(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241107BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B32B15/08 G
C23C28/00 A
(21)【出願番号】P 2024523984
(86)(22)【出願日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2023035131
(87)【国際公開番号】W WO2024071189
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2022154111
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平井 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆志
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-187881(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112544(WO,A1)
【文献】特開2017-061750(JP,A)
【文献】特開平08-174758(JP,A)
【文献】特開平08-156178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00-22/86
C23C26/00-30/00
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
前記樹脂粒子の平均粒子径は、3μm以上15μm以下である、請求項1または2に記載の表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用などに、従来の成形加工後に塗装されていたポスト塗装製品に代わって、亜鉛系めっき鋼板の表層に有機樹脂被膜を被覆した有機樹脂被覆めっき鋼板(プレコート鋼板とも呼ばれる。)などの表面処理鋼板が使用されるようになってきた。この表面処理鋼板は、防錆処理を施した鋼板やめっき鋼板に対し、着色した有機皮膜を被覆したものであり、美麗さを有しながら、加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。この表面処理鋼板は、プレス加工された後、更なる塗装などが施されずに、家電、建材、自動車等の材料として用いられる場合が多い。そのため、このような表面処理鋼板は、加工時に美麗さを失わないように、耐疵付き性に優れることが求められる。そのため、表面処理鋼板の耐疵付き性をはじめとする諸特性を向上させるために、従来様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば以下の特許文献1には、耐疵付き性だけでなく、耐食性及び導電性に優れる電子電気機器用プレコート金属板が開示されている。かかるプレコート金属板は、所定の表面粗さを有する金属板の表面、化成皮膜を設けた上で、片面には、平均粒径1.0~10μmのウレタンビーズ又はフッ素樹脂ビーズが配合された、膜厚0.4~2.0μmの樹脂皮膜を設け、もう一方の面には、平均粒径0.1~6.0μmのウレタンビーズ又はフッ素樹脂ビーズが配合された、膜厚0.2~2.0μmの樹脂皮膜を設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1に開示されているようなプレコート金属板などを含む、各種の表面処理鋼板は、母材としての金属板に対し、連続塗装ラインにより所望の塗膜を設けることで製造されるのが一般的である。母材としての金属板としては、例えば、各種のめっき鋼板を含む鋼板や、アルミニウム板、アルミニウム合金板等が挙げられる。所望の塗膜が設けられた金属板は、連続塗装ラインの末端でコイル状に巻き取られた状態で、顧客のもとに搬送される。
【0006】
かかるコイルの状態では、表面処理鋼板の表面皮膜の一方の面と他方の面が接触する。この場合に、コイル巻き取り時の接触に伴う疵付きや、コイル保管時のブロッキング、すなわち表裏の被膜同士が一定圧力の下で圧着してしまうことや、プレッシャーマーク、すなわち一方の面の形態が他方の面に転写された状態の発生、などの課題がある。また、顧客のもとでの加工において、切断した金属板を取り扱う際に、一方の面と他方の面が接触することで、疵が生じる課題もある。さらに、コスト低減などの観点から、母材としての金属板の双方の面に対し、厚みを変えて着色皮膜層を設け、一方の面での厚みを他方の面での厚みよりも薄くすることがある。この場合にも当該他方の面の耐疵付き性を確保する必要があるという課題がある。
【0007】
これに関して、上記特許文献1は、樹脂皮膜に導電性をもたせるために配合される金属微粒子によって、コイルアップした際に接する反対側の樹脂皮膜が損傷するという課題を開示している。上記特許文献1に記載の技術は、金属板の両方の面に樹脂ビーズを含む樹脂被膜を設けることで、コイルアップした際の樹脂被膜の損傷を抑制するものである。しかしながら、光ディスクに対する耐傷付け性の観点から、樹脂粒子の材料は軟質なウレタンビーズ又は滑り性に優れるフッ素樹脂ビーズに限定されている。また、導電性確保の観点から樹脂被膜の厚みを2.0μm以下とする必要がある。そのため、耐傷付き性及び面接触疵への耐性、並びに耐食性の両立においては改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、更なる耐疵付き性の向上として、特に一方の面と他方の面が接触することによる面接触疵への耐性を向上させた、良好な耐食性を有する表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、鋼板における一方の面と他方の面の表面上の塗膜構成に差異をもたせることで、耐疵付き性を更に向上させることが可能なのではないかとの着想を得て、本発明を完成させるに至った。
かかる着想に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
(1)鋼板の両方の表面上に位置する、亜鉛を含有するめっき層と、前記鋼板の一方の面における前記めっき層の上に位置する第1の着色皮膜層と、前記鋼板の他方の面における前記めっき層の上に位置する第2の着色皮膜層と、を備え、前記第1の着色皮膜層の膜厚に対する、前記第2の着色皮膜層の膜厚の比が、0.1以上0.5以下であり、前記第1の着色皮膜層及び前記第2の着色皮膜層は樹脂粒子を含み、前記第1の着色皮膜層を膜厚方向に切断した断面を観察した際に、観察される前記樹脂粒子について、前記第1の着色皮膜層の膜厚方向に占める長さを、前記樹脂粒子の厚みとしたときに、観察される全ての前記樹脂粒子の個数に対する、前記第1の着色皮膜層の膜厚以上の厚みを有する前記樹脂粒子の個数の割合が、1%以上30%以下であり、前記第2の着色皮膜層を膜厚方向に切断した断面を観察した際に、観察される前記樹脂粒子について、前記第2の着色皮膜層の膜厚方向に占める長さを、前記樹脂粒子の厚みとしたときに、観察される全ての前記樹脂粒子の個数に対する、前記第2の着色皮膜層の膜厚以上の厚みを有する前記樹脂粒子の個数の割合が、50%以上100%以下である、表面処理鋼板。
(2)前記第1の着色皮膜層を断面観察した際に、前記第1の着色皮膜層の膜厚方向に対して直交する方向に1000μmの長さを第1の観察長とし、前記第1の観察長の範囲内で前記樹脂粒子が占める部位を前記膜厚方向に射影したときの前記樹脂粒子に対応する部位の前記膜厚方向に対して直交する方向の長さの合計を、第1の占有長としたときに、前記第1の観察長に対する前記第1の占有長の割合が15%以上40%以下であり、前記第2の着色皮膜層の膜厚方向に対して直交する方向に1000μmの長さを第2の観察長とし、前記第2の観察長の範囲内で前記樹脂粒子が占める部位を前記膜厚方向に射影したときの前記樹脂粒子に対応する部位の前記膜厚方向に対して直交する方向の長さの合計を、第2の占有長としたときに、前記第2の観察長に対する前記第2の占有長の割合が5%以上15%以下である、(1)に記載の表面処理鋼板。
(3)前記第1の着色皮膜層の膜厚が3μm以上10μm以下である、(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
