IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-二軸配向ポリエステルフィルム 図1
  • 特許-二軸配向ポリエステルフィルム 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241107BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241107BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20241107BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
G11B5/73
G11B5/84 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020142669
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2021038388
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019159815
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真
(72)【発明者】
【氏名】室 伸次
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-153100(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091381(WO,A1)
【文献】特開2010-205321(JP,A)
【文献】特開2016-079410(JP,A)
【文献】特開2019-131787(JP,A)
【文献】特開2015-003408(JP,A)
【文献】特開2008-290365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
G11B 5/62-5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面について、非接触表面形状測定機で測定した際に、突起高さXを0.075μm、0.100μmおよび0.125μmとしたときに、その突起高さX以上となる突起の突起頻度の対数値yが、それぞれ以下の関係式(1)を満たし、かつ突起高さ分布に基づくベアリングカーブにおける0.4%面積に相当する突起高さが、65nm以上90nm未満であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
-24.9X+2.50≦y≦-24.9X+3.8 (1)
(ここで、Xは突起高さ(μm)であり、yは領域282μm×211μmの視野において、突起高さX以上となる突起の突起数の10を底とした対数値である。)
【請求項2】
前記二軸配向ポリエステルフィルムに含まれるポリエステルが、エチレンテレフタレートまたはエチレン-2,6ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とする請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの前記一方の表面と他方の表面を非接触表面形状測定機で測定した際、前記一方の表面の中心線平均表面粗さが他方の表面の中心線平均表面粗さよりも1nm以上粗い請求項1又は2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記二軸配向ポリエステルフィルムは、不活性粒子を含有するものである請求項1~3いずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記二軸配向ポリエステルフィルムは、2層以上の異なるポリエステル層が積層されたものである請求項1~4いずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向ポリエステルフィルムに関し、このフィルムは、例えば5TB(Tera Bytes)を超えるような超高密度記録媒体に用いるベースフィルムなど、極めて平滑な表面性が要求される用途などにおいて有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターシステム等において取り扱いが必要なデータ量の増大に伴い、磁気記録媒体への記録容量の大幅な増大が求められてきている。磁気記録媒体の表面性を高度に平滑にすることにより高密度記録を達成しようとすると、ベースフィルムの表面も平滑にするのが望ましい。しかし、ベースフィルムの表面を平滑にすればするほど、ベースフィルムの製造工程において、ロール状のフィルムの層間の空気を排除しにくくなり、製品を巻き取る際にシワが入りやすくなるなど、生産性の低下を招いてしまうという問題があった。
【0003】
このため、ベースフィルムの一方の表面には、ある程度の粗さの粗面を形成し、他方の表面に粗さの小さい平坦面を形成して、平坦面の側に磁性層を形成することが行なわれていた。例えば、特許文献1では、二層構造のポリエステルフィルムとすることで、粗面と平坦面を形成し、各層について、ポリエステルフィルムに含有する不活性粒子の平均粒子径と含有量を制御した上で、各層の表面について粒子含有ボイドを特定の範囲にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-116093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁気記録媒体の表面性を高度に平滑にすることにより高密度記録を達成しようとすると、ベースフィルムの粗面側の表面形状の影響も大きくなり、粗面の突起が磁性層表面に転写してしまい、信号の欠落を引き起こしてしまう場合があることが判明した。
【0006】
