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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】無アルカリガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
C03C3/097
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020560043
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047809
(87)【国際公開番号】W WO2020121966
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2018230609
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019090655
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
(72)【発明者】
【氏名】林 昌宏
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122576(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194693(WO,A1)
【文献】特開昭61-261232(JP,A)
【文献】特表2016-517841(JP,A)
【文献】特開2010-215463(JP,A)
【文献】特開2003-335548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO 60~90%、Al 5~20%、B ~6%、P 0.1~6%、LiO+NaO+KO 0~0.5%、MgO 0~10%、CaO 0.1~10%、SrO 0~5%、MgO+CaO+SrO+BaO 10%以下を含有し、且つ30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が34.0×10-7/℃以下、密度が2.377g/cm 以下であることを特徴とする無アルカリガラス板。
【請求項2】
SrOの含有量が1モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の無アルカリガラス板。
【請求項3】
BaOの含有量が0.5モル%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無アルカリガラス板。
【請求項4】
モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/P が6以下であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の無アルカリガラス板。
【請求項5】
Al +P の含有量が14%以上であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の無アルカリガラス板。
【請求項6】
-B の含有量が-4%以上であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の無アルカリガラス板。
【請求項7】
モル%の計算式14.8×[Al ]-2.2×[B ]+[MgO]+6.5([CaO]+[SrO]+[BaO])-11.1×[P ]の値が110%以上であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の無アルカリガラス板。
【請求項8】
実質的にAs 及びSb を含有しないことを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の無アルカリガラス板。
【請求項9】
歪点が700℃以上であることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス板。
【請求項10】
ング率が70GPa以上であることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無アルカリガラス板に関し、特に液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイにおいて、薄膜トランジスタ(TFT)回路を形成するための基板又はTFT回路を形成するための樹脂基板を保持する基板に好適な無アルカリガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルや有機ELパネルは、周知のように、駆動制御のためにTFTを備えている。
【0003】
ディスプレイを駆動するTFTには、アモルファスシリコン、低温ポリシリコン、高温ポリシリコン等が知られている。昨今では、大型液晶ディスプレイ、スマートフォン、タブレットPC等の普及に伴い、ディスプレイの高解像度化のニーズが高まっている。近年、注目を集めているVRデバイス等でも、更なる高解像度化のニーズが高まっている。
【0004】
低温ポリシリコンTFTや高温ポリシリコンTFTは、上記ニーズを満たし得るが、この技術には、500~600℃の高温プロセス(TFT形成のための成膜処理等)が必要になる。しかし、従来の無アルカリガラス板は、高温プロセスの前後で生じる熱収縮や熱処理時の温度分布によってTFTのパターンずれを惹起してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5769617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無アルカリガラス板のパターンずれを低減するためには、低熱収縮量と低熱膨張を高いレベルで両立させることが重要になる。
【0007】
