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  • 特許-光学ガラス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/155 20060101AFI20241107BHJP
   C03B 19/00 20060101ALI20241107BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C03C3/155
C03B19/00 Z
G02B1/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020039803
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2020186161
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019088828
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 晋作
(72)【発明者】
【氏名】榎本 朋子
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020934(JP,A)
【文献】特開2018-020935(JP,A)
【文献】特開2014-196236(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137276(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129470(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 19/00
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、La 20~40%、Nb 50超~75%、B 0超~29%、を含有し、TiO を含有しないこと特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
モル%で、La+Nb 70を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
モル%で、La+Nb+B 80%以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
屈折率(nd)が2~2.35であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
アッベ数が5~40であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学ガラスを製造するための方法であって、
原料塊を浮遊させて保持した状態で、前記原料塊を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、前記溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする、光学ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学レンズ等に使用される光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ、顕微鏡及び内視鏡等に用いられる光学系の小型化や軽量化に伴い、使用される光学レンズ等の光学素子に対し、高屈折率かつ高分散の光学特性が求められている。光学素子に使用されるガラスをより高屈折率にするためには、ガラスの主要な骨格成分であるSiOやBの含有量を少なくし、La、Gd、Ta等の希土類酸化物、またはNbやTiOといった中間酸化物を多量に含有させる必要がある。しかし、骨格成分を少なくし、中間酸化物を多量に含有させると、ガラス形成能が低下し、ガラス化が困難になる。一般的な光学ガラスは、原料を坩堝等の溶融容器内で溶融し、冷却することにより作製する。ここで、ガラス形成能に劣るガラス組成の場合、従来の作製方法では溶融容器との接触界面を起点として結晶化が進行しやすい。
【0003】
ガラス化しにくい組成であっても、溶融容器との接触をなくし、溶融状態からの冷却速度を速めることでガラス化が可能となる。このような方法として、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器浮遊法(無容器凝固法)が知られている。当該方法を用いると、ガラスの融液が溶融容器にほとんど接触することがなく、また急速に冷却することが可能なため、上記のようなガラス化しにくい組成であってもガラス化が可能となる。例えば、特許文献1では、無容器浮遊法により、ガラス組成としてTiOとBaOのみを含有するガラスが作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4789086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のガラスを含め、屈折率1.8を超えるような高屈折率のガラスは、比較的失透しやすいため、無容器浮遊法を用いた場合であっても、大型化(例えば直径2mm以上)は困難である。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、高屈折率、高分散の光学特性を達成することのできる新規の光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、La、Nb及びBを必須成分として所定範囲で含有する光学ガラスにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の光学ガラスは、モル%で、La 5~40%、Nb 50超~90%、B 0超~30%、を含有すること特徴とする。本発明の光学ガラスは、LaとNbを多量に含有することにより、高屈折率、高分散の光学特性を達成している。なお、LaとNbの含有量が近いとLa-Nb系の結晶が析出しやすくなるため、本発明ではLaを40%以下と比較的少なくし、Nbを50%超と比較的多くしており、これにより結晶化を抑制している。また、ガラス骨格成分であるBを必須成分として含有させることにより、ガラス化しやすくしている。そのため、本発明の光学ガラスは、高屈折率、高分散の光学特性を達成するとともに、大径化することが可能である。
【0009】
本発明の光学ガラスは、モル%で、La+Nb 60%以上を含有することが好ましい。なお本発明において、「○+○+・・・」は各成分の含有量の合量を意味する。
【0010】
本発明の光学ガラスは、モル%で、La+Nb+B 80%以上を含有することが好ましい。
【0011】
