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特許7583357撥水レンズ保護膜用樹脂組成物及び撥水レンズを保護する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】撥水レンズ保護膜用樹脂組成物及び撥水レンズを保護する方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/18 20150101AFI20241107BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20241107BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
G02B1/18
G02C7/02
G02C13/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020165949
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057609
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直志
(72)【発明者】
【氏名】權田 淳二
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/073364(WO,A1)
【文献】特開2015-223688(JP,A)
【文献】特開2009-109611(JP,A)
【文献】特開2017-125178(JP,A)
【文献】特開2015-044936(JP,A)
【文献】特開2004-122238(JP,A)
【文献】特開2013-228437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0292787(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0013292(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/18
G02C 7/02、13/00
B24B 9/14
C09J 4/02、11/06-11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が200~30000である多官能(メタ)アクリレートと、
(B)光重合開始剤と、
(C)ノニオン系界面活性剤と、
(D)多官能チオール化合物を含有し、
(D)のチオール基数と(A)の(メタ)アクリロキシ基数との官能基比((D)/(A))が0.3~2.0である撥水レンズ保護膜用樹脂組成物。
【請求項2】
(C)ノニオン系界面活性剤がフッ素を含有し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中に0.1質量部配合した際の表面張力が26.0mN/mm以下となるフッ素系ノニオン性界面活性剤である、請求項1記載の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物。
【請求項3】
照度50~3000mW/cmのLED光源を用いた際、積算光量5000mJ/cm以下で硬化可能である、請求項1又は請求項2に記載の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物。
【請求項4】
撥水レンズに請求項1から請求項3のいずれかに記載の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物を塗布、硬化してなる保護膜を設けることにより、撥水レンズを保護する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超撥水レンズの周縁加工時にレンズ表面を保護する撥水レンズ保護膜用樹脂組成物に関する。また、超撥水レンズの周縁加工時に、加工装置にレンズを保持するために撥水レンズを保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは眼鏡フレームの枠形状に合うよう加工装置を用いて周縁を加工する。この加工装置は、一対のレンズチャック軸に眼鏡レンズを保持し、レンズチャック軸の回転によりレンズが回転され、砥石等の加工具がレンズに押し当てられることにより、所望の形状に加工する。その際、眼鏡レンズには両面テープで冶具を貼り付け、その冶具を介してレンズチャック軸に保持される。
近年、水や油など汚れが付着しにくい撥水・撥油物質がレンズ表面にコーティングされた撥水レンズが多く使用されるようになり、更に防汚性能を高めた超撥水レンズも開発されている。これら撥水レンズはその表面が滑りやすいため、加工する際張り付ける両面テープの粘着力が十分でなく、撥水処理が施されていないレンズと同様の加工法では両面テープが滑り、レンズチャック軸の回転角度に対してレンズの回転角度がずれてしまう、いわゆる軸ずれが発生するという問題があった。
【0003】
そこで、軸ずれを防ぐ方法として、レンズ表面に滑りを防止する保護膜を設ける手法がある。この手法では、レンズ表面に冶具固定用の両面テープ及びレンズ表面と良好な接着性を有する保護層を形成し、レンズ加工時の軸ずれが防止できる。そして、加工後はレンズから容易に保護膜を剥がすことで撥水性を保ったままレンズの加工を可能とするものである。
しかし、この保護膜を形成する際、熱硬化型保護膜では硬化時の熱による影響で、撥水層にクラックが入り、表面の平滑性が失われることから撥水性が低下してしまう問題があった。また、光硬化型保護膜であっても、広い波長範囲に発光を持つ水銀ランプやメタルハライドランプを光源用いて硬化させる場合、レンズが照射光を吸収し発熱するためクラックが発生してしまう問題があった。
【0004】
特許文献1では撥水機能を有するレンズ上に無機物をコロイド状に分散させた有機物ポリマーからなる熱硬化型保護膜を形成する手法が開示されている。
特許文献2では撥水機能を有するレンズ上に金属酸化物を含む光硬化型保護膜を形成する手法が開示されている。
