(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】板ガラスの製造方法及び割断装置
(51)【国際特許分類】
C03B 33/02 20060101AFI20241107BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20241107BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20241107BHJP
B28D 7/04 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C03B33/02
B28D5/00 Z
B26F3/00 A
B28D7/04
(21)【出願番号】P 2020210535
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】岸田 力
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/217910(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/083530(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/02-33/04
B28D 5/00
B26F 3/00
B28D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、且つ、それら領域の境界部の表面側にスクライブ線が形成された縦姿勢の板ガラスにつき、前記第一領域の前記スクライブ線側の端部を支持部により接触支持した状態で、外力付与部により前記第二領域に裏面側に向かう力を作用させることで、前記板ガラスを前記スクライブ線に沿って割断する割断工程を備える板ガラスの製造方法であって、
前記割断工程の前工程として、前記支持部が前記第一領域と接触する位置、及び、前記外力付与部が前記第二領域と接触する位置の少なくとも一方を前記幅方向で調整する調整工程を備え
、
前記支持部及び前記外力付与部が、前記幅方向に移動可能な単一の移動機構に配置されており、
前記調整工程では、前記移動機構を前記幅方向に移動させることにより、前記支持部が前記第一領域と接触する位置、及び、前記外力付与部が前記第二領域と接触する位置の両方を前記幅方向で調整することを特徴とする板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記移動機構の前記幅方向の移動を操作する操作部が、前記割断工程を行うための切断室の外側に配置されている請求項
1に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項3】
第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、且つ、それら領域の境界部の表面側にスクライブ線が形成された縦姿勢の板ガラスにつき、前記第一領域の前記スクライブ線側の端部を支持部により接触支持した状態で、外力付与部により前記第二領域に裏面側に向かう力を作用させることで、前記板ガラスを前記スクライブ線に沿って割断する割断工程を備える板ガラスの製造方法であって、
前記割断工程の前工程として、前記支持部が前記第一領域と接触する位置、及び、前記外力付与部が前記第二領域と接触する位置の少なくとも一方を前記幅方向で調整する調整工程を備え
、
前記支持部が、前記幅方向に移動可能な第一移動機構に配置され、且つ、前記外力付与部が、前記幅方向に移動可能な第二移動機構に配置されており、
前記調整工程では、前記第一移動機構及び前記第二移動機構の少なくとも一方を前記幅方向に移動させることにより、前記支持部が前記第一領域と接触する位置、及び、前記外力付与部が前記第二領域と接触する位置の少なくとも一方を前記幅方向で調整することを特徴とする板ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記第一移動機構の前記幅方向の移動を操作する第一操作部及び前記第二移動機構の前記幅方向の移動を操作する第二操作部のそれぞれが、前記割断工程を行うための切断室の外側に配置されている請求項
3に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記支持部が、前記第一領域の裏面を接触支持する裏面支持部材と、前記裏面支持部材と対向する位置で、前記第一領域の表面を接触支持する表面支持部材とを備え、
前記割断工程では、前記裏面支持部材と前記表面支持部材とにより、前記第一領域を表裏面の両側から挟み、
前記調整工程では、前記裏面支持部材と前記表面支持部材とが前記第一領域と接触する位置、及び、前記外力付与部が前記第二領域と接触する位置の少なくとも一方を前記幅方向で調整する請求項1
~4のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記外力付与部は、前記第二領域の表面に接触した状態で前記第二領域を裏面側に押し込む押込部材と、前記押込部材と対向する位置で、前記押込部材の動作に追随しながら前記第二領域の裏面を吸着保持する吸着機構とを備え、
前記割断工程では、前記押込部材と前記吸着機構とにより、前記第二領域を表裏面の両側から挟み、
前記調整工程では、前記支持部が前記第一領域と接触する位置、及び、前記押込部材と前記吸着機構とが前記第二領域と接触する位置の少なくとも一方を前記幅方向で調整する請求項1
~5のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記割断工程の後工程として、割断された前記第一領域及び前記第二領域の少なくとも一方を検査対象として検査する検査工程を備え、
前記検査工程で前記検査対象に異常が検出された場合に、前記調整工程を行う請求項1~
6のいずれかに記載の板ガラスの製造方法。
【請求項8】
第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、且つ、それら領域の境界部の表面側にスクライブ線が形成された縦姿勢の板ガラスにつき、前記第一領域の前記スクライブ線側の端部を支持部により接触支持した状態で、外力付与部により前記第二領域に裏面側に向かう力を作用させることで、前記板ガラスを前記スクライブ線に沿って割断する板ガラスの割断装置であって、
前記支持部及び前記外力付与部が、前記幅方向に移動可能な単一の移動機構に配置されていることを特徴とする板ガラスの割断装置。
【請求項9】
