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特許7583367菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法
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  • 特許-菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20241107BHJP
   A61L 9/20 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
A61L2/10
A61L9/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021077287
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022170974
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 善彦
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-508612(JP,A)
【文献】国際公開第2019/190967(WO,A1)
【文献】特開2018-130535(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0101183(US,A1)
【文献】特開2019-150668(JP,A)
【文献】国際公開第2019/186880(WO,A1)
【文献】特開2020-62599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00- 2/28
A61L 9/00- 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間内に存在する菌やウイルスを不活化する装置であって、
ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光を出射する光源部と、
第一点灯動作と、前記第一点灯動作よりも光強度が低い紫外光を出射する第二点灯動作とを含む、予め設定された少なくとも一つの動作パターンからなる主動作モードを実行するように、前記光源部を制御する制御部とを備えることを特徴とする菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記主動作モードにおいて、前記第二点灯動作を継続する時間が、直前の前記第一点灯動作を継続する時間よりも長くなるように設定された前記動作パターンに基づいて、前記光源部を制御することを特徴とする請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記主動作モードにおいて、前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とが周期的に実行されるように設定された前記動作パターンに基づいて、前記光源部を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記主動作モードにおいて、
前記第一点灯動作と消灯動作とを交互に行う第一制御パターンと、
前記第二点灯動作と消灯動作とを交互に行う、又は前記第二点灯動作を継続する第二制御パターンとを含む動作パターンを実行することを特徴とする請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項5】
前記制御部は、所定の条件を満たしたことを検知すると、前記主動作モードから、前記主動作モードとは異なる副動作モードに移行することを特徴とする請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項6】
空間内に存在する菌やウイルスを不活化する装置であって、
ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光を出射する光源部と、
第一点灯動作と、前記第一点灯動作よりも光強度が低い紫外光を出射する第二点灯動作とを含む主動作モードを実行するように、前記光源部を制御する制御部と
所定の領域内に人が存在するか否かを検知する人検知部とを備え、
前記制御部は、前記主動作モードにおいて、
前記人検知部が、人が存在しないことを検知した場合には、前記第一点灯動作と消灯動作とを交互に行う第一制御パターンを実行し、
前記人検知部が、人が存在することを検知した場合には、前記第二点灯動作と消灯動作とを交互に行う、又は前記第二点灯動作を継続する第二制御パターンを実行することを特徴とする菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項7】
空間内に存在する菌やウイルスを不活化する装置であって、
ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光を出射する光源部と、
第一点灯動作と、前記第一点灯動作よりも光強度が低い紫外光を出射する第二点灯動作とを含む主動作モードを実行するように、前記光源部を制御する制御部とを備え
前記制御部は、前記主動作モードにおいて、
前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とを交互に行う第三制御パターンと、
前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とを交互に行い、かつ、前記第三制御パターンに比べて前記第二点灯動作の単位時間当たりの頻度が高い第四制御パターンとを含む制御を実行することを特徴とする菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項8】
所定の領域内に人が存在するか否かを検知する人検知部を備え、
前記制御部は、前記人検知部が、人が存在しないことを検知した場合には前記第三制御パターンを実行し、人が存在することを検知した場合には前記第四制御パターンを実行することを特徴とする請求項に記載の菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項9】
空間内に存在する菌やウイルスを不活化する方法であって、
ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光を処理対象領域に照射する第一点灯動作と、ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれ、前記第一点灯動作よりも光強度が低い紫外光を前記処理対象領域に照射する第二点灯動作とを含む、予め決定した動作パターンを実施することによって前記空間内の不活化処理を行う、主処理工程を含むことを特徴とする菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項10】
前記主処理工程が、前記空間の天井、又は上方領域に設置された紫外光を出射する光源によって行われることを特徴とする請求項9に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項11】
前記主処理工程は、前記第二点灯動作を継続する時間が、直前の前記第一点灯動作を継続する時間よりも長い前記動作パターンを実施することを特徴とする請求項9又は10に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項12】
前記主処理工程は、前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とが周期的に行われる前記動作パターンを実施することを特徴とする請求項9又は10に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項13】
前記主処理工程は、
前記第一点灯動作と消灯とを交互に行う第一処理工程と、