特許文献3では被着体から硬化物を剥離させるのに必要な適度な剥離強度を有するとともに、硬化物が適度な屈曲性を有する仮固定剤として光硬化型アクリル樹脂組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、前述した文献では塗工する対象基材について撥水・撥油処理されたレンズといった記載のみで、さらに防汚性に優れた超撥水と呼ばれる機能を備えたレンズに対しては、塗工性や、レンズとの密着力が不足し軸ずれ防止性能が低いといった課題があった。
また、保護膜形成時の熱影響については近年発光波長範囲が狭いUV-LED照射装置(発光波長365或いは380-405nm)が注目されている。その中でもなるべく可視光に近い波長光をピーク波長にもつ光源が好ましく、特にピーク波長として395nm以上の光源ではレンズの発熱なく保護膜を硬化させることが可能となるが、一般的に長波長光になるほど硬化しにくくなることから、前述した特許文献では硬化が困難だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-085691号公報
【文献】国際公開第2017/110472号
【文献】国際公開第2013/073364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は超撥水処理されたレンズに対する塗工性及び密着性を調整した樹脂組成物であって、撥水性の高いレンズに均一に塗工でき、且つピーク波長395nmのLED光源でも硬化可能である撥水レンズ保護膜用樹脂組成物を提供することを目的とする。これにより、熱による撥水性の低下を引き起こすことなく超撥水レンズ上に保護膜を形成することを可能とする。そして、超撥水レンズであっても保護膜を形成することで玉型加工による軸ずれがなく、超撥水レンズを所望の形状へ加工することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は(A)重量平均分子量が200~30000である多官能(メタ)アクリレートと、(B)光重合開始剤と、(C)ノニオン系界面活性剤と、を含有する撥水レンズ保護膜用樹脂組成物である。
【0009】
また、本発明は撥水レンズに上記保護膜用樹脂組成物を塗布、硬化して得られる硬化膜を保護層として設けることにより、撥水レンズを保護する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は、撥水性が高く、表面への塗工が困難な撥水レンズであっても全体に均一に塗工することができ、この撥水レンズ保護膜用樹脂組成物により形成された保護膜は、剥離時は残渣なく容易に剥がすことができる。さらに、同組成物は可視光領域に近いピーク波長を有するLED紫外線照射装置で硬化させることが可能なため、硬化時における撥水レンズに対する熱影響を抑え、撥水層のクラックや歪といった不具合を発生させることなく保護膜の形成が可能である。また、本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は、輸送時や加工時の傷つきや汚染から保護するだけでなく、レンズに対し適度な密着力を有することから加工時の軸ずれをも防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例において、保護膜の保持力を評価するための試験方法を説明する概略説明図である。
図2】本発明の実施例において、保護膜の保持力の評価方法を説明する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳しく説明する。なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの双方を含む総称を意味する。また、本発明において数値範囲を示す「○○~××」とは、別途記載が無い限り、その下限値(「○○」)や上限値(「××」)を含む概念である。すなわち、正確には「○○以上××以下」を意味する。
【0013】
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は、下記(A)、(B)および(C)成分を必須成分とし、任意に(D)および(E)成分をさらに含有する硬化性樹脂組成物である。
<(A)成分:多官能(メタ)アクリレート>
(A)成分である多官能(メタ)アクリレートは、重量平均分子量(Mw)が200~30000で末端に(メタ)アクリロキシ基を有している化合物であり、その好ましい例として下記一般式(式1)で表される化合物が挙げられる。また、(A)成分である多官能(メタ)アクリレートは、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合して使用することもできる。
【化1】
【0014】
式中のaは、好ましくは2~10である。
は、炭素数2~300の炭化水素基若しくはエーテル酸素(-O-)およびヒドロキシル基(-OH)からなる群より選択される少なくとも1種を含む炭素数2~300の炭化水素基、イソシアヌレート環若しくはイソシアヌレート環と炭化水素基若しくは炭素数2~20の炭化水素基のみからなる基、又は、炭素数2~250の炭化水素基若しくはエーテル酸素(-O-)およびヒドロキシル基(-OH)からなる群より選択される少なくとも1種を含む炭素数2~250の炭化水素基である。Rは、水素原子またはメチル基である。
【0015】
また、(A)多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリマータイプのものも好適に用いることができる。ポリマータイプの多官能(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリレート単独あるいは共重合体に、(メタ)アクリル酸のようにエポキシ基と反応する基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるポリマー、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート単独あるいは共重合体に、2-メチルプロペン酸2-イソシアナトエチルのように水酸基と反応する基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるポリマー、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート単独あるいは共重合体に、グリシジル(メタ)アクリレートのようにカルボキシル基と反応する基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるポリマー等が挙げられる。