第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、且つ、それら領域の境界部の表面側にスクライブ線が形成された縦姿勢の板ガラスにつき、前記第一領域の前記スクライブ線に沿った領域を支持部により接触支持した状態で、外力付与部により前記第二領域に裏面側に向かう力を作用させることで、前記板ガラスを前記スクライブ線に沿って割断する板ガラスの割断装置であって、
前記支持部が、前記幅方向に移動可能な第一移動機構に配置され、前記外力付与部が、前記第一移動機構とは独立して前記幅方向に移動可能な第二移動機構に配置されていることを特徴とする板ガラスの割断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラスをスクライブ線に沿って割断する技術を含む板ガラスの製造技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
板ガラスは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用のガラス基板や、有機EL照明用のカバーガラスなどに代表されるように、各種分野に利用されている。この種の板ガラスを製造する際には、ガラスリボンから所定長さの板ガラスを順々に切り出す工程や、板ガラスの辺に沿う不要領域を除去する工程などが実行される。これらの工程では、ガラスリボンや板ガラスにスクライブ線を形成した後、それらをスクライブ線に沿って割断することで所望の板ガラスを得ることができる。
【0003】
割断により板ガラスを得る方法の具体例としては、特許文献1に開示された方法が挙げられる。同文献に開示の方法は、板ガラスの幅方向に隣接して配列された第一領域と第二領域との境界部の表面側にスクライブ線を形成し、第一領域を裏面側から支持部(裏面支持部材)により接触支持した状態で、第二領域を外力付与部(転動体)で裏面側に押し込む。これにより、板ガラスをスクライブ線に沿って割断する。この時の割断は、板ガラスを縦姿勢で支持して行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のように、板ガラスを縦姿勢で支持すると、縦方向の反りが発生する場合がある。この反りの発生は、近年における板ガラス(例えばディスプレイ等に用いられる板ガラス)の薄肉化に伴って顕著になる。特許文献1に開示の方法では、この種の板ガラスを割断する際に、スクライブ線の形成領域に適切な曲げ応力が加わらず、チッピングや割れ等が発生しやすくなる。
【0006】
本発明は、縦姿勢の板ガラスを割断する際にスクライブ線の形成領域に適切な曲げ応力が作用するようにして、チッピングや割れ等の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、且つ、それら領域の境界部の表面側にスクライブ線が形成された縦姿勢の板ガラスにつき、第一領域のスクライブ線側の端部を支持部により接触支持した状態で、外力付与部により第二領域に裏面側に向かう力を作用させることで、板ガラスをスクライブ線に沿って割断する割断工程を備える板ガラスの製造方法であって、割断工程の前工程として、支持部が第一領域に接触する位置、及び、外力付与部が第二領域と接触する位置の少なくとも一方を幅方向で調整する調整工程を備えることを特徴とする。
【0008】
このようにすれば、割断工程の前工程である調整工程において、第一領域に対する支持部の接触位置や、第二領域に対する外力付与部の接触位置を幅方向で調整できる。そのため、割断工程において、各接触位置を板ガラスの反りに応じた最適な位置に設定できる。その結果、板ガラスを割断する際に、スクライブ線の形成領域に適正な曲げ応力を作用させることができるため、チッピングや割れ等の発生が抑制される。
【0009】
(2) 上記の(1)の構成において、支持部が、第一領域の裏面を接触支持する裏面支持部材と、裏面支持部材と対向する位置で、第一領域の表面を接触支持する表面支持部材とを備え、割断工程では、裏面支持部材と表面支持部材とにより、第一領域を表裏面の両側から挟み、調整工程では、裏面支持部材と表面支持部材とが第一領域と接触する位置、及び、外力付与部が第二領域と接触する位置の少なくとも一方を幅方向で調整するようにしてもよい。
【0010】
このようにすれば、調整工程で、第一領域に対する裏面支持部材及び表面支持部材の接触位置や、第二領域に対する外力付与部の接触位置を幅方向で調整できるため、割断工程で、スクライブ線の形成領域に適正な曲げ応力を作用させることができる。また、割断工程で、裏面支持部材と表面支持部材とによって、第一領域が表裏面の両側から挟まれるため、板ガラスの割断時の揺れを抑制したり反りを低減できる。
【0011】
(3) 上記の(1)又は(2)の構成において、外力付与部は、第二領域の表面に接触した状態で第二領域を裏面側に押し込む押込部材と、押込部材と対向する位置で、押込部材の動作に追随しながら第二領域の裏面を吸着保持する吸着機構とを備え、割断工程では、押込部材と吸着機構とにより、第二領域を表裏面の両側から挟み、調整工程では、支持部が第一領域と接触する位置、及び、押込部材と吸着機構とが第二領域と接触する位置の少なくとも一方を幅方向で調整するようにしてもよい。ここで、当該構成を上記の(2)の構成に適用する場合、調整工程では、裏面支持部材と表面支持部材とが第一領域と接触する位置、及び、押込部材と吸着機構とが第二領域と接触する位置の少なくとも一方を幅方向で調整することになる。
【0012】
このようにすれば、調整工程で、第一領域に対する支持部の接触位置や、第二領域に対する押込部材及び吸着機構の接触位置を幅方向で調整できるため、割断工程で、スクライブ線の形成領域に適正な曲げ応力を作用させることができる。また、割断工程で、押込部材と吸着機構とによって、第二領域が表裏面の両側から挟まれるため、第二領域に裏面側に向かう力を作用させやすく、板ガラスの反りを低減できる。さらに、割断後に、第二領域を吸着機構で吸着保持したまま回収することもできる。
【0013】
(4) 上記の(1)~(3)のいずれかの構成において、支持部及び外力付与部が、幅方向に移動可能な単一の移動機構に配置されており、調整工程では、移動機構を幅方向に移動させることにより、支持部が第一領域と接触する位置、及び、外力付与部が第二領域と接触する位置の両方を幅方向で調整するようにしてもよい。
【0014】
このようにすれば、単一の移動機構を移動させるだけで、第一領域に対する支持部の接触位置、及び、第二領域に対する外力付与部の接触位置の両方を幅方向で調整できる。
【0015】