前記第二点灯動作と消灯とを交互に行う、又は前記第二点灯動作を継続する第二処理工程とを含む、前記動作パターンを実施することを特徴とする請求項9又は10に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項14】
所定の条件を満たしたことを検知した場合に、前記主処理工程とは異なる処理工程による紫外光の照射が行われる副処理工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項15】
空間内に存在する菌やウイルスを不活化する方法であって、
ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光を処理対象領域に照射する第一点灯動作と、ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれ、前記第一点灯動作よりも光強度が低い紫外光を前記処理対象領域に照射する第二点灯動作とを行う、主処理工程を含み、
前記主処理工程は、
前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とを交互に行う第三処理工程と、
前記第二点灯動作と、前記第一点灯動作とを交互に行い、かつ、前記第三処理工程に比べて前記第二点灯動作の単位時間当たりの頻度が高い第四処理工程を含むことを特徴とする菌又はウイルスの不活化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌又はウイルスの不活化装置に関し、特に紫外光を利用する菌又はウイルスの不活化装置に関する。また、本発明は、菌又はウイルスの不活化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外光を照射して菌やウイルスを不活化する技術が知られており、DNAが波長260nm付近に最も高い吸収特性を示すことから、多くの場合、低圧水銀ランプ等を光源とする波長が254nm付近の紫外光が利用されている。紫外光によって菌やウイルスを不活化する方法は、薬剤等を散布することなく、処理対象空間や処理対象物に紫外光を照射するだけで殺菌処理が行うことができるという特徴がある。
【0003】
しかし、特定の波長帯の紫外光は、人体に照射すると、人体に影響を及ぼすリスクがあることが知られている。このため、人に紫外光を照射しないように、空間内に存在する菌やウイルスを不活化するための方法や装置が検討されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、空間内の天井付近に設置して、殺菌用ランプから出射される紫外光が空間内にいる人に直接照射されないように、人が存在する場合には、天井付近にのみ紫外光を照射する殺菌灯が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-150668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載されているような殺菌灯では、空間内に頻繁に人が出入りするような場合や、空間内で長時間にわたって人が作業を行うような場合、紫外光が天井付近の領域にしか照射されず、非常に狭い領域で、かつ、人の手が届かないような領域しか不活化処理が行われていなかった。
【0007】
また、人を避けて紫外光を照射する不活化処理は、人に付着して移動する菌やウイルスまでは不活化処理ができない。したがって、このような不活化処理では、処理が行われた領域に対して、処理が完了した直後に、人を介して運ばれる菌やウイルスが付着してしまう場合があり、非効率的であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、人や動物への安全性を確保しつつも、空間内に存在する菌やウイルスを効率的に不活化することができる菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の菌又はウイルスの不活化装置は、
空間内に存在する菌やウイルスを不活化する装置であって、
ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光を出射する光源部と、
第一点灯動作と、前記第一点灯動作よりも光強度が低い紫外光を出射する第二点灯動作とを含む主動作モードを実行するように、前記光源部を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0010】
本明細書において、「不活化」とは、菌やウイルスを死滅させる又は感染力や毒性を失わせることを包括する概念を指し、「菌」とは、細菌や真菌(カビ)等の微生物を指す。以下において、「菌又はウイルス」を「菌等」と総称することがある。
【0011】
図11は、たんぱく質の紫外光領域における吸光度特性を示すグラフである。図11によれば、たんぱく質は、波長240nm以上では紫外光が吸収されにくく、波長240nm以下では波長200nmに向かう程、紫外光が吸収されやすくなる。波長が240nm以上の紫外光は、人の皮膚を透過しやすく、皮膚内部まで浸透する。そのため、人の皮膚内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長240nm未満の紫外光は、人の皮膚表面(例えば角質層)で吸収されやすく、皮膚内部まで浸透し難い。そのため、皮膚に対して安全性が高い。
【0012】
また、目に対しても、波長240nm未満の紫外光は、角膜を透過しにくいため、波長が短くなるほど安全性が高くなる。
【0013】
一方で、波長190nm未満の紫外光が存在すると、大気中に存在する酸素分子が光分解されて酸素原子を多く生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンを多く生成させてしまう。そのため、波長190nm未満の紫外光を大気中に照射させることは望ましくない。
【0014】
したがって、波長が190nm以上240nm未満の範囲内の紫外光は、人や動物に対する安全性が高い紫外光であるといえる。なお、人や動物に安全性をより高める観点から、光源部から出射される紫外光は、波長範囲が190nm以上237nm以下の範囲内であることが好ましく、190nm以上235nm以下の範囲内であることがより好ましく、190nm以上230nm以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0015】
本発明の対象製品は、人や動物の皮膚や目に紅斑や角膜炎を起こすことはなく、紫外光本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の紫外光を出射する光源とは異なり、有人環境で使用できるという特徴を生かし、屋内外の有人環境に設置することで、環境全体を照射することができ、空気と環境内設置部材表面のウイルス抑制・除菌を提供することができる。
【0016】
このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶すると共に、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【0017】
なお、本願出願日の時点では、人体に対して1日(8時間)あたりの紫外光の照射量に関して、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)等によって、波長ごとの許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。つまり、人間が存在する環境下で紫外光が利用される場合には、所定の時間内に照射される紫外光の積算照射量がTLVの基準値以内となるように、光源部の放射強度や点灯時間を決定することが推奨されている。
【0018】
これらの規定には、波長が190nm以上240nm未満の紫外光についても許容限界値が定められている。このため、不活化処理が人体に影響を及ぼすリスクが極めて少ない、波長が190nm以上240nm未満の紫外光を用いて行われる場合であっても、当該紫外光が人に対して、許容限界値を超えないように照射されることが好ましい。