【0016】
その中でもウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物が好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートはジイソシアネート化合物と、ジオール化合物と、(メタ)アクリレート化合物との反応によって得ることができる。ウレタン結合を有する化合物を用いることで、硬化膜の強靭性が向上し、剥離する際硬化膜が破れにくくなる。また、撥水レンズとの密着力も向上し、加工時の軸ずれ抑制効果が高くなる。
【0017】
ウレタン(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、UN-333(官能基数:2、Mw:5,000)、UN-1255(官能基数:2、Mw:8,000)、UN-904(官能基数:10、Mw:4,900)、UN-6200(官能基数:2、Mw:6,500)、UN-6201(官能基数:2、Mw:1,600)、UN-9000PEP(官能基数:2、Mw:5,000)、UN-9200A(官能基数:2、Mw:15,000)、UN-3320HA(官能基数:6、Mw:1,500)、UN-6301(官能基数:2、Mw:33,000)、UN-954:(官能基数:6、Mw:4,500)、UN-953:(官能基数:20、Mw:14,000~40,000)、H-219(官能基数:9、Mw:25,000~50,000)(以上はいずれも商品名、根上工業株式会社製)、EBECRYL230(官能基数:2、Mw:5,000)、EBECRYL9260(官能基数:3、Mw:15,000)(以上はいずれも商品名、ダイセル・オルネクス株式会社製)、UX-4101(官能基数:2、Mw:6,500)、UX-6101(官能基数:2、Mw:6,500)(以上はいずれも商品名、日本化薬工業株式会社製)等が挙げられる。
【0018】
(A)多官能(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、200~30000、好ましくは200~15000である。(A)多官能(メタ)アクリレートの重量平均分子量が200~30000の範囲であれば硬化した硬化膜は強靭で剥離する際硬化膜が破れにくく、剥離する際の作業性が良い。更に重量平均分子量が200~15000の範囲であれば硬化膜の強靭性に加え、耐水性が向上し、レンズの玉型加工時に硬化膜が破断しにくくなるため、より軸ずれを抑制することが可能となるため好ましい。
【0019】
本明細書において、重量平均分子量は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8220GPCを用いて、カラムとして東ソー(株)製TSKgel HZM-Mを用い、THFを溶離液とし、RI検出器により測定してポリスチレン換算により求めた。
【0020】
(A)成分の含有量は、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物の固形分全量を基準として、20.0~99.5質量%、好ましくは40.0~99.5質量%である。上記含有量とすることで、強靭な保護膜が形成でき、玉型加工時の軸ずれ防止と使用後の容易な剥離性を両立できる。
【0021】
<(B)成分:光重合開始剤>
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は、(B)成分として、紫外線照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を含有する。
この撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は、(B)成分を含有することにより、可視光領域に近い波長のLED紫外線照射装置で露光しても硬化可能であり、光照射による撥水レンズへの熱影響を抑えることが出来る。
【0022】
(B)成分としては、光感光性樹脂を重合させることができるものであれば、特に制限はなく、通常用いられる光重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、アシルホスフィンオキサイド系、オキシムエステル系、芳香族ケトン系、キノン系、アルキルフェノン系、イミダゾール系、アクリジン系、フェニルグリシン系の光重合開始剤が挙げられる。
【0023】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド基(>P(=O)-C(=O)-基)を有するものであり、例えば、(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,6-ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(「IRGACURE-TPO」(BASF社製))、エチル-2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネイト、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(「IRGACURE-819」(BASF社製))、(2,5-ジヒドロキシフェニル)ジフェニルホスフィンオキサイド、(p-ヒドロキシフェニル)ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0024】