特に、5TBを超えるような超高密度記録媒体に用いるベースフィルムなど、極めて平滑な表面性が要求される用途においては、粗面の突起高さとその頻度の制御を高度に行なう必要があることが判明した。そして、特許文献1のポリエステルフィルムでは、単に突起の原因となるボイドの密度を制御しているだけのため、粗面の突起高さとその頻度の制御を高度に行なう方法としては、不十分であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ベースフィルムの製造工程における巻取り性に優れ、磁気記録テープとしたときの電磁変換特性に優れ、信号の欠落の少ない二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、粗面側の表面を非接触表面形状測定機で測定した際の突起高さの分布に基づいて、複数の突起高さの各頻度と、かつベアリングカーブにおける0.4%面積の高さを制御することで、磁気記録テープとしたときの電磁変換特性及び信号欠落の少なさ(以下、「磁気記録特性」と総称する場合がある)と、ベースフィルム製造工程での巻取り性を両立できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明には以下の内容が含まれる。
【0010】
(1) 少なくとも一方の表面について、非接触表面形状測定機で測定した際に、突起高さXを0.075μm、0.100μmおよび0.125μmとしたときに、その突起高さX以上となる突起の突起頻度の対数値yが、それぞれ以下の関係式(1)を満たし、かつ突起高さ分布に基づくベアリングカーブにおける0.4%面積に相当する突起高さが、65nm以上90nm未満であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
【0011】
y≦ -24.9X+3.8 (1)
(ここで、Xは突起高さ(μm)であり、yは領域282μm×211μmの視野において、突起高さX以上となる突起の突起数の10を底とした対数値である。)
【0012】
(2)前記二軸配向ポリエステルフィルムに含まれるポリエステルが、エチレンテレフタレートまたはエチレン-2,6ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とする(1)記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【0013】
(3)前記二軸配向ポリエステルフィルムの前記一方の表面と他方の表面を非接触表面形状測定機で測定した際、前記一方の表面の中心線平均表面粗さが他方の表面の中心線平均表面粗さよりも1nm以上粗い、(1)または(2)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【0014】
(4)前記二軸配向ポリエステルフィルムは、不活性粒子を含有するものである、(1)~(3)いずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【0015】
(5)前記二軸配向ポリエステルフィルムは、2層以上の異なるポリエステル層が積層されたものである、(1)~(4)いずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、5TB以上の超高密度記録媒体に用いるベースフィルムなどにおいて、ベースフィルムの製造工程における巻取り性に優れ、磁気記録テープとしたときの電磁変換特性に優れ、信号の欠落の少ないものとなる。このため、例えば本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを磁気記録テープに用いる場合、高密度記録化を実現でき、記憶容量の大きなデータストレージなどを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例1、比較例1および比較例2で得られた二軸配向ポリエステルフィルムの粗面について、非接触表面形状測定機で測定した際の突起高さと頻度の関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例1、比較例1および比較例2で得られた二軸配向ポリエステルフィルムの粗面について、非接触表面形状測定機で測定した際のベアリングカーブを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、詳述する。なお、説明の便宜上、フィルムの製膜方向を、機械軸方向、縦方向、長手方向、MD方向と称することがあり、製膜方向と厚み方向とに直交する方向を、幅方向、横方向、TD方向と称することがある。
【0019】
[二軸配向ポリエステルフィルム]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、主たる樹脂成分としてポリエステルを含むものであり、フィルムの二軸延伸等によって、高分子が二軸方向の配向性を有するものである。なお、「主たる樹脂成分」とは、樹脂成分中に、ポリエステルが50質量%以上含有されることを意味し、好ましくは70質量%、より好ましくは80質量%、最も好ましくは90質量%含有される場合である。
【0020】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の表面について、非接触表面形状測定機で測定した際に、突起高さXを0.075μm、0.100μmおよび0.125μmとしたときに、その突起高さX以上となる突起の突起頻度の対数値yが、それぞれ以下の関係式(1)を満たす。
【0021】
y≦ -24.9X+3.8 (1)
ここで、Xは突起高さ(μm)であり、yは領域282μm×211μmの視野において、突起高さX以上となる突起の突起数の10を底とした対数値である。また、非接触表面形状測定機としては、ZYGO製の商品名:New View7300を用い、測定条件としては50倍対物レンズを使用してズーム倍率0.5倍により測定倍率25倍、測定面積282μm×211μm(=0.0595mm)を採用することができる。なお、突起頻度は、突起高さを0.005μm毎に集計して突起数を求め、突起高さX以上となる突起を積算して突起頻度を求めたものである。
【0022】
つまり、yは、突起高さX=0.075μm、X=0.100μm、X=0.125μmの各々について、X以上、X以上、又はX以上の高さの突起の突起頻度Y、Y、又はYを求め、10を底とした対数値y=logY、y=logY、又はy=logYを求めたものである。関係式(1)を満たすとは、Xとy、Xとy、Xとyの各々の関係について、全てy≦ -24.9X+3.8 (1)を満たすことをいう。