【0019】
そこで、本発明者は、鋭意検討により、一時的に光源部から出射される紫外光の強度を弱めて、人が浴びてしまう紫外光の照射量を低減させることが有効であることを見出した。
【0020】
上記構成とすることで、人体に影響を及ぼすリスクが少ない菌又はウイルスの不活化装置を構成することができる。また、上記構成の不活化装置によれば、空間内に頻繁に人が出入りするような場合や、空間内で長時間にわたって人が作業を行うような場合においても、人に対する紫外光の照射量を抑制しつつ、人が往来する空間の不活化処理を継続することができる。
【0021】
また、空間2内に人が存在していない場合においては、高い強度の紫外光の照射を不必要に継続させることがなくなり、例えば、消費電力が低減され、空間内に配置された植物等に対して影響を及ぼしてしまうような過剰な紫外光の照射を抑制される。
【0022】
光強度を低下させる場合においても、不活化装置からは紫外光が出射されているため、壁や床に紫外光がほとんど到達しない場合であっても、不活化装置周辺の空間中に存在する浮遊菌に対しては、不活化処理の効果が得られることが確認されている。具体的には、波長が222nmの紫外光を空間内に浮遊している人コロナウイルスに照射した場合、0.56mJで約1Logの不活化効果が得られるということが確認されている。
【0023】
なお、従来、殺菌灯として主流であった波長が254nmの紫外光を出射する低圧水銀ランプは、点灯状態を維持したまま出射する紫外光の強度を変化させることが難しいという事情が存在していた。このため、紫外光による不活化処理に関して、出射する紫外光の強度を変化させる方法については、これまでに十分検討されていなかった。
【0024】
なお、上記の観点から、紫外光は、ピーク波長を含む主発光波長域が190nm以上240nm未満の範囲内に属するのがより好ましい。なお、ここでいう主発光波長域とは、ピーク波長の発光強度に対して50%以上の発光強度を示す波長を指す。より好ましくは、30%以上であり、特に好ましくは、10%以上である。
【0025】
また、より安全性を高めつつ紫外線の利用効率を高めるためには、ピーク波長を含む主発光波長域は、190nm以上237nm以下の範囲内とすることが好ましく、波長190nm以上235nm以下の範囲内とすることがより好ましく、波長190nm以上230nm以下の範囲内とすることが特に好ましい。
【0026】
また、オゾンの発生をより効果的に抑制するため、ピーク波長を含む主発光波長域は、200nm以上237nm以下の波長範囲内とし、より好ましくは200nm以上235nm以下の波長範囲内とし、さらに好ましくは200nm以上230nm以下の波長範囲内とする。
【0027】
上記不活化装置において、
前記制御部は、前記主動作モードにおいて、前記第二点灯動作を継続する時間が、直前の前記第一点灯動作を継続する時間よりも長くなるように、前記光源部を制御する構成であっても構わない。
【0028】
また、上記不活化装置において、
前記制御部は、前記主動作モードにおいて、前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とが周期的に実行されるように、前記光源部を制御する構成であっても構わない。
【0029】
本明細書において「周期的」とは、第一点灯動作と第二点灯動作とを、予め設定された維持時間で繰り返すことをいう。なお、第一点灯動作と第二点灯動作とを維持する時間は、搭載されるタイマや回路構成等によって生じ得る範囲の変動程度は許容される。
【0030】
また、主動作モードにおいて、第一点灯動作と第二点灯動作を切り替える周期は、常に一定でなくてもよく、例えば、空間内に人の存在を検知した場合や、所定の時間が経過したところで、周期が変更されても構わない。
【0031】
上記構成とすることで、人が存在する空間内において不活化処理が行われる場合は、常に第一点灯動作が行われる場合と比較すると、人に対して照射される紫外光の照射量が抑制される。したがって、より安全に空間内の菌等を不活化処理できる不活化装置が実現される。
【0032】
また、人が存在しない空間内において不活化処理が行われる場合は、常に第一点灯動作が行われる場合と比較すると、より消費電力が抑制され、空間内に配置された植物等に対して影響を及ぼしてしまうような過剰な紫外光の照射がさらに抑制される。
【0033】
上記不活化装置の前記制御部は、前記主動作モードにおいて、
前記第一点灯動作と消灯動作とを交互に行う第一制御パターンと、
前記第二点灯動作と消灯動作とを交互に行う、又は前記第二点灯動作を継続する第二制御パターンとを含む制御を実行するように構成されていても構わない。
【0034】
さらに、上記不活化装置は、
所定の領域内に人が存在するか否かを検知する人検知部を備え、
前記制御部は、前記人検知部が、人が存在しないことを検知した場合には前記第一制御パターンを実行し、人が存在することを検知した場合には前記第二制御パターンを実行するように構成されていても構わない。
【0035】
上記構成とすることで、例えば、空間内に人が存在するか否か、又は、人が存在しないと想定される時間帯において、第一点灯動作を実施する第一制御パターンが実行されるように構成することができる。
【0036】
上記構成のように、人感センサ等による人検知部が設けられていれば、空間内において人が存在するか否かを確認して、制御パターンを切り替える構成が可能となる。
【0037】
なお、人検知部以外の構成で制御パターンを切り替える構成を採用してもよく、例えば、不活化装置にタイマを設けて、人が存在しないことが想定される時間帯(典型的には深夜帯)になると、第二制御パターンから第一制御パターンに切り替えるような構成を採用しても構わない。
【0038】
また、上記不活化装置の前記制御部は、前記主動作モードにおいて、
前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とを交互に行う第三制御パターンと、
前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とを交互に行い、かつ、前記第三制御パターンに比べて前記第二点灯動作の単位時間当たりの頻度が高い第四制御パターンとを含む制御を実行するように構成されていても構わない。
【0039】
さらに、上記不活化装置は、
所定の領域内に人が存在するか否かを検知する人検知部を備え、
前記制御部は、前記人検知部が、人が存在しないことを検知した場合には前記第三制御パターンを実行し、人が存在することを検知した場合には前記第四制御パターンを実行するように構成されていても構わない。
【0040】
上記不活化装置において、
前記制御部は、所定の条件を満たしたことを検知すると、前記主動作モードから、前記主動作モードとは異なる副動作モードに移行するように構成されていても構わない。
【0041】
ここでいう「副動作モード」とは、不活化装置において異常が発生した場合において、安全性を確保する目的で一時的に行われる点灯動作のみならず、空間内に存在する人の数、時間帯、窓やドアの解放状態等に応じて、主動作モードとは異なる制御パターンで光源部の点灯制御が行われるモードを言う。
【0042】
不活化処理は、常に所定のモードで不活化処理することが好ましくない場合が想定される。例えば、紫外光に対して過敏な反応を示す体質の人や、紫外光が照射されることを嫌う人が入室することがありながら、少なくとも装置周辺だけでも不活化処理を継続したい場合がある。また、不活化処理を行う環境の状況(例えば、人の往来頻度や、日中や夜間の時間帯)に応じて、最適な動作モードが求められる場合がある。
【0043】
そこで、上記構成とすることで、例えば、所定の条件の一例として、紫外光の照射を拒否する信号を受信した場合において、一旦主動作モードから副動作モードへと移行し、主動作モードの継続が難しい場合に、異なる動作の実行、又は、臨時的な動作を行うことが可能になる。臨時的な動作としては、例えば、非常に低い強度での紫外光の照射を行う、又は、1時間に1回、数秒程度の紫外光照射を行うことが考えられる。