(4)前記第1の着色皮膜層に含まれる前記樹脂粒子の厚みが、前記第1の着色皮膜層の膜厚の2倍未満であり、前記第2の着色皮膜層に含まれる前記樹脂粒子の厚みが、前記第2の着色皮膜層の膜厚の3倍未満である、(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
(5)前記樹脂粒子がアクリル系樹脂粒子である、(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
(6)前記第1の着色皮膜層及び前記第2の着色皮膜層の造膜成分は、ガラス転移温度Tgが30℃以上70℃以下である、(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
(7)前記鋼板の一方の面における前記めっき層と前記第1の着色皮膜層との間、及び、前記鋼板の他方の面における前記めっき層と前記第2の着色皮膜層との間に、化成処理皮膜層を更に備える、(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
(8)前記樹脂粒子の平均粒子径は、3μm以上15μm以下である、(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、更なる耐疵付き性の向上として、特に一方の面と他方の面が接触することによる面接触疵への耐性を向上させた、良好な耐食性を有する表面処理鋼板を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態にかかる表面処理鋼板の構造を模式的に示した説明図である。
【
図2】実施形態にかかる表面処理鋼板を断面観察した際の、樹脂粒子の厚みについての説明図である。
【
図3】実施形態にかかる表面処理鋼板を断面観察した際の、樹脂粒子の占有長についての説明図である。
【
図4】実施形態にかかる表面処理鋼板を断面観察した際の、樹脂粒子の占有長についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<表面処理鋼板1について>
以下では、
図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る表面処理鋼板について、詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る表面処理鋼板の構造を模式的に示した説明図である。
【0015】
<表面処理鋼板1の全体的な構成について>
図1に模式的に示したように、本実施形態に係る表面処理鋼板1は、基材としての鋼板10と、鋼板10の表面に設けられためっき層20と、めっき層20の面上に位置する着色皮膜層30と、を有している。また、
図1に示したように、めっき層20と、着色皮膜層30と、の間に、化成処理皮膜層40を更に有していることが好ましい。めっき層20、着色皮膜層30及び化成処理皮膜層40は、鋼板10の両面に設けられる。すなわち、鋼板10における図中上方の面にあたる一方の面(第1の面10a)には、第1のめっき層20a、第1の着色皮膜層30a及び第1の化成処理皮膜層40aがそれぞれ形成される。また、図中下方の面にあたる他方の面(第2の面10b)には、第2のめっき層20b、第2の着色皮膜層30b及び第2の化成処理皮膜層40bがそれぞれ形成される。
【0016】
<鋼板10について>
基材としての鋼板10については、特に限定されるものではなく、表面処理鋼板1に求められる機械的強度等に応じて、各種の鋼板10を用いることが可能である。このような鋼板10としては、例えば、Alキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼等のような種々の鋼板10を挙げることができる。
【0017】
また、本実施形態に係る鋼板10の厚みについても、特に限定されるものではなく、表面処理鋼板1に求められる機械的強度等に応じて適宜設定すればよく、例えば0.2mm~10.0mm程度とすることができる。
【0018】
<めっき層20について>
本実施形態に係る表面処理鋼板1が有するめっき層20におけるめっき種については特に限定されるものではない。例えば、かかるめっき種として、亜鉛系めっきを採用することができる。かかる亜鉛系めっきとしては、例えば、亜鉛-ニッケル合金めっき、合金化溶融亜鉛めっき、アルミニウム-亜鉛合金めっき、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき、亜鉛-バナジウム複合めっき、亜鉛-ジルコニウム複合めっき等が挙げられる。
【0019】
このような亜鉛系めっきの中でも、特に、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっきが好ましく、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物である、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金めっきがより好ましい。
【0020】
[Al:4~22質量%]
Alの含有量を4質量%以上とすることで、鋼板の耐食性をより向上させることが可能となる。Alの含有量は、より好ましくは5質量%以上である。一方、Alの含有量を22質量%以下とすることで、上記のような耐食性向上効果の飽和を抑制しながら、鋼板の耐食性をより向上させることが可能となる。Alの含有量は、より好ましくは16質量%以下である。
【0021】
[Mg:1~10質量%]
Mgの含有量を1質量%以上とすることで、鋼板の耐食性をより向上させることが可能となる。Mgの含有量は、より好ましくは2質量%以上である。一方、めっき層20の形成に用いるめっき浴において、製造後のめっき層20におけるMgの含有量が10質量%以下となるようなMg濃度に調整を行うことで、めっき浴でのドロス発生を安定化させて、めっき鋼板を安定的に製造することが可能となる。なお、本明細書においてめっき鋼板とは、鋼板10の表面にめっき層20を形成したものを指す。めっき層20の形成に用いるめっき浴において、製造後のめっき層20におけるMgの含有量が5質量%以下となるようなMg濃度に調整を行うことが、より好ましい。
【0022】
[Si:0.0001~2.0000質量%]
Siの含有量を0.0001質量%以上とすることで、めっき層20の密着性(より詳細には、基材鋼板10とめっき層20との密着性)をより向上させることが可能となる。一方、Siの含有量を2.0000質量%以下とすることで、めっき層20の密着性向上効果の飽和を抑制しつつ、めっき層20の密着性をより向上させることが可能となる。Siの含有量は、より好ましくは1.6000質量%以下である。
【0023】
更に、亜鉛を含有するめっき層20では、残部のZnの一部に換えて、Fe、Sb、Pb等の元素を単独又は複合で1質量%以下含有してもよい。
【0024】
上記のような化学成分を有するめっき層20が設けられためっき鋼板として、例えば、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき層を有するめっき鋼板のような、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金めっき鋼板(例えば、日本製鉄株式会社製「スーパーダイマ(登録商標)」)等を挙げることができる。
【0025】
以上説明したようなめっき層20は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、準備した鋼板10の表面に対して、洗浄、脱脂等の前処理を必要に応じて実施する。その後、必要に応じて前処理を実施した鋼板10を、所望の化学成分を有する溶融めっき浴に浸漬させ、かかるめっき浴から鋼板10を引き上げる。かかるめっき操作に際して、コイルの連続めっき法、あるいは、切板単体のめっき法のいずれによってめっきを行ってもよい。
【0026】
溶融めっき浴の温度は、組成によって異なるが、例えば、400~500℃の範囲が好ましい。
【0027】