【0023】
Xとyの関係が関係式(1)を満たさないとき、すなわち突起高さ0.075μm、0.100μm、0.125μmの突起数の頻度が多い場合、磁気記録媒体としたとき磁性層表面への突起の転写により、信号の欠落が起こりやすくなる。つまり、特に、5TBを超えるような超高密度記録媒体に用いるベースフィルムなど、極めて平滑な表面性が要求される用途においては、突起高さとその頻度の制御を高度に行なう必要があるところ、本発明のように、粗面側の表面を非接触表面形状測定機で測定した際の突起高さの分布に基づいて、複数の突起高さの各頻度を制御することで、磁気記録媒体としたときの磁性層表面への突起の転写による信号の欠落を効果的に抑制できると考えられる。
【0024】
なお、複数の突起高さの各頻度を制御する際に、各頻度の対数値yに対して、突起高さXの一次不等式の関係を規定しているのは、磁気テープとしたときに磁性層面に突起が転写して特性が低下してしまうのを効果的に防止するための条件として望ましいからである。例えば、図1に示すように、各頻度の対数値を縦軸とし突起高さを横軸としたときの関係が重要となる。
【0025】
このような観点より、関係式(1)に代えて、関係式(1’)を満たすことが好ましく、関係式(1’’)を満たすことがより好ましい。
【0026】
y≦ -24.9X+3.7 (1’)
-24.9X+2.0 ≦y≦ -24.9X+3.5 (1’’)
【0027】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、非接触表面形状測定機で測定した際(即ち、上記の複数の突起高さの各頻度の測定の際)の突起高さ分布に基づくベアリングカーブにおける0.4%面積に相当する突起高さが65nm以上90nm未満である(以下、この特性を関係式(1)を満たすことによる特性と併せて「本発明の表面特性」と総称する)。この高さが下限未満である場合、製品巻取り時にしわが発生してしまい生産性の低下を招く。一方で、この高さが上限以上である場合、磁気記録媒体としたとき磁性層表面への突起の転写により、信号の欠落が起こりやすくなったり、出力が低下したりする。
【0028】
なお、「ベアリングカーブ」は、「負荷曲線」とも呼ばれ、図2に示すように、非接触表面形状測定機などで測定される突起高さ分布に基づき、突起山部の高さが最も高いものから突起谷部の深さが最も深いもの(又は突起高さが最も小さいもの)までについて、各頻度を累積する際に頻度の総数を百として、各高さまでの累積頻度を百分率で示した曲線である。また、「0.4%面積に相当する突起高さ」とは、ベアリングカーブにおいて前記百分率(突起山部の高さが最も高い側からの百分率)が0.4%に相当する突起高さを意味する。
【0029】
このような突起高さは、全ての突起高さのなかで、突起山部における最も高い部分の所定の頻度割合で存在する突起高さの下限値を示しており、複数の突起高さの各頻度の絶対値を制御することになる関係式(1)に加えて、ベアリングカーブに基づく突起高さの制御によって、相対的な頻度による突起高さの指標が得られることで、より高度な表面形状の制御を行なうことができる。
【0030】
このような観点より、好ましいベアリングカーブにおける0.4%面積の高さは、67~87nmの範囲である。
【0031】
上記のような本発明の表面特性は、二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面において満足すればよいが、二軸配向ポリエステルフィルムの両面において満足するよりも、片面において満足することが、粗面側表面の形状を制御して、製造工程における巻取り性と磁気記録特性とを両立させる観点や、他方の表面の平滑性を高める観点より好ましい。
【0032】
二軸配向ポリエステルフィルムの中心線平均表面粗さ(Ra)は、製造工程における巻取り性と磁気記録特性とを両立させる観点から、少なくとも本発明の表面特性を満足する側の表面が、3~9nmであることが好ましく、4~8nmであることがより好ましい。
【0033】
また、製造工程における巻取り性と磁気記録特性とを両立させる観点から、本発明の表面特性を満足する側の表面と、他方の表面とで、中心線平均表面粗さ(Ra)を変えることが好ましい。具体的には、二軸配向ポリエステルフィルムの一方の表面と他方の表面を非接触表面形状測定機で測定した際、一方の表面の中心線平均表面粗さが他方の表面の中心線平均表面粗さよりも1nm以上粗いことが好ましく、2nm以上粗いことがより好ましい。
【0034】
[ポリエステル]
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムに含まれるポリエステルとしては、二塩基酸とグリコールを構成成分とするポリエステルが好ましく挙げられる。例えば、芳香族二塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、ジブロモテレフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、6,6’-(エチレンジオキシ)ジ-2-ナフトエ酸などを用いることができる。また、脂環族二塩基酸としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などを用いることができる。
【0035】
グリコールとしては、脂肪族ジオールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができ、芳香族ジオールとして、ナフタレンジオール、2,2ビス(4-ヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ハイドロキノンなどを用いることができ、脂環族ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどを用いることができる。本発明におけるポリエステルとしては、エチレンテレフタレートまたはエチレン-2,6ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが特に好ましい。