(5) 上記の(4)の構成において、移動機構の幅方向の移動を操作する操作部が、割断工程を行うための切断室の外側に配置されていることが好ましい。
【0016】
調整工程で、作業者が切断室内に入って調整作業を行う場合、安全上の観点からも、調整作業中は切断室内への板ガラスの供給を一時停止させる必要がある。しかしながら、上記の構成であれば、作業者が切断室外から調整作業を行うことができるため、調整作業中も切断室内への板ガラスの供給を停止しなくて済む。したがって、調整作業の終了後直ちに板ガラスの割断工程を再開できるため、板ガラスの製造効率が向上する。
【0017】
(6) 上記の(1)~(3)のいずれかの構成において、支持部が、幅方向に移動可能な第一移動機構に配置され、且つ、外力付与部が、幅方向に移動可能な第二移動機構に配置されており、調整工程では、第一移動機構及び第二移動機構の少なくとも一方を幅方向に移動させることにより、支持部が第一領域と接触する位置、及び、外力付与部が第二領域と接触する位置の少なくとも一方を幅方向で調整するようにしてもよい。
【0018】
このようにすれば、第一移動機構を移動させることにより、第一領域に対する支持部の接触位置を幅方向で調整できると共に、第二移動機構を移動させることにより、第二領域に対する外力付与部の接触位置を幅方向で調整できる。また、第一移動機構と第二移動機構とにより、支持部と外力付与部との幅方向間隔も調整できるため、より緻密な調整も可能となる。
【0019】
(7) 上記の(6)の構成において、第一移動機構の幅方向の移動を操作する第一操作部及び第二移動機構の幅方向の移動を操作する第二操作部のそれぞれが、割断工程を行うための切断室の外側に配置されていることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、作業者が切断室外から調整作業を行うことができるため、調整作業中も切断室内への板ガラスの供給を停止しなくて済む。したがって、調整作業の終了後直ちに板ガラスの割断工程を再開できるため、板ガラスの製造効率が向上する。
【0021】
(8) 上記の(1)~(7)のいずれかの構成において、割断工程の後工程として、割断された第一領域及び第二領域の少なくとも一方を検査対象として検査する検査工程を備え、検査工程で検査対象に異常が検出された場合に、調整工程を行うことが好ましい。
【0022】
このようにすれば、検査工程で検査対象の異常の有無を直接検査し、その結果に基づいて調整工程が行われるため、調整工程を必要な時期に確実に行うことができる。
【0023】
(9) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、且つ、それら領域の境界部の表面側にスクライブ線が形成された縦姿勢の板ガラスにつき、第一領域の前記スクライブ線に沿った領域を支持部により接触支持した状態で、外力付与部により第二領域に裏面側に向かう力を作用させることで、板ガラスをスクライブ線に沿って割断する板ガラスの割断装置であって、支持部及び外力付与部が、幅方向に移動可能な単一の移動機構に配置されていることを特徴とする。
【0024】
このようにすれば、上述した対応する構成と同様の作用効果を享受し得る。
【0025】
(10) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、且つ、それら領域の境界部の表面側にスクライブ線が形成された縦姿勢の板ガラスにつき、第一領域のスクライブ線側の端部を支持部により接触支持した状態で、外力付与部により第二領域に裏面側に向かう力を作用させることで、板ガラスをスクライブ線に沿って割断する板ガラスの割断装置であって、支持部が、幅方向に移動可能な第一移動機構に配置され、外力付与部が、第一移動機構とは独立して幅方向に移動可能な第二移動機構に配置されていることを特徴とする。
【0026】
このようにすれば、上述した対応する構成と同様の作用効果を享受し得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、縦姿勢の板ガラスを割断する際にスクライブ線の形成領域に適切な曲げ応力が作用するようにして、チッピングや割れ等の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる割断装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)、(b)、(c)は、本発明の第一実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる割断工程を示す概略下面図である。
【
図3】
図1に示す割断装置が備える調整装置を示す概略平面図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る板ガラスの製造方法に含まれる割断工程を示す概略下面図である。
【
図5】本発明の第三実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる割断装置が備える調整装置を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0030】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる割断装置1を例示する斜視図である。同図に示すように、板ガラスGは、幅方向に隣接して配列された第一領域G1と第二領域G2とを有する。この実施形態では、第一領域G1は、板ガラスGから切り出されて製品となる領域であり、全域にわたって板厚が均等である。第二領域G2は、板ガラスGから切り出されて廃棄される領域であり、図示は省略するが、幅方向外端部(図例では左端部)に第一領域G1よりも板厚が厚い耳部を含む。第一領域G1と第二領域G2との境界部の表面Ga,Gx側には、スクライブ線Sが形成されている。図例では、スクライブ線Sは、板ガラスGの上端及び下端に到達していない。なお、スクライブ線Sは、板ガラスGの上端及び下端に到達していてもよい。以下の説明では、便宜上、第一領域G1を有効領域といい、第二領域G2を不要領域という。
【0031】
板ガラスGは、スクライブ線Sが上下方向を向くように縦姿勢で吊り下げ支持されている。板ガラスGの板厚(耳部を除く領域の板厚)は、例えば200~2000μmとされるが、この板厚の上限値は、好ましくは500μmであり、より好ましくは400μmである。この実施形態では、板ガラスGは、可撓性を有する。板ガラスGには、縦方向の反りが発生している。反りの具体的な形状は、板ガラスGの表面Ga,Gxにおけるスクライブ線S及びこれと平行な任意の仮想直線が湾曲する形状である。また、板ガラスGに発生する縦方向の反りの形状は、成形条件の変更(例えば、板厚やガラス組成の変更)等によって、経時的に変化する場合がある。