また、上記のようなめっき層20のめっき付着量は、鋼板10の引き上げ速度や、めっき浴の上方に設けられたワイピングノズルより噴出するワイピングガスの流量や、流速調整などにより制御することが可能である。めっき層20のめっき付着量は、鋼板10の両面での合計で、30g/m2以上である(すなわち、片面あたり、15g/m2以上である)ことが好ましい。付着量を30g/m2以上とすることで、亜鉛系めっき鋼板10の耐食性を確実に担保することが可能となる。めっき付着量は、より好ましくは、鋼板10の両面での合計で、40g/m2以上である。一方、めっきの付着量は、鋼板10の両面での合計で、600g/m2以下である(すなわち、片面あたり、300g/m2以下である)ことが好ましい。付着量を600g/m2以下とすることで、Zn含有めっき層13の表面の平滑性を担保しつつ、耐食性の更なる向上を図ることが可能となる。めっき付着量は、より好ましくは、鋼板10の両面での合計で、550g/m2以下である。
【0028】
溶融めっきの付着量を調整した後、鋼板を冷却する。この際、冷却条件は、特に限定する必要はない。
【0029】
<着色皮膜層30について>
着色皮膜層30は、着色顔料を有することで、所望の色に着色された皮膜層である。本実施形態にかかる表面処理鋼板1は、着色皮膜層30として、鋼板10における第1の面10aの上に形成される第1の着色皮膜層30aと、第2の面10bの上に形成される第2の着色皮膜層30bと、を備える。以下、これら第1の着色皮膜層30aと第2の着色皮膜層30bに共通の構成を説明するときは、これらをあわせて、単に着色皮膜層30という場合がある。
【0030】
かかる着色皮膜層30は、
図1に模式的に示したように、造膜成分301と、樹脂粒子303と、を含有している。ここで、表面処理鋼板1を着色皮膜層30の膜厚方向に切断した断面を観察(以下、断面観察という。)した際に、第1の着色皮膜層30a及び第2の着色皮膜層30bのいずれにおいても、かかる樹脂粒子303の少なくとも一部は、第1の着色皮膜層30a又は第2の着色皮膜層30bの膜厚以上の厚みを有している。換言すれば、かかる樹脂粒子303は、着色皮膜層30の膜厚以上であるような厚みを有するものの個数が、断面観察で観察される全ての樹脂粒子303の個数に対して所望の個数割合(後述)で含まれる。このように着色皮膜層30の膜厚以上の厚みを有する樹脂粒子303を含有する着色皮膜層30を設けることで、着色皮膜層30の表面から突出している樹脂粒子303が存在することとなる。その結果、着色皮膜層30が何らかの面と接触する際に、着色皮膜層30の全体での接触ではなく、樹脂粒子303での接触となる。換言すれば、何らかの面との接触が、着色皮膜層30全体との面接触ではなく、着色皮膜層30から突出している樹脂粒子303との点接触となる。これにより、本実施形態に係る表面処理鋼板1の耐疵付き性(より詳細には、面接触疵への耐性)を向上させることが可能となる。
【0031】
断面観察は、例えば、以下のようにして行うことができる。常温乾燥型エポキシ樹脂中に表面処理鋼板1を塗膜厚み方向と垂直となる方向に埋め込み、その埋め込み面を機械研磨した後に、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察する。
【0032】
かかる着色皮膜層30は、
図1に模式的に示したように、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tbが、第1の着色皮膜層30aの膜厚Taよりも薄くなるように設けられる。具体的には、第1の着色皮膜層30aの膜厚Taに対する、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tbの比Tb/Taは、0.1以上0.5以下である。当該比Tb/Taをこの範囲とすることにより、後述する断面観察において、着色皮膜層30の膜厚以上であるような厚みを有する樹脂粒子303を所望の個数割合とすることができる。
【0033】
本実施形態において第1の着色皮膜層30aの膜厚Taは、3.0μm以上であることが好ましい。また、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tbは、上記比Tb/Taに基づき、0.3μm以上であることが好ましい。これにより、面接触疵への耐性をより一層向上させることができる。第1の着色皮膜層30aの膜厚Taは、より好ましくは4.0μm以上である。一方、第1の着色皮膜層30aの膜厚Taは、10.0μm以下であることが好ましい。第1の着色皮膜層30aの膜厚Taを10.0μm以下とすることで、コストを抑えながら、ワキ等の塗膜欠陥の発生を抑制し、安定した外観を得ることができる。第1の着色皮膜層30aの膜厚Taは、より好ましくは8.0μm以下である。また、第2の着色皮膜層の膜厚Tbの上限は、第1の着色皮膜層30aの膜厚Taの上限値から上記比Tb/Taに基づき定める。
【0034】
なお、かかる着色皮膜層30の膜厚(Ta、Tb)は、断面観察により測定することができる。第1の着色皮膜層30a又は第2の着色皮膜層30bのそれぞれにおいて、任意の複数の位置(例えば、10箇所)で膜厚を測定し、得られた複数の膜厚の平均値を膜厚(Ta、Tb)とすればよい。
【0035】
次に、断面観察における樹脂粒子303の厚みについて、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態にかかる表面処理鋼板1を断面観察した際の、樹脂粒子303の厚みについて説明するための説明図である。
【0036】
図2で、樹脂粒子303の厚みとは、それぞれの樹脂粒子303における、着色皮膜層30の膜厚方向に占める長さ(
図2中の樹脂粒子303に示す両端矢印)をいう。より詳細には、
図2中で、傾いて存在する扁平な樹脂粒子303aについては、当該樹脂粒子303aを膜厚方向に垂直な方向(
図2中の一点鎖線方向)に射影し、当該射影における膜厚方向の長さを膜厚方向に占める長さとみなして、樹脂粒子303aの厚みとする。以下、第1の着色皮膜層30aに含まれる樹脂粒子303の厚みを第1の厚みGaと称する。また、第2の着色皮膜層30bに含まれる樹脂粒子303の厚みを第2の厚みGbと称する。
【0037】
本実施形態において、第1の着色皮膜層30aの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第1の着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の第1の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数の割合は、1%以上30%以下である。一方で、第2の着色皮膜層30bの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tb以上の第2の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数の割合は、50%以上100%以下である。
図2に示すように、着色皮膜層30の膜厚以上の厚みを有する樹脂粒子303は、着色皮膜層30の表面から突出する。
【0038】
なお、第1の着色皮膜層30aの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第1の着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の第1の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数割合、および、第2の着色皮膜層30bの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tb以上の第2の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数割合は、それぞれ着色皮膜層30aおよび着色皮膜層30bの膜厚方向に対して直交する方向に、合計500μm以上観察し、算出する。
【0039】