本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が2~2.35であることが好ましい。
【0012】
本発明の光学ガラスは、アッベ数が5~40であることが好ましい。
【0013】
本発明の光学ガラスの製造方法は、上記の光学ガラスを製造するための方法であって、原料塊を浮遊させて保持した状態で、原料塊を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高屈折率、高分散の光学特性を達成することのできる新規の光学ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の光学ガラスを製造するための装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学ガラスは、モル%で、La 5~40%、Nb 50超~90%、B 0超~30%、を含有することを特徴とする。ガラス組成範囲をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。
【0017】
Laは屈折率を高め、ガラス化の安定性を高める成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。Laの含有量は5~40%であり、好ましくは7~39%、より好ましくは10~37%、さらに好ましくは15~35%、さらに好ましくは20~30%である。Laの含有量が少なすぎると、上記の効果が得にくくなる。一方、Laの含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。
【0018】
Nbは屈折率を高め、アッベ数を低下させる効果が大きい成分である。なお上述したように、本発明のガラス組成においては、Nbの含有量が少なくなると、LaとNbの含有量が近づき、La-Nb系の結晶が析出してガラス化しにくくなる傾向がある。一方、Nbの含有量が多すぎる場合も、ガラス化しにくくなる。従って、Nbの含有量は50超~90%であり、好ましくは51~85%、より好ましくは52~80%、さらに好ましくは53~75%、さらに好ましくは55~70%である。
【0019】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。また、ガラス転移点を低下させ、プレス成型を容易にする。ただし、Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。従って、Bの含有量は0超~30%であり、好ましくは0.1~20%、より好ましくは1~15%である。
【0020】
所望の光学特性を得るためには、La+Nbの含有量は60%以上、70%以上、特に80%以上であることが好ましい。La+Nbの含有量の上限は特に限定されないが、他成分の含有量を考慮し、100%未満、99.9%以下、99%以下、特に95%以下とすることが好ましい。
【0021】
所望の光学特性と大径化(例えば2mm以上、3mm以上、4mm以上、特に5mm以上)を達成するためには、La+Nb+Bの含有量は80%以上、85%以上、特に90%以上であることが好ましい。La+Nb+Bの含有量の上限は特に限定されず、100%であってもよいが、他成分を含有させる場合は、100%未満、99.9%以下、99%以下、特に95%以下とすることが好ましい。
【0022】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも、以下の成分を含有させることができる。
【0023】
Alはガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Alの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。従って、Alの含有量は、好ましくは0~20%、より好ましくは0~10%である。
【0024】
SiOはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。ただし、SiOの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。従って、SiOの含有量は、好ましくは0~20%、より好ましくは0~10%である。
【0025】
GeOは屈折率を高める成分であり、ガラス化範囲を広げる効果もある。ただし、GeOの含有量が多すぎると、原料コストが高くなる傾向がある。従って、GeOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%である。
【0026】
SnOは屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、還元により着色の原因となりやすい。従って、SnOの含有量は、好ましくは0~5%、より好ましくは0~3%である。
【0027】
はガラス骨格を構成する成分であり、ガラス化範囲を広げる効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、分相しやすくなる。従って、Pの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%である。
【0028】
TiOは屈折率を高める効果が大きい成分であり、化学的耐久性を高める効果もある。またアッベ数を低下させ高分散にする効果もある。TiOの含有量は0~20%、0.1~18%、1~15%、特に5~12%であることが好ましい。TiOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。なおTiOは着色剤としての効果も有するため、本発明の光学ガラスを後述するカラーフィルター等の着色を要する用途に使用する場合は、TiOを含有させることが好ましい。
【0029】
Taは屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、Taの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなり、また原料コストが高くなる傾向がある。従って、Taの含有量は、好ましくは0~20%、より好ましくは0~10%である。
【0030】
はガラス化の安定性を高め、屈折率を高める成分である。ただし、Yの含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。従って、Yの含有量は、好ましくは0~20%、より好ましくは0~10%である。
【0031】
Ybは屈折率を高める成分である。ただし、Ybの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。従って、Ybの含有量は、好ましくは0~20%、より好ましくは0~10%である。