オキシムエステル系光重合開始剤は、オキシムエステル結合を有する光重合開始剤であり、例えば、1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-2-(O-ベンゾイルオキシム)(商品名:OXE-01、BASF社製)、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン1-(O-アセチルオキシム)(商品名:OXE-02、BASF社製)、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-[O-(エトキシカルボニル)オキシム](商品名:Quantacure-PDO、日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
芳香族ケトン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(「IRGACURE-651」(BASF社製))、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン(「IRGACURE-369」(BASF社製))、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン(「IRGACURE-907」(BASF社製))等が挙げられる。
【0026】
キノン系光重合開始剤としては、例えば、2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-t-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等が挙げられる。
【0027】
アルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾイン系化合物、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(「IRGACURE-651」(BASF社製))、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(「IRGACURE-184」(BASF社製))、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(「IRGACURE-1173」(BASF社製))、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(「IRGACURE-2959」(BASF社製))、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(「IRGACURE-127」(BASF社製))などが挙げられる。
【0028】
イミダゾール系光重合開始剤としては、例えば、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体が例示され、より詳細には、2-(2-クロロフェニル)-1-〔2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-1,3-ジアゾール-2-イル〕-4,5-ジフェニルイミダゾール等の2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体などが挙げられる。
【0029】
これらの中でも、UV-LED光源を用いた際の硬化性の観点から、(B)成分は、下記一般式(式2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。
【0030】
【化2】
(一般式(式2)中、Rは、水酸基、炭素数1~8のアルコキシ基、又はアミノ基を示し、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を示す。RとRは、互いに結合して、炭素数3~16の環状構造を形成してもよい。R~Rは、水酸基及び水素原子の場合を除き、各々置換基を有してもよく、置換基を有するアミノ基は、置換基同士が互いに結合して、炭素数3~12の環状構造を形成してもよい。Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、メルカプト基、又は酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる1種以上の原子を含んでいてもよい炭素数1~10の有機基を示す。)
【0031】
一般式(式2)中、Rは、水酸基、炭素数1~8のアルコキシ基、又はアミノ基を示す。
が表すアルコキシ基は、UV-LEDを光源とした際の硬化性の観点から、水酸基又はメトキシ基であってもよい。
【0032】
一般式(式2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を示す。
及びRが表すアルキル基は、炭素数1~4のアルキル基であってもよく、炭素数1又は2のアルキル基であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘプチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基等が挙げられる。アルコキシ基は、炭素数1~4のアルコキシ基であってもよく、炭素数1又は2のアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-オクチルオキシ等が挙げられる。アリール基は、炭素数6~10のアリール基であってもよく、炭素数6~8のアリール基であってもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
とRは、互いに結合して、炭素数3~16の環状構造を形成していてもよい。
前記環状構造は、炭素数4~10の環状構造であってもよく、炭素数5~8の環状構造であってもよい。
前記環状構造は、脂環式構造であってもよく、脂環式構造としては、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロヘプタン構造、シクロオクタン構造等が挙げられる。また、これらの脂環式構造は、R及びRが共に直接結合する炭素原子を含んでいてもよい。