無アルカリガラス板の熱収縮を低減させるための方法は、主に二つある。一つは、予めプロセス温度付近において、ガラスを一定時間保持して、アニールを行うという方法である。この方法では、アニール時に、ガラスがプロセス温度において平衡となる構造に緩和して収縮することにより、後の成膜処理でガラスの熱収縮量を低減することができる。しかし、この方法は、アニール工程が必須になり、その分、製造時間が長くなるため、無アルカリガラス板の製造コストを高騰させる。
【0008】
もう一つは、ガラスを高歪点化するという方法である。ガラス板の成形方法の一種であるオーバーフローダウンドロー法では、一般的に、溶融温度から成形温度へ短時間で冷却される。この影響で、ガラス板の仮想温度が高くなるため、成膜温度との差が大きくなり、ガラスの熱収縮量が大きくなる。そこで、ガラスを高歪点化すれば、成膜温度におけるガラスの粘度が高くなり、構造緩和が進行し難くなる。結果として、ガラスの熱収縮を低減することができる。
【0009】
また、熱処理温度が高い程、熱収縮量を低減する上で、高歪点化の寄与が大きくなる。よって、高温ポリシリコンTFTを想定した場合、つまりディスプレイの高精細化を図る場合、高歪点の無アルカリガラス板が求められる。特許文献1には、Y及び/又はLaを含む高歪点ガラスが開示されている。しかし、Y及びLaは、希土類酸化物のため、希少であり、導入原料が高くなる。結果として、無アルカリガラス板の製造コストが高騰してしまう。更に、ガラス組成中にY及び/又はLaを導入すると、熱膨張係数が不当に高くなる虞がある。
【0010】
また、低温ポリシリコンTFTの作製において、無アルカリガラス板の熱膨張係数は、成膜装置の条件調整により補正し得るため、これまで大きく問題視されていなかった。しかし、VRデバイス等の分野では、成膜装置内の温度分布によって生じるパターンずれも問題視されるため、更なる高精細なパネルを作製しようとする場合、従来よりも低膨張の無アルカリガラス板が必要になる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、製造コストの高騰を防止しつつ、歪点が高く、熱膨張係数が低い無アルカリガラス板を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、必須成分としてPを導入すると共に、その他の成分の含有量を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の無アルカリガラス板は、ガラス組成として、モル%で、SiO 60~90%、Al 5~20%、B 0~15%、P 0.1~20%、LiO+NaO+KO 0~0.5%、MgO 0~10%、CaO 0.1~10%、SrO 0~5%を含有し、且つ30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が34.0×10-7/℃以下であることを特徴とする。このようにすれば、製造コストを高騰させることなく、歪点を高めて、熱膨張係数を低下させることが可能になる。結果として、高温プロセスの前後において、ガラスの熱収縮量が小さくなり、成膜装置内の温度分布の影響を軽減し得るため、TFTのパターンずれを顕著に低減することができる。ここで、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO及びKOの合量を指す。「30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した値である。
【0013】
また、本発明の無アルカリガラス板は、SrOの含有量が1モル%以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の無アルカリガラス板は、Bが6モル%以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の無アルカリガラス板は、歪点が700℃以上であることが好ましい。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0016】
また、本発明の無アルカリガラス板は、密度が2.50g/cm以下、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が34.0×10-7/℃以下、歪点が700℃以上、且つヤング率が70GPa以上であることを特徴とする。ここで、「密度」は、周知のアルキメデス法で測定可能であり、「曲げ共振法」は、周知の曲げ共振法で測定可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の無アルカリガラス板において、上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、%表示はモル%を表す。
【0018】
SiOは、ガラス骨格を形成する成分であり、歪点を高める成分である。更に、SiOを増量(例えば68%以上)することにより、熱膨張係数を大幅に低下させることができる。よって、SiOの含有量は、好ましくは60%以上、63%以上、65%以上、67%以上、68%以上、69%以上、70%以上、特に71%以上である。一方、SiOの含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなり、溶融性が低下し易くなる。そして、溶融コストの上昇は、生産コストの高騰に直結する。よって、SiOの含有量は、好ましくは90%以下、85%以下、80%以下、77%以下、76%以下、75%以下、74%以下、73%以下、特に72%以下である。
【0019】
Alは、ガラス骨格を形成する成分であり、また歪点を高める成分であり、更に分相を抑制する成分である。特に、本発明は、必須成分としてPを含有するが、その場合、Alの含有量が少な過ぎると、ガラスが分相し易くなる。よって、Alの含有量は、好ましくは5%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に12.5%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなり、製造コストが上昇し易くなる。よって、Alの含有量は、好ましくは20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、16%以下、15%以下、特に14%以下である。
