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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】断熱構造体および構造体
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20241107BHJP
   B64G 1/58 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F16L59/02
B64G1/58
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023510075
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013988
(87)【国際公開番号】W WO2022208794
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】511003235
【氏名又は名称】有限会社オービタルエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】梅村 悠
(72)【発明者】
【氏名】宮北 健
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雅規
(72)【発明者】
【氏名】照井 結花
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-094016(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0175467(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
B64G 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱フィルムと、
前記断熱フィルムを支持する複数の支持部材と、
を備える断熱構造体であって、
前記断熱フィルムは、前記断熱フィルムの面内方向に張力が付与された状態で前記支持部材によって支持され、
前記支持部材は、互いに離間する第一部と第二部と、前記第一部と前記第二部とを接続する第三部とを有し、前記第一部と前記第二部との間の距離よりも前記第三部の延在方向における長さが長く、
前記第一部と前記第二部は前記断熱フィルムの面と交差する方向に沿って配され、
前記支持部材は前記断熱フィルムの面と交差する方向へ弾性変形可能であり、
前記支持部材が一対の前記第三部を有し、前記第三部はらせん形状である、
ことを特徴とする断熱構造体。
【請求項2】
前記支持部材間において前記断熱フィルムが伸展可能なように、前記断熱フィルムの少なくとも一部が折り曲げられているかまたは前記断熱フィルムに切り込み部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の断熱構造体。
【請求項3】
前記断熱フィルムに積層されるサブフィルムがさらに設けられ、前記サブフィルムが前記断熱フィルムを前記断熱フィルムの面と交差する方向へ押圧する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の断熱構造体。
【請求項4】
前記断熱フィルムに孔部を有しかつ、前記支持部材の前記第一部に凸部が設けられ、前記孔部に前記凸部が挿入された状態で前記断熱フィルムが支持されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項5】
前記断熱フィルムが前記支持部材を介して積層されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項6】
前記支持部材が樹脂材料からなる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項7】
前記支持部材の前記第二部に、前記第一部と対向する突起部が設けられている
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項8】
前記支持部材の軸線に平行な方向から見た際に、前記第三部の外径が前記支持部材の全体の外径を構成している
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項9】
前記第三部の一方の端部は、前記第一部の側部に接続され、前記第三部の他方の端部は、前記第二部の側部に接続されている
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の断熱構造体と、基体とを備える
ことを特徴とする構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱構造体、およびこの断熱構造体を備える構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
基幹ロケットなどの極低温流体を貯蔵する推進薬タンクには軽量性が求められるため、推進薬タンクを包囲する断熱材として発泡断熱材が使われている。しかし、発泡断熱材は断熱性能が低く、液体水素などの極低温推進薬の蒸発率を抑制する事ができないという問題がある。一方、蒸発率を抑えた地上の極低温貯槽は、真空二重容器の中に多層のMLI(Multilayer Insulation)を設けた構造である。
【0003】