【0033】
(B)成分の含有量は、通常、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物の固形分全量を基準として、0.05~20質量%、好ましくは0.1~10質量%である。上記含有量とすることで、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物のUV-LEDを光源として用いた際の硬化性を向上させ、より短時間、低照度で硬化物を形成できる。
【0034】
<(C)成分:ノニオン系界面活性剤>
(C)成分であるノニオン系界面活性剤は、例えば、炭化水素系、シリコーン系、フッ素系等であってよい。(C)成分を添加することで、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物の配合液の表面張力を低下させ、超撥水レンズのように極めて塗工が困難な基材に対しても均一に樹脂組成物を塗工することが可能になる。(C)成分は、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
炭化水素系界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンn-オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンn-ノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコールジエステル類;ソルビタン脂肪酸エステル類;脂肪酸変性ポリエステル類;アクリルポリマー等が挙げられる。アクリルポリマーを主成分とする炭化水素系界面活性剤としては、例えば、ポリフローNo.75、ポリフローNo.90、ポリフローWS-314(以上、共栄社化学株式会社製、商品名)等を用いることができる。
【0036】
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、ポリフローKL-100、ポリフローKL-401、ポリフローKL-402、ポリフローKL-403(以上、共栄社化学株式会社製、商品名);KP-323、KP-341、KP-392(以上、信越化学工業株式会社製、商品名);SZ-1642、SZ-1677、SH192、SH193(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名)等を用いることができる。
【0037】
フッ素系界面活性剤はフッ素セグメントとノンフッ素セグメントからなるフッ素系ノニオン性界面活性剤であり、フッ素系界面活性剤のフッ素セグメントとノンフッ素セグメントの組合せとしては、例えばフッ素化アルキル基含有アルコールとエチレンオキシド、プロプレンオキシド等のオキシアルキレン基を含む単量体との付加重合体やフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和化合物とポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和化合物との共重合体などの分子設計が挙げられる。
【0038】
フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和化合物としては、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物に対する相溶性、またはそのような相溶性に基づく塗膜均一性の観点から、(メタ)アクリルエステル基を含有する単量体が適している。具体的には下記一般式(c1)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレート(C1)である。
【0039】
【化3】
(式中、Rfは炭素数4~8のパーフルオロアルキル基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、pは1~6の整数である。)
フルオロアルキル(メタ)アクリレート(C1)におけるフッ素化アルキル基Rfの炭素数は4~6が好ましい。炭素数が4以上の場合、表面張力低下能力が向上し、炭素数が6以下の場合、他の配合物への相溶性が高まる。フルオロアルキル(メタ)アクリレート(C1)は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
さらにフッ素系ノニオン性界面活性剤は、保護膜剥離後の撥水レンズに対する残留成分低減の観点から、光重合性基を含有することが好ましい。その好ましい形態は、エチレン性不飽和基を有する側鎖と、フッ素化アルキル基又はその一部に酸素原子を含む基を有する側鎖とを有する重合体である。
【0041】
不飽和基含有側鎖を持つ繰り返し単位は、光反応性の点から、下記一般式で表される繰り返し単位c2~c5であることが好ましい。尚、1分子中の、不飽和基含有側鎖を有する繰り返し単位は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0042】
【化4】

【化5】


【化6】
【化7】
、R、R10、R11は水素原子またはメチル基である。
【0043】
これらノニオン系界面活性剤の中でも特にフッ素系界面活性剤を用いることが好ましい。フッ素系界面活性剤は、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物の表面張力を低下させる能力が高いため、表面エネルギーの低い超撥水レンズの塗工に適している。また、本用途の保護膜は、加工時においては軸ずれが発生しないよう超撥水レンズに対する密着性を有し、使用後は容易に剥離するよう剥離性が求められる。超撥水レンズの表面に形成される撥水層はフッ素系のコーティング処理がされているため、この層と相互作用しやすいフッ素系界面活性剤を保護膜にも配合することで適度な密着性と剥離性という相反する特性が達成される。