このように、本実施形態においては、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tb以上の第2の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数の割合は、第1の着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の第1の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数の割合よりも大きくなるように構成される。これにより、特に第2の着色皮膜層30bから突出する樹脂粒子303が十分に多く存在することとなる。そのため、第1の着色皮膜層30aと第2の着色皮膜層30bとが接触する場合であっても、両皮膜の面接触が顕著に抑えられる。その結果、両皮膜が面接触することによる疵付きや、コイル保管時のブロッキング、プレッシャーマークなどを抑制することができる。
【0040】
第1の着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の第1の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数の割合が1%未満であるとき、又は、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tb以上の第2の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数の割合が50%未満であるときには、第1の着色皮膜層30aと第2の着色皮膜層30bとの面接触を抑える作用が十分ではないために、面接触疵を抑制する効果が十分ではない。第1の着色皮膜層30aの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第1の着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の第1の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数の割合は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上である。また、第2の着色皮膜層30bの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tb以上の第2の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数の割合は、好ましくは55%以上であり、より好ましくは60%以上である。
【0041】
また、第1の着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の第1の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数の割合が30%超であるときは、着色皮膜層30の表面から突出する樹脂粒子303の個数が多すぎることにより、加工密着性が低下する。加工密着性とは、着色皮膜層30などの皮膜が、加工部において剥離せず、密着した状態に維持される性能をいう。
【0042】
第1の着色皮膜層30aの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第1の着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の第1の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数の割合は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下である。なお、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tb以上の第2の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数の割合の上限は、特に限定されず、100%であってもよい。第2の着色皮膜層30bの断面観察における観察視野内の全ての樹脂粒子303の個数に対する、第2の着色皮膜層30bの膜厚Tb以上の第2の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数の割合は、好ましくは95%以下であり、より好ましくは90%以下である。
【0043】
第1の着色皮膜層30aにおいて、樹脂粒子303の含有量は、造膜成分301と樹脂粒子303との合計含有量に対して、3質量%以上であることが好ましい。これにより、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。第1の着色皮膜層30aにおける樹脂粒子303の含有量は、より好ましくは5質量%以上である。一方で、第1の着色皮膜層30aにおける樹脂粒子303の含有量は、造膜成分301と樹脂粒子303との合計含有量に対して、40質量%以下であることが好ましい。これにより、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。第1の着色皮膜層30aにおける樹脂粒子303の含有量が40質量%超であると、着色被膜に占める造膜成分の比率が低くなり、皮膜としてのバリア性が低下して、所望の耐食性を発現させることが困難となる。第1の着色皮膜層30aにおける樹脂粒子303の含有量は、より好ましくは35質量%以下である。
【0044】
また、第2の着色皮膜層30bにおいて、樹脂粒子303の含有量は、造膜成分301と樹脂粒子303との合計含有量に対して、3質量%以上であることが好ましい。これにより、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。第2の着色皮膜層30bにおける樹脂粒子303の含有量は、より好ましくは5質量%以上である。一方で、第2の着色皮膜層30bにおける樹脂粒子303の含有量は、造膜成分301と樹脂粒子303との合計含有量に対して、40質量%以下であることが好ましい。これにより、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。第2の着色皮膜層30bにおける樹脂粒子303の含有量が40質量%超であると、着色被膜に占める造膜成分の比率が低くなり、皮膜としてのバリア性が低下して、所望の耐食性を発現させることが困難となる。第2の着色皮膜層30bにおける樹脂粒子303の含有量は、より好ましくは35質量%以下である。
【0045】
次に、本実施形態にかかる表面処理鋼板1の好ましい構成として、樹脂粒子303の占有長について
図3及び
図4を用いて説明する。
図3及び
図4は、本実施形態にかかる表面処理鋼板1を断面観察した際の、樹脂粒子303の占有長について説明するための説明図である。
【0046】
図3で、第1の着色皮膜層30aを断面観察した際に、第1の着色皮膜層30aの膜厚方向に対して直交する方向の観察範囲を、第1の観察長L1とする。さらに、第1の観察長L1の範囲内で、樹脂粒子303が占める部位p1、p2、p3、p4、p5を膜厚方向に射影する。当該射影によると、部位p1及びp2、並びに、部位p4及びp5は一部が重なり、部位p1及びp2に対応する射影P1、部位p3に対応する射影P2、並びに、部位p4及びp5に対応する射影P3が得られる。これらの射影P1、P2及びP3の長さの合計P1+P2+P3を、第1の占有長D1とする。このとき、第1の観察長L1に対する第1の占有長D1の割合(D1/L1×100)が、15%以上40%以下であることが好ましい。
【0047】
また
図4で、同様にして、第2の着色皮膜層30bを断面観察した際に、第2の着色皮膜層30bの膜厚方向に対して直交する方向の観察範囲を、第2の観察長L2とする。さらに、第2の観察長L2の範囲内で、樹脂粒子303が占める部位p6、p7、p8、p9、p10を膜厚方向に射影する。当該射影によると、部位p6及びp7、並びに、部位p9及びp10は一部が重なり、部位p6及びp7に対応する射影P4、部位p8に対応する射影P5、並びに、部位p9及びp10に対応する射影P6が得られる。これらの射影P4、P5及びP6の長さの合計P4+P5+P6を、第2の占有長D2とする。このとき、第2の観察長L2に対する第2の占有長D2の割合(D2/L2×100)が、5%以上15%以下であることが好ましい。なお、第1の観察長L1及び第2の観察長L2は、1000μmとする。
【0048】