従来のMLIでは、複数の断熱フィルムを層状に重ねる事で輻射による熱の伝わりを弱めかつ、不織布やメッシュで断熱フィルム同士の接触部を減らし熱伝導による熱の伝わりを少なくすることによって、断熱性能を担保している。例えば、特許文献1の技術では、断熱フィルムの間隔を保つために、厚目の断熱フィルムを採用して構造を保っている。また、特許文献2には、不織布やメッシュの代わりにスペーサーを設置する事で熱伝導を小さくしたMLIが開示されている。
【0004】
特許文献3には、宇宙空間での利用を目的とした、軽量な極低温貯槽用の断熱材に関する技術が開示されている。特許文献3の技術では、断熱材を真空パックで覆う事で大気中でもMLIを真空状態に保っている。この技術では、軌道上などの真空環境に移動した際には、大気圧などの外圧力がなくなり、MLI内に設置したバネ機構が伸び熱伝導を下げる事でさらに断熱性能が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開2017/0073090号明細書
【文献】米国特許第8234835号明細書
【文献】日本国特開2019-094016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されているような不織布やメッシュを利用したMLI、あるいは特許文献2に開示されているようなスペーサーを介したMLIでは、断熱フィルムの接触具合は、施工時の誤差、加速度環境又は推薬タンクの運用状況に応じて変化し、断熱性能を管理できないという問題がある。断熱性能が低い場合はMLIの断熱フィルムの総数(積層数)を増やす事が対策として考えられるが、断熱フィルムの総数を増やすとその分MLIは厚くなるため、その曲げ部には層の内外差で層間を押し付ける力が発生し断熱性能を低下させてしまう。さらに、増加した断熱フィルムの自重荷重で断熱フィルム同士が接触する可能性が増える。そのため、特に加速度を受けるような環境での断熱フィルム同士の接触による性能低下に対しては、MLIの総数を増やす事は直接的な対策にならない。また、特許文献3に開示されるような構造は、大気圧下で部分的に部品を破損させる機構とされており、有圧環境から真空環境へ移行した際の断熱性能に焦点を当てている。
【0007】
本願発明は上記の事情に鑑み、高い断熱性能を有しかつ軽量な断熱構造体、ならびにこの断熱構造体を備える構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
MLIを輸送機の極低温推進薬タンクの断熱材として利用する際には、エンジン推力などの加速度による自重、あるいは加圧や表面温度変化によるタンクの膨張又は収縮などによって荷重環境が変化する。本発明者らは、これらの際に、不織布やメッシュ、あるいはスペーサーで保っている断熱フィルムの間隔が狭くなるために断熱フィルム同士で接触が生じ、熱伝導による熱の伝わりが増えることに着目した。
【0009】
その結果、MLIを構成する断熱フィルムに張力を付与した状態で、弾性変形可能な支持部材によって断熱フィルムを支持することで、高い断熱性能を有しかつ軽量な断熱構造体を実現できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)本発明の一態様に係る断熱構造体は、
断熱フィルムと、
上記断熱フィルムを支持する複数の支持部材と、
を備える断熱構造体であって、
上記断熱フィルムは、上記断熱フィルムの面内方向に張力が付与された状態で上記支持部材によって支持され、
上記支持部材は、互いに離間する第一部と第二部と、上記第一部と上記第二部とを接続する第三部とを有し、上記第一部と上記第二部との間の距離よりも上記第三部の延在方向における長さが長く、
上記第一部と上記第二部は上記断熱フィルムの面と交差する方向に沿って配され、
上記支持部材は上記断熱フィルムの面と交差する方向へ弾性変形可能である
ことを特徴とする。
【0011】
(2)上記(1)に記載の断熱構造体では、
上記支持部材間において上記断熱フィルムが伸展可能なように、上記断熱フィルムの少なくとも一部が折り曲げられているかまたは上記断熱フィルムに切り込み部が設けられていてもよい。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載の断熱構造体では、
上記断熱フィルムに積層されるサブフィルムがさらに設けられ、上記サブフィルムが上記断熱フィルムを上記断熱フィルムの面と交差する方向へ押圧してもよい。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の断熱構造体では、
上記断熱フィルムに孔部を有しかつ、上記支持部材の上記第一部に凸部が設けられ、上記孔部に上記凸部が挿入された状態で上記断熱フィルムが支持されていてもよい。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の断熱構造体では、
上記断熱フィルムが上記支持部材を介して積層されていてもよい。
【0015】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の断熱構造体では、
上記支持部材が樹脂材料からなってもよい。
【0016】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1項に記載の断熱構造体では、
上記支持部材の上記第二部に、上記第一部と対向する突起部が設けられていてもよい。
【0017】
