(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】低圧放電ランプ、および紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 61/28 20060101AFI20241107BHJP
H01J 61/52 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H01J61/28 L
H01J61/52 L
(21)【出願番号】P 2021062654
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003757
【氏名又は名称】東芝ライテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】山田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】峯山 智行
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-148120(JP,A)
【文献】特開昭61-260541(JP,A)
【文献】特開2010-215772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希ガスと水銀、または、前記希ガスとアマルガム、が封入された放電空間を有するバルブと;
前記バルブの両側の端部のそれぞれに設けられた電極部と;
を具備し、
前記電極部のそれぞれは、
前記バルブの内部に設けられ、一方の端部が前記バルブの端部に溶着されたステムと;
前記ステムの、溶着側とは反対側の端部に設けられた電極と;
を有し、
前記水銀の一部、または、前記アマルガムの一部が、
前記ステムの溶着側の端部の周辺から外部に向けて突出する第1の捕捉空間、および、
前記ステムの側面と、前記バルブの内壁との間に設けられた第2の捕捉空間、の少なくともいずれかに捕捉され
、
前記バルブは、発光管と、前記発光管の両側の端部のそれぞれに設けられた封止管と、を有し、
前記封止管の、前記発光管側とは反対側の端部には、前記ステムが溶着され、
前記発光管の内径は、前記封止管の内径よりも小さい低圧放電ランプ。
【請求項2】
前記バルブの外部に設けられた温度制御部をさらに具備した請求項1記載の低圧放電ランプ。
【請求項3】
前記バルブの内壁には、電子放出物質を含む膜が設けられている請求項1
または2に記載の低圧放電ランプ。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1つに記載の低圧放電ランプを具備した紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、低圧放電ランプ、および紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線を照射する低圧放電ランプがある。この様な低圧放電ランプは、例えば、半導体デバイスの製造に用いられる超純水の生成、有機材料の表面改質や洗浄などに用いられている。
【0003】
一般的に、低圧放電ランプの発光管の内部空間には、水銀と、アルゴンなどの希ガスと、が封入される。この様な低圧放電ランプは、低圧水銀ランプとも称される。低圧放電ランプにおいては、発光管の最冷部の温度が約40℃の時に紫外線の出力が最大になる。例えば、低圧放電ランプの周囲温度が低温(例えば、0℃)となった場合には、最冷部の温度が低くなり過ぎる場合がある。この様な場合には、発光管の内部において水銀が十分に蒸気化されず、紫外線の出力が低下する。逆に、低圧放電ランプの周囲温度が高温(例えば、50℃)となった場合には、最冷部の温度が高くなり過ぎる場合がある。この様な場合には、発光管の内部において水銀が過剰に蒸気化して、水銀の自己吸収作用により紫外線の出力が低下する。
【0004】