第1の観察長L1に対する第1の占有長D1の割合を15%以上とすることで、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。第1の観察長L1に対する第1の占有長D1の割合は、より好ましくは、20%以上である。一方で、第1の観察長L1に対する第1の占有長D1の割合を40%以下とすることで、耐食性をより一層向上させることが可能となる。第1の観察長L1に対する第1の占有長D1の割合が40%超であると、第1の着色皮膜層30aに占める造膜成分301の比率が低くなり、皮膜としてのバリア性が低下して、所望の耐食性を発現させることが困難となる場合がある。第1の観察長L1に対する第1の占有長D1の割合は、より好ましくは35%以下である。
【0049】
第2の観察長L2に対する第2の占有長D2の割合を5%以上とすることで、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。第2の観察長L2に対する第2の占有長D2の割合は、より好ましくは、7%以上である。一方で、第2の観察長L2に対する第2の占有長D2の割合を15%以下とすることが好ましい。これにより、耐疵付き性をより向上させることが可能となる。その理由は、ある観点では、鋼板10の第2の面10bは第1の面10aよりも薄膜であるから、第2の観察長L2に対する第2の占有長D2の割合が15%超であると、第2の面10bにおける膜厚以上の粒径の樹脂粒子割合が大きい。膜厚以上の粒径の樹脂粒子割合が大きい場合、皮膜中に樹脂粒子を保持するのが難しく、面接触時に第2の面10bから樹脂粒子303が脱離しやすくなるため、疵の起点となる場合がある。また、別の観点では、第2の観察長L2に対する第2の占有長D2の割合が15%超であると、耐疵付き性を向上させる効果が飽和する一方で、第2の着色皮膜層30bに占める造膜成分301の比率が低くなり、皮膜としてのバリア性が低下して、鋼板10の第2の面10bにおける所望の耐食性を発現させることが困難となる場合がある。耐疵付き性をより一層向上させ、又は鋼板10の第2の面10bにおける耐食性をより向上させる観点から、第2の観察長L2に対する第2の占有長D2の割合は、より好ましくは13%以下である。
【0050】
本実施形態に係る着色皮膜層30の造膜成分301は、樹脂粒子303のバインダーとして機能するものであれば、任意の素材を用いることが可能である。ただし、製造の簡便性及びコスト性の観点からは、各種の有機樹脂を用いることが好ましい。このような造膜成分301として、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。また、樹脂粒子303として、有機樹脂を素材とする樹脂粒子を用いる場合には、かかる樹脂粒子と同種の樹脂を、造膜成分301として選択することが好ましい。これにより、造膜成分301と樹脂粒子303との親和性が向上し、着色皮膜層30の耐疵付き性および密着性をより向上させることが可能である。
【0051】
また、本実施形態に係る造膜成分301は、ガラス転移温度Tgが30℃以上である有機樹脂であることが好ましい。上記のようなガラス転移温度Tgを有する樹脂を造膜成分301として用いることで、着色皮膜層30はより適切な硬度を有するようになり、表面処理鋼板1の耐疵付き性(特に、引っ掻き疵への耐性)を更に向上させることができる。
【0052】
造膜成分301のガラス転移温度Tgは、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは40℃以上である。一方、ガラス転移温度Tgの上限値は、特に規定するものではないが、70℃を超える場合には、加工性が低下する可能性がある。そのため、造膜成分301のガラス転移温度Tgは、70℃以下であることが好ましい。
【0053】
なお、かかるガラス転移温度Tgは、例えば、TMA(熱機械分析)により、測定対象である皮膜の表面から皮膜厚み方向に針を刺し、一定の温度変化をさせて、測定対象物の熱膨張変化を測定する方法や、DMA(動的粘弾性測定)により、基材から剥離した測定対象である皮膜に対して、周期的な変形を与えながら一定の温度変化をさせて、粘弾性を分析する方法等により特定することが可能である。
【0054】
本実施形態に係る着色皮膜層30の樹脂粒子303は、有機樹脂を素材とする樹脂粒子であることが好ましい。このような樹脂粒子を用いることで、樹脂粒子が有する靭性、展延性によって、着色皮膜層30に加わる衝撃を緩和させることが可能となり、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。かかる樹脂粒子としては、アクリル系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子、フッ素系樹脂粒子、シリコン樹脂粒子、ポリオレフィン系樹脂粒子等を挙げることができるが、アクリル系樹脂粒子を用いることがより好ましい。また、着色皮膜層30に含有されている着色顔料自体が、上記のような樹脂粒子303として機能してもよい。
【0055】
本実施形態において、樹脂粒子303は、着色皮膜層30の膜厚以上の厚みを有するものと、そうでないものが存在する。したがって、樹脂粒子303は粒子径においてバラつきのあるものを用いる。その平均粒子径は、3~15μmであることが好ましい。樹脂粒子303が上記のような平均粒子径を有することで、表面処理鋼板1の耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。ここで、樹脂粒子303の平均粒子径とは、上記で定義した樹脂粒子303の厚みとは異なり、断面観察により観察される各樹脂粒子の円相当径から算出される平均値を意味する。具体的には、樹脂粒子303の平均粒子径は、断面観察において、任意の複数の位置(例えば、10箇所)で観察される樹脂粒子303の粒子径を測定し、得られた複数の粒子径の平均値を、樹脂粒子303の平均粒子径とすればよい。なお、粒子径においてバラつきのある樹脂粒子303とは、粒子径のバラつきのない樹脂粒子303を複数混ぜて使う場合を含む。
【0056】
また、第1の着色皮膜層30aに含まれる樹脂粒子303の厚みGaが、第1の着色皮膜層の膜厚Taの2.0倍未満であり、第2の着色皮膜層30bに含まれる樹脂粒子30
3の厚みGbが、第2の着色皮膜層の膜厚Tbの3.0倍未満であることが好ましい。樹
脂粒子303の厚みと、着色皮膜層30の膜厚とが上記のような関係となることで、表面処理鋼板1の耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。第1の着色皮膜層30aに含まれる樹脂粒子303の厚みGaは、好ましくは、第1の着色皮膜層の膜厚Taの1.5倍未満である。また、第2の着色皮膜層30bに含まれる樹脂粒子303の厚みGbは、好ましくは、第2の着色皮膜層の膜厚Tbの2.5倍未満である。
【0057】
◇着色皮膜層30におけるその他の成分について
本実施形態に係る着色皮膜層30は、上記のような成分に加えて、更に、架橋剤を含有してもよい。
【0058】
本実施形態に係る着色皮膜層30が更に架橋剤を含有することで、着色皮膜層30自体のバリア性をより向上させることが可能となり、表面処理鋼板1としての耐疵付き性及び耐食性をより向上させることが可能となる。特に、着色皮膜層30が、架橋剤として、メラミン樹脂、又は、イソシアネート樹脂の少なくとも何れかを含有することで、表面処理鋼板1としての耐疵付き性及び耐食性をより向上させることが可能となる。かかる架橋剤の含有量は、例えば、造膜成分301中の割合で10~40質量%程度とすることが好ましい。
【0059】
なお、着色皮膜層30が含有する着色顔料については、特に限定されるものではなく、着色皮膜層30に求める色合いに応じて、公知の各種の顔料を適宜用いることが可能である。このような着色顔料として、例えば、アルミ顔料、カーボンブラック、TiO2等を挙げることができる。また、その含有量についても、適宜設定すればよく、例えば、3~60質量%程度とすればよい。
【0060】
かかる着色皮膜層30は、上記のような着色皮膜層30を構成する成分を含む塗料組成物を鋼板10の表面上、めっき表面上、化成処理皮膜40を有した鋼板10の表面上、又は、化成処理皮膜40を有しためっき表面上に塗布したあと、150℃以上300℃未満の温度で焼き付け、硬化乾燥させることで、形成することが可能である。焼き付け温度が150℃未満である場合には、焼付硬化が不十分で、塗膜の耐食性や耐疵付き性が低下する可能性があり、焼き付け温度が300℃以上である場合には、樹脂成分の熱劣化が起こり、加工性が低下する可能性がある。
