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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/22 20060101AFI20241107BHJP
   B23B 27/10 20060101ALI20241107BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20241107BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241107BHJP
   B23B 27/04 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B23B27/22
B23B27/10
B23B27/00 B
B23B27/14 C
B23B27/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024106156
(22)【出願日】2024-07-01
【審査請求日】2024-07-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰岳
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-001024(JP,A)
【文献】特開2002-254214(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0136734(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0235475(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0343534(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107790755(CN,A)
【文献】国際公開第2022/232855(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00、04、08、10、14、22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具であって、
すくい面と、
逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面との交線に構成される切れ刃と、
該切れ刃の内側に形成された、当該切削工具の上方に突出するブレーカ壁と、
該ブレーカ壁の上方に形成されたボス面を含むボス部と、
該ボス部に形成された、前記切れ刃に向けて延びる複数の凹部と、
を備え、
前記ボス面と前記ブレーカ壁との交線または仮想的な交線に沿った前記ブレーカ壁の前記切れ刃が延びる方向の幅は、当該交線の仮想延長線上における前記凹部がなす溝の幅よりも広く、
前記切れ刃は、前記すくい面がある側から見た上面視にて円弧状に形成されている、切削工具。
【請求項2】
切削工具であって、
すくい面と、
逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面との交線に構成される切れ刃と、
該切れ刃の内側に形成された、当該切削工具の上方に突出するブレーカ壁と、
該ブレーカ壁の上方に形成されたボス面を含むボス部と、
該ボス部に形成された、前記切れ刃に向けて延びる複数の凹部と、
を備え、
前記ボス面と前記ブレーカ壁との交線または仮想的な交線に沿った前記ブレーカ壁の前記切れ刃が延びる方向の幅は、当該交線の仮想延長線上における前記凹部がなす溝の幅よりも広く、
前記凹部は、上面視にて直線状である溝で形成されている、切削工具。
【請求項3】
切削工具であって、
すくい面と、
逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面との交線に構成される切れ刃と、
該切れ刃の内側に形成された、当該切削工具の上方に突出するブレーカ壁と、
該ブレーカ壁の上方に形成されたボス面を含むボス部と、
該ボス部に形成された、前記切れ刃に向けて延びる複数の凹部と、
を備え、
前記ボス面と前記ブレーカ壁との交線または仮想的な交線に沿った前記ブレーカ壁の前記切れ刃が延びる方向の幅は、当該交線の仮想延長線上における前記凹部がなす溝の幅よりも広く、
前記ブレーカ壁と前記切れ刃との間隔が均一である、切削工具。
【請求項4】
前記ブレーカ壁と前記切れ刃との間隔が均一である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項5】