【0044】
なお、所定の条件の一例としては、紫外光の照射を拒否する無線信号を受信した場合や、不活化装置から数cm以内の範囲に、人や動物の存在を検知した場合等である。
【0045】
また、副動作モードは、装置自体の状態に応じて制御部が判断して移行するモードであっても構わない。例えば、光源部として搭載されるエキシマランプや、LED等の素子が劣化し、出射される紫外光の強度が所定の値を下回ってしまった場合に、一時的に光強度を高めるような点灯制御が行われるモードであっても構わない。
【0046】
本発明の菌又はウイルスの不活化処理方法は、
空間内に存在する菌やウイルスを不活化する方法であって、
ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光を処理対象領域に照射する第一点灯動作と、ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれ、前記第一点灯動作よりも光強度が低い紫外光を前記処理対象領域に照射する第二点灯動作とを行う、主処理工程を含むことを特徴とする。
【0047】
上記不活化処理方法は、
前記主処理工程が、前記空間の天井、又は上方領域に設置された紫外光を出射する光源によって行われても構わない。
【0048】
本明細書における「空間の上方領域」とは、床からの高さが人の身長よりも高い領域のことをいい、具体的には、床からの高さが2m以上の高さの領域をいう。なお、空間の上方領域に不活化装置を設置する方法としては、空間の上方領域に含まれる壁に設置することや、2m以上のポールに固定する方法などがある。
【0049】
光源から出射される紫外光の照度は、光源部からの離間距離の二乗に反比例する。このため、光源部から出射された直後の紫外光が人に照射されないように、できる限り光源と人とはある程度の離間距離が確保されることが好ましい。
【0050】
空間内の床や卓上に光源が設置される場合、人が光源自体に接近してしまうおそれがあり、照射量が上述された規格の許容限界値にすぐに到達してしまう可能性がある。
【0051】
これに対し、上記構成によれば、ほとんどの人は、直立状態においても、頭と天井との間で数十cm程度の離間距離が確保される。つまり、意図的に光源に向かって手を伸ばす等しない限りは、人が不意に高い照度の紫外光を浴びてしまうおそれがない。
【0052】
したがって、上記方法とすることで、床や卓上に設置される場合と比較して、より安全に空間内の不活化処理を行うことができる。
【0053】
また、上記不活化処理方法において、
前記主処理工程は、前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とが周期的に行われる工程であっても構わない。
【0054】
上記不活化処理方法において、
前記主処理工程は、前記第二点灯動作を継続する時間が、直前の前記第一点灯動作を継続する時間よりも長くても構わない。
【0055】
前記主処理工程は、前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とが周期的に行われても構わない。
【0056】
上記不活化処理工程において、
前記主処理工程は、
前記第一点灯動作と消灯とを交互に行う第一処理工程と、
前記第二点灯動作と消灯とを交互に行う、又は前記第二点灯動作を継続する第二処理工程とを含んでいても構わない。
【0057】
上記不活化処理工程において、
前記主処理工程は、
前記第一点灯動作と前記第二点灯動作とを交互に行う第三処理工程と、
前記第二点灯動作と、前記第一点灯動作とを交互に行い、かつ、前記第三処理工程に比べて前記第二点灯動作の単位時間当たりの頻度が高い第四処理工程を含んでいても構わない。
【0058】
上記不活化処理方法は、
所定の条件を満たしたことを検知した場合に、前記主処理工程とは異なる処理工程による紫外光の照射が行われる副処理工程とを含んでいても構わない。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、人や動物への安全性を確保しつつも、空間内に存在する菌やウイルスを効率的に不活化することができる菌又はウイルスの不活化装置、及び菌又はウイルスの不活化処理方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1A】不活化装置の一実施態様を模式的に示す図面である。
図1B】不活化装置の一実施態様を模式的に示す図面である。
図2図1Aの不活化装置を-Z側から見たときの図面である。
図3図1Aの不活化装置をX方向に見たときの断面図である。
図4図1Aの不活化装置をY方向に見たときの断面図である。
図5】出射窓近傍における紫外光の光強度の変化を示すタイミングチャートである。
図6】出射窓近傍における紫外光の光強度の変化を示すタイミングチャートである。
図7】出射窓近傍における紫外光の光強度の変化を示すタイミングチャートである。
図8】出射窓近傍における紫外光の光強度の変化を示すタイミングチャートである。
図9】出射窓近傍における紫外光の光強度の変化を示すタイミングチャートである。
図10】出射窓近傍における紫外光の光強度の変化を示すタイミングチャートである。
図11】たんぱく質の紫外光領域における吸光度特性を示すグラフである。
図12】中心波長254nmの紫外光を出射する光源を用いた連続点灯と間欠点灯との比較結果である。
図13】中心波長222nmの紫外光を出射する光源を用いた連続点灯と間欠点灯との比較結果である。
図14】中心波長207nmの紫外光を出射する光源を用いた連続点灯と間欠点灯との比較結果である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明の菌又はウイルスの不活化装置及び不活化処理方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0062】
[不活化装置]
図1A及び図1Bは、不活化装置1の一実施態様を模式的に示す図面であり、図1Aは、後述される人感センサ11(図2参照)が人を検知している場合の不活化処理の状態を示しており、図1Bは、人を検知していない場合の不活化処理の状態を示している。図1A及び図1Bに示すように、本実施形態の不活化装置1は、空間2における床面に向かって紫外光L1を出射するように天井に設置されている。これにより、上方領域から下方領域に向かって紫外光L1が出射される。
【0063】
制御方法の説明において詳述されるが、図1Aでは、光強度が相対的に低い紫外光L1が出射される第二点灯動作の状態で、主に空間2中を浮遊する菌等を不活化している状態が図示されている。そして、図1Bでは、光強度が相対的に高い紫外光L1が出射される第一点灯動作の状態で、空間2中を浮遊する菌等を不活化すると共に、主に、机や床等に付着している菌等を不活化処理している状態が図示されている。
【0064】
図2は、図1Aの不活化装置1を-Z側から見たときの図面であり、図3は、図1Aの不活化装置1をX方向に見たときの断面図であり、図4は、図1Aの不活化装置1をY方向に見たときの断面図である。図2に示すように、本実施形態の不活化装置1は、光出射窓10aが形成された筐体10を備える。そして、図3に示すように、筐体10は、内側に光源部20と、制御部30とを備える。
【0065】
本実施形態の不活化装置1は、天井に設置された状態で用いられる構成で説明するが、本発明の不活化装置1は、床や机の上、さらには、ポール等に固定し、空間2の上方領域H1(図1A参照)に設置して用いても構わない。なお、ポール等に固定して用いる場合、不活化装置1が空間2内において、床から2m以上の高さとなるように設置されることが好ましい。
【0066】
以下の説明においては、紫外光L1が出射される方向をZ方向、図3に示すように、後述されるエキシマランプの管体21の管軸方向をY方向とし、Y方向及びZ方向に直交する方向をX方向として説明する。