【0061】
なお、上記のような塗料組成物の塗布は、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。このような塗布方法の中でも、特にロールコートが好ましい。
【0062】
また、着色皮膜層30は、上記の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、防錆顔料、表面修飾した金属粉やガラス粉、分散剤、レベリング剤、ワックス、骨材等の添加剤や、希釈溶剤等を、更に含むことができる。
【0063】
ここで、防錆顔料を含有させる場合、その含有量は、例えば、1~15質量%とすることが好ましい。また、用いる防錆顔料には、公知の各種の防錆顔料を用いることが可能である。
【0064】
◇着色皮膜層30の硬度について
かかる着色皮膜層30は、表層から皮膜の厚みの4分の3の押し込み深さで測定したビッカース硬度(試験荷重は、所望の押し込み深さを実現可能な大きさを、着色皮膜層30の硬さに応じて設定する。)が、10~70Hvとなることが好ましい。かかるビッカース硬度は、ユニバーサル硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて測定される。樹脂粒子303が存在している位置、存在していない位置を問わずに、任意の10箇所で、上記のような押し込み深さ条件で皮膜表面から硬度を測定し、得られた10個の測定値の平均を算出する。着色皮膜層30が上記のようなビッカース硬度を有することで、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。着色皮膜層30が示す上記のビッカース硬度は、より好ましくは15~65Hvである。
【0065】
<化成処理皮膜層40について>
本実施形態に係る化成処理皮膜層40は、鋼板10と、着色皮膜層30との間に位置しうる皮膜層であり、いわゆる化成処理により形成される層である。
【0066】
本実施形態に係る化成処理皮膜層40の詳細な構成としては、例えば、樹脂、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、バナジウム化合物、並びに、タンニン又はタンニン酸からなる群より選択される何れか一つ以上を含有する構成を挙げることができる。これら物質を含有することで、更に、化成処理液塗布後の成膜性、水分や腐食性イオン等の腐食因子に対する皮膜のバリア性(緻密性)、及び、めっき面への皮膜密着性などが向上し、皮膜の耐食性の底上げに寄与する。
【0067】
特に、化成処理皮膜層40が、シランカップリング剤、又は、ジルコニウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、化成処理皮膜層40内に架橋構造を形成し、めっき表面との結合についても強化するため、皮膜の密着性やバリア性を更に向上させることが可能となる。
【0068】
また、化成処理皮膜層40が、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、又は、バナジウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、インヒビターとして機能し、めっきや鋼表面に沈殿皮膜や不動態皮膜を形成することで、耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0069】
以下では、上記のような化成処理皮膜層40が含みうる各構成成分の詳細について、例を挙げながら説明する。
【0070】
[樹脂]
樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等といった、公知の有機樹脂を使用することができる。プレコート鋼板用めっき鋼板との密着性を更に高めるためには、分子鎖中に強制部位や極性官能基をもつ樹脂(ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)の少なくとも一つを使用することが好ましい。樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
化成処理皮膜層40における樹脂の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、化成処理皮膜層40における樹脂の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、85質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。樹脂の含有量が、85質量%を超える場合には、その他の皮膜構成成分の割合が低下して、耐食性以外の皮膜として求められる性能が低下する場合がある。
【0072】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のシランカップリング剤の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。シランカップリング剤の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、シランカップリング剤の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜層の凝集力が不足し、塗膜層の加工密着性が低下する可能性がある。上記に例示したようなシランカップリング剤は、1種で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
[ジルコニウム化合物]
ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモ二ウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム等を挙げることができる。化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のジルコニウム化合物の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。ジルコニウム化合物の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、ジルコニウム化合物の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜層40の凝集力が不足し、塗膜層の加工密着性が低下する可能性がある。かかるジルコニウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
[シリカ]
シリカとしては、例えば、日産化学株式会社製の「スノーテックスN」、「スノーテックスC」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS」、株式会社ADEKA製の「アデライトAT-20Q」等の市販のシリカゲル、もしくは、日本アエロジル株式会社製のアエロジル#300等の粉末シリカ、又は、これら市販のシリカと同等のものを用いることができる。シリカは、必要とされるプレコートめっき鋼板の性能に応じて、適宜選択することができる。化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のシリカの添加量は、例えば、1~40g/Lとすることが好ましい。シリカの添加量が1g/L未満である場合には、皮膜層の加工密着性が低下する可能性があり、シリカの添加量が40g/Lを超える場合には、加工密着性及び耐食性の効果が飽和する可能性が高いことから、不経済である。
【0075】
[リン酸及びその塩]
リン酸及びその塩としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類及びそれらの塩、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びそれらの塩、フィチン酸等の有機リン酸類及びそれらの塩等が挙げられる。なお、リン酸の塩として、アンモニウム塩以外の塩としては、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Ni、Zn、Fe等との金属塩が挙げられる。リン酸及びその塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