そこで、発光管に冷却装置を設ける技術が提案されている。冷却装置が設けられていれば、低圧放電ランプの周囲温度が変化しても、発光管の最冷部の温度が適切な範囲となるようにすることができる。ところが、低圧放電ランプの輸送などの際に、低圧放電ランプに振動が加わると、発光管の内部にある水銀が、冷却装置が設けられている位置(最冷部の位置)から移動してしまう場合がある。この場合、発光管の内部に封入されている水銀は、発光管の高温部分から低温部分へ移動する性質を有している。そのため、低圧放電ランプを点灯させれば、冷却装置が設けられている位置から移動した水銀が、冷却装置が設けられている位置に戻ってくる。しかしながら、低圧放電ランプの始動後、水銀が冷却装置が設けられている位置に戻り、集積するまでには、比較的長い予備点灯時間が必要となる。
そこで、始動性の向上を図ることができる技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、始動性の向上を図ることができる低圧放電ランプ、および紫外線照射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る低圧放電ランプは、希ガスと水銀、または、前記希ガスとアマルガム、が封入された放電空間を有するバルブと;前記バルブの両側の端部のそれぞれに設けられた電極部と;を具備している。前記電極部のそれぞれは、前記バルブの内部に設けられ、一方の端部が前記バルブの端部に溶着されたステムと;前記ステムの、溶着側とは反対側の端部に設けられた電極と;を有している。前記水銀の一部、または、前記アマルガムの一部が、前記ステムの溶着側の端部の周辺から外部に向けて突出する第1の捕捉空間、および、前記ステムの側面と、前記バルブの内壁との間に設けられた第2の捕捉空間、の少なくともいずれかに捕捉されている。前記バルブは、発光管と、前記発光管の両側の端部のそれぞれに設けられた封止管と、を有している。前記封止管の、前記発光管側とは反対側の端部には、前記ステムが溶着されている。前記発光管の内径は、前記封止管の内径よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、始動性の向上を図ることができる低圧放電ランプ、および紫外線照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る低圧放電ランプを例示するための模式図である。
【
図2】封止管の端部の近傍を例示するための模式断面図である。
【
図3】温度制御部を例示するための模式断面図である。
【
図4】他の実施形態に係る捕捉部を例示するための模式断面図である。
【
図5】(a)、(b)は、他の実施形態に係る捕捉部を例示するための模式断面図である。
【
図6】捕捉空間の効果を例示するためのグラフである。
【
図7】照度維持率に対する電子放出物質を含む膜の効果を例示するためのグラフである。
【
図8】本実施の形態に係る紫外線照射装置を例示するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(低圧放電ランプ1)
図1は、本実施形態に係る低圧放電ランプ1を例示するための模式図である。
図1に示すように、低圧放電ランプ1は、例えば、バルブ2、電極部3、温度制御部4、および捕捉部5を有する。
【0011】
バルブ2は、例えば、発光管20、および封止管21を有する。
発光管20は、例えば、略M字状を呈する円筒管とすることができる。なお、発光管20の形状は、低圧放電ランプ1の用途などに応じて適宜変更することができる。例えば、発光管20は、略U字状や略直線状を呈するものであってもよい。発光管20は、紫外線を透過する材料から形成される。発光管20の材料は、例えば、石英ガラス、ソーダライムガラスなどとすることができる。石英ガラスを用いれば紫外線の透過率を向上させることができる。ソーダライムガラスを用いれば、低コスト化を図ることができる。
【0012】
封止管21は、発光管20の両側の端部のそれぞれに設けられている。封止管21は、例えば、略直線状を呈する円筒管とすることができる。封止管21の材料は、発光管20の材料と同じとすることができる。発光管20と封止管21は、一体に形成することができる。
【0013】