【0067】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0068】
筐体10は、図2に示すように、紫外光L1を外側に向けて出射する光出射窓10aを備え、光出射窓10aが形成された面には、人検知部に相当する人感センサ11が設けられている。
【0069】
光出射窓10aは、XY平面に平行な壁面に、後述される光源部20から出射される紫外光L1に対して透過性を示す材料で形成されている。光出射窓10aを構成する具体的な材料は、例えば、石英ガラスやサファイアガラス等を採用し得る。また、光出射窓10aは、開口であっても構わない。
【0070】
本実施形態における光出射窓10aは、人体に対する影響を抑止して安全性を向上させるために、240nm~280nmの波長範囲の光強度を抑止するように構成されていることが好ましい。具体的な構成の一例として、本実施形態における光出射窓10aは、図示されない光学フィルタが設けられている。ただし、光源部20から出射される紫外光L1のスペクトルにおいて、240nm~280nmの波長域の光強度が、十分低いような場合は、光学フィルタが設けられていなくても構わない。また、上記の波長範囲の光強度を抑止する構成は、光出射窓10aに設けられる光学フィルタ以外に、筐体10や光出射窓10aとは別に設けられる機構や光学系によって実現されていても構わない。
【0071】
さらに、本実施形態の不活化装置1は、筐体10の側面に赤外光を利用して人を検知する人感センサ11が設けられている。図1A及び図1Bに示す領域A1は、人感センサ11が赤外光を受光できる領域を示しており、すなわち、人感センサ11が人を検知できる領域を示している。
【0072】
本実施形態における人感センサ11は、赤外線センサであるが、例えば、近接センサや距離センサ等により人の存在を検知するセンサを採用し得る。なお、不活化装置1は、人感センサ11として上述したようなセンサを採用し、人の存在を検知すると共に、動物や所定の物体をも検知できるように構成されていても構わない。
【0073】
本実施形態における光源部20は、図3に示すように、管体21と管体21の外側面に配置された二つの電極22とを含むエキシマランプで構成されている。
【0074】
管体21には、発光ガスとしてクリプトン(Kr)と塩素(Cl)が封入されており、電極22間に所定の閾値以上の電圧が印加されると、管体21からピーク波長が222nmの紫外光L1が出射される。なお、第一実施形態における光源部20は、エキシマランプで構成されているが、菌等の不活化処理に利用できる上述の波長帯の紫外光L1を出射できる光源であれば、例えば、LEDで構成されていても構わない。
【0075】
光源部20から出射された紫外光L1は、図1A及び図1Bに示すように、光出射窓10aから筐体10の外側へと出射される。そして、図1A及び図1Bに示すように、不活化装置1は、空間2の天井に設置されて、処理対象領域である床(-Z側)に向けて紫外光L1を照射する。なお、空間2内の壁が処理対象領域となっていてもよく、また、処理対象領域は、空間2内に設置された机の上等であっても構わない。
【0076】
本実施形態における制御部30は、図3に示すように、光源部20に供給する電力pwの値を演算する演算部31と、制御パターンのデータd1が格納された記憶部32と、光源部20に電力pwを供給する駆動部33とを備える。
【0077】
本実施形態における演算部31は、筐体10内に搭載された演算回路であり、具体的な一例としては、CPUやMPUである。駆動部33は、光源部20を駆動するための電力pwを生成する電気回路である。記憶部32は、フラッシュメモリや半導体メモリ等を採用し得るが、電源を入れる度に制御パターンのデータd1を格納する工程の有無の観点から、記憶部32は、不揮発メモリであることが好ましい。また、記憶部32は、直接、又はケーブル等を介して接続される外部メモリであっても構わない。
【0078】
演算部31は、人感センサ11から人を検知した、又は検知しなくなった信号s1が入力されると、信号s1に応じた制御パターンに関するデータd1を記憶部32から読み出す。演算部31は、記憶部32からデータd1を記憶部32から読み出すと、データd1に基づき、光源部20に供給する電力pwの値を指定する信号s2を駆動部33に対して出力する。
【0079】
駆動部33は、信号s2に基づいて、光源部20に供給する電力pwを生成し、光源部20が備える電極22に対して、電力pwを供給する。
【0080】
本実施形態における記憶部32には、複数の制御パターンのデータd1が格納されている。これらの具体的な制御については、以下で説明される。
【0081】
なお、本実施形態における制御部30は、筐体内に搭載された構成で説明されているが、制御部30は、不活化装置1と有線又は無線で通信を行うように構成された、PCやタブレット等の外部機器であっても構わない。
【0082】
[制御方法]
ここから、制御部30による光源部20の制御について詳細を説明する。なお、以下で説明される制御パターンは、本発明の不活化処理方法の思想に基づいて想定される、単なる実施例である。また、本実施形態における制御部30は、光源部20を自動制御するものが想定できる。
【0083】
本実施形態の不活化装置1は、光強度が相対的に高い紫外光L1を出射する第一点灯動作と、光強度が相対的に低い紫外光L1を出射する第二点灯動作を含む不活化処理動作とを含む動作パターンが実行されるように構成されている。
【0084】
光強度が相対的に高い紫外光L1を出射する第一点灯動作は、図1Bに示すように、机や床に紫外光L1を照射する動作であって、空間2中を浮遊する菌等を不活化処理すると共に、床面や机の上面に付着した菌等を主に不活化処理するために実行される。
【0085】
光強度が相対的に低い紫外光L1を出射する第二点灯動作は、図1Aに示すように、人に対する紫外光L1の照射を抑制しつつ、主に空間2中を浮遊する菌等を不活化処理するために実行される。
【0086】
以下では、第一点灯動作と第二点灯動作の組み合わせによる不活化処理の実施例が説明されるが、いずれの実施例も、不活化装置1から出射される紫外光L1の光強度が異なる処理を組み合わせて、効率的に空間2に存在する菌等の不活化処理を行う制御方法である。
【0087】
なお、制御方法としては、例えば、所定の領域内に人が存在するか否かを検知する人検知部(本実施形態においては人感センサ11)により、空間2に人が存在するか否かによって、第一点灯動作と第二点灯動作を切り替える制御パターンとする制御方法や、人検知部が人を検知していない期間において、第一点灯動作と第二点灯動作を交互に切り替える制御パターンとする制御方法が考えられる。さらに、人検知部が人を検知している期間において、第一点灯動作と第二点灯動作を交互に切り替える制御パターンとする制御方法等であっても構わない。
【0088】
さらには、第一点灯動作と消灯とを周期的に繰り返す制御パターン(第一制御パターン)や、第二点灯動作と消灯とを周期的に繰り返す制御パターン(第二制御パターン)を、適宜組み合わせた制御方法が採用されていても構わない。制御パターンの切り替えについても、第一点灯動作と第二点灯動作との切り替え制御と同様に、空間2に人が存在するか否かによって切り替える制御方法や、人検知部が人を検知している期間、又は検知していない期間において、第一制御パターンと第二制御パターンが交互に切り替わる制御方法等であっても構わない。以下は、種々考えられる制御方法の一例が示されている。
【0089】
動作途中で消灯することなく、第一点灯動作と第二点灯動作の実行によって、点灯状態が維持される実施例においては、常に空間2中を浮遊する菌等の不活化処理が継続されるため、点灯動作と消灯動作とを行う方法と比較すると、より効果的に菌等を不活化処理することができる。
【0090】
具体的には、点灯動作と消灯動作とを繰り返す方法の場合、菌等は、空間2の外から順次流れ込んでくる場合には、紫外光L1が照射される領域の不活化処理は十分であるにもかかわらず、空間2中を浮遊する菌等の不活化処理が追い付かない場合ある。点灯を維持して、空間2中を浮遊する菌等を継続して不活化処理する制御方法は、このような場合において、順次流れ込んでくる菌等を随時不活化処理することができ、衛生環境を維持することができる。
