができる。
上記表面処理としては特に限定されるものではなく、公知の任意のものを使用することができる。具体的には、例えば、反応性官能基を有するエポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、疎水性のアルキルシラン、フェニルシラン、フッ素化アルキルシランなどのシランカップリング剤による処理、プラズマ処理、フッ素化処理等を挙げることができる。
【0068】
上記シランカップリング剤として、具体的には、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、アクリロキシトリメトキシシラン等のアクリルシラン等が例示される。
【0069】
本開示においては、表面処理が施されたものの中でも、表面がシランカップリング剤でコーティングされたシリカ粒子を使用することが好ましい。適切な表面処理を行うことでシリカの吸水量を低減することができる。
【0070】
シランカップリング剤により処理する場合、シランカップリング剤の処理は、無機フィラー、特にシリカ粒子に対して、3質量%以下であることが好ましい。シランカップリング剤処理量が多い場合、無機フィラー、特にシリカ粒子の吸水量が多くなり、粉体圧延成形により誘電体を作製すると、誘電体のクラックが多く発生し、その結果、誘電体の水分量が多くなってしまい、銅張積層体製造時に銅箔に膨れが発生する傾向にある。
【0071】
(誘電体)
本開示の誘電体は、樹脂から構成されるものであり、上述した無機フィラー及びフッ素樹脂粒子を含有するものが好ましい。必要に応じて、無機フィラー及びフッ素樹脂粒子以外の成分を含有するものであってもよいし、無機フィラー及びフッ素樹脂粒子のみからなるものであってもよい。無機フィラー及びフッ素樹脂粒子以外の成分の含有量は、誘電体全量に対して10質量%以下であることが好ましい。
特に、実質的にフッ素樹脂粒子と無機フィラーとからなる誘電体とすることが好ましい。なお、「実質的にフッ素樹脂粒子と無機フィラーとからなる」とは、無機フィラー及びフッ素樹脂粒子以外の成分の含有量が、誘電体全量に対して3質量%以下であることを意味する。
【0072】
誘電体全量に対する無機フィラーの含有量は、30質量%以上であることが好ましい。このような範囲であれば、誘電体の線膨張率が低く制御できる。
また、誘電体全量に対するシリカの含有量は、30質量%以上であることが好ましい。
上記無機フィラーの含有量の下限は、35質量%であることがより好ましく、40質量%であることが更に好ましい。一方、上記無機フィラーの含有量の上限は、70質量%であることが好ましい。
【0073】
本開示の誘電体は、通常、シート状の形態で使用される。
上記誘電体は、厚みが5~250μmであることが好ましい。本開示の誘電体は、薄いものであっても、充分にその目的を達成することができる。このような観点から、200μm未満であることがより好ましく、150μm未満であることが更に好ましい。
【0074】
本開示の誘電体は、10GHz誘電正接(Df)が0.0015以下であることが好ましい。このような範囲内のものとすることで、誘電体損失が低いという点で好ましい。
上記誘電正接(Df)の上限は、0.0012であることがより好ましく、0.0011であることが更に好ましい。一方、上記誘電正接(Df)の下限は、0.00001であることが好ましい。
【0075】
本開示の誘電体は、10GHzでの比誘電率(Dk)が3.5以下であることが好ましい。このような範囲内のものとすることで、誘電体損失が低いという点で好ましい。
上記比誘電率(Dk)の上限は、3.2であることがより好ましく、3.1であることが更に好ましい。一方、上記比誘電率(Dk)の下限は、2.0であることが好ましく、2.5であることがより好ましい。
【0076】
本明細書における10GHzでの比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、スプリットシリンダ式誘電率・誘電正接測定装置(EM lab社製)を用いて、25℃、10GHzのDk及びDfを測定することにより求めた。
【0077】