バルブ2の寸法には特に限定はない。例えば、バルブ2の外径は、14mm~38mm程度とすることができる。例えば、バルブ2の肉厚は、0.5mm~2.0mm程度とすることができる。例えば、バルブ2の発光長(バルブ2の一方の端部から、他方の端部までの距離)は、1800mm程度とすることができる。
【0014】
この場合、
図1に示すように、発光管20の内径Bは、封止管21の内径Aよりも小さくすることができる。例えば、封止管21の内径Aを26mmとし、発光管20の内径B20mmとすることができる。発光管20の内径Bが、封止管21の内径Aよりも小さければ、ランプ電流の上昇を抑制することができるので、発光効率の向上を図ることができる。
【0015】
また、発光管20の内径Bが、封止管21の内径Aよりも小さくなっていれば、最冷部(温度制御部4)の近傍にある水銀またはアマルガムが発光管20の内部に移動するのを抑制することができる。
なお、水銀またはアマルガムの移動に関する詳細は後述する。
【0016】
バルブ2の内部空間は、放電空間となる。放電空間には、例えば、希ガスと水銀、または、希ガスとアマルガム、が封入される。アマルガムは、例えば、水銀と、ビスマス、インジウム、錫などの金属と、の合金である。水銀またはアマルガムの封入量は、例えば、1mg~300mg程度とすることができる。
【0017】
希ガスは、例えば、アルゴン、または、アルゴンとクリプトンの混合ガスとすることができる。放電空間における25℃の希ガスの圧力(封入圧力)は、例えば、0.1Torr(13.3Pa)以上、10Torr(1333Pa)以下とすることができる。すなわち、低圧放電ランプ1は、低圧水銀ランプである。なお、放電空間における25℃の希ガスの圧力(封入圧力)は、気体の標準状態(SATP(Standard Ambient Temperature and Pressure):温度25℃、1bar)により求めることができる。
【0018】
アルゴンとクリプトンの混合ガスとする場合は、混合ガスにおけるクリプトンの分圧比を、10%以上、90%以下とすることが好ましい。クリプトンの分圧比が、10%未満になると、アルゴンが枯渇した際に特性変動が大きくなるおそれがある。クリプトンの分圧比が、90%より大きくなるとフィラメントコイル30aの消耗(スパッタリング)が進み、フィラメントコイル30aの寿命が短くなるおそれがある。
【0019】
電極部3は、一対設けられる。電極部3は、バルブ2の両側の端部のそれぞれに設けられている。電極部3は、例えば、封止管21の、発光管20側とは反対側の端部に設けられている。
【0020】
図2は、封止管21の端部の近傍を例示するための模式断面図である。
図2に示すように、電極部3は、例えば、主電極30、補助電極31、ステム32、および、3つのアウターリード33を有する。
【0021】
電極(主電極30、および補助電極31)は、ステム32の、溶着側とは反対側の端部に設けられている。
主電極30は、例えば、フィラメントコイル30a、および2つのリード30bを有する。
フィラメントコイル30aは、封止管21の内部に設けられている。フィラメントコイル30aは、例えば、線状部材を螺旋状に巻いたものとすることができる。線状部材は、例えば、タングステンや、レニューム・タングステン合金などを含む。なお、フィラメントコイル30aは、例えば、線状部材を巻回したコイルを二重巻にした、いわゆるダブルフィラメントコイルとすることもできるし、三重巻にした、いわゆるトリプルフィラメントコイルとすることもできる。
【0022】
一方のリード30bは、フィラメントコイル30aの一方の端部と、1つのアウターリード33とを電気的に接続する。他方のリード30bは、フィラメントコイル30aの他方の端部と、他のアウターリード33とを電気的に接続する。リード30bは、例えば、タングステンや、レニューム・タングステン合金などを含む線状部材とすることができる。
【0023】
補助電極31は、封止管21の内部に設けられている。補助電極31は、フィラメントコイル30aの、アウターリード33側とは反対側に設けられている。補助電極31は、フィラメントコイル30aと離隔させて設けることができる。補助電極31は、例えば、略円筒状を呈している。補助電極31は、例えば、線状部材を巻回して形成された密着コイルとすることができる。線状部材は、例えば、タングステンや、レニューム・タングステン合金などを含む。