【0020】
は、高歪点を維持しつつ、Al系失透結晶の液相温度を著しく低下させる成分である。従来の無アルカリガラスでは、アルカリ土類金属酸化物の含有量や比率の最適化により、ムライト等のAl系失透結晶の液相温度を低下させていたが、アルカリ土類金属酸化物は、熱膨張係数を高める効果を有する。その一方で、Pは、熱膨張係数を高めることなく、Al系失透結晶の液相温度を低下させる効果を有する。よって、Pの含有量は、好ましくは0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、特に5%以上である。しかし、Pを多量に含有させると、ヤング率が低下し過ぎたり、ガラスが分相し易くなる。また、Pは、ガラスから拡散して、TFTの性能を低下させる懸念がある。よって、Pの含有量は、好ましくは20%以下、15%以下、12%以下、11%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下である。
【0021】
Al+Pの含有量は、好ましくは14%以上、15%超、17%以上、18%以上、19%以上、特に20~25%である。Al+Pの含有量が少な過ぎると、高歪点を維持することが困難にある。なお、「Al+P」は、AlとPの合量を指す。
【0022】
は、溶融性を高めると共に、Al系失透結晶の液相温度を上昇させる成分である。更に熱膨張係数を低下させる成分である。よって、Bの含有量は、好ましくは0%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、特に5%以上である。一方、Bの含有量が多過ぎると、歪点が大幅に低下したり、ガラス中の水分含有量が大幅に増加する。結果として、ガラスの熱収縮量が大きくなる。よって、Bの含有量は、好ましくは15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7以下、特に6%以下である。
【0023】
-Bの含有量は、好ましくは-4%以上、-3%以上、-2%以上、-1%以上、0%超、1%以上、2%以上、3%以上、特に4~10%である。P-Bの含有量が多過ぎると、成形時にAl系失透結晶が析出し易くなる。なお、「P-B」は、Pの含有量からBの含有量を減じたものである。
【0024】
モル%の計算式14.8×[Al]-2.2×[B]+[MgO]+6.5×([CaO]+[SrO]+[BaO])-11.1×[P]の値は、好ましくは110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、特に190%以上である。この値が小さ過ぎると、ガラスが分相し易くなる。なお、[Al]はAlのモル%含有量を指し、[B]はBのモル%含有量を指し、[MgO]はMgOのモル%含有量を指し、[CaO]はCaOのモル%含有量を指し、[SrO]はSrOのモル%含有量を指し、[BaO]はBaOのモル%含有量を指し、[P]はPのモル%含有量を指す。
【0025】
MgOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であり、また他の成分とのバランスにより耐失透性を高める成分である。更に機械的特性としてヤング率を顕著に高める成分である。ヤング率が高いと、すべてのTFTの作製プロセスにおいて、パターンずれを低減する効果を享受することができる。またMgOは、アルカリ土類金属元素の中で最も熱膨張係数を高める効果が小さいため、低膨張ガラスを設計する上で好適である。よって、MgOの含有量は、好ましくは0%以上、0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。一方、MgOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなったり、他の成分とのバランスが崩れて、耐失透性が低下し易くなる。よって、MgOの含有量は、好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、特に5%以下である。
【0026】
本発明は、必須成分としてPを含み、且つガラス形成酸化物の割合が高いため、耐失透性、溶融性、ヤング率を最適化する観点から、CaOの導入は必須である。よって、CaOの含有量は、好ましくは0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に3.5%以上である。一方、CaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり、また歪点が低下し易くなる。よって、CaOの含有量は、好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下が好ましい。
【0027】
SrOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であり、他の成分とのバランスにより耐失透性を高める成分である。よって、SrOの含有量は、好ましくは0%以上、0.1%以上、特に0.5%以上である。一方、SrOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。よって、SrOの含有量は、好ましくは5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、特に1%以下である。
【0028】
BaOは、他の成分とのバランスにより耐失透性を高める成分である。よって、BaOの含有量は、好ましくは0%以上、0.5%以上、特に1%以上である。一方、BaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎる。またヤング率が低下し易くなる。よって、BaOの含有量は、好ましくは10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下である。
