(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】半導体素子被覆用ガラス及びこれを用いた半導体被覆用材料
(51)【国際特許分類】
C03C 8/04 20060101AFI20241107BHJP
C03C 8/14 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C03C8/04
C03C8/14
(21)【出願番号】P 2021548788
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2020034331
(87)【国際公開番号】W WO2021060001
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019172436
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 将行
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/026402(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/168236(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/160704(WO,A1)
【文献】特開昭56-013702(JP,A)
【文献】米国特許第04319215(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 8/04
C03C 8/14
H01L 21/316
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO
2 20~36%、ZnO 8~40%、B
2O
3 10~24%、Al
2O
3 10~20%、MgO+CaO 8~22%
、Bi
2
O
3
0~3%を含有し、且つモル比で、SiO
2/ZnOが0.6以上3.3未満であり、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする半導体素子被覆用ガラス。
【請求項2】
モル%で、CaO 8~22%を含有することを特徴とする請求項1に記載の半導体素子被覆用ガラス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末 75~100質量%、セラミック粉末 0~25質量%を含有することを特徴とする半導体素子被覆用材料。
【請求項4】
30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20×10
-7/℃~55×10
-7/℃であることを特徴とする請求項3に記載の半導体素子被覆用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子被覆用ガラス及びこれを用いた半導体被覆用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンダイオード、トランジスタ等の半導体素子は、一般的に、半導体素子のP-N接合部を含む表面がガラスにより被覆される。これにより、半導体素子表面の安定化を図り、経時的な特性劣化を抑制することができる。
【0003】
半導体素子被覆用ガラスに要求される特性として、(1)半導体素子との熱膨張係数差によるクラック等が発生しないように、熱膨張係数が半導体素子の熱膨張係数に適合すること、(2)半導体素子の特性劣化を防止するため、低温(例えば860℃以下)で被覆可能であること、(3)半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ成分等の不純物を含まないこと等が挙げられる。
【0004】
従来から、半導体素子被覆用ガラスとして、ZnO-B2O3-SiO2系等の亜鉛系ガラス、PbO-SiO2-Al2O3系ガラス、PbO-SiO2-B2O3-Al2O3系ガラス等の鉛系ガラスが知られているが、現在では、作業性の観点から、PbO-SiO2-Al2O3系ガラス、PbO-SiO2-B2O3-Al2O3系ガラス等の鉛系ガラスが主流となっている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開昭48-43275号公報
【文献】日本国特開昭50-129181号公報
【文献】日本国特公平1-49653号公報
【文献】日本国特開2008-162881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、鉛系ガラスの鉛成分は、環境に対して有害な成分である。上記の亜鉛系ガラスは、少量の鉛成分やビスマス成分を含むため、環境に対して完全に無害であるとは言い切れない。
【0007】
また、亜鉛系ガラスは、鉛系ガラスと比較して、化学耐久性に劣り、被覆層を形成した後の酸処理工程で侵食され易いという問題がある。このため、被覆層の表面に更に保護膜を形成して酸処理を行う必要があった。
【0008】
一方、ガラス組成中のSiO2の含有量を多くすると、耐酸性が向上すると共に、半導体素子の逆電圧が向上するが、ガラスの焼成温度が上がるため、被覆工程において半導体素子の特性を劣化させてしまう虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、環境負荷が小さく、耐酸性に優れ、且つ焼成温度が低い半導体素子被覆用ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定のガラス組成を有するSiO2-B2O3-Al2O3-ZnO系ガラスにおいて、SiO2とZnOの比率を規制すると共に、MgO、及び/又はCaOを所定量導入することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 20~36%、ZnO 8~40%、B2O3 10~24%、Al2O3 10~20%、MgO+CaO 8~22%を含有し、且つモル比で、SiO2/ZnOが0.6以上3.3未満であり、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする。ここで、「MgO+CaO」とは、MgO、及びCaOの含有量の合量を意味し、「SiO2/ZnO」とは、SiO2の含有量をZnOの含有量で除した値を意味する。また、「実質的に~を含有しない」とは、ガラス成分として該当成分を意図的に添加しないことを意味し、不可避的に混入する不純物まで完全に排除することを意味するものではない。具体的には、不純物を含めた該当成分の含有量が0.1質量%未満であることを意味する。