【0024】
補助電極31は、リード31aを介して、主電極30に接続されていないアウターリード33と電気的に接続されている。リード31aは、例えば、タングステンや、レニューム・タングステン合金などを含む線状部材とすることができる。
【0025】
また、補助電極31と、封止管21の内壁との間には、ホルダ31bを設けることができる。ホルダ31bは、封止管21の内部において、補助電極31を保持する機能と、補助電極31において発生した熱を封止管21に逃がす機能とを有する。例えば、ホルダ31bは、金属から形成された板バネ材とすることができる。ホルダ31bは、例えば、モリブデン、タングステン、ステンレスなどの金属から形成することができる。ホルダ31bにより保持された補助電極31の中心線は、封止管21の管軸とほぼ重なるようになっている。
【0026】
ステム32は、封止管21の、発光管20側とは反対側の端部に溶着されている。すなわち、ステム32は、封止管21の内部に設けられ、一方の端部が封止管21の端部に溶着されている。ステム32の内部には、3つのアウターリード33が封止されている。ステム32は、主電極30および補助電極31を保持するとともに、バルブ2の内部空間(放電空間)を気密となるように封止する。ステム32の材料は、例えば、封止管21の材料と同じとすることができる。
【0027】
アウターリード33の、封止管21(ステム32)から露出している端部には、例えば、低圧放電ランプ1の外部に設けられている電源などが電気的に接続される。また、アウターリード33の端部には、端子、コネクタ、口金などを設けることができる。アウターリード33は、例えば、タングステンや、レニューム・タングステン合金などを含む線状部材とすることができる。
【0028】
温度制御部4は、バルブ2(封止管21)の外部に設けられている。温度制御部4は、封止管21の端部の近傍に設けられている。温度制御部4は、例えば、補助電極31と対向する位置に設けることができる。温度制御部4は、バルブ2を保持するとともに、バルブ2に最冷部となる部分を形成する。なお、最冷部は、低圧放電ランプ1の点灯中において、バルブ2の、最も温度が低くなる部分である。最冷部が設けられていれば、水銀またはアマルガムを含む蒸気の一部を凝縮して、水銀またはアマルガムにすることができる。
【0029】
図3は、温度制御部4を例示するための模式断面図である。
なお、
図3は、
図1における温度制御部4のC-C線方向の模式断面図である。
図3に示すように、温度制御部4は、例えば、第1のブロック40、第2のブロック41、および固定部42を有する。
【0030】
図3に示すように、第1のブロック40は、一方の面に開口する凹部40aを有する。凹部40aに内部には、封止管21の端部の近傍が設けられる。第1のブロック40は、封止管21と接触している。例えば、封止管21の外壁の一部は、凹部40aの側面および底面に接触している。第1のブロック40は、バルブ2を保持するとともに、バルブ2の内部において発生した熱を第2のブロック41に伝える。そのため、第1のブロック40は、金属などの熱伝導率の高い材料から形成されている。第1のブロック40は、例えば、ステンレス、アルミニウム合金、銅合金などから形成することができる。
【0031】
第2のブロック41は、第1のブロック40の、バルブ2が設けられる側とは反対側に設けられている。第2のブロック41は、第1のブロック40の温度、ひいては、バルブ2の、最冷部となる部分の温度を制御する。第2のブロック41は、金属などの熱伝導率の高い材料から形成される。第2のブロック41は、例えば、ステンレス、アルミニウム合金、銅合金などから形成することができる。
【0032】
また、