【0032】
割断装置1は、不要領域G2を除去するために、板ガラスGをスクライブ線Sに沿って割断(折り割り)するものである。詳述すると、割断装置1は、板ガラスGを吊り下げ支持する把持機構2と、有効領域G1のスクライブ線S側の端部を接触支持する支持部3と、不要領域G2に裏面Gy側に向かう押込力を作用させる外力付与部4とを備えている。
【0033】
把持機構2は、一対の把持片2aと、この一対の把持片2aを互いに接近及び離反させる駆動部2bとを有する。駆動部2bの構成は、図例のものに限定されない。一対の把持片2aは、互いに接近することで有効領域G1の上端部を把持し、互いに離反することで有効領域G1の上端部を把持した状態を解除する。なお、一対の把持片2aは、開脚することで把持した状態を解除し、閉脚することで把持する構成であってもよい。ここで、開脚とは、一対の把持片2aが支点(支軸)の周りに開く方向に回転することであり、閉脚とは、一対の把持片2aが支点(支軸)の周りに閉じる方向に回転することである。
【0034】
把持機構2は、板ガラスGの上方を幅方向に沿って延びるレール(図示略)にスライド可能に保持されている。把持機構2は、板ガラスGを割断位置に搬送する役割と、割断後に有効領域G1を後工程(例えば、検査工程等)に搬送する役割とを果たす。把持機構2は、有効領域G1と不要領域G2の表面Ga,Gx(又は裏面Gb,Gy)に沿って板ガラスGを幅方向に搬送する。割断位置で板ガラスGを割断する際には、把持機構2は、有効領域G1の上端部を把持したままで停止した状態になる。この場合、板ガラスGの下端部は、保持されない。なお、把持機構2は、有効領域G1の上端部における幅方向の複数箇所(この実施形態では二箇所(一箇所は図示略))を把持している。
【0035】
支持部3は、有効領域G1の裏面Gb側に配置された裏面支持部材5と、裏面支持部材5と対向するように、有効領域G1の表面Ga側に配置された表面支持部材6とを備えている。
【0036】
裏面支持部材5は、板ガラスGの割断時に有効領域G1を裏面Gb側から接触支持するものであり、有効領域G1のスクライブ線S側の端部に配置されている。裏面支持部材5は、有効領域G1の裏面Gbのうち、上下方向に長尺な領域(スクライブ線Sに沿った領域)を接触支持する。裏面支持部材5は、エアシリンダ等の流体圧シリンダやボールねじ機構或いはロボットアーム等の駆動手段7(
図3を参照)の動作によって、有効領域G1の裏面Gbに対して接近移動及び離反移動する。裏面支持部材5は、上下方向に長尺な柱状体または板状体(定盤)である。裏面支持部材5とスクライブ線Sとの幅方向の離間距離(裏面支持部材5が有効領域G1に接触した場合の離間距離)は、例えば10~30mmであり、好ましくは10~20mmである。図例では、裏面支持部材5は、有効領域G1の上端及び下端から延び出しているが、有効領域G1の上端及び下端から延び出していなくてもよい。なお、裏面支持部材5の有効領域G1の裏面Gbとの接触部は、有効領域G1の裏面Gbに傷が付き難い材質(例えば、ゴムや樹脂等の弾性部材)で形成されていることが好ましい。
【0037】
表面支持部材6は、板ガラスGの割断時に有効領域G1の表面Ga側から接触支持するものであり、有効領域G1のスクライブ線S側の端部に配置されている。表面支持部材6は、有効領域G1の表面Gaのうち、上下方向に長尺な領域を接触支持する。表面支持部材6は、板ガラスGの割断時に有効領域G1を裏面支持部材5に押し付ける。表面支持部材6は、エアシリンダ等の流体圧シリンダやボールねじ機構或いはロボットアーム等の駆動手段8(
図3を参照)の動作によって、有効領域G1の表面Gaに対して接近移動及び離反移動する。この実施形態では、表面支持部材6は、上下方向に長尺な柱状体または板状体である。なお、表面支持部材6の上下方向の長さは、裏面支持部材5についての既述の事項と同一である。また、表面支持部材6の有効領域G1の表面Gaとの接触部は、有効領域G1の表面Gaに傷が付き難い材質(例えば、ゴムや樹脂等の弾性部材)で形成されていることが好ましい。
【0038】
外力付与部4は、不要領域G2の裏面Gy側に配置された吸着機構9と、吸着機構9と対向するように、不要領域G2の表面Gx側に配置された押込部材10とを備えている。
【0039】
吸着機構9は、上下方向に長尺な保持基体9aと、保持基体9aの長手方向に等間隔で装着された複数個(図例では4個)の吸着パッド9bとを備えている。保持基体9aは、エアシリンダ等の流体圧シリンダやボールねじ機構或いはロボットアーム等の駆動手段11(
図3を参照)の動作によって、不要領域G2の裏面Gyに対して接近移動及び離反移動する。また、保持基体9aは、駆動手段11の動作によって、押込部材10の押込動作に追随するように移動する。吸着パッド9bは、不要領域G2の裏面Gyを負圧により吸着保持するものであり、伸縮可能なゴムや樹脂等の弾性部材で形成されている。図例では、吸着パッド9bは、不要領域G2のうちの耳部を除外した領域を吸着保持する構成であるが、不要領域G2の耳部を吸着保持する構成であってもよい。ただし、耳部の表裏面は平坦でないため、吸着パッド9bは、不要領域G2のうちの耳部を除外した領域を吸着保持する構成であることが好ましい。
【0040】
押込部材10は、不要領域G2の表面Gxに接触する平面部10aを有しており、この実施形態では上下方向に長尺な柱状体または板状体である。押込部材10は、エアシリンダ等の流体圧シリンダやボールねじ機構或いはロボットアーム等の駆動手段12(
図3を参照)の動作によって、不要領域G2の表面Gxに対して接近移動及び離反移動する。また、押込部材10は、駆動手段12の動作によって、不要領域G2に裏面Gy側に向かう押込力を作用させる方向に回転(例えば矢印A方向)する。図例では、押込部材10は、不要領域G2の上端及び下端から延び出しているが、不要領域G2の上端及び下端から延び出していなくてもよい。また、図例では、押込部材10は、不要領域G2の耳部にも接触する構成であるが、不要領域G2のうちの耳部を除外した領域に接触する構成であってもよい。なお、押込部材10の不要領域G2の表面Gxとの接触部は、不要領域G2の表面Gxに傷が付き難い材質(例えば、ゴムや樹脂等の弾性部材)で形成されていてもよい。また、図例のように、押込部材10を板状体とする場合、押込部材10は、板ガラスGと同程度またはそれよりも高い剛性を備えた上で可撓性を有していることが好ましい。これにより、押込部材10の一部が不要領域G2の耳部に接触する場合でも、押込部材10が不要領域G2の耳部とそれ以外の部分との両方に接触し、不要領域G2に適正な押込力を作用させることができる。可撓性を付与する観点からは、押込部材10は、プラスチック段ボールやパロニアに代表される多孔質樹脂板または発泡樹脂板等であることが好ましい。