また、フッ素系界面活性剤としてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中に0.1質量部の濃度で配合した際、その配合液の表面張力が26.0mN/m以下まで低下させるものが好ましく、より好ましくは23.0mN/m以下まで低下できるものが好ましい。23.0mN/m以下まで表面張力を低下できる界面活性剤を用いることで効率的に表面張力を低下でき、より少量の添加で均一な塗工が可能となる。
【0044】
前述した表面張力低下能を有するフッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、メガファックF-477、メガファックF-554、メガファックF-557、メガファックR-41、メガファックRS-56、メガファックRS-72-K、メガファックRS-75-A、メガファックRS-75-NS、メガファックRS-78(以上、DIC株式会社製、商品名)等を用いることができる。
【0045】
(C)成分の含有量は、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物の固形分全量を基準として、0.01~10質量%が好ましく、より好ましくは0.01~5質量%の範囲である。含有量が0.01~10質量%の範囲であれば、超撥水レンズのように極めて塗工が困難な基材に対しても均一に撥水レンズ保護膜用樹脂組成物を塗工することが可能になる。さらに0.01~5質量%の範囲であれば保護膜を剥離した際、界面活性剤の残存による撥水レンズの撥水性低下を引き起こすことなく、均一な保護膜を得ることが可能となる。
【0046】
<(D)成分:硬化剤>
撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は、(メタ)アクリレート化合物と反応しうる官能基を有する化合物を硬化剤として添加しても良い。特に限定されないが、大気下での硬化性の良い多官能チオール化合物が好ましい。多官能チオール化合物とは、2個以上のチオール基(-SH基)を有する有機化合物である。例えば、下記一般式(式3)で表される多官能チオール化合物を挙げることができる。なお、多官能チオール化合物は、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0047】
【化8】
(式中のnは2~5の整数であり、bは2~10の整数であり、R12は炭素数2~30の炭化水素基(α1)、エーテル酸素(-O-)と炭素数2~40の炭化水素基のみからなる基(α2)、イソシアヌレート環(α3)、又はイソシアヌレート環と炭化水素基のみからなる基(α4)のいずれかである。)
【0048】
上記一般式(式3)においてn=1の化合物でも大きな問題なく使用可能であるが、得られる多官能チオール化合物の反応性が高いことで、これを含む撥水レンズ保護膜用樹脂組成物の保存安定性が若干悪くなる傾向がある。これに対し、n=2~5の範囲の化合物であれば、保存安定性に優れ大気下でも良好な硬化性が得られる。なお、nの数が大きくなるにつれて得られる多官能チオール化合物の反応性が低くなり、これを含む撥水レンズ保護膜用樹脂組成物のUV照射による硬化におけるUV照射量が多くなる傾向がある。したがって、上記一般式(式3)で表される化合物の中では、n=2の化合物が最も好ましい。n=2であれば、多官能チオール化合物の反応性が保存安定性と熱硬化時の硬化時間短縮との両立に最も適しているからである。例えば、多官能チオールとしてはトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)などが挙げられる。
【0049】
多官能チオール化合物の重量平均分子量は200~2000、好ましくは300~1800、より好ましくは350~1600とする。分子量が200より小さくても硬化性に関しては問題ないが、多官能チオール化合物の揮発性が高く、臭気が強くなる傾向がある。一方、分子量が2000より大きいと、(A)多官能(メタ)アクリレート樹脂に対する溶解性が低くなる可能性がある。
【0050】
撥水レンズ保護膜用樹脂組成物を硬化した後の特性は、厳密には撥水レンズ保護膜用樹脂組成物単位重量中の((D)硬化剤官能基数)/((メタ)アクリロキシ基数)(以下、(D)/(A)官能基比)の値に影響を受ける。(D)/(A)官能基比が0.15~2.0の範囲にあれば、密な架橋を形成し、強靭な硬化物になる。より好ましくは0.3~1.5の範囲にあれば、強靭な硬化物になるとともに、UV硬化性も良くなり、より少ない積算光量で硬化が可能となるため、硬化時の撥水レンズへの影響を抑制できる。
【0051】
<(E):希釈剤>
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は、反応系を均一にし、塗工を容易にするために有機溶媒や反応性希釈剤で希釈して使用してもよい。そのような有機溶媒としては、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤及びエーテルエステル系溶剤、ケトン系溶剤、リン酸エステル系溶剤が挙げられる。これらの有機溶媒は撥水レンズ保護膜用樹脂組成物100質量部に対して、10000質量部未満の配合量に抑えることが好ましいが、基本的に溶剤は硬化膜になる時点では揮発しているため、硬化膜の物性に大きな影響は与えない。反応性希釈剤としてはビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等を有する、単官能性又は多官能性の光重合性単量体を用いることができる。これらのうち、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物が好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、3-メチルペンタンジオール(メタ)アクリレート等のグリコールモノ(メタ)アクリレートなどの単官能性の(メタ)アクリレート化合物、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス(ヒドロキシエチル)-5,5-ジメチルヒダントインジ(メタ)アクリレート、α,ω-ジ(メタ)アクリルビスジエチレングリコールフタレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリットヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリットモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルフォスフェート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジアクリロキシエチルフォスフェート等の多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0052】