なお、リン酸及びその塩の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、リン酸及びその塩の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。リン酸及びその塩の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、表面処理鋼板1を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。
【0077】
[フッ化物]
フッ化物としては、例えば、ジルコンフッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、チタンフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸等を挙げることができる。かかるフッ化物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
なお、フッ化物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、フッ化物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。フッ化物の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、表面処理鋼板1を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。
【0079】
[バナジウム化合物]
バナジウム化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム等の5価のバナジウム化合物を還元剤で2~4価に還元したバナジウム化合物、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、オキシ蓚酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸、硫酸バナジウム、二塩化バナジウム、酸化バナジウム等の酸化数4~2価のバナジウム化合物等を挙げることができる。かかるバナジウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
なお、バナジウム化合物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、バナジウム化合物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。バナジウム化合物の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、表面処理鋼板1を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。
【0081】
[タンニン又はタンニン酸]
タンニン又はタンニン酸は、加水分解できるタンニン、縮合タンニンのいずれも用いることができる。タンニン及びタンニン酸の例としては、ハマメタタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランのタンニン、ジビジビのタンニン、アルガロビラのタンニン、バロニアのタンニン、カテキン等を挙げることができる。化成処理皮膜40を形成するための化成処理剤中のタンニン又はタンニン酸の添加量は、2~80g/Lとすることができる。タンニン又はタンニン酸の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、タンニン又はタンニン酸の添加量の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜の凝集力が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。
【0082】
また、化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中には、性能が損なわれない範囲内で、pH調整のために酸、アルカリ等を添加してもよい。
【0083】
上記のような各種の成分を含有する化成処理剤は、鋼板10の片面又は両面上に塗布されたのち、乾燥されて化成処理皮膜層40を形成する。本実施形態に係る表面処理鋼板1では、片面あたり10mg/m2以上の化成処理皮膜層40をめっき層20上に形成することが好ましい。化成処理皮膜層40の付着量は、より好ましくは20mg/m2以上であり、更に好ましくは50mg/m2以上である。また、本実施形態に係る表面処理鋼板1では、片面あたり1000mg/m2以下の化成処理皮膜層40をめっき層20上に形成することが好ましい。化成処理皮膜層40の付着量は、より好ましくは800mg/m2以下であり、更に好ましくは600mg/m2以下である。なお、かかる付着量に対応する化成処理皮膜層40の膜厚は、化成処理剤に含まれる成分にもよるが、概ね0.01~1μm程度となる。なお、かかる化成処理皮膜層40の膜厚は、着色皮膜層30の膜厚と同様に、断面観察により測定することが可能である。
【実施例】
【0084】
以下、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る表面処理鋼板1について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る表面処理鋼板1の一例にすぎず、本発明に係る表面処理鋼板1が下記の例に限定されるものではない。
【0085】
(1)めっき鋼板
以下の表1に示す、A1~A5の5種類の金属板を準備した。めっきを施した金属板の基材には、板厚0.7mmの鋼板を使用した。更に、これら金属板に対して、クロメートフリー系化成処理(CT-E300/日本パーカライジング社製)を60mg/m2施しためっき鋼板も準備した。化成処理に用いた処理液は、その成分としてシランカップリング剤を含有するものであり、かかる化成処理により形成される皮膜層は、化成処理皮膜層として機能する。なお、化成処理の有無は、以下の表6及び表7に記載した。
【0086】
(2)着色塗料の調製
着色皮膜層の形成に用いる着色塗料を調製した。造膜成分として機能するバインダー樹脂として、以下の表2に示す樹脂と同等のものを用意した。各樹脂溶液に対し、硬化剤としてメラミン系硬化剤(サイメル303/オルネクス社製と同等のもの)を、固形分割合で30質量%用意した。更に、樹脂粒子として以下の表3に示す粒子と同等のものを準備した。また、着色顔料として、以下の表4に示したアルミ顔料、酸化チタン、カーボンブラック(CB)と同等のものを準備した。また、防錆顔料として、以下の表5に示す化合物を準備した。これらの塗料組成物を、以下の表6及び表7に示した所定粒径・所定量で配合し、着色塗料を調製した。
【0087】
(3)サンプル作製
上記のようにして調製した着色塗料を、ロールコーターを用いてめっき鋼板の両面に塗布し、最高到達板温度(PMT)が200℃になるように加熱して、着色皮膜層を形成した。なお、作製した着色皮膜層の厚みは、先だって説明した方法に即して断面観察により測定し、得られた結果を、表6及び表7に示した。なお、表6及び表7において、「膜厚以上割合(%)」とは、着色被膜層30aにおいては、着色皮膜層30aの膜厚Ta以上の厚みGa(Ga≧Ta)を有する樹脂粒子303の個数の割合(%)を意味し、着色被膜層30bにおいては、着色被膜層30bの膜厚Tb以上の厚みGb(Gb≧Tb)を有する樹脂粒子303の個数の割合(%)を意味する。
【0088】
(4)サンプルの評価
上記方法により作製した各サンプルについて、以下のような基準に基づき性能を評価した。得られた評価結果を、以下の表8にあわせて示した。
【0089】
<耐面接触疵性>
以下のような手法により、耐面接触疵性を評価した。作製したサンプルを50mm角で2枚切断して、1枚を、着色皮膜層30aを上にした状態で固定した。その上に、他の1枚を、着色皮膜層30bを下にした状態で重ね、8.5kgf/cm2(1kgfは、約9.8Nである。)の条件で加圧した状態で90度回転させた後に、着色皮膜層30aの状態を以下のような基準で評価し、評点2以上を合格とした。