【0041】
次に、以上のように構成された板ガラスの製造装置を用いた板ガラスの製造方法を説明する。
【0042】
この実施形態に係る板ガラスの製造方法は、図示は省略するが、成形炉でオーバーフローダウンドロー法によりガラスリボンを成形する成形工程と、成形されたガラスリボンを徐冷炉で徐冷する徐冷工程と、徐冷されたガラスリボンを冷却部で冷却する冷却工程と、冷却されたガラスリボンを切断室で切断する切断工程とを備えている。成形炉、徐冷炉、冷却室及び切断室は、この順で上下方向に配置されている。つまり、成形炉が最上部に位置し、切断室が最下部に位置する。そして、成形炉、徐冷炉、冷却室及び切断室では、ガラスリボン及び板ガラスGの姿勢は、縦姿勢で維持される。なお、切断室の下に、不要なガラスリボン及び/又は板ガラスを回収する回収室を設けてもよい。
【0043】
切断工程は、ガラスリボンを所定長さ毎に切断し、板ガラスGを得る第一切断工程と、上記の割断装置1を用いて、板ガラスGの有効領域G1と不要領域G2との境界部を切断する第二切断工程とを備えている。以下では、特徴的な構成を備えた第二切断工程について詳述する。
【0044】
第二切断工程(以下、単に割断工程という)では、まず、
図1に示す位置の上流側の工程において、板ガラスGを把持機構2により吊り下げ支持した状態で、ホイールカッターによる押圧やレーザーの照射等により、板ガラスGの表面にスクライブ線Sを形成する。詳しくは、板ガラスGの有効領域G1と不要領域G2との境界部の表面Ga,Gx側にスクライブ線Sを形成する。次に、スクライブ線Sが形成された板ガラスGを把持機構2で吊り下げ支持した状態のまま幅方向に搬送することで、板ガラスGを
図1に示す割断位置に到達させる。この時点では、表面支持部材6及び裏面支持部材5は、有効領域G1の表面Ga及び裏面Gbからそれぞれ離れており、押込部材10及び吸着機構9も、不要領域G2の表面Gx及び裏面Gyからそれぞれ離れている。この状態では、板ガラスGに縦方向の反りは発生している。
【0045】
この後、裏面支持部材5が有効領域G1に向かって移動すると共に、表面支持部材6も有効領域G1に向かって移動する。この両者5,6の移動が完了した時点で、表面支持部材6が有効領域G1を裏面支持部材5に押し付ける。この状態の下で、吸着機構9が不要領域G2に向かって移動すると共に、押込部材10も不要領域G2に向かって移動する。この両者9,10の移動が完了した時点で、吸着機構9の吸着パッド9bが不要領域G2の裏面Gyを吸着保持すると共に、押込部材10が不要領域G2の表面Gxに接触する。このような移動過程で、表面支持部材6、裏面支持部材5、押込部材10及び吸着機構9の各接触部の周辺において、板ガラスGは反りが殆どない平坦な形状に矯正される。なお、板ガラスGの反りを矯正する形状は、板ガラスGをスクライブ線Sに沿って正確に割断できる形状であれば、平坦な形状に限定されない。また、板ガラスGの反りの形状が変化すれば、表面支持部材6、裏面支持部材5、押込部材10及び吸着機構9が有効領域G1や不要領域G2に接触する位置を板ガラスGの幅方向で調整する必要がある。これは、スクライブ線Sの形成領域に対して適切な曲げ応力を作用させ、割断時の板ガラスGのチッピングや割れ等を抑制するためである。この調整工程の詳細については後述する。
【0046】
図2(a)、(b)、(c)は、この後に板ガラスGを割断する手順を示すものであって、これら各図はいずれも、割断装置1の要部及び板ガラスGの要部を下方より視た横断下面図である。
図2(a)は、割断工程の初期段階における態様を示す。この状態から、
図2(b)に示すように、吸着機構9及び押込部材10を矢印A方向に回転させることで、押込部材10が、不要領域G2に対して、裏面Gy側に向かう押込力を作用させる。これにより、不要領域G2は、裏面支持部材5を支点として裏面Gy側に曲げられていく。なお、吸着機構9は、不要領域G2の裏面Gy側に向かう引込力を実質的に作用させない。この過程で、スクライブ線Sの形成領域に曲げ応力が作用する。この後、吸着機構9及び押込部材10のさらなる回転に伴い、スクライブ線Sの形成領域に作用する曲げ応力が十分に大きくなった時点で、
図2(c)に示すように、板ガラスGがスクライブ線Sに沿って割断される。なお、割断後は、不要領域G2は吸着パッド9bによって吸着保持された状態で退避位置まで搬送され、その後、吸着パッド9bによる吸着状態が解除されて落下回収される。一方、有効領域G1は把持機構2によって検査工程に搬送され、有効領域G1の切断面のチッピングや割れ、欠陥(ガラス粉Pの付着量)等が検査される。
【0047】
この実施形態では、表面支持部材6の駆動手段8の先端部及び裏面支持部材5の駆動手段7の先端部には、スクライブ線S側の面にそれぞれスクライブ線S側に向かって突出するように固定され、且つ、先端部が不要領域G2の表面Gx及び裏面Gyに当接する一対の薄板状のリップシート13が設けられている(
図1では図示略)。なお、リップシート13は、必須の構成はなく適宜省略できる。
【0048】
両リップシート13は、上下方向に長尺な矩形状をなし、樹脂やゴム等の可撓性を有する材料で形成されている。両リップシート13の基端部は、不要領域G2及び有効領域G1の表面Ga,Gx及び裏面Gb,Gyからそれぞれ離反する位置で、駆動手段7,8の先端部に固定されると共に、それぞれの幅方向中央部で両者が接近する方向に窪むように湾曲している。
【0049】
表面支持部材6、裏面支持部材5及び一対のリップシート13により包囲された空間が、気体流通空間Vとされ、この空間V内にスクライブ線Sが存在している。また、両リップシート13の上下方向の一端(例えば下端)が気体流通空間Vの吸引口とされ、この吸引口に吸引源から導かされた吸引ホース(図示略)が連通接続されている。さらに、両リップシート13の上下方向の他端(例えば上端)が気体流通空間Vの流入口とされ、この流入口にフィルタを通過した空気が導かれる。
【0050】
そして、割断工程において、気体流通空間Vの流入口から気体を流入させることにより、気体流通空間V内に流入口から吸引口に向かう気体の流れを形成する。これにより、
図2(c)に示すように、割断時に生じるガラス粉(切粉)Pが、気体流通空間V内の空気の流れに乗って吸引口から吸引ホースに引き込まれ、所定の収容箇所に回収される。この結果、有効領域G1へのガラス粉Pの付着を抑制できる。