前記切れ刃は、前記すくい面がある側から見た上面視にて円弧状に形成されている、請求項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記凹部は、上面視にて直線状である溝で形成されている、請求項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記切れ刃は、中心角が180°を超える円弧状である、請求項1、4、5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記凹部は、幅一定の溝で形成されている、請求項2、5、6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
前記ブレーカ壁の幅は、前記凹部がなす溝の幅の2倍以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項10】
上面視に対して垂直な方向から見た正面視または側面視にて、前記凹部の底面の高さは、前記切れ刃の高さよりも低い、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項11】
前記ブレーカ壁と前記切れ刃との間隔が不均一である、請求項1,2,5,6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項12】
円弧状に形成された前記切れ刃の中心付近に、前記凹部と連なる弧状の窪みが形成されている、請求項1からのいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項13】
前記切れ刃がホーニング処理をされてチャンファー形状となっている、請求項1からのいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項14】
前記凹部がトンネル状に形成されている、請求項1からのいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
倣い加工や仕上げ加工を行う際の切削工具として、超硬で形成された円弧状の切れ刃をもつ切削インサートが用いられる場合がある(たとえば特許文献1~3参照)。また、高硬度材の加工には、超硬よりもさらに硬度の高いcBN(立方晶窒化ホウ素)を含む焼結体で形成された切れ刃をもつ切削インサートが用いられる場合がある。このような切削インサートをたとえば仕上げ加工で使用する際の切込み条件は0.2mm程度であり、超硬インサートに比べると非常に低いものとなるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5592954号公報
【文献】特許第5262528号公報
【文献】米国特許第9579727号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のごとき従来の切削インサートを用いた仕上げ加工などの際、切れ刃へのクーラントの供給が十分でないことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、とくに倣い加工や仕上げ加工に用いられる切削インサートなどを対象に、切れ刃へのクーラント供給性能を向上させ、さらには切りくず処理性能や耐久性能をも向上させることを可能にした切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々検討した。上記のごとき切削工具は、逃げ面、ホーニング(円弧形状やチャンファー形状)、すくい面で構成されているが、ブレーカを有していない形状である場合には切りくず処理を行うことができない、そのような場合、切りくずが被削物に絡まり加工面の品位が悪化して不良となったり、ホルダに絡まった切りくずを除去するため機械を停止して生産効率を落としてしまったりといったことが起こりかねない。こういった問題に対処する手段としては加工条件を変更したり、ホーニング形状の変更を試みたりすることが挙げられるが、そうすると加工能率が下がったり、加工面にびびりが生じたり等、問題解決に至らない場合がある。また、ブレーカを有している切削工具を、上記のごとき低い加工条件で使いつつ切りくずを拘束するためにはブレーカの幅を狭くする必要があり、かつ、切れ刃が円弧状である工具を倣い加工で使用するのであれば、当該切れ刃とブレーカ幅が均一であることが望まれる。そのため、外部からクーラントを供給する際、ボス面に切削油が当たって拡散してしまい、狭いブレーカ幅を伝って切れ刃にクーラントが十分には供給されない場合がある。また、切削加工中はボス面と切れ刃の間に切りくずが生成するため、当該切りくずがクーラントの流れを阻害してしまい、切削熱が一番発生する切削点へクーラントを供給することが難しくなることがある。こういった従来の形態に着目しつつ検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結びつく知見を得るに至った。
【0007】
かかる知見に基づき想到するに至った本発明の一態様は、切削工具であって、
すくい面と、
逃げ面と、
すくい面と逃げ面との交線に構成される切れ刃と、
該切れ刃の内側に形成された、当該切削工具の上方に突出するブレーカ壁と、
該ブレーカ壁の上方に形成されたボス面を含むボス部と、
該ボス部に形成された、切れ刃に向けて延びる複数の凹部と、
を備え、