【0032】
ZnO、MgO、CaO、SrO及びBaOはガラス化の安定性を高めたり、化学的耐久性を高める効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。従って、これらの成分の含有量は、好ましくは各々0~10%、より好ましくは各々0~5%である。
【0033】
LiO、NaO、KO及びCsOは溶融温度を低下させる効果があるが、屈折率を低下させるため、合量で0~10%であることが好ましく、0~5%であることがより好ましい。
【0034】
清澄剤としてSbを含有させることができる。ただし、着色を避けるため、あるいは環境面を考慮して、Sbの含有量は0.1%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0035】
PbO及びFは環境への負荷を考慮し、実質的に含有しないことが好ましい。
【0036】
本発明の光学ガラスを発光材料やカラーフィルター等の用途に用いる場合は、発光剤や着色剤となる遷移金属成分や希土類成分を含有させてもよい。具体的には、遷移金属酸化物としては、Cr、Mn、Fe、CoO、NiO、CuO、V、MoO、RuO等が挙げられる。希土類酸化物としては、CeO、Nd、Eu、Tb、Dy、Er等が挙げられる。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物は単独で含有させてもよく、2種以上を含有させてもよい。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物の含有量(2種以上含有させる場合は合量)は、0~5%、0.001~3%、0.01~2%、特に0.02~1%であることが好ましい。
【0037】
なお、La及びNbを多量に含有するガラスにおいて、上記のような遷移金属成分や希土類成分を添加すると、結晶化が促進されやすく、安定したガラスを得ることが困難になる傾向がある。一方、本発明ではガラス骨格成分であるBを必須成分として含有しているため、遷移金属成分や希土類成分を添加しても結晶化を抑制することができる。
【0038】
本発明の光学ガラスの屈折率は、好ましくは2以上、より好ましくは2.05以上である。例えば、本発明の光学ガラスをレンズとして使用する場合、屈折率を高めるほどレンズを薄くすることが可能となり、光学デバイスを小型化する上で有利となる。なお、屈折率の上限は、ガラス化の安定性を考慮して、好ましくは2.35以下、より好ましくは2.3以下である。
【0039】
本発明の光学ガラスのアッベ数は、好ましくは5~40、より好ましくは、10~30である。このようにすれば、例えば色収差補正用の光学レンズとして好適である。
【0040】
本発明の光学ガラスは例えば無容器浮遊法により作製することができる。図1は、無容器浮遊法によりガラス材を作製するための製造装置の一例を示す模式的断面図である。以下、図1を参照しながら、本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。
【0041】
ガラス材の製造装置1は成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bとを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は特に限定されず、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであってもよい。
【0042】
製造装置1を用いてガラス材を製造するに際しては、まず、上記組成のガラスとなるように調製した原料塊12を成形面10a上に配置する。原料塊12としては、例えば、原料粉末のプレス成形体、原料粉末の焼結体、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0043】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光を原料塊12に照射する。これにより原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得ることができる。原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらにはガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガスの噴出を継続し、原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【実施例
【0044】
以下、本発明の光学ガラスについて、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
表1~3は本発明の実施例(No.1~6、11~23)及び比較例(No.7~10)を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
まず表1~3に示すガラス組成となるように調製した原料粉末を0.2~0.5g秤量し、プレス成型した後、800℃で6時間焼成することにより原料塊を作製した。
【0050】
上記で得られた原料塊を用いて、図1に準じた装置を用いた無容器浮遊法によって略球形状のガラス材(直径3~7.5mm)を作製した。なお、熱源としては100W COレーザー発振器を用いた。また、原料塊を浮遊させるためのガスとして酸素ガスを用い、流量1~15L/minで供給した。
【0051】
得られたガラス材について、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
屈折率は、ガラス材を厚さ5mmのソーダ板基板上に接着後、直角研磨を行い、島津製作所製KPR-2000用いて、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で評価した。
【0053】
アッベ数は上記d線に対する屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)に対する屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd-1)/(nF-nC)}の式から算出した。
【0054】
表1~3に示すように、実施例であるNo.1~6、11~23の試料は、屈折率が2.11~2.27と高く、アッべ数が18.1~27.4と低く高分散であった。一方、比較例であるNo.7~10の試料はガラス化しなかった。
【符号の説明】
【0055】
1:ガラス材の製造装置
10:成形型
10a:成形面
10b:ガス噴出孔
11:ガス供給機構
12:原料塊
13:レーザー光照射装置
図1