【0051】
図3に示すように、割断装置1は、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置、並びに、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置を幅方向で調整するための調整装置21を備えている。
【0052】
調整装置21は、表面支持部材6及び裏面支持部材5、並びに、押込部材10及び吸着機構9が配置された単一の移動機構22と、移動機構22の移動を操作する操作部23と、操作部23の動力を移動機構22に伝達する動力伝達部24とを備えている。
【0053】
移動機構22は、幅方向に延びる一対のレール25と、レール25に沿って幅方向に移動可能な移動台26と、移動台26の上に固定され且つ裏面支持部材5及び吸着機構9を支持する裏面側基体27と、移動台26の上に固定され且つ表面支持部材6及び押込部材10を支持する表面側基体28とを備えている。詳細には、レール25及び移動台26は、板ガラスGよりも下方に配置されており、且つ、移動台26は、板ガラスGの表裏両側に跨るように配置されている。裏面側基体27は、移動台26の板ガラスGの裏面Gb,Gy側の領域に固定されており、表面側基体28は、移動台26の板ガラスGの表面Ga,Gx側の領域に固定されている。裏面側基体27は、裏面支持部材5及び吸着機構9の駆動手段7,11の基端部を板ガラスGに対応する所定の高さで支持している。表面側基体28は、表面支持部材6及び押込部材10の駆動手段8,12の基端部を板ガラスGに対応する所定の高さで支持している。
【0054】
操作部23は、正逆両側に回転可能なハンドルから構成されている。操作部23は、板ガラスGの割断を行う切断室Rの外側に配置されている。
【0055】
動力伝達部24は、操作部23の回転運動を、幅方向に沿った直進運動(矢印B方向の往復運動)に変換するものであり、この実施形態では、一対のタイミングプーリ29,30と、一対のタイミングプーリ29,30の間に掛け渡されたタイミングベルト31と、ボールねじ機構32とを備えている。
【0056】
一方のタイミングプーリ29は、切断室Rの外側で操作部23に固定され且つ操作部23の回転動作と共に同方向(正転又は逆転)に回転可能である。操作部23を回転させると、一方のタイミングプーリ29が回転し、その回転動作がタイミングベルト31によって伝達され、他方のタイミングプーリ30も操作部23の回転動作と同方向に回転する。
【0057】
ボールねじ機構32は、幅方向に延びるねじ軸33と、移動台26の下面に固定され且つねじ軸33に噛み合うナット34とを備えている。ねじ軸33は、軸受35によって支持されると共に、ねじ軸33の一端部にはタイミングプーリ30の回転軸が連結されている。操作部23の回転に伴って、上述のようにタイミングプーリ30が回転すると、ねじ軸33が回転し、ナット34がねじ軸33上を矢印B方向に直進移動する。その結果、ナット34に固定された移動台26が幅方向に移動する。詳細には、操作部23を正転させると、その回転量に応じた寸法だけ移動台26が幅方向の一方側(例えば、図中の左側)に移動し、操作部23を逆転させると、その回転量に応じた寸法だけ移動台26が幅方向の他方側(例えば、図中の右側)に移動する。
【0058】
なお、操作部23及び動力伝達部24の構成は、切断室Rの外側から移動台26を幅方向に移動させることができる構成であれば、特に限定されない。操作部23は、例えばサーボモータ等であってもよい。動力伝達部24は、例えばラック・ピニオン機構等であってもよい。
【0059】
第一実施形態に係る板ガラスの製造方法は、割断工程の前工程として、上記の調整装置21により、表面支持部材6及び裏面支持部材5が有効領域G1と接触する位置、並びに、押込部材10及び吸着機構9が不要領域G2と接触する位置の両方を幅方向で調整する調整工程を備えている。調整工程では、表面支持部材6及び裏面支持部材5は、有効領域G1の表面Ga及び裏面Gbからそれぞれ離れており、押込部材10及び吸着機構9も、不要領域G2の表面Gx及び裏面Gyからそれぞれ離れている。ここで、調整工程で調整する各接触位置は、
図2(a)に示すように、表面支持部材6が有効領域G1の表面Gaと最初に接触する初期位置、裏面支持部材5が有効領域G1の裏面Gbと最初に接触する初期位置、押込部材10が不要領域G2の表面Gxと最初に接触する初期位置、及び吸着機構9が不要領域G2の裏面Gyと最初に接触する初期位置を意味する。
【0060】
調整工程では、操作部23の操作により、移動台26の幅方向の位置を調整する。移動台26には、表面支持部材6、裏面支持部材5、押込部材10及び吸着機構9が配置されているため、操作部23によって移動台26の幅方向の位置を調整すると、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置、並びに、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置も幅方向で調整される。したがって、割断工程において、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置、並びに、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置を、板ガラスGの反りに応じた最適な位置に設定できる。その結果、板ガラスGを割断する際に、スクライブ線Sの形成領域に適正な曲げ応力を作用させることができるため、チッピングや割れ等の発生を抑制することができる。なお、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置、並びに、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置のそれぞれの幅方向の調整幅は、例えば5mm以内とされる。
【0061】
また、操作部23が切断室Rの外側に設けられているため、調整工程で作業者が切断室Rの外側から調整作業を行うことができる。そのため、調整作業中も切断室R内への板ガラスGの供給を停止しなくて済む。したがって、調整作業の終了後直ちに板ガラスGの割断工程を再開できるため、板ガラスGの製造効率が向上する。
【0062】
さらに、単一の移動台26を移動させるだけで、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置、並びに、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置の両方を幅方向で調整できる。つまり、調整作業を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0063】