また、線膨張率(CTE)が100ppm/K以下であることが好ましい。このような範囲内のものとすることで、低収縮で寸法安定性に優れた誘電体シートとなる点で好ましい。上記線膨張率(CTE)の上限は、70ppm/Kであることがより好ましく、50ppm/Kであることが更に好ましい。一方、上記線膨張率(CTE)の下限は、5ppm/Kであることがより好ましく、10ppm/Kであることが更に好ましい。
【0078】
本明細書における線膨張率は、TMA-7100(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いたTMA測定を引張モードで行い、サンプル片として、長さ20mm、幅5mmに切出したシートを用いて、チャック間を10mmに設定し、49mNの荷重をかけながら昇温速度2℃/分で0~150℃でのサンプルの変位量から線膨張率を求めた。
【0079】
(誘電体の製造方法)
本開示の誘電体は、上述したフッ素樹脂粒子と無機フィラーとを混合して成膜することによって得ることができる。本開示は、フッ素樹脂粒子と無機フィラーとを混合して成膜する誘導体の製造方法でもある。
その製造方法を限定するものではないが、ペースト押出成形、粉体圧延成形等によって行うことができる。中でも、ペースト押出成形によって行うことが好ましい。
【0080】
上述したように、本開示の誘電体に使用するフッ素樹脂としては、非溶融加工性であるフッ素樹脂を使用することが好ましい。このようなフッ素樹脂を使用した場合、これをシート状に成形する場合は、原料としての粒子状のPTFEをフィブリル化することで成形することが好ましい。
【0081】
ペースト押出成形、粉体圧延成形の具体的な方法は特に限定されるものではないが、以下に一般的な方法を記載する。
【0082】
(ペースト押出成形)
上記シートの製造方法は、フッ素樹脂粒子、例えば、炭化水素系界面活性剤を使用して得られたPTFE粉体と、無機フィラーと、押出助剤とを混合する工程(1a)、得られた混合物をペースト押出成形する工程(1b)、押出成形で得られた押出物を圧延する工程(1c)、圧延後のシートを乾燥する工程(1d)、乾燥後のシートを焼成して成形体を得る工程(1e)を含むものであってよい。
上記ペースト押出成形は、上記フッ素樹脂粒子に顔料や充填剤等の従来公知の添加剤を加えて行うこともできる。
【0083】
上記押出助剤としては特に限定されず、一般に公知のものを使用できる。例えば、炭化水素油等が挙げられる。
【0084】
上記乾燥後のシートを焼成して成形体を得る工程(1e)において、焼成温度は、350℃以上、380℃以下、焼成時間は、15分以上、1時間以下とすることが、誘電体中の水分量を低減させるためには好適である。
【0085】
(粉体圧延成形)
粉体圧延成形は、樹脂粉体に剪断力を付与することで、フィブリル化させ、これによってシート状に成形する方法である。その後、焼成して成形体を得る工程を含むものであってよい。
より具体的には、
フッ素樹脂粒子及びフィラーを含む原料組成物を混合しながら、剪断力を付与する工程(1)
前記工程(1)によって得られた混合物をバルク状に成形する工程(2)及び
前記工程(2)によって得られたバルク状の混合物をシート状に圧延する工程(3)
を有する製造方法等が挙げられる。
更に、上記で得られたシート状物を、200~400℃で、1~60分間焼成する工程(4)を有するようにしてもよい。
また、工程(2)は省略しても構わない。
【0086】
上記シート状物を、200~400℃で、1~60分間焼成する工程(4)において、焼成温度は、350℃以上、380℃以下、焼成時間は、15分以上、1時間以下とすることが、誘電体中の水分量を低減させるためには好適である。
【0087】
上記粉体圧延成形方法により、シートを製造する場合、実質的にフッ素樹脂粒子と無機フィラーとからなる組成物を用いて成膜することが好ましい。
または、フッ素樹脂粒子と無機フィラーのみを混合して成形することが好ましい。
【0088】
(その他の樹脂)
液晶ポリマー(LCP)は、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。また、液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。またナフトエ酸のような剛直な構造を有しているポリマーが好ましい。
【0089】
ポリイミドは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドであってもよい。