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において顔料、染料などの着色剤、安定剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、カップリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により樹脂強度・接着強さ・作業性・保存性等に優れた撥水レンズ保護膜用樹脂組成物およびその硬化物である保護膜が得られる。
【0053】
<保護膜の形成>
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物を用いて保護膜を形成する方法は特に制限されないが、例えば、ディップコート、スプレーコート、スピンコートなどの方法を挙げることができる。本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物を用いて形成される保護膜の厚みは、特に制限されないが、玉型加工時の軸ずれ防止や、加工及び保管時の傷つき防止の観点から、10μm以上である方が好ましい。一方、塗膜の厚みは、レンズ中心を特定する際位置ずれが生じないように、100μm以下が好ましい。
【0054】
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物を塗布した後に、基材上に塗布された当該組成物を紫外線などの活性エネルギー線を照射して保護膜を得ることができる。活性エネルギー線照射工程で用いられる光源としては、例えばUV-LED(紫外線LED)、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク、気体レーザー、固体レーザー、電子線照射装置などが挙げられる。
中でも従来のUVランプ等と比較して消費電力が大幅に少なく、光源から発生する熱量がUVランプと比較して特に少ないUV-LEDが好ましく、さらにはそのビーク照度が可視光に近い395nm以上であるUV-LEDを用いることで紫外線照射時の撥水レンズへの影響を抑制し、撥水層におけるクラックの発生を抑制することが出来る。
【0055】
本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物はプラスチック又はガラスを基材として、表面に防汚性を付与するために撥水・撥油層を形成した撥水レンズに対し、均一に塗工出来る。中でも近年更に防汚性を高めた超撥水層を形成したレンズでも本発明の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物は均一に保護膜を形成可能である。本発明は水に対する接触角が90°以上となる撥水層を備えたレンズに適用でき、接触角が140°以上の撥水層を備えたレンズに対し特に有効である。水に対する接触角90°以上、110°以下であれば通常の撥水レンズ、水の接触角が110°より高く、140°以下であれば高撥水レンズ、140°よりも大きければ超撥水レンズと称される。
【0056】
撥水レンズの接触角は液滴法と呼ばれる方法で評価できる。純水1μLの液滴を作製し、対象撥水レンズへ接触させて着滴させる。その時の撥水レンズと液滴のなす角度を接触角として評価する。
【実施例
【0057】
(A)成分:多官能(メタ)アクリレート
A-1:エチレンオキシド変性ビスフェノールAジメタクリレート(ブレンマーPDBE-200A 日油株式会社製:2官能、分子量541)
A-2:ウレタンアクリレート(アートレジンUN-2700 根上工業社製:2官能、重量平均分子量2000)
A-3:ウレタンアクリレート(アートレジンUN-352 根上工業社製:2官能、重量平均分子量3000)
A-4:ポリエーテル系ウレタンアクリレート(アートレジンUN-6200 根上工業社製:2官能、重量平均分子量8000)
A-5:ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(アートレジンUN-9200A 根上工業社製:2官能、重量平均分子量15000)
A-6:ポリエーテル系ウレタンアクリレート(アートレジンUN-6305 根上工業社製:2官能、重量平均分子量27000)
A’-1:エチレングリコールジメタクリレート(ライトエステルEG 共栄社化学株式会社製:2官能、分子量198)
A’-2:ウレタンアクリレート(紫光UV-3700B 日本合成化学工業株式会社製:2官能、量平均分子量38000)
【0058】
(B)成分:光重合開始剤
B-1:2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン(OMNIRAD651 IGM社製)
B-2:2-ベンジルー2-(ジメチルアミノ)-4’-モルフォリノブチロフェノン(OMNIRAD369 IGM社製)
B-3:ビス(2、4、6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド(OMNIRAD819 IGM社製)
B-4:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(OMNIRAD184 IGM社製)
【0059】
(C)成分:ノニオン性界面活性剤
C-1:フッ素系ノニオン性界面活性剤(メガファックRS-75-A DIC株式会社製、PGMEA中に0.1質量部配合時表面張力23.8mN/m)