【0029】
SrOとBaOの合量が少な過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。よって、SrOとBaOの合量は、好ましくは0%以上、0.1%以上、特に1%以上である。一方、SrOとBaOの合量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなってしまう。よって、SrOとBaOの合量は、好ましくは4%以下、3%以下、2%以下、特に1%以下である。
【0030】
MgO、CaO、SrO及びBaOの合量は、熱膨張係数を低下させるために、12%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、特に5%以下が好ましい。しかし、アルカリ土類金属酸化物を殆ど含有しない場合、ガラス組成のバランスが崩れて、耐失透性が低下し易くなったり、ガラスが分相し易くなる。よって、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量は、好ましくは0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、特に5%以上である。
【0031】
モル比MgO/Pは、好ましくは3以下、2以下、1.5以下、0.8以下、0.5以下、0.3以下、特に0.1~0.2である。モル比MgO/Pが大き過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、「MgO/P」は、MgOの含有量をPの含有量で除した値を指す。
【0032】
モル比CaO/Pは、好ましくは5以下、4以下、3以下、2以下、0.01~1、0.1~1未満、特に0.3~0.7である。モル比CaO/Pが大き過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、「CaO/P」は、CaOの含有量をPの含有量で除した値を指す。
【0033】
モル比SrO/Pは、好ましくは2以下、1以下、0.8以下、0.6以下、0.4以下、0.2以下、0.1以下、特に0.1未満である。モル比SrO/Pが大き過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、「SrO/P」は、SrOの含有量をPの含有量で除した値を指す。
【0034】
モル比BaO/Pは、好ましくは2以下、1以下、0.8以下、0.6以下、0.4以下、0.2以下、0.1以下、特に0.1未満である。モル比BaO/Pが大き過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、「BaO/P」は、BaOの含有量をPの含有量で除した値を指す。
【0035】
モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Pは、好ましくは6以下、4以下、3以下、2以下、1.5以下、1以下、1未満、0.9以下、0.8以下、特に0.1~0.7である。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Pが大き過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、「(MgO+CaO+SrO+BaO)/P」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量をPの含有量で除した値を指す。
【0036】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ZnOを多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。ZnOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、特に0~0.2%である。
【0037】
TiOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分である。しかし、TiOを多量に含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。よって、TiOの含有量は、好ましくは0~3% 、0~1%、0~0.1%、特に0~0.02%である。
【0038】
LiO、NaO及びKOの合量は0~0.5%であり、好ましくは0~0.2%、より好ましくは0~0.15%である。LiO、NaO及びKOの合量が多過ぎると、熱処理工程で成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散する事態を招く虞がある。
【0039】
SnOは、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、歪点を高める成分であり、また高温粘性を低下させる成分である。SnOの含有量は、好ましくは0~1%、0.001~1%、0.05~0.5%、特に0.08~0.2%である。SnOの含有量が多過ぎると、SnOの失透結晶が析出し易くなる。なお、SnOの含有量が0.001%より少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0040】
SnOは、清澄剤として好適であるが、ガラス特性を著しく損なわない限り、SnO以外の清澄剤を使用してもよい。具体的には、As、Sb、CeO、F、Cl、SO、Cを合量で例えば1%まで添加してもよく、Al、Si等の金属粉末を合量で例えば1%まで添加してもよい。
【0041】