【0090】
耐面接触疵性の評価基準
5:塗膜剥離はほとんど認められず、加圧による光沢変化が一部認められる、もしくはほとんど認められない。
4:極僅かに塗膜剥離が認められ、加圧による光沢変化が一部認められる。
3:僅かに塗膜剥離が認められ、加圧による光沢変化が一部認められる。
2:僅かに塗膜剥離が認められ、加圧による光沢変化が認められる。
1:塗膜剥離が認められ、加圧による著しい光沢変化が認められる。
【0091】
<耐食性>
以下のような基準に基づき耐食性を評価した。試験板の端面をテープシールした後、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験(SST)を72時間行い、錆発生状況を観察し、下記の評価基準で評価し、評点2以上を合格とした。
【0092】
耐食性の評価基準
5:白錆発生面積が1%未満で赤錆発生なし。
4:白錆発生面積が1%以上3%未満で赤錆発生なし。
3:白錆発生面積が3%以上4%未満で赤錆発生なし。
2:白錆発生面積が4%以上5%未満で赤錆発生なし。
1:白錆発生面積が5%以上、又は、赤錆発生。
【0093】
<耐引っ掻き疵性>
参考性能として、以下のようなコインスクラッチ試験により、耐引っ掻き疵性を評価した。作製したサンプルの着色皮膜層30aに対し、硬貨を45度の角度で傾けた状態で接触させ、荷重500gでスクラッチした。各荷重で付けた疵を以下のような基準で評価し、評点2以上を合格とした。
【0094】
耐引っ掻き疵性の評価基準
5:塗膜剥離及び光沢変化は認められない。
4:塗膜剥離は認められないが、僅かに光沢変化が認められる。
3:僅かに塗膜剥離が認められ、光沢変化が認められる。
2:部分的に塗膜剥離が認められ、光沢変化が認められる。
1:塗膜が完全に剥離している。
【0095】
<耐プレッシャーマーク性>
参考性能として、以下のような基準に基づき耐プレッシャーマーク性を評価した。作製したサンプルを70mm角と50mm角にそれぞれ1枚ずつに切断した。70mm角のサンプルを、着色皮膜層30aを上にした状態で固定し、その上に、着色皮膜層30bを下にした状態で50mm角のサンプルを重ね、50℃、10MPaで5分間加圧した。2枚のサンプルを離した後に、70mm角のサンプルの着色皮膜層30aの状態を、以下のような基準で評価し、評点2以上を合格とした。
【0096】
耐プレッシャーマーク性の評価基準
4:正面及び斜め位置から観察して全く見えない。
3:正面から観察して見えないが、斜め位置から観察して僅かに加圧部の光沢変化が見える。
2:正面から観察して見えないが、斜め位置から観察して加圧部の光沢変化が見える。
1:正面から観察して見える、あるいは斜め位置から観察して加圧部全体の光沢変化が見える。
【0097】
<加工密着性>
参考性能として、以下のような基準に基づき加工密着性を評価した。作製したサンプルに対して、20℃雰囲気中で内R1mmの条件で90°折り曲げ加工を施した後、折り曲げ加工部外側のテープ剥離試験を実施した。テープ剥離部の外観を下記の評価基準で評価し、評点2以上を合格とした。
【0098】
加工部密着性の評価基準
4:塗膜剥離はほぼ認められない。
3:僅かに塗膜剥離が認められる。
2:部分的に塗膜剥離が認められる。
1:全体的に塗膜剥離が認められる。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
上記表8から明らかなように、本発明の実施例に該当するサンプルについては、優れた面接触疵への耐性を示し、かつ優れた耐食性を示す一方で、本発明の比較例に該当するサンプルについては、面接触疵への耐性、又は耐食性のいずれかの評価に劣り、面接触疵への耐性及び耐食性の両立を達成しなかった。
【0108】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0109】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲、後述するような本発明の技術的範囲に属する構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0110】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0111】
なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
(1)鋼板の両方の表面上に位置する、亜鉛を含有するめっき層と、
前記鋼板の一方の面における前記めっき層の上に位置する第1の着色皮膜層と、
前記鋼板の他方の面における前記めっき層の上に位置する第2の着色皮膜層と、
を備え、
前記第1の着色皮膜層の膜厚に対する、前記第2の着色皮膜層の膜厚の比が、0.1以上0.5以下であり、
前記第1の着色皮膜層及び前記第2の着色皮膜層は樹脂粒子を含み、
前記第1の着色皮膜層を膜厚方向に切断した断面を観察した際に、
観察される前記樹脂粒子について、前記第1の着色皮膜層の膜厚方向に占める長さを、前記樹脂粒子の厚みとしたときに、
観察される全ての前記樹脂粒子の個数に対する、前記第1の着色皮膜層の膜厚以上の厚みを有する前記樹脂粒子の個数の割合が、1%以上30%以下であり、
前記第2の着色皮膜層を膜厚方向に切断した断面を観察した際に、
観察される前記樹脂粒子について、前記第2の着色皮膜層の膜厚方向に占める長さを、前記樹脂粒子の厚みとしたときに、
観察される全ての前記樹脂粒子の個数に対する、前記第2の着色皮膜層の膜厚以上の厚みを有する前記樹脂粒子の個数の割合が、50%以上100%以下である、
表面処理鋼板。
(2)前記第1の着色皮膜層を断面観察した際に、前記第1の着色皮膜層の膜厚方向に対して直交する方向に1000μmの長さを第1の観察長とし、前記第1の観察長の範囲内で前記樹脂粒子が占める部位を前記膜厚方向に射影したときの前記樹脂粒子に対応する部位の前記膜厚方向に対して直交する方向の長さの合計を、第1の占有長としたときに、前記第1の観察長に対する前記第1の占有長の割合が15%以上40%以下であり、
前記第2の着色皮膜層の膜厚方向に対して直交する方向に1000μmの長さを第2の観察長とし、前記第2の観察長の範囲内で前記樹脂粒子が占める部位を前記膜厚方向に射影したときの前記樹脂粒子に対応する部位の前記膜厚方向に対して直交する方向の長さの合計を、第2の占有長としたときに、前記第2の観察長に対する前記第2の占有長の割合が5%以上15%以下である、上記(1)に記載の表面処理鋼板。
(3)前記第1の着色皮膜層の膜厚が3μm以上10μm以下である、上記(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
(4)前記第1の着色皮膜層に含まれる前記樹脂粒子の厚みが、前記第1の着色皮膜層の膜厚の2倍未満であり、
前記第2の着色皮膜層に含まれる前記樹脂粒子の厚みが、前記第2の着色皮膜層の膜厚の3倍未満である、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の表面処理鋼板。
(5)前記樹脂粒子がアクリル系樹脂粒子である、上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の表面処理鋼板。
(6)前記第1の着色皮膜層及び前記第2の着色皮膜層の造膜成分は、ガラス転移温度Tgが30℃以上70℃以下である、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の表面処理鋼板。
(7)前記鋼板の一方の面における前記めっき層と前記第1の着色皮膜層との間、及び、前記鋼板の他方の面における前記めっき層と前記第2の着色皮膜層との間に、化成処理皮膜層を更に備える、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の表面処理鋼板。
(8)前記樹脂粒子の平均粒子径は、3μm以上15μm以下である、上記(1)~(7)のいずれか一つに記載の表面処理鋼板。
【符号の説明】
【0112】
1 表面処理鋼板
10 鋼板
20 めっき層
30 着色皮膜層
40 化成処理皮膜層
301 造膜成分
303 樹脂粒子