モディファイドポリイミドは、ポリイミドの吸水性を低減した繰り返し単位にイミド結合を含む高分子である。
ポリフェニレンスルファイドは、ベンゼン環(p-フェニレン基)と硫黄原子(スルフィド結合)が交互に結合した単純な直鎖状構造を持つ、結晶性の熱可塑性樹脂である。
シクロオレフィンポリマーはポリマー鎖中に環状構造を有する高分子であり、開環メタセシス重合や配位重合であることが可能である。
【0090】
ポリスチレンは、スチレンを重合した高分子であり、立体規則性を制御し、結晶性を付与したシンジオタクチックポリスチレン等も含まれる。
エポキシ樹脂は、末端に反応性のエポキシ基を持つ熱硬化型の合成樹脂であり、最も代表的なものはビスフェノールAとエピクロロヒドリンの共重合体である。また硬化剤としては種々のポリアミンや酸無水物が使用される。
ビスマレイミド樹脂は、高性能の熱硬化性付加型ポリイミドであり、一般的には無水フタル酸と芳香族ジアミンをモル比2:1で縮合させてビスマレイミドを生成し、続いてビスマレイミドの末端の二重結合にさらに多くのジアミンをマイケル付加することにより合成することが可能である。
ポリフェニレンオキサイドは、酸化カップリング重合によって、2,6-二置換フェノールから作られた熱可塑性樹脂である。
【0091】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、ポリフェニレンオキシド(PPO)とポリスチレンのブレンドからなり、強靭さと剛性を持ちながらも、低温での耐衝撃性を有する樹脂である。
ポリフェニレンエーテルは、耐熱性、難燃性、耐化学薬品性などの特徴を持つプラスチックである。
変性ポリフェニレンエーテルは、非晶性のエンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンエーテル(PPE)と他樹脂を混合したポリマーアロイの総称であり、主鎖はベンゼン環をエーテル結合させているため耐加水分解性に優れている樹脂である。
ポリブタジエンは、1,3-ブタジエンの重合により作られる、汎用合成ゴムの一種であり、弾性、耐摩耗性、低温特性に優れる材料である。
【0092】
上記フッ素樹脂以外の樹脂を用いたシートの成形方法としては、溶融押出成形や、キャスト成形、インフレーション成形、カレンダー成形、注型成形、真空・圧空成形、圧縮成形、プレス成形等が挙げられる。それぞれの成形方法において、成形温度と成形時間を制御することで水分量の低減が可能となる。
フッ素樹脂以外の樹脂を用いたシートの成形方法の場合は、樹脂単独、又は、樹脂と無機フィラーとを含む組成物を成形することが好ましい。
【0093】
(熱圧縮成形)
液晶ポリマーフィルムの製造方法は、液晶ポリマーフィルムの両面が一対の耐熱性離型性支持体で挟まれた積層体を、所定の加圧下において、熱処理工程前の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱変形温度(以下、HTと称する場合がある)に対して、(HT+15)~(HT+70)℃で熱処理を行う熱処理工程と、前記積層体から前記一対の耐熱性離型性支持体をはがして熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得る剥離工程と、を少なくとも備えていることが好ましい。
【0094】
上記熱処理工程では、押出成形(例えば、インフレーション法など)により得られた液晶ポリマーフィルムを用い、この液晶ポリマーフィルムの両面が一対の耐熱性離型性支持体で挟まれた積層体に対して、所望の加圧下において、所望の温度により熱処理を行う。この熱処理でスキン層に存在する表裏面の液晶ポリマー分子がせん断力を受けるためか、熱処理工程後の液晶ポリマーフィルムでは、厚さ方向の誘電率を所望の範囲に制御することができる。また、熱処理工程で液晶ポリマー中の水分量の低減も可能となる。
液晶ポリマーフィルムの両面に配設される耐熱性離型性支持体は、目的を達成することができれば、同種であっても、異なっていてもよいが、同じ種類であることが好ましい。
【0095】
(銅張積層体)
本開示の誘電体は、回路用基板のシートとして、その他の基材と積層して使用することができる。
【0096】
本開示は、上述した誘電体と金属箔とを有する金属張積層体でもある。