(8)本発明の一態様に係る構造体は、上記(1)から(7)のいずれか1項に記載の断熱構造体と、基体とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い断熱性能を有しかつ軽量な断熱構造体、ならびにこの断熱構造体を備える構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る断熱構造体を説明するための図であって、断熱構造体を構成する断熱フィルムの面に平行な方向で断熱構造体を見た概略的な断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る断熱フィルム説明するための図であって、断熱フィルムの面と直交する方向から断熱フィルムを見た概略的な平面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る断熱フィルムの形状の一例を説明するための図であって、断熱フィルムの面と直交する方向から断熱フィルムを見た概略的な平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る断熱フィルムの形状の一例を説明するための図であって、断熱フィルムの面と直交する方向から断熱フィルムを見た概略的な平面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る支持部材を支持部材の軸線と直交する方向(Y軸方向)に見た概略的な側面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る支持部材を支持部材の軸線と直交する方向(X軸方向)に見た概略的な側面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る支持部材を支持部材の軸線に平行な方向(Z軸方向)に見た概略的な平面図である。
図8】複数の断熱フィルムが重ねられた状態を説明するための図であって、断熱構造体を構成する断熱フィルムの面に平行な方向で断熱構造体を見た概略的な断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る断熱構造体を推進薬タンクに適用した例を示す概略的な斜視図である。
図10図10(A)は、折り曲げ部が設けられた断熱フィルムの変形例を説明するための図であって、断熱フィルムの一部を断熱フィルムの面と交差する方向から見た平面図である。図10(B)は、図10(A)の断熱フィルムを断熱フィルムの面内方向に断面視した状態の断面図である。
図11図11(A)は、切り込み部が設けられた断熱フィルムの変形例を説明するための図であって、断熱フィルムの一部を断熱フィルムの面と交差する方向から見た平面図である。図10(B)は、図10(A)の断熱フィルムに引張力を付与した状態の平面図である。
図12】断熱構造体にサブフィルムがさらに設けられた状態を説明するための図であって、断熱構造体を構成する断熱フィルムの面に平行な方向で断熱構造体を見た概略的な断面図である。
図13】実施例に係る試験装置の概要を説明するための模式図である。
図14】実施例に係る試験装置の写真である。
図15】実施例に係る測定結果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示される構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下の実施形態の各構成要素は、互いに組み合わせることができる。また、以下の実施形態における数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。
【0021】
図1は、本実施形態に係る断熱構造体100を、本実施形態に係る断熱構造体100を構成する断熱フィルム200の面に平行な方向で見た概略的な断面図である。本実施形態に係る断熱構造体100は、図1に示すように、断熱フィルム200と、断熱フィルム200を支持する複数の支持部材300(300a~300f)とを備える。図1の例では、断熱構造体100は、支持部材300(300d~300f)を介して、基体10の表面11上に設けられている。
【0022】
[断熱フィルム]
断熱フィルム200は、断熱フィルム200の面内方向に張力が付与された状態で支持部材300によって支持されている。
【0023】
断熱フィルム200は、輻射による熱の伝達を抑制可能な、低輻射率フィルムである。断熱フィルム200としては、特に限定されないが、ポリイミドやポリエステル等の樹脂フィルムに、アルミニウム、金、ゲルマニウム、導電性酸化インジウムスズ(ITO)等の金属を蒸着したものである。断熱フィルム200は、これに限定されるものでなく、断熱フィルム200に加わる張力に耐えるものであれば、他の適切な任意の材料から構成することができる。断熱フィルム200の厚みは、張力を加えた事による、伸びや破断などの断熱フィルム200の損傷を防止するという観点から、6μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。また、断熱フィルム200の厚みは、軽量な構造体の実現および断熱フィルム200の自重の抑制という観点から、200μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。断熱フィルム200の厚みは、ダイヤルゲージにより、任意の4点の厚みを計測し、その平均値(算術平均値)とする。
【0024】