図3に示すように、第2のブロック41の内部には、冷媒を流すための孔41aを設けることができる。第2のブロック41の内部に冷媒を流せば、第1のブロック40の温度、ひいては、バルブ2の、最冷部となる部分の温度を制御するのが容易となる。例えば、冷媒の流量、流速、温度などを制御することで、バルブ2の、最冷部となる部分の温度を制御することができる。冷媒の種類には特に限定がない。例えば、冷媒は、水などとすることができる。
【0033】
なお、第1のブロック40と第2のブロック41が別々に設けられる場合を例示したが、第1のブロック40と第2のブロック41を一体に設けることもできる。
また、第2のブロック41の内部に水などの冷媒を流す場合を例示したが、ファンなどを設けて、第1のブロック40を冷却することもできる。すなわち、温度制御部4は、液冷式の温度制御部であってもよいし、空冷式の温度制御部であってもよい。
【0034】
固定部42は、第1のブロック40と協働して、ランプ2を保持する。例えば、固定部42と第1のブロック40との間に、ランプ2を挟み込むことができる。固定部42は、例えば、金属バンドなどとすることができる。固定部42は、例えば、ネジなどの締結部材を用いて、第1のブロック40に固定することができる。
【0035】
ここで、最冷部においては、水銀またはアマルガムを含む蒸気の一部が凝縮して水銀またはアマルガムとなる。この場合、最冷部の温度が約40℃の時に、低圧放電ランプ1から照射される紫外線の出力が最大になる。例えば、低圧放電ランプ1の周囲温度が低温(例えば、0℃)となった場合には、最冷部の温度が低くなり過ぎる場合がある。この様な場合には、バルブ2の内部において水銀またはアマルガムが十分に蒸気化されず、紫外線の出力が低下する。逆に、低圧放電ランプ1の周囲温度が高温(例えば、50℃)となった場合には、最冷部の温度が高くなり過ぎる場合がある。この様な場合には、バルブ2の内部において水銀またはアマルガムが過剰に蒸気化して、水銀またはアマルガムの自己吸収作用により紫外線の出力が低下する。
【0036】
本実施の形態に係る低圧放電ランプ1には、冷媒が流通する第2のブロック41が設けられている。そのため、低圧放電ランプ1の周囲温度が変化した際には、冷媒の流量、流速、温度などを制御することで、最冷部の温度が最適な範囲となるようにすることができる。
【0037】
最冷部においては、水銀またはアマルガムを含む蒸気の一部が凝縮するので、最冷部の近傍に水銀またはアマルガムが生じることになる。
ところが、低圧放電ランプ1の輸送などの際に、低圧放電ランプ1に振動が加わると、最冷部の近傍にある水銀またはアマルガムが発光管20側に移動してしまう場合がある。この場合、バルブ2の内部に封入されている水銀またはアマルガムは、バルブ2の高温部分から低温部分へ移動する性質を有している。そのため、低圧放電ランプ1を点灯させれば、最冷部の位置から移動した水銀またはアマルガムが、最冷部の位置に戻ってくる。しかしながら、低圧放電ランプ1の始動後、水銀またはアマルガムが最冷部の位置に戻り、集積するまでには、比較的長い予備点灯時間が必要となる。
【0038】
また、発光管20の形状が略M字状や略U字状となっていると、発光管20の内部に移動した水銀またはアマルガムが、最冷部の位置に戻り、集積するまでにはさらに時間を要する場合がある。
【0039】
そこで、本実施形態に係る低圧放電ランプ1には、捕捉部5が設けられている。
捕捉部5は、最冷部(温度制御部4)の近傍に設けられ、水銀またはアマルガムを捕捉する捕捉空間5a(第1の捕捉空間の一例に相当する)を有する。
例えば、
図1および
図2に示すように、捕捉部5は、封止管21の端部に設けることができる。捕捉部5は、例えば、封止管21の端部から、封止管21の管軸方向に突出する凹状の捕捉空間5aを有する。例えば、捕捉部5は、ステム32の、溶着側の端部の周辺から外部に向けて突出する捕捉空間5aを有する。捕捉空間5aは、水銀またはアマルガムを捕捉する空間となる。
【0040】
捕捉空間5aが設けられていれば、捕捉空間5aの内部にある水銀またはアマルガムが、振動により移動するのを抑制することができる。すなわち、低圧放電ランプ1に振動が加わったとしても、最冷部の近傍に設けられた捕捉空間5aから、水銀またはアマルガムが発光管20の内部に移動するのを抑制することができる。
【0041】