As、Sbは、清澄性に優れるが、環境的観点から、極力導入しないことが好ましい。更に、Asは、ガラス中に多量に含有させると、耐ソラリゼーション性が低下する傾向にあるため、その含有量は0.5%以下、特に0.1%以下が好ましく、実質的に含有させないことが望ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス組成中のAsの含有量が0.05%未満の場合を指す。また、Sbの含有量は1%以下、特に0.5%以下が好ましく、実質的に含有させないことが望ましい。ここで、「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス組成中のSbの含有量が0.05%未満の場合を指す。
【0042】
Clは、無アルカリガラス板の溶融を促進する効果があり、Clを添加すれば、溶融温度を低温化し得ると共に、清澄剤の作用を促進し、結果として、溶融コストを低廉化しつつ、ガラス製造窯の長寿命化を図ることができる。しかし、Clの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。よって、Clの含有量は、好ましくは0.5%以下、特に0.1%以下である。なお、Clの導入原料として、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属酸化物の塩化物、或いは塩化アルミニウム等を使用することができる。
【0043】
本発明の無アルカリガラス板において、微量成分の含有量は、以下の通りであることが好ましい。
【0044】
Rhの含有量は、好ましくは0.1~3質量ppm、0.2~2.5質量ppm、0.3~2質量ppm、0.4~1.5質量ppm、特に0.5~1質量ppmである。Rhは、一般的に、溶融設備に含まれる成分である。また、ガラスを高温で溶融すると、Rhがガラス生地へ溶出し易くなる。しかし、RhとSnOが共存すると、ガラスが着色し易くなる。よって、Rhの含有量は、極力少ない方が望ましい。本発明に係る無アルカリガラスは、高歪点であるにもかかわらず、高温域の粘度が比較的低いため、同程度の歪点を有する無アルカリガラスに比べて、低温での溶融が可能になる。よって、本発明に係る無アルカリガラスは、同程度の歪点を有する無アルカリガラスに比べて、Rhの溶出量を低減することができる。そして、Rhの含有量を低減すると、高歪点ガラスを低コストで、且つ着色させずに作製することができる。
【0045】
Irの含有量は、好ましくは0.01~10質量ppm、0.02~5質量ppm、0.03~3質量ppm、0.04~2質量ppm、特に0.05~1質量ppmである。本発明の無アルカリガラス板の溶融工程では、Irを含む溶融設備が好適に使用される。Irは、Pt及びPt-Rh合金に比べて耐熱性が高く、またガラス界面での発泡を低減することができる。しかし、Irを含む溶融設備によりガラスを溶融する場合、Irの溶出は不可避である。Irの溶出量が多過ぎると、ガラス中にIrの結晶ブツが析出し易くなる。
【0046】
MoOの含有量は、好ましくは3~50質量ppm、4~40質量ppm、5~30質量ppm、5~25質量ppm、特に5~20質量ppmである。Moは溶融工程における電極に含まれる成分である。また、電気溶融加熱によりガラスを溶融する場合、Mo電極からのMoOの溶出は不可避である。しかし、本発明に係る無アルカリガラスは、高歪点であるにもかかわらず、高温域の粘度が比較的低いため、電気溶融加熱の際にMoOの溶出量を可及的に低減することができる。
【0047】
ZrOの含有量は、好ましくは500~2000質量ppm、550~1500質量ppm、600~1200質量ppmである。ZrOは、一般的に、溶融工程における耐火物に含まれる成分である。また、ガラスを高温で溶融すると、ZrOがガラス生地へ溶出し易くなる。しかし、本発明に係る無アルカリガラスは、高歪点であるにもかかわらず、高温域の粘度が比較的低いため、ZrOの溶出量を可及的に低減することができる。なお、他の耐火物を用いることにより、ZrOの溶出量を減少させる場合、高価な耐火物を用いることになり、製造コストが上昇する。一方、ガラス組成中にZrOを微量導入すると、液相温度が低下したり、耐候性が向上するという効果を享受することができる。
【0048】
本発明の無アルカリガラス板は、以下の物性を有することが好ましい。
【0049】
密度は、好ましくは2.50g/cm以下、2.45g/cm以下、2.40g/cm以下、2.35g/cm以下、2.30g/cm以下、特に2.25g/cm以下である。密度が高過ぎると、無アルカリガラス板が撓み易くなることに加えて、デバイスを軽量化し難くなる。
【0050】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数は34.0×10-7/℃以下であり、好ましくは32.0×10-7/℃以下、30.0×10-7/℃以下、27.0×10-7/℃以下、25.0×10-7/℃以下、22.0×10-7/℃以下、20.0×10-7/℃以下、19.0×10-7/℃以下、18.0×10-7/℃以下、17.0×10-7/℃以下、特に10.0×10-7/℃以上、且つ16.0×10-7/℃以下である。30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が高過ぎると、成膜装置内の温度分布によって、無アルカリガラス板に局所的な寸法変化が生じ易くなる。
【0051】
歪点は、好ましくは700℃以上、710℃以上、720℃以上、725℃以上、730℃以上、735℃以上、740℃以上、745℃以上、特に750~900℃である。歪点が低過ぎると、高温ポリシリコンTFTの製造工程において、ガラスの熱収縮量が大きくなり易い。
【0052】
102.5ポアズにおける温度は、好ましくは1750℃以下、1720℃以下、1700℃以下、1690℃ 以下、1680℃以下、特に1670℃以下である。102.5ポアズにおける温度が高過ぎると、溶解性、清澄性が低下して、製造コストが高騰してしまう。
【0053】
ヤング率は、好ましくは70GPa以上、71GPa以上、72GPa以上、73GPa以上、74GPa以上、75GPa以上、76GPa以上、77GPa以上、78GPa以上、特に80~120GPaである。ヤング率が低過ぎると、無アルカリガラス板が撓み易くなるため、ディスプレイの製造工程等において、応力起因のパターンずれが発生し易くなる。