断熱フィルム200は、後述する支持部材300を介して積層される。図1の例では、2枚の断熱フィルム200によって2層の断熱フィルム層20aおよび20bが構成された形態を例示しているが、断熱構造体100を構成する断熱フィルム層は、1層であってもよい。また、断熱フィルム層は、3層、4層、5層、あるいは6層以上積層されていてもよい。複数の断熱フィルム200によって、1つの断熱フィルム層が構成されてもよい。ここで、例えば、断熱フィルム層が2層ある場合、支持部材300を介して積層される断熱フィルム200が2枚あるいは2枚以上存在する。
【0025】
図2は、断熱フィルム200を、断熱フィルム200の面と直交する方向から見た平面図である。断熱フィルム200は孔部210を有している。この孔部210には、後述する支持部材300の凸部314を挿通させる。孔部210の大きさは、支持部材300の凸部314が挿通可能な大きさであればよく、孔部210から光線が漏れない大きさであればよい。孔部210の形状は特に限定されず、断熱フィルム200に局所的な力が加わらないような、円形や楕円形などの形状とすることが好ましい。
【0026】
断熱フィルム200としては、例えば図3に示すような三角形状を有していてもよい。また、図4に示すような矩形状を有する断熱フィルム200を採用してもよい。図3又は図4に示す断熱フィルム200では、孔部210(210a~210g)が各断熱フィルム200の頂点近傍に設けられているが、孔部210はこれらの位置のみならず断熱フィルム200内のどの位置にあってもよい。例えば、図3又は図4に示す断熱フィルム200の縁に沿って、複数の孔部210が設けられていてもよく、断熱フィルム200の中央部に孔部210が設けられていてもよい。なお、断熱フィルム200は、輻射フィルムと称されることもある。
【0027】
[支持部材]
次に支持部材300について説明する。支持部材300は、図1に示すように、第一部310、第二部320、および第三部330を有する。第一部310と第二部320とは互いに離間し、第一部310と第二部320とを第三部330が接続する。図1に示すように、第一部310と第二部320は断熱フィルム200の面と交差する方向に沿って配される。
【0028】
図5は、支持部材300を支持部材の軸線cと直交する方向(Y軸方向)に見た概略的な側面図である。ここで、支持部材300の軸線cとは、支持部材300を第一部310側から見た場合の、支持部材300の中心を通りかつ、第一部310の上面311と直交する線を意味する。図6は、支持部材300を支持部材の軸線cと直交する方向(X軸方向)に見た概略的な側面図である。図7は、支持部材300を支持部材の軸線cに平行な方向(Z軸方向)に見た概略的な側面図である。図5図7のX軸、Y軸およびZ軸は互いに直交する。Z軸は、支持部材300の軸線と平行である。
【0029】
第一部310は、上面311、上面311の反対側に設けられた下面312、上面311と下面312とを接続する側部313を有する。上面311は、断熱構造体100を構成した際に、断熱フィルム200と接する面である。下面312は、後述する第二部320の上面321と対向する。
【0030】
第一部310の上面311には、凸部314が設けられている。凸部314は、断熱フィルム200の孔部210に挿通される。また、凸部314は、後述する第二部320に設けられた凹部(図示せず)に係合されてもよい。
【0031】
第二部320は、上面321、上面321の反対側に設けられた下面322、上面321と下面322とを接続する側部323を有する。下面322は、断熱構造体100を構成した際に、断熱フィルム200と接する面である。上面321は、第一部310の下面312と対向する。
【0032】
第二部320には、第一部310の上面311に設けられた凸部314と係合する凹部(図示せず)が設けられていてもよい。これにより、支持部材300同士を、支持部材300の軸線cに沿った方向へ連結することができる。凸部314には、凸部314の外径方向へ突出する突起部314aが設けられていてもよい。第二部320に設けられた凹部が第二部320の上面321から下面322に向けて貫通している場合、凹部に凸部314が挿通された状態で、突起部314aが、連結される支持部材300の第二部320の上面321と接するように構成されてもよい。また、第二部320に設けられた凹部には、突起部314aと対応する凹み部が設けられ、突起部314aと凹み部とが係合するように構成されてもよい。
【0033】
第三部330は、第一部310と第二部320とを接続する。図5の例では、第三部330の一方の端部は、第一部310の側部313に接続され、第三部330の他方の端部は、第二部320の側部323に接続される。
【0034】
支持部材300では、第一部310と第二部320との間の距離よりも第三部330の延在方向における長さが長い。ここで、第一部310と第二部320との間の距離とは、図5に示すような、軸線cに平行な方向おける、第一部310の下面312と第二部320の上面321との間の距離Dである。距離Dおよび第三部330の延在方向における長さは、支持部材300に何ら力が印加されていない状態(初期状態とも称する)における長さである。第三部330の延在方向とは、第三部330の一端側から他端側にかけて、第三部330が連続する方向を意味する。第三部330の延在方向における長さとは、その延在方向における各点での延在方向に垂直な断面の中心を結んだ長さとする。第三部330は、その延在方向における各点での延在方向に垂直な断面の形状は特に限定されず、円形、楕円形、矩形であってもよい。第三部330は、その延在方向における各点での延在方向に垂直な断面が、支持部材300の外径よりも小さいことが好ましい。支持部材300では、第一部310と第二部320とを接続する第三部330が延在方向において長く形成されているため、支持部材300全体としての熱抵抗が増加する。