水銀またはアマルガムが、最冷部の近傍に留まっていれば、低圧放電ランプ1の始動後に、水銀またはアマルガムが最冷部の位置に戻る時間を短縮することができる。すなわち、予備点灯時間を大幅に短くするか、無くすことができる。
【0042】
図4は、他の実施形態に係る捕捉部15を例示するための模式断面図である。
図4に示すように、捕捉部15は、例えば、ステム32の、溶着側とは反対側の端部に設けることができる。捕捉部15は、板状を呈し、ステム32の側面と、封止管21の内壁との間の空間に突出している。捕捉部15は、例えば、ステンレスやタングステンなどの金属から形成することができる。
【0043】
捕捉部15の先端と、封止管21の内壁との間には隙間が設けられている。捕捉部15は、封止管21の管軸方向に対して傾斜させることができる。捕捉部15とステム32の側面との間の距離は、ステム32の溶着側の端部に近づくに従い大きくなる。捕捉部15とステム32の側面との間の空間が、水銀またはアマルガムを捕捉する捕捉空間15a(第2の捕捉空間の一例に相当する)となる。
【0044】
捕捉空間15aが設けられていれば、前述した捕捉空間5aと同様の効果を享受することができる。すなわち、低圧放電ランプ1に振動が加わったとしても、最冷部(温度制御部4)の近傍に設けられた捕捉部15から、水銀またはアマルガムが発光管20の内部に移動するのを抑制することができる。
【0045】
水銀またはアマルガムが、最冷部の近傍に留まっていれば、低圧放電ランプ1の始動後に、水銀またはアマルガムが最冷部の位置に戻る時間を短縮することができる。すなわち、予備点灯時間を大幅に短くするか、無くすことができる。
また、捕捉空間15aの体積は、捕捉空間5aの体積よりも大きくすることができるので、水銀またはアマルガムの捕捉が容易となる。
【0046】
図5(a)、(b)は、他の実施形態に係る捕捉部25、35を例示するための模式断面図である。
図5(a)に示すように、捕捉部25は、例えば、ステム32の側面に設けることができる。捕捉部25は、ステム32の側面から封止管21の内壁に向けて突出する凸部とすることができる。捕捉部25は、例えば、ステム32と一体に形成することができる。捕捉部25と、ステム32の溶着側の端部と、の間の空間が、水銀またはアマルガムを捕捉する捕捉空間25a(第2の捕捉空間の一例に相当する)となる。
【0047】
図5(b)に示すように、捕捉部35は、例えば、封止管21の内壁に設けることができる。捕捉部35は、封止管21の内壁からステム32の側面に向けて突出する凸部とすることができる。捕捉部35は、例えば、封止管21と一体に形成することができる。捕捉部35と、ステム32の溶着側の端部と、の間の空間が、水銀またはアマルガムを捕捉する捕捉空間35a(第2の捕捉空間の一例に相当する)となる。
また、捕捉部25、および捕捉部35を設けることもできる。
【0048】
捕捉空間25a、35aが設けられていれば、前述した捕捉空間5aと同様の効果を享受することができる。すなわち、低圧放電ランプ1に振動が加わったとしても、最冷部(温度制御部4)の近傍に設けられた捕捉部25、35から、水銀またはアマルガムが発光管20の内部に移動するのを抑制することができる。
【0049】
水銀またはアマルガムが、最冷部の近傍に留まっていれば、低圧放電ランプ1の始動後に、水銀またはアマルガムが最冷部の位置に戻る時間を短縮することができる。すなわち、予備点灯時間を大幅に短くするか、無くすことができる。
また、捕捉空間25a、35aの体積は、捕捉空間5aの体積よりも大きくすることができるので、水銀またはアマルガムの捕捉が容易となる。
【0050】
以上に説明した様に、低圧放電ランプ1においては、封入された水銀の一部、または、アマルガムの一部が、ステム32の溶着側の端部の周辺から外部に向けて突出する捕捉空間5a、および、ステム32の側面と、バルブ2の内壁との間に設けられた捕捉空間15a、25a、35a、の少なくともいずれかに捕捉されている。
【0051】
図6は、捕捉空間5a、15a、25a、35aの効果を例示するためのグラフである。