【0036】
さらに、本発明におけるポリエステルはフィルムにする観点から実質的に線状であることが好ましく、実質的に線状である範囲内で3官能以上の多官能化合物、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸、没食子酸などを共重合してもよく、また単官能化合物、例えばo-ベンゾイル安息香酸、ナフトエ酸等を添加反応させてもよい。また、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルやポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルやポリカプロラクトンに代表される脂肪族ポリエステルなどを共重合してもよい。
【0037】
本発明におけるポリエステルは、2種以上のものをブレンドした組成物として用いてもよく、例えば樹脂成分中にポリエステルを50質量%以上含むものであれば、ポリエステル以外の樹脂をブレンドしてもよい。
【0038】
本発明に用いられるポリエステルの固有粘度(オルトクロロフェノール中、25℃で測定)は、溶融混練性、製膜性、溶融押出時の分解性等の観点から、下限値は好ましくは0.50dl/g、より好ましい下限値は0.51dl/g、最も好ましい下限値は0.52dl/gである。特に後述のポリエーテルイミドなど他の樹脂をブレンドする場合は、前記固有粘度が下限以上であることが溶融混練性の観点からも好ましい。
【0039】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、前述の通り、2種以上のものをブレンドした組成物で形成されてもよく、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有していることも好ましい態様の一つである。特にポリエーテルイミドまたはポリアリレートのいずれかを含有していることが好ましい。ポリエーテルイミドとは、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーであり、溶融成形性を有するポリマーであれば、特に限定されない。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、ポリエーテルイミドの主鎖に環状イミド、エーテル単位以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていてもよい。
【0040】
ポリアリレートとは、2価フェノールとフタル酸・カルボン酸などの2塩基酸との重縮合を基本構成とする、非晶性の熱可塑性樹脂に属する合成樹脂である。
【0041】
[不活性粒子]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の表面の特定の突起高さにおける突起頻度や特定ベアリング面積となる高さを適正な範囲とするために、二軸配向ポリエステルフィルムを形成するポリエステル樹脂中に不活性粒子を含有させることが好ましい。
【0042】
不活性粒子の種類としては、球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。粒子は中空であっても中空でなくても構わない。これらの1種もしくは2種以上を選択して用いることもできる。
【0043】
不活性粒子の大きさは、0.01μm以上0.8μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.05μm以上0.6μm以下、特に好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。また、全体としての不活性粒子の平均粒子径は、0.05μm以上0.6μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。全体としての不活性粒子の平均粒子径がこの範囲の中で、さらに平均粒子径が0.25μm以上0.35μm以下の不活性粒子を少なくとも一部に含有するものが好ましい。つまり、平均粒子径が0.25μm以上0.35μm以下の不活性粒子と、平均粒子径が0.05μm以上0.25μm未満の不活性粒子とを含むことが好ましい。
【0044】
ポリエステル樹脂への不活性粒子の添加方法については、樹脂を構成する原料の成分の一部に粒子を添加してスラリー状としてそのまま重合を行なう重合添加と、重合された樹脂に二軸押出機などを用いて添加する混錬や、さらには不活性粒子の含有量が多いマスターポリマーを準備し、これを所望となる含有量になるよう樹脂で希釈するなど複数の方法がある。
【0045】
好ましい不活性粒子の添加量は、前述の一方の表面を形成するポリエステルの層の質量を基準と対して、0.001質量%以上2質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下である。また、前述の平均粒子径が0.25μm以上0.35μm以下の不活性粒子を含有する場合、平均粒子径が0.25μm以上0.35μm以下の不活性粒子の含有量は0.02質量%以上0.07質量%以下であることが好ましい。また、平均粒子径が0.05μm以上0.25μm未満の不活性粒子を0.03質量%以上0.5質量%以下で含有することが好ましい。
【0046】
[層構成]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの層構成は単一層としても良いし、表裏の表面粗さが異なるように2層以上のポリエステル層を積層したものとしても良い。特に磁気記録媒体の基材として用いる場合には、2層以上の層構成とすることが好ましい。2層以上の構成とする場合に最外層を構成する樹脂には粒子を添加しない場合もありうる。
【0047】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、磁性層との密着性向上やフィルム自体の滑り性向上を目的として、本発明の効果を損なわない範囲でコーティング層を設けても構わない。その場合、コーティング層の表面又はコーティング層を設けていない側の表面が、本発明の表面特性を満たせばよいが、コーティング層を設けていない側の表面が、本発明の表面特性を満たすことが好ましい。