上記金属としては、銅、ステンレス、アルミニウム、鉄、銀、金、ルテニウム等が挙げられる。また、これらの合金も使用可能である。中でも、銅が好ましい。
【0097】
本開示は、上述した誘電体と銅箔とを有する銅張積層体でもある。上述した誘電体の片面又は両面に銅箔を接着させたことを特徴とする銅張積層体であってもよい。上述したように、本開示のフッ素樹脂を含む誘電体は、回路用基板用途において特に好適に使用することができるものであるから、このような銅張積層体として好適に使用することができる。
【0098】
銅張積層体中の誘電体は、10GHz誘電正接(Df)が0.0015以下であることが好ましい。このような範囲内のものとすることで、誘電体損失が低いという点で好ましい。
上記誘電正接(Df)の上限は、0.0012であることがより好ましく、0.0011であることが更に好ましい。一方、上記誘電正接(Df)の下限は、0.00001であることが好ましい。
【0099】
銅張積層体中の誘電体は、厚みが5~250μmであることが好ましい。本開示の誘電体は、薄いものであっても、充分にその目的を達成することができる。このような観点から、200μm未満であることがより好ましく、150μm未満であることが更に好ましい。
【0100】
上記銅箔は、表面粗さRzが2.0μm以下であることが好ましい。すなわち、本開示の誘電体は、Rz2.0μm以下という平滑性の高い銅箔への接着性も優れたものである。更に、銅箔は、少なくとも上述した誘電体と接着する面のRzが2.0μm以下であればよく、他方の面は、Rz値を特に限定するものではない。
上記Rzは、もっとも高い部分(最大山高さ:Rp)ともっとも深い部分(最大谷深さ:Rv)の和の値である。上記表面粗さはJIS-B0601に規定される十点平均粗さである。本明細書において、上記Rzは、測定長を4mmとして、表面粗さ計(商品名:サーフコム470A、東京精機社製)を用いて測定した値である。
【0101】
上記銅箔は、厚みは特に限定されないが、1~100μmの範囲であることが好ましく、5~50μmの範囲内であることがより好ましく、9~35μmがさらに好ましい。
【0102】
上記銅箔は特に限定されるものではなく、具体的には例えば、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0103】
Rz2.0μm以下の銅箔としては特に限定されず、市販のものを使用することができる。市販のRz2.0μm以下の銅箔としては、例えば、電解銅箔CF-T9DA-SV-18(厚み18μm/Rz0.85μm)(福田金属箔粉工業株式会社製)、電解銅箔CF-V9S-SV-18(厚み18μm/Rz1.5μm)(福田金属箔粉工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0104】
上記銅箔は、本開示の誘電体との接着強度を高めるために、表面処理を施したものであってもよい。
【0105】
上記表面処理は特に限定されないが、シランカップリング処理、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、電子線処理などであり、シランカップリング剤の反応性官能基としては、特に限定されないが、樹脂基材に対する接着性の観点から、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、及びエポキシ基から選択される少なくとも1種を末端に有することが好ましい。また、加水分解性基としては、特に限定されないが、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基などが挙げられる。本開示で使用する銅箔は、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜等)、耐熱層等が形成されたものであってもよい。
【0106】
上記シラン化合物による表面処理層を銅箔表面上に有する表面処理銅箔は、シラン化合物を含む溶液を調製した後、この溶液を用いて銅箔を表面処理することによって製造することができる。
【0107】
上記銅箔は、表面に、樹脂基材との接着性を高めるなどの観点から、粗化処理層を有するものであってもよい。