図6中のD1は、捕捉空間5a、15a、25a、35aが設けられていない場合、すなわち、水銀またはアマルガムが、最冷部から発光管20の内部に移動した場合である。
図6中のD2は、捕捉空間5a、15a、25a、35aが設けられた場合、すなわち、水銀またはアマルガムが、最冷部(温度制御部4)の近傍に留まっている場合である。
【0052】
なお、点灯試験に用いた低圧放電ランプ1の仕様は以下のとおりである。
発光管20は、略M字状を呈する円筒管とした。発光管20の内径は、20mmとした。封止管21の内径は、26mmとした。発光管20と封止管21は、石英ガラスを用いて形成した。バルブ2の発光長は1770mmとした。ランプ電流は4.5Aとし、ランプ電力は1970Wとした。バルブ2の内部空間には、アルゴンと水銀を封入した。アルゴンの封入圧力は0.5Torrとし、水銀の封入量は100mgとした。
【0053】
図6中のD1から分かるように、捕捉空間5a、15a、25a、35aが設けられていなければ、点灯初期における紫外線強度が、安定時の紫外線強度の20%程度となる。また、紫外線強度が、安定時の紫外線強度とほぼ同等となるまでに30分程度の時間を要する。
【0054】
これに対し、
図6中のD2から分かるように、捕捉空間5a、15a、25a、35aが設けられていれば、点灯初期における紫外線強度が、安定時の紫外線強度とほぼ同等となる。すなわち、捕捉空間5a、15a、25a、35aが設けられていれば、点灯初期から紫外線強度の安定化を図ることができるので、予備点灯等の不要な時間を削減することができる。
【0055】
ここで、前述したように、バルブ2の内部空間には、希ガスと水銀に代えて、希ガスとアマルガムを封入することができる。アマルガムの蒸気圧は、水銀単体の蒸気圧よりも低い。そのため、低圧放電ランプ1の周囲温度が高くなった場合には、アマルガムの蒸気圧が高くなり過ぎるのを抑制することができるので、発光効率の向上、ひいては紫外線の出力の低下を抑制することができる。ところが、低圧放電ランプ1の周囲温度が低くなった場合には、アマルガムの蒸気圧が低くなりすぎて、低圧放電ランプ1の始動時にペニング効果が得られにくくなり、始動電圧が上昇するという問題がある。
【0056】
そこで、希ガスとアマルガムが、バルブ2の内部空間に封入される場合には、バルブ2の内壁に、電子放出物質を含む膜を設けることが好ましい。電子放出物質を含む膜は、少なくとも、バルブ2の内壁の、フィラメントコイル30aに対向する位置に設けることができる。電子放出物質を含む膜は、ランプの始動に必要な初期電子の供給源となる。そのため、電子放出物質を含む膜が設けられていれば、始動電圧の上昇を抑制することができる。また、バルブ2の内壁に、電子放出物質を含む膜が設けられていれば、点灯中にバルブ2の内壁に水銀原子が打ち込まれるのを抑制することができる。そのため、照度維持率が低下するのを抑制することができる。すなわち、バルブ2の内壁に、電子放出物質を含む膜が設けられていれば、始動電圧が上昇するのを抑制することができるとともに、ランプ寿命を長くすることができる。
【0057】
電子放出物質は、例えば、アルミナ(Al2O3)やセシウム(Cs2SO4)などの希土類金属の酸化物、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物などとすることができる。
【0058】
また、バルブ2の内部空間に希ガスと水銀が封入される場合にも、バルブ2の内壁に、電子放出物質を含む膜を設けることができる。この場合にも、前述した効果を享受することができる。すなわち、バルブ2の内壁に、電子放出物質を含む膜が設けられていれば、始動電圧が上昇するのを抑制することができるとともに、ランプ寿命を長くすることができる。
【0059】
表1は、始動電圧に対する電子放出物質を含む膜の効果を例示するための表である。
なお、表1における電子放出物質を含む膜は、アルミナの膜である。
点灯試験に用いた低圧放電ランプ1の仕様は、
図6において説明したものと同様である。
【0060】
【表1】