【0035】
図5などの例では、第三部330は対になっており、らせん形状である。このような形状とすることで、支持部材300としての安定性が担保されかつ、軸線cに平行な方向に支持部材300が滑らかに弾性変形可能となる。また、軸線cに平行な方向から支持部材300を見た際に、第三部330が支持部材300の径方向へ向けて突出していないことが好ましい。例えば、図7の例では、軸線cに平行な方向から支持部材300を見た際に、第三部330の外径が支持部材300全体の外径を構成している。このような構成とすることで、断熱フィルム200がたわんだ際の、断熱フィルム200と支持部材300との接触を抑制できるため、断熱構造体100としての断熱性能の低下を抑制できる。しかし、第三部330はこの形状に限定されず、直線形状であってもよく、複数の直線形状や曲線形状を組み合わせた形状であってもよい。また、第三部330の端部は、第一部310の下面312、第二部320の上面321に接続されてもよい。
【0036】
支持部材300は断熱フィルム200の面と交差する方向へ弾性変形可能である。これにより、断熱フィルム200の面内方向に張力が付与された状態で断熱フィルム200を支持部材300によって支持することができる。より具体的には、支持部材300は、その軸線cに平行な方向へ弾性変形可能であるため、断熱構造体100を構成した際に、支持部材300が断熱フィルム200の面と交差する方向へ弾性変形可能となる。支持部材300は、上述したような第三部330によって第一部310と第二部320とを接続する構造とされているため、軸線cに平行な方向に圧縮力を受けた場合、第三部330の一部又は全部が変形することで第一部310と第二部320との間隔が小さくなり、支持部材300全体として軸線cに平行な方向に縮む。また、軸線cに平行な方向に引張力を受けた場合、第三部330の一部又は全部が変形することで第一部310と第二部320との間隔が大きくなり、支持部材300全体として軸線cに平行な方向に伸びる。また、これらの圧縮力又は引張力が印加されなくなった際には、第三部330の復元力によって、第一部310と第二部320との間隔が初期状態に戻る。
【0037】
支持部材300の軸線cに平行な方向における高さは、断熱フィルム200同士の接触を防ぐのに必要十分であるという理由から、1mm以上であることが好ましい。また、支持部材300が軸線cに平行な形状を保ちやすくするという理由から、5mm以下であることが好ましい。また、支持部材300の軸線cと直交する平面における外径は、断熱フィルム200と支持部材300が圧縮力または引張力を伝達するのに十分な接触面を確保させるために、3mm~20mmであることが好ましい。支持部材300の高さとは、図6に示すような、軸線cに平行な方向おける、第一部310の上面311と第二部320の下面322との間の距離hを意味する。
【0038】
支持部材300は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)等の樹脂材料からなることが好ましい。例えば、支持部材300は、これらの樹脂材料の原料を射出成形することで製造される。支持部材300の構成は、これに限定されるものでなく、他の適切な任意の材料から構成されてもよい。ポリエーテルエーテルケトンは、宇宙輸送機用の断熱材として要求される、高耐熱性、低温脆化耐性、真空中のアウトガス量少量性および紫外線耐性の観点から、支持部材300として最も好ましい材質である。
【0039】
支持部材300は、図1に示すように、断熱フィルム200が積層される方向に連結されてもよい。連結される2つの支持部材300の間には、一又は複数の断熱フィルム200が挟まれる。例えば、複数の断熱フィルム200によって1つの断熱フィルム層を構成する場合、図8に示すように、連結された支持部材300gと300hとの間に断熱フィルム200a~200fが重ねられて設けられてもよい。
【0040】
支持部材300に印加される力を効率的に基体10へ伝えられるように、支持部材300は基体10に対して、支持部材300が取り付けられる位置における基体10の表面11の垂線と、支持部材300の軸線cとが一致するように取り付けることが好ましい。そのため、基体10の表面11が曲面や球面である場合には、支持部材300の軸線cは、隣接する支持部材300の軸線cに対して傾いた状態となる。
【0041】
支持部材300では、図5又は図6に示すように、第二部320に、第一部310と対向する突起部325が設けられていてもよい。より具体的には、第二部320の上面321に、第一部310の下面312と対向する突起部325が設けられる。例えば、地上などの有圧環境下では、大気圧に圧される事で断熱構造体100に強い圧縮力が働き、支持部材300は全体として圧し潰された状態になる。突起部325を設けることにより、圧し潰された際の第一部310と第二部320との接触面積が最小となり、支持部材300自体の熱抵抗を高くすることができ、従来の発泡断熱材などよりも軽く高い断熱性能を得ることができる。断熱構造体100が有圧環境下から真空環境下に移動し、有圧化による圧縮力が働かなくなると、支持部材300の弾性変形能によって第一部310と第二部320とは互いに離間する方向へ移動され、断熱フィルム層の間隔が相対的に広がり、より高い断熱性能が得られる。