ボス面とブレーカ壁との交線または仮想的な交線に沿ったブレーカ壁の切れ刃が延びる方向の幅は、当該交線の仮想延長線上における凹部がなす溝の幅よりも広い、切削工具である。
【0008】
上記のごとき態様の切削工具によれば、切れ刃へ向かう凹部がボス面に設けられることで、ボス面で拡散してしまうおそれがあったクーラントが当該凹部を通り、切れ刃にむけて送られる状態となる。しかも、上記のごとき態様の切削工具によれば、切れ刃に対してブレーカ壁がある領域がいわば支配的となるため、凹部がなす溝にクーラントを供給しつつ、ブレーカ壁の効果により安定した切りくず処理を実現することが可能となる。
【0009】
上記のごとき切削工具において、ブレーカ壁の幅は、凹部がなす溝の幅の2倍以上であってもよい。
【0010】
上記のごとき切削工具において、切れ刃は、すくい面がある側から見た上面視にて円弧状に形成されていてもよい。
【0011】
上記のごとき切削工具において、切れ刃は、中心角が180°を超える円弧状であってもよい。
【0012】
上記のごとき切削工具において、凹部は、上面視にて直線状である溝で形成されていてもよい。
【0013】
上記のごとき切削工具において、凹部は、幅一定の溝で形成されていてもよい。
【0014】
上記のごとき切削工具において、上面視に対して垂直な方向から見た正面視または側面視にて、凹部の底面の高さは、切れ刃の高さよりも低くなっていてもよい。
【0015】
上記のごとき切削工具において、ブレーカ壁と切れ刃との間隔が均一であってもよい。
【0016】
上記のごとき切削工具において、ブレーカ壁と切れ刃との間隔が不均一であってもよい。
【0017】
上記のごとき切削工具において、円弧状に形成された切れ刃の中心付近に、凹部と連なる弧状の窪みが形成されていてもよい。
【0018】
上記のごとき切削工具において、切れ刃がホーニング処理をされてチャンファー形状となっていてもよい。
【0019】
上記のごとき切削工具において、凹部が穴状に形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一態様である切削工具の一例を示す斜視図である。
図2】切削工具の正面図である。
図3】切削工具の上面図である。
図4】切削工具の右側面図である。
図5】切削工具の切れ刃部材を拡大して示す斜視図である。
図6】切削工具の切れ刃部材の一部を拡大して示す上面図である。
図7】切削工具の切れ刃部材を拡大して示す側方から見た斜視図である。
図8】切れ刃部材におけるクーラントの流れを示す概略図である。
図9】切れ刃部材における断面形状を示す図である。
図10】切削工具の別の形態例を示す、切れ刃部材の拡大斜視図である。
図11】切削工具のさらに別の形態例を示す、切れ刃部材の拡大斜視図である。
図12】ボス部に凹部が形成されていない切れ刃部材におけるクーラントの流れを参考までに説明する概略斜視図である。
図13】ボス部に凹部が形成されていない切れ刃部材におけるクーラントの流れを参考までに説明する概略側面図である。
図14】切れ刃の中心角αやバックテーパー等について説明する、切れ刃部材の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する(図1図9等参照)。以下では、好適な実施形態として、ベースインサート部材10と切れ刃部材20とからなる切削インサート1を例示しつつ説明する。なお、以下では、ベースインサート部材10の長手方向(中心軸Xに沿った方向)を「前後方向」、図2における左右の方向を「幅方向」とし、また、図2における上側(後述するボス部30がある側を「上」、図2における「下」として説明する。
【0022】
ベースインサート部材10は、ろう付けされた切れ刃部材20を保持する部材である(図1図4参照)。本実施形態におけるベースインサート部材10は超硬材、中心軸10Xに沿って延びる形状に形成されている。
【0023】
切れ刃部材20は、超硬よりもさらに硬度の高いcBN(立方晶窒化ホウ素)を含む焼結体で形成された部材で、ベースインサート部材10の端部にろう付けされて切削インサート1を構成する。本実施形態の切れ刃部材20は、すくい面22、逃げ面24、切れ刃26、ブレーカ壁28、ボス部30、ボス面32、窪み34、凹部36、溝38などを有している(図1等参照)。
【0024】
切れ刃26は、すくい面22と逃げ面24との交線に構成されている。本実施形態の切れ刃部材20における切れ刃26は、当該切れ刃部材20のすくい面22がある側から見た上面視にて略半円の円弧状に形成されている(図3等参照)。略円弧状の切れ刃26の中心角αは180°を少し超える程度、たとえば185°程度である。中心角αが185°の場合、中心軸10Xを中心にした左右の角度はそれぞれα/2つまり92.5°である(図14参照)。切れ刃26の後方、ベースインサート部材10寄りの逃げている部分はバックテーパーなどと呼ばれる、切れ刃26の最大幅から漸減する部分である(図14において符号40で示す)。バックテーパー40の逃げ角(中心軸10Xと平行な線に対する角度)βは、たとえば2.5°である(図14参照)。ちなみに、中心軸10Xに沿って切削インサート1をベースインサート部材10の先端側からみた正面視にて、バックテーパー40は隠れて見えない(図2図3等参照)。なお、図3等においては、上記のごとく略円弧状である切れ刃26の略中央部を符号22cで示している。特に詳しい図示はしていないが、切れ刃26がホーニング処理をされてチャンファー形状となっていてもよい。