表1から分かるように、バルブ2の内部空間に希ガスとアマルガムが封入される場合であっても、バルブ2の内壁に、電子放出物質を含む膜が設けられていれば、始動電圧が上昇するのを抑制することができる。
【0061】
図7は、照度維持率に対する電子放出物質を含む膜の効果を例示するためのグラフである。
図7中のE1は、電子放出物質を含む膜が設けられていない場合である。
図7中のE2は、電子放出物質を含む膜が設けられている場合である。
図7における電子放出物質を含む膜は、アルミナの膜である。
点灯試験に用いた低圧放電ランプ1の仕様は、
図6において説明したものと同様である。
【0062】
電子放出物質を含む膜が設けられていなければ、点灯時間が長くなるとともに、バルブ2の内壁に打ち込まれた水銀原子の量が多くなる。そのため、
図7中のE1から分かるように、点灯時間が長くなるとともに、照度維持率が低下する。
【0063】
これに対し、電子放出物質を含む膜が設けられていれば、バルブ2の内壁に水銀原子が打ち込まれるのを抑制することができる。そのため、
図7中のE2から分かるように、照度維持率が低下するのを抑制することができる。
なお、このことは、バルブ2の内部空間に希ガスと水銀が封入される場合も同様である。
【0064】
(紫外線照射装置100)
図8は、本実施の形態に係る紫外線照射装置100を例示するための模式図である。
図8に示すように、紫外線照射装置100は、例えば、低圧放電ランプ1、およびコントローラ101を有する。
低圧放電ランプ1に設けられた主電極30と補助電極31は、アウターリード33を介してコントローラ101と電気的に接続されている。
【0065】
コントローラ101は、例えば、商用電源200などに電気的に接続されている。コントローラ101は、例えば、点灯回路を有する。コントローラ101に設けられた点灯回路は、バルブ2の一方の端部側に設けられた補助電極31と、バルブ2の他方の端部側に設けられた主電極30との間で放電を発生させる。また、点灯回路は、バルブ2の他方の端部側に設けられた補助電極31と、バルブ2の一方の端部側に設けられた主電極30との間で放電を発生させる。この場合、点灯回路は、一方の補助電極31と他方の主電極30との間、および、他方の補助電極31と一方の主電極30との間において交互に放電を発生させる。例えば、ある時点においては、バルブ2の一方の端部側に設けられた補助電極31と、バルブ2の他方の端部側に設けられた主電極30との間で放電が発生し、他の時点においては、バルブ2の他方の端部側に設けられた補助電極31と、バルブ2の一方の端部側に設けられた主電極30との間で放電が発生する。点灯回路は、交互に放電が繰り返されるように、例えば、商用電源200から供給される交流電流の半サイクル毎に、電流経路を切り換える。
【0066】
この様な放電により発生した電子が、水銀原子と衝突すると、水銀原子が電子のエネルギーを受けて、ピーク波長が254nm程度の紫外線が発生する。発生した紫外線は、バルブ2の外部に照射される。
【0067】
紫外線照射装置100は、紫外線の照射が必要な処理に用いることができる。例えば、紫外線照射装置100は、液体や気体の浄化、部材の表面の改質や浄化、ウィルスや細菌の殺菌や不活性化、有害物質を含む微粒子の分解など幅広い分野において用いることができる。
そのため、用途などに応じて、紫外線照射装置100は、低圧放電ランプ1を収納する容器や筐体などを適宜備えることができる。
【0068】
バルブ2の発光長が長くなれば、発生する紫外線の光量が多くなる。しかしながら、単に発光長を長くすれば、紫外線照射装置100の小型化が困難となる。低圧放電ランプ1に略M字状のバルブ2(発光管20)が設けられていれば、紫外線の光量を増加させることができ、且つ、紫外線照射装置100の小型化を図ることができる。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 低圧放電ランプ、2 バルブ、3 電極部、4 温度制御部、5 捕捉部、5a 捕捉空間、15 捕捉部、15a 捕捉空間、20 発光管、21 封止管、25 捕捉部、25a 捕捉空間、30 主電極、31 補助電極、32 ステム、35 捕捉部、35a 捕捉空間、100 紫外線照射装置