【0011】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、上記の通り、各成分の含有範囲を規制している。これにより、環境負荷が小さく、耐酸性が向上すると共に、焼成温度を低くし易くなる。
【0012】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、モル%で、CaO 8~22%を含有することが好ましい。
【0013】
本発明の半導体素子被覆用材料は、上記の半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末 75~100質量%、セラミック粉末 0~25質量%を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の半導体素子被覆用材料は、30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20×10-7/℃~55×10-7/℃であることが好ましい。ここで、「30~300℃の温度範囲における熱膨張係数」とは、押し棒式熱膨張係数測定装置により測定した値を指す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境負荷が小さく、耐酸性に優れ、且つ焼成温度が低い半導体素子被覆用ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載の数値を最小値及び最大値としてそれぞれ含む範囲を意味する。
【0017】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 20~36%、ZnO 8~40%、B2O3 10~24%、Al2O3 10~20%、MgO+CaO 8~22%を含有し、且つモル比で、SiO2/ZnOが0.6以上3.3未満であり、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする。各成分の含有量を上記の通り限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、%表示は、特に断りのない限り、モル%を意味する。
【0018】
SiO2はガラスの網目形成成分であり、耐酸性を高める成分である。SiO2の含有量は20~36%であり、21~33%、特に22~30%であることが好ましい。SiO2の含有量が少な過ぎると、耐酸性が低下し易く、またガラス化しにくくなる。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、ガラスの焼成温度が高くなり、被覆工程において半導体素子の特性を劣化させやすくなる。
【0019】
ZnOはガラスを安定化する成分である。ZnOの含有量は8~40%であり、12~38%、特に14~32%であることが好ましい。ZnOの含有量が少な過ぎると、溶融時の失透性が強くなり、均質なガラスを得にくくなる。一方、ZnOの含有量が多過ぎると、耐酸性が低下し易くなる。
【0020】
SiO2/ZnOは0.6以上3.3未満であり、0.8~2.4、特に1~1.8であることが好ましい。SiO2/ZnOが小さ過ぎると、ガラスが分相しやすくなり、また耐酸性が低下し易くなる。一方、SiO2/ZnOが大き過ぎると、ガラスの焼成温度が高くなり、被覆工程において半導体素子の特性を劣化させやすくなる。
【0021】
B2O3は、ガラスの網目形成成分であり、軟化流動性を高める成分である。B2O3の含有量は10~24%であり、11~22%、特に12~20%であることが好ましい。B2O3の含有量が少な過ぎると、結晶性が強くなるため、被覆時に軟化流動性が損なわれて、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。一方、B2O3の含有量が多過ぎると、耐酸性が低下する傾向がある。
【0022】
Al2O3は、ガラスを安定化する成分である。Al2O3の含有量は10~20%であり、11~19%、特に12~18%であることが好ましい。Al2O3の含有量が少な過ぎると、ガラス化しにくくなる。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、ガラスの焼成温度が高くなり、被覆工程において半導体素子の特性を劣化させやすくなる。
【0023】
MgO、及びCaOは、ガラスの粘性を下げる成分である。MgO、及び/又はCaOを所定量含有させることにより、SiO2を多量に含有する場合であっても低温焼成が可能になる。MgO+CaOは8~22%であり、9~21%、特に10~20%であることが好ましい。MgO+CaOが少な過ぎると、ガラスの軟化温度が上昇し易くなる。一方、MgO+CaOが多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎたり、絶縁性が低下する傾向がある。
【0024】
なお、MgO、及びCaOの含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0025】
MgOの含有量は0~22%、4~22%、8~22%、9~21%、特に10~20%であることが好ましい。
【0026】