【0091】
なお、以下の各実施例では、第一点灯動作と第二点灯動作が実行される通常動作である主動作モードを説明するものであるが、不活化装置1は、光源部20の出力の低下等、所定の条件を満たした場合に、当該主動作モードとは制御パターンや動作が異なる副動作モードに移行するように構成されていても構わない。
【0092】
副動作モードに移行する条件としては、例えば、光源部20の劣化によって、光源部20から出射される紫外光L1の強度の低下を検知した場合等である。このような場合、制御部30は、副動作モードに移行して、駆動部33が供給する電力pwの値を向上させて不活化処理を実行する、又は光源部20への電力pwの供給を停止する。
【0093】
(実施例1)
図5は、実施例1の、光出射窓10a近傍における紫外光L1の光強度の変化を示すタイミングチャートである。図5には、人を検知しているか否かに関するタイムラインチャート(a)と、光強度に関するタイミングチャート(b)が図示されている。図5のタイムラインチャート(a)は、人感センサ11が人を検知していない期間を第一期間X1、人感センサ11が人を検知している期間を第二期間X2として図示されている。なお、実施例1は、人感センサ11が空間2に人が存在するか否かを検知して制御パターンが切り替わる動作を、主動作モードとして説明する。
【0094】
なお、第一期間X1と第二期間X2との切り替えは、人感センサ11による人の検知以外の条件を採用しても構わない。第一期間X1と第二期間X2とを切り替える条件としては、例えば、タイマによって所定の時間が経過したことを検知した場合や、所定の時刻になったことを検知した場合であっても構わない。
【0095】
図5のタイミングチャート(b)における縦軸は、光強度を示しており、光強度が相対的に高いレベル(i1)の区間が制御パターンP1の実行期間に対応し、光強度が相対的に低いレベル(i2)の区間が制御パターンP2の実行期間に対応する。
【0096】
本実施形態においては、人感センサ11が人の存在を検知すると、制御部30が制御パターンP2に切り替わり、人感センサ11が人の存在を検知しなくなると、制御部30が制御パターンP1を実行するように構成されている。図5に示すタイミングチャートは、人感センサ11が人の存在を検知しなくなり、制御パターンP2を実行している状態から、制御パターンP1を実行している状態に切り替わる時刻t1前後が図示されている。
【0097】
実施例1における制御パターンP1は、所定の強度の紫外光L1を出射されるように制御部30が光源部20を制御し、空間2内を浮遊する菌等の不活化処理と共に、机や床等の物体表面に付着している菌等を不活化処理するためのパターンである。制御パターンP1は、所定の光強度で点灯させる第一点灯動作と、消灯とを周期的に繰り返すパターンであり、第一制御パターン(第一処理工程)に対応する。
【0098】
なお、実施例1では、図5に示す制御パターンP1において、第一点灯動作と消灯とを繰り返す周期T1が45秒であって、第一点灯動作を継続する時間T2が15秒、消灯を継続する時間T3が30秒に設定されている。
【0099】
実施例1における制御パターンP2は、空間2内に人が存在する場合に、光源部20から出射される紫外光L1の強度を低下させて、人へ照射される紫外光L1の照射量を抑制しつつ、主に空間2内に浮遊する菌等を不活化処理するモードである。制御パターンP2は、制御パターンP1における第一点灯動作よりも低い光強度で点灯させる第二点灯動作を行うパターンであり、第二制御パターン(第二処理工程)に対応する。
【0100】
実施例1における制御パターンP2は、図5に示すように、制御部30が光源部20に対して、継続的に第二点灯動作に要する電力pwを供給し、連続的に第二点灯動作を行う。
【0101】
上記制御方法を実行することで、不活化装置1は、空間2に人が存在している場合、制御パターンP2が実施されることになり、第一点灯動作に比べて光強度が低い第二点灯動作によって不活化処理が行われる。このため、空間2内に人が存在している場合においては、常に第一点灯動作が実行されている場合よりも、人に対して照射されてしまう紫外光L1の照射量が低減される。
【0102】
また、空間2内に人が存在していない場合においては、高強度の紫外光L1の照射を不必要に継続させることがなくなり、例えば、消費電力が低減され、空間2内に配置された植物等に対して影響を及ぼしてしまうような過剰な紫外光L1の照射が抑制される。
【0103】
特に、机や床等の物体表面に付着している菌等は、その場に留まっていることから、所定の光強度で点灯される第一点灯動作が断続的に行われる制御パターンP1のような制御方法の場合であっても、不活化処理を効果的に進めて行くことができる。特に、波長240nm未満の紫外線は、細菌の光回復を阻害する効果を有することを見出し、断続的な点灯動作であっても、不活化処理の効果は損なわれ難い。
【0104】
したがって、不活化装置1は、人や動物への安全性を確保しつつ、空間2内に存在する菌等を効率的に不活化処理することができる。
【0105】
さらに、波長240nm未満の紫外線が、細菌の光回復を阻害する効果を有することを見出し、可視光が照射される環境下であっても不活化処理の効果は損なわれ難い。
【0106】
なお、本実施形態の不活化装置1は、第一点灯動作と第二点灯動作を含む主動作モード(主処理工程)のみを実行するように構成されており、以下に説明される動作は、全て主動作モードの制御パターンとして説明される。ただし、本実施形態の不活化装置1は、制御部30が、所定の条件を満たした場合に、主動作モードとは異なる副動作モード(副処理工程)に移行するように構成されていても構わない。副動作モードについては上述したとおりである。
【0107】
(実施例2)
本発明の不活化装置1の実施例2の制御方法につき、実施例1と異なる箇所を中心に説明する。
【0108】
図6は、実施例2の、光出射窓10a近傍における紫外光L1の光強度の変化を示すタイミングチャートである。図6には、人を検知しているか否かに関するタイムラインチャート(a)と、光強度に関するタイミングチャート(b)が図示されている。図6のタイミングチャート(b)における縦軸は、光強度を示しており、光強度が相対的に高いレベル(i1)と光強度が相対的に低いレベル(i2)とを繰り返す区間が制御パターンP3の実行期間に対応し、光強度が相対的に低いレベル(i2)の区間が制御パターンP4の実行期間に対応する。なお、実施例2は、制御パターンP3の実行期間と制御パターンP4の実行期間が主動作モードとして説明される。
【0109】
実施例2における制御パターンP3は、実施例1における制御パターンP1と同様で、所定の強度の紫外光L1を出射されるように制御部30が光源部20を制御し、空間2内を浮遊する菌等の不活化処理と共に、空間2の床に付着している菌等を不活化処理するためのパターンである。制御パターンP3は、図6に示すように、第一点灯動作と第二点灯動作とを周期的に繰り返す、第三制御パターン(第三処理工程)に対応する。
【0110】
実施例2における制御パターンP4は、図6に示すように、実施例1と同様に連続的に第二点灯動作を行う、第二制御パターン(第二処理工程)に対応する。
【0111】
上記制御方法を実行することで、光源部20は、完全に消灯する時間帯を減らすことができ継続して空間2中に浮遊する菌等の不活化処理が実行されるため、空間2内の衛生状態を維持することができる。また、消灯する時間帯が減ることで、再点灯に失敗して不活化処理を継続できなくなるといった可能性が低減される。
【0112】
(実施例3)
本発明の不活化装置1の実施例3の制御方法につき、実施例1及び実施例2と異なる箇所を中心に説明する。
【0113】