【0042】
[基体]
基体10の形状は、特に限定されないが、例えば、その一部が曲面又は球面であってもよい。基体10は、例えば、基幹ロケットなどの極低温流体を貯蔵する推進薬タンク、人工衛星などの構造体、地上の真空槽の内壁である。本実施形態に係る断熱構造体100は高い断熱性能を有しかつ軽量であるため、本実施形態に係る断熱構造体100を、これらの基体に好ましく適用することができる。
【0043】
図9に、本実施形態に係る断熱構造体100の適用例を示す。図9の例では、推進薬タンク(基体)10aの周囲に断熱構造体100を設け、構造体1を構成している。図9の例では、複数の断熱フィルムによって断熱フィルム層(最外層の断熱フィルム層)が構成されている。図9に示すような形状の基体に本実施形態に係る断熱構造体100を設ける場合には、複数の断熱フィルム200によって断熱フィルム層の各層を構成することで、基体の形状に沿った断熱構造体100を形成することができる。図9の例では、図3に示すような三角形状を有する断熱フィルム200を複数用いている。
【0044】
断熱フィルム200に張力を付与するためには、断熱構造体100を基体10に対して設置する際に、支持部材300が、軸線cに平行な方向に圧縮又は伸長されている状態とする。このような状態を実現するためには、上述のような断熱フィルム200が有する孔部210同士の間隔を適切に設計する。例えば、基体10の表面11が基体10の外側へ向けて凸となる箇所に本実施形態に係る断熱構造体100を設ける場合、隣接する孔部210間の距離を小さく設計することで、支持部材300は初期状態よりも縮んだ状態となる。初期状態での支持部材300の軸線cに平行な方向の高さをh、縮んだ状態での支持部材300の高さをhcとしたとき、h>hcとなる。この場合、支持部材300が初期状態に戻ろうとする復元力により、断熱フィルム200の面内方向に張力が付与される。具体的には、支持部材300の軸線cに平行な方向における弾性係数をkとすると、支持部材300が縮んだ状態では、支持部材300の軸線cに平行かつ第一部310と第二部320とが離間する方向に、σc=k(h―hc)という応力が生じる。支持部材300の軸線cは、隣接する支持部材300の軸線cに対して傾いた状態となっているため、断熱フィルム200の面内方向には、応力σcの成分が作用し、隣接する支持部材300の間の断熱フィルム200に張力が付与される。
【0045】
また、基体10の表面11が基体10の内側へ向けて凹んだ箇所に本実施形態に係る断熱構造体100を設ける場合、隣接する孔部210間の距離を小さく設計することで、支持部材300は初期状態よりも伸びた状態となる。初期状態での支持部材300の高さをh、伸びた状態での支持部材300の高さをheとしたとき、h<heとなる。この場合、支持部材300が初期状態に戻ろうとする復元力により、断熱フィルム200の面内方向に張力が付与される。具体的には、支持部材300の軸線cに平行な方向における弾性係数をkとすると、支持部材300が伸びた状態では、支持部材300の軸線cに平行かつ第一部310と第二部320とが近接する方向に、σe=k(he―h)という応力が生じる。支持部材300の軸線cは、隣接する支持部材300の軸線cに対して傾いた状態となっているため、断熱フィルム200の面内方向には、応力σeの成分が作用し、隣接する支持部材300の間の断熱フィルム200に張力が付与される。
【0046】
なお、孔部210の位置を設計する際には、断熱構造体100および基体10が、大気圧下、室温(25℃)下にあることを条件として設計する。例えば、断熱フィルム200の間隔が互いに接触しない状態に保てるように支持部材300の配置や圧縮又は伸長する長さを適切に設計し、さらに、各断熱フィルム層の使用時の温度、室温との温度差、真空状態での脱ガスによる変形、高温にさらされた際の寸法変化などを考慮して、断熱フィルム200および断熱フィルム200が有する孔部210の配置などを決定する。
【0047】
以上のことから、本実施形態に係る断熱構造体100は、一部又は全部が曲面又は球面である基体10に対して好ましく用いることができる。なお、断熱構造体100は、真空状態とされた密閉空間内に設置されてもよい。
【0048】
本実施形態に係る断熱構造体100では、断熱フィルム200が、断熱フィルム200の面内方向に張力が付与された状態で支持部材300によって支持されていることで、断熱フィルム200のたわみが抑制される。そのため、積層された断熱フィルム200同士の接触を抑制することができ、断熱性能を向上させることができる。また、第一部310と第二部320との間の距離よりも第三部330の延在方向における長さが長いことにより、支持部材300における熱が伝わるルートが長くなり、支持部材300の熱伝導量を小さくすることができ、断熱構造体100の断熱性能を向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態に係る断熱構造体100では、支持部材300のみによって、積層された断熱フィルム200同士の接触を抑制することができるため、不織布やメッシュなどの部材が不要であり、断熱構造体100の質量を小さくすることができる。また、支持部材300が断熱フィルム200の面と交差する方向へ弾性変形可能であることにより、厚みが小さい断熱フィルム200を用いた場合にも、断熱フィルム200に対して適切な張力を付与することができ、断熱構造体100の質量を小さくすることができる。
【0050】