調整工程は、予め決められた所定のタイミングで行うようにしてもよいが、この実施形態では、調整工程は、検査工程で割断された有効領域G1に異常が検出された場合に行う。ここで、検査工程における有効領域G1の異常としては、例えば、有効領域G1の幅方向端部にチッピングや割れがある場合、有効領域G1の表面に付着した異物(ガラス粉P等)の量が所定値よりも多い場合等の切断不良が挙げられる。このようにすれば、検査工程でチッピングや割れ等の発生の有無を直接検査し、その結果に基づいて調整工程が行われるため、調整工程を必要な時期に確実に行うことができる。なお、検査工程における検査対象は、割断された不要領域G2であってもよい。
【0064】
ここで、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置、並びに、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置の幅方向の調整は、各駆動手段7,8,11,12によっても行うことができる。具体的には、各駆動手段7,8,11,12が、裏面支持部材5、表面支持部材6、吸着機構9、押込部材10を矢印B方向に移動させることにより行うことができる。したがって、上記の調整工程では、調整装置21に代えて各駆動手段7,8,11,12を用いてもよいし、調整装置21と各駆動手段7,8,11,12とを併用してもよい。ただし、各駆動手段7,8,11,12を用いる場合、作業者が切断室R内に入って調整工程を行うため、切断室Rへの板ガラスGの供給を一時停止させる必要がある。したがって、調整工程は、板ガラスGの生産効率を向上させる観点からは、上記の調整装置21を用いて、切断室Rの外側から行うことが好ましい。
【0065】
(第二実施形態)
上記の第一実施形態に係る割断装置1及び割断工程では、板ガラスGの幅方向一端部の不要領域G2を対象にして説明したが、第二実施形態では、不要領域G2が、板ガラスGの幅方向両端部にそれぞれ形成される場合を説明する。この板ガラスGに対して不要領域G2を除去するための割断を行うには、以下に示すような構成が採用される。
【0066】
すなわち、
図4に示すように、この板ガラスGは、幅方向中央側領域が有効領域G1で且つその幅方向両側が不要領域G2である。有効領域G1と各不要領域G2との二つの境界部には、スクライブ線Sがそれぞれ形成されている。この二本のスクライブ線Sに沿う板ガラスGの割断は、各不要領域G2にそれぞれ対応して配置された割断装置1によって行われる。この二つの割断装置1は、いずれも、有効領域G1の表面Ga側及び裏面Gb側にそれぞれ配置される表面支持部材6及び裏面支持部材5と、不要領域G2の表面Gx側及び裏面Gy側にそれぞれ配置される押込部材10及び吸着機構9とを有する。押込部材10及び吸着機構9は、二箇所のいずれもが、矢印A方向に回転する構成とされる。二つの割断装置1の詳細な構成は、既述の割断装置1と同一である。この場合、二つの割断装置1による割断は同時に行われてもよく、或いは一方の割断装置1による割断が完了した後に他方の割断装置1による割断が行われてもよい。このように二つの割断装置1を配置する場合は、上記の調整装置21も各々の割断装置1に設けられ、各々の割断装置1に対して調整工程が行われる。
【0067】
また、これとは別に、一方の割断装置1と他方の割断装置1とを、板ガラスGの幅方向の長さよりも長い距離を隔てて配置し、一方の不要領域G2を一方の割断装置1により割断して除去した後、板ガラスGを幅方向に移動させ、然る後、他方の不要領域G2を他方の割断装置1により割断して除去するようにしてもよい。
【0068】
さらに、これとは別に、割断装置1を一つとして、一方の不要領域G2を当該割断装置1により割断して除去した後、板ガラスGを平面視で180度回転させ、然る後、他方の不要領域G2を当該割断装置1により割断して除去するようにしてもよい。このように一つの割断装置1を配置する場合は、上記の調整装置21も一つの割断装置1のみに設けられ、その割断装置1に対して調整工程が行われる。
【0069】
(第三実施形態)
図5に示すように、第三実施形態に係る板ガラスの製造装置及び製造方法が、第一及び第二実施形態と相違する点は、調整装置の構成である。
【0070】
同図に示すように、この実施形態では、調整装置41は、表面支持部材6及び裏面支持部材5が配置された第一移動機構42と、押込部材10及び吸着機構9が配置された第二移動機構43と、第一移動機構42の移動を操作する第一操作部44と、第二移動機構43の移動を操作する第二操作部45と、第一操作部44の動力を第一移動機構42に伝達する第一動力伝達部46と、第二操作部45の動力を第二移動機構43に伝達する第二動力伝達部47とを備えている。つまり、第一実施形態の調整装置21では、表面支持部材6及び裏面支持部材5の幅方向の位置を調整する構成と、押込部材10及び吸着機構9の幅方向の位置を調整する構成とが、共通の構成であったが、第二実施形態の調整装置41では、これら二つの構成が互いに独立している。
【0071】
第一移動機構42は、幅方向に延びる一対の第一レール48と、第一レール48に沿って幅方向に移動可能な第一移動台49と、第一移動台49の上に固定され且つ裏面支持部材5を支持する第一裏面側基体50と、第一移動台49の上に固定され且つ表面支持部材6を支持する第一表面側基体51とを備えている。詳細には、第一レール48及び第一移動台49は、板ガラスGよりも下方に配置されており、且つ、第一移動台49は、板ガラスGの表裏両側に跨るように配置されている。第一裏面側基体50は、第一移動台49の板ガラスGの裏面Gb,Gy側の領域に固定されており、第一表面側基体51は、第一移動台49の板ガラスGの表面Ga,Gx側の領域に固定されている。第一裏面側基体50は、裏面支持部材5の駆動手段7の基端部を板ガラスGに対応する所定の高さで支持している。第一表面側基体51は、表面支持部材6の駆動手段8の基端部を板ガラスGに対応する所定の高さで支持している。
【0072】
第二移動機構43は、幅方向に延びる一対の第二レール52と、第二レール52に沿って幅方向に移動可能な第二移動台53と、第二移動台53の上に固定され且つ吸着機構9を支持する第二裏面側基体54と、第二移動台53の上に固定され且つ押込部材10を支持する第二表面側基体55とを備えている。詳細には、第二レール52及び第二移動台53は、板ガラスGよりも下方に配置されており、且つ、第二移動台53は、板ガラスGの表裏両側に跨るように配置されている。第二裏面側基体54は、第二移動台53の板ガラスGの裏面Gb,Gy側の領域に固定されており、第二表面側基体55は、第二移動台53の板ガラスGの表面Ga,Gx側の領域に固定されている。第二裏面側基体54は、吸着機構9の駆動手段11の基端部を板ガラスGに対応する所定の高さで支持している。第二表面側基体55は、押込部材10の駆動手段12の基端部を板ガラスGに対応する所定の高さで支持している。