【0054】
比ヤング率は、好ましくは30GPa/g・cm-3以上、31GPa/g・cm-3以上、32GPa/g・cm-3以上、特に33GPa/g・cm-3以上である。比ヤング率が低過ぎると、無アルカリガラス板が撓み易くなるため、ディスプレイの製造工程等において、応力起因のパターンずれが発生し易くなる。
【0055】
本発明の無アルカリガラス板において、β-OH値を低下させると、歪点を高めることができる。また、ガラス組成が同一の場合、β―OH値が少ない程、歪点以下の温度域での熱収縮(低温熱収縮)量を低減することができる。なお、低温熱収縮量を低減する効果は、β―OH値の低下による歪点の上昇の効果に比べて、大幅に大きい。β-OH値は、好ましくは3.0/mm以下、2.5/mm以下、2.0/mm以下、1.5/mm以下、1.0/mm以下、特に0.9/mm以下である。なお、β-OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.03/mm以上である。
【0056】
β-OH値を低下させる方法として、以下の方法が挙げられる。(1)低含水量の原料を選択する。(2)ガラス中にβ-OH値を低下させる成分(Cl、SO等)を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でNバブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を多くする。(7)電気溶融法を採用する。
【0057】
ここで、「β-OH値」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式で求めた値を指す。
【0058】
〔数1〕
β-OH値=(1/X)log(T/T
X:板厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【0059】
本発明の無アルカリガラス板は、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を成形する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面になるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができる。
【0060】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、例えば、スロットダウン法、フロート法等でガラス板を成形することも可能である。特に、液相粘度が低く、オーバーフローダウンドロー法で成形できない場合、スロットダウンやフロート法で成形することが好ましい。
【0061】
本発明の無アルカリガラス板において、板厚は0.7mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、0.3mm以下、特に0.05~0.1mmが好ましい。板厚が小さい程、ディスプレイの軽量・薄型化、更にはフレキシブル化を図り易くなる。
【実施例
【0062】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0063】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1~20)を示している。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れた後、1600~1650℃で24時間溶融した。ガラスバッチの溶解に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出して、板状に成形した後、徐冷点付近の温度で30分間徐冷した。得られた各試料について、密度(Density)、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数(αS)、歪点(Ps)、徐冷点(Ta)、軟化点(Ts)、高温粘度104.5ポアズにおける温度(104.5dPa・s)、高温粘度104.0ポアズにおける温度(104.0dPa・s)、高温粘度103.0ポアズにおける温度(103.0dPa・s)、高温粘度102.5ポアズにおける温度(102.5dPa・s)、ヤング率(E)、比ヤング率(E/ρ)、液相温度(TL)及び液相粘度(Log η at TL)を評価した。また、表中の物性値の一部は、過去の実測値に基づく予想値である。
【0067】
密度は、周知のアルキメデス法で測定した値である。
【0068】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数は、ディラトメーターで測定した値である。
【0069】
歪点、徐冷点、軟化点は、ASTMC336の方法に基づいて測定した値である。
【0070】
高温粘度104.5ポアズにおける温度、高温粘度104.0ポアズにおける温度、高温粘度103.0ポアズにおける温度、高温粘度102.5ポアズにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0071】
ヤング率は、曲げ共振法により測定した値である。
【0072】
比ヤング率は、ヤング率を密度で除した値である。
【0073】
液相温度は、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶(初相)の析出する温度を測定した値である。液相粘度は、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0074】
表1、2から明らかなように、試料No.1~22は、歪点が713℃以上、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が33.3×10-7/℃以下であった。よって、試料No.1~22は、500~600℃の高温プロセスでTFTのパターンずれを顕著に低減し得るものと考えられる。