【0048】
[二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法は、それ自体公知の方法を採用でき、例えばポリマーを単一の押出機を用いてダイからシート状に押出するか、または、二つ以上の押出機を用いて異なるポリマーを溶融状態で積層した後にダイからシート状に押出し、得られたシート状物を冷却固化することで、単層または積層未延伸フィルムとする工程、そして得られた未延伸フィルムを、好ましくは一方向または直交する二方向に延伸し、さらに熱処理することで製造できる。
【0049】
溶融状態で押し出す工程での温度は、未溶融物がなく、過度に樹脂の熱劣化が進まない温度であれば特に制限されず、例えば、樹脂の融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で行うことが好ましい。
【0050】
つぎに、冷却については、得られる未延伸フィルムの平坦性を維持しつつ、厚み斑も少なくするために、フィルム製膜方向に沿ってダイの下方に設置された回転する冷却ドラムを用い、それにシート状物を密着させて冷却するのが好ましい。
【0051】
その際、本発明の表面特性を実現する上で、冷却ドラムの表面の平滑性を高めることが好ましく、冷却ドラムの表面仕上げを1.0S以下とすることが好ましく、0.5S以下とすることが、ベアリングカーブにおける0.4%面積の高さを精度よく制御するという観点でより好ましい。
【0052】
所定の厚みとヤング率が達成できれば未延伸フィルムのままとすることも不可能ではないが、より優れた高温での加工性を発現させるために、未延伸フィルムに延伸操作を施して所望の厚みとヤング率を有するフィルムを作製することが好ましい。
【0053】
延伸方式には縦一軸延伸、横一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの方法があり特に制限されないが、ここでは逐次二軸延伸について説明する。縦一軸延伸は逐次二軸延伸から横延伸を省略したもの、横一軸延伸は逐次二軸延伸から縦延伸を省略したもの、同時二軸延伸は縦横の延伸を同時に行なうものである。逐次二軸延伸では、未延伸フィルムを、一軸方向(通常は縦方向)に樹脂のガラス転移温度(Tg:℃)を基準として、(Tg-10)℃~(Tg+60)℃の温度で2倍以上、好ましくは2.5倍以上の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向と直交する方向にTg~(Tg+60)℃の温度で2倍以上、好ましくは2.5倍以上の倍率で延伸するのが好ましい。さらに必要に応じて縦方向および/または横方向に再度延伸してもよい。
【0054】
特に、横方向への延伸は、2段階に分けて実施することが、本発明における特定の突起高さの範囲における突起頻度や、ベアリングカーブの0.4%面積における高さを特定の範囲とするのに好適である。さらにまた、延伸後の樹脂フィルムは、樹脂の融点をTmとして、(Tm-70)℃~(Tm-10)℃の温度で熱固定することができる。熱固定時間は0.1~60秒が好ましい。
【0055】
[磁気記録テープ]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、磁気記録テープ、さらに高密度磁気記録テープ、特にディジタル記録型磁気記録テープのベースフィルムとして好ましく用いられる。つまり、当該磁気記録テープは、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムをベースフィルムとして含むものである。そこで、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを用いた磁気記録テープについて、さらに説明する。
【0056】
磁気記録テープは、上述の本発明の二軸配向ポリエステルフィルムに磁性層を形成することで製造できる。その際、本発明の表面特性を満足する表面の裏側面に対して、磁性層を形成するのが好ましい。なお、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの表面には、磁性層などとの接着性を向上させるために、前述の通り、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の易接着機能を有するコーティング層などを形成しても良い。
【0057】
磁気記録テープを形成する磁性層は、特に制限されないが、鉄または鉄を主成分とする針状微細磁性粉やバリウムフェライトをポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のバインダーに均一分散し、その塗液を塗布して形成したものであり、前述のとおり、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを使用することで、寸法安定性と電磁変換特性やエラーレート性能に選りすぐれた磁気記録テープとすることができる。
【0058】
ところで、前述の通り記録密度を高めていくには磁性体を微細化していくことが必要で、そのため塗液から溶剤などの除去が難しくなり、加工性を維持しようとすると、乾燥などをより高温で行う必要がでてきた。
【0059】
なお、磁性層は、その厚みが1μm以下、さらに0.02~0.5μmとなるように塗布するのが、特に短波長領域での出力、S/N、C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用塗布型磁気記録テープとする観点から好ましい。また、必要に応じて、塗布型磁性層の下地層として、微細な酸化チタン粒子等を含有する非磁性層を磁性層と同様の有機バインダー中に分散し、塗設することも好ましい。
【0060】
また、磁性層の表面には、目的、用途、必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護層、含フッ素カルボン酸系潤滑層を順次設け、さらに他方の表面に、公知のバックコート層を設けてもよい。
【0061】