上記の実施形態に係る断熱構造体100を基幹ロケットの推進薬タンクに適用した場合、その外面は太陽光等の影響で高温となり、その内面は推進薬タンク内の流体によって比較的低温になる。この推進薬タンク内の流体温度は推進薬の残量やタンク内圧力の影響で変化する。そのため、推進薬タンク自体、あるいは断熱構造体100の温度が変化し、それぞれの温度差に応じた熱歪みが生じる。また、推進薬タンク内の圧力を変化させた場合はタンクが膨張する。以下のような構造をさらに設けることで、このような温度環境の変化や推進薬タンク(基体)の寸法変化に対して、積層された断熱フィルム200同士の間隔を好ましく維持できる。
【0051】
上記の実施形態に係る断熱構造体100では、支持部材300間において断熱フィルム200が伸展可能なように、断熱フィルム200の少なくとも一部が折り曲げられているかまたは断熱フィルム200に切り込み部が設けられていてもよい。
【0052】
断熱フィルム200の少なくとも一部が折り曲げられているとは、図10(A)又は図10(B)に示すように、断熱フィルム200の一部が、その面内方向で折れ曲がっていることを意味する。このように、断熱フィルム200の折り曲げられている範囲を折り曲げ部230と称する。このような構成とすることで、図10(A)又は図10(B)のP方向に引張力が作用した場合、折り曲げ部230が伸長することで、基体の温度変化に起因する基体の伸縮、周囲の温度変化による断熱フィルム200自体の伸縮、設計上の公差・誤差が生じた場合にも、これらの伸縮、公差・誤差を折り曲げ部230が吸収し、支持部材300に過剰な負荷が生じることを抑制できる。
【0053】
また、図11(A)に示すように、断熱フィルム200に切り込み部250が設けられていることで、図11(A)のP方向に引張力が作用した場合、図11(B)に示すように切り込み部250が拡張することで、基体の温度変化に起因する基体の伸縮、周囲の温度変化による断熱フィルム200自体の伸縮、設計上の公差・誤差が生じた場合にも、これらの伸縮、公差・誤差が切り込み部250の変形によって吸収され、支持部材300に過剰な負荷が生じることを抑制できる。
【0054】
折り曲げ部230又は切り込み部250は、隣接する支持部材300間に設けられる。折り曲げ部230又は切り込み部250の数は特に限定されないが、支持部材300と支持部材300とを結ぶ線分上に設けられることがより好ましい。断熱構造体100の全範囲に折り曲げ部230又は切り込み部250を設ける必要はなく、折り曲げ部230又は切り込み部250の配置は適宜設定することが好ましい。
【0055】
上記の実施形態に係る断熱構造体100では、図12に示すように、断熱フィルム200に積層されるサブフィルム400がさらに設けられていることが好ましい。サブフィルム400は、断熱フィルム200に重ねられた状態で、断熱フィルム200と共に、連結される2つの支持部材300(300iおよび300j)の間に挟まれた状態とすることが好ましい。サブフィルム400は、断熱フィルム200と同じ材料からなってもよく、断熱フィルム200と同じ厚さであってもよい。あるいは、サブフィルム400は、断熱フィルム200よりも厚い材料からなってもよく、サブフィルム400の厚みは、サブフィルム400に折り曲げ力や引っ張り力が加わった場合でもサブフィルム400を損傷させない強度を持たせるという理由から、6μm~100μmであることが好ましい。サブフィルム400の形状は特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、帯状であってもよい。サブフィルム400が断熱フィルム200を断熱フィルム200の面と交差する方向へ押圧することで、積層される断熱フィルム200同士の間隔を適切に保つことができる。サブフィルム400の端部は、折り返されていてもよい。これにより、サブフィルムの端部が補強され、例えば断熱フィルム200と同等の薄いサブフィルム400を採用した場合にも、断熱フィルム200を押圧するのに十分な強度を得ることができる。
【0056】
上記の実施形態に係る断熱構造体では、断熱フィルム200の端部が折り返されていてもよい。これにより、断熱フィルム200自体に、サブフィルム400のような断熱フィルム200を押圧する機能を付与することができる。
【0057】
上記の実施形態に係る断熱構造体では、断熱フィルム200間にネットスペーサやエンボスフィルムをさらに設けてもよい。エンボスフィルムは、通常の平面なフィルムよりも剛性が優れるために支持部材300の配置間隔を長くでき、断熱フィルム200同士の接触影響低下と接触防止の両方に有効となる。コストを抑えるため、エンボスフィルムの使用は部分的であってもよい。
【0058】
上記の実施形態に係る断熱構造体では、支持部材300の表面に導電体層を設けてもよい。このような導電体層は、ニッケルメッキやアルミニウム蒸着によって形成されてもよい。これにより、積層される断熱フィルム200間(断熱フィルム層間)の電位差を小さくする事ができ、宇宙機で求められるボンディング要求を満足させることができる。また、支持部材300表面の輻射率を低下させることができ、支持部材300表面からの輻射熱伝達を抑制して断熱性能をより向上させることができる。コストを抑制するために、一部の支持部材300のみに上記の導電体層を設けてもよい。
【実施例
【0059】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件に係る例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0060】