【0073】
第一操作部44及び第二操作部45は、正逆両側に回転可能なハンドルから構成されている。両操作部44,45は、板ガラスGの割断を行う切断室Rの外側に配置されている。
【0074】
第一動力伝達部46は、第一操作部44の回転運動を、幅方向に沿った直進運動(矢印C方向の往復運動)に変換するものであり、この実施形態では、一対の第一タイミングプーリ56,57と、両タイミングプーリ56,57の間に掛け渡された第一タイミングベルト58と、ねじ軸60及びナット61を有する第一ボールねじ機構59とを備えている。ねじ軸60は、軸受62によって支持された状態で幅方向に延び、ナット61は、第一移動台49の下面に固定され且つねじ軸60に噛み合わされている。これにより、第一実施形態の調整装置21と同様に、第一操作部44の回転方向及び回転量に応じて、第一移動台49の幅方向位置が調整される。
【0075】
第二動力伝達部47は、第二操作部45の回転運動を、幅方向に沿った直進運動(矢印D方向の往復運動)に変換するものであり、この実施形態では、一対の第二タイミングプーリ63,64と、両タイミングプーリ63,64の間に掛け渡された第二タイミングベルト65と、ねじ軸67及びナット68を有する第二ボールねじ機構66とを備えている。ねじ軸67は、軸受69によって支持された状態で幅方向に延び、ナット68は、第二移動台53の下面に固定され且つねじ軸67に噛み合わされている。これにより、第一実施形態の調整装置21と同様に、第二操作部45の回転方向及び回転量に応じて、第二移動台53の幅方向位置が調整される。
【0076】
なお、第一及び第二操作部44,45、並びに、第一及び第二動力伝達部46,47の構成は、切断室Rの外側から第一及び第二移動台49,53を幅方向に移動させることができる構成であれば、特に限定されない。
【0077】
第二実施形態に係る板ガラスの製造方法に含まれる調整工程では、第一操作部44の操作で第一移動機構42の第一移動台49を幅方向に移動させることにより、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置を幅方向で調整する。同様に、第二操作部45の操作で第二移動機構43の第二移動台53を幅方向に移動させることにより、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置を幅方向で調整する。つまり、第一移動機構42と第二移動機構43とにより、有効領域G1に対する表面支持部材6及び裏面支持部材5の接触位置と、不要領域G2に対する押込部材10及び吸着機構9の接触位置とを個別に幅方向で調整できるため、より緻密な調整が可能になる。なお、調整工程では、第一移動台49及び第二移動台53のいずれか一方のみを幅方向に移動させるようにしてもよい。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0079】
上記の実施形態において、調整工程を、成形条件の変更(例えば、板厚やガラス組成の変更)時に行うようにしてもよい。
【0080】
上記の実施形態では、調整装置21,41を切断室Rの床面側に配置する場合を説明したが、調整装置21,41は切断室Rの天井側に配置されていてもよい。つまり、表面支持部材6、裏面支持部材5、押込部材10及び吸着機構9を、調整装置21,41を介して天井から吊り下げ支持してもよい。
【0081】
上記の実施形態では、第二領域G2を、耳部を有する不要領域としたが、第二領域G2は、耳部を有しない不要領域であってもよく或いは製品となる有効領域(第一領域G1と同じ板厚の有効領域)であってもよい。
【0082】
上記の実施形態では、支持部3が、裏面支持部材5と表面支持部材6とを備える場合を説明したが、支持部3は、裏面支持部材5及び表面支持部材6のうち裏面支持部材5のみを備えるものであってもよい。
【0083】
上記の実施形態では、外力付与部4(吸着機構9及び押込部材10)を矢印A方向に回転させることで、板ガラスGを割断する場合を説明したが、外力付与部4を板ガラスGの板厚方向のみに直進移動させて、板ガラスGを割断するようにしてもよい。この場合、割断中は、外力付与部4の幅方向の位置は一定である。
【0084】
上記の実施形態では、外力付与部4が、押込部材10と吸着機構9とを備え、第二領域G2に裏面Gy側に向かう押込力を作用させる場合を説明したが、外力付与部4は、押込部材10に代えて、第二領域G2に裏面Gy側に向かう引込力を作用させる引込部材を備えていてもよい。引込部材を備えた一例としては、外力付与部4は、押込部材10及び吸着機構9のうち吸着機構9のみを備え、吸着機構9によって第二領域G2に裏面Gy側に向かう引込力を作用させる構成が挙げられる。またこれに代えて、外力付与部4は、第二領域G2の上端部及び下端部をそれぞれ把持片等の保持部材によって保持した状態で、保持部材を裏面Gy側に移動させることで、第二領域G2に裏面Gy側に向かう力を作用させるようにしてもよい。
【0085】
上記の実施形態では、第一領域G1の上端部を、把持機構2の把持片2aで保持するようにしたが、これに代えて、例えば吸盤等の他の保持部材で保持するようにしてもよい。
【0086】
上記の実施形態では、板ガラスGをオーバーフローダウンドロー法により成形されたガラスリボンから得る場合を説明したが、ガラスリボンの成形方法は、これに限定されない。ガラスリボンの成形方法は、フロート法、ロールアウト法、スロットダウンドロー法、リドロー法等の成形方法であってもよい。
【0087】
上記の実施形態では、板ガラスGに反りがある場合を説明したが、本発明の割断装置及び板ガラスの製造方法は、反りのない板ガラスにも適用できる。
【符号の説明】
【0088】
1 割断装置
2 把持機構
3 支持部
4 外力付与部
5 裏面支持部材
6 表面支持部材
9 吸着機構
10 押込部材
21 調整装置
22 移動機構
23 操作部
24 動力伝達部
41 調整装置
42 第一移動機構
43 第二移動機構
44 第一操作部
45 第二操作部
46 第一動力伝達部
47 第二動力伝達部
G 板ガラス
G1 第一領域(有効領域)
G2 第二領域(不要領域)
R 切断室
S スクライブ線