このようにして得られる塗布型磁気記録テープは、LTO、エンタープライズ等のデータ用途の磁気記録テープとして極めて有用である。特に本発明によれば、転写を抑制することにより平滑な磁性層表面の実現が可能となることからリニアテープにおける記録密度を飛躍的に向上させることが可能になり、特に記憶容量が5TBを超えるような超高密度記録媒体に好適に用いることができる。
【実施例
【0062】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。以下、特に断りのない限り、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」を意味する。
【0063】
(1)フィルムの厚み
ゴミが入らないようにフィルムを10枚重ね、打点式電子マイクロメータにて厚みを測定し、1枚当たりのフィルム厚みを計算した。
【0064】
(2)表面粗さ
非接触表面形状測定機(ZYGO製:New View7300)を用い、50倍対物レンズを使用してズーム倍率0.5倍により測定倍率25倍、測定面積282μm×211μm(=0.0595mm)の条件にて測定箇所を変えて10回測定を行ない、その平均値を中心線平均表面粗さ(Ra)とした。なお、実施例等において、中心線平均表面粗さ(Ra)が大きい方の面を粗面、小さい方の面を平坦面という。
【0065】
(3)突起頻度
上記表面粗さ測定で得られたRaが大きい面(粗面)の測定データについて、該表面形状測定機に内蔵された解析ソフトMetro ProにてReference Bandを10nmに指定し、5nmのスライスレベルにおけるPeaksを突起として抜き出し、突起高さを0.005μm毎に集計して突起数を求め、高い方の突起から突起数を積算し、N=10の平均値を突起頻度とした。ここで突起高さ0.075μm、0.100μm、0.125μmにおける突起頻度について、10を底とする対数値を求めた。また、ここでいう突起高さ0.075μm、0.100μm、0.125μmの突起頻度とは、それぞれ突起高さ0.075μm以上、0.100μm以上、0.125μm以上の突起頻度を意味する。なお、図1は、実施例1、比較例1および比較例2で得られた二軸配向ポリエステルフィルムの粗面について、非接触表面形状測定機で測定した際の突起高さと頻度の関係を示すグラフである。
【0066】
(4)ベアリングカーブ0.4%高さ
上記表面粗さ測定で得られたRaが大きい面(粗面)の測定データから解析ソフト(Image Metrology社製:SPIP)にてベアリングカーブを作成し、このベアリングカーブにおけるベアリング面積が0.4%のスライスレベルを高さとして読み取り、N=10の平均値を求めた。なお、図2には、実施例1、比較例1および比較例2で得られた二軸配向ポリエステルフィルムの粗面について、非接触表面形状測定機で測定した際のベアリングカーブを示す。
【0067】
(5)フィルム巻取り性
二軸配向ポリエステルフィルムを製膜していったん巻き取った後、幅1m、長さ10,000mのサイズにスリットしながら速度80m/分で100本巻取り、しわや端面ずれ、表面突起などの欠点のない良品の割合から判定した。
◎;良品割合が95%以上
○;良品割合が90%以上
×;良品割合が90%未満。
【0068】
(6)磁気記録テープの作製
1m幅にスリットしたフィルムを、張力2kg/mmで搬送させ、以下の記載に従って、支持体の一方の表面に磁性塗料および非磁性塗料を塗布し、他方の面にバックコート層を塗布し、12.65mm幅にスリットし、パンケーキ(裁断ロール)を作製する。次いで、このパンケーキから長さ900m分をカセットに組み込んで、磁気記録テープとした。
<磁性層形成用塗布液>
バリウムフェライト磁性粉末 100部
(板径:20.5nm、板厚:7.6nm、板状比:2.7、Hc:191kA/m(≒2400Oe)
飽和磁化:44Am/kg、BET比表面積:60m/g)
ポリウレタン樹脂 12部
重量平均分子量 10,000
スルホン酸官能基 0.5meq/g
α-アルミナ HIT60(住友化学社製) 8部
カーボンブラック #55(旭カーボン社製)
粒子サイズ0.015μm 0.5部
ステアリン酸 0.5部
ブチルステアレート 2部
メチルエチルケトン 180部
シクロヘキサノン 100部
<非磁性層形成用塗布液>
非磁性粉体 α酸化鉄 85部
平均長軸長0.09μm、BET法による比表面積 50m/g
pH 7
DBP吸油量 27~38ml/100g
表面処理層Al 8質量%
カーボンブラック 15部
“コンダクテックス”(登録商標)SC-U(コロンビアンカーボン社製)
ポリウレタン樹脂 UR8200(東洋紡社製) 22部
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 205部
シクロヘキサノン 135部
上記の塗布液(磁性層形成用塗布液、非磁性層形成用塗布液)のそれぞれについて、各成分をニーダで混練した。1.0mmφのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65体積%充填する量を入れた横型サンドミルに、塗布液をポンプで通液し、2,000rpmで120分間(実質的に分散部に滞留した時間)、分散させた。得られた分散液にポリイソシアネートを非磁性層の塗料には5.0部、磁性層の塗料には2.5部を加え、さらにメチルエチルケトン3部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
【0069】
得られた非磁性層形成用塗布液を、フィルムの平坦面上に乾燥後の厚さが0.6μmになるように塗布乾燥させた後、磁性層形成用塗布液を乾燥後の磁性層の厚さが0.07μmになるように塗布を行い、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに6,000G(600mT)の磁力を持つコバルト磁石と6,000G(600mT)の磁力を持つソレノイドにより配向させ乾燥させた。
【0070】