本実施例では、真空容器内に設置されたタンク表面に、上記実施形態で説明した断熱構造体を取付け、そのタンクに液体窒素(LN)を溜めて、タンク内部から発生する蒸気の質量流量を計測する事で断熱構造体より侵入する熱を評価した。本実施例では、配管など断熱構造体以外を経由して侵入する熱の影響が生じない様に、個別に蒸発にて熱を除去するガードタンクを設定した。また、事前にタンク表面に設置したヒーターにて既知の入熱を加え、対応する蒸発量が得られる事を事前検証した。試験装置の概要を図13に示す。
【0061】
本試験装置では、断熱構造体1013の側面の温度を管理する機構が設けられており、外層温度の違いをパラメータとして、276K、300K、353Kの3種類の外層温度における断熱性能を取得した。なお、図13の装置の各構成は以下の通りであった。
Data Logger:データロガー(計測記録器)
MFM:Mass Flow Meter(質量流量計)
IG:Ion Gauge(電離真空計)
PiG:Pirani Gauge:ピラニ真空計
Thermostat Circulator:恒温槽循環装置
Vacuum Chamber:真空容器
Water Tank:水容器(シュラウド)
Guard Tank:ガードタンク
Boil-off Tank:ボイルオフタンク
Vacuum Pump:真空排気装置
RP:ロータリーポンプ
TMP:ターボ分子ポンプ
PC:コンピュータ
T.C×24:Thermo Couple(熱電対、24点で測定)
なお、図13中で、「Cyl.=300」はボイルオフタンクおよびガードタンク形状がシリンダ(円筒形)であり、その直径が300mmであることを意味し、「Cyl.240」はガードタンク高さが240mmであることを意味し、「300」はボイルオフタンク高さが300mmであることを意味する。
【0062】
また、本発明に係る断熱構造体を試験用のタンクに取り付けた様子を図14に示す。宇宙機の推進薬タンクの表面の大部分は楕球と円筒の組み合わせであるが、図14は楕球部分に本発明に係る断熱構造体を取付けた際の例である。図14から、本発明が球面にも適用可能であることが理解される。
【0063】
本発明に係る断熱構造体の構造を採用し、断熱フィルムとしてアルミ蒸着ポリエステルの輻射フィルムを12層重ねた際の性能の一例を図15に示す。図15の結果は、断熱材の内層の低温側が、液体窒素温度(77K)である場合の単位通過熱量を示している。本発明に係る断熱構造体を楕球面に適用した際の単位通過熱量を三角のプロット(△)にて示している。三角のプロットは、円筒部に設置した際の結果(丸プロット(●)とエラーバー)と同等の範囲にあり、本発明に係る断熱構造体が楕球や円筒などの形状に左右されず推進薬タンク用の断熱材として適用可能である事がわかる。なお、図15のグラフの縦軸は通過熱流束(W/m)であり、横軸は高温側境界温度(K)である。
【0064】
また、外層温度300Kの場合の本発明に係る断熱構造体(実施例1)の性能を、輻射フィルムを20層有する多層断熱材である比較例1の断熱構造体および25mmの厚みを有する発砲断熱材から構成される比較例2の断熱対構造と比較した結果を表1に示す。比較例1で用いた断熱構造体では、輻射フィルム同士を支持する部材が弾性変形しない点で、実施例1とは異なる。比較例2で用いた断熱構造体では、発泡断熱材を複数枚重ねて断熱構造体を構成した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1の結果より、実施例1の熱流束は比較例1又は比較例2の熱流束と比べて小さいため、断熱構造体としての断熱材性能が高く、蒸発量を抑制できることがわかる。
【0067】
また、各断熱構造体を直径2mの球形タンクに適用した際の、液体窒素の蒸発率および蒸発量、ならびに断熱構造体としての全質量の計算結果を表1に示す。一般的に、断熱材を通過する熱流束を小さくするためには、断熱材の面密度を増やす必要がある。しかし、実施例1の断熱構造体は断熱性能が高いため、面密度を増やすことなく断熱性能を確保できる。よって、実施例1の断熱構造体を球形タンクに適用した場合、タンクに貯蔵される物質(本実施例では液体窒素)の蒸発量を抑制でき、断熱構造体としての質量も小さくできることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、高い断熱性能を有しかつ軽量な断熱構造体、ならびにこの断熱構造体を備える構造体を提供できるため、その工業的価値は極めて高い。
【符号の説明】
【0069】
1 構造体
10 基体
10a 推進薬タンク
11 基体の表面
100、1013 断熱構造体
200、200a、200b、200c、200d、200e、200f、200g 断熱フィルム
210 孔部
230 折り曲げ部
250 切り込み部
300、300a、300b、300c、300d、300e、300f、300g、300h、300i、300j 支持部材
310 第一部
320 第二部
330 第三部
400 サブフィルム
1001 計測記録器
1002 質量流量計
1003 電離真空計
1004 ピラニ真空計
1005 恒温槽循環装置
1006 真空容器
1007 水容器
1008 ガードタンク
1009 ボイルオフタンク
1010 真空排気装置
1011 ロータリーポンプ
1012 ターボ分子ポンプ
1014 コンピュータ
1015 熱電対
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15