なお、粗化処理が本開示において要求される性能を低下させるおそれがある場合は、必要に応じて銅箔表面に電着させる粗化粒子を少なくしたり、粗化処理を行わない態様としたりすることもできる。
【0108】
銅箔と表面処理層との間には、各種特性を向上させる観点から、耐熱処理層、防錆処理層及びクロメート処理層からなる群から選択される1種以上の層を設けてもよい。これらの層は、単層であっても、複数層であってもよい。
【0109】
本開示の銅張積層体は、更に、銅箔および誘電体以外の層を有するものであってもよい。
当該銅箔および誘電体以外の層は、ポリイミド、モディファイドポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなる層であることが好ましい。
【0110】
これらの銅箔および誘電体以外の層は、上述した樹脂からなるものであれば特に限定されない。また、当該銅箔および誘電体以外の層は、厚みが、12.5~260μmの範囲内のものであることが好ましい。
【0111】
本開示の銅張積層体は、銅箔層を形成するのはロール状シートの片面でも両面でも構わない。銅箔層を形成する方法としては、ロール状シートの表面に銅箔を積層(粘着)する方法、蒸着法、めっき法などが挙げられる。
銅箔を積層する方法としては、熱プレスによる方法等が挙げられる。熱プレス温度は誘電体シートの融点-150℃~誘電体シートの融点+40℃が挙げられる。熱プレスの時間は例えば1~30分である。熱プレスの圧力は、0.1~10MPaという方法によって製造することができる。
【0112】
本開示は、誘電体と銅箔とを積層し、180~390℃の範囲で加熱し、圧力1~100kNの範囲で、真空下または不活性ガス雰囲気下でプレス成形することを特徴とする銅張積層体の製造方法でもある。
このような条件下でプレス成形することで、誘電体の劣化がなく、銅箔との接着も可能である。
【0113】
本開示の銅張積層体は、その用途を特に限定されず、回路用基板として好適に使用される。本開示は、上記誘電体又は上記銅張積層体を有する回路用基板でもある。
回路用基板とは半導体やコンデンサチップなどの電子部品を電気的に接続すると同時に、限られた空間内に配置し固定するための板状部品である。本開示の誘導体又は銅張積層体から形成される回路用基板の構成は特に制限はない。回路用基板は、リジッド基板、フレキシブル基板、リジッドフレキシブル基板のいずれであってもよい。回路用基板は、片面、基板、両面基板、多層基板(ブルドアップ基板等)のいずれであってもよい。特に、フレキシブル基板、リジット基板用に好適に使用することができる。特に10GHz以上の高周波用プリント基板として好適に使用することができる。
【0114】
回路用基板の製造方法としては特に限定されず、上述した銅張積層体を使用して、一般的な方法によって製造することができる。
【0115】
本開示の誘電体や銅張積層体は、電気電子部品として使用される。例えば、ETC、GPS、無線LANおよび携帯電話等の電子機器や通信機器に使用されるアンテナ、高速伝送用コネクタ、CPUソケット、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、RFIDタグ、コンデンサー、インバーター部品、ケーブルの被覆材、リチウムイオン電池等の二次電池の絶縁材、スピーカー振動板等が挙げられる。
【0116】
高速通信対応基板としては、基地局アンテナ基板、アンテナ分配基板、無線基地局の無線部分であるRRH(Remote Radio Head)用基板、無線基地局の制御部又はベースバンド部(BBU:Base Band Unit)用基板、高速通信用トランシーバー基板、RNC(Radio Network Contoroler)用基板、高速トランスミッター用基板、高速レシーバー用基板、高速信号多重回路用基板、60GHz帯使用のWiFig用基板、データセンター用のサーバーで使用されるデーター転送用基板などがあげられる。また、高速通信対応基板としては、アンテナ用基板、例えば5G以降の規格で求められる大容量通信に向けた、超多素子アンテナ(Massive MIMO)向けの基板等も例示できる。
【0117】
絶縁膜は、基板用の絶縁体のみならず、信号線被覆材用の絶縁体として使用できる。例えば、高速信号を伝送する導波管、高速LAN用のQSFPケーブル、高速通信対応用の同軸ケーブル(例;SFP+ケーブル、QSFP+ケーブルなど)、低損失用の同軸ケーブル等の絶縁被覆材(例;絶縁チューブ)として使用できる。