図7は、実施例3の、光出射窓10a近傍における紫外光L1の光強度の変化を示すタイミングチャートである。図7には、人を検知しているか否かに関するタイムラインチャート(a)と、光強度に関するタイミングチャート(b)が図示されている。図7のタイミングチャート(b)における縦軸は、光強度を示しており、光強度が相対的に高いレベル(i1)の区間が制御パターンP5の実行期間に対応し、光強度が相対的に低いレベル(i2)の区間が制御パターンP6の実行期間に対応する。なお、実施例3は、制御パターンP5の実行期間と制御パターンP6の実行期間が主動作モードとして説明される。
【0114】
実施例3における制御パターンP5は、図7に示すように、実施例1の制御パターンP1と同様に制御部30が第一点灯動作と消灯とを周期的に繰り返す、第一制御パターン(第一処理工程)に対応する。
【0115】
実施例3における制御パターンP6は、図7に示すように、第二点灯動作と消灯とを周期的に繰り返す、第二制御パターン(第二処理工程)に対応する。
【0116】
なお、実施例3では、図7に示す制御パターンP6において、第二点灯動作と消灯とを繰り返す周期T4が60秒であって、第二点灯動作を継続する時間T5が50秒、消灯を継続する時間T6が10秒に設定されている。
【0117】
上記制御方法を実行することで、光源部20の全体の点灯時間が低減されるため、上述の実施例1及び実施例2と比較すると、光源部20を構成する光源の寿命が長くなる。
【0118】
(実施例4)
本発明の不活化装置1の実施例4の制御方法につき、実施例1、実施例2及び実施例3と異なる箇所を中心に説明する。
【0119】
図8は、実施例4の、光出射窓10a近傍における紫外光L1の光強度の変化を示すタイミングチャートである。図8には、人を検知しているか否かに関するタイムラインチャート(a)と、光強度に関するタイミングチャート(b)が図示されている。図8のタイミングチャート(b)における縦軸は、光強度を示しており、光強度が相対的に高いレベル(i1)の区間が制御パターンP7の実行期間に対応し、光強度が相対的に高いレベル(i1)と光強度が相対的に低いレベル(i2)とを繰り返す区間が制御パターンP8の実行期間に対応する。なお、実施例4は、制御パターンP8の実行期間が主動作モードとして説明されるが、制御パターンP7の実行期間と制御パターンP8の実行期間を主動作モードとしても構わない。
【0120】
実施例4における制御パターンP7は、図8に示すように、第二点灯動作と消灯とを周期的に繰り返す、第二制御パターン(第二処理工程)に対応する。なお、実施例4における制御パターンP8は、実施例1と比較して、第一点灯動作の点灯状態が長い時間維持されるパターンである。
【0121】
実施例4における制御パターンP8は、図8に示すように、実施例2の制御パターンP3と同様に制御部30が第一点灯動作と第二点灯動作とを周期的に繰り返す、第三制御パターン(第三処理工程)に対応する。
【0122】
なお、実施例4では、図8に示す制御パターンP7において、第一点灯動作を継続する時間T7が600秒に設定されている。
【0123】
上記制御方法を実行することで、人に対して照射される紫外光L1の照射量を抑制しつつ、空間2に対して高い強度の紫外光L1を照射する時間が長くなるため、実施例1~実施例3に比べてより高い不活化効果が得られる。
【0124】
また、制御パターンP7において、高い強度の紫外光L1を長くすることで、物体表面に付着する菌をより短時間に必要レベルまで不活化させることができる。不活化処理に十分な照射時間が経過した後は、図8に示すように消灯させてもよい。
【0125】
(実施例5)
本発明の不活化装置1の実施例5の制御方法につき、実施例1~実施例4と異なる箇所を中心に説明する。
【0126】
図9は、実施例5の、光出射窓10a近傍における紫外光L1の光強度の変化を示すタイミングチャートである。図9には、人を検知しているか否かに関するタイムラインチャート(a)と、光強度に関するタイミングチャート(b)が図示されている。図9のタイミングチャート(b)における縦軸は、光強度を示している。
【0127】
実施例5は、図9に示すように、光強度が相対的に高いレベル(i1)と光強度が相対的に低いレベル(i2)とを周期的に繰り返すパターンである。そして、光強度が相対的に低いレベル(i2)の単位時間当たりの頻度が高い期間が制御パターンP9の実行期間に対応し、光強度が相対的に低いレベル(i2)の単位時間当たりの頻度が低い期間が制御パターンP10の実行期間に対応している。すなわち、制御パターンP10に比べて制御パターンP9の方が、第二点灯動作の単位時間当たりの頻度が高くなっており、制御パターンP9が第三制御パターン(第三処理工程)、制御パターンP10が第四制御パターン(第四処理工程)に対応している。なお、実施例5は、制御パターンP9の実行期間が主動作モードとして説明されるが、制御パターンP9の実行期間と制御パターンP10の実行期間を主動作モードとしても構わない。
【0128】
なお、実施例5では、図9に示す制御パターンP10は、実施例1の制御パターンP3と同じ時間設定である。そして、制御パターンP9は、第一点灯動作と第二点灯動作とを繰り返す周期T8が30秒であって、第一点灯動作を継続する時間T9が15秒、第二点灯動作を継続する時間T10が15秒に設定されている。
【0129】
上記制御方法を実行することで、人に対して照射される紫外光L1の照射量を抑制しつつ、空間2に対して高い強度の紫外光L1を照射する時間が長くなるため、実施例1~実施例3に比べてより高い不活化効果が得られる。さらに、光源部20は、完全に消灯される時間帯が減るため、継続して空間中に浮遊する菌等の不活化処理を実行でき、空間2内の衛生状態が維持されやすい。また、消灯する時間帯が減ることで、再点灯に失敗して不活化処理を継続できなくなる可能性が低減される。
【0130】
(実施例6)
本発明の不活化装置1の実施例6の制御方法につき、実施例1~実施例5と異なる箇所を中心に説明する。
【0131】
図10は、実施例6の、光出射窓10a近傍における紫外光L1の光強度の変化を示すタイミングチャートである。図10には、人を検知しているか否かに関するタイムラインチャート(a)と、光強度に関するタイミングチャート(b)が図示されている。図10のタイミングチャート(b)における縦軸は、光強度を示している。
【0132】
実施例6は、図10に示すように、光強度が相対的に高いレベル(i1)と光強度が相対的に低いレベル(i2)とを周期的に繰り返すパターンであって、光強度が相対的に低いレベル(i1)を維持する時間と光強度が相対的に低いレベル(i2)を維持する時間が変化しない。なお、区別のために、人感センサ11が人を検知していない期間が制御パターンP11の実行期間に対応し、人感センサ11が人を検知している期間が制御パターンP12の実行期間に対応しているものとする。なお、実施例6は、制御パターンP11の実行期間が主動作モードとして説明されるが、制御パターンP11の実行期間と制御パターンP12の実行期間を主動作モードとしても構わない。具体的には、例えば、人検知部(実施例6では人感センサ11)が人を検知していない期間において、第一点灯動作と第二点灯動作を交互に切り替える制御パターンを主動作モードとしてもよく、人検知部が人を検知している期間において、第一点灯動作と第二点灯動作を交互に切り替える制御パターンを主動作モードとしてもよい。
【0133】
実施例6の方法であっても、常に第一点灯動作が継続される制御方法と比較すると、人に対して照射される紫外光L1の照射量が抑制される。そして、常に空間2中を浮遊する菌等の不活化処理が継続されるため、点灯動作と消灯動作とを行う方法と比較すると、より効果的に菌等を不活化処理することができる。また、実施例6の方法においては、人を検知しているか否かを区別する必要はないため、所定の領域内に人が存在するか否かを検知する人検知部を必ず必要とするものではない。
【0134】
制御方法の例を説明してきたが、上述したように、各実施例は、本発明によって実行し得る例の一部であって、本発明の制御方法は、上述の方法に限られず、また、不活化装置1の構成についても、上述の構成に限られない。
【0135】