その後、カレンダ後の厚みが0.4μmとなるようにバックコート層(カーボンブラック 平均粒子径:17nm 100部、炭酸カルシウム平均粒子径:40nm 80部、αアルミナ 平均粒子径:200nm 5部をポリウレタン樹脂、ポリイソシアネートに分散)をフィルムの粗面上に塗布した。次いでカレンダで温度90℃、線圧300kg/cm(294kN/m)にてカレンダ処理を行った後、70℃で、48時間キュアリングした。さらに、スリット品の送り出し、巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性面に押し当たるように取り付け、テープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行い、磁気記録テープを得た。
【0071】
(7)電磁変換特性
記録ヘッド(MIG、ギャップ0.15μm、1.8T)と再生用GMRヘッドをドラムテスターに取り付けて上記(6)により得られた磁気記録テープの出力を測定した。ヘッド/テープの相対速度は15m/secとし、トラック密度16KTPI、線記録密度400Kbpiの信号を記録した後、出力とノイズの比を電磁変換特性とした。実施例1を0dBとして、+2dB以上を◎、+2dB未満~0dBを〇、0dB未満を×とした。
【0072】
(8)ドロップアウト
上記(6)により得られた磁気記録テープを、IBM社製LTO8ドライブに装填してデータ信号を14GB記録し、それを再生した。平均信号振幅に対して50%以下の振幅(P-P値)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスをドロップアウトとして検出した。なお、ドロップアウトは900m長1巻を評価し、1m当たりの個数に換算して、下記の基準で判定する。
◎:ドロップアウト 3個/m未満
○:ドロップアウト 3個/m以上、9個/m未満
×:ドロップアウト 9個/m以上。
【0073】
[実施例1]
粗面側のポリエステル層を形成するための押出機1と、平坦面側のポリエステル層を形成するための押出機2の2台の押出機を用いて、以下のようにして共押出しにより積層未延伸フィルムを作製した。押出機1には平均粒子径0.3μmの架橋ポリスチレン粒子を0.06質量%と0.1μmの球状シリカ粒子を0.12%とを固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.60dl/gのポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートに含有させ、PEN樹脂組成物1を作製した。このPEN樹脂組成物1をチップの状態で180℃にて5時間乾燥後に供給した。押出機2には、平均粒子径0.1μmの球状シリカ0.1質量%を固有粘度0.60dl/gのポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートに含有させ、PEN樹脂組成物2を作製した。このPEN樹脂組成物2をPEN樹脂組成物1と同様に乾燥してから供給して、樹脂1と2の厚み比が55/45となるように合流させ、T型押出ダイから、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上に、PEN樹脂組成物1が接するように押出して、急冷固化せしめ、積層未延伸フィルムを得た。
【0074】
このようにして得られた積層未延伸フィルムを120℃にて予熱し、更に低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱して4.8倍に延伸し、急冷し、続いてテンターに供給し、150℃にて横方向に4.6倍延伸し、その後急冷したのちに再度180℃に加熱して横方向に1.25倍延伸し、215℃にて3秒間熱固定して厚み4.5μmの積層構成の二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0075】
[実施例2~4]
添加する粒子の種類と添加量とフィルム厚みを表1の通り変更する以外は実施例1と同様にして、積層構成の二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0076】
<PET系原料の作製>
(1-a)PETペレットの作製:テレフタル酸ジメチル194質量部とエチレングリコール124質量部とをエステル交換反応装置に仕込み、内容物を140℃に加熱して溶解した。その後、内容物を撹拌しながら酢酸マグネシウム四水和物0.3質量部および三酸化アンチモン0.05質量部を加え、140~230℃でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。次いで、リン酸トリメチルの5質量%エチレングリコール溶液を0.5質量部(リン酸トリメチルとして0.025質量部)とリン酸二水素ナトリウム2水和物の5質量%エチレングリコール溶液を0.3質量部(リン酸二水素ナトリウム2水和物として0.015質量部)添加した。
【0077】
トリメチルリン酸のエチレングリコール溶液を添加すると反応内容物の温度が低下する。そこで余剰のエチレングリコールを留出させながら反応内容物の温度が230℃に復帰するまで撹拌を継続した。このようにしてエステル交換反応装置内の反応内容物の温度が230℃に達した後、反応内容物を重合装置へ移行した。
【0078】
移行後、反応系を230℃から275℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を0.1kPaまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。最終温度、最終圧力に到達した後、2時間(重合を始めて3時間)反応させたところ、重合装置の撹拌トルクが所定の値(重合装置の仕様によって具体的な値は異なるが、本重合装置にて固有粘度0.55のポリエチレンテレフタレートが示す値を所定の値とした)を示した。そこで反応系を窒素パージし常圧に戻して重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングして固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.55dl/gのポリエチレンテレフタレートのPETペレットを得た(原料-1a)。
【0079】