【0118】
こうした高周波を使用する場合、コネクタなどの電気部品、ケーシングなどの通信機器に使用される資材には、安定して低い比誘電率(εr)及び低い誘電正接(tanδ)といった電気的特性が求められる。絶縁膜は、そのような資材用の絶縁材料としても使用できる。
【0119】
絶縁膜は、ハンダ付けが必要となるコネクタプリント配線基板用の絶縁材料としても使用できる。絶縁体は優れた耐熱性を有しているので、ハンダ付け時の高温でも問題が生じにくい。
【0120】
誘電体導波線路においては、高周波のミリ波又はサブミリ波を低損失で伝送させために、低誘電損失な材料が求められている。誘電膜は、ミリ波、サブミリ波等を伝送する誘電体導波線路用の絶縁材料としても使用できる。誘電体導波線路としては、円柱状誘電体線路、方形状誘電体線路、だ円形状誘電体線路、チューブ状誘電体線路、イメージ線路、インシュラーイメージ線路、トラップドイメージ線路、リブガイド、ストリップ誘電体線路、逆ストリップ線路、Hガイド、非放射性誘電体線路(NRDガイド)等が挙げられる。
【0121】
回路用基板用の積層体は、銅箔層、上述した誘電体及び基材層を有することを特徴とする積層体でもある。基材層としては特に限定されないがガラス繊維からなる布帛層、樹脂フィルム層を有することが好ましい。
【0122】
上記ガラス繊維からなる布帛層は、ガラスクロス、ガラス不織布等からなる層である。
ガラスクロスとしては市販のものが使用でき、フッ素樹脂との親和性を高めるためにシランカップリング剤処理を施されたものが好ましい。ガラスクロスの材質としてはEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、低誘電率ガラスなどが挙げられるが、入手が容易である点からEガラス、Sガラス、NEガラスが好ましい。繊維の織り方としては平織でも綾織でも構わない。ガラスクロスの厚さは通常5~90μmであり、好ましくは10~75μmであるが、使用するフッ素樹脂フィルムよりは薄いものを用いることが好ましい。
【0123】
上記積層体は、ガラス不織布をガラス繊維からなる布帛層として使用するものであってもよい。ガラス不織布とは、ガラスの短繊維を少量のバインダー化合物(樹脂あるいは無機物)で固着したもの、あるいはバインダー化合物を使用せずにガラス短繊維を絡ませることによってその形状を維持しているものであり、市販のものが使用できる。ガラス短繊維の直径は好ましくは0.5~30μmであり、繊維長は好ましくは5~30mmである。バインダー化合物の具体例としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂等の樹脂や、シリカ化合物等の無機物が挙げられる。バインダー化合物の使用量はガラス短繊維に対して通常3~15質量%である。ガラス短繊維の材質としてはEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、低誘電率ガラスなどが挙げられる。ガラス不織布の厚さは通常50μm乃至1000μmであり、100~900μmであることが好ましい。尚、本開示におけるガラス不織布の厚さは、JIS P8118:1998に準じ、(株)小野測器製のデジタルゲージDG-925(荷重110グラム、面径10mm)を用いて測定した値を意味する。フッ素樹脂との親和性を高めるために、ガラス不織布にシランカップリング剤処理を施してもよい。
【0124】
ガラス不織布の多くは空隙率が80%以上と非常に高いので、誘電体シートより厚いものを使用し、圧力によって圧縮して用いることが好ましい。
【0125】
上記ガラス繊維からなる布帛層は、ガラスクロスとガラス不織布とを積層した層であってもよい。これによって、相互の性質が組み合わせられて、好適な性質を得ることができる。
上記ガラス繊維からなる布帛層は、樹脂を含浸させたプリプレグの状態であってもよい。
【0126】
上記積層体は、ガラス繊維からなる布帛層と誘電体が界面で接着していてもよく、ガラス繊維からなる布帛層に誘電体の一部もしくはすべてが含侵されていてもよい。