他の具体的な例としては、職場空間において、深夜帯のみ集中的に不活化処理を行う制御パターン(第一制御パターンや第三制御パターン)に切り替わる構成や、人が部屋の照明を消灯させたり、窓のカーテンを閉じたりすることで、所定の明るさ以下となった場合に別の制御パターン(第二制御パターンや第四制御パターン)に切り替わる構成であっても構わない。
【0136】
上述の説明において、第一点灯動作と第二点灯動作とを繰り返す制御パターンや、点灯動作と消灯動作とを繰り返す制御パターンは、それぞれの動作を周期的に繰り返すような制御パターンで説明したが、各動作の切り替えは、時間経過と共に、徐々変化するように構成されていても構わない。
【0137】
例えば、最初に長時間の第一点灯動作を実行、その後は、自然対流による菌等の動きに合わせるように、第一点灯動作と消灯動作を繰り返すといった制御としても構わない。また、第一点灯動作及び第二点灯動作とは異なる光強度の紫外光L1を照射する動作を、さらに含む制御パターンが実行されるように構成されていても構わない。
【0138】
上述の説明では、人感センサ11が人の存在を検知しているか否かに関わらず、制御部30が実行する制御は主動作モードとして説明したが、人感センサ11が人の存在を検知している場合に実行するモードが主動作モードとしても構わない。
【0139】
第一点灯動作及び第二点灯動作の光強度は、不活化装置が使用される設置条件によって適宜設定される。例えば、設置させる天井の高さによって、適切な光強度の差は異なる。一例として、第二点灯動作は、光出射窓10aにおける紫外光の光強度が、第一点灯動作に対して80%以下に制御するものであってよい。また、第二点灯動作は、光出射窓10aにおける紫外光の光強度が、第一点灯動作に対して50%以下に制御するものであってよい。また、第二点灯動作は、光出射窓10aにおける紫外光の光強度が、第一点灯動作に対して20%以下に制御するものであってよい。上記のように、第二点灯動作の光強度を低く抑えることで、主動作モードの実行期間をより長期間に設定できる。
【0140】
また、本発明では、ピーク波長が190nm以上240nm未満の範囲内に含まれる紫外光によって、環境中に存在する細菌や真菌、ウイルス等の不活化を行うものである。図11に示すとおり、たんぱく質は、波長240nm以上では紫外光が吸収されにくく、波長240nm以下では波長200nmに向かう程、紫外光が吸収されやすくなる。波長が240nm以上の紫外光は、人の皮膚を透過しやすく、皮膚内部まで浸透する。そのため、人の皮膚内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長240nm未満の紫外光は、人の皮膚表面(例えば角質層)で吸収されやすく、皮膚内部まで浸透し難い。そのため、皮膚に対して安全性が高い。
【0141】
さらに、波長240nm未満の紫外光は、「菌の光回復」を阻害する効果が期待できる。菌の光回復とは、最近が保有する光回復酵素(例えば、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド))の働きによるもので、波長300nm~500nmの光が照射されると、DNAの損傷を修復させる作用を起こすものである。例えば、従来の殺菌線とされていた波長254nmの紫外光は、細菌やウイルスのDNAを損傷させることで不活化が行われるものである。しかし、太陽光や白色照明の可視光が照射される明るい環境下においては、前述の光回復酵素の働きにより、紫外光によるDNA損傷を修復させる作用(光回復)が働き、不活化を進めることが難しいという問題があった。この問題は、紫外光の照射が一時的に行われる場合や、紫外光を断続的に照射させる場合等、紫外光を照射しない消灯動作や紫外光の光強度を減ずる減光動作が行われる場合において、より顕著に表れる。
【0142】
しかしながら、波長240nmより短い波長帯域では、たんぱく質に対する吸収率が大幅に上昇することが分かる。そのため、細菌やウイルスが持つ細胞膜や酵素の成分であるタンパク質に効果的に吸収される。特に、細菌やウイルスはヒト細胞よりも物理的にはるかに小さく、波長240nmより短い波長帯域であっても紫外光が内部まで到達しやすい。つまり波長240nmよりも短い波長帯域の紫外光は、人や動物への悪影響を抑制しつつ微生物やウイルスを不活化することができ、さらに、細菌やウイルスを構成する細胞、特に、タンパク質成分を含む細胞膜や酵素等に対して効果的に作用し、菌の光回復等の機能を抑制する効果が高められると考えられる。
【0143】
ここで、連続点灯と間欠点灯とで、菌等の不活化処理にどのような差異が生じるかを、紫外光の波長別に効果を確認した検証について説明する。
【0144】
不活化対象の菌は、光回復酵素を有する黄色ブドウ球菌を用い、可視光が照射されている環境で上記紫外光を連続点灯した場合と、間欠点灯させた場合とで、菌の生存率の変化を確認した。
【0145】
紫外光源は、中心波長254nmの紫外光を出射する低圧水銀灯と、中心波長222nmの紫外光を出射するKrClエキシマランプと、中心波長207nmの紫外光を出射するKrBrエキシマランプを用いた。
【0146】
連続点灯は、菌に照射される紫外光の照度を0.1mW/cm2とした。
【0147】
間欠点灯は、点灯時間Taを50秒、休止時間Tbを59分10秒(3550秒)とし、点灯デューティ比が1.39%となるように設定した。なお、点灯デューティ比とは、点灯時間Taと休止時間Tbとの総和に対する点灯時間Taの割合であり、Td=Ta/(Ta+Tb)で表される値である。間欠点灯における点灯時の紫外線照度は、0.1mW/cm2とし、1回の点灯動作による紫外線照射量を5mJ/cm2となるように設定した。
【0148】
図12は、中心波長254nmの紫外光を出射する光源を用いた連続点灯と間欠点灯との比較結果であり、図13は、中心波長222nmの紫外光を出射する光源を用いた連続点灯と間欠点灯との比較結果であり、図14は、中心波長207nmの紫外光を出射する光源を用いた連続点灯と間欠点灯との比較結果である。図12図14において、横軸は紫外線照射量(mJ/cm2)、縦軸は菌のLog生存率である。
【0149】
図12に示すように、波長254nmの紫外線照射の場合、間欠点灯を行うと連続点灯を行った場合よりも不活化効果が劣る。これは、間欠点灯の休止時間の間に菌が回復するためであると考えられる。このように、波長254nmの紫外線照射では、菌の光回復作用があるため、間欠点灯を行うと菌の不活化を確実に実施することができない。一方、図13に示すように、波長222nmの紫外線照射の場合は、菌の光回復が阻害されるため、間欠点灯と連続点灯とで同等の不活化効果が得られている。
【0150】
図14に示すように、波長207nmの紫外線照射の場合においても、間欠点灯と連続点灯とで同等の不活化効果が得られていることが分かった。これは、紫外線照射によって菌の光回復自体が阻害されたためと考えられ、波長222nmの紫外線照射の場合と同様の結果である。いずれの光源も、波長選択フィルタを用いて波長240nm以上300nm以下の紫外光がカットされ、波長190nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光を放射させたものである。
【0151】
以上のとおり、波長240nmよりも短い波長帯域の紫外光は、人や動物への悪影響を抑制しつつ微生物やウイルスを不活化することができ、さらに、細菌やウイルスを構成する細胞、特に、タンパク質成分を含む細胞膜や酵素等に対して効果的に作用し、菌の光回復等の機能を抑制する効果が発揮されることが確認できた。
【符号の説明】
【0152】
1 : 不活化装置
2 : 空間
10 : 筐体
10a : 光出射窓
11 : 人感センサ
20 : 光源部
21 : 管体
22 : 電極
30 : 制御部
31 : 演算部
32 : 記憶部
33 : 駆動部
A1 : 領域
H1 : 上方領域
L1 : 紫外光
d1 : データ
s1,s2 : 信号
pw : 電力
X1 : 第一期間
X2 : 第二期間
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14