CaOの含有量は0~22%、4~22%、8~22%、9~21%、特に10~20%であることが好ましい。
【0027】
上記成分以外にも、他の成分(例えば、SrO、BaO、MnO2、Bi2O3、Ta2O5、Nb2O5、CeO2、Sb2O3等)を7%まで(好ましくは3%まで)含有してもよい。
【0028】
環境面の観点から、実質的に鉛成分(例えばPbO等)を含有せず、実質的にF、Clも含有しないことが好ましい。また、半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ金属成分(例えば、Li2O、Na2O及びK2O)も実質的に含有しないことが好ましい。
【0029】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、粉末状であること、つまりガラス粉末であることが好ましい。ガラス粉末に加工すれば、例えば、ペースト法、電気泳動塗布法等を用いて半導体素子表面の被覆を容易に行うことができる。
【0030】
ガラス粉末の平均粒子径D50は、25μm以下、特に15μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が大き過ぎると、ペースト化が困難になる。また、電気泳動法によるペースト塗布も困難になる。なお、ガラス粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上であることが好ましい。なお、「平均粒子径D50」は、体積基準で測定した値であり、レーザー回折法で測定した値を指す。
【0031】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、例えば、各酸化物成分の原料粉末を調合してバッチとし、1500℃程度で約1時間溶融してガラス化した後、成形(その後、必要に応じて粉砕、分級)することによって得ることができる。
【0032】
本発明の半導体素子被覆用材料は、前記半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末を含むが、必要に応じて、セラミック粉末(例えば、コーディエライト粉末)と混合し、複合粉末としてもよい。セラミック粉末を添加すれば、熱膨張係数を調整し易くなる。
【0033】
本発明の半導体素子被覆用材料は、前記半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末75~100質量%、セラミック粉末0~25質量%を含有することが好ましい。
【0034】
セラミック粉末は、ガラス粉末100質量部に対して、25質量部未満、特に20質量部未満であることが好ましい。セラミック粉末の含有量が多過ぎると、ガラスの軟化流動性が損なわれて、半導体素子表面の被覆が困難になる。
【0035】
セラミック粉末の平均粒子径D50は、30μm以下、特に20μm以下であることが好ましい。セラミック粉末の平均粒子径D50が大き過ぎると、被覆層の表面平滑性が低下し易くなる。セラミック粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0036】
本発明の半導体素子被覆用材料において、30~300℃の温度範囲における熱膨張係数は20×10-7/℃~55×10-7/℃、特に30×10-7/℃~50×10-7/℃であることが好ましい。熱膨張係数が上記範囲外になると、半導体素子との熱膨張係数差によるクラック、反り等が発生し易くなる。
【0037】
本発明の半導体素子被覆用材料において、被覆層を形成する際の焼成温度が900℃以下、特に880℃以下であることが好ましい。焼成温度が高すぎると、半導体素子を劣化させ易くなる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0039】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~4)と比較例(試料No.5~8)を示している。
【0040】
【0041】
各試料は、以下のようにして作製した。まず表1中のガラス組成となるように原料粉末を調合してバッチとし、1500℃で1時間溶融してガラス化した。続いて、溶融ガラスをフィルム状に成形した後、ボールミルにて粉砕し、350メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径D50が12μmとなるガラス粉末を得た。なお、試料No.1では、得られたガラス粉末に対して、表1に記載の量のコーディエライト粉末(平均粒子径D50:12μm)を添加して、複合粉末とした。
【0042】
各試料について、熱膨張係数、軟化点、及び耐酸性を評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
熱膨張係数は、押し棒式熱膨張係数測定装置を用いて、30~300℃の温度範囲にて測定した値である。
【0044】
軟化点はマクロ型示差熱分析計を用いて測定した。具体的には、各ガラス粉末試料につき、マクロ型示差熱分析計を用いて測定して得られたチャートにおいて、第四の変曲点の値を軟化点とした。
【0045】
耐酸性は次のようにして評価した。各試料を直径20mm、厚み4mm程度の大きさにプレス成型した後、表1中の焼成温度にて焼成してペレット状試料を作製し、この試料を30%硝酸中に25℃、1分浸漬した後の質量減から単位面積当たりの質量変化を算出し、耐酸性の指標とした。なお、単位面積当たりの質量変化が1.0mg/cm2未満を「○」、1.0mg/cm2以上を「×」とした。なお、焼成温度は、軟化点+20℃とした。
【0046】
表1から明らかなように、試料No.1~4は、熱膨張係数が39×10-7/℃~43×10-7/℃、焼成温度が820~850℃であり、且つ耐酸性の評価も良好であった。よって、試料No.1~4は、半導体素子の被覆に好適であると考えられる。
【0047】
一方、試料No.5は分相性が強くガラス化しなかった。試料No.6は焼成温度が高かった。試料No.7、8は耐酸性に劣っていた。