C-2:フッ素系ノニオン性界面活性剤(メガファックRS-78 DIC株式会社製、PGMEA中に0.1質量部配合時表面張力22.0mN/m)
C-3:フッ素系ノニオン性界面活性剤(メガファックF-560 DIC株式会社製PGMEA中に0.1質量部配合時表面張力21.4mN/m)
C-4:フッ素系ノニオン性界面活性剤(メガファックF-477 DIC株式会社製PGMEA中に0.1質量部配合時表面張力25.4mN/m)
C’-1:フッ素系アニオン性界面活性剤(メガファックF-114 DIC株式会社製PGMEA中に0.1質量部配合時表面張力26.5mN/m)
【0060】
(D)成分:硬化剤
D-1:ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(DPMP SC有機化学株式会社製:6官能、分子量783)
【0061】
(E)成分:希釈剤
E-1:メチルエチルケトン
E-2:ブチルアクリレート
【0062】
表1、2に示す配合比で(A)~(E)成分をそれぞれ混合容器へ投入し、室温(23℃)、紫外線カット下でスリーワンモーターにて均一になるまで撹拌することで、撥水レンズ保護膜用樹脂組成物のサンプルを得た。得られた実施例及び比較例の各撥水レンズ保護膜用樹脂組成物に対して以下の粘度、塗工性、光硬化性、保持力、剥離性、レンズ汚染性の評価を行った。その結果を表1、2に示す。
【0063】
[超撥水レンズへの保護膜形成]
評価には純水の接触角が150°となる超撥水層を備えたプラスチックレンズを用いた。この超撥水レンズに対し、実施例及び比較例の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物をディップコート法によりコートした。コート後、室温(23℃)、紫外線がカットされた空間で10分間静置し乾燥させ、LED紫外線照射装置(ウシオ電機株式会社製Unijet E110IIHD―365)を用い、照度500mW/cmになるようレンズとの距離を調節して片面ずつ照射した。また、395nmをピーク波長にもつLED紫外線照射装置(ウシオ電機株式会社製Unijet E110IIHD―395)でも同様の手法で硬化させた。
【0064】
[粘度測定]
試料を25℃で3分間放置した後に、E型粘度計(東機産業社製RE-85L、コーン:CORD-1 1°34’×R24を用いて測定条件:25℃、20rpmで「粘度(mPa・s)」を測定した。
【0065】
[塗工性評価]
前述したディップコート法により超撥水レンズへ撥水レンズ保護膜用樹脂組成物をコートし、硬化させた。ハジキが見られた場合、レンズ端部からコートされていない部分の最大の幅をハジキの大きさとして計測し、以下の通り評価した。尚、塗工性はハジキの大きさが10mm以下にする必要がある。
◎:ハジキ無し。
○:端部からコートできていない部分が10mm以下である。
×:端部からコートできていない部分が10mmより大きい。
【0066】
[光硬化性評価]
コート後の撥水レンズ保護膜用樹脂組成物をLED紫外線照射装置にて硬化させる際、照射により表面のタックが無くなる積算光量を確認し、以下の通り評価した。尚、レンズへの熱影響及び硬化時間から積算光量は20000mJ/cm以下にする必要がある。
◎:積算光量が1000mJ/cm以下である。
○:1000mJ/cmより多く20000mJ/cm以下である。
×:20000mJ/cmより多い。
【0067】
[保持力評価]
玉型加工時の軸ずれ評価として、超撥水レンズへ形成した保護膜の保持力を評価した。保持力はJIS-Z0237に準拠し、荷重を変更して行った。保護膜を形成した超撥水レンズ中心部に幅24mm、長さ130mmの粘着テープ(ニチバン社製CT405AP-24)を張り付ける(図1参照。)。この時、粘着テープ上とレンズ凹部の中心部で重なるよう油性ペンで印をつける。粘着テープのレンズに張り付けた端部と反対側の端部に重さ14.7Nの荷重をかけ、10分間後に凸面と凹面の印にずれが生じた距離を測定した(図2参照。)。得られた測定結果について以下の通りに評価した。
◎:保持力測定結果が0.0mmである。
○:保持力測定結果が0.0mmより大きく、2.0mm以下である。
×:保持力測定結果が2.0mmより大きい。
【0068】
[剥離性]
超撥水レンズへ形成した保護膜に対し、テープを端部に貼り保護膜を剥離した後、レンズの外観と剥離性を目視で確認して、以下の通り評価した。
○:残渣なく剥離されている。
×:剥離時に裂けや割れが発生または剥離できない。
【0069】
[レンズ汚染性]
超撥水レンズから保護膜を剥離した後、レンズに対し油性マジック(寺西化学工業社製マジックインキ(黒))でレンズに線を引いた際のインクのハジキを観察し、以下の通り評価した。尚、保護膜を形成する前は油性マジックのインクはハジくが、レンズ表面に汚染物質が残っていると撥水性が低下し、ハジキが悪くなる。
○:直線で描いたインクが点状になる。
×:直線で描いたインクにハジキが見られない。
【0070】
表1、2に示すように実施例においてはいずれのサンプルも超撥水レンズに塗工可能で、且つピーク波長が395nmのLED紫外線照射装置でも硬化可能である。また、玉型加工における軸ずれを防止するのに十分な保持力を有することから超撥水レンズであっても従来の加工方法で所望の形状に加工できる。
【0071】
一方、(C)成分であるノニオン系界面活性剤を含まない比較例-1、(C)成分であるノニオン系界面活性剤ではなくアニオン性界面活性剤を含む比較例-2では超撥水レンズにコートすることが出来ず、保護膜を形成すらできない。また、比較例-3ではピーク波長395nmのLED紫外線照射装置で硬化性が悪く、許容できる積算光量を越えてしまう。更に硬化膜の靭性が低いため、剥離時に裂けるため剥離性が悪い。比較例-4では、光硬化性は良好だが、硬化膜の柔軟性が高く、保持力が規定値以上となる。これより、周縁加工時の軸ずれが発生してしまう。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】

図1
図2