【0025】
すくい面22は、略円弧状の切れ刃26に沿って切れ刃部材20の上面側に形成されている。逃げ面24は、略円弧状の切れ刃26に沿って、切れ刃部材20の側面に、切れ刃26から離れるにしたがって下面に近づくように傾斜するポジ状の面として形成されている。
【0026】
ブレーカ壁28は、切れ刃26の内側に、当該切れ刃部材20の上方に突出するように形成されている。本実施形態の切れ刃部材20におけるブレーカ壁28は、全体としては略円弧状であり、後述する複数の凹部36によって複数に分割された状態になっている(図1図5等参照)。本実施形態の切れ刃部材20において、ブレーカ壁28と切れ刃26との間隔(ブレーカ幅といい、図9において符号Wbで示す)が均一であり、ブレーカ壁28の表面は円錐台の周面のごとき形状となっている(図7等参照)。
【0027】
ボス部30は、ブレーカ壁28の上方に突出して形成された頂部部分からなる。ボス部30の上側にはボス面32が形成されている(図5図6等参照)。ボス面32は、面取りされていてもよい(図5では、面取り部を符号32cで示している)。本実施形態の切れ刃部材20におけるボス部30は、全体としては厚み(高さ)が小さい半円錐台のような形状である。また、ボス部30の上面であるボス面32は、後述する複数の凹部36によって複数に分割された状態になっている(図1図5等参照)。また、後述する弧状の窪み34の内側は中央ボス部(ボス部30のうち、略中央部22cの近傍の部分)となっている(図5等参照)。
【0028】
凹部36は、切れ刃26に向けて延びるようにボス部30に複数形成されていて、切れ刃26へのクーラントCの供給性能を向上させる(図5等参照)。ボス部30’に凹部が形成されていない切れ刃部材20’におけるクーラントC’の流れと比較して(図12図13参照)、これら複数の凹部36がなす溝38を通すことにより、切れ刃26に供給されるクーラントCの量を増大させることができる(図7図8参照)。これら凹部36は、切れ刃26にクーラントCをより効率よく供給できるように形成されているとよい。本実施形態の切れ刃部材20においては、複数の凹部36が、中央ボス部30cから放射状に形成されている。これら複数の凹部36は、上面視にて直線状かつ幅一定の溝で形成されている(図3図6参照)。さらに、本実施形態の切れ刃部材20においては、正面視または側面視にて、凹部36の底面36bの高さは、切れ刃26の高さよりも低くなっている(図8図9参照)。こうした場合には、切りくず生成時、切りくずとすくい面22の間にクーラントが入り込むようになり、切削点へクーラントを届けやすくなる。
【0029】
ここで、本実施形態の切れ刃部材20においては、ブレーカ壁28の幅W28のほうが凹部36がなす溝38の幅W38よりも大きい形状(ブレーカ壁28の幅W28>凹部36がなす溝38の幅W38)となっている(図5等参照)。このような形状である場合、切れ刃26に対し、溝38がある領域よりもブレーカ壁28がある領域のほうがいわば支配的となるため、凹部36がなす溝38にクーラントCを供給しつつ、ブレーカ壁28の効果により安定した切りくず処理を実現することが可能となる。ここでいう「ブレーカ壁28の幅W28」や「凹部36がなす溝38の幅W38」の規定のしかたには種々あるが、一例として、本実施形態では以下のように規定する。すなわち、まず、ボス面32とブレーカ壁28との交線(仮想的な交線あるいは当該交線の仮想延長線を含むものとする。以下同様)L1を考える。このとき、本実施形態では、上述した面取り部32cをボス面32の一部に含めて考えることとし、当該ボス面(面取り部32cを含む)32とブレーカ壁28との仮想的な交線L1を想定する(図5参照)。この交線L1上における、交線L1に沿ったブレーカ壁28の幅と、交線L1に沿った凹部36がなす溝38の幅をそれぞれの幅と規定し、符号W28,W38で表すこととする。このようにして規定されるブレーカ壁28の幅W28と、凹部36がなす溝38の幅W38は、上記のとおり ブレーカ壁28の幅W28>凹部36がなす溝38の幅W38 であり、場合によっては、ブレーカ壁28の幅W28が、凹部36がなす溝38の幅W38の2倍以上であってもよい。本実施形態において使用が想定される仕上げ加工においては切込量や送り量が小さいため、ブレーカ壁28の幅W28が、凹部36がなす溝38の幅W38に対して2倍未満の幅だと、ブレーカ壁28が十分に機能せず切りくず処理がうまくできない可能性がある。
【0030】
窪み34は、凹部36と連なるように形成されている。この窪み34は、切れ刃26の中心部たる中央ボス部30cの周囲に略円弧状に形成されていて、当該窪み34に入り込んだクーラントCが連通した凹部36へと流れ出すことができるようになっている。