更に、ガラス繊維からなる布帛にフッ素樹脂組成物を含侵させてプリプレグを作成したものであってもよい。このようにして得られたプリプレグに対して、更に、本開示の誘電体を積層したものであってもよい。この場合、プリプレグを作成する際に使用するフッ素樹脂組成物としては特に限定されるものではなく、本開示の誘電体を使用することもできる。
【0127】
上記基材層として用いる樹脂フィルムとしては、耐熱性樹脂フィルム、熱硬化性樹脂フィルムが好ましい。耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド、モディファイドポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイドなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテル、ポリブタジエンなどを含むものが挙げられる。
耐熱性樹脂フィルムおよび熱硬化性樹脂フィルムは強化繊維を含んでいても良い。強化繊維としては特に限定されないが、例えばガラスクロス、とくに低誘電タイプのものが好ましい。
【0128】
耐熱性樹脂フィルムおよび熱硬化性樹脂フィルムの誘電特性、線膨張率、吸水率などの特性は特に限定されないが、たとえば、20GHzにおける誘電率は3.8以下が好ましく、3.4以下がより好ましく、3.2以下が更に好ましい。20GHzにおける誘電正接は、0.0030以下が好ましく、0.0025以下がより好ましく、0.0020以下が更に好ましい。線膨張率は100ppm/℃以下が好ましく、70ppm/℃以下がより好ましく、40ppm/℃以下が更に好ましい。吸水率は1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.1%以下が更に好ましい。
【実施例】
【0129】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
【0130】
(実施例1~実施例3、実施例5~実施例9、実施例11、実施例13)
(ペースト押出成形)
フッ素樹脂粒子(PTFE)とシリカを、シリカの含有量が表1に示す量となるように各々計量し、ドライアイス存在下、ミキサーで混合した。混合中の温度は-10℃以下であった。
得られた混合物にオイル(アイソパーH)を18~23%を添加して混合し、5時間程度熟成させた。
熟成させた組成物を圧力3MPaの条件で予備成形し、予備成形した成形体を40℃、50mm/minの条件で押出し、押出サンプルを得た。
押出サンプルを2本ロールで圧延し(ロール間隙:500~80μmに設定)、膜厚125μmのサンプルを得、200℃、2時間乾燥し、360℃で、20分焼成することで誘電体シートを得た。
【0131】
なお、各実施例において使用したフッ素樹脂粒子(PTFE)は、以下の性質を有するものであった。
平均粒子径:500μm
見掛密度:460g/L
標準比重:2.17
【0132】
なお、各実施例において使用したシリカは、表1に示すように、球状シリカとして、アドマテックス社製SC6500-SQ(平均粒子径2.1μm)、アドマテックス社製SC6500-SQ(平均粒子径2.1μm)を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(実施例3~5、実施例10、11は処理量1質量%、比較例2は処理量10質量%)により表面処理を施したもの、又はアドマテックス社製SC2500-SQ(平均粒子径0.5μm)を、破砕シリカとして、龍森社製ZA-30又は龍森社製ZA-30をフェニルトリメトキシシランとアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシランを9:1で混合し、処理量1質量%により表面処理を施したものを使用した。
【0133】
(実施例4、実施例12)
(粉体圧延成形)
表1に示す割合でフッ素樹脂粒子(PTFE)とシリカを所定量計量し、ワンダークラッシャーで室温中、メモリ6で30秒×2回攪拌した。得られた粉末を2本ロールで圧延し(ロール間隙:100μmに設定、ロール温度:100℃)、膜厚130μmのサンプルを得、360℃で、20分間焼成することで誘電体シートを得た。
【0134】
(比較例1~比較例2)
(粉体圧延成形)
フッ素樹脂粒子(PTFE)とシリカを、シリカの含有量が表1に示す量となるように各々計量し、ワンダークラッシャーで室温中、メモリ6で30秒×2回攪拌した。