回転型真空重合装置を用いて、上記のPETペレット(原料-1a)を0.1kPaの減圧下230℃の温度で長時間加熱処理し、固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)が0.70dl/gになるまで固相重合を行った(原料-1ak)。
【0080】
(2)粒子含有PETペレット(原料-2a)の作製:280℃に加熱された同方向回転タイプのベント式2軸混練押出機に、上述の固相重合PETペレット(原料-1ak:処理時間2時間)90質量部と平均粒子径0.30μmの架橋ポリスチレン粒子の10質量%水スラリーを10質量部(架橋ポリスチレン粒子として1質量部)を供給し、ベント孔を1kPa以下の減圧度に保持し水分を除去し、架橋ポリスチレン粒子を1質量%含有する固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.62dl/gの粒子含有ペレット(原料-2a)を得た。
【0081】
(3)粒子含有PETペレット(原料-2b)の作製:280℃に加熱された同方向回転タイプのベント式2軸混練押出機に、上述の固相重合PETペレット(原料-1ak:処理時間2時間)90質量部と平均粒子径0.10μmの球状シリカ粒子の10質量%水スラリーを10質量部(球状シリカ粒子として1質量部)を供給し、ベント孔を1kPa以下の減圧度に保持し水分を除去し、球状シリカ粒子を1質量%含有する固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.62dl/gの粒子含有ペレット(原料-2b)を得た。
【0082】
(4)2成分組成物(質量比PET/PEI=50/50)ペレット(原料-3)の作製:温度280℃に加熱されたニーディングパドル混練部を3箇所設けた同方向回転タイプのベント式2軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に、上記方法で得られた固相重合PETペレット(原料-1ak:処理時間2時間)とSABICイノベーティブプラスチック社製のPEI“Ultem”(登録商標)1010のペレットを供給して、剪断速度100sec-1、滞留時間1分にて溶融押出し、PEIを50質量%含有した2成分組成物ペレットを得た。なお、作製した2成分組成物ペレットのガラス転移温度は150℃であった(原料-3)。
【0083】
[実施例5]
粗面側のポリエステル層を形成するための押出機1と、平坦面側のポリエステル層を形成するための押出機2の2台の押出機を用いて、以下のようにして共押出しにより積層未延伸フィルムを作製した。押出機1にはPETペレット(原料-1ak)を74質量部、粒子含有PETペレット(原料-2a)を4質量部と粒子含有PETペレット(原料-2b)を12質量部および2成分組成物ペレット(原料―3)を10質量部、それぞれ170℃で3時間乾燥したのちに供給し、押出機2にはPETペレット(原料-1ak)を84質量部、粒子含有PETペレット(原料-2b)を6質量部、および2成分組成物ペレット(原料―3)を10質量部、それぞれ170℃で3時間乾燥したのちに供給した。それぞれの押出機にて溶融状態としたのち、溶融状態で2層の樹脂を層厚み比が粗面側/平坦面側=10/90となるように合流させ押出ダイから、表面仕上げ0.3S、表面温度20℃に保持したキャスティングドラム上に、粗面側が接するように押出して、急冷固化せしめ、積層未延伸フィルムを得た。
【0084】
このようにして得られた積層未延伸フィルムを70℃にて予熱し、更に低速、高速のロール間で14mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱して3倍に延伸し、急冷し、続いてテンターに供給し、100℃にて横方向に4.5倍延伸し、205℃にて3秒間熱固定して厚み4.5μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0085】
[比較例1~2、比較例4]
添加する粒子の種類と添加量を表1の通り変更する以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
実施例1と同様な操作を繰り返して、積層未延伸フィルムを得た。このようにして得られた積層未延伸フィルムを120℃にて予熱し、更に低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱して4.8倍に延伸し、急冷し、続いてテンターに供給し、170℃にて横方向に5.75倍延伸し、215℃にて3秒間熱固定して厚み4.5μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1中のPENはポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート、PETはポリエチレンテレフタレート、PEIはポリエーテルイミド、架橋Pstは架橋ポリスチレン粒子、球状シリカは球状シリカ粒子を意味する。
【0089】
表1に示すように、実施例1~5の二軸配向ポリエステルフィルムは、関係式(1)を満たし、かつベアリングカーブにおける0.4%面積の高さが65nm以上90nm未満であるため、ベースフィルムの製造工程における巻取り性に優れ、磁気記録テープとしたときの電磁変換特性に優れ、信号の欠落の少ないものであった。
【0090】
これに対して、関係式(1)を満たさずベアリングカーブにおける0.4%面積の高さが大きすぎる比較例1は、巻取り性は良好であったが、磁気記録テープとしたときの特性に劣り、ベアリングカーブにおける0.4%面積の高さが小さすぎる比較例2では、磁気記録テープ特性は良好であったが、巻取り性が良くなかった。関係式(1)を満たさずベアリングカーブにおける0.4%面積の高さが大きすぎる比較例3では、表面粗さが大きく磁気記録テープとしたときの特性が劣るものであった。0.4%面積の高さが大きすぎる比較例4では、巻取り性は良好であったが、テープ特性は不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、特に高容量のデータストレージなどの磁気記録テープのベースフィルムに好適に用いることができ、高密度記録化を実現でき、記憶容量の大きなデータストレージなどとして、好適に用いることができる。
図1
図2