【0031】
切れ刃部材20が上記のように構成された本実施形態の切削インサート1においては、ボス部30に切れ刃26へ向かう凹部36が形成されていることで、ボス部30やボス面32で拡散されてしまうクーラントCが凹部36(からなる溝38)を通ることで切れ刃26へと十分に届くことが可能となっている。また、凹部36の底面36bを切れ刃26よりも低くすることで、切りくず生成時にも切りくずとすくい面22の間にクーラントCが入り込み、切削点へ届きやすくなっている(図8等参照)。また、ブレーカ壁28とクーラントCが通る凹部36を交互に配置した構造であることから、倣い加工の加工方向の変化に対応しやすく、切りくず処理と長寿命の両立を図りやすい。
【0032】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、ブレーカ壁28と切れ刃26との間隔(ブレーカ幅Wb)が均一である切れ刃部材20を示したが(図7等参照)、これとは逆に、ブレーカ壁28と切れ刃26との間隔(ブレーカ幅Wb)が不均一であってもよい。ブレーカ幅Wbが不均一である切れ刃部材20の具体例としては、ブレーカ壁28にたとえば2つの突起28gが設けられているもの等がある(図10参照)。このような突起28gを設け、使用する切れ刃26の位置に応じて最適なブレーカ幅WBを設定することで、より良好な切りくず処理が可能となる。あるいは、ボス部30に、凹部36とは別の切込み状の小凹部37が設けられていてもよい(図11参照)。こうした場合、小凹部37からもクーラントCが供給されるようになり、より多くのクーラントCを切れ刃26へ向けて供給できるようになる。
【0033】
ボス部30に形成された凹部36の具体的な態様もまた、上述したものには限られない。ここでは特に図示してはいないが、たとえば、凹部36が穴状に形成されてトンネル状になっていてもよい。こうした場合、凹部36の上方が開口していない構造となるため、一度凹部36へ導入されたクーラントCを外部に漏らすことなく切れ刃26へ供給できるようになる。あるいは、凹部36が一本溝状ではなく、途中で分岐する形状になっていてもよい。こうした場合には、切れ刃26全体へまんべんなく行き渡るようにクーラントCを供給できるようになる。あるいは、凹部36が、面一なボス面32に対して傾斜する形状になっていてもよい。このような場合、切れ刃26と切りくずの間にクーラントCが浸透しやすくなる。また、上述した実施形態の凹部36は、切れ刃26(の接線)に対して垂直になるように形成されていたが、これとは異なり、凹部36が、切れ刃26(の接線)に対して垂直でない形状に形成されていてもよい。このような場合、切れ刃26の全体のうちの一部分が集中的に使用されるような切削条件の際に、複数の凹部36からその部分に集中的にクーラントCを供給することができるようになる。
【0034】
また、上述した実施形態では、ベースインサート部材10にろう付けされた切れ刃部材20を有する切削インサート1に本発明を適用した場合について説明したがこれも好適例にすぎず、このような切削インサート1以外の切削工具においても本発明を適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、切削インサートをはじめとする切削工具に適用して好適である。
【符号の説明】
【0036】
1…切削インサート(切削工具)
10…ベースインサート部材
10X…中心軸
20…切れ刃部材
22…すくい面
22c…略中央部
24…逃げ面
26…(円弧状の)切れ刃
28…ブレーカ壁
28g…突起
30…ボス部
30c…中央ボス部
32…ボス面
32c…面取り部
34…(弧状の)窪み
36…(複数の)凹部
36b…凹部の底面
37…小凹部
38…(凹部がなす)溝
40…バックテーパー
C…クーラント
L1…ボス面とブレーカ壁との交線(仮想的な交線、当該交線の仮想延長線を含む)
28…交線L1に沿ったブレーカ壁28の幅
38…交線L1に沿った凹部36がなす溝38の幅
Wb…ブレーカ幅(ブレーカ壁28と切れ刃26との間隔)
α…切れ刃の中心角
β…バックテーパーの逃げ角
【要約】
【課題】切れ刃へのクーラント供給性能を向上させ、さらには切りくず処理性能や耐久性能をも向上させる。
【解決手段】すくい面22と逃げ面24との交線に構成される切れ刃26と、該切れ刃26の内側に形成された、当該切削工具の上方に突出するブレーカ壁28と、該ブレーカ壁28の上方に形成されたボス面32を含むボス部30と、該ボス部30に形成された、切れ刃26に向けて延びる複数の凹部36と、を備えた切削工具である。ボス面32とブレーカ壁28との交線(仮想的な交線あるいは当該交線の仮想延長線を含む)L1に沿ったブレーカ壁28の切れ刃26が延びる方向の幅W28は、当該交線L1上における凹部36がなす溝38の幅W38よりも広い。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14