得られた混合物を2本ロールで圧延し(ロール間隙:100μmに設定、ロール温度:100℃)、膜厚130μmのサンプルを得、360℃で、15分間焼成することで誘電体シートを得た。
【0135】
なお、比較例1においては、微粒子球状シリカ(デンカ社製UFP-30(平均粒子径0.1μm))を使用した。
【0136】
得られた各誘電体シートについて、以下の基準に基づいて評価を行った。
[水分量]
誘電体シートを、それぞれ装置のボートに入る大きさ(40mm×50mm)に切断し、水分測定装置(CA-200、VA-200、三菱化学株式会社製)の気化室に投入して、下記条件にて、250℃で発生する水分を測定した。
電解液:ハイドラナール クーロマット AG-OVEN
ハイドラナール CG
気化室温度条件:250℃
気化室窒素流量:250mL/min
【0137】
[Dk及びDf]
スプリットシリンダ式誘電率・誘電正接測定装置(EM lab社製)を用いて、25℃、10GHzのDk及びDfを測定した。
【0138】
[CTE(線膨張率)]
TMA―7100(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いたTMA測定を引張モードで行い、サンプル片として、長さ20mm、幅5mmに切出したシートを用いて、チャック間を10mmに設定し、49mNの荷重をかけながら昇温速度2℃/分で0~150℃でのサンプルの変位量からCTE(線膨張率)を求めた。
【0139】
(銅張積層体の製造)
実施例1~9、実施例11~13及び比較例1~2で得られた誘電体シートを、電解銅箔CF-V9S-SV-18(厚み18μm/Rz1.5μm)(福田金属箔粉工業株式会社製)2枚で挟み、360℃で加熱し、圧力15kN、5分間で、真空下でプレス成形し、室温まで冷却し、銅張積層体を得た。
得られた各銅張積層体について、以下の基準に基づいて評価を行った。
【0140】
[銅張積層体の外観]
作製した銅張積層体から100mm×100mmの試験片を切り出し、これを目視で確認し、膨れが1か所以上確認出来た場合に膨れ発生とし、膨れが見られない場合は良好とした。
これらの結果を表1に示す。
【0141】
(実施例10)
実施例5の銅張積層体を、下記方法によりエッチングして回収した誘電体層の水分量を測定した。
(エッチング)
銅張積層体の銅箔を塩化第2鉄水溶液でエッチングして、流れる清水で2~5分間洗浄し、更に蒸留水で洗浄し、温度80±3℃の恒温槽中で約60分間乾燥し、単体の誘電体層を回収した。
結果を表1に示す。
【0142】
(実施例14)
p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の共重合物(モル比:70/30)を溶融押出し、インフレーション成形法により、融点が325℃、熱変形温度が280℃、膜厚100μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。
耐熱性離型性支持体として、厚さ100μmのポリイミドフィルム(線膨張率:熱16ppm/K)を用い、得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面を、2枚のポリイミドフィルムのMD方向およびTD方向を同方向にそろえた状態で挟み積層体とし、真空熱プレス機で予熱後、330℃で15分間、3MPaの圧力下で熱処理し、熱処理後、冷却し取り出した積層体から、ポリイミドフィルムを剥がすことで誘電体シートを得た。
得られた誘電体シートについて、上記の基準に基づいて評価を行った。
上記誘電体シートを電解銅箔CF-V9S-SV-18(厚み18μm/Rz1.5μm)(福田金属箔粉工業株式会社製)2枚で挟み、170℃、3MPa、60分間の条件で、真空下でプレス成形し、室温まで冷却し、銅張積層体を得た。
得られた各銅張積層体について、上記の基準に基づいて評価を行った。
結果を表1に示す。
【0143】
【0144】
上記結果から、本開示の誘電体は、銅張積層体の外観を良好にするものである。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本開示の誘電体は、特に、高周波プリント基